以下、本発明の実施の形態によるルネベルグレンズアンテナ装置を、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1ないし図6に、第1の実施の形態によるルネベルグレンズアンテナ装置1(以下、アンテナ装置1という)を示す。アンテナ装置1は、ルネベルグレンズ2と、複数(例えば3個)のパッチアンテナ6A〜6Cとを備えている。
ルネベルグレンズ2は、径方向に対して異なる誘電率の分布を有する球形状に形成されている。具体的には、ルネベルグレンズ2は、中心点Cから径方向外側に向けて複数(例えば3層)の誘電体層3〜5が積層されている。誘電体層3〜5は、互いに誘電率ε1〜ε3が異なり、中心点Cから外側に近付くに従って、徐々に誘電率が小さくなっている。このため、径方向の中心に位置する球形状の誘電体層3が最も誘電率が大きく、誘電体層3の外周面を覆う球形状の誘電体層4が2番目に誘電率が大きく、誘電体層4の外周面を覆う球形状の誘電体層5は誘電率が最も小さくなっている(ε1>ε2>ε3)。これにより、ルネベルグレンズ2は、電波レンズを構成し、その外周面側で周方向の異なる位置に複数の焦点を有する。
ここで、パッチアンテナ6A〜6Cが波長λの高周波信号(電磁波)を放射するときに、ルネベルグレンズ2の直径Dは、例えば3λ以上で10λ以下の値に設定されている。また、ルネベルグレンズ2の表面上の点と焦点との間の距離Fは、誘電体層3〜5の誘電率を調整することによって、アンテナ装置1の開口径(直径D)の1倍以上で1.2倍以下の値に設定されている(D≦F≦1.2D)。このとき、距離Fは、ルネベルグレンズ2の焦点Pfと、ルネベルグレンズ2の中心Cを挟んで焦点Pfの反対側に位置するルネベルグレンズの表面E上の点Peとの間の距離である(図7参照)。即ち、距離Fは、電波の軸線が焦点Pfから中心Cを通って表面Eに到達するときに、焦点Pfと点Peとの間の長さ寸法を示している。
なお、図1には、ルネベルグレンズ2が3層の誘電体層3〜5を備えた場合を例示したが、本発明はこれに限らない。ルネベルグレンズは、2層の誘電体層を備えてもよく、4層以上の誘電体層を備えてもよい。また、誘電率の異なる材料を積み重ねる場合、通常は熱圧着等の手法を用いて積み重ねる。このとき、2つの材料の界面では、相互拡散等の影響により、誘電率が2つの材料のいずれとも異なる層が形成されてもよい。さらに、図2には、誘電率がルネベルグレンズの径方向にステップ状(段階的に)に変化する場合を例示したが、誘電率はルネベルグレンズの径方向にグラデーション状(連続的に)に変化してもよい。
3個のパッチアンテナ6A〜6Cは、ルネベルグレンズ2の外周面2A、即ち最外径側の誘電体層5の外周面に設けられている。これらのパッチアンテナ6A〜6Cは、周方向の異なる位置に配置されている。パッチアンテナ6A〜6Cは、例えば水平方向(横方向)と垂直方向(縦方向)に半波長(0.5λ)や1波長(1λ)の長さ寸法をもって広がった長方形状の導体膜(金属膜)によって形成され、給電線路9A〜9Cに接続されている。パッチアンテナ6A〜6Cは、給電線路9A〜9Cからの電流や電圧の供給によって、アンテナ素子(放射素子)として機能する。即ち、パッチアンテナ6A〜6Cは、例えば垂直偏波または水平偏波からなる予め決められた波長λの高周波信号(電磁波)を放射することができる。これにより、パッチアンテナ6A〜6Cは、例えばその長さ寸法等に応じて、例えばサブミリ波やミリ波等の高周波信号を送信または受信することができる。なお、パッチアンテナ6A〜6Cは、垂直偏波や水平偏波に限らず、円偏波等を放射してもよい。
パッチアンテナ6Aは、水平方向の一方側(図2中の左側)に位置している。パッチアンテナ6Bは、水平方向の中央に位置している。このため、パッチアンテナ6Bは、パッチアンテナ6Aとパッチアンテナ6Cとに挟まれた位置に配置されている。パッチアンテナ6Cは、水平方向の他方側(図2中の右側)に位置している。
パッチアンテナ6A〜6Cは、互いに独立して高周波信号の送信または受信が可能である。このため、パッチアンテナ6A〜6Cは、例えば水平方向(周方向)に複数の入出力端子をもつMIMOに適用されるものである。また、パッチアンテナ6A〜6Cは、例えば周方向に沿って等間隔に並んで配置されている。このとき、隣合う2つのパッチアンテナ6A〜6Cは、これらの中心間の距離Lが高周波信号の波長λの1倍以上で1.5倍以下となる位置に配置されている。なお、距離Lは、中心点Cを中心とした同心円の円周上の距離、即ち円弧の距離を示している。図2に示す場合、距離Lは、ルネベルグレンズ2の外周面2Aに沿った円弧の距離を示している。
ここで、図4に示すように、パッチアンテナ6Aは、ルネベルグレンズ2の中心点Cを挟んで反対側に向けて指向性をもったビームを形成する。
図5に示すように、パッチアンテナ6Bも、パッチアンテナ6Aと同様に、ルネベルグレンズ2の中心点Cを挟んで反対側に向けて指向性をもったビームを形成する。このとき、パッチアンテナ6Bは、ルネベルグレンズ2の周方向でパッチアンテナ6Aとは異なる位置に配置されている。このため、パッチアンテナ6Bによるビームの放射方向(方向Db)は、パッチアンテナ6Aによるビームの放射方向(方向Da)とは異なっている。
図6に示すように、パッチアンテナ6Cも、パッチアンテナ6A,6Bと同様に、ルネベルグレンズ2の中心点Cを挟んで反対側に向けて指向性をもったビームを形成する。このとき、パッチアンテナ6Cは、ルネベルグレンズ2の周方向でパッチアンテナ6A,6Bとは異なる位置に配置されている。このため、パッチアンテナ6Cによるビームの放射方向(方向Dc)は、パッチアンテナ6A,6Bによるビームの放射方向(方向Da,Db)とは異なっている。
ルネベルグレンズ2の外周面2Aには、パッチアンテナ6A〜6Cを覆った状態で導体膜からなるグランド電極7が設けられている。グランド電極7とパッチアンテナ6A〜6Cとの間には、例えば絶縁樹脂材料等からなる絶縁膜8が設けられている。この絶縁膜8は、例えばルネベルグレンズ2の誘電体層5とパッチアンテナ6A〜6Cを密着形成する接着層を含んでいる。このとき、絶縁膜8は、誘電体層5よりも小さい誘電率を有することが好ましい。また、グランド電極7は、外部のグランドに接続され、グランド電位に保持されている。これにより、グランド電極7は、反射器として機能する。
なお、図1ないし図3には、単一のグランド電極7によって全てのパッチアンテナ6A〜6Cを覆う場合を例示した。しかしながら、本発明はこれに限らず、複数のグランド電極によってパッチアンテナ6A〜6Cを個別に覆ってもよい。
給電線路9A〜9Cは、例えば導体芯線を備えたケーブルによって形成されている。給電線路9A〜9Cの先端は、パッチアンテナ6A〜6Cに接続されている。給電線路9A〜9Cの基端は、送受信回路10に接続されている。給電線路9A〜9Cは、MIMOの入出力端子を構成している。
送受信回路10は、給電線路9A〜9Cを介してパッチアンテナ6A〜6Cに接続されている。送受信回路10は、周方向の位置が互いに異なるパッチアンテナ6A〜6Cに対して、互いに独立した信号を入出力することができる。これにより、送受信回路10は、予め決められた角度範囲に亘ってビームを走査することができる。また、送受信回路10は、パッチアンテナ6A〜6Cのうち少なくとも2つに一緒に給電することによって、複数のビーム(マルチビーム)を形成することができる。即ち、送受信回路10は、複数のパッチアンテナ6A〜6Cによって受信した信号を合成する機能を有している。
次に、本実施の形態によるアンテナ装置1の作動について、図4ないし図6を参照しつつ説明する。
給電線路9Aからパッチアンテナ6Aに向けて給電を行うと、パッチアンテナ6Aは、高周波信号をルネベルグレンズ2に向けて放射する。この結果、図4に示すように、アンテナ装置1は、ルネベルグレンズ2の中心点Cを挟んでパッチアンテナ6Aの反対側の方向Daに向けて、高周波信号(ビーム)を放射することができる。また、アンテナ装置1は、パッチアンテナ6Aを用いることによって、方向Daから到来する高周波信号を受信することもできる。
同様に、図5に示すように、給電線路9Bからパッチアンテナ6Bに向けて給電したときには、アンテナ装置1は、ルネベルグレンズ2の中心点Cを挟んでパッチアンテナ6Bの反対側の方向Dbに向けて高周波信号の送信することができると共に、方向Dbからの高周波信号を受信することができる。
図6に示すように、給電線路9Cからパッチアンテナ6Cに向けて給電したときには、アンテナ装置1は、ルネベルグレンズ2の中心点Cを挟んでパッチアンテナ6Cの反対側の方向Dcに向けて高周波信号の送信することができると共に、方向Dcからの高周波信号を受信することができる。
次に、図7ないし図12に基づいて、ルネベルグレンズ2およびパッチアンテナ6A〜6Cについて、これらの詳細な設計内容を示す。
ルネベルグレンズLLの誘電率分布を調整することによって、ルネベルグレンズLLの表面E上の点Peと焦点Pfとの間の距離Fを調整することができる。このとき、ルネベルグレンズLLの距離Fと開口径Dとの比率(F/D)に応じて、1次放射器としてのアンテナ素子ANTに必要な特性が決まる。
図7に示すように、ルネベルグレンズLLの設計パラメータとしての比率(F/D)が決まると、この比率(F/D)に基づいて、アンテナ素子ANTに必要な指向性が決まる。即ち、アンテナ素子ANTのビーム角度θaは、以下の数1に示すように、アンテナ素子ANTとルネベルグレンズLLとの幾何学的な関係から決定される。
例えば比率(F/D)が1になるときには、アンテナ素子ANTのビーム角度θaは90°程度になる。これに対し、比率(F/D)が1.2になるときには、比率(F/D)が1になるときに比べて、アンテナ素子ANTに要求される指向性は高くなり、ビーム角度θaは小さくなる(例えば、θa=70°程度)。このように、比率(F/D)が1よりも大きくなるに従って、アンテナ素子ANTに要求される指向性は高くなる。
また、図8に示すように、アンテナ素子ANTに必要な指向性に応じて、アンテナサイズAS(アンテナ素子ANTの大きさ)は概略決定される。一般的に、アンテナ素子ANTの指向性を高めるに従って、アンテナサイズASは大きくなる。
例えば、ビーム角度θaの両端側が中心に比べて10dB減衰するようなアンテナ素子ANTを用いる場合、即ち10dBビーム幅の特性を実現する場合を考える。この場合には、図8の例に示すように、比率(F/D)を1以上で1.2以下の範囲で設計するときには、アンテナ素子ANTは、最低でも1.1λ以上で1.5λ以下程度の物理的なアンテナサイズASが必要になる。
これに加えて、アンテナ装置1を設計するときには、以下に示す2つの制約条件を考えていく必要がある。1点目は、アンテナサイズASに基づいて、複数のアンテナ素子ANTの間隔をどこまで近付けられるか、という点である。2点目は、どの方向からの電波も複数のアンテナ素子で受信できるか、という点である。
1点目は、ルネベルグレンズLLおよびアンテナ素子ANTの物理的な限界に基づくものである。2点目は、アンテナ装置1のマルチビーム化の限界に基づくものである。
そこで、図9ないし図12に基づいて、以上の制約条件を検討する。図9および図12は、ルネベルグレンズLLとアンテナ素子ANTを組み合わせたアンテナ装置1全体の指向性(半値角)を設計指標としたときに、理想的な設計値の一例を示している。
一般に、アンテナ装置1のような開口面アンテナの指向性は、電波の波長λおよび開口径D(ルネベルグレンズ2の直径)に基づいて、以下の数2に示すような近似式で指向性の半値角θ[°]が決定される。
アンテナ装置1全体のビームの特性の一例を、図11に示す。図11は、図10に示すように、互いに異なる焦点位置にアンテナ素子を配置した場合に、各アンテナ素子に応じたアンテナ利得を示している。
例えば図10に示すように、アンテナ素子ANT0を正面方向に配置すると、アンテナ素子ANT0とルネベルグレンズLLによるアンテナ利得は、正面方向である中心(0°)から角度がずれるに従って低下する。このため、アンテナ素子ANT0は、正面方向からのビームK0を高利得で受信できる。しかしながら、アンテナ素子ANT0を用いたときには、角度θ1ずれた方向からのビームK1については、アンテナ利得が概略10dB低下してしまう。
そこで、アンテナ素子ANT0による利得の低下を補うために、アンテナ素子ANT0による利得が10dB低下する位置にアンテナ素子ANT1を配置する構成が考えられる。この場合、アンテナ素子ANT1による利得は、図11中に二点鎖線で示したものとなり、ビームK1についても高利得での受信が可能になる。
しかしながら、この場合には、アンテナサイズASの制限によって、2つのアンテナ素子ANT0,ANT1を配置することができない。即ち、アンテナ素子ANT0とアンテナ素子ANT1との間の角度θ1は、アンテナ利得が3dB低下する角度範囲である半値角θと概ね同程度の値になっている。
ここで、図9中に示す三角形の印は、隣合う2つのアンテナ素子ANT0,ANT1の角度間隔がθ1となった前提で、アンテナ素子間の距離Lをプロットしたものである。このように、隣合う2つのアンテナ素子ANT0,ANT1を、アンテナ利得が3dB減衰する間隔(半値角θの間隔)で配置すると、アンテナ素子間の距離Lが約0.6λ以下に近付くため、物理的にアンテナ素子をレイアウトすることができない。仮に、2つのアンテナ素子ANT0,ANT1を3dB減衰する間隔で配置すると、アンテナサイズASが図8に示す範囲から逸脱した値となるため、ルネベルグレンズLLで焦点位置に集めた電力を効率よくピックアップすることができなくなる。
次に、図10中で、隣合う2つのアンテナ素子ANT0,ANT2を、アンテナ利得が10dB減衰する角度θ2の間隔で配置した場合について、検討する。このとき、角度θ2は、角度θ1の2倍程度の値になっている。この場合には、アンテナ素子ANT0は、正面方向からのビームK0を高利得で受信でき、アンテナ素子ANT2は、角度θ2ずれた方向からのビームK2を高利得で受信できる。これに対し、角度θ1ずれた方向からのビームK1については、アンテナ素子ANT0,ANT2の利得は、いずれも10dB程度低下してしまう。しかしながら、モノパルスレーダと同じ原理から、これら2つのアンテナ素子ANT0,ANT2が受信した電波に基づいて、ビームK1の特性については推測が可能である。
図9中に示す黒色の四角形の印は、隣合う2つのアンテナ素子ANT0,ANT2の角度間隔がθ2となった前提で、アンテナ素子間の距離Lをプロットしたものである。このように、隣合う2つのアンテナ素子ANT0,ANT2を、アンテナ利得が10dB減衰する間隔で配置すると、3dB減衰する間隔で配置したときに比べて、アンテナ素子間の距離Lを遠ざけることができる。このため、アンテナ素子のレイアウトが可能になる。
つまり、アンテナ素子間の距離LとアンテナサイズASを考慮すると、比率(F/D)が1の場合((F/D)=1)では、アンテナ素子間の距離Lは1.1λ程度で設計する必要がある。このときのルネベルグレンズLLの開口径Dは、3λ以上にする必要がある。
また、比率(F/D)を大きくすると、隣合う2つのアンテナ素子間の距離Lは大きくすることができるが、アンテナサイズASもこれに伴い大きくなる(図7および図8参照)。このため、これらの距離Lおよび開口径Dの制約条件は、比率(F/D)に応じて異なる。比率(F/D)に応じた距離Lおよび開口径Dを例示すると、以下のようになる。
例えば比率(F/D)が1の場合((F/D)=1)には、10dBのビーム幅をもったアンテナ素子ANTのアンテナサイズASは、1.1λ程度であり、ルネベルグレンズLLの開口径Dは、3λ以上にする必要がある。
比率(F/D)が1.1の場合((F/D)=1.1)には、10dBのビーム幅をもったアンテナ素子ANTのアンテナサイズASは、1.3λ程度であり、ルネベルグレンズLLの開口径Dは、5λ以上にする必要がある。
比率(F/D)が1.2の場合((F/D)=1.2)には、10dBのビーム幅をもったアンテナ素子ANTのアンテナサイズASは、1.5λ程度であり、ルネベルグレンズLLの開口径Dは、10λ以上にする必要がある。
以上のような関係から、以下の数3に示すように、ルネベルグレンズLLの焦点Pfまでの距離Fは、開口径Dの1倍以上で1.2倍以下の値に設定するのが好ましい。
また、上述したアンテナサイズASの数値範囲を考慮すると、以下の数4に示すように、アンテナ素子間の距離Lは、λ以上で1.5λ以下の値に設定するのが好ましい。なお、実際のアンテナサイズASは、アンテナ素子ANTのビーム幅が3dB以上で10dB以下となる範囲で、かつ、隣合う2つのアンテナ素子ANTのアイソレーションが確保できる範囲で、適宜設定される。
さらに、広角なビームを形成するためには、ルネベルグレンズLLの直径D(開口径)を高周波信号の波長λの10倍以下の値に設定し、半値角θを6°以上に確保するのが好ましい。このことから、以下の数5に示すように、ルネベルグレンズLLの直径Dは、3λ以上で10λ以下の値に設定するのが好ましい。
なお、図8、図9、図11および図12は、理想的な条件等に基づく数値の一例を示したものである。このため、実施のアンテナ装置1で得られる数値とは若干異なることがあるが、特性の傾向は概ね同じである。
かくして、第1の実施の形態では、ルネベルグレンズ2の外周面2A側であって周方向の異なる焦点位置に配置された複数のパッチアンテナ6A〜6Cを備える構成した。このため、周方向の異なる位置に設けられた複数のパッチアンテナ6A〜6Cを用いることによって、互いに異なる方向に向けて低サイドローブのビームを形成することができる。また、パッチアンテナ6A〜6Cを独立して一緒に動作させることによって、マルチビームの形成が可能になる。
さらに、ルネベルグレンズ2の直径Dを、高周波信号の波長λの10倍以下の値に設定したから、各パッチアンテナ6A〜6Cによるアンテナ装置1の半値角θを6°以上に広げることができ、広角なビームの形成が可能になる。また、ルネベルグレンズ2の直径Dを、高周波信号の波長λの3倍以上の値に設定したから、隣合う2つのパッチアンテナ6A〜6C間の距離Lを広げることができる。
これに加え、隣合う2つのパッチアンテナ6A〜6Cは、これらの間の距離Lが高周波信号の波長λの1倍以上で1.5倍以下となる位置に配置した。このため、例えば2つのパッチアンテナ6A〜6Cの中間の方向から電磁波が入射されたときには、これら2つのパッチアンテナ6A〜6Cは、最悪でもアンテナ利得のピーク値から10dB減衰した信号を受信することができる。このため、隣合う2つのパッチアンテナ6A〜6Cを用いることによって、これらの中間の方向からの電磁波の特性を推定することができ、パッチアンテナ6A〜6Cの数を減少させることができる。さらに、ルネベルグレンズ2の焦点Pfまでの距離Fを開口径Dの1倍以上で1.2倍以下に設定したから、パッチアンテナ6A〜6Cのルネベルグレンズ2へのエッジ照射強度を下げることができ、低サイドローブの特性を得ることができる。
この結果、例えば複数のアンテナから放射される信号の位相を調整することによってビームを形成した場合に比べて、広角なビーム走査を、少数のパッチアンテナ6A〜6Cを用いて実現することができる。また、送受信回路10の構成を簡略化しつつ、高利得化することができる。
さらに、複数のパッチアンテナ6A〜6Cには送受信回路10を接続したから、送受信回路10は、複数のパッチアンテナ6A〜6Cの送受信信号を合成することができる。このため、複数のパッチアンテナ6A〜6Cを、MIMO用アンテナ素子として使用することができる。
次に、図13および図14に、本発明の第2の実施の形態によるルネベルグレンズアンテナ装置21(以下、アンテナ装置21という)を示す。第2の実施の形態の特徴は、導体板22上に半球形状のルネベルグレンズ23を形成すると共に、導体板22にアンテナ素子としてのホーン形状アンテナ27A〜27Cを形成したことにある。なお、アンテナ装置21の説明に際し、第1の実施の形態によるアンテナ装置1と同一の構成については同一の符号を付し、その説明は省略する。
第2の実施の形態によるアンテナ装置21は、第1の実施の形態によるアンテナ装置1と同様に、ルネベルグレンズ23と、複数(例えば3個)のホーン形状アンテナ27A〜27Cとを備える。
導体板22は、例えば導電性金属を用いた円形状の板体によって形成され、外部のグランドに接続されている。このため、導体板22は、グランド電位に保持されている。
ルネベルグレンズ23は、導体板22の表面上に半球形状に形成されている。このルネベルグレンズ23は、第1の実施の形態によるルネベルグレンズ2と同様に、中心点Cから径方向外側に向けて複数(例えば3層)の誘電体層24〜26が積層されている。誘電体層24〜26は、第1の実施の形態による誘電体層3〜5と同様に形成され、中心点Cから外側に近付くに従って、徐々に誘電率が小さくなっている。これにより、ルネベルグレンズ23は、電波レンズを構成し、その外周面側で周方向の異なる位置に複数の焦点を有する。
ここで、ホーン形状アンテナ27A〜27Cが波長λの高周波信号(電磁波)を放射するときに、ルネベルグレンズ23の直径Dは、例えば3λ以上で10λ以下の値に設定されている(3λ≦D≦10λ)。また、ルネベルグレンズ23の焦点までの距離Fは、誘電体層24〜26の誘電率を調整することによって、アンテナ装置21の開口径(直径D)の1倍以上で1.2倍以下の値に設定されている(D≦F≦1.2D)。
なお、図13および図14には、ルネベルグレンズ23が3層の誘電体層24〜26を備えた場合を例示したが、本発明はこれに限らない。ルネベルグレンズは、2層の誘電体層を備えてもよく、4層以上の誘電体層を備えてもよい。また、誘電率はルネベルグレンズの径方向にグラデーション状(連続的に)に変化してもよい。
3個のホーン形状アンテナ27A〜27Cは、ルネベルグレンズ23の外周面23A側に位置して、導体板22に設けられている。これらのホーン形状アンテナ27A〜27Cは、周方向の異なる位置に配置されている。ホーン形状アンテナ27A〜27Cは、例えば導体板によって形成され、給電線路9A〜9Cに接続されている。ホーン形状アンテナ27A〜27Cは、電磁波を放射する開口部分がルネベルグレンズ23と対面している。このとき、ホーン形状アンテナ27A〜27Cは、導体板22を挟んで反対側に形成されるイメージ部分を含めて、一般的なホーンアンテナと同じ機能を有する。このため、ホーン形状アンテナ27A〜27Cは、給電線路9A〜9Cからの電流や電圧の供給によって、アンテナ素子(放射素子)として機能する。即ち、ホーン形状アンテナ27A〜27Cは、例えば垂直偏波等からなる予め決められた波長λの高周波信号(電磁波)を放射することができる。これにより、ホーン形状アンテナ27A〜27Cは、その先端の長さ寸法等に応じて、例えばサブミリ波やミリ波等の高周波信号を送信または受信することができる。
ホーン形状アンテナ27A〜27Cは、第1の実施の形態によるパッチアンテナ6A〜6Cと対応した位置に配置されている。また、ホーン形状アンテナ27A〜27Cは、互いに独立して高周波信号の送信または受信が可能である。このため、ホーン形状アンテナ27A〜27Cは、例えば周方向に複数の入出力端子をもつMIMOに適用されるものである。このとき、隣合う2つのホーン形状アンテナ27A〜27Cは、これらの開口部のセンター間の距離Lが高周波信号の波長λの1倍以上で1.5倍以下となる位置に配置されている(λ≦L≦1.5λ)。なお、距離Lは、中心点Cを中心とした同心円の円周上の距離、即ち円弧の距離を示している。
なお、ホーン形状アンテナ27A〜27Cの位置は、ルネベルグレンズ23の焦点距離に応じて設定される。従って、ホーン形状アンテナ27A〜27Cの開口面は、ルネベルグレンズ23の外周面23Aに接触していてもよく、外周面23Aから離れていてもよい。即ち、ルネベルグレンズ23の焦点までの距離Fが短いときには、ホーン形状アンテナ27A〜27Cはルネベルグレンズ23に近い位置に配置され、ルネベルグレンズ23の焦点までの距離Fが長いときには、ホーン形状アンテナ27A〜27Cはルネベルグレンズ23から離れた位置に配置される。
かくして、第2の実施の形態でも、第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。また、第2の実施の形態では、ルネベルグレンズ23は導体板22上に半球形状に形成されるから、例えば導体板22をグランド等に接続することによって、球形状のルネベルグレンズと同様の特性を得ることができる。また、アンテナ素子は導体板22に形成されたホーン形状アンテナ27A〜27Cによって構成したから、導体板22を用いてホーン形状アンテナ27A〜27Cをルネベルグレンズ23に取り付けることができる。これに加え、ホーン形状アンテナ27A〜27Cと外部とを接続する給電線路9A〜9Cを導体板22に取り付けることができ、球形状のルネベルグレンズを用いた場合に比べて容易に信号を取り出すことができる。
なお、前記第1の実施の形態では、3個のパッチアンテナ6A〜6Cは、水平方向(横方向)に一列に並べるものとした。本発明はこれに限らず、複数のパッチアンテナは、垂直方向(縦方向)に一列に並べてもよく、水平方向および垂直方向に行列状に並べてもよい。また、パッチアンテナの個数や配置は、例えばMIMOの仕様等に応じて適宜設定することができる。
前記各実施の形態では、アンテナ素子をパッチアンテナ6A〜6Cまたはホーン形状アンテナ27A〜27Cによって構成した場合を例に挙げて説明したが、アンテナ素子は、例えばダイポールアンテナ、スロットアンテナ等のような他のアンテナによって構成してもよい。また、アンテナ素子はアレーアンテナによって構成してもよい。この場合には、隣合う2つのアレーアンテナは、それぞれのアレーアンテナが占める領域の中心間の距離が高周波信号の波長の1倍以上で1.5倍以下となる位置に配置される。
前記各実施の形態では、ルネベルグレンズ2,23を球形状または半球形状に形成した場合を例に挙げて説明したが、ルネベルグレンズは、他の形状に形成してもよい。
前記各実施の形態では、アンテナ装置1,21をMIMOに適用した場合を例に挙げて説明した。本発明はこれに限らず、アンテナ装置をレーダ装置に適用してもよい。レーダ装置に適用した場合には、例えば複数のアンテナ素子のうちいずれか1つのアンテナ素子が探査波を出力してもよい。このとき、探査波を出力するアンテナ素子を逐次切換えることによって、探査波の方向を変更することができる。一方、対象物からの反射波は、複数のアンテナ素子によって受信する。このため、送受信回路は、複数のアンテナ素子によって受信した信号を合成する。これにより、送受信回路は、例えば対象物の方角や対象物までの距離を特定することができる。
前記各実施の形態は例示であり、異なる実施の形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。