本発明は、組換えタンパク質である可溶性タンパク質の効率的な製造方法に関するものであって、調節可能な自己会合力を有するペプチドが可溶性タンパク質に付加されてなる融合タンパク質を、ペプチドの自己会合力を調節して、沈殿化及び可溶化して回収することを含む。
本発明は、以下の工程(a)〜(c)を含む:
(a)調節可能な会合力を有するペプチドを可溶性タンパク質のN末端及びC末端の両方又はいずれか一方に付加されてなる融合タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターを含む形質転換体を培養する工程、
(b)形質転換体を回収し、ペプチド領域同士が強い会合力を発揮する条件の水溶液中にて細胞を破砕し、該融合タンパク質を含む沈殿画分を回収する工程、ならびに、
(c)該沈殿画分を、ペプチド領域同士が会合能を失うか又は会合力が弱くなる水溶液中に懸濁し、該融合タンパク質を抽出し、可溶性画分中にある該融合タンパク質を回収する工程。
一実施形態において、本発明は以下の工程(a)〜(c)を含む:
(a)ジオールデヒドラターゼのβサブユニットのN末端の連続する少なくとも20アミノ酸残基を含むペプチドとジオールデヒドラターゼのγサブユニットのN末端の連続する少なくとも16アミノ酸残基を含むペプチドからなる群から選択されるペプチドが、可溶性タンパク質のN末端及びC末端の両方又はいずれか一方に付加されてなる融合タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターを含む形質転換体を培養する工程、
(b)形質転換体を回収し、弱酸性〜中性域のpH値を有する塩の水溶液中にて細胞を破砕し、該融合タンパク質を含む沈殿画分を回収する工程、ならびに、
(c)該沈殿画分を中性域〜弱アルカリ性のpH値を有する水溶液中に懸濁し、該融合タンパク質を抽出し、可溶性画分中にある該融合タンパク質を回収する工程。
本発明において「可溶性タンパク質」とは、水溶性又は親水性のタンパク質であればよく、特に限定はされず、いずれの可溶性タンパク質であってもよい。また、可溶性タンパク質には、水溶性又は親水性のタンパク質である限り、一以上のタンパク質及び/又はペプチドをさらに含むキメラタンパク質も含まれる。本発明における「可溶性タンパク質」としては、好ましくは2量体以上のタンパク質、より好ましくは少なくともホモ2量体以上のタンパク質を構成する単量体を利用することができる。単量体が多量体化することによって、付加されたジオールデヒドラターゼのβサブユニット又はγサブユニットに由来するペプチドの効果が高まり、当該タンパク質の回収がより容易となる。本発明において利用可能な「可溶性タンパク質」としては、例えば、グルコースオキシダーゼ、ヘミセルラーゼ、ラクターゼ、L−アミノ酸アミノ基転移酵素(芳香族アミノ酸アミノ基転移酵素や分岐鎖アミノ酸アミノ基転移酵素を含む)、D−アミノ酸アミノ基転移酵素、カテコールオキシダーゼ、チロシナーゼ、β−グルコシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−マンノシダーゼ、β−キシロシダーゼ、デアミダーゼ、グルコースイソメラーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、ペニシリンアシラーゼ、リパーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、α−グルコシダーゼ、α‐アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、セルラーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、デキストラナーゼ、フィターゼ、パーオキシダーゼ、DNAポリメラーゼ、アスパルターゼ、グルタミン(アスパラギン)合成酵素、アスパラギン酸デカルボキシラーゼ、チロシンフェノールリアーゼ、トリプトファナーゼ、シスラインデスルフヒドラーゼ、グリシンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ、トリプトファン合成酵素、トリアシルグリセロールリパーゼ、αガラクトシダーゼ、βガラクトシダーゼ、ペクチナーゼ、グルタミナーゼ等が挙げられるが、これらに限定はされない。
本発明において、「調節可能な自己会合力を有するペプチド」としては、ジオールデヒドラターゼのβサブユニット及び/又はγサブユニットに由来するペプチドが挙げられる。
本発明において、「ジオールデヒドラターゼ」とは、当技術分野で通常用いられる意味を有し、すなわち、1,2−ジオールを脱水して対応するアルデヒド及び水へ変換する反応を、アデノシルコバラミン(補酵素B12)依存的に触媒する活性を有する酵素である。ジオールデヒドラターゼは、60kDa、30kDa及び19kDaの3つのサブユニット(それぞれαサブユニット、βサブユニット及びγサブユニット)を含む。ジオールデヒドラターゼにおいては、α、β、γサブユニットと補酵素が会合することにより、酵素活性が発揮される。
ジオールデヒドラターゼは、上記酵素活性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、Lactobacillus属、Citrobacter属、Clostridium属、Klebsiella属、Enterobacter属、Caloramator属、Salmonella属及びListeria属等に属する細菌に由来するものが挙げられる。
本発明においては、ジオールデヒドラターゼのβサブユニット及び/又はγサブユニットに由来するペプチドを、上記可溶性タンパク質のN末端及びC末端の両方又はいずれか一方に付加することによって、可溶性タンパク質の弱酸性〜中性域のpH値を有する塩の水溶液に対する溶解性を低減させることができる。
ジオールデヒドラターゼのβサブユニット及びγサブユニットのアミノ酸配列及び各サブユニットをコードする遺伝子の塩基配列は、公開されたデータベース、例えば、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)に登録されており(例えば、アクセッション番号:D45071等)、本発明においてはこれらを利用することができる。例えば、本発明において、ジオールデヒドラターゼのβサブユニットは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなり、また、ジオールデヒドラターゼのγサブユニットは、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるものを利用することができる。
ジオールデヒドラターゼのβサブユニットに由来するペプチドは、ジオールデヒドラターゼの低溶解性に関与することが公知である(Tobimatsu Tら、Biosci.Biotechnol.Biochem.,69,455−462(2005))、そのN末より連続する少なくとも20個のアミノ酸残基を含んでいればよく、当該ペプチドの大きさはアミノ酸残基の数にして25個以上、30個以上、35個以上、40個以上、45個以上、50個以上、55個以上、60個以上、65個以上、70個以上、80個以上、90個以上、100個以上、又はそれ以上の範囲より適宜選択することができる。
好ましくは本発明において、ジオールデヒドラターゼのβサブユニットに由来するペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列における1〜25番目、1〜30番目、1〜40番目、1〜50番目、1〜60番目、1〜70番目、1〜80番目、1〜90番目、又は1〜100番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、特に好ましくは1〜60番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列(配列番号3)からなる。また、ジオールデヒドラターゼのβサブユニットに由来するペプチドには、これらの特定のアミノ酸配列において1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列からなり、かつ可溶性タンパク質の弱酸性〜中性域のpH値を有する塩の水溶液に対する溶解性を低減させる機能を有するポリペプチドや、前述の特定のアミノ酸配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有し、かつ可溶性タンパク質の弱酸性〜中性域のpH値を有する塩の水溶液に対する溶解性を低減させる機能を有するポリペプチドも含まれる。アミノ酸配列の比較は公知の手法によって行うことができ、例えば、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等を例えば、デフォルトの設定で用いて実施できる。
ジオールデヒドラターゼのγサブユニットに由来するペプチドは、ジオールデヒドラターゼの低溶解性に関与することが公知である(Tobimatsu Tら、前出)、そのN末より連続する少なくとも16個のアミノ酸残基を含んでいればよく、当該ペプチドの大きさはアミノ酸残基の数にして20個以上、25個以上、30個以上、35個以上、40個以上、45個以上、50個以上、55個以上、60個以上、65個以上、70個以上、80個以上、90個以上、100個以上、又はそれ以上の範囲より適宜選択することができる。
好ましくは本発明において、ジオールデヒドラターゼのγサブユニットに由来するペプチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列における1〜20番目、1〜25番目、1〜30番目、1〜40番目、1〜50番目、1〜60番目、1〜70番目、1〜80番目、1〜90番目、又は1〜100番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、特に好ましくは1〜60番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列(配列番号4)からなる。また、ジオールデヒドラターゼのγサブユニットに由来するペプチドには、これらの特定のアミノ酸配列において1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、付加もしくは挿入されたアミノ酸配列からなり、かつ可溶性タンパク質の弱酸性〜中性域のpH値を有する塩の水溶液に対する溶解性を低減させる機能を有するポリペプチドや、前述の特定のアミノ酸配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有し、かつ可溶性タンパク質の弱酸性〜中性域のpH値を有する塩の水溶液に対する溶解性を低減させる機能を有するポリペプチドも含まれる。
本発明における融合タンパク質は、可溶性タンパク質のN末端及びC末端の両方又はいずれか一方に、上記ジオールデヒドラターゼのβサブユニットに由来するペプチド及びγサブユニットに由来するペプチドより選択されるペプチドが付加されてなる。N末端及びC末端に付加されるペプチドの種類(由来、長さ、配列等)はそれぞれ独立して選択することができ、例えば、N末端及びC末端が共にβサブユニット(又はγサブユニット)に由来するペプチドであってもよいし、N末端はβサブユニットに由来するペプチドであり、かつC末端はγサブユニットに由来するペプチドであってもよいし、N末端はγサブユニットに由来するペプチドであり、かつC末端はβサブユニットに由来するペプチドであってもよく、また、N末端及びC末端に付加されるペプチドの長さや配列はそれぞれ独立して選択することができ、同一であってもよいし、異なっていてもよい。好ましくは、本発明における融合タンパク質は、N末端にβサブユニットに由来するペプチド又はγサブユニットに由来するペプチドを、かつC末端にβサブユニットに由来するペプチド又はγサブユニットに由来するペプチドをそれぞれ有し、より好ましくは、N末端にβサブユニットに由来するペプチドを、かつC末端にβサブユニットに由来するペプチドをそれぞれ有する。
本発明における融合タンパク質は、一般的な遺伝子組み換え手法を用いて製造することができる。すなわち、可溶性タンパク質をコードする遺伝子のN末側及びC末側のそれぞれ又はいずれか一方に、ジオールデヒドラターゼの上記サブユニット由来のペプチドをコードする遺伝子を連結してなる、融合タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターを作製し、これを用いて宿主を形質転換し、得られた形質転換体を培養して当該融合タンパク質を発現させることによって行うことができる。
融合タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターは、遺伝子工学的手法を用いて製造することができる。例えば、可溶性タンパク質及び、ジオールデヒドラターゼを発現することが公知である細胞や細菌より、例えばMarmur法(Marmur J、J.Mol.Biol.,3,208−218(1961))により全DNAを抽出する。公開されたデータベース、例えば、GenBankにアクセスすることによって入手可能である可溶性タンパク質、ジオールデヒドラターゼのサブユニットの公知塩基配列を基にプライマーを設計し、上記DNAを鋳型としてPCRを行い、可溶性タンパク質をコードする遺伝子、ジオールデヒドラターゼの上記サブユニット由来のペプチドをコードする遺伝子をそれぞれクローニングすることができる。
例えば、本発明において、ジオールデヒドラターゼのβサブユニットをコードする遺伝子は、配列番号5で表される塩基配列からなり、また、ジオールデヒドラターゼのγサブユニットをコードする遺伝子は、配列番号6で表される塩基酸配列からなるものを利用することができる。
好ましくは本発明において、ジオールデヒドラターゼのβサブユニットに由来するペプチドをコードする遺伝子は、当該ペプチドのN末から1〜25番目、1〜30番目、1〜40番目、1〜50番目、1〜60番目、1〜70番目、1〜80番目、1〜90番目、又は1〜100番目のアミノ酸残基からなるペプチドをコードする塩基配列を含み、特に好ましくは1〜60番目のアミノ酸残基からなるペプチドをコードする塩基配列(配列番号7)からなる。また、ジオールデヒドラターゼのβサブユニットに由来するペプチドをコードする遺伝子には、可溶性タンパク質の弱酸性〜中性域のpH値を有する塩の水溶液に対する溶解性を低減させる機能を有するポリペプチドをコードする限り、前述の特定の塩基配列において1〜20個の塩基が欠失、置換、付加もしくは挿入された塩基配列を有するものや、前述の特定の塩基配列の全部もしくは一部と相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有するものや、前述の特定の塩基配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性する塩基配列を有するものも含まれる。
また、好ましくは本発明において、ジオールデヒドラターゼのγサブユニットに由来するペプチドをコードする遺伝子は、当該ペプチドのN末から1〜20番目、1〜25番目、1〜30番目、1〜40番目、1〜50番目、1〜60番目、1〜70番目、1〜80番目、1〜90番目、又は1〜100番目のアミノ酸残基からなるペプチドをコードする塩基配列を含み、特に好ましくは1〜60番目のアミノ酸残基からなるペプチドをコードする塩基配列(配列番号8)からなる。さらに、また、ジオールデヒドラターゼのγサブユニットに由来するペプチドをコードする遺伝子には、可溶性タンパク質の弱酸性〜中性域のpH値を有する塩の水溶液に対する溶解性を低減させる機能を有するポリペプチドをコードする限り、前述の特定の塩基配列において1〜20個の塩基が欠失、置換、付加もしくは挿入された塩基配列を有するものや、前述の特定の塩基配列の全部もしくは一部と相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有するものや、前述の特定の塩基配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性する塩基配列を有するものも含まれる。
なお、ここで塩基配列の一部とは、各塩基配列の一部分の塩基配列であって、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせるのに十分な塩基配列の長さを有するものであり、例えば、少なくとも50塩基、好ましくは少なくとも75塩基、より好ましくは少なくとも100塩基の配列である。また、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、すなわち、各塩基配列に対し高い配列同一性(80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性)を有するポリヌクレオチドがハイブリダイズする条件をいう。より具体的には、このような条件は、当該分野において周知慣用な手法、例えば、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、マイクロアレイ法又はサザンブロットハイブリダイゼーション法などにおいて、具体的には、ポリヌクレオチドを固定化したメンブランを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(Saline Sodium Citrate;150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)溶液を用い、65℃でメンブランを洗浄することにより達成できる。また、塩基配列の比較は公知の手法によって行うことができ、例えば、上記BLAST等を例えば、デフォルトの設定で用いて実施できる。
可溶性タンパク質をコードする遺伝子と、ジオールデヒドラターゼの上記サブユニット由来のペプチドをコードする遺伝子を所定の順序で連結することによって、融合タンパク質をコードする遺伝子を得ることができる。各遺伝子は隣接する遺伝子と直接連結してもよいし、リンカーをコードする遺伝子を介して、間接的に連結してもよい。リンカーは、トロンビンやファクターXa等のプロテアーゼによって認識・切断され得る配列を有するものが好ましい。このようなリンカーを含めることによって、得られた融合タンパク質より、必要に応じて、ジオールデヒドラターゼのサブユニットに由来するペプチドを除去することができる。
融合タンパク質をコードする遺伝子は、宿主に適合性を有する適当な発現ベクターに、プロモーター及び/又はその他の制御配列と機能し得るかたちで連結して挿入する。ここで「機能し得るかたちで連結して挿入する」とは、当該発現ベクターが導入された細胞において、プロモーター及び/又はその他の制御配列の制御の下、融合タンパク質が発現されるように、プロモーター及び/又はその他の制御配列を連結してベクターに組み込むことを意味する。
発現ベクターは、宿主に適合性を有するものであればよく特に限定はされないが、例えば大腸菌での発現を目的とした場合は、lacZプロモーター(Ward et.al.,Nature 341:544−546,1989)、araBプロモーター(Better et.al.,Science 240:1041−1043,1988)、又はT7プロモーター等を有するベクターを例示することができ、pGEX−5X−1(GEヘルスケアバイオサイエンス)、「QIAexpress system」(キアゲン)、pEGFP、及びpET等が挙げられる。また、発現ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。
他のベクターとしては、例えば哺乳動物由来の発現ベクター(例えばpcDNA3(ライフテクノロジーズ)や、pEGF−BOS(Nucleic Acids.Res.18(17):5322,1990)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac−to−BAC baculovairus expression system」(ギブコBRL)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えばpHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えばpZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば「Pichia Expression Kit」(ライフテクノロジーズ)、pNV11、SP−Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えばpPL608、pKTH50)等が挙げられる。
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulligan et.al.,Nature 277:108,1979)、MMLV−LTRプロモーター、EF1プロモーター(Mizushima et.al.,Nucleic Acids Res.18:5322,1990)、CMVプロモーター等を持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば薬剤(ネオマイシン、G418等)耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えばpMAM、pDR2、pBK−RSV、pBK−CMV、pOPRSV、pOP13等が挙げられる。また、アデノウイルスベクター(例えばpAdexlcw)やレトロウイルスベクター(例えばpZIPneo)等も利用することができる。
また、発現ベクターには複製開始点として、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のために、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
発現ベクターが導入される宿主としては特に制限はなく、例えば大腸菌や種々の真核細胞等を用いることが可能である。真核細胞を使用する場合、例えば動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えばCHO、COS、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle,et.al.,Nature 291:358−340,1981)、あるいは昆虫細胞、例えばSf9、Sf21、Tn5が挙げられる。CHO細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO細胞であるdhfr−CHO(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216−4220,1980)やCHO K−1(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 60:1275,1968)を好適に使用することができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。植物細胞としては、例えばニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が挙げられる。真菌細胞としては、酵母、例えばサッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が挙げられる。原核細胞を使用する場合、細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、例えばJM109、DH5α、HB101、XL1Blue、BL21等が挙げられ、その他、枯草菌等が挙げられる。
宿主への発現ベクターの導入(形質転換)は公知の一般的な手法により行うことができ、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法(Chu,G.et.al.,Nucl.Acid Res.15:1311−1326,1987)、リン酸カルシウム法(Chen,C.and Okayama,H.Mol.Cell.Biol.7:2745−2752,1987)、DEAEデキストラン法(Lopata,M.A.et.al.,Nucl.Acids Res.12:5707−5717,1984、Sussman,D.J.and Milman,G.Mol.Cell.Biol.4:1642−1643,1985)、カチオニックリボソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム)を用いた方法、リポフェクチン法(Derijard,B.Cell 7:1025−1037,1994、Lamb,B.T.et.al.,Nature Genetics5:22−30,1993、Rabindran,S.K.et.al.,Science 259:230−234,1993)、レトロウイルス法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、アデノウィルス法等により等の方法を用いることができる。
得られた形質転換体は、宿主の培養に適した培地(例えば、pHは5.0〜8.0、好ましくは5.5〜7.5)中にて、例えば、温度は約10〜約80℃、好ましくは約15〜約50℃、さらに好ましくは約30℃〜約40℃にて、5分〜96時間、好ましくは10分〜72時間、培養することができる。必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加えてもよい。
培養終了後、形質転換体を弱酸性〜中性域のpH値を有する適当な塩の水溶液に懸濁させて充分破砕した後、懸濁液を遠心分離し、融合タンパク質を含む沈殿画分を回収する。
「塩」としては、例えば、陽イオンがアルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、マグネシウム等)、アンモニウム等であり、陰イオンが硫酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、炭酸イオン、塩化イオン、硝酸イオン、等である塩が挙げられ、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。弱酸性〜中性域のpH値を有する「塩の水溶液」としては、上記塩を含む水溶液であればよく特に限定されないが、例えば、緩衝液として用いられる、リン酸塩緩衝液(リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液)、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、マロン酸緩衝液、フタル酸緩衝液、フマル酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、グリセロールリン酸緩衝液、イミダゾール緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、MES(2−(N−Morpholino)ethanesulfonic acid)緩衝液、Bistris(Bis(2−hydroxyethyl)imino−tris−(hydroxymethyl)methane)緩衝液、PIPES(Piperazine−N−N’−bis(2−ethane−sulfonic acid))緩衝液、MOPS(3−(N−Morpholine)propanesulfonic acid)緩衝液、HEPES(N−2−Hydroxyethylpiperazine−N’−ethane sulfonic acid)緩衝液、等も利用することができる。塩の水溶液のpH値は、弱酸性〜中性域であればよく、好ましくは中性域より選択することができ、例えば、pH3.0〜8.0、好ましくは5.0〜8.0、さらに好ましくは6.5〜8.0の範囲より選択することができる(4℃における測定値)。塩の水溶液のpH値をこれらの範囲とすることによって、融合タンパク質の水溶液中への溶解を低減することができる。塩の水溶液のpH値は、融合タンパク質の大部分(例えば、懸濁液中の融合タンパク質の総量の5割を超える量、6割以上、7割以上、8割以上、9割以上、又はそれ以上の量)が沈殿画分中に得られる値を選択することができる。
また、水溶液の塩の濃度は、例えば、50mM〜5000mM、好ましくは、50〜3000mM、さらに好ましくは50mM〜1000mMの範囲より選択することができる。弱酸性〜中性域の塩の水溶液の塩濃度を高めることによって、融合タンパク質が沈殿画分中に得られる量を増すことができる。水溶液の塩濃度は、融合タンパク質の大部分(例えば、懸濁液中の融合タンパク質の総量の5割を超える量、6割以上、7割以上、8割以上、9割以上、又はそれ以上の量)が沈殿画分中に得られる値を選択することができる。
形質転換体の破砕は、一般的な細胞破砕方法を用いることができ、例えば、超音波、フレンチプレス、乳鉢、ホモジナイザー、ガラスビーズ等を用いた処理方法を利用することができる。
弱酸性〜中性域のpH値を有する塩の水溶液中にて破砕した形質転換体を含む懸濁液を遠心分離することによって、水溶液中への溶解性が低い融合タンパク質を沈殿画分中に回収することができると共に、この操作により可溶性成分(夾雑物)は除去することができる。必要に応じて、得られた沈殿画分を、再び同じ水溶液中に懸濁して遠心分離し、沈殿画分を回収する操作(洗浄操作)を一又は複数回行ってもよい。
次いで、得られた沈殿画分を、中性域〜弱アルカリ性のpH値を有する水溶液に懸濁し、融合タンパク質を可溶化・抽出した後、懸濁液を遠心分離し、融合タンパク質を含む可溶性画分(上清画分)を回収する。
ここで中性域〜弱アルカリ性のpH値を有する「水溶液」としては、タンパク質精製に一般にもちいられる水系の緩衝液であればよく特に限定はされない。また、適当な濃度の塩を含んでいても良い。中性域〜弱アルカリ性のpH値を有する水溶液としては、例えば、炭酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、グリセロールリン酸緩衝液、イミダゾール緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液、PIPES(Piperazine−N−N’−bis(2−ethane−sulfonic acid))緩衝液、MOPS(3−(N−Morpholine)propanesulfonic acid)緩衝液、HEPES(N−2−Hydroxyethylpiperazine−N’−ethane sulfonic acid)緩衝液、Tricine(N−Tris(hydroxymethyl)methylglycine)緩衝液、Glycylglycine緩衝液、TAPS(N−Tris(hydroxymethyl)methyl−3−aminopropanesulfonic acid)緩衝液、Glycine緩衝液、等を利用することができる。
水溶液のpH値は、中性域〜弱アルカリ性であればよく、例えば、6.0〜10.0、さらに好ましくは7.0〜9.0の範囲より選択することができる。水溶液のpH値を大きくすることによって、融合タンパク質の水溶液中への溶解性を高めることができる。水溶液のpH値は、融合タンパク質の大部分(例えば、懸濁液中の融合タンパク質の総量の5割を超える量、6割以上、7割以上、8割以上、9割以上、又はそれ以上の量)が可溶性画分(上清画分)中に得られる値を選択することができる。
また、中性域〜弱アルカリ性のpH値を有する水溶液の塩濃度は、低塩濃度が好ましく、例えば、0.1〜300mM、好ましくは1mM〜200mM、さらに好ましくは5mM〜150mMの範囲より選択される濃度とすることができる。水溶液の塩濃度を低く設定することによって、融合タンパク質が可溶性画分(上清画分)中に得られる量を増すことができる。
中性域〜弱アルカリ性のpH値を有する水溶液の用量は、融合タンパク質を十分に溶解できる量であればよく、特に限定はされないが、得られた沈殿画分の体積の1倍以上、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、10倍以上、12倍以上、14倍以上、16倍以上、18倍以上、又はそれ以上とすることができる。
また中性域〜弱アルカリ性のpH値を有する水溶液にはさらに界面活性剤を加えることができる。界面活性剤を加えるによって、融合タンパク質が可溶性画分(上清画分)中に得られる量を増すことができる。界面活性剤としては、例えば、Brij35、Triton X−100等の非イオン性界面活性剤、デオキシコール酸ナトリウム等のステロイド骨格を有する界面活性剤、2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)等の両性界面活性剤を利用することができる。界面活性剤は水溶液に対して、例えば、0.2重量%〜3重量%、好ましくは0.5重量%〜1重量%の範囲より選択する量にて添加することができる。
中性域〜弱アルカリ性のpH値を有する水溶液中に融合タンパク質を懸濁し、遠心分離して可溶性画分(上清画分)を回収することによって、当該水溶液中への溶解性を有する融合タンパク質を可溶性画分(上清画分)中に回収することができると共に、この操作により非可溶性成分(夾雑物)は除去することができる。
得られた可溶性画分(上清画分)より融合タンパク質を、タンパク質の精製で一般的に使用されている手法を用いて、さらに精製することができる。精製方法としては、特に限定されることなく、例えばクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせて用いることができる。クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等を利用することができる。
また、得られた融合タンパク質は、必要に応じて、可溶性タンパク質以外の領域、すなわち、ジオールデヒドラターゼのβサブユニットに由来するペプチドを、除去してもよい。
一実施形態において、本願発明は以下の工程を含むことができる:
(a)可溶性タンパク質のN末端にジオールデヒドラターゼのβサブユニットのN末端の60アミノ酸残基を含むペプチドもしくはジオールデヒドラターゼのγサブユニットのN末端の60アミノ酸残基を含むペプチドが付加され、かつ該可溶性タンパク質のC末端にジオールデヒドラターゼのβサブユニットのN末端の60アミノ酸残基を含むペプチドもしくはジオールデヒドラターゼのγサブユニットのN末端の60アミノ酸残基を含むペプチドがそれぞれ付加されてなる融合タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターを含む形質転換体を培養する工程、
(b)形質転換体を回収し、pH6.0〜8.0、好ましくはpH6.5〜8.0を有する塩の水溶液(例えば、リン酸塩緩衝液)中にて細胞を破砕し得られた懸濁液を遠心分離して、該融合タンパク質を含む沈殿画分を回収する工程、ならびに、
(c)該沈殿画分をpH6.0〜10.0、好ましくは7.0〜9.0を有する低塩濃度の水溶液(例えば、リン酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液)中に懸濁し、該融合タンパク質を水溶液中に可溶化・抽出し、遠心分離して、該融合タンパク質を含む可溶性画分を回収する工程、
を含む、上記方法。ここで、工程(b)において、塩の水溶液は、塩濃度を50mM〜3000mM、好ましくは50mM〜1500mMとすることができる。また、工程(c)において、水溶液は、塩濃度を0.1mM〜300mM、好ましくは5mM〜50mMとすることができ、及び/又は、界面活性剤を含めることができる。
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
大腸菌イソシトレートデヒドロゲナーゼ(ICDH)とグルタチオン−S−転移酵素(GST)は可溶性酵素である。特に、GSTは溶解性の低いタンパク質に結合させることによって、当該タンパク質を可溶性画分に存在させることを可能とする高溶解性タグタンパク質の一つである。以下の実験においては、ICDH及びGSTを可溶性タンパク質のモデルとして使用し、ジオールデヒドラターゼのβサブユニットやγサブユニットのN末端の60アミノ酸残基からなるペプチドを付加することによる、タンパク質/酵素の低溶解性化の効果を評価した。
実施例1:大腸菌ICDHの低溶解性化
大腸菌K12株MC1655株ゲノムを鋳型として、PCRによりICDH遺伝子のタンパク質コーディング領域を増幅した。得られた遺伝子を発現ベクターpET21b(Novagen)のBamHIサイトをBglIIに変換し、このベクター(pET21BdB)のNdeI−BglIIサイトに導入し、発現ベクターpET21BdB(ICDH)を構築した。
次に、このpET21BdB(ICDH)ICDHを鋳型として、PCRにより終止コドンをもたないICDH遺伝子のタンパク質コーディング領域を増幅した。得られた遺伝子をpET21bのNdeI−BamHIサイトに導入した後、更にICDHのBamHI−EcoRIサイト間とNdeIサイトとにジオールデヒドラターゼのβサブユニットのN末端60アミノ酸残基からなるペプチドをコードするDNA断片をそれぞれ挿入することで、N末端にジオールデヒドラターゼのβサブユニットのN末端60アミノ酸残基からなるペプチドを融合し、更にICDHのC末端にジオールデヒドラターゼのβサブユニットのN末端60アミノ酸残基からなるペプチドを融合したキメラICDHをコードするDNAを含み、当該キメラICDHを発現する発現ベクターpET21b(Nb60−ICDH−Nb60)を構築した(図1(A))。
得られた発現ベクターを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、LB培地にて30℃で振盪培養し、対数増殖期後期に1mM IPTGを添加して6時間振盪培養して、キメラICDHの発現を誘導した。
次いで、得られた培養液を遠心分離して菌体を分離し、2倍体積の50mMリン酸カリ緩衝液(KPB)を加えた後に超音波処理で細胞を破砕した。その細胞破砕液を遠心分離して、得られた上清画分(可溶性画分)と沈殿画分(不溶性画分)とをSDS−PAGEにて電気泳動し、ICDHのバンドの濃さより、上清画分及び沈殿画分におけるICDHの分布を確認した。対照には、N末端及びC末端のいずれにも、ジオールデヒドラターゼのβサブユニットが融合されていない野生型大腸菌ICDHをコードするDNAを含み、当該野生型ICDHを発現する発現ベクターであるpET21BdB(ICDH)を用いた。
野生型大腸菌ICDHを大量発現させた組換え体大腸菌の培養液を上記のとおり、50mMリン酸カリ緩衝液(pH8.0)に懸濁して細胞破砕して遠心分離を行い上清画分と沈殿画分に分離しSDS−PAGEにて電気泳動したところ、発現させたほとんどの野生型ICDHが上清画分(可溶性画分)に存在することが確認された(図2、レーンS)。
これに対して、N末端及びC末端にジオールデヒドラターゼのβサブユニットのN末端60アミノ酸残基からなるペプチドを融合したキメラICDHを大量発現させた大腸菌の培養液を、以下の(1)〜(3)のいずれかの緩衝液に懸濁して細胞破砕し、遠心分離を行い上清画分と沈殿画分に分離して11%SDS−PAGEにて電気泳動した:(1)50mMリン酸カリ緩衝液(pH8.0)、(2)50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)、(3)50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KCl。
結果、いずれの緩衝液を用いた場合においても、ほとんどのキメラICDHが沈殿画分に存在していた(図3)。それらの中でも特に、(3)50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KCl溶液中で細胞破砕した場合に最も多くのキメラICDH酵素が沈殿画分に確認された(図3、(3)のレーン沈殿画分P)。これらの結果は、可溶性タンパク質のN末端及びC末端に、ジオールデヒドラターゼのβサブユニット由来のペプチドを付加することによって、当該タンパク質を低溶解性化できること、また低溶解性化の程度は用いる緩衝液のpH値や塩濃度によって調整できることを示す。
実施例2:大腸菌ICDHの簡便な精製
次に、上記のとおり、培養液を50mMリン酸カリ緩衝液(KPB)/300mM KClに懸濁して細胞破砕し、遠心分離して得られた沈殿画分からのキメラICDHの可溶化・抽出と精製を試みた。
まず、上記のとおり、培養液について細胞破砕し、遠心分離して得られたキメラICDHを含む沈殿画分を50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KCl溶液を用いて2回洗浄した。この洗浄画分には少量のキメラICDHが検出されたが(図4(A)、レーンw1(洗浄画分1),w2(洗浄画分2))、ほとんどは沈殿画分に存在した(図4(A)、レーンW−P(洗浄後沈殿画分))。
この沈殿画分を、以下の(1)、(2)のいずれかの緩衝液(沈殿の3倍体積)に懸濁し、遠心分離を行い上清画分と沈殿画分に分離して11%SDS−PAGEにて電気泳動した:
(1)50mM炭酸カリウム緩衝液(pH9.0)、(2)10mMリン酸カリ緩衝液(pH8.0)。
結果、(1)、(2)のいずれの緩衝液を用いた場合においても、上清画分中にほとんどのキメラICDH酵素を可溶化・抽出することができ(図4(B),(C)のレーンex1(抽出画分1)及びex2(抽出画分2))、沈殿画分中に含まれるキメラICDH酵素は大きく減少した(図4(B),(C)のレーンEx−P(抽出後の沈殿画分))。
次に、沈殿画分に存在するキメラICDHが生物活性を保持するか否かを確認した。ICDH活性の測定は公知の手法(Stokkeら、Extremophiles 11,481−493,2007)に従って、NADP+とD−イソクエン酸とを用いて行った。細胞破砕及び洗浄を50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KClにて行った場合、沈殿画分にて検出されるICDH活性は全体(上清画分+沈殿画分)の70%であった。この沈殿画分から2回の10mMリン酸カリ緩衝液(pH8.0)にて抽出・回収された酵素は全体の56%であった。また、抽出後の沈殿画分には全体の1%以下のICDH活性しか認められなかった。
次に、同様に調製した洗浄後の沈殿画分(図5、レーンW−P)を以下の(1)、(2)のいずれかの量の10mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)に懸濁し、遠心分離を行い上清画分と沈殿画分に分離して11%SDS−PAGEにて電気泳動した:
(1)沈殿の3倍体積、(2)沈殿の14倍体積。
結果、(1)、(2)のいずれの緩衝液を用いた場合においても、上清画分中にほとんどのキメラICDH酵素が可溶化・抽出することができ(図5(1),(2)のレーンex1(抽出画分1)及びex2(抽出画分2))、沈殿画分中に含まれるキメラICDH酵素は大きく減少した(図5(1),(2)のレーンEx−P(抽出後の沈殿画分))。特に、抽出に用いる溶液量を増やすと回収率が向上することが示された。
次に、10mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)にて抽出された酵素活性を測定することで酵素の回収率を求めた。沈殿の3倍体積の10mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)を用いた場合の回収率は63%、沈殿の14倍体積の10mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)を用いた場合の回収率は71%であった。
これらの結果より、N末端及びC末端に、ジオールデヒドラターゼのβサブユニット由来のペプチドを付加することによって、低溶解性化された可溶性タンパク質は、中性域〜弱アルカリ性条件(pH7〜9程度)下にて、及びさらに低塩濃度下にて、可溶化・抽出することが可能であることが示された。
実施例3:大腸菌ICDHの可溶化に対するBrij35の効果
次に、同様に調製した洗浄後の沈殿画分(図6、レーンW−P)からのキメラICDHの可溶化をBrij35が促進するかを見た。
まず、上記のとおり、培養液について細胞破砕し、遠心分離して得られたキメラICDHを含む沈殿画分を50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KCl溶液を用いて2回洗浄した。得られた沈殿画分を、以下の(1)、(2)のいずれかの緩衝液(4倍体積)に懸濁し、遠心分離を行い上清画分と沈殿画分に分離して11%SDS−PAGEにて電気泳動した:
(1)100mMリン酸カリ緩衝液(pH8)/1% Brij35、(2)100mMリン酸カリ緩衝液(pH8)。
結果、沈殿画分から可溶性画分に抽出できたタンパク質(図6レーンex1(抽出画分1)及びex2(抽出画分2))の量を比較すると、(1)の100mMリン酸カリ緩衝液(pH8)/1% Brij35を用いた場合の方が(2)の100mMリン酸カリ緩衝液(pH8)のみの場合に比べてより多くのキメラICDHが可溶性画分に得られた。この結果より、ジオールデヒドラターゼのβサブユニット由来のペプチドをN末端及びC末端に付加することによって低溶解性化された可溶性タンパク質は、Brij35の添加により溶解性が増加することが示された。
実施例4:グルタチオン−S−転移酵素の低溶解性化
グルタチオン−S−転移酵素(GST)の公知の発現ベクターであるpNEX(特開2006−296420号公報)を用いて、グルタチオン−S−転移酵素のN末端にジオールデヒドラターゼのβサブユニットのN末端60アミノ酸残基からなるペプチドを融合し、更にグルタチオン−S−転移酵素のC末端にジオールデヒドラターゼのβサブユニットのN末端60アミノ酸残基からなるペプチド又はジオールデヒドラターゼのγサブユニットのN末端60アミノ酸残基からなるペプチドを融合したキメラGSTをコードするDNAを含み、当該キメラGSTを発現する発現プラスミドpNEX(Nb60−GST−Nb60)(図1(B))及びpNEX(Nb60−GST−Ng60)を構築した。
得られた発現ベクターを用いて大腸菌JM109株を形質転換し、LB培地にて30℃で振盪培養し、対数増殖期後期に1mM IPTGを添加して6時間振盪培養して、キメラGSTの発現を誘導した。
次いで、得られた培養液を遠心分離することで菌体を分離し、2倍体積の50mMリン酸カリ緩衝液(KPB)を加えた後に超音波処理で細胞を破砕した。その細胞破砕液を遠心分離して、得られた上清画分(可溶性画分)と沈殿画分(不溶性画分)とをSDS−PAGEにて電気泳動し、キメラGSTのバンドの濃さより、上清画分及び沈殿画分における当該キメラGSTの分布を確認した。対照には、N末端及びC末端のいずれにも、ジオールデヒドラターゼのβサブユニット及びγサブユニットが融合されていない野生型GSTをコードするDNAを含み、当該野生型GSTを発現する発現ベクターであるpNEXを用いた。
野生型GSTを大量発現させた組換え体大腸菌の培養液を上記のとおり、50mMリン酸カリ緩衝液(pH8.0)に懸濁して細胞破砕して遠心分離を行い上清画分と沈殿画分に分離し11%SDS−PAGEにて電気泳動したところ、発現させたほとんどの野生型GSTが可溶性画分に存在していた(図7、レーンS)。
また、N末端及びC末端にジオールデヒドラターゼのβサブユニットのN末端60アミノ酸残基からなるペプチドを融合したキメラGSTについても、当該キメラGSTを大量発現させた組換え体大腸菌を細胞破砕する際に加えた緩衝液(50mMリン酸カリ緩衝液)のpHが8.0であると、キメラGSTの多くが可溶性画分に存在することが確認された。
そこで、細胞破砕する際に加える緩衝液緩衝液のpHをより酸性側にしたもの、すなわち(1)50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)、(2)50mMリン酸カリ緩衝液(pH6.5)、あるいは、緩衝液の塩濃度を更にあげたもの、すなわち(3)50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KClに代えて同様の操作を行った。
結果、いずれの条件でも多くのキメラGSTが沈殿画分において検出された(図8、レーンS)。それらの中でも特に、(3)50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KCl溶液中で細胞破砕した場合に最も多くのキメラGST酵素が沈殿画分に確認された(図8、(3)のレーンP)。
次に、沈殿画分に存在するキメラGSTが生物活性を保持するか否かを確認した。GST活性の測定は公知の手法(Habigら、Methods Enzymol.22:398−405,1981)に従って、還元型グルタチオンと1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン(1−chloro−2,4−dinitrobenzene;CDNB)とを用いて行った。
結果、上清画分だけでなく沈殿画分においてもGST活性が検出され、当該活性は電気泳動で見られたバンドの濃さに相関することが確認された。細胞破砕する際に加える緩衝液を(1)50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)、(2)50mMリン酸カリ緩衝液(pH6.5)、又は(3)50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KClにした場合、沈殿画分にて検出されるGST活性は全体(上清画分+沈殿画分)の、69%、71%、及び93%となり、(3)50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KCl溶液中で細胞破砕した場合に最も多くのGST活性が沈殿画分に確認された。
一方、N末端にジオールデヒドラターゼのβサブユニットのN末端60アミノ酸残基からなるペプチドを融合し、C末端側にジオールデヒドラターゼのγサブユニットのN末端60アミノ酸残基からなるペプチドを融合したキメラGSTについては、当該キメラGSTを大量発現させた組換え体大腸菌を細胞破砕する際に加えた緩衝液(50mMリン酸カリ緩衝液)のpHが8.0であると、キメラGSTの多くが可溶性画分に存在することが確認された。
そこで、細胞破砕する際に加える緩衝液のpHをより酸性側にしたもの、すなわち(1)50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)、(2)50mMリン酸カリ緩衝液(pH6.5)、あるいは、緩衝液の塩濃度を更にあげたもの、すなわち(3)50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KClに代えて同様の操作を行った。
結果、いずれの条件でも多くのキメラGSTが沈殿画分において検出された(図9、レーンP)。それらの中でも特に、(3)50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KCl溶液中で細胞破砕した場合に最も多くのキメラGST酵素が沈殿画分に確認された(図9、(3)のレーンP)。
次いで、上記と同様に上清画分と沈殿画分に存在するGST活性を測定したところ、細胞破砕に用いる緩衝液を(1)50mM リン酸カリ緩衝液(pH7.0)、(2)50mMリン酸カリ緩衝液(pH6.5)、又は(3)50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KClにした場合、沈殿画分にて検出されるGST活性は全体(上清画分+沈殿画分)の、61%、60%、及び70%となり、(3)50mM リン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KCl溶液中で細胞破砕した場合に最も多くのGST活性が沈殿画分に確認された。
これらの結果は、高可溶性タンパク質であるGSTであってもそのN末端にジオールデヒドラターゼのβサブユニット由来のペプチド、及びC末端にジオールデヒドラターゼのβ又はγサブユニット由来のペプチドを付加することによって、当該タンパク質を低溶解性化できること、またその低溶解性化の程度は用いる緩衝液のpH値や塩濃度によって調整できることを示す。また、低溶解性化されたタンパク質であっても、生物活性を保持していることが示された。
実施例5:グルタチオン−S−転移酵素の簡便な精製
上記のとおり、N末端及びC末端にジオールデヒドラターゼのβサブユニットのN末端60アミノ酸残基からなるペプチドを融合したキメラGST酵素を大量発現させた大腸菌を、50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KCl溶液中にて細胞破砕し、遠心分離して得られた沈殿画分より、キメラGST酵素の精製と可溶化を試みた。
まず、得られた沈殿画分を50mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)/300mM KCl溶液を用いて2回洗浄し、可溶性の不純物を取り除いた。この洗浄画分には少量のキメラGST酵素が検出されたものの(図10のレーンw1及びw2)、ほとんどのキメラGST酵素は沈殿画分中にて回収できた。
次にこの沈殿画分をpH8.0の10mMリン酸カリウム緩衝液中に懸濁・抽出したところと、ほとんどのキメラGST酵素が可溶化して、単一バンドとして抽出・精製することができた(図10(1)のレーンex1及びex2)。
更に、上記沈殿画分を10mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)中に懸濁・抽出した場合、遠心沈殿画分(不溶性画分)に存在していたキメラGST酵素のほとんどが高純度に可溶化して抽出されることが確認できた((図10(2)のex1とex2)。
次に、抽出された酵素活性を測定することで酵素の回収率を求めた。10mMリン酸カリ緩衝液(pH8.0)を用いた場合の回収率は53%、10mMリン酸カリ緩衝液(pH7.0)を用いた場合の回収率は55%であった。
これらの結果より、N末端及びC末端に、ジオールデヒドラターゼのサブユニット由来のペプチドを付加することによって、低溶解性化された可溶性タンパク質は、中性域〜弱アルカリ性条件下にて、及びさらに低塩濃度下にて、可溶化・抽出することが可能であることが示された。