以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による圧縮自己着火式エンジンの制御装置について説明する。
<装置構成>
まず、図1乃至図3を参照して、本実施形態による圧縮自己着火式エンジンの制御装置の構成について説明する。図1は、本実施形態による圧縮自己着火式エンジンの構成を例示する図である。図2は、本実施形態による燃焼室の構成を例示する断面図である。なお、図1における吸気側は紙面左側であり、排気側は紙面右側である。図2における吸気側は紙面右側であり、排気側は紙面左側である。図3は、本実施形態による圧縮自己着火式エンジンの制御装置の構成を例示するブロック図である。
エンジン1は、四輪の自動車に搭載される。エンジン1が運転することによって、自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。燃料は、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。エンジン1の燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であれば、どのような燃料であってもよい。
具体的には、エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11が形成されている。図1及び図2では、1つのシリンダ11のみを示す。エンジン1は、多気筒エンジンである。
各シリンダ11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。なお、「燃焼室」は、ピストン3が圧縮上死点に至ったときに形成される空間の意味に限定されない。「燃焼室」の語は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。
ピストン3の上面は平坦面である。ピストン3の上面には、キャビティ31が形成されている。キャビティ31は、ピストン3の上面から凹陥している。キャビティ31は、浅皿形状を有している。キャビティ31は、ピストン3が圧縮上死点付近に位置するときに、後述するインジェクタ6に向かい合う。
キャビティ31は、凸部311を有している。凸部311は、シリンダ11のほぼ中心に設けられている。凸部311は、略円錐状である。凸部311は、キャビティ31の底部から、シリンダ11の中心軸Xに沿って上向きに伸びている。凸部311の上端は、キャビティ31の上面とほぼ同じ高さである。キャビティ31はまた、凸部311の周囲に設けられた凹陥部312を有している。
シリンダヘッド13の下面、つまり、燃焼室17の天井面は、図2に示すように、傾斜面1311と、傾斜面1312とによって構成されている。傾斜面1311は、吸気側から軸Xに向かって上り勾配となっている。傾斜面1312は、排気側から軸Xに向かって上り勾配となっている。燃焼室17の天井面は、いわゆるペントルーフ形状である。
なお、燃焼室17の形状は、図2に例示する形状に限定されるものではない。例えばキャビティ31の形状、ピストン3の上面の形状、及び、燃焼室17の天井面の形状等は、適宜変更することが可能である。
エンジン1の幾何学的圧縮比は、理論熱効率の向上や、後述するCI(Compression Ignition)燃焼の安定化を目的として高く設定されている。具体的に、エンジン1の幾何学的圧縮比は、17以上である。幾何学的圧縮比は、例えば18としてもよい。幾何学的圧縮比は、17以上20以下の範囲で、適宜設定すればよい。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、2つの吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間を開閉する。吸気弁21は吸気動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。吸気動弁機構は、この構成例では、図3に示すように、可変動弁機構である吸気電動VVT(Variable Valve Timing)23を有している。吸気電動VVT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。それによって、吸気弁21の開弁時期及び閉弁時期は、連続的に変化する。なお、吸気動弁機構は、電動VVTに代えて、液圧式のVVTを有していてもよい。
シリンダヘッド13にはまた、シリンダ11毎に、2つの排気ポート19が形成されている。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間を開閉する。排気弁22は排気動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。排気動弁機構は、この構成例では、図3に示すように、可変動弁機構である排気電動VVT24を有している。排気電動VVT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。それによって、排気弁22の開弁時期及び閉弁時期は、連続的に変化する。なお、排気動弁機構は、電動VVTに代えて、液圧式のVVTを有していてもよい。
詳細は後述するが、このエンジン1は、吸気電動VVT23及び排気電動VVT24によって、吸気弁21の開弁と排気弁22の開弁とに係るオーバーラップ期間の長さを調整する。このことによって、燃焼室17の中の残留ガスを掃気したり、燃焼室17の中に熱い既燃ガスを閉じ込めたり(つまり、内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを燃焼室17の中に導入したり)する。この構成例においては、吸気電動VVT23及び排気電動VVT24が、状態量設定デバイスの一つとしての、内部EGRシステムを構成している。なお、内部EGRシステムは、VVTによって構成されるとは限らない。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射するよう構成されている。インジェクタ6は、吸気側の傾斜面1311と排気側の傾斜面1312とが交差するペントルーフの谷部に配設されている。インジェクタ6は、図2に示すように、その噴射軸心が、シリンダ11の中心軸Xに沿うように配設されている。インジェクタ6の噴射軸心と、キャビティ31の凸部311の位置とはほぼ一致している。インジェクタ6は、キャビティ31に対向している。なお、インジェクタ6の噴射軸心は、シリンダ11の中心軸Xと一致していなくてもよい。その場合も、インジェクタ6の噴射軸心と、キャビティ31の凸部311の位置とは一致していることが望ましい。
インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型の燃料噴射弁によって構成されている。インジェクタ6は、図2に矢印で示すように、燃料噴霧が、燃焼室17の中央から放射状に広がるように燃料を噴射する。
後述するように、インジェクタ6は、ピストン3が圧縮上死点付近に位置するタイミングで燃料を噴射する場合がある。その場合、インジェクタ6が燃料を噴射すると、燃料噴霧は、新気と混ざり合いながら、キャビティ31の凸部311に沿って下向きに流れると共に、凹陥部312の底面及び周側面に沿って、燃焼室17の中央から、径方向の外方に放射状に広がって流れる。その後、混合気はキャビティ31の開口に至り、吸気側の傾斜面1311、及び、排気側の傾斜面1312に沿って、径方向の外方から、燃焼室17の中央に向かって流れる。
なお、インジェクタ6は、多噴口型のインジェクタに限らない。インジェクタ6は、外開弁タイプのインジェクタを採用してもよい。
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料を貯留するよう構成された燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄えるよう構成されている。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられていた燃料が、インジェクタ6の噴口から燃焼室17の中に噴射される。燃料供給システム61は、30MPa以上の高い圧力の燃料を、インジェクタ6に供給することが可能に構成されている。燃料供給システム61の最高燃料圧力は、例えば120MPa程度にしてもよい。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。なお、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、この構成例では、シリンダ11の中心軸Xを挟んだ吸気側に配設されている。点火プラグ25は、2つの吸気ポート18の間に位置している。点火プラグ25は、上方から下方に向かって、燃焼室17の中央に近づく方向に傾いて、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ25の電極は、図2に示すように、燃焼室17の中に臨んでかつ、燃焼室17の天井面の付近に位置している。
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。吸気通路40は、燃焼室17に導入するガスが流れる通路である。吸気通路40の上流端部には、新気を濾過するエアクリーナー41が配設されている。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端が、各シリンダ11の吸気ポート18に接続されている。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度を調整することによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調整するよう構成されている。スロットル弁43は、状態量設定デバイスの一つを構成している。
吸気通路40にはまた、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入するガスを過給するよう構成されている。この構成例において、過給機44は、エンジン1によって駆動される機械式の過給機である。機械式の過給機44は、例えばルーツ式としてもよい。機械式の過給機44の構成はどのような構成であってもよい。機械式の過給機44は、リショルム式や遠心式であってもよい。
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45が介設している。電磁クラッチ45は、過給機44とエンジン1との間で、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達したり、駆動力の伝達を遮断したりする。後述するように、ECU10が電磁クラッチ45の遮断及び接続を切り替えることによって、過給機44はオンとオフとが切り替わる。つまり、このエンジン1は、過給機44が、燃焼室17に導入するガスを過給することと、過給機44が、燃焼室17に導入するガスを過給しないこととを切り替えることができるよう構成されている。
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44において圧縮されたガスを冷却するよう構成されている。インタークーラー46は、例えば水冷式に構成すればよい。
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスするよう、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調整する。
過給機44をオフにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を遮断したとき)には、エアバイパス弁48を全開にする。これにより、吸気通路40を流れるガスは、過給機44をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に導入される。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
過給機44をオンにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を接続したとき)には、過給機44を通過したガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機の上流に逆流する。エアバイパス弁48の開度を調整することによって、逆流量を調整することができるから、燃焼室17に導入するガスの過給圧を調整することができる。この構成例においては、過給機44とバイパス通路47とエアバイパス弁48とによって、過給システム49が構成されている。エアバイパス弁48は、状態量設定デバイスの一つを構成している。
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、燃焼室17から排出された排気ガスが流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各シリンダ11の排気ポート19に接続されている。排気通路50には、1つ以上の触媒コンバーター51を有する排気ガス浄化システムが配設されている。触媒コンバーター51は、三元触媒を含んで構成されている。なお、排気ガス浄化システムは、三元触媒のみを含むものに限らない。
吸気通路40と排気通路50との間には、外部EGRシステムを構成するEGR通路52が接続されている。EGR通路52は、既燃ガスの一部を吸気通路40に還流させるための通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における触媒コンバーター51の下流に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流に接続されている。
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、既燃ガスを冷却するよう構成されている。EGR通路52にはまた、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる既燃ガスの流量を調整するよう構成されている。EGR弁54の開度を調整することによって、冷却した既燃ガス、つまり外部EGRガスの還流量を調整することができる。
この構成例において、EGRシステム55は、EGR通路52及びEGR弁54を含んで構成されている外部EGRシステムと、前述した吸気電動VVT23及び排気電動VVT24を含んで構成されている内部EGRシステムとによって構成されている。EGR弁54はまた、状態量設定デバイスの一つを構成している。
圧縮自己着火式エンジンの制御装置は、エンジン1を運転するためのECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力バスと、を備えている。ECU10は、コントローラの一例である。
ECU10には、図1及び図3に示すように、各種のセンサSW1〜SW16が接続されている。センサSW1〜SW16は、検知信号をECU10に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
すなわち、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の流量を検知するエアフローセンサSW1、及び、新気の温度を検知する第1吸気温度センサSW2、吸気通路40におけるEGR通路52の接続位置よりも下流でかつ、過給機44の上流に配置されかつ、過給機44に流入するガスの圧力を検知する第1圧力センサSW3、吸気通路40における過給機44の下流でかつ、バイパス通路47の接続位置よりも上流に配置されかつ、過給機44から流出したガスの温度を検知する第2吸気温度センサSW4、サージタンク42に取り付けられかつ、過給機44の下流のガスの圧力を検知する第2圧力センサSW5、各シリンダ11に対応してシリンダヘッド13に取り付けられかつ、各燃焼室17内の圧力(筒内圧)を検知する指圧センサSW6、排気通路50に配置されかつ、燃焼室17から排出した排気ガスの温度を検知する排気温度センサSW7、排気通路50における触媒コンバーター51の上流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を検知するリニアO2センサSW8、排気通路50における触媒コンバーター51の下流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を検知するラムダO2センサSW9、エンジン1に取り付けられかつ、冷却水の温度を検知する水温センサSW10、エンジン1に取り付けられかつ、クランクシャフト15の回転角を検知するクランク角センサSW11、アクセルペダル機構に取り付けられかつ、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検知するアクセル開度センサSW12、エンジン1に取り付けられかつ、吸気カムシャフトの回転角を検知する吸気カム角センサSW13、エンジン1に取り付けられかつ、排気カムシャフトの回転角を検知する排気カム角センサSW14、EGR通路52に配置されかつ、EGR弁54の上流及び下流の差圧を検知するEGR差圧センサSW15、並びに、燃料供給システム61のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ6に供給する燃料の圧力を検知する燃圧センサSW16である。
ECU10は、これらの検知信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、各デバイスの制御量を計算する。ECU100は、計算をした制御量に係る制御信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動VVT23、排気電動VVT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、及び、エアバイパス弁48に出力する。例えば、ECU10は、第1圧力センサSW3及び第2圧力センサSW5の検知信号から得られる過給機44の前後差圧に基づいてエアバイパス弁48の開度を調整することにより、過給圧を調整する。また、ECU10は、EGR差圧センサSW15の検知信号から得られるEGR弁54の前後差圧に基づいてEGR弁54の開度を調整することにより、燃焼室17の中に導入する外部EGRガス量を調整する。ECU10によるエンジン1の制御の詳細は、後述する。
<エンジンの運転領域>
図4は、エンジン1の運転領域を例示している。エンジン1の運転領域は、負荷の高低に対し、大きく3つの領域に分けられている。具体的に、3つの領域は、アイドル運転を含む低負荷領域(A)、全開負荷を含む高負荷領域(C)、及び、低負荷領域(A)と高負荷領域(C)との間の中負荷領域(B)である。エンジン1は、燃費の向上及び排出ガス性能の向上を主目的として、中負荷領域において、圧縮自己着火による燃焼を行う。以下、低負荷領域、中負荷領域、及び、高負荷領域の各領域における燃焼形態について、順に説明をする。
(低負荷領域)
エンジン1の運転状態が低負荷領域にあるときには、燃料の噴射量が少ない。そのため、燃焼室17において混合気が燃焼したときに発生する熱量が少なく、燃焼室17の温度(筒内温度)が低くなる。また、排気ガスの温度も低くなるため、後述するように内部EGRガスを燃焼室17の中に導入しても、筒内温度が、自己着火が安定して可能になる程度まで高まらない。エンジン1の運転状態が低負荷領域にあるときの燃焼形態は、点火プラグ25が燃焼室17の中の混合気に点火を行うことによって混合気を火炎伝播により燃焼させるSI(Spark Ignition)燃焼である。以下、低負荷領域における燃焼形態を、低負荷SI燃焼と呼ぶ場合がある。
エンジン1の運転状態が低負荷領域にあるときには、混合気の空燃比(A/F)は、理論空燃比である(A/F=14.7)。三元触媒が、燃焼室17から排出された排出ガスを浄化することによって、エンジン1の排出ガス性能は良好になる。混合気のA/Fは、三元触媒の浄化ウインドウの中に収まるようにすればよい。従って、混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2とすればよい。
エンジン1の燃費性能を向上させるために、エンジン1の運転状態が低負荷領域にあるときに、EGRシステム55は、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。混合気のG/F、つまり、燃焼室17の中の全ガスと燃料との質量比は18.5以上30以下に設定される。混合気は、EGRリーンである。混合気の希釈率は高い。混合気のG/Fを、例えば25にすれば、低負荷運転領域において、混合気が自己着火に至ることなく、SI燃焼を安定して行うことができる。低負荷領域において、混合気のG/Fは、エンジン1の負荷の高低に関わらず一定に維持する。こうすることで、低負荷領域の全域において、SI燃焼は、安定化する。また、エンジン1の燃費が向上すると共に、排出ガス性能が良好になる。
エンジン1の運転状態が低負荷領域にあるときには、燃料量が少ないため、混合気のλを1.0±0.2にしかつ、G/Fを18.5以上30以下にするには、燃焼室17の中に導入するガスの充填量を100%よりも少なくしなければならない。具体的に、エンジン1は、スロットル弁43の開度を調整するスロットリング、及び/又は、吸気弁21の閉弁時期を吸気下死点以降に遅らせるミラーサイクルを実行する。
なお、低負荷領域内における、低負荷低回転領域においては、ガスの充填量をさらに少なくすることによって、混合気の燃焼温度及び排気ガスの温度を高くするようにしてもよい。こうすると、触媒コンバーター51を活性状態に維持する上で有利になる。
(中負荷領域)
エンジン1の運転状態が中負荷領域にあるときには、燃料の噴射量が多くなる。筒内温度が高くなるため、自己着火を安定して行うことが可能にある。燃費の向上及び排出ガス性能の向上を図るため、エンジン1は、中負荷領域において、CI燃焼を行う。
自己着火による燃焼は、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、中負荷領域において、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSI−CI燃焼を行う。SI−CI燃焼は、点火プラグ25が、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をすることによって、混合気が火炎伝播により燃焼すると共に、SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなることによって、未燃混合気が自己着火により燃焼する。SI燃焼の発熱量を調整することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収することができる。圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらついていても、例えば点火タイミングの調整によってSI燃焼の開始タイミングを調整すれば、自己着火のタイミングをコントロールすることができる。
SI−CI燃焼において、自己着火のタイミングを精度よくコントロールするためには、点火タイミングを変更することに対応して、自己着火のタイミングが変化しなければならない。点火タイミングの変更に対して、自己着火のタイミングが変化する感度が高いことが好ましい。
本願発明者らの検討によると、混合気のλが1.0±0.2でかつ、混合気のG/Fが18.5以上30以下であれば、点火タイミングの変更に対して、自己着火のタイミングが変化することがわかった。そこで、エンジン1の運転状態が中負荷領域にあるときには、エンジン1は、燃焼室17の中の状態を、混合気のλが1.0±0.2でかつ、混合気のG/Fが18.5以上30以下にする。
自己着火のタイミングを精度よくコントロールすることによって、エンジン1の運転状態が中負荷領域にあるときに、燃焼騒音の増大を回避することができる。また、混合気の希釈率をできるだけ高くしてCI燃焼を行うことにより、エンジン1の燃費性能を高くすることが可能になる。さらに、混合気のλを1.0±0.2に設定することによって、三元触媒により、排気ガスを浄化することが可能になるため、エンジン1の排出ガス性能が良好になる。
前述したように、低負荷領域においては、混合気のG/Fを18.5以上30以下(例えば25)にしかつ、混合気のλを1.0±0.2にしている。エンジン1の運転状態が低負荷領域にあるときと、中負荷領域にあるときとの間において、燃焼室17の中の状態量が大きく変動しない。従って、エンジン1の負荷が変更することに対する、エンジン1の制御のロバスト性が高まる。
エンジン1の運転状態が中負荷領域にあるときには、低負荷領域にあるときとは異なり、燃料量が多くなるため、燃焼室17の中に導入するガスの充填量を調整する必要がない。スロットル弁43の開度は全開である。
エンジン1の負荷が高まり、燃料量がさらに増えたときに、混合気のλを1.0±0.2にしかつ、混合気のG/Fを18.5以上30以下にするには、自然吸気の状態であれば、燃焼室17の中に導入するガス量が不足する。そこで、中負荷領域における所定負荷よりも負荷の高い領域においては、過給機44が、燃焼室17の中に導入するガスの過給を行う。中負荷領域(B)は、所定負荷よりも高負荷の領域であって、過給を行う第1中負荷領域(B1)と、所定負荷以下の領域であって、過給を行わない第2中負荷領域(B2)とに分けられる。所定負荷は、例えば1/2負荷である。第2中負荷領域は、第1中負荷領域よりも負荷の低い領域である。以下、第1中負荷領域における燃焼形態を、過給SI−CI燃焼と呼び、第2中負荷領域における燃焼形態を、非過給SI−CI燃焼と呼ぶ場合がある。
過給を行わない第2中負荷領域においては、燃料量が増えるに従い、燃焼室17の中に導入する新気が増える一方、EGRガスは減る。混合気のG/Fは、エンジン1の負荷が高くなると小さくなる。スロットル弁43の開度を全開にしているため、エンジン1は、燃焼室17の中に導入するEGRガスの量を調整することにより、燃焼室17の中に導入する新気の量を調整する。第2中負荷領域において燃焼室17の中の状態量は、例えば混合気のλは1.0で略一定になる一方、混合気のG/Fは25〜28の範囲で変更される。
これに対し、過給を行う第1中負荷領域において、エンジン1は、燃料量が増えるに従い、燃焼室17の中に導入する新気及びEGRガスを共に増やす。混合気のG/Fは、エンジン1の負荷が高くなっても一定である。第1中負荷領域において燃焼室17の中の状態量は、例えば混合気のλは1.0で略一定になると共に、混合気のG/Fは25で一定である。
(高負荷領域)
エンジン1の運転状態が高負荷領域にあるときには、燃料の噴射量が多い。そのため、SI−CI燃焼を行っても、燃焼騒音を抑制することが困難になる。また、筒内温度が高くなるため、CI燃焼を行おうとしても、過早着火やノッキングといった異常燃焼が生じやすい。そのため、エンジン1の運転状態が高負荷領域にあるときの燃焼形態は、SI燃焼である。以下、高負荷領域における燃焼形態を、高負荷SI燃焼と呼ぶ場合がある。
エンジン1の運転状態が高負荷領域にあるときに、混合気のλは1.0±0.2である。また、混合気のG/Fは、18.5以上30以下に設定される。高負荷領域においては、スロットル弁43の開度は全開であり、過給機44は過給を行う。
高負荷領域において、エンジン1は、負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らす。混合気のG/Fは、エンジン1の負荷が高くなると、小さくなる。EGRガスの量を減らした分、燃焼室17の中に導入する新気の量が増えるから、燃料量を増やすことができる。エンジン1の最高出力を高くする上で有利になる。混合気のG/Fは、高負荷領域において、例えば17〜25の範囲で変更される。
エンジン1の運転状態が高負荷領域にあるときと、中負荷領域にあるときとの間において、燃焼室17の中の状態量が大きく変動しない。エンジン1の負荷が変更することに対する、エンジン1の制御のロバスト性が高まる。
前述の通り、エンジン1は、高負荷領域においては、SI燃焼を行うが、幾何学的圧縮比が高いこと等に起因して、過早着火やノッキングといった異常燃焼が生じやすくなるという問題がある。
そこで、エンジン1は、高負荷領域において、燃料噴射の形態を工夫することにより異常燃焼を回避するよう構成されている。具体的に、ECU10は、30MPa以上の高い燃料圧力でかつ、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間(以下、この期間をリタード期間と呼ぶ)内のタイミングで、燃焼室17内に燃料を噴射するよう、燃料供給システム61及びインジェクタ6に制御信号を出力する。ECU10はまた、燃料の噴射後、圧縮上死点付近のタイミングで、混合気に点火を行うよう、点火プラグ25に制御信号を出力する。なお、以下においては、高い燃料圧力でかつ、リタード期間内のタイミングで、燃焼室17の中に燃料を噴射することを、高圧リタード噴射と呼ぶ。
高圧リタード噴射は、混合気が反応する時間を短くすることによって、異常燃焼を回避する。すなわち、混合気が反応する時間は、(1)インジェクタ6が燃料を噴射する期間(つまり、噴射期間)と、(2)燃料の噴射が終了した後、点火プラグ25の周りに可燃混合気が形成されるまでの期間(つまり、混合気形成期間)と、(3)点火によって開始されたSI燃焼が終了するまでの期間((3)燃焼期間)と、を足し合わせた時間である。
高い燃料圧力で、燃焼室17の中に燃料を噴射すると、噴射期間及び混合気形成期間は、それぞれ短くなる。噴射期間及び混合気形成期間が短くなると、燃料の噴射を開始するタイミングを点火タイミングに近づけることが可能になる。高圧リタード噴射は、高い圧力でかつ、燃焼室17の中に燃料を噴射するから、圧縮行程後期から膨張行程初期までのリタード期間内のタイミングで、燃料噴射を行う。
高い燃料圧力で燃焼室17の中に燃料を噴射すると、燃焼室17の中の乱流エネルギーが高くなる。燃料噴射のタイミングを圧縮上死点に近づけると、燃焼室17の中の乱流エネルギーが高い状態でSI燃焼を開始することができる。その結果、燃焼期間が短くなる。
高圧リタード噴射は、噴射期間、混合気形成期間、及び、燃焼期間をそれぞれ短くすることができる。吸気行程中に燃焼室17の中に燃料を噴射する場合と比較して、高圧リタード噴射は、混合気が反応する時間を大幅に短くすることができる。高圧リタード噴射は、混合気が反応する時間が短くなるから、異常燃焼を回避することが可能になる。
エンジン制御の技術分野においては、異常燃焼を回避するために、点火タイミングを遅角することが、従来から行われている。しかしながら、点火タイミングを遅らせると、燃費性能は低下する。高圧リタード噴射は、点火タイミングを遅角させなくてもよい。高圧リタード噴射を利用することによって、燃費性能は向上する。
燃料圧力を、例えば30MPa以上にすれば、噴射期間、混合気形成期間及び燃焼期間を効果的に短縮することができる。なお、燃料圧力は、燃料の性状に応じて適宜設定するのが好ましい。燃料圧力の上限値は、一例として、120MPaとしてもよい。
ここで、エンジン1の回転数が低いときには、クランク角が同一角度だけ変化するときの時間が長いため、 高圧リタード噴射によって混合気の反応可能時間を短縮することは、異常燃焼を回避する上で、特に有効である。一方、エンジン1の回転数が高くなると、クランク角が同一角度だけ変化するときの時間が短くなる。このため、混合気の反応可能時間を短縮することは、異常燃焼を回避する上で、それほど有効ではない。
高圧リタード噴射はまた、圧縮上死点付近になって初めて、燃焼室17の中に燃料を噴射するため、圧縮行程において、燃焼室17の中では、燃料を含まないガス、言い換えると比熱比の高いガスが圧縮される。エンジン1の回転数が高いときに、高圧リタード噴射を行うと、圧縮上死点における筒内温度、つまり、圧縮端温度が高くなってしまう。圧縮端温度が高くなることによって、ノッキング等の異常燃焼を招く恐れがある。
そこで、このエンジン1は、高負荷領域(C)を、低回転側の第1高負荷領域(C1)と、第1高負荷領域(C1)よりも回転数の高い第2高負荷領域(C2)とに分けている。第1高負荷領域は、高負荷領域内を、低回転、中回転及び高回転の3つの領域に三等分したときの低回転及び中回転領域を含むとしてもよい。第2高負荷領域は、高負荷領域内を、低回転、中回転及び高回転の3つの領域に三等分したときの高回転領域を含むとしてもよい。
第1高負荷領域において、インジェクタ6は、ECU10の制御信号を受けて、前述した高圧リタード噴射を行う。第2高負荷領域において、インジェクタ6は、ECU10の制御信号を受けて、吸気行程中の所定タイミングで燃料噴射を行う。吸気行程中に行う燃料噴射は、高い燃料圧力が不要である。ECU10は、燃料圧力が、高圧リタード噴射の燃料圧力よりも低くなるよう(例えば燃料圧力が40MPa未満となるよう)、燃料供給システム61に制御信号を出力する。燃料圧力を下げることによって、エンジン1の機械抵抗損失が低下するから、燃費の向上に有利になる。
吸気行程中に燃焼室17の中に燃料を噴射することによって、燃焼室17の中のガスの比熱比が下がるから、圧縮端温度が低くなる。圧縮端温度が低くなるから、エンジン1は、異常燃焼を回避することができる。異常燃焼を回避するために、点火タイミングを遅角する必要がないため、第2高負荷領域において、点火プラグ25は、第1高負荷領域と同様に、圧縮上死点付近のタイミングで、混合気に点火する。
第1高負荷領域においては、高圧リタード噴射によって、混合気が自己着火に至らないため、エンジン1は、安定したSI燃焼を行うことができる。第2高負荷領域においては、吸気行程中の燃料噴射によって、混合気が自己着火に至らないため、エンジン1は、安定したSI燃焼を行うことができる。
<SI−CI燃焼>
次に、図5(a)〜(c)を参照して、前述したSI−CI燃焼について、さらに詳細に説明をする。図5(a)〜(c)は、SI−CI燃焼における、クランク角に対する熱発生率の変化を例示する波形を示している。圧縮上死点付近、正確には、圧縮上死点よりも前の所定タイミングで、点火プラグ25が混合気に点火すると、火炎伝播による燃焼が開始する。SI燃焼時の熱発生は、CI燃焼時の熱発生よりも穏やかである。従って、熱発生率の波形は、傾きが相対的に小さくなる。図示はしないが、SI燃焼時の、燃焼室17の中における圧力変動(dp/dθ)も、CI燃焼時よりも穏やかになる。
SI燃焼によって、筒内温度及び筒内圧が高まると、未燃混合気が自己着火する。図5(a)の例では、ほぼ圧縮上死点において、熱発生率の波形の傾きが、小から大へと変化している。つまり、熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングで、変曲点を有している。
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。但し、CI燃焼は、圧縮上死点後に行われるため、ピストン3がモータリングによって下降している。CI燃焼による、熱発生率の波形の傾きが大きくなりすぎることが回避される。CI燃焼時のdp/dθも比較的穏やかになる。
dp/dθは、燃焼騒音を表す指標として用いることができるが、前述の通りSI−CI燃焼は、dp/dθを小さくすることができるため、燃焼騒音が大きくなりすぎることを回避することが可能になる。燃焼騒音は、許容レベル以下に抑えることができる。
CI燃焼が終了することによって、SI−CI燃焼が終了する。CI燃焼は、SI燃焼に比べて、燃焼期間が短い。SI−CI燃焼は、SI燃焼よりも、燃焼終了時期が早まる。言い換えると、SI−CI燃焼は、膨張行程中の燃焼終了時期を、圧縮上死点に近づけることが可能である。SI−CI燃焼は、SI燃焼よりも、エンジン1の燃費性能の向上に有利である。
従って、SI−CI燃焼は、燃焼騒音の防止と、燃費性能の向上とを両立することができる。
ここで、SI−CI燃焼の特性を示すパラメータとして、SI率を定義する。SI率は、SI−CI燃焼により発生した全熱量に対し、SI燃焼により発生した熱量の比率と定義する。つまり、図5(a)においてSI率は、SI率=(SI燃焼の面積)/(SI−CI燃焼の面積)である。SI率は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSI−CI燃焼において、SI燃焼とCI燃焼との比である。SI率が高いと、SI燃焼の割合が高く、SI率が低いと、CI燃焼の割合が高い。
SI率は、前述した定義に限定されるものではない。SI率は、様々な定義が考えられる。例えば、SI率は、CI燃焼により発生した熱量に対する、SI燃焼により発生した熱量の比率としてもよい。つまり、図5(a)においてSI率=(SI燃焼の面積)/(CI燃焼の面積)としてもよい。
また、SI−CI燃焼において、CI燃焼が開始したタイミングで、熱発生率の波形は変曲点を有している。そこで、図5(b)に示すように、熱発生率の波形における変曲点を境界にし、境界よりも進角側の範囲をSI燃焼、遅角側の範囲をCI燃焼としてもよい。この場合において、SI率は、図5(b)にハッチングを付して示すように、境界よりも進角側の範囲の面積QSI、遅角側の範囲の面積QCIから、SI率=QSI/(QSI+QCI)としてもよいし、SI率=QSI/QCIとしてもよい。また、境界よりも進角側の範囲の全面積ではなく一部の面積と、境界よりも遅角側の範囲の一部の面積とに基づいて、SI率を定義してもよい。
また、熱発生に基づいてSI率を定義するのではなく、境界よりも進角側の範囲のクランク角ΔθSI、遅角側の範囲のクランク角ΔθCIから、SI率=ΔθSI/(ΔθSI+ΔθCI)としてもよいし、SI率=ΔθSI/ΔθCIとしてもよい。
さらに、境界よりも進角側の範囲の熱発生率のピークΔPSI、遅角側の範囲の熱発生率のピークΔPCIから、SI率=ΔPSI/(ΔPSI+ΔPCI)としてもよいし、SI率=ΔPSI/ΔPCIとしてもよい。
加えて、境界よりも進角側の範囲における熱発生率の傾きφSI、遅角側の範囲における熱発生率の傾きφCIから、SI率=φSI/(φSI+φCI)としてもよいし、SI率=φSI/φCIとしてもよい。
また、ここでは、熱発生率の波形に基づいて、面積(つまり、熱発生量の大きさ)、横軸の長さ(つまり、クランク角の大きさ)、縦軸の長さ(つまり、熱発生率の大きさ)、又は、傾き(つまり、熱発生率の変化率)から、SI率を定義している。図示は省略するが、筒内圧(P)の波形に基づいて、同様に、面積、横軸の長さ、縦軸の長さ、又は、傾きから、SI率を定義してもよい。
また、SI−CI燃焼において、熱発生率又は圧力に係る燃焼波形の変曲点は、常に明確に現れるとは限らない。変曲点に基づかないSI率の定義として、次のような定義を用いてもよい。つまり、図5(c)に示すように、燃焼波形において、圧縮上死点(TDC)よりも進角側の範囲をSI燃焼とし、圧縮上死点よりも遅角側の範囲をCI燃焼としてもよい。その上で、前記と同様に、面積(QSI、QCI)、横軸の長さ(ΔθSI、ΔθCI)、縦軸の長さ(ΔPSI、ΔPCI)、又は、傾き(φSI、φCI)から、SI率を定義してもよい。
さらに、SI率は、燃焼室17の中で実際に行われた燃焼波形によって定義するのではなく、燃料量に基づいて定義してもよい。後述するように、SI−CI燃焼を行う中負荷領域においては、前段噴射と後段噴射とを含む分割噴射を行う。後段噴射によって燃焼室17の中に噴射された燃料は、噴射から点火までの時間が短いため、燃焼室17の中で拡散せずに、点火プラグ25の付近に位置するようになる。従って、後段噴射によって燃焼室17の中に噴射された燃料は、主にSI燃焼によって燃焼する。一方、前段噴射によって燃焼室17の中に噴射された燃料は、主にCI燃焼によって燃焼する。従って、前段噴射によって噴射する燃料量(m1)と、後段噴射によって噴射する燃料量(m2)とに基づいて、SI率を定義することが可能である。つまり、SI率=m2/(m1+m2)としてもよいし、SI率=m2/m1としてもよい。
<エンジンの基本運転制御>
エンジン1は、前述したように、運転状態に応じてSI燃焼とSI−CI燃焼とを切り替える。エンジン1はまた、エンジン1の運転状態に応じてSI率を変更する。自己着火による燃焼を行う運転領域が拡大するため、エンジン1は、燃焼騒音の発生を抑制することと、燃費の向上を図ることとが両立する。
図6は、エンジン1の負荷の高低に対する、SI率の変化、燃焼室17の中の状態量の変化、吸気弁の開弁期間及び排気弁の開弁期間の変化、並びに、燃料の噴射タイミング及び点火タイミングの変化を例示している。以下、所定の回転数で、エンジン1の負荷が次第に高くなる想定において、本実施形態によるエンジン1の基本運転制御について説明する。
(低負荷領域(低負荷SI燃焼))
低負荷領域(A)において、エンジン1は、低負荷SI燃焼を行う。エンジン1の運転状態が低負荷領域にあるときに、SI率は100%で一定である。
低負荷領域においては、前述したように、混合気のG/Fを、18.5〜30の間で一定にする。エンジン1は、燃焼室17の中に、燃料量に応じた量の新気及び既燃ガスを導入する。新気の導入量は、前述したように、スロットリング、及び/又は、ミラーサイクルによって調整する。希釈率が高いため、SI燃焼を安定化させるために、筒内温度を高める。エンジン1は、低負荷領域においては、内部EGRガスを、燃焼室17の中に導入する。
内部EGRガスは、排気上死点を挟んで吸気弁21及び排気弁22が共に閉弁したネガティブオーバーラップ期間を設けることによって、燃焼室17の中に導入する(つまり、既燃ガスを燃焼室17の中に閉じ込める)。内部EGRガス量の調整は、吸気電動VVT23により吸気弁21の開弁時期を調整することと、排気電動VVT24により排気弁22の開弁時期を調整することと、によって、ネガティブオーバーラップ期間の長さを適宜設定することにより行う。
低負荷領域においては、燃焼室17の中に導入する充填量が100%未満に調整される。燃料量が増大するに従い、燃焼室17の中に導入する新気の量、及び、内部EGRガスの量が次第に増える。低負荷領域におけるEGR率(つまり、燃焼室17の中の全ガスに対するEGRガスの質量比)は、例えば50%である。
インジェクタ6は、吸気行程中に、燃焼室17の中に燃料を噴射する。燃焼室17の中には、空気過剰率λが1.0±0.2でかつ、G/Fが18.5〜30になった、均質な混合気が形成される。圧縮上死点の前の所定のタイミングで、点火プラグ25が混合気に点火をすることによって、混合気は、自己着火に至らずに、火炎伝播により燃焼する。
(第2中負荷領域(非過給SI−CI燃焼))
エンジン1の負荷が高くなって、運転状態が第2中負荷領域(B2)に入ると、エンジン1は、低負荷SI燃焼から非過給SI−CI燃焼に切り替える。SI率は、100%未満になる。エンジン1の負荷が高まるに従い燃料量が増える。第2中負荷領域の中において負荷が低いときには、燃料量の増大に従って、CI燃焼の割合を増やす。SI率は、エンジン1の負荷が高くなる従って、次第に小さくなる。SI率は、図6の例では、50%以下の所定値(最小値)にまで減少する。
燃料量が増えるため、第2中負荷領域においては、燃焼温度が高くなる。筒内温度が高くなりすぎると、CI燃焼が開始するときの熱発生が激しくなってしまう。そうなると、燃焼騒音が増大してしまう。
そこで、第2中負荷領域においては、燃焼室17の中の圧縮開始前の温度を調整するために、エンジン1の負荷が変化することに対して、内部EGRガスと、外部EGRガスとの割合を変更する。つまり、エンジン1の負荷が高くなるに従い、熱い内部EGRガスを次第に減らし、冷却した外部EGRガスを次第に増やす。ネガティブオーバーラップ期間は、第2中負荷領域において、負荷が高くなるに従い、最大からゼロになるまで変更される。内部EGRガスは、第2中負荷領域において最も負荷が高くなるとゼロになる。
EGR弁54の開度は、第2中負荷領域において、負荷が高くなるに従い、外部EGRガスが増えるよう変更される。燃焼室17の中に導入される外部EGRガスの量は、EGR率で表すと、例えば0〜30%の間において調整される。第2中負荷領域においては、エンジン1の負荷が高くなるに従い、EGRガスが、内部EGRガスから外部EGRガスへと置換される。
なお、低負荷領域と第2中負荷領域との間で、燃焼室17の中に導入するEGRガス量は連続している。第2中負荷領域における負荷の低い領域においては、低負荷領域と同じように、内部EGRガスが燃焼室17の中に、大量に導入されている。筒内温度が高くなるため、エンジン1の負荷が低いときに、混合気が確実に自己着火する。第2中負荷領域における負荷の高い領域においては、外部EGRガスが燃焼室17の中に導入されている。筒内温度が低くなるため、エンジン1の負荷が高いときに、CI燃焼に伴う燃焼騒音を抑制することができる。
第2中負荷領域においては、燃焼室17の中に導入する充填量が100%にされる。スロットル弁43の開度は、全開である。内部EGRガスと外部EGRガスとを合わせたEGRガス量を調整することによって、燃焼室17の中に導入する新気の量を、燃料量に対応する量に調整する。
非過給SI−CI燃焼においてCI燃焼の割合が大きくなるに従い、自己着火のタイミングが早くなる。自己着火のタイミングが圧縮上死点よりも早くなると、CI燃焼が開始するときの熱発生が激しくなってしまう。そうなると、燃焼騒音が増大してしまう。そこで、エンジン1は、エンジン1の負荷が所定負荷L1に到達すれば、エンジン1の負荷が高まることに従い、SI率を次第に大きくする。
つまり、エンジン1は、燃料量の増大に従ってSI燃焼の割合を増やす。具体的には、非過給SI−CI燃焼においては、燃料量が増えるに従い、点火タイミングを次第に進角させる。前述したように、内部EGRガスの導入量を減らしかつ、外部EGRガスの導入量を増やすことによって、筒内温度の調整を行っているから、燃料量が増えても、SI燃焼による筒内温度上昇を抑制することが可能になる。SI燃焼の熱発生率の変化率は、負荷が高くなっても、ほとんど変わらないようにする。点火タイミングを進角すると、SI燃焼の開始が早まる分、SI燃焼の熱発生量が増える。
SI燃焼による燃焼室17の中の温度上昇が抑制される結果、未燃混合気は、圧縮上死点以降のタイミングで自己着火する。CI燃焼による熱発生は、SI燃焼の熱発生量が増えているから、エンジン1の負荷が高くなっても、ほぼ同じになる。従って、エンジン1の負荷が高くなることに応じて、SI率を次第に高く設定することにより、燃焼騒音が増大してしまうことを回避することができる。なお、非過給SI−CI燃焼の燃焼重心は、負荷が高くなるほど遅角する。
第2中負荷領域において、インジェクタ6は、圧縮行程中に、前段噴射と後段噴射との2回に分けて、燃焼室17の中に燃料を噴射する。前段噴射は、点火タイミングから離れたタイミングで燃料を噴射し、後段噴射は、点火タイミングに近いタイミングで燃料を噴射する。燃焼室17の中には、空気過剰率λが1.0±0.2でかつ、G/Fが18.5〜30になった、略均質な混合気が形成される。混合気が略均質であるため、未燃損失の低減による燃費の向上、及び、スモークの発生回避による排出ガス性能の向上を図ることができる。
圧縮上死点の前の所定のタイミングで、点火プラグ25が混合気に点火をすることによって、混合気は、火炎伝播により燃焼する。その後、未燃混合気が自己着火して、CI燃焼する。後段噴射によって噴射された燃料は、主にSI燃焼する。前段噴射によって噴射された燃料は、主にCI燃焼する。前段噴射を圧縮行程中に行うため、前段噴射により噴射した燃料が過早着火等の異常燃焼を誘発することを防止することができる。また、後段噴射により噴射した燃料を、安定的に火炎伝播により燃焼させることができる。
(第1中負荷領域(過給SI−CI燃焼))
エンジン1の負荷がさらに高まり、エンジン1の運転状態が第1中負荷領域(B1)に入ると、過給機44が、新気及び外部EGRガスの過給を行う。燃焼室17の中に導入する新気の量、及び、外部EGRガスの量は共に、エンジン1の負荷が高くなるに従い増える。燃焼室17の中に導入される外部EGRガスの量は、EGR率で表すと、例えば30%である。EGR率は、エンジン1の負荷の高低に関わらず一定である。従って、混合気のG/Fも、エンジン1の負荷の高低に関わらず一定である。なお、第2中負荷領域と第1中負荷領域との間で、燃焼室17の中に導入するEGRガス量は連続している。
SI率は、100%未満の所定値で、エンジン1の負荷の高低に対して一定にする。第2中負荷領域のSI率、特に所定負荷L1よりも負荷が高く、エンジン1の負荷が高まることに従い次第に大きくなるSI率と、第1中負荷領域のSI率とを比較したときに、エンジン1の負荷が高い第1中負荷領域のSI率の方が、第2中負荷領域のSI率よりも高い。第1中負荷領域と第2中負荷領域との境界において、SI率は連続している。
過給SI−CI燃焼においても、燃料量が増えることに伴い、点火タイミングを次第に進角させるようにする。前述したように、過給によって燃焼室17の中に導入する新気及びEGRガス量を増やしているため、熱容量が大きい。燃料量が増えても、SI燃焼による筒内温度上昇を抑制することが可能になる。過給SI−CI燃焼の熱発生率の波形は、負荷が高くなるに従い、相似形で大きくなる。
つまり、SI燃焼の熱発生率の変化率がほとんど変わらずに、SI燃焼の熱発生量が増える。圧縮上死点以降の、ほぼ同じタイミングで、未燃混合気が自己着火をする。CI燃焼による熱発生量は、エンジン1の負荷が高くなると、多くなる。その結果、第1中負荷領域においては、SI燃焼の熱発生量とCI燃焼の熱発生量とが共に増えるから、エンジン1の負荷の高低に対してSI率が一定になる。CI燃焼の熱発生のピークが高くなると、燃焼騒音が大きくなるが、第1中負荷領域は、エンジン1の負荷が比較的高いため、ある程度の大きさの燃焼騒音は許容することができる。なお、過給SI−CI燃焼の燃焼重心は、負荷が高くなるほど遅角する。
第1中負荷領域においては、排気上死点を挟んで、吸気弁21と排気弁22とが共に開弁するオーバーラップ期間を設ける。燃焼室17の中に残留する既燃ガスを、過給圧によって掃気する。これにより、筒内温度が低くなるため、エンジン1の負荷が比較的高いときに、異常燃焼が発生してしまうことを抑制することができる。また、筒内温度を下げることによって、エンジン1の負荷が比較的高い領域において、自己着火のタイミングを適切なタイミングにすることができ、SI率を所定のSI率に維持することが可能になる。さらに、既燃ガスを掃気することによって、燃焼室17の中の新気の充填量を高めることができる。
第1中負荷領域において、インジェクタ6は、第2中負荷領域と同様に、圧縮行程中に、前段噴射と後段噴射との2回に分けて、燃焼室17の中に燃料を噴射する。前段噴射は、点火タイミングから離れたタイミングで燃料を噴射し、後段噴射は、点火タイミングに近いタイミングで燃料を噴射する。燃焼室17の中には、空気過剰率λが1.0±0.2でかつ、G/Fが18.5〜30になった、略均質な混合気が形成される。混合気が略均質であるため、未燃損失の低減による燃費の向上、及び、スモークの発生回避による排出ガス性能の向上を図ることができる。
圧縮上死点の前の所定のタイミングで、点火プラグ25が混合気に点火をすることによって、混合気は、火炎伝播により燃焼する。その後、未燃混合気が自己着火して、CI燃焼する。後段噴射によって噴射された燃料は、主にSI燃焼する。前段噴射によって噴射された燃料は、主にCI燃焼する。前段噴射を圧縮行程中に行うため、前段噴射により噴射した燃料が過早着火等の異常燃焼を誘発することを防止することができる。また、後段噴射により噴射した燃料を、安定的に火炎伝播により燃焼させることができる。
(高負荷領域(高負荷SI燃焼))
エンジン1の負荷がさらに高まり、エンジン1の運転状態が高負荷領域(C)に入ると、エンジン1は、高負荷SI燃焼を行う。従って、高負荷領域においてSI率は、100%になる。
スロットル弁43は、全開である。過給機44は、高負荷領域においても、新気及び外部EGRガスの過給を行う。EGR弁54は、開度を調整することによって、エンジン1の負荷が高くなるに従い、外部EGRガスの導入量を次第に減少させる。そうすることによって、燃焼室17の中に導入される新気が、エンジン1の負荷が高くなると増える。新気の量が増えると、燃料量を増やすことができるため、エンジン1の最高出力を高くする上で、有利になる。なお、第1中負荷領域と高負荷領域の間で、燃焼室17の中に導入するEGRガス量は連続している。
高負荷領域においても、第1中負荷領域と同様に、排気上死点を挟んで、吸気弁21と排気弁22とが共に開弁するオーバーラップ期間を設ける。燃焼室17の中に残留する既燃ガスを、過給圧によって掃気する。これにより、異常燃焼の発生が抑制される。また、燃焼室17の中の新気の充填量を高めることができる。
高負荷領域の低回転側の領域(つまり、第1高負荷領域(C1))において、インジェクタ6は、前述したように、リタード期間内に、燃焼室17の中に燃料を噴射する。高負荷領域の高回転側の領域(つまり、第2高負荷領域(C2))においては、インジェクタ6は、吸気行程中に、燃焼室17の中に燃料を噴射する。いずれにおいても、燃焼室17の中には、空気過剰率λが1.0±0.2でかつ、G/Fが18.5〜30になった、略均質な混合気が形成される。圧縮上死点の前の所定のタイミングで、点火プラグ25が混合気に点火をすることによって、混合気は、火炎伝播により燃焼する。高負荷領域においては、高圧リタード噴射又は吸気行程中の燃料噴射によって、混合気は自己着火に至らずにSI燃焼する。
<エンジン負荷とSI率及び自己着火時期との関係>
次に、本実施形態によるSI率及び自己着火時期の制御について説明する。本実施形態では、ECU10は、SI率及び自己着火時期の各々を制御する手段(第1及び第2制御手段)として機能し、これらの手段によって、エンジン1の1燃焼サイクル中において、SI燃焼及びCI燃焼の両方の燃焼状態をエンジン1の運転状態に応じて変更するようにする。こうすることで、所望のSI−CI燃焼波形が実現されるようにする。具体的には、所望のSI率及び自己着火時期が実現されるようにする。
図7を参照して、本実施形態において、ECU10がエンジン負荷に応じて実行するSI率及び自己着火時期の制御について具体的に説明する。図7は、本実施形態におけるエンジン負荷とSI率及び自己着火時期との関係を説明するための図である。
図7では、横軸にクランク角を示し、縦軸に熱発生率(dQ/dθ)を示しており、エンジン負荷に応じて適用する、複数のSI−CI燃焼の燃焼波形(換言すると熱発生形状)を示している。このような図7に示す燃焼波形は、典型的には、上述した過給を行わない第2中負荷領域B2、より詳しくは第2中負荷領域B2における所定負荷L1を超える領域において適用される(図6参照)。なお、本来はエンジン負荷が高くなるほど発生熱量Qが増えるので「dQ/dθ」の面積が大きくなっていくが、図7では、燃焼波形の形状に着目する観点から、「dQ/dθ」の値を正規化して略同一の面積にした燃焼波形を示している。
まず、グラフG11に示すように、エンジン負荷が比較的低い場合には、燃焼騒音があまり問題にならないので、ECU10は、安定した自己着火を実現可能な圧縮上死点(TDC)付近のクランク角(比較的進角側のクランク角)をCI燃焼の自己着火時期に適用する。また、燃焼期間が短いほうが燃費が良いので、ECU10は、SI−CI燃焼におけるSI率を小さくする、つまりSI−CI燃焼におけるCI燃焼の比率を大きくする。次に、グラフG12に示すように、エンジン負荷が高くなるにつれて、ECU10は、燃焼騒音の発生を抑制するために、SI率を増大させると共に(矢印A11、A12)、CI燃焼が行われる期間をできるだけ延ばすようにCI燃焼の自己着火時期を遅角させる(矢印A13)。
次に、ECU10は、グラフG13に示すように、エンジン負荷の上昇に伴ってSI率を増大させると共に自己着火時期を遅角させていった場合において(矢印A14、A15、A16)、自己着火時期が所定の遅角限界θlimに達すると、自己着火時期をこの遅角限界θlimに固定し、自己着火時期を遅角限界θlimよりも遅角させないようにする。この遅角限界θlimは、CI燃焼の自己着火安定性が確保される限界の着火時期に基づき定められており、そのような遅角限界θlimによって自己着火時期の遅角を制限することで、CI燃焼の自己着火安定性を確保するようにしている。なお、遅角限界θlimを固定値に設定することに限定はされず、エンジン1の種々の状態(例えば筒内温度など)に応じて変化させてもよい。
次に、ECU10は、エンジン負荷がさらに高くなると、グラフG14に示すように、SI燃焼における熱発生率(dQ/dθ)がほぼ最大になるクランク角を(SI燃焼のみを示す破線のグラフG15も合せて参照)、自己着火時期に適用することで、CI燃焼の自己着火安定性を確保するようにする。具体的には、ECU10は、SI燃焼の熱発生ピーク(50%燃焼位置)に対応するクランク角を自己着火時期に適用する。そして、ECU10は、エンジン負荷がさらに高くなると、第2中負荷領域B2から第1中負荷領域B1へと移行することで、過給機44による過給を実行することにより、燃焼騒音を抑制するようにする。この場合に適用する燃焼波形は、グラフG14とほぼ同様のものとなる。
更に、本実施形態では、図7に示すように、ECU10は、ドライバ要求に応じた目標エンジントルクを確実に満たすべく、SI−CI燃焼における燃焼重心位置がエンジン負荷によらずにほぼ一定になるように、SI率及び自己着火時期を設定する。特に、SI−CI燃焼における燃焼重心が圧縮上死点後の2〜6度(ATDC2〜6度)付近にあるときに燃費が向上するので、ECU10は、そのようなSI−CI燃焼における燃焼重心位置が維持されるように、エンジン負荷を考慮しつつ、SI率及び自己着火時期を設定する。このときに、ECU10は、燃焼開始前の筒内温度もさらに調整するようにする。典型的には、ECU10は、エンジン負荷が低くなるほど、燃焼開始前の筒内温度を高める制御を行う(換言すると、エンジン負荷が高くなるほど、燃焼開始前の筒内温度を下げる制御を行う)。例えば、ECU10は、内部EGR率を増やす制御を行って、燃焼開始前の筒内温度を高めるようにする。これにより、SI燃焼の開始を遅らせることができる、つまりSI燃焼の開始が早まらないようにすることができる。
なお、燃焼開始前の筒内温度が比較的低い状態においては、エンジン負荷が高くなるほど、SI率を増大させるように、SI燃焼のための点火時期を進角させてもよい。この場合、火炎伝播確保や冷却損失抑制の観点から(つまりSI燃焼の開始が早くなり過ぎないようにするため)、所定の進角限界を超えない範囲内において、点火時期を進角側に設定するのがよい。
但し、燃焼開始前の筒内温度が比較的高い状態においては、エンジン負荷が高くなるほど、筒内温度をできるだけ低下させるようにして、SI率を増大させるようにするのがよい。燃焼開始前の筒内温度が高いと、SI燃焼後に筒内温度が速やかに着火温度に到達することで、CI燃焼が所望の自己着火時期よりも早く生じてしまうことがあるからである。
<筒内温度とSI率との関係>
次に、本実施形態によるSI率及び筒内温度の制御について説明する。本実施形態では、ECU10は、SI率及び筒内温度の各々を制御する手段(第1及び第2制御手段)として機能し、これらの手段によって、エンジン1の1燃焼サイクル中において、SI燃焼及びCI燃焼の両方の燃焼状態をエンジン1の運転状態に応じて変更するようにする。こうすることで、所望のSI−CI燃焼波形が実現されるようにする。具体的には、所望のSI率及び自己着火時期が実現されるようにする。
図8及び図9を参照して、本実施形態において、ECU10が燃焼開始前の筒内温度(燃焼室17内の温度)に応じて実行するSI率の制御について具体的に説明する。
図8は、本実施形態において、燃焼開始前の筒内温度に応じてSI率を制御する方法についての説明図である。図8は、横軸にクランク角を示し、縦軸に筒内温度を示しており、グラフG21は、燃焼開始前の筒内温度が比較的低いときのピストン3の動作のみ(モータリング時に対応する)による筒内温度の変化を示し、グラフG23は、燃焼開始前の筒内温度が比較的高いときのピストン3の動作のみによる筒内温度の変化を示している。更に、グラフG22は、燃焼開始前の筒内温度が比較的低いときに、ほぼ圧縮上死点(TDC)において自己着火を生じさせるようにSI燃焼を行ったときの筒内温度の変化を示し、グラフG24は、燃焼開始前の筒内温度が比較的高いときに、ほぼ圧縮上死点において自己着火を生じさせるようにSI燃焼を行ったときの筒内温度の変化を示している。
グラフG21〜G24より、燃焼開始前の筒内温度が比較的低いときには矢印A21に示すようなSI燃焼による温度上昇量(発生熱量)が必要となり、燃焼開始前の筒内温度が比較的高いときには矢印A22に示すようなSI燃焼による温度上昇量(発生熱量)が必要となる。これより、燃焼開始前の筒内温度が低い場合には、SI燃焼による大きな温度上昇量(発生熱量)が必要となることがわかる。
したがって、本実施形態では、ECU10は、燃焼開始前の筒内温度が低い場合には、燃焼開始前の筒内温度が高い場合よりも、SI率を大きくする。このように燃焼開始前の筒内温度に応じて制御を行うことで、目標SI率を実現できるようにすると共に、結果的に目標自己着火時期を実現できるようにする。
次に、図9は、本実施形態において、燃焼開始前の筒内温度に応じて、所望の自己着火時期を実現するようSI率を制御する方法についての説明図である。図9は、横軸にクランク角を示し、縦軸に熱発生率(dQ/dθ)を示している。また、グラフG31は、燃焼開始前の筒内温度が比較的低いときに適用する燃焼波形(換言すると熱発生形状)を示し、グラフG32は、燃焼開始前の筒内温度が比較的高いときに適用する燃焼波形(換言すると熱発生形状)を示している。
本実施形態では、ECU10は、燃焼開始前の筒内温度によらずにCI燃焼の所望の自己着火時期(つまり目標自己着火時期)を実現するようにSI率を制御する。具体的には、前述したように、ECU10は、燃焼開始前の筒内温度が低くなるほどSI率を大きくする(換言すると燃焼開始前の筒内温度が高くなるほどSI率を小さくする)。この場合、ECU10は、同じエンジン負荷において、燃焼開始前の筒内温度が低くなるほどSI率を大きくする。例えば、ECU10は、目標自己着火時期が実現されるように、SI率としての自己着火時期θCLまでの「dQ/dθ」の面積、つまりSI燃焼による発生熱量を制御する。また、ECU10は、例えば点火プラグ25による点火時期を進角させて、SI燃焼の開始を早めることで、SI率を大きくする。
<SI−CI燃焼制御>
次に、本実施形態において、燃費の改善や燃焼安定性確保や燃焼騒音抑制などを達成可能な所望のSI−CI燃焼(具体的には所望のSI率や自己着火時期など)を実現するために、ECU10が行うSI−CI燃焼制御の詳細について説明する。
(制御の基本構成)
まず、本実施形態によるSI−CI燃焼制御の概要について述べる。本実施形態では、まず、ECU10は、エンジン1の運転状態などに応じた目標SI率及び目標自己着火時期を設定し、これらの目標SI率及び目標自己着火時期に応じて設定すべきSI−CI燃焼開始前の筒内温度、具体的には吸気弁21の閉弁(以下では適宜「IVC」と表記する。)時点での筒内温度を求め、この筒内温度を実現するようにEGR率などを制御する。こうすることで、所望の自己着火時期などを実現させるための制御、換言するとSI−CI燃焼開始前に所望の筒内状態に設定するための制御を事前に行っておく。
次いで、ECU10は、上記のような制御後にセンサ検出値からIVC時点での筒内温度を求め、この筒内温度に基づき、目標自己着火時期が実現されるように点火時期を制御する。こうすることで、上記したEGR率などの制御よりも応答性の速い制御、すなわち点火制御をSI−CI燃焼直前に行うことにより、目標自己着火時期が適切に実現されるようにする。
次いで、ECU10は、上記のような制御によりSI−CI燃焼が実際に行われた後、このSI−CI燃焼時に指圧センサSW6によって検知された筒内圧に基づき、当該SI−CI燃焼前のIVC時点での筒内温度を求める。そして、ECU10は、この求めた筒内温度に基づき、次のSI−CI燃焼を行わせるときに算出される2つの筒内温度、具体的には目標自己着火時期を実現するために算出される筒内温度と、この後にセンサ検出値から算出される筒内温度とを補正する。こうすることで、筒内温度の算出(推定)精度を向上させて、SI率及び自己着火時期が的確に制御できるようにする。
次に、図10及び図11を参照して、本実施形態によるSI−CI燃焼制御の基本構成について具体的に説明する。図10は、本実施形態によるSI−CI燃焼の基本制御を示すフローチャートであり、図11は、本実施形態による燃焼前の筒内温度の推定方法についての説明図である。なお、図10に示すフローは、SI−CI燃焼を実行するようなエンジン1の運転状態にある場合、典型的にはエンジン負荷が中負荷領域(B1又はB2)にある場合に、ECU10によって繰り返し実行される。
図10のフローが開始されると、まず、ステップS11において、ECU10は、各センサSW1〜SW16の検知信号を読み込んで、エンジン1の運転状態を判断して、目標SI率及び目標自己着火時期を設定する。具体的には、ECU10は、アクセル開度センサSW12によって検知されたアクセル開度に応じた目標エンジントルクを求め、この目標エンジントルクを実現するのに適した目標SI率及び目標自己着火時期を設定する。
次いで、ステップS12において、ECU10は、所定の燃焼モデル及び筒内状態推定モデルを用いて、目標自己着火時期を実現するために設定されるべき、IVC時点での筒内温度を求める。このIVC時点での筒内温度の求め方について、図11を参照して具体的に説明する。なお、ECU10は、ステップS12において、IVC時点での筒内温度以外にも、エンジン1の運転状態に応じた目標空気量なども求める。
図11は、横軸にクランク角を示し、縦軸に筒内温度を示しており、グラフG41は、SI−CI燃焼による筒内温度の変化を示し、グラフG42は、ピストン3の動作のみ(モータリング時に対応する)による筒内温度の変化を示している。
まず、ECU10は、上記のように設定した目標自己着火時期(θCL)から(点P11)、圧縮上死点(TDC)での自己着火部分(未燃部分)における筒内温度を求める(点P12)。次いで、ECU10は、この求めた筒内温度から、矢印A3で示すような目標SI率に対応するSI燃焼による自己着火部分の温度上昇分を差し引くことで、モータリング時の圧縮上死点での筒内温度を求める(点P13)。
次いで、ECU10は、この求めた筒内温度から、エンジン1のポリトロープ過程での混合気の圧縮による温度上昇分を差し引くことで、吸気下死点(BDC)での筒内温度を求める(点P14)。次いで、ECU10は、この求めた筒内温度をポリトロープ過程にて変換することで、IVC時点での筒内温度を求める(点P15)。なお、図11において点P16は、点火プラグ25の点火によりSI燃焼が開始したときのクランク角及び筒内温度を示している。
図10に戻ると、ステップS13において、ECU10は、現在の吸入空気量を考慮しつつ、所定の筒内状態推定モデルを用いて、ステップS12で求めたIVC時点での筒内温度を実現するために導入するEGRガスの度合い(つまりEGR率)などを求める。典型的には、ECU10は、IVC時点での筒内温度を実現するのに必要な内部EGR率を求める。
次いで、ステップS14において、ECU10は、ステップS13で求めたEGR率などを実現すべく、所定の筒内状態制御モデルを用いて、各種のアクチュエータを制御する。典型的には、ECU10は、IVC時点での筒内温度を実現するための内部EGR率に対応する内部EGRガスを導入すべく、吸気電動VVT23及び排気電動VVT24(以下ではこれらを合わせて単に「吸排気VVT23、24」と表記することがある。)の位相角を制御する。また、ECU10は、ステップS12で求めた目標空気量などを実現すべく、スロットル弁43の開度や、エアバイパス弁48の開度や、電磁クラッチ45の遮断/接続や、EGR弁54の開度などを制御する。このようなECU10の制御によって、燃焼室17の中の状態が所望の状態へと変化していく。
次いで、ステップS15において、ECU10は、各センサSW1〜SW16の検知信号を読み込んで、所定の筒内状態推定モデルを用いて、実際のIVC時点での筒内温度を求める。具体的には、ECU10は、エアフローセンサSW1によって検知された吸入空気量や、第1吸気温度センサSW2及び第2吸気温度センサSW4によって検知された吸気温度や、吸気カム角センサSW13及び排気カム角センサSW14によって検知された吸気カムシャフト及び排気カムシャフトの回転角などを取得して、これらに基づきIVC時点での筒内温度を求める。この場合、ECU10は、吸気ガス(新気)及びEGRガスの流量や温度を求めて、筒内状態推定モデルに基づきIVC時点での筒内温度を求める。
なお、ECU10は、ステップS15において、筒内温度以外にも、筒内の状態量として吸気充填量や筒内の酸素濃度などを求めて、燃焼後の排気ガスの空燃比が理論空燃比(つまりλ=1)となるように、インジェクタ6からの燃料噴射量を決定する。この場合、ECU10は、前段噴射及び後段噴射を含む分割噴射を行うときには、前段噴射及び後段噴射のそれぞれの燃料噴射量を決定する。基本的には、後段噴射によって噴射された燃料はSI燃焼し、前段噴射によって噴射された燃料は主にCI燃焼するので、SI率を制御する観点からは、前段噴射に対する後段噴射の燃料噴射量の割合を調整するのがよい(空燃比をリーンにする場合には、後段噴射の燃料噴射量を単独で調整すればよい)。そして、ECU10は、このようにして決定した燃料噴射量を噴射させるようにインジェクタ6を制御する。また、ECU10は、予め設定されているマップに基づく噴射タイミングで燃料を噴射させるように、インジェクタ6を制御する。
次いで、ステップS16において、ECU10は、所定の筒内状態推定モデルを用いて、ステップS15で求めたIVC時点での筒内温度から、CI燃焼における自己着火時期を求める。具体的には、ECU10は、図11を参照して説明した手順と逆の手順により、詳しくは点P15→点P14→点P13→点P12→点P11といった順で各状態量を求めていくことで、CI燃焼における自己着火時期を求める。
次いで、ステップS17において、ECU10は、ステップS16で求めた自己着火時期に基づき、所定の燃焼モデルを用いて、ステップS11で設定した目標自己着火時期ができるだけ実現されるように、点火プラグ25による点火時期を決定する。つまり、ECU10は、できるだけ目標自己着火時期に近い時期にてCI燃焼が開始するように、SI燃焼を開始させるための点火プラグ25による点火時期を決定する。そして、ECU10は、こうして決定した点火時期にて点火が行われるように点火プラグ25を制御する。
このようなステップS17の後、エンジン1においてSI燃焼及びCI燃焼を含むSI−CI燃焼が行われる。そして、SI−CI燃焼の終了後にステップS18の処理が行われる。ステップS18では、ECU10は、このSI−CI燃焼が行われている間に指圧センサSW6によって検知された筒内圧に基づき、所定の燃焼モデル及び筒内状態推定モデルを用いて、当該SI−CI燃焼前のIVC時点での筒内温度を求める。つまり、ECU10は、前回のSI−CI燃焼の開始前におけるIVC時点での筒内温度を遡って求める。このIVC時点での筒内温度の求め方について、図11を再度参照して具体的に説明する。
図11に示すように、まず、ECU10は、指圧センサSW6によって検知された筒内圧から自己着火時期(θCL)を求める(点P11)。例えば、ECU10は、検知された筒内圧の波形(熱発生率の波形に相当する)における変曲点に対応するクランク角を、自己着火時期として求める。そして、ECU10は、この自己着火時期(θCL)から、圧縮上死点(TDC)での自己着火部分(未燃部分)における筒内温度を求める(P12)。
次いで、ECU10は、この求めた筒内温度から、矢印A3で示すようなSI燃焼による自己着火部分の温度上昇分を差し引くことで、モータリング時の圧縮上死点での筒内温度を求める(点P13)。次いで、ECU10は、この求めた筒内温度から、エンジン1のポリトロープ過程での混合気の圧縮による温度上昇分を差し引くことで、吸気下死点(BDC)での筒内温度を求める(点P14)。次いで、ECU10は、この求めた筒内温度をポリトロープ過程にて変換することで、IVC時点での筒内温度を求める(点P15)。
図10に戻ると、ステップS19において、ECU10は、ステップS18で求めた、前回のSI−CI燃焼時におけるIVC時点での筒内温度によって、今回のSI−CI燃焼において算出する筒内温度を補正する。具体的には、ECU10は、今回のSI−CI燃焼のためにステップS12及びステップS15において実行される筒内状態推定モデルによる筒内温度の推定誤差をそれぞれ補正する。つまり、ECU10は、目標自己着火時期を実現するために算出されるIVC時点での筒内温度と(ステップS12)、この後にセンサ検出値から算出されるIVC時点での筒内温度と(ステップS15)を、ステップS18で求めた筒内温度に基づき補正する。この場合、ECU10は、ステップS12及びS15で算出された筒内温度をステップS18の筒内温度に合わせ込むように補正を行うのではなく、SI−CI燃焼制御による実際のSI−CI燃焼後に判明する、当該制御の誤差に対応する筒内状態推定モデルによる推定誤差を是正すべく、ステップS19における補正を行う。
(制御ブロック)
次に、図12乃至図14を参照して、本実施形態によるSI−CI燃焼制御の詳細な内容について説明する。図12は、本実施形態において、目標自己着火時期を実現するように筒内状態を事前に制御するための第1の制御モデルを示すブロック図である。図13は、本実施形態において、第1の制御モデルにおける制御後にセンサ検出値に基づき目標自己着火時期を実現するよう応答性の速い制御を行うための第2の制御モデルを示すブロック図である。図14は、本実施形態において、SI−CI燃焼時に検出された筒内圧に基づき筒内温度を推定して、この後のSI−CI燃焼において第1及び第2の制御モデルにより推定される筒内温度を補正するための第3の制御モデルを示すブロック図である。なお、ECU10は、これらの第1乃至第3の制御モデルにおける制御を実行するように構成されている。
図12に示す第1の制御モデルでは、まず、ECU10は、事前に設定されたマップなどを参照して、アクセル開度センサSW12によって検知されたアクセル開度に応じた目標エンジントルクを求め、この目標エンジントルクに対応する目標燃焼圧を求める。次いで、ECU10は、現在のエンジン1の運転状態に基づき、最終的に適用する目標燃焼圧を求めると共に、目標燃焼モードを求める。この目標燃焼モードには、基本的には、SI燃焼のみを行う燃焼モード、及び、SI燃焼及びCI燃焼を含むSI−CI燃焼を行う燃焼モードのうちのいずれかが適用される。
次いで、ECU10は、最終的な目標燃焼圧及び目標燃焼モードに基づき、目標燃焼状態として、目標空気量、目標自己着火時期及び目標SI率を求める。次いで、ECU10は、所定の燃焼モデルを用いて、目標SI率に対応するSI燃焼による自己着火部分の温度上昇分を差し引いた、目標自己着火時期での筒内温度を求め(TDCでの筒内温度を求めてもよい)、そして、所定の筒内状態推定モデルを用いて、この筒内温度からIVC時点での筒内温度を求める。IVC時点での筒内温度の求め方は、図10及び図11において説明した通りであるので、ここではその説明を省略する。また、ECU10は、このようにIVC時点での筒内温度を求めるときに、第3の制御モデルにおいて推定された前回のSI−CI燃焼での筒内温度に基づき(図14参照)、筒内状態推定モデルによる筒内温度の推定誤差を補正する。
次いで、ECU10は、事前に設定されたマップなどを参照して、目標空気量及びIVC時点での筒内温度に基づき、燃焼室17内に導入すべきEGRガスの度合いを示す目標EGR率、特に目標内部EGR率を求める。そして、ECU10は、この目標内部EGR率を実現するための目標の吸気弁21の閉弁時期(目標IVC)及び目標の排気弁22の閉弁時期(目標EVC)を求める。次いで、ECU10は、所定の筒内状態制御モデルを用いて、目標IVC及び目標EVCに対応する吸排気VVT23、24のそれぞれの目標位相角(目標吸排気VVT)を決定し、この目標位相角に設定されるように吸排気VVT23、24をそれぞれ制御する。
このような吸排気VVT23、24の制御とほぼ並行して、ECU10は、上記した目標空気量が実現されるように、所定の筒内状態制御モデルを用いて、目標スロットル開度、目標外部EGR率、目標エアバイパス開度及び目標クラッチ開度(電磁クラッチ45の遮断/接続に対応する)を決定する。そして、ECU10は、目標スロットル開度に応じたスロットル弁43の制御、目標外部EGR率に応じたEGR弁54の制御、目標エアバイパス開度に応じたエアバイパス弁48の制御、及び目標クラッチ開度に応じた電磁クラッチ45の制御を行う。この後、エンジン1においてSI−CI燃焼が行われる。
次に、図13に示す第2の制御モデルでは、まず、ECU10は、エアフローセンサSW1によって検知された吸入空気量や、第1吸気温度センサSW2及び第2吸気温度センサSW4によって検知された吸気温度や、吸気カム角センサSW13及び排気カム角センサSW14によって検知された吸気カムシャフト及び排気カムシャフトのそれぞれの回転角などを取得する。次いで、ECU10は、これらのセンサ検出値に対応する吸入空気量や外気EGR率などに基づき、実際の吸気ガス(新気)の状態量、典型的には温度や圧力を求める。加えて、ECU10は、吸気カムシャフト及び排気カムシャフトの回転角に対応する吸排気VVT23、24のそれぞれの位相角(基本的には進角側の位相角となる)に基づき、実際の内部EGRガスの状態量、典型的には温度や圧力を求める。
次いで、ECU10は、上記した吸気ガスの状態量及び内部EGRガスの状態量から、所定の筒内状態推定モデルを用いて、実際のIVC時点での筒内温度を求める。この場合、ECU10は、第3の制御モデルにおいて推定された前回のSI−CI燃焼での筒内温度に基づき(図14参照)、筒内状態推定モデルによる推定誤差を補正して、IVC時点での筒内温度を求める。ECU10は、このような筒内温度以外にも、筒内の状態量として吸気充填量や筒内の酸素濃度なども求める。
次いで、ECU10は、筒内の状態量としての吸気充填量や筒内の酸素濃度などに基づき、燃焼後の排気ガスの空燃比が理論空燃比(つまりλ=1)となるように、インジェクタ6からの燃料噴射量を決定する。この場合、ECU10は、前段噴射及び後段噴射を含む分割噴射を行うときには、前段噴射及び後段噴射のそれぞれの燃料噴射量を決定する。そして、ECU10は、このようにして決定した燃料噴射量を噴射させるようにインジェクタ6を制御する。また、ECU10は、予め設定されているマップに基づく噴射タイミングで燃料を噴射させるように、インジェクタ6を制御する。
また、ECU10は、上記のインジェクタ6の制御とほぼ並行して、求めたIVC時点での筒内温度から、自己着火が生じるときの筒内温度を求めて、この自己着火時期を求める。自己着火時期の求め方は、図10及び図11において説明した通りであるので、ここではその説明を省略する。次いで、ECU10は、求めた自己着火時期に基づき、所定の燃焼モデルを用いて、当初設定した目標自己着火時期が実現されるように、点火プラグ25による目標点火時期を決定する。そして、ECU10は、こうして決定した目標点火時期にて点火が行われるように点火プラグ25を制御する。この後、エンジン1においてSI−CI燃焼が行われる。
なお、第2の制御モデルを第1の制御モデルの後に行うことに限定はされず、第2の制御モデルを第1の制御モデルと実質的に並行して行ってもよい。同様に、図10のフローについても、第2の制御モデルに対応するステップS15〜S17の処理を、第1の制御モデルに対応するステップS11〜S14の処理と実質的に並行して行ってもよい。1つの例では、ECU10は、IVCに対応するクランク角に到達する前においては、第1の制御モデルにより、IVC時点での筒内温度を求めて内部EGR率などを繰り返し制御し、この制御の最中に、第2の制御モデルにより、センサ検出値に基づきIVC時点での筒内温度を求めて目標自己着火時期を実現するための点火時期を求める処理を繰り返し行う。そして、この例では、ECU10は、IVCに対応するクランク角に到達後は、第1の制御モデルの実行を中断し、IVCに到達時にセンサ検出値に応じた筒内温度から求められた点火時期を用いて点火制御を行う。
次に、図14に示す第3の制御モデルでは、まず、ECU10は、エンジン1でのSI−CI燃焼後において、このSI−CI燃焼が行われている間に指圧センサSW6によって検知された筒内圧を取得する。次いで、ECU10は、所定の燃料検出モデルを用いて、SI−CI燃焼の燃焼状態を求める。例えば、ECU10は、取得した筒内圧の波形(熱発生率の波形に相当する)における変曲点などを、燃焼状態として求める。
次いで、ECU10は、所定の筒内状態推定モデルを用いて、SI−CI燃焼の燃焼状態から自己着火時期での筒内温度を求め、この筒内温度からIVC時点での筒内温度を求める。IVC時点での筒内温度の求め方は、図10及び図11において説明した通りであるので、ここではその説明を省略する。次いで、ECU10は、求めたIVC時点での筒内温度によって、今回のSI−CI燃焼において算出する筒内温度を補正する。つまり、ECU10は、今回のSI−CI燃焼において実行される筒内状態推定モデルによる筒内温度の推定誤差を補正する。具体的には、ECU10は、第1の制御モデルにおいて目標自己着火時期を実現するために算出されるIVC時点での筒内温度(図12参照)と、第2の制御モデルにおいてセンサ検出値から算出されるIVC時点での筒内温度(図13参照)とを補正する。基本的には、第3の制御モデルから得られる筒内温度を実際値(基準値)とし、この実際値としての筒内温度に対して第1及び第2の制御モデルから得られる筒内温度が誤差を含むものとして取り扱うことで、上記のような補正を行っている。
(タイムチャート)
次に、図15を参照して、本実施形態によるSI−CI燃焼制御を行った場合のタイムチャートについて説明する。
図15は、上から順に、熱発生率(dQ/dθ)、吸気弁21の閉弁時期(実IVC及び目標IVC)、第2の制御モデルにおいて推定されたIVC時点での筒内温度(以下では適宜「吸排気モデルによる温度推定値」と呼ぶ)、第3の制御モデルにおいて推定されたIVC時点での筒内温度(以下では適宜「燃焼モデルによる温度推定値」と呼ぶ)、燃焼モデルによる温度推定値に対する吸排気モデルによる温度推定値の誤差の補正量、補正後の推定温度、点火時期、自己着火時期、SI率を示している。また、図15は、横軸にクランク角を示しており、クランク角に対する各パラメータの変化を示している。なお、図15では、吸気弁21の閉弁時期(IVC)のみを示しているが、排気弁22の閉弁時期(EVC)もIVCと同様に変化するものである。
図15では、nサイクル目の開始直後に、外乱によって、燃焼モデルによる温度推定値に対する吸排気モデルによる温度推定値の誤差(真値)が50[K]程度変化した場合を例に挙げる。まず、ECU10は、第2の制御モデルによりIVC時点での筒内温度を推定し、吸排気モデルによる温度推定値として400[K]を得る(矢印A41)。そして、エンジン1においてSI−CI燃焼が行われ、この燃焼後に、ECU10は、第3の制御モデルにより、指圧センサSW6によって検知された筒内圧に基づき、当該SI−CI燃焼における自己着火時期θCLでの筒内温度からIVC時点での筒内温度を推定し(矢印A42)、燃焼モデルによる温度推定値として450[K]を得る。この場合、燃焼モデルによる温度推定値に対する吸排気モデルによる温度推定値の誤差はΔ50[K]となる(矢印A43)。そのため、ECU10は、燃焼モデルによる温度推定値に対する吸排気モデルによる温度推定値の誤差の補正量を50[K]とし(矢印A44)、この補正量より吸排気モデルによる推定温度を450[K]に補正する(矢印A45、A46)。この推定温度は目標温度480[K]からずれている。したがって、nサイクル目では、吸排気モデルによる温度推定誤差補正がずれていたため、自己着火時期が目標自己着火時期からずれると共に、SI率も目標SI率からずれる。
次いで、ECU10は、上記した補正後の推定温度が480[K]となるように、第1の制御モデルにより、吸気弁21の目標IVCを補正する(矢印A47)。これにより、nサイクル目の温度推定誤差(変化分)が反映されることとなる。次いで、ECU10は、第2の制御モデルによりIVC時点での筒内温度を推定し、吸排気モデルによる温度推定値として420[K]を得て(矢印A48)、この420[K]を上記した補正量50[K]によって470[K]に補正する(矢印A49、A50)。また、ECU10は、この補正後の推定温度470[K]に基づき、点火時期を補正する(矢印A51)。これにより、今回のn+1サイクル目における吸気状態及び前回のnサイクル目における燃焼結果の両方が反映された点火時期が適用されることとなる。
次いで、エンジン1においてSI−CI燃焼が行われ、この燃焼後に、ECU10は、第3の制御モデルにより、指圧センサSW6によって検知された筒内圧に基づき、当該SI−CI燃焼での自己着火時期θCLでの筒内温度からIVC時点での筒内温度を推定し、燃焼モデルによる温度推定値として470[K]を得る。この場合、吸排気モデルの推定のずれ方は大きく変化しないため、温度推定値の誤差はΔ50[K]のままである(矢印A52)。このようなことから、今回のn+1サイクルでは、正しく温度推定ができていたことになる(矢印A53)。よって、今回のn+1サイクルでは、自己着火時期が目標自己着火時期にほぼ一致することとなる。他方で、今回のn+1サイクルでは、吸気弁21の実IVCが未だ目標IVCからずれているため、SI率は目標SI率から若干ずれたままである。この後、n+2サイクル目において、吸排気モデルによる温度推定誤差が正しく補正されており、補正後の推定温度が目標温度480[K]となるので、吸気弁21の実IVCが目標IVCに達し、SI率が目標SI率にほぼ一致することとなる。
なお、上記したような吸排気モデルによる温度推定誤差の補正のずれは、筒内状態を調整するデバイス(内部EGRを調整する吸排気VVT23、24など)の動作の遅れや、このデバイスが狙い通りに動作していないことが原因で生じ得る。
<作用効果>
次に、上述した実施形態による圧縮自己着火式エンジンの制御装置の主な作用効果について説明する。
本実施形態によれば、エンジン1の運転状態(エンジン負荷など)に基づき、SI率を調整する制御と、自己着火時期及び/又は筒内温度を調整する制御とを行い、SI燃焼及びCI燃焼を含むSI−CI燃焼における燃焼状態を制御する。これにより、所望のSI−CI燃焼を適切に実現することができる。具体的には、SI−CI燃焼でのSI率及び自己着火時期のそれぞれを適切に目標値に設定することができる。その結果、燃費の改善、燃焼安定性確保及び燃焼騒音抑制などを達成することが可能となる。
また、本実施形態によれば、SI−CI燃焼の開始前に筒内温度を調整する制御(内部EGRガスの制御など)を行い、この制御後に燃焼開始前の実際の筒内温度を求めて、当該筒内温度に基づき点火時期を制御することで、SI率を調整する。これにより、各種の状態量設定デバイスの制御ずれ等を考慮してSI率を適切に制御できるようになる。
また、本実施形態によれば、今回の燃焼サイクルにおいてSI率を調整するための各種制御値を、前回の燃焼サイクルにおいて取得した筒内温度に基づき補正するので、SI−CI燃焼における目標SI率を効果的に実現することができ、また、目標自己着火時期にて確実に着火させることができる。具体的には、SI−CI燃焼における過渡的な燃焼状態及び定常的な燃焼状態の両方について、所望の燃焼状態を適切に実現することが可能となる。
<変形例>
以下では、上記した実施形態の変形例について説明する。
上記した実施形態では、吸気弁21の閉弁時期(IVC時点)での筒内温度を用いていたが、この代わりに吸気下死点(BDC時点)での筒内温度を用いて、各種の制御を行ってもよい。
上記した実施形態では、第2の制御モデルにおいて、エアフローセンサSW1によって検知された吸入空気量などから筒内温度を求めていたが、他の例では、指圧センサSW6によって検知された筒内圧から筒内温度を求めてもよい。また、第3の制御モデルにおいて、指圧センサSW6によって検知された筒内圧から筒内温度を求めていたが、他の例では、エアフローセンサSW1によって検知された吸入空気量などから筒内温度を求めてもよい。