JP6554919B2 - センサホルダ部を有する保護カバーの製造方法 - Google Patents
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Description
このような回転速度検出装置を自動車のホイール支持用の転がり軸受(ハブベアリング)に備えた軸受装置も広く用いられており、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べた磁気エンコーダを軸受の軸方向の一端部の内輪に取り付け、保護カバーを軸受の軸方向の一端部の外輪に圧入して密封するように構成するものがある(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載された発明の保護カバーは、合成樹脂で有蓋円筒状に形成された保護カバーに、前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサを保持するセンサホルダ部を設けている(特許文献1参照)。
よって、このような保護カバーを用いることにより、厚み方向に貫通するセンサ取付穴が設けられたもの(特許文献1の従来技術の記載である図3(b)参照)のようにセンサ取付穴を形成する壁面及び磁気センサ間にOリング等のゴム製のシール部材を組み込む必要がない。
また、このようなセンサホルダ部を有する保護カバーを設けることにより、軸受の軸方向の一端部が密封されて前記磁気エンコーダに小石や泥水等が当たらないことから前記磁気エンコーダの破損を防止でき、前記磁気エンコーダのアウター側のシール部材が不要になることから摺動抵抗の低減により前記軸受装置の回転トルクを低減できとともに、前記磁気エンコーダと前記磁気センサとのエアギャップ調整作業の煩雑さを解消できる。
しかしながら、磁気センサの検出精度を向上する観点から仕切壁の厚みが0.3mm程度と薄く、本体部の厚みと仕切壁の厚みとの相対差が大きいとともに、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂等の繊維強化樹脂で成形されることが多いため、本体部を形成する成形空間内から仕切壁を形成する成形空間内に溶融樹脂を充填して成形した際に、成形品の仕切壁の中央あたりに充填末端ウェルドが発生する。
よって、気密性の低下や仕切壁の強度低下等の問題があるとともに、仕切壁の板厚が不均一になるという問題がある。
その上、前記のとおり仕切壁の厚みが薄いことから、充填不良が発生して、成形ができない場合もある。
あるいは、射出成形工程で用いる金型が、磁気センサに対向する樹脂面又はその裏面を盛り上げた盛上げ部を形成する部分にゲートを直接配置したものであるので、射出成形の際に前記盛上げ部を形成する部分に充填末端ウェルドが発生しないため、強度や形状精度の低下が生じない。
よって、除去加工工程により前記中間品の盛上げ部を除去加工して平坦にして得られる完成品において、磁気センサ及び磁気エンコーダ間の仕切壁の気密性の低下や強度低下を阻止できる。
その上、除去加工工程において、磁気センサに対向する樹脂面の裏面(軸受内部側)を盛り上げた盛上げ部を除去加工するものにおいては、樹脂のスキン層が除去されて耐薬品性等の性能が低下する恐れがある除去加工部が外部暴露環境に晒されないため、保護カバーの信頼性を長期間にわたって維持できる。
このような製造方法によれば、盛上げ部を除去加工した後の薄肉の仕切壁における残留応力の緩和によるうねり量を低減できるため、センサホルダ部を有する保護カバーを所要の寸法精度内にすることが容易になる。
その上、盛上げ部におけるボイドの発生を抑制できるので、センサホルダ部を有する保護カバーの強度や気密性の低下を抑制できる。
また、軸受装置11は、前記軸受の軸方向の一端部を密封するように外輪13に取り付けられる保護カバー1を備え、保護カバー1は、磁気センサAを保持するセンサホルダ部3Bを有する。
また、保護カバー1は、図1及び図2のように磁気センサAを保持した状態で、磁気センサAに対向する樹脂面5及びその裏面6により形成される仕切壁Cを隔てて、磁気センサAが磁気エンコーダ16に対向し、磁気センサAに対向する樹脂面5の裏面6は、後述するように除去加工された除去加工部9である。
ここで、保護カバー1はインサート成形品であり、円筒状部材2及びナット10がインサート品である。
また、保護カバー1により軸受装置11の軸受の軸方向の一端部が密封されるので、磁気エンコーダ16に小石や泥水等が当たらないことから磁気エンコーダ16の破損を防止できる。
さらに、保護カバー1により軸受装置11の軸受の軸方向の一端部が密封されるので、磁気エンコーダ16のアウター側のシール部材が不要になるため、摺動抵抗の低減により軸受装置11の回転トルクを低減できる。
さらにまた、保護カバー1がセンサホルダ部3Bを備えているので、磁気エンコーダ16と磁気センサAとのエアギャップ調整作業の煩雑さを解消できる。
保護カバー1の製造においては、先ず、図4の縦断面図に示す中間品7をインサート成形により製造する。
図4に示す中間品7と図3に示す完成品である保護カバー1とは、磁気センサAに対向する壁(磁気センサAに対向する樹脂面5及びその裏面6により形成される壁)の厚みが異なっている。
すなわち、中間品7では裏面6に盛上げ部8が形成されており、この盛上げ部8が形成された部分の厚み、すなわち中間品7における磁気センサAに対向する部分の壁の厚みt0(図4)は、0.8mm〜4mm程度であり、盛上げ部8を除去加工した除去加工部9がある状態である仕切壁Cの厚みt(図3)は、0.3mm〜0.5mm程度である。
ここで、盛上げ部8が形成された部分の厚みt0(例えば、0.8mm〜4mm程度)は、射出成形時に、磁気センサAに対向する樹脂面5及びその裏面6により形成される壁(板状の部分)に充填末端ウェルドが発生しないように、また後述するうねり量の低減、及びボイド発生の抑制を考慮して、解析や実験に基づいて設定される。
図4の縦断面図に示す中間品7のインサート成形を行う射出成形工程について、図5の縦断面図に示す射出成形金型を参照して説明する。
先ず、インサート品であるナット10を固定型18の支持軸21にセットし、インサート品である円筒状部材2を可動型19にセットする。
次に、射出成形機に取り付けられた固定型18及び可動型19を型締めした状態で、溶融したプラスチックをスプルーから注入してゲート20から固定型18及び可動型19間のキャビティ内に充填する。
次に、溶融したプラスチックを冷却・固化させた後、可動型19を開いてインサート成形品を取り出す。なお、可動型19はスライドコアであってもよい。
ここで、前記プラスチックは、例えば、ポリアミド(ナイロン6,ナイロン66,ナイロン612等)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、又はポリブチレンテレフタレート(PBT)にガラス繊維を20〜70重量%含有したものを用いる。
また、円筒状部材2の軸方向端の屈曲部に本体部3Aの外周部が回り込んでいるので、円筒状部材2と円盤状部材3は機械的に結合する。
さらに、図4のように中間品7におけるセンサホルダ部3Bの磁気センサAに対向する部分の壁の厚みt0は、射出成形時に充填末端ウェルドが発生しないように設定されているので、本体部3Aの厚み(例えば、1.5mm〜3.0mm程度)と盛上げ部8が形成された部分の厚みt0(例えば、0.8mm〜4mm程度)との相対差が小さくなり、射出成形の際に盛上げ部8を形成する部分(磁気センサAに対向する樹脂面5及びその裏面6により形成される壁の部分)に充填末端ウェルドが発生しないため、強度や形状精度の低下が生じない。
図6に示す射出成形金型を用いる場合、先ず、インサート品である円筒状部材2を固定型18にセットし、インサート品であるナット10を可動型19の支持軸21にセットする。
次に、射出成形機に取り付けられた固定型18及び可動型19を型締めした状態で、溶融したプラスチックをスプルーから注入し、盛上げ部を形成する部分の中央に配置したゲート20から固定型18及び可動型19間のキャビティ内に充填する。
次に、溶融したプラスチックを冷却・固化させた後、可動型19を開いてインサート成形品を取り出す。
このような射出成形金型を用いても、図5の射出成形金型を用いた場合と同様の中間品7を成形できる。図6のような盛上げ部8(図4)を形成する部分にゲート20を直接配置する射出成形金型を用いることにより、射出成形の際に盛上げ部8を形成する部分(磁気センサAに対向する樹脂面5及びその裏面6により形成される壁の部分)に充填末端ウェルドが発生することがなくなる。
次に、前記射出成形工程により成形された図4に示す中間品7の盛上げ部8を除去加工して平坦にする除去加工工程を行うことにより、図3に示す完成品である保護カバー1(仕切壁Cの厚みtが0.3mm〜0.5mm程度のもの)を製造する。
このような盛上げ部8の除去加工は、フライス盤等による切削加工、熱可塑性樹脂を超音波振動ホーンの微細な超音波振動と加圧力によって瞬時に溶融し、超音波振動ホーンの先端部分で樹脂の除去を行う超音波溶融、又は、加熱した熱板で樹脂を溶融し、冷えて固まる前に治具を押し付けて樹脂の除去を行う熱板溶融等により行うことができる。
そして、前記射出成形工程により形成された中間品7(例えば、図4及び図7参照)の磁気センサAに対向する樹脂面5及びその裏面6により形成される壁の部分に充填末端ウェルドが発生しないため強度や形状精度の低下が生じない。
よって、前記射出成形工程後に前記除去加工工程を行って製造された完成品である保護カバー1において、磁気センサA及び磁気エンコーダ16間の仕切壁Cの気密性の低下や強度低下を阻止できる。
また、前記除去加工工程において、磁気センサAに対向する樹脂面5の裏面6(軸受内部側)を盛り上げた盛上げ部8を除去加工するので、樹脂のスキン層が除去されて耐薬品性等の性能が低下する恐れがある除去加工部9が外部暴露環境に晒されないため、保護カバー1の信頼性を長期間にわたって維持できる。
図8(a)の縦断面図に示すように切削工具Tにより盛上げ部8を除去加工する構成において、盛上げ部8の根元部分には隅R部RAを形成し、切削工具Tの先端部分には角R部RBを形成している。
よって、図8(b)のように切削工具Tにより端面と同一面まで切削した場合だけでなく、切削工具Tの送りが小さくなって図8(c)のように盛上げ部8の一部が残った場合には隅R部RAがあることにより、応力集中が発生し難いため、薄肉である仕切壁Cの破損を防止できる。また、切削工具Tの送りが大きくなって図8(d)のように加工し過ぎた場合であっても仕切壁Cに切削工具Tの角R部RBが転写されて隅R部が形成されることから、応力集中が発生し難いため、薄肉である仕切壁Cの破損を防止できる。
図4及び図9の縦断面図に示す前記射出成形工程で成形された中間品7において、センサ取付穴4内における磁気センサに対向する樹脂面5の中央部Dの内圧と、樹脂面5の周縁部E1,E2の内圧との差により残留応力が発生する。
図10は、横軸を図9における盛上げ部8が形成された部分の厚みt0、縦軸を図9における樹脂面5の周縁部E1,E2の内圧の平均と樹脂面5の中央部Dの内圧との差(内圧差ΔP)としたグラフであり、プラスチック射出成形用シミュレーションツールであるSimulation Moldflowを使用して溶融プラスチック材料(溶融樹脂)の流動解析を行って求めたものである。
内圧差ΔPが大きく、それにより大きな残留応力を持った状態で外部環境(吸水や温度変化)により応力が緩和すると、磁気エンコーダに接近する方向又は磁気エンコーダから離反する方向へうねり(面外方向への変形)が生じる。
例えば、除去加工工程を経た後に外部環境により残留応力が緩和して磁気エンコーダに接近する方向へうねりが生じた場合、そのうねり量が大きいと、仕切壁Cの中央部が図1に示す磁気エンコーダ16に向かって大きく突出するので、磁気エンコーダ16と干渉する不具合が生じてしまう。
前記射出成形工程により、盛上げ部が形成された部分の厚みt0が0.6mm、0.8mm、及び1.0mmの中間品7を製作した。
次に、これら3タイプの中間品7に対して前記除去加工工程を行い、図3に示す仕切壁Cの厚みtを0.3mmとした保護カバー1を製作した。
次に、これら3タイプの保護カバー1を、高温高湿環境に放置した(60℃,RH90%,12h)後、形状測定器を用いてうねり量(面外方向への変形量)を測定した。
この測定結果を、盛上げ部が形成された部分の充填末端ウェルドの有無とともに、表1に示す。
ここで、表1中の「うねり量(mm)」は、保護カバー1の中央から径方向へ向かう方向のうねり量と、前記方向と直交する方向のうねり量の平均を示している。
よって、表1の結果から、図4及び図9に示す中間品7における盛上げ部8が形成された部分の厚みt0は、0.6mmよりも大きくするのが好ましく、0.8mm以上にするのがより好ましく、1.0mm以上にするのがさらに好ましいことが分かる。
成形品の厚みが厚いと、前記射出成形工程における冷却、固化の過程で発生する収縮により一部の範囲で樹脂の疎な部分が発生する。このように発生する樹脂の疎な部分がボイドであり、ボイドが発生すると強度や気密性の低下などが懸念される。
前記射出成形工程における充填完了の際に盛上げ部8が形成された部分の体積収縮率が大きいとボイドが発生しやすくなる。
図11は、横軸を図9における盛上げ部8が形成された部分の厚みt0、縦軸を充填完了時における盛上げ部8が形成された部分の体積収縮率としたグラフであり、前記Simulation Moldflowを使用して溶融プラスチック材料(溶融樹脂)の流動解析を行って求めたものである。
図11より、図4及び図9に示す盛上げ部8が形成された部分の厚みt0が4.0mmを超えると、体積収縮率が増進することが分かる。
また、盛上げ部8が形成された部分の厚みt0が3.0mm未満の領域では体積収縮率が低水準で安定し、3.0mm以上、4.0mm以下の間では、3.0mm未満よりも若干水準が高くなるが体積収縮率は安定することが分かる。
よって、図11の結果から、中間品7の盛上げ部8が形成された部分の厚みt0は、4.0mm以下にするのが好ましく、3.0mm未満にするのがより好ましいことが分かる。
また、以上の説明においては、保護カバー1がインサート成形品である場合を示したが、保護カバー1はインサート成形品に限定されるものではなく、特許文献1のような合成樹脂製のものであってもよい。
2 円筒状部材(インサート品)
3 円盤状部材
3A 本体部
3B センサホルダ部
4 センサ取付穴
5 磁気センサに対向する樹脂面
6 裏面
7 中間品
8 盛上げ部
9 除去加工部
10 ナット(インサート品)
10A 周溝
11 軸受装置
12 内輪
12A 内輪軌道面
13 外輪
13A 外輪駆動面
14 転動体
15 シール部材
16 磁気エンコーダ
17 支持部材
18 固定型
19 可動型
20 ゲート
21 支持軸
A 磁気センサ
B 取付ボルト
C 仕切壁
D 磁気センサに対向する樹脂面の中央部
E1,E2 磁気センサに対向する樹脂面の周縁部
ΔP 内圧差
RA 隅R部
RB 角R部
T 切削工具
t 仕切壁の厚み
t0 盛上げ部が形成された部分の厚み(中間品における磁気センサに対向する部分の壁の厚み)
Claims (3)
- 外周面に内輪軌道面が形成された内輪、及び内周面に外輪軌道面が形成された外輪、並びに、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面間を転動する転動体を有する軸受、前記軸受の軸方向の一端部に位置して前記内輪に固定された、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べてなる磁気エンコーダ、並びに、前記磁気エンコーダの磁極に対向して前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサを備えた軸受装置において、前記軸受の軸方向の一端部を密封するように前記外輪に圧入される、前記磁気センサを保持するセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法であって、
前記センサホルダ部の前記磁気センサに対向する部分の厚みを、射出成形時に充填末端ウェルドが発生しないように完成品よりも厚く設定してなる、前記磁気センサに対向する樹脂面を盛り上げた盛上げ部を有する形状の中間品を成形する射出成形工程、
又は、前記センサホルダ部の前記磁気センサに対向する部分の樹脂面を盛り上げた盛上げ部を有する形状の中間品を成形する、前記盛上げ部を形成する部分にゲートを直接配置した金型を用いて行う射出成形工程と、
前記射出成形工程により成形された前記中間品の前記盛上げ部を除去加工して平坦にする除去加工工程と、
を備えることを特徴とするセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法。 - 外周面に内輪軌道面が形成された内輪、及び内周面に外輪軌道面が形成された外輪、並びに、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面間を転動する転動体を有する軸受、前記軸受の軸方向の一端部に位置して前記内輪に固定された、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べてなる磁気エンコーダ、並びに、前記磁気エンコーダの磁極に対向して前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサを備えた軸受装置において、前記軸受の軸方向の一端部を密封するように前記外輪に圧入される、前記磁気センサを保持するセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法であって、
前記センサホルダ部の前記磁気センサに対向する部分の厚みを、射出成形時に充填末端ウェルドが発生しないように完成品よりも厚く設定してなる、前記磁気センサに対向する樹脂面の裏面を盛り上げた盛上げ部を有する形状の中間品を成形する射出成形工程、
又は、前記センサホルダ部の前記磁気センサに対向する部分の樹脂面の裏面を盛り上げた盛上げ部を有する形状の中間品を成形する、前記盛上げ部を形成する部分にゲートを直接配置した金型を用いて行う射出成形工程と、
前記射出成形工程により成形された前記中間品の前記盛上げ部を除去加工して平坦にする除去加工工程と、
を備えることを特徴とするセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法。 - 前記中間品における前記磁気センサに対向する部分の壁の厚みを、0.8mm以上、4.0mm以下、より好ましくは1.0mm以上、3.0mm未満にしてなる請求項1又は2記載の保護カバーの製造方法。
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