JP6515743B2 - 難燃性ポリエステル繊維およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、建築資材用のネットやメッシュ等に使用される難燃性ポリエステル繊維に関する。詳しくは耐摩耗性に非常に優れるとともに、加工後の寸法安定性および製品品位が良好な難燃性ポリエステル繊維に関する。
従来、ポリエステル繊維はその優れた機械的性質・寸法安定性・耐久性から産業用途にも幅広く利用されている。ポリエステル繊維の高い特性を生かす用途の一つとして、安全ネットや建築工事用メッシュなどの建築資材がある。
このような建築資材は、防風、落石防止等多岐にわたって使用されているが、近年特に建設業界において作業の安全性および周囲の安全性を確保するために、仮設工業会において安全ネットの具備すべき諸特性の規制が厳しくなってきている。例えば、安全ネットは火災に繋がらないよう難燃性能を具備していること、人や物の落下衝撃力に耐えること、建設現場において建築物、建築資材等との摩擦による製品の削れが起こりにくい耐摩耗性を有することが求められている。また、一方で安全ネット、メッシュ等の製造コストを下げるため製網、製織工程のスピードアップ、製造装置の大型化が進められつつあるなか、製網性、製織性を維持するべく工程通過性のよい合成繊維の要求はますます高まりつつある。これまでに難燃性ポリエステル繊維に関する技術として種々の提案がなされている。
特許文献1はポリエステル繊維に2官能性リン化合物を含有させることで、強度、風合を維持した難燃性ポリエステル繊維からなる仮設ネットについて記載している。
特許文献2では、ポリエステル繊維のtanδmaxを規定することにより、染色性と耐摩耗性に優れた繊維を提供する技術が記載されている。
特許第2641720号公報 特開2001−164423号公報
しかしながら特許文献1はポリエステル繊維の単糸繊度が5.6dtex程度と小さすぎて耐摩耗性が不十分であるという問題があった。
特許文献2では、原糸の破断強度が低く、安全ネットやメッシュに必要とされる機械特性に劣るという問題があった。
本発明は、上述した従来技術におけるそれぞれの問題点を同時に解決したものであり、建築資材用のネットやメッシュに使用される上で重要となる以下の特性を具備する。すなわち、優れた耐摩耗性を有すると同時に優れた寸法安定性を有し、安全ネットやメッシュに必要とされる機械特性を備えた製品品質に優れる難燃性ポリエステル繊維を得ることを目的とする。
上記目的を達成する本発明の難燃性ポリエステル繊維は、リン原子含有量が0.3〜1.0重量%である2官能性リン化合物共重合ポリエステルからなるポリエステル繊維であって、動的粘弾性測定におけるtanδの最大値(tanδmax)が0.13以上、0.18以下、単糸繊度が7〜20dtexであることを特徴とする。
また本発明の難燃性ポリエステル繊維の製造方法は、フィードロールおよび延伸ロールにより難燃性ポリエステル繊維を多段延伸処理するとき、第1段目延伸における延伸点を前記フィードロール出口から10cm以内且つ前記延伸ロール温度を90〜130℃に設定して延伸を行い、その後200℃以上の温度で熱セットし、弛緩率3〜7%で弛緩処理を行うことを特徴とする。
本発明の難燃性ポリエステル繊維は以下に示す特徴を全て含むため、従来存在しえなかった建築資材用ネット・メッシュを高品質で得られる。すなわち、優れた耐摩耗性を有すると同時に優れた寸法安定性、安全ネットやメッシュに必要とされる機械特性を有し、尚且つ、製網性、製織性および製品品質が良好である。
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の難燃性ポリエステル繊維を形成するポリエステルコポリマは特に限定されるものではないが、高強度、高タフネスの繊維を得るためには主たる構造としてポリエチレンテレフタレートが好適に用いられる。なお、上述のポリエチレンテレフタレートには、さらなる強度、寸法安定性、耐候性の向上を目的として、例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニールカルボン酸等のジカルボン酸、およびプロピレングリコール、ブチレングルコール等のジオール成分やエチレンオキサイド等の成分が共重合成分として含まれていてもよい。
本発明の難燃性ポリエステル繊維に使用するポリエステルは難燃性を付与する目的でポリマ分子中に2官能性リン化合物が共重合されている。2官能性リン化合物としては、ホスホネート類、ホスフィネート類、ホスフィンオキシド類が好ましく使用される。より好ましくはこれらホスホネート類、ホスフィネート類、ホスフィンオキシド類がフェニル基を含むとよい。
ホスホネート類としては、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジフェニル等が好ましく使用される。ホスフィネート類としては、(2−カルボキシルエチル)メチルホスフィン酸、(2−メトキシカルボニルエチル)メチルホスフィン酸メチル、(2−カルボキシルエチル)フェニルホスフィン酸、(2−メトキシカルボニルエチル)フェニルホスフィン酸メチル、(4−メトキシカルボニルフェニル)フェニルホスフィン酸メチル、[2−(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)エチル]メチルホスフィン酸のエチレングリコールエステル、3−[ヒドロキシ(フェニル)ホスホリル]プロパン酸等が好ましく使用される。ホスフィンオキシド類としては、(1,2−ジカルボキシエチル)ジメチルホスフィンオキシド、(2,3−ジカルボキシプロピル)ジメチルホスフィンオキシド、(1,2−ジメトキシカルボニルエチル)ジメチルホスフィンオキシド、(2,3−ジメトキシカルボニルエチル)ジメチルホスフィンオキシド、[1,2−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)エチル]ジメチルホスフィンオキシド、[2,3−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)エチル]ジメチルホスフィンオキシド等が好ましく使用される。
これらの2官能性リン化合物の中でも、ホスフィネート類がポリエステルとの共重合反応性がよいこと、および重合反応時の飛散が少ないことなどから好ましく使用される。より好ましくはフェニル基を含むホスフィネート類をポリエステルに共重合するとよい。
さらにこの2官能性リン化合物共重合ポリエステルは、2官能性リン化合物が、ポリエステル中にリン原子量換算で0.3〜1.0重量%共重合されていることが必須であり、0.5〜0.8重量%共重合されていることがより好ましい。すなわちポリエステル中の2官能性リン化合物がリン原子量換算で0.3〜1.0重量%共重合されていると、ポリエステル繊維の強伸度を低下させることなく、毛羽品位が良好且つ必要な難燃性能を有する高品位な難燃性ポリエステル繊維を得ることができる。
2官能性リン化合物共重合ポリエステルは、通常の共重合条件により入手することができる。全ポリエステルに対するリン原子含有量として0.3〜1.0重量%になるように2官能性リン化合物を、テレフタル酸とエチレングリコールからポリエステル製造工程の重合初期に、添加して通常のポリエステル重縮合法にて重合し、リン化合物を共重合した所定の固有粘度を有する共重合ポリエステルを得る。さらにこの共重合ポリエステルを210〜220℃、100Pa以下の高温、高減圧下で固相重合することにより、固有粘度をより大きくした共重合ポリエステルを得ることができる。
また、本発明の難燃性ポリエステル繊維は顔料を含む原着糸であっても良い。顔料としては通常シアニン系、スチレン系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ぺリノン系、およびイソインドリノン系等から選ばれた1種以上の顔料が用いられるが、これらに限定されない。なお、原着糸を得るにあたっては、これらの顔料を2官能性リン化合物共重合ポリエステルポリマに溶融添加して、原着ポリエステルチップを得、溶融紡糸する方法、顔料を2官能性リン化合物共重合ポリエステルポリマもしくはその他のポリマチップ(例えばポリエチレンテレフタレートチップなど)と予め溶融混合して、原着マスターチップを作製し、これと2官能性リン化合物共重合ポリエステルチップを所望の割合でブレンド混合し、溶融紡糸する方法で得ることができる。なお、原着マスターチップにその他のポリマーチップを用いる場合、最終的なその他ポリマの含有量は本発明の効果を損なわない程度、例えば難燃性ポリエステル繊維中5重量%以下にとどめるのが望ましい。
本発明の難燃性ポリエステル繊維中の顔料の含有量は特に限定されるものではないが、0.1〜1.0重量%であることが好ましく、さらに0.2〜0.6重量%であることがより好ましい。ポリエステル繊維に含まれる顔料を0.1〜1.0重量%にすることによって、ポリエステル繊維の強伸度を低下させることなく、品位良好な原着ポリエステル繊維を得ることができる。
本発明の難燃性ポリエステル繊維の単糸断面の形状は特に限定されるものではないが、円形であることが好ましい。ポリエステル繊維の単糸断面を円形にすることにより、耐摩耗性が良好なネット、メッシュを得ることができる。
本発明の難燃性ポリエステル繊維の総繊度は特に限定されるものではないが、400〜2000dtexであることが好ましい。ポリエステル繊維の繊度を400〜2000dtexにすることにより、製網や製織にかかる手間もなく、建築資材用途として適した強力をもつ品位良好なネットやメッシュを得ることができる。
本発明の難燃性ポリエステル繊維の単糸繊度は、7〜20dtexであることが必要である。単糸繊度が7dtex未満であると繊維の耐摩耗性が悪化する。また、単糸繊度が20dtexより大きくなると繊維の剛直性が高過ぎるためネットやメッシュに加工したとき硬くなり過ぎる。
本発明の難燃性ポリエステル繊維は動的粘弾性測定において分子運動量の指標であるtanδの最大値(tanδmax)が0.13以上、0.18以下の範囲であることが必要である。tanδmaxが0.13未満であると、繊維の強度に優れるが、摩擦熱を受けた際の分子鎖の運動性が低く過ぎるために繊維が脆性となり、十分な耐摩耗性が得られない。また、tanδmaxが0.18より大きくなると安全ネットやメッシュに必要とされる強度が得られないばかりか、繊維が摩擦熱を受けた際に繊維が柔軟になり過ぎるために十分な耐摩耗性が得られない。難燃性ポリエステル繊維のtanδmaxは、例えば、後述するように難燃性ポリエステル繊維を製造するときの延伸条件や2官能性リン化合物共重合ポリエステルのリン原子量換算での2官能性リン化合物含有量により調節し、0.13以上、0.18以下の範囲内にすることができる。
本明細書において、難燃性ポリエステル繊維のtanδmaxは、動的粘弾性測定装置を使用し、糸長3.0cm、振幅歪み0.53%、周波数110Hz、3℃/分の速度で20℃から200℃まで昇温しながら損失正接(tanδ)を測定したとき、得られたtanδの最大値をtanδmaxとする。
本発明の難燃性ポリエステル繊維の強度は6.5cN/dtex以上であるのが好ましく、6.8cN/dtex以上であるとさらに好ましい。繊維強度の上限は生産性や毛羽品位等を悪化させない限り特に制限はないが、一般的には9.0cN/dtex程度である。難燃性ポリエステル繊維の強度をかかる範囲とすることで、高強力に優れ、高度な軽量化が達成されたネット、メッシュを得ることができる。
なお、難燃性ポリエステル繊維の強度および伸度の測定法としては例えば、試料をオリエンテック(株)社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L1013 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定するとよい。この時の掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分、試験回数10回である。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求める。
本発明の難燃性ポリエステル繊維の乾熱収縮率は4%以上、15%以下であることが好ましい。より好ましくは6%以上、13%以下である。難燃性ポリエステル繊維の乾熱収縮率をかかる範囲とすることによりネットやメッシュを製織する際、熱処理後も大きく収縮することなく、所定の形状を得ることができる。
なお、乾熱収縮率の測定方法は、JIS L−1013 8.18.2乾熱収縮率a)かせ収縮率(A法)に従って、試料採取時の所定荷重としては5mN/tex×表示テックス数、処理温度としては150℃、また、かせ長測定時の所定荷重としては200mN/tex×表示テックス数として測定する。
以下に本発明の難燃性ポリエステル繊維を得るための製造方法の一例を説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
難燃性ポリエステル繊維の製造方法は、得られる難燃性ポリエステル繊維が本発明で規定される物性を満たす限り特に制限はなく、紡糸工程および延伸工程を含むことができる。紡糸工程としては、例えば基本的には通常の溶融紡糸方法をベースに以下の方法を挙げることができる。
まず、前記した2官能性リン化合物共重合ポリエステルのチップをエクストルーダー型紡糸機へ供給し、計量ポンプにより紡糸口金へ配し、280〜300℃で溶融紡糸する。この際、紡糸口金の孔スペックは、単繊維繊度のバラツキを小さくし、製網・製織中の毛羽の発生を抑制するために、背面圧が少なくとも100kg/cm2になるように設計することが好ましく、150〜250kg/cm2になるように紡糸口金の孔スペックを設計することがより好ましい。
次に、口金直下には加熱筒を配し、吐出糸条はこの加熱筒内を通過させることが好ましい。この加熱筒は、一般に3〜100cmの長さで、150〜350℃で温度制御された加熱筒であれば良いが、その長さおよび温度条件は、得られる糸条の繊度やフィラメント数により最適化されれば良い。この加熱筒の使用により、溶融ポリマの固化を遅らせ、繊維の高強度化を実現させることができる。加熱筒を通過した糸条は、冷風で冷却固化され、次いで、油剤が付与された後、紡糸速度を制御する引取ロールで引き取られる。
紡糸速度(引取速度)は、通常、200〜1000m/分、好ましくは、300〜800m/分であれば良い。また、引取ロールによって引き取られた未延伸糸はフィードロールによって予熱された後、延伸ロールによって延伸されるが、フィードロールの温度は90〜130℃とすることが好ましく、100〜110℃とすることがより好ましい。
2官能性リン化合物共重合ポリエステルは、紡糸により得られた繊維の結晶化が阻害されるため、従来の製造方法ではtanδmaxが大きくなり過ぎてしまう。このため、共重合ポリエステル繊維のtanδmaxを低くするためには均一延伸による高度な分子配向と結晶成長が必須であり、特定の延伸処理および弛緩処理を行うとよい。2官能性リン化合物共重合ポリエステルを用いる本発明の製造方法では、フィードロールおよび延伸ロールにより難燃性ポリエステル繊維を多段延伸する延伸工程において、第1段目延伸における延伸点をフィードロール出口から10cm以内にするとともに、延伸ロール温度を90〜130℃に設定して延伸処理を行なう。第1段目延伸における延伸点をフィードロール出口から10cm以内になるように第1段目延伸倍率を設定し、且つ延伸ロール温度を90〜130℃に設定することにより、ポリエステル繊維に十分な熱を加えたまま均一に分子配向を進めることができる。
延伸処理に続く弛緩処理は、均一に延伸し分子配向したポリエステル繊維の結晶性を高くするために重要である。延伸したポリエステル繊維を200℃以上の温度で弛緩率3〜7%でセットする弛緩処理を行うことにより結晶性を高めることができる。弛緩処理は、最終延伸ロールの下流側に弛緩ロール、巻き取り装置を配設し、最終延伸ロールおよび弛緩ロールの間の雰囲気温度を200℃以上に調節し、無加熱の弛緩ロールの回転速度を最終延伸ロールの回転速度に対し弛緩率が3〜7%になるように調節するとよい。
なお、ポリエステル繊維において、製品品質に優れるポリエステル繊維を得るためには、延伸処理を多段延伸で行うのが好ましい。また、安全ネットやメッシュに必要とされる機械特性を得るためには、第2段目延伸を行い、トータル延伸倍率を5.0〜7.0倍とするのが好ましく、5.5〜6.5倍とすることがより好ましい。また、分子鎖の運動性が高い2官能性リン化合物共重合ポリエステルは高温処理条件下では糸揺れし易いため、最終延伸ロールと弛緩ロール間でエアージェットノズル等によって張力を付与することで製糸性良く得ることができる。
かくして、本発明の優れた耐摩耗性を有すると同時に優れた寸法安定性を有し、安全ネットやメッシュに必要とされる機械特性を備えた製品品質に優れるtanδmaxが0.13以上、0.18以下、単糸繊度が7〜20dtexである難燃性ポリエステル繊維を得ることができる。
以下実施例を挙げて発明を詳細に説明する。本明細書では、以下の測定方法により2官能性リン化合物共重合ポリエステルおよびそれからなる難燃性ポリエステル繊維の特性を求めた。
(1)ポリマ中のリン原子含有量
試料である2官能性リン化合物共重合ポリエステルのベースチップ7gを加熱してペレット状に成形し、蛍光X線分析装置(Rigaku社製、ZSX100E型)を用いて、含有量既知のサンプルで予め作成した検量線から、リン原子含有量を金属含有量に換算して求めた。
(2)原糸中のリン原子含有量
試料である2官能性リン化合物共重合ポリエステルからなる難燃性ポリエステル繊維7gを加熱してペレット状に成形し、蛍光X線元素分析装置(Rigaku社製、ZSX100E型)を用いて、含有量既知のサンプルで予め作成した検量線から、リン原子含有
量を金属含有量に換算して求めた。
(3)動的粘弾性
難燃性ポリエステル繊維の動的粘弾性をレオバイブロンを用いて、糸長3.0cm、振幅歪み0.53%、110Hzの周波数下で20℃より3℃/分の速度で200℃まで昇温しながら損失正接(tanδ)を測定し、その最大値をtanδmaxとした。
(4)延伸点
難燃性ポリエステル繊維を製造するとき、第1段目の延伸時における延伸点の位置を測定し、延伸点が延伸工程のフィードロール出口から0〜10cmの範囲内にあるものを○、それ以外のものを×と評価した。なお、延伸点はレーザードップラー速度計(TSI社製LS−50M)を用いてフィードロールから第1延伸ロールまで糸条に沿って連続的に糸速度を測定し、糸速度が急激に第1延伸ロール表面速度近くまで上昇する点を延伸点とした。
(5)総繊度
難燃性ポリエステル繊維の原糸をJIS L1013(2010)8.3.1正量繊度 a)A法に従って、所定荷重としては5mN/tex×表示テックス数、所定糸長90mで測定した。
(6)単糸繊度
難燃性ポリエステル繊維の総繊度をフィラメント数で除して、単糸繊度を求めた。
(7)製糸糸切れ
難燃性ポリエステル繊維の製糸スタート時から6時間後までの1糸条あたりの糸切れ回数を求めた。
(8)製糸毛羽
難燃性ポリエステル繊維の製糸スタート時から6時間後までに発生した毛羽の個数と得られた繊維パッケージ長さの比を1万mあたりの毛羽個数に換算した値である。弛緩熱処理ロールと巻取機間に糸条から5mm離れた位置にレーザー式毛羽検知器を設置して毛羽個数をカウントした。
(9)難燃性
難燃性ポリエステル繊維の原糸をネットに製織し、JIS L1091(1999)の8.4D法により、接炎回数を測定した。接炎回数が2以下は不合格であり、3以上が合格である。
(10)耐摩耗性
難燃性ポリエステル繊維の原糸をネットに編網し、ネットから直径120mmの試験片を切り出し、ASTM D1175に規定されるテーバー摩耗試験機に取り付け、摩耗輪CS#10、荷重500gとして、1,000回転摩耗を行なった。その後、この試験片を水洗し、下記の式を用いて摩耗減量率を算出した。
摩耗減量率(%)=(W0−W1)×100/(W2×T)
W0:測定前の試験片の重量(g)
W1:測定後の試験片の重量(g)
W2:試験片の目付(g/m2
T:摩耗輪が接触する部分の全面積(m2
(11)整経性
難燃性ポリエステル繊維の整経性の評価は編網前の整経機での単位時間あたりの停台回数をもとに、以下の通り判定した。
極めて良好: 停台回数が0.5回/時間未満
概ね良好: 停台回数が0.5回/時間以上、1.0回/時間未満
不良: 停台回数が1.0回/時間以上
[実施例1]
テレフタル酸とエチレングリコールを直接エステル化して得たビス−β−ヒドロキシエチルテレフタレートおよびその低重合体100部に3−[ヒドロキシ(フェニル)ホスホリル]プロパン酸4.15部及び、0.03部の三酸化アンチモンを加え、更に0.1部の二酸化チタンを加え、250℃より、30分で285℃に昇温し、同時に反応系を常圧から30分間で0.5mmHgに減じ、その後所定の固有粘度に達するまでこの温度及び減圧度を維持し、反応を行うことにより3−[ヒドロキシ(フェニル)ホスホリル]プロパン酸をリン原子量換算して0.6重量%含有する固有粘度0.7の2官能性リン化合物共重合ポリエチレンテレフタレートを得た。得られた2官能性リン化合物共重合ポリエチレンテレフタレートからなるベースポリエステルチップ(a)と固有粘度が0.7で顔料としてフタロシアニンブルーをポリエチレンテレフタレートに対して9重量%含有するマスターポリエステルチップ(b)を46:1の割合で混合し、エクストルーダー型紡糸機に供給し、計量ポンプにより紡糸口金に配し、紡糸温度295℃にて溶融紡糸した。口金は0.6mmφの丸孔で孔数144個の吐出孔から押し出した後、長さ3.5cm、温度320℃の加熱筒を通過し、風速30m/minの冷却風で冷却固化し、油剤を糸条に付与し、温度110℃のフィードロールに引き取られ、引き続き延伸ロール110℃、熱セット温度230℃の温度で、1段目延伸倍率4.2倍、トータル倍率が6.5倍となるように2段延伸熱処理した後、エアージェットノズルで張力を付与し、3.5%の弛緩率で処理し、巻き取ることにより1840dtex、144フィラメントからなる2官能性リン化合物共重合ポリエステルからなる難燃性ポリエステル繊維を得た。
また得られたポリエステル繊維をビーム整経し、ラッセル編み機に仕掛け、ポリエステル繊維を8本合わせて目合い50mm×50mmに編網した後、150℃×3分間の熱処理を施しラッセル型ネットを得た。
[実施例2]
2官能性リン化合物共重合ポリエチレンテレフタレートのリン原子量を0.8重量%、ポリエステル繊維の熱セット温度を220℃、弛緩率を4.5%とした以外は実施例1と同様の方法で難燃性ポリエステル繊維、及びラッセル型ネットを得た。
[実施例3]
ポリエステル繊維を紡糸する口金の孔数を192個、ポリエステル繊維の総繊度を1460dtex、延伸ロール温度を102℃とした以外は実施例1と同様の方法で難燃性ポリエステル繊維、及びラッセル型ネットを得た。
[実施例4]
ポリエステル繊維を紡糸する口金の孔数を96個、延伸ロール温度を125℃とした以外は実施例1と同様の方法で難燃性ポリエステル繊維、及びラッセル型ネットを得た。
[実施例5]
2官能性リン化合物のリン原子量換算の含有量を0.4重量%、ポリエステル繊維の熱セット温度を240℃、弛緩率を3.0%とした以外は実施例1と同様の方法で難燃性ポリエステル繊維、及びラッセル型ネットを得た。
[実施例6]
ポリエチレンテレフタレートに共重合する2官能性リン化合物を(2−カルボキシルエチル)メチルホスフィン酸とした以外は実施例1と同様の方法で難燃性ポリエステル繊維、及びラッセル型ネットを得た。
[実施例7]
ポリエステル繊維の単糸断面の形状を3葉(Y型)、延伸ロール温度を115℃、熱セット温度を235℃とした以外は実施例1と同様の方法で難燃性ポリエステル繊維、及びラッセル型ネットを得た。
[比較例1]
2官能性リン化合物のリン原子量換算の含有量を0.2重量%とした以外は実施例1と同様の方法でポリエステル繊維、及びラッセル型ネットを得た。このポリエステル繊維は、難燃性について接炎回数が2回で不合格となった。
[比較例2]
ポリエステル繊維の口金の孔数を288個、総繊度を1670dtex、熱セット温度を190℃とした以外は実施例1と同様の方法でポリエステル繊維、及びラッセル型ネットを得た。このポリエステル繊維は、製糸中の糸揺れ増大による製糸性の著しい悪化が見られ、整経性も悪化した。また、乾熱収縮率アップによる寸法安定性の悪化や単糸繊度が7dtex未満で耐摩耗性の悪化が見られた。
[比較例3]
2官能性リン化合物のリン原子量換算の含有量を2.0重量%とした以外は実施例1と同様の方法でポリエステル繊維、及びラッセル型ネットを得た。このポリエステル繊維は、原糸強伸度の低下や製糸性の著しい悪化が見られ、整経性及び耐摩耗性も悪化する結果となった。
[比較例4]
ポリエステル繊維の1段目延伸倍率を2.5倍、トータル延伸倍率を4.0倍とした以外は実施例1と同様の方法でポリエステル繊維、及びラッセル型ネットを得た。このポリエステル繊維は、tanδmaxが0.18を超え、繊維の破断強度が低下し、安全ネットやメッシュで必要とされる強力が劣る結果となった。
[比較例5]
ポリエステル繊維の口金の孔数を72個、延伸ロール温度を80℃、熱固定温度を240℃、弛緩率を2.0%とした以外は実施例1と同様の方法でポリエステル繊維、及びラッセル型ネットを得た。このポリエステル繊維は、単糸繊度が20dtexを超え、製糸性が著しく悪化し、整経性も悪化する結果となった。
[比較例6]
2官能性リン化合物のリン原子量換算の含有量を0.3重量%、ポリエステル繊維の弛緩率を8.0%、第1段目延伸倍率を4.6倍、トータル延伸倍率を7.2倍とした以外は実施例1と同様の方法でポリエステル繊維、及びラッセル型ネットを得た。このポリエステル繊維は、tanδmaxが0.13未満であり、製糸性の著しい悪化が見られ、整経性も悪化する結果となった。
上述した実施例1〜7および比較例1〜6の製造条件ならびに得られたポリエステル繊維の特性および製網したネットの特性を、表1および表2にまとめた。
Figure 0006515743
Figure 0006515743

Claims (5)

  1. リン原子含有量が0.3〜1.0重量%である2官能性リン化合物共重合ポリエステルからなるポリエステル繊維であって、動的粘弾性測定におけるtanδの最大値(tanδmax)が0.13以上、0.18以下、単糸繊度が7〜20dtexであることを特徴とする難燃性ポリエステル繊維。
  2. 前記2官能性リン化合物がフェニル基を含むことを特徴とする請求項1記載の難燃性ポリエステル繊維。
  3. 前記2官能性リン化合物共重合ポリエステルのリン原子含有量が0.5〜0.8重量%であることを特徴とする請求項1または2記載の難燃性ポリエステル繊維。
  4. 前記2官能性リン化合物共重合ポリエステルの主たる構造がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1,2または3に記載の難燃性ポリエステル繊維。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性ポリエステル繊維を製造する方法であって、フィードロールおよび延伸ロールにより難燃性ポリエステル繊維を多段延伸処理するとき、第1段目延伸における延伸点を前記フィードロール出口から10cm以内且つ前記延伸ロール温度を90〜130℃に設定して延伸を行い、その後200℃以上の温度で熱セットし、弛緩率3〜7%で弛緩処理を行うことを特徴とする難燃性ポリエステル繊維の製造方法。
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