以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態に係る送電システムは、図1に示すように、系統電源Eと、系統電源Eから供給される電力を変換する変圧器H0と、系統電源Eと変圧器H0とを結ぶ送電線L1に直列に接続された2つのコンデンサC11、C12と、ディジタル形保護リレー1と、を備える。
ディジタル形保護リレー1は、側路開閉器SW21、SW22と、遮断器SW1と、を有し、側路開閉器SW21、SW22および遮断器SW1それぞれの開閉状態を制御する。側路開閉器SW21、SW22は、コンデンサC11、C12に流れる電流(即ち、電流信号または電力信号)を、バイパス線L11、L12を介してバイパスさせるためのものである。遮断器SW1は、送電線L1を介した電力供給、即ち電流信号または電力信号を遮断するためのものである。側路開閉器SW21、SW22は、コンデンサC11、C12それぞれの両端間に接続されたバイパス線L11、L12に介挿されている。遮断器SW1は、送電線L1に直列に接続されている。
また、ディジタル形保護リレー1は、比率差動電流ユニット10と、差動電流ユニット20と、分数調波・過負荷保護ユニット30と、遮断器駆動部50と、側路開閉器駆動部60と、を備える。また、ディジタル形保護リレー1は、送電線L1における遮断器SW1よりも系統電源E側に設けられた変流器H11と、送電線L1に流れる電流信号(電力信号)により変流器H11で発生した検出電流を取り込むための伝送線DL11と、を備える。更に、ディジタル形保護リレー1は、送電線L1におけるコンデンサC11、C12よりも変圧器H0側に設けられた変流器H12と、変流器H12で発生した検出電流を取り込むための伝送線DL12と、を備える。変流器(電力信号検出器)H11、H12および伝送線DL11、DL12は、送電線L1を流れる電力信号を検出し、検出した電力信号の波形を反映した検出信号を出力するためのものである。
遮断器駆動部50は、比率差動電流ユニット10、差動電流ユニット20または分数調波・過負荷保護ユニット30から入力される開指令信号または閉指令信号に基づいて、遮断器SW1を開閉させる。開指令信号は、遮断器SW1を開状態にするよう指令する信号であり、閉指令信号は、遮断器SW1を閉状態にするよう指令する信号である。
側路開閉器駆動部60は、分数調波・過負荷保護ユニット30から入力される開指令信号または閉指令信号に基づいて、側路開閉器SW21、SW22を開閉させる。開指令信号は、側路開閉器SW21または側路開閉器SW22を開状態にするよう指令する信号であり、閉指令信号は、側路開閉器SW21または側路開閉器SW22を閉状態にするよう指令する信号である。
比率差動電流ユニット10および差動電流ユニット20は、直列に接続されたコンデンサC11、C12を含む直列コンデンサ回路の内部故障を検出するためのものである。比率差動電流ユニット10は、伝送線DL11、DL12それぞれに信号変換器11、12を介して電気的に接続された比率差動電流リレー制御回路13を備える。また、差動電流ユニット20は、伝送線DL11、DL12それぞれに信号変換器21、22を介して電気的に接続された差動電流リレー制御回路23を備える。比率差動電流リレー回路13は、信号変換器11、12に流れる電流の差分に基づいて、開指令信号を遮断器駆動部50へ出力する。差動電流リレー制御回路23は、信号変換器21、22に流れる電流の差分に基づいて、開指令信号を遮断器駆動部50へ出力する。
分数調波・過負荷保護ユニット30は、送電線L1を流れる電力信号に含まれる分数調波成分の振幅値に基づいて、開指令信号または閉指令信号を生成して側路開閉器駆動部60へ出力することにより、側路開閉器SW21、SW22の開閉状態を制御する。また、分数調波・過負荷保護ユニット30は、電力信号に含まれる基本波成分の振幅値に基づいて、開指令信号または閉指令信号を生成して側路開閉器駆動部60へ出力することにより、側路開閉器SW21、SW22の開閉状態を制御する。これにより、コンデンサC11等の過負荷状態を検出できる。分数調波・過負荷保護ユニット30は、信号変換器31と、フィルタ回路32と、AD変換器(ADC)33と、制御部34と、報知部36と、高周波発生回路37と、DA変換器(DAC)38と、を備える。なお、高周波発生回路37は、予め設定された高周波のアナログ信号を出力するものであってもよい。この場合、DA変換器38は不要となる。
信号変換器31は、伝送線DL11を伝送する変換前の検出信号の振幅値を後続のフィルタ回路32等の振幅値許容範囲内に収まるように変換する。この信号変換器31と変流器H11とから、電力信号を検出し、検出した電力信号の波形を反映した検出信号を出力する変成器が構成される。
フィルタ回路32は、入力信号に含まれる基本波周波数を超える高周波成分を除去するためのものである。フィルタ回路32は、信号変換器31から入力される検出信号とDA変換器38から入力される検出信号とを加算する加算回路(図示せず)と、加算回路から入力される基本波周波数を超える高周波成分を除去して出力するローパス特性を有するアナログフィルタ(図示せず)と、を備える。フィルタ回路32がローパス特性のアナログフィルタを有することにより、制御部34に入力されるディジタルデータに含まれる高周波成分のエイリアシング成分を予め除去することができる。
AD変換器33は、フィルタ回路32から出力されるアナログ信号の振幅値をサンプリングしてディジタルデータ(第1ディジタルデータ)を生成し、制御部34へ出力する。AD変換器33のサンプリング周波数は、例えば基本波周波数の2倍の周波数以上の周波数に設定される。例えば、基本波周波数が60Hzの場合、AD変換器33のサンプリング周波数は、720Hzに設定される。
制御部34は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)34aと主記憶部34bと補助記憶部34cと入力部34dと出力部34eとを備える。CPU34aは、補助記憶部34cに記憶されたプログラムを読み出して実行する。また、制御部34は、タイマ(図示せず)を内蔵している。
主記憶部34bは、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリを有している。主記憶部34bは、CPU34aの作業領域として用いられる。また、主記憶部34bには、ディジタルデータを記憶するためのバッファ領域340を有する。そして、AD変換器33から入力されるディジタルデータは、バッファ領域340に時系列に記憶される。また、主記憶部34bは、側路開閉器SW21、SW22それぞれの開閉状態を示す開閉情報を記憶する開閉情報記憶領域(図示せず)を有する。
補助記憶部34cは、ROM(Read Only Memory)、磁気ディスク、半導体メモリなどの不揮発性メモリを有している。補助記憶部34cは、CPU34aが実行するプログラムおよび各種パラメータなどを記憶している。また、CPU34aによる処理結果などを主記憶部34bへ順次記憶する。更に、補助記憶部34cは、フィルタ回路32等に異常が発生しているか否かを検出するタイミングである装置異常検出時期を示す異常検出時期情報を記憶している。また、補助記憶部34cは、分数調波成分の振幅値の異常を判定するためのRMS閾値と、高周波成分の異常を判定するための高周波成分閾値と、基本波成分の異常を判定するための基本波成分閾値とを記憶している。更に、補助記憶部34cは、直流成分のレベル異常を判定するために、後述の判定基準値および割合閾値と、基本波の周波数を示す周波数情報も記憶している。異常検出時期情報は、例えば異常検出を行う周期(例えば24時間)から構成される。プログラムや異常検出時期情報、RMS閾値、高周波成分閾値、基本波成分閾値、判定基準値、割合閾値は、例えばディジタル形保護リレー1の工場出荷時において、入力装置(図示せず)を介して予め補助記憶部34cに記憶される。
CPU34aが補助記憶部34cに記憶されているプログラムを実行することにより、制御部34の各種機能が実現される。具体的には、制御部34は、図3に示すように、FIR(Finite Impulse Response)フィルタ341、RMS(Root Mean Square)演算部342、分数調波判定部343、高周波発生制御部345、直流成分異常判定部346a、高周波成分検出部346b、高周波成分異常判定部347、指令信号出力部348、バッファ領域340、基本波成分検出部351、過負荷判定部352、を有する。
FIRフィルタ(有限インパルス応答フィルタ)341は、AD変換器33で生成されたディジタルデータに含まれる周波数成分のうち、少なくとも基本波成分を除去するように設定されたフィルタ係数を有する。FIRフィルタ341の目標周波数分解能は、例えば送電線L1を流れる電力信号の基本波成分の変動に起因した分数調波成分の周波数変動幅に基づいて設定される。周波数変動幅が1Hzであれば、目標周波数分解能も1Hzに設定される。目標周波数分解能が1Hzの場合、目標周波数分解能に対応する周波数の1周期分に相当するサンプリング時間である基準サンプリング期間は1secになる。ここで、基準サンプリング期間の間にAD変換器33によりサンプリングされるディジタルデータの数をS(Sは正の整数)とする。このとき、FIRフィルタ341は、基準サンプリング期間の少なくとも半分の期間(RMS算出期間)内にサンプリングされたS/2個のディジタルデータと、フィルタ長N(Nは正の奇数)に相当する数のディジタルデータとをフィルタリングする。そして、FIRフィルタ341は、S/2個のディジタルデータ(第2ディジタルデータ)を生成する。例えばAD変換器33のサンプリング周波数が720Hzであれば、Sの値は720となる。FIRフィルタ341は、生成したS/2個のディジタルデータをRMS演算部342へ出力する。以下、S/2個を適宜A個として説明する。
RMS演算部342は、FIRフィルタ341から入力されるA個のディジタルデータのRMS値を算出して分数調波判定部343へ出力する。
分数調波判定部343は、RMS演算部342から入力されるRMS値と予め設定されたRMS閾値とを比較し、RMS値がRMS閾値を連続して超える時間である継続時間が予め設定された判定継続時間を超える場合、分数調波異常通知を指令信号出力部348へ出力する。
高周波発生制御部345は、高周波発生回路37に対して高周波信号を出力するよう指令する高周波出力指令信号を出力する。高周波出力指令信号には、高周波発生回路37から出力される高周波信号の、周波数情報が含まれる。後述のように、高周波発生回路37は、高周波出力指令信号に含まれる周波数情報が示す周波数の高周波信号を出力する。高周波発生制御部345は、常時または一定周期(例えば24時間の周期)で、高周波出力指令信号を高周波発生回路37へ出力する。また、高周波発生制御部345は、周波数情報を、予め設定された周波数且つ所定の時間間隔で、高周波成分検出部346bへ出力する。
高周波成分検出部(基準周波数成分検出部)346bは、異常判定に用いる基準周波数を有する高周波信号(判定用アナログ信号)が検出信号に重畳されているときに、AD変換器33から入力されるディジタルデータに含まれる基準周波数の高周波成分の振幅値を算出する。この高周波成分は、基準周波数と同じ周波数の成分に相当する。高周波成分検出部346bは、取得したディジタルデータについて、基準周波数の余弦成分と正弦成分とを演算により算出し、算出した余弦成分と正弦成分とから、高周波成分の振幅値として算出する。高周波成分検出部346bが実行する処理の詳細は後述する。
高周波成分異常判定部347は、ディジタルデータに含まれる高周波成分(基準周波数成分)の振幅値に基づいて、フィルタ回路32が有するアナログフィルタやAD変換器33の経年劣化や偶発故障等の発生を監視するためのものである。高周波成分異常判定部347は、高周波成分検出部346bから入力される高周波成分の振幅値と補助記憶部34cに予め記憶されている高周波成分閾値とを比較する。そして、高周波成分異常判定部347は、高周波成分の振幅値が高周波成分閾値を下回る場合、報知部36へ装置異常通知信号を出力する。高周波異常判定部347が実行する処理の詳細は後述する。
直流成分異常判定部346aは、ディジタルデータに含まれる直流成分のレベルに基づいて、フィルタ回路32やAD変換器33の経年劣化や偶発故障等の発生を監視するためのものである。直流成分異常判定部346aは、特定の判定対象期間の間にサンプリングされたディジタルデータのうち、そのレベル絶対値が判定基準値以上のディジタルデータの割合とこの割合に対する割合閾値とに基づいて、直流成分のレベルの異常を判定する。判定基準値は、例えば最大レベル絶対値の90%に相当する値に設定される。また、割合閾値は、例えば90%に設定される。そして、直流成分異常判定部346aは、直流成分の振幅値が異常と判定した場合、報知部36へ装置異常通知信号を出力する。直流成分異常判定部346aが実行する処理内容の詳細は後述する。
基本波成分検出部351は、ディジタルデータに含まれる、基本波成分を抽出し、抽出した基本波成分の振幅値を算出する。また、基本波成分検出部351は、算出した基本波成分の振幅値を過負荷判定部352へ出力する。
過負荷判定部352は、補助記憶部34cから基本波成分閾値を取得し、基本波成分検出部351から入力される基本波成分の振幅値が基本波成分閾値よりも大きいか否かを判定する。過負荷判定部352は、判定結果に応じて、過負荷通知を指令信号出力部348へ出力する。
指令信号出力部348は、分数調波判定部343から入力される分数調波異常通知または過負荷判定部352から入力される過負荷通知に基づいて、開指令信号または閉指令信号を生成して側路開閉器駆動部60へ出力する。
報知部36は、例えば異常表示部(図示せず)等を備える。報知部36は、直流成分異常判定部346aまたは高周波成分異常判定部347から装置異常通知信号が入力されると、異常表示部を点滅させる。
高周波発生回路37は、高周波発生制御部345から高周波出力指令信号が入力されると、高周波出力指令信号に含まれる基準周波数の高周波信号に対応するディジタルデータを出力する。高周波発生回路37は、例えば基準周波数を有する正弦波ディジタルデータをDA変換器38へ出力する。この高周波発生回路37とフィルタ回路32が有する加算器とを併せて、信号生成重畳部と呼ぶこともできる。
DA変換器38は、高周波発生回路37から入力されるディジタルデータをアナログ信号に変換してフィルタ回路32へ出力する。
次に、本実施の形態に係るディジタル形保護リレー1が備える、分数調波ユニットの制御部34が実行する開閉器制御処理、過負荷検出処理および装置異常検出処理について具体例に基づき説明する。これらの処理は、例えばユーザがディジタル形保護リレー1に電源を投入したことを契機として開始可能となる。また、これらの処理は、並行して実行される。ここでは、装置異常検出処理が予め設定された装置異常検出時期が到来する毎に実行されるものとする。例えば、AD変換器33のサンプリング周波数は720Hz、FIRフィルタ341の目標周波数分解能は1Hz、FIRフィルタ341のフィルタ長は143に設定されているものとする。
[開閉器制御処理]
初めに、開閉器制御処理について、図4を参照しながら説明する。まず、FIRフィルタ341は、主記憶部34bのバッファ領域340に記憶されているディジタルデータ(第1ディジタルデータ)を取得する(ステップS1)。ここで、FIRフィルタ341は、目標周波数分解能(1Hz)に対応する基準サンプリング期間(1sec)の間にサンプリングされる720個のディジタルデータのうちA個(360個)のディジタルデータをフィルタリングする。この360個のディジタルデータは、基準サンプリング期間の半分の長さの期間(RMS算出期間は、ここでは0.5secである。)内にサンプリングされたものである。このとき、FIRフィルタ341は、360個のディジタルデータの他に、フィルタ長(143)に相当する数のディジタルデータを用いる。即ち、FIRフィルタ341は、(A+N)個(503個=360+143)のディジタルデータを用いる。
次に、FIRフィルタ341は、A+N個(503個)のディジタルデータを用いてフィルタ演算を実行する(ステップS2)。具体的には、FIRフィルタ341は、下記式(1)の関係式を用いて、ディジタルデータx(*)に対して、フィルタ演算を実行し、A個のディジタルデータy(*)を生成する。
ここで、Nはフィルタ長、h(*)はフィルタ係数、kはフィルタ係数のインデックス、n、n−kは、それぞれ時系列のディジタルデータのインデックスである。
式(1)によれば、ディジタルデータy(n)は、x(n)よりも過去のディジタルデータx(n−k)を用いて算出されることが判る。例えば分数調波成分の振幅値異常が発生した時点のディジタルデータをy(0)とした場合、y(0)は、それよりも過去のフィルタ長Nに相当する数のディジタルデータx(−k)(k=0、1、・・・、N−1)を用いて算出できる。従って、分数調波成分の振幅値異常が発生した時点からRMS値を算出するまでの応答時間は、A個のディジタルデータを取得するのに必要なRMS算出期間とフィルタ長Nに相当する数のディジタルデータを取得するのに必要な期間の長さとの和に相当する長さとなる。
フィルタ係数h(*)は、ローパスフィルタ関数hL(*)とハミング窓関数w(*)との積である。具体的には、フィルタ係数h(*)、ローパスフィルタ関数hL(*)およびハミング窓関数w(*)は、下記式(2)に示す関係式で表される。
ここで、ωCは、ローパスフィルタ関数の遮断周波数fCをサンプリング周波数fsで正規化して得られる値であり、下記式(3)で表される。
ここで、遮断周波数fCは、遮断次数(Z)とディジタルデータの基本波周波数(f0)との積として定義することができる。
続いて、RMS演算部342は、FIRフィルタ341により変換されたデータについてRMS演算を実行する(ステップS3)。具体的には、RMS演算部342は、下記式(4)に従って、ディジタルデータy(n)(n=0〜A−1)を用いてRMS演算を実行し、RMS値Yを算出する。
その後、分数調波判定部343は、RMS演算部342が算出したRMS値が補助記憶部34cに予め記憶されたRMS閾値よりも大きいか否かを判定する(ステップS4)。ステップS4において、RMS値が予め設定されたRMS閾値以下と判定されると(ステップS4:No)、そのままステップS1の処理に戻る。次のステップS1〜S4では、使用するディジタルデータx(n)のnの範囲が+1だけシフトする。
一方、ステップS4において、RMS値が予め設定されたRMS閾値よりも大きいと判定されると(ステップS4:Yes)、分数調波判定部343は、RMS値が予め設定されたRMS閾値よりも大きいと連続して判定され続けられている時間、即ち、RMS値が連続してRMS閾値よりも大きい状態を継続する継続時間が判定継続時間を超えたか否かを判定する(ステップS5)。ステップS5において、継続時間が判定継続時間を超えていないと判定されると(ステップS5:No)、そのままステップS1の処理に戻り、ステップS1からS4までの処理が繰り返し実行される。
一方、ステップS5において、継続時間が判定継続時間を超えたと判定されると(ステップS5:Yes)、分数調波判定部343が、分数調波異常通知を指令信号出力部348へ出力する。また、指令信号出力部348は、分数調波異常通知が入力されると、側路開閉器SW21が閉状態であるか否かを判定する(ステップS6)。この判定は、主記憶部34bの開閉状態情報記憶領域に記憶されている開閉状態情報に基づいて実行される。
ステップS6において、側路開閉器SW21が開状態であると判定されると(ステップS6:No)、指令信号出力部348は、側路開閉器SW21を閉状態にするよう指令する閉指令信号を側路開閉器駆動部60に出力する(ステップS7)。この信号を受けて、側路開閉器駆動部60は側路開閉器SW21を閉状態にする。その後、ステップS1の処理が実行される。
一方、ステップS6において、側路開閉器SW21が閉状態であると判定されると(ステップS6:Yes)、指令信号出力部348は、側路開閉器SW22が閉状態であるか否かを判定する(ステップS8)。この判定は、主記憶部34bの開閉状態情報記憶領域に記憶されている開閉状態情報に基づいて実行される。
ステップS8において、側路開閉器SW22が開状態であると判定されると(ステップS8:No)、指令信号出力部348は、側路開閉器SW22を閉状態にするよう指令する閉指令信号を側路開閉器駆動部60に出力する(ステップS9)。この信号を受けて、側路開閉器駆動部60は側路開閉器SW22を閉状態にする。その後、ステップS1の処理に戻る。
一方、ステップS8において、側路開閉器SW22が閉状態であると判定されると(ステップS8:Yes)、指令信号出力部348は、遮断器SW1を開状態にするよう指令する開指令信号を遮断器駆動部50に出力する(ステップS10)。すると、遮断器駆動部50は遮断器SW1を開状態にする。そして、開閉器制御処理を終了する。
なお、RMS値がRMS閾値以下であるとき、指令信号出力部348は、側路開閉器SW21、22を開状態にするよう指令する開指令信号を出力してもよい。また、RMS値の全てがRMS閾値を超えており且つ判定継続時間が経過した場合、指令信号出力部348は、側路開閉器SW21、22を閉状態にするよう指令する閉指令信号を出力してもよい。
次に、このようなディジタル形保護リレー1の分数調波検出の周波数特性について説明する。まず、FIRフィルタ341のフィルタ係数がハミング窓関数を含む場合と窓関数を含まない場合とのそれぞれのFIRフィルタ341の周波数分析の結果得られる周波数特性を図5に示す。これは、フィルタ回路32に白色雑音信号を入力した時の分析結果に対応する。FIRフィルタ341の遮断周波数fCは、42Hzとした。これは、基本周波数を60Hz、遮断次数を0.7に設定した場合に相当する。また、AD変換器33のサンプリング周波数は、720Hzに設定した。目標周波数分解能を1Hz、即ち、基準サンプリング期間を1secとした。RMS演算部342がRMS値を算出する対象であるRMS算出期間の長さを0.5secとし、フィルタ長を143とした。RMS算出期間に含まれるディジタルデータの数は、基本波周波数を60Hzとしたときの30周期分に相当し、360(=720×0.5)である。
同じ条件で、FIRフィルタ341の代わりに、FFT処理を実行する従来の方法の場合、分数調波成分の大きさを算出するのに必要なサンプリング数は720(=720(Hz)/1(Hz))である。サンプリング数が720を下回ると、FFT処理の出力の周波数特性は、所定の振幅値を有する周波数が1Hzよりも大きい周波数間隔で離散したものとなり、周波数分解能が1Hzよりも大きくなってしまう。
これに対して、本実施の形態に係るFIRフィルタ341の周波数特性は、所定の振幅値を有する周波数が連続的に存在したものとなる。図5(A)はフィルタ係数が窓関数を含まない場合のFIRフィルタ341の出力の周波数特性を示し、図5(B)はフィルタ係数がハミング窓関数を含む場合のFIRフィルタ341の出力の周波数特性を示す。なお、図5において、縦軸は振幅値を示し、横軸は周波数を示す。また、図5(A)および(B)は、周波数間隔を周波数分解能1Hz以下に設定して分析した結果である。図5(A)および(B)に示すように、フィルタ係数が窓関数を含まない場合およびハミング窓関数を含む場合のいずれにおいても、周波数に対して連続的に変化する周波数特性が得られている。このことから、本実施の形態に係るFIRフィルタ341によれば、AD変換器33のサンプリング周波数が720Hzの場合において、取得するディジタルデータの個数を503(360+143)としながら、少なくとも1Hzの周波数分解能が得られていることが判る。つまり、本実施の形態に係るFIRフィルタ341によれば、FFT処理を用いた構成に比べて、サンプリング数を低減しつつFFT処理と同等の周波数分解能を実現することができる。
また、フィルタ係数が窓関数を含まない場合、図5(A)に示すように、振幅値のゆらぎの絶対値が、42Hz以下の周波数帯域における振幅平均値の1%を超えている。一方、ハミング窓関数を含む場合、図5(B)に示すように、振幅値のゆらぎの絶対値が、42Hz以下の周波数帯域における振幅平均値の1%以内に収まっている。即ち、ハミング窓関数を含む場合の方が窓関数を含まない場合に比べて振幅値のゆらぎが低減していることが判った。
図6は、RMS算出期間の長さを変化させた場合におけるFIRフィルタ341の出力の周波数特性を示す。ここで、FIRフィルタ341の遮断周波数fC、AD変換器33のサンプリング周波数、目標周波数分解能、フィルタ長は、図5の場合と同じである。図6(A)はRMS算出期間の長さを基本波の29周期分とした場合のFIRフィルタ341の出力の周波数特性を示し、図6(B)はRMS算出期間の長さを0.5秒間(基本波の30周期分、基準サンプリング期間の半分の長さ)とした場合のFIRフィルタ341の出力の周波数特性を示す。また、図6(C)はRMS算出期間の長さを基本波の31周期分とした場合のFIRフィルタ341の出力の周波数特性を示す。図6(A)および(C)の場合、いずれも42Hz以下の周波数帯域における振幅値のゆらぎが42Hz以下の周波数帯域における振幅平均値の1%を超えている。これに対して、図6(B)の場合、42Hz以下の周波数帯域における振幅値のゆらぎが42Hz以下の周波数帯域における振幅平均値の1%以内に収まっている。これらの結果から、42Hz以下の周波数帯域における振幅値のゆらぎを42Hz以下の周波数帯域における振幅平均値の1%以内に収めるためには、RMS算出期間の長さが0.5秒間(基準サンプリング期間の半分の長さ)とするのがよいことが判った。
ところで、分数調波の振幅異常を精度よく検出するには、FIRフィルタ341の出力のゆらぎは1%以内であることが一般的に要請されている。これに対して、図5および図6の周波数特性から判るように、FIRフィルタ341のフィルタ係数がハミング窓関数を含み、RMS算出期間の長さが0.5秒間に設定されれば、FIRフィルタ341の出力のゆらぎは1%以内に収まる。つまり、FIRフィルタ341のフィルタ係数がハミング窓関数を含み、RMS算出期間の長さが0.5秒間に設定されることで、分数調波の振幅異常をより精度良く検出することができる。
同じ条件で、FIRフィルタ341およびRMS演算部342の代わりに、FFT処理を用いた場合、目標周波数分解能1Hzで分数調波成分の大きさを算出するのに必要なサンプリング数は720(=720(Hz)/1(Hz))である。そして、各分数調波成分の振幅値を算出してから、例えば基本波周波数の遮断次数(0.7)倍の周波数以下の分数調波成分の振幅値を積分し、分数調波成分の評価値として出力する。
これに対して、本実施の形態に係る分数調波・過負荷保護ユニット30では、周波数分解能1Hzで分数調波成分の大きさを判定するために必要なディジタルデータの数を720よりも小さくすることができる。1Hz(目標周波数分解能)で分数調波成分の振幅値を算出するために必要なディジタルデータを取得する時間は、RMS算出期間の長さ(0.5sec)とフィルタ長Nに相当する数のディジタルデータを取得するのに必要な期間の長さとの和に相当する。ここで、フィルタ長Nに相当する数のディジタルデータを取得するのに必要な期間の長さは、0.5secよりも短い。それ故、例えばFFT処理を実行するディジタル形保護リレーに比べて、分数調波成分の振幅値を算出するのに必要な時間を低減させることができるので、分数調波成分の振幅値を高速に検出できる。なお、目標周波数分解能は1Hzに限定されない。また、サンプリング周波数は720Hz以外の周波数であってもよい。更に、フィルタ長は143に限らずそれ以外の値に設定されていてもよい。
また、本実施の形態に係る開閉器制御処理では、分数調波成分の振幅値の異常を検出する毎に、側路開閉器SW21、SW22の開閉状態に応じて段階的に閉状態にする。これにより、分数調波成分の異常が発生しなくなる最低限の数のコンデンサC11およびC12のいずれか一方だけをバイパス線L11またはL12を介してバイパスすることができるので、コンデンサC11、C12の両方がバイパスされることによる送電線L1の電圧変動の発生を抑制することができる。
本実施の形態に係る分数調波・過負荷保護ユニット30は、更に、過負荷の有無と装置異常の有無とを検出することができる。以下、過負荷の有無を検出するための過負荷検出処理と装置異常を検出するための装置異常検出処理とについて詳述する。
[過負荷検出処理]
本実施の形態に係る過負荷検出処理について、図7を参照しながら説明する。過負荷検出処理は、コンデンサC11、C12、変圧器H0に過負荷が加わっているか否かを診断するための処理である。まず、基本波成分検出部351は、バッファ領域340からディジタルデータを取得する(ステップS401)。また、基本波成分検出部351は、基本波信号の1周期を2p(pは正の整数)等分した各時点におけるディジタルデータを取得する。サンプリング周波数が720Hzで検出信号の基本波成分の周波数が60Hzである場合、pは「6」になる。
次に、基本波成分検出部351は、ディジタルデータに含まれる、基本波成分を抽出し、抽出した基本波成分の大きさを算出する基本波成分抽出処理を実行する(ステップS402)。ここでは、基本波成分検出部351は、まず、補助記憶部34cから基本波の周波数を示す周波数情報を取得する。次に、基本波成分検出部351は、この周波数情報に基づいて算出される基本波の周期を、2p等分した各時点におけるディジタルデータを取得する。続いて、基本波成分検出部351は、下記式(5)および式(6)を用いて、余弦成分Icおよび正弦成分Isを算出する。
ここで、im、im+pは、それぞれ基本波成分の周期を2p等分したときのm、m+p番目のディジタルデータのインデックスを示す。その後、基本波成分検出部351は、式(5)および(6)を用いて算出した余弦成分Icと正弦成分Isとの二乗和の平方根を算出する。そして、基本波成分検出部351は、算出した二乗和の平方根を、基本波成分の振幅値として過負荷判定部352へ出力する。
続いて、過負荷判定部352は、補助記憶部34cから基本波成分閾値を取得し、入力される基本波成分の振幅値が基本波成分閾値よりも大きいか否かを判定する(ステップS403)。ステップS403において、振幅値が基本波成分閾値以下であると判定されると(ステップS403:No)、ステップS401の処理に戻る。次のステップS401〜S403では、使用するディジタルデータx(n)のnの範囲が+1だけシフトする。一方、ステップS403において、振幅値が基本波成分閾値よりも大きいと判定されたとする(ステップS403:Yes)。この場合、過負荷判定部352は、基本波成分の振幅値が基本波成分閾値よりも大きい状態での継続時間が判定継続時間を超えたか否かを判定する(ステップS404)。ステップS404において、継続時間が判定継続時間を超えていないと判定されると(ステップS404:No)、そのままステップS401の処理に戻り、ステップS401からS403までの処理が繰り返し実行される。
一方、ステップS404において、継続時間が判定継続時間を超えたと判定されると(ステップS404:Yes)、過負荷判定部352は、過負荷通知を指令信号出力部348へ出力する。また、指令信号出力部348は、過負荷通知が入力されると、側路開閉器SW21が閉状態であるか否かを判定する(ステップS405)。
ステップS405において、側路開閉器SW21が開状態であると判定されると(ステップS405:No)、指令信号出力部348は、側路開閉器SW21を閉状態にするよう指令する閉指令信号を側路開閉器駆動部60に出力する(ステップS406)。この信号を受けて、側路開閉器駆動部60は側路開閉器SW21を閉状態にする。その後、ステップS401の処理に戻る。一方、ステップS405において、側路開閉器SW21が閉状態であると判定すると(ステップS405:Yes)、指令信号出力部348は、側路開閉器SW22が閉状態であるか否かを判定する(ステップS407)。
ステップS407において、側路開閉器SW22が開状態であると判定すると(ステップS407:No)、指令信号出力部348は、側路開閉器SW22を閉状態にするよう指令する閉指令信号を側路開閉器駆動部60に出力する(ステップS408)。この信号を受けて、側路開閉器駆動部60は、側路開閉器SW22を閉状態にする。その後、ステップS1の処理に戻る。一方、ステップS407において、側路開閉器SW22が閉状態であると判定すると(ステップS407:Yes)、指令信号出力部348は、遮断器SW1を開状態にするよう指令する開指令信号を遮断器駆動部50に出力する(ステップS409)。この信号を受けて、遮断器駆動部50は、遮断器SW1を開状態にする。以上で開閉器制御処理を終了する。
なお、振幅値が基本波成分閾値以下であるとき、指令信号出力部348は、側路開閉器SW21、22を開状態にするよう指令する開指令信号を出力してもよい。また、振幅値が基本波成分閾値を超えており且つ判定継続時間が経過した場合、指令信号出力部348は、側路開閉器SW21、22を閉状態にするよう指令する閉指令信号を出力してもよい。
[装置異常検出処理]
次に、装置異常検出処理について図3および図8を参照しながら説明する。装置異常検出処理は、フィルタ回路32が有するアナログフィルタまたはAD変換器33の異常を診断するための処理である。この装置異常検出処理では、検出信号に含まれる高周波成分の振幅値の異常を検出する高周波成分異常検出処理と、検出信号に含まれる直流成分の振幅値の異常を検出する直流成分異常検出処理と、が並行して実行される。高周波成分検出処理では、装置異常検出時期が到来する毎に、高周波発生制御部345は、高周波を出力するように指令する高周波出力指令信号を高周波発生回路37へ出力する。ここで、高周波発生制御部345は、補助記憶部34cに記憶された異常検出時期情報と、制御部34に内蔵されたタイマのカウント値と、に基づいて、装置異常検出時期の到来を判定する。高周波発生制御部345は、高周波発生回路37から出力される高周波信号について、その基準周波数を示す周波数情報を高周波成分検出部346bへ出力する。高周波発生回路37は、高周波出力指令信号が入力されると、DA変換器38を介して高周波信号をフィルタ回路32へ出力する。
高周波成分検出部346bは、ディジタルデータに含まれる、高周波発生回路37から出力される基準周波数の高周波と同じ周波数成分を抽出し、抽出した周波数成分の振幅値を算出する。ここでは、高周波成分検出部346bは、まず、高周波発生回路37から出力される高周波の1周期を2p等分した各時点におけるディジタルデータを取得する。ここで、高周波を基本波のq次高調波と看做すと、基準周波数の高周波成分の振幅値の算出について、2pを2p/qとすれば式(5)および式(6)がそのまま使えることになる。即ち、高周波成分検出部346bは、図7の過負荷検出処理のステップS402の処理と同様に、式(5)および式(6)を用いて算出した余弦成分Icと正弦成分Isとの二乗和の平方根を、高周波成分の振幅値として高周波成分異常判定部347へ出力する。
高周波成分異常判定部347は、補助記憶部34cから高周波成分閾値を取得し、入力される高周波成分の振幅値が高周波成分閾値よりも大きい場合、装置異常通知信号を報知部36へ出力する。報知部36は、装置異常通知信号が入力されると、装置が異常である旨をユーザに通知する。
また、直流成分異常検出処理では、直流成分異常検出部346aが、装置異常検出時期が到来する毎に、直流成分のレベルの異常が発生しているか否かを判定する。直流成分異常検出部346aは、バッファ領域340から例えば基本波の3周期分に相当する期間にサンプリングされたディジタルデータを取得する。そして、直流成分異常判定部346aは、補助記憶部34cから判定基準値および割合閾値を取得し、取得したディジタルデータ(3周期分のディジタルデータ)のうち、その絶対値が判定基準値以上の大きさのディジタルデータの割合を算出する。直流成分異常判定部346aは、算出した割合が割合閾値以上である場合に、直流成分の振幅値が異常であると判定する。
判定基準値が振幅最大値の90%に相当する値に設定され、割合閾値が90%に設定されているとする。この場合、例えば図8(A)に示すように、基本波の3周期分のディジタルデータのうち、その振幅値が、振幅最大値ImaxとImax×0.9に相当する値との間の範囲内にあるディジタルデータの割合が90%以上であると、直流成分異常判定部346aは直流成分の振幅値が異常であると判定する。
また、図8(B)に示すように、基本波の3周期分のディジタルデータのうち、その振幅値が、振幅最小値IminとImin×0.9に相当する値との間の範囲内であるディジタルデータの割合が90%以上であるとする。そして、判定基準値が、0よりも小さく、その絶対値が振幅最小値の絶対値の90%に相当する値に設定され、割合閾値が90%に設定されているとする。この場合も、直流成分異常判定部346aは直流成分の振幅値が異常であると判定する。直流成分異常判定部346aは、直流成分の振幅値が異常であると判定すると、装置異常通知信号を報知部36へ出力する。報知部36は、装置異常通知信号が入力されると、装置が異常である旨をユーザに通知する。
以上説明したように、本実施の形態に係る分数調波・過負荷保護ユニット30は、直流成分異常検出部346aと、高周波発生回路37と、高周波成分検出部346bと、高周波成分異常判定部347と、を備える。これにより、フィルタ回路32やAD変換器33の一部を構成するオペアンプや抵抗等の故障に起因した分数調波成分の誤検出を抑制できる。
また、本実施の形態に係る分数調波・過負荷保護ユニット30は、分数調波検出機能と過負荷検出機能とを兼ね備えることにより、ディジタル形保護リレー1の簡素化が図れる。
[変形例]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は前述の実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば、分数調波・過負荷保護ユニットが、複数の系統それぞれからの入力信号に対して各別に分数調波成分および基本波成分の振幅値の異常を検出するものであってもよい。
図9に示すように、本変形例に係る分数調波・過負荷保護ユニット2030は、複数の信号変換器31と、複数のフィルタ回路32と、複数のAD変換器33と、を備える。一次巻線、二次巻線の組は、複数の入力信号Sig1、・・・、SigMそれぞれに対して1組ずつ設けられている。また、分数調波・過負荷保護ユニット2030は、制御部2034へディジタルデータを入力する複数のAD変換器33を時分割で切り替えるマルチプレクサ39を備える。分数調波・過負荷保護ユニット2030のハードウェア構成は、図2に示す構成と同様である。なお、図9において、実施の形態と同様の構成については図3と同一の符号を付している。
DA変換器38は、全てのフィルタ回路32に共通に接続されている。また、側路開閉器駆動部60は、複数の信号入力それぞれに対応する側路開閉器SW21、SW22(図1参照)を各別に駆動する。
制御部2034は、マルチプレクサ39の動作を制御することにより、制御部2034へディジタルデータを入力するAD変換器33を選択する入力管理部349を有する。また、制御部2034の主記憶部34b(図2参照)は、複数の系統それぞれからの入力信号に付与された入力識別情報のいずれかが記憶される識別情報記憶領域を有する。
補助記憶部34c(図2参照)には、マルチプレクサ39がAD変換器33を切り替える時期を示す切替時期情報が記憶されている。切替時期情報は、例えば入力の切り替えを行う周期(例えば10msec)から構成される。切替時期情報は、例えばディジタル形保護リレー1の工場出荷時において、入力装置(図示せず)を介して予め補助記憶部34cに記憶される。
入力管理部349は、複数の系統それぞれからの入力信号に対応するディジタルデータを、系統毎に区別できる形でバッファ領域340に記憶させる。入力管理部349は、マルチプレクサ39が制御部34に接続されるAD変換器33を切り替える毎に、識別情報記憶領域に記憶される入力識別情報を更新する。
次に、本変形例に係る分数調波・過負荷保護ユニット2030の制御部2034が実行する開閉器制御処理および過負荷検出処理について図10および図11を参照しながら説明する。なお、図10および図11において実施の形態と同一の処理については図4および図7と同一の符号を付している。実施の形態と同様に、開閉器制御処理と装置異常検出処理とは、並行して実行される。なお、装置異常検出処理では、入力識別情報毎に、実施の形態で説明した装置異常検出処理と同様の処理が実行される。
初めに、開閉器制御処理について、図10を参照しながら説明する。本変形例に係る開閉制御処理では、入力管理部349がマルチプレクサ39を介して制御部2034へ入力されるディジタルデータに対応する系統を定期的に切り替える点が実施の形態と相違する。まず、FIRフィルタ341は、主記憶部34bの入力識別情報記憶領域に記憶されている入力識別情報を取得する(S201)。入力識別情報は、マルチプレクサ39から制御部2034へ入力されるディジタルデータに対応する入力信号の識別情報である。
次に、FIRフィルタ341は、入力識別情報に対応するディジタルデータを主記憶部34bのバッファ領域340から取得する(ステップS202)。続いて、ステップS2からステップS10までの処理が図4の場合と同様に実行される。
ステップS9の処理が実行された場合、入力管理部349は、制御部2034へ入力されるディジタルデータに対応する系統を切り替える入力切替時期が到来したか否かを判定する(ステップS203)。入力管理部349は、補助記憶部34cに記憶された切替時期情報と、制御部34に内蔵されたタイマのカウント値と、に基づいて、入力切替時期が到来したか否かを判定する。ステップS203において、入力切替時期が到来していないと判定されると(ステップS203:No)、ステップS201の処理に戻る。一方、入力切替時期が到来したと判定されると(ステップS203:Yes)、入力管理部349は、マルチプレクサ39を制御して制御部2034へディジタルデータを出力するAD変換器33を変更するとともに、識別情報記憶領域に記憶される入力識別情報を他の系統の入力信号に付与された入力識別情報に更新する(ステップS204)。その後、ステップS201の処理に戻る。
次に、本変形例に係る過負荷検出処理について、図11を参照しながら説明する。本変形例に係る過負荷検出処理では、基本波成分検出部351がバッファ領域340から入力識別情報に対応するディジタルデータを取得する点が実施の形態と相違する。まず、基本波成分検出部351は、主記憶部34bの入力識別情報記憶領域に記憶されている入力識別情報を取得する(S501)。次に、基本波成分検出部351は、入力識別情報に対応するディジタルデータをバッファ領域340から取得する(ステップS502)。その後、ステップS402以降の処理が実行される。ステップS404以降の側路開閉器SW21、SW22および遮断器SW1を制御する処理は、入力識別情報に対応する系統毎に各別に実行される。この点を除けば、ステップS402〜S409の処理内容は図7で説明した処理内容と同じである。
本変形例に係るディジタル形保護リレーによれば、1つの分数調波・過負荷保護ユニット2030が、複数の信号入力における分数調波成分の振幅値の異常有無を判定できる。これにより、複数の系統を1つの分数調波・過負荷保護ユニット2030で管理することが可能となるので、必要なディジタル形保護リレーの数の低減を図ることができる。
また、前述の変形例において、マルチプレクサ39を省略した構成であってもよい。即ち、複数のAD変換器33が制御部2034へ直接ディジタルデータを出力する構成であってもよい。この場合、入力管理部349が、各AD変換器33から入力されるディジタルデータを、入力識別情報に対応付けてバッファ領域340に記憶させるようにすればよい。
また、前述の変形例において、マルチプレクサ39と複数のAD変換器33との間に、サンプルホールド回路(図示せず)が設けられた構成であってもよい。この構成によれば、複数の入力信号Sig1、Sig2、・・・、SigMについて取得したディジタルデータの同時性を確保することができる。
また、実施の形態では、FIRフィルタ341のフィルタ係数にローパスフィルタ関数が含まれるものについて説明した。これに限らず、FIRフィルタ341のフィルタ係数h(k)が、バンドエリミネーションフィルタ関数を含むものであってもよい。具体的には、周波数fBECを中心とした所定の周波数帯域を除去するバンドエリミネーションフィルタ関数hBE(k)をfunc(fBEC,k)とした場合、フィルタ係数h(k)が下記式(7)に示すように設定されるようにすればよい。
次に、本変形例に係るFIRフィルタ341で使用されるフィルタ係数について説明する。まず、FIRフィルタ341のフィルタ係数がハミング窓関数を含む場合と含まない場合のFIRフィルタ341の出力の周波数特性を図12に示す。FIRフィルタ341の中心周波数fBECは、60Hzとした。AD変換器33のサンプリング周波数、目標周波数分解能、RMS算出期間の長さ、フィルタ長は、実施の形態の図5の場合と同じである。
図12(A)はフィルタ係数が窓関数を含まない場合のFIRフィルタ341の出力の周波数特性を示し、図12(B)はフィルタ係数がハミング窓関数を含む場合のFIRフィルタ341の出力の周波数特性を示す。なお、図12において、縦軸は振幅値を示し、横軸は周波数を示す。フィルタ係数がハミング窓関数を含まない場合、図12(A)に示すように、振幅値のゆらぎの絶対値が、30Hz以下90Hz以上の周波数帯域における振幅平均値の1%を超えている。一方、フィルタ係数がハミング窓関数を含む場合、図12(B)に示すように、振幅値のゆらぎの絶対値が、30Hz以下90Hz以上の周波数帯域における振幅平均値の1%以内に収まっている。これらより、フィルタ係数がハミング窓関数を含む場合のほうがそれを含まない場合に比べて振幅値のゆらぎが大きく低減されることが判った。
また、FIRフィルタ341のフィルタ係数がハミング窓関数を含む場合において、RMS算出期間の長さを変化させた場合におけるFIRフィルタ341の出力の周波数特性を図13に示す。ここで、FIRフィルタ341の中心周波数fBEC、AD変換器33のサンプリング周波数、目標周波数分解能、フィルタ長は、図12の場合と同じである。図13(A)はRMS算出期間の長さを基本波の29周期分とした場合のFIRフィルタ341の出力の周波数特性を示し、図13(B)はRMS算出期間の長さを0.5秒間(基本波の30周期分、基準サンプリング期間の半分の長さ)とした場合のFIRフィルタ341の出力の周波数特性を示す。また、図13(C)はRMS算出期間の長さを基本波の31周期分とした場合のFIRフィルタ341の出力の周波数特性を示す。図13(A)および(C)の場合、いずれも30Hz以下90Hz以上の周波数帯域における振幅値のゆらぎが30Hz以下90Hz以上の周波数帯域における振幅平均値の1%を超えている。これに対して、図13(B)の場合、30Hz以下90Hz以上の周波数帯域における振幅値のゆらぎが30Hz以下90Hz以上の周波数帯域における振幅平均値の1%以内に収まっている。これらの結果から、RMS算出期間の長さは、30Hz以下90Hz以上の周波数帯域における振幅値のゆらぎの絶対値を小さくする観点から、0.5秒間(基準サンプリング期間の半分の長さ)とするのが最適であることが判った。
本構成によれば、FIRフィルタ341およびRMS演算部342により、分数調波成分の振幅異常のみならず、高周波成分の振幅異常を検出する構成を実現できる。FIRフィルタ341およびRMS演算部342は、分数調波成分の振幅値と高周波成分の振幅値とを時分割で検出する。この場合、信号変換器31がフィルタ回路32へ検出信号を出力する状態と出力しない状態とを切り替えるスイッチを備える構成とすれば、信号変換器31から検出信号が入力されているときは、高周波発生回路37は高周波信号の出力を停止する。これにより、分数調波成分の振幅異常を検出することができる。一方、高周波発生回路37が高周波信号を出力しているときは、信号変換器31は、検出信号のフィルタ回路32への入力を停止する。これにより、高周波成分の振幅異常を検出することにより、フィルタ回路32またはAD変換器33の異常を検出することができる。つまり、分数調波成分の振幅異常検出と、高周波成分の振幅異常検出とを、共通のFIRフィルタ341で行うことができる。
また、本構成は、FIRフィルタ341がローパスフィルタ関数またはバンドエリミネーションフィルタ関数のみから構成される場合に比べてFIRフィルタ341の出力の周波数特性の振幅値のバラツキを低減することができる。従って、分数調波成分の振幅異常を精度良く検出することができる。
実施の形態では、FIRフィルタ341のフィルタ係数がハミング窓関数を含む例について説明した。これに限らず、FIRフィルタ341のフィルタ係数がブラッグマン窓関数を含んでもよい。具体的には、式(2)または式(7)で示されるフィルタ係数に含まれる窓関数が、下記式(8)に示すように設定されればよい。
式(8)に用いられている各記号の意味は、実施の形態の式(2)について説明した各記号の意味と同じである。
本変形例に係るFIRフィルタ341の特性についての評価結果について説明する。フィルタ係数がブラッグマン窓関数を含む場合におけるFIRフィルタ341の出力の周波数特性を図14に示す。ここでは、フィルタ回路32に白色雑音信号が入力された場合におけるFIRフィルタ341の出力波形を比較した。ローパスフィルタ関数を採用する場合、その遮断周波数fCは42Hz(遮断次数0.7)とした。バンドエリミネーションフィルタ関数を採用する場合、その遮断周波数帯域は中心周波数fBECが60Hzの所定の周波数帯域とした。AD変換器33のサンプリング周波数、目標周波数分解能、RMS算出期間の長さ、フィルタ長は、実施の形態の図5の場合と同じである。図14(A)はローパスフィルタ関数を採用した場合のFIRフィルタ341の出力の周波数特性を示し、図14(B)はバンドエリミネーションフィルタ関数を採用した場合のFIRフィルタ341の出力の周波数特性を示す。なお、図14において、縦軸は振幅値を示し、横軸は周波数を示す。図14(A)、(B)に示す結果と図5(A)、図12(A)に示す結果とを比較すると、フィルタ係数がブラッグマン窓関数を含む場合のほうが、ハミング窓関数を含まない場合に比べて、振幅値のバラツキが低減されていることが判る。
本構成によれば、FIRフィルタ341のフィルタ係数がハミング窓関数を含まない場合に比べて、振幅値のバラツキを低減することができる。従って、分数調波の振幅異常を精度良く検出することができる。
実施の形態では、高周波発生回路37が正弦波を示すディジタルデータをDA変換器38へ出力し、DA変換器38がディジタルデータを変換して得られる矩形波信号をそのままフィルタ回路32へ出力する例について説明した。これに限らず、例えば、基準周波数に相当するパルス信号を出力するパルス発生回路(図示せず)とフィルタ回路32との間に、基準周波数よりも高い周波数成分を除去するローパスフィルタ回路を介挿した構成であってもよい。この場合、パルス発生回路(図示せず)から出力される矩形波信号の基準周波数よりも周波数の高い高周波成分がローパスフィルタ回路により除去されるので、ローパスフィルタ回路からフィルタ回路32へ比較的正弦波に近似した信号が入力される。
本構成によれば、DA変換器38を使用するよりも一般的に安価に構成することができる。
実施の形態では、フィルタ回路32が、入力信号の基本波周波数以上の周波数成分を除去するローパスフィルタ回路を備える例について説明した。これに限らず、フィルタ回路32は、例えば高周波発生回路37からDA変換器38を介して入力される高周波信号の周波数帯域において利得が1となるように設定したフィルタ回路を備える構成であってもよい。或いは、フィルタ回路32は、所望の周波数帯域に応じて遮断周波数が変更されたアナログフィルタを備える構成であってもよい。
実施の形態では、装置異常検出処理を間欠的に実施する例について説明したが、これに限らず、例えば、装置異常検出処理を、開閉器制御処理と並行して常時連続的に実施するようにしてもよい。
実施の形態では、高周波発生制御部345が、常時または一定周期(例えば24時間の周期)で、高周波出力指令信号を高周波発生回路37へ出力する例について説明した。これに限らず、例えば、高周波発生制御部345が、ユーザが指定したタイミングで高周波出力指令信号を高周波発生回路37へ出力する構成であってもよい。
実施の形態では、高周波発生回路37が1つである場合について説明した。これに限らず、例えば互いに異なる周波数の高周波を出力する高周波発生回路を複数備える構成であってもよい。この場合、各高周波発生回路から出力される高周波の周波数を予め補助記憶部34cに記憶させておき、高周波成分検出部346bが、補助記憶部34cに記憶された高周波の周波数に基づいて高周波成分を検出する構成とすることができる。この場合、高周波発生制御部345から高周波成分検出部346bへ周波数情報を通知する必要がなくなる。この場合、フィルタ回路32のカットオフ特性の変化を検出することができる。
実施の形態では、指令信号出力部348が、分数調波判定部343から入力される分数調波通知信号に基づいて、開指令信号または閉指令信号を生成して側路開閉器駆動部60へ出力する例について説明した。これに限らず、指令信号出力部348は、直流成分異常判定部346aまたは高周波成分異常判定部347から入力される装置異常通知信号に基づいて、側路開閉器駆動部60を停止させるための停止指令信号を側路開閉器駆動部60へ出力するものであってもよい。
実施の形態では、目標周波数分解能が1Hzである場合について説明したが、目標周波数分解能の大きさはこれに限定されるものではない。例えば、目標周波数分解能が、0Hzよりも大きく1Hz未満の周波数であってもよい。或いは、目標周波数分解能が、1Hzよりも大きい周波数であってもよい。
実施の形態では、分数調波・過負荷保護ユニット30が、分数調波検出機能と過負荷保護機能の両方を兼ね備える例について説明したが、これに限らず、分数調波検出機能を有するユニットと過負荷保護機能を有するユニットとを各別に備える構成であってもよい。
実施の形態に係る送電システムでは、1つの送電線L1に2つのコンデンサC11、C12を直列に接続した例について説明した。これに限らず1つの送電線L1に3個以上のコンデンサが直列に接続された構成であってもよい。この場合、ディジタル形保護リレー1は、3個以上のコンデンサそれぞれの両端間に接続されたバイパス線に介挿された側路開閉器の開閉状態を各別に制御する構成にすることができる。そして、ディジタル形保護リレー1が、分数調波成分の振幅値の異常を検出する毎に3個以上の側路開閉器を段階的に開状態にするよう構成されていてもよい。
実施の形態に係る送電システムにおいて、1つの送電線を途中で2つに分割し、それぞれに直列コンデンサ回路を接続してもよい。この場合、送電システムの信頼性を高めることができる。