JP6529769B2 - 加水分解酵素活性が向上した糸状菌変異体 - Google Patents

加水分解酵素活性が向上した糸状菌変異体 Download PDF

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Description

本発明は、加水分解酵素活性が向上した糸状菌変異体等に関する。
アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)及びアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)等の麹菌は、醤油、酒、味噌などの伝統的な食品醸造、酵素生産、及びバイオマス利用等のために工業的に広く用いられている。
日本の伝統食品である醤油の製造では、麹菌を原料である大豆と小麦に生育させて麹を作製し、麹に食塩水を加えて諸味とする。麹や諸味中では麹菌の破精込みによる物理的な作用と、麹菌が分泌する様々な加水分解酵素による酵素的な作用によって、原料の大豆や小麦のタンパク質、糖質、脂質が分解されて呈味成分であるアミノ酸、糖、及びグリセロール等を遊離する。この過程での原料分解が向上すると、原料利用率や圧搾性が上がり、生産性を向上させることができる。
上記のように、原料利用率や圧搾性が向上する麹菌の育種は、産業上極めて重要であり、これを目的とした育種が現在までに精力的に行われている。
本発明は、加水分解酵素活性が向上し、延いては発酵諸味の粘度を低下させ、圧搾性を向上させることができる麹菌の提供を目的とする。
担子菌類であるクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus Neoformans)に存在するcps1遺伝子はヒアルロン酸合成酵素をコードする遺伝子として知られている(Ambrose Jongら、"Identification and Characterization of CPS1 as a Hyaluronic Acid Synthase Contributing to the Pathogenesis of Cryptococcus neoformans Infection", Eukaryot Cell. Aug 2007; 6(8): 1486-1496)。本発明者らは、驚くべきことに、糸状菌においてcps1遺伝子と高い相同性を有する遺伝子を変異させることにより、加水分解酵素活性が増大し、延いては発酵諸味の粘度が低下し且つ圧搾性が向上する糸状菌変異体を取得できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の各態様に係る。
[態様1]
糸状菌を宿主とする変異体であって、cps1遺伝子に対応する遺伝子の機能が低下又は欠損する変異が導入されている、変異体。
[態様2]
cps1遺伝子に対応する遺伝子が以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列:
(a)配列番号1又は3のアミノ酸配列;
(b)配列番号1又は3のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列;
(c)配列番号1又は3のアミノ酸配列と同一性が80%以上であるアミノ酸配列;
で表されるタンパク質をコードする遺伝子であるか、
あるいは以下の(d)〜(g)のいずれかの塩基配列:
(d)配列番号2又は4の塩基配列;
(e)配列番号2又は4の塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列;
(f)配列番号2又は4の塩基配列と同一性が80%以上である塩基配列;
(g)配列番号2又は4の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列;
で表される遺伝子であり、且つ加水分解酵素活性に関与する遺伝子である、態様1に記載の変異体。
[態様3]
前記アミノ酸配列において、184位に相当するロイシンが欠失又は他のアミノ酸に置換されている、態様2に記載の変異体。
[態様4]
前記他のアミノ酸がセリンである、態様3に記載の変異体。
[態様5]
cps1遺伝子に対応する遺伝子の一部又は全部が欠失している、態様1又は2に記載の変異体。
[態様6]
前記宿主がアスペルギルス・ソーヤ又はアスペルギルス・オリゼに属する、態様1〜5のいずれかに記載の変異体。
[態様7]
前記宿主と比較して加水分解酵素をコードする遺伝子の発現が亢進しているか、加水分解酵素活性が増大している、態様1〜6のいずれかに記載の変異体。
[態様8]
前記加水分解酵素が分泌型である、態様7に記載の変異体。
[態様9]
前記加水分解酵素が多糖又はタンパク質を加水分解する、態様7又は8に記載の変異体。
[態様10]
前記加水分解酵素がアルカリプロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼ、α−アミラーゼ、ペクチンリアーゼ、ポリガラクツロナーゼ、カルボキシメチルセルラーゼ、キシラナーゼ及びマンナナーゼから成る群から選択される一種以上の酵素である、態様7〜9nおいずれかに記載の変異体。
[態様11]
態様1〜10のいずれかに記載の変異体の培養物又はその抽出物。
[態様12]
態様1〜10のいずれかに記載の変異体の製造方法であって、糸状菌宿主のcps1遺伝子に対応する遺伝子の機能を低下又は欠損させる工程を含む、製造方法。
[態様13]
態様11に記載の培養物又はその抽出物の製造方法であって、態様1〜10のいずれかに記載の変異体と植物性及び/又は動物性原料とを接触させる工程を含む、製造方法。
[態様14]
前記原料が大豆及び小麦を含む、態様13に記載の製造方法。
[態様15]
前記培養物が麹又は諸味である、態様13又は14に記載の製造方法。
[態様16]
有機性材料の加水分解産物の製造方法であって、態様1〜10のいずれかに記載の変異体又は態様11に記載の培養物又はその抽出物と有機性材料とを接触させる工程を含む、製造方法。
[態様17]
前記有機性材料が多糖又はタンパク質を含む、態様16に記載の製造方法。
本発明によれば、糸状菌におけるcps1遺伝子に対応する遺伝子を変異させることにより、糸状菌の加水分解酵素活性、特に、菌体外に存在する加水分解酵素活性を顕著に向上させることができる。糸状菌はヒアルロン酸を合成せず、また、糸状菌における上記遺伝子はcps1遺伝子との同一性が低いため、本発明者らは、cps1遺伝子に対応する遺伝子をRseA(Regulator of Secretory Enzymes A)遺伝子と命名した。糸状菌において、RseAは膜に局在し、菌体外多糖の生合成に関与していると考えられる。
加水分解酵素活性の向上は、原料の加水分解工程が必要とされる醸造・発酵産業における生産性や効率性の増大に資する。醤油醸造においては酵素の添加や加水分解遺伝子の高発現によって分解効率の向上や粕の低減が報告されていることからも、本発明の変異体を諸味等の原料の分解工程に用いると、原料の分解率が向上したり、諸味からの自然だれによる液汁回収量が増加し、また、粕重量も減少するため有効であることが期待される(板倉辰六郎ら、"醤油の科学と技術" p171-194、 北本則行ら、"セルラーゼ遺伝子高発現麹菌を用いた醤油粕の低減化",醤研Vol.33, No.1, 2007; 35-39)。特に、醸造においては、諸味粘度が高いと圧搾性が低下し歩留まりが低下するが、本変異体を用いることにより、諸味粘度を低下させ、圧搾性が向上した醸造法を提供することができる。しかしながら、本発明の変異体又はその培養物、又は培養物からの抽出物は、広く有機性材料の加水分解産物の製造方法に使用することができるため、その用途は食品分野に限定されない。
図1は実施例1で行ったRseA_L184S変異導入ベクターを用いた遺伝子相同組換えを模式的に表したものである。 図2はアスペルギルス・ソーヤの対照株とRseA_L184S変異株とで各種酵素活性を比較した結果を示している。対照株の活性を1とした場合のRseA_L184S変異株の相対値を示している。 図3は実施例3で行ったrseA遺伝子破壊ベクターを用いた遺伝子相同組換えを模式的に表したものである。 図4はアスペルギルス・ソーヤの対照株とrseA遺伝子破壊株とで各種酵素活性を比較した結果を示している。対照株の活性を1とした場合のrseA遺伝子破壊株の相対値を示している。 図5は糸状菌におけるRseAのオーソログの系統樹を示したものである。カッコ内はアスペルギルス・ソーヤNBRC4241株のRseAとのアミノ酸配列での相同性を示している。 図6はアスペルギルス・オリゼの対照株とRseA_L184S変異株とで各種酵素活性を比較した結果を示している。対照株の活性を1とした場合のRseA_L184S変異株の相対値を示している。 図7はアスペルギルス・オリゼの対照株とrseA遺伝子破壊株とで各種酵素活性を比較した結果を示している。対照株の活性を1とした場合のrseA遺伝子破壊株の相対値を示している。
1.糸状菌を宿主とする変異体及びその製法
本発明は、糸状菌を宿主とする変異体であって、cps1遺伝子に対応する遺伝子の機能が低下又は欠損する変異が導入されている変異体を提供する。クリプトコッカス・ネオフォルマンスで同定されたCps1は、計算上51.5kDaの分子量を有する、莢膜の生合成に関与するタンパク質をコードすること、そして、そのアミノ酸配列は、高度に保存された領域として、例えば、D135にはDXDモチーフ、Q278にはQXXXRWモチーフを含むことが報告されている(Y. C. Chang et al., "CPS1, a Homolog of the Streptococcus pneumoniae Type 3 Polysaccharide Synthase Gene, Is Important for the Pathobiology of Cryptococcus neoformans", Infect Immun. Jul 2006; 74(7): 3930-3938)。Cps1と高い相同性を有するRseAもCps1と同様の構造的特徴を有している。また、RseAの予測分子量もCps1の分子量と略同程度の50.8kDaである。本発明者らは、RseAがGlyco_tranf_2_3ファミリーのドメインを有していることや、一つの膜貫通領域を有する膜局在型のタンパク質をコードすることを確認している。これらの特徴から、RseAは膜に局在し、菌体外多糖の生合成に関与するタンパク質であると考えられる。
本発明における宿主は、Cps1と高い相同性を有し、且つ加水分解酵素活性に関与する遺伝子を有する糸状菌であれば特に限定されない。より具体的には、Cps1と約40%以上の同一性を有し、且つ加水分解酵素活性に関与する遺伝子を有する糸状菌は本発明の宿主となり得ると考えられる。
相同性解析の結果、RseAはアスペルギルス属糸状菌とペニシリウム属(Penicillium)糸状菌において広く保存されていることが確認されている。その他にも、本発明における糸状菌として、ネオサルトリア(Neosartorya)属、トリコデルマ属(Trichoderma)、フザリウム属(Fusarium)等に属する菌株が意図される。rseA遺伝子を有するアスペルギルス属糸状菌として、アスペルギルス・ソーヤNBRC4241株やアスペルギルス・オリゼRIB40(NBRC100959)がある。これらの菌株が有するRseAは約90%以上の同一性を有する。
本明細書で使用する場合、「cps1遺伝子に対応する遺伝子」とは、糸状菌において、cps1遺伝子と高い相同性、例えば約40%以上の同一性を有する遺伝子であって、加水分解酵素活性に関与する遺伝子(rseA遺伝子)を意味する。換言すると、糸状菌におけるcps1遺伝子に対応する遺伝子は、Glyco_tranf_2_3ファミリーのドメインを有しており、また、1回膜貫通領域を有する膜局在型のタンパク質をコードする遺伝子である。
より具体的な態様において、cps1遺伝子に対応する遺伝子、すなわちrseA遺伝子は以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列:
(a)アスペルギルス・ソーヤNBRC4241由来の配列番号1で表されるアミノ酸配列(AsRseA_pep)又はアスペルギルス・オリゼRIB40の配列番号3で表されるアミノ酸配列(AoRseA_pep);
(b)配列番号1又は3のアミノ酸配列において、1若しくは数個、例えば2〜5個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列;
(c)配列番号1又は3のアミノ酸配列と同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であるアミノ酸配列;
で表されるタンパク質をコードする遺伝子であるか、
あるいは以下の(d)〜(g)のいずれかの塩基配列:
(d)配列番号2又は4の塩基配列;
(e)配列番号2又は4の塩基配列において、1若しくは数個、例えば2〜5個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列;
(f)配列番号2又は4の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である塩基配列;
(g)配列番号2又は4の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列;
で表される遺伝子であり、且つ加水分解酵素活性に関与する遺伝子、
から選択される。
アスペルギルス・ソーヤNBRC4241のrseA遺伝子(配列番号2)とアスペルギルス・オリゼRIB40のrseA遺伝子(配列番号4)は互いに約98%の同一性を有する。配列番号2及び4の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列がそれぞれ配列番号1及び3のアミノ酸配列である。rseA遺伝子のオーソログは他の糸状菌菌種にも存在することが確認されている(実施例4)。アスペルギルス・ソーヤのRseAを基準とした場合、他の糸状菌のRseAは約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の同一性を有する。
ここで、ハイブリダイゼーションは、例えば、Molecular cloninng third.ed.(Cold Spring Harbor Lab.Press,2001)、又はカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al.,1987)に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
本明細書において、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、温度60℃〜68℃において、ナトリウム濃度15〜900mM、好ましくは15〜600mM、さらに好ましくは15〜150mM、pH6〜8であるような条件を挙げることができる。
したがって、配列番号2又は4の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列としては、例えば、全塩基配列との相同性の程度が、全体の平均で、約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上である塩基配列で表される遺伝子であり、且つ加水分解酵素活性に関与する遺伝子を挙げることができる。かかる相同性の程度は、本発明に係るタンパク質と相同のタンパク質についても適用される。
2つの塩基配列又はアミノ酸配列における配列相同性を決定するために、配列は、比較に最適な状態に前処理される。例えば、一方の配列にギャップを入れることにより、他方の配列とのアラインメントの最適化を行う。その後、各部位におけるアミノ酸残基又は塩基が比較される。第一の配列におけるある部位に、第二の配列の相当する部位と同じアミノ酸残基又は塩基が存在する場合、それらの配列は、その部位において同一である。2つの配列における配列相同性は、配列間での同一である部位数の全部位(全アミノ酸又は全塩基)数に対する百分率で示される。
上記の原理に従い、2つの塩基配列又はアミノ酸配列における配列相同性は、例えば、Karlin及びAltschulのアルゴリズム(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−2268、1990及びProc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877、1993)により決定される。このようなアルゴリズムを用いたBLASTプログラムやFASTAプログラムは、主に与えられた配列に対し、高い配列相同性を示す配列をデータベース中から検索するために用いられる。これらは、例えば、米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブサイトにおいて利用可能である。
上記のような塩基配列の配列相同性を示すような遺伝子は、上記のようにハイブリダイゼーションを指標に得ることもでき、ゲノム塩基配列解析等によって得られた機能未知のDNA群又は公共データベースの中から、当業者が通常用いている方法により、例えば、前述のBLASTソフトウェアを用いた検索により発見することも容易である。さらに、本発明遺伝子は、種々の公知の変異導入方法によって得ることもできる。
本明細書で使用する場合、「相同性」は同一性を指す場合がある。「同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つの塩基配列又はアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメントにおける、オーバーラップする全塩基又は全アミノ酸残基に対する、同一塩基又はアミノ酸残基の割合(%)を意味する。好ましくは、当該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである。
「cps1遺伝子に対応する遺伝子の機能が低下又は欠損する変異」とは、宿主と比較した場合に加水分解酵素活性を増大させるようなrseA遺伝子の任意の変異を意味する。例えば、rseA遺伝子の一部又は全部を破壊すること、例えば、rseA遺伝子の一部又は全部を欠失させたり、rseA遺伝子の途中に薬剤耐性遺伝子等、別の遺伝子を挿入するなどして正常に機能しないように遺伝子を修飾すること等により、糸状菌の加水分解酵素活性を増大させることができる。
cps1遺伝子の欠失変異体は、cps1遺伝子のうちの欠失させたい任意の領域の両端をつなぎ合わせたベクターを用いて遺伝子組換えを行うことで任意の領域を欠失させることにより調製できる。ベクターには、形質転換された細胞を選択することを可能にするためのマーカー遺伝子が含まれていてもよい。マーカー遺伝子としては、例えば、adeA、pyrG、argB、trpC、niaD、sC、のような、宿主の栄養要求性を相補する遺伝子や、ピリチアミンやオーレオバシジンなどの薬剤に対する抵抗遺伝子などが挙げられる。
変異の種類や方法は特に限定されず、例えば、当業者にとって公知の部位特異的に変異を導入する方法、ランダムに変異を導入する方法、変異原となる薬剤を作用させる方法、紫外線照射法、タンパク質工学的手法等を広く用いることができる。部位特異的変異導入法により、対応するアミノ酸配列において、184位に相当するロイシンを欠失させるか、または他のアミノ酸、例えばセリンに置換する変異(L184S)を行うことでrseA遺伝子の機能を低下又は欠損させてもよい。Cps1ファミリーのアミノ酸配列には高度に保存された領域が複数存在しているが、触媒部位にあるDXDモチーフはクリプトコッカス・ネオフォルマンスの場合135位に、そしてアスペルギルス・ソーヤNBRC4241やアスペルギルス・オリゼRIB40の場合131位に位置する。糸状菌の上記184位に相当するロイシンはDXDモチーフの最初のアスパラギン酸から数えて約53塩基下流に存在する。
実施例3及び6では、rseA遺伝子の破壊が加水分解酵素活性の向上をもたらすことが確認されている。よって、本発明は広く、cps1遺伝子に対応する遺伝子の機能、すなわちrseA遺伝子の機能を低下又は欠損させるあらゆる変異を有する菌株を包含する。したがって、部位特異的な変異は上述したL184Sのような特定の変異に限定されないことは明らかである。
本発明の変異体は、rseA遺伝子が変異していることにより、糸状菌が産生する種々のタンパク質分解系加水分解酵素や多糖分解系加水分解酵素をコードする遺伝子の発現が有意に亢進しているか、このような加水分解酵素の活性が有意に増大している。限定することを意図するものではないが、本発明により活性が増大する加水分解酵素、特に菌体外に分泌される加水分解酵素として、例えばアルカリプロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼ、α−アミラーゼ、ペクチンリアーゼ、ポリガラクツロナーゼ、カルボキシメチルセルラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼが挙げられる。
2.変異体の用途
本発明は更に、上記変異体を用いて得られる培養物を提供する。本発明の変異体を含む培養物は、タンパク質を多く含む原料、例えば、植物性タンパク質を含む穀物類、野菜類など(例えば、大豆、小麦など)、そして動物性タンパク質を含む肉類、魚類などの加水分解工程で使用することができる。本明細書で使用する場合、「培養物」は変異体を添加した麹や、更には変異体を利用して得られる諸味等の発酵物を意味する。
本発明の培養物は、上記変異体とタンパク質性の原料とを接触させる工程を含む方法により製造することができる変異体を添加するタイミングは特に限定されない。本発明の効果、例えば向上した加水分解酵素活性を損なわない限り、培養物の調製の途中又はその前後の工程で変異体以外の菌を添加して培養物を処理してもよい。その他の工程については、所望とする用途に応じて当業者が適宜決定することができる。
本発明の変異体又はその培養物は、向上した加水分解酵素活性により処理されることが必要な種々の分野、特に醸造・発酵産業での使用が想定される。例えば、糸状菌を利用して製造される種々の発酵食品、例えば醤油、味噌等の製造に本発明の変異体等を使用した場合、原料利用率や圧搾性の向上、延いては最終製品の生産性の向上に資する。食品分野に限らず、本発明の変異体又はその培養物は、広く有機性材料の加水分解産物の製造方法に使用することができる。本明細書で使用する場合、「有機性材料」とは、天然・非天然の由来を問わず、広く炭素を主要元素として、酸素、水素、窒素原子などで構成される物質であって、糸状菌によって分解可能な物質を意味する。例えば、本発明の変異体又はその培養物によれば、糸状菌によって分解されるタンパク質、多糖、脂質等を含む食物残渣やバイオマスを効率的にその構成単位であるペプチドや単糖にまで分解することができる。
以下、実施例に即して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの記載によって、なんら制限されるものではない。
(麹菌アスペルギスル・ソーヤNBRC4241系統株におけるRseA_L184S変異体の作製)
RseA_L184S変異体を作製するための親株として、ウリジンを含まない最少培地では生育することのできない栄養要求性株である麹菌アスペルギルス・ソーヤKuU1株(Δku70、ΔpyrG株;アスペルギルス・ソーヤNBRC4241株を親株とする変異株)を用いた。
ku70遺伝子は非相同末端結合に働く遺伝子であり、ku70遺伝子が欠失したKuU1株ではゲノムの相同組換えが高効率で起こる(Biosci. Biotechnol. Biochem. 70(2006)、135−143)。
アスペルギルス・ソーヤKuU1株にマーカー遺伝子であるpyrG遺伝子が正常に導入された株では栄養要求性が回復するため、ウリジンを含まないCzapek−Dox最少培地においても生育することが可能となる。このことから、pyrG遺伝子と共にrseA遺伝子変異を導入した株を容易に単離することができる。
使用培地
PD培地(ポリペプトン 1%、デキストリン 2%、リン酸水素二カリウム 0.5%、硝酸ナトリウム 0.1%、硫酸マグネシウム 0.05%、カザミノ酸 0.1%、pH 6.0)、Czapek−Dox最少培地(グルコース 3.0%、塩化カリウム 0.05%、硝酸ナトリウム 0.2%、リン酸水素二カリウム 0.1%、硫酸マグネシウム 0.05%、硫酸第二鉄 0.001%、pH 6.0)、マルツ寒天培地(麦芽エキス 8%、寒天 1.5%、pH6.0)
栄養要求性株を培養する場合には、ウリジン要求性株では終濃度10mMのウリジンを培地添加し、変異体の再生には培地に1.2Mのソルビトールを添加した。
アスペルギルス・ソーヤRseA_L184S変異導入ベクターの作製
図1にアスペルギルス・ソーヤのRseA_L184S変異導入ベクター及び形質転換による相同組換えの概要を示す。アスペルギルス・ソーヤNBRC4241株から定法に従いゲノムDNAを抽出し、これ鋳型として表1に示すプライマーAsRseALS_F1とAsRseALS_R1、AsRseALS_F2とAsRseALS_R2_PyrG、AsRseALS_F3_PyrGとAsRseALS_R3、AsPyrG_FとAsPyrG_Rを用いてPCR法により増幅し、それぞれ図1に示す変異断片1、変異断片2、変異断片3、マーカー断片を作製した。
PCRには、KOD plus Neo(TOYOBO社製)を用いた。クローニングしたDNA断片はGel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。4つのDNA断片を用いてFusion PCRを行った。
最後に、Fusion PCR産物を鋳型として、AsRseALS_FnestedとAsRseALS_Rnestedを用いてNested PCRを行い、図1に示すようなRseA_L184S変異導入ベクターを構築した。
形質転換
500mL三角フラスコ中の10mMのウリジンを含むPD培地100mLに形質転換宿主株の分生子懸濁液を接種し、30℃で16時間振とう培養を行った後、菌体を回収した。回収した菌体を0.7M塩化カリウム緩衝液で洗浄し、1.5% Lysing Enzyme(シグマ社製)及び0.3% Yatalase(大関社製)を含む0.7M塩化カリウム緩衝液で30℃、3時間緩やかに振とうし、プロトプラストを調製した。得られたプロトプラストは1.2Mソルビトール緩衝液で洗浄した後、プロトプラストPEG法により形質転換を行った。形質転換後のプロトプラストはCzapek−Dox最少寒天培地に播種した。
相同組換えの確認
得られた形質転換体のゲノムDNAを鋳型とし、表1記載のプライマーAsRseALS_FcheckとAsRseALS_Rcheckを用いてPCR法による増幅を行い、増幅断片をアガロースゲル電気泳動に供した。RseA_L184S変異導入ベクターが相同組換えによりゲノム中に導入された場合、PCR増幅断片長が親株より長くなり、電気泳動のバンドが上部へシフトすることにより相同組換えの成功を確認した。
相同組換えが確認された株について、表1記載のプライマーAsRseALS_seqを用いて形質転換体のゲノムシークエンシングを行い、目的の変異箇所の塩基配列を確認した。その結果、RseAのC末端側から184番目のロイシンがセリンに置き換わった、アスペルギルス・ソーヤRseA_L184S株が取得されたことを確認した(図1)。
(菌体外酵素活性の測定)
麹菌の培養方法及び酵素液の調製
脱脂大豆、小麦及び水を1:1.1:1.5の割合で混合したのち、10g秤量し、150mL容の三角フラスコにいれ、綿栓をしてオートクレーブにより滅菌した。これに、2.7 x 107個のアスペルギルス・ソーヤRseA_L184S株又はRseA_Control株の分生子をそれぞれ接種し、よくまぜた。これを30℃で72時間を静置培養した。
培養した麹に蒸留水100mLを加えよく攪拌し、更に1時間に1回攪拌しながら4時間置いた。この混濁液をNo.2濾紙(アドバンテック社製)で濾過し濾液を得て、これを酵素液とした。
全プロテアーゼ活性測定
ミルクカゼイン溶液(2%ミルクカゼイン、0.05Mリン酸緩衝液:pH7.0)500μLと蒸留水450μLを試験管にとり混合し、恒温槽で30℃に予熱した。ここへ蒸留水で3倍に希釈した酵素液を50μL加え混合し、30℃で20分間反応させた後、反応停止液(5%トリクロロ酢酸)2mLを加え、反応を停止した。これを30℃で30分間静置し、生じた沈殿をNo.5濾紙(アドバンテック社製)で濾過した。得られた濾液500μLに0.4M Na2CO3水溶液2.5mL、蒸留水で5倍希釈したフェノール試薬(FOLIN&CIOCALTEU‘S PHENOL REAGENT,MP biomedicals社製)500μLを加え混合し、30℃で30分間反応させた。反応液の吸光度(660nm)を測定した。ブランクは、酵素液添加前に反応停止液を加えて、同じ操作を行った。
RseA変異株のプロテアーゼ活性は、以下の計算式で示されるように、対照株のプロテアーゼ活性を1としたときの比率で比較した。プロテアーゼ活性比率=変異株(試料の吸光度−ブランクの吸光度)/対照株(試料の吸光度−ブランクの吸光度)。試験は3反復で行い、その平均値を算出して比較した。その結果、RseA変異株では対照株より44.0%高いプロテアーゼ活性を示すことが確認された(図2)。
アルカリプロテアーゼ活性測定
Suc−AAPF−pNA(シグマアルドリッチ社製)を1mMとなるように20mM Tris−HCl(pH8.0)へ溶解させた基質液180mLに、蒸留水で40倍に希釈した酵素液20mLを加え混合した。30℃で20分間反応させた後、0.1N HClを600mL加えて反応を停止し、吸光度(410nm)を測定した。ブランクは、酵素液添加前に反応停止液を加えて、同じ操作を行った。プロテアーゼ活性測定と同様に、(RseA変異株の吸光度)/(対照株の吸光度)で算出した活性比率で比較した。その結果、RseA変異株では対照株より57.2%高いアルカリプロテアーゼ活性を示した(図2)。
酸性カルボキシペプチダーゼ活性測定
酸性カルボキシペプチダーゼ測定キット(キッコーマンバイオケミファ社製)を用い、キットに付属の手順書に従ってカルボキシペプチダーゼの活性測定を行った。その結果、RseA変異株では対照株より157%高いカルボキシペプチダーゼ活性を示した(図2)。
α−アミラーゼ活性測定
α−アミラーゼ活性測定キット(キッコーマンバイオケミファ社製)を用い、キットに付属の手順書に従ってα−アミラーゼの活性測定を行った。その結果、RseA変異株では対照株より43.8%高いカルボキシペプチダーゼ活性を示した(図2)。
ペクチンリアーゼ活性測定
ペクチン0.5gを40mLの蒸留水に溶解し、0.1N 水酸化ナトリウムでpH5.5に調整後、クエン酸-リン酸緩衝液(pH5.5)50mLと蒸留水を加え、100mLとしたものを基質溶液とした。酵素液50μLに基質溶液200μLを加え、良く攪拌した後、30℃で2時間インキュベートした。予め1.8mLの蒸留水を入れておいた試験管にインキュベート後の反応物を200μL添加してよく攪拌し、235nmの吸光度を測定することでエリミネーション機構によって得られた二重結合を持つガラクツロナイドの増加を測定した。また、ブランク試験にはインキュベート時間0分のサンプルを用いて同様に操作した。プロテアーゼ活性測定と同様に、(RseA変異株の吸光度)/(対照株の吸光度)で算出した活性比率で比較した。その結果、RseA変異株では対照株より90.2%高いペクチンリアーゼ活性を示した(図2)。
ポリガラクツロナーゼ活性測定
ペクチンリアーゼ活性測定と同様の方法にて調整した反応液を、銅試薬によるヘキスロン酸の定量法(Carbohyd. Res., 4(1967)359−361))により遊離のガラクツロン酸を定量し、ポリガラクツロナーゼ活性とした。プロテアーゼ活性測定と同様に、(RseA変異株の吸光度)/(対照株の吸光度)で算出した活性比率で比較した。その結果、RseA変異株では対照株より152.7%高いポリガラクツロナーゼ活性を示した(図2)。
カルボキシメチルセルラーゼ活性測定
カルボキシメチルセルロース(和光純薬社製)1.0gを0.1M 酢酸緩衝液(pH4.8)100mLに溶解したものを基質溶液とした。酵素液500μLと等量の基質溶液を混合し、正確に40℃で30分インキュベートした。予め0.75mLのDNS試薬を入れておいた試験管に反応液0.75mLを加えてよく混合し、ガラス玉で栓をして沸騰浴中で7分間煮沸した。水道水にて冷却後、蒸留水を3mL加えて535nmの吸光度を測定した。ブランクには加熱処理した酵素を使用して同様の操作を行った。プロテアーゼ活性測定と同様に、(RseA変異株の吸光度)/(対照株の吸光度)で算出した活性比率で比較した。その結果、RseA変異株では対照株より44.9%高いキシラナーゼ活性を示した(図2)。
キシラナーゼ活性測定
REMAZOL BRILLIANT BLUE R−D XYLAN(シグマアルドリッチ社製)0.125gを100mM酢酸緩衝液(pH4.8)50mLに溶解したものを基質溶液とした。酵素液50μLと基質溶液250μLを混合し、正確に30℃、60分間インキュベートした。この反応液にエタノール1mLを添加し、30分静置した後、12,000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄を回収し、595nmの吸光度を測定した。ブランクは、酵素液添加前にエタノールを加えて、同じ操作を行った。プロテアーゼ活性測定と同様に、(RseA変異株の吸光度)/(対照株の吸光度)で算出した活性比率で比較した。その結果、RseA変異株では対照株より90.2%高いキシラナーゼ活性を示した(図2)。
マンナナーゼ活性測定
Locust Bean Gum(和光純薬)1.0gを0.1M酢酸緩衝液(pH4.8)100mLに溶解したものを基質溶液とした。酵素液500μLと等量の基質溶液を加え、混合した。正確に40℃、3時間インキュベートし、反応液0.1mLを予めDNS試薬1mLと蒸留水0.9mLを加えた試験間に良く混合した。ガラス球で栓をし、沸騰浴中で7分間煮沸した後、水道水で冷却し、蒸留水4mLを加えて535nmの吸光度を測定した。なお、ブランクには加熱処理した酵素を使用して同様の操作を行った。プロテアーゼ活性測定と同様に、(RseA変異株の吸光度)/(対照株の吸光度)で算出した活性比率で比較した。その結果、RseA変異株では対照株より138.6%高いキシラナーゼ活性を示した(図2)。
以上の結果より、アスペルギルス・ソーヤRseA_L184S変異株では対照株と比べてタンパク質分解系、多糖分解系の酵素群が軒並み上昇しており、調味料製造や酵素剤製造に好適な、産業上の利用可能性が高い麹菌が得られた。
(麹菌アスペルギスル・ソーヤNBRC4241系統株におけるrseA遺伝子破壊株の作製と評価)
rseA遺伝子破壊株を作製するための親株として、ウリジンを含まない最少培地では生育することのできない栄養要求性株である麹菌アスペルギルス・ソーヤKuU1株(Δku70、ΔpyrG株;アスペルギルス・ソーヤNBRC4241株を親株とする変異株)を用いた。
アスペルギルス・ソーヤrseA遺伝子破壊用ベクターの作製
図3にアスペルギルス・ソーヤのrseA遺伝子破壊用ベクター及び形質転換による相同組換えの概要を示す。アスペルギルス・ソーヤNBRC4241株から定法に従いゲノムDNAを抽出し、これを鋳型として表1に示すプライマーAsRseADel_F1とAsRseADel_R1_pyr、AsRseADel_F2_pyrとAsRseADel_R2、AsPyrG_FとAsPyrG_Rを用いてPCR法により増幅し、それぞれ図3に示す変異断片1、変異断片2、マーカー断片を作製した。
PCRには、KOD plus Neo(TOYOBO社製)を用いた。クローニングしたDNA断片はGel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。3つのDNA断片を用いてFusion PCRを行った。
最後に、Fusion PCR産物を鋳型として、AsRseADel_FnestedとAsRseADel_Rnestedを用いてNested PCRを行い、図3に示すようなrseA遺伝子破壊用ベクターを構築した。
上記と同様の方法にて形質転換を実施後、表2記載のプライマーAsRseADel_Fcheck1とAsRseADel_Rcheck1を用いてPCR法による増幅を行い、増幅断片をアガロースゲル電気泳動に供した。rseA遺伝子破壊ベクターが相同組換えによりゲノム中に導入された場合、AsRseADel_Fcheck1とAsRseADel_Rcheck1による3.6kbのPCR増幅断片長が得られる。
このようにして得られたrseA遺伝子破壊株を用いて麹を作製し、全プロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ、酸性カルボキシペプチダーゼ、α―アミラーゼの菌体外酵素活性を測定した。その結果、対照株と比べてプロテアーゼ活性が29.2%、アルカリプロテアーゼ活性が22.3%、酸性カルボキシペプチダーゼ活性が57.9%、α―アミラーゼ活性が32.4%高い活性を示した(図4)。
以上の結果より、アスペルギルス・ソーヤrseA遺伝子破壊株では、変異株と同様にタンパク質分解系、多糖分解系の酵素群が上昇することが確認され、調味料製造や酵素剤製造に好適な、産業上の利用可能性が高い麹菌が得られた。
(RseAの機能予測と糸状菌におけるrseA遺伝子の分布)
RseAの機能を予測するためにPfamデータベース(http://pfam.xfam.org/)を用いて保存されたモチーフの検索を行った。その結果、rseA遺伝子はGlyco_tranf_2_3ファミリーのドメインを有していることが分かった。更に局在を予測するためにSOSUI(http://harrier.nagahama−i−bio.ac.jp/sosui/)のプログラムを用いて解析を行ったところ、RseAは1回膜貫通領域を有する膜局在型のタンパク質であることが示唆された。以上の結果より、RseAは膜に局在し、菌体外多糖の生合成に関与するタンパク質であることが示唆された。
糸状菌におけるRseAのホモロジー解析
アスペルギルス・ソーヤのRseAのアミノ酸配列を元に、BLASTプログラム(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov・Blast.cgi)を用いて糸状菌におけるオーソログを検索した。その結果、アスペルギルス・オリゼ(A.oryzae)RIB40のXP_001825520、アスペルギルス・フラバス(A.flavus)NRRL3357のXP_002380722,アスペルギルス・カワチ(A.kawachii)IFO4308のGAA91101、アスペルギルス・ニガー(A.niger)CBS13.88のXP_0013395099、アスペルギルス・テレウス(A.terreus)NIH2624のXP_001209243、アスペルギルス・フミガタス(A.fumigatus)Af293のXP_746682、ネオサルトリア・フィッシェリ(N.fisheri)NRRL181のXP_001262883、アスペルギルス・ニデュランス(A.nidulans)FGSCA4のXP_682338、ペニシリウム・エクスパンサム(P.expansum)のKGO41989、ペニシリウム・イタリカム(P.italicum)のKGO77118、ペニシリウム・オキサリカム(P.oxalicum)114−2のEPS77118、トリコデルマ・リーゼイ(T.reesei)QM6aのXP_006966580、フザリウム・オキシスポラム(F.oxysporum)のEW287085、クリプトコッカス・ネオフォルマンスのAFR97051遺伝子と相同性を示し、RseAは糸状菌界で保存されていることが確認された(図5)。更にこれら15個のアミノ酸配列を用いてアラインメント比較を実施した結果、いずれもGlyco_tranf_2_3ファミリーに属するドメインを有していることが分かった。また、これら相同性を示すタンパク質のアミノ酸配列からClustalWのプログラムを用いて系統樹を作製した結果、アスペルギルス属糸状菌とペニシリウム属糸状菌で特にアスペルギルス・ソーヤのRseAと高い相同性を有していることが確認された。
(麹菌アスペルギスル・オリゼRIB40系統株におけるRseA_L184S変異株の作製と評価)
糸状菌の中でrseA遺伝子は広く保存されていることが確認されたため、これまでに検討を進めたアスペルギルス・ソーヤとは種が異なる糸状菌であるアスペルギルス・オリゼにおいてもrseA遺伝子の変異において酵素分泌が活性化するか検討を行った。rseA遺伝子破壊株を作製するための親株として、ウリジンを含まない最少培地では生育することのできない栄養要求性株である麹菌アスペルギルス・オリゼRKuN16prt1株(Δku70、ΔpyrG株;アスペルギルス・オリゼRIB40株を親株とする変異株)を用いた。
アスペルギルス・オリゼrseA遺伝子L184S変異導入株の作製
表1で示したアスペルギルス・ソーヤrseA遺伝子L184S変異導入用プライマーを用いてアスペルギルス・オリゼRIB40ゲノムを鋳型にPCRを行い、アスペルギルス・オリゼ用のrseA遺伝子L184S変異導入用ベクターを構築した。得られたベクターを用いてアスペルギルス・オリゼΔkuRC7−2株に形質転換を実施した。実施例
1と同様の方法にて相同組換えの確認と変異点の塩基置換を確認した。
アスペルギルス・オリゼrseA遺伝子L184S変異導入株の評価
得られたアスペルギルス・オリゼrseA遺伝子L184S変異導入株を用いて麹を作製し、全プロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ、酸性カルボキシペプチダーゼ、α―アミラーゼの菌体外酵素活性を測定した。その結果、対照株と比べて全プロテアーゼ活性が35.8%、アルカリプロテアーゼ活性が30.7%、酸性カルボキシペプチダーゼ活性が30.2%、α―アミラーゼ活性が18.9%高い活性を示した(図6)。
以上の結果より、アスペルギルス・オリゼrseA遺伝子L184S変異導入株では、アスペルギルス・ソーヤと同様にタンパク質分解系、多糖分解系の酵素群が上昇することが確認された。
(麹菌アスペルギスル・オリゼRIB40系統株におけるrseA遺伝子破壊株の作製と評価)
アスペルギルス・オリゼrseA遺伝子破壊株の作製
表2で示したアスペルギルス・ソーヤrseA遺伝子破壊用プライマーを用いてアスペルギルス・オリゼRIB40ゲノムを鋳型にPCRを行い、アスペルギルス・オリゼ用のrseA遺伝子破壊用ベクターを構築した。得られたベクターを用いてアスペルギルス・オリゼΔkuRC7−2株に形質転換を実施した。実施例3と同様の方法にて相同組換え
の確認と変異点の塩基置換を確認した。
アスペルギルス・オリゼrseA遺伝子破壊株の評価
得られたアスペルギルス・オリゼrseA遺伝子破壊株を用いて麹を作製し、プロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ、酸性カルボキシペプチダーゼ、α―アミラーゼの菌体外酵素活性を測定した。その結果、対照株と比べてプロテアーゼ活性が121.9%、アルカリプロテアーゼ活性が115.2%、酸性カルボキシペプチダーゼ活性が76.5%、α―アミラーゼ活性が31.9%高い活性を示した(図7)。
以上の結果より、アスペルギルス・オリゼrseA遺伝子破壊株では、変異株やアスペルギルス・ソーヤでの破壊株以上にタンパク質分解系、多糖分解系の酵素群が上昇することが確認された。これらの結果から、rseA遺伝子の変異や破壊はアスペルギルス属糸状菌において菌体外酵素の活性を増大させる有効な方法であることが確認された。

Claims (13)

  1. 糸状菌を宿主とする変異体であって、以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列:
    (a)配列番号1又は3のアミノ酸配列;
    (b)配列番号1又は3のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列;
    (c)配列番号1又は3のアミノ酸配列と同一性が90%以上であるアミノ酸配列;
    で表されるタンパク質をコードする遺伝子であり、且つ多糖又はタンパク質を分解する加水分解酵素活性を抑制する遺伝子であるか、
    あるいは以下の(d)〜(g)のいずれかの塩基配列:
    (d)配列番号2又は4の塩基配列;
    (e)配列番号2又は4の塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列;
    (f)配列番号2又は4の塩基配列と同一性が90%以上である塩基配列;
    (g)配列番号2又は4の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列;
    で表される遺伝子であり、且つ多糖又はタンパク質を分解する加水分解酵素活性を抑制する遺伝子の機能が低下又は欠損する変異が導入されており、当該変異が前記アミノ酸配列における184位に相当するロイシンの欠失又は他のアミノ酸への置換である、変異体。
  2. 前記他のアミノ酸がセリンである、請求項に記載の変異体。
  3. 前記宿主がアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)又はアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)に属する、請求項1又は2に記載の変異体。
  4. 前記宿主と比較して多糖又はタンパク質を分解する加水分解酵素の活性が増大している、請求項1〜のいずれか1項に記載の変異体。
  5. 前記加水分解酵素が分泌型である、請求項に記載の変異体。
  6. 前記加水分解酵素がアルカリプロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼ、α−アミラーゼ、ペクチンリアーゼ、ポリガラクツロナーゼ、カルボキシメチルセルラーゼ、キシラナーゼ及びマンナナーゼから成る群から選択される一種以上の酵素である、請求項又はに記載の変異体。
  7. 請求項1〜のいずれか1項に記載の変異体を含む、当該変異体の培養物又はその抽出物。
  8. 請求項1〜のいずれか1項に記載の変異体の製造方法であって、糸状菌宿主の以下の遺伝子:
    以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列:
    (a)配列番号1又は3のアミノ酸配列;
    (b)配列番号1又は3のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列;
    (c)配列番号1又は3のアミノ酸配列と同一性が90%以上であるアミノ酸配列;
    で表されるタンパク質をコードする遺伝子であり、且つ多糖又はタンパク質を分解する加水分解酵素活性を抑制する遺伝子であるか、
    あるいは以下の(d)〜(g)のいずれかの塩基配列:
    (d)配列番号2又は4の塩基配列;
    (e)配列番号2又は4の塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列;
    (f)配列番号2又は4の塩基配列と同一性が90%以上である塩基配列;
    (g)配列番号2又は4の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列;
    で表される遺伝子であり、且つ多糖又はタンパク質を分解する加水分解酵素活性を抑制する遺伝子の機能を低下又は欠損させる変異を導入する工程を含み、当該変異が前記アミノ酸配列における184位に相当するロイシンの欠失又は他のアミノ酸への置換である、製造方法。
  9. 請求項に記載の培養物又はその抽出物の製造方法であって、請求項1〜のいずれか1項に記載の変異体と植物性及び/又は動物性原料とを接触させる工程を含む、製造方法。
  10. 前記原料が大豆及び小麦を含む、請求項に記載の製造方法。
  11. 前記培養物が麹又は諸味である、請求項又は10に記載の製造方法。
  12. 有機性材料の加水分解産物の製造方法であって、請求項1〜のいずれか1項に記載の変異体又は請求項に記載の培養物又はその抽出物と有機性材料とを接触させる工程を含む、製造方法。
  13. 前記有機性材料が多糖又はタンパク質を含む、請求項12に記載の製造方法。
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