以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
<車両の要部構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置が搭載された車両1の要部の構成を示す図である。
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。
エンジン2の出力は、トルクコンバータ3および動力分割式無段変速機4を介して、車両1の駆動輪(たとえば、左右の前輪)に伝達される。エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するためのスロットルバルブおよび燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン2には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。
車両1には、CPU、ROMおよびRAMなどを含む構成の複数のECU(電子制御ユニット)が備えられている。ECUには、エンジンECU11および変速機ECU12が含まれる。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
エンジンECU11には、アクセルセンサ13およびエンジン回転数センサ14などが接続されている。
アクセルセンサ13は、アクセルペダル(図示せず)の操作量に応じた信号をエンジンECU11に入力する。エンジンECU11は、アクセルセンサ13から入力される信号に基づいて、アクセルペダルの最大操作量に対する操作量の割合、つまりアクセルペダルが踏み込まれていないときを0%とし、アクセルペダルが最大に踏み込まれたときを100%とする百分率であるアクセル開度を演算する。
エンジン回転数センサ14は、エンジン2の回転(クランクシャフトの回転)に同期したパルス信号をエンジンECU11に入力する。エンジンECU11は、エンジン回転数センサ14から入力されるパルス信号の周波数をエンジン2の回転数(エンジン回転数)に換算する。
エンジンECU11は、各種センサから入力される信号から得られる数値および他のECUから入力される種々の情報などに基づいて、エンジン2の始動、停止および出力調整のため、エンジン2に設けられたスロットルバルブや点火プラグなどを制御する。
変速機ECU12には、シフトポジションセンサ15、プライマリ回転数センサ16、セカンダリ回転数センサ17およびアウトプット回転数センサ18などが接続されている。
シフトポジションセンサ15は、シフトレバー(セレクトレバー)のポジションに応じた信号を変速機ECU12に入力する。シフトレバーのポジションとして、たとえば、Pポジション、Rポジション、NポジションおよびDポジションが設けられている。Pポジション、Rポジション、NポジションおよびDポジションは、それぞれシフトレンジのPレンジ(駐車レンジ)、Rレンジ(後進レンジ)、Nレンジ(中立レンジ)およびDレンジ(前進レンジ)に対応する。シフトレバーは、Pポジション、Rポジション、NポジションおよびDポジションの間でシフト操作することができ、そのシフト操作により、シフトレンジの切り替えを指示することができる。
プライマリ回転数センサ16は、たとえば、動力分割式無段変速機4のプライマリプーリ53(図2参照)の回転に同期したパルス信号を変速機ECU12に入力する。変速機ECU12は、プライマリ回転数センサ16から入力されるパルス信号の周波数をプライマリプーリ53(プライマリ軸51)の回転数であるプライマリ回転数に換算する。
セカンダリ回転数センサ17は、たとえば、動力分割式無段変速機4のセカンダリプーリ54(図2参照)の回転に同期したパルス信号を変速機ECU12に入力する。変速機ECU12は、セカンダリ回転数センサ17から入力されるパルス信号の周波数をセカンダリプーリ54(セカンダリ軸52)の回転数であるセカンダリ回転数に換算する。
アウトプット回転数センサ18は、たとえば、出力ギヤ85(図2参照)の回転に同期したパルス信号を変速機ECU12に入力する。変速機ECU12は、アウトプット回転数センサ18から入力されるパルス信号の周波数をアウトプット軸42(図2参照)の回転数であるアウトプット回転数に換算する。
変速機ECU12は、各種センサから入力される信号から得られる数値および他のECUから入力される種々の情報などに基づいて、無段変速機構43の変速比(以下「ベルト変速比」という。)γbの制御のため、無段変速機構43の各部に油圧を供給するための油圧回路19に含まれるバルブ(図示せず)を制御する。また、変速機ECU12は、油圧回路19に含まれるバルブの制御により、ロークラッチC1、リバースブレーキB1およびハイブレーキB2(図2参照)に供給される油圧を制御し、前進モードと後進モードとを切り替え、また、ベルトモードとスプリットモードとを切り替える。
なお、油圧回路19のバルブには、プライマリプーリ53、セカンダリプーリ54、ロークラッチC1、リバースブレーキB1およびハイブレーキB2に供給される油圧をそれぞれ調節する油圧制御バルブなどが含まれる。油圧制御バルブには、電流値により出力油圧を制御可能なバルブ、たとえば、リニアソレノイドバルブが用いられている。
<駆動系統の構成>
図2は、車両1の駆動系統の構成を示すスケルトン図である。
エンジン2は、E/G出力軸21を備えている。E/G出力軸21は、エンジン2が発生する動力により回転される。
トルクコンバータ3は、ポンプインペラ31、タービンランナ32およびロックアップクラッチ33を備えている。ポンプインペラ31には、E/G出力軸21が連結されており、ポンプインペラ31は、E/G出力軸21と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。タービンランナ32は、ポンプインペラ31と同一の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。ロックアップクラッチ33は、ポンプインペラ31とタービンランナ32とを直結/分離するために設けられている。ロックアップクラッチ33が係合されると、ポンプインペラ31とタービンランナ32とが直結され、ロックアップクラッチ33が解放されると、ポンプインペラ31とタービンランナ32とが分離される。
ロックアップクラッチ33が解放された状態において、E/G出力軸21が回転されると、ポンプインペラ31が回転する。ポンプインペラ31が回転すると、ポンプインペラ31からタービンランナ32に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ32で受けられて、タービンランナ32が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ32には、E/G出力軸21の動力(トルク)よりも大きな動力が発生する。
ロックアップクラッチ33が係合された状態では、E/G出力軸21が回転されると、E/G出力軸21、ポンプインペラ31およびタービンランナ32が一体となって回転する。
トルクコンバータ3と動力分割式無段変速機4との間には、オイルポンプ5が設けられている。オイルポンプ5のポンプ軸は、ポンプインペラ31と一体的に回転可能に設けられている。これにより、エンジン2の動力によりポンプインペラ31が回転されると、オイルポンプ5のポンプ軸が回転し、オイルポンプ5からオイルが吐出される。
動力分割式無段変速機4は、トルクコンバータ3から入力される動力をデファレンシャルギヤ6に伝達する。動力分割式無段変速機4は、インプット軸41、アウトプット軸42、無段変速機構43、一定変速機構44および出力歯車機構45を備えている。
インプット軸41は、トルクコンバータ3のタービンランナ32に連結され、タービンランナ32と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
アウトプット軸42は、インプット軸41と平行に設けられている。
無段変速機構43は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成を有している。具体的には、無段変速機構43は、インプット軸41に連結されたプライマリ軸51と、プライマリ軸51と平行に設けられたセカンダリ軸52と、プライマリ軸51に相対回転不能に支持されたプライマリプーリ53と、セカンダリ軸52に相対回転不能に支持されたセカンダリプーリ54と、プライマリプーリ53とセカンダリプーリ54とに巻き掛けられたベルト55とを備えている。
プライマリプーリ53は、プライマリ軸51に固定された固定シーブ61と、固定シーブ61にベルト55を挟んで対向配置され、プライマリ軸51にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ62とを備えている。可動シーブ62に対して固定シーブ61と反対側には、プライマリ軸51に固定されたシリンダ63が設けられ、可動シーブ62とシリンダ63との間に、油室64が形成されている。
セカンダリプーリ54は、セカンダリ軸52に固定された固定シーブ65と、固定シーブ65にベルト55を挟んで対向配置され、セカンダリ軸52にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ66とを備えている。可動シーブ66に対して固定シーブ61と反対側には、セカンダリ軸52に固定されたシリンダ67が設けられ、可動シーブ66とシリンダ67との間に、油室68が形成されている。
無段変速機構43では、プライマリプーリ53の油室64およびセカンダリプーリ54の油室68に供給される油圧が制御されて、プライマリプーリ53およびセカンダリプーリ54の各溝幅が変更されることにより、ベルト変速比γbが連続的に無段階で変更される。
具体的には、ベルト変速比γbが下げられるときには、プライマリプーリ53の油室64に供給される油圧が上げられる。これにより、プライマリプーリ53の可動シーブ62が固定シーブ61側に移動し、固定シーブ61と可動シーブ62との間隔(溝幅)が小さくなる。これに伴い、プライマリプーリ53に対するベルト55の巻きかけ径が大きくなり、セカンダリプーリ54の固定シーブ65と可動シーブ66との間隔(溝幅)が大きくなる。その結果、プライマリプーリ53とセカンダリプーリ54とのプーリ比が小さくなり、ベルト変速比γbが下がる。
ベルト変速比γbが上げられるときには、プライマリプーリ53の油室64に供給される油圧が下げられる。これにより、ベルト55に対するセカンダリプーリ54の推力がベルト55に対するプライマリプーリ53の推力よりも大きくなり、セカンダリプーリ54の固定シーブ65と可動シーブ66との間隔が小さくなるとともに、固定シーブ61と可動シーブ62との間隔が大きくなる。その結果、プライマリプーリ53とセカンダリプーリ54とのプーリ比が大きくなり、ベルト変速比γbが上がる。
一方、プライマリプーリ53およびセカンダリプーリ54の推力は、プライマリプーリ53およびセカンダリプーリ54とベルト55との間で滑りが生じない大きさを必要とする。そのため、インプット軸41に入力されるトルクの大きさに応じた推力が得られるよう、プライマリプーリ53の油室64およびセカンダリプーリ54の油室68に供給される油圧が制御される。
一定変速機構44は、遊星歯車機構71、スプリットドライブギヤ72、スプリットドリブンギヤ73およびアイドルギヤ74を備えている。
遊星歯車機構71には、サンギヤ75、キャリア76およびリングギヤ77が含まれる。サンギヤ75は、インプット軸41に相対回転可能に外嵌されている。キャリア76は、インプット軸41に相対回転不能に支持されている。キャリア76は、複数個のピニオンギヤ78を回転可能に支持している。複数個のピニオンギヤ78は、円周上に配置され、サンギヤ75と噛合している。リングギヤ77は、キャリア76の周囲を取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ78にインプット軸41の回転径方向の外側から噛合している。
スプリットドライブギヤ72は、サンギヤ75と一体回転可能に設けられている。
スプリットドリブンギヤ73は、次に述べる出力歯車機構45のキャリア82の外周に、キャリア82と一体回転可能に設けられている。すなわち、出力歯車機構45のキャリア82には、一定変速機構44が接続されている。
アイドルギヤ74は、スプリットドライブギヤ72およびスプリットドリブンギヤ73と噛合している。
出力歯車機構45は、遊星歯車機構の構成を有している。すなわち、出力歯車機構45は、サンギヤ81、キャリア82およびリングギヤ83を備えている。サンギヤ81は、セカンダリ軸52に相対回転不能に外嵌されている。キャリア82の中心には、無段変速機構43のセカンダリ軸52が相対回転可能に挿通されている。キャリア82は、複数個のピニオンギヤ84を回転可能に支持している。複数個のピニオンギヤ84は、円周上に配置され、サンギヤ81と噛合している。リングギヤ83は、キャリア82の周囲を取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ84にセカンダリ軸52の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ83には、アウトプット軸42の一端が接続され、リングギヤ83は、アウトプット軸42と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。アウトプット軸42の他端部には、出力ギヤ85が相対回転不能に支持されている。
出力ギヤ85の回転は、第1アイドルギヤ86、アイドル軸87および第2アイドルギヤ88を経由して、デファレンシャルギヤ6に伝達される。第1アイドルギヤ86は、アイドル軸87に相対回転不能に支持されて、出力ギヤ85と噛合している。アイドル軸87は、アウトプット軸42と平行に設けられている。第2アイドルギヤ88は、アイドル軸87に相対回転不能に支持されて、デファレンシャルギヤ6に備えられたリングギヤ91と噛合している。
また、動力分割式無段変速機4は、ロークラッチC1、リバースブレーキB1およびハイブレーキB2を備えている。
ロークラッチC1は、アウトプット軸42とセカンダリ軸52とを直結する係合状態(オン)と、その直結を解除する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
リバースブレーキB1は、スプリットドライブギヤ72(サンギヤ75)を制動する係合状態(オン)と、スプリットドライブギヤ72の回転を許容する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
ハイブレーキB2は、リングギヤ77を制動する係合状態(オン)と、リングギヤ77の回転を許容する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
<動力伝達モード>
図3は、車両1の前進時および後進時におけるロークラッチC1、リバースブレーキB1およびハイブレーキB2の状態を示す図である。図4は、ベルト変速比γbと動力分割式無段変速機4の変速比(以下「ユニット変速比」という。)γuとの関係を示す図である。
図3において、「○」は、ロークラッチC1、リバースブレーキB1およびハイブレーキB2が係合状態であることを示している。なお、PレンジおよびNレンジでは、ロークラッチC1、リバースブレーキB1およびハイブレーキB2が解放される。
動力分割式無段変速機4は、Dレンジにおける動力伝達モードとして、ベルトモードおよびスプリットモードを有している。
ベルトモードでは、ハイブレーキB2およびリバースブレーキB1が解放され、ロークラッチC1が係合される。これにより、一定変速機構44のスプリットドライブギヤ72、スプリットドリブンギヤ73およびアイドルギヤ74ならびに出力歯車機構45のキャリア82がフリー(自由回転状態)になり、アウトプット軸42およびセカンダリ軸52が直結される。
インプット軸41に入力される動力は、無段変速機構43のプライマリ軸51に伝達され、プライマリ軸51およびプライマリプーリ53を回転させる。プライマリプーリ53の回転は、ベルト55を介して、セカンダリプーリ54に伝達され、セカンダリプーリ54およびセカンダリ軸52を回転させる。ロークラッチC1が係合されているので、アウトプット軸42がセカンダリ軸52と一体に回転する。したがって、ベルトモードでは、図4に示されるように、ユニット変速比γuがベルト変速比γbと一致する。
アウトプット軸42の回転は、出力ギヤ85、第1アイドルギヤ86、アイドル軸87および第2アイドルギヤ88を介して、デファレンシャルギヤ6のリングギヤ91に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト92,93が前進方向に回転する。
図5は、出力歯車機構45のキャリア82、サンギヤ81およびリングギヤ83の回転数の関係を示す共線図である。
スプリットモードでは、図3に示されるように、ハイブレーキB2が係合され、リバースブレーキB1およびロークラッチC1が解放される。ハイブレーキB2が係合されることにより、一定変速機構44のリングギヤ77が制動される。また、ロークラッチC1が解放されることにより、アウトプット軸42とセカンダリ軸52との直結が解除される。
インプット軸41に入力される動力は、無段変速機構43のプライマリ軸51に伝達され、プライマリ軸51およびプライマリプーリ53を回転させる。プライマリプーリ53の回転は、ベルト55を介して、セカンダリプーリ54に伝達され、セカンダリプーリ54およびセカンダリ軸52を回転させる。セカンダリ軸52の回転により、出力歯車機構45のサンギヤ81が回転する。
また、一定変速機構44のリングギヤ77が制動されているので、インプット軸41に入力される動力は、一定変速機構44のキャリア76を公転させるとともに、そのキャリア76に保持されているピニオンギヤ78を回転させる。ピニオンギヤ78の回転により、ピニオンギヤ78からサンギヤ75に動力が入力される。これにより、ピニオンギヤ78およびスプリットドライブギヤ72が回転する。スプリットドライブギヤ72の回転は、アイドルギヤ74を介して、スプリットドリブンギヤ73に伝達され、スプリットドリブンギヤ73および出力歯車機構45のキャリア82を回転させる。
一定変速機構44の変速比γgが一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、インプット軸41に入力される動力が一定であれば、出力歯車機構45のキャリア82の回転が一定速度に保持される。そのため、ベルト変速比γbが上げられると、出力歯車機構45のサンギヤ81の回転速度が下がるので、図5に二点鎖線で示されるように、出力歯車機構45のリングギヤ83(アウトプット軸42)の回転速度が上がる。その結果、スプリットモードでは、図4に示されるように、ベルト変速比γbが大きいほど、ユニット変速比γuが小さくなる。
アウトプット軸42の回転は、出力ギヤ85、第1アイドルギヤ86、アイドル軸87および第2アイドルギヤ88を介して、デファレンシャルギヤ6のリングギヤ91に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト92,93が前進方向に回転する。
Rレンジでは、図3に示されるように、ハイブレーキB2およびロークラッチC1が解放される。そして、リバースブレーキB1が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ72(サンギヤ75)が制動される。スプリットドライブギヤ72の制動により、一定変速機構44のアイドルギヤ74が回転不能となり、スプリットドリブンギヤ73およびキャリア82が回転不能となる。
インプット軸41に入力される動力は、無段変速機構43のプライマリ軸51に伝達され、プライマリ軸51およびプライマリプーリ53を回転させる。プライマリプーリ53の回転は、ベルト55を介して、セカンダリプーリ54に伝達され、セカンダリプーリ54およびセカンダリ軸52を回転させる。セカンダリ軸52の回転により、出力歯車機構45のサンギヤ81が回転する。キャリア82が回転不能なため、図5に一点鎖線で示されるように、サンギヤ81が回転すると、リングギヤ83がサンギヤ81と逆方向に回転する。このリングギヤ83の回転方向は、Dレンジ(ベルトモードおよびスプリットモード)におけるリングギヤ83の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ83と一体にアウトプット軸42が回転する。アウトプット軸42の回転は、出力ギヤ85、第1アイドルギヤ86、アイドル軸87および第2アイドルギヤ88を介して、デファレンシャルギヤ6のリングギヤ91に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト92,93が後進方向に回転する。
図5を参照して理解されるように、Rレンジでは、ベルト変速比γbが最大値(最ロー)であるとき、ユニット変速比γuが最大となり、その最大のユニット変速比γuは、ベルト変速比γbの最大値よりも大きい。
<N−R切替制御(第1実施形態)>
図6は、シフトレンジがNレンジからRレンジに切り替えられる際のタービン回転数、ベルト変速比およびリバース制御圧の時間変化の一例を示す図である。
シフトレバーがNポジションからRポジションにシフト操作されると、シフトポジションセンサ15から変速機ECU12にシフト操作に応じた信号が入力され、この信号の入力に基づいて、変速機ECU12により、シフト操作によるNレンジからRレンジへの切り替え(シフト)の指示が検出される。そして、その検出に応答して、変速機ECU12により、リバースブレーキB1を係合させるためのクラッチ制御およびベルト変速比γbを小さくするための変速比制御が実行される。
クラッチ制御では、NレンジからRレンジへの切り替えの指示に応答して、リバース制御圧が初期圧よりも高いガタ詰め油圧に上げられる(時刻T1)。リバース制御圧は、リバースブレーキB1に供給される油圧の目標値であり、リバースブレーキB1用の油圧制御バルブに入力される電流値に対応する。所定時間(時間T1−T2)にわたって、リバース制御圧がガタ詰め油圧に保持されると、次に、リバース制御圧がガタ詰め油圧から初期圧に下げられる(時刻T2)。リバース制御圧がガタ詰め油圧に保持される間に、リバースブレーキB1のピストンが油圧により押されて、ピストンの無効ストロークが解消される。
所定時間(時間T2−T3)にわたって、リバース制御圧が初期圧に保持された後、リバース制御圧が初期圧から漸増される。これにより、リバースブレーキB1に供給される油圧が上昇し、トルクコンバータ3のタービンランナ32の回転数であるタービン回転数がエンジン回転数から乖離し始める。タービンランナ32は、動力分割式無段変速機4のインプット軸41と一体的に回転するので、タービン回転数は、インプット軸41の回転数と同じである。また、プライマリ軸51がインプット軸41に連結され、プライマリプーリ53がプライマリ軸51に相対回転不能に支持されているので、タービン回転数は、プライマリ回転数と同じである。
その後、変速機ECU12により、タービン回転数とエンジン回転数との比が所定比になったこと(同期外れ)が検出されると、リバース制御圧を所定の時間勾配(時間変化率)で上昇させるスイープ制御が開始される(時刻T4)。このスイープ制御により、リバースブレーキB1に供給される油圧がさらに上昇して、リバースブレーキB1の伝達トルクが上昇し、タービン回転数の低下が進む。
一方、変速比制御では、たとえば、ベルト変速比γbがNレンジからRレンジへの切り替えの指示からの所定時間で目標変速比αまで変化するように、変速比制御圧が一定の時間勾配で上げられる。変速比制御圧は、無段変速機構43のプライマリプーリ53(油室64)に供給される油圧の目標値であり、プライマリプーリ53用の油圧制御バルブに入力される電流値に対応する。変速比制御圧の上昇に伴い、プライマリプーリ53に供給される油圧が上昇し、プライマリプーリ53の可動シーブ62が固定シーブ61側に移動することにより、ベルト変速比γbが目標変速比αに向けて漸減する。目標変速比αは、たとえば、Rレンジでのユニット変速比γuがDレンジでのユニット変速比γuの最大値、つまりベルト変速比γbの最大値と一致するように設定される。
クラッチ制御によるタービン回転数の低下が進み、タービン回転数が所定回転数に低下すると(時刻T5)、変速機ECU12により、ベルト変速比γbが目標変速比αまで変化したか否かが判定される。所定回転数は、たとえば、リバースブレーキB1が完全に係合した時点(同期点)でのタービン回転数(たとえば、0rpm)に一定値ΔN(rpm)を加えた値に設定される。また、ベルト変速比γbは、プライマリ回転数をセカンダリ回転数で除することにより求められる。
通常は、図6に示されるように、タービン回転数が所定回転数に低下する前に、ベルト変速比γbが目標変速比αまで変化している。この場合、クラッチ制御におけるスイープ制御が継続される。そして、リバースブレーキB1がほぼ完全に係合した状態となり、タービン回転数が所定の終了回転数まで低下すると(時刻T6)、スイープ制御が終了される。そして、リバース制御圧が最大圧に上げられて、クラッチ制御が終了される(時刻T7)。これにより、リバースブレーキB1が完全に係合した状態となり、タービン回転数の低下が止まる。
図7は、シフトレンジがNレンジからRレンジに切り替えられる際のタービン回転数、ベルト変速比およびリバース制御圧の時間変化の他の例を示す図である。
エンジン回転数の変動や油温など、種々の要因により、図7に示されるように、タービン回転数が所定回転数に低下した時点で(時刻T5)、ベルト変速比γbが目標変速比αまで変化していない場合がある。この場合、クラッチ制御におけるスイープ制御が終了されて、タービン回転数が所定回転数に保持されるように、リバースブレーキB1に供給される油圧がフィードバック制御(スリップ制御)される。スリップ制御中、変速機ECU12により、ベルト変速比γbが目標変速比αに変化したか否かが監視される。そして、ベルト変速比γbが目標変速比αに一致すると(時刻T8)、スリップ制御が終了され、リバース制御圧が最大圧に上げられて、クラッチ制御が終了される(時刻T9)。これにより、リバースブレーキB1が完全に係合した状態となり、タービン回転数の低下が止まる。
スリップ制御により、リバースブレーキB1の完全係合を遅らせることができ、その完全係合までに、ベルト変速比γbが目標変速比αまで変化させることができる。
<N−R切替制御(第2実施形態)>
図8は、シフトレンジがNレンジからRレンジに切り替えられる際のタービン回転数、ベルト変速比およびリバース制御圧の時間変化の一例を示す図である。
前述のクラッチ制御および変速比制御に代えて、次に説明するクラッチ制御および変速比フィードバック制御が実行されてもよい。
クラッチ制御では、NレンジからRレンジへの切り替えの指示に応答して、リバース制御圧が初期圧よりも高いガタ詰め油圧に上げられる(時刻T11)。所定時間(時間T11−T12)にわたって、リバース制御圧がガタ詰め油圧に保持されると、次に、リバース制御圧がガタ詰め油圧から初期圧に下げられる(時刻T12)。リバース制御圧がガタ詰め油圧に保持される間に、リバースブレーキB1のピストンが油圧により押されて、ピストンの無効ストロークが解消される。
所定時間(時間T12−T13)にわたって、リバース制御圧が初期圧に保持された後、リバース制御圧が初期圧から漸増される。これにより、リバースブレーキB1に供給される油圧が上昇し、トルクコンバータ3のタービンランナ32の回転数であるタービン回転数がエンジン回転数から乖離し始める。
その後、変速機ECU12により、タービン回転数とエンジン回転数との比が所定比になったこと(同期外れ)が検出されると、リバースブレーキB1をスリップさせながら、リバースブレーキB1に供給される油圧を上昇させるスリップ制御が開始される(時刻T14)。リバースブレーキB1に供給される油圧の上昇により、タービン回転数の低下が進み、リバースブレーキB1がほぼ完全に係合した状態となって、タービン回転数が所定の終了回転数まで低下すると(時刻T15)、スリップ制御が終了される。そして、リバース制御圧が最大圧に上げられて、クラッチ制御が終了される(時刻T16)。これにより、リバースブレーキB1が完全に係合した状態となり、タービン回転数の低下が止まる。
変速比フィードバック制御では、ベルト変速比γbが目標変速比αまで小さくなるようにフィードバック制御される。たとえば、ベルト変速比γbと目標変速比αとの偏差が求められ、その偏差に制御ゲインが乗じられることにより、プライマリプーリ53に供給される油圧の目標値である変速比制御圧が算出される。そして、変速比制御圧に応じた電流値の電流がプライマリプーリ53用の油圧制御バルブに供給される。
そして、クラッチ制御におけるスリップ制御と変速比フィードバック制御との協調により、リバースブレーキB1が完全に係合した状態になるタイミングに合わせて、ベルト変速比γbが目標変速比αに一致する。
図9は、スリップ制御の開始から終了までの期間に実行される処理の流れを示すフローチャートである。
スリップ制御の開始から終了までの期間は、変速機ECU12が図9に示される処理を実行することにより、スリップ制御と変速比フィードバック制御との協調が達成される。
まず、ベルト変速比γbが所定範囲内、たとえば、目標変速比αを下限とし、目標変速比αに一定値を加算した値を上限とする範囲内であるか否かが判定される(ステップS1)。
ベルト変速比γbが所定範囲内である場合には(ステップS1のYES)、変速比フィードバック制御の制御ゲインが小さくされる(ステップS2)。
一方、ベルト変速比γbが所定範囲内でない場合、つまりベルト変速比γbが所定範囲の上限よりも大きい場合には(ステップS1のNO)、変速比フィードバック制御の制御ゲインが大きくされる(ステップS3)。通常、スリップ制御の開始直後は、ベルト変速比γbが所定範囲の上限よりも大きいので、変速比フィードバック制御の制御ゲインが増大される。これにより、ベルト変速比γbが所定範囲の上限まで速やかに変化する。
また、タービントルクTtおよびエンジントルクTeが算出される(ステップS4)。
タービントルクTtは、トルクコンバータ3のタービンランナ32のトルクであり、後述する推定回転数算出処理により算出される推定エンジン回転数Neの2乗値にトルクコンバータ3の容量係数Cおよびトルク比Rを乗じることにより求められる。すなわち、次式に従って、タービントルクTtが求められる。
Tt=Ne2×C×R
エンジントルクTeは、推定エンジン回転数Neの2乗値にトルクコンバータ3の容量係数Cを乗じることにより求められる。すなわち、次式に従って、エンジントルクTeが求められる。
Te=Ne2×C
トルクコンバータ3の容量係数Cおよびトルク比Rを取得するため、トルクコンバータ3の速度比が算出される。その速度比の算出のために、アウトプット回転数に現在のベルト変速比γbが乗じられることにより、タービン回転数が求められる。そして、そのタービン回転数が推定エンジン回転数Neで除されることにより、トルクコンバータ3の速度比が算出される。そして、変速機ECU12のメモリには、トルクコンバータ3の速度比と容量係数Cとの関係およびトルクコンバータ3の速度比とトルク比Rとの関係がそれぞれマップの形態で格納されており、それらのマップからトルクコンバータ3の速度比に対応する容量係数Cおよびトルク比Rが取得される。
その後、タービントルクTtに現在のベルト変速比γbおよび最終減速比(ファイナルギヤ比)が乗じられることにより、Rレンジ駆動力が算出される。また、タービントルクTtにDレンジでのユニット変速比γuの最大値(ベルト変速比γbの最大値)および最終減速比が乗じられることにより、Dレンジ想定駆動力が算出される。そして、Dレンジ想定駆動力がRレンジ駆動力で除され、その除算値が1以上であるか否かが判定される(ステップS5)。
除算値が1未満である場合には(ステップS5のNO)、Rレンジ駆動力がDレンジ想定駆動力と一致するように、リバースブレーキB1の目標トルク容量が算出される(ステップS6)。
目標トルク容量が算出されると、リバースブレーキB1の伝達トルク容量が目標トルク容量と一致するように、リバース制御圧が算出される(ステップS7)。
そして、リバース制御圧に応じた電流値の電流がリバースブレーキB1用の油圧制御バルブに入力される(ステップS8)。
その後は、ステップS1に戻り、ステップS1以降の処理が再び実行される。
スリップ制御が進み、ベルト変速比γbが所定範囲の上限以下になると(ステップS1のYES))、変速比フィードバック制御の制御ゲインが小さくされる(ステップS2)。これにより、ベルト変速比γbが目標変速比αに向かって緩やかに変化する。
そして、Dレンジ想定駆動力をRレンジ駆動力で除算した値が1以上になると(ステップS5のYES)、図9に示される処理がスリップ制御とともに終了される。
図10は、推定回転数算出処理の流れを示すフローチャートである。
推定回転数算出処理は、推定エンジン回転数Neを算出するための処理であり、スリップ制御の開始から終了までの期間中は、変速機ECU12により、一定周期で繰り返し実行される。
推定回転数算出処理では、まず、エンジンECU11とのCAN通信により、エンジンECU11によりアクセルセンサ13の出力信号から求められたアクセル開度と、エンジンECU11によりエンジン回転数センサ14の出力信号から求められたエンジン回転数NEとが取得される(ステップS11)。
次に、エンジントルク特性線が参照されて、アクセル開度およびエンジン回転数NEに応じた推定エンジントルクが算出される(ステップS12)。エンジントルク特性線は、アクセル開度およびエンジン回転数とエンジントルクとの関係を表す特性線であり、マップの形態で変速機ECU12のメモリに格納されている。
なお、エンジントルク特性線(マップ)がエンジンECU11のメモリに格納されている場合、エンジンECU11によりアクセル開度およびエンジン回転数NEに応じた推定エンジントルクが算出されて、その算出された推定エンジントルクがエンジンECU11から変速機ECU12に送信されてもよい。
その後、エンジン回転数NEにより定まる負荷トルク(オイルポンプ負荷やオルタネータ負荷によるトルク)が求められ、推定エンジントルクからその負荷トルクが減算されることにより、推定入力トルクが算出される(ステップS13)。
次いで、推定入力トルクと図9に示されるステップS4で算出されたエンジントルクTeとの差が求められ、その差にエンジン2のイナーシャが乗じられることにより、エンジン2の回転数の変動量が算出される。そして、その算出された変動量が前回の推定回転数算出処理で算出された推定エンジン回転数Neに加算されることにより、暫定エンジン回転数が算出される。そして、暫定エンジン回転数とエンジンECU11から取得されたエンジン回転数NEとの大小が比較されて、暫定エンジン回転数とエンジン回転数NEとの大きい方が推定エンジン回転数Neとして算出される(ステップS14)。以上により、推定回転数算出処理が終了となる。
<作用効果>
以上のように、NレンジからRレンジへのシフトのためのクラッチ制御中、つまりNレンジからRレンジへの過渡中に、ベルト変速比γbが小さくされる。これにより、Rレンジへのシフトが完了した時点でのユニット変速比γuがRレンジにおけるユニット変速比γuの最大値(最大後進変速比)よりも小さくなる。その結果、車両の後進時(後進発進時)の駆動力を低減することができ、その駆動力と車両の前進時(前進発進時)の駆動力との差を小さくすることができる。よって、車両のクリープ現象による飛び出し、制動力不足、グローン音の発生などを抑制することができる。
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
たとえば、前述の各実施形態におけるスリップ制御中に、リバースブレーキB1により吸収される熱量(スリップにより発生する熱量)の総和が算出されて、その熱量の総和が所定値に達した場合、スリップ制御を中止して、リバースブレーキB1を完全係合させてもよい。これにより、スリップ制御によりリバースブレーキB1が異常高温状態になることを抑制でき、リバースブレーキB1の劣化を抑制することができる。
また、Nレンジにおいて、ベルト変速比γbが最大変速比ではなく、最大変速比と目標変速比αとの間の中間変速比に保持されてもよい。この場合、シフトレンジがNレンジからRレンジに切り替えられる際には、ベルト変速比γbが中間変速比から目標変速比αに変更され、シフトレンジがNレンジからDレンジに切り替えられる際には、ベルト変速比γvが中間変速比から最大変速比に変更される。これにより、そのレンジ切り替えの際のベルト変速比γbの変更に要する時間を短縮することができる。
Dレンジにおける最大変速比がRレンジにおける最大変速比よりも大きくなるように構成された動力分割式無段変速機では、NレンジからDレンジへの切り替えの際に、その切り替え後のDレンジにおける変速比が小さくなるように、無段変速機構の変速比が変更されるとよい。
また、前述の実施形態では、本発明を動力分割式無段変速機に適用した例を取り上げたが、本発明は、動力分割式のものに限られず、無段変速機構を備える種々のものに適用することができる。
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。