本開示は、レアアースミネラル及び/又はレアアースイオンを捕捉するレアアース種捕捉能を有するレアアース種捕捉ペプチド領域と、前記ペプチド領域を集合させる集合要素と、を備える、レアアース種捕捉材料及びその利用に関する。
本開示のレアアース種捕捉材料は、そのレアアース種捕捉ペプチド領域を介して、レアアースイオン又はレアアースの鉱物であるレアアースミネラルであるレアアース種に結合し容易に捕捉することができる。レアアース種捕捉材材料を分離又は回収することで、レアアース種を容易に分離又は回収できる。また、本開示のレアアース種捕捉材料は、レアアース種捕捉領域を集合させる集合要素を備えている。集合要素を備えることで、本来有するレアアース種捕捉能よりも高いレアアース種捕捉能を発揮できるようになり、レアアース種を効率的に分離回収できるようになる。
また、本開示のレアアース種の捕捉方法、レアアースミネラルの回収方法は、いずれもレアアース種捕捉材料のレアアース種捕捉ペプチド領域を介して、容易にしかも効率的にレアアースイオン又はレアアースミネラルを捕捉し回収することができる。
本開示のレアアースミネラルの生産方法は、レアアース種捕捉材料がレアアースイオンを鉱物化するミネラリゼーション能を有するレアアース種捕捉ペプチド領域を備えるため、レアアースイオンを捕捉すると共に鉱物化できる。このため、レアアースイオンの分離回収を一層容易にしかも効率化できる。
本明細書において、「レアアース種」とは、レアアースイオン及びレアアースミネラルを含んでいる。
本明細書において「レアアース」とは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタノイドのランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミニウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)が挙げられる。
本明細書において、レアアースイオンとは、各レアアースに関し可能性ある酸化数の価数のイオンの状態も含まれる。
また、本明細書において、レアアースミネラルは、各レアアースに関し可能性ある酸化数での酸化物、水酸化物、無機酸塩及び有機酸塩を含んでいる。
(レアアース種捕捉材料)
本開示に係るレアアース種捕捉材料(以下、単に、捕捉材料という。)は、レアアース種捕捉能を有するレアアース種捕捉ペプチド領域と、このペプチド領域を集合させる集合要素と、を備えることができる。
(レアアース種捕捉能)
レアアース種捕捉能とは、レアアース種と接触してレアアース種を分離又は保持できる能力をいうものとする。レアアース種捕捉能は、レアアースの酸化物などのレアアースミネラルと接触してそのままレアアースミネラルとして分離又は保持できる能力(レアアースミネラル捕捉能)を含むことができる。また、レアアース種捕捉能は、レアアースイオンと接触してレアアースイオンを分離又は保持できる能力(レアアースイオン捕捉能)を含むことができる。さらに、レアアース種捕捉能は、レアアースイオンを捕捉してレアアースの水酸化物などのレアアースミネラルを生成する能力(ミネラリゼーション能)を含むことができる。
以下、特に断らない限り、レアアース種捕捉能又はレアアース種を捕捉すると称するとき、上記したいずれか1種又は2種以上の能力に基づくことを意図するものとする。また、レアアースミネラル捕捉能又はレアアースミネラルの捕捉と称するときは、レアアースミネラル捕捉能に基づくことを意図するものとする。また、レアアースイオン捕捉能又はレアアースイオンの捕捉と称するときは、レアアースイオン捕捉能に基づくことを意図するものとする。さらに、ミネラリゼーション能又はレアアースイオンのミネラリゼーションと個別に称するときは、ミネラリゼーション能に基づくことを意図するものとする。
後述するように、こうしたレアアース種捕捉能を有するペプチドは、標的とするレアアース種に対する捕捉能に関して種々のペプチドライブラリ(ランダムペプチドライブラリを含む。)を適用してスクリーニングすることで取得することができる。
(レアアース種捕捉ペプチド領域)
レアアース種捕捉ペプチド領域(以下、単に捕捉領域という。)は、レアアース種捕捉能を有するペプチド領域である。捕捉領域は、レアアースミネラル捕捉能、レアアースイオン捕捉能及びミネラリゼーション能のいずれかあるいは2以上を発揮するペプチド鎖を備えている。
捕捉領域は、レアアース種と共有結合以外の相互作用により、レアアース種を捕捉可能な程度にレアアース種との複合体を少なくとも一時的に形成できる。非共有結合性の相互作用としては、静電的結合、イオン結合、水素結合等が挙げられるが、本明細書における「捕捉」に関わる相互作用は、これらに限定されるものではない。
捕捉領域は、少なくとも一種のレアアース種を捕捉できるものであればよい。すなわち、捕捉領域が捕捉するレアアース種は、1種又は2種以上のレアアース種(イオン及び/又はミネラル)であればよい。捕捉領域は、3種以上、好ましくは4種以上、より好ましくは5種以上のレアアース種を捕捉するものであってもよい。
捕捉領域は、ミネラリゼーション能を備えていることが好ましい。ミネラリゼーション能を備えていると、レアアースイオンを含む液性媒体中から、レアアースの水酸化物などのレアアースミネラルを生成させることができる。このため、イオン化したレアアースを分離するとともに、当該イオンから一挙にレアアースミネラルを生成できて、分離及び回収も容易となりレアアース種の分離回収に効率化に大きく寄与することができる。
本明細書において、ペプチドとは、通常、数個以上の天然アミノ酸及び/又は非天然アミノ酸を酸アミド結合で連結したポリマーである。ペプチドは、概して、アミノ酸残基数が100個以下程度である。捕捉領域のアミノ酸残基数は特に限定しないが、アミノ酸残基数が5個以上であることが好ましく、より好ましくは7個以上であり、さらに好ましくは8個以上であり、一層好ましくは10個以上である。また、アミノ酸残基数の上限も特に限定しないが、レアアース種捕捉能を考慮すると、25個以下であってもよいし、20個以下であってもよいし、15個以下であってもよい。
捕捉領域は、L体のアミノ酸残基のポリマーであることが好ましいが、D体ポリマーであることを排除するものではない。
捕捉領域は、直鎖状であってもよいし、分子内ジスルフィド結合等によって環状化されていてもよい。直鎖状の場合であっても、レアアース種を捕捉しうるが、環状化されている場合には、効率的にレアアース種を捕捉できる場合がある。捕捉領域が環状化されている場合、捕捉領域中の潜在的にレアアース種との結合に寄与すると考えられるアミノ酸配列(以下、単に捕捉配列という。例えば、酸性アミノ酸残基を含むその上流及び下流の適数個のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列である。)以外で連結されて環状化されていることが好ましい。こうした捕捉領域としては、典型的には、捕捉配列の両側に直接又は1又は2以上の適数個のアミノ酸残基を介してそれぞれシステイン残基を備える捕捉領域であって、当該システイン残基で環状化された捕捉領域が挙げられる。なお、システイン残基を介した環状化は、システイン残基を含むペプチドにヨウ素や過酸化水素などの酸化剤を付与することで、容易に実現される。
捕捉領域が捕捉するレアアース種の金属は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミニウム(Ho)及びエルビウム(Er)からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。より好ましくは、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、テルビニウム、ジスプロシウムである。
捕捉領域の有するレアアース種捕捉能は、後述するスクリーニング方法等によって種々の性能のものを取得できる。捕捉したいレアアース種を対象として、ファージディスプレイ法等による各種ペプチドライブラリを適用して、標的レアアース種を捕捉するペプチドをスクリーニングすることができる。標的とするレアアース種は、レアアースイオンとしてもよいし、レアアースミネラルとしてもよい。
捕捉領域の有するレアアース種捕捉能は、アミノ酸配列に応じて変化すると考えられる。すなわち、例えば、セリウム種を高い選択性で捕捉する捕捉領域もあれば、ランタン種を高い選択性で捕捉する捕捉領域もある。また、複数のレアアース種をほぼ平均的に捕捉する捕捉領域もある。また、レアアースイオン及びレアアースミネラルの双方を捕捉する捕捉領域もある。
捕捉領域が備える捕捉配列として、既に説明したように、1又は2以上の酸性アミノ酸残基を含んでいることが好ましい。捕捉配列は、2又は3以上の酸性アミノ酸残基を含んでいることがより好ましい。推論であって本開示を限定するものではないが、捕捉領域又は捕捉配列のレアアース捕捉能は、1又は2以上の酸性アミノ酸残基を備えていることにより確保することができるものと推測される。酸性アミノ酸残基を含むアミノ酸配列によって捕捉強度や捕捉の標的核酸となるレアアース種の種類がある程度異なってくるものと考えられる。
酸性アミノ酸残基としては、グルタミン酸、アスパラギン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2−アミノアジピン酸、2−アミノスベリン酸等が挙げられる。好ましくは、アスパラギン酸、グルタミン酸である。2以上の酸性アミノ酸残基は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
捕捉配列が2以上の酸性アミノ酸残基を有している場合、最も近接する酸性アミノ酸残基は、直接隣り合っていてもよいし、1又は2以上4以下程度のアミノ酸残基を介して隣接していてもよい。当該介在されるアミノ酸残基(介在アミノ酸残基)の種類は特に限定されないが、中性アミノ酸残基、芳香族アミノ酸残基などで介在されていることが好ましい。介在アミノ酸残基は、より好ましくは中性アミノ酸残基を含んでいる。
なお、ここで中性アミノ酸残基とは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、ノルバリンが挙げられる。また、塩基性アミノ酸残基としては、リジン、ノルロイシン、2−アミノブタン酸、メチオニン、o−メチルセリン、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニンが挙げられる。また、酸アミドアミノ酸残基としては、アスパラギン、グルタミンが挙げられる。塩基性アミノ酸残基としては、リジン、アルギニン、オルニチン、2,4−ジアミノブタン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸が挙げられる。環状アミノ酸残基としては、プロリン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリンが挙げられる。OH含有アミノ酸残基としては、セリン、スレオニン、ホモセリンが挙げられる。芳香族アミノ酸残基としては、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンが挙げられる。
捕捉領域は、例えば、以下の(1)及び(2)のいずれかからなる捕捉配列(1)及び/又は(2)を有することができる。
(1)−X1−X2−X3−A1−X4−X5−A2−X6−A3−X7−X8−(配列番号1)
(ただし、A1は酸性アミノ酸、チロシン、アラニン、メチオニン又はグリシンであり、A2は、酸性アミノ酸又はロイシンであり、A3は、酸性アミノ酸、グリシン、プロリン、グルタミン又はアラニンであり、X1は、ロイシン、イソロイシン、バリン又はスレオニンであり、X2は、トリプトファン、システィン、アスパラギン酸、グリシン、又はバリンでありX3は、グリシン、イソロイシン、システィン、セリン、アルギニンであり、X4は、バリン、セリン、アルギニン、メチオニン、フェニルアラニン又はロイシンであり、X5はセリン、ロイシン、アルギニン、グリシン、システィン、アスパラギン又はリジンであり、X6は、ロイシン、リジン、バリンセリン又はグリシンであり、X7は、フェニルアラニン、グリシン、ロイシン、トレオニン、イソロイシン、バリン、トリプトファン又はヒスチジンであり、X8は、ロイシン、バリン、スレオニン、セリン、アスパラギン、フェニルアラニン、グルタミン酸であり、少なくとも1つの酸性アミノ酸を有する。)
(2)−X11−X12−X13−X14−X15−X16−A4−X17−X18−X19−(配列番号2)
(ただし、A4は、酸性アミノ酸であり、X11は、ロイシン、トレオニン、グルタミン酸、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、システイン又はチロシンであり、X12は、チロシン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、アルギニン、フェニルアラニン又はバリンであり、X13は、プロリン、セリン、グリシン、ロイシン、アラニン、トレオニン、バリン又はフェニルアラニンであり、X14は、セリン、グルタミン酸、アルギニン又はイソロイシンであり、X15は、トリプトファン、アラニン、グリシン、システィン、メチオニン又はチロシンであり、X16は、セリン、グリシン、トレオニン、アラニン、アルギニン又はシステインであり、X17はチロシン、システィン、セリン、イソロイシン、アスパラギン酸、セリン、グリシニン、リジン又はヒスチジンであり、X18は、アラニン、グリシン、トレオニン、プロリン、システィン又はセリンであり、X19は、フェニルアラニン、アルギニン、バリン、ロイシン、システィン、アラニン又はセリンである。)
また、補足領域は、上記捕捉配列(1)及び/又は(2)とともに、あるいは独立して、以下のアミノ酸配列からなる捕捉配列を備えることもできる。
(3)X21−X22−X23−X24−X25−A5−X26−X27−A6−X28−X29−X30(配列番号3)
(ただし、A5及びA6は、それぞれ独立して酸性アミノ酸であり、X21は、プロリンであり、X22は、バリンであり、X23は、トリプトファンであり、X24はセフェニルアラニンであり、X25は、セリンであり、X26は、バリンであり、X27は、グリシンであり、X28は、フェニルアラニンであり、X29は、メチオニンであり、X30は、バリンである。)
捕捉配列(1)は、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ホルミニウム、エルビニウムのレアアース種に対して高いレアアース種捕捉能、なかでもレアアースミネラル捕捉能が高い。特に、セリウム、ネオジム、ガドリニウム、ジスプロシウム及びエルビニウムのレアアース種に対するレアアースミネラル捕捉能、特には、セリウム及びネオジムのレアアース種に対するレアアースミネラル捕捉能が一層が高い。
一方、捕捉配列(1)は、ライトレアアース種に対するミネラリゼーション能が概して低いか、有しておらず、これらライトレアアース種(イオン)をその水酸化物等にミネラル化して捕捉することが困難である。すなわち、捕捉配列(2)は、テルビウム〜ルテチウムまで(例えば、テルビニウム、ジスプロシウム、エルビニウム及びイッテルビウムなど)のヘビィレアアース種のミネラリゼーション能が高く、ランタン〜ガドリニウムまでのレアアース種については、ミネラリゼーション能は弱いか実質的に認められない。
捕捉配列(2)は、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、テルビニウム、ジスプロシウム、ホルミニウム、エルビニウムのレアアース種に対するレアアース種捕捉能が高い。特に、レアアースミネラル捕捉能が高い。なかでも、ランタン、セリウム、ホルミニウムのレアアース種に対してレアアースミネラル捕捉能が高く、ランタン及びセリウムのレアアース種に対して一層レアアースミネラル捕捉能が高い。
一方、捕捉配列(2)は、ライトレアアース種のミネラリゼーション能が概して低いか、有しておらず、これらライトレアアース種(イオン)をその水酸化物等にミネラル化して捕捉することが困難である。すなわち、捕捉配列(3)は、サマリウム〜ルテチウムまでのライトレアアース種(例えば、サマリウム、ユウロピウム)及びヘビィレアアース種(例えば、ガドリニウム、テルビウム、ホルミニウム、エルビウム、イッテルビウム及びルテチウムなど)に対するミネラリゼーション能を有するが、ランタン〜プロメチウムまでのライトレアアース種に対するミネラリゼーション能は弱いか実質的に認められない。
また、捕捉配列(3)は、ライトレアアースであるランタノイドのランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)及びユウロピウム(Eu)のレアアース種に対するレアアース種捕捉能を有し、なかでも、ランタン、ネオジム、サマリウムのレアアース種に対する捕捉能を有している。捕捉配列(3)は、ライトレアアース種に対するレアアースミネラル捕捉能及びレアアースイオン捕捉能を有し、特に、ライトレアアース種に対するミネラリゼーション能を有している。また、捕捉配列(3)は、ヘビィレアアース種に対するレアアース種捕捉能を有している。特に、ヘビィレアアース種に対するミネラリゼーション能を有している。すなわち、捕捉配列(3)は、ライトレアアースからヘビィレアアース種にわたって広くレアアース種に対するミネラリゼーション能を有している。
これらの捕捉配列において、酸性アミノ酸は、好ましくはアスパラギン酸又はグルタミン酸である。
捕捉配列(1)のX1は好ましくはロイシン、イソロイシン又はバリンであり、X2は、好ましくはトリプトファン又はシステインであり、X3は好ましくはグリシンであり、A1は好ましくはアスパラギン酸又はグルタミン酸であり、X4は好ましくはバリンであり、A2は好ましくはグルタミン酸又はアスパラギン酸であり、X5は好ましくはセリン、アルギニン、アスパラギン又はリジンであり、X6は好ましくロイシン又はバリンであり、X7は好ましくはフェニルアラニン又はロイシンであり、X8は好ましくはロイシン、バリン又はトレオニンである。
捕捉配列(2)のX11は好ましくはロイシン、イソロイシン、バリン又はトレオニンであり、X12は好ましくはチロシン、アスパラギン、アスパラギン酸、アルギニン又はグルタミン酸であり、X13は好ましくはプロリン、アラニン、セリン又はグリシンであり、X14は好ましくはセリン、アルギニン又はイソロイシンであり、X15は好ましくはトリプトファンであり、X16は好ましくはセリン、グリシン又はトレオニンであり、X17は好ましくはチロシン、アスパラギン酸又はセリンであり、X18はアラニン、スレオニン又はグリシンであり、X19は好ましくはフェニルアラニン又はロイシンである。
捕捉配列(1)は、好ましくは、
Leu/Val-Trp/Cys-Gly/Arg-Asp/Glu-Val-Ser/Asn/Lys/Arg-Asp/Glu-Leu/Val-Asp/Glu-Phe/Leu/Val-Leu/Val/Thrで表され、より好ましくは、
Cys-Leu/Val-Trp/Cys-Gly/Arg-Asp/Glu-Val-Ser/Asn/Lys/Arg-Asp/Glu-Leu/Val-Asp/Glu-Phe/Leu/Val-Leu/Val/Thr-Cysで表され、さらに好ましくは、
Ser-Cys-Leu/Val-Trp/Cys-Gly/Arg-Asp/Glu-Val-Ser/Asn/Lys/Arg-Asp/Glu-Leu/Val-Asp/Glu-Phe/Leu/Val-Leu/Val/Thr-Cys-Serで表される。
捕捉配列(2)は、好ましくは、
Leu-Tyr-Pro/Ala-Ser/Arg-Trp-Ser/Gly/Thr/Arg-Asp/Glu-Tyr/Asp-Ala/Gly/Ser/Thr-Phe/Leuで表され、より好ましくは、
Cys-Leu-Tyr-Pro/Ala-Ser/Arg-Trp-Ser/Gly/Thr/Arg-Asp/Glu-Tyr/Asp-Ala/Gly/Ser/Thr-Phe/Leu-Cysで表され、さらに好ましくは、
Ser-Cys-Leu-Tyr-Pro/Ala-Ser/Arg-Trp-Ser/Gly/Thr/Arg-Asp/Glu-Tyr/Asp-Ala/Gly/Ser/Thr-Phe/Leu-Cys-Serで表される。
捕捉配列(3)は、より具体的には、Pro−Val−Trp−Phe−Ser−Asp/Glu−Val−Gly−Asp/Glu−Phe−Met−Valからなることができる。
捕捉配列のN末端やC末端に1又は複数個のアミノ酸残基がさらに付加されていてもよい。例えば、1個又は2個のアミノ酸残基が付加されていてもよいし、1個以上3個以下のアミノ酸残基が付加されていてもよいし、1個以上5個以下のアミノ酸残基が付加されていてもよいし、1個以上7個以下のアミノ酸残基が付加されていてもよいし、1個以上19個以下のアミノ酸残基が付加されていてもよいし、1個以上10個以下のアミノ酸残基が付加されていてもよい。
捕捉配列の末端に付加するアミノ酸残基としては、例えば、セリン、システイン、アスパラギン等が挙げられる。また、両末端にシステインを導入することで、本ペプチドを容易に環状化することが可能となる。
捕捉配列(1)に関連付けられる捕捉領域としては、例えば、以下の捕捉配列を含むペプチドが挙げられる。以下に示すペプチド中、捕捉配列は、好ましくはN末端及びC末端の各1つのアミノ酸残基を除く配列であり、より好ましくは、両末端の各2つのアミノ酸残基、すなわち、SC−及び-CSを除く配列である。
SerCys-LeuTrpGlyAspValSerGluLeuAspPheLeu-CysSer(配列番号4)
SerCys-LeuTrpIleGluSerLeuAspLeuAspGlyLeu-CysSer(配列番号5)
SerCys-LeuCysCysGluValSerAspLeuGlyLeuVal-CysSer(配列番号6)
SerCys-ValCysIleGluArgArgGluLeuAspLeuLeu-CysSer(配列番号7)
SerCys-IleAspSerTyrValGlyGluLeuGluThrLeu-CysSer(配列番号8)
SerCys-LeuTrpArgAlaValCysAspLeuGlyIleGlu-CysSer(配列番号9)
SerCys-LeuGlyGlyAspMetSerAspLysProValSer-CysSer(配列番号10)
SerCys-ThrCysGlyMetValAsnAspValAspLeuThr-CysSer(配列番号11)
SerCys-IleValGlyGluValArgLeuSerAspLeuVal-CysSer(配列番号12)
SerCys-ThrCysGlyMetValAsnAspValAspLeuThr-CysSer(配列番号13)
SerCys-ValTrpArgGlyPheLysAspGlyGlnTrpPhe-CysSer(配列番号14)
SerCys-ValCysArgGlyLeuArgAspLeuAlaHisAsn-CysSer(配列番号15)
捕捉配列(2)に関連付けられる捕捉領域としては、例えば、以下のレアアース結合配列を含むペプチドが挙げられる。以下に示すアミノ酸配列中、レアアース結合配列は、好ましくはN末端の3アミノ酸残基及びC末端の2アミノ酸残基を除く配列であり、より好ましくは両末端のSC−及び−CSを除く配列である。
SerCys-LeuTyrProSerTrpGlyAspTyrAlaPhe-CysSer(配列番号16)
SerCys-ThrAspProSerTrpGlyGluTyrGlyPhe-CysSer(配列番号17)
SerCys-GluTyrSerSerAlaSerGluTyrAlaArg-CysSer(配列番号18)
SerCys-IleTyrGlyGluTrpArgAspTyrAlaPhe-CysSer(配列番号19)
SerCys-ValTyrLeuSerGlySerGluCysThrPhe-CysSer(配列番号20)
SerCys-LeuAsnAlaArgTrpSerAspSerProVal-CysSer(配列番号21)
SerCys-LeuAsnThrIleTrpAlaAspTyrGlyLeu-CysSer(配列番号22)
SerCys-LysAspValSerTrpGlyAspIleAlaCys-CysSer(配列番号23)
SerCys-PheGluPheSerTrpSerGluAspCysAla-CysSer(配列番号24)
SerCys-GluArgGlySerTrpCysGluAspAlaCys-CysSer(配列番号25)
SerCys-ValTyrThrGlyTrpArgGluAspAlaSer-CysSer(配列番号26)
SerCys-CysPheAlaSerCysThrAspSerAlaLeu-CysSer(配列番号27)
SerCys-ThrArgSerArgCysGlyAspGlyAlaPhe-CysSer(配列番号28)
SerCys-TyrValAlaIleMetSerGluLysSerPhe-CysSer(配列番号29)
SerCys-IleGluAlaArgTyrThrAspHisAlaLeu-CysSer(配列番号30)
捕捉配列(3)に関連付けられる捕捉領域としては、例えば、以下のレアアース結合配列を含むペプチドが挙げられる。以下に示すアミノ酸配列中、レアアース結合配列は、好ましくはN末端の3アミノ酸残基及びC末端の2アミノ酸残基を除く配列であり、より好ましくは両末端のSC−及び−CSを除く配列である。
SerCys-Pro-Val-Trp-Phe-Ser-Asp-Val-Gly-Asp-Phe-Met-Val-CysSer(配列番号31)
SerCys-Pro-Val-Trp-Phe-Ser-Asp-Val-Gly-Glu-Phe-Met-Val-CysSer(配列番号32)
SerCys-Pro-Val-Trp-Phe-Ser-Glu-Val-Gly-Asp-Phe-Met-Val-CysSer(配列番号33)
SerCys-Pro-Val-Trp-Phe-Ser-Glu-Val-Gly-Glu-Phe-Met-Val-CysSer(配列番号34)
本明細書によれば、上記した各種のレアアース種捕捉ペプチド及びこれらのペプチドをいずれかを含むレアアース種捕捉剤も提供される。上記した各種のペプチドは、それ自体、レアアース種を捕捉することができる。
捕捉材料は、1種又は2種以上の捕捉領域を備えることができる。例えば、1種の捕捉配列によって特徴付けられる捕捉領域を、1又は2以上備えることができる。また、異なる捕捉配列を有する捕捉領域を2個又は3個以上備えていてもよい。
複数個の捕捉領域は、直接又は適当なリンカーを介して連結されていてもよし、後述する集合要素を含む領域を介して連結されていてもよい。こうしたリンカーとしては、公知のリンカーほか、βシート構造あるいはαヘリックス構造を形成するものであってもよい。
(集合要素)
捕捉材料は、2以上の捕捉領域を集合させることができる集合要素を備えることができる。集合要素は、レアアース種の捕捉に際して、2以上の捕捉領域を十分に近接化(集合)させることができる要素である。捕捉領域を近接化することで、相乗的にレアアース種捕捉能を高めることができる。
集合要素は、捕捉領域とは独立して別個に備えられていてもよいし、捕捉領域とともに、捕捉領域に連結して備えられていてもよい。捕捉材料自体が、集合要素を備えることで、別の捕捉材料の捕捉領域を相互に会合させて捕捉領域の近接化を容易に実現できる。また、捕捉材料内に複数の捕捉領域を備える場合において、これらの捕捉領域の近接化も実現できるようになる。
集合要素としては、複数のタンパク質ないしペプチド鎖を会合させることができるペプチド領域(会合性ペプチド領域)が挙げられる。会合性ペプチド領域は、公知の会合性のペプチド(あるいは配列)から種々選択することができる。会合性ペプチド領域としては、2量体以上の会合体あるいは異なるタンパク質(ペプチド)の会合体を形成するペプチド鎖又はその組合せが挙げられる。典型的には、2量体以上の構造を取りうる、例えば、グルタチオン−2−トランスフェラーゼ(GST)などの酵素を構成するサブユニットにおける会合領域、抗原−抗体反応における抗原と抗体の結合領域、抗体内における会合領域、レセプターなどの細胞表層タンパク質と、それに対する作用剤、ブロッカー、表層提示タンパク質における結合領域、ビオチン−ストレプトアビジンにおける結合領域等が挙げられる。会合性ペプチド領域は、自己会合するペプチドであってもよい。
また、会合性ペプチド領域としては、例えば、クモ糸タンパク質やシルクタンパク質などを含むフィブロイン又はその一部を用いることができる。フィブロインのアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列は、当業者であれば適宜取得できる。
さらに、会合性ペプチド領域としては、生体内においてアミロイドとして蓄積するアミロイドタンパク質の自己会合ドメインを用いることができる。かかるアミロイドタンパク質としては、メディン(medin)又はそのmedinのC末端側ドメイン、アミロイドAβ40、アミロイドAβ42、ColdshockB由来ペプチド、トランスサイレチン由来タンパク質(配列番号7)、トランスサイレチン由来ペプチドβ2ミクログロブリン由来ペプチド、プリオン由来のペプチド又はその一部を挙げることができる。
また、会合性ペプチド領域としては、さらに、分子間ベータシート領域、アルファヘリックス要素、ヘアピンループ、膜貫通配列およびシグナル配列が挙げられる。
会合性ペプチド領域は、会合可能である限り、天然に知られる上記アミノ酸配列において、1あるいは2以上のアミノ酸が付加、欠失、挿入、及び/又は置換されていてもよいし、人工的なアミノ酸配列であってもよい。
会合性ペプチド領域は、概して親水性であることが好ましい。すなわち、親水性アミノ酸残基を備えて、全体の電荷が中和されていないペプチドであることが好ましい。なお、ペプチドの親水性は、ペプチド中のアミノ酸残基のカルボキシル基1つにつき電荷数を−1とし、同アミノ残基のアミノ基1つにつき電荷数+1として、ペプチド全体における電荷数の総和を算出したとき、電荷数の総和が正又は負のとき、全体の電荷が中和されておらず一定条件下で水に対する溶解性を発揮できると考えられ、同総和が0のときは電荷が中和されているといえる。会合性ペプチド領域が親水性であると、捕捉材料全体の親水性を高めて、捕捉材料の使用環境として好適な水を含む水性媒体への親和性又は水溶性を高めることができる。
また、集合要素としては、非ペプチド性であって、水素結合による会合状態を形成可能な水素結合性の官能基を備える領域であってもよい。水素結合官能基としては、水素原子、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基及び第1級〜3級アミノ基など公知の水素結合性基が挙げられる。こうした水素結合性官能基は、複数個備えられていることが好ましく、複数の水素結合性官能基は、例えば、酸アミド(−CONH−)結合で連結されたポリマー鎖自体あるいは当該ポリマー鎖に核酸様の塩基を備えるものであってもよいし、糖−リボース骨格や3炭素性などの非リボース骨格に、核酸様塩基又はその他の水素結合性官能基を備えるものであってもよい。
捕捉領域に対して一体的に集合要素を備える場合、集合要素の結合形態は特に限定されない。集合要素は、捕捉領域のN末端及びC末端のいずれかあるいは双方に直接あるいは適当なリンカーを介して接続されていてもよい。また、集合要素を含む領域を介して2以上の捕捉領域がタンデム状に連結されていてもよい。
捕捉材料が、全体としてペプチドである場合、公知の化学合成法のほか、遺伝子工学的な方法等、当業者において周知の方法により取得することができる。また、捕捉領域に対して集合要素を連結する場合においても、集合要素の種類、例えば、集合要素がペプチドや核酸の場合など、当業者であれば、この種の化合物の連結は、公知の方法を適用して適宜実施可能である。
捕捉材料は、このほか、標識物質を備えていてもよい。標識物質を備えていることにより、レアアース種を捕捉した捕捉材料を容易に識別できるようになり、分離・回収等に都合がよい。標識としては特に限定しないで公知の各種標識物質を用いることができる。標識物質は、目視にて識別可能なものであってもよいし、所定の波長の光によって発光等するものであってもよい。また、それ自体、着色しているもののほか、他の化合物との反応等により発色可能なものであってもよい。また、標識物質はビーズ等の担体に保持されていてもよい。こうした標識物質としては、たとえば、着色ビーズ、金コロイド、蛍光化合物、酵素タンパク質が挙げられる。また、標識物質には、抗体−抗体反応を利用したもの、ビオチン−アビジン結合を利用したものなどの標識結合物質を包含する。標識結合物質は、標識物質を結合する物質であり、こうした標識結合物質も標識物質として機能できる。
標識物質は、公知の方法で結合される。典型的には、本ペプチドに対して適数個のリンカーペプチドを介して本ペプチドのN末端及び/又はC末端に付与される。
レアアース種に対する捕捉特異性が異なる捕捉領域を備える捕捉材料を2種以上組み合わせて用いる場合には、捕捉材料毎に異なる標識物質を備えることができる。
さらに、捕捉材料は、アフィニティークロマトグラフィー等を用いて回収可能なように、タグを備えていてもよい。タグは、抗原(エピトープ)等であってもよいし、公知のHisタグのほか、ビオチン等を用いることができる。こうしたタグは適当なリンカーを介して結合されていてもよい。
さらに、捕捉材料又は捕捉領域に対する抗体を取得し当該抗体を用いることで、捕捉材料を何ら標識することなく、本ペプチドを識別できる。
捕捉材料は、さらに他の機能的なペプチド鎖を備えることができ、レアアース種捕捉能のほか、当該他の機能を備える複合材料とすることができる。複合材料においては、捕捉領域のレアアース種捕捉能が実質的に維持されるように複合化されている。レアアース種捕捉能が実質的に維持されるとは、当初のレアアース種捕捉能の特異性が維持されるとともに、当初のレアアース種捕捉能による特定のレアアース種の捕捉の程度(量)が好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、より一層好ましくは80%以上、さらに一層好ましくは90%以上である。融合タンパク質において当初のレアアース種捕捉能が維持されているか否かは、後述する実施例等に基づき確認することができる。
他の機能的なペプチド鎖は、所望の特性や機能を備えることができる。こうしたペプチド鎖は、既に説明した、捕捉材料の分離・回収・識別以外の他の機能を捕捉材料に付与することができる。こうしたペプチド鎖としては、抗体、酵素、膜タンパク質、などの各種公知のタンパク質を、必要に応じて選択できる。当業者であれば、こうした複合材料は、周知の遺伝子工学的手法ないしは化学的手法により取得することができる。
捕捉領域と集合要素とを備える捕捉材料は、集合用要素により2以上の捕捉領域が近接化又は集合していてもよいし、そうでなくてもよい。2以上の捕捉領域が近接化されている場合、以下の形態を採ることができる。
(多量化捕捉材料)
集合要素により2以上の捕捉領域が近接化又は集合した多量化捕捉材料としては、例えば、それぞれ捕捉領域と集合要素とを備える2以上の捕捉材料が、互いの集合要素を介して2以上の捕捉領域が近接化した形態を採ることができる。こうした形態は、多量化形態は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィーや電気泳動等により確認することができる。また、他の多量化形態としては、複数の捕捉領域と1又は2以上の集合要素とを備える捕捉材料において、当該材料内の複数の捕捉領域が互いに近接化した形態が挙げられる。
なお、本明細書においては、こうした集合要素を介した捕捉領域の多量化体のほか、複数個の捕捉領域がリンカーを介して連結されていることにより、2以上の捕捉領域が近接化された捕捉領域の多量化体捕捉領域が近接化されている形態の多量化体も、併せて多量化捕捉材料というものとし、捕捉材料に含めるものとする。
(捕捉材料によるレアアース種の捕捉)
捕捉材料によるレアアース種の捕捉は、捕捉材料の備える捕捉領域が備えるレアアース種捕捉能に対応する。すなわち、捕捉領域がレアアースミネラル捕捉能を備えるときには、レアアースの酸化物や水酸化物などのレアアースミネラルと接触しこれを捕捉する形態でレアアース種を捕捉可能である。また、捕捉領域がミネラリゼーション能を有するとき、レアアースイオンと接触しこれを捕捉してレアアース水酸化物などのレアアースミネラルを生成するミネラリゼーションの形態でレアアース種を捕捉可能である。
捕捉領域が多量化した捕捉材料によれば、レアアース種の捕捉を効果的に行うことができる。例えば、多量化体は、単量体に比較してミネラリゼーションの速度が大きい。
(レアアースミネラル捕捉能によるレアアース種の捕捉)
捕捉材料によるレアアースミネラルの捕捉のための条件は、捕捉材料のレアアースミネラル捕捉能が発揮される限り特に限定されない。例えば、捕捉材料とレアアースミネラルとを適当な条件下で接触させ、必要に応じてインキュベートすればよい。
こうした捕捉条件は、液性媒体のpH、温度、塩濃度において条件を異ならせて、捕捉材料とレアアースミネラルとを接触させて、捕捉材料によるレアアースミネラルの捕捉状態を確認することで取得できる。例えば、液性媒体としては、捕捉材料のレアアースミネラル捕捉能を発揮できる限り、いかなる液体媒体であってもよい。液性媒体は、水性媒体であっても有機溶媒であってもよく、これらの混合媒体であってもよい。典型的には、中性付近のバッファ等やそれらを含む混液等用いることができる。また、例えば、pHは、特に限定されないが、5以上8以下程度とすることができ、塩濃度も特に限定されないが、10mM以上1M以下とすることができる。さらに、温度も、特に限定されないで、温度制御なくて容易に結合を実現できるが、典型的には、4℃以上80℃以下、より好ましくは10℃以上40℃以下とすることができ、さらに好ましくは15℃以上30℃以下とすることができる。レアアースミネラルと捕捉材料との接触のためには、適宜撹拌して接触効率を高めることもできる。また、接触のための時間は、特に限定しないが、10分程度から数時間程度とすることができ、好ましくは30分以上8時間以下とすることができ、上限時間はより好ましくは6時間以下、さらに好ましくは4時間以下程度とすることができる。また、より好ましくは1時間以上3時間以下程度とすることができる。
捕捉材料によるレアアースミネラル捕捉能を発揮させるための液体媒体中の捕捉材料の濃度及びレアアースミネラル濃度も特に限定されないが、例えば、捕捉材料濃度が20nM以上の濃度であることが好ましく、レアアースミネラル濃度が100μM以上であることが好ましい。
(ミネラリゼーション能によるレアアース種の捕捉)
捕捉材料によるレアアースイオンの捕捉又はレアアースミネラルの生成のための条件は、捕捉材料のミネラリゼーション能が発揮される限り特に限定されない。レアアースミネラル捕捉能による場合と同様、捕捉材料とレアアースイオンとを適当な条件下で接触させ、必要に応じてインキュベートすればよい。
なお、ミネラリゼーション能によるレアアース種の捕捉の場合、レアアースミネラルを生成するためのレアアースイオンと、当該レアアースイオンとミネラルを形成する無機酸イオンや水酸化イオンなどの陰イオン(これらを併せてミネラリゼーション原料という場合がある。)が供給される必要がある。こうした陰イオン類のうち、無機酸イオンは酸あるいは塩の添加により、捕捉に用いる液性媒体中に存在させるようにすることができる。また、水酸化物イオンは、水の電離等により水を含む液性媒体に含まれうる。
捕捉条件は、レアアースミネラル捕捉能による場合と同様、液性媒体のpH、温度、塩濃度において条件を異ならせて、捕捉材料とミネラリゼーション原料とを接触させて、捕捉材料によるレアアースイオンの捕捉状態(レアアースミネラルの生成状態)を確認することで取得できる。捕捉条件は、典型的には、既に説明した捕捉材料のレアアースミネラルの捕捉形態のための条件を採用できる。なお、pH、温度及び/又はインキュベート時間によりレアアースミネラルの生成状況や析出状況が異なるため、pH調節、温度調節及び/又はインキュベート時間を適宜延長したり短縮したりするなど適宜調節することが好ましい。
捕捉材料のミネラリゼーション能を発揮させるための液体媒体中の本ペプチド濃度及びミネラリゼーション原料濃度も特に限定されないが、例えば、捕捉材料が5μM以上の濃度であることが好ましく、ミネラリゼーション原料のレアアースイオン濃度が100μM以上であることが好ましい。また、レアアースイオン以外の他のミネラリゼーション原料についても、レアアースイオン濃度と同様であることが好ましい。
なお、ミネラリゼーションにより生成するレアアースミネラルは、インキュベーション中の液性媒体において不溶物(沈殿物)等として取得することができる。遠心分離等の公知の固液分離手段により固相を回収し、必要に応じて界面活性剤等を利用して捕捉材料等を分離することで、捕捉材料と分離したレアアースミネラルを得ることができる。また、必要に応じ、乾燥及び/又は焼成によりレアアースミネラルを得ることができる。ミネラリゼーションによって得られるレアアースミネラルの乾燥及び非晶質のレアアースミネラルの結晶化のための焼成については、後述する。
捕捉材料によるミネラリゼーションは、簡易な低コスト条件で実現できる点において有利である。
捕捉材料のミネラリゼーション能に基づいて生成するレアアースミネラルは、レアアースが検出される粒子として生成される。生成したレアアースミネラルは、レアアース水酸化物、レアアースの塩、レアアース酸化物(又はその水和物)であると推定される。生成するレアアースミネラルは、生成時点においては結晶質であってもよいし、非晶質であってもよい。非晶質の場合、必要に応じて焼成工程を実施することで結晶質化することができる。
なお、本明細書によれば、ペプチドからなる捕捉領域、捕捉材料及び複合材料をコードするヌクレオチドなどのDNAや、こうしたDNAを所定のアミノ酸配列のペプチドとして発現させるためのDNA及び当該DNAを含むベクターも提供される。こうしたDNAの取得や発現用ベクターの構築は、当該分野において周知の手法によって当業者であれば容易に実施できる。発現用ベクターは、捕捉領域、捕捉材料等をコードするDNAを発現させるための宿主細胞の種類に応じてその要素が選択される。
(捕捉材料固定化固相担体)
捕捉材料は固相担体に保持されていてもよい。例えば、各種ビーズ等の粒状体や、各種材料からなるシート状体に保持されていてもよい。こうした固相担体は、公知であり、当業者であれば適宜選択して利用できる。こうした固相担体の表面へのペプチドの固定化形態や手法は公知である。当業者であれば、適宜固定化手法を選択し、所望の形態(シート状の固相担体への固定化パターンなど)を選択し、ペプチド固相担体を得ることができる。粒子状固相担体は、典型的にはディッピング等により固相担体表面全体に本ペプチドを保持させた形態を採ることができる。また、シート状固相担体は、ディッピング、コーティングあるいはスポッティング等により、膜状にあるいは任意のパターンで本ペプチドを保持させた形態を採ることができる。
レアアース種に対する捕捉能の異なる(捕捉選択性など)2以上の捕捉材料を固相担体に固定化する場合、各捕捉材料を、異なる識別性を有する粒子状の固相担体にそれぞれ固定化してもよいし、各捕捉材料を、異なる位置情報に基づいたスポットとして、シート状の固相担体に固定化してもよい。
また、捕捉材料は、生物担体を伴っていてもよい。具体的には、捕捉材料は、細胞等の生物担体の表層に提示された状態又は表層を構成する状態であってもよい。生物担体は、各種微生物、植物細胞、動物細胞のほか、ウイルスやファージ等が挙げられる。本ペプチドは、例えば、酵母や大腸菌等の微生物の表層に提示されてもよいし、ファージやウイルスに外殻タンパク質として構成したものであってもよい。
捕捉材料は、多量化体の形態で固相担体に保持されていることも好ましい。こうすることで固相担体上において効率的にレアアース種を捕捉できるようになる。
以上説明したように、捕捉材料は、レアアース種捕捉剤、レアアースミネラル回収剤、レアアースイオン回収剤及びミネラリゼーション剤(レアアースミネラル生産剤)として使用可能である。また、これらのほか、レアアース種の検出剤(プローブ)としても利用できる。さらに、捕捉材料固定化固相担体は、これらの用途にいずれも有用である。捕捉材料固定化固相担体は、レアアース種の回収、分離、検出のためのクロマトグラフィー等のためのカラムやアレイデバイスとしても有用である。
(レアアース種の捕捉方法)
本開示のレアアース種の捕捉方法は、捕捉材料と、レアアース種とを接触させる工程と、を備えることができる。本方法によれば、レアアース種を捕捉することで、レアアース種の分離、回収及び検出が可能となる。本方法は、また、捕捉材料でレアアース種を捕捉して複合体を形成させることができるため、レアアース種に対して捕捉材料に基づく、分離、回収、検出のための指標を付与することができる。
レアアース種の捕捉は、既に説明したように、2つの捕捉形態を含みうる。これらの各形態に応じて既に説明した捕捉条件を適用することで、レアアース種を捕捉することができる。捕捉材料としては、捕捉材料の単量体や多量化体を使用できるほか、捕捉材料固定化固相担体が使用されうる。
レアアース種の捕捉に際して、捕捉材料を、レアアース種を含む可能性のある試料と接触させることになる。こうした試料としては、レアアース種を含む可能性のある石炭灰、石油灰等の各種リサイクル材料、鉱山資源材料、海洋資源材料等の各種の資源材料が挙げられる。
(レアアースミネラルの回収方法)
本開示のレアアースミネラルの回収方法は、捕捉材料が備える捕捉領域のレアアースミネラル捕捉能に基づいて、レアアースミネラルを回収できる。すなわち、標的とするレアアースミネラルに対してレアアースミネラル捕捉能を有する捕捉領域を備える捕捉材料と、標的とするレアアースミネラルが存在する可能性のある試料とを接触させることで、レアアースミネラルを回収できる。
レアアースミネラルを回収するには、レアアースミネラルを捕捉した捕捉材料(複合体)を利用することが好ましい。例えば、捕捉材料における捕捉領域、捕捉材料に付与したタグ及び標識等を利用して回収することができる。例えば、これらに特異的に結合する抗体等を利用して適切な回収工程を実施することができる。本回収方法は、レアアースミネラルを捕捉した捕捉材料を、回収指標として利用できるため、効率的な回収が可能となっている。なお、捕捉材料固定化固相担体を用いる場合には、捕捉材料は既に固相に分離されているので有利である。
さらに、レアアースミネラルと捕捉材料との複合体からのレアアースミネラルの回収は、例えば、イソプロパノールやメタノール・アセトンの混液(例えば1:1等)、あるいは界面活性剤溶液など、捕捉材料を変性させるか、あるいは捕捉材料とレアアース種との相互作用を遮断するような溶媒と接触させるなどの処理により、レアアースを捕捉材料と分離して回収することができる。こうした複合体における捕捉材料とレアアース種との相互作用を解消する処理やその程度は、レアアース種や捕捉材料との結合強度に応じて適宜選択できる。
また、複合体からのレアアースミネラルの回収は、複合体を焼成するなどして捕捉材料を消失させるようにしてもよい。
(レアアースイオンの回収方法及びレアアースミネラルの生産方法)
本開示のレアアースイオンの回収方法及びレアアースミネラルの生産方法は、捕捉材料が備える捕捉領域のミネラリゼーション能に基づいて、レアアースイオンを分離し回収でき、また、レアアースミネラルを生産できる。すなわち、標的とするレアアースイオンに関しミネラリゼーション能を有する捕捉領域を備える捕捉材料と、標的とするレアアースイオンが存在する可能性のある試料とを接触させることで、レアアースイオンを回収し又はレアアースミネラルを生産できる。
これらの方法は、いずれも捕捉領域のミネラリゼーション能に基づくものである。レアアースイオンは、最終的に、試料からレアアースミネラルとして回収される。レアアースミネラルは、既に説明した方法により回収することができる。なお、回収したレアアースミネラルを、必要に応じて適宜溶解することなどにより、イオンとして解離させることもできる。
レアアースミネラルの生産としては、既に説明したように、複合体からレアアースミネラルを回収するための焼成工程を備えることができるほか、レアアースミネラルが非晶質の場合に結晶化を促進するための、複合体又は回収したレアアースミネラルの焼成工程を備えることができる。また、レアアースミネラル水酸化物などの場合、当該ミネラルから脱水等して酸化物等に変換させるための焼成工程を備えることができる。
結晶化のための焼成工程は、公知の非晶質化合物を結晶化するための公知の条件に基づいて行うことができる。例えば、加熱温度を、300℃以上1500℃以下とすることができる。レアアースミネラルが炭酸塩などの無機塩類の場合、当該無機塩の状態を維持して結晶化するための加熱温度を設定することができる。また、水酸化物からの脱水や炭酸塩などからの脱炭酸等など無機酸を脱離させて酸化物を得る場合には、当該脱離が生じる温度を適宜選択することができる。
本生産方法は、nmレベルのレアアースミネラルの粒子を製造できるというメリットもある。
なお、以上説明した、レアアース種の捕捉方法を始めとする各種方法は、レアアース種の検出工程を備えることで、レアアース種の検出方法としても実施できる。検出工程としては、捕捉材料が捕捉したレアアース種を特異的に検出するようにするほか、捕捉材料のレアアース種に対する選択性に基づき、捕捉材料が備える捕捉領域やタグ等を検出指標として検出することができる。
(レアアース種捕捉能を有するペプチドのスクリーニング方法)
本開示のレアアース種捕捉能を有するペプチドのスクリーニング方法は、レアアース種と、1又は2以上の被験者ペプチドと、を接触させて、前記1又は2以上の被験ペプチドの前記レアアース種に対する結合能を評価する工程を備えることができる。本スクリーニング方法によれば、レアアース種に対する捕捉能を有するペプチドをスクリーニングできる。換言すれば、捕捉配列又は捕捉領域をスクリーニングないし同定することができる。
レアアース種は、既に記載したとおり、レアアースイオン及びレアアースミネラルを含む。これらは、それぞれ独立してスクリーニング標的となりうる。レアアースイオンの場合、硝酸塩又は塩酸塩等の溶液とすることができる。また、レアアースミネラルの場合、分散液等とすることができる。
被験ペプチドとは、特に限定しないで、天然のアミノ酸配列ほか、人工のアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。ペプチド長は特に限定しないが、既に説明したように、概してアミノ酸残基数が100個以下程度とすることができ、典型的には、アミノ酸残基数が5個以上であることが好ましく、より好ましくは7以上であり、さらに好ましくは8個以上である。また、25個以下であってもよいし、20個以下であってもよいし、15個以下であってもよい。また、被験ペプチドは環状ペプチドであってもよい。環状ペプチドは、2以上のシステイン残基によるジスルフィド結合により形成できる。
被験ペプチドは、天然のL体のポリマーであってもよいし、非天然のD体のポリマーであってもよい。さらに、被験ペプチドは、人工的なアミノ酸残基を含んでいてもよい。
被験ペプチドは、例えば、ファージディスプレイ法、リボソームディスプレイ法、インビトロウイルス法などを用いて多様なペプチドを提示させる方式のほか、化学合成や、無細胞タンパク質合成系等を含む遺伝子工学的な合成により取得し、スクリーニングに供することができる。被験ペプチドは、また、一定のアミノ酸配列を元に公知の手法により作製した変異体ライブラリに属するものであってもよい。さらに、被験ペプチドは、捕捉材料と同様、固相担体や生物担体に保持された形態であってもよい。
被験ペプチドには、捕捉領域について既に説明したように、レアアース種の捕捉能の評価に都合がよいように、標識物質やタグを付与しておくことができる。あるいは、被験ペプチドのアミノ酸配列が既に知得されている場合には、予め被験ペプチドに特異的に結合する抗体を準備しておくこともできる。このような付加物のある被験ペプチドの利用は、レアアース種との結合能をさらに評価する二次スクリーニングに好適である。
被験ペプチドとレアアース種との接触は、既に説明したように、被験ペプチドの変性が抑制された状態でレアアース種と接触させればよい。典型的には、既に説明したような捕捉条件を備える水系媒体などの液性媒体内において、被験ペプチドとレアアース種とを接触させる。
1又は2以上のレアアース種と被験ペプチドとの接触形態は特に限定しないが、特に、高精度にレアアース種の捕捉能を評価する二次スクリーニングにおいては、例えば、レアアース種をアレイ状に固相担体に固定するなどした、レアアース種固定化固相担体を用いることもできる。こうしたレアアース種固定化固相担体を用いることで、複数のレアアース種及び複数の被験ペプチドについて、一挙に捕捉能を評価することができる。レアアース種固定化固相担体は、例えば、シート(プレート)状の固相担体に形成されたウェル内にレアアース種が固定化されていてもよい。レアアース種は、レアアース種の分散液をガラスやプラスチックなどの表面に対して供給し、例えば、真空下などでの乾燥などにより固着される。
次いで、レアアース種と被験ペプチドとが接触して被験ペプチドがレアアース種を捕捉した複合体を回収する。複合体は、ペプチド自体あるいはそれに付与した標識物質を介して識別し回収できる。
複合体の回収にあたり、複合体と、複合体を形成しないレアアース種及び被験ペプチドは、その質量が複合体より小さいため、遠心分離等の質量差を利用した分離法で上清等として除去することで、遠沈物として複合体を精製することもできる。
複合体を回収するのにあたり、さらに、回収した複合体に対して、界面活性剤溶液などを付与して、被験ペプチドとレアアース種との弱い又は非特異的な捕捉状態を解除した後、再び遠心分離してこれを上清等として除去することで、レアアース種をより強く及び/又はより高い特異性で捕捉した被験ペプチドによる複合体を選別回収できる。
こうした洗浄操作を行うことで、より高い確度でレアアース種を強く及び/又は特異的に捕捉する被験ペプチドをスクリーニングできる。また、こうした洗浄操作を組み合わせたスクリーニングを複数回行うことにより、レアアース種に対する被験ペプチドの濃度が高まり、レアアース種に対してより強く及び/又はより特異的に捕捉能を有する被験ペプチドをスクリーニングできるようになる。こうしたスクリーニングのセットは、3回以上行うことが好ましく、より好ましくは4回以上であり、さらに好ましくは5回以上であり、一層好ましくは6回以上である。10回程度までは概して洗浄操作による効果を認めることができる。
レアアース種捕捉能の評価は、複合体又は複合体を形成した被験ペプチドを特定するとともに、レアアース種の捕捉量を測定することにより行う。レアアース種の捕捉量をレアアースミネラルによる濁度やレアアース種の種類に応じた定量法により取得する。これにより、標的としたレアアース種に対して捕捉能を有する被験ペプチドをスクリーニングできる。被験ペプチドのアミノ酸配列が既に特定されている場合、当該アミノ酸配列を、標的としたイオン種に対して捕捉能を肯定し、捕捉配列として同定又はスクリーニングすることができる。被験ペプチドがファージディスプレイ法などによって取得されたものである場合など、そのアミノ酸配列が不知の場合には、被験ペプチドの配列解析を行うことで、当該アミノ酸配列を標的としたイオン種に対して捕捉能を肯定し、同定又はスクリーニングすることができる。
例えば、レアアース種として、レアアースの酸化物などのレアアースミネラルを標的として、当該標的に対する捕捉能が強い被験ペプチドをスクリーニングすることで、そのレアアースについてのレアアースミネラル捕捉能のほか、そのレアアースイオンのミネラリゼーション能も有する捕捉配列又は捕捉領域をスクリーニングできる。
以上のようなスクリーニング方法は、例えば、特定のレアアース種に対する一次スクリーニング方法として行うことができる。特に、一次スクリーニングには、多様なアミノ酸配列のペプチドを被験ペプチドとすることができるファージディスプレイ法等を用いて行うことが好ましい。また、上記のような洗浄操作のセットの繰り返し(実施例におけるパンニング)を伴うことが好ましい。
また、本スクリーニング方法は、一次スクリーニングでレアアース種捕捉能を確認できた被験ペプチドやその変異体についての二次スクリーニングにも有効である。また、特定のレアアース種又は複数のレアアース種に対する捕捉能を評価するなどの二次スクリーニングには、標的とするレアアース種を固相担体等に固定化した固相担体(アレイ等)を用いて行うことが精度の良好な評価に有用である。
本スクリーニング方法によれば、特定のレアアース種や2以上のレアアース種に対する捕捉能を有する捕捉配列又は捕捉領域を同定・スクリーニングできる。また、特定のレアアース種に対して強い及び/又は特異的に捕捉能を有する捕捉配列又は捕捉領域を同定・スクリーニングできる。
以下、本明細書の開示を実施例を挙げて具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
(ランダムペプチド提示型T7ファージライブラリの構築)
2種類のオリゴヌクレオチドプライマーT7-Libup(ATG ATT ACC AGG ATC CGA ATT CAG GTG GAG GTT CG、配列番号35,T7-Libdownt(ACT ATC GTC GGC CGC AAG CTT TTA GCT、配列番号36を用いて、PCR反応を行い、テンプレートDNA(CGA ATT CAG GTG GAG GTT CGT GT(NNK)9-12 TGT AGC TAA AAG CTT GCG GCC GA、配列番号37を増幅した。
N=A25%、T25%、G25%、C25%(A/T/G/Cの等量混合塩基)
K=A0%、T50%、G50%、C0%の混合塩基
増幅したDNA断片は、一般的なプロトコールに従ってフェノール処理、ブタノール濃縮を行った後,QIAquick PCR Purificationkit(QIAGEN)を用いて精製した。精製したDNAは、制限酵素Hind III、Eco RI(タカラバイオ)で処理した後、T7 select 10-3 vector arm(Novagen)にライゲーションし、T7ファージゲノムを構築した。
構築したファージゲノムを、T7select packaging溶液(Novagen)と混合することで、ランダムペプチド遺伝子導入型のT7ゲノムDNAを有するT7ファージを構築した。この際、一部を用いて構築されたファージ集団の数を計測したところ、1.0×106〜4.0×107の配列多様性を有するファージライブラリが構築されていることを確認した。
構築したファージ集団は、OD660nm=0.6〜1.0まで培養した大腸菌E.coli BLT5403株に感染させ増幅後、8%ポリエチレングリコール、0.22μmフィルター処理を行うことで濃縮・精製した。精製後にファージ数を計測した結果、各ライブラリは約1.0×1012pfu/mlのファージを有しており、ペプチドファージ1種あたり100,000〜1,000,000倍に増幅していることを確認した。
(ランダムペプチド提示型T7ファージライブラリを用いた酸化ジスプロシウムに対するバイオパンニング)
実施例1にて作製したランダムペプチド提示型T7ファージライブラリにより、酸化ジスプロシウムに結合するペプチドを提示するT7ファージの単離を試みた。一連のスキームを図1に示す。
酸化ジスプロシウム(Sigma-Aldrich)をメタノール:アセトン混液(1:1)で洗浄し、次いでイソプロパノールにて洗浄後、TBSに分散させた。
500μgの酸化ジスプロシウムを分散させた溶液とT7ファージライブラリを混合し、1時間室温にて反応後、遠心(6000rpm、3分)により粒子を沈殿させ上清を除去することで、非結合ファージを除去した。
上清除去後、TBSTを加えて酸化ジスプロシウムを分散させ、再度遠心操作して粒子に非特異的に結合したファージの除去を試みた。本操作(洗浄操作)を、3〜10回繰り返すことで,酸化ジスプロシウムに非特異的に結合するペプチドファージの除去を行った。
非結合ファージ、非特異的に結合しているファージを洗浄により除去した後、OD660nm =0.6〜1.0まで培養した大腸菌E.coli BLT 5403溶液10mlと混合し、大腸菌が完全に溶菌するまで37℃で培養を行った。
大腸菌が完全に溶菌した後、培養溶液に対して1/10量の5M NaClを加え遠心(3500rpm、15分)を行い、大腸菌の細胞壁などの不溶性画分を沈殿させ、上清を回収した。
回収した上清に対して、1/6量の50%ポリエチレングリコール6000溶液を加え、撹拌後3500rpmで15分遠心しT7ファージを沈殿させた。沈殿したT7ファージ集団は、TBS溶液で溶解後、0.22μmフィルター処理を行い、使用まで4℃で保存した。
(バイオパンニングにより酸化ジスプロシウム結合ファージの濃縮確認)
実施例2の一連の操作について5回繰り返した後、各ラウンド後のファージについて酸化ジスプロシウムに対する結合ファージ数を測定した。
まず、酸化ジスプロシウムをメタノール・アセトン混液(1:1)で洗浄し、次いでイソプロパノールにて洗浄後TBSに分散させた。
500μgの酸化ジスプロシウムを分散させた溶液と各ラウンド後のファージプールをそれぞれ混合し、1時間室温下にて反応後、遠心分離(6000rpmで3分)し、上清を除去した。次いで、TBSTにて10回洗浄操作を行った。
洗浄後、酸化ジスプロシウム粒子に結合したファージ数をプラークアッセイにより測定した。結果を図2に示す。図2に示すように、パンニングのラウンドを重ねるにつれ、酸化ジスプロシウム粒子に対する結合ファージ数の上昇が確認された。これらの結果から、ラウンドを重ねることで酸化ジスプロシウムに対する結合能に優れたペプチドを提示するファージをスクリーニングできることがわかった。
5ラウンドのパンニングを行った後のファージプールについて、単クローン化を行い、ランダムに選択した35種のファージについて提示ペプチド配列解析を行った結果、31種の配列が確認された。以下に特徴的な7種のアミノ酸配列(配列番号(34〜38)を示す。
表1に示すように、9−4(Lamp−2)(配列番号16及び10−20(Lamp−1)(配列番号4)配列は、それぞれ4クローン及び2クローンで重複が確認され、また、その他のアミノ酸配列とは異なり塩基性アミノ酸(K、R及びH)が含まれていなかった。
(酸化ジスプロシウムに結合するペプチドを提示する単クローンファージのスクリーニング)
実施例4において同定されたペプチドファージのうち、表1に示す特徴的な配列を有するファージクローンについて、酸化ジスプロシウムに対する結合性の評価を行った。
洗浄しTBSに分散させた酸化ジスプロシウム500μgと各ファージをそれぞれ混合し、1時間室温下にて反応後、遠心分離(6000rpm、3分)し、上清を除去した。次いで、TBSTにて10回洗浄操作を行った。洗浄後、酸化ジスプロシウム粒子に結合したファージ数をプラークアッセイ法により測定した。結果を図3に示す。図3に示すように、配列の重複が確認された9−4(Lamp−2)及び10−20(Lamp−1)について、野生型と比較して100倍程度のファージ結合数が確認された。
(合成ペプチドの調製)
酸化ジスプロシウムへの結合が確認されたLamp−2及びLamp−1の各ファージが提示するペプチドにつて、Fmoc固相合成法により、合成ペプチドを調製した。なお、合成ペプチドのN末端には、g10配列由来のGGGを介してビオチン化を行った。
樹脂より切り出し脱保護したペプチドは、ヨウ素等の適当な酸化剤で分子内ジスルフィド結合を形成させて環状化した後、逆相HPLCにて精製し、凍結乾燥した。
(合成ペプチドと酸化ジスプロシウムの結合評価)
実施例6にて調製した合成ペプチド(Lamp−1)(配列番号4)マイクロプレートに固定した酸化ジスプロシウムの結合評価を行った。
洗浄し、イソプロパノールに分散させた酸化ジスプロシウム5μgをマイクロプレートに添加し、真空下で一時間乾燥固定した。
乾燥固定したマイクロプレートを超純水で洗浄後、0.5%BSAを400μl加えて90分間室温で静置してブロッキングし、TBSTにて3回洗浄した。
合成ペプチドLamp−1(最終濃度80nM)とSA-HRP(最終濃度20nM)を混合して、10分間反応させた後、TBSTで5回洗浄した。
マイクロプレートの洗浄後、各ウェルにTMB溶液を加え、ある程度の発色が確認された後、1NHClを添加して反応を停止させ、マイクロプレートリーダーSpectra max plus 384にて450nmの吸光度を測定した。これにより酸化ジスプロシウム粒子に対する合成ペプチドの結合能を評価した。なお、ランタノイドイオン結合ペプチド(La−BP、アミノ酸配列:GGGSFIDTNNDGDWIEGDELLA、配列番号43)をネガティブコントロールとして使用した。結果を図4に示す。
図4に示すように、Lamp−1は、濃度依存的に酸化ジスプロシウムに対して特異的な結合能を示した。
(合成ペプチドの結合特異性評価)
実施例7と同様の手法で、Lamp−2及びLamp−1の各合成ペプチドと、マイクロプレートに固定したレアアースの金属酸化物粒子(La2O3、CeO2、Nd2O3、Sm2O3、Gd2O3、Tb4O7、Dy2O3、Ho2O3、Er2O3、Yb2O3、Y2O3、TiO2、ハイドロキシアパタイト、Ag)の総合評価を行った。Lamp−2及びLamp−1についての結果を、図5及び図6に示す。
図5に示すように、Lamp−1(配列番号4)、La2O3、CeO2、Nd2O3、Sm2O3、Gd2O3、Dy2O3、Ho2O3、Er2O3に対して高い結合能を有していた。なかでも、CeO2、Nd2O3、Gd2O3、Dy2O3に対して高い結合能を有し、さらには、CeO2、Nd2O3に対して高い結合能を有し、Nd2O3に対して最も高い結合能を有していた。なお、La−BPは、La2O3にはほとんど結合せず、CeO2には若干結合性を示したが、Lamp−1の結合能とは比較にならない程度であった。
図6に示すように、Lamp−2(配列番号16)は、a2O3、CeO2、Nd2O3、Sm2O3、Gd2o3、Tb4O7、Dy2O3、Ho2O3、Er2O3に対して高い結合能を有していた。なかでも、CeO2、Nd2O3、Gd2O3、Dy2O3に対して高い結合能を有し、さらには、La2O3、CeO2、Ho2O3に対して高い結合能を有し、La2O3、CeO2に対して最も高い結合能を有していた。
以上の結果から、合成ペプチドLamp−2及びLamp−1は、ランタノイド系のレアアースの複数の酸化物に対して結合能を有する一方、それぞれ、それらの酸化物に対しては異なる結合特異性を示すことがわかった。
(Lamp−1ペプチドのアラニン置換試験)
Lamp−1ペプチド(配列番号4)のアミノ酸配列の各位置において、アラニンに置換されたペプチド配列を提示するT7ファージを、実施例1に示すT7−Libup、T7−Libdownと表2に示すオリゴヌクレオチドプライマー(配列番号44〜58)を用いて実施例1と同様の手法で作製した。作製したファージの提示するペプチド配列を図7に示す。
作製したLamp−1−ala置換体ファージについて、実施例7と同様の方法でDy2O3に対する結合を評価した。結果を図8に示す。
図8に示すように、第3位、4位、10位、12〜14位において、アラニン置換の影響が大きく結合量が低下した。また、第2位、6位及び9位のアラニン置換の影響も大きかった。以上のことから、第3位、4位、10位、12〜14位においては、それぞれ、ロイシン、トリプトファン、ロイシン、フェニルアラニン、ロイシン及びシステインであることが好ましいことがわかった。また、第2位、6位、9位については、それぞれ、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸であることが好ましいことがわかった。
(部分変異ライブラリの構築)
Lamp−2及びLamp−1にならい、14残基又は15残基のペプチドライブラリの各位置において、1,2残基目はSer、Cysで、13、14残基目又は14、15残基目は、Cys、Serで固定して、それ以外の位置は、酸化ジスプロシウム結合ペプチド由来のアミノ酸が30%前後の確率で出現するようなライブラリを作製した。
2種類のテンプレートDNA(Lamp−2-2nd、Lamp−1-2nd)を用いて実施例1と同様の手法で部分変異ライブラリを作製した。
Lamp−2-2nd:CGA ATT CAG GTG GAG GTT CGT GTN JFJ OOE ONO FNE JNF ONO FNN JFO FNJ JNN JFT GTA GCT AAA AGC TTG CGG CCG A(配列番号59)
Lamp−1-2nd:CGA ATT CAG GTG GAG GTT CGT GTN JFJ OOE ONO FNE JNF ONO FNN JFO FNJ JNN JFT GTA GCT AAA AGC TTG CGG CCG A(配列番号60)
2種類のテンプレートDNAにおけるF、J、O、X、N、B、E及びPは、それぞれ以下の塩基配列の偏りになるようにランダムに合成されたDNA配列を示す。
F=A70%、T10%、G10%、C10%の混合塩基
J=A10%、T70%、G10%、C10%の混合塩基
O=A10%、T10%、G70%、C10%の混合塩基
X=A10%、T10%、G10%、C70%の混合塩基
N=A、T、G、Cの等量混合塩基
B=T、G、Cの等量混合塩基
E=A20%、T20%、G40%、C20%の混合塩基
P=A20%、T20%、G20%、C40%の混合塩基
構築されたファージ集団の数を計測したところ、Lamp−2部分変異ライブラリで3.0×107、Lamp−1部分変異ライブラリで8.0×107の多様性を有するファージライブラリが構築されていることを確認した。
(部分変異ライブラリを用いたバイオパンニングと単離ファージの提示ペプチド配列解析)
実施例2と同様にして、実施例10にて作製した部分変異ライブラリを用いたて酸化ジスプロシウムに対するバイオパンニングを5回行った。その後、得られたファージプールを単クローン化し、実施例4と同様に、得られたファージが提示するペプチドのアミノ酸配列を解析した。Lamp−1ライブラリ及びLamp−2ライブラリにおいてクローン化されたファージのペプチドのアミノ酸配列を図9及び図10に、それぞれ示す。
図9に示すように、Lamp−1ペプチドの部分変異ライブラリでは、Lamp−1に本来存在していた酸性アミノ酸残基が保存される傾向があった。なかでも、9残基目の酸性アミノ酸残基(グルタミン酸)は、グルタミン酸又はアスパラギン酸として11クローン中10クローンで維持されていた。次いで、11残基目の酸性アミノ酸残基(アスパラギン酸)は、アスパラギン酸又はグルタミン酸として、11クローン中6クローンで維持されていた。6残基目の酸性アミノ酸残基(アスパラギン酸)も、アスパラギン酸又はグルタミン酸として11クローン中5クローンで維持されていた。他の位置についても、Lamp−1ペプチドが備えているアミノ酸残基の特性(中性アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、芳香族アミノ酸、環状アミノ酸、含硫アミノ酸、酸アミドアミノ酸)の特性を維持する傾向があった。
図10に示すように、Lamp−2ペプチドの部分変異ライブラリでは、Lamp−2に本来存在していた酸性アミノ酸残基が保存される傾向があった。すなわち、9残基目の酸性アミノ酸残基(グルタミン酸)は、グルタミン酸又はアスパラギン酸として全クローン(14クローン)で維持されていた。他の位置についても、Lamp−2ペプチドが備えているアミノ酸残基の特性(中性アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、芳香族アミノ酸、環状アミノ酸、含硫アミノ酸、酸アミドアミノ酸)の特性を維持する傾向があった。
(Lamp−1ペプチドのミネラリゼーション活性評価)
Lamp−1ペプチドとジスプロシウムイオンとの結合について評価した。HEPESバッファ(HEPES 1mM、pH6.2)に硝酸ジスプロシウム(ジスプロシウムはイオンとして存在)とDMSOに溶解したペプチドをそれぞれ1mM、10μM(DMSO5%)になるように希釈し、エッペンドルフチュ中に室温下で静置した。
5時間経過後、15000rpmで10分遠心し、上清を除去後、100μlの超純水を加えてよく撹拌洗浄した。こした遠心と撹拌洗浄を2回繰り返した後、20μlの超純水で沈殿をよく分散させ、TEM、EDX(日立ハイテクノロジーズ)による解析結果を図11及び図12に示す。
図11に示すように、TEMによれば、Lamp−1ペプチドとジスプロシウムイオンと接触によりなんらかの粒子が生成していることが確認できた。図12に示すように、また、その生成粒子は、EDXによりジスプロシウムを含んでいることがわかった。
以上のことから、Lamp−1ペプチドは、酸化ジスプロシウムと結合するほか、ジスプロシウムイオンから、水酸化ジスプロシウムを析出させる能力(ミネラリゼーション能)を有していることがわかった。
(Lamp−1ペプチドのミネラリゼーション能におけるインキュベーションpHの影響)
HEPS緩衝液(HEPES 1mM、pH7.5)にLamp−1ペプチド(環状化したもの)を10μM(DMSO 3%)になるように希釈し、0.1NHCl又は0.1MNaOHを用いてpHを3.9〜8.0に調整後、硝酸ジスプロシウムイオンを加えて室温下で揺らしながらインキュベートした。
5時間インキュベート後、15000rpmで10分間遠心して上清を除去後、100μlの超純水を加えて良く撹拌洗浄した。こうした遠心と撹拌洗浄を2回繰り返した後、20μlの超純水で沈殿を分散させ、カーボンテープ上に10μl滴下し、クリーンベンチ内で完全に乾燥するまで放置し、SEM/EDX解析した。結果を図13A及び図13Bに示す。
図13A及び図13Bに示すように、広い範囲のpHでミネラリゼーション活性を呈し、水酸化ジスプロシウムを取得できることがわかった。本実施例においては、pH5.0以上pH8.0以下の範囲で良好なミネラリゼーション能を確認できた。
(Lamp−1ペプチドのミネラリゼーション活性における反応温度の影響)
HEPS緩衝液(HEPES 1mM、pH7.5)にLamp−1ペプチド(環状化したもの)を10μM(DMSO 3%)になるように希釈し、硝酸ジスプロシウムイオンを加えて4℃、10℃、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃及び80℃の温度下で静置してインキュベートした。
5時間インキュベート後、実施例12と同様に、遠心及び撹拌洗浄して、最終的に沈殿を取得し、SEM/EDXで解析した。結果を図14A及び図14Bに示す。
図14A及び図14Bに示すように、広い温度範囲でミネラリゼーション活性を呈し、水酸化ジスプロシウムを取得できることがわかった。本実施例においては、4℃以上80℃以下の範囲で良好なミネラリゼーションを確認できた。
(Lamp−1ペプチドのミネラリゼーション活性により生成する粒子の粒径)
HEPSバッファ(HEPES 1mM、pH7.5)にLamp−1ペプチド(環状化したもの)を10μM(DMSO 3%)になるように希釈し、硝酸ジスプロシウムイオンを加えて室温下で揺らしながら5時間インキュベートした。
5時間経過後、実施例12と同様に、遠心及び撹拌洗浄して、最終的に沈殿を取得し、TEMで解析した。結果を図15に示す。
図15に示すように、得られた水酸化ジスプロシウム粒子は、概して5nm以下であり、ナノメータレベルの粒子が得られていることを確認できた。
本実施例では、GST融合型ジスプロシウムミネラリゼーションペプチドを発現する大腸菌株を作製し、融合タンパク質を生産した。
(1)GST融合型ジスプロシウムミネラリゼーションペプチド発現ベクターの構築
本実施例では、図16に示す各種タンパク質の発現ベクターの構築を試みた。本実施例では、GSTと、GSTのC末端にLamp−1を有するGST−Lamp−1(塩基配列:配列番号61、アミノ酸配列:配列番号62)と、を用いて、GSTタグの付与の効果を調べた。これらのペプチドをコードするDNAは、配列番号65で表される塩基配列からなるDNAを鋳型として、以下のプライマーセットを用いることで増幅した。
GST用
F−プライマー:GST−Stopコドン(ATA ATA TGA ACT AGT TCA TAA GGT GGA GGT TCG TGT TTG T)(配列番号63)
R−プライマー:T7-Libdownt(ACT ATC GTC GGC CGC AAG CTT TTA GCT、配列番号36)
GST−Lamp−1用
F−プライマー:GST−Stopコドン(ATA ATA TGA ACT AGT TCA GGT GGA GGT TCG TGT TTG T)(配列番号64)
R−プライマー:T7-Libdownt(ACT ATC GTC GGC CGC AAG CTT TTA GCT、配列番号36)
増幅したDNA断片は、一般的なプロトコールに従ってフェノール処理、ブタノール濃縮を行った後、QIAquick PCR Purificationkit(QIAGEN)を用いて精製した。精製したDNAは、制限酵素Spe I、Hind III(タカラバイオ)で処理した後、同様の酵素で処理したpET42aベクター(Novagen)にライゲーションし、ライゲーションした。
(2)GST融合型ジスプロシウムミネラリゼーションペプチドを発現する大腸菌株の構築
本実施例では、本実施例で作製した目的タンパク質発現ベクターを、Ecos competent E.coli(BL21)(日本ジーン)にヒートショック法により大腸菌に形質転換した。次いで、カナマイシン25μg/ml含むLBプレートでセレクションを行い、増殖した大腸菌株について、以下に示すプライマーを用いてコロニーPCRを行った。次いで、DNA配列解析を行い、目的遺伝子が挿入された発現ベクターを有する大腸菌株を選抜した。
GST−seq−down:(gct agt tat tgc tca gcg g)(配列番号66)
GST−seq−up:(ata tag cat ggc ctt tgc ag)(配列番号67)
(ジスプロシウムミネラリゼーションペプチドの発現及び精製)
実施例15で作製した大腸菌株のプレカルチャーを作製した。条件は、以下のとおりとした。
培地:2TY培地(Yeast Extract 1%、Bacto Tripton:1.6%、NaCl:0.5%w/v)
容量:3ml
温度:37℃
時間:16時間
次いで、上記のプレカルチャー溶液1mlと2TY培地100mlとを混合して、37℃で24時間培養した。
増殖した大腸菌は、3000rpmで10分間遠心することにより集菌し、上清はデカントにより除去した。さらに、Tractor Buffer kit(Clon Tech)のプロトコールに従って大腸菌を破砕した。大腸菌の破砕液は、0.22μmのフィルター(MERCK Millipore)でろ過後、GSTRapカラム(GE Health care)を用いて、GST融合タンパク質を粗精製した。
粗精製タンパク質溶液をアミコンカラム(10K MWAKO、MERCK Millipore)で濃縮した後、HiTrap Desaltingカラム(GE Healthcare)を用いて脱塩した。
精製した脱塩タンパク質について、SDS-PAGEを行い、その後、泳動タンパク質はPVDFメンブレンに転写した。SDS-PAGEゲルは、GelCodeBlue Stain Reagent(Thremo Scientific)に浸すことでタンパク質を染色し、転写タンパク質は、HRP標識された抗GST抗体(医学生物学研究所)によるWestern Blottingにて解析を行った。結果を図17に示す。
図17に示すように、SDS-PAGEにより、精製画分には分子量約25kのタンパク質が80%以上含まれていることが確認できた。なお、本融合タンパク質は、分子内ジスルフィド結合により環状化されたものである。
本実施例では、Lamp−1ペプチドとGST融合型Lamp−1ペプチドのジスプロシウムミネラリゼーション活性をそれぞれ評価した。
HEPESバッファ(HEPES:5mM 、pH6.6)中に、Lamp−1ペプチド(単体)を0、12.5μM、25μM、50μM及び100μMと、ジスプロシウムイオン1mMとを投入し、混合して、10分間室温で撹拌した。撹拌後の反応液の濁度(OD660nmの吸光度)を測定した。濁度の発生は、ジスプロシウムイオンからジスプロシウムを含む可能性のある不溶性粒子の生成を意味している。結果を図18に示す。
図18に示すように、Lamp−1ペプチドを含む反応液は、そのペプチド濃度に応じて濁度が増大し、ジスプロシウムイオンからジスプロシウムを含む可能性のある不溶性の粒子が生成していることがわかった。
また、GST、Lamp−1及びGST−Lamp−1の各タンパク質を上記と同様のHEPES バッファ中に、それぞれ10μMと、ジスプロシウムイオン1mMとを投入し混合して、10分間室温で撹拌して、同様に濁度を測定した。結果を図19に示す。
図19に示すように、Lamp−1及びGSTに比較して、GST−Lamp−1は10倍以上高い濁度を呈した。すなわち、ジスプロシウムを含む可能性のある不溶性粒子の生成量が10倍以上であることがわかった。
以上の結果から、GST融合型Lamp−1ペプチドでは、Lamp−1ペプチドと同一のアミノ酸配列を有しているにもかかわらず極めて高いジスプロシウムイオンの捕捉能及び不溶性粒子生成能を有していることがわかった。
本実施例では、実施例17で生成した不溶性粒子について、SEM/DEXによる元素分析を行った。すなわち、サンプル溶液を1500rpmで10分間遠心分離して上清を取り除いた後、100μlの超純水を加えて撹拌洗浄した。これらの遠心及び撹拌洗浄をさらに2度繰り返した後、20μlの超純水で沈殿を分散させ、カーボンテープ上に10μl滴下し、クリーンベンチ内で完全に乾燥するまで放置した。SEM/DEX(日立ハイテクノロジー)の解析結果を図20に示す。
図20に示すように、SEMにて観察された不溶性粒子中にジスプロシウム元素が存在していることがわかった。この不溶性粒子は、ジスプロシウムを含んで不溶性であり、また、HEPESバッファ中の陰イオンとしては、水酸化物イオンが想定されることから、この不溶性粒子は、水酸化ジスプロシウムであると考えられた。以上のことから、GST−Lamp−1は、ジスプロシウムイオンを鉱物化する能力を有していることがわかった。
実施例16で精製したGST融合型Lamp−1をゲルろ過クロマトグラフィーにて解析した。Superdex200 10/300カラム(GEヘルスケア)をActaシステム(GEヘルスケア)に接続し、ランニングバッファにTBSバッファ(pH6.8)を用いて、流速0.5ml/分で10μMの精製GST−Lamp−1溶液を600μl注入した。また、参照としてGSTについても、10μM溶液を同量注入した。これらの結果を図21に示す。
図21に示すように、精製タンパク質の単量体としての分子量であるクロマトグラム上の25k近傍には、精製タンパク質に由来するピークは観察されなかった。その替わりに、その2倍に相当する50kにピークが観察された。一方、GSTについても50kにピークが観察された。
GSTは通常2量体を採ることがわかっている。GST融合型Lamp−1ペプチドも、GSTと同様の挙動を採ったことから、GST融合型Lamp−1ペプチドも2量体として存在していることがわかった。また、GST融合型Lamp−1ペプチドの高いジスプロシウムイオン捕捉能(ミネラリゼーション能)は、こうした多量化による特定アミノ酸配列のペプチド領域の近接化によることがわかった。
本実施例では、くも糸タンパク質融合型ジスプロシウムミネラリゼーションペプチドを発現する大腸菌株を作製し、融合タンパク質を生産し、ジスプロシウムに対する不溶性ジスプロシウム(水酸化ジスプロシウム)粒子の捕捉について確認した。
既存文献(Biochemistry, Vol. 34, p.10879-10885, 1995)を参考に、Nephia clavipes由来のクモ糸のコア配列(SPI;32アミノ酸)を、5回繰り返したアミノ酸配列を設計し、このアミノ酸配列をコードするDNAを合成した。本設計配列をSSPと命名し、遺伝子合成した塩基配列(配列番号68)とアミノ酸配列(配列番号69)とを図22に示す。
また、同様に、本合成配列の3’末端側にLamp−1ペプチド(17アミノ酸)を付与した配列を設計し、これを遺伝子合成した。本設計配列を、クモ糸融合タンパク質SSP−Lamp−1と命名し遺伝子合成した塩基配列(配列番号70)及びアミノ酸配列配列(配列番号71)を図23に示す。
以上のようにして合成した2種類のDNAを、In−Fusion HD Cloning Kit(登録商標、クロンテック社)のpET6xHN−Nベクターにそれぞれライゲーションし目的のベクターを得、これらのベクターをE.coliBL21株に導入し、形質転換体を選抜した。選抜した各形質転換体からプラスミドDNAを調製し、塩基配列解読によって、インサートDNAの塩基配列を確認した。なお、各反応の詳細は、上記キットの付属のプロトコールに従った。
選抜・確認した両形質転換体(SSP、SSP−Lamp−1)について、抗生物質(アンピシリン50μg/ml)を含有したLB培養液で培養し、OD660nm=0.8に達した時点で1mMIPTG(終濃度)を添加し、タンパク質を発現させた。定法にしたがって、大腸菌培養液からタンパク質を調製後、His−Trap HPカラム(GEヘルスケア)によって、目的とするタンパク質を精製した。なお、調製したタンパク質は、SDS−PAGEにて確認した。なお、これらのタンパク質についても、Lamp−1においては、本融合タンパク質は、分子内ジスルフィド結合により環状化されたものである。
精製タンパク質を、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)にて調製し、既存分件(Nature Protcol、Vol. 4, p341-355, 2009)を参考にファイバーを作製した。乾燥させたファイバーを、目視及びSEMにて観察した結果を図24に示す。
さらに、作製したファイバーに5mM硝酸ジスプロシウム溶液に添加し、一定時間経過後、洗浄したファイバーについて、SEM及びEDXにて解析した。結果を図25に示す。
図25に示すように、本融合タンパク質において、ジスプロシウムに由来する不溶性粒子の存在を確認できた。
(Lamp−2及びLamp−1ペプチドのミネラリゼーション)
HEPESバッファ(1mM、pH7.0)中に、Lamp−2、Lamp−1ペプチド(いずれも分子内ジスルフィド結合により環状化されたもの)を30μM、各種ランタノイドイオンを1mM混合し、5時間室温下で攪拌した。粒子が生成したものについてはEDXにて元素分析を行った。その結果、図26に示すように、Lamp−2はTb、Dy、Er、Ybに対するミネラリゼーション能力を有していた。また、図27に示すように、Lamp−1は、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Luに対するミネラリゼーション能力を有していた。
(ランダムペプチド提示型T7ファージライブラリの構築)
2種類のオリゴヌクレオチドプライマーT7-Libup(ATG ATT ACC AGG ATC CGA ATT CAG GTG GAG GTT CG、配列番号35),T7-Libdownt(ACT ATC GTC GGC CGC AAG CTT TTA GCT、配列番号36)を用いて、PCR反応を行い、テンプレートDNA(CGA ATT CAG GTG GAG GTT CGT GT(NNK)9-12 TGT AGC TAA AAG CTT GCG GCC GA、配列番号37)を増幅した。
N=A25%、T25%、G25%、C25%(A/T/G/Cの等量混合塩基)
K=A0%、T50%、G50%、C0%の混合塩基
増幅したDNA断片は、一般的なプロトコールに従ってフェノール処理、ブタノール濃縮を行った後,QIAquick PCR Purificationkit(QIAGEN)を用いて精製した。精製したDNAは、制限酵素Hind III、Eco RI(タカラバイオ)で処理した後、T7 select 10-3 vector arm(Novagen)にライゲーションし、T7ファージゲノムを構築した。
構築したファージゲノムを、T7select packaging溶液(Novagen)と混合することで、ランダムペプチド遺伝子導入型のT7ゲノムDNAを有するT7ファージを構築した。この際、一部を用いて構築されたファージ集団の数を計測したところ、1.0×106〜4.0×107の配列多様性を有するファージライブラリが構築されていることを確認した。
構築したファージ集団は、OD660nm=0.6〜1.0まで培養した大腸菌E.coli BLT5403株に感染させ増幅後、8%ポリエチレングリコール、0.22μmフィルター処理を行うことで濃縮・精製した。精製後にファージ数を計測した結果、各ライブラリは約1.0×1012pfu/mlのファージを有しており、ペプチドファージ1種あたり100,000〜1,000,000倍に増幅していることを確認した。
(ランダムペプチド提示型T7ファージライブラリを用いた酸化ネオジムに対するバイオパンニング)
実施例22にて作製したランダムペプチド提示型T7ファージライブラリにより、酸化ネオジム(Nd2O3)(シグマ−アルドリッチ社)に結合するペプチドを提示するT7ファージの単離を試みた。
酸化ネオジムをメタノール:アセトン混液(1:1)で洗浄し、次いでイソプロパノールにて洗浄後、TBS(50mMTris、150mM NaCl)に分散させた。
500μgの酸化ネオジムを分散させた溶液とT7ファージライブラリを混合し、1時間室温にて反応後、遠心(6000rpm、3分)により粒子を沈殿させ上清を除去することで、非結合ファージを除去した。
上清除去後、TBSTを加えて酸化ネオジムを分散させ、再度遠心操作して粒子に非特異的に結合したファージの除去を試みた。本操作(洗浄操作)を、3〜10回繰り返すことで,酸化ネオジムに非特異的に結合するペプチドファージの除去を行った。
非結合ファージ、非特異的に結合しているファージを洗浄により除去した後、OD660nm =0.6〜1.0まで培養した大腸菌E.coli BLT 5403溶液10mlと混合し、大腸菌が完全に溶菌するまで37℃で培養を行った。
大腸菌が完全に溶菌した後、培養溶液に対して1/10量の5M NaClを加え遠心(3500rpm、15分)を行い、大腸菌の細胞壁などの不溶性画分を沈殿させ、上清を回収した。
回収した上清に対して、1/6量の50%ポリエチレングリコール6000溶液を加え、撹拌後3500rpmで15分遠心しT7ファージを沈殿させた。沈殿したT7ファージ集団は、TBS溶液で溶解後、0.22μmフィルター処理を行い、使用まで4℃で保存した。
(バイオパンニングにより酸化ネオジム結合ファージの濃縮確認)
実施例23の一連の操作について5回繰り返した後、各ラウンド後のファージについて酸化ネオジムに対する結合ファージ数を測定した。
まず、酸化ネオジムをメタノール・アセトン混液(1:1)で洗浄し、次いでイソプロパノールにて洗浄後TBSに分散させた。
500μgの酸化ネオジムを分散させた溶液と各ラウンド後のファージプールをそれぞれ混合し、1時間室温下にて反応後、遠心分離(6000rpmで3分)し、上清を除去した。次いで、TBSTにて10回洗浄操作を行った。
洗浄後、酸化ネオジム粒子に結合したファージ数をプラークアッセイにより測定した。結果を図28に示す。図28に示すように、パンニングのラウンドを重ねるにつれ、酸化ネオジム粒子に対する結合ファージ数の上昇が確認された。これらの結果から、ラウンドを重ねることで酸化ネオジムに対する結合能に優れたペプチドを提示するファージをスクリーニングできることがわかった。
(酸化ネオジムに結合するペプチドを提示する単クローンファージのスクリーニング)
5ラウンドのパンニングを行った後のファージプールについて、単クローン化を行い、得られた96種のファージについて、酸化ネオジム粒子への結合を測定した。
洗浄しTBSに分散させた酸化ネオジム500μgと各ファージをそれぞれ混合し、1時間室温下にて反応後、遠心分離(6000rpm、3分)し、上清を除去した。次いで、TBSTにて10回洗浄操作を行った。洗浄後、酸化ネオジム粒子に結合したファージ数をプラークアッセイ法により測定した。結果を図29に示す。図29に示すように、11種のクローンについて酸化ネオジムへの結合性が確認された。
これらの、クローンについて、提示ペプチドの配列解析を行った。その結果、図29に示すクローン72、79、85、88、89及び95は同一のアミノ酸配列SerCys-Pro-Val-Trp-Phe-Ser-Asp-Val-Gly-Asp-Phe-Met-Val-SerCys(配列番号31)を有していることがわかった。本配列をLamp−3と命名した。
(合成ペプチドの調製)
酸化ネオジムへの結合が確認されたLamp−3の各ファージが提示するペプチドについて、Fmoc固相合成法により、合成ペプチドを調製した。なお、合成ペプチドのN末端には、g10配列由来のGGGを介してビオチン化を行った。
樹脂より切り出し脱保護したペプチドは、ヨウ素等の適当な酸化剤で分子内ジスルフィド結合を形成させた後、逆相HPLCにて精製し、凍結乾燥した。
(合成ペプチドのミネラリゼーション現象の評価)
実施例26にて調製した合成ペプチド(Lamp−3)(配列番号31)を用いて、ミネラリゼーション能を評価した。HEPESバッファ(HEPES 1mM、pH6.2)にLamp−3ペプチドを10μM(DMSO3%)になるように希釈し、pHを調整後、5種類のランタノイドイオンを個別に加えて室温下で揺らしながらインキュベートした。5時間後、15000rpmで10分間遠心し、上清を除去後、100μlの超純水を加えて良く撹拌洗浄した。遠心と撹拌洗浄とを2回繰り返した後、20μlの超純水で沈殿を分散させ、カーボンテープ上に10μl滴下してクリンベンチ内で完全に乾燥するまで放置した。SEM/EDX(日立ハイテクノロジーズ)による解析結果を図30及び図31に示す。
図30及び図31に示すように、Lamp−3ペプチドは、5種類のランタノイドイオン(La、Nd、Sm、Dy及びLu)のいずれも認識し、それぞれのレアアースミネラルの粒子を生成することを確認した。
(Lamp−1直鎖型ペプチドによるDyのミネラリゼーション能)
本実施例では、分子内ジスルフィド結合を形成していない直鎖型Lamp−1ペプチドによるジスプロシウムイオンのミネラリゼーション能を評価した。すなわち、1mM硝酸ジスプロシウムの水溶液に、直鎖型のLamp−1ペプチドを20μMとなるように添加した。
5時間後、反応液を15000rpmで10分間遠心して上清を除去して、沈殿物に100μlの超純水を加えて良く撹拌して洗浄した。この遠心と撹拌洗浄を2回繰り返した後、20μlの超純水で沈殿を分散させて、カーボンテープ上に10μl滴下し、クリンベンチ内で完全に乾燥するまで放置した。この乾燥物につき、SEM/EDX(日立ハイテク)を用いて解析した。結果を図32に示す。
図32に示すように、直鎖型Lamp−1は、ジスプロシウムのミネラリゼーション能を有していることがわかった。
以上のことから、本開示のペプチドは、環状化されていても直鎖であっても、固有のレアアース種捕捉能を発揮できることがわかった。