以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を用いて説明する。
《第1の実施形態》
(画像形成装置)
図18は、本実施形態に係る定着装置を搭載した画像形成装置の概略構成図である。本画像形成装置は、電子写真プロセス利用のレーザービームプリンタである。図18で、1は像担持体としての電子写真感光体ドラムであり、矢示の時計方向に表面移動速度(プロセススピード)200mm/secをもって回転駆動される。2は接触帯電ローラ等の帯電手段であり、この帯電手段により感光体ドラム1の面が所定の極性・電位に一様に帯電処理(一次帯電)される。
3は画像露光手段としてのレーザービームスキャナである。レーザービームスキャナ3は、不図示のイメージスキャナ・コンピュータ等の外部機器から入力する目的の画像情報の時系列電気デジタル画素信号に対応してオン/オフを変調したレーザー光Lを出力して、感光体ドラム1の帯電処理面を走査露光(照射)する。この走査露光により、感光体ドラム1面の露光明部の電荷が除電されて、感光体ドラム1面に目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。
4は現像装置であり、現像スリーブ4aから感光体ドラム1面に現像材であるトナーが供給されて、感光体ドラム1面の静電潜像が形成された部分に順次現像される。レーザービームプリンタの場合、一般的に、静電潜像の露光明部にトナーを付着させて現像する反転現像方式が用いられる。
5は給紙カセットであり、記録材としての紙Pを積載収納させてある。給紙スタート信号に基づいて、給紙ローラ6が駆動されて給紙カセット5内の紙Pが一枚ずつ分離給紙される。給紙された紙Pは、レジストローラ7、シートパス8aを通って、感光体ドラム1と接触型・回転型の転写部材としての転写ローラ9との当接ニップ部である転写部位Tに導入される。この時、感光体ドラム1上のトナー像の先端部は転写部位Tに到達し、紙Pの先端部もちょうど転写部位Tに到達するタイミングとなるように、レジストローラ7で紙Pの搬送が制御される。
転写部位Tに導入された紙Pは、この転写部位Tで挟持搬送され、その間、転写ローラ9には不図示の転写バイアス印加電源から所定に制御された転写電圧(転写バイアス)が印加される。転写ローラ9にはトナーと逆極性の転写バイアスが印加されることで、転写部位Tにおいて感光体ドラム1面のトナー像が紙Pの表面に静電的に転写される。
転写部位Tにおいてトナー像の転写を受けた紙Pは、感光体ドラム1面から分離されてシートパス8bを通って定着装置11へ搬送導入され、トナー像の加熱・加圧定着処理を受ける。
一方、紙分離後(紙Pに対するトナー像転写後)の感光体ドラム1面は、クリーニング装置10で転写残トナーや紙粉等の除去を受けてクリーニングされ、次の帯電、露光、現像、転写プロセスに備える。定着装置11を通った紙Pは、排紙ローラ15によって排紙口13に向かって搬送され、排紙口13から排紙トレイ14上に排出される。
このような本実施形態の画像形成装置50は、記録材搬送ベルト9による記録材Pの搬送速度が200mm/secであり、最大記録材幅のレターサイズ紙で1分間に35枚が出力される仕様となっている。
(定着装置)
次いで、本実施形態の定着装置100について、図1及び図2を用いて説明する。本実施形態の定着装置100は、上述のように立ち上げ時間の短縮や低消費電力化を目的としたフィルム加熱方式である。基本構成は背景技術で述べた図15に示した定着装置と同様である。
即ち、本実施形態において、セラミック基板に設けられる加熱ヒータ113(発熱部材)が、耐熱樹脂から成るヒータホルダー130(保持部材)に設けた溝穴130g(図1)に嵌め込まれて保持されている。ヒータホルダー130は、加熱ヒータ113の熱を奪わないよう低熱容量であることが好ましく、例えば、液晶ポリマー(LCP)などの耐熱樹脂が用いられる。
耐熱樹脂から成るヒータホルダー130は、樹脂が柔らかくて強度が低いため、強度を補うために鉄製のステー120(剛性体)によって支持されている。そして、これらの周囲に、可撓性を有する円筒状で回転可能な無端ベルトとしての定着フィルム112(回転体)が設けられている。
そして、この定着フィルム112を挟むようにして、加熱ヒータ113及びヒータホルダー130に対向して加圧ローラ110(加圧部材)が圧接されている。加熱ヒータ113は定着フィルム112の内周面と内面ニップNkを形成し、この内面ニップNkで加熱ヒータ113の熱が定着フィルム112に伝熱して定着フィルム112が加熱される。そして、定着フィルム112の外周面は加圧ローラ110表面と接触し、定着ニップ部Nを形成している。
加圧ローラ110が矢印R1方向(図15)に駆動回転されると、定着フィルム112は定着ニップ部Nで加圧ローラ110から動力をもらい、矢印R2方向に従動回転する。定着ニップ部Nで加熱ヒータ113により加熱された定着フィルム112の熱が加圧ローラに伝熱し、加圧ローラ110も加熱される。未定着トナー像Tが転写された記録材Pが、図中矢印A1方向から定着ニップ部Nに搬送されると、定着ニップ部Nで加熱された定着フィルム112と加圧ローラ110の熱が記録材Pとトナー像Tに伝熱し、記録材Pにトナー像Tが定着されるようになっている。
ここで、加熱ヒータ113をヒータホルダー130の溝穴に嵌め込むため、記録材搬送方向の幅の関係は加熱ヒータ113の幅Wkよりもヒータホルダー130に設けた溝穴130gの幅Whを広く設定する必要がある。そのため、加熱ヒータ113とヒータホルダー130の溝穴の間には隙間が生じる。加熱ヒータ113とヒータホルダー130は接着剤により接着する場合もあるが、組立て性向上やコスト低減の観点で接着しない場合が多い。
加熱ヒータ113とヒータホルダー130の接着を行わない場合、加熱ヒータ113は、定着フィルム112の回転により内面ニップ部Nk(図15)で記録材搬送方向(図15のA1方向)下流方向へ摩擦力を受ける。そのため、加熱ヒータ113はヒータホルダー130の溝穴部の下流側HB(D)に突き当たる。そのため、加熱ヒータ113とヒータホルダー130との隙間GUは上流側に生じる。
図1は、本実施形態の定着装置100の組み立て図である。細長い直方体形状の発熱部材としての加熱ヒータ113が、ヒータホルダー130に設けられた細長い直方体形状の溝部としての溝穴130gの面Bに嵌め込まれ、ヒータホルダー130は面A側からステー120によって支持される。そして、この周囲に可撓性を有する円筒状の定着フィルム112が設けられる。
ステー120は、両端部でスライド部材60に保持され、そのスライド部材60は画像形成装置本体のフレーム70に落とし込まれており、図中矢印A4の方向にスライド可能な状態となっている。そして、スライド部材60に設けた加圧バネ114によって、ステー120と共にヒータホルダー130及びヒータホルダー130に保持された加熱ヒータ113が、定着フィルム112を介して対向部材としての加圧ローラ110に加圧される。
これらを組み立てた状態の断面図を、図2に示す。加熱ヒータ113及びヒータホルダー130は、定着フィルム112を介して加圧ローラ110に加圧され、定着ニップ部(ニップ部)Nを形成する。また、加熱ヒータ113は定着フィルム112の内面に接触して内面ニップNkを形成する。加圧ローラ110が図中矢印R1方向に駆動されると、定着フィルム112は定着ニップ部Nで加圧ローラ110から動力をもらい矢印R2方向に従動回転する。この時、ヒータホルダー130及び加熱ヒータ113は、定着フィルムの内面から記録材搬送方向に向かう摩擦力Fを受ける。
ヒータホルダー130は、摩擦力Fにより記録材搬送領域Wpにおいて記録材搬送方向に動き(撓み)、図1に示すヒータホルダー130の両端部にある突き当て部130(I)の突き当て面HA(U)がステー120の上流側ST(U)に突き当たる。図1で、スライド部材60の下流側SLST(D)がステー120の下流側ST(D)に突き当たり、またスライド部材60は本体フレーム70の下流側本体フレームF(D)に突き当って、それぞれの部材の記録材搬送方向の位置が決まる。
加熱ヒータ113も、摩擦力Fにより加熱ヒータ113の下流側の壁K(D)でヒータホルダー130面Bにある溝穴130gの下流側側面(下流側壁面)HB(D)に突き当たり、位置が決まる。この時、図2(a)は、以下に詳述する上流側の隙間(上流隙間)GUに関し、上流隙間が有る状態(記録材がニップ部Nを通過する前の状態)を示している。
図2において,未定着トナー像Tが転写された記録材Pが、記録材搬送方向である図中A1方向から定着ニップ部Nに搬送されると、加熱ヒータ113が内面ニップNkで定着フィルム112を内側から加熱し、記録材Pにトナー像Tが定着される。記録材がニップ部Nを通過した後の上流隙間GUの変化(上流隙間GUが小さくなる)については、後に詳述する。
(定着フィルム)
本実施形態では、加熱ヒータ113を保持したヒータホルダー130の周囲に、可撓性を有する円筒状の定着フィルム112が設けられた構成になっている。本実施形態の定着フィルム112は変形させない円筒状の状態で外径がφ20mmであり、厚み方向には多層構成となっている。定着フィルム112の層構成としては、フィルムの強度を保つための基層126と、表面への汚れ付着低減のための離型層127から成る。
基層126の材質は、加熱ヒータ113の熱を受けるため耐熱性が必要であり、また加熱ヒータ113と摺動するため強度も必要であるため、ポリイミドなどの耐熱性樹脂を用いると良い。樹脂を用いることで塗工成型により薄肉のフィルムを安価に成型することも可能である。本実施形態では、定着フィルム112の基層126の材質としてポリイミド樹脂を用い、熱伝導率と強度を向上させるためカーボン系のフィラーを添加して用いた。
基層126の厚さは、薄いほど加熱ヒータ113の熱を定着ローラ110表面に伝達し易いいが強度が低下するため、15μm〜100μm程度が好ましく、本実施形態では50μmとした。
定着フィルム112の離型層127の材質は、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン樹脂(FEP)等のフッ素樹脂を用いると好ましい。本実施形態では、フッ素樹脂の中でも離型性と耐熱性に優れるPFAを用いた。
離型層127は、チューブを被覆させたものでも良いが、表面を塗料でコートしたものでも良く、本実施形態では、薄肉成型に優れるコートにより離型層127を成型した。離型層127は、薄いほど加熱ヒータ113の熱を定着フィルム112表面に伝達し易いが、薄すぎると耐久性が劣化するため、5μm〜30μm程度が好ましく、本実施形態では10μmとした。
なお、回転体である定着フィルムは、基層126と離型層127の2層構成のものを用いたが、基層126と離型層127の間に弾性層を設けた構成にしても良い。耐熱性のシリコーンゴムなどを弾性層として用いることで、定着フィルムが記録材の凹凸と密着し易くなるため画質が良好になる。弾性層の厚みは、厚いほど記録材の凹凸と密着し易くなり画質が良好になるが、厚すぎると加熱ヒータの熱が記録材に伝達し難くなり定着性が劣化するため、30μm〜500μm程度が好ましい。
(加圧ローラ)
本実施形態の加圧ローラ110は外径φ20mmであり、φ12mmの鉄製の芯金117にシリコーンゴムを発泡した厚さ4mmの弾性層116(発泡ゴム)が形成されている。加圧ローラ110は、熱容量が大きく、熱伝導率が大きいと、加圧ローラ110表面の熱が内部へ吸収され易く、加圧ローラ110の表面温度が上昇しにくくなる。即ち、できるだけ低熱容量で熱伝導率が低く、断熱効果の高い材質の方が、加圧ローラ110表面温度の立ち上がり時間を短縮できる。
上記シリコーンゴムを発泡した発泡ゴムの熱伝導率は0.11〜0.16W/m・Kであり、0.25〜0.29W/m・K程度のソリッドゴムよりも熱伝導率が低い。また、熱容量に関係する比重はソリッドゴムが約1.05〜1.30であるのに対して、発泡ゴムが約0.75〜0.85であり、低熱容量でもある。従って、この発泡ゴムは、上記加圧ローラ110表面温度の立ち上がり時間を短縮できる。
加圧ローラ110の外径は小さい方が熱容量を抑えられるが、小さ過ぎると定着ニップNの幅が狭くなってしまうので適度な径が必要であり、本実施形態では、外径をφ20mmとした。弾性層116の肉厚に関しても、薄過ぎれば金属製の芯金に熱が逃げるので適度な厚みが必要であり、本実施形態では、弾性層116の厚さを4mmとした。
弾性層116の上には、トナーの離型層として、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)からなる離型層118が形成されている。離型層118は定着フィルム112の離型層127同様、チューブを被覆させたものでも表面を塗料でコートしたものでも良いが、本実施形態では、耐久性に優れるチューブを使用した。離型層118の材質としては、PFAの他に、PTFE、FEP等のフッ素樹脂や、離型性の良いフッ素ゴムやシリコーンゴム等を用いても良い。
加圧ローラ110の表面硬度は、低いほど軽圧で定着ニップNの幅が得られるが、低すぎると耐久性が劣化するため、本実施形態では、Asker−C硬度(4.9N荷重)で、40°とした。
加圧ローラ110の加圧機構は、加圧バネ(図1中114)により、図中矢印A2方向に加圧されるようになっている。加圧力は強いほど定着ニップNが大きくなり定着性は良化するが、加圧ローラ110の弾性層116のゴムの変形量が大きくなり、ゴムの破壊などが発生する可能性がある。そのため、加圧力は100N〜300N程度が好ましく、本実施形態では180Nとした。この時の定着ニップNの幅は10mmであり、内面ニップNkの幅は5mmである。
(加熱ヒータ)
加熱ヒータ113は、記録材搬送方向の幅Wk=6mm、記録材搬送方向に交差する長手方向の幅270mmの長方形の形状とした。そして、厚さ1mmのアルミナの基板表面に、Ag/Pd(銀パラジウム)の通電発熱抵抗層をスクリーン印刷により10μm塗工し、その上に発熱体保護層としてガラスを50μmの厚さで覆ったものを用いた。アルミナ基板は一般的に多用されているもので、ヤング率が360GPaのものを用いた。
本実施形態の画像形成装置の最大記録材幅はレターサイズであり、レターサイズの長手方向の幅216mmを十分加熱できるように通電発熱抵抗層の長手方向の幅はレターサイズより左右1mmずつ長い218mmになっている。加熱ヒータ113の背面には不図示の温度検知素子が配置されている。通電発熱抵抗層の発熱に応じて昇温したセラミック基板の温度を検知し、この温度検知素子の信号に応じて、長手方向端部にある不図示の電極部から通電発熱抵抗層に流す電流を適切に制御することで、加熱ヒータ113の温度を調整する。
温度検知素子により温度調整され加熱された加熱ヒータ113の熱は、定着フィルム112の内面から表面に伝わり、定着ニップ部(ニップ部)Nを介して加圧ローラ110の表面を加熱する。上述のように未定着トナー像Tが転写された記録材Pが、定着ニップNに搬送されると、定着フィルム112と加圧ローラ110の熱は、未定着トナー像Tと記録材Pに伝わり、記録材Pにトナー像Tが定着されるようになっている。
(ヒータホルダー)
次いで、本実施形態において特徴的なヒータホルダー130と、従来例のヒータホルダー130を比較しながら、詳しく説明する。図1の通り、ヒータホルダー130は、加熱ヒータ113を保持するための溝部としての溝穴130gを有する面(図1中面B)で加熱ヒータ113を保持して、その面とは反対側の面(図1中面A)からはステー120によって支持されている。
ヒータホルダー130に関し、ステー120によって支持される側の面A側には、記録材搬送領域Wp外(非記録材搬送領域)となる両端部にステー120に突き当るための突き当て部130(I)が設けられている。この突き当て部130(I)は、ヒータホルダー130の一部であって材質もヒータホルダー130と同じものであるが、従来構成と異なる部分であるため、図1において両者の違いが分かり易いように塗り潰して表記している。ヒータホルダー130の材料としては、加熱ヒータ113の熱を奪い難いように低熱容量であり、かつ、耐熱性を有する液晶ポリマー(LCP)とし、高温(200℃)におけるヤング率が5GPaのものを用いた。
(比較例の構成)
以下に、まず、比較例としての従来の構成について説明する。図3(a)及び(b)は、従来構成の模式図である。図3(a)は図15中矢印A2方向から見た長手方向を示す図で、図3(b)は図15中A3方向から見た長手方向を示す図である。図3(a)、(b)において、それぞれ図の上側は上流側、図の下側は下流側を示す。なお、図3(a)、(b)において、ヒータホルダー130の形状と、ステー120及び加熱ヒータ113の位置関係が分かり易いよう、定着フィルム112と加圧ローラ110は省いている。
図15に関して前述した通り、ヒータホルダー130及び加熱ヒータ113は定着フィルム112の回転による下流側に作用する摩擦力Fを受け、ステー120によって記録材搬送方向の位置が決まっている。即ち、図3(a)に示すように、従来のヒータホルダー130では、面A側では、ヒータホルダー130の上流側のST(U)部がステー120に長手方向の全領域で突き当っている。一方、図3(b)に示すように、面B側では、ヒータホルダー130の下流側のHB(D)部に加熱ヒータ113が長手方向の全領域で突き当たっている。
このような状態で、さらに定着フィルム112の回転による下流側方向の摩擦力Fがかかっても、従来のヒータホルダー130はこれ以上下流側方向へ動かない。そのため、記録材Pが搬送される時も、図3(b)のようにヒータホルダー130の溝部(溝穴)130gの上流側側面(上流側壁面)HB(U)と加熱ヒータ113の上流側側面であるエッジEの間には、隙間GUが有る状態のままとなる。そのため、従来のヒータホルダー130では、ステープルや異物が記録材Pと共に搬送されてくると、加熱ヒータ113の上流側側面であるエッジEに引っかかり易く、これにより定着フィルム112を破損させてしまう場合がある。
(本実施形態の構成)
次に、本発明の実施形態の構成について説明する。図4は本実施形態構成の模式図であり、図4(a)は図1および図2中矢印A2方向から見た図で、図4(b)は図1および図2中A3方向から見た長手方向を示す図である。図3に示した比較例としての従来の構成と異なるのは、ヒータホルダー130のステー120へ向けて突出するステー120への突き当て部130(I)が長手方向において記録材搬送領域Wp内には無いことである。
このように、記録材搬送領域Wp内で、ヒータホルダー130にステー120への突き当て部130(I)が無い場合、定着フィルム112の回転による摩擦力Fによって、ヒータホルダー130はさらに記録材搬送方向下流側へ変形可能である(図2(b))。
即ち、ヤング率は加熱ヒータ113が360GPaであるのに対し、樹脂製のヒータホルダー130は5GPaと低く、かつ記録材搬送領域Wp内に突き当て部130(I)が無い(突き当て部130(I)は非記録材搬送領域(長手方向の両端部)に有る)。そのため、定着フィルム112の回転による摩擦力Fにより、記録材搬送方向下流側に撓むことができる。
そして、図2(b)に示すように、ヒータホルダー130の溝部(溝穴)130gの上流側側面(上流側壁面)HB(U)は加熱ヒータ113の上流側側面であるエッジEに向かって変形し、最終的にはエッジEに突き当たる(当接する)ことができる。従って、本実施形態の構成においては、記録材搬送領域Wp内でヒータホルダー130と加熱ヒータ113の上流側の隙間GUを小さくすることができる。そして、記録材搬送領域Wp内で中心部については隙間GUが無い状態(GU=0)にすることができる。
このように本実施形態では、摺動部材としての加熱ヒータ113における記録材搬送方向の上流側の側面と対向するヒータホルダー130における対向側面(溝部130gにおける対向側面)の記録材搬送方向における変形に関し、以下のような関係となる。即ち、記録材搬送方向に交差する長手方向において、最大幅の記録材が通過する記録材搬送領域は、非記録材搬送領域よりも変形量が大きい。
そのため、本実施形態の構成は、加熱ヒータ113の上流側側面であるエッジEにステープルSや異物が引っかかりにくいため、従来の構成よりもステープルSや異物による定着フィルムの破損が発生し難い。
また、従来は、定着フィルムがステープルSや異物による破損を防ぐため、前述したように、ヒータホルダーの上流側に凸部を設けた構成(凸構成)としていた。しかし、破損を防ぐためにヒータホルダー130の変形を可能とする本実施形態では、加熱ヒータ113とヒータホルダー130の上流隙間GUが小さくなる構成となり、ヒータホルダー130の上流側の凸部を低くする(更にはゼロにする)ことが可能である。
前述のとおり、ヒータホルダーの上流側の凸部は高すぎると内面ニップNkを狭くしてしまい定着性が劣化する。そのため、本実施形態におけるヒータホルダー130は、上流部に凸部を設けることはせず、ヒータホルダー130の溝部としての溝穴130gの深さ(図2(a)中D2)は、加熱ヒータ113の厚み(図2(a)中D1)と同じに設定した。
(効果の比較)
以下、本実施形態の効果を、図3に示す比較例1、図17に示す比較例2と比較して示す(定着性の評価、定着フィルムの穴開きによる画像不良の発生有無の評価)。図3に示す比較例1は、図16に示すように、ヒータホルダー130の溝部(溝穴)の上流側側面(上流側壁面)HB(U)と加熱ヒータ113の上流側側面であるエッジEの間に、隙間GUを備える。このため、ステープルや異物が上流側の隙間GUに入って加熱ヒータ113の上流側側面であるエッジEに引っ掛かり易く、定着フィルムに穴が開き易い。
また、図17に示す比較例2は、図3に示す比較例1に対して、ヒータホルダー130の面B側上流部に凸部を設けた構成で、ステープルや異物が加熱ヒータ113の上流側側面であるエッジEに引っかかり難く、定着フィルムの穴開きに対し強い構成である。なお、特許文献3に基づき、凸部高さ(図17のH)は0.1〜0.5mmとすることが好ましく、比較例2では0.2mmのものを用いた。
各構成で定着フィルム基層膜厚を50μm、60μmと膜厚を変えて、定着性の比較と定着フィルムの穴開きによる画像不良の発生有無の比較を行った。記録材(記録紙)の搬送速度が200mm/secでレターサイズの紙が1分間に35枚出力される本実施形態の構成と、記録材(記録紙)の搬送速度が160mm/secでレターサイズの紙が1分間に30枚出力される場合について評価した。
1)定着性の評価
定着性は濃度低下率で表し、以下の方法で算出する。測定器はマクベス反射濃度計RD914を用い、紙上に定着されたハーフトーン画像を、レンズクリーニング紙(小津産業製Dusper K−3)を5枚重ねたところに荷重0.4N/cm2で5往復擦った前後の濃度を測定する。本評価試験では、ハーフトーン濃度として擦る前の濃度D1が約0.7のものを用いた。擦った後の濃度をD2とすると、濃度低下率は(D1−D2)/D1により算出される。
加熱ヒータ113の背面の温度を200℃になるように制御し、定着フィルム各基層膜厚に対して、ブラック単色のハーフトーン画像を印字し、上記濃度低下率の測定を行い定着性の評価を行った。濃度低下率が10%未満の場合を良好な定着性とし○、濃度低下率が10%以上のものを定着不良として×と評価した。また、定着性の判断基準は装置の仕様によるものであり、必要とされる定着性は装置によって適宜決めることができる。
2)定着フィルムの穴開きによる画像不良の発生有無の評価
また定着フィルムの穴開きによる画像不良の発生有無の評価は、以下の手順で行った。坪量90g/cm2のレターサイズの記録材に、図5に示すようなステープルを予め留めた記録材を準備する。図5(a)はステープルの断面図で、通常記録材の裏側(非印地面側)に図5(a)中「裏」が来る向きでステープルを記録材に留める。
図5(a)中「裏」が定着フィルム112と接触する向きで定着ニップNに搬送させると、定着フィルムに穴が開き易いことが事前の調査で分かっている。また、ステープルを留める向きが記録材長手方向と水平、若しくは45度で留めたときに定着フィルム112に穴が開き易いことが分かっている。このため、今回の評価試験に使用する記録材には、図5(b)のようにステープルを記録材長手方向と水平に2箇所と45度向きに2箇所を記録材の先端と後端に各4箇所ずつ留めたものを使用した。そして、図5(a)の「裏」側が定着フィルム112の表面に接触するように画像形成装置にセットする。
このステープルの付いた記録材を1枚搬送し、その後、全面ベタ黒画像を印字し画像上の不良の有無で定着フィルムの破損を判定する。定着フィルムに穴が開いた場合、ベタ黒画像上に「白点」が発生するため「白点」が1つでも発生した場合を×、画像上に定着フィルム周期の不良が1つも無かった場合を○とし評価した。定着性の評価及び定着フィルムの穴開き試験の比較は、ヒータホルダーの違い以外は、全て本実施形態の定着装置の構成で統一して行った。比較例1の構成、比較例2の構成、本実施形態の構成に基づく効果の比較結果を表1に示す。
先ず、比較例1について、定着フィルムの基層膜厚を50μm以下にすることで、定着性の濃度低下率を10%未満にすることができた。ただし、比較例1では、加熱定着時に上流隙間GUが開いているため、50μm以下では穴開きが発生してしまった。
一方、ヒータホルダー130の上流部に凸部を設けた構成の比較例2では、定着フィルム膜厚を50μm以下にしても穴が開くことは無かった。ただし、内面ニップNkが狭くなるため、50μmでも定着性の濃度低下率を10%未満にすることができなった。
本実施形態の構成では、ヒータホルダーの上流部は加熱ヒータの定着フィルムとの摺動面と同時高さにしており、内面ニップNkを保つことができるため、定着フィルム基層膜厚を50μm以下にすれば定着性の濃度低下率を10%未満にすることができた。また、上流隙間GUが小さくできたため、定着フィルムの基層膜厚を50μm以下にしても穴が開くことは無かった。
以上のように、本実施形態では、記録材搬送方向に交差する長手方向において、最大幅の記録材が通過する記録材搬送領域から外れた非記録材搬送領域にのみヒータホルダー130のステー120への突き当て部を設ける。即ち、最大幅の記録材が通過する記録材搬送領域において、ヒータホルダー130のステー120への突き当て部を無くした構成にする。
これにより、ヒータホルダー130の加熱ヒータ113が挿入される溝穴130gの上流側壁HB(U)が、記録材搬送方向へ動くことができ、加熱ヒータ113とヒータホルダー130の上流側の隙間GUを小さくすることができる。このため、ステープルや異物が加熱ヒータ113のエッジEに引っかかりにくく、定着フィルムの破損が発生し難い。
《第2の実施形態》
本実施形態が第1の実施形態と異なる点は、最大幅の記録材が通過する記録材搬送領域においても、ヒータホルダー130のステー120への突き当て部を設け、非記録材搬送領域の突き当て部よりも小さい幅(記録材搬送方向)の突き当て部とした点である。また、立ち上がりの高速化のために、加熱ヒータの基板を薄くした点である。これら以外は、第1の実施形態と同様の構成であるため、同じ部材については、同一の符号で示してあり、詳しい説明や図示は省略する。
フィルム加熱方式の定着装置では、加熱ヒータ113の熱容量をなるべく小さくすることで、立ち上がり時間をさらに早めることができるため、加熱ヒータ113の厚さを薄くしたり、幅を細くしたりして、剛性の低い加熱ヒータを使用する場合がある。この場合、剛性の低い加熱ヒータ113が、ヒータホルダー130の上流側の壁HB(U)から記録材搬送方向(下流側方向)への応力を受けるとき、加熱ヒータ113が受ける応力によって割れないようにすることがより好ましい。
このような場合には、ヒータホルダー130の溝穴130gの上流側の壁HB(U)が加熱ヒータ113の上流エッジEに強く当たらないようにする。以下、図6を用いて詳しく説明する。図6(a)は、図1および図2中矢印A2方向から見た長手方向を示す図で、図6(b)は図1および図2中A3方向から見た図である。
本実施形態では、加熱ヒータ113に立ち上がりの高速化のために薄いアルミナ基板を用い、アルミナ基板の厚さを0.6mmとした。そして、図6(a)に示すように、ステー120への突き当て部130(I)の他に、記録材搬送領域内において記録材搬送方向の幅が突き当て部130(I)より小さい突き当て部130(II)を設けている。本実施形態において、記録材搬送領域内の突き当て部130(II)は、図6(a)に示す通り、記録材搬送領域内の中央部に設定し、ヒータホルダー130の記録材搬送領域外の端部に設けた突き当て部130(I)よりも上流側にある状態とした。
記録材搬送領域内の突き当て部130(II)と記録材搬送領域外の端部に設けた突き当て部130(I)の位置の差Wheは、図6(b)に示すヒータホルダー130と加熱ヒータ113の上流隙間GUと同じに設定し、本実施形態では0.4mmとした。この状態から、さらに定着フィルム112の回転による摩擦力Fがかかると、ヒータホルダー130は記録材搬送方向に向かって撓み、図7(a)及び(b)に示す状態となる。
図7(a)に示す面A側では、記録材搬送領域内において、ヒータホルダー130はヒータホルダー130の突き当て部130(II)がステー120にST(U)で突き当るまで下流側方向に動くことができるようになっている。本実施形態においては、前述した通り、記録材搬送領域内の突き当て部130(II)と記録材搬送領域外の突き当て部130(I)の位置の差Wheは0.4mmとしたため、突き当て部中央部が下流方向に0.4mm撓むことができる状態である。
この時、図7(b)に示す面B側では、ヒータホルダー130の溝穴130gの上流壁HB(U)が0.4mm動いて、加熱ヒータ113の上流エッジEに丁度突き当った状態(当接した状態)となる。ヒータホルダー130はステー120にST(U)の位置で突き当ってから(図7(a))、これ以上下流側に動くことはできない。そのため、さらに定着フィルム112による摩擦力Fがかかっても、図7(b)のヒータホルダー130溝穴の上流側の壁HB(U)が加熱ヒータ113の上流エッジEに対してさらに応力をかけるようなことは無くなる。
従って、本実施形態では、立ち上がりを速くするために加熱ヒータ113の基板厚さを小さくするなどした場合でも、加熱ヒータ113に過度な応力をかけずに、加熱ヒータ113とヒータホルダー130の上流隙間GUを無くすことができる。このため、加熱ヒータが応力で割れたりせず、ステープルや異物がヒータエッジEに引っ掛かることで定着フィルムが破損したりしない。
(効果の比較)
従来の構成と本実施形態の構成で、立ち上がりの速さと定着フィルムの穴開きによる画像不良の発生有無の比較を行った。前述の通り、本実施形態では、立ち上がりを速くするために加熱ヒータ113の基板厚さを0.6mmとしてあり、記録材搬送領域Wp内のヒータホルダー130にステー突き当て部130(II)が設けられている。
図3に示す比較例1の構成、図17に示す比較例2の構成は、第1の実施形態で示したものと同じ構成である。即ち、比較例1は、加熱ヒータ113の上流エッジEとヒータホルダー130の溝穴の上流側壁HB(U)に長手方向の全領域で隙間GUがある構成である。また、比較例2は、比較例1に対して、ヒータホルダー130の上流部に凸部を設けた構成で、ステープルや異物がヒータエッジEに引っかかり難く、定着フィルムの穴開きに強い構成である。
定着フィルムについては、第1の実施形態の表1で示した通り、記録材搬送速度が200mm/secで、定着フィルム112の基層膜厚を50μm以下にしたとき、定着性の濃度低下率が10%以下と十分良好であった。そのため、今回の定着フィルムの基層膜厚も50μmとした。
また、立ち上がりの速さについては、次のようにして評価した。立ち上がりの速さとは、プリント開始1枚目の紙が良好な定着性を示していることを条件とし、プリントを開始してから1枚目の紙が排紙トレイ14に排紙されるまでの時間(First Print Output Time)の速さのことを指す。プリントを開始してから1枚目の紙が排紙トレイ14に排紙されるまでの時間(以下、Tfpotとする)を5秒〜7秒の0.5秒刻みで振って、排紙された紙上のトナーの定着性を評価した。
定着性の評価は、第1の実施形態に示した方法と同様の方法で行った。濃度低下率が10%未満の場合を良好な定着性とし○、10%以上のものを定着不良として×と評価した。また、定着フィルム112の穴開きによる画像不良の発生有無の評価については、第1の実施形態に示した方法と同様の方法で行った。
本実施形態と、比較例1及び比較例2、第1の実施形態の構成について、立ち上がりの速さと、定着フィルムの穴開きによる画像不良の発生有無の比較を行った。定着フィルムに穴があいた場合、ベタ黒画像上に「白点」が発生するため「白点」が1つでも発生した場合は×、画像上に定着フィルム周期の不良が1つも無かった場合を○とし評価した。結果を表2に示す。
第1の実施形態でも示した通り、比較例1のようにヒータホルダーと加熱ヒータの上流隙間GUが長手方向の全領域で有る状態では、定着フィルムには穴開きが発生してしまった。また、比較例2のようにヒータホルダーの上流部に凸部を設けた構成にしたり、第1の実施形態及び本実施形態(第2の実施形態)のように上流隙間GUが狭くなる(無くなる)ような構成にしたりすれば、定着フィルムに穴開きが発生することは無かった。
立ち上がりについては、ヒータ厚さが1mmである比較例1の構成においては、1枚目の記録材(記録紙)が良好な定着性を示すのに必要なTfpotは6秒以上の時であった。比較例2の構成では、内面ニップNkが小さくなってしまうため、定着フィルムに加熱ヒータ113の熱が伝わりにくく、立ち上がりに関しては比較例1よりも遅く、Tfpotが7秒以上でないと良好な定着性を示さなかった。
第1の実施形態の構成では、比較例1と同様、ヒータ厚さが1mmであり、1枚目の紙が良好な定着性を示すのに必要なTfpotは6秒であった。本実施形態(第2の実施形態)の構成では、ヒータ厚さが0.6mmと薄い構成であれば、1枚目の紙が良好な定着性を示すのに必要なTfpotは5秒であり、さらに立ち上がりが速い構成を実現できた。
本実施形態のように剛性の低い加熱ヒータ113を使用する場合においても、ヒータホルダー130の加熱ヒータ113が挿入される溝穴の上流側壁HB(U)が、下流方向へ動く(撓む、変形する)ことができる構成にすることで、以下の効果を奏する。即ち、加熱ヒータ113とヒータホルダー130の上流側の隙間GUを小さくすることができ、立ち上がりの早い、かつ、ステープルや異物による定着フィルムの破損が発生し難い定着装置を提供することができる。そのため、薄肉の定着フィルムの使用が可能となり、高速化への対応ができる。
なお、本実施形態において、図6(a)に示す突き当て部130の差Wheと、図6(b)に示すヒータホルダー130と加熱ヒータ113の上流隙間GUは、同じ値であったが、異なる値としても良い。本体の仕様や定着フィルム及び各部材の剛性等によって、最適な関係性にすれば良く一意的に決まる訳ではないからである。
即ち、前述したように、上流隙間GUよりも突き当て部130の差Wheが大きい場合は、上流隙間GUが埋まるため、ステープルや異物による定着フィルムの破損に対してより強くできて、より薄い定着フィルムを使いこなすことが可能となる。一方、上流隙間GUよりも突き当て部130の差Wheを小さくした場合は、加熱ヒータ113にヒータホルダー130溝穴の上流壁HB(U)が当たらない状態を作ることができ、剛性が低いが立ち上がりの早い加熱ヒータ113を使いこなすことが可能である。
《第3の実施形態》
第2の実施形態において、ヒータホルダー130のステー120への突き当て部は中央部に1箇所設けた構成としたが、本発明はこれに限らない。本実施形態では、図8(a)に示すように、記録材搬送領域Wp内においてヒータホルダー130のステー120への突き当て部(図中130(III))を複数設けた構成にしている。図8(a)は、図1および図2中矢印A2方向から見た図で、図8(b)は図1および図2中A3方向から見た長手方向を示す図である。
本実施形態では、長手方向の両端部に設けられる第1の突き当て面の他に、第2の突き当て面が複数存在し、それぞれが長手方向において直線状に設けられる。
図8(a)に示す通り、ヒータホルダー130の面A側にある記録材搬送領域Wp内のヒータホルダー130のステー120への突き当て部130(III)は、記録材搬送領域Wp外にある端部の突き当て部130(I)よりも上流側にある。そして、その位置は長手方向で均一になっている。
また、図8(b)に示す通り、ヒータホルダー130の面B側にあるヒータホルダー130と加熱ヒータ113の上流隙間GUは、第2の実施形態と同様に0.4mmである。そして、図8(a)に示した記録材搬送領域Wp内の突き当て部130(III)と記録材搬送領域Wp外の両端部の突き当て部130(I)の差Wheも0.4mmとした。
ここで、定着フィルム112の回転によって生じる摩擦力Fによって、ヒータホルダー130が変形した様子を図9(a)及び(b)に示す。図9(a)に示す通り、ヒータホルダー130の面A側では、記録材搬送領域Wp内の突き当て部130(III)とステー120が図中SU(U)で突き当るまで(即ち、下流側に0.4mm)撓むことができる。この時、面B側は図9(b)に示す通り、ヒータホルダー130の溝穴130gの上流側壁HB(U)が0.4mm下流側に撓むので、ヒータホルダー130と加熱ヒータ113の上流隙間GUが無くなった状態になる。
本実施形態の構成においても、ヒータホルダー130と加熱ヒータ113の上流隙間GUを長手方向の全領域(最大幅の記録材が通過する記録材搬送領域)で無くすことができるので、第1及び第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、更なる効果として、本実施形態の構成であれば図9(b)に示す通り、記録材搬送領域Wpにおける断面を長手方向で均一にでき、内面ニップNkや定着ニップNが長手方向で均一となり、定着性も長手方向で均一にすることができる。また、定着フィルムの走行が安定化したり、記録材Pの搬送性が向上したりする効果もある。
《第4の実施形態》
上述した実施形態では、ヒータホルダー130の溝穴130gにアルミナ材質の加熱ヒータ113を嵌め込む構成のフィルム加熱方式の定着装置についてのみ述べてきたが、本発明はこれに限られない。例えば、加熱ヒータ113を用いず、定着フィルム自体が発熱するフィルム発熱方式の定着装置にも応用できる。図10に、このようなフィルム発熱方式の加熱装置の断面の模式図を示す。
図10に示すように、フィルム発熱方式に用いる定着フィルムとしての発熱ベルト(発熱フィルム)212は、表面への汚れ付着低減のための離型層227と耐熱性樹脂からなる基層226の間に発熱層228が設けられている。フィルム発熱方式はより速い立ち上がりの達成が期待される定着装置となり、この方式の定着装置においては熱源であるフィルムに穴が開いた場合、画像不良の原因となるだけでなく、その部分の抵抗が過度に上がるため異常発熱の原因となり得る。そのため、より厳格な対策が必要である。
フィルム発熱方式では、上述した実施形態の加熱ヒータ113が設けられた場所に熱伝導性が高く細長い直方体形状の均熱化部材としての摺動部材213を設ける構成が採られることが多い。この均熱化部材としての摺動部材213は、非記録材搬送領域における昇温を抑制するために発熱フィルム212の温度ムラを均熱化する。
ただし、発熱フィルム212の内面に当接する摺動部材213が大きすぎると、発熱フィルム212の熱が急速に奪われるため立ち上がりが遅くなってしまう。一方で、上述した実施形態で述べたフィルム加熱方式と同様に、定着ニップ部Nは記録材P上のトナーTの定着性の確保ために広い方が好ましい。従って、摺動部材213の大きさを適度な大きさに抑えつつ、摺動部材213の支持部材230(上述した実施形態における加熱ヒータ113の支持部材としてのヒータホルダ130に相当)がニップ部Nの形成を担う図15に示す構成を採る。
このような構成の定着装置においても、支持部材230が発熱フィルム212の回転による下流側に作用する摩擦力Fを受け、記録材搬送領域において記録材搬送方向へ動く(撓む、変位する)ことができるような構成とすることができる。これにより、摺動部材213と支持部材230の隙間GUを埋めることができ、ステープルや異物が摺動部材213の上流側のエッジに引っかかりにくく、発熱フィルムの破損を抑えることができる。
なお、本実施形態において、図8(a)に示す突き当て部130の差Wheと、図8(b)に示すヒータホルダー130と加熱ヒータ113の上流隙間GUは、同じ値であったが、異なる値としても良い。本体の仕様や定着フィルム及び各部材の剛性等によって、最適な関係性にすれば良く一意的に決まる訳ではないからである。
即ち、前述したように、上流隙間GUよりも突き当て部130の差Wheが大きい場合は、上流隙間GUが埋まるため、ステープルや異物による定着フィルムの破損に対してより強くできて、より薄い定着フィルムを使いこなすことが可能となる。一方、上流隙間GUよりも突き当て部130の差Wheを小さくした場合は、加熱ヒータ113にヒータホルダー130溝穴の上流壁HB(U)が当たらない状態を作ることができ、剛性が低いが立ち上がりの早い加熱ヒータ113を使いこなすことが可能である。
(変形例)
上述した実施形態では、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形が可能である。仕様に依って求められる記録材の搬送速度と定着性に合わせて、加熱ヒータもしくは摺動板やヒータホルダーの剛性、フィルムの膜厚、加圧力等の設定の最適化や、必要な構成部材の追加等が可能である。
(変形例1)
上述した実施形態では、ヒータホルダー130のステー120への突き当て部130(I)、130(II)、130(III)が全てヒータホルダー130の上流側にある構成について示してきたが、本発明はこれに限られない。例えば、図11の130(IV)に示すような位置にしても良い。即ち、ヒータホルダー130の長手方向の両端にある非記録材搬送領域の第1の突き当て面が突き当たる剛性体であるステー120の第1の面は、ニップ部の記録材搬送方向における中心位置より上流側に位置する場合に限らず、下流側に位置する場合であっても良い。
図11において、定着フィルム112の回転によって生じる摩擦力Fによって、ヒータホルダー130は突き当て部130(IV)でステー120の図中ST部と突き当り、位置が決まる。記録材搬送領域Wp内において、突き当て部が設けられていないならば、第1の実施形態と同様に、記録材搬送領域Wp内において、摩擦力Fによって更に動く。そして、ヒータホルダー130の溝穴130gの上流側壁HB(U)と加熱ヒータ113の上流側エッジEが突き当る。
よって、最大幅の記録材が通過する記録材搬送領域で、ヒータホルダー130の溝穴130gの上流側壁HB(U)と加熱ヒータ113の上流側エッジEの隙間GUは小さくできる。
また、第2の実施形態と同様に、端部よりも記録材搬送方向の幅が狭い突き当て部が、記録材搬送領域Wp内に設けられていれば、第2の実施形態と同じ効果を得ることができる。
(変形例2)
また、記録材搬送領域Wp内のステー120への突き当て部と、記録材搬送領域Wp外の端部に設けられたステー120の突き当て部について、必ずしもステー120の同じ面で突き当るようにする必要は無い。即ち、図12で、ヒータホルダー130は、記録材搬送領域外では、ステー120のST(I)の面と突き当り、記録材搬送領域内では、ステー120のST(II)の面と突き当る構成としても良い。このとき、ヒータホルダー130は、ステー120のST(I)の面とHA(I)で突き当り、ステー120のST(II)の面とHA(II)で突き当る。
この場合、定着フィルム112の回転による摩擦力Fによってヒータホルダー130が下流側に動いた時、先ず、HA(I)面とステー120のST(I)面が突き当たる。この段階では、ヒータホルダー130のHA(II)の面とステー120のST(II)の面の間には隙間がある状態になるように設定してある。この段階からさらに摩擦力Fが与えられると、ヒータホルダー130は記録材搬送方向に撓み変形して、ヒータHA(II)面とステー120のST(II)の面が突き当る。
この変形によって、ヒータホルダー130の加熱ヒータ113が挿入される面A側における、ヒータホルダー130と加熱ヒータ113の上流側の隙間GUは小さくすることができる。即ち、ヒータホルダー130の加熱ヒータ113が挿入される溝穴の上流側壁HB(U)が、記録材搬送領域外の両端部よりもより下流側まで動くことができる構成であれば、加熱ヒータとヒータホルダーの上流側の隙間GUを小さくすることができる。
(変形例3)
また、上述した実施形態では、樹脂製の柔らかいヒータホルダー130が、記録材搬送方向の位置が規制された剛性体(上述した実施形態においては、ステー120)に突き当てられて位置が決まる構成について述べてきたが、本発明はそれに限られない。例えば、図13に示すように、ヒータホルダー130が直接、本体フレーム70(規制部材)に突き当れられて位置が決まる構成でも良く、必ずしもヒータホルダー130の位置を規制する部材としてステー120のような剛性体を設ける必要はない。
この構成の場合、ヒータホルダー130は、定着フィルム113の回転によって生じる摩擦力Fによって、記録材搬送領域外(非記録材搬送領域)となる端部でフレーム70に下流側で突き当る。このとき、記録材搬送領域外となる端部において、加熱ヒータ113が挿入される溝穴の上流側壁HB(U)は、これ以上、下流側方向には動かない。一方、記録材搬送領域内については、ヒータホルダー130が突き当る部材が無いため、定着フィルムの回転による摩擦力Fによって、さらに下流側へ動くことができる。
図13の状態から定着フィルム112の回転によって摩擦力Fがかかって記録材搬送方向へ撓み変形した様子を、図14に示す。第1の実施形態と同様、ヒータホルダー130の加熱ヒータ113が挿入される溝穴の上流側壁HB(U)が、加熱ヒータ113の上流エッジEに突き当るまで動き、記録材搬送領域内の加熱ヒータとヒータホルダーの上流側の隙間GUを小さくすることができる。従って、加熱ヒータ113の上流側エッジEにステープルが引っかかりにくい構成となり、上述した実施形態で示した効果と同じ効果を得ることができる。
(変形例4)
また、上述した実施形態では、ヒータホルダー130に柔らかい材質を用いることでヒータホルダー130が加熱ヒータ113よりも撓みやすい状態とした構成について示してきたが、本発明は必ずしもそれに限られない。ヒータホルダー130は定着フィルム112から摩擦力Fを受けて下流方向に撓み変形するが、ヒータホルダー130と定着フィルム112の摩擦力Fを高めることによっても、ヒータホルダー130を撓み易くすることができる。
例えば、定着フィルム112の内面や、ヒータホルダー130の定着フィルム112との摺動面を粗くしたり、もしくは、加圧ローラ110の圧接力を高めたりすると良い。このようにすることで、ヒータホルダー130と定着フィルム112の摩擦力Fを高めることができ、ヒータホルダー130の下流側方向への撓み変形をし易くすることができる。
(変形例5)
また、上述した実施形態では、加熱ヒータ113は基板にアルミナ基板を用い、ヒータホルダー130よりも十分剛性を高くして、定着フィルム112の摩擦力Fによって加熱ヒータ113は撓みにくい構成について示してきたが、本発明はそれに限られない。
加熱ヒータ113に十分高い剛性が無い場合、加熱ヒータ113もヒータホルダー130と同様に、定着フィルム112の回転による摩擦力Fを受けるため、ヒータホルダー130と同様に下流側方向に撓み変形することがある。加熱ヒータ113が撓み変形する場合、ヒータホルダー130が撓み変形をしてもヒータホルダーの溝穴の壁HB(U)と加熱ヒータ113の上流エッジEの隙間GUが少ししか埋まらない状態となってしまう。その結果、ステープルや異物による定着フィルム112の穴開きに対する効果が小さくなってしまう。
そこで、加熱ヒータ113に十分高い剛性が無い場合において、例えば、定着フィルム112と加熱ヒータ113の摩擦力を軽減するために、加熱ヒータ113の定着フィルム112内面との摺動面に、より平滑度の高いガラスを用いたりする構成にしても良い。あるいは、摩擦係数の小さいフッ素層(例えば、PTFEやPFE)の層を設けたりする構成にしても良い。このようにして、定着フィルム112と加熱ヒータ113の摩擦力を小さくすることができれば、加熱ヒータ113は撓まず、ヒータホルダー130だけが撓み変形する構成とすることができる。
ここで、定着フィルム112の回転による摩擦力Fの他に、加熱ヒータ113とヒータホルダー130との間にも摩擦力が存在する。ヒータホルダー130と加熱ヒータ113の摩擦力が高いと、ヒータホルダー130の撓み変形につられて加熱ヒータ113も一緒に撓み変形してしまう場合がある。そのような場合には、ヒータホルダー130の溝穴底面(図1中面A)と加熱ヒータ113裏面にグリースを塗布することで、ヒータホルダー130と加熱ヒータ113の間の摩擦力を低減させると良い。
このようにすることで、加熱ヒータ113は撓みにくく、ヒータホルダー130だけが下流側方向へ撓み変形しやすい構成にすることができる。従って、ヒータホルダー130の溝穴上流側壁HB(U)と加熱ヒータ113の上流エッジEの隙間GUを小さくすることが可能となり、上述した実施形態で示した効果と同様の効果を得ることができる。
また、加熱ヒータとヒータホルダーの剛性、定着フィルム内面の表面性や加圧ローラの圧接力(加圧力)等によって、適宜、定着フィルムとヒータホルダーの摩擦力を減らしたりすることができる。あるいは、定着フィルムと加熱ヒータ間、及び、加熱ヒータとヒータホルダー間の摩擦力を減らしたりすることができる。これらにより、加熱ヒータは撓み変形しにくく、ヒータホルダーだけが撓み変形しやすい構成にすることができる。以上より、必ずしもヒータホルダーが加熱ヒータより柔らかい構成でなくても、上述した実施形態で示した効果と同様な効果を得ることができる。
(変形例6)
上述した実施形態では、無端ベルトが第1の回転体に設けられたが、無端ベルトが第1の回転体に対向する第2の回転体に設けられても良い。また、無端ベルトが第1の回転体、第2の回転体の双方に設けられても良い。
また、上述した実施形態では、回転体および加圧体としての加圧用回転体(加圧ローラ)が定着回転体(定着ベルト)を加圧する場合を示した。しかしながら、本発明はこれに限定されず、加圧体としてでなく対向体としての回転体が定着回転体としての定着ベルト(フィルム)から加圧される場合にも同様に適用できる。ここで、対向体とは、定着回転体に対向し、定着回転体と圧接して定着ニップ部を形成し、移動する記録材を定着ニップ部で挟持する部材である。
また、上述した実施形態では、記録材として記録紙を説明したが、本発明における記録材は紙に限定されるものではない。一般に、記録材とは、画像形成装置によってトナー像が形成されるシート状の部材であり、例えば、定型或いは不定型の普通紙、厚紙、薄紙、封筒、葉書、シール、樹脂シート、OHPシート、光沢紙等が含まれる。なお、上述した実施形態では、便宜上、記録材(シート)Pの扱いを通紙、通紙部、非通紙部などの用語を用いて説明したが、これによって本発明における記録材が紙に限定されるものではない。
また、上述した実施形態では、未定着トナー像をシートに定着する定着装置を例に説明したが、本発明は、これに限らず、画像の光沢を向上させるべく、シートに仮定着されたトナー像を加熱加圧する装置(この場合も定着装置)にも同様に適用可能である。