JP6547982B2 - チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材及びその製造方法 - Google Patents

チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は繊維強化熱可塑性樹脂シート材及びその製造方法に関する。
従来、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂としてガラス繊維を強化繊維とした繊維強化熱可塑性樹脂シートには、強化繊維の形態及びその配向性の面から次のようなものが存在する。
(1)強化繊維として連続繊維を使用し、繊維が任意の配向性を持つものとして、一方向強化熱可塑性樹脂プリプレグシートを同一方向に又は強化繊維が直交又は斜交する方向に積層された繊維強化熱可塑性樹脂シートがある。このような樹脂シートは繊維の体積含有率を高くすることができる利点があり、繊維軸方向では弾性率、強度に優れた特性を有する。またシェル構造物への適用が可能である。
(2)強化繊維として連続繊維を使用し、これを織物などの強化形態として使用したものも強化繊維の体積含有率を高くすることが可能であり、(1)に記載した強化繊維の直交積層品と同様に繊維軸方向では弾性率、強度において優れている。
(3)強化繊維として連続繊維を使用する場合、一般にスワールマットと称されている強化繊維を不織布状にしたものがある。これは、上記(1),(2)の場合のように面内異方性を有しない特徴を持っているが、この場合強化繊維の繊維体積含有率がその製造方法に起因して高くすることができず、そのため弾性率や強度に限界がある。このような不織布の強化形態を持つものはスタンピング成形に供されることが主である。
(4)強化繊維として不連続繊維を使用するものとしてはチョップドストランドマットを使用するものがある。これは、例えば25mmから50mm程度の繊維長を持つストランド(繊維束)が強化材として使用される。この場合、成形時の流動性、例えばスタンピング成形時の流動性が良好であり、シェル構造物のみならず複雑な形状への適用も容易である。
従来の繊維強化熱可塑性樹脂シートとして、前記(1)の場合は、例えば曲面を有する構造物の賦形性に関しては、繊維を拘束する要因がないため繊維の配向に乱れを生じやすく、強度のバラツキが生じやすい欠点がある。上記(2)の場合は、成形を最適条件で行わないとよれやしわなどが生じたり、強化繊維の配向が所望する角度をなさず、最弱断面を生ずる恐れがある。また上記(3)の場合は、連続繊維が交絡しているため、強化繊維の流動性が不足して成形品に体積含有率の分布が生じやすい欠点がある。更に上記(4)の場合、チョップドストランドマットを強化材として使用したものは、面内異方性を有しないが、体積含有率を高くできない欠点があり、弾性率、強度に限界がある。
このような繊維強化熱可塑性樹脂シートの種々な欠点に鑑み、強化繊維の重量含有率を高めるべく、強化繊維としてガラス繊維を用いた繊維強化熱可塑性樹脂シートが開発されている(例えば特許文献1、2参照)。
しかしながら、この繊維強化熱可塑性樹脂シートでは、シートの厚さを薄くすることができず、アスペクト比を高くすることができないため、強度を上げることが困難であった。さらにこの方法では、シート化するために乾式法でシート化しているため、効率が悪いという問題もあった。
特許第2877052号公報 特許第4959101号公報 国際公開WO2007/020910号 特許第4789940号公報
本発明は、従来のこのような問題点を解決するためになされたものである。本発明は、強度を更に高めたチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材及びその製造方法を提供することにある。
課題を解決するための手段及び発明の効果
上記の目的を達成するため、本発明の第1の側面に係るチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材によれば、複数の強化繊維が所定方向に引き揃えられた強化繊維を、樹脂シート芯材の表面に、該強化繊維の引き揃えた方向が同じ方向となるように熱融着により付着させて形成されている、所定の幅及び長さにチョップされた複数のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂と、前記複数のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を平面状にランダムに重ねて配置した状態でシート状に固定するための、前記強化繊維同士の間に付着させてこれらを固定するための樹脂バインダとを備えることができる。上記構成により、樹脂バインダの量を強化繊維に対して相対的に低減して、高い機械的物性を備えるチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材を得ることができる。
また第2のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材によれば、前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の繊維体積含有率を、50%以上とできる。上記構成により、高い機械的物性を備えるチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材を得ることができる。
さらに第3のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材が薄層であることを特徴とする。薄層であると、厚さに対し、アスペクト比300以上の繊維長さがあれば高い機械的物性が得られる
さらにまた第4のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材によれば、前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂は、該チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂の断面厚さが、前記強化繊維の直径の10倍以内に設定できる。
さらにまた第5のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材によれば、前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂の厚さを、0.1mm以下とできる。上記構成により、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の長さを短くしてもアスペクト比を高くできるため、高い強度を備えるチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材を得ることができる。
さらにまた第6のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材によれば、前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂の長さを、100mm以下とできる。
さらにまた第7のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材によれば、前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を、前記強化繊維がマトリックス樹脂である前記熱可塑性樹脂シートの両面に付着させることができる。
さらにまた第8のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材によれば、前記強化繊維を、炭素繊維とできる。
さらにまた第9のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材によれば、前記樹脂バインダを、ポリビニルアルコール樹脂とできる。上記構成により、強化繊維と樹脂バインダとの界面接着性を高め、剛性を向上させることができる。
さらにまた第10のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材によれば、該チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材を加熱加圧成形した繊維強化熱可塑性樹脂成形体の曲げ弾性率を、20GPa以上とできる。
さらにまた第11のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材によれば、前記樹脂バインダを均等に付着させた構成とすることができる。
さらにまた第12のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材によれば、前記複数のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂同士が抄紙されて前記強化繊維同士の間に前記樹脂バインダを付着させて平面状に堆積させた状態でシート状に加工することができる。
さらにまた第13のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法によれば、複数の強化繊維を所定方向に引き揃えた強化繊維シート材を、マトリックス樹脂となる樹脂シート芯材の表面に、強化繊維の引き揃えた方向が同じ方向となるように熱融着により付着させて、シート状の繊維強化熱可塑性樹脂シート材を作成するシート形成工程と、前記繊維強化熱可塑性樹脂シート材を所定の幅及び長さにチョップして短冊形状のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を作成するチョップ工程と、前記チョップされたチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を、樹脂バインダと共に水中に分散させ、平面状に堆積させた状態でシート状に加工する湿式抄紙工程とを含むことができる。これにより、表面に繊維が存在することで、樹脂バインダが繊維と繊維を点接着してチョップドテープ材を固定化し、ドレープ性が維持できる。そのため、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材を賦形させる際、型への賦形性を付与できる。
さらにまた第14のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法によれば、前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の繊維体積含有率を、30%以上とできる。
さらにまた第15のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法によれば、前記強化繊維として、炭素繊維を用いることができる。
さらにまた第16のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法によれば、前記樹脂バインダとしてポリビニルアルコール樹脂を用いることができる。
さらにまた第17のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法によれば、前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂に薄層のものを用いることができる。
図1はチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法を示すフローチャートである。 図2は熱可塑性樹脂補強シート材を示す外観斜視図である。 図3は短冊状のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の模式断面図である。 図4は実験結果と計算結果の平均弾性率比較を示すグラフである。 図5は実験結果と計算結果の変動係数を比較したグラフである。 図6は各寸法を2倍にした際の変動係数を比較したグラフである。 図7は試験片サイズと変動係数の関係を示すグラフである。 図8は試験片本数変化によるバラツキの影響を示すグラフである。 図9は等方性繊維強化板材の成形条件を示すグラフである。 図10は実施例1〜4に係る試験片の曲げ強度の測定結果を示すグラフである。 図11は実施例1〜4に係る試験片の曲げ弾性率の測定結果を示すグラフである。 図12は実施例1〜4に係る試験片の曲げ弾性率の変動係数を示すグラフである。 図13は実施例1〜4に係る試験片の引張強度の測定結果を示すグラフである。 図14は実施例1〜4に係る試験片の引張弾性率の測定結果を示すグラフである。 図15は実施例1〜4に係る試験片の引張弾性率の変動係数を示すグラフである。 図16Aは赤外線写真、図16BはX線写真による、初期破壊を観察した様子を示すイメージ図である。 図17はチョップドテープ材を長方形状としたチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の表面を示す拡大図である。 図18はチョップドテープ材を正方形状としたチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の表面を示す拡大図である。 図19Aは長方形状としたチョップドテープ材を構成する繊維を抄紙流れ方向に対して傾斜させていない状態、図19Bは繊維を傾斜させた状態を示す模式図である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態及び実施例は、本発明の技術思想を具体化するためのチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材及びその製造方法を例示するものであって、本発明はチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材及びその製造方法を以下のものに限定するものではない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
本明細書において「シート材」とは、単体のシート材の他、これらを複数層に積層した積層体、マット状あるいは塊状の形態のものを含む意味で使用する。また熱可塑性樹脂補強シート材は、炭素繊維などの強化繊維がマトリックスとなる熱可塑性樹脂シートの両面又は片面に付着されている。ここで「付着」とは、強化繊維シート材の全面又は複数部分に、樹脂シート芯材を熱融着させ、強化繊維シート材と樹脂シート芯材をばらけないように一体化させることを意味する。なお、強化繊維シート材に樹脂シート芯材がわずかに含浸したような状態も、本明細書においては「付着」に含める。
チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材は、複数の強化繊維が所定方向に引き揃えられた強化繊維を、樹脂シート芯材の表面に、この強化繊維の引き揃えた方向が同じ方向となるように熱融着により付着させて形成されている、所定の幅及び長さにチョップされた複数のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を、樹脂バインダでもって、平面状にランダムに重ねて配置した状態でシート状に固定している。樹脂バインダは、強化繊維同士の間に付着させてこれらを固定している。このような構成により、樹脂バインダの量を強化繊維に対して相対的に低減して、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂成形体の強度を高めることができる。ここで樹脂シート芯材には、フィルム、不織布、織編物等が適宜利用できる。また樹脂バインダも、短繊維、粒状、短冊状といった固形物の他、液状の形態のものも利用できる。
繊維強化熱可塑性樹脂シート材の繊維体積含有率(Fiber volume content:Vf)は、30%以上とする。好ましくは50%以上とする。
また、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂のアスペクト比が300以上であることが好ましい。なお本明細書においてアスペクト比とは、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂の厚さに対する繊維長の比を指す。
チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂は、強化繊維がマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂シートの両面に付着されている。ただ、強化繊維を熱可塑性樹脂シートの片面のみに付着されたものとすることもできる。
(強化繊維)
強化繊維には、炭素繊維が利用できる。特にチョップドテープ型とすることで、炭素繊維を連続繊維とせず、不連続繊維として利用できるので成形時の型への立体賦形性に優れ、しかも強度を連続繊維並みに高められる。特に不連続繊維を用いる場合は、得られたチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材を、例えば10MPa以上の高圧で成形すると、繊維が折れてしまう問題がある。これに対して、強化繊維が樹脂シートに付着されたチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材は、高圧成形が必要とされず、繊維が折れない、また、低圧成形が可能なため、大型プレス機を必要としない。
(樹脂バインダ)
樹脂バインダは、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等が利用できる。特にポリビニルアルコール樹脂(PVA)性とすることが好ましい。これによってバインダが繊維と繊維を点接着してチョップドテープ材を固定化し、シートにドレープ性が維持できる。
(チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法)
次にチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法について、図1のフローチャートに基づいて説明する。まず、ステップS1において、ボビンに巻かれた炭素繊維等の強化繊維を開繊し、樹脂シート芯材の両面に、複数の強化繊維が所定方向に引き揃えられて熱融着により付着されたシート状の繊維強化熱可塑性樹脂シート材を得る(繊維強化熱可塑性樹脂シート材熱1の外観斜視図を図2に示す)。
次にステップS2において、繊維強化熱可塑性樹脂シート材1を所定の幅及び長さにスリット、及びチョップして、図3の模式断面図に示す短冊状のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を得る。
さらにステップS3において、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を、湿式抄紙法でランダムに分散させて、樹脂バインダで接着してチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材を得る(ステップS4)。以下、各工程について詳述する。
(熱可塑性樹脂補強シート材1)
図2に示す繊維強化熱可塑性樹脂補強シート材1は、芯材となる樹脂シート芯材4の両面に、強化繊維シート材3が付着されている。なお、この例では樹脂シート芯材4の両面に、強化繊維シート材3をそれぞれ付着させているが、片面のみとすることも可能である。
熱可塑性樹脂補強シート材1は、開繊された強化繊維に、芯材となる樹脂シート芯材4を熱転写することで、強化繊維と樹脂シート芯材4とを複合させたものである。樹脂シート芯材4の表面には、複数本の強化繊維が積層されて付着されている。ここでは、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の厚さは42μm程度とした。
(樹脂シート芯材4)
樹脂シート芯材4は母材(マトリックス)樹脂となるもので、熱可塑性樹脂が好適に利用できる。例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12など)、ポリアセタール、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどが使用される。また、これらの熱可塑性樹脂を2種類以上混合して、ポリマーアロイにして母材(マトリックス)樹脂として使用してもよい。
強化繊維シート材3は、複数の強化繊維が所定方向に引き揃えられて熱融着により付着されている。例えば、複数本の強化繊維がサイジング剤等によりばらけないように集束している強化繊維束を複数本、シート状に引き揃えて形成されている。
(強化繊維)
強化繊維3fとしては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリオキシメチレン繊維、アロマティック・ポリアミド繊維等のFRPに用いられる高強度・高弾性率の無機繊維や有機繊維などが挙げられる。また、これらの繊維が集束した繊維束を複数組み合せてもよい。なお、繊度については特に限定されない。 ここでは強化繊維として、炭素繊維を用いている。
なお、熱可塑性樹脂補強シート材1は、複数の強化繊維がサイジング剤等によりばらけないように集束している強化繊維束を複数本、シート状に引き揃えて形成された樹脂シート芯材4の片面又は両面に付着させて形成されている。このため、強化繊維束の引き揃えられた状態が維持され、かつ、ばらけないようになるとともに、強化繊維束を構成する各強化繊維においても、サイジング剤等が付着している効果により、各強化繊維がばらけず、繊維の配向乱れが抑制されるとともに、毛羽が生じ難い状態となっている。
ここで、付着とは、樹脂シート芯材4の片面又は両面の全面又は複数部分に、強化繊維シート材3を熱融着させる、又は成形品になった際に力学的特性等に影響を与えない接着剤を薄く塗布して接着させる等して、繊維強化シート材3と樹脂シート芯材4をばらけないように一体化させることを意味する。繊維強化シート材に樹脂シート芯材を熱融着させる場合、繊維強化シート材の表層部分に樹脂シート芯材がわずかに含浸することもあるが、その場合においてもシートとしてのドレープ性は十分にあり、付着の状態にあるといえる。
繊維強化シート材3の厚みを強化繊維3fの直径の10倍以内にすることにより、成形品にする際、樹脂シート芯材4が強化繊維間を含浸のために流れる距離がより短くなる。複合材料の強化繊維として代表的な炭素繊維は単糸直径が0.005〜0.01mmである。よって、強化繊維シート材3の厚さは0.05〜0.1mm以下となる。非特許文献1のモデル計算を参考にすれば、数秒程度で樹脂シート芯材4が強化繊維束中に含浸することが期待され、短時間での成形加工が実現できるようになる。また、樹脂シート芯材4の強化繊維間を流れる距離をより短くすることにより、樹脂流れによる強化繊維の配向乱れが抑制され、強化繊維の均一分散性が向上した、ボイド(空隙)の少ない状態を得ることができる。
繊維強化シート材3の厚さを強化繊維3fの直径の10倍以内の状態にするためには、集束本数の少ない繊維束を用いる方法、又は繊維束を薄層に開繊させる方法等がある。開繊による方法は、集束本数の多い繊維束を薄い状態にすることができる。集束本数の多い繊維束は、比較的材料コストが安いため、低コスト成形品を得ることを可能とする。
なお、繊維強化シート材3に付着させる樹脂シート芯材4の厚み又は重量は、繊維強化シート材の目付け(単位面積あたりの重量)、及び成形品にしたときの繊維体積含有率等と関係して決められる。
このようにして得られた繊維強化熱可塑性樹脂補強シート材1をチョップして、短冊状のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を得る。このようなチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂では強化繊維が同じ方向に揃うため、強化繊維同士が絡まった状態とならない。すなわちボイドを少なくできる。
さらに、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を湿式抄紙法でランダムに分散させて、樹脂バインダで接着してチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材とする。具体的には、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を液状中で分散、拡散させた後、液状中の樹脂バインダによって、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂が種々の方向を向いた状態で一体化され、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材となる。
さらに、得られたチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材を積層し加熱加圧成形することで、チョップドテープ繊維強化熱可塑樹脂成形体(Chopped fiber Tape reinforced Thermoplastics:以下「CTT」ともいう。)に成形する。
繊維強化熱可塑性樹脂補強シート材1の強化繊維は、マトリックスとなる樹脂シート芯材4の表面に付着して表面に露出しているため、樹脂バインダが接着され易い。また、強化繊維に付着した樹脂バインダによってチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂同士が接着され一体化するものの、シート同士の密着とは異なり、表面の強化繊維同士が触れる部分での接着となるため、チョップドテープ繊維強化熱可塑樹脂シート材全体としてのドレープ性が高い。それゆえに、加熱加圧成形する際に金型にシートが沿い易く、賦形性が良いため、立体成形加工が容易である。
さらに強化繊維同士の接着となることで、CTT材同士の層間は強化繊維部分となり、この強化繊維部分が連続した状態になる。よって、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材を加熱加圧成形によって成形材とする際には、マトリックスとなる熱可塑性樹脂が繊維間中に含浸するとき、層間での空気が抜けやすくなって、ボイドの少ない成形材が得やすくなると考えられる。
さらにまた、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂が薄層であると、短冊形状の長さ方向を短くできる。具体的には、厚さに対してアスペクト比300以上の繊維長さとすることで、高い機械的物性を実現できる。チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂の厚さは0.1mm以下とし、薄層の場合は0.05mm以下とすることが好ましい。またチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂の長さは、100mm以下とすることが好ましい。
加えて、一般にチョプドテープ繊維強化熱可塑樹脂成形体はチョップドテープ繊維強化熱可塑樹脂が持つ熱可塑樹脂通しを加熱加圧成形し、前面を熱融着することで成形体としているため、基材のドレープ性がない。これに対して、本実施の形態に係るチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂補強シート材では、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂表面より強化繊維が突出しており、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂通しの接着は強化繊維間の交絡点を樹脂バインダで点接着するため、チョップドテープ繊維強化熱可塑樹脂シート材全体としてのドレープ性が高い。そのため、シート生産時に連続してシートの巻取りが可能であり、ロール形状での製品の生産が可能である。
さらに湿式抄紙の際に液状中でチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂が種々の方向に向いて分散し易くなり、生産性良くチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材が得られる。またチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を樹脂バインダが分散した液状中に投入することで、表面の繊維強化部分に樹脂バインダが均一に付着し易くなる。加えて、強化繊維が樹脂シート芯材4に付着しているため、液中で熱可塑性樹脂補強シート材を分散させても、強化繊維が蛇行せずに、強化繊維の引き揃え方向の乱れが極力少ない状態となり、繊維本来の強度が十分に発現し易い状態とできる。また、強化繊維同士の絡み合いを回避することで、等方性強化繊維シート材を成形する際に含有率の高い強化繊維を使用しつつも、流動性も良くして、賦形性(成形性)が向上する。
[実施例]
[参考例1]
以下の材料を用いて熱可塑性樹脂多層補強シート材を製造した。
<使用材料>
(強化繊維束に使用した繊維束)三菱レイヨン株式会社製;TR50S―15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本
(樹脂シート芯材4に使用した樹脂)三菱化学株式会社製;ナイロン6樹脂フィルム、フィルム厚み20μm
<製造工程>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材製造装置の加熱機構の反対側に、多数本繊維束供給機構、多数本繊維束開繊機構、縦方向振動付与機構そして幅方向振動付与機構をもう1組設置した製造装置を用いて、それぞれの多数本繊維束供給機構に、強化繊維束TR50S―15Kを8本、40mm間隔でそれぞれにセットし、それぞれの縦方向振動付与機構により各強化繊維束に縦方向の振動を与えながら、それぞれの多数本繊維束開繊機構にて各強化繊維束を幅約40mmに開繊した強化繊維開繊糸を得て、それぞれの幅方向振動付与機構により各強化繊維開繊糸を幅方向に振動させて、強化繊維開繊糸間に隙間がない、幅約320mm、繊維目付け(単位面積あたりの繊維重量)約25g/m2の強化繊維シート材をそれぞれに連続して得た。
(2)その後、連続して、加熱機構の両側からそれぞれの強化繊維シート材を供給すると同時に、強化繊維シート材の間に樹脂シート芯材4も連続して挿入し、加熱機構により、樹脂シート芯材4の両面に強化繊維シート材を貼り合わせた。このとき、加熱機構の温度は約270度に制御を行った。また、強化繊維シート材とともに熱硬化性ポリイミド樹脂フィルム(製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、製造会社;宇部興産株式会社)を離型フィルムとして供給した。なお、各強化繊維束を開繊し強化繊維シート材に加工する速度、並びに樹脂シート芯材4の両面に強化繊維シート材を貼り合わせる加工速度とも10m/分で行った。
(3)冷却機構から排出された基材から、離型フィルムを剥がすことにより、樹脂シート芯材4の両面に強化繊維シート材が付着した薄層熱可塑性樹脂補強材を得た。
(強度試験)
次に、実施例1〜4として作成したチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の強度試験を行った。ここでは、自動車用のCFRPやCFRTPとしての応用を視野に入れた弾性率評価を行うこととする。各実施例においては、繊維長の異なるチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を用いて、試験片を作成した。実施例1〜4が試験片1〜4に対応する。各試験片における具体的な原料の配合は、以下の表1の通りである。なお表1中において(*1)は繊維長を示している。
以上の実施例1〜5に係る試験片を用いて、曲げ強度、曲げ弾性率、曲げ弾性率の変動係数、引張強度、引張弾性率、引張弾性率の変動係数を測定した結果を、表2に示す。さらに、曲げ強度の測定結果のグラフを図10に、曲げ弾性率の測定結果のグラフを図11に、曲げ弾性率の変動係数のグラフを図12に、引張強度の測定結果のグラフを図13に、引張弾性率の測定結果のグラフを図14に、引張弾性率の変動係数のグラフを図15に、それぞれ示す。
(引張試験における弾性率計算)
ここでは、チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂として、幅15mm、厚さ約0.1mm、長さ35mmにカットした一方向性(Uni-Directional)テープ(以下「UDテープ」という。)をランダムな方向に敷き詰められた状態で固定したCTT材を使用した。そのため、厚さ2.0mmの試験片では、チョップドテープが20枚積層されていると考えられる。また、各層のテープの配置は、チョップドテープが占める面積を正方形に近似し、それらを隙間なく埋め、試験片の幅と標線間距離に対応した大きさの領域にどれだけチョップドテープが含まれるかを考えることでモデル化を行う。
繊維配向の異なるチョップドテープの弾性率を厚さ方向に合成するには積層板理論を導入する。まず各層の合成テンソルの要素を(1)式で導く。
ただし、
である。UDテープの各物性値を、表3に示す。
本実施例ではCTTのランダム性を表現するため、(3)式のθiに乱数を用いてランダムに方向性を与えた。全体の各剛性テンソルは(4)式のように、各層の剛性テンソルの平均で表される。
求められた全体の剛性テンソルから、積層されたチョップドテープの束の弾性率を(5)式で求める。
ただし、
である。幅方向には(7)式、長手方向には(8)式の重ね合わせの原理を用いて合成し、弾性率を計算した。
ただし、anとbmは重み付け係数である。
(3点曲げ試験における弾性率計算)
3点曲げ試験の弾性率のモデル化は、引張試験のモデルを応用して行う。引張試験と異なる計算をしなければならないのは、厚さ方向と長手方向に対するチョップドテープの位置に従って全体の弾性率への寄与度を変える点である。
厚さ方向は表面に近いほど大きく曲がり、中心に位置するチョップドテープは殆ど曲がらないことから、位置を考慮した重み付けを行う。
長手方向も、圧子点に近いほど大きく曲がり支点に近い部分の曲がりは小さいため、(8)式のbmに圧子との距離を考慮した重み付けを加える。
(実験結果と計算結果の比較)
弾性率モデルの妥当性を示すために表4で示す6条件の引張試験と表5で示す3条件の3点曲げ試験を行った。CTTに関する標準試験法はJIS等でも未だ規格化されていない。このため、引張試験では従来より、便宜的にJISの等方性及び直交異方性繊維強化プラスチックの試験条件に従って行っており、本発明でもその条件での実験を比較のために行う。また、試験片や測定範囲の大きさによってバラツキがどのように変化するのかを調べるため、厚さ、幅、標線間距離を変えた条件を用意した。
図4は実験結果と計算結果の平均弾性率を纏めたグラフであり、図5は変動係数を纏めたグラフである。グラフに表示した計算結果は、1000回の計算結果の平均とした。
平均弾性率について、結果に大きな差が見られないことから、モデルが実験結果をよく表していると言える。変動係数については、弾性率測定範囲が小さなサイズの条件において、実験結果が計算結果よりも大きな値を示している。しかし、これらの条件はJISの規格よりも小さなサイズである。また、三次元計測X線CT装置を用いて試験片の内部観察を行うと、成形によるバラツキが主原因であることが判明した。以上のことから、モデルの妥当性が確認できた。
(モデルを用いたバラツキ予測)
図5から、3点曲げ試験のバラツキは引張試験のバラツキよりも大きいため、弾性率評価として相応しい試験法は引張試験であると言える。
図6は試験片の各寸法のバラツキに対する影響を比較したものである。どの寸法も大きくするとバラツキを小さくできるが、最も効果が大きいのは厚さであることが判る。
工業的には一般的に変動係数を5%以下にすることを求められることが多いため、5%以下を目標に試験条件をデザインすると、JISに従った試験片サイズの条件では精度の高い結果が得られないことは図5の実験結果と計算結果両方から判る。
図7は幅と試験片本数を固定し、厚さと標線間距離を変化させてその変動係数をプロットしたグラフを示している。このグラフから、5%達成のためには少なくとも幅35mm、厚さ4mm、標線間距離100mmにする必要があることが判明した。
図8は試験片本数を変えた時の平均変動係数の変化を示したものであり、試験片本数を増やしても平均変動係数を下げることができないが、平均変動係数のバラツキが小さくなることが判明した。よって、試験片本数の条件は従来のJISに従って5本以上あればよいとする。
図7の右側の標線間距離は自動車の部材に近いサイズになっており、変動係数は非常に小さな値となっている。このことから、自動車部材を作る場合にはCTTはバラツキの小さな材料であると言える。しかし、小さな部品やコーナー部分等十分な大きさを担保できない箇所には不向きな材料である。
(テープの物性と薄層CTTの成形)
自動車への更なる適用を図るために、バラツキを抑えた新たなCTT材を検討する。上述したモデルを用いたバラツキ予測では、試験片のサイズを大きくすることでバラツキを抑えることを考察したが、チョップドテープの寸法を小さくすることで相対的に同様の効果が得られる。
そこで、開繊技術と抄紙の技術を応用して、薄層CTTを生成する。この材料のチョップドテープの幅は5mm、厚さは約45μmであり、長さは自由に変更することができる。本実施例では6mm、12mm、18mm、24mmの長さの異なるチョップド薄層テープから作られた薄層CTTを用いて、チョップドテープの大きさが与える諸物性、ならびにそのバラツキへの影響について調べる。
はじめに薄層CTTを構成するテープ材の物性について、UD材を成形して測定をした。表6にその結果を示す。以降のモデルではこれらの値を用いて計算をした。
増粘させた水と界面活性剤からなる分散液中に、チョップド薄層テープ材15gとPVA繊維(クラレ製「VPB107-2×3」0.6gを分散させた後、250mm×250mmの抄紙面を有するシートマシンに流し込み、分散、脱水、乾燥させてシートを得た。条件はチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂の繊維長違いで4種類の250mm角の抄紙シートを得た。シートの坪量は250g/m2であった。その後、シート材料を積層、加熱加圧成形してCTTを成形した。プレス条件を図9に示す。
また、実施例1〜4に係る試験片の曲げ強度を測定した結果を図10に、曲げ弾性率を測定した結果を図11に、変動係数を図12に、それぞれ計算値と共に示す。いずれも35GPa以上で、ほぼ40GPa程度を達成している。このことから、試験片の長さによらず、高い強度を実現できることが確認された。18mmの変動係数の実験値が大きな値を示しているのは成形板ごとによるバラツキのためである。したがって、モデルとよく合致していると言える。また、変動係数が実験結果も計算結果も10%以下となり、従来のCTTに比べ非常に小さい値となっている。本実施の形態においては、CTTの曲げ弾性率を20GPa以上とすることが好ましい。
(引張試験)
次に引張試験を実施した。引張強度を測定した結果を図13に、さらに引張弾性率を測定した結果と、その変動係数を、図14及び図15に示す。引張弾性率も、いずれの試験片においても35MPa以上を達成しており、同様に高い剛性を得られていることが確認された。またこの試験においても、試験片の長さによらず、ほぼ一定の引張弾性率を達成できることが判明した。さらに変動係数も、12mm、18mmの試験片では若干高いものの、概ね信頼性の高い結果が得られていることが確認された。
上記の試験の際に取得した赤外線写真を用いて初期破壊の様子を観察した。破壊が起きると図16のように周囲よりも温度がわずかに上昇する。この結果をもとに、初期破壊箇所の繊維配向を3次元計測X線CT装置を用いて調べた。その結果、はじまりの破壊箇所には引張荷重に直角方向を向いているテープが多く含まれていることが判明した。
以上の通り、強度試験では量産車軽量化用を念頭に置いて、CTT材に対して実験とモンテカルロ法を用いたシミュレーションを行い、テープの厚さ、幅、長さ、試験片形状を変更した実験結果との比較から、シミュレーション手法の妥当性が検証された。またCTT材は、自動車部材の寸法においては力学特性のバラツキが許容範囲となるものの、JISやISOで推奨されている小型試験片では大きなバラツキが生じるケースもあることが明らかとなった。さらにテープのアスペクト比(=長さ/厚さ)は剛性には殆ど影響しないが、応力はアスペクト比の増加と共に向上して飽和することが示された。以上の知見から、部材形状に対する最適テープ寸法の設計、並びにテープ寸法が決められた場合のバラツキも含めた部材性能の精度良い予測、等のより軽量な構造設計が可能となることが示された。
(比較例1)
ここで、比較例1として、従来のガラス繊維をチョップしてランダムに固定したチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材を作成し、強度を比較した。この比較例1に係るチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材は、強化繊維としてガラス繊維を使用しているため薄層にできず、厚層となる。また強化繊維含有率Vfは、50%であった。このようにして得られたチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の曲げ強度は320MPa、また曲げ弾性率は16GPaであった。このことから、本発明の優位性が確認された。
特に、従来の繊維強化熱可塑性樹脂シート材では強化繊維含有率Vfが30%でのばらつきを示すCV値が5〜10%であったものが、本実施例に係る薄層CTTでは1〜4%程度とできる。
(厚層チョップドテープ材の抄紙法による製造方法)
以上の例では、セミプリプレグ状態にある薄層のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を用いて、抄紙法でチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材を製造する方法について説明した。薄層のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を用いることで、力学的物性に優れ、また均一性が向上するなどの利点が得られる。
ただ、本発明は薄層のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂に限定するものでなく、ある程度の厚み(〜0.1mm)を持ったチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を用いてチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材を構成することもできる。以下、チョップドテープ材を抄紙法(機械抄き)で補強シート材に製造する方法について説明する。
機械抄きの場合には、流れ方向でチョップドテープ材が配向する。ここでチョップドテープ材を、図17の拡大断面図に示したように、一方向に延長した長方形状とした場合、配向方向が一方向に揃う傾向があり、この結果、等方性のバランスが低下する。ここで、図18に示すようにチョップドテープ材を正方形とすることで、チョップドテープ材の分散性を改善し、力学的物性のばらつきを抑制できる。またバインダを用いてチョップドテープ材を接着させることで、繊維の蛇行やチョップドテープ材の脱落を抑制し、ドレープ性を維持した熱可塑性樹脂補強シート材を作成できる。すなわち、チョップドテープ材の幅、長さ比を制御することで、熱可塑性樹脂補強シート材の長さ方向、幅方向の力学的物性を制御できる。このため、機械抄きの場合に、熱可塑性樹脂補強シート材の力学的物性とチョップドテープ材の形状(幅:長さの比)を関連付ける。例えば、チョップドテープ材の幅:長さ=1:1の場合(正方形の場合)、熱可塑性樹脂補強シート材の幅方向と長さ方向の力学的物性を1:1に近付けることができ、等方性の材料となる。
さらに、チョップドテープ材の繊維方向を制御することで、熱可塑性樹脂補強シート材の長さ方向、幅方向の力学的物性を制御することもできる。上述の通り、機械抄きの場合は、流れ方向にチョップドテープ材が配向する。そこで、製造方法上の特性とチョップドテープ材の繊維方向を関連付ける。例えば、図19Aに示すようにチョップドテープ材の形状を、幅:長さ=1:5とする場合、機械抄きの場合は、流れ方向にチョップドテープ材が配向する結果、長さ方向(図において縦方向)の強度は高いものの、幅方向(図において横方向)の強度は相対的に低く、等方性が悪くなる。そこで、チョップドテープ材の繊維の方向を意図的に傾斜させることで、その等方性のバランスを取る。傾斜角度θは、熱可塑性樹脂補強シート材として得たい所期の等方性と、チョップドテープ材の縦横比で実際に得られる等方性とを考慮して設定される。さらに、チョップドテープ材は単一のものを使用するのに限られず、傾斜角度θの異なる複数種類のチョップドテープ材を混在させてもよい。例えばチョップドテープ材の縦横比が5:1の場合に、熱可塑性樹脂補強シート材の縦横の力学的物性を1:1に近付けるために、図19Bに示すように、繊維方向を、長さ方向を0°とした場合のθ=10°傾斜させたチョップドテープ材を用いて熱可塑性樹脂補強シート材を構成することで、熱可塑性樹脂補強シート材の幅方向と長さ方向の力学的物性を1:1に近付けることができる。あるいは、繊維方向を+10°傾斜させた第一チョップドテープ材と、−10°傾斜させた第二チョップドテープ材を、1:1の比率で混在させることで、等方性のバランスを維持することもできる。
さらに、抄紙法における流体の粘度を制御することで、熱可塑性樹脂補強シート材の長さ方向、幅方向の力学的物性を制御することもできる。
本発明に係るチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材及びその製造方法によれば、CFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermoplastics:炭素繊維強化熱可塑性樹脂)、CFRTS(Carbon Fiber Reinforced Thermosets:炭素繊維強化熱硬化性樹脂)等に好適に利用できる。また前駆体であるプリプレグの他、プリプレグから得られる各種製品に対しても好適に利用できる。例えば、電磁波吸収及びシールド材、断熱材、電極材料等に好適に利用できる。また繊維強化樹脂成形体として、例えば乗物用の構成材料(例えば自動車、自転車、列車、航空機、ロケット、エレベーター等)、電子、電気部品の構成材料(例えばパソコン・携帯用の筐体部等)建築、土木構造体用材料、家具等において、好適に利用できる。
1…熱可塑性樹脂補強シート材
2…チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂
3…強化繊維シート材;3f…強化繊維
4…樹脂シート芯材

Claims (16)

  1. 複数の強化繊維が所定方向に引き揃えられた強化繊維を、樹脂シート芯材の表面に、該強化繊維の引き揃えた方向が同じ方向となるように熱融着により付着させて形成されている、所定の幅及び長さにチョップされた複数のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂と、
    前記複数のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を平面状にランダムに重ねて配置した状態でシート状に固定するための、前記強化繊維同士の間に付着させてこれらを固定するための樹脂バインダとを備え、
    前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂は、前記強化繊維がマトリックス樹脂である前記熱可塑性樹脂シートの両面に付着されてなることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材。
  2. 請求項1に記載のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材であって、
    前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の繊維体積含有率が、30%以上であることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材。
  3. 請求項1又は2に記載のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材であって、
    前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂が薄層であることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材。
  4. 請求項1〜3のいずれか一に記載のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材であって、前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂は、該チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂の断面厚さが、前記強化繊維の直径の10倍以内に設定されてなることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材。
  5. 請求項1〜4のいずれか一に記載のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材であって、前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂の厚さが、0.1mm以下であることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材。
  6. 請求項1〜5のいずれか一に記載のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材であって、前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂の長さが、100mm以下であることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材。
  7. 請求項1〜のいずれか一に記載のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材であって、前記強化繊維が、炭素繊維であることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材。
  8. 請求項1〜のいずれか一に記載のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材であって、前記樹脂バインダが、ポリビニルアルコール樹脂製であることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材。
  9. 請求項1〜のいずれか一に記載のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材であって、
    該チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材を加熱加圧成形した繊維強化熱可塑性樹脂成形体の曲げ弾性率が、20GPa以上であることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材。
  10. 請求項1〜のいずれか一に記載のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材であって、前記樹脂バインダが均等に付着していることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材。
  11. 請求項1〜10のいずれか一に記載のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材であって、前記複数のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂同士が抄紙されて前記強化繊維同士の間に前記樹脂バインダを付着させて平面状に堆積させた状態でシート状に加工されてなることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材。
  12. 複数の強化繊維を所定方向に引き揃えた強化繊維シート材を、マトリックス樹脂となる樹脂シート芯材の両面に、強化繊維の引き揃えた方向が同じ方向となるように熱融着により付着させて、シート状の繊維強化熱可塑性樹脂シート材を作成するシート形成工程と、
    前記繊維強化熱可塑性樹脂シート材を所定の幅及び長さにチョップして短冊形状のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を作成するチョップ工程と、
    前記チョップされたチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂を、樹脂バインダと共に水中に分散させ、平面状に堆積させた状態でシート状に加工する湿式抄紙工程と
    を含むことを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法。
  13. 請求項12に記載のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法であって、前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の繊維体積含有率を、30%以上としてなることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法。
  14. 請求項12又は13に記載のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法であって、前記強化繊維として、炭素繊維を用いてなることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法。
  15. 請求項1214のいずれか一に記載のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法であって、
    前記樹脂バインダとしてポリビニルアルコール樹脂を用いてなることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法。
  16. 請求項1215のいずれか一に記載のチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法であって、
    前記チョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂が薄層であることを特徴とするチョップドテープ繊維強化熱可塑性樹脂シート材の製造方法。
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