JP6543516B2 - 鉛電解液のリサイクル方法 - Google Patents
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Description
粗鉛中には不純物の錫、銅、タリウム等が相当量含有されており、錫および銅はドロッシングにより除去可能であるが、ドロッシング後においても粗鉛中にタリウムが残存する。したがって、粗鉛をアノードとして電解精製を継続すると、鉛電解液中にタリウムイオンが蓄積する。電解液中にタリウムイオンが蓄積すると、カソードに析出する精製鉛中にタリウムが取り込まれて精製鉛の品位が低下すること、および、タリウム自体が有価金属であることから、鉛電解液からタリウムを回収する必要がある。
すなわち、鉛電解液中には、平滑剤として膠等の有機物が含まれているが、これらの有機物は、鉛電解液の粘度を増加させることによりカソード上の電析鉛を平滑化する作用を有するとともに、アノード表面で一部酸化されてプラスに荷電した有機物が、電位勾配によりカソード側に泳動してカソード表面で皮膜を形成し、鉛電析のカソード過電圧を増加させることによりカソード上の電析鉛を平滑化するものと考えられる。その際、鉛電解液中に遊離のヨウ化物イオンが存在すると、有機物の電荷が中和され、カソード表面における皮膜形成が抑制されるためにカソード過電圧が減少するものと推測される。
したがって、ヨウ化物イオンを用いてタリウムの回収を行った場合、鉛電解液を再使用可能とするためには、タリウム回収後の鉛電解液中に溶存する遊離のヨウ化物イオン濃度を低減させる必要がある。本発明者等は、以上の知見を基に本発明を完成させた
すなわち、本発明においては、
粗鉛の電解精製に使用したケイフッ化物イオン、平滑剤およびタリウムイオンを含む鉛電解液にヨウ化物イオンを添加し、析出したヨウ化タリウム結晶を分離・回収するタリウム回収工程と、前記タリウムを回収後の鉛電解液に、ヨウ化物イオンに対するモル比Ag/Iで1以上10以下の銀イオンを添加してヨウ化銀結晶を析出させ、析出したヨウ化銀を分離・回収するヨウ化物除去工程と、前記ヨウ化物除去後の鉛電解液をアノードおよびカソードに鉛を用いて電解し、カソード表面に金属銀を析出させて銀を回収する銀回収工程と、を含む鉛電解液のリサイクル方法が提供される。
本発明の鉛電解液のリサイクル方法においては、前記のタリウム回収工程における鉛電解液中の遊離のタリウムイオン濃度を0.5g/L以上10g/L以下にすることが好ましい。
[鉛の電解精製]
鉛の電解精製は、不純物を含む粗鉛を鉛電解液中でアノードとして電解し、カソード上に精製鉛を電析させることにより行う。本発明においては、精製の対象となる粗鉛については特に規定するものではないが、鋳造前に500℃程度まで温度を低下させ、錫および銅の大部分をドロスとして分離したものを用いると、鉛電解液のリサイクルの負荷が軽くなる。
本発明の鉛電解液のリサイクル方法においては、鉛電解液中に溶出したタリウムイオンの分離・回収にはヨウ化タリウムの析出反応を利用する。ヨウ化タリウムは純水に対する溶解度が0.08g/飽和水溶液1dm3(25℃)、溶解度積Ksp=9.96×10-8(30℃)で水に難溶性の塩である。したがって、タリウムイオンを含む鉛電解液中にヨウ化物イオンを添加すると、ヨウ化物イオンとタリウムイオンとが反応してヨウ化タリウム結晶が析出する。本発明のリサイクル方法においては、析出したヨウ化タリウム結晶を、例えばフィルタープレス等の公知の固液分離手段により鉛電解液から分離し、有価物質として回収する。
本回収工程において添加するヨウ化物イオン源としては、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)等の水可溶性の塩の水溶液やヨウ化水素(HI)の水溶液を用いることができる。
なお、本回収工程において、ヨウ化タリウムを析出させた後の鉛電解液中の遊離のタリウムイオン濃度を規定するのは、濃厚な鉛電解液中の極微量アニオン種であるヨウ化物イオンの濃度を測定するのが困難なためで、鉛電解液中の遊離のヨウ化物イオン濃度は、遊離のタリウムイオン濃度と溶解度積の値から算出する。
前記のタリウム回収工程の固液分離後の鉛電解液中には4〜10mg/L程度のヨウ化物イオンが残存しており、この電解液をそのまま電解精製の鉛電解液にリサイクルすると、電解精製の際にカソード上にデンドライト状の鉛結晶が電析し易くなるので、電解液中に残存するヨウ化物イオンを除去する必要がある。
ヨウ化物添加前の鉛電解液、および、ヨウ化物を添加してタリウムを回収した後の鉛電解液に遊離のヨウ化物イオン濃度の推定値に対してモル比で銀(I)イオンを添加し、析出したヨウ化銀(I)を分離・除去した鉛電解液について、(株)山本鍍金試験器製のハルセル(登録商標)を用い、純鉛をアノードおよびカソードとし、電解温度30〜40℃、全電流3Aで20分間電解を行い(ハルセル試験)、カソード表面の電析物の形態を比較した。このハルセル試験の条件では、ヨウ化物添加前の鉛電解液の場合には、高電流密度側で極僅かなこぶ状の鉛の電析物が観察されたが、それ以外の低電流密度側では平滑な鉛の電析物が得られた。ヨウ化銀(I)の分離・除去後の鉛電解液の場合には、Ag/I=0.26では高電流密度側で著しい鉛のデンドライト析出が起こり、Ag/I=0.8〜1でも高電流密度側でデンドライト析出が観察された。Ag/I=2では析出状態がヨウ化物添加前の鉛電解液の場合のそれと等しくなり、Ag/I=5まで増加しても析出状態は変化しなかった。
前記のヨウ化物除去工程においては、残存するヨウ化物イオン量に対して過剰の銀(I)イオンを添加するので、電解によりヨウ化物イオン除去後の鉛電解液から銀を回収する。
(電解条件の例示)
鉛電解液滞留時間:75分間
電解液温度:10〜45℃
電流密度:77〜154kA/m2
鉛電解液中のTl、Pb、Ag濃度の測定は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により行うことができる。
カソード過電圧の測定は3電極法で行うことができる。具体的には例えば、測定対象の鉛電解液中に作用極(カソード:鉛をめっきした白金板)、対極(アノード:純鉛)および参照極(純鉛)の3電極を浸漬し、撹拌条件下、温度40℃で、ポテンショガルバノスタットを用いて作用極−対極間にカソード電流密度154A/m2の一定電流を流し、作用極とその近傍に配した作用極との電位差を測定し、これをカソード過電圧とする。
本発明のリサイクル方法の対象となる鉛電解液には高濃度の各種イオンが含まれているため、ヨウ化銀(I)析出後の遊離のヨウ化物イオン濃度を測定することは経済的な観点から困難なので、鉛電解液中のヨウ化物イオン除去の評価はカソード過電圧の測定により行う。以下に、その具体例を示す。
引き続き脱Tl後液を連続的に容量20Lの連続槽型反応器に供給し、滞留時間20分、反応温度40℃で銀(I)イオンと反応させてヨウ化銀(I)の結晶析出を行わせた。銀(I)イオンの量は、遊離ヨウ化物イオン濃度に対し、Ag/Iのモル比で3.5倍量を添加した。
その後、カートリッジフィルターを用い、脱Tl後液からヨウ化銀(I)結晶を分離した鉛電解液(脱I後液)を浄液用電解槽に送り込み、上述の銀回収工程の説明において例示した記した電解条件に従って電解を行い、銀を回収した。
ここでサンプル溶液に膠水溶液を添加する目的は、ヨウ化タリウム結晶をフィルタープレスで分離する際に同時に失われた膠を補うためであり、膠水溶液の添加量の増加とともに過電圧が上昇する場合に、ヨウ化物イオンの除去の効果があったと判断され、リサイクルに供することができる。
バッチ型反応容器を用い、反応温度20〜45℃で、鉛濃度50〜70g/L、タリウム濃度2.8g/L、ケイフッ化水素酸濃度(遊離酸濃度)90〜150g/L、膠濃度80〜160mg/Lの鉛電解液に、ヨウ化ナトリウムを0.7g/Lになるように添加し、30分間撹拌した後沈澱したヨウ化タリウムを濾過により回収した電解液を供試溶液とした。ヨウ化タリウム回収後の電解液中のタリウム濃度は1.8g/Lであり、ヨウ素含有量は3mg/Lであった。
Agイオン回収後の鉛電解液を電解槽に連続的に供給し、粗鉛をアノードとし、純鉛をカソードとして24時間連続して電解精製を行った。電解条件は、電流密度150A/m2、電解電圧1.2V、温度40℃である。
図4に、実施例1と同様の条件でタリウムの分離・回収を行い、ケイフッ化銀(I)溶液の添加をせず、ヨウ化物イオンが残存したままの鉛電解液で2時間電解精製を行った後のカソードの表面外観を示す。カソード表面にはデンドライト状の電析粒が析出したため、電解を継続することができなかった。
Claims (4)
- 粗鉛の電解精製で使用したケイフッ化物イオン、平滑剤およびタリウムイオンを含む鉛電解液にヨウ化物イオンを添加し、析出したヨウ化タリウム結晶を分離・回収するタリウム回収工程と、
前記タリウムを回収後の鉛電解液に、ヨウ化物イオンに対するモル比Ag/Iで1以上10以下の銀イオンを添加してヨウ化銀結晶を析出させ、析出したヨウ化銀を分離・回収するヨウ化物除去工程と、
前記ヨウ化物除去後の鉛電解液を、アノードおよびカソードに鉛を用いて電解精製し、カソード表面に金属銀を析出させて銀を回収する銀回収工程と、
を含む鉛電解液のリサイクル方法。 - 前記のタリウム回収工程において、タリウムを回収した後の鉛電解液中の遊離のタリウムイオン濃度を0.5g/L以上10g/L以下とする、請求項1に記載の鉛電解液のリサイクル方法。
- 前記のヨウ化物除去工程における銀イオンの添加は、ケイフッ化水素酸の水溶液に酸化銀を化学的に溶解したもの、およびケイフッ化水素酸の水溶液に銀を電解により溶解したもののうち、いずれか一方または双方のものを用いて行う、請求項1または2に記載の鉛電解液のリサイクル方法。
- 前記の平滑剤が膠である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉛電解液のリサイクル方法。
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