以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
(第1の実施形態)
本発明の波長掃引光源は、利得媒質と波長フィルタとで形成される共振器と、前記利得媒質から出射され前記波長フィルタに入射される光を偏向することにより波長選択を行なう光偏向器と、前記利得媒質と前記光偏向器との間に、頂点が前記光偏向器に向くように配置された円錐レンズをさらに備えて構成される。
上記構成の波長掃引光源では、光偏向器を通過する光線がベッセル光線と呼ばれる非回折的性質を示す光線に変換される。具体的には、利得媒質から出射された光が、その頂点が光偏向器の側を向くように配置された円錐レンズを通過すると、光軸に垂直な面と角βをなす母線を持つ円錐状の波面が形成される。光軸に垂直な面と角βをなす母線を持つ円錐状の波面が形成されると、それらの干渉によって、横断面が0次のベッセル関数で表される光電界が現出する。この光電界は、光軸周りにコアと呼ばれるエネルギーの集中部があり、かかるエネルギー集中部の半径は、0次のベッセル関数の最初のゼロ点の値J0、1(=2.4048…)を用いて、rcore=J0、1/(ksinβ)と表される。ここで、k=2π/λは波数である。因みに、円錐レンズを用いてベッセル光線を効率よく生成する方法については、非特許文献5に掲載されている。
上記波長掃引光源の構成は、光偏向器を通過する光線が、非回折的であれば、回折格子への入射光束の等価径が、光偏向器を通過する光線のコアの径rcoreとは、無関係となる性質に着目したものである。回折格子への入射光束の径が決めているのは、入射光束中の波数の分布に他ならない。通常の回折光では、径が小さい程、波数分布が広くなり、その結果、回折格子による濾波能が低下する。ところが非回折的光では、コアの径rcoreは含まれる(動径方向の)波数の中心値にのみ関わり、その周りの波数分布には関与しない。非回折的性質を示すベッセル光線では、波数分布は究極的には元々のベッセル光線を生成する際に円錐レンズを照射した光の径で決まる。上記構成により、非回折的なベッセル光線を共振器内で生成し、光軸周りのコア部分が光偏向器を透過するように構成すれば、光偏向器によるケラレに起因する損失を抑え、かつ光偏向器後段の回折格子への入射光束の波数分布とコア部分の径との連関を断つことができるので、回折格子への入射光束の直径を等価的に増して、波長掃引光源のコヒーレンス長を改善できる。ここで光偏向器によるケラレとは、光線の一部が光偏向器を通過できずに失われてしまうことをいう。
非回折的性質を示すベッセル光線では、光軸周りにコアと呼ばれるエネルギーの集中部があるため、回折格子への入射光束の等価径は、コアの径rcoreに含まれる(動径方向の)波数の中心値にのみ関わり、その周りの波数分布には関与しない。すなわち回折格子への入射光束の等価径は、光偏向器を通過する光線のコアの径ではなく、元々のベッセル光線を生成する際、円錐レンズを照射した光の径で決まるので、回折格子への入射光束の等価径を増大しても光偏向器を通過する光線のコアの径は増大する必要がなく、光偏向器の大型化を回避することができる。
本発明の波長掃引光源では、円錐レンズによるビーム成形に伴う損失に抗するために、利得媒質として、大利得の得られる半導体光増幅器を用い、半導体光増幅器から円錐レンズへの出力光を集光レンズによって平行光束に変換することが望ましい。
本発明の波長掃引光源では、集光レンズを伴う利得媒質と円錐レンズの間の平行光束の半径wが光偏向器を通過する光束の直径よりも大きいことが望ましい。平行光束の半径wが回折格子への入射光束の直径に概ね相当するからである。
円錐レンズによるビーム成形は、平行光束の半径をw、円錐レンズから電気光学偏向器に向かう光線の動径方向の傾きをβとしたときに、
の距離zmaxで有効なので、共振器はその半分(zmax/2)の地点で折り返すのがよい。即ち、リトロウ型の共振器では回折格子が、リットマン型の共振器の場合は端面鏡が、それぞれ円錐レンズの頂点から
だけ離れて配置されることが好ましい。
以下では、図2から図5を参照しつつ、本実施形態の波長掃引光源の構成と動作について詳述する。図2は、本実施形態の波長掃引光源の全体の基本構成を示している。本実施形態の波長掃引光源は、リトロウ型とリットマン型のいずれの形態であってもよいが、便宜的に図2に示すリットマン型に基づいてその基本構成を説明する。波長掃引光源は、図2に示すように、利得媒質101と、集光レンズ102と、円錐レンズ109と、電気光学偏向器103と、回折格子107および直入射する端面鏡108からなる波長フィルタとを備えて構成される。利得媒質101としては、半導体光増幅器が用いられている。利得媒質101の一端から出射された光が、集光レンズ102および円錐レンズ109を経て、電気光学偏向器103に入射し、更に、回折格子107および入射された光を反射する端面鏡108を含む波長フィルタに結合するようにそれぞれ配置されている。円錐レンズ109は、その頂点が電気光学偏向器103を向くように設置される。
また、利得媒質101の他端には、出力結合鏡110が蒸着されており、かくして出力結合鏡110と端面鏡108を両端とする光共振器が構成され、かかる光共振器のレーザ作用による出力光が、結合レンズ111を介して出力光ファイバ112に結合されて得られる。
電気光学偏向器103には、制御電圧源104からの電圧が印加されると、紙面内上下方向に電界が発生し,電界の方向に光が偏向される結果、後続する回折格子107への入射角が、制御電圧源104からの印加電圧に依存して変化する。かくして、回折格子107および端面鏡108を含む波長フィルタにおいて選択する波長が、電気光学偏向器103への印加電圧に応じて変化し、可動部の介在なしに、高速な波長変化が可能な波長掃引光源が実現される。
図3は、波長掃引光源の円錐レンズによるビーム成形を説明する図である。図3では、図2の波長掃引光源の構成において左右は逆に表現されているが、利得媒質101(図2)を出射し集光レンズ102(図2)によりコリメートされた光が、円錐レンズ109を通過して電気光学偏向器103(図3の右方)に向かう往路の構成を、部分的に抜出して示している。図3に示すように、円錐レンズ109には、コリメート光が平坦な側から入射する。この光の電界分布を入射光電界分布203として図示した。分布の中心は、円錐レンズの中心に一致し、これら二者は何れも往路光軸201上にある。
円錐レンズの円錐の母線は、光軸に垂直な面と傾斜角α209を成すように形成されている。これにより円錐レンズの出射光は、光軸周りに取った円筒座標系で動径方向に、下記(式7)で表される頂角βを以て光軸と交わる。(式7)中、nは円錐レンズの屈折率を表す。
コリメート光が、中心電界E0、半径wのガウス光束である場合、光軸201近傍における光電界は近似的に、下記(式8)で表される(非特許文献5)。
上記(式8)において、ρは円筒座標の動径、zは光軸上の伝搬長であり、円錐レンズ109の頂点に原点が取られている。円錐レンズの出射光の電界分布は、動径方向には0次のベッセル関数J0で表され、関数の原点周りの山がコアを与える。円錐レンズの出射光のコアの半径rcoreは、例えば、頂角β=1°、波長1.3μmの場合、28.5μmと非常に小さくなり得る。しかして円錐レンズの出射光の半径rcoreは伝搬に際して不変である。この性質は、通常のガウス光束(同一半径・波長ならば2mm伝搬すると21/2倍に広がってしまう)と著しく異なり、非回折的と称される所以である。
入射パワーの如何ほどが非回折的光のコア内のパワーに変換されるか、効率ηを計算すると、下記(式9)を得る。
上記(式9)から明らかなように、効率ηは、光軸上の伝搬長zに依存し、効率ηが最大となる伝搬長はz=zmax/2である。ここで、zmaxは下記(式10)で与えられる。
かかるzmaxには、図3中で、幾何光学的意味付けを与えることができる。即ち、円錐レンズ109の上下で、入射高がwに等しい光線が、光軸長で交差する点までの伝搬長がzmaxであり、これを有効距離205と称する。この交差する点以遠では、効率が殆ど零に低下するからである。一方、効率ηが最大となる伝搬長zmax/2は、距離中央206と呼称している。
もし、第二の円錐レンズを、有効距離205右端の光軸上に頂点が来るように、元々の円錐レンズ109に相対して置いたとすると、第二の円錐レンズの背面(平坦な面)上に、元々の円錐レンズ109に当初入射した光電界分布203が、再現される。即ち、非回折的光の伝搬は、距離中央206に対して左右対称である。本実施形態の波長掃引光源では、回折格子107および端面鏡108を含む波長フィルタから帰還された光が、円錐レンズ109を経た後、集光レンズ102により利得媒質101に集光される必要がある。そのためには、端面鏡108が、距離中央206に位置せねばならない。鏡の結像はその表面に対して対称的であるという原理から、波長フィルタが単なる鏡として働く図2の紙面に垂直な方向では、端面鏡108が、距離中央206に位置せねばならないことは自明である。
ここで、波長フィルタが波長分散を呈する図2の紙面内の構成について、リトロウ型、リットマン型の波長フィルタ系に即して、それぞれ図4、図5を用いて、詳述する。図4、5では、図2の構成と左右が逆に示されている。
図4は、リトロウ型の波長フィルタにおける回折格子位置の例を示す図である。リトロウ型では、回折格子307がリットマン型における端面鏡の機能も果たす。従って、回折格子307と共振器光軸301の交点が、光軸上、距離中央306に一致するように配置するのが良い。これにより、図4の紙面に垂直な方向での帰還条件は満足される。
一方、図4の紙面内では、回折格子が頂角βの倍の偏角を以て回折する波長が選択される。即ち、この場合のブラッグ条件は、以下の(式11)に変更され、同一の入射角θ+δの下での選択波長λは、上述(式1’)による値から、cosβだけ小さくなる。
図4に示すように、選択波長λにおいて、円錐レンズ309の上側斜辺からの光が同下側斜辺に、下側斜辺からの光は同上側斜辺に回折され帰還される。図では、回折点が斜入射する回折格子307の表面から離脱しているが、距離中央306に至る伝搬長zmax/2は、一般に回折格子の大きさより十分大きいので、この離脱は無視できる。
かくして、図4に示した構成において、利得媒質101(図2参照)を出射し集光レンズ102(図2参照)によりコリメートされた光が、円錐レンズ309を通過し、電気光学偏向器(図2参照)による偏向作用を受けた後、共振器光軸301上の距離中央306に位置するリトロウ型の回折格子307による回折を受け、復路は、電気光学偏向器103(図2参照)による偏向作用を受けた後、円錐レンズ309に戻り、集光レンズ102(図2参照)により利得媒質101(図2参照)に帰還される。
図5は、リットマン型の波長フィルタにおける端面鏡位置の例を示す図である。
リットマン型では、共振器光軸401を回折格子407による回折方向に延長した線と端面鏡408の交点が、光軸上の延長線上、距離中央306の対蹠点に一致するように配置する。対蹠点とは、光軸上の点に対して、回折方向上で対応する点をいう。すなわち、回折しない場合の光軸上のある点までの光路長と同じ光路長となる回折方向上の点をいう。
これにより、図5の紙面に垂直な方向での帰還条件は満足される。
一方、図5の紙面内では、端面鏡408が非零の入射角β´を持ち、回折格子407の入出射光が頂角βの倍の偏角を持つ波長が選択される。即ち、この場合のブラッグ条件は、以下の(式12)に変更される。
図5に示すように、選択波長λにおいて、円錐レンズ409の上側斜辺からの光が同下側斜辺に、下側斜辺からの光は同上側斜辺に回折され帰還される。図では、回折点が斜入射する回折格子407の表面から離脱しているが、距離中央406に至る伝搬長zmax/2は、一般に回折格子の大きさより十分大きいので、この離脱は無視できる。
かくして、図5に示した構成において、利得媒質101(図2参照)を出射し集光レンズ102(図2参照)によりコリメートされた光が、円錐レンズ109を通過し、電気光学偏向器103(図2参照)による偏向作用を受けた後、共振器光軸401上の回折格子407による回折を受け、距離中央406の対蹠点に位置する端面鏡408で反射された後、復路は、回折格子407により回折され、電気光学偏向器103(図2参照)による偏向作用を受けた後、円錐レンズ109に戻り、集光レンズ102(図2参照)により利得媒質101(図2参照)に帰還される。
以上説明した波長掃引光源では、小寸法で電荷注入を伴う光偏向器に非回折的なベッセル光線を通過させるので、光偏向器によるケラレを抑え、同時に、光偏向器後段の回折格子への入射光束の波数分布とコア部分の径との連関を断つことができるので、回折格子への入射光束の直径を等価的に増してコヒーレンス長を改善できる。
以上の実施形態では、波長掃引光源の基本構成とその動作、端面鏡(リトロウ型の場合は回折格子)の望ましい位置を詳らかにしたので、以下では、波長掃引光源の実施例について数値を挙げて説明する。
図6はリトロウ型の波長掃引光源の構成例を示す図である。本実施例では、図6に示すリトロウ型の波長掃引光源を構成し本発明の効果を例証した。利得媒質101としては、波長1.3μm帯の半導体光増幅器を用いた。半導体光増幅器は、空間放射側の端面が斜めに劈開され、この端面からの反射が低減されている。他方の端面には、反射率10%の出力結合鏡110が蒸着されており、光増幅器モジュールに内蔵された結合レンズ111を介して、出力光が単一モード光ファイバ112に結合されて得られる。
かかる半導体光増幅器の空間放射端側に、焦点距離3.1mmの非球面レンズ102を集光レンズとして用い、水平(TE)方向1.5mm、垂直(TM)方向2.7mmのコリメート光を得た。ここで、縦横比が1から乖離するのは、半導体光増幅素子内の導波路構造に起因している。続く円錐レンズ109としては、傾斜角0.5度を有する石英ガラス製を用いた。該ガラスの波長1.3μmにおける屈折率は1.44692であり、(式7)に従って、頂角βが0.224°と計算される。その結果、円錐レンズ109を通過することにより、半径rcore=127μmのコアを有するベッセル光線が生成される。
生成されたベッセル光線を、結晶厚1.0mmのKTN電気光学偏向器103を経て、リトロウ型の回折格子107に入射させ、共振器を終端した。該回折格子は、刻線数Λ-1=1200/mmを有し、回折次数m=1で用いた。
(式10)によれば、距離中央までの伝搬長zmax/2は、水平方向のビーム径に対して96mm、垂直方向のビーム径に対して172mmと算定される。両者が相等しくないため、上述した望ましい回折格子位置を完全に履行することはできなかった。次善の策として、ここでは、それらの平均値に近い130mmの伝搬長の位置に、回折格子107を設置した。
(式11)の示す通り、52.6°の入射角の下で、波長1.325μmにおけるレーザ発振が生じ、その際の半導体光増幅器への直流電流の閾値は、70mA程度であった。かかるレーザ発振状態で、共振器内の波長フィルタの幅の推定は困難である。
そこで、閾値未満の電流を注入した状態で、単一モード光ファイバ112から出力されるASE(増幅された自然放出光)スペクトルの観測を行った。共振器周回分の利得スペクトルをG(λ)と書くと、光帰還の存在下でのASEスペクトルは、下記(式13)のように表される。
ここで、S(λ)は無帰還時のASEスペクトルであり、Lは共振器長を表す。
上記(式13)の右辺分母の三角関数の周期が、共振器のファブリ・ペローモードの繰返しを与えている。ここで注意を要するのは、このファブリ・ペロースペクトルは今の場合到底分解できないのであって、実際に観測されるのは、それを均した局所的な平均値に過ぎないことである。かかる事情を考慮すると、観測されるASEスペクトルの表式として、下記(式14)を得る。
すなわち、無帰還時のASEスペクトルと共振器構成後のASEスペクトルを測定すれば、共振器の周回利得スペクトルG(λ)が算定できる。半導体光増幅器固有の利得スペクトルが共振器内の波長フィルタの幅に比して十分広ければ、被測定スペクトルG(λ)の幅を後者の幅と見做せ、また、G(λ)のピーク値は共振器利得を与える。レーザ発振時には、この共振器利得が1となり、上の(式14)が発散してしまうために、既述の如く、波長フィルタの幅が測定不能となる。
図7は、実施例1において測定されたフィルタ関数を示す図であり、上記方法による測定結果である。図7中、破線502は、従来例技術の直径0.5mmのガウス光線の下で測定された、半導体光増幅器への注入電流50mAでの共振器利得スペクトルであり、そのフィルタの幅は2.47nmと読み取られる。因みに、(式3’)の与える値は2.0nmであり、本実測値との一致は悪くない。一方、同図中、実線で描かれた4本のカーブ501は、下から順に注入電流45、50、55、60mAの下で測定された、実施例1の構成における共振器利得スペクトルである。それらスペクトルの幅は、等しく1.68nmと読み取られる。即ち、非回折的なベッセル光線を共振器内で用いる本発明構成によって、共振器フィルタ関数が明らかに狭窄化されている。これにより、従来例に比して、50%(低繰返し時)から30%(高繰返し時)、コヒーレンス長が改善されるのである。
同一の注入電流50mAに対する共振器利得を、従来例技術のガウス光線と、実施例1の非回折的なベッセル光線の間で比較すると、後者は6.7dB小さい。すなわち、非回折的なベッセル光線を用いることにより、往復で6.7dBの損失が生じている。上述した、入射パワーからコア内のパワーへの変換効率η((式9))は、本実施例の場合、最大数%(−14dB)のオーダーであるから、該効率から予想される程には、ロスは大きくはない。それでも、6.7dBものロスに抗して発振できる利得媒質101は、半導体光増幅器とパラメトリック光増幅器等であるが、産業上の観点から、半導体光増幅器が特に利便性に優れる。
(第2の実施形態)
図2に示すような波長掃引光源において、共振器内でベッセル光線を用いる場合、光偏向器によるケラレが、唯一の損失原因ではない。片端が波長フィルタで終端された共振器内を光が往復する際、波長フィルタから帰還された光が復路で円錐レンズに達して、通常の回折光に戻され、集光レンズを経て利得媒質に帰ることが必要である。ここで、利得媒質に帰った時点の光電界分布が、利得媒質固有の空間モードから乖離していると、損失が生じる。かかる損失を抑えるために、第1の実施形態では、円錐レンズの頂点から上記波長フィルタ内の終端までの距離lを、(式15)を満たすように定めている。
(式15)において、wは円錐レンズ109に集光レンズ102側から入射する光線の半径であり、βは円錐レンズの頂点近傍から電気光学偏向器103に向かう光線波面の動径方向の傾きである。光線の半径wは、利得媒質101からの出射光の拡がり角と集光レンズ102の焦点距離により決定され、一方光線波面の動径方向の傾きβは、円錐レンズ109の円錐の母線が光軸に垂直な面と成す傾斜角αと、円錐レンズ109の屈折率によって決まる。
ところが、利得媒質101として典型的に用いられる半導体光増幅器では、光導波路の幅が、注入電流を流す方向とそれに直交方向で異なっており、その結果、出射光の拡がり角は、それら二方向間で大きな差異を持つ。通常、集光レンズ102は異方性を持たないので、出射光の拡がり角にその焦点距離を乗じて得られるビーム径は、二方向で異なり、円錐レンズ109に断面強度分布が楕円形状を呈する光線が入射することになる。かかる光線において、(式15)を適用するに当たって、半径wに楕円の短径の値を用いるべきか、はたまた、長径の値を用いるべきか、相反する状況に陥る。
さらに、半導体光増幅器からの出射光の拡がり角には、個体によるばらつきが免れず、その仕様の中心値に、集光レンズ102の焦点距離を乗じて算出されるwが、特定の個体の実態に合致することは保証されない。一方、βは円錐レンズ109の傾斜角αとその屈折率、即ち波長によって、その値が固定されている。加えて、円錐レンズ109から共振器端までの距離lは設計時に決定され、個々の波長掃引光源装置内で、可変なように構成されることは通常ない。即ち、(式15)の条件を満たしつつ、出射光の拡がり角のばらつきを吸収する余地がなく、拡がり角のばらつきによって、(式15)の条件を個々の光源装置が満たすとは限らない。
第2の実施形態の波長掃引光源では、(式15)の条件を、利得媒質を出射する楕円形状のビーム形状の方向に依らず満足させ、さらに、円錐レンズから共振器端までの距離l自体を調整することなく、(式15)の条件に合わせ込む手段を提供することで、損失を抑制し、コヒーレンス長の改善された高効率な波長掃引光源を供給することを可能としている。
すなわち、第2の実施形態の波長掃引光源は、利得媒質と回折格子とを有する共振器内に、利得媒質と回折格子との間に配置された電気光学偏向器と、利得媒質と電気光学偏向器との間に、その頂点が電気光学偏向器の側を向くように配置された円錐レンズとを備える第1の実施形態の波長掃引光源において、利得媒質と円錐レンズとの間に、光線の断面強度分布を真円に近づけるビーム整形光学系が挿入された構成を備えている。
本実施形態においては、利得媒質から出射され円錐レンズに入射される光線を、非平行光線、即ち波面の曲率が非零である光線となるようにし、さらにその波面の曲率を連続的に加減できるように構成するのが望ましい。円錐レンズの頂点から共振器端までの距離lは、非平行光線の半径(ビーム径)w、非平行光線の波面の曲率半径R、および円錐レンズの頂点近傍から電気光学偏向器に向かう光線波面の動径方向の傾きβを含む(式16)を満たすことが、過剰な損失の発生を防ぐ観点から好ましい。
非平行光線の波面の曲率半径Rを調整すれば、(式16)は常に満たされ得る。共振器の端点は、リトロウ型の共振器では回折格子、リットマン型の共振器の場合は端面鏡の表面に相当する。
また、本実施形態の波長掃引光源では、ビーム整形光学系としてアナモルフィックプリズム対を用いることが好ましい。アナモルフィックプリズム対は、特殊な設備が不要で、とりわけ実用的だからである。また、利得媒質として、大利得の得られる半導体光増幅器を用い、利得媒質から共振器内の空間へ出力されるの放射光を集光レンズによって集光することが好ましい。半導体光増幅器と集光レンズの間の距離を調整して、容易に、円錐レンズに入射する光線の曲率を連続的に加減することができるからである。
第2の実施形態で用いられるビーム整形光学系は、利得媒質から出射される光線の断面強度分布を真円に近づける、すなわち利得媒質から出射される光線のビーム形状を楕円形状から真円に変換するように構成された光学系である。この真円化の手段には、公知の手段を自由に用いることが出来る。例えば、注入電流に平行の、導波路が薄く拡がり角の大きい方向に、ロッドレンズを挿入して両方向の拡がり角を等化した後、集光レンズに入射する方法がある。ロッドレンズの調整・固定に特殊なマニプレーターを要するが、アナモルフィックプリズム対は、特殊な設備が不要で、とりわけ実用的である。
ビーム整形光学系を用いてビーム形状の真円化を図ることにより、(式15)を満たす距離lが一つに決められる。ここで、製造の現実に目を向けると、距離lは、波長掃引光源の設計段階で、或る値に決定され、機械精度の範囲内で繰返し再現される。傾き角βについても、円錐レンズの傾斜角と波長により決定され、安定して再現される。ところが、光線の半径wについては状況が異なり、利得媒質の個体毎・ロット毎のばらつきが大きい。光線の半径wは、導波路からの拡がり角に左右され、特に、導波路が薄い方向への放射光の拡がり角は再現性に劣る。薄い導波路の寸法精度が関わるからである。
すなわち、波長掃引光源装置の製造時に、利得媒質の拡がり角のばらつきを吸収できる調整要素が必要となる。本発明者は、これへの解決策を考究し、円錐レンズの背面を照射する光線の波面の曲率半径Rがかかる調整要素となり得ることを見出した。すなわち、かかる光線の波面の曲率半径Rを取り入れると、(式15)が(式16)に拡張される。固定された距離lと傾き角βの下で、光線の半径wが変動しても、波面の曲率半径Rを調整することで(式16)を満たすように対応できる。しかも、利得媒質が半導体光増幅器の場合、その端面と集光レンズの間の距離を変化させれば、出射される光線の波面の曲率半径Rを極めて容易に変更することができる。
図8は、第2の実施形態の波長掃引光源の構成を示している。第2の実施形態の波長掃引光源は、図8に示すように、図2に示す第1の実施形態の波長掃引光源の構成において、利得媒質101と円錐レンズ109との間に、光線の断面強度分布を真円に近づけるビーム整形光学系であるアナモルフィックプリズム対106が挿入されて構成されている。利得媒質101としては、半導体光増幅器が用いられている。
第2の実施形態の波長掃引光源では、利得媒質101は、集光レンズ102、アナモルフィックプリズム対106、並びに円錐レンズ109を経て、電気光学偏向器103、更に、後続する回折格子107および直入射する端面鏡108からなる波長フィルタに結合されている。円錐レンズ109は、その頂点が電気光学偏向器103を向くように設置される。利得媒質101と集光レンズ102の間のレンズ距離105は、少なくとも共振器の調整時に、集光レンズ102の焦点距離の前後で連続的に可変できるように構成されている。利得媒質101の他端には、出力結合鏡110が蒸着されており、かくして出力結合鏡110と端面鏡108を両端とする光共振器が構成され、かかる光共振器によるレーザ作用による出力光が、結合レンズ111を介して出力光ファイバ112に結合されて得られる。
電気光学偏向器103には、制御電圧源104からの電圧が印加され、電圧により紙面内上下方向に電界が発生し、この電界の方向に光が偏向される結果、後続する回折格子107への入射角が、制御電圧源104からの印加電圧に依存して変化する。かくして、波長フィルタの選択する波長が、印加電圧に応じて変化し、可動部の介在なしに、高速な波長変化が可能な波長可変光源が実現される。
図9は、第2の実施形態の波長掃引光源の円錐レンズによるビーム成形を示している。図9では、図8の構成と左右が逆に示されている。図9は、図8に示した波長掃引光源の構成において、利得媒質101から出射し集光レンズ102により集光された、一般的には非平行な光線が、円錐レンズ109を通過し電気光学偏向器103に向かう往路を、部分的に抜出して示している。図9において、円錐レンズ109には、集光光が平坦な側から入射する。光の電界分布を入射光電界強度分布203と、入射光波面207として図示した。この電界強度分布203および波面207の中心は、円錐レンズ109の中心に一致し、これら二者は何れも往路光軸201上にある。
円錐レンズ109の円錐の母線は、光軸に垂直な面と傾斜角α209を成すように形成されている。これにより円錐レンズ109の頂点202を出射した光は、光軸201周りに取った円筒座標系で動径方向に、頂角β≒(n−1)αを以て光軸201と交わる。ここで、nは円錐レンズ109の波長における屈折率を表す。
非平行光が、中心電界E0、半径w、波面の曲率半径Rのガウス光束である場合、光軸201近傍における光電界は近似的に、(式17)で表される。
(式17)において、ρは円筒座標の動径、zは光軸上の伝搬距離であり、円錐レンズ109の頂点に原点が取られている。(式17)は、波面が平坦(R→∞)の場合、(非特許文献5)に示されている式(式8)に帰着する。入射光電界強度分布203は、動径方向には零次のベッセル関数J0で表され、零次のベッセル関数の原点周りの山が光線のコアを与える。コアの半径rcoreは、例えば、傾斜角α=0.5°、波長1.3μm(頂角β=0.224°)の場合、127μmと細くなり得る。
図10は、図9に示す光線の伝搬長に依存するコア径と変換効率を示す図であり、図10(a)には、コア径を伝搬距離zの関数として図示した。波面が平坦(R-1=0)な場合、コア径は伝搬に伴って不変である。一方、波面の曲率半径Rが正(R-1>0、図中の曲線はR=480mm)の場合、コア径は緩やかに増加する。しかし、これは回折による拡がりではない。その証拠に、波面の曲率半径Rが負(R-1<0、図中の曲線はR=−480mm)に対しては、コア径はむしろ徐々に減少する。これら一群の光線は、初期半径が等しい通常のガウス光線の半径が伝搬に伴い回折で広がるの(図中点線の曲線)と著しい対照を成し、それらが非回折的と称される所以となっている。
入射光のパワーのうち如何程が光線のコア内のパワーに変換されるかの変換効率ηを計算すると(式18)を得る。(式18)中、j0,1は零次のベッセル関数J0の最初の零点、J1は1次のベッセル関数を表す。
ここで、伝搬に関る新たな変数ζは(式19)で示される。
(式18)に示すように変換効率ηは、変数ζを介して光軸上の伝搬長zに依存するが、変換効率ηが最大となる伝搬長zcは(式20)で与えられる。
図10(b)には、この変換効率ηを伝搬距離zの関数として示した。円錐レンズ109の母線の傾斜角α=0.5°、波長1.3μmに加えて、円錐レンズ109に入射する光線の半径wの値に、1.0mmを用いて、効率を計算してある。図10(b)中の各曲線に対する波面の曲率半径Rの値は、図10(a)に準じている。変換効率ηの最大値自体はRに依らず一定だが、その最大値が現れる伝搬長がRによって変化する。即ち、波面の曲率が正(R-1>0)の場合、より遠くで効率が最大に達し、負(R-1<0)の場合、最大効率の地点が近づく。
波面が平坦(R-1=0)な場合、図9において、かかる変換効率ηの最大点に幾何光学的意味付けを与えることができる。即ち、円錐レンズ109の上下で、入射高がwに等しい光線が、光軸上で交差する点までの伝搬長zmaxを、有効範囲205と称する。入射高がwに等しい光線が、光軸上で交差する点以遠では、効率が殆ど零に低下するからである。一方、効率が最大となる伝搬長zcを範囲中央206と呼称すると、zc=zmax/2が成り立つ。もし、第二の円錐レンズを、上記有効範囲205右端の光軸上に頂点が来るように、元々の円錐レンズ109に相対して置いたとすると、第二の円錐レンズの背面(平坦な面)上に、元々の円錐レンズ109に当初入射した光電界分布203が、再現される。即ち、波面が平坦な場合、非回折的な光線の伝搬は、範囲中央206に対して左右対称である。
波面が平坦でない場合、上の関係:zc=zmax/2は最早成立しない。この場合、円錐レンズ109への入射高によって、光軸との交差角が異なり、それが頂角βに等しくなるのは円錐レンズ109の頂点近傍を通過した光線のみだからである。しかしながら依然、範囲中央206において、波面の曲率を反転させれば、範囲中央206に対して左右対称な非回折的な光線の伝搬を実現できる。
第2の実施形態の波長掃引光源では、回折格子107および端面鏡108からなる波長フィルタから帰還された光が、円錐レンズ109を経た後、集光レンズ102により利得媒質101に集光される必要がある。そのためには、端面鏡108が、Rに等しい曲率半径を持ち(R>0ならば凹面鏡、R<0ならば凸面鏡)、かつ範囲中央207に位置せねばならない。これは、波長フィルタが単なる鏡として働く図8の紙面に垂直な方向では、自明である。リトロウ型の場合、端面鏡108がないので、回折格子がRに等しい曲率半径を持つように構成することができる。
一方、波長フィルタが波長分散を呈する図8の紙面内については、リトロウ型の波長フィルタ系に即して、図11を用いて詳述する。図11は本実施形態で推奨される、リトロウ型波長フィルタにおける回折格子位置を示す図である。図11では、図8の構成と左右が逆に示されている。
リトロウ型では、回折格子107が端面鏡の役も果たす。従って、回折格子107と共振器光軸301の交点が、光軸上、範囲中央306に一致するように配置する。これにより、図11の紙面に垂直な方向での帰還条件は満足される。
一方、図11の紙面内では、回折格子が頂角βの倍の偏角を以て回折する波長が選択される。即ち、この場合のブラッグ条件は、以下の(式11)となる。
(式11)において、角θは回折格子への入射角、同δはKTN光偏向器による偏向角であり、Λは回折格子のピッチ、mは回折次数である。
図11では、かかる波長において、円錐レンズ109の上側斜辺からの光が同下側斜辺に、下側斜辺からの光は同上側斜辺に回折され帰還される。図11では、回折点が斜入射する回折格子107の表面から離脱しているが、範囲中央306に至る伝搬長zcは、一般に回折格子の大きさより十分大きいので、この離脱は無視できる。
かくして、図11に示した構成において、利得媒質(図示せず)を出射し集光レンズ(図示せず)によりコリメートされた光が、円錐レンズ109を通過し、電気光学偏向器(図示せず)による偏向作用を受けた後、共振器光軸301上の範囲中央306に位置するリトロウ型の回折格子107による回折を受け、復路は、電気光学偏向器(図示せず)による偏向作用を受けた後、円錐レンズ109に戻り、集光レンズ(図示せず)により利得媒質(図示せず)に帰還されるのである。
リットマン型の波長フィルタにおける、本発明で推奨される端面鏡位置も、同様の考察から容易に求められる。すなわち、共振器光軸301を回折格子107による回折方向に延長した線と端面鏡の交点が、光軸301上の延長線上、範囲中央306の対蹠点に一致するように配置するのが良い。これにより、紙面に垂直な方向での帰還条件は満足される。
一方紙面内では、端面鏡が非零の入射角β´を持ち、回折格子107の入出射光が頂角βの倍の偏角を持つ波長が選択される。即ち、この場合のブラッグ条件は、以下の(式12)に変更される。
かかる波長において、円錐レンズ109の上側斜辺からの光が同下側斜辺に、下側斜辺からの光は同上側斜辺に回折され帰還される。
かくして、利得媒質を出射し集光レンズによりコリメートされた光が、円錐レンズ109を通過し、電気光学偏向器による偏向作用を受けた後、回折格子107による回折を受け、共振器光軸301上の範囲中央306に位置する端面鏡で反射され、復路は、回折格子107により回折され、該電気光学偏向器による偏向作用を受けた後、円錐レンズ109に戻り、集光レンズにより該利得媒質に帰還されるのである。
上の場合、共振器端の光学素子(リトロウ型にあっては回折格子107、リットマン型に於いては端面鏡108)は、波面の曲率半径Rに等しい曲率を持つのが理想である。しかしながら、例示した如き数10cmオーダーの曲率半径Rを、折り返し端迄高々10cm程度の共振器に用いる場合、より安価・簡便な平面回折格子や平面鏡で代用できる。逆に、波面の特定の曲率半径に厳密に合せた曲面素子を用いると、曲率半径Rが固定されてしまう結果になり、以下に述べるような、波面の曲率半径Rを調整して、範囲中央306に至る伝搬長zcを、共振器中の円錐レンズ109から折り返し端面までの光路に沿った長さlに合わせ込むという本発明の趣旨に違背することになる。
非回折的な光線が回折格子107により回折された電界を近似的に算出すると、波数K=(2π/Λcosθ)((λ−λ0)/λ0)の関数として(式21)で表される。ここでλ0は、中心波長を表す。
(式21)において、Γはガンマ関数、また、変数w’=w(1+z/R)、並びにK±=K±ksinβ/(1+z/R)を新たに導入した。関数g(k)は、合流型超幾何関数の一種であり、(式22)で定義される。
(式22)の関数は、g(0)=1に規格化されており、その絶対値の全半値幅(FWHM)は約5.40である。上(式21)式に徴すると、回折格子107により分散された波数スペクトルは、±ksinβ/(1+z/R)にピークを持ち、双峰的となる。これら2つのピーク間の開きは、非回折光のコアの半径rcore=j0,1(1+z/R)(ksinβ)に反比例している。一方、各ピーク周りの波数分布の拡がり(FWHM)は、5.40/w’となる。即ち、回折格子107を含む波長フィルタの濾波能は、元々のベッセル光線を生成する際、円錐レンズを照射した光線のコアの半径(ビーム径)wにその曲率半径Rを加味した等価半径w‘で完全に決まるのである。この半径w’を用いて、(式15)を書き直し(式15’)を得る。
本式(式15’)から、以下が言える。或る半径waについて、上式(15)を満たすように、円錐レンズから共振器端までの距離lを決めたとしよう。次に、異なるwbに、同一の距離lを適応させるために、円錐レンズへのビームの曲率半径Rを調整したとする。調整後の等価半径はwaになり、回折格子を含む波長フィルタの濾波能は、両者で全く同一になる筈である。換言すれば、曲率半径Rによる調整は、波長フィルタの濾波能の均一化にも有効である。
第2の実施形態の波長掃引光源によれば、小寸法で電荷注入を伴う電気光学偏向器に非回折的なベッセル光線を通過させ、該光偏向器によるケラレを抑え、同時に、該光偏向器後段の回折格子への入射光束の波数分布と該コア部分の径との連関を断って、回折格子への入射光束の直径を等価的に増してコヒーレンス長を改善し、その際、ベッセル光線の光帰還に関る過剰な損失の発生を防ぐ調整要素が付加され、その結果、高効率・低雑音の光源が実現されるので、工業的に大きな効果が得られる。
図12は第2の実施形態におけるリトロウ型の波長掃引光源の構成例を示す図である。本実施例では、図12に示すリトロウ型の波長掃引光源を構成し、本発明の効果を例証した。また、参考例として図6の波長掃引光源を構成した。図6の構成において円錐レンズ109がない構成を従来例として比較のために構成した。
利得媒質101としては、波長1.3μm帯の半導体光増幅器を用いた。半導体光増幅器は、空間放射側の端面が斜めに劈開されることにより、端面からの反射が低減されている。他方の端面には、反射率10%の出力結合鏡が蒸着されており、光増幅器モジュールに内蔵された結合レンズを介して、出力光が単一モード光ファイバに結合されて得られる。
半導体光増幅器の空間放射端側に、焦点距離3.1mmの非球面レンズを集光レンズ102として用い、水平(TE)方向0.6mm、垂直(TM)方向1.2mm(何れも半径)のコリメート光を得た。ここで、縦横比が1から乖離するのは、前述の如く半導体光増幅素子内の導波路構造に起因している。
次いで、参考例として構成された波長掃引光源では、続く円錐レンズ109としては、傾斜角α=0.5°を有する石英ガラス製を用いた。ガラスの波長1.3μmにおける屈折率nは1.447であり、頂角β≒(n−1)αが0.224°と計算される。その結果、円錐レンズ109を通過することにより、半径rcore=127μmのコアを有するベッセル光線が生成される。
生成したベッセル光線を、結晶厚1.0mmのKTN電気光学偏向器を経て、リトロウ型の回折格子に入射させ、共振器を終端した。回折格子は、刻線数Λ-1=1200/mmを有し、回折次数m=1で用いた。
(式15)によれば、円錐レンズの頂点から共振器終端、この場合回折格子迄の距離lは、水平方向のビーム径に対して77mm、垂直方向のビーム径に対して153mmと算定される。両者は相等しくないため、何処に回折格子を置いても、望ましい帰還条件を満足することはできない。ここでは、水平方向の値に近い90mmの位置に、回折格子を設置した。
回折格子への52.6°の入射角の下で、波長1.325μmにおけるレーザ発振が生じ、その際の半導体光増幅器への直流電流の閾値は、80mA程度であった。かかるレーザ発振状態で、共振器内の波長フィルタの幅の推定は困難である。
そこで、閾値未満の電流を注入した状態で単一モード光ファイバから出力されるASE(増幅された自然放出光)スペクトルの観測を行った。共振器周回分の利得スペクトルをG(λ)と書くと、光帰還の存在下でのASEスペクトルは、(式23)のように表される。
ここで、S(λ)は無帰還時のASEスペクトルであり、Lは共振器長を表す。
(式23)の右辺分母の三角関数の周期が、共振器のファブリ・ペローモードの繰返しを与えている。ここで注意を要するのは、このファブリ・ペロースペクトルは今の場合到底分解できないのであって、実際に観測されるのは、それを均した局所的な平均値に過ぎないことである。かかる事情を考慮すると、実際観測されるASEスペクトルの表式として、(式24)を得る。
すなわち、無帰還時のASEスペクトルと共振器構成後のASEスペクトルを測定すれば、共振器の周回利得スペクトルG(λ)が算定できる。上記半導体光増幅器固有の利得スペクトルが共振器内の波長フィルタの幅に比して十分広ければ、被測定スペクトルG(λ)の幅を後者の幅と見做せ、また、G(λ)のピーク値は共振器利得を与える。レーザ発振時には、この共振器利得が1となり、(式24)が発散してしまうために、上述した如く、波長フィルタの幅が測定不能となる。
図13は、実施例2において測定されたフィルタ関数を示す図であり、上記方法による測定結果である。
図13中、点線505は、従来例の構成において直径0.5mmのガウス光線に対して測定された、半導体光増幅器への注入電流50mAでの共振器利得スペクトルであり、そのフィルタの幅は2.47nmと読み取られる。一方、図13中、破線504は、同一の注入電流下で、ベッセル光線を用いる図6の波長掃引光源において測定された共振器利得スペクトルである。このスペクトルの幅は、1.68nmと読み取られる。即ち、非回折的なベッセル光線を共振器内で用いることによって、共振器フィルタ関数が明らかに狭窄化されている。しかしながら、望ましい帰還条件を満足できないと、図13の破線504に示すように共振器利得ピークが0.63から0.11まで低下することがある。
ここで、実施例2の波長掃引光源では、図12に示すように、図6の波長掃引光源の構成において集光レンズ102と円錐レンズ109の間に、公称倍率2×のアナモルフィックプリズム対106が挿入されている。アナモルフィックプリズム対106は、SF6ガラス製の60°直角プリズム2個が、所定のビーム拡大率を得る相対角度に保持・固定され一体化された構成である。各直角プリズムには、汎用的な減反射光学膜がコーティングされている。かかるアナモルフィックプリズム対単体の挿入損は、別個に0.5dBと実測されている。
図13中、実線で描かれた2本のカーブ503は、実施例1および実施例2の構成における共振器利得スペクトルである。何れも、注入電流50mAの下で測定されている。うち、細線が、アナモルフィックプリズム対106を垂直(TM)方向にビーム径を縮小するように挿入した後の利得スペクトルであり、利得スペクトルの幅は1.68nmと変化がなかった。一方、共振器利得ピークを見ると、挿入前の0.11から0.33まで増加している。即ち、円錐レンズ109に入射する光線のビーム形状の円形化により、望ましい帰還条件に近づき、ベッセル光線への変換に伴う過剰損失が、2.8dBまで低下した。仮にアナモルフィックプリズム対106が理想的で、それ自体の挿入損がなければ、さらに過剰損失2.3dB迄の低減が見込まれた所である。
ここでさらに、半導体光増幅器の空間放射端と集光レンズ102の距離105を、共振器利得が最大になるように調整した。かくして得た利得スペクトルを、本発明実施例1によるフィルタ関数503の太線として描き込んである。利得ピークが0.36まで上昇し、同時に、スペクトルの幅が1.60nmと僅かながら狭まっている。
狭窄化されたフィルタ幅から推し量るに、共振器終端(この場合回折格子)迄の距離lが、円形化された円錐レンズ照射ビームの径に対して過大であった。それを、照射ビーム波面に正の曲率を付与し拡散ビームとすることで、等価半径w’としては適切な値に調整されたと考えられる。
以上述べたように、実施例2では第2の実施形態に示すように非回折的なベッセル光線を共振器内で効率良く用いる構成によって、共振器フィルタ関数が明らかに狭窄化されていることが明らかになった。これにより、従来例のガウス光線に比して、35%(低繰返し時)から25%(高繰返し時)、コヒーレンス長の改善が見込める。
同一の注入電流50mAに対する共振器利得を、従来例のガウス光線と、実施例2の間で比較すると、後者は2.4dB小さい。すなわち、非回折的なベッセル光線を用いることの代償は、往復で2.4dBの損失増加である。しかしながらこの程度の損失ならば、用いた半導体光増幅器の注入電流を5mA増して、容易に補償可能であった。このように、かなりのロスに抗して発振できる利得媒質は、半導体光増幅器とパラメトリック光増幅器等に限られ、産業上の観点からは、半導体光増幅器が特に実用性に優れるのである。