本発明に係る膜電極接合体は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に順次配置されたアノード触媒層ならびにアノード微多孔層およびアノードガス拡散層基材からなるアノードガス拡散層と、前記電解質膜の他方の側に順次配置されたカソード触媒層ならびにカソード微多孔層およびカソードガス拡散層基材からなるカソードガス拡散層とを、有する。ここで、本発明の方法は、上記アノードおよびカソード側の少なくとも一方において、下記(a)〜(c)を行う:
(a)電解質膜上に、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなる触媒、電解質ならびに溶媒を含む触媒インクを塗布して、湿潤状態の触媒層形成用塗膜を形成し;
(b)ガス拡散層基材上に、導電性カーボン、非フッ素系高分子材料および前記高分子材料を溶解可能な溶媒を含む塗料を塗布して、湿潤状態の微多孔層形成用塗膜を形成し;さらに
(c)前記触媒層形成用塗膜および微多孔層形成用塗膜を湿潤状態であるうちに接触させ、接触状態を維持したまま乾燥する。
また、本発明の膜電極接合体は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に順次配置されたアノード触媒層ならびにアノード微多孔層およびアノードガス拡散層基材からなるアノードガス拡散層と、前記電解質膜の他方の側に順次配置されたカソード触媒層ならびにカソード微多孔層およびカソードガス拡散層基材からなるカソードガス拡散層とを、有する。ここで、前記アノード触媒層およびカソード触媒層は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなる触媒ならびに電解質を含み、前記アノード微多孔層およびカソード微多孔層は、導電性カーボンおよび非フッ素系高分子材料を含み、前記アノード触媒層とアノード微多孔層との間および前記カソード触媒層とカソード微多孔層との間の少なくとも一方に、前記触媒担体、触媒、電解質、導電性カーボンおよび非フッ素系高分子材料を含む混合領域が存在する。
本明細書では、膜電極接合体を「MEA」とも称する。また、触媒層形成用塗膜を単に「触媒層塗膜」とも称する。同様にして、微多孔層形成用塗膜を単に「微多孔層塗膜」または「MPL塗膜」とも称する。
上述したように、本発明は、電解質膜の両面に、触媒層ならびに微多孔層およびガス拡散層基材からなるガス拡散層を有する膜電極接合体の製造方法を提供する。本発明は、
(1)電解質膜上に触媒、電解質および溶媒を含む触媒インクを塗布して湿潤状態の触媒層形成用塗膜を形成し;
(2)ガス拡散層基材上に導電性カーボン、非フッ素系高分子材料および溶媒を含む塗料を塗布して湿潤状態の微多孔層形成用塗膜を形成し;さらに
(3)これらの塗膜を湿潤状態であるうちに接触させ、接触状態を維持したまま乾燥する、ことを特徴とする。当該方法によって、触媒層と微多孔層との間に、触媒層および微多孔層の構成成分の混合領域が存在する。
触媒層やガス拡散層は、燃料ガスまたは酸化剤ガス等の反応ガスが効率よく電極触媒に輸送されるように多数の空孔を有する。特許文献1の記載によるように、ホットプレス等により電解質膜、触媒層及びガス拡散層を接合して膜電極接合体を製造する際には、効率的なガス輸送性を確保するために、触媒層およびガス拡散層の空孔をつぶさずにその形状を維持することが重要である。このため、これらの接合を低い熱プレス圧力で行う必要がある。しかしながら、このような場合には、触媒層とガス拡散層との密着性(接触面積、接着力)が小さいため、接触抵抗(界面抵抗)が高くなって、燃料電池としての発電性能の低下を引き起こす。一方、触媒層とガス拡散層との密着性を上げるために、高い熱プレス圧力をかけてこれらを接合する方法が考えられる。しかしながら、このような場合には、触媒層やガス拡散層(特に微多孔層)に存在する空孔がつぶれるため、ガス透過性が低下してしまい、やはり燃料電池としての発電性能の低下を引き起こす。
一方、触媒層とガス拡散層とを加熱により接合する方法も考えられる。この場合には触媒層中の電解質および触媒層と接触する微多孔層中のフッ素系高分子材料(例えば、PTFE)を軟化させて密着させる必要がある。しかしながら、微多孔層は通常撥水剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂を含むため、これらのフッ素系樹脂を軟化(溶融)させるためには300℃を超える高温加熱が必要となる。このような温度では、触媒層の電解質に加えて、電解質膜も一緒に軟化(溶融)してしまうため、現実的には、このような方法は使用することができない。
ゆえに、接触抵抗(電気抵抗)の低下およびガス透過性の向上を両立したMEAは強く要望されていたが、実現が困難であった。
これに対して、本発明は、触媒層となる触媒層塗膜及び微多孔層となる微多孔層塗膜を湿潤状態で接触、乾燥して触媒層及び微多孔層を形成することを特徴とする。当該方法により得られるガス拡散層は接触抵抗(電気抵抗)の点で有利である。かような効果が得られるメカニズムは以下のように考えられる。
本発明によると、触媒層塗膜及び微多孔層塗膜を湿潤状態で接触させるため、これらの層を構成する成分が接触界面で混合して、触媒層と微多孔層との間にこれらの層の混合領域を形成する。このため、触媒層と微多孔層とは上記混合層を介して一体化しているため、低い熱プレス圧力下でも密着した状態で接合される、即ち、触媒層と微多孔層との界面での接触面積が大きく、接着力が高い(アンカー効果が高い)。ゆえに、MEA(および燃料電池)の接触抵抗(界面抵抗)を低減できる。また、混合領域では触媒層中のカーボン(触媒担体)および微多孔層中のカーボン(導電性カーボン)が混在する。このため、カーボンが触媒層から微多孔層にわたって連続して接触した状態で存在する(連続的な電子チャンネルが形成される)。ゆえに、電子がカーボンを介してスムーズに移動できる。
さらに、上述したように、本発明では、触媒層及び微多孔層塗膜を湿潤状態で接触、乾燥する。上記乾燥中に、これらの塗膜中に含まれる溶媒が蒸発し、空孔を形成する。すなわち、塗膜中に溶媒が存在する部分が各層中の空孔となる。このため、触媒層と微多孔層との界面に対して空孔が連通して形成するため、微多孔層から触媒層にわたって空孔が連続して形成される。ゆえに、本発明のMEAでは、連通した輸送パスが多く存在するため、ガス輸送性及び排水性に優れる。ゆえに、本発明の製造方法により得られるMEAを用いてなる燃料電池は、高電流密度領域(高加湿領域)での性能に優れる。
したがって、本発明に係るMEAは、高い発電性能を発揮できる。
なお、本発明は上記メカニズムに何ら限定されることはない。
以下、適宜図面を参照しながら、本発明のMEAの製造方法の実施形態を詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
図1は本発明の好適な一実施形態の製造方法を説明するための概略図である。
ガス拡散層基材20上に、導電性カーボン、非フッ素系高分子材料および高分子材料を溶解可能な溶媒を含む塗料(MPLインク)を塗布して、湿潤状態の微多孔層形成用塗膜21を形成する(工程(1)、図1(a))。
別途、電解質膜27上に、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなる触媒、電解質ならびに溶媒を含む触媒インクを塗布して、湿潤状態の触媒層形成用塗膜26を形成する(工程(2)、図1(b))。
次いで、触媒層形成用塗膜26および微多孔層形成用塗膜21が湿潤状態にあるうちに相互に接触させて、積層体22を作製する(図1(c))。その後、触媒層形成用塗膜26と微多孔層形成用塗膜21との接触状態を維持したまま、積層体22を乾燥する。この乾燥により、触媒層形成用塗膜26及び微多孔層形成用塗膜21中の溶媒が揮発し、それぞれ、触媒層26’及び微多孔層21’ならびにこれらの混合領域(図示せず)が形成される(工程(3)、図1(d))。なお、上記乾燥により、ガス拡散層基材20および微多孔層21’からなるガス拡散層23が形成される。なお、微多孔層は、MPL層、マイクロポーラス層、または微細多孔層とも呼ばれる。
以下、各工程について説明する。
[工程(1)]
本工程(1)では、ガス拡散層基材上に、導電性カーボン、非フッ素系高分子材料および高分子材料を溶解可能な溶媒を含む塗料(MPLインク)を塗布して、湿潤状態の微多孔層形成用塗膜を形成する。
まず、導電性カーボン、非フッ素系高分子材料および高分子材料を溶解可能な溶媒を混合して、塗料(MPLインク)を得る。
本工程において、非フッ素系高分子材料、導電性カーボン、および溶媒の添加順序は、特に制限されず、全成分を一括して混合する;上記いずれかの成分を混合した後、残りの部分を添加する;上記いずれかの成分を順次混合する、のいずれでもよい。好ましくは、非フッ素系高分子材料を溶媒に溶解して溶液とした後、導電性カーボンを得られた溶液に添加することが好ましい。これにより、非フッ素系高分子材料が容易にかつ均一に溶媒に溶解できる。なお、非フッ素系高分子材料を溶媒に溶解して溶液とした後、導電性カーボンを得られた溶液に添加する際、上記溶液を導電性カーボン添加前に予め加温することが好ましい。当該工程によって、非フッ素系高分子材料を溶媒中により効率よく溶解できる。ここで、溶液の温度は、非フッ素系高分子材料が均一に溶解できる温度であればよく、非フッ素系高分子材料の種類によって適宜選択される。具体的には、溶液の温度は、好ましくは25〜100℃である。上記溶液を導電性カーボン添加前に予め撹拌してもよい。当該工程によっても、非フッ素系高分子材料を溶媒中により効率よく溶解できる。
塗料(MPLインク)中の固形分濃度は、5〜50重量%であることが好ましく、8〜25重量%であることがより好ましい。塗料中の固形分濃度を上記範囲内とすることで、塗料の粘度を適切に調節して、微多孔層塗膜と触媒層塗膜との接触時に各層の構成成分が適切に混合する。このため、触媒層と微多孔層とがより大きな接触面積でかつ高い接着力で接合して、接触抵抗をより低減できる。また、より連続的な電子チャンネルを形成して、電子をカーボンを介してよりスムーズに移動できる。また、非フッ素系高分子材料が均一に分散されたり、塗膜厚が容易に確保されることからも好ましい。加えて、上記したような固形分濃度であれば、溶媒が適当量微多孔層塗膜中に含まれるため、後の乾燥による溶媒蒸発により空孔が微多孔層中に適当体積でかつ適度に連通して形成される。ゆえに、ガス輸送性及び排水性をより良好に向上できる。
本工程における、導電性カーボン、および非フッ素系高分子材料の含有重量比は、導電性、および導電性カーボンの結着性を考慮して適宜設定される。具体的には、導電性カーボン:非フッ素系高分子材料=1:0.1〜10(重量比)であることが好ましく、1:0.2〜5(重量比)であることがより好ましい。
上記導電性カーボンおよび非フッ素系高分子材料の含有重量比を考慮して、非フッ素系高分子材料を溶解可能な程度に溶媒を添加することが好ましい。すなわち、非フッ素系高分子材料は溶媒に溶解している状態が好ましい。溶媒と非フッ素系高分子材料との混合比は、非フッ素系高分子材料の溶媒への溶解性、溶媒の揮発性、触媒層とのアンカー効果、ガス輸送性、排水性などを考慮して適宜設定される。具体的には、非フッ素系高分子材料:溶媒=1:1〜100(重量比)であることが好ましく、1:10〜50(重量比)であることがより好ましい。
非フッ素系高分子材料、導電性カーボンおよび溶媒を混合した後、必要により、均質化、粉砕化を目的として、脱泡処理、攪拌(攪拌)処理や粉砕処理を行ってもよい。脱泡処理、攪拌(攪拌)処理及び粉砕処理は、いずれか一を行ってもあるいは2種以上を適宜組み合わせて行ってもよい。このうち、攪拌(混錬)処理に用いられる機械としては、以下に制限されないが、自公転式攪拌脱泡ミキサー、真空攪拌脱泡ミキサー、可変速攪拌脱泡ミキサー、攪拌子(スターラー)、超音波分散器などを用いることができる。また、粉砕処理に用いられる機械としては、以下に制限されないが、サンドグラインダー、ボールミルやビーズミルなどの球状メディアで衝撃を与えるミリング装置、二本ロールや三本ロールなどのローラー間隙で剪断応力を加える装置、ホモジナイザーやミキサーなどの撹拌羽根を回す装置、被粉砕体同士を衝突させるジェットミル装置などを用いることができる。粉砕条件(回転数、時間等)は適宜設定すればよい。
また、上記脱泡処理、攪拌(攪拌)処理または粉砕処理を行った後、粗大粒子を除去する目的で濾過を行ってもよい。濾過方法としては、常圧で行う自然濾過、吸引濾過、加圧濾過、遠心濾過のいずれであってもよい。
なお、塗料にはフッ素系樹脂を実質的に含有しないことが好ましい。実質的に含有しないとは、塗料の固形分中、フッ素系樹脂の含有量が0.5重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以下であることが好ましく、0重量%であることが好ましい。
次に、上記したようなMPLインクをガス拡散層基材上に塗布して、微多孔層塗膜が形成される。ここで、塗布方法は特に制限されない。具体的には、スプレー(スプレー塗布)法、ガリバー印刷法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法など、公知の方法を用いて行うことができる。ここで、ガス拡散層基材上のMPLインクの塗布量は、特に制限されず、公知と同様の量が採用できる。具体的には、微多孔層塗膜(wet厚み)が好ましくは25〜750μm、より好ましくは250〜500μmとなるような量である。
(非フッ素系高分子材料)
本発明では、微多孔層に非フッ素系高分子材料を使用する。このため、フッ素系樹脂を用いて微多孔層を形成する際に必要な高温焼成が不要であり、また、高温焼成に耐えうる耐熱性の塗布基材を用いる必要もない。このため、微多孔層を生産する際のコストを低減することができ、さらに生産時のエネルギーコストを低減することもできる。また、PTFEの水分散液を微多孔層の形成に用いる場合、使用前に固化しないようにPTFEの分散液を緩やかに撹拌する必要があった。また、カーボン粒子などと混練する際に強いせん断をかけるとPTFEが結晶化するため、一度の材料投入は難しいため、生産効率がよくなかった。これに対して、本発明においては、非フッ素系高分子材料を溶媒に溶解して用いるため、溶解後の撹拌は不要であり、生産効率が向上する。さらに、製造条件を適宜選択することにより、ガス拡散層基材へ非フッ素系高分子材料を浸透させることが可能となり、ガス拡散層基材の撥水処理を必ずしも行う必要がない。
非フッ素系高分子材料としては、特に限定されるものではないが、溶解度パラメータ(SP値)が16以下であることが好ましい。SP値が16以下であることで水のSP値(23.4)から十分に離れているため水不溶性となるため好ましい。燃料電池の稼働下では水が生成されるため、非フッ素系高分子材料は水不溶性である必要がある。また、非フッ素系高分子材料の7.5以上であることが好ましい。SP値が7.5以上であることで一般的な溶媒に溶けやすいため好ましい。非フッ素系高分子材料の溶解度パラメータ(SP値)はSP値が7.5〜16であることが好ましく、8.0〜12であることがより好ましい。
溶解度パラメータ(SP値)は、具体的には、下記の式(1)で求められる値である。
上記式(1)中、ΔEは蒸発エネルギー(cal/ml)、Vはモル容積(cm3/mol)、ΔHは蒸発潜熱(cal/mol)、Rはガス定数(=1,987cal/mol)、dは密度(g/ml)、Mはグラム分子量(g/mol)、Tは絶対温度(K)である。
例えば、ナイロン66のSP値は13.5(「プラスチック加工技術ハンドブック」、1995年6月12日、高分子学会編、日刊工業新聞社発行、1474頁 表3.20各種プラスチックのSP値))であり、ポリアミド樹脂(Henkel社製、マクロメルト6212)のSP値は11.9(Henkel社技術資料)である。エラストマー樹脂(クラレ社製、SEPTON−4055)のSP値は8.4(「プラスチック加工技術ハンドブック」、1995年6月12日、高分子学会編、日刊工業新聞社発行、1474頁 表3.20各種プラスチックのSP値)よりポリスチレンの値およびポリエチレン、ポリプロピレンの値を構成比にて平均化したもの すなわち、9.12×0.32+8.1×0.68:スチレンのSP値×ブロック構成比+(エチレンおよびプロピレンのSP値)×両ユニットの構成比;エチレンとプロピレンはSP値が同値のため、まとめて計算が可能)である。一方、PTFEのSP値は6.2(「プラスチック加工技術ハンドブック」、1995年6月12日、高分子学会編、日刊工業新聞社発行、1474頁 表3.20各種プラスチックのSP値))である。
非フッ素系高分子材料を2種以上併用する場合、SP値の計算は重量比を各SP値に掛けて求める。例えば、非フッ素系高分子材料のうち、SP値がAの高分子材料を10重量%、SP値がBの高分子材料を90重量%用いる場合、非フッ素系高分子材料のSP値=A×0.1+B×0.9から求められる。
市販品など、上記SP値の理論値を求めることが難しい場合には、濁点滴定法により測定された値を採用する。具体的には、K.W.SUH、J.M.CORBETTの式(JournalofApplied Polymer Science,VOL.12,2359~2370(1968年)の記載参照)に従い算出される。
非フッ素系高分子材料は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
非フッ素系高分子材料は特に限定されるものではないが、中でも、非フッ素系高分子材料は、エラストマー樹脂、または親水性樹脂(表面接触角が90°以下である親水性樹脂)であることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、非フッ素系高分子材料が、親水性樹脂およびエラストマー樹脂からなる群より選択される少なくとも一種である。
(表面接触角が90°以下である親水性樹脂)
本明細書において、親水性樹脂とは、表面接触角が90°以下であり、かつ以下で定義される水溶性ポリマーではないポリマーを指す。これは、水溶性ポリマーであると電池稼働時に発生する生成水によってポリマーが溶解してしまい、バインダーとしての保持機能を有さなくなってしまうためである。親水性樹脂の表面接触角の下限は、5°以上であることが好ましく、25°以上であることがより好ましく、50°以上であることがより好ましい。親水性樹脂の表面接触角は水に対する表面接触角であり、樹脂を平滑な被膜として形成したものに対し、水滴を滴下した際に形成される表面接触角である。具体的には、下記方法により測定される。
(水に対する表面接触角(表面接触角)の測定方法)
樹脂を平滑な被膜としてガラス板に形成する(サンプル)。このサンプルに純水を3μl滴下し、楕円フィッティング法を用い純水の滴下から20秒後における接触角を、接触角測定装置(Auto Dispenser AD−31、DropMaster700、協和界面化学社製)を用いて測定する。
親水性樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46などのポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、セルロース、ポリエーテルサルホンなどが挙げられる。親水性樹脂としては市販品を用いることもできる。
中でも、溶媒溶解性が良好で、微多孔層を容易に形成できることから、親水性樹脂として、可溶性ポリアミド樹脂を用いることが好ましい。
可溶性ポリアミド樹脂とは、アルコール、アルコールと芳香族系溶媒との混合物、またはアルコールとケトン系溶媒との混合物のいずれか100重量部に対して、1重量部以上、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上が完全に溶解可能なポリアミドである。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコールなど挙げられる。芳香族系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えば、シクロヘキサノン、2−ブタノン、シクロペンタノンが挙げられる。アルコールと芳香族系溶媒との混合物の具体例としては、イソプロピルアルコールとトルエンとの混合物(重量混合比 50:50〜3:97程度)を挙げることができる。
可溶性ポリアミド樹脂は、例えば、ポリアミドを可溶化することで得ることができる。前記可溶化の方法としては、適宜公知の方法により、例えば、各種ポリアミドのアミド結合の水素原子をメトキシメチル基で一部置換する方法が挙げられる。ポリアミドにメトキシ基を導入するとアミド基が有する水素結合能力が失われ、ポリアミドの結晶性が阻害されるため、溶媒への溶解性が増大する。また、前記可溶化の方法としては、例えば、可溶化前のポリアミドの分子中にポリエーテルやポリエステルを導入して共重合体とする方法が挙げられる。可溶化前のポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46などが挙げられる。
可溶性ポリアミドの具体例としては、Zytel 61(デュポン株式会社製)、Versalon(ゼネラルミルズ社製)、アミランCM4000、CM4001、CM8000(東レ株式会社製)、PA−100(富士化成工業株式会社製)、トレジン(ナガセケムテックス株式会社製)等を例示することができる。
また、他の可溶性ポリアミドとしては、ダイマー酸をベースとしたもの、例えば、大豆油、桐油等の脂肪酸の二量体であるダイマー酸と例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアルキルジアミン等の反応で得られる生成物である可溶性ポリアミド樹脂を挙げることができる。具体的なものとしては、マクロメルト6212、6217、6238、6239(ヘンケル社製)、DPX927、1175、1196(ヘンケル社製)等が挙げられる。
上記可溶性ポリアミド樹脂は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
親水性樹脂は、単量体の重合物であれば足り、親水性樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、通常、500〜500万の範囲にある。重量平均分子量(Mw)は、標準物質としてポリスチレンを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。
(エラストマー樹脂)
本発明に係るエラストマー樹脂は、特に制限されないが、撥水性および/または油溶性を有することが好ましく、撥水性及び油溶性双方を有することが好ましい。エラストマー樹脂が撥水性を有することによって、得られるガス拡散層はさらに優れた排水性を発揮できる。また、エラストマー樹脂が油溶性を有することによって、エラストマー樹脂溶液を用いてカーボン粒子表面にエラストマー樹脂被膜を形成できる。このため、微多孔層におけるエラストマー樹脂粒子の存在を有意に低減できるため、得られるガス拡散多孔層はさらに優れたガス透過性を発揮できる。
ここで、本明細書において、「撥水性」は、樹脂を平滑な被膜として形成したものに対し、水滴を滴下した際に形成される表面接触角(本明細書では、単に「表面接触角」とも称する)が90°以上であることを意味する。エラストマー樹脂の表面接触角は、好ましくは95°以上、より好ましくは100°以上である。なお、エラストマー樹脂の表面接触角の上限は、特に制限されないが、好ましくは150°以下であり、より好ましくは140°以下である。本明細書において、「表面接触角」または「水に対する表面接触角」は、エラストマー樹脂を平滑な皮膜として形成したものに対し、水滴を滴下した際に形成される表面接触角であり、上記の方法によって測定される値である。
また、明細書において、「エラストマー樹脂が油溶性を有する」とは、エラストマー樹脂が有機溶媒に対して5重量%以上の溶解性を示すことを意味する。ここで、有機溶媒は、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン及び石油ベンジン等の石油系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、ならびにメチルセロソルブ、ジメチルセロソルブ、テトラヒドロフラン及びジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。本発明ではエラストマー樹脂は、25℃または30℃で、上記有機溶媒、特にトルエン、THFおよびヘキサンの少なくとも一(好ましくは2種の溶媒、より好ましくは3種全ての溶媒)に対して、5重量%以上の溶解性を示すことが好ましく、10重量%以上の溶解性を示すことがより好ましい。なお、エラストマー樹脂の有機溶媒に対する溶解性の上限は、エラストマー樹脂を含むインク組成物が作製できる範囲であれば特に制限されず、適宜選択できる。
すなわち、エラストマー樹脂は、水に対する表面接触角が100°以上であるおよび/または有機溶媒に対する溶解性が5重量%以上であることが好ましく、水に対する表面接触角が100°以上でありかつ有機溶媒に対する溶解性が5重量%以上であることがより好ましい。
本発明に使用されるエラストマー樹脂は、ゴム弾性を有するものであれば特に制限されないが、上記したような撥水性および/または油溶性を示すことが好ましい。このようなエラストマー樹脂としては、水素添加石油樹脂、ポリスチレンとポリオレフィンとのブロック共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR樹脂)およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)などが挙げられる。上記エラストマー樹脂は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
ここで、水素添加石油樹脂としては、特に制限されないが、化学劣化の抑制・防止性、耐候性、耐スチーム性などの観点から、スチレン系構造単位(例えば、スチレン、メチルスチレン)を有することが好ましい。また、スチレン系構造単位を有する水素添加石油樹脂は、有機溶媒溶解性(油溶性)及び適度な弾性率(ゴム弾性)を有する点からも好ましい。特に、スチレン系構造単位の一部を還元処理(水素添加)して、ポリオレフィン化することによって、高い撥水性とゴム弾性を付与できる。このような水素添加石油樹脂としては、特開平6−322020号公報、特開2004−189764号公報等の公知の樹脂が使用できる。水素添加石油樹脂は、市販品を使用してもよい。具体的には、アイマーブ(登録商標)Sグレード(S−100、S−110)(部分水素添加タイプ)、アイマーブ(登録商標)Pグレード(P−100、P−125、P−140)(完全水素添加タイプ)(C5留分を主原料とする、DCPD(ジシクロペンタジエン)/芳香族共重合系の水添石油樹脂)(いずれも出光興産(株)製);液状ゴム クラプレン(登録商標)LIR(水素添加型)(200(水添率=約100%)、230(水添率=約100%)、290(水添率=約90%)(いずれも(株)クラレ製)などが挙げられる。
ポリスチレンとポリオレフィンとのブロック共重合体は、ポリオレフィンを有することによって、適度なゴム弾性を付与できる。ポリスチレンとポリオレフィンとのブロック共重合体は、特に制限されないが、ポリスチレンと、エチレン、プロピレン、ブチレン、メチルペンテン等の少なくとも一種のオレフィンポリマーとのブロック共重合体などが挙げられる。ポリスチレンとポリオレフィンとのブロック共重合体は、結晶性及び有機溶媒溶解性(油溶性)を有するスチレン構造単位と非結晶性及び有機溶媒不溶性を有する非結晶性ポリオレフィン構造単位とを併せもち、100℃以下でゴム弾性を発揮できる。ポリスチレンとポリオレフィンとのブロック共重合体は、市販品を使用してもよい。具体的には、熱可塑性エラストマー セプトン(SEPTON)(登録商標)SEPシリーズ(SEP1001、SEP1020)(ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック:PS(−CH2−CH(CH3)−CH2−CH2−)m(PSは、ポリスチレンを示し、mは、(エチレン/プロピレン)ブロックの数を示す)、セプトン(登録商標)SEPSシリーズ(SEPS2002、SEPS2004、SEPS2005、SEPS2006、SEPS2007、SEPS2104、SEPS2063)(ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン:PS(−CH2−CH(CH3)−CH2−CH2−)mPS(PSは、ポリスチレンを示し、mは、(エチレン/プロピレン)ブロックの数を示す)、セプトン(登録商標)SEBSシリーズ(SEBS8004、SEBS8004、SEBS8006、SEBS8007、SEBS8076、SEBS8104)(ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン:PS[(−CH2−CH2−CH2−CH2−)m−(CH2−CH(CH2CH3)−)n]PS(PSは、ポリスチレンを示し、mは、(エチレン)ブロックの数を示し、nは、(ブチレン)ブロックの数を示す)、セプトン(登録商標)SEEPSシリーズ(SEEPS4033、SEEPS4044、SEEPS4055、SEEPS4077、SEEPS4099)(ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン:PS(−CH2−CH(CH3)−CH2−CH2−)m−(CH2−CH2−)nPS(PSは、ポリスチレンを示し、mは、(エチレン/プロピレン)ブロックの数を示し、nは、(エチレン)ブロックの数を示す)(いずれも(株)クラレ製)などが挙げられる。
同様にして、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体もまた、市販品を使用してもよい。スチレン−ブタジエン共重合体の市販品としては、以下に制限されないが、スチレン・ブタジエンゴム(SBR樹脂)(Performix社製、Plasti Dip:成分は、石油ナフサ 35重量%、ヘキサン18重量%、トルエン15重量%、MEK 5重量%、SBR(樹脂)26重量%)、タフデン(登録商標)シリーズ(旭化成(株)製)、アサプレン(登録商標)シリーズ(例えば、アサプレン(登録商標)610A、625A、670A)(旭化成(株)製)などが挙げられる。アクリロニトリル・ブタジエン共重合体の市販品としては、以下に制限されないが、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR樹脂)(コニシ社製、ボンドG103)、セメダイン521(ニトリルゴム系、セメダイン(株)製)などが挙げられる。アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体としては、サンプラテック製ABS、電気化学工業(株)製デンカABSなどが挙げられる。
これらのエラストマー樹脂のうち、撥水性、油溶性、カーボン粒子の被覆性などを考慮すると、エラストマー樹脂が、水素添加石油樹脂、ポリスチレンとポリオレフィンとのブロック共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体およびアクリロニトリル・ブタジエン共重合体からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく、水素添加石油樹脂、ポリスチレンとポリオレフィンとのブロック共重合体であることがより好ましい。
(導電性カーボン)
導電性カーボン(カーボン粒子)としては、特に限定されず、カーボンブラック、繊維状黒鉛、鱗片状黒鉛、球状黒鉛などの黒鉛、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、溶媒に対する分散性が良好であり、ガス拡散性が向上するなどの理由から、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、鱗片状黒鉛を用いることが好ましく、粒子あたりの表面積が小さく、粒子径が均一であるために、溶媒に対する分散性がより良好であることから、アセチレンブラック、鱗片状黒鉛を用いることがより好ましい。
かような導電性カーボンは、市販品を用いることができ、キャボット社製バルカンXC−72、バルカンP、ブラックパールズ880、ブラックパールズ1100、ブラックパールズ1300、ブラックパールズ2000、リーガル400、ライオン社製ケッチェンブラックEC、三菱化学社製#3150、#3250などのオイルファーネスブラック;電気化学工業社製デンカブラックHS100、デンカブラックAB−6などのアセチレンブラック等が挙げられる。また、カーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素などであってもよい。また、耐食性などを向上させるために、前記導電性カーボンに黒鉛化処理などの加工を行ってもよい。
導電性カーボンは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
導電性カーボンの平均粒径(直径)は、特に制限されないが、ガス透過性、導電性などを考慮すると、カーボン粒子の平均粒径(平均一次粒子径)は、2〜250nmであることが好ましく、10〜100nmであることがより好ましい。このような範囲であれば、ガス拡散係数が向上し、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。ここで、カーボン粒子の大きさは、公知の方法によって測定できるが、本明細書では、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、統計学的に有意な数の視野(例えば、数〜数十視野)中に観察される粒子の粒子径(直径)の平均値として算出される値を採用するものとする。また、「粒径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。
また、導電性カーボンの平均粒径(平均二次粒子径)は、0.5〜25μm程度とするのがよい。これにより、ガス拡散係数が向上し、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。ここで、カーボン粒子の平均二次粒子径の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
また、導電性カーボンの比表面積は、表面積が小さいことが好まれることから、1〜100m2/gであることが好ましく、5〜50m2/gであることがより好ましい。
(溶媒)
非フッ素系高分子材料を溶解可能な溶媒は、非フッ素系高分子材料および溶媒を混合した際に溶液状態となるものであれば特に限定されず、溶液とする際には加熱や撹拌を行って溶液としてもよい。非フッ素系高分子材料を溶解可能な溶媒としては、好ましくは、25℃または30℃の溶媒100gに溶解させたときに、非フッ素系高分子材料の溶解量が1g以上であることが好ましく、2g以上であることがより好ましい。
溶媒としては、用いられる非フッ素系高分子材料によって適宜選択すればよい。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−トリデカン、テトラデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレン、2−メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒などの炭化水素類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、酪酸ブチル等のエステル類;クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、ヘキサフルオロイソプロパノール等のハロゲン化炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン類;N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、プロピレンカーボネート、トリメチルリン酸、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸等のカルボン酸類;アニソール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジグライム、ジメトキシエタン等のエーテル類あるいはこれらの混合物が挙げられる。
中でも、溶媒は、ケトン類、エステル類、アルコール類および炭化水素類からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、かつ、溶媒の沸点(1atmにおける標準沸点)が140℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましい。溶媒の沸点の下限は特に限定されるものではないが、揮発性が高いことに起因する作業性の問題を考慮すると、60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。沸点の測定は公知の技術を適用できる他、単体の場合には化学便覧等の文献中に記載の値も参照することができる。
従来、フッ素系樹脂を撥水剤として用いる場合には、フッ素系樹脂を溶解できるよう溶媒を用いようとしても、かような溶媒は沸点が高いため、溶媒を揮発させるための高温乾燥が必要であったり、溶媒の揮発が不完全で残留した溶媒が触媒層に到達して電池性能に悪影響を与えるといった弊害もあった。上記のような溶媒を用いることができる非フッ素系高分子材料およびこれを溶解可能な溶媒を選択することにより、汎用溶媒を用いることが可能となり、溶媒を揮発させるための高温乾燥処理が不要となるため、エネルギーコストの低減が図れる。
上記塗料(MPLインク)は、その他、界面活性剤などの分散助剤、造孔剤、粘度調整剤などの添加剤を含んでいてもよい。
また、塗料(MPLインク)には、微多孔層中に空孔を作製することを目的として、水溶性物質を添加してもよい。
水溶性物質は、特に制限されないが、下記(a)〜(e)の少なくとも一を満たすことが好ましい:
(a)充分な水溶性を有する、具体的には、常温(20℃)で水溶性であり、常温(20℃)で100mlの水に3g以上、好ましくは5g以上溶解する;
(b)粉砕処理が可能である(常温で固形であり、粉砕時に微粉末となりうる);
(c)エラストマー樹脂または、親水性樹脂を溶解する溶媒には溶けない;
(d)触媒被毒能が低いまたはない(触媒被毒の抑制・防止効果の観点から、アミノ基、硫黄原子及びリン原子の少なくとも一を含まない);および
(e)電解質膜劣化の抑制・防止効果の観点から、重金属元素、特に鉄および銅の含有量の低いまたは0である。
上記観点から、蔗糖(砂糖)やグルコース等の糖類、クエン酸、アスコルビン酸、尿素などの有機化合物;塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化カルシウム等のアルカリ金属・アルカリ土類金属の塩類、ホウ酸などの無機化合物などが挙げられる。これらのうち、生産コスト、取り扱いの容易さ、安全性などの観点から、蔗糖、グルコース、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウムが好ましく、特に蔗糖、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウムがより好ましい。ここで、水溶性物質の形状は特に限定されず、球状(粒子状)、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状など任意の構造をとりうるが、溶解性の観点から、球状(粒子状)が好ましい。また、水溶性物質を、非フッ素系高分子材料、導電性カーボンや溶媒と混合する前に、予め粉砕し、所定の大きさになるように分級することが好ましい。水溶性物質は水性溶媒で洗浄することによって除去することができ、所望の空孔分布を有するガス拡散多孔層が形成できる。このため、上記粉砕・分級工程を行うことによって、得られるガス拡散多孔層に所望の空孔分布(空孔径、空隙率など)を形成できる。このため、水溶性物質の粉砕・分級条件は、ガス拡散多孔層の所望の空孔分布(空孔径、空隙率など)を考慮して適切に設定される。
水溶性物質の添加量は、特に制限されず、所望の空孔分布(特に空隙率)に応じて適宜選択される。具体的には、水溶性物質の添加量は、非フッ素系高分子材料に対して、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%である。このような量であれば、ガス拡散多孔層に所望の空孔分布(特に空隙率)を形成できる。
水溶性物質は、下記工程(4)の後、水性溶媒で洗浄することによって除去することができる。使用できる水性溶媒は、水溶性物質を洗い流せる水性溶媒であれば特に制限されない。具体的には、水、メタノール、エタノール等の低級アルコール系溶媒などが使用できる。これらのうち、コストおよび安全性の点から、水が好ましく使用される。なお、上記水性溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、水性溶媒で塗膜中に析出した水溶性物質を洗い流す条件は、水溶性物質を十分除去して所望の空孔分布が得られる条件であればよい。具体的には、過剰量の水性溶媒で塗膜を洗い流す(洗浄する);過剰量の水性溶媒に塗膜を、好ましくは攪拌しながら、浸漬する;過剰量の水性溶媒に塗膜を浸漬して、超音波処理を行なうなどが使用できる。また、水溶性物質の溶出(除去)を促進する目的で、水性溶媒を加温することが好ましい。水性溶媒の温度は、特に制限されないが、好ましくは25〜80℃、より好ましくは30〜60℃である。
(ガス拡散層基材)
ガス拡散層基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等の炭素繊維で形成された炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料;ならびに金網、発泡金属、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチングプレート、精密プレス加工プレート、金属メッシュ、金属細線焼結体、金属不織布などが挙げられる。
ガス拡散層基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
ガス拡散層基材は、撥水剤を含んでいてもよい。撥水剤としては、特に限定されず、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの従来公知の撥水剤を用いてもよい。撥水処理方法は特に制限されず、一般的な撥水処理方法を用いて行えばよい。例えば、ガス拡散層に用いられる基材を撥水剤の分散液に浸漬した後、オーブン等で加熱乾燥させる方法などが挙げられる。また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の多孔体にカーボン粒子を含浸させて焼結させたシート体を用いてもよい。シート体とすることによって、製造工程が簡易になり、また、燃料電池の各部材を積層する際の取り扱い及び組み立てが容易になる。
ガス拡散層基材は、その他の添加剤を有していてもよい。添加剤としては、導電性カーボン、分散剤、分散助剤などが挙げられる。また、ガス拡散層基材は、市販品を使用してもよい。
[工程(2)]
本工程(2)では、電解質膜上に、触媒、電解質および溶媒を含む触媒インクを塗布して、湿潤状態の触媒層形成用塗膜を形成する。本工程では、触媒、電解質および溶媒して、触媒インクを得る。本工程(2)で形成された触媒層形成用塗膜(触媒層塗膜)および上記工程(1)で形成された微多孔層形成用塗膜(微多孔層塗膜)は、次工程(3)で湿潤状態であるうちに接触させる。このため、本工程(2)は、上記工程(1)とほぼ同時期に行われることが好ましい。ここで、「本工程(2)は、上記工程(1)とほぼ同時期に行われる」とは、触媒層塗膜および微多孔層塗膜の形成が、工程(2)及び工程(1)において、15分以内(下限:0分、即ち同時)の差で終了することを意味する。好ましくは、触媒層塗膜および微多孔層塗膜が、工程(2)及び工程(1)において、60秒以内(下限:0分)の差で形成される。
触媒インクは、電極触媒、電解質および溶媒、ならびに必要であれば撥水性高分子および/または増粘剤、が適宜混合されたものであればその調製方法は特に制限されない。例えば、触媒及び電解質を混合し、この混合物を溶媒に添加した後、この混合液を必要であれば加熱・攪拌して、触媒インクが調製できる。または、電解質を溶媒に添加し、この混合液を加熱・攪拌して、電解質を溶媒に溶解した後、これに電極触媒を添加することによって、触媒インクが調製できる。または、電解質を、溶媒中に一旦分散/懸濁された後、上記分散/懸濁液を電極触媒と混合して、触媒インクを調製してもよい。また、電解質が予め上記他の溶媒中に調製されている市販の電解質溶液(例えば、デュポン製のNafion溶液:1−プロパノール中に5wt%の濃度でNafionが分散/懸濁したもの)をそのまま上記方法に使用してもよい。
触媒、電解質および溶媒を混合した後、必要により、均質化、粉砕化を目的として、脱泡処理、攪拌(攪拌)処理や粉砕処理を行ってもよい。脱泡処理、攪拌(攪拌)処理及び粉砕処理は、いずれか一を行ってもあるいは2種以上を適宜組み合わせて行ってもよい。このうち、攪拌(混錬)処理に用いられる機械としては、特に制限されないが、上記工程(1)にて記載したものと同様の機械が使用できる。また、粉砕条件(回転数、時間等)は適宜設定すればよい。
上記したような触媒インクを、電解質膜上に塗布して、各触媒層塗膜が形成される。ここで、塗布方法は特に制限されない。具体的には、スプレー(スプレー塗布)法、ガリバー印刷法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法など、公知の方法を用いて行うことができる。
また、単位触媒塗布面積当たりの触媒含有量(mg/cm2)は、特に制限されないが、十分な触媒の担体上での分散度、発電性能などを考慮すると、0.01〜1.0mg/cm2である。ただし、触媒が白金または白金含有合金を含む場合、単位触媒塗布面積当たりの白金含有量が0.5mg/cm2以下であることが好ましい。白金(Pt)や白金合金に代表される高価な貴金属触媒の使用は燃料電池の高価格要因となっている。したがって、高価な白金の使用量(白金含有量)を上記範囲まで低減し、コストを削減することが好ましい。下限値は発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、0.01mg/cm2以上である。なお、本明細書において、「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm2)」の測定(確認)には、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)を用いる。所望の「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm2)」にせしめる方法も当業者であれば容易に行うことができ、インクの組成(触媒濃度)と塗布量を制御することで量を調整することができる。
上記したような触媒インクを、電解質膜上に塗布して、各触媒層塗膜が形成される。ここで、電解質膜上の触媒インクの塗布量は、特に制限されず、公知と同様の量が採用できる。具体的には、触媒層塗膜(wet厚み)が好ましくは5〜500μm、より好ましくは10〜300μmとなるような量である。または、触媒層(乾燥後)の厚みが、好ましくは0.5〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは1〜10μmとなるような量であってもよい。なお、上記厚みは、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。カソード触媒層およびアノード触媒層の厚みは、同じであってもあるいは異なってもよいが、アノード触媒層の厚みの方がカソード触媒層に比して薄くてもよい。
(触媒(電極触媒))
触媒(電極触媒)は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなる。
ここで、触媒金属(触媒成分)は、特に制限されず、公知の触媒金属(触媒成分)が使用できる。具体的には、アノード触媒層に用いられる触媒金属(触媒成分)は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒金属(触媒成分)もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、いずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒金属およびカソード触媒層に用いられる触媒金属は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒金属についての説明は、両者について同様の定義である。よって、一括して「触媒金属」と称する。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒金属は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
触媒金属の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒金属と同様の形状および大きさが採用されうる。例えば、触媒金属の形状は、粒状、鱗片状、層状などのものが使用できるが、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nm、より好ましくは1〜10nm、さらに好ましくは1〜5nm、特に好ましくは2〜4nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒金属の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡(TEM)より調べられる触媒金属の粒子径の平均値として測定されうる。
触媒担体(導電性担体)は、上述した触媒金属を担持するための担体、および触媒金属と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。触媒担体としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、十分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3重量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
触媒担体のBET比表面積は、触媒金属を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m2/g、より好ましくは80〜1200m2/gとするのがよい。比表面積が上記したような範囲であれば、触媒担体への触媒金属および高分子電解質が十分分散して十分な発電性能が得られ、また、触媒金属および高分子電解質を十分有効利用できる。
また、触媒担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
触媒担体に触媒金属が担持された電極触媒において、触媒金属の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%とするのがよい。触媒金属の担持量がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒金属の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、触媒金属の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
また、触媒担体への触媒金属の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。または、電極触媒は、市販品を用いてもよい。
(電解質)
触媒層には、触媒(電極触媒)に加えて、電解質(例えば、イオン伝導性の高分子電解質)が含まれる。当該電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、下記電解質膜を構成するイオン交換樹脂が、高分子電解質として触媒層に添加されうる。
当該電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。なお、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質の具体的な説明は下記固体高分子電解質膜における説明と同様であるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、高分子電解質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましい。特に、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。
触媒層中の電解質の含有量(重量換算)は特に限定されるものではないが、電極触媒中のカーボンに対する電解質の比(重量比)が0.3〜1.2であることが好ましい。
(溶媒)
本発明では、触媒(電極触媒)、電解質(高分子電解質)および溶媒を含む触媒インクを、電解質膜表面に塗布することによって、触媒層塗膜(湿潤状態)を形成する。この際、溶媒としては、特に制限されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶媒が同様にして使用できる。具体的には、水、シクロヘキサノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコールが使用できる。また、溶媒の使用量もまた、特に制限されず公知と同様の量が使用できる。例えば、触媒インクにおける触媒及び電解質の合計濃度が、5〜30重量%、より好ましくは9〜20重量%となるような量で、溶媒が使用される。また、触媒が、触媒インク中、2〜15重量%、より好ましくは4〜10重量%となるような量で存在することが好ましい。触媒インク中の固形分濃度を上記範囲内とすることで、触媒インクの粘度を適切に調節して、触媒層塗膜と微多孔層塗膜との接触時に各層の構成成分が適切に混合する。このため、触媒層と微多孔層とがより大きな接触面積でかつ高い接着力で接合して、接触抵抗をより低減できる。また、より連続的な電子チャンネルを形成して、電子をカーボンを介してよりスムーズに移動できる。また、非フッ素系高分子材料が均一に分散されたり、塗膜厚が容易に確保されることからも好ましい。加えて、上記したような固形分濃度であれば、溶媒が適当量触媒層塗膜中に含まれるため、後の乾燥による溶媒蒸発により空孔が触媒層中に適当体積でかつ適度に連通して形成される。ゆえに、ガス輸送性及び排水性をより良好に向上できる。また、このような濃度であれば、触媒は、所望の作用、即ち、水素の酸化反応(アノード側)および酸素の還元反応(カソード側)を触媒する作用を十分発揮できる。
(電解質膜(固体高分子電解質膜))
固体高分子電解質膜は、固体高分子形燃料電池(PEFC)の運転時にアノード触媒層で生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層へと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜とに大別される。フッ素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能を向上させるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質膜が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜が用いられる。
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。これらの炭化水素系高分子電解質膜は、原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の利点がある。
なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
固体高分子電解質膜の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質膜の厚さは、通常は5〜100μm程度である。電解質膜の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性および使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
[工程(3)]
本工程(3)では、上記工程(2)で形成した触媒層形成用塗膜および上記工程(2)で形成した微多孔層形成用塗膜が湿潤状態にあるうちに相互に接触させて、積層体を作製する。その後、触媒層形成用塗膜と微多孔層形成用塗膜との接触状態を維持したまま、積層体を乾燥する。この乾燥により、触媒層形成用塗膜及び微多孔層形成用塗膜中の溶媒が揮発し、触媒層及び微多孔層が電解質膜とガス拡散層基材との間に形成される。ここで、各塗膜が湿潤状態であるうちにこれらの塗膜を接触させ、当該接触状態を保ちつつ、乾燥することで、触媒層と微多孔層との界面付近にこれらの層の混合領域が形成される。ゆえに、触媒層と微多孔層とが明確な界面なく密着した状態で接合されるため、MEA(および燃料電池)の接触抵抗を低減すると考えられる。また、上記混合領域では触媒層中のカーボン(触媒担体)および微多孔層中のカーボン(導電性カーボン)が混在して連続的な電子チャンネルを形成するため、電子がカーボンを介してスムーズに移動できると考えられる。さらに、上記乾燥中に塗膜中に含まれる溶媒が蒸発するため、これら塗膜中の溶媒部分が触媒層及び微多孔層の空孔に対応する。混合領域により、触媒層から微多孔層にわたって溶媒が連続的に存在するため、空孔が層界面付近でも微多孔層から触媒層にわたって連続して存在する。ゆえに、本発明のMEAでは、連通したガス輸送パスが多く存在するため、ガス輸送性及び排水性に優れる。
本明細書において、「接触状態を維持する」とは、触媒層形成用塗膜と微多孔層形成用塗膜とが次の乾燥工程で面同士で接触している(積層体の状態を維持する)ことを意味する。
また、本明細書において、「湿潤状態」とは、JIS−K5600−1−1:1999 4.3.5a)で規定されている指触乾燥法により乾燥状態に至っている(塗面の中央を指先で軽く触れて、指先が汚れない状態)と判断される前の状態、すなわち、塗面の中央を指先で軽く触れたときに指先が汚れる状態を指す。
触媒層形成用塗膜と微多孔層形成用塗膜とを湿潤状態にあるうちに相互に接触するために、触媒層または微多孔層塗膜を形成してから接触させるまでの時間は、短ければ短いほど好ましい。具体的には、溶媒の沸点により異なるが、塗膜を形成してから塗膜を接触させる(積層体を形成する)までの時間は、25℃で120秒以内であることが好ましく、60秒以内であることがより好ましい(下限は0秒)。なお、上記時間は、塗膜形成や接触時の温度によって異なり、温度が25℃より高い場合には、上記時間は上記好ましい範囲より短い範囲に設定される。触媒層塗膜を形成してから接触させるまでの時間および微多孔層塗膜を形成してから接触させるまでの時間は、同じであってもまたは異なってもよいが、触媒層塗膜を形成し終わる時点および微多孔層塗膜を形成し終わる時点は実質的に同じであることが好ましい。これにより、触媒層塗膜および微多孔層塗膜双方の湿潤状態を良好に維持できる。ここで、「実質的に同じ」とは、触媒層塗膜および微多孔層塗膜を形成し終わる時点の差(絶対値)が、25℃で900秒以内であることが好ましく、60秒以内であることがより好ましい(下限は0秒)。
ガス拡散層基材上に設置された微多孔層塗膜に、電解質膜上に設置された触媒層塗膜を設置する際に、その積層順は特に制限されない。(a)ガス拡散層基材上に設置された微多孔層塗膜を水平に(例えば、台上に)設置し、当該塗膜面上に、電解質膜上に設置された触媒層塗膜を載置しても;(b)電解質膜上に設置された触媒層塗膜を水平に(例えば、台上に)設置し、当該塗膜面上に、ガス拡散層基材上に設置された微多孔層塗膜を載置しても;(c)ガス拡散層基材上に設置された微多孔層塗膜および電解質膜上に設置された触媒層塗膜を、適当な角度をつけて接触させてもよい。これらのうち、塗膜面の乱れを抑制するためには、(a)及び(b)のように水平方向で塗膜を接触させることが好ましい。
次に、このようにして作製された積層体を、触媒層塗膜および微多孔層塗膜を湿潤かつ接触状態を維持したまま、乾燥する。当該乾燥によって、各塗膜中の溶媒が揮発し、触媒層及び微多孔層が形成される。
乾燥条件としては、塗料中の溶媒が揮発する条件であれば特に制限されないが、非フッ素系高分子材料を用いているため、高温の処理温度が不要である。エネルギーコストを考慮すれば、乾燥温度は低いほうが有利であるため、本発明においては、乾燥温度が150℃以下であることが好ましい。溶媒が揮発することによる作業性の低下を考慮すると、乾燥温度は、15〜120℃であることが好ましく、20〜100℃であることがより好ましい。乾燥時間は、溶媒の揮発状況を考慮して適宜設定すればよいが、通常0.1〜1時間である。
ここで、乾燥後、さらに熱プレスを行ってもよい。熱プレスを行うことによって、微多孔層でカーボン粒子同士を結着しやすくなり、微多孔層の靱性が高まるため好ましい。また、熱プレスによって、触媒層と微多孔層との密着性をさらに向上できる。
熱プレスの条件としては、特に制限されるものではなく、塗布基材の種類、高分子材料種、および導電性カーボン含有量などを考慮して適宜設定すればよいが、例えば、熱プレス温度は、常温から基材変形温度までであることが好ましく、100〜150℃であることがより好ましい。また、熱プレス圧力は、0.2〜2MPaであることが好ましく、0.5〜1MPaであることがより好ましい。熱プレス時間は、1〜60分であることが好ましく、5〜15分であることがより好ましい。
また、本発明においては、非フッ素系高分子材料を用いているため、PTFE溶液を用いる場合に必要な基材塗布・乾燥後の焼成が不要となる。焼成が必要であるとエネルギーコストの面で不利となる。したがって、本発明においては、工程(3)において、焼成工程を含まないことが好ましい。ここで、焼成工程とは、250〜400℃の温度で0.4〜0.6時間処理する工程を指す。
以上のような製造方法を経ることにより、ガス拡散層、触媒層および電解質膜が順次配置された積層体が得られる。ここで、得られたガス拡散層の厚みは、特に制限されないが、50〜500μmであることが好ましく、100〜300μmであることがより好ましく、150〜250μmであることがさらに好ましい。また、触媒層の厚み(乾燥膜厚)もまた、特に制限されないが、好ましくは0.5〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは1〜10μmである。なお、上記厚みは、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。カソード触媒層およびアノード触媒層の厚みは、同じであってもあるいは異なってもよい。
上述したように、上記製造方法を経ることにより、ガス拡散層、触媒層および電解質膜が順次配置された積層体が得られる。ここで、ガス拡散層及び触媒層は、アノード側またはカソード側のいずれであってもよい。セル構成部材の接触抵抗低減や排水性のより向上効果などの点から、少なくともカソード側のガス拡散層(微多孔層)及び触媒層は、本発明の方法によって形成されることが好ましく、アノードおよびカソード双方のガス拡散層(微多孔層)及び触媒層は、本発明の方法によって形成されることがより好ましい。ガス拡散層および触媒層を本発明の方法によって製造しない場合のガス拡散層および触媒層形成方法は、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、固体高分子電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したものに、ガス拡散層を接合する方法や、ガス拡散層の微多孔層面に触媒層を予め塗布して乾燥することによりガス拡散電極(GDE)を作製し、固体高分子電解質膜の本発明に係る触媒層及びガス拡散層が形成されていない面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法を使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、固体高分子電解質膜や触媒層内の高分子電解質の種類(パ−フルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
上記方法によって製造されたMEAでは、触媒層と微多孔層との間にこれらの層の構成成分が混合した混合領域が存在する。このため、触媒層と微多孔層とは上記混合層を介して一体化しているため、低い熱プレス圧力下でも密着した状態で接合され、触媒層と微多孔層との界面での接触面積が大きく、接着力が高い(アンカー効果が高い)。ゆえに、本発明に係るMEA(および燃料電池)の接触抵抗を低減できる。また、上記混合領域では、カーボンが触媒層から微多孔層にわたって連続して接触した状態で存在する(連続的な電子チャンネルが形成される)。ゆえに、電子がカーボンを介してスムーズに移動できる。さらに、本発明の方法によると、塗膜中に溶媒が存在する部分が各層中の空孔となり、触媒層と微多孔層との界面に対して空孔が連通して形成される。ゆえに、本発明のMEAでは、連通したガス輸送パスが多く存在するため、ガス輸送性(ガス透過性)及び排水性に優れる。
ゆえに、本発明の製造方法により得られるMEAは、燃料電池の部材として用いられ、当該燃料電池は、電気抵抗(IR損失)が低く、良好な発電性能(電子伝導性)を発揮できる。
以下、本発明に係るMEAを用いてなる燃料電池について説明する。
[燃料電池]
燃料電池は、膜電極接合体(MEA)と、燃料ガスが流れる燃料ガス流路を有するアノード側セパレータと酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路を有するカソード側セパレータとからなる一対のセパレータとを有する。
図2は、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。PEFC1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。ここで、アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4cは、触媒層(3a、3c)側にガス拡散多孔層を有する。また、アノードガス拡散層4aは、アノードガス拡散層基材4’aおよびアノード微多孔層4’’aから構成される。同様にして、カソードガス拡散層4cは、カソードガス拡散層基材4’cおよびカソード微多孔層4’’cから構成される。
PEFC1において、MEA10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。図2において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部(ガスケット)が配置されるが、図2ではこれらの記載を省略する。
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図2に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA10と接触している。これにより、MEA10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのアノードガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのカソードガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
なお、図2に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
また、微多孔層は、アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層のいずれか一方に設けられてもよく、また、双方に設けられてもよいが、カソード側で水が生成するため、少なくともカソード側に設けることが好ましく、より好ましくは双方のガス拡散層に微多孔層を設ける形態である。
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)は、セパレータのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
[セパレータ]
セパレータは、固体高分子形燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質型燃料電池(PEFC)を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質型燃料電池が好ましく挙げられる。また、燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
上述したPEFCや膜電極接合体は、接触抵抗(界面抵抗)を低減でき、電気抵抗(IR損失)が低く、良好な発電性能(電子伝導性)を発揮できる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
実施例1
(1−1)MPLインクの調製
スチレンブロックポリマー(ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン SEPTON(登録商標)SEEPS4055、(株)クラレ製)5gをトルエン(沸点:110.6℃)95gに加えた。この混合物を、80℃に加熱しながら攪拌して、ポリマー溶液(1)(樹脂固形分濃度:5重量%)を得た。なお、本実施例で使用されたスチレンブロックポリマーは、水に対する表面接触角(撥水性)が101.2°であり、トルエンにおける溶解性(30℃)が10重量%以上である。
このようにして得られたポリマー溶液(1)に対し、スチレンブロックポリマーに対して2倍量(重量)(10g)のアセチレンブラック(電気化学社製、デンカブラックAB−6、平均一次粒子径:40nm、比表面積:37m2/g)を加えた。この後、ホモジナイザー(IKA社製、型式:ULTRA TURRAX T25−basic)にて13500rpm/minにて15min粉砕処理を行った。得られたインク組成物を150μmのメッシュにて濾過をし、粗大粒子の除去を行い、MPLインクを得た(固形分濃度:13.5重量%)。
(1−2)触媒層インクの調製
電極触媒としての白金担持カーボンと電解質樹脂バインダとしての20wt%Nafion(登録商標)を含有した溶液(DuPont社製、DE2020)とを、カーボンに対する電解質樹脂バインダの固形分重量比が1となるように混合した。さらに、溶媒としてノルマルプロピルアルコール(NPA)水溶液(水:NPAの混合比(重量比)=6:4)を固形分率(触媒層インク中の電極触媒及び電解質樹脂バインダのトータルの濃度)が12重量%となるよう添加した後、サンドグラインダー(AiMEX社製、型式:BSG−04)にて1500rpmで10分間粉砕混合して、触媒層インクを調製した。ここで、白金担持カーボンとしては、田中貴金属工業株式会社製、TEC10E50E(白金担持量=50重量%)を使用した。
(1−3)サンプル作製
上記(1−1)にて作製したMPLインクを、アプリケーターにてガス拡散層基材上に、wet厚み300μmで塗布し、室温(25℃)で1分間自然乾燥させることによって、ガス拡散層基材上に微多孔層を形成した積層体(1)を作製した。なお、ガス拡散層基材として、市販のカーボンペーパー(型番:25BA、SGL社製、厚さ:190μm、5重量%PTFEで疎水化)を使用した。
次に、この積層体(1)上に、上記(1−2)にて作製した触媒層インクをアプリケーターにてwet厚み150μmで塗布し、触媒層塗膜を形成した(積層体(2))。この触媒層塗膜形成と同時に、上記(1−1)にて作製したMPLインクを、アプリケーターにてガス拡散層基材上に、wet厚み300μmで塗布し、MPL塗膜を形成した(積層体(3))。なお、ガス拡散層基材として、市販のカーボンペーパー(型番:25BA、SGL社製、厚さ:190μm、5重量%PTFEで疎水化)を使用した。また、触媒層塗膜および微多孔層塗膜は、ほぼ同時(10秒以内)で形成された。
上記触媒層塗膜およびMPL塗膜が湿潤状態であるうちに(触媒及びMPL塗膜形成後15秒で)、上記積層体(2)の触媒層塗膜および積層体(3)のMPL塗膜を積層し、室温(25℃)で10分間自然乾燥した(積層体(4))。さらに、この積層体(4)を、100℃のホットプレート上で30分間乾燥した後、ホットプレス(熱プレス圧力:0.8MPa、150℃、10分)して、サンプル(1)を得た。ここで、サンプル(1)の触媒層の厚み(乾燥膜厚)は8μmであり、MPL塗膜から形成された微多孔層の厚み(乾燥膜厚)は30μmであった。
上記サンプル(1)において、電子顕微鏡にて触媒層と微多孔層との界面を観察したところ、触媒層と微多孔層との界面が観察されなかった。このため、本実施例では、触媒層と微多孔層との間にはこれらの層の混合領域が存在すると考察される。
比較例1
上記実施例1 (1−1)および(1−2)と同様にして、MPLインクおよび触媒層インクを調製した。
上記MPLインクを、アプリケーターにてガス拡散層基上に、wet厚み300μmで塗布し、室温(25℃)で30分間自然乾燥させることによって、ガス拡散層基材上に微多孔層を形成した積層体(5)を作製した。なお、ガス拡散層基材として、市販のカーボンペーパー(型番:25BA、SGL社製、厚さ190μm、5重量%PTFEで疎水化)を使用した。上記と同様の操作を繰り返し、ガス拡散層基材上に微多孔層を形成した積層体(6)を作製した。
次に、この積層体(5)の微多孔層上に、上記触媒層インクをアプリケーターにてwet厚み150μmで塗布した後、100℃のホットプレート上で30分間乾燥して、触媒層を形成した(積層体(7))。この積層体(7)の触媒層および積層体(6)の微多孔層を積層し、ホットプレス(熱プレス圧力:0.8MPa、150℃、10分)して、サンプル(2)を得た。
上記にて作製したサンプル(1)及び(2)について、下記方法に従って、触媒層と微多孔層との界面における電子伝導性を評価した。
すなわち、各サンプルを直径(Φ)10mmに打ち抜き、サンプルの両面を抵抗計測用の直径(Φ)11mmの金板ではさんで、測定用サンプルを作製する。次に、この測定用サンプルを、貫通電気抵抗測定装置(TER−2000SS:アルバック理工社製)で所定の加圧状態で1Aの通電を行い、抵抗を測定した。なお、圧力は0.1MPaから開始し、その後4MPaまで加圧した後に0.1MPaに減圧した。これを1サイクルと定義し、2サイクル目の減圧時の抵抗を実験結果として示した。結果を図3に示す。なお、図3中、黒塗の四角(■)が実施例1のサンプル(1)の結果であり、白抜きの丸(○)が比較例1のサンプル(2)の結果である。
図3から、実施例1のサンプル(1)は、比較例1のサンプル(2)に比して、低面圧での電気抵抗が有意に低いことが分かる。当該結果は、本発明に係る膜電極接合体では、触媒層と微多孔層との接触面積(接着力)が向上しているため、電気抵抗が低減できたものと考察される。また、上記結果から、本発明の膜電極接合体は、従来のホットプレスにより製造されるものに比して、発電性能が向上できることが期待できる。