しかしながら、潤滑剤を用いることで焼付きは改善されるものの、雄ネジ部材及び雌ネジ部材を相互に締結して用いる使用環境下において、潤滑剤の使用が制限されたり、禁止されるケースが多いこともまた実情である。さらにまた、潤滑剤の使用が許容される環境下であっても、焼付きの発生が確認されており、これは、雄ネジ部材及び雌ネジ部材に対して、締結処理前に完全脱脂処理を施すことや、経時変化によって潤滑剤の滑動効果が低下したことが要因と考えられる。
本発明者は、焼付きが発生する以下のメカニズムに着目した。つまり、従来のネジ、例えば三角ネジは、図11に示すように、雄ネジ部材E及び雌ネジ部材Iの何れであっても、各ネジ山Es,IsのフランクE1,E2,I1,I2は、軸線を含んだ断面形状が直線であり、相互の軸芯を一致させて締結の負荷が掛からない螺合状態(標準状態)では、雄ネジ部材EのフランクE1,E2と雌ネジ部材IのフランクI1,I2は、軸芯(中心軸)まわりに、寸法公差(以下では公差と称す場合がある)を保った形で、互いに幾何学的に接触することのない位置関係にある。雄ネジ部材Eのネジ山Esの角度を規定する互いに異なる方向に傾斜する2つのフランクE1,E2のうち、一方のフランクE1は、軸方向に沿った山頂Etの範囲を規定する境界部分Ea,Ecのうち一方の山頂境界部分Eaと、その山頂境界部分Eaに最も近い谷底Euの谷底境界部分Ebとを連絡する面であり、他方のフランクE1は、他方の山頂境界部分Ecと、その山頂境界部分Ecに最も近い谷底Euの谷底境界部分Edとを連絡する面である。また、雌ネジ部材Iのネジ山Isの角度を規定する互いに異なる方向に傾斜する2つのフランクI1,I2のうち、一方のフランクI1は、軸方向に沿った山頂Itの範囲を規定する境界部分Ia,Icのうち一方の山頂境界部分Iaと、その山頂境界部分Iaに最も近い谷底Iuの谷底境界部分Ibとを連絡する面であり、他方のフランクI1は、他方の山頂境界部分Icと、その山頂境界部分Icに最も近い谷底Iuの谷底境界部分Edとを連絡する面である。なお、雄ネジ部材Eと雌ネジ部材Iを物理的に締結可能とするためには公差は必要不可欠である。
そして、締結時の負荷が掛かると、図12に示すように、雄ネジ部材Eと雌ネジ部材Iは互いに逆方向に軸方向の負荷を受け、強固に幾何学的に接触する部分が出現する。ここで、雄ネジ部材E及び雌ネジ部材Iの各ネジ山Es,Isのうち少なくとも締結時に負荷を受ける側のフランクE1,I1(同図中の雄ネジ部材Eにおける山頂境界部分Eaと谷底境界部分Ebを連絡する面、雌ネジ部材Iにおける山頂境界部分Iaと谷底境界部分Ibを連絡する面)は、圧力側フランクと称され、雄ネジ部材E及び雌ネジ部材Iの各ネジ山Es,Isのうち圧力側フランクE1,I1の反対側のフランクE2,I2(同図中の雄ネジ部材Eにおける山頂境界部分Ecと谷底境界部分Edを連絡する面、雌ネジ部材Iにおける山頂境界部分Icと谷底境界部分Idを連絡する面)は、遊び側フランクと称される。図12から把握できるように、締結時には、雄ネジ部材E及び雌ネジ部材Iの圧力側フランクE1,I1同士が相互に接触する一方、雄ネジ部材E及び雌ネジ部材Iの遊び側フランクE2,I2同士は相互に接触しない状態になる。
しかし、締結時に雄ネジ部材Eと雌ネジ部材Iの軸芯がずれると、図13及び図14に示すように、雄ネジ部材E及び雌ネジ部材Iの各圧力側フランクE1,I1の接触は、線接触では無く、面圧(摺動面に作用する単位面積当たりの荷重)が線接触よりも極端に増大する点接触となる。そして、点接触に近い形で面圧が増大した状況下で締結処理を続行すると、高面圧下での点接触に近い状況で周方向に強制摺動を起こすことになり、焼付きが発生する確率が高くなる。なお、図11及び図12における1点鎖線CLは雄ネジ部材E及び雌ネジ部材Iの一致した軸芯を示し、図13及び図14における1点鎖線CLは雄ネジ部材Eの軸芯を示す。
このような焼付きは、雄ネジ部材及び雌ネジ部材のネジ山同士の間に公差がある以上容易に、また恒常的に発生する状況にあると考えられる。
以上のような問題に鑑みて本発明者は、焼付きの生じ難い雄ネジ部材や雌ネジ部材、さらにはこれら雄ネジ部材及び雌ネジ部材を備えた締結部材を提供すべく、鋭意研究の末、標準的な雄ネジ部材及び雌ネジ部材の圧力側フランクが、ネジ山の形状に関わらず直線的な断面形状を有していることに着目し、雄ネジ部材及び雌ネジ部材の圧力側フランクの断面形状を湾曲形状にすることで、潤滑剤の適用を前提としない使用状況下(無潤滑下)においても焼付きの発生を抑制・低減することが可能であることを見出した。
すなわち、本発明に係る雄ネジ部材は、金属製の雌ネジ部材のネジ山に螺合締結可能なネジ山を有する金属製のものであって、当該雄ネジ部材のネジ山のうち締結時に負荷を受ける側のフランクである圧力側フランクの断面形状を、正確には、雄ネジ部材の軸芯を通る平面上における圧力側フランクの断面形状を、湾曲させた凸形状に設定し、軸芯を雌ネジ部材の軸芯と一致させ且つ締結の負荷が掛からない螺合状態において凸形状の圧力側フランクを含むネジ山が、雌ネジ部材のネジ山に接触しないように設定し、当該雄ネジ部材のネジ山のうち圧力側フランクの反対側のフランクを直線形状に設定していることを特徴としている。
このように圧力側フランクの断面形状を湾曲させた凸形状とし、軸芯を雌ネジ部材の軸芯と一致させ且つ締結の負荷が掛からない螺合状態において凸形状の圧力側フランクを含むネジ山が、雌ネジ部材のネジ山に接触しないように設定したことによって、潤滑剤を用いずとも、耐焼付き性が向上することを本発明者は見出した。本発明に係る雄ネジ部材の耐焼付き性が、従来の雄ネジ部材よりも向上した理由としては、正確に測定して特定することが困難であるものの、雄ネジ部材の圧力側フランクの軸線を含んだ断面形状が、直線状ではなく湾曲させた凸形状であることによって、締結時に、雄ネジ部材の圧力側フランクと、雌ネジ部材のネジ山(具体的には雌ネジ部材の圧力側フランク)との接触点又は接触面における面圧が、雄ネジ部材の圧力側フランクの断面形状が直線状である態様と比較して減少することにより、従来であれば生じていた高面圧下での点接触に近い状況で周方向に強制摺動を抑制・低減できるからであると考えられる。
また、本発明に係る雄ネジ部材おいて、圧力側フランクの凸形状が、当該雄ネジ部材の軸芯を通る断面積を増大させる方向、換言すれば、雌ネジ部材との締結時に対面する雌ネジ部材のネジ山のフランクに近付く方向に湾曲させた凸形状であれば、耐焼付き性の向上とともに締結時のトルクを支える体積の増加をも実現することもでき、好適である。
本発明に係る雄ネジ部材における圧力側フランクの凸形状の突出高さは、軸芯を雌ネジ部材の軸芯と一致させ且つ締結の負荷が掛からない螺合状態において凸形状の圧力側フランクを含むネジ山が、雌ネジ部材のネジ山に接触しない範囲であれば任意に設定することが可能である。ここで、雄ネジ部材及び雌ネジ部材のネジ山同士の間に公差があることに着目し、凸形状の突出高さの1つの目安として公差を基準として凸形状を種々の突出高さに設定して実験を行った結果、従来品の雄ネジ部材よりも焼付きの発生確率を低くすることが可能な値又は期待できる値として、圧力側フランク及び雌ネジ部材のネジ山のうち締結時に負荷を受ける側のフランクである圧力側フランクを仮にそれぞれ直線形状とした場合における寸法公差の限界までの距離を1とした場合、雄ネジ部材が有する圧力側フランクの凸形状の突出高さが2分の1以上1以下であることが判明した。なお、雌ネジ部材の圧力側フランクの断面形状が直線である場合、雄ネジ部材の圧力側フランクの突出高さが1であれば、軸芯を雌ネジ部材の軸芯と一致させ且つ締結の負荷が掛からない螺合状態において凸形状の圧力側フランクを含むネジ山が、雌ネジ部材のネジ山に接触することになるため、この場合(雌ネジ部材の圧力側フランクの断面形状が直線である場合)は、雄ネジ部材の圧力側フランクの突出高さは自ずと1未満ということになる。
さらにまた、本発明に係る雄ネジ部材において、ネジ山のうち圧力側フランクの反対側のフランク(遊び側フランクと称される)を、当該雄ネジ部材の軸芯を通る断面積を増大させる方向に湾曲させて凸形状とすれば、締結時のトルクを支える体積の増加を実現することができ、ネジ山の強度向上に貢献する。
加えて、本発明に係る雄ネジ部材は、少なくとも圧力側フランクを脱脂しているものであっても、上述のように焼付きの発生を抑制・低減することができる。
また、本発明に係る雌ネジ部材は、ネジ山を有する金属製の雄ネジ部材のネジ山に螺合締結可能なネジ山を有する金属製のものであって、当該雌ネジ部材のネジ山のうち締結時に負荷を受ける側のフランクである圧力側フランクの断面形状を、正確には雌ネジ部材の軸芯を通る平面上における圧力側フランクの断面形状を、湾曲させた凹形状に設定し、軸芯を雄ネジ部材の軸芯と一致させ且つ締結の負荷が掛からない螺合状態において凹形状の圧力側フランクを含むネジ山が、雄ネジ部材のネジ山に接触しないように設定し、当該雌ネジ部材のネジ山のうち圧力側フランクの反対側のフランクを直線形状に設定していることを特徴としている。
このように圧力側フランクの断面形状を湾曲させた凹形状とし、軸芯を雄ネジ部材の軸芯と一致させ且つ締結の負荷が掛からない螺合状態において凹形状の圧力側フランクを含むネジ山が、雄ネジ部材のネジ山に接触しないように設定したことによって、潤滑剤を用いずとも、耐焼付き性が向上することを本発明者は見出した。本発明に係る雌ネジ部材の耐焼付き性が、従来の雌ネジ部材よりも向上した理由としては、正確に測定して特定することが困難であるものの、雌ネジ部材の圧力側フランクの軸線を含んだ断面形状が、直線状ではなく湾曲させた凹形状であることによって、締結時に、雌ネジ部材の圧力側フランクと、雄ネジ部材のネジ山(具体的には雄ネジ部材の圧力側フランク)との接触点又は接触面における面圧が、雌ネジ部材の圧力側フランクの断面形状が直線状である態様と比較して減少することにより、従来であれば生じていた高面圧下での点接触に近い状況で周方向に強制摺動を抑制・低減できるからであると考えられる。
また、本発明に係る雌ネジ部材おいて、圧力側フランクの凹形状が、当該雌ネジ部材の軸芯を通る断面積を減少させる方向、換言すれば、雄ネジ部材との締結時に対面する雄ネジ部材のネジ山のフランクから離間する方向に湾曲させた凹形状であれば、耐焼付き性を向上させることができる。雄ネジ(外ネジ)部材と比較して雌ネジ(内ネジ)部材の場合、ネジ山とその周辺の部材の肉厚(径方向の厚み)は軸芯から遠い位置においてある程度大きく設定することができるため、ネジ山の圧力側フランクに多少の凹形状が生じたとしても、ネジ山の強度にはさほど影響することがない。特に、雄ネジ部材と雌ネジ部材の軸芯が、初期状態でずれている場合は、フランクが直線形状であれば、一方のネジ(雄ネジ部材または雌ネジ部材)のフランクの端部と、他方のネジ部材の直線形状のフランクとの接触部が点で始まる(図13中のIa、図14中のEa)。そして、締結の進展と共に、この点の周りの部分も変形しだして接触を始める。この時の面圧は面積が極めて小さいために、極めて高くなる。締結の進展と共に、接触面の面積はゆっくりと拡大して行く。その結果として、接触面圧の低減速度はゆっくりとしている。しかし、雌ネジ部材のフランクの断面形状が湾曲した凹状であれば、雄ネジ部材と雌ネジ部材の軸芯が初期状態でずれていた場合には、最初の接触開始は同じく点であるが、接触を受ける雌ネジ部材の形状が凹面であるために、接触点の周りは凹面で囲まれる形となり、締結の進展と共に接触面の面積は速やかに大きくなる。その結果、締結の進展に伴う面圧の低減速度は、雄ネジ部材と雌ネジ部材のフランクが何れも直線形状の場合に比べて、相対的に速くなる。高い面圧の存在はその部分の焼付きに繋がり易く、低い面圧は焼付きに繋がり難いために、面圧の低減効果が高い凹面のフランクを有する雌ネジ部材に対しては、焼付きが発生し難い。
本発明に係る雌ネジ部材における圧力側フランクの凹形状の陥没深さは、軸芯を雄ネジ部材の軸芯と一致させ且つ締結の負荷が掛からない螺合状態において凹形状の圧力側フランクを含むネジ山が、雄ネジ部材のネジ山に接触しない範囲であれば任意に設定することが可能である。ここで、雌ネジ部材及び雄ネジ部材のネジ山同士の間に公差があることに着目し、凹形状の陥没深さの1つの目安として公差を基準として凹形状を種々の陥没深さに設定して実験を行った結果、従来品の雌ネジ部材よりも焼付きの発生確率を低くすることが可能な値又は期待できる値として、圧力側フランク及び雄ネジ部材のネジ山のうち締結時に負荷を受ける側のフランクである圧力側フランク、これら各圧力側フランクをそれぞれ直線形状とした場合における寸法公差の限界までの距離を1とした場合、雌ネジ部材が有する圧力側フランクの凹形状の陥没深さが2分の1以上1以下であることが判明した。
さらにまた、本発明に係る雌ネジ部材では、ネジ山のうち圧力側フランクの反対側のフランク(遊び側フランクと称される)を、当該雌ネジ部材の軸芯を通る断面積を減少させる方向に湾曲させて凹形状とすることも可能である。ここで、雌ネジ部材のフランク上の点は、注目する部分より軸芯からの距離が大きいそれより外側の部分(つまり半径が大きく体積も大きい部分)に支えられているため、締結によって変形はし難いが、雄ネジ部材のフランク上の点は、注目する部分より軸芯からの距離が小さいそれより内側の半径の小さい部分(つまり相対的に体積が雌ネジ部材より小さい部分)で支えられているために、変形はし難い。そのため、雌ネジ部材のネジ山はフランクを凹面とすることで軸方向には細るが、もともと変形に抵抗する支持部分が軸芯より外側にあり、同じ半径位置にある雄ネジ部材より変形に対する抵抗が高く、相対的強度が高い。このため、凹面化(例えば公差範囲内の凹面化)であれば、雌ネジ部材のフランクの凹面化による少々の強度低下は、致命的な強度劣化を招来することはない。したがって、雌ネジ部材のネジ山のうち圧力側フランクの反対側のフランク(遊び側フランク)を、凹形状とすることが可能である。一方、雄ネジ部材のネジ山のうち圧力側のフランクの反対側のフランクを、雌ネジ部材の遊びフランクの凹面化に対応させて凸面化した場合には、雄ネジ部材の強化の方向に働くので、好都合である。
加えて、本発明に係る雌ネジ部材は、少なくとも圧力側フランクを脱脂しているものであっても、上述のように焼付きの発生を抑制・低減することができる。
また、本発明に係る締結部材は、上述した構成を有する雄ネジ部材及び雌ネジ部材を備えていることを特徴としている。
このような締結部材であれば、締結時において、断面形状を湾曲させた凸形状に設定した雄ネジ部材の圧力側フランクと、断面形状を湾曲させた凹形状に設定した圧力側フランクとが、互いの湾曲させた面(弧)を密着または密接するように接触することで、接触面積が増え、この接触面積は締結力が増すほど速やかに増大することが期待でき、面圧の急激な上昇を防止・抑制することが可能である。その結果、本発明に係る締結部材であれば、フランクの断面形状が直線状である従来の雄ネジ部材及び雌ネジ部材を備えた締結部材と比較して、焼付きが生じ難く、締結処置と開放処理との繰り返し可能回数を増やすことが可能であり、耐焼付き性の改善を図ることができる。
本発明は、雄ネジ部材や雌ネジ部材の各圧力側フランクの断面形状を、直線状ではなく、凸状または凹状に湾曲させた部分円弧状に設定するという全く新しい技術的思想に基づくものであり、このような形状の圧力側フランクを含むネジ山同士を螺合させて行う少なくとも1回目の締結処理時に、焼付きが生じないか、極めて生じ難い雄ネジ部材、雌ネジ部材及びこれらネジ部材を備えた締結部材を提供することができるものである。
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
本発明の一実施形態に係る雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2は、図1に示すように、共通の締結部材Xを構成する何れも金属製のものであり、例えば、半導体等の工業的製造プロセスを構成する装置や、食品、医療等の分野で用いられる装置に好適に使用されるものである。このような用途に用いられる金属製の雄ネジ部材1や雌ネジ部材2には、耐腐食性が要求され、発錆が無いか殆ど無いことも要求される。このような要求を満たすべく、本実施形態では、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2として何れもステンレス製のものを適用している。ステンレスであれば特に種類は問わず、オーステナイト系、フェライト系、オーステナイト・フェライト系(二相系)、マルテンサイト系の何れであってもよいが、本実施形態では、オーステナイト系ステンレス製の雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を適用している。
本実施形態に係る締結部材Xは、図2に示すように、上述した分野の製造プロセスにおいて、例えば材料を搬送するためのパイプシステムPの繋ぎ部分に使用されるものである。図1及び図2に示す雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2は、例えば、JIS規格に準拠するSUS304のM16,ピッチ1の60°の三角ネジであって、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の各ネジ山1s,2sを構成するフランクの断面形状が何れも直線状のもの(以下では標準の断面形状と称する場合がある)であり、この点でフランクの断面形状を直線状以外の特殊な断面形状に設定する本発明に係る雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2とは異なるものの、それ以外の部分については、本実施形態に係る雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を備えた締結部材Xと同様である。
図1乃至図3に示すように、本実施形態に係る締結部材Xは、雄ネジ部材1として、基端部に六角形の頭部1A(六角ボルト)を有するものを適用している。この雄ネジ部材1は、外周面にネジ山1sが形成されているネジ軸部1Bの先端(ネジ軸部1Bのうち頭部1Aから遠い方の端)に、パイプシステムPに繋がるプラスチック製のパイプP1を装着可能なパイプ装着部1Cを一体に形成している。本実施形態では、パイプ装着部1Cとして、ネジ軸部1Bの先端面(軸芯方向に直交する端面)から頭部1Aに対して離間する方向に所定寸法突出する小径部1Caと、小径部1Caの先端に形成した大径部1Cbと、大径部1Cbの先端から先端に向かって漸次小径となるテーパ部1Ccとを有するものを適用している。これら小径部1Ca、大径部1Cb及びテーパ部1Ccの軸中心は、ネジ軸部1B及び頭部1Aの軸中心と一致している。ここで、雄ネジ部材1の頭部1Aは、その基端部(図1の頭部1Aの下端部)が、図示しない別のパイプシステム(パイプ装置部1Cに装着されるパイプP1を有するパイプシステムPとは別のパイプシステムを意味し、以下の説明においても同義で用いる)又は別の装置(パイプ装置部1Cに装着されるパイプP1を有するパイプシステムPを備えた装置とは別の装置を意味し、以下の説明においても同義で用いる)に繋がっている場合もあれば、図示しない前記別のパイプシステム又は前記別の装置に繋がれておらず、止め(封)として機能する場合もある。前者の場合、雄ネジ部材1の内部には頭部1Aも含めて軸方向に貫通する貫通孔が形成され、頭部1Aの基端部(図1の頭部1Aの下端部)には、図示しない前記別のパイプシステム又は図示しない前記別の装置が、適宜の固定手段によって繋がれている。一方、後者の場合は、雄ネジ部材1の内部には貫通孔が形成されておらず、頭部1Aが止めとして機能する。
雌ネジ部材2は、図1及び図2に示すように、外周面を六角ナット状とし、内周面に雄ネジ部材1のネジ山1sに対応したネジ山2sを形成した袋ナット部2Aと、袋ナット部2Aの先端部(図1における袋ナット部2Aの上端部)に設けられ且つ内向きに突出させた鍔部2Bとを一体に有するものである。また、本実施形態の雌ネジ部材2は、袋ナット部2Aのうち先端側の内周面のうち、ネジ山2sを形成していない部分を凹凸のない面に設定したものである。本実施形態では、この凹凸のない面の高さ寸法(軸方向に沿った寸法)を、雄ネジ部材1のパイプ装着部1Cの高さ寸法より所定寸法分だけ短く設定している。
このような雄ネジ部材1及び雄ネジ部材1を有する締結部材Xは、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を相互に螺合締結する前に、雄ネジ部材1のパイプ装着部1CにパイプP1をその下端がネジ軸部1Bの先端に接触する位置まで嵌め込み(図3参照)、次いで、内径をパイプP1の外径よりも僅かに大きく設定し、且つ外径を雌ネジ部材2のネジ軸部1Bの内径よりも小さく設定した金属製の固定用リング3を、パイプP1をその外周側から嵌め込むようにパイプ装着部1Cに装着し(図4参照)、続いて、雌ネジ部材2を、雄ネジ部材1の先端側から雄ネジ部材1に締結する(図2参照)。ここで、雄ネジ部材1の頭部1Aの基端部(図1の頭部1Aの下端部)が、図示しない前記別のパイプシステム又は前記別の装置に固定されている場合、これら雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を相互に螺合締結した状態では、雄ネジ部材1の頭部1Aを含めた雄ネジ部材1全体に亘ってその軸方向に貫通するように形成されている貫通孔を通じて、パイプ装着部1Cに装着したパイプP1を有するパイプシステムと、雄ネジ部材1の頭部1Aの基端部(図1の頭部1Aの下端部)に装着した図示しない前記別のパイプシステム又は前記別の装置との間で流体のスムーズな送通が可能になる。つまり、例えばハイテク用のガスや食品を流体状にして、図1に示すパイプP1を有するパイプシステムPが繋がれている装置から、雄ネジ部材1の頭部1Aの基端部(図1の頭部1Aの下端部)に接続した前記別のパイプシステム又は前記別の装置に流体を送通させることができる。なお、装置の保守や流路の洗浄等の事情で、一時的に流体の送通を中断する場合には、頭部1Aの内部に貫通孔が形成されていない雄ネジ部材1を用いることで、この雄ネジ部材1が封の役目を担う止め部材として機能する。なお、雄ネジ部材の頭部に対する前記別のパイプシステムや前記別の装置の繋ぎ方(固定手段)や雄ネジ部材の頭部の形状は問わない。
このような構成の締結部材Xにおいて締結処理を実施する過程で、雌ネジ部材2を雄ネジ部材1に対してある程度締め付けていくと、雌ネジ部材2の先端部(上端部)に設けた鍔部2Bが固定用リング3を雌ネジ部材2の螺合進行方向(下方)に押圧し、これにより、固定用リング3が、パイプ装着部1Cのテーパ部1Ccとの間で、パイプ装着部1Cに装着しているパイプP1を径方向に挟み込んだ状態(抱え込んだ状態)でそのパイプP1をネジ軸部1B側(下方)に押し込むことになる。この際、パイプP1の端部(下端部)がネジ軸部1Bの先端面(上端面)に当接しているため、図4に示すように、パイプP1のうちテーパ部1Ccから大径部1Cbを越えた部分(テーパ部1Ccよりも下側に存在する部分)は圧縮されて、径方向に膨れるように変形するが、パイプP1の外周面は径方向において雌ネジ部材2の内周面((図示例ではネジ山2sを形成していない面であって且つ凹凸のない面))に対面するため、パイプP1の変形量は制限され、パイプP1に掛かる圧力が高くなる。その結果、その圧力は、固定用リング3を介して雌ネジ部材2を雄ネジ部材1の頭部1Aから離間する方向(上方)へ押圧する力となり、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2のネジ山1s,2s同士が接触する締結状態になる。
このように、締結前であって、且つ固定用リング3を介して雌ネジ部材2を雄ネジ部材1の頭部1Aから離間する方向(上方)へ押圧する力が雌ネジ部材2に作用しない状態(標準状態)では、図5に示すように、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2のネジ山2s,2s同士の間には公差に起因する隙間が存在し、締結作業にもほとんどトルクは掛からないが、固定用リング3を介して雌ネジ部材2を雄ネジ部材1の頭部1Aから離間する方向(上方)へ押圧する力が雌ネジ部材2に作用し始めると、図6に示すように、雄ネジ部材1のネジ山1sを構成する傾斜方向が異なるフランク11,12のうち一方のフランク11(同図における下向き面に相当するフランク11)と、雌ネジ部材2のネジ山2sを構成する傾斜方向が異なるフランク21,22のうち一方のフランク21(同図における上向き面に相当するフランク12)が相互に強く接触する。以下の説明では、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2のそれぞれにおいて、締結時に負荷を受ける側のフランクを圧力側フランク11,21とする。図6では、雌ネジ部材2の圧力側フランク21を相対的に太い実線で示している。なお、図5及び図6では、各図の紙面向かって右側における雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2のネジ山1s,2s同士の位置関係を模式的に示し、この位置関係に準じた位置関係となる紙面向かって左側における雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2のネジ山1s,2s同士の位置関係は省略している。
雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を相互に締結することで、パイプP1を有するパイプシステムP同士を繋ぐことができ、処理装置で加工される素材である液体や、処理装置で必要とされる雰囲気を形成する気体等の流体を、パイプP1を通じて処理装置に送ることが可能になる。
ところで、パイプP1を通じて処理装置に送る流体は、処理装置で処理される製品毎や処理装置の処理目的毎に異なる。したがって、最終製品の仕様によって、段取替(品種や工程内容が変わる際生じる段取り作業、作業開始前の材料、機械等の準備及び試し加工)を行い、パイプP1を通じて装置に送る流体の種類を変更する必要がある。そこで、処理装置に取り付けられたパイプP1と、流体を供給するタンク等の流体供給装置に取り付けられたパイプP1とを繋ぐ部材として上述の締結部材Xを適用し、一つ又は一種類の製品の処理が終わる毎に、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の締結状態を解除(開放)し、処理装置に取り付けられたパイプP1を内部洗浄した後に、そのパイプP1を、再度新たな流体を供給するタンク等の流体供給装置に取り付けられたパイプP1に締結部材Xを介して繋ぐことで、段取替作業を素早くスムーズに行うことができる。
パイプP1内を流れる流体は、雄ネジ部材1と雌ネジ部材2との締結部分やパイプP1の内向き面における腐食や発錆を嫌う場合が多いことから、本実施形態では、上述したように締結部材Xの雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2としてステンレス製のものを適用している。
しかしながら、ステンレスは、焼付き易い特性を有し、最初の締結処理時、又は最初の締結状態を解除する処理(開放処理)時、或いは、取替作業の毎に締結処理と開放処理とを繰り返した時に、焼付きが発生する場合がある。一旦焼付きが生じると、締結処理を適正且つスムーズに行うことができず、仮に締結できたとしても、段取替作業や保守点検の際に要求される開放処理が困難になり、最悪の場合には、処理装置と流体供給装置の両方のパイプシステムP全体を総入れ替えしなければならない事態に陥ることになり、このような事態の発生は現場において是が非でも回避したいという切実な要望がある。
そこで、締結処理時に潤滑剤を用いることで、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2のネジ山同士の摩擦を低減し、焼付きの発生を抑制・低減する態様が考えられる。
しかしながら、潤滑剤を用いることで焼付きは改善されるものの、パイプP1の中を通過する流体にとって、潤滑剤は異物であり、潤滑剤が製品に混入するリスクを考えると、雄ネジ部材1と雌ネジ部材2とを締結する場面における潤滑剤の使用は制限されるか、原則禁止される。また、製品に対する潤滑剤の混入が所定量までであれば許容される場合、その許容量を超えない程度の潤滑剤を使用することで、焼付きの発生を抑制・低減することが可能であると考えられるが、実際には、雄ネジ部材1、雌ネジ部材2、及びそれらの周辺部品を締結処理前に有機溶剤等で完全脱脂処理することや、経時変化によって潤滑剤の滑動効果が低下することで、焼付きが発生することも容易に推察できる。
そこで、本発明者は、図7に示すように、締結部材Xを構成する雄ネジ部材1として、ネジ山1sのうち締結時に負荷を受ける側のフランクである圧力側フランク11(同図中の軸方向に沿った山頂1tの範囲を規定する山頂境界部分1a,1cのうち一方の山頂境界部分1aと、その山頂境界部分1aに最も近い谷底1uの谷底境界部分1bとを連絡する面)の断面形状(雄ネジ部材1の軸芯を通る平面上における断面形状)を、湾曲させた凸形状に設定したものを適用するとともに、雌ネジ部材2として、ネジ山2sのうち締結時に負荷を受ける側のフランクである圧力側フランク21(同図中の軸方向に沿った山頂2tの範囲を規定する山頂境界部分2a,2cのうち一方の山頂境界部分2aと、その山頂境界部分2aに最も近い谷底2uの範囲を規定する谷底境界部分2bとを連絡する面)の断面形状(雌ネジ部材2の軸芯を通る平面上における断面形状)を、湾曲させた凹形状に設定したものを適用し、締結部材Xを構成する雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の軸芯を相互に一致させ且つ締結の負荷が掛からない螺合状態(標準状態)において凸形状の圧力側フランク11を含む雄ネジ部材1のネジ山1sと、凹形状の圧力側フランク21を含む雌ネジ部材2のネジ山2sとが相互に接触しないという条件(標準状態クリアランス条件)を満たす締結部材Xを作製し、締結処理を行ったところ、最初の締結処理時に焼付きは発生せず、締結処理及び解放処理を繰り返し行うことが可能であることが判明した。
図7に示す雄ネジ部材1のネジ山1sにおける圧力側フランク11の凸形状は、雄ネジ部材1の軸芯を通る断面積を増大させる方向(雌ネジ部材2との螺合時に対面する雌ネジ部材2の圧力側フランク21に近付く方向)に湾曲させた凸形状であり、雌ネジ部材2のネジ山2sにおける圧力側フランク21の凹形状は、雌ネジ部材2の軸芯を通る断面積を減少させる方向(雄ネジ部材1との螺合時に対面する雄ネジ部材1の圧力側フランク11から離れる方向)に湾曲させた凹形状である。そして、同図に雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雄ネジ部材1の圧力側フランク21をそれぞれ直線形状(同図中の雄ネジ部材1における山頂境界部分1aと谷底境界部分1bを結ぶ点線で示す直線形状、雌ネジ部材2における山頂境界部分2aと谷底境界部分2bを結ぶ点線で示す直線形状)とした場合における寸法公差の限界までの距離を1とした場合、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の凸形状の突出高さ、及び雌ネジ部材2の圧力側フランク21の凹形状の陥没深さを、標準状態クリアランス条件を満たす範囲でそれぞれ1又は限りなく1に近い値に設定した場合、締結可能回数は7回であった。ここで、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の凸形状の突出高さとは、雄ネジ部材1の圧力側フランク11を直線形状とした場合、その直線形状のフランク(同図における山頂境界部分1aと谷底境界部分1bを結ぶ点線で示す直線形状のフランク)からの最大突出長さであり、直線形状のフランクの垂線の最大値である。また、雌ネジ部材2の圧力側フランク21の凹形状の陥没深さとは、雌ネジ部材2の圧力側フランク21を直線形状とした場合、その直線形状のフランク(同図における山頂境界部分2aと谷底境界部分2bを結ぶ点線で示す直線形状のフランク)からの最大陥没深さであり、直線形状のフランクの垂線の最大値である。
このように、標準状態クリアランス条件を満たしつつ、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の凸形状と、雌ネジ部材2の圧力側フランク21の凹形状とを相補的な形状に設定することで、図8に示すように、締結時に、雄ネジ部材1の圧力側フランク11と雌ネジ部材2の圧力側フランク21とが相互に密着し、雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雄ネジ部材1の圧力側フランク21をそれぞれ直線形状とした構成と比較して、締結時に接触面積が増大するスピードは圧倒的に早く、雄ネジ部材1の凸形状の圧力側フランク11と、雌ネジ部材2の凹形状の圧力側フランク21とが、締結時に最初は点接触であっても、締結力が増すほどに面接触の領域が速やかに増大し、面圧が急激に上昇する事態を抑制・低減することが可能であり、焼付きが生じ難いと推察できる。なお、図7及び図8では、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の軸芯を、直線状の1点鎖線CLで示している。
そして、本発明者は、標準状態クリアランス条件を満たしつつ、雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雌ネジ部材2の圧力側フランク21の凸形状や凹形状の突出高さ、陥没深さを、適宜の値に設定した複数種類の締結部材Xを用意し、焼付きの生じ難さを究明すべく締結実験を行った。
本実験で用いた雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2は、何れもステンレス製であって、同じ素材、具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼のものである。より具体的には、JIS規格に準拠するSUS304のM16,ピッチ1の60°の三角ネジに相当するネジ山1s,2sを有し、雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雄ネジ部材1の圧力側フランク21をそれぞれ直線形状(図7において点線で示す直線形状)とした場合における寸法公差の限界までの距離を1とした場合、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の凸形状の突出高さ、及び雌ネジ部材2の圧力側フランク21の凹形状の陥没深さを、それぞれ標準状態クリアランス条件を満たす範囲で適宜の値に設定した雄ネジ部材1、雌ネジ部材2である。
さらにまた、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2は、それぞれ少なくとも圧力側フランク11、圧力側フランク21を脱脂(好ましくは完全脱脂)したものである。具体的には、締結実験を行う前に、アセトンで雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を含む締結部材Xの全ての部品を十分に洗浄して、全ての油脂分を除去したものである。締結実験では、トルクレンチを使用し、上述した締結手順、つまり、雄ネジ部材1のパイプ装着部1CにパイプP1を嵌め込んで装着し(図3参照)、固定用リング3を、パイプP1を外嵌するようにパイプ装着部1Cに装着した状態(図4参照)で、雌ネジ部材2及び雄ネジ部材1を締結する(図5参照)手順に従って、10秒間で1回転の速度で締結を行った。締結中にトルクが異常に上昇して10Nmを遙かに越えた場合は焼付きが発生したと判断し、締結実験を中止した。この場合は、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の締結状態を解除(解放)することが不可能であった。トルクの急上昇が無く、雌ネジ部材2が雄ネジ部材1の端面(上述した雄ネジ部材1の頭部1Aの端面(図2における上端面))に接触した時点で締結処理を止め、その時点で焼付きが無ければ、開放処理を行い、固定用リング3及びパイプP1を新しいものに取り替えて、締結実験を継続した。
表1に、締結実験の結果を示す。同表における「標準」は、雄ネジ部材1の圧力側フランク11や雌ネジ部材2の圧力側フランク21がそれぞれ直線形状であることを意味し、同表における「1」は、標準状態クリアランス条件を満たす範囲で「1または限りなく1に近い値」、或いは「1未満であって限りなく1に近い値」を意味する。この点に関しては以下の説明で詳述する。また、同表における「1/4」、「1/2」、「3/4」は、上述の寸法公差の最大値を1とした場合における各値を意味する。
表1から把握できるように、雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雌ネジ部材2の圧力側フランク21がそれぞれ直線形状(標準)である場合、締結可能回数は0回、つまり、最初の締結処理時の途中で焼付きが発生した。一方、雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雌ネジ部材2の圧力側フランク21がそれぞれ「1/4高さ」、「1/4深さ」である場合、締結可能回数は1回であった。
また、雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雌ネジ部材2の圧力側フランク21がそれぞれ「1/2高さ」、「1/2深さ」である場合は、締結可能回数が2回(3回目の締結処理時又は2回目の開放処理時に焼付き発生。以下、締結可能回数について同趣旨である)であり、雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雌ネジ部材2の圧力側フランク21がそれぞれ「3/4高さ」、「3/4深さ」である場合は、締結可能回数が3回であった。
また、雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雌ネジ部材2の圧力側フランク21がそれぞれ「1高さ」、「1深さ」である場合は、上述した通り、締結可能回数が7回であり、締結可能回数が最も高かった。なお、雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雌ネジ部材2の圧力側フランク21がそれぞれ「1高さ」、「1深さ」である場合、それぞれの「1」は「1そのもの又は限りなく1に近い値」である。つまり、上述したように雌ネジ部材2の圧力側フランク21の断面形状が「標準」でなく、湾曲した凹形状であれば、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の凸形状の突出高さとして、寸法公差と等しい突出高さ(すなわち「1高さ」の「1」が1そのもの)を選択・設定した場合であっても、標準状態クリアランス条件を満たすことができる。
雄ネジ部材1の圧力側フランク11が「3/4高さ」、雌ネジ部材2の圧力側フランク21が「1深さ」である場合は、締結可能回数が4回であり、雄ネジ部材1の圧力側フランク11が「1高さ」、雌ネジ部材2の圧力側フランク21が「3/4深さ」である場合は、締結可能回数が3回であった。後者の場合(雄ネジ部材1の圧力側フランク11が「1高さ」、雌ネジ部材2の圧力側フランク21が「3/4深さ」である場合)における「1高さ」の「1」もまた上述の通り「1そのもの又は限りなく1に近い値」である。
また、雄ネジ部材1の圧力側フランク11が「1高さ」、雌ネジ部材2の圧力側フランク21が「3/4深さ」である場合は、締結可能回数が3回であり、雄ネジ部材1の圧力側フランク11が「1高さ」、雌ネジ部材2の圧力側フランク21が「標準」である場合は、締結可能回数が1回であった。前者の場合(雄ネジ部材1の圧力側フランク11が「1高さ」、雌ネジ部材2の圧力側フランク21が「3/4深さ」である場合)における「1高さ」の「1」もまた上述の通り「1そのもの又は限りなく1に近い値」である。一方、後者の場合(雄ネジ部材1の圧力側フランク11が「1高さ」、雌ネジ部材2の圧力側フランク21が「標準」である場合)における「1高さ」の「1」は「1未満であって1に限りなく近い値」である。これは、後者の場合において、雄ネジ部材1の圧力側フランク11が「1そのもの」であれば、標準状態クリアランス条件を満たすことができないことによる。
また、雄ネジ部材1の圧力側フランク11が「標準」、雌ネジ部材2の圧力側フランク21が「1深さ」である場合は、締結可能回数が1回であった。
以上の実験結果から、上述の標準状態クリアランス条件を満たしつつ、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の凸形状が、雄ネジ部材1の圧力側フランク11と雌ネジ部材2の圧力側フランク21がそれぞれ直線形状である場合の寸法公差の最大値を1として、1/2以上1以下の突出高さを有する凸形状であるという第1条件、また、上述の標準状態クリアランス条件を満たしつつ、雌ネジ部材2の圧力側フランク21の凹形状が、雄ネジ部材1の圧力側フランク11や雌ネジ部材2の圧力側フランク21がそれぞれ直線形状である場合の寸法公差の最大値を1として、1/2以上1以下の陥没深さを有する凹形状であるという第2条件、これら何れかの条件を満たす場合に締結可能回数が複数回以上になるということ、換言すれば、焼付きが生じ難いということが判明した。また、以上の実験結果から、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の凸形状と、雌ネジ部材2の圧力側フランク21の凹形状とが互いに補完する形状(互いにジャストフィットする形状)でなくても、耐焼付き性が向上する場合があることが明らかとなった。さらにまた、雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雌ネジ部材2の圧力側フランク21がそれぞれ「1/4高さ」、「1/4深さ」である組み合わせ、雄ネジ部材1の圧力側フランク11が「1高さ」、雌ネジ部材2の圧力側フランク21が「標準」である組み合わせ、雄ネジ部材1の圧力側フランク11が「標準」、雌ネジ部材2の圧力側フランク21が「1深さ」である組み合わせ、これらの組み合わせは、何れも締結可能回数が0回でないことから、複数回の締結が可能である場合もあると考えられ、これらの組み合わせであっても焼付き性が向上する場合があるということが分かった。
このように、圧力側フランク11の断面形状(軸線を含んだ断面形状)を湾曲させた凸形状とし、軸芯を雌ネジ部材2の軸芯と一致させ且つ締結の負荷が掛からない螺合状態において凸形状の圧力側フランク11を含むネジ山1sが、雌ネジ部材2のネジ山2sに接触しないように設定した雄ネジ部材1によれば、潤滑剤を用いずとも、また少なくとも圧力側フランク11を脱脂しているものであっても、上述のように焼付きの発生を抑制・低減することができる。耐焼付き性が向上する理由としては、上述したように、締結時に、雄ネジ部材1の圧力側フランク11と、雌ネジ部材2のネジ山2s(具体的には雌ネジ部材2の圧力側フランク21)との接触点又は接触面における面圧が、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の断面形状が直線状である態様と比較して減少することにより、従来であれば生じていた高面圧下での点接触に近い状況で周方向に強制摺動を抑制・低減できるからであると考えられる。
また、雄ネジ部材1おいて、圧力側フランク11の凸形状が、雄ネジ部材1の軸芯を通る断面積を増大させる方向、換言すれば、雌ネジ部材2との締結時に対面する雌ネジ部材2のネジ山2sの圧力側フランク21に近付く方向に湾曲させた凸形状であれば、耐焼付き性の向上とともに締結時のトルクを支える体積の増加をも実現することもでき、好適である。
また、雌ネジ部材2の圧力側フランク21の断面形状を湾曲させた凹形状に設定し、軸芯を雄ネジ部材1の軸芯と一致させ且つ締結の負荷が掛からない螺合状態において凹形状の圧力側フランク21を含むネジ山2sが、雄ネジ部材1のネジ山1sに接触しないように設定した雌ネジ部材2によれば、潤滑剤を用いずとも、また少なくとも圧力側フランク21を脱脂しているものであっても、上述のように焼付きの発生を抑制・低減することができる。このような雌ネジ部材2の耐焼付き性が、従来の雌ネジ部材2よりも向上する理由としては、雄ネジ部材1に関して述べた理由と同様に、締結時に、雌ネジ部材2の圧力側フランク21と、雄ネジ部材1の圧力側フランク11との接触点又は接触面における面圧が、雌ネジ部材2の圧力側フランク21の断面形状が直線状である態様と比較して減少することにより、従来であれば生じていた高面圧下での点接触に近い状況で周方向に強制摺動を抑制・低減できるからであると考えられる。雄ネジ(外ネジ)部材1と比較して雌ネジ(内ネジ)部材2の場合、ネジ山2sとその周辺の部材の肉厚(径方向の厚み)は軸芯から遠い位置においてある程度大きく設定することができるため、ネジ山2sの圧力側フランク21に多少の凹形状が生じたとしても、ネジ山2sの強度にはさほど影響することがない。特に、雄ネジ部材1と雌ネジ部材1の軸芯が、初期状態でずれている場合は、圧力側フランク11,21が直線形状であれば、一方のネジ(雄ネジ部材または雌ネジ部材)の圧力側フランクの端部と、他方のネジ部材の直線形状の圧力側フランクとの接触部が点で始まる(図13中のIa、図14中のEa)。そして、締結の進展と共に、この点の周りの部分も変形しだして接触を始める。この時の面圧は面積が極めて小さいために、極めて高くなる。締結の進展と共に、接触面の面積はゆっくりと拡大して行く。その結果として、接触面圧の低減速度はゆっくりとしている。しかし、雌ネジ部材2の圧力側フランク21の断面形状が湾曲した凹状であれば、雄ネジ部材1と雌ネジ部材2の軸芯が初期状態でずれていた場合には、最初の接触開始は同じく点であるが、接触を受ける雌ネジ部材2の形状が凹面であるために、接触点の周りは凹面で囲まれる形となり、締結の進展と共に接触面の面積は速やかに大きくなる。その結果、締結の進展に伴う面圧の低減速度は、雄ネジ部材1と雌ネジ部材2の圧力側フランクが何れも直線形状の場合に比べて、相対的に速くなる。高い面圧の存在はその部分の焼付きに繋がり易く、低い面圧は焼付きに繋がり難いために、面圧の低減効果が高い凹面の圧力側フランク21を有する雌ネジ部材2に対しては、焼付きが発生し難いと考えられる。
そして、このような雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を備えた締結部材Xによれば、締結時において、断面形状を湾曲させた凸形状に設定した雄ネジ部材1の圧力側フランク11と、断面形状を湾曲させた凹形状に設定した圧力側フランク21とが、互いの湾曲させた面(弧)を密着また密接するように接触することで、締結による負荷発生時の接触面積が増え、この接触面積は締結力が増すほど速やかに増大することが期待でき、面圧の急激な上昇を抑制・低減することが可能であり、フランクの断面形状が直線状である従来の雄ネジ部材及び雌ネジ部材を備えた締結部材(図11乃至図14参照)と比較して、焼付きが生じ難く、締結処置と開放処理との繰り返し可能回数を増やすことが可能であり、耐焼付き性の改善を図ることができる。
なお本発明の構成は、上述した実施形態に限られるものではない。例えば、雄ネジ部材に関して、圧力側フランクの凸形状が、前記寸法公差の最大値を1として、1/2以上1以下の突出高さを有する凸形状であるという第1条件を満たさない凸形状、すなわち1/2に満たさない突出高さや1を超える突出高さを有する凸形状であっても、耐焼付き性が向上する場合はあると推察でき、同様に、雌ネジ部材に関して、圧力側フランクの凹形状が、前記寸法公差の最大値を1として、1/2以上1以下の陥没深さを有する凹形状であるという第2条件を満たさない凹形状、すなわち1/2に満たさない陥没深さや1を超える陥没深さを有する凹形状であっても耐焼付き性が向上する場合はあると推察できる(例えば上述の表1に示すように、雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雌ネジ部材2の圧力側フランク21がそれぞれ「1/4高さ」、「1/4深さ」である組み合わせ、雄ネジ部材1の圧力側フランク11が「1高さ」、雌ネジ部材2の圧力側フランク21が「標準」である組み合わせ、雄ネジ部材1の圧力側フランク11が「標準」、雌ネジ部材2の圧力側フランク21が「1深さ」である組み合わせ等)。したがって、本発明の雄ネジ部材、雌ネジ部材は、標準状態クリアランス条件を満たしつつ、圧力側フランクの断面形状が凸形状または凹形状であればよく、凸形状の突出高さや凹形状の陥没深さが所定範囲内であることを厳格に要求するものではない。
また、雄ネジ部材として、例えば図9に示すように、ネジ山1sのうち圧力側フランク11の反対側のフランク21(同図における山頂境界部分1cと谷底境界部分1dを連絡する面であり、遊び側フランクと称される)を、雄ネジ部材1の軸芯を通る断面積を増大させる方向に湾曲させて凸形状とすれば、締結時のトルクを支える体積の増加を実現することができ、ネジ山1sの強度向上に寄与する。また、雌ネジ部材2として、例えば同図に示すように、ネジ山2sのうち圧力側フランク21の反対側のフランクである遊び側フランク22を、雌ネジ部材2の軸芯を通る断面積を減少させる方向に湾曲させて凹形状とすることも可能である。雄ネジ部材、雌ネジ部材の遊び側フランクの突出高さや陥没深さは適宜の値に設定することができ、相互に補完する形状であってもよいし、相互に補完しない形状であってもよい。つまり、雄ネジ部材における圧力側フランクの凸形状と、雌ネジ部材における圧力側フランクの凹形状とが、相補関係にあるか否かは特に限定されるものではない。もちろん、図9に示すように、遊び側フランク12,22の断面状態を凸形状や凹形状に湾曲させた形状に設定する場合であっても、負荷の掛かっていない標準状態においてネジ山1s,2s同士の間にクリアランスが形成されるという標準状態クリアランス条件を満たす必要はある。
雄ネジ部材のネジ山の角度を規定する互いに異なる方向に傾斜する2つのフランク(圧力側フランク、遊び側フランク)の湾曲した凸形状の突出高さに応じて、または凸形状の突出高さに応じることなく、雌ネジ部材のネジ山の角度を規定する互いに異なる方向に傾斜する2つのフランク(圧力側フランク、遊び側フランク)の湾曲した凹形状の陥没深さを適宜の値に設定することが可能である。ここで、雌ネジ(内ネジ)部材は、雄ネジ(外ネジ)部材と比較して、軸芯から遠い位置に配置される部材である。したがって、雌ネジ部材のネジ山とその周辺の部材の肉厚(径方向の厚み)をある程度大きく設定することが可能であり、雌ネジ部材のフランクに、雌ネジ部材の軸芯を通る断面積を減少させる方向に湾曲した凹形状が生じたとしても、ネジ山の強度にはさほど悪影響を及ぼさないと考えられるが、凹形状の陥没深さが大き過ぎると、雌ネジ部材のネジ山が雄ネジ部材のネジ山との締結状態を維持可能な強度を確保できないこともまた推察できる。よって、凹形状の陥没深さは、雌ネジ部材のネジ山が雄ネジ部材のネジ山との適切な締結状態を維持可能な強度を確保できる範囲内で設定することが肝要である。なお、雌ネジ部材のフランク上の点は、注目する部分より軸芯からの距離が大きいそれより外側の部分(つまり半径が大きく体積も大きい部分)に支えられているため、締結によって変形はし難いが、雄ネジ部材のフランク上の点は、注目する部分より軸芯からの距離が小さいそれより内側の半径の小さい部分(つまり相対的に体積が雌ネジ部材より小さい部分)で支えられているために、変形はし難い。そのため、雌ネジ部材のネジ山はフランクを凹面とすることで軸方向には細るが、もともと変形に抵抗する支持部分が軸芯より外側にあり、同じ半径位置にある雄ネジ部材より変形に対する抵抗が高く、相対的強度が高い。このため、凹面化(例えば公差範囲内の凹面化)であれば、雌ネジ部材のフランクの凹面化による少々の強度低下は、致命的な強度劣化を招来することはない。したがって、雌ネジ部材のネジ山のうち圧力側フランクの反対側のフランク(遊び側フランク)を、凹形状とすることが可能である。一方、雄ネジ部材のネジ山のうち圧力側のフランクの反対側のフランクを、雌ネジ部材の遊びフランクの凹面化に対応させて凸面化した場合には、雄ネジ部材の強化の方向に働くので、好都合である。
また、図10に示すように、雄ネジ部材1における圧力側フランク11の凸形状が、雌ネジ部材2の圧力側フランク21に向かって湾曲した凸形状は維持しつつ、雄ネジ部材1の軸芯を通る断面積を増大させる方向ではなく、断面積を減少させる方向、換言すれば、雌ネジ部材2との締結時に対面する雌ネジ部材2の圧力側フランク21から離間する方向に湾曲させた凸形状であってもよい。
また、雄ネジ部材や雌ネジ部材が三角ネジ以外のネジであっても、上述の圧力側フランクを凸形状や凹形状に湾曲させる構成を適用することもでき、このような場合であっても耐焼付き性の向上を期待することができる。
締結部材は、上述したような構成を有する雄ネジ部材及び雌ネジ部材を備えたものであればよく、締結処理時に積極的に雄ネジ部材及び雌ネジ部材の各圧力側フランク同士を接触させるための反撥部の構成や、反撥部の有無についても特に制約はない。パイプシステムの繋ぎ部分以外の種々の用途で本発明に係る締結部材を使用することも可能である。
また、雄ネジ部材や雌ネジ部材は、何れも金属製で同じ素材から形成されていることが好ましいが、具体的な素材は、SUS304以外のステンレス製のもの、例えばSUS316等であってもよく、或いはステンレス以外の例えば炭素鋼等の金属から形成されたものであっても構わない。
図7乃至図10では、圧力側フランク11,21全体の断面形状を湾曲させた凸形状や凹形状に設定した雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を例示したが、圧力側フランクの一部の断面形状のみを湾曲させた凸形状又は凹形状に設定した雄ネジ部材や雌ネジ部材であってもよい。つまり、圧力側フランクの所定部分の断面形状は、湾曲させた凸形状又は凹形状であり、他の部分の断面形状が直線形状であってもよい。遊び側フランクの断面形状もこれに準じた断面形状に設定することが可能である。
また、図7を参照しながら雄ネジ部材1の圧力側フランク11を例にして説明すると、湾曲した凸形状を規定する曲線が、ネジ山1sのうち軸方向に沿った山頂1tの範囲を規定する山頂境界部分1a又は谷底境界部分1bの何れか一方または両方を通過しない曲線であってもよく、さらにいえば、フランクの凸形状や凹形状を規定する曲線は、真円の円弧に限らず、楕円の円弧、放物線であってもよい。雄ネジ部材の遊び側フランク、雌ネジ部材の各フランクの湾曲を規定する曲線についても同様のことがいえる。
本発明に係る雄ネジ部材や雌ネジ部材の製造法は特に限定されず、切削加工又は転造法、或いはその他の製造法で製造されたものであってもよい。
その他、雄ネジ部材及び雌ネジ部材の巻きの方向、条数、径及びピッチ等についても上記実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。