JP6537275B2 - プラスチック製シースを用いたpc内ケーブルの構築方法 - Google Patents
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Description
その図7に示す主桁(ウエブ部)におけるPCケーブルの配線状態は、図8に示す如く上床版や下床版に配置される略直線状のPCケーブル1b、1cではなく、上下に屈曲した所定半径の曲がり部Rと直線部を有して配置される。なお、図7においては、下記のこの発明の説明を進める上で解りやすいようにケーブル偏向が大きいウエブ材内のPCケーブル1aの内、最も偏向が大きくなる代表的なケーブル1を選択して表示している。
一方で、プラスチック製シースは鋼製シースに比べて温度依存性があり、高温になると軟化する。例えば、プラスチック製シースの内、国内で多用される高密度ポリエチレン製シースについて述べると、製品形状を自立して維持できる温度はビカット軟化点と称し、115℃程度である。
さらに、PCケーブル1は構造物の荷重を合理的に打ち消すように配線されるため、全長に亘って曲がり部や直線部を有した状態で配置され、時には緊張するジャッキ近傍に最小の曲げ半径が来る場合もある(図7参照)。曲げ半径が小さければその分、緊張時のケーブル(PC鋼材)によるプラスチック製シース内面からコンクリート躯体側に向けた偏向圧(図3(a)のq参照)は大きくなる。
一方、長尺ケーブル1で、ジャッキ近傍に小さな曲げ半径が配置される配線状態において、その部分がコンクリート厚さの大きなマスコンクリートで、打設後数日以内にコンクリート強度が確保できたら即時に早期緊張を行う場合があり、その早期緊張は、高速施工を実施している現場ではめずらしいことではない。
このような場合、高温時に大きな偏向圧でケーブル1のPC鋼材(図2の符号6参照)がプラスチック製シース内面を800mm程度、滑りながら移動する状態となるため、シース壁面のすり減りによる損傷が心配される。
また、緊張を完了してケーブル1のPC鋼材の張力をPCケーブル両端定着体に固定した後も、偏向部RのPC鋼材偏向圧は保持されるため、前記の緊張によるすり減りが発生したプラスチック製シース壁面は継続して周囲コンクリートとの間で圧縮され続け、時間の経過とともにクリープ変形によるシース壁の凹み(保持荷重による凹み)が追加して発生する。この現象も周囲温度が高いと凹み量が大きくなることが判明している。
プラスチック製シースは、コンクリートを打設する際にはPC鋼材の後挿入や安定した緊張および確実なグラウト注入を行うための型枠の役目を担い、一旦コンクリートが固まれば緊張作業中でも外からはシース壁の損傷やすり減り量および保持荷重による凹み量を窺うことができない。このため、従来は、PC鋼材を塩化物から遮蔽して保護するための大切な防護壁を確保する、という目的に対するプラスチック製シースが高温時における必要な施工方法に対する認識が欠如していたと思われる。
また、プラスチック製シース壁の緊張時のすり減り量や保持荷重による凹み量が大きくなると想定されるケーブル位置のシース外面温度とシースから近傍距離のコンクリート躯体温度をそれぞれ計測し、別途に実施したすり減り試験および保持荷重による凹み試験の条件に応じた温度以下での緊張作業を確実に実施できる手段を提供することを第2の課題とする。
更に、緊張時にシース壁部のすり減り量を低減できるようにシースの形状範囲を特定したポリエチレンもしくはポリプロピレン等から成るプラスチック製シースを提案することを第3の課題とする。
この冷却気の送り込みによって、打設コンクリートによるシースの昇温が抑制されるため、シースの軟化が抑制される。このため、プラスチック製シース壁の緊張時のすり減り量や保持荷重による凹み量を抑制することができ、必要なシース残留壁厚を確保できる。
上記曲がり部の曲がり度合の下限は、必要なシース残留壁厚を確保できる所定の温度以下でPC鋼材の緊張を実施できなくなる程度の曲げ半径を言い、その曲げ半径は、実験や実施工(過去の施工実績)等の経験則によって適宜に決定する。所定の温度も同様に実験や実施工等の経験則によって適宜に決定する。
プラスチック製シースに設置される排気口付きシースは、コンクリート躯体からホースを介して作業性の良い場所に複数配置され、例えば、ケーブル中間部等に配置されて開口しているものであり、これらの任意のホースから排気口付きシースを介して冷却気を送り込み、シースの内側を冷却するとともにケーブル端部の排気口付きシースもしくはPC鋼材の定着体部などから排気させることにより、シース内に挿入されたPC鋼材、シース本体、およびシース周りの一部コンクリート範囲を冷却する。すなわち、排気口付きシースは、PC鋼材の緊張完了後に実施されるグラウトの注入や注入時のシース内のエア抜き、およびグラウトが充填注入された後の残留空気を追い出すためのオーバーフローなどを目的とされる既存のものであるため、この発明のために新たに設ける必要はない。
また、冷却気の送風孔とシース内を冷却した後で排気させる排気孔の位置は、特に冷却しなければならないケーブルシース位置を意識しながら選択し、それ以外の排気口付きシースのホース開口部もしくは定着体の注入孔や排気孔は冷却気が漏れないように閉塞しておくことが望ましい。
すなわち、プラスチック製シースの内側にPC鋼材が貫通された状態で、PCケーブルの片端もしくは両端に緊張ジャッキを配置した緊張作業直前の状態で送風をはじめ、排気される空気の温度が所定の温度以下となった時点で緊張作業を実施するとよい。
このPC鋼材の緊張より所定の時間前から冷却気の送風を開始し、緊張中および緊張完了後も継続して冷却気を送風し、緊張されたPC鋼材の偏向圧(ケーブル曲がり部での押付け力)でプラスチック製シースの壁面がクリープ変形を伴う保持荷重による凹みの進行が生じない所定温度以下にコンクリートの躯体温度が低下したと判断出来たら送風を停止する手段をとることが好ましい。
プラスチック製シースの温度特性から長尺ケーブルのPC鋼材を緊張できる実用的な高温条件は例えば最大でも50℃〜60℃である。一方、夏の暑中における部材厚さの大きなマスコンクリートのピーク温度は80℃〜90℃にも達する。このため、プラスチック製シースはこのような温度領域では軟化してPC鋼材の緊張滑りと偏向圧力によって容易に損傷し、場合によっては壁に穴が開いてしまう。
「大きな滑り量」は、必要なシース残留壁厚を確保できる所定の温度以下でPC鋼材の緊張を実施できなくなる程度の滑り量を言い、その量は、実験や実施工等の経験則によって適宜に決定する。所定の温度も同様に実験や実施工等の経験則によって適宜に決定する。
一方、PC内ケーブルの設計条件としてPC鋼材、シース、および周辺コンクリートは、PC鋼材の緊張作業が完了した後でシース内に充填注入されて硬化するグラウトにより相互に一体化され、所定の付着力を伝達できることが必要であり、無制限にシースのリブピッチを大きくできない制約がある。
すなわち、緊張されるPC鋼材からプラスチック製シース壁への偏向圧の分散が良好となる大きなリブピッチで、PC内ケーブルとして設計上必要な付着力を発現できるシースの形状として、シースの内径dと外周リブピッチpの比がp/d=0.55〜0.75、外周リブの突出高さhが3.0mm〜6.0mm、シースの壁厚tが2.0mm〜3.5mmであることとしたのである。
以上から、必要残留壁厚を確保できるp/dの範囲を実験で上記のとおりに設定し、それぞれのシース径とケーブル容量に応じたグラウトとシース内面との付着力及びシース外面と周辺コンクリートとの付着力が、内設するPC鋼材とグラウトとの付着力よりも大きくなるようなプラスチック製シース外周リブの突出高さhを小径(例えば、内径35mm)シースで3.0mm〜太径(例えば、内径105mm)シースで6.0mmと設定した。
また、ケーブル容量に応じて偏向力は異なり、一般には小径シースよりも太径シースの偏向力が大きくなる。緊張作業後の残留壁厚を確保するためにはプラスチック製シースの壁厚tも同小径シースで2.0m〜同太径シースで3.5mmが必要である。
また、PC内ケーブルにはφ35mm〜φ105mmの内径を有するプラスチック製シースが多用され、それぞれのシースサイズに内包されるPC鋼材の引張力(ケーブル容量)も施工性や経済性から基準書などで決められている。例えば、内径:φ35mmのシースで、PC鋼材:φ21.8mmモノストランド、内径:φ75mmのシースで、PC鋼材:φ15.2B×12本等である。上記「p/d」等は、それらのケーブルの実験や実施工等において得たものである。
また、PC鋼材6を緊張して定着した後の偏向圧q(保持荷重)による「クリープ変形を伴う凹み量」も50℃の高温状態では要求値の0.5mm以下であり、最終的な本プラスチック製シース5の残留壁厚10は外部から侵入する塩化物などの腐食因子からPC鋼材の遮蔽保護性能を保証できる要求値、すなわち(1.5mm−0.5mm)=1.0mm以上であることも実験で確認されている。
排気口付きシース7の口元を開口したホースBから送風された冷却気Wは、固定側定着体D1が図4の如く密閉状態であり、またPCケーブル1の中央部の排気口付きシース7の口元を閉塞したホースB1からも排気されないので、確実にプラスチック製シース5内を冷却しながら送風され、緊張側定着体D2の排気孔16から排気される。
また、本実施形態では固定端側定着体D1からの冷却気Wの漏れを防止しているが、開口B1からの冷却気Wの送風に代えて固定端側定着体D1のグラウト注入孔15や排気孔16から送風することもできる。
なお、ポリプロピレンはポリエチレンに比べて若干は軟化温度が高く、高温になっても軟化し難い傾向があるが、上記実施形態において、そのポリプロピレン製シース5を使用しても、同様な作用効果が得られる。
1a PC箱桁のウエブ部PCケーブル
1b PC箱桁の上床版部PCケーブル
1c PC箱桁の下床版部PCケーブル
2 コンクリート躯体
3 橋脚
4 支承
5 プラスチック製シース
5a 同シースのリブ
6 PC鋼材
7 排気口付きシース
8 止水テープ
9 緊張前のプラスチック製シース壁の状態
10 緊張後のプラスチック製シース壁の状態
11 定着体用接続シース
12 ウエッジ定着プレート
13 グラウトキャップ
14 ウエッジ
15 定着体の注入孔
15’ 注入孔の閉塞
16 定着体の排気孔
16’ 排気孔の閉塞
L PC桁長さ(≒PCケーブル長さ)
B 排気口付きシースに接続され口元の開口したホース
B1 排気口付きシースに接続された口元の閉塞したホース
W 冷却気
D1 固定端側定着体
D2 緊張端側定着体
R ケーブル曲がり部
J 油圧ジャッキ
P PC鋼材の緊張伸び
q PC鋼材からシースへの偏向圧
σ コンクリート躯体からシースへの偏向反力
S1 プラスチック製シースの温度センサー
S2 コンクリート躯体内の温度センサー
t1 温度センサーS1による測定温度
t2 温度センサーS2による測定温度
l 温度センサーS1と同S2の距離
φ1 冷却気で冷却されるシース周り一部範囲のコンクリート領域
d プラスチック製シースの内径
p プラスチック製シースの外周リブピッチ
t プラスチック製シースの壁厚
h プラスチック製シースのリブ高さ
Claims (5)
- コンクリート構造物の躯体(2)内に、プラスチック製シース(5)内にPC鋼材(6)を挿通したケーブル(1)を配置し、前記コンクリート躯体(2)の硬化後に前記PC鋼材(6)を緊張してその両端を定着するとともに、前記シース(5)内にグラウトを注入するプレストレストコンクリート内ケーブルの構築方法であって、
上記PC鋼材(6)の緊張中、上記シース(5)内に冷却気を送り込むようにしたことを特徴とするプレストレストコンクリート内ケーブルの構築方法。 - 上記ケーブル(1)が、上記コンクリート構造物の躯体(2)内に曲がり部(R)と直線部を有して配置され、そのケーブル中間部に上記グラウト注入・排気又はオーバーフローを目的とした排気口付きシース(7)が複数配置され、そのいずれかの排気口付きシース(7)もしくは定着体の注入孔(15)もしくは排気孔(16)を介して前記ケーブル(1)のシース(5)内に上記冷却気を送り込むようにしたことを特徴とする請求項1に記載のプレストレストコンクリート内ケーブルの構築方法。
- 上記PC鋼材(6)の緊張中、上記プラスチック製シース(5)が高い温度となる位置、同大きな偏向圧(q)が想定される位置、又はPC鋼材(6)の前記シース(5)内での大きな滑り量が想定される位置(C)の少なくとも一つの前記シース(5)の外側部と、冷却気(W)の影響を受けないシース(5)から近傍距離(l)のコンクリート躯体(2)内部とに、それぞれ温度センサー(S1、S2)を配置し、その両温度センサー(S1、S2)の検出値に基づき、上記冷却気の送り込み量を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のプレストレストコンクリート内ケーブルの構築方法。
- 上記PC鋼材(6)の緊張中のみならず、その緊張前、緊張後、又は緊張前及び緊張後にも、上記冷却気を送り込むようにしたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のプレストレストコンクリート内ケーブルの構築方法。
- 上記プラスチック製シース(5)を、外周面にその周方向のリブ(5a)を長さ方向全長に亘って有し、その内径(d)と前記リブピッチ(p)の比がp/d=0.55〜0.75、前記リブの突出高さ(h)が3.0mm〜6.0mm、壁厚(t)が2.0mm〜3.5mmの範囲にあるものとした請求項1乃至4の何れか1項に記載のプレストレストコンクリート内ケーブルの構築方法。
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