JP6531906B2 - 皮膚状態の評価方法 - Google Patents
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AGEs量の測定は、例えば蛍光性AGEsを測定する場合、サンプルを加熱処理し分解した後でHPLC分析を行う。この際、アーティファクトとしてペントシジンが生成することが知られており、このような加熱処理法では、正確なAGEs量を求めることができない。また、蛍光検出によるHPLC分析は、前処理などの操作が煩雑で、且つ、一定時間当たりの検体処理数が少ない。そのため、加熱処理を必要とせず、多検体処理できる簡便な測定方法が求められている。
前述したように角層中のタンパク質がCML化されることは知られてはいたが、角層中の特定のタンパク質がCML化だけでなくN-カルボキシエチルリジン(以下単にカルボキシエチルリジン又はCELと記載する)化もされること、当該タンパク質中の特定の位置のアミノ酸がCML化又はCEL化されること及びその存在量が皮膚状態と相関があることは知られていない。
配列番号1で示される皮膚表皮中のケラチン10における特定修飾構造を検出し、それを指標として皮膚の状態を評価する、皮膚の評価方法であって、当該特定修飾構造が下記i)〜v)から選択される少なくとも1つである、皮膚状態の評価方法、
i)207番目のカルボキシメチルリジン
ii)207番目のカルボキシエチルリジン
iii)284番目カルボキシエチルリジン
iv)285番目カルボキシメチルリジン
v)345番目のカルボキシメチルリジン。
本発明者らは、ターンオーバーの短い表皮タンパク質にもAGEsが存在し、老化とかかわっていることを発見した。しかしそのターゲットとなる構造体の詳細を解析する方法論は簡便でなかった。そこで、侵襲を伴わない簡便なテープストリッピング法で表皮から回収したタンパク質を、ジスルフィド結合を還元して尿素を含むバッファーで可溶化し、SHブロック後2次元電気泳動とウェスタンブロティングを用いて特異的タンパク質を検出した。さらに、独自の抽出法でペプチドを回収後、質量分析を行った。そして高感度プロテオーム解析によって、表皮タンパク質であるケラチン中の修飾を分析することにより、初めて、表皮ケラチン10のCMLおよびCEL部位が表皮の老化の本体であることを発見した。特に、CELとCMLは同時に同じペプチド上に修飾されたものもあり、今までこのような修飾部位は報告されていない。
本発明の他の態様は、皮膚表皮中の同じタンパク質上に隣接して存在するCELおよびCMLの位置と存在量を指標として皮膚の状態を評価する、皮膚状態の評価方法である。
皮膚表皮中のタンパク質は、好ましくはケラチン、特に好ましくはケラチン10である。 ケラチン10のアミノ酸配列を、配列番号1として示す。
本発明において検出されるCML部位は特に制限されないが、タンパク質がケラチン10の場合は、例えば、207番アミノ酸(207CML)、285番アミノ酸(285CML)、および345番アミノ酸(345CML)からなる群より選ばれる1または複数の部位である。タンパク質におけるCMLの存在量が多いと、好ましくはケラチン10におけるこれらの部位のCMLの存在量が多いと、表皮のAGEs化状態が顕著であり、皮膚が老化状態にあると判断できる。
本発明の皮膚評価方法において検出されるCELおよびCMLの組合せは、これに限定されないが、例えば、284CEL+285CMLをあげることができ、これらの存在量が多いと、表皮のAGEs化状態が顕著であり、皮膚が老化状態にあると判断できる。
ELISA法を用いる場合は、好ましくは、特定の部位のCELおよび/またはCMLを特異的に認識する一次抗体を用いることができ、例えば、ケラチン10の179CEL、207CEL、284CEL、285CEL、334CEL、207CML、285CML、または345CMLを特異的に認識する一次抗体が好ましく用いられる。二次抗体としては、これに限定されないが、蛍光ビオチン、FITC標識抗体、酵素標識抗体を用いることができる。或いは、標識をコンジュゲートしたCELおよび/またはCMLを認識する抗体を用いることができる。
また、CELを認識する抗体とCMLを認識する抗体を組み合わせて用いることにより、或いは、近傍に存在するCELおよびCMLを同時に認識する抗体を用いることにより、CELおよびCMLの存在を検出することができる。
さらに本発明においては、接着(粘着)テープによる表皮の簡易定量的回収法と可溶化法とELISA法を組み合わせることにより、短時間で特定の皮膚タンパクのAGEs化状態を数値化することができる。これにより、皮膚のAGEs化状態や老化状態など皮膚の健康状態を高感度に迅速に測定できる。
これらの数値が高くなると、皮膚の弾性低下、角層厚の上昇と水分量の低下が起こっていると判断でき、皮膚が老化状態にあると判断できる。
ヒト皮膚再構築モデル(東洋紡,TESTSKIN TMLSE−30)を用いて、製造元のプロトコールに従いヒト3次元皮膚モデルを構築した。グリオキサール(濃度200 μM)用いてAGEs形成誘導を行い、構築されたヒト3次元皮膚モデルの角層を電子顕微鏡で観察した。また、AGEs形成阻害剤であるアミノグアニジン(濃度 2 mM)を添加し、AGEsの形成阻害を確認した。結果の写真を図1に示す。AGEs形成誘導が行われた皮膚では、角質細胞の一つ一つが肥厚するなどの形成異常が見られた。また、健全な角層の構築に必要なケラチン線維の凝集が、AGEs形成誘導によって阻害される様子が観察され、これはアミノグアニジン添加により回復した。
次いで、ヒト皮膚の角層(SC)におけるAGEs量と角層厚、角層水分量を求めた。AGEs量は、Western blotのシグナル強度から求めた。角層厚は、共焦点ラマン分光装置を用いて求めた。角層水分量は、共焦点ラマン分光装置を用いて求めた。それらの関係を図2に示す。
これらの結果より、角層でのAGEsの形成より角層厚の上昇と水分量の低下が起こっていることが確認できた。つまり、角層でのAGEsの増加は、老化皮膚の特徴である皮膚表面のゴワつきや硬化に関与していることが考えられる。
ヒト角層抽出タンパク質を2次元電気泳動しWestern blot法によりCMLスポットを検出後、同一条件の電気泳動を別途実施しCMLスポットに対応する位置のゲルを切り出しLC−MS/MSを用いてCML化されるタンパク質の特定およびCML化部位の特定を行った。方法の詳細を以下に示す。
(1)試料(ヒト背中角層)
ヒトの背中にメンディングテープ(2.4 cm X 10 cm、10枚)を塗布し、押し付けて接着後、これをはがすことで角層を採取した。採取したテープはOHPシートに貼り付けて−80℃で保存した。対象者は19歳から60歳までの健常な男性(喫煙習慣のない方)を対象とした。
(2)角層タンパク質の抽出
テープ3枚を50 mlの遠心チューブに入れ、抽出溶剤(8 M urea,50 mM DTT,50 mM CHES,pH 9.3)15 mlを加えて30℃で16hr振盪した。
Cellulose Acetate膜(φ=0.80 μm,Dismic−25CS,Toyo Roshi)で濾過した後、濾液を限外濾過膜(Amicon Ultra 15、ultracel 10K:排除限界10kDa,Millipore)を用いて遠心濃縮、さらに0.5 mlスケールの限外膜(Ultrafree 0.5,Biomax 5K,Millipore)を用いて約100 μlに濃縮後、−25℃で保存した。
抽出した角層タンパク質を、ヨードアセトアミドを用いてSH基封鎖し、2次元電気泳動を行って分離した。
電気泳動は30 μgのタンパク質をアプライしてZoom Gel System(Invitrogen)を用いて等電点電気泳動し、NuPagepreCastgel System(Invitrogen)でBis−Tris gel、MOPS bufferを用いたSDS−PAGEを実施した。PVDF膜(pore size 0.2 μm:Invitrogen LC2002)への転写はXcell IIを用いた標準プロトコール(Invitrogen)にて実施した。
(4)ウェスタンブロット(CML)
以下の条件にて行った。
・blocking:2% skim milk/0.2% PBSTに浸漬し、室温で1 hr 振盪した。
・1次/2次抗体:抗CML::HRP conjugate(KH001−02,Transgenic,6D12クローン)を用い、希釈率1:5,000となるよう2% skim milk/0.2% PBST 10mlで希釈後加え、室温で1.5 hr振盪した。
・検出:Chemiluminescence:Super Signal Westdura(Thermo Scientific)を用いた。
(5)タンパク質染色
ゲルはRapidStain(Calbiochem #553215)、PVDF膜はCoomassie Blue Rを用いて染色した。
ウェスタンブロットと同じ条件でタンパク質を電気泳動し、ゲルをRapidStain(Calbiochem,#553215)を用いて染色した。この染色像からCML spotに相当する部分を、カミソリを用いて切り出した。切り出したゲルは−80℃で保存後、プロテオーム解析を実施した。
ゲル中のタンパク質をin gel消化し、マス分析を実施した。LC−MS/MSを用いたマス分析にはQ−Star Elite(ABSciex)を使用した。次いで、検出したシグナルのMascot解析は以下の条件で実施した。
試料(Sample I:57才男性の背中より採取、Sample S:48歳男性の背中より採取)を、ヨードアセトアミドを用いてSH基封鎖を行った後、2次元電気泳動を行い分離し、抗CML抗体でウェスタンブロットした。それぞれの試料につき、切り出しを行う部分を以下のように決定した。抗CML抗体が反応しなかったコントロール(Blank)をA0およびB0とし、抗CML抗体が反応したスポットをそれぞれA1・A2、およびB1・B2とした。2次元電気泳動の結果を図3に示す。
次いで、切り出したゲルからペプチドを抽出し、マス分析を行った。その結果、ケラチン10の全アミノ酸配列のうちの約70%を解析断片の配列でカバーした。そして多くのCML化配列を検出することができた。B1の結果を図4に示す。
しかしながら、マス分析においてはCML化すると58 Daltonの分子量の増加が見られるはずであるが、多くの場合57 Daltonの分子量が増加した形でCML化配列が検出された。そこで、CML化配列で予想される分子量より1 Daltonの分子量が異なる原因を調べる目的で、グリオキサールを用いてCML化したBSAを試料としたマス分析を以下のようにして実施した。
3−1:試料(CML化BSA)と方法
1% BSA(和光純薬011−17844)4 mlを15 ml tubeに分取し、1 M グリオキサール 1 mlを加え50℃で10日間保温した。2 M塩酸アミノグアニジン 5 mlを加えて反応停止した後、精製水を用いて透析(4℃、1晩)した。
得られたCML化BSAを用いて、図5のプロトコールに従い、LC−MS/MS測定およびプロテオーム解析を行った。LC−MS/MSを用いたマス分析にはQ−Star Elite(ABSciex)を使用し、検出したシグナルのMascot解析は上記の表に示した条件で実施した。
上記に従い50℃でのグリオキサール処理によりBSAのCML化を実施した試料を用いてマス分析の条件検討を行った。電気泳動から切り出したゲルをヨードアセトアミドもしくはモノヨード酢酸を用いてSH基封鎖(還元アルキル化)を実施し、それぞれの試料をマス分析した。
マス分析した試料を表1に示す条件のMascot解析で得られたペプチドはカルボキシメチル化によるリジンの修飾とカルバミドメチル化によるリジンの修飾を区別することができた。すなわち、BSAでCML化した配列を検出できた。ヨードアセトアミドで還元アルキル化した試料では、グリオキサール処理すると多くのリジン残基がCML化したが、モノヨード酢酸で処理した試料ではグリオキサール未処理の試料でも多くのリジン残基がCML化されていた。結果を以下の表3に示す。
以前の分析結果ではケラチン10においてCML化した部位が多く検出され、しかも分子量が1 Dalton小さかったが、これらのペプチドは、ヨードアセトアミド処理によるSH基封鎖で生成したカルバミドメチルリジン(+57 Dalton)であり、ケラチン上のCML(+58 Dalton)ではないと判断された。つまり、SH基封鎖で用いたヨードアセトアミドによりカルバミドメチルシステインが生じるが、副産物としてカルバミドメチルリジンが生じることが明らかとなった。カルバミドメチルリジンがリジン残基に対して57 Dalton 分子量が増加した形で検出されていた。よって、カルバミドメチルリジンによるノイズを除去することで、CMLを検出できる実験系が確立できた。この新しい系を用いることにより、CML化配列の候補を正確にピックアップすることができることが判った。
実施例2−1に従い4名(サンプル:#1,#8,#11,#22)から試料を調製し、実施例3で確立したヨードアセトアミドによるアルキル化を用いた実験系で、マス分析を行いプロテオーム解析を実施した。その結果、ケラチン10において、カルボキシルメチルリジンに加えて、カルボキシエチルリジンが存在することが判った。また、プロテオーム解析は、以下のMascot解析条件にて行った。
図6より、207番アミノ酸(207CML)、285番アミノ酸(285CML)、および345番アミノ酸(345CML)の顕著な存在が確認された。また、全ての試料において、285CMLは、284CELと共に存在した(284CEL+285CML)。なお、207、285および345番目のアミノ酸位置は、川端ら(非特許文献6)によってCMLの存在が示唆されたケラチン10のアミノ酸断片には含まれていない。
図6より、179番アミノ酸(179CEL)、207番アミノ酸(207CEL)、284番アミノ酸(284CEL)、285番アミノ酸(285CEL)、および334番アミノ酸(334CEL)の存在が優位に確認できた。また、284CELが存在している試料は全て285CMLが共に存在していた(284CEL+285CML)。
実施例2−1と同様にして59歳男性から、上腕、背中および額の角層を採取し、実施例3で確立したヨードアセトアミドによるアルキル化を用いた実験系にてマス分析を行いプロテオーム解析を実施した。実施例4で確認された、207CML、284CEL+285CML、および345CMLについてのMascotスコアの結果を図8に示す。尚、本実験では同一のタンパク質試料を独立した3回のプロテオーム解析を実施して、プロテオーム解析実験の再現性も併せて確認したものである。
Claims (5)
- 配列番号1で示される皮膚表皮中のケラチン10における特定修飾構造を検出し、それを指標として皮膚の状態を評価する、皮膚の評価方法であって、当該特定修飾構造が下記i)〜v)から選択される少なくとも1つである、皮膚状態の評価方法、
i)207番目のカルボキシメチルリジン
ii)207番目のカルボキシエチルリジン
iii)284番目カルボキシエチルリジン
iv)285番目カルボキシメチルリジン
v)345番目のカルボキシメチルリジン。 - 前記特定修飾構造が、284番目のカルボキシエチルリジンおよび285番目のカルボキシメチルリジンである、請求項1に記載の皮膚状態の評価方法。
- 前記皮膚の状態が、皮膚の老化状態である、請求項1または2に記載の皮膚状態の評価方法。
- 前記皮膚の老化状態が皮膚の角層厚の上昇と水分量の低下である請求項3記載の皮膚状態の評価方法。
- 前記特定修飾構造の存在量を指標の一つとして皮膚の状態を評価する、請求項1〜4のいずれか一つに記載の皮膚状態の評価方法。
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