JP6520769B2 - クラッチハブ - Google Patents

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本発明は、湿式多板クラッチのクラッチハブに関する。
湿式多板クラッチにおいては、クラッチハブの外周面およびこれを囲むクラッチドラムの内周面にそれぞれ交互にスプライン嵌合された多数枚のクラッチ板に向けて潤滑油を供給する必要がある。このような潤滑油は、通常、クラッチハブの基端内周側から供給され、クラッチハブに形成された径方向貫通孔からクラッチハブの外周面に配されたクラッチ板の間に導かれるようになっている。
特許文献1は、このような湿式多板クラッチのクラッチハブの先端内周面に止め輪を装着し、クラッチハブの先端内周面からの潤滑油の流出を抑制することにより、径方向貫通孔からクラッチ板側へと導かれる潤滑油の割合が多くなるように配慮している。
特開2005−133794号公報
湿式多板クラッチのクラッチハブの基端には、クラッチハブの先端側に配されたクラッチピストンとの間で複数枚のクラッチ板を挾持するためのフランジ部が形成されている。このため、クラッチハブのフランジ部側に位置するクラッチ板や、クラッチピストン側に位置するクラッチ板は、フランジ部やクラッチピストンへの伝熱が比較的良好と言える。これに対し、クラッチハブの長手方向中央部に位置するクラッチ板の放熱性が余り良好とは言えず、クラッチハブの長手方向中央部に位置するクラッチ板側へと供給される潤滑油の量が不足傾向となってしまう。結果として、クラッチハブの長手方向中央部に位置するクラッチ板に焼け付き事故が発生し、湿式多板クラッチの寿命を縮めてしまう可能性があった。
本発明の目的は、特に長手方向中央部に配されたクラッチ板の焼け付き事故を抑制し得る湿式多板クラッチのクラッチハブを提供することにある。
本発明は、外周面に外スプラインが形成され、この外スプラインに対応した内スプラインがそれぞれ内周に形成された環状をなす複数枚のクラッチ板がそれぞれ摺動可能に装着される円筒部と、この円筒部に形成され、それぞれ前記円筒部の内周面と外周面とを連通する複数の貫通孔とを具え、前記円筒部の長手方向一端側から前記円筒部の内周面へと供給される潤滑油の一部が前記貫通孔を通って前記円筒部の外周面側に導かれ、残りの潤滑油が前記円筒部の他端から流出するクラッチハブであって、前記円筒部の長手方向他端側に最も近い前記貫通孔よりも前記円筒部の長手方向中央寄りに配され、かつ前記円筒部の内周面から径方向内側に突出して前記円筒部の長手方向他端へと伝わる潤滑油の流動を抑制する複数の堰をさらに具え、これらの堰は、前記円筒部の内周面の周方向に沿って間欠的に形成され、周方向に隣接する前記堰の間には、潤滑油を前記円筒部の長手方向他端側へと導く隙間が画成されることを特徴とする。
本発明において、クラッチハブの円筒部の長手方向一端側から円筒部の内周面側へと供給される潤滑油は、円筒部の内周面を伝って円筒部の長手方向他端側へと流れ、その途中で一部が貫通孔を通って円筒部の外周面側へと導かれる。堰は、円筒部の長手方向他端へと伝わる潤滑油の流動を抑制する結果、円筒部の長手方向中央部分に形成された貫通孔へとより多くの潤滑油が導かれることとなる。また、周方向に隣接する堰の間に形成された隙間から残りの潤滑油が円筒部の長手方向他端へと導かれ、その一部が堰よりも円筒部の長手方向他端側に配された貫通孔に導かれる。
本発明のクラッチハブによると、円筒部の長手方向中央部分に配されるクラッチ板の領域に従来よりも多くの潤滑油を供給することが可能となり、クラッチ板の焼け付き事故を抑制することができる。
本発明の対象となる湿式多板クラッチが組み込まれた動力伝達機構の一例を抽出拡大した断面図である。 図1に示した湿式多板クラッチのクラッチハブの部分を抽出拡大して分解状態で示す立体投影図である。 図2に示したクラッチハブの正面図である。 図3中のIV−IV矢視に沿った断面図である。
本発明によるクラッチハブを動力伝達機構に組み込んだ一実施形態について、図1〜図4を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、本発明はこのような実施形態に限らず、任意の動力伝達経路に組み入れられる湿式多板クラッチに対して本発明を適用させることができる。
本実施形態における湿式多板クラッチが組み込まれた動力伝達機構の一部を抽出拡大した断面構造を図1に示す。本実施形態における湿式多板クラッチ10は、図示しない駆動源に接続する中空軸11から軸受12を介してこの中空軸11に回転自在に取り付けられた出力歯車13への動力の伝達をオン/オフするためのものである。この湿式多板クラッチ10のクラッチピストン14を図示しないモーターにより中空軸11に沿って移動させることにより、湿式多板クラッチ10の係合状態および係合解除状態を制御するものであるが、これに限定されない。
湿式多板クラッチ10は、クラッチハブ15と、このクラッチハブ15に取り付けられる複数枚のクラッチ板16と、クラッチドラム17と、このクラッチドラム17に取り付けられる複数枚のクラッチ板18と、先のクラッチピストン14とで主要部が構成される。
クラッチハブ15の部分の外観を分解状態で図2に示し、その正面形状を図3に示し、そのIV−IV矢視に沿った断面形状を図4に示す。本実施形態におけるクラッチハブ15は、内側円筒部19と、この内側円筒部19を取り囲む本発明における円筒部としての外側円筒部20と、これら内側円筒部19および外側円筒部20の一端側に配されるフランジ部21とを有する。内側円筒部19および外側円筒部20およびフランジ部21は一体であり、フランジ部21は内側円筒部19および外側円筒部20の長手方向(図1中、左右方向であって中空軸11の回転軸線Cと平行な方向)の一端部分を相互につないだ状態なっている。
クラッチハブ15の内側円筒部19の内周面には、クラッチハブ15を中空軸11にスプライン嵌合させるための内スプライン19sが形成されている。この内側円筒部19の一端側とフランジ部21との境界部分には、図示しない油ポンプによって潤滑油が供給される中空軸11に放射状に形成された給油通路11aに連通する油導入孔15aが円周方向に沿って等間隔に複数(図示実施形態では4個)形成されている。給油通路11aから油導入孔15aへと導かれる潤滑油は、クラッチハブ15の回転に伴って発生する遠心力により、ここからクラッチハブ15のフランジ部21の端面を伝って外側円筒部20の内周面へと供給される。そして、外側円筒部20の内周面を伝ってその長手方向他端側に位置するクラッチピストン14の一端面に形成された油受け14a側へと排出され、クラッチピストン14がクラッチ板16,18から離れるような付勢力、すなわち湿式多板クラッチ10を係合解除させるような力をクラッチピストン14に加える。
クラッチハブ15の外側円筒部20の外周面には外スプライン20sが形成され、この外スプライン20sに対応した内スプライン16sがそれぞれ内周に形成された環状をなす複数枚のクラッチ板16が外側円筒部20に対してそれぞれ摺動可能にスプライン嵌合されている。この外側円筒部20には、それぞれ外側円筒部20の内周面と外周面とをそれぞれ連通する複数の貫通孔群が形成されている。第1の貫通孔群は、外側円筒部20の一端側に配され、第2の貫通孔群は外側円筒部20の長手方向中央部に配され、第3の貫通孔群は外側円筒部20の他端側に配されている。本実施形態では各貫通孔群を構成する貫通孔20i,20c,20oの数をそれぞれ3個ずつ、円周方向に沿って等間隔に形成しているが、これに限定されない。また、第2の貫通孔群は、第1および第3の貫通孔群に対し、中空軸11の回転軸線Cに関する回転位相を60度ずらしているが、これに限定されない。
従って、内側円筒部19の長手方向一端側とフランジ部21との接続部分に形成された先の油導入孔15aから外側円筒部20の内周面に導かれる潤滑油の一部は、貫通孔20i,20c,20oを通って外側円筒部20の外周面側に導かれ、クラッチ板16,18の間に供給されるようになっている。
クラッチハブ15のフランジ部21は、内側円筒部19および外側円筒部20の長手方向一端から径方向内側および外側に延在している。外側円筒部20から外周側に突出するフランジ部21の部分は、クラッチ板16,18を介してクラッチピストン14からの湿式多板クラッチ10の係合圧力を受ける。
クラッチドラム17は、クラッチハブ15を取り囲む円筒部22と、この円筒部22の一端から径方向内側に延在する環状の端板23とを有し、この端板23の内周端部が出力歯車13に対して一体的に接合されている。円筒部22の内周面には、内スプライン22sが形成され、ここに多数枚のクラッチ板18がクラッチハブ15に取り付けられたクラッチ板16と交互に配列するように、摺動可能にスプライン嵌合されている。
クラッチピストン14は、軸受24を介して中空軸11に回転自在に取り付けられたボールねじ筒25に対して螺合するボールナット26の一端側に軸受27を介して回転自在に装着されている。ボールねじ筒25は、図示しない回り止め機構を介してケーシング28に連結されているため、ボールねじ筒25は中空軸11の回転にかかわらず静止状態となっている。ボールナット26の他端側から突出するフランジ部26fの外周部は、これを取り囲む駆動歯車29の内周に対してスプライン嵌合しており、ボールナット26は駆動歯車29と一体的に回転する。図示しないモーターからの回転動力が伝達される環状の駆動歯車29は、図示しない軸受を介してケーシング28に対し回転自在に支持されている。
従って、駆動歯車29は、モーターからの動力によって中空軸11の回転に対し独立に回転駆動される。駆動歯車29が回転すると、これに伴ってボールナット26も共に回転するが、ボールナット26の回転は静止状態にあるボールねじ筒25に対して螺旋状の運動となるため、ボールナット26に装着されたクラッチピストン14が中空軸11の回転軸線Cに沿って移動し、湿式多板クラッチ10のオン/オフ、すなわち係合状態および係合解除状態が切り替えられることとなる。
本実施形態におけるクラッチハブ15の外側円筒部20の内周には、環状の堰形成部材30が圧入状態で固定されている。この堰形成部材30は、外側円筒部20の内周面に接する環状の圧入部31と、この圧入部31から径方向内側に突出して外側円筒部20の長手方向他端へと伝わる潤滑油の流動を抑制する堰部32とを有し、本実施形態における堰部32は周方向に沿って間欠的に3つ形成されている。従って、周方向に隣接する堰部32の間には、潤滑油を外側円筒部20の長手方向他端側へと導く隙間32gがそれぞれ画成されることとなる。この堰形成部材30は、第2の貫通孔群に近接するように、外側円筒部20の長手方向中央部に配された第2の貫通孔群と、外側円筒部20の長手方向他端に最も近い第3の貫通孔群との間に配されている。
従って、堰部32は、外側円筒部20の長手方向他端へと伝わる潤滑油の流動を抑制する結果、外側円筒部20の長手方向中央部分に形成された貫通孔群へとより多くの潤滑油を導くこととなる。また、周方向に隣接する堰部32の間に形成された隙間32gから残りの潤滑油が外側円筒部20の長手方向他端へと導かれ、その一部が堰部32よりも外側円筒部20の長手方向他端側に配された第3の貫通孔群へと導かれる。このため、個々の堰部32の周方向の長さ、換言すると周方向に隣接する堰部32の間に画成される隙間32gの大きさを変更することにより、第1〜第3の貫通孔群に流入する潤滑油の割合を調整することができる。結果として、外側円筒部20の長手方向に沿って配列するクラッチ板16,18の温度分布を従来のものよりも適切に調整することが可能となる。このような観点から、第1〜第3の貫通孔群の個々の貫通孔20i,20c,20oの径を異ならせたり、個々の貫通孔群を構成する貫通孔20i,20c,20oの数を貫通孔群毎に異ならせたりすることも有効である。
上述した実施形態では、堰形成部材30をクラッチハブ15の外側円筒部20に圧入固定するようにしたが、クラッチハブ15と一体に形成するようにしてもよい。あるいは、堰形成部材30の圧入部31が貫入し得る環状溝をクラッチハブ15の外側円筒部20の内周面に形成し、1つの隙間32gが画成される部分を完全に切り欠き、ばね力によって堰形成部材30の圧入部31を環状溝に嵌め込むようにしてもよい。
このように、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のない構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。
15 クラッチハブ
16 クラッチ板
16s 内スプライン
20 外側円筒部
20s 外スプライン
20i 第1の貫通孔群を構成する貫通孔
20c 第2の貫通孔群を構成する貫通孔
20o 第3の貫通孔群を構成する貫通孔
21 フランジ部
30 堰形成部材
32 堰部
32g 隙間

Claims (1)

  1. 外周面に外スプラインが形成され、この外スプラインに対応した内スプラインがそれぞれ内周に形成された環状をなす複数枚のクラッチ板がそれぞれ摺動可能に装着される円筒部と、
    この円筒部に形成され、それぞれ前記円筒部の内周面と外周面とを連通する複数の貫通孔と
    を具え、前記円筒部の長手方向一端側から前記円筒部の内周面へと供給される潤滑油の一部が前記貫通孔を通って前記円筒部の外周面側に導かれ、残りの潤滑油が前記円筒部の他端から流出するクラッチハブであって、
    前記円筒部の長手方向他端側に最も近い前記貫通孔よりも前記円筒部の長手方向中央寄りに配され、かつ前記円筒部の内周面から径方向内側に突出して前記円筒部の長手方向他端へと伝わる潤滑油の流動を抑制する複数の堰をさらに具え、これらの堰は、前記円筒部の内周面の周方向に沿って間欠的に形成され、周方向に隣接する前記堰の間には、潤滑油を前記円筒部の長手方向他端側へと導く隙間が画成されることを特徴とするクラッチハブ。
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