以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。なお、騒音発生源側に配置される面を正面とし、反対側を背面として説明する。また、正面と背面とが対向する方向を奥行方向とする。
(第1実施形態)
図1〜図4を参照して、第1実施形態に係る吸音構造体1について説明する。図1は、第1実施形態に係る吸音構造体1を示す斜視図である。図2は、吸音構造体1を騒音発生源側から示す正面図である。図3は、吸音構造体1の水平方向に沿う断面を示す断面図である。吸音構造体1は、共鳴器型の吸音機構として、ヘルムホルツ共鳴器の原理が基本として採用されている。
吸音構造体1は、略薄板状の箱形を成すように形成され、正面側に配置される表面部材100と、所定の間隔を空けて表面部材100の背面側に配置された背面部材140とを備えている。表面部材100と背面部材140とは、吸音構造体1の奥行方向に互いに対向して配置され、表面部材100と背面部材140との間には、図3に示されるように、空洞部160が形成されている。空洞部160は、表面部材100と背面部材との間に形成されている。
表面部材100は、奥行方向に開口が小さくなる形状を呈する複数の開口凹部110を備えている。複数の開口凹部110は、図2に示されるように、図示上下方向(第1の方向)に並んで配置されていると共に、図示左右方向(第2の方向)に並んで配置されている。複数の開口凹部110は、第1の方向に列を成すように配置されていると共に、第2の方向に列を成すように配置されている。第1の方向及び第2の方向は、図3に示される開口凹部110の中心線112と直交すると共に、互いに交差している。図2では、第1の方向及び第2の方向は直交しているが、第2の方向は、第1の方向に対して所定の角度で交差するもでもよい。
開口凹部110の開口111は、正面から見た場合に正方形を成すように形成されている。この正方形の辺は、第1の方向又は第2の方向に沿って配置されている。開口凹部110は、図3に示されるように、開口の中心線112に対して所定の傾斜角θで傾斜する傾斜板130を備えている。開口凹部110は、4枚の傾斜板130を備え、第1の方向に向かい合って配置された一対の傾斜板130と、第2の方向に向かい合って配置された傾斜板130とを備えている。傾斜板130の厚み方向から見た場合には、傾斜板130は台形状を成すように形成されている。
傾斜板130は、正面側から背面側に向かうにつれて、中心線112に接近するように傾斜して配置されている。傾斜板130の正面側の端部131が中心線112から最も離れており、傾斜板130の背面側の端部132が中心線112に最も接近している。図2に示されるように、正面側において隣接する端部131は互いに直交するように配置され正方形を成すように配置され、同様に背面側において隣接する端部131は互いに直交するように配置され正方形を成すように配置されている。一つの開口凹部110において、4枚の傾斜板130によって囲まれる空間は、中心線112方向に背面側に向かって開口の大きさが小さくなる逆方光体形状を成している。
また、第1の方向において隣り合う開口凹部110同士は、互いに近接して配置され、正面側の端部131は、両方の開口凹部110の端部を兼ねている。同様に、第2の方向において隣り合う開口凹部110同士は、互いに近接して配置され、正面側の端部131は、両方の開口凹部110の端部を兼ねている。開口凹部110の正面側の端部131は、図1に示すように、格子状に形成されている。
傾斜板130の中心線112側の面(傾斜面)は、例えば平坦面を成している。図3に示されるように、中心線112に沿う断面において、傾斜板130の傾斜面と中心線112との成す角度(傾斜角θ)は、例えば15°以上20°以下である。対向する傾斜板130の傾斜面同士の角度である頂角120(2θ)は、例えば30°以上40°以下である。
図4(b)に示されるように、頂角120が30°以上40°以下であると、傾斜板130の傾斜面での入射音の騒音発生源側への反射を極力抑制し、効率的に音を吸音構造体1の内部(空洞部160)に導くことができる。騒音発生源が1点であり、移動しない場合には、図4(a)に示されるように、傾斜角θは15°より小さい角度でもよい。
例えば騒音発生源が移動物体である場合には、入射音は開口凹部110に対してあらゆる方向から入射することになる。傾斜板130の傾斜角θが20°以上であると、傾斜板130の傾斜面において入射音の騒音発生源側への反射が増加し、入射音を吸音構造体1の内部(空洞部160)に導く収束性が損なわれる。傾斜板130の傾斜角θが15°以下であると、空洞部160の体積(表面部材100と背面部材140とによって挟まれた空間の体積)が大きくなりヘルムホルツ共鳴周波数は低周波数側に移行する。低周波数帯域での吸音特性を強化する場合には、空洞部160の体積を大きくしてもよい。全周波数帯域での吸音特性を向上させるには、傾斜角θを15°以上20°以下にすることが好ましい。なお、空洞部160の体積とは、表面部材100の傾斜板130と、背面部材140との囲まれた領域の体積である。開口凹部110の開口111に対応する部分においては、傾斜板130の背面側の端部132より、背面側の部分を、空洞部160として含み、傾斜板130の正面側の部分は、空洞部160として含まない。
図3に示されるように、開口凹部110の中心線方向の長さL110は、騒音発生源側の開口の一辺の長さaの1〜2倍が好ましく、1〜1.2倍であるのが更に好ましい。開口凹部110の中心線方向の長さL110が一辺の長さaよりも小さいと、集音効果が悪くなり、中心線方向の長さL110が一辺の長さaの2倍より大きいと、表面部材100が厚くなり、重量が増加し取扱性が損なわれる。例えば、現場で施工する際に、重機が必要となったり、作業性が低下することになる。なお、開口凹部110の中心線方向の長さL110とは、中心線112が延在する方向(奥行方向)において正面側の端部131と背面側の端部132との距離である。開口の1辺の長さaとは、開口凹部110の正面側の端部131の長さである。
背面部材140は、平坦な板状を呈し、背面部材140の厚み方向が吸音構造体1の奥行方向に沿うように配置されている。背面部材140の表面部材100に対向する面は平坦面を成している。背面部材140は、表面部材100の背面側の端部132から、奥行方向(騒音発生源から遠ざかる方向)に離間して配置され、表面部材100と背面部材140と間には隙間150が形成されている。本実施形態の吸音構造体1では、背面部材140を備える構成としているが、吸音構造体は背面部材140を備えていないものでもよい。例えば、既設の構造物の前方に、所定の隙間を形成して、表面部材100を配置してもよい。既設の構造物としては、例えば建物の外壁、その他のコンクリート防音壁などが挙げられる。
開口凹部110の中心線方向の長さL110は、隙間150の中心線方向の長さL150の2倍以上18倍以下であることが好ましい。開口凹部110の長さL110が隙間150の長さL150の2倍より小さい場合には、後述する空気減衰吸音の層が薄くなり、所定の吸音効果が得られないおそれがある。開口凹部110の長さL110が隙間150の長さL150の18倍より大きい場合には、低音周波数帯域で吸音効果を向上させることができるが、必要とする建築限界の減少につながるため、施設の面から好ましくない。
また、表面部材100では、複数の傾斜板130が背面側に張り出すように配置されているので、表面部材100の背面側は、リブで補強された構造体を形成することになり、表面部材100自身で、奥行方向に直交する面に作用する風荷重等の外力に対して、必要な強度及び剛性を確保することができる。
また、吸音構造体1は、連結部によって、表面部材100と、背面部材140とが連結されている。例えば、連結部として、後述する図25で示すような枠体520を用いることができる。連結部は上記の空洞部160を形成する壁体の一部を構成している。これらの表面部材100、背面部材140及び連結部は、例えば後述するFRP(Fiber Reinforced Plastic)によって形成することができる。
次に、吸音構造体1の作用について説明する。
吸音構造体1は、例えば、鉄道の線路に両側に設置されて使用される。表面部材100は、線路側に配置される。騒音発生源である列車が通過すると、吸音構造体1に向かって伝達された音は、吸音構造体1に入射される。この入射音の一部は、開口凹部110の傾斜板130の傾斜面に当たって反射する。入射音のうち傾斜板130の傾斜面に当たらず、開口凹部110の開口111を通過した入射音は、空洞部160内に入射する。
空洞部160内に導入された音は、共鳴周波数の近くで激しく振動し、入射音と開口凹部110周辺の空気との摩擦熱として、音のエネルギーが消費されて減衰される。また、傾斜板130の傾斜面に当たって反射した音と、開口凹部110に入射する入射音とが干渉することで、互いの音が減衰される。これにより、より広い周波数帯域で吸音性能を向上させることができる。
このような吸音構造体1では、内部に吸音材を備えていないので、吸音材を交換する必要がなく、メンテナンスフリーとすることができる。また、吸音構造体1では、吸音材を備えていないので、目詰まりのおそれがなく、吸音性能の低下を抑えることができる。また、吸音材を備えていない吸音構造体1は、吸音材を廃棄する必要がなく、環境負荷を低減することができる。
また、吸音構造体1はFRP製(繊維強化樹脂製)であるので、紫外線による劣化を抑えることができる。また、FRP製の吸音構造体1によれば、所定の強度、剛性、耐熱性、耐水性、意匠性、易施工性を実現することができる。
また、吸音構造体1では、複数の開口凹部110が隣接して2次元的に規則的に配置された表面部材100を備えているので、簡素な構成とすることができ、製造コストの増大を抑えることができる。
また、この吸音構造体1では、開口凹部110の傾斜板130が正面側から背面側に延在し、複数の開口凹部110が近接されて2次元的に規則的に配置されている。一つの開口凹部110において、互いに対向する2組の傾斜板130が背面側に延在するように形成されて、この傾斜板130をリブとして機能させることができる。これにより、表面部材100自身で、強度及び曲げ剛性を確保することができる。
(実施例1の評価)
次に、実施例1に係る吸音構造体の評価について説明する。実施例1の吸音構造体は、上記の第1実施形態の吸音構造体1である。
吸音構造体1は、複数の開口凹部110の個数分の単一共鳴器が並んだものと考えられる。図3に示されるように、破線L
1で囲まれた部分について、下記式(1)を用いてヘルムホルツ共鳴周波数を算出した。破線L
1は、隣り合う開口凹部110の境界に沿って仮想的に配置したものである。
ここで、Cは音速である。Sは開口凹部110の長さL
110の1/2の位置における開口の面積(中心線112と直交する面における開口の面積)である。Vは、破線L
1で囲まれた部分の直方体に相当する体積から開口凹部110の傾斜板130に囲まれた体積を除いた部分である空洞部160の体積、lは開口凹部110の中心線方向の長さL
110である。δ(=κb)は開口凹部110の背面側の端部132の一辺bの管端補正である。管端の補正係数であるκは、上記の非特許文献1のP85、図4・23に基づいて算出した値であり、κ=0.8である。bは、開口凹部110の背面側の端部132の一辺の長さである。
吸音構造体1の中心線112に沿う長さである全長L100(=L110+L150)を100mmとした。また、一辺を1.08mとして、正面から見て正方形を成す吸音構造体1を製作した。このとき、開口凹部110の個数は、196個(=14×14)となる。また、吸音構造体1の周囲に50mm幅の枠体を設けた。
吸音構造体1をFRPで製作して実施例1の吸音構造体1を得た。得られた吸音構造体1について、JIS A 1409 「残響室法吸音率」に基づき吸音率を測定した。このときの測定結果を図5に示す。図5では横軸に中心周波数(単位:Hz)を示し、縦軸に吸音率を示している。図5に示されるように、吸音率のピークP1は500Hzであった。上記式(1)による計算結果である共振周波数f0(=551Hz)とほぼ一致する測定結果となった。ピークP1における吸音率は約0.50であった。このピークP1は、中心線方向に開口が小さくなる形状を呈する開口凹部110の中(傾斜板130によって囲まれた領域内)で、図4(b)に示されるように、音が無数の反射、粗密運動を繰り返すことにより、音の運動エネルギーが熱エネルギーに転化され、熱放射により音の運動エネルギーが減少される(吸収減衰)ことによるものと推察され、この吸収減衰がヘルムホルツ共鳴周波数近傍で顕著に現れたものと推察される。
(実施例2〜5の評価)
次に実施例2〜5に係る吸音構造体1A〜1Dについて説明する。図6は、実施例2〜5の吸音構造体を示す断面図である。図6(a)は実施例2の吸音構造体1Aの断面図、図6(b)は実施例3の吸音構造体1Bの断面図、図6(c)は実施例4の吸音構造体1Cの断面図、図6(d)は実施例5の吸音構造体1Dの断面図である。
実施例2の吸音構造体1Aは、実施例1の吸音構造体1の表面部材100の正面に吸音材200を設置したものである。吸音材200として、厚さ10mm、密度1.65kg/m3のアルミ繊維不織布を用いた。
実施例3の吸音構造体1Bは、実施例1の吸音構造体1の背面部材140の正面に吸音材200を設置したものである。吸音材200は実施例2と同じものである。
実施例4の吸音構造体1Cは、実施例1の吸音構造体1の開口凹部110に吸音材210を設けたものである。具体的には、開口凹部110の傾斜板130によって囲まれた領域に吸音材210を配置した。吸音材210として軽石を用いた。軽石の平均粒径を6mm以上20mm以下とし、嵩密度を0.2g/cm3以上0.6g/cm3以下とし、気孔率を60以上80%以下とした。
実施例5の吸音構造体1Dは、実施例1の吸音構造体1の空洞部160の一部(隙間150)に吸音材210を配置した。吸音材210を背面部材140の正面に沿って配置し、吸音材210の厚みを25mm程度とした。
上記の実施例1と同様にFRPで実施例2〜5を製作し、JIS A 1409 「残響室法吸音率」に基づき吸音率を測定した。このときの測定結果を図7に示す。図7では、実施例2の吸音率を黒塗りの三角で示し、実施例3の吸音率を白抜きの三角で示し、実施例4の吸音率を黒塗りの丸で示し、実施例5の吸音率を白抜きの丸で示した。
図7に示されるように、実施例5では、低周波数帯域(300Hz〜600Hz)において、吸音率が0.7以上であった。吸音構造体1の空洞部160に吸音材210を充填することで、低周波数帯域の吸音効果を向上させることができた。
実施例2では、周波数が約500Hz、約1kHz、約3kHzにおいて、ピークが形成され、周辺の周波数帯域よりも吸音率が高くなっている。これらのピークにおける吸音率は約0.60であった。また、実施例2では、周波数が約5kHzにおいて、吸音率が0.40であった。
実施例3では、周波数が約250Hz、約400Hz、約3kHzにおいて、ピークが形成された。実施例3では、周波数が約250Hz及び約400Hzのときに吸音率は約0.50であり、周波数が約3kHzのときに吸音率は約0.30であった。
実施例4では、周波数が約250Hz、約400Hz、約1.5kHzにおいて、ピークが形成された。実施例4では、周波数が約250Hzのときに吸音率は約0.60であり、周波数が約400Hzのときに吸音率は約0.50であり、周波数が約1.5kHzのときに吸音率は約0.70であった。
実施例5では、周波数が約400Hzにおいて、ピークが形成され、このときの吸音率は1.00であった。実施例5では、周波数が約2.5kHzのとき、吸音率が0.40であった。
なお、上記の実施例4,5では、吸音材210として、無機材料からなる多孔質材料(平均粒径が6mm以上20mm以下、嵩密度が0.2g/cm3以上0.6g/cm3以下、気孔率が60%以上80%以下)について例示したが、所定の通気性を有する砕石(比重1g/cm3以上3g/cm3以下)であってもよい。構造体の重量が増加するが、バラストの代わりに、吸音構造体1C、1Dを軌道間に敷設することにより、列車からの音を吸音することができる。このとき、吸音構造体の表面部材を上にして、背面部材を下にして配置する。
また、吸音材(200,210)が無機質繊維(ロックウールやガラスウール)である場合は、製作費を抑えることができるが、紫外線に長時間曝されると無機質繊維が劣化し脆くなるので、野外での利用には、対策が必要である。
一方、有機繊維材料であるポリエステル綿は、紫外線劣化も少なく、埃などによる目詰まりが起きにくい形態とすることで、吸音材として利用できる。例えば、穴あきフィルムでポリエステルウールを覆うなどの対策をとるとよい。
また、耐炎化繊維からなるファイバーカット綿は、耐火性、耐溶剤性、耐薬品性、非導電性を有するのでより好ましい。耐炎化繊維としては、例えば、ポリアクリルニトリル前駆体を300℃以上500℃以下で焼成炭素化処理した繊維(商品名:パイロン「Zoltek Corporation製」)を用いることができる。
ここで、吸音材に必要な密度としては、ポリエステル綿、耐炎化繊維ファイバーカット綿ともに、20kg/m3以上50kg/m3以下であることが好ましい。
なお、吸音材は、無機材料単体でも良く、有機繊維材料単体でも良く、それらの組合せでも良く、これらに限定されるものではない。
(第2実施形態)
次に、図8〜図10を参照して、第2実施形態に係る吸音構造体2について説明する。図8は、第2実施形態に係る吸音構造体を示す横断面図である。図9は、図8中の貫通孔の断面図である。図10は、図8中の多孔部材を示す斜視図である。第2実施形態に係る吸音構造体2が、第1実施形態に係る吸音構造体1と違う点は、開口凹部110内に、複数の貫通孔340が形成された多孔部材300を備える点である。以下、第2実施形態の説明において、第1実施形態の吸音構造体1と違う点について説明する。
多孔部材300は、側面に複数の段差が設けられたブロック体を成している。多孔部材300は、正面301から見た場合に矩形状を成すように形成され、正面301から背面302に向かうにつれて、中心線112と直交する方向の外形寸法が段階的に小さくなるように形成されている。
多孔部材300は、正面301から背面302に向かって順に第1ブロック部310、第2ブロック部320、及び第3ブロック部330を備える。図8に示されるように、第1ブロック部310、第2ブロック部320、及び第3ブロック部330の奥行方向に直交する断面は、矩形を成している。第1ブロック部310の背面である段差面311は、第2ブロック部320の外周を囲むように形成され、外側(中心線112に直交する方向)に張り出している。第2ブロック部320の背面である段差面321は、第3ブロック部330の外周を囲むように形成され、外側に張り出している。
複数の貫通孔340は、多孔部材300の正面301から背面302に向かって同一方向に延びている。複数の貫通孔340は、矩形の正面301の直交する2辺301a,301bに平行な第3の方向及び第4の方向に並んで配置されている。図10に示されるように、複数の貫通孔340は、例えば、辺301aに沿う第3の方向に9個、辺301bに沿う第4の方向に9個、合計81(=9行×9列)個設けられている。複数の貫通孔340は、正面301において中央部に配置された第1貫通孔(中央部貫通孔)341と、第1貫通孔341の外側に配置された第2貫通孔(第2外周部貫通孔)342と、第2貫通孔342の外側に配置された第3貫通孔(第1外周部貫通孔)343と、を含む。
複数の第1貫通孔341は、図10に示されるように、正面301の中央において、第3の方向に5個、第4の方向に5個、合計25(=5行×5列)個設けられている。複数の第1貫通孔341は、破線で示す矩形の第1の枠301c内に配置されている。複数の第2貫通孔342は、複数の第1貫通孔341の外周に沿って、矩形状を成すように並べられて24個配置されている。複数の第2貫通孔342は、破線で示す矩形の第2の枠301d内に納められている。複数の第3貫通孔343は、複数の第2貫通孔342の外側で矩形状を成すように並べられて32個配置されている。複数の第3貫通孔343は、第2の枠301dの外側の領域に配置されている。
第1ブロック部310の外形寸法W1は、例えば64mmであり、第2ブロック部320の外形寸法W2は、50mmであり、第3ブロック部330の外形寸法W3は、36mmである。また、第1貫通孔341は、多孔部材300の正面301から背面302まで形成され、中心線方向における長さL341は、例えば55mmである。第2貫通孔342は、多孔部材300の正面301から段差面321まで形成され、中心線方向における長さL342は、例えば30mmである。第3貫通孔343は、多孔部材300の正面から段差面311まで形成され、中心線方向における長さL343は、例えば8mmである。
貫通孔340の孔径は例えば6mmであり、開孔率が0.6以上であることが好ましい。この開孔率とは、多孔部材300の正面301において、貫通孔340が占める割合である。開孔率が0.6以上であると、隣接する貫通孔340間の部分の厚み(肉厚)を薄くして、単位面積当たりの貫通孔340の数量を増やすことができる。貫通孔340の孔径は、例えば5mm以上10mm以下とすることができる。
貫通孔340の成形法としては、BMC基材を用いた射出成形法を適用することができる。周知のように、射出成形法を適用して貫通孔を形成するためには、成形ピンを金型に配列するが、成形品の脱型を容易にするため、成形ピンにテーパーをつけることになる。図9に示されるように、成形後の貫通孔340は、騒音発生音源から奥行方向に孔径が小さくなる先細り形状を成している。この先細り形状を有する貫通孔340は、周波数が高くなる方向にある。テーパーを大きくすることは、開孔率の低下を招くことになり、吸音効果の低下をもたらすことになる。貫通孔340の内壁面のテーパーは、成形品の脱型時の抵抗および所定の開口率の維持を考慮すると、0.7/100以上1.2/100であることが好ましく、0.8/100以上1/100以下であることが更に好ましい。
また、開孔率が0.6以上である場合には、BMC基材を用いた射出成形法によれば、多数個取りが可能で、成形時間を短くすることができ、例えば約数分で多数の貫通孔を有する製品を成形することが可能である。
また、表面部材100、背面部材140及び多孔部材300を形成するためのFRPの強化繊維として、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維などを単独で又は複数を組み合わせて用いることができる。炭素繊維が含まれることによって、比強度・比剛性を向上させて、これによってFRPによる成形体(表面部材、背面部材、及び多孔部材)の軽量化を一層図ることができる。
なお、強化繊維の形態としては、例えば、繊維長が1mm以上3mm以下である短繊維やマット、連続繊維からなるクロス、ストランドなどを適宜組み合わせた基材が挙げられる。また、FRPとするためのマトリックス樹脂は特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ABS(アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン)、PEEK(ポリ・エーテル・エーテル・ケトン)、ポリイミドなどの熱可塑性樹脂を用いることができる。
また、表面部材100、背面部材140及び多孔部材300を形成する成形方法としては、マトリックス樹脂を用いることができ、あるいは強化繊維の形態によっては真空、ブロー、スタンピング、BMC(バルク・モールディング・コンパウンド)、SMC(シート・モールディング・コンパウンド)、トランスファー成形、RTM(レジン・トランスファー・モールディング)、ハンドレイアップ成形などの様々な方法を用いて容易に形成することができる。
さらに、上記の樹脂(マトリックス樹脂)に添加され添加材として、粘性を増すための粉体(例えば、炭酸カルシウムや砂等)の他、層状化合物(例えば、マイカ、二硫化モリブデン、窒化硼素など)、針状化合物(例えば、ゾノトライト、チタン酸カリウム、炭素繊維など)、粒状、又はシート状化合物(例えば、フェライト、タルク、クレーなど)を用いることができる。上記の添加材(フィラー)を添加することによって弾性率と密度が増大させることができる。また、上記添加材に、例えば、水酸化アルミニウム、臭素、無機質粉などを添加すると難燃性を向上させることができる。
次に第2実施形態に係る吸音構造体2の作用について説明する。
第2実施形態に係る吸音構造体2では、第3貫通孔(外周部貫通孔)343を通過して傾斜板130の傾斜面に当たった音と、第2貫通孔342を通過して傾斜板130の傾斜面に当たった音と、第1貫通孔(中央部貫通孔)を通過した音とにおいて、入射音の移動経路を変えることができる。例えば、同じ角度で開口凹部110に進行した音であっても、第3貫通孔343を通過した場合と、第2貫通孔342を通過した場合と、第1貫通孔341を通過した場合とによって、移動距離を変えることができ、入射音の位相を変化させることができ、これらの音を干渉させて減衰させ吸音性能を向上させることができる。
また、吸音構造体2は、複数の貫通孔340が形成された多孔部材300を開口凹部110に収容することで、高周波数帯域(1kHz〜2kHz)における吸音率を向上させることができる。
(実施例6〜8)
次に実施例6〜8に係る吸音構造体2について説明する。実施例6は、上記の第2実施形態の吸音構造体2である。具体的には、実施例6は、実施例1の吸音構造体1の開口凹部110内に多孔部材300を備えたものである。実施例7は、内径6mmのポリエチレン製ストローを、10×10=100本分、すなわち、逆方光体形状に束ね、実施例1の吸音構造体1の開口凹部110に装着したものである。実施例7は、実施例6の多孔部材の貫通孔をポリエチレン製ストローによって形成したものである。実施例8は、内径10mmのポリエチレン製ストローを束ねて形成したものである。
実施例6〜8について、実施例1と同様に、JIS A 1409 「残響室法吸音率」に基づき吸音率を測定した。図11に実施例6の測定結果を示す。図11に示されるように、実施例6では、周波数が約300Hzであるとき、約2.5kHzであるときにおいて、ピークP61,P62が形成された。周波数が約300Hzであるときに、吸音率は約0.50であり、周波数が約2.5kHzであるときに、吸音率は約0.70であった。また、周波数が1kHz以上において、吸音率は0.30以上であった。周波数が2.5kHz以上3.5kHz以下の範囲では、吸音率が0.60以上であった。
図12に実施例7の測定結果を示す。実施例8の測定結果は、実施例7と比較して差を認めることができなかった。実施例7では、周波数が約300Hzであるとき、約2kHzであるときにおいて、ピークが形成された。周波数が約300Hzであるときに、吸音率は、約0.65であり、周波数が2kHzであるときに、吸音率は、約0.90であった。実施例7では、1.5kHz以上の高周波数帯域で、吸音率が約0.7以上であった。
(第3実施形態)
次に、図13〜図15を参照して、第3実施形態に係る吸音構造体について説明する。図13は、第3実施形態に係る吸音構造体の多孔部材を示す斜視図である。図14は、図13の多孔部材の正面の一部分を示す正面図である。図15は、開口凹部内に収容された状態の多孔部材を示す断面図である。第3実施形態に係る吸音構造体が、第2実施形態に係る吸音構造体2と違う点は、多孔部材300に代えて、形状が異なる多孔部材350を備える点である。以下、第3実施形態の説明において、第2実施形態と異なる点について説明する。
多孔部材350は、複数の貫通孔340(341〜343)に加えて、貫通孔340の内径よりも小さな内径を有する小径貫通孔360を備えている。小径貫通孔360の内径は、例えば2mmである。小径貫通孔360は、図14に示されるように、図示左右方向(第3の方向)において、隣接する貫通孔340の間であり、且つ、図示上下方向(第4の方向)において、隣接する貫通孔340の間に配置されている。換言すれば、隣接する4つの貫通孔340の中心O340を結ぶ矩形の中心O360に小径貫通孔360が配置されている。小径貫通孔360の内径は、例えば1mm以上2mm以下である。
小径貫通孔360は、正面301において中央部に配置された第1小径貫通孔361と、複数の第1小径貫通孔361を囲むように配置された複数の第2小径貫通孔362と、複数の第2小径貫通孔362を囲むように配置された複数の第3小径貫通孔363を含む。第2小径貫通孔362は、第1小径貫通孔361よりも外側に配置され、第1小径貫通孔より短い。第3小径貫通孔363は、第2小径貫通孔362より外側に配置され、第2小径貫通孔より短い。第2小径貫通孔362は、図10中の破線で示す枠301cに沿って、所定の間隔で配置され、第3小径貫通孔363は、図10中の破線で示す枠301dに沿って、所定の間隔で配置されている。
図15に示されるように、第1小径貫通孔361は、多孔部材350の正面301から背面302まで形成されている。第2小径貫通孔362は、正面301から第2段差面321まで形成されている。第3小径貫通孔363は、正面301から第1段差面311まで形成されている。第1小径貫通孔361は、16(=4行×4列)個形成され、第2小径貫通孔362は、20個形成され、第3小径貫通孔363は、28個形成されている。小径貫通孔360としては、合計64(8行×8列)個形成されている。貫通孔及び小径貫通孔を備えた多孔部材の開孔率は、例えば0.7である。
また、多孔部材350の側面(中心線112に平行な面)351には、V字状を成す切欠き部370が形成されている。切欠き部370は、中心線方向に連続している。中心線方向から見た場合に切欠き部370は、第3の方向に隣接する貫通孔340間の中央、及び第4の方向に隣接する貫通孔340間の中央にそれぞれ配置されている。V字の深さは、例えば1.5mmであり、V字の頂角は、90°である。切欠き部370の断面はV字状を成すものに限定されず、その他の形状でもよく、例えば半円形状を有する切欠き部でもよい。また、V字の深さ、及び頂角も限定されない。
次に第3実施形態に係る吸音構造体3の作用について説明する。
吸音構造体3では、複数の貫通孔340に囲まれた領域に、小径貫通孔360が設けられているので、入射音が多孔部材350により反射する領域を減らすと共に、入射音が通過可能な領域を増やして、好適に空洞部160に案内することができ、空洞部160における共鳴を増やして音を軽減させることができる。また、入射音は、第3小径貫通孔363又は第2小径貫通孔362を通過して、傾斜板130の傾斜面に当たる場合もある。貫通孔340と異なる内径の小径貫通孔360が形成されているので、入射音の移動経路を変化させて位相を変え、異なる経路を通過した入射音同士を干渉させて、減衰させることができる。また、小径貫通孔360を形成することで、多孔部材350の正面側の表面積に対する開口面積の割合である開孔率を増加させて、集音効率を高めて、効率良く吸音を行うことができる。
また、吸音構造体3では、多孔部材350の側面351に切欠き部370が形成されているので、入射音は、この切欠き部370を通過して、傾斜板130の傾斜面沿いに進行することもできる。そのため、入射音が進行可能な経路を増やすことができるので、互いに異なる経路通過した入射音を干渉させて、音を減衰させることができる。
(実施例9)
次に実施例9に係る吸音構造体について説明する。実施例9は、上記第3実施形態の吸音構造体3である。具体的には、実施例9は、実施例1の吸音構造体1の開口凹部110内にFRP製の多孔部材350を備えたものである。
実施例9について、実施例1と同様に、JIS A 1409 「残響室法吸音率」に基づき吸音率を測定した。図16に実施例9の測定結果を示す。実施例9では、周波数が約300Hzであるとき、約2.5kHzであるときにおいて、ピークP91,P92が形成された。実施例9では、周波数が約300Hzのとき、及び約2.5kHzのときに、吸音率が約0.70であった。また、中周波数帯域(1kHz〜2kHz)において、実施例6(図11参照)と比較して、吸音率が上昇していることが分かる。実施例9では、中周波数帯域において吸音率が概ね0.40以上だった。
(第4実施形態)
次に、図17〜図19を参照して、第4実施形態に係る吸音構造体について説明する。図17は、第4実施形態に係る吸音構造体の多孔部材を示す斜視図である。図18は、図17の多孔部材の正面の一部分を示す正面図である。図19は、開口凹部内に収容された状態の多孔部材を示す断面図である。第4実施形態に係る吸音構造体4が、第3実施形態に係る吸音構造体3と違う点は、正面が平面である多孔部材350に代えて、正面に窪み部410が形成された多孔部材400を備える点である。以下、第4実施形態の説明において、第3実施形態と異なる点について説明する。
多孔部材400の騒音発生源側の表面には、疑似双曲線に沿う窪み部410が形成されている。窪み部410は、正面から見た場合に、第1貫通孔341及び第2貫通孔342が配置されている領域内に形成されている。窪み部410は、最も外周側に配置された第3貫通孔343が配置されている領域内には、かからないように形成されている。この外周側の第3貫通孔343が配置されている領域内における正面の部分は、平坦面として形成されている。
多孔部材400の外形寸法のうち、窪み部410が形成されている領域を除いては、上記の多孔部材350と同一である。図19に示されるように、最外周に配置された第3貫通孔343の中心線方向における長さL343は、例えば8mmである。第3貫通孔343よりも内側に配置された第2貫通孔342の中心線C342方向の長さL342は、例えば24mmである。ここでの長さL342は、図19に示されるように、断面視において、中心線C342と窪み部410の曲面との交点から、段差面321までの長さである。複数の第1貫通孔341のうち、最も短い第1貫通孔の中心線方向に沿う長さL341は、例えば40mmである。複数の第1貫通孔341のうち、最も短い第1貫通孔とは、例えば多孔部材400を正面から見た場合に、中央に配置され、窪み部410の底部(最も深い位置)に対応する位置に配置された第1貫通孔341である。第3貫通孔343、第2貫通孔342、第1貫通孔341の長さの比は、例えばL343:L342:L341=1:3:5である。例えば奇数倍に設定している。
窪み部410の深さd410は、図19に示されるように、中心線方向における多孔部材400の全長L302と第1貫通孔3411の長さL341との差分である。多孔部材400の全長L302は、中心線方向において、正面の平坦面から背面の平坦面までの長さである。窪み部410の深さd410は、例えば、多孔部材400の全長L302の20%以上30%以下の値に設定されることが好ましい。窪み部410の深さd410は、騒音の収束性などの観点から20%以下であってもよく、30%以上でもよい。
また、第3貫通孔343、第2貫通孔342、第1貫通孔341の長さの比が奇数倍であると、それぞれの第3貫通孔343、第2貫通孔342、第1貫通孔341から出た音が、開口凹部110の出口(背面側の端部)で、音の波形の節々をそれぞれ補完し合う干渉が生じ、より平坦な吸音特性が得られる。平坦な吸音特性とは、異なる周波数において、吸音率の差が小さいことをいう。また、窪み部410が疑似双曲線に沿うように形成されていると、表面からの反射波が焦点でお互いに干渉し合い、一層高い減音効果を得ることができる。
また、多孔部材400では窪み部410が形成されているので、多孔部材400の軽量化を図ることができ、製造コストを低下させることができる共に、吸音構造体の軽量化に繋がるので、施工時の取扱性を向上させて、作業効率の向上を図ることができる。
多孔部材400の騒音発生源側の表面には、疑似双曲線に沿う窪み部410が形成されているので、所定の曲面が形成されている。窪み部410による曲面によって、あらゆる方向からの入射波に対する反射が極力抑えられると共に、曲面によって効率良く入射音を貫通孔340及び小径貫通孔360内に導くことができる。
(実施例10)
次に実施例10に係る吸音構造体について説明する。実施例10は、上記の第4実施形態の吸音構造体である。具体的には、実施例10は、実施例1の吸音構造体1の開口凹部110内にFRP製の多孔部材400を備えたものである。
実施例10について、実施例1と同様に、JIS A 1409 「残響室法吸音率」に基づき吸音率を測定した。図20に実施例10の測定結果を示す。図20に示されるように、実施例10では、周波数が約300Hzであるとき、約1kHzであるとき、約2.5kHzであるときにおいて、ピークが形成された。実施例10では、周波数が約300Hzのときに、吸音率が0.7であり、周波数が1kHzのときに、0.60であり、周波数が2.5kHzのときに、吸音率が0.7であった。
また、実施例10では、全周波数帯域(250Hz〜5kHz)における平均吸音率が0.6となる吸音特性が得られた。
ここで開口凹部110の体積のうち、最外周の第3貫通孔343が占める体積をV1とし、第2貫通孔342が占める体積をV2とし、中央部の第1貫通孔341が占める体積をV3として、それぞれの貫通孔からなる共鳴器のヘルムホルツ共振周波数f
iを、下記式(2)を用いて算出した。計算結果を表2に示す。
ここで、Cは音速、d
sは貫通孔の断面積、nはその部分における貫通孔の個数、lは、それぞれの貫通孔の中心線方向における長さであり、δは、貫通孔下端における管端補正であり、円形の場合δ=0.8dである。
算出された共振周波数f1,f2,f3は、吸音率の改善結果と一致している。この改善結果とは、実施例の吸音特性と比較した場合に、吸音率が向上している周波数と一致していることをいう。
(第5実施形態)
次に図21及び図22を参照して、第5実施形態に係る吸音構造体について説明する。図21は、第5実施形態に係る吸音構造体を示す斜視図である。図22は、図21の吸音構造体の横断面図である。第5実施形態に係る吸音構造体5が第4実施形態に係る吸音構造体と違う点は、表面部材100と背面部材140との間に吸音材210が設けられている点である。以下、第5実施形態の吸音構造体の説明において、上記の第1〜第4実施形態の吸音構造体の説明と同一の説明は省略する。
吸音材210としては、無機系材料(無機質材料)を用いることができ、無機系材料としては例えば軽石が挙げられる。吸音材210としては、平均粒径が、例えば6mm以上20mm以下、嵩密度0.2以上0.6以下、気孔率60%以上80%以下の軽石を採用することができる。なお、その他のものを採用してもよい。
吸音材210としては、例えば、密度が20kg/m3以上50kg/m3以下であって、所定の吸音特性を有する有機繊維系材料(例えば、ポリエステル綿等)や、耐炎化繊維からなるファイバーカット綿を適用することができる。また、吸音材210としては、無機系材料に有機繊維系材料を組み合わせたものを使用することができる。
このような吸音構造体5によれば、所定の吸音特性を得ることができ、騒音発生源から発生した騒音を吸音することができる。さらに、吸音構造体5によれば、表面部材100の背面側に吸音材210が配置されているので、吸音特性を一層向上させることができる。この吸音構造体5によれば、広帯域周波数(500Hz〜2kHz)において、吸音特性の向上を図ることができる。
(実施例11)
次に実施例11に係る吸音構造体について説明する。実施例11は、上記の第5実施形態の吸音構造体である。具体的には、実施例11は、実施例1の吸音構造体1の開口凹部110内にFRP製の多孔部材400を設けると共に、表面部材100と背面部材140との間に吸音材210を設けたものである。
開口凹部110の寸法は、実施例1と同じであり、開口凹部110の正面側の端部131の一辺の長さaは、70mm、傾斜板同士が交差する角度である頂角は、30°、開口凹部110の中心線方向の長さLを70mmとした。表面部材100において、開口凹部110を、縦方向(第1の方向)に14個、横方向(第2の方向)に14個並べて、合計196個配置した。隣り合う開口凹部110の正面側の端部同士が重なるように、表面部材100をガラス繊維強化樹脂で一体形成して、全高(奥行方向の厚み)が100mmとなるように、表面部材100の四辺(外縁)に幅50mmの枠を取り付けて、外形が1.08m×1.08m(たて×よこ)の吸音構造体を製作した。
この形態で、吸音構造体5の両端を単純支持し、風荷重3kN/m2に相当する荷重を負荷して強度を確認した。このように荷重を負荷した状態において、たわみは10mm以下であり、破壊に至らなかった。実施例11の吸音構造体5は、構造体として必要な強度、剛性を有することが確認できた。
次に、吸音特性の評価として吸音率の測定を行った。まず、ここでは、表面部材100と同様にガラス繊維強化樹脂を用いて背面部材140を製作し、製作した背面部材140を残響室の床面上に設置した。次に、背面部材140の上に、吸音材210として、平均粒径が6mm以上20mm以下、嵩密度0.2g/cm3以上0.6g/cm3以下、気孔率60%以上80%以下の無機系材料からなる軽石を、厚さ30mm分敷き詰め、その上に、表面部材100を設置した。
次に、音発生源側の表面に窪み部が設けられた多孔部材400を、開口凹部110内に装着した。全ての開口凹部110内にそれぞれ多孔部材400を設置した。このようして得られた実施例11に係る吸音構造体5を図22に示す。
(実施例11の評価)
上記の実施例1と同様に、JIS A 1409 「残響室法吸音率」に基づいて吸音率を測定した。その測定結果を図23に示す。図23に示されるように、実施例11では、全周波数帯域(200Hz〜4kHz)において、吸音率が0.7以上となった。
実施例11では、周波数が300Hzであるとき、1kHzであるとき、2.5kHzであるときに、ピークが形成された。実施例11では周波数が300Hzであるときに、吸音率は1.00であり、周波数が1kHzであるときに、吸音率が0.80であり、周波数が2.5kHzであるときに、吸音率が0.90であった。
図24は、実施例1、実施例9、実施例11の吸音構造体における吸音率測定結果を示すグラフである。実施例1は、表面部材及び背面部材を備えているものであり、実施例9は、表面に窪み部を有する多孔部材が開口凹部内に配置されているものであり、実施例11は、多孔部材を備えると共に、表面部材と背面部材との間に吸音材210を備えたものである。
図24では、実施例1の測定結果を白抜きの三角で示し、実施例9の測定結果を黒塗りの丸で示し、実施例11を白抜きの丸で示している。図24に示されるように、実施例9,11は、実施例1と比較すると、周波数が500Hz〜2kHzにおいて、吸音特性が平準化されていることが分かる。平準化とは、例えば上記の周波数帯域(500Hz〜2kHz)において、吸音率の最大値と最小値との差が少ないことをいう。例えば、実施例1では、周波数が500Hz〜2kHzにおいて、吸音率の最大値が約0.5、最小値が約0.1であり、その差が約0.4である。実施例9では、周波数が500Hz〜2kHzにおいて、吸音率の最大値が約0.75であり、最小値が約0.5であり、その差が約0.25である。鉄道や道路に沿って吸音構造体が設置される場合に、実用上、吸音性能が求められる周波数帯域は、例えば、500Hz〜2kHzである。
実施例11は、実施例1と比較すると、全周波数帯域において、吸音率が向上していることが分かる。実施例11では、平均すると吸音率は0.20程度高くなっている。表面部材と背面部材との間に配置された吸音材によって、吸音率の向上を図ることができたと言える。
(第6実施形態)
次に、図25を参照して第6実施形態に係る壁用構造体について説明する。図25に示されるように、吸音構造体は、例えば自立型の高欄に設置されて使用することができる。壁用構造体500は、例えば既存の高欄の壁体501と、この壁体501上に配置された吸音構造体4とを備える。この吸音構造体4は、例えば、上記の第4実施形態の吸音構造体である。高欄に設置される吸音構造体は、例えば第4実施形態に記載のものに限定されず、第1〜第3実施形態及び第5実施形態の吸音構造体でもよく、その他の形態の吸音構造体でもよい。
高欄の壁体501は、例えば鉄道が走行する軌道の両脇に配置され、鉄道から発生する騒音を遮蔽する壁体である。壁用構造体500は、上下2段構成とされ、下段に高欄の壁体501が配置され、上段に吸音構造体4が配置されている。壁体501の天端501aには、上方に延びるH型の支柱510が設けられている。支柱510は、壁体501が延在する方向に所定の間隔で配置されている。吸音構造体4は、隣り合う支柱510間に挿入されて、幅方向の両側が支持される。
吸音構造体4は、表面部材100の縁部に沿って、枠体520が設けられ、この枠体520によって、表面部材100と背面部材140とが連結されて、一体の構造体として構成されている。吸音構造体4の表面部材100は、軌道側に配置され、背面部材140は、軌道と反対側に配置されている。
このような構成の壁用構造体500によれば、騒音発生源から発生した音は、下段の壁体501によって遮音され、壁体501の背面側への音の伝達が抑制される。騒音発生源で発生した音は、壁体501に当たり反射される。また、騒音発生源から発生した音のうち、上段の吸音構造体4に向かう入射音は、吸音構造体4によって吸音される。そのため、騒音発生源から発生した音を好適に遮音すると共に吸音することができる。
(第7実施形態)
次に、図26を参照して第7実施形態に係る壁用構造体について説明する。図26に示す壁用構造体600は、吸音構造体4を備え、吸音構造体4から下方に連続して支持部610が形成されている。支持部610は、設置面から上方に突出するアンカーボルトを介して設置面に固定される。このような壁用構造体600を、騒音発生源となる列車が走行する軌道の両脇に並べて設置することで、騒音を低減することができる。
なお、上記の吸音構造体は、壁用構造体として、立てて使用するものに限定されず、例えば、設置面に沿うように配置されて使用されるものでもよい。具体的には、線路の軌道床に沿って水平に、開口凹部を上向きに設置してもよい。これにより、列車から発生する下向きの騒音を低減することができる。また、例えば、高架橋については、線路が施設された躯体の底面(下向きの面)に対向するように、躯体の下方において開口凹部を上向き配置してもよい。躯体の下方において、躯体の底面との間に所定の隙間を空けて、躯体の底面を覆うように吸音構造体を設置することで、躯体の底面から下向きに発する騒音を低減することができる。
(第8実施形態)
次に、図27を参照して第8実施形態に係る吸音構造体について説明する。図27に示す吸音構造体7は、角筒状を成す筐体650を備え、この筐体650の両端の開口部内には、開口凹部620が設けられている。開口凹部620は、中心線方向において一方から他方に向けて内径が小さくなるように形成されている。開口凹部620は、筐体650に装着された状態において、筐体650の長手方向において外側から中心に向かうにつれて内径が小さくなるように傾斜面630が形成されている。開口凹部620の中心線に直交する断面は、内径が大きい方の一方側では矩形状に形成され、内径が小さい方の他方側では円形に形成されている。
開口凹部620内には、多孔部材400が装着されている。多孔部材400は、上記の多孔部材と同一のものである。開口凹部620に装着される多孔部材は、その他の多孔部材でもよい。
開口凹部620の他方側(背面側)の端部には、円筒状の連通部640が接続されている。この連通部640は、互いに対向する開口凹部620の他方側の端部同士を連結している。開口凹部620内には、例えば軽石からなる吸音材210が充填されている。軽石は袋内に納められている。
このような吸音構造体7は、例えば、トンネルの出入口近傍において内壁に設置して使用することができる。吸音構造体7の中心線方向を、トンネルの延在する方向に沿うようにして、吸音構造体7を設置する。トンネルの延在する方向に直交する断面において、トンネルの内壁面に沿って複数の吸音構造体7が並べられ内壁面に対して取り付けられている。
吸音構造体7によれば、筐体650の長手方向の両端部に開口凹部620が設けられて、この開口凹部620内に多孔部材400が装着されているので、双方向の音を軽減することができる。吸音構造体7をトンネルの出入口に設けた場合には、例えば列車の進入時において、トンネルの外部から内部に向かう音を低減することができ、列車がトンネルの内部から外部に進行する際には、トンネルの外部から内部に向かう音を低減することができる。例えば、トンネルの出入口近傍において、衝撃波を緩和することができる。
(実施例12〜17)
次に実施例12〜17に係る吸音構造体について説明する。実施例12〜17として、たて1m×よこ1mの正方形の吸音構造体を作成した。実施例12は、実施例1の吸音構造体1であり、内部に吸音材が配置されていないものである。実施例13〜17は、図6(d)に示される実施例5において、それぞれ異なる密度の吸音材が配置されたものである。実施例13〜17について、吸音材の密度をそれぞれ、10kg/m3,20kg/m3,30kg/m3,40kg/m3,50kg/m3とした。実施例13〜17における吸音材の材質は、「耐炎化繊維からなるファイバーカット綿」である。
これらの実施例12〜17について、JIS A 1409 「残響室法吸音率」に基づき吸音率を測定した。この測定において音源の周波数を500Hz、1000Hz、2000Hz、3000Hzと異なる値とした。このときの測定結果である吸音率を表3に示す。
音源の周波数が500Hz〜3000Hzである場合において、目標とする吸音率を0.7以上とした。実施例12では、500Hz〜3000Hzにおいて、吸音率0.50以下であった。実施例13では、500Hz,1000Hzにおいて、吸音率が0.70以上であった。実施例14では、500Hz,1000Hz,3000Hzにおいて、吸音率が0.70以上であった。また、実施例14では、2000Hzにおいて、吸音率が0.68であった。実施例14では、500Hz〜3000Hzにおいて、吸音率が0.68以上であり、ほぼ0.70以上であった。実施例15〜17では、500Hz〜3000Hzにおいて、吸音率が0.70以上であった。表3に示される測定結果によれば、吸音材の密度の好ましい範囲は、20kg/m3以上、50kg/m3以下であることが分かった。
また、吸音材の密度のより好ましい範囲としては、20kg/m3以上、45kg/m3以下であることが挙げられる。これは、吸音材の密度を増加させても、密度が45kg/m3を超えると、吸音率の向上が緩くなり、密度を増加させることによるコストの増加を考慮すると、費用対効果が認められなくなることによる。
(実施例18)
次に、実施例18として、吸音材の密度が、40kg/m3である吸音構造体について、実機対応試験を実施した。この実機対応試験では、容積317.4m3の残響室を用いて、JIS A 1409 「残響室法吸音率」に基づき吸音率を測定した。
吸音率の測定において、試験体の面積が小さくなるほど吸音率の測定値が大きくなる傾向があるため、この面積効果の表面積の影響を受けないように、縦0.8m×横2mの吸音構造体のユニット(開口凹部110)を縦4列、横2列(合計8ユニット)並べ、実施例18として、縦3.2m×横4mで、表面積が12.8m3の吸音構造体を製作した。
図28に実施例18の測定結果を示す。図28に示されるように、実施例18では、250Hz〜3500Hzの範囲において、目標とする0.7以上の吸音率が得られた。
本発明は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で下記のような種々の変形が可能である。
上記実施形態では、開口凹部の開口形状が矩形である場合について説明しているが、開口形状は、円形でもよく、その他の多角形でもよい。また、開口凹部は、異なる傾斜角の複数の傾斜面を有する構成でもよい。また、開口凹部の外形は、矩形以外の形状でもよい。例えば、円形でもよく、その他の多角形でもよい。
また、窪み部410は、多孔部材の正面の全てにおいて、形成されていてもよく、部分的に、複数形成されているものでもよい。また、窪み部の断面形状は、その他の形状でもよい。例えば、V字型、U字型の断面形状を有する窪み部でもよい。また、平面や曲面を組合わせて、窪む形状を有するものでもよい。複数の貫通孔の正面側の位置が、異なるように配置されているものでもよい。