《第1実施形態》
以下に、本発明の第1実施形態を図1〜図32に基づいて説明する。図1には、第1実施形態に係る光学検査装置100の概略構成が示されている。
光学検査装置100は、一例として、拡散光トモグラフィー(DOT)に用いられる。DOTは、例えば生体などの被検体(散乱体)に光を照射し、被検体内を伝播した光を検出して、被検体内部の光学特性を推定する技術である。特に、脳内の血流を検出することで、うつ症状の鑑別診断補助やリハビリテーションの補助機器として利用が期待されている。DOTでは、分解能が向上すると、脳の機能を詳細に理解できることから、多くの研究機関で、分解能を向上させる研究が盛んに行われている。
光学検査装置100は、図1に示されるように、複数の発光部を有する光源モジュールLM及び検出モジュールDMを含む光学センサ10、制御部、表示部、計算部などを備えている。制御部は、図38のブロック図に示されるように構成されている。制御部では、中央処理装置A−1からの情報によって、スイッチ部が制御され、発光するLMが選択される。このとき、スイッチ部を介してLMに供給される電流が電流制御部で所望の値に制御される。DMでの検出結果(データ)は、A/D変換され、演算部(A−2)で平均化処理などの演算が行われる。演算部(A−2)での演算結果は、順次記録部(A−3)に記録される。
本明細書中、光源モジュールLM及び検出モジュールDMを、区別しない場合は、プローブとも呼ぶ。また、本明細書では、適宜、擬似生体、生体、被検体の文言を用いるが、擬似生体、生体が被検体の具体例であることに変わりはない。
光学センサ10は、被検体中の吸光体を検出するセンサとして汎用的に利用できるが、最も利用価値が高い被検体は生体である。しかしながら、一般に、光学センサを用いて生体の血流(吸光体)の位置を検出することは必ずしも容易ではなく、被検体を生体とすると、光学センサ10による効果(検出精度)を確認し難い。
そこで、本実施形態では、汎用性をもたせるとともに、検出精度を確認し易い被検体として、水槽に入った白濁液である擬似生体(ファントムとも呼ぶ)を採用している。
以下に、本実施形態の実施例1について説明する。
〈実施例1〉
実施例1では、各発光部からの光線をプリズムによって偏向させて、被検体への入射角を光線間で異ならせる方法を採用している。
ここでは、図2に示されるように、各壁が黒色のアクリル板で構成された水槽の一側壁(+Z側の壁)の8箇所に透明なアクリル板から成る透明窓を設けている。水槽の内部は、イントラリピッド水溶液(イントラリピッド10%濃度を10倍に希釈)で満たされている。すなわち、実施例1で使用する擬似生体は、イントラリピッド水溶液である。
この水槽内に満たされたイントラリピッド水溶液に黒いインクを約20ppm程度となるように滴下して、ほぼ生体と同一の吸収係数及び散乱係数とする。そして、この白濁したイントラリピッド水溶液に血流に模した黒色の吸光体を沈める。吸光体は、黒色のポリアセタールとして、約5mm直径の球体とする。この球体の位置を制御できるように、自動ステージに接続された1mm径の細い金属棒に該球体を固定する。この水槽の各透明窓に、プローブを正確に位置決めして装着する。
ここでは、水槽の容積は、140mm×140mm×60mmである。黒色のアクリル板の厚さは、4mmである。8つの透明窓は、2種類の大きさの円形の透明窓A、Bで構成されている。透明窓A、Bは、4つずつある。透明窓Aの直径は9mm、透明窓Bの直径は12mmである。透明窓A、Bの厚さは、いずれも1.5mmである。
図3には、8つの透明窓のレイアウトが示されている。8つの透明窓は、透明窓A、Bが隣り合うようにX軸方向及びY軸方向に等間隔で格子状に配置されている。ここでは、各透明窓Aには検出モジュールDMが装着され、各透明窓B(B1〜B4)には光源モジュールLMが装着される。隣り合う2つの透明窓の中心間の距離は、30mmである。
光源モジュールLMは、図4に示されるように、レンズ、透明なガラス板(図4では不図示、図6参照)、プリズム、面発光レーザアレイチップが実装されたセラミックパッケージ(不図示)、面発光レーザアレイチップの光量モニタ用の受光素子、該セラミックパッケージやアナログ電子回路が実装されたフレキ基板(不図示)、該フレキ基板に結線されている配線、コネクタ部(不図示)、これらが収容された筐体、被検体と接触する透明樹脂からなる窓部材などを含む。光源モジュールLMでは、面発光レーザアレイチップからの光の光量を上記受光素子でモニタし、適切な光量になるよう制御部にフィードバックする。フィードバックされた情報を電源部(不図示)で適切な電流値で駆動させることで面発光レーザアレイチップの発光部の光量を一定に保つことができる。光源モジュールLMは、被検体(透明窓B)に窓部材が+Z側から接触された状態で装着される。
検出モジュールDMは、図5に示されるように、黒い樹脂製の筐体、該筐体の先端(−Z側の端)に取り付けられた弾性体からなる接触部材、筐体に収容された直径3mmの半球レンズ(分割レンズ)及び4分割PDアレイ(4つのフォトダイオード(PD)がアレイ状に配列されたもの)を含んで構成されている。筐体の先端及び接触部材には、アパーチャ(開口)が形成されている。検出モジュールDMは、被検体(透明窓A)に接触部材が+Z側から接触された状態で装着される。なお、図5には、4つのPD(受光部)のうち2つのみが図示されている。
分割レンズは、アパーチャの+Z側近傍に配置されている。そこで、光源モジュールLMから被検体に照射され該被検体内を伝播した光は、アパーチャを介して分割レンズに入射し、該分割レンズへの入射位置及び入射方向に応じた方向に屈折され出射される(図5参照)。
4分割PDアレイは、分割レンズの+Z側に配置されている。そこで、分割レンズを介した光は、その進行方向(分割レンズからの出射方向)に応じて4分割PDアレイの4つの受光部(PD)のいずれかに入射する。このようにして、検出モジュールDMでは、被検体から入射された光の入射角度を4つの角度範囲に分類できる。
制御部は、各透明窓Aに装着された検出モジュールDMの4つのPD(受光部)の受光量(計16個のPDの受光量)を検出し、オペアンプにて電圧に変換して、記録部に記録する。データはサンプリングレートを1msecで検出し、20sec計測した数値を平均化する。1回の測定では16個のPDのデータを取得する。
次に、光源モジュールLMについて詳細に説明する。光源モジュールLMの光源には、40chの面発光レーザアレイチップ、すなわち発光部としてのVCSEL(面発光レーザ)を40個有する面発光レーザアレイチップが採用されている。
この面発光レーザアレイチップからの光の光路上には、該光を略平行光とする直径3mmのレンズが配置されている(図6参照)。面発光レーザアレイチップの出射面(発光面)とレンズの主点(レンズの光学的な中心)との距離は、該レンズの焦点距離f(例えば9mm)に等しく設定されている。すなわち、面発光レーザアレイチップは、出射面がレンズの焦点位置に位置するように配置されている。なお、「レンズの焦点距離」は、レンズの主点と焦点との距離である。
ここでは、面発光レーザアレイチップの40chを同時に点灯する。面発光レーザアレイチップから出射された複数(ここでは40)の光それぞれは、レンズを透過し、該レンズとプリズムの反射面との間にZ軸に対して傾斜して配置されている透明なガラス板で一部(例えば5%〜50%、好ましくは10%程度)が反射され光量モニタ用の受光素子に導かれ、残部がガラス板を透過しプリズムで被検体に向けて偏向(反射)される(図6参照)。そして、制御部は、この受光素子を用いて面発光レーザアレイチップの光量をモニタし、面発光レーザアレイチップの総出力が所望の出力(例えば50mW程度)となるよう調整する。すなわち、面発光レーザアレイチップがAPC(オートパワーコントロール)制御される。なお、光量モニタ用の受光素子の具体例としては、例えばフォトダイオード、フォトトランジスタ等が挙げられる。
プリズムとしては、上記アクリル製の水槽と屈折率が同等のアクリル製のものが採用されている。プリズムの反射面は、該プリズムの径に合わせて設計され、該反射面の角度は、レンズを介した光が上記アクリル製の水槽に入射角50°程度で入射するように設定されている。
水槽及びプリズムのアクリルと、ファントム(イントラリピッド水溶液)との屈折率差は、スネルの法則によってファントム内での伝播角度が約60°(図6中のθ1)になるように設定されている。プリズムは、水槽内壁に設けられたZ軸方向に延びる回転軸の周りに回転可能な回転ステージ(不図示)に取り付けられている。
この回転ステージ及びプリズムを一緒に回転させることで、該プリズムへの光の入射角、方位を変えることが可能となる。ここでは、図7に示されるように、+X、−X、+Y、−Yの4方位の計測を順次行うこととした。すなわち、4つの光源モジュールLMの位置(B1〜B4の4箇所)と4方位で4×4の16回の計測を行うことになる。プリズムと水槽との間には、これらと屈折率が同等のジェル状の樹脂(図示せず)が充填されている。これにより、プリズムと水槽との間での屈折や反射を防止できる。
次に、被検体内の情報の計測方法について、図8に示されるフローチャートを参照して説明する。
まず、はじめにプローブをセッティングする(ステップT1)。プローブとは、前述の如く検出モジュールDM及び光源モジュールLMを意味する。ここでのセッティング対象のプローブは、4つの検出モジュールDMと1つの光源モジュールLMである。4つの検出モジュールDMは、図3に示される直径9mmの4つの透明窓Aに個別に装着される。1つの光源モジュールLMは、図3に示される透明窓B1に装着される。
次に、光源モジュールLMでは、光量モニタ用の受光素子を用いて面発光レーザアレイチップの総出力(40chの発光強度の合計)が50mW程度になるように、電流値が設定される(ステップT1.5)。その後、光源モジュールLMの40個のch(発光部)を同時に発光させる(ステップT2)。また、測定中は光量モニタ用の受光素子で常に一定の光量になるようにリアルタイムでフィードバックされる。これにより、面発光レーザアレイチップの自己発熱による光量ばらつきを抑制でき、測定系のS/N比が向上し、高精度なNIRS測定が可能になり、高分解能化に繋がる。
発光時間は20sec程度であり、その間、4つの検出モジュールDMのPDの検出値を読み取り(ステップT3)、1msec間隔で検出した数点のデータ(検出値)を平均化する。そして、平均化された検出値、すなわち検出値の平均値を記録部に格納する(ステップT4)。
ここで、計測は、+X方向、+Y方向、−X方向、−Y方向の4方位について行われる(ステップT5、T6)。具体的には、ステップT1の直後のステップT1.5〜T4は、プリズムを+X方向に配置した状態で行う。次いで、プリズムを回転させて、+Y方向とする(ステップT6)。この状態でステップT1.5〜T4を行う。次いで、プリズムを回転させて、−X方向とする(ステップT6)。この状態でステップT1.5〜T4を行う。次いで、プリズムを回転させて、−Y方向とする(ステップT6)。この状態でステップT1.5〜T4を行う。
次に、光源モジュールLMの装着位置を透明窓B1からB2、B3、B4に順次変更して、再度4方位の計測を行う(ステップT7、T8)。その後、吸光体の位置を移動させて、再度4方位、光源モジュールLMの4つの装着位置での計測を行う(ステップT9、T10)。
格納されたデータは、それぞれ吸光体あり、なしのデータを以下のr(s,i,n)(i=1,2,3・・・M、n=1,2,3・・・K))、r(0,i,n)(i=1,2,3・・・M、n=1,2,3・・・K)とする。iはそれぞれの検出モジュールDMに付された番号である。nはそれぞれのグループに付された番号である。次にそれぞれの差分Δr(i,n)を計算する。
以下に、図8のフローチャートに基づく上記計測方法で得られた計測結果から吸光体の位置(擬似生体の光学特性)を算出する方法について説明する。ここでは、逆問題推定アルゴリズムを利用する。逆問題を解く際には、まずは、計測、シミュレーションを行い、順問題にて、感度分布を作製する。そして、次の計測を行ったデータを取り込み、その値から逆問題推定を行う(図9のステップS21〜S25参照)。図39には、計算部のブロック図が示されている。先のモンテカルロシミュレーションに利用する各モジュール(プローブ)の位置や生体の屈折率、形状などの情報は記録部(B−1)に記録されている。この情報を元に先の順問題を行う。この計算には並列計算ができるGPU(マルチグラフィックスプロセッサ)を利用する。この利用により従来の計算速度に比べ飛躍的に早く計算ができる。計算によって得られた感度分布を再度記録部(B−1)に格納する。この計算結果と記録部(A−3)に格納されている計測結果を中央処理装置(B−3)に入力して、該中央処理装置(B−3)において逆問題推定を行う。推定結果は中央処理装置(A−1)を介して表示部に表示される(図38参照)。
ところで、従来、順問題計算の際、生体などの散乱体の中では、光は、ほぼ等方的に散乱すると考えられてきた。このため、計算量が少ない拡散方程式を利用したシミュレーションが利用されてきた。しかし、近年の学会などでも、mm単位の微細なエリアでは、生体内での光伝播は、異方性を有していることが報告がされている。この異方性を反映したシミュレーションを行うためには、輸送方程式を利用するかモンテカルロシミュレーションを行う必要がある。
本実施形態では、光源からの出射光を偏向して被検体へ入射させているので、一般的に利用されている拡散方程式では、入射角の情報を反映することができない。輸送方程式を利用する方法が提案されているが、この計算には膨大な時間がかかることが知られている。
そこで、本実施形態では、モンテカルロシミュレーションが採用されている。モンテカルロシミュレーションは、フォトンが散乱媒質のなかで、散乱していく条件を、ランダム変数によって、確率的に表現し、そのマクロ的な振る舞いを観察する手法である。具体的には、フォトンが媒質を移動し、ある距離進むたびに、衝突し、その衝突によって方向性を変えていくようにモデル化する。このときのある距離の平均値が平均自由行程であり、散乱係数で定義され、方向の変化が異方性gによって定義されている。この衝突を繰り返し、定義されたエリア内をどのように伝播していくかを記録する。このようにモデル化されたフォトンを無数に計算することで散乱媒質の光の振る舞いをシミュレーションすることができる。モンテカルロシミュレーションによって、1つのフォトンがどのような経路で拡散していくかを記録する。
本実施形態におけるモンテカルロシミュレーションでは、フォトン数は109個、ボクセルを1mm立方体として、120mm×120mm×60mmの3次元エリアの計算を行う。ここでは、散乱媒質の散乱係数、吸収係数、異方性、屈折率をそれぞれ頭皮とほぼ同等の数値である7.8mm−1、0.019mm−1、0.89、1.37とする。この数値に合うように、前述したファントム(イントラリピッド水溶液)を調合し、光源モジュールLM、伝播角、検出モジュールDMの位置など全てファントムと同じ状況でシミュレーションし、感度分布を算出する。
このとき、ボクセルの位置rに関して、通過したフォトン数をφ0(r)とする。特に、光源モジュールLMの位置をrsとしたとき、ボクセルの位置rでのフォトン通過数をφ0(rs、r)とする。次に、検出モジュールDMを配置していた位置に光源モジュールLMを配置して、再度、同数のフォトン数を計算する。検出モジュールDMをrdに設置していた場合には、ボクセルの位置rでのフォトン通過数をφ0(r、rd)とする。
光の経路は、可逆であるため、この積は、ボクセルの位置rを通過して、光源モジュールLMから出射して、検出モジュールDMに入ったフォトン数に比例する。この積を検出モジュールDMに入る全てのフォトン数φ0(rs、rd)で規格化したものが次の感度分布A(r)となる。
この感度分布A(r)は、位置rにおける検出量への影響度を示す。ボクセルの位置rに吸光体が発生したときに、その発生によって、どの程度検出値が変化するかを示す。
上述のようにして算出された感度分布の一例が、図10に示されている。ここでは、光源モジュールLM、検出モジュールDMをそれぞれ、(X,Y,Z)=(45、60、0)、(X,Y,Z)=(75、60、0)に配置した。ボクセルは1mmの立方体なので、これらの数値の単位mmと等価である。各位置でのボクセルの感度は底を10とした対数(常用対数)で示している。
次に、図10から、ボクセル(x、y、z)で、Y=60、Z=10のラインを、抜き出して感度を縦軸、横軸をx位置としてプロットした結果が図11に示されている。このとき、伝播角として、Y軸を法線とした平面上におけるX軸に対する角度を+60°とした場合と−60°とした場合の結果が図12に示されている。
図11に示されるように、+60°と−60°とでは、感度分布に相違が出ている。この相違が、分解能向上が可能となるかの指針となる。つまりは、この感度分布に相違が出ることは、2つの光源からの光の伝播経路が異なることを示している。もし同じ伝播経路であれば、伝播角を変えても、ほぼ同じ感度分布となるはずである。2つの光源からの光の伝播経路が違うことで、2つの光源からの光がそれぞれ異なる情報を収集していることになる。
これは、後述する逆問題推定に対して大きな価値を生み出している。先に述べたように光の伝播が単純な等方散乱ではなく、数mmオーダーでは若干の異方性を有していることを示している。この数mmオーダーでの相違が、数mmオーダーの分解能を有する逆問題推定を実現する要因となっていると考えられる。この感度分布は、ファントムで実施される全ての光源モジュールLM/検出モジュールDM対に対して、全ての伝播角/検出角の条件で実施する。
次に、この感度分布を利用して、逆問題推定を行う。
吸光体の存在によっておきる吸収係数の変化δμa(r)が十分小さいと仮定するとRetovの近似によって、以下の式が成り立つ。
νは媒質中の光の速さ、Sは単位時間当たりに光源モジュールLMから出る光の量、rsは光源モジュールLMの位置、rdは検出モジュールDMの位置、φ(rs、rd)は光源モジュールLMから出た光が検出モジュールDMに届く光量を表し、φ0は吸光体のない状態での光の強度を示している。この式が意味しているのは、吸光体のない状態での光の強度φ0が与えられれば、吸光体の存在によっておきる吸収係数の変化δμa(r)と観測値logφ(rs、rd)とを線形の関係に結びつけることができるということである。
このことを簡単に記述すると、以下の式となる。
Y=A(r)X
ここで、Yは吸光体の存在有無による観測値の変化であり、Xはボクセルの位置rでの吸収係数変化をしめす。このA(r)は感度分布である。上記の式では、Xで表現している吸光体の位置や量の変化を与えることで、観測値Yがどのように変化するかがわかる。
逆問題推定では、この逆を行い、つまりは観測値Yを利用して吸光体の位置Xを推定する。先の位置計測方法で説明したように、吸光体の有無による変化をΔr(i,n)として計測している。このΔr(i,n)が観測値Yとなり、これよりXを算出する。
一般的には、L2ノルム正則化という逆問題の推定手法を利用する。この手法では、以下に示すコスト関数Cを最小にするXを算出する。
ここでYは観測値、Aは感度分布、λは正則化係数である。逆問題推定ではこのような手法が一般的であるが、本実施形態では、深さ方向も検出できるベイズ推定による逆問題推定を行う。このベイズ推定による逆問題推定については、次の非特許文献:T.Shimokawa, T.Kosaka, O.Yamashita, N.Hiroe, T.Amita, Y.Inoue, and M.Sato, "Hierarchical Bayesian estimation improves depth accuracy and spatial resolution of diffuse optical tomography," Opt. Express *20*,20427-20446 (2012) に詳細に記載されている。
この結果、図13(B)に示されるような推定結果を導くことができる。図13(A)は吸光体の位置を示している。図13(B)のグリッドは3mmであり、3mmの精度で実際の位置と一致することが判った。
比較例として、4方位あるうちの1方位のみを利用し、検出した結果が図13(C)に示されている。この比較例は、従来のNIRS(DOT)装置とほぼ同様の構成とである。比較例では、深さ方向の検出は不可能であり、かつ検出結果も非常に広がってしまう。実施例1では、上記ベイズ推定により、吸光体の位置と深さを検出することが可能となる。
また、吸光体の位置を変えて(図14(A)参照)、推定を行った結果(推定結果)が図14(B)に示されている。この場合も吸光体の実際の位置を正確に推定できていることが判る。実施例1の方法により、吸光体の位置を高い分解能で検出することが可能となる。これに対し、比較例では、図14(C)に示されるようにかなり広がった吸光体となっており、該吸光体の位置を正確に検出することができない。
また、実施例1では、光量モニタ用の受光素子を用いて面発光レーザアレイチップの光量を常に一定に保つことができるため、モニタ用の受光素子がない場合に比べて、より高い分解能で検出できるようになる。これまでは、事前に光量のキャリブレーションを行い、所望の光量になる電流値を事前に測定し、電流値を一定にして測定していた。しかし、レーザ自身の発熱の影響で時間とともに光量が不安定になり、分解能が低下していた。実施例1では、先にも述べたようにプローブセッティング後に光量を調整し、また光量をモニタし、常に一定光量になるよう電流値を設定することが可能になる。
以下に、本実施形態の実施例2について説明する。なお、実施例2の説明においては、適宜、実施例1にも関連する説明を行う。
〈実施例2〉
先ず、透明なアクリル製の水槽に注入されたイントラリピッド水溶液(イントラリピッド10%濃度を10倍に希釈)に、黒いインクを約200ppm程度となるように滴下し、ほぼ生体と同一の吸収係数及び散乱係数とする。この白濁したイントラリピッド水溶液に、血流に模した黒色の吸光体を沈める。吸光体は、例えば黒色で直径約5mmのポリアセタールの球体とする。この球体の位置を制御できるように自動ステージに接続された1mm径の細い金属棒に該球体を固定する。この水槽の側面、後述するプローブの位置を正確に決めて設置(装着)する。ここでは、上記アクリル製の水槽は、例えば140mm×140mm×60mmの容積で壁の厚さ1mmの直方体形状の水槽である。
光学センサ10は、複数(例えば8つ)の光源モジュールLMを含む照射系と、複数(例えば8つ)の検出モジュールDMを含む検出系と、を備えている。複数の光源モジュールLM及び複数の検出モジュールDMは、それぞれ制御部に対して電気配線を介して接続されている。
制御部は、各光源モジュールLMにおける光源の発光タイミングや各検出モジュールDMでの検出タイミングを制御して、得られた検出結果を記録部に転送する。また、制御部は、記録部に記録されているデータを読み取り、その数値を利用した計算を行い、その計算結果を表示部に表示させる制御を行う。
図15に示されるように、8つの光源モジュールLM及び8つの検出モジュールDMは、一例として、擬似生体(不図示)に対して、互いに直交するX方向及びY方向のいずれに関しても光源モジュールLMと検出モジュールDMとが隣り合うようにX方向及びY方向に等ピッチaでマトリクス状(2次元格子状)に配置される。図15では、LMは四角印で示され、DMは丸印で示されている。
光源モジュールLMは、図16に示されるように、例えばレンズ、透明なガラス板、プリズム等の光学素子、複数の面発光レーザアレイチップが実装されたセラミックパッケージ(不図示)、面発光レーザアレイチップの光量モニタ用の受光素子(−Y方向に実装されているため不図示)、該セラミックパッケージやアナログ電子回路が実装されたフレキ基板(不図示)、該フレキ基板に結線されている配線、コネクタ部(不図示)、これらが収容された筐体、被検体と接触する透明樹脂からなる窓部材などを含む。
面発光レーザアレイチップの各面発光レーザ(VCSEL)の発振波長は、一例として780nm又は900nmである。この波長は血液中の酸素濃度で吸収係数が大きく変わることから選定している。光源モジュールLMでは、図16に示されるように、発振波長が900nmの面発光レーザアレイチップ1及び発振波長が780nmの面発光レーザアレイチップ2が並列に配置され、面発光レーザアレイチップ1の出射端近傍にレンズ1が配置され、面発光レーザアレイチップ2の出射端近傍にレンズ2が配置されている。各面発光レーザをch(チャンネル)とも称する。
各面発光レーザアレイチップからの光は、対応するレンズで屈折され、反射部材としてのプリズムで所望の角度に偏向され、筐体外に出射される。2つのレンズ1、2とプリズムとの間には、透明なガラス板が面発光レーザアレイチップ1、2の出射方向(Z軸方向)に対して傾斜して設置されており、各面発光レーザアレイチップからの光の一部、例えば各波長の光を10%ほど反射させ、光量モニタ用の受光素子に導く。一方、各面発光レーザアレイチップからのガラス板を透過した光がプリズムで偏向され、筐体外に出射されることになる。
ここでは、ガラス板での反射率を一例として10%としたが、これに限定されるものではない。ただし、被検体に所望の光量を導入するため、および高精度で光量制御を行うためには、5〜50%程度の反射率であることが望ましい。
面発光レーザアレイチップは、図17に示されるように、一辺が約1mmの正方形状であり、2次元配置された複数(例えば20個)の面発光レーザを含む。
詳述すると、各面発光レーザアレイチップは、4つの面発光レーザをそれぞれが含む5つのグループ(ch群)を有している。ここでは、5つのグループのうち4つのグループの中心は、正方形の4つの頂点に個別に位置し、残りの1つのグループの中心は、該正方形の中心に位置している。
各グループの4つのchは、上述の如くセラミックパッケージに実装され、ボンディングワイヤ(配線)を介して同一の電極パッド(電極パッド1〜4のいずれか)に接続されている。
セラミックパッケージは、フレキ基板の配線パターンに半田付けによって実装されている。フレキ基板には、スイッチング用の半導体や電流安定化用の半導体が配置されている。
スイッチング用の半導体により、面発光レーザアレイチップのどのchを発光させるかが制御される。スイッチング用半導体は、外部のシリアル信号によって、選択されたchを発光させる。このシリアル信号用の信号線の一端、電源供給線の一端は、フレキ基板に接続され、該信号線の他端、電源供給線の他端は、制御部に接続されている。
各chの発光光量は、光量モニタ用の受光素子を用いて常に一定の光量になるよう調整される。通常の使用方法では、5グループの発光を順次、短パルスで発光させる。このようなパルス発光は、発熱による温度上昇が避けられて、発光光量の安定化に適している。短パルスの発光をするたびに得られる検出モジュールでの検出値を積算して、平均化を取ることでノイズに強い検出となる。
以下に、光学センサ10の光源として面発光レーザアレイチップを採用した理由を説明する。面発光レーザアレイチップでは、複数のchを近接した位置に2次元に配列することができ、各chを独立に発光制御できる。そして、chの近傍に小型のレンズを設置することで出射光の進行方向を変えることができる。
また、DOTに用いられる光学センサでは、被検体への入射角をできるだけ精度良く制御することが求められる。一般的なLED(発光ダイオード)は放射角が広いため、精度の良い平行光にするには、レンズを非球面にする必要がある。また、一般的なLD(端面発光レーザ)は放射角が非対称であり、レンズで精度の良い平行光をつくるには、曲率が縦と横とで異なるレンズやシリンドリカルレンズを2枚組み合わせる必要があり、構成が複雑になり、実装も高精度なものが必要となる。
これに対し、面発光レーザはほぼ真円状のファーフィールドパターンを有しており、平行光を作るにも、球面レンズを1つ配置すれば良い。また、LDから出射されるコヒーレントな光を利用する場合、被検体(散乱体)の中では、散乱光同士が干渉するスペックルが発生する。このスペックルパターンは、計測にノイズとして悪影響を与える。
DOTのように脳内の血流を見る場合には、その散乱回数が非常に多いので、それほど影響はない。しかし、皮膚表面で反射される光が、光源に直接戻ってくる戻り光の影響がある。戻り光は、LD内部の発振状態を不安定にして、安定動作ができなくなる。光ディスクなどでも、コヒーレントな光を安定的に利用する際には、正反射光が戻り光にならないように波長板などを利用している。しかし、散乱体に対する反射光の戻り光除去は難しい。
面発光レーザアレイチップの場合には、微小エリアに複数の光を同時に照射することが可能であり、その戻り光干渉を低下することが可能である(例えば特開2012−127937号公報参照)。
本実施形態(実施例1及び2)では、面発光レーザアレイチップからの光の光路上に凸面レンズ(単に「レンズ」とも称する)が配置されている(図18参照)。
この凸面レンズの直径は1mmであり、該凸面レンズの有効径εは600umである。凸面レンズの焦点距離fは、600umである。面発光レーザアレイチップは1mm角のチップであり、該面発光レーザアレイチップ内で最も離れた2つのchの中心間距離dmaxは600umである。このようにdmaxとεとを一致させることで、凸面レンズの直径を最小にすることができる
ここで、凸面レンズと面発光レーザアレイチップは、凸面レンズの主点(光学的な中心)と面発光レーザアレイチップの発光面(出射面)との凸面レンズの光軸方向の距離Lが例えば300umになるように位置決めされている。すなわち、f≠Lとなっている。
この場合、面発光レーザアレイチップから出射され凸面レンズを透過した光がプリズムなどで正反射され、該凸面レンズで面発光レーザアレイチップに集光される現象(戻り光現象)を回避することができる。このように、戻り光が発生しないため、面発光レーザアレイチップの各chの発光光量を安定化することが可能となる。
但し、戻り光の影響を考慮しない場合(NIRSに高分解能を求めない場合)には、f=Lであっても構わない。
また、図19に示されるように、凸面レンズと面発光レーザアレイチップとの間は透明樹脂で満たされ、空気層が介在しないようにされている。透明樹脂としては、屈折率が凸面レンズと同等の樹脂(例えば熱硬化型のエポキシ系の樹脂)が用いられている。すなわち、凸面レンズと面発光レーザアレイチップとの間の各界面を境に屈折率が変化しない。透明樹脂は、凸面レンズの固定前に金型で成形しても良いし、凸面レンズを固定後、注入しても良い。
このように、凸面レンズと面発光レーザアレイチップとの間が透明樹脂で満たされることにより、面発光レーザアレイチップから出射された光が凸面レンズの面発光レーザアレイチップ側の表面で反射すること、すなわち戻り光の発生を防止できる。戻り光が発生しないため、各chの発光光量を安定化することが可能となる。各chの光量が安定すれば、測定系のS/N(シグナル/ノイズ)比が良好になり、高精度なNIRS測定及び高い分解能を実現できる。
凸面レンズは、図20に示されるように、面発光レーザアレイチップが実装されたパッケージにサブマウントを介して固定されている。面発光レーザアレイチップは、チップ上の電極(チップ電極)がパッケージ上のPKG電極にワイヤーによって電気的に接続される。ワイヤーは、高さ数10um程度となるため、サブマウントと干渉しないように設計される。凸面レンズの固定位置L(面発光レーザアレイチップの発光面と凸面レンズの主点との距離)は、このワイヤーの高さの制約を受ける。つまりは、ワイヤーを利用する場合には、サブマウントを回避する構造にしたり、ワイヤーの高さを100um以下にすることが必要となる。すなわち、−100um<f−L<0が成立することが好ましい。但し、図20では、図19に示される透明樹脂の図示が省略されている。
面発光レーザの出射面から出射される光は、ほぼ円形であり、その発散角は半値幅で5度程度である。一般的なLDのビームが楕円形であるので、回転方向の設置誤差を考慮する必要があるが、面発光レーザはそれを考慮する必要がないメリットがある。また、円形であるため、逆問題を解く際に利用する光学シミュレーションをするにも、対称性を利用した近似などがしやすいメリットがある。
面発光レーザから出射されたビームは近傍に配置された凸面レンズによって屈折される。その屈折角は面発光レーザとレンズ中心(レンズの光軸)との相対位置によって決定される。そこで、面発光レーザアレイチップの各グループの位置とレンズの位置を適切に設定することで、所望の屈折角を得ることができる。
実施例2では、この屈折角が20度程度になるようにchと凸面レンズの光軸との相対位置が設定されている。面発光レーザアレイチップでは、各chは独立に発光制御できるので、発光させるchを選択することで、光源モジュールLMから出射される光の方向を変えることができる。
図21には、光学シミュレータで光学設計した光線図の一例が示されている。ここでは、面発光レーザアレイチップを模した3つのch(光源)、及び該3つのchの近傍に直径1mm、f=600umのレンズを配置している。3つのchのうち1つのchは、レンズの光軸上に配置され、他の2つのchは、レンズの光軸の一側及び他側に個別に配置されている。光軸上のch以外のchからの光はレンズで屈折され、伝播方向(進路)が曲げられる。すなわち、光軸上のch以外の2つのchからの2つの光は、レンズの光軸に対して約20度の角度で該光軸に対して互いに逆方向に出射されることになる。
ここでは、光源モジュールLMは、被検体への光の入射角が約55度になるように設計されている。具体的には、光源モジュールLMは、図16に示されるように、凸面レンズからその光軸に対して約20度傾斜した方向に出射された複数の光を複数のプリズムによって個別に偏向することで、該複数の光それぞれのレンズの光軸に対する角度を約20度から約55度に変換し、被検体の表面に入射するように設計されている。
なお、プリズムは、光を反射するものであれば良く、例えば金属膜が成膜されたガラス基板を用いてもよい。また、例えば、屈折率差によって起きる全反射現象を利用したプリズムを採用しても良い。その一例を図22に示す。VCSELから出射された光線は、凸面レンズで屈折した後、一部が凸面レンズとプリズムとの間のガラス板で光量モニタ用の受光素子に向けて反射され、残部が該ガラス板を透過しプリズムに入射する。このガラス板は、光が入射される側に反射コートが施されており、例えば各波長の光を10%ほど反射させ、光量モニタ用の受光素子に導く。
また、ここでは、図22に示されるように筐体の−Y側の内壁に受光素子が実装されているが、受光素子の実装位置はこれに限定されるものではない。ここでは、反射率を一例として10%としたが、これに限定されるものではない。ただし、被検体に所望の光量を導入するため、および高精度で光量制御を行うためには、5〜50%程度の反射率であることが望ましい。
ここでは、プリズムの材料はBK7とされているが、一般的な光学材料でも良い。プリズムに入射した光は、プリズム側面(反射面)で全反射され、被検体に約55°の入射角で入射される。すなわち、凸面レンズを介した光は、被検体への光の入射角が55°程度になるようにプリズムで偏向される。この際に、プリズムと被検体との界面での光の散乱を防止するために、プリズムと被検体との間に透明のジェルが介在されている。ここでも、面発光レーザアレイチップからの複数の光は、凸面レンズで非平行の複数の光とされ、プリズムで反射され、被検体に入射される。結果として、非平行な複数の略平行光が被検体の同一位置に入射される(図22参照)。
プリズムと被検体との屈折率差によるスネルの法則によって、光線の被検体内における伝播角度が約55°から約60°に変わる。
凸面レンズ及びプリズムを含む光学系では、面発光レーザアレイチップの各chの位置が互いに異なることを利用して、被検体内での光の伝播角度を設定することができる。ここでは、各ch(VCSEL)の中心を凸面レンズの光軸から200um程度ずらすことで、該chから出射された光を被検体内での伝播角度を60°程度に設定できている。この際、複数のchから出射された複数の光は、凸面レンズの出射面の異なる複数位置から非平行な複数の略平行光として出射される。
図23には、比較例として、レンズを焦点距離f=600umに対し、固定位置をL=1.6mmとしたときの光学シミュレーションの結果が示されている。Lとfとの差が1mm以上になると、図23のようにビームが大きく広がってしまう。このようにビームが広がる場合、被検体の入射面を大きくする必要がある。しかし、実際にNIRSとして実用的な大きさとしてはφ2mm程度が限界である。この制約は、人間の毛根の間隔が2mm程度であり、これ以上大きい面積では、光学上、髪の毛が邪魔になってしまい高い分解能のNIRSを実現できない。つまりは、fとLとの差は1mm未満であることが望ましい。
図16に示されるレンズ1、2は、設計した位置に正確に安定して配置されるように、面発光レーザアレイチップが実装されているセラミックパッケージに直接固定されている。
図21では、レンズの凸面が面発光レーザ側に向けられているが、その逆でも構わない。図21に示されるように、レンズの凸面が面発光レーザ側を向き、レンズの平面部分が被検体側を向くように配置することで、面発光レーザチップとレンズとの距離を長くとることができる。チップ実装のプロセス上では、実装する際に部品をピックアップするアームや部品同士が干渉するのを防ぐために、ある程度許容距離が長い方が好ましい。
レンズは光を屈折させる光学部品であれば良く、光ファイバの屈折率分布を利用したGRIN(Gradient Index)レンズのようなものを利用してもよい。GRINレンズを用いることで、球面レンズを利用するよりも、一般的に球面収差が小さく、低コストでf値の小さいものを選択できるメリットがある。
実施例2では、レンズの中心よりもレンズの端部に光を入射させるため、球面収差が小さい方が望ましい。
以上の説明から分かるように、光源モジュールLMからは、互いに非平行な複数の光が出射される(図16、図22参照)。
そして、光源モジュールLMからの互いに非平行な複数の光は、被検体の同一位置に入射する(図16、図22参照)。
この「同一位置」は、例えば光源モジュールLMが約60mm間隔で配置されている場合に、その60mmに対して同一の位置を意味しており、互いに数mm程度離れた複数位置も同一位置と言って差し支えない。つまり、「同一位置」の「同一」は、厳密な意味での同一ではなく、「ほぼ同一」もしくは「概ね同一」と言い換えても良い。
後に逆問題を解くアルゴリズムを説明するが、その際に光源モジュールLMの位置を設定した光学シミュレーションを行う。この光学シミュレーションを行う際に、被検体への入射位置のずれを正確に設定することで、逆問題の推定には誤差を生じない。これは発振波長が異なる複数のchを有する面発光レーザアレイチップにおいても同様であり、発振波長が異なる複数のchからの複数の光の入射位置が数mmずれていても、該複数の光の入射位置は、同一位置と言って差し支えない。
ただし、例えば特許文献1のように、プローブ位置を10mm以上ずらして、高密度にプローブを配置するには、複数の光源モジュールを独立に配置する必要がある。この複数の光源モジュールを配置する作業は毛髪を一本一本かき分けて行う煩雑な装着作業であり、光源モジュールの増加本数分多く発生してしまう。
本実施形態では、後に詳述するように、1つの光源モジュールLMを配置するだけで、複数の光源モジュールを配置したときと同等の情報量を得ることができ、煩雑な作業を増やすことなく、特許文献1のような高密度プローブで実現されている高分解能検出が可能となっている。
また、図24(A)に示される、生体に互いに平行な複数の光を入射させる比較例の光源モジュールでは、生体の表面付近に変質部分がある場合、検出誤差が生じてしまう。「変質部分」とは光学特性が特殊な部分を意味し、例えば毛根や着色した皮膚などがそれにあたる。このような変質部分があると、比較例では、光源1、光源2からの光が被検体の異なる位置に入射するため、例えば光源2からの光のみが変質部分を通過するようなケースが発生する。光源1と光源2の差分を計算する際には、この変質部分がノイズとなってしまう。
これに対し、本実施形態では、図24(B)に示されるように、光源1、光源2からの光は、皮膚表面の「同一位置」を通過するため、光源1、光源2の一方からの光が変質部分を通過するときは、他方からの光も該変質部分を通過する。また、光源1、光源2の一方からの光が変質部分を通過しないときは、他方からの光も該変質部分を通過しない。詳述すると、光源1、光源2からの光は、皮膚表面近傍では同一光路であり、深さ方向に異なる光路を通過する。すなわち、皮膚表面近傍での相違には鈍感であるが、脳組織近傍では相違に敏感な構成となっている。皮膚表面付近のノイズを小さくすることで、分解能が向上する。「同一位置」という意味合いは、上記記載のように、数mmのずれを許容するものである。
また、実施例2では、筐体に設けられた窓部材に透明なジェルを滴下し、窓部材と被検体表面との間に透明なジェルを介在させ、空気が入らないようにする。
従来の光源モジュールでは、空気中に一旦放射された光が皮膚表面から体内に伝播していく。このとき、空気中の屈折率1.0と生体の屈折率1.37との間で、屈折率差が生じてしまう。屈折率差が生じることで、反射及び散乱が起きてしまう。また、生体外の空気に比べ、光が伝播する生体内の屈折率が小さいため、入射角に対して生体内の伝播角(生体内伝播角とも呼ぶ)は小さくなってしまう。界面での光の屈折はスネルの式を利用すると理解できる。このスネルの式は屈折率のみで記述できる。
図25は、屈折率、1.0(空気:入射側)と1.37(生体:伝播側)との界面での入射角と生体内伝播角度との関係(光の屈折)がグラフで示されている。図25から分かるように、生体への光の入射角は60°であっても、生体内での光の伝播角は40°と小さくなってしまう。このため、生体内での光の伝播角が仮に60°以上必要であっても、空気中からの光の入射では実現できないことがわかる。つまりは、一旦空気に放出された光で生体内における大きな伝播角を作ることは難しい。
そこで、実施例2では、光源モジュールLMの窓部材の材料である透明樹脂の屈折率が、生体の屈折率1.37よりも大きい屈折率(例えば1.5以上)に設定されている(図26参照)。この場合、光源モジュールLMから入射角60°で直接的に生体に入射された光の生体での伝播角は70度を越える。光源モジュールLMの設計を考える際には、この角度をできるだけ小さくした方が、光源モジュールLMを小型化できるなどのメリットがある。
以上のように構成される実施例2の光源モジュールLMでは、図16に示されるように、面発光レーザからレンズの光軸に平行な方向に出射された光は、レンズで屈折され、レンズの光軸に対して約20°傾斜する方向に進行し、窓部材に入射する。この窓部材は屈折率1.5程度に設定されている。レンズを介した光は、窓部材に入射するときに屈折するが、入射角度が深いため、大きな屈折ではない。窓部材に入射した光は、プリズムの反射面で偏向され、レンズの光軸に対して約55°傾斜する方向に進行する。この55°の角度は、屈折率1.5の窓部材の中での角度であり、図26に示されるように、生体内(屈折率1.37)での伝播角は約60°となる。
光源モジュールLMから光が直接的に擬似生体内に伝播するためには、擬似生体と光源モジュールLMの界面に入る空気層を除去する必要がある。この空気層の除去のために、ここでは透明なジェルを利用した。ここで用いた透明なジェルはグリセリン水溶液であり、疑似生体との整合性が良いものを選択した。また、透明なジェルは揮発性を調整し、検査中、すなわち光源モジュールLMに蓋がされている間は蒸発することなく、検査終了後は適当なタイミングで揮発もしくは疑似生体にしみこむように調整した。透明なジェルの光学特性は、波長780nm付近では透明で、屈折率を疑似生体表面に近いものに調整する。ここでは1.37程度となるように調合した。この調合によって、擬似生体表面に凹凸があろうとも、その凹凸表面の屈折率差はなく、反射がまったくない状態にできる。これによって疑似生体表面での反射をほぼなくすことができた。また、疑似生体との界面が物理的に凹凸であっても、光学的には凹凸はないので、散乱が起きない。この結果、光源モジュールLMからの光の出射角度に応じた適切な伝播方向で正確に疑似生体内部に伝播させることができる。一般的に擬似生体内部の伝播は散乱を強く起こすが、皮膚表面での散乱も小さくない。これによって、光の異方性を大きく確保できる。異方性が大きく取れることによって、光源モジュールLMからの複数の光の擬似生体への入射角を大きく変えることができ、後述するように検出モジュールDMへの複数の光の入射角を大きく変えることができる。
検出モジュールDMは、図27に示されるように、筐体、光学素子、受光部及びアナログ電子回路が実装されたフレキ基板(不図示)、該フレキ基板に接続された配線、コネクタ部(不図示)を含んで構成されている。
検出モジュールDMでは、図28に示されるように、光源から擬似生体に照射され該擬似生体を伝播した光を複数の光に分割して複数の受光部に導くこととしている。
従来技術(特開2011−179903号公報参照)では、蛍光を利用したDOTにおいて、被検体から多角度で出射される複数の光に対応させて受光部を配置している。しかし、この受光部の配置では、受光部に入射する光は、被検体からの全ての出射角度の光である。
これに対し、本実施形態の検出モジュールDMは、被検体の「同一位置」からの光を分割して、個別に検出している。先の光源モジュールLMでも説明したように、光学シミュレーションの際に設計できるので、「同一位置」の精度は、mmオーダーの位置の相違は問わない。
以下に、検出モジュールDMについて詳しく説明する。検出モジュールDMは図29に示されるように、黒い樹脂製の筐体、該筐体の先端に取り付けられた弾性体からなる接触部材、筐体に収容された透明な分割レンズ及び4つの受光部を含んで構成されている。筐体の先端及び接触部材には、アパーチャ(開口)が形成されている。
接触部材としては遮光性を高めるために黒いゴム製のものを利用している。この接触部材のアパーチャから分割レンズの中央部(φ1mm程度)が数100um程度筐体外に突出している。この部分が生体表面に接触するため、光学的にも空気が内在することなく、フレネルの屈折や、散乱などが抑制される。
また、検出モジュールDMでも、前述した透明ジェルを利用することで安定性がさらに向上するため、透明ジェルを利用する。分割レンズは透明樹脂からなり、屈折率は1.8程度である。分割レンズは、筐体に固定されている。
アパーチャは、筐体の先端及び接触部材を貫通する約1mm程度の円形の穴であり、被検体内を伝播して出てくる光の位置を限定する機能を有している。この位置から出てくる光は異なる複数の方向を向いており、アパーチャで入射位置を規定し、その後、入射光を分割レンズで複数の光に分割し、該複数の光を個別に検出することができる。
上述した被検体からの光が「同一位置」から受光部に入射されることは、このアパーチャによって実現されている。
アパーチャを通過してきた光は、その光が持つ伝播方向によって、分割レンズによって異なる方向に屈折されるため、受光部への入射位置が異なる。
分割レンズは、球面レンズで、直径は3mm程度、焦点距離fは3mm程度である。
実施例2では、分割レンズでの光の分割数を4とし、2次元配列された4つの受光部(PD:フォトダイオード)を含むPDアレイ(フォトダイオードアレイ)を用いている。図29では、4つの受光部(PD)のうち2つの受光部1、2のみが示されている。
ここでは、PDアレイは一辺の長さが約3mmの正方形状であり、各PDは一辺の長さが1.4mmの正方形状である。図29に示されるような角度θ2を定義し、PDアレイとアパーチャの距離は、約5mm程度にした。
レンズの片面は平面で、片面のみ球面を有している。平面の方を擬似生体に接触させている。アパーチャの位置は、レンズのフォーカス位置とはずれているので、平行光を作り出すことはできていないが、PDアレイに入射する光を限定する機能を有している。
この光学系について簡単な光学シミュレーションをしたところ、概ね−10°<θ2<50°の光は受光部2に入射し、概ね−50°<θ2<10°の光は、受光部1に入射することが判った。つまり、擬似生体内を伝播しアパーチャから出射された光は、出射角度によって、複数の光に分割され、該複数の光それぞれは、4つの受光部のいずれかに入射される。
実施例2では、分割レンズには球面レンズを利用しているが、非球面レンズを利用して、角度をより広く検出することも可能である。この分割精度及び分割数は、後述する逆問題の推定精度と相関があるため、所望の推定精度から必要な光学系が決まる。本実施形態では、球面レンズ、分割数4が採用されている。
各PDは電気配線され、オペアンプに接続されている。アンプには半導体のオペアンプが利用され、電源電圧を5V供給する。検出される光量は非常に小さいため、オペアンプでの倍率は高く、2段階のアンプ構成とされている。前段で約5桁程度の倍率をかけ、後段では3桁程度の倍率をかける。
実施例2において、擬似生体に内在する吸光体の位置測定方法(被検体の光学特性検出方法)を、図30に示されるフローチャートを参照して説明する。
先ず、プローブ(光源モジュールLM及び検出モジュールDM)を擬似生体にセッティング(装着)する(ステップS1)。この際、アクリル水槽と各プローブとの間に透明ジェルを塗布し、透明ジェルに気泡が入らないように、プローブを1本1本確認しながら慎重に、固定部材によって決められた位置にセッティングする。
プローブは、光源モジュールLMが8個、検出モジュールDMが8個の計16個であり、光源モジュールLMと検出モジュールDMを交互に格子状に等ピッチで配置する(図15参照)。格子のピッチ(格子点間隔)が30mmであり、光源モジュールLMと検出モジュールDMとの間隔が30mmとなる。
この状態で、任意の一の光源モジュールLMのchを発光させ、内蔵されている光量モニタ用の受光素子で所望の光量になるよう調整する。ここでは、発光を1グループ(4ch)毎に行い、発光強度は4mW程度になるように、電流値が決定される(S1.5)。また、測定中も常に受光素子で光量をモニタし、一定の光量になるよう電流値が調整させる。これにより高精度なNIRS測定が可能になり、高分解能化に繋がる。次いで、任意の一の光源モジュールLMのchを発光させる(ステップS2)。発光時間は10msec程度であり、その間、全てのPDでの検出値を読み取り、1msec間隔で検出した数点のデータを平均化する(ステップS3)。そして、平均化された数値を記録部に格納する(ステップS4)。次のグループも同様に10msecの発光及び計測、データ格納を繰り返す(ステップS5、S6、S1.5〜S4)。なお、一の光源モジュールLMにおける、発振波長が780nmの面発光レーザアレイチップの4chの発光と、発振波長が900nmの面発光レーザアレイチップの4chの発光を、同様に順次行う。
ただし、以下のデータ処理では、2波長をほぼ同様に扱い、単に同じ位置での計測を2回ずつ同様に行ったことになる。本来の血流の変化を検出するときには、この2波長での差を利用することで、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとの個別に検出するが、本実施形態では、発振波長が異なる2つの面発光レーザアレイチップを用いて1回ずつ計測することで、チップのばらつきによるノイズを低減することができる。
一の光源モジュールLMの全てのグループの発光及び計測が終了したら、次の光源モジュールLMの発光を行う(ステップS7、S8、S1.5〜S4)。ここでの発光も、同様に1グループ(4ch)ずつ順次行う。全ての光源モジュールLMによる発光及び計測が終了したら、吸光体をセッティングする(ステップS9、S10)。吸光体のセッティングは、位置を再現性良く正確に実現できるように光学ステージを用いて行う。この吸光体をセッティングした状態で、再度、ch発光からPDの数値の記録を行う(ステップS1.5〜S9)。
格納されたデータは、それぞれ吸光体あり、なしのデータを以下のr(s,i,n)(i=1,2,3・・・M、n=1,2,3・・・K))、r(0,i,n)(i=1,2,3・・・M、n=1,2,3・・・K)とする。iはそれぞれの検出モジュールDMに付された番号である。nはそれぞれのグループに付された番号である。次にそれぞれの差分Δr(i,n)を計算する。
上記位置測定方法で得られた測定結果から吸光体の位置(擬似生体の光学特性)を算出する方法は、前述した図8のフローチャートに基づく計測方法で得られた計測結果から吸光体の位置(擬似生体の光学特性)を算出する方法と同様であるため、説明を省略する。
結果として、図31に示されるような推定結果を導くことができる。図31には、比較例として、面発光レーザアレイチップの5グループのうち中心の1グループ(図17参照)のみを発光させ、かつPDアレイの4つのPDのうち1つのPDの検出値のみを利用して検出した結果も併せて示されている。それ以外は全て本実施形態と同様に数値処理する。この比較例は、従来のNIRS(DOT)装置とほぼ同様の構成である。
本実施形態では、上記ベイズ推定により、吸光体の位置と深さを検出することが可能である。図31に示された結果は、吸光体の位置を検出できた場合に○(丸)が表示されている。本実施形態では、吸光体の深さ方向(ここでは、図10のZ軸方向)の距離が大きくなると、光源モジュールLMからの距離が遠くなり、伝播可能な光の量が減ってしまう。このため、吸光体の位置の深さが深くなるほど検出が困難となる。本実施形態では、16mm程度までは検出できた。比較例は、一般的なNIRS(DOT)装置であり、ベイズ推定を利用しても深さ方向の検出はできなかった。深さを含めた吸光体の3次元位置をDOTで高精度に検出するためには、一般に高密度なプローブ配置が必要であるが、本実施形態では低密度なプローブ配置でそれが実現できた。
以上説明した本実施形態(実施例1及び2)の光学センサ10は、被検体(擬似生体)に光を照射する、複数の光源モジュールLM(光照射器)を含む照射系と、該照射系から照射され被検体内を伝播した光を検出する検出系と、を備えている。そして、複数の光源モジュールLMそれぞれは、非平行の複数の光を被検体の同一位置に照射する。
この場合、被検体(散乱体)の同一位置に照射される互いに非平行の複数の光は、被検体への入射角度が異なり、異なる伝播経路をたどる(図32参照)。
この結果、被検体内部に関して得られる情報量が増加し、高分解能化を図ることができる。また、分解能が増すことで、同じ要求分解能に対しては、プローブ密度(単位面積当たりのプローブの数)を低下させることができ、装着性を向上させることができる。
なお、被検体の同一位置に入射する複数の光が非平行であることは、複数の光が角度を成していることを意味する。つまり、複数の光の成す角が存在することで、該複数の光の被検体内での伝播経路を異ならせることができる。一方、仮に被検体の同一位置に入射する複数の光が互いに平行であると(例えば被検体の表面法線と平行であると)、該複数の光の被検体内での伝播経路は同じになってしまう。
また、光源モジュールLMは、複数の発光部を有する面発光レーザアレイチップと、該面発光レーザアレイチップからの光の光路上に配置され、該光を照射用の光と光量モニタ用の光とに分離する光分離素子(例えばガラス板)と、光量モニタ用の光の光路上に配置された受光素子と、を含む。
この場合、受光素子を用いて面発光レーザアレイチップからの光の光量をモニタして面発光レーザアレイチップの出力を一定(所望の出力)に制御でき、更なる高分解能化を図ることができる。
結果として、光学センサ10では、被検体への装着性を低下させず、かつ高分解能を得ることができる。
また、光源モジュールLMは、面発光レーザアレイチップと光分離素子との間の複数の光の光路上に配置され、該複数の光を非平行な複数の光とするレンズを更に含む。
この場合、面発光レーザアレイチップからの複数の平行な光をレンズで非平行とすることができる。
なお、光分離素子を、面発光レーザアレイチップとレンズとの間に配置しても良い。例えば、パッケージに実装された面発光レーザアレイチップをパッケージ内に気密封止するための光透過窓部材を光分離素子として機能させても良い。
また、光源モジュールLMは、レンズを介した非平行な複数の光の光路上に個別に配置された複数の反射面を有する部材(例えばプリズム)を含むため、該複数の光を被検体の表面近傍で交差させることができ、ひいては該複数の光の被検体への入射位置を略一致させることができる(図16参照)。なお、上記複数の反射面を有する部材は、単一の部材で構成されても良いし、複数の部材で構成されても良い。
また、光分離素子は、面発光レーザアレイチップからの光の光路に対して傾斜する板状の透過反射部材(例えばガラス板)であるため、光分離素子を低コストで実現できる。なお、「透過反射部材」とは、入射された光の一部を透過させ、残部の少なくとも一部を反射させる部材を意味する。そこで、透過反射部材としては、ガラス板に限らず、例えばハーフミラー、コンバイナ、透過スクリーン等であっても良い。また、透過反射部材の材質は、ガラスに限らず、例えば樹脂であっても良い。また、透過反射部材は、単一の部材に限らず、複数の部材で構成されても良い。
また、透過反射部材(例えばガラス板)は透明であり、照射用の光は透過反射部材を透過した光であり、光量モニタ用の光は透過反射部材で反射された光である。
この場合、照射用の光の光量を十分に確保しつつ光量モニタ用の光の光量も確保することができる。
また、光源モジュールLMは、複数の面発光レーザ(発光部)を有する面発光レーザアレイと、前記複数の面発光レーザからの複数の光の光路上に配置され、該複数の光を非平行な複数の光とする凸面レンズとを有し、該凸面レンズの主点と面発光レーザアレイとの距離は、凸面レンズの焦点距離と一致していない。
この場合、戻り光が面発光レーザに集光することを防止でき、該面発光レーザの出力変動を防止できる。結果として、面発光レーザの発光光量を安定化でき、光学センサ10における検出精度を向上させることができ、ひいてはNIRSの分解能を向上させることができる。
一方、面発光レーザアレイが凸面レンズの焦点位置に位置する場合、外部の反射面から反射された光が、凸面レンズで面発光レーザに集光され、レーザ発振が不安定になる。これは、戻り光やselfmixing現象と呼ばれる現象であり、面発光レーザアレイが光学センサの光源として用いられる場合に、この現象が発生すると、発光光量が不安定となり問題となる(詳細な説明は、特開2011−114228号公報、特開2012−132740号公報に譲る)。
また、凸面レンズと面発光レーザアレイとの間に、屈折率が該凸面レンズと同等の透明樹脂で満たされている。
この場合、凸面レンズと面発光レーザアレイとの間の界面を境に屈折率が変化しないため、戻り光を抑制できる。この結果、面発光レーザアレイの発光光量を安定化でき、ひいてはNIRSの分解能を向上できる。
また、検出系は、光源モジュールLMから被検体に照射され該被検体内を伝播した複数の光を個別に受光する複数の受光部(PD)を含む検出モジュールDMを複数有している。
この場合、被検体内の異なる2つの伝播経路における2つの情報を個別に得ることができる。
また、検出モジュールDMは、被検体と複数の受光部(PD)との間に配置され、被検体内を伝播した複数の光それぞれの一部を通過させるアパーチャが設けられた接触部材及び筐体を有している。
この場合、被検体の同一位置から筐体内に光を取り込むこと、すなわち被検体から筐体内に入射角がある程度限定された光のみを入射させることができ、複数の受光部に光を入射させ易くすることができる。
また、検出モジュールDMは、アパーチャを通過した複数の光の一部を複数の受光部に個別に導く分割レンズ(受光用レンズ)を有している。
この場合、アパーチャを通過した複数の光それぞれの一部を複数の受光部に個別に安定した光量で入射させることができる。
また、光源モジュールLMは、被検体に接する、該被検体よりも屈折率が大きい材料(透明樹脂)からなる窓部材を有しているため、被検体への入射角に対して被検体内での伝播角(屈折角)を大きくすることができる。この結果、仮に空気中から被検体へ光を入射させる場合に比べ、同じ入射角でも伝播角が大きくなる。そこで、被検体の同一位置に異なる入射角で入射する2つの光の入射角の差よりも、これら2つの光の被検体内における伝播角の差の方が大きくなり、伝播経路を大きく異ならせることができる。結果として、さらなる高分解能化を図ることができる。
また、光源モジュールLMは、2次元配置された複数の面発光レーザと、複数の面発光レーザからの光の光路上に配置された照射用レンズ(レンズ)を含む。
この場合、複数の面発光レーザからの光の進行方向を所望の方向(対応するプリズムが配置されている方向)に変えることができる。
また、光源モジュールLMは、照射用レンズを介した光の光路上に配置され、該光を所定方向に反射させるプリズム(反射部材)を有している。
この場合、照射用レンズからの光の進行方向を更に所望の方向に変えることができる。すなわち、被検体への入射角を所望の角度に設定することができる。
以上のように、光学センサ10は、簡易な構成により光の伝播異方性を効果的に利用して高分解能を達成できる光学センサであり、例えばDOT等の様々な分野での利用が期待される。
また、光学検査装置100は、光学センサ10と、該光学センサ10での検出結果に基づいて、被検体の光学特性を算出する制御部(光学特性算出部)と、を備えている。
この場合、光学センサ10での検出精度が高いため、被検体の光学特性を高精度に算出することができる。
《第2実施形態》
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、上記第1実施形態で説明したプローブを実際の人体に適応する手法について説明する。ここでは、被検体を上記実施形態でのファントム(白濁水の入った水槽)から人体の頭部に変更し、吸光体を脳内血流とする。
本実施形態では、脳内の血流の分布を、正確に推定することを目的としている。本実施形態では、被験者(被検体)を計測し、そのデータを元に形状をモデル化し、モンテカルロシミュレーションを行う。核磁気共鳴画像法(以下ではMRIと略す: magnetic resonance imaging, MRI)を利用して、被験者の頭部形状を計測する。頭皮、頭蓋骨、脳脊髄液、大脳皮質との4つ部位の形状を画像から計測する。
この3次元データは、高精度の検出をする際には必要なデータであるが、標準的な形状の脳モデルなどのデータで代替することも可能である。それぞれの部位には、それぞれ一般的な、散乱係数、異方性、吸収係数が知られているのでその数値を利用する。プローブは固定冶具にて、頭部に正確に固定し、設置した位置も正確に計測する。プローブ等は第1実施形態と同じであるので、ここでは説明を割愛する。それぞれの正確な形状、配置、それぞれの部位の数値を利用して、光学シミュレーションを行う。
以下では、脳内の血流を計測する方法を、図33に示されるフローチャートを参照して説明する。先ず、初めに、被験者に安静にしてもらい(ステップS31)、プローブ(検出モジュールDM及び光源モジュールLM)を頭部にセッティングする。この際、毛髪などがプローブと頭皮の間に挟まらないように、プローブ1本1本を確認しながら慎重に、固定部材を用いて決められた位置にセット(設置)する。この状態で、chを発光させ、所定の光量になるよう電流値が決定される。ここでは、光量(発光強度)が4mW程度になるように、電流値を決定している。(ステップS32.5)。次にchを発光させる(ステップS33)。発光は1グループ毎に行い、発光時間は数msecであり、その間、全てのPDの検出値を読み取り平均化する(ステップS34)。平均化された数値を記録媒体に格納する(ステップS35)。
次のグループも同様に数msecの発光及び計測、データ格納を繰り返す(ステップS36、S37、S33〜S35)。全ての光源モジュールLMの発光及び計測が終了したら、被験者に課題をやってもらう(ステップS38〜S41)。ここでは、一般的な言語流暢性課題とした。言語流暢性課題については、特開2012−080975号公報に詳細に記載されている。
この課題を行うことで、脳が活動し、活動が起きた箇所にのみ脳血流が発生する。血流は酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンを含み、血流によって光吸収が起きる。ベイズ推定による逆問題推定等は、上記第1実施形態で説明した方法に順ずるのでここでは割愛する。この計測によって、得られた血流位置は、fMRI (functional magnetic resonance imaging)での計測でその精度を確認できる。fMRIはMRIを利用して、ヒト及び動物の脳や脊髄の活動に関連した血流動態反応を視覚化する方法の一つである。この確認計測によって、本実施形態の光学センサによる計測に高い分解能があることが判った。
《第3実施形態》
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態では、プローブに上記第1実施形態と同様の光源モジュールLM及び検出モジュールDMを用いており、これらの配置に工夫を凝らしている。プローブの配置以外は、上記第1実施形態と同じであるため、ここでの説明は割愛する。
ところで、上記第1実施形態の実施例2では、図15に示されるように、2つの検出モジュールDMと2つの光源モジュールLMが略正方形の頂点に位置するように配置されている。しかし、この配置では、図15の×で示す地点は光源モジュールLMと検出モジュールDMとの間の光路が長くなってしまう。このため、検出モジュールDMで十分な光量を得ることができず、この地点でのノイズが大きく検出精度が低下するおそれがある。
そこで、発明者らは、プローブ配置を鋭意検討した結果、図34に示される配置が最適であることを見出した。図34では、複数の光源モジュールLM及び複数の検出モジュールDMは、被検体に対して、光源モジュールLM及び検出モジュールDMの一方の2つが正三角形の2つの頂点に個別に位置し、他方の1つが該正三角形の残る1つの頂点に位置するように配置される。
ここで、簡単な例として、光源モジュールLMと検出モジュールDMとの距離が最も長いところを検討する。ただし、検出モジュールDMと光源モジュールLMとの間隔(ピッチ)は、いずれもaと仮定する。図15での×の位置は、破線の距離が√2a(約1.414a)となる。これに対し、図34での×の位置は、破線の距離が(1+√3)a/2(約1.366a)<√2aとなる。つまり、最も距離が長いところを、図15と図34のプローブ配置で比べると、図34のプローブ配置の方が短くて好ましいことが判る。
この配置で第1実施形態と同様に逆問題の推定を行った結果、本実施形態のプローブ配置により、検出できるエリアが広がることが判った。
《第4実施形態》
次に、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態では、上記第1実施形態で示した複数の光源モジュールLM、複数の検出モジュールDMの配置を利用し、光源モジュールLMのchの配置、検出モジュールDMのPDの配置に工夫を凝らしている。ch、PDの配置以外は上記第1実施形態と同じであるため、ここでの説明は割愛する。
上記第1実施形態の実施例2では、図15に示されるように、複数の光源モジュールLM及び複数の検出モジュールDMは、被検体に対して、光源モジュールLMと検出モジュールDMとが互いに直交するX方向及びY方向のいずれに関しても隣り合うように配置されている。
しかし、上述の如く、この配置では×で示す地点は光源モジュールLMと検出モジュールDMとの間の光路が長くなってしまう。このため、検出モジュールDMで十分な光量を得ることができず、この地点でのノイズが大きくなり、検出精度が低下するおそれがある。
図35に示される比較例では、複数の光源モジュール及び複数の検出モジュールは、被検体に対して、光源モジュールと検出モジュールが互いに直交するX方向及びY方向のいずれに関しても隣り合うように配置され、かつ出射方向、検出方向(受光部への光の入射方向)ともに、X方向又はY方向に平行である。面発光レーザの近傍に設置したレンズは点対称の光学特性を有しているため、出射方向は、面発光レーザの位置、及びグループ位置によって決まっている。また、検出方向もレンズが点対称の光学特性を有しているため、PDアレイの分割レイアウトによって決定される。
そこで、面発光レーザアレイチップを、図36(A)に示されるように配置すると、出射方向は、平面視で(+Z方向から見て)X方向及びY方向に対して傾斜する。これは、各グループの中心位置がレンズ中心に対して、斜めになっていることが要因である。検出モジュールDMでも同様に、4分割PDアレイアレイチップ(フォトダイオードアレイチップ)のチップ中心にレンズの中心を配置することで、検出方向(受光部への光の入射方向)は、図36(B)に示されるようになる。この検出方向と出射方向が、プローブ配置とともに図37に示されている。出射方向、検出方向は、平面視で(+Z方向から見て)X方向及びY方向に対して斜めになっていることが判る。
この場合、前述した感度分布のように、光は異方性を有しているために、図37の×の位置では、より感度を持つことが期待できる。
図36(A)及び図36(B)に示される配置で第1実施形態と同様に逆問題の推定を行った結果、検出できるエリアが広がることが判った。
なお、上記各実施形態において、照射系の光源モジュールLMの数、及び検出系の検出モジュールの数は、適宜変更可能である。要は、照射系は、光源モジュールLMを少なくとも1つ有していれば良い。検出系は、検出モジュールDMを少なくとも1つ有していれば良い。
また、上記各実施形態において、光源モジュールLM(光照射器)の構成は、適宜変更可能である。例えば光照射器の面発光レーザアレイチップの数及び配置は、適宜変更可能である。レンズの種類、形状、大きさ、個数等も適宜変更可能である。
また、上記各実施形態では、光照射器の光源として、面発光レーザが用いられているが、例えば、端面発光レーザ(LD)、発光ダイオード(LED)、有機EL素子、半導体レーザ以外のレーザなどを用いても良い。
また、上記各実施形態では、光照射器の反射部材としてプリズムが用いられているが、他のミラー等が設けられても良い。
また、実施例2の面発光レーザアレイチップにおけるグループの数及び配置、各グループのchの数及び配置は、適宜変更可能である。
また、検出モジュールDM(光検出器)の構成は、適宜変更可能である。例えば、アパーチャは、必ずしも設けられていなくても良い。また、例えば、分割レンズは、必ずしも設けられていなくても良い。
以上の説明における各部材や部分の形状、大きさ、材質、数、寸法、数値は、一例であって、適宜変更可能であることは言うまでもない。