以下、図面を参照して、本発明の実施形態による拡散処理装置およびそれを用いたR−T−B系焼結磁石の製造方法を説明する。なお、本発明の実施形態は、以下に例示するものに限られない。
本発明の実施形態による拡散処理装置は、図1に示す処理容器10を有することを1つの特徴とする。処理容器10は、円筒状の本体12の両端の第1開口12aおよび第2開口12bをそれぞれ気密シールする第1蓋14aおよび第2蓋14bとを有する。本体12は、複数のR−T−B系焼結磁石片(以下、磁石片と略すことがある。)と、拡散源とを受容する処理空間24を有する。ここで、拡散源は、後述するように、従来のRH拡散源に限られず、軽希土類元素RLとGaまたはCuなどとの合金であってもよい。
処理空間24への磁石片および拡散源の投入は、第1開口12aおよび/または第2開口12bから行われる。なお、処理容器10は、第1開口12aおよび第2開口12bの少なくとも一方が、取り外し可能な第1蓋14aまたは第2蓋14bによって気密シールされればよい。すなわち、第1開口12aおよび第2開口12bの一方、例えば、第2開口12bは、本体12と一体化された第2蓋14bによってシールされていてもよい。本明細書では、第2蓋14bは本体12と一体化されているものを含むことにする。
処理容器10は、磁石片に拡散処理を行うために、拡散処理装置のステージ間を移動させられる。本願出願人による特願2015-068831号に開示されている拡散処理装置は、拡散炉と連結された冷却部を有し、磁石片は拡散炉から冷却部へと移動させられる。これに対し、本発明の実施形態による拡散処理装置においては、磁石片が充填された処理容器10が拡散処理装置のステージ間を移動させられる。以下では、z軸方向を鉛直方向とする直交座標系xyz(右手直交座標系)において、処理容器の長さ方向をy軸に配する場合を例示して、拡散処理装置の構成および動作を説明する。
本発明の実施形態による拡散処理装置は、図4に示す拡散処理装置100のように、例えば、4つのステージA〜Dを有している。ステージA(S−A)は、例えば、磁石片および拡散源が充填された処理容器10を受容し、処理容器10内を真空排気し、リークチェック等を行う準備のためのステージである。ステージB(S−B)は、処理容器10を例えば約600℃に予備加熱するステージであり、ステージC(S−C)は磁石片に後述する所望の元素を拡散させるための熱処理(例えば、約450℃以上約1000℃以下の温度に加熱)を行うステージである。このステージBおよびCは同一のステージ(加熱装置)で行うこともできる。次のステージD(S−D)は処理容器10を冷却するステージであり、ステージDで空冷および水冷を行ってもよい。また、拡散処理装置は、処理容器10をステージAからDへ順次予め決められた距離だけ搬送する搬送装置を有している。これらの詳細は後に説明する。
本発明の実施形態による拡散処理装置は、少なくとも、処理容器10と、処理容器10の長手方向をy軸方向に配置した状態で、処理容器10をx軸方向に予め決められた距離だけ搬送する搬送装置30と、ステージBおよびCを行う加熱装置50(図2および図3参照)と、処理容器10がある温度(例えば約600℃超)に加熱されているときに処理容器10をy軸を中心に回転させる第1回転装置40とを有せばよい。本発明の実施形態により、冷却するステージを行っている時(前記S−Dを行っている時)や前記S−D後に処理容器から磁石片および拡散源を取り出している時も同時に所望の元素を拡散させるための熱処理(前記S−C)を行うことが可能となる。そのため、前記S−Dを行っている時や前記S−D後処理容器から磁石片および拡散源を取り出している時に前記S−Cを行うことが出来ない特許文献2および3に記載されている製造装置に比べて、高い量産効率で拡散処理を行うことが可能となる。
図1を参照して、処理容器10の構造を詳細に説明する。処理容器10は、両端に第1開口12aおよび第2開口12bを有する円筒状の本体12と、第1開口12aおよび第2開口12bをそれぞれ気密シールする第1蓋14aおよび第2蓋14bとを有する。処理容器10は、長手方向の両端に第1フランジ13aおよび第2フランジ13bをさらに有し、第1蓋14aが第1フランジ13aに固定され、第2蓋14bが第2フランジ13bに固定されたときに、第1開口12aおよび第2開口12bはそれぞれ気密シールされる。但し、上述したように、第2蓋14bが本体12と一体化されている処理容器10については、第2フランジ13bは第2蓋14bとともに本体12と一体化されてもよい。
第1蓋14aと第1フランジ13a、および第2蓋14bと第2フランジ13bの間には、必要に応じて、例えばOリング(オーリング)などが配置されてもよい。これらの気密シール構造は例示したものに限られず公知の構造を適用することができる。本体12は、例えば、ステンレス鋼(例えば、JIS規格SUS310S)で形成される。本体12を形成する材料は、拡散処理のための熱処理(約450℃以上約1000℃以下の温度)に耐える耐熱性を有し、磁石片および後述する元素を含有する拡散源と反応しにくい材料であれば任意である。例えば、Nb、Mo、Wまたはそれらの少なくとも1種を含む合金を用いてもよい。本体12の内径は例えば300mm、外径は例えば320mm、本体12の全長は例えば2000mm、処理空間24の長さは例えば1000mmである。本発明の実施形態は、上述したように高い量産効率で拡散処理を行うことができるため、処理量を上げるために本体12の高さ(前記内径及び前記外形の長さ)を大きくする必要がない。そのため、磁石片の欠けの発生を低減することができる。フランジ13a、13b、蓋14a、14bには高い耐熱性は要求されないので、ステンレス鋼の他、種々の金属材料を用いることができる。フランジ13a、13b、蓋14a、14bの外径は例えば450mmである。
処理容器10は、処理空間24の第1開口12a側に配置された第1断熱室26aと、第2開口12b側に配置された第2断熱室26bとを有する。第1断熱室26aおよび第2断熱室26bは、例えば、断熱繊維を有している。断熱繊維は例えば炭素繊維またはセラミックス繊維である。
円板状の第1蓋14aおよび第2蓋14bはそれぞれの中心(円筒状本体12の中心と一致)から突き出た円筒部15aおよび15bを有している。第2蓋14bの円筒部15bには接続部16が設けられており、接続部16に接続される配管を切り替えることによって、本体12の処理空間24を真空排気または気体(不活性ガス)の充填を行うことができる。接続部16は、例えば手動バルブやカップラを用いても良い。さらに接続部16の円筒部15b側にはバルブ(不図示)を設けてもよい。バルブを閉じることによって、処理空間24内の状態(減圧状態など)をより良好に維持することができる。真空排気を行うための配管には、例えば、オイル回転ポンプ(RP)およびメカニカルブースターポンプ(MBP)が接続されており、10Pa以下に真空排気できることが好ましい。処理容器10の気密性は10Pa以下の減圧状態を10時間以上維持できることが好ましい。ここで、「不活性ガス」は、例えばアルゴン(Ar)などの希ガスであるが、磁石片または拡散源との間で化学的に反応しないガスであれば、「不活性ガス」に含まれ得る。
一方、第1蓋14aの円筒部15aには安全弁17が設けられており、処理空間24の圧力が上昇し過ぎたときに、処理空間24内の不活性ガスをリークし、処理空間24内の圧力が予め決められた圧力を超えないように調整することができる。もちろん、安全弁17は省略してもよい。円筒部15aと円筒部15bとの配置は逆であってもよい。
円筒部15aおよび15bは、処理容器10を搬送装置30に載せるときに利用される。図1に示す様に、処理容器10が搬送装置30が有する支持板32aおよび32bに載せられるとき、支持板32aおよび32bが有する凹部34aおよび34bに、処理容器10の円筒部15aおよび15bがそれぞれ嵌め込まれる。この状態で、支持板32aおよび32bがx軸方向に予め決められた距離だけ移動することによって、処理容器10が搬送される。図4を参照しながら後述するように、支持板32aおよび32bは、x軸方向に一定のピッチで設けられた複数の凹部34aおよび34bを有し、複数の処理容器10を異なるステージ間で同時に搬送することができる。
第1回転装置40は、第1フランジ13aおよび第1蓋14aの少なくとも一方に接触する第1車輪対42a、43aと、第2フランジ13bおよび第2蓋14bの少なくとも一方に接触する第2車輪対42b、43bとを有する(図1および図3参照)。第1車輪対42a、43aおよび第2車輪対42b、43bは、それぞれがx軸方向に沿って配置されy軸を中心に回転可能な2つの車輪42a、43aと車輪42b、43bを有する。第1車輪対42a、43aおよび第2車輪対42b、43bのそれぞれが有する2つの車輪42a、43aおよび車輪42b、43bは、回転速度が可変および/または逆回転も可能である。これらの車輪42a、43aおよび車輪42b、43bによって、処理容器10を所定の速度でy軸を中心に回転させるので、これらの車輪42a、43aおよび車輪42b、43bは同じ方向に同じ速度で回転する。同じ方向に同じ速度で回転できれば、4つの車輪は互いに独立に制御してもよい。回転速度は、例えば、0.3rpm〜1.5rpm(周速:約280mm/分〜約1400mm/分)である。回転速度が大きすぎると、磁石片に欠けが発生しやすくなる。
次に、図2および図3を参照して、本発明の実施形態による拡散処理装置が有する加熱装置50の構造と動作を説明する。図2は、加熱装置50の開状態の模式図であり、図3は、加熱装置50の閉状態の模式図である。なお、先の図1は、図2の側面図において加熱装置50を省略した図に対応する。図2に示す様に、加熱装置50が開状態にあるとき、処理容器10は搬送装置30の支持板32aおよび32bに支持されている。
加熱装置50は、処理容器10の下側に配置される下側加熱部50aと処理容器10の上側に配置される上側加熱部50bとを有し、下側加熱部50aおよび上側加熱部50bの少なくとも1つは、z軸方向に可動である。好ましくは、図2および図3に示す様に、下側加熱部50aおよび上側加熱部50bはいずれもz軸方向に可動である。これは、例えば上側加熱部50bのみがz軸方向に可動であるとき、処理容器10を搬送するために、まず支持板32aおよび32bを上昇(z軸方向へ移動)させて処理容器10を下部加熱部50aの外まで移動し、その後次のステージへ処理容器10を搬送(x軸方向へ移動)し、支持板32aおよび32bを下降(z軸方向へ移動)させなければならない。そうすると、処理容器10をx軸方向だけでなくz軸方向にも移動させることになり、装置の構造が複雑となる。また、処理容器10をx軸方向に搬送するだけでなく、z軸方向に2回(上昇および下降)移動させるので、搬送時間が長くなり、その分だけ処理容器10の温度が余計に低下する。したがって、次のステージにおいて、目的の温度に到達するまでに余分な時間を要することになる。下側加熱部50aおよび上側加熱部50bがそれぞれz軸方向に可動であると、支持板32aおよび32bのz軸方向への移動(上昇および下降)が不要となる。
さらに、下側加熱部50aおよび上側加熱部50bが同時にz軸方向(上下方向)へ可動することができ、下側加熱部50aおよび上側加熱部50bにおけるそれぞれのz軸方向への移動距離は、上側加熱部50bのみがz軸方向に可動する場合における上側加熱部50bのz軸方向への移動距離と比べて短くできる。これは、下側加熱部50aおよび上側加熱部50bが同時にz軸方向(上下方向)へ可動する時の下側加熱部50aおよび上側加熱部50bにおけるそれぞれの移動距離は、支持板32aおよび32bがz軸方向(上下方向)に移動しないため、処理容器10に接触しない位置まで(およそ処理容器10の半径に相当する距離まで)移動すれば良いが、上側加熱部50bのみをz方向に可動する場合は、その後に行われる支持板32aおよび32bを上昇(z軸方向へ移動)させて処理容器10を下部加熱部50aの外まで移動し、その後次のステージへ処理容器10を搬送(x軸方向へ移動)させる時に、処理容器10が上側加熱部50bに当たらないように、上側加熱部50bを支持板32aおよび32bが上昇(z軸方向へ移動)した距離に相当する距離まで余分に上昇させなければならないためである。これらの理由により、搬送時間を大幅に短くすることができる。そのため、処理容器10の温度低下をほとんど起こすことなく効率よく加熱を行うことができる。
下側加熱部50aおよび上側加熱部50bは、それぞれ、ヒーター52a、52bと、フード54a、54bを有している。ヒーター52a、52bとしては例えば金属ヒーターを用いることができる。図3に示す様に、加熱装置50が閉状態にあるとき、下側加熱部50aおよび上側加熱部50bは、処理容器10の少なくとも中央部分を包囲するように配置される。このとき、加熱装置50で包囲される処理容器10の部分は、処理空間24の全体と、第1断熱室26aの一部および第2断熱室26bの一部を含むことが好ましい。また、加熱装置50が閉状態にあるときに、フード54aおよびフード54bによって形成される円の直径は、処理容器10の蓋14a(14b)の直径(例えば450mm)よりも小さく、処理容器10の本体12の外径(例えば320mm)よりわずかに大きい(例えばクリアランス5mm)。このように、処理容器10を加熱装置50のフード54a、54bで包囲することによって、処理容器10の処理空間24内の温度を均一に効率よく上昇させることができる。また、処理容器10を搬送する際には、加熱装置50を開状態とするが、フード54aおよび54b内に加熱された空気が滞留するので、熱が奪われ難く、再び閉状態としたとき比較的速やかに目的の温度に到達することができる。
加熱装置50は、さらに、蓋(不図示)を有することが好ましい。加熱装置50内に処理容器10が配置されていない状態で、加熱装置50が閉状態にあるとき、フード54aおよびフード54bによって形成される円形の開口部を塞ぐように蓋が配置される。例えば、加熱装置50に処理容器10が配置される前に、加熱装置50を予め加熱するときに蓋を閉じて、フード54aおよび/またはフード54bで包囲される空間内の温度を均一に保つことができる。なお、フード54aおよび/またはフード54bで包囲される空間内の処理容器10に近い位置に、熱電対(不図示)が配置され、温度をモニターすることが好ましい。
また、加熱装置50が閉状態にあるときには、処理容器10は、回転装置40の第1車輪対42a、43aと第2車輪対42b、43bとで支持され、処理容器10は、搬送装置30、すなわち支持板32aおよび32bから切り離されている。処理容器10が加熱されている間、特に、約600℃超の温度に加熱されている間は、回転装置40によって、処理容器10を回転させることが好ましい。磁石片の温度が約600℃を超えると、処理容器10が変形するおそれがある。もちろん、拡散処理工程(約450℃以上約1000℃以下)においては、磁石片と拡散源とが近接または接触する機会を均一に頻繁に生じさせるために処理容器10を回転させる。
なお、本発明の実施形態による拡散処理装置は、装置全体の水平を調整する支持構造をさらに有していることが好ましい。処理容器10がy軸を中心に回転させられている間、処理空間24内の磁石片および拡散源は基本的にy軸方向に移動しない。もちろん、回転されている間に磁石片同士の衝突や処理容器10の内壁等との衝突によってy軸方向の位置が変化することはあるが、磁石片の分布に偏りが生じるような移動はない。すなわち、処理空間24内にy軸方向に均一に分布するように磁石片および拡散源を投入した後、拡散熱処理を経て例えば600℃未満の温度まで冷却されるまでは、磁石片等のy軸方向の分布に隔たりが無いように、処理容器10を水平に維持することが好ましい。
処理容器10には、例えば、図6(a)〜(c)に模式的に示す磁石片1、拡散源2および撹拌補助部材3が投入される。撹拌補助部材3はオプショナルに混合され、省略され得る。
磁石片1は、例えば、図6(a)に示す様に、小型で長尺な形状(例えば、長さ30mm×幅10mm×厚さ5mm)を有していてもよい。磁石片1の組成は、例えば、希土類元素の含有量によって定義されるR量が29質量%以上40質量%以下であるR−T−B系焼結磁石片である。Rが29質量%未満であると高い保磁力が得られない恐れがある。一方Rが40質量%を超えると磁石片1の製造工程中における合金粉末が非常に活性になり、粉末の著しい酸化や発火などを生じる恐れがある。好ましくは、特許文献3に記載のようにR量は31質量%以上37質量%以下である。短時間で重希土類元素RHを拡散し、Brを低下させることなくHcJを向上することができるからである。
R−T−B系焼結磁石片1は、以下の組成を有することが好ましい。
R量:29質量%以上40質量%以下
B(Bの一部はCで置換されていてもよい):0.85質量%以上1.2質量%以下
添加元素M(Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種):0〜2質量%以下
T(Feを主とする遷移金属であって、Coを含んでいてもよい)および不可避不純物:残部
ここで、Rは、希土類元素であり、例えば、Nd、Pr、Dy、Tbである。主として軽希土類元素RLであるNd、Prから選択される少なくとも1種が含有されるが、重希土類元素RHであるDy、Tbの少なくとも一方を含有していてもよい。
拡散源2は、磁石片の磁石特性の向上(例えばHcJの向上)効果のある元素を含有する公知の金属または合金であればよく、例えば、従来の重希土類元素RHを含む拡散源の他、軽希土類元素RLとGaとの合金、または軽希土類元素RLとCuとの合金であってもよい。軽希土類元素RLとGaまたはCuとの合金としては、例えば特願2015-150585号に記載の合金を用いることができる。参考のために、特願2015-150585号の開示内容の全てを本明細書に援用する。
拡散源2として、例えば、重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)を含有するRH拡散源を用いる。RH拡散源は、重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)および30質量%以上80質量%以下のFeを含有し、典型的にはDyFe合金またはTbFe合金である。DyよりもTbを用いた方がより高いHcJ を得ることができる。RHの含有率は20質量%以上70質量%以下であることが好ましい。RHの含有率が20質量%未満であると、重希土類元素RHの供給量が少なくなり、高いHcJ が得られない恐れがある。また、RHの含有率が70質量%を超えるとRH拡散源を処理容器内に投入する際にRH拡散源が発火する恐れがある。RH拡散源における重希土類元素RHの含有率は好ましくは35質量%以上65質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以上60質量%以下である。RH拡散源は、Tb、Dy、Fe以外に本発明の効果を損なわない限りにおいて、Nd、Pr、La、Ce、Zn、Zr、Sm及びCoの少なくとも一種を含有してもよい。さらに不可避的不純物として、Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Ga、Nb、Mo、Ag、In、Hf、Ta、W、Pb、Si及びBiなどを含んでもよい。
拡散源2の形態は、例えば、図6(b)に示すように、球状(例えば、直径2mm以下)である。拡散源2の形態は、この他、線状、板状、ブロック状、粉末など任意であってよい。ボールやワイヤ形状を有する場合、その直径は例えば数mm〜数cmに設定され得る。
撹拌補助部材3は、拡散源2と磁石片1との接触を促進し、また撹拌補助部材3に一旦付着した拡散源2を磁石片1へ間接的に供給する役割をする。さらに、撹拌補助部材3は、処理空間24内において、磁石片1同士や磁石片1と拡散源2との接触による欠けや溶着を防ぐ役割もある。撹拌補助部材3は、例えば、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素並びに窒化硼素、または、これらの混合物のセラミックスから好適に形成され得る。また、Mo、W、Nb、Ta、Hf、Zrとを含む族の元素、または、これらの混合物からも形成され得る。撹拌補助部材3の形態は、例えば、図6(c)に示す様に、球状(例えば、直径5mm)である。
なお、撹拌補助部材3を多く投入し過ぎると磁石片1と拡散源2とが均一に撹拌されない場合があり、1回の拡散処理によって、保磁力の向上効果が十分に得られない、および/または、保磁力にバラツキが発生することがある。したがって、撹拌補助部材3の投入量は多過ぎないように調整する。好ましい投入量は、質量比率で磁石片1:拡散源2:撹拌補助部材3=1:1:1である。
RH拡散源の形態として粉末を採用することもできる。このとき、特願2015-037790号に記載されているように、大きさが90μm以下の合金粒子を主に含む粉末を用いることが好ましい。参考のために特願2015-037790号の開示内容を本明細書に援用する。
大きさが90μm以下の粒子とは、目開きが90μmのふるい(JIS Z 8801−2000標準ふるい)を用いて分級したもののことをいう。大きさが90μm以下の粒子を主に含む粉末を用いると、安定して高いHcJ を得ることができる。大きさ90μm以下の粒子のみからなる粉末は、重希土類元素RHを含有する合金を例えばピンミル粉砕機等の公知の方法を用いて粉砕し、目開きが90μmのふるいを用いて分級することにより準備することができる。好ましくは、粒子の大きさは38μm以上75μm以下であり、さらに好ましくは、粒子の大きさは38μm以上63μmである。さらに安定して高いHcJ を得ることができるからである。また、38μm未満の粒子を多く含有すると、粒子が小さすぎるためRH拡散源が発火する恐れがある。
上記粉末は、少なくとも一部に新生表面が露出している粒子を含有していることが好ましい。ここで、新生表面が露出しているとは、粒子の表面にRH拡散源以外の異物、例えば、R酸化物やR−T−B化合物(主相に近い組成の化合物)などが存在していない状態のことをいう。粉末は、重希土類元素RHを含有する合金を粉砕して準備するため、これより得られた粉末は少なくとも一部に新生表面が露出している粒子を有している。しかし、繰り返してRH拡散処理を行う場合、拡散処理後に大きさが90μm以下の粒子が存在していても、拡散処理後の粒子は、粒子の表面全体が異物やR酸化物等で覆われて新生表面が露出していない場合がある。そのため、処理後の粒子を用いて繰り返し拡散処理を行った場合、異物やR酸化物等により磁石片への重希土類元素RHの供給が少なくなる場合がある。したがって、処理後の粒子に対して公知の粉砕機等により粉砕し、粒子の破断面を露出させた状態、すなわち新生表面が露出した状態にしておくことが好ましい。
RH拡散源として粉末を用いる場合、磁石片に対して質量比率で2%以上15%以下の粒子を処理容器10内に投入することが好ましい。これにより、RH拡散処理を行う工程を実施することにより安定して高いHcJ を得ることができる。大きさが90μm以下の粒子が磁石片に対して質量比率で2%未満であると、90μm以下の粒子が少なすぎるため、安定して高いHcJを得ることができない。また、15%を超えると、粒子が磁石片から浸み出した液相と過剰に反応し、磁石片の表面に異常付着するという現象が発生する。この現象により新たな重希土類元素RHが磁石片へ供給されにくい状態が形成されるため、安定して高いHcJを得ることができない。そのため、90μm以下の粒子のみからなる粉末は安定して高いHcJを得るために必要であるが、その量は特定範囲(質量比率で2%以上15%以下)であることが好ましく、磁石片に対して質量比率で3%以上7%以下であることが好ましい。
大きさが90μm以下の粒子のみからなる粉末を磁石片に対して質量比率で2%以上15%以下投入すれば、例えば大きさが90μmを超える粒子をさらに投入してもよい。ただし、磁石片と合金粉末(大きさが90μm以下の粒子と90μmを超える粒子の合計)は質量比率で1:0.02〜2の割合になるように処理容器内に投入することが好ましい。
RH拡散源として、上記の粉末を用いる場合にも、撹拌補助部材3を用いることが好ましい。このとき、撹拌補助部材3の好ましい投入量は、質量比率で磁石片1:RH拡散源2:撹拌補助部材3=1:0.03:1である。
RH拡散源として大きさが90μm以下の粒子を主に含む粉末を用いると、RH拡散源を1回ごとに使い切ることもでき、かつ、RH拡散源の使用量の低減や、拡散処理時間の短縮にも寄与する。
次に、図4および図5を参照して、本発明の実施形態による拡散処理装置100の構造および動作を説明する。図4は、拡散処理装置100の全体の模式図であり、図5は、拡散処理装置100が有する冷却装置70の開状態の模式図である。
図4に示す様に拡散処理装置100は、4つのステージA〜Dを有している。図示しているように、例えば、各ステージに1つずつ処理容器10A〜10Dを配置するように動作させることができる。
ステージA(S−A)は、例えば、磁石片1および拡散源2が充填された処理容器10Aを受容し、処理容器10A内を真空排気し、リークチェック等を行う準備のためのステージである。
処理容器10A内のへの磁石片1および拡散源2、さらにオプショナルに混合される撹拌補助部材3との投入は、例えば、ステージAの前に行われる。例えば、拡散処理装置100は、図4において、ステージAの前段に配置された投入装置(不図示)をさらに有する。投入装置は、処理容器10の長手方向をy軸方向に配置した状態で、処理容器10Aをyz面内で傾斜させることができるように構成されている。投入装置は、例えば、回転装置40が有する2つの車輪対42a、42bと、車輪対43a、43bと同様の構造を有する2つの車輪対を有し、2つの車輪対によって処理容器10Aを支持する。また、2つの車輪対は、yz面内で傾斜させることができるように構成されている。
本体12(蓋14aおよび断熱室26aを外した状態)を2つの車輪対の上に配置し、例えば、yz面内において、水平面(xy面)から10°超25°未満傾斜させる。例えば本体12の開口12a(高い位置にある開口)から、磁石片1、拡散源2および撹拌補助部材3を投入する。尚、前記投入時において、低い位置にある開口は、既に蓋14bおよび断熱室26bが挿入されている状態である。例えば、スコップに磁石片1等を載せ、本体12の奥(例えば開口12bに近い側)から順に磁石片1等を配置する。処理容器10Aの処理空間24内にy軸方向における磁石片1等の分布が均一になるように複数回に分けて配置する。あるいは、処理空間24とy軸方向の長さが概ね等しい投入容器を用意し、投入容器に磁石片1等の分布が均一になるように配置し、この投入容器を処理容器10A内の所定の位置まで挿入し、処理空間24内に一度に磁石片1等を配置してもよい。磁石片1等を処理空間24内に投入する好ましい形態については後に詳述する。
この後、断熱室26aを挿入し、蓋14aおよび14bを例えばOリングを介してフランジ13aおよび13bにボルト・ナットで固定し、処理容器10Aを気密シールする。これを例えばフォークリフトなどを用いて、搬送装置30の支持板32aおよび32b上に配置する(ステージA)。
処理容器10Aは、ステージAにおいて、支持板32aおよび32bの凹部34aおよび34bによって支持される。ここで、処理容器10Aの接続部16を真空排気用の配管に接続し、処理容器10内の圧力を例えば10Pa以下まで減圧する。この状態で、処理容器10のリークチェックを行う。リークチェックにおいて、例えば、処理容器10を10分程度放置後に再び圧力を測定し、所定の圧量範囲内(例えば10Pa以下)となっているとき、OKと判断し、NGの場合はリーク原因がなくなるまでやり直す。ステージAでOKと判断された処理容器10Aは次のステージBに搬送される。
ここで、処理容器10Aは、x軸方向に予め決められた距離だけピッチ搬送されることになる。搬送装置30の支持板32aの4つ凹部34a(および支持板32bの4つの凹部34b)は、拡散処理装置100の各ステージに対応して設けられており、各ステージ間の距離(x軸方向)は一定であり、x軸方向において互いに隣接する凹部34a間の距離も一定であり、これをピッチということがある。ステージAにある処理容器10Aをx軸方向に次のステージBに搬送すると、他のステージにある処理容器10B、10Cおよび10Dも同時にx軸方向に1ステージ分(1ピッチ分)搬送されることになる。したがって、各ステージでの処理時間は概ね同じであることが好ましい。もちろん、特定のステージで待機時間を設けてもよいが、例えば、加熱工程であれば、所定の温度よりも低い温度で待機させる必要が生じるので、昇温および/または降温の制御が必要となり、熱処理の再現性が損なわれる要因となり得る。
搬送装置30は、第1架台92上に配置されており、駆動部36によって、支持板32aおよび32bをx軸方向に沿って、前進および後退させることができる。第1架台92は、搬送装置30の支持板32aおよび32bを水平に調整する支持構造を有している。
ステージB(S−B)は、処理容器10Bを例えば600℃に予備加熱するステージであり、処理空間24内を真空排気しながら約200℃以上約600℃以下の温度で予備加熱する。処理容器10Bの接続部16はステージAから真空排気用の配管に接続されたままである。加熱装置50Aおよび次段のステージC(S−C)の加熱装置50Bは、いずれも図2および図3を参照して説明した加熱装置50と同じ構造を有し得るので、説明を省略する。なお、加熱装置50Aおよび50Bの下側加熱部50aおよび上側加熱部50bは一体にあるいは同期して上下に移動するようにしてもよい。加熱装置50Aおよび加熱装置50Bにそれぞれ設けられた回転装置40も同期して上下に移動するようにしてもよい。ただし、回転装置40のオン/オフ、回転速度や回転方向は独立に制御できることが好ましい。
加熱装置50Aによって処理空間24内を真空排気しながら処理容器10Bを予備加熱することによって、処理容器10B内の磁石片1等に吸着している水分を除去する。加熱温度は約200℃以上約600℃以下であることが好ましい。約200℃未満であると水分を十分に除去できない、および/または、長時間を必要とするという問題がある。また、約600℃よりも高いと処理容器10が変形する恐れがあるので、回転装置40によって処理容器10Bを回転させる必要が生じる。言い換えると、温度を約600℃以下にしておけば回転装置40を動作させる必要がないという利点が得られる。
ステージAから搬送されて来る処理容器10Bは室温なので、これを約600℃まで加熱するためには昇温時間も含め長時間を有する。そこで、加熱装置50Aは、予め閉状態として、約300℃に加熱しておく。ステージAから処理容器10Bが搬送されて来るタイミングで、加熱装置50Aを開状態とし、処理容器10Bを受け入れ、再び、閉状態とし、目標温度、例えば約600℃まで約1時間で昇温し、約2時間にわたって約600℃で維持する。
ステージBの最終段階で、処理容器10B内の真空排気を停止し、アルゴン(Ar)ガスでパージする。例えば、約900℃で135kPaとなるように、約600℃で100kPaのArガスを充填する。Arガス(負圧)でパージする代わりに減圧状態(例えば1Pa以下)で気密シールしてもよい。
ステージC(S−C)は磁石片に所望の元素を拡散させるための熱処理(例えば、約450℃以上約1000℃以下の温度に加熱)を行うステージである。処理温度が約1000℃を超えると、磁石片1が粒成長を起こし磁気特性が大幅に悪化する恐れがあり、一方、処理温度が約450℃未満では、処理に長時間を要する。3時間程度で拡散処理を行うためには、熱処理温度は約900℃以上が好ましく、加熱装置50Bの耐熱性(寿命)の観点から約980℃以下が好ましい。
加熱装置50Bも、処理容器10Cを受け入れる前に予め例えば約600℃に加熱しておく。搬送装置30によって加熱装置50Aから処理容器10Cが加熱装置50Bの位置に搬送された後、加熱装置50Bを閉状態にするとともに回転装置40を上昇させ、処理容器10Cを例えば0.5rpmで回転させる。また、処理容器10Cの温度を約900℃まで約1時間で昇温し、約2時間にわたって約900℃で維持する。その後、加熱を停止し、次のステージD(S−D)へ搬送すればよい。
処理容器10のステージ間の搬送にかかる時間(例えば、加熱装置50Aを開状態にし、処理容器10を搬送し、加熱装置50Bを閉状態にするまでの時間)は、3分以内に行うことが好ましい。例えば、加熱装置50Aおよび50Bの開状態または閉状態とするのに要する時間をそれぞれ50秒程度、処理容器10をx軸方向に搬送するのに要する時間を40秒程度にする(合計2分20秒程度)。ステージ間の搬送にかかる時間が3分以内であれば、ステージBからステージCへの搬送による温度低下を数十℃程度に抑えることができる。
なお、加熱装置50Aおよび50Bは第2架台94上に配置されており、第2架台94は、加熱装置50Aおよび50Bを水平に調整する支持構造を有している。
次のステージD(S−D)は処理容器10Dを冷却するステージであり、ステージDで空冷および水冷を行ってもよい。ここで例示する冷却装置70は、空冷と水冷の両方を行うことができる。
冷却装置70は、処理容器10Dの下側に配置される下側冷却部70aと処理容器10Dの上側に配置される上側冷却部70bとを有し、下側冷却部70aおよび上側冷却部70bの少なくとも1つはz軸方向に可動で、処理容器10Dの少なくとも中央部分を包囲するように配置され得る。また、上述した下側加熱部および前記上側加熱部をz軸方向に可動する時と同様な理由により、前記下側加熱部および前記上側加熱部は、それぞれz軸方向に可動することが好ましい。
下側冷却部70aおよび上側冷却部70bは、それぞれ、スプレイノズル76と、フード74a、74bを有している。図4に示す様に、冷却装置70が閉状態にあるとき、下側冷却部70aおよび上側冷却部70bは、処理容器10Dの少なくとも中央部分を包囲するように配置される。このとき、冷却装置70で包囲される処理容器10Dの部分は、処理空間24の全体と、第1断熱室26aの一部および第2断熱室26bの一部を含むことが好ましい。また、冷却装置70が閉状態にあるときに、フード74aおよびフード74bによって形成される円の直径は、処理容器10Dの蓋14a(14b)の直径(例えば450mm)よりも小さく、処理容器10Dの本体12の外径(例えば320mm)よりわずかに大きい(例えばクリアランス5mm)。このように、処理容器10Dを冷却装置70のフード74a、74bで包囲することによって、処理容器10Dの処理空間24内の温度を均一に効率的に低下させることができる。なお、フード74aおよび/またはフード74bで包囲される空間内の処理容器10Dに近い位置に、熱電対(不図示)が配置され、温度をモニターすることが好ましい。
下側冷却部70aは空冷のためのエアー導入口72を有し、上側冷却部70bは排気口74を有している。エアー導入口72および排気口74の配置はこれに限られず、下側冷却部70aおよび上側冷却部70bのいずれか1つが有していればよい。空冷用の空気は、例えばファン82から供給される。上側冷却部70bは、水冷用のスプレイノズル76を有している。例えば、空冷によって処理容器10Dの温度が約300℃に低下した時点で、空冷から水冷に切り替える。なお、処理容器10Dの温度が約600℃を下回ると処理容器10D内の圧力は大気圧より低くなる。そうすると大気(水分を含む)が処理容器10D内に侵入しやすい状況になるので、十分な気密性を有する処理容器10Dを用いることが好ましい。
処理容器10Dの温度が約600℃まで低下するまでは、処理容器10Dを回転させることが好ましい。したがって、図4に示したように、冷却装置70に対しても回転装置40を設けることが好ましい。
なお、上記の説明において、加熱装置50および冷却装置70を開状態/閉状態とを切り替える機構や冷却装置70を上下に移動させる機構について説明を省略したが、これらは公知の機構を用いて行われる。これらの機構として、例えば、油圧シリンダー等を備える公知の昇降装置を例示することができる。
拡散処理装置100が有する、搬送装置30、回転装置40、加熱装置50A、50B、冷却装置70、ファン82などの装置を手動で動作させることもできるが、その一部または全部をコンピュータプログラムによって自動制御することもできる。
例えば、処理容器10のx軸方向への移動、下側加熱部50aおよび上側加熱部50bのz軸方向への移動、および第1回転装置40の回転の少なくとも1つを制御する信号を出力する第1コントローラをさらに有してもよい。これらの動作のタイミングは関連しているので、第1コントローラでこれらすべてを制御することが好ましい。
加熱装置50A、50Bを制御する信号を出力する第2コントローラをさらに有してもよい。第2コントローラは例えば加熱装置50A、50Bの温度制御を行う。第2コントローラはさらに上下の加熱部50a、50bの移動や、加熱装置50A、50Bの蓋の開閉を制御する信号を出力してもよい。
冷却装置70についても同様に、処理容器10のx軸方向への移動、下側冷却部70aおよび上側冷却部70bのz軸方向への移動、第2回転装置40の回転の少なくとも1つを制御する信号を出力する第3コントローラをさらに有してもよい。また、冷却装置70を制御する信号を出力する第4コントローラをさらに有してもよい。第4コントローラは例えば冷却装置70の空冷と水冷の切り替えを行う。第4コントローラはさらに上下の冷却部70a、70bの移動を制御する信号を出力してもよい。
拡散処理装置100では、複数の装置が連動して動作するので、例えば、第1コントローラと第2コントローラとを一体化してもよいし、および/または、第2コントローラと第3コントローラとを一体化してもよい。さらには、第1〜4コントローラを全て一体化してもよい。なお、例示した拡散処理装置100は、1つの搬送装置30でステージA〜Dまでの搬送を行ったが、2つのステージ間の搬送毎に異なる搬送装置30を用いることもできる。そのような場合には、搬送装置毎にコントローラを設けてもよい。逆に、拡散処理装置100のように複数の装置をx軸方向によって配列すると、1つの搬送装置30でステージA〜Dまでの搬送を行うことができるという利点が得られる。
拡散処理装置100を用いると、従来の製造装置よりも焼結磁石片の欠けの発生を低減し、高い量産効率で拡散処理を行うことができる。例えば、図6(a)に示した磁石片長さ(30mm×幅10mm×厚さ5mm)を拡散処理装置100を用いて拡散処理したところ、欠けはほとんど発生せず、歩留りは99%以上であった。なお、磁石片1の歩留りは、欠けにより欠落した部分が2mm角相当以上の場合に、欠けが発生しているものとしてカウントした。
本発明の実施形態による拡散処理装置は例示した拡散処理装置100に限られず、種々に改変され得る。
本発明の実施形態による拡散処理装置は、上述のステージA〜Dを有せばよく、例えば、ステージBとステージCは同じステージ、すなわち同じ加熱装置50であってよい。したがって、ステージ間の処理容器10の搬送は少なくとも加熱装置50に対してx軸方向に処理容器10を搬送できる搬送装置を有せばよい。
もちろん、量産性を考慮して、同じステージを複数設けてもよい。例えば、ステージCに要する時間をステージBに要する時間の2倍にするために、ステージCを2つ設けてもよい。そうすると、搬送装置30で一定時間ごとにピッチ搬送することができる。また、各ステージで複数の処理容器10を処理するようにしてもよい。
また、ステージの配列は、例示したように一直線である必要もない。ステージ構成における一部または全部のステージを複数列に配列してもよい。また、ステージの配列を上下に設けてもよい。
ステージCの後に、追加の熱処理を行うステージを追加してもよい。また、追加の熱処理は、拡散させた元素を磁石片の内部まで均一の拡散させるために、必要に応じて行えばよい。また、追加の熱処理を行うステージをステージCの後に設けてもよいし、他のステージと独立して設けてもよい。追加の熱処理を行うステージを独立に設けると、処理容器10をピッチ搬送する必要がないので、複数の処理容器10をまとめて、例えば、電気炉等を用いて処理することができる。
本発明の実施形態による拡散処理装置は、種々のステージ構成を採用することができる。本発明の実施形態による拡散処理装置を用いれば、従来よりも磁石片1の欠けの発生を抑制でき、高い歩留まりで拡散処理を行うことができる。欠けの発生を効率よく抑制するためには処理容器の内径は約500mm以下であることが好ましい。
次に、図7〜図13を参照して、本発明の実施形態による拡散処理方法におけるワーク投入方法およびそれに用いられるワーク投入装置を説明する。ここで、ワークとは、磁石片1を指すが、磁石片1とともに、拡散源2および撹拌補助部材3を同時に処理容器10の処理空間24(例えば図1参照)に投入する。ここで説明するワーク投入方法およびワーク投入装置は、拡散源として、粉末を用いる場合に特に効果を発揮する。以下では、拡散源として、大きさが90μm以下の粒子のみからなる粉末を拡散源として用いる場合について説明する。
磁石片1および撹拌補助部材3が処理空間24内に長さ方向(y軸方向)に均一に分布していないと、欠けの発生率が上昇することがある。投入時に磁石片1および撹拌補助部材3の分布に偏りが生じると、処理容器10を回転または揺動させても偏りは解消せず、欠けの発生率を抑制することはできない。例えば、傾斜させた処理容器10の上側開口(例えば第1開口12a)から、所定の磁石片1および撹拌所部材3を所定の比率で投入すると、処理空間24内を傾斜に沿って下側の開口(例えば第2開口12b)に向かって滑り落ちていく間に、磁石片1が先行し、撹拌補助部材3が遅れる。その結果、磁石片1同士が直接接触(衝突)する確率が極端に増大し、その結果、磁石片1に欠けが発生する確率が増大する。
以下で説明するワーク投入方法および/またはワーク投入装置を用いると、磁石片1および撹拌補助部材3を処理空間24の長さ方向に均一に分布させることができる。なお、ここで、長さ方向に磁石片1および撹拌補助部材3の分布が長さ方向に均一というのは、磁石片1および撹拌補助部材3をそれぞれ10分の1の量を長さ方向に沿って、処理空間24の長さの80%以上にわたって等間隔で10か所に配置した場合よりも分布の偏りが小さいことをいう。
本発明の実施形態によるR−T−B系焼結磁石の製造方法では、例えば、図7に示す投入容器110を用いる。投入容器110は、処理容器10の処理空間24内に挿入され、処理空間24の下側半分よりも小さい体積を有し、処理空間24の長手方向の長さの80%以上の長さを有する。ここで処理空間24の長さとは、焼結磁石片1等が移動しうる空間の長さであり、図1に示したように、処理容器10が断熱室26a、26bを有する場合には、断熱室26a、26bを含まない部分の長さをいう。投入容器110の長さが処理空間24の長さの80%未満であると、投入容器110内で焼結磁石片1と撹拌補助部材3とを長さ方向に均等に配置しても、処理空間24内に焼結磁石片1等を投入した後に、焼結磁石片1および撹拌補助部材3の長さ方向の分布に偏りが生じる恐れがある。
投入容器110は、例えば、円筒状の処理空間24の下半分に挿入される半円筒状であることが好ましい。投入容器110が半円筒状であると、効率よく、処理空間24内に焼結磁石片1および撹拌補助部材3を投入することができる。焼結磁石片1および撹拌補助部材3は、処理空間24の40%以上50%未満の体積を占めるように投入されることが好ましい。40%を下回ると、処理空間24内での焼結磁石片1が移動する距離が大きくなるので、欠けが生じる確率が高くなるとともに、スループットが低下するので好ましくない。一方、50%以上になると、処理空間24内の中央(円筒の中心軸、すなわち回転の中心軸)付近の焼結磁石片1がほとんど移動しなくなるので、拡散源2との接触の頻度が低下し、重希土類元素RHが十分に取り込まれていない焼結磁石片1が作製されることになる。
投入容器110に代えて、断面が多角形(例えば六角形、八角形など)の角筒状を長さ方向に二等分した形状を有するものを用いることもできる。ただし、このような半角筒状の投入容器は、収容体積が半円筒状の投入容器よりも小さいので、同量の焼結磁石片1等を投入するためには、焼結磁石片1等を投入容器からはみ出るように盛る必要が生じる。そうすると、投入容器から処理容器10内に焼結磁石片1等を移す際に、移動距離が大きい焼結磁石片に欠けが発生する確率が増大することがある。したがって、投入容器としては、図7に示した投入容器110のように、処理空間24の直径に近い直径を有する円筒を二等分した形状を有する投入容器を用いることが好ましい。
図7に示す投入容器110は、半円筒状の本体112と、端部の邪魔板114とを有し、半円筒状の受容空間124に焼結磁石片1、拡散源2および撹拌補助部材3を受容する。邪魔板114は、投入容器110を傾斜させた処理容器10内に挿入される際に、最初に処理容器10内に挿入され、最も低い位置に存在することになる。邪魔板114は、焼結磁石片1および/または撹拌補助部材3が、投入容器110外に飛び出ることを防止する。なお、邪魔板114は、投入容器110を180°回転(上下逆)されたときは、中央部で折れ、半円筒状の本体112の断面とほぼ等しい半円板状となり、処理容器10内に配置された焼結磁石片1および撹拌補助部材3に触れることなく、処理容器10外に引き出される。なお、ここで拡散源2は粉末であるので、自然に、処理容器10内の底へ移動する。邪魔板114は、例えば、円板状で中央部に折れ目を有し、ばねにより当該折れ目から半分に折れて半円板状となるように構成され、さらに、処理容器の投入時はピンにより折れ目から折れない様に固定され、投入容器が180℃回転(邪魔板114も180℃回転)したときにピンがはずれて、折り目から半分に折られて半円板状となるように構成する。
なお、以下に例示する実験では、焼結磁石片1として、厚さが4mm、長さが7mm、長さが70mmのR−T−B系焼結磁石片1を用いた。焼結磁石片1の8つの角は、半径1.0mmのR面取りを行ったものを用いた。拡散源2として、粒径が90μm以下の粒子だけを含む、TbFe3の粉末を用いた。また、撹拌補助部材3としては、ジルコニアの直径が3mmの球状の粒子を用いた。例えば、処理空間24の直径が約290mm、長さ(断熱室26a、26b部分を含まない。)が約1000mmのとき、投入容器110の長さL1は約900mmで、直径が約250mmの円筒を長さ方向に沿って二等分した形状を有している。投入される焼結磁石片1、拡散源2および撹拌補助部材3は、それぞれ、35kg(1920個)、70kg、1.05kg(焼結磁石片1に対して3質量%)として、拡散実験を行った。拡散工程(加熱工程)は、930℃で6時間で、処理容器10の回転速度は、0.3rpmとした。拡散工程(加熱工程)の前後の予備加熱工程および冷却工程を含め、合計で12時間、0.3rpmで回転させた(合計回転数216回)。
図8に、投入容器110に、焼結磁石片1および撹拌補助部材3を配置する好ましい形態を模式的に示す。投入容器110の本体112の受容空間124内に、例えば、一番下に撹拌補助部材3の層を、その上に焼結磁石片1の層を、さらにその上に撹拌補助部材3の層を形成するように、磁石片1および撹拌補助部材3を配置することが好ましい。すなわち、投入容器110の底の全面にわたって撹拌補助部材3の一部を配置する工程と、撹拌補助部材3の前記一部の上の全面にわたって焼結磁石片1を配置する工程と、焼結磁石片1の上の全面にわたって撹拌補助部材3の残部を配置する工程とを包含してもよい。このように、焼結磁石片1を撹拌補助部材3で上下を挟んだ状態で配置すると、投入容器110を斜めにしたときに、焼結磁石片1だけが滑り落ちて、分布に偏りが生じることを抑制することができる。
投入容器110における焼結磁石片1および撹拌補助部材3の配置は上記の例(3層)に限られず、例えば、5層としてもよい。すなわち、撹拌補助部材3を3層に分けて配置し、焼結磁石片1を2層に分けて、連続する2つの撹拌補助部材3の層の間にそれぞれ焼結磁石片1の層を配置してもよい。
粉末状の拡散源2は、焼結磁石片1および撹拌補助部材3をすべて配置した後で、最上層に存在する撹拌補助部材3の全面にわたって配置する。拡散源2は酸化され易いので、処理容器10に挿入する直前に投入容器110に入れることが好ましい。拡散源2も投入容器110の長さ方向の分布が均一になるように、例えば、10か所に分けて、均等に配置する。
次に、図9を参照して、処理容器10の処理空間24内に焼結磁石片1、拡散源2および撹拌補助部材3を投入する工程およびワーク投入装置を説明する。
本実施形態で用いられるワーク投入装置は、処理容器10の長手方向をy軸方向に配置した状態で、処理容器10をyz面内でxy平面から10°超25°未満の角度に傾斜させる処理容器支持装置140と、処理容器10の処理空間24内に、焼結磁石片1と拡散源2と撹拌補助部材3とが配置された投入容器110を挿入し、回転させるロボット160とを有する。ロボット160は、例えば、図10に模式的に示す様な6軸ロボットである。ロボット160と投入容器110との連結は、例えば、図11に模式的に示す、連結部材180で行われる。これらの構成について後述する。もちろん、処理容器10の長手方向をy軸方向と異なる方向に配置した状態で、焼結磁石片1等の投入を行い、別途搬送してもよい。
図9に示す様に、第1開口12aおよび第2開口12bの内の一方の開口(ここでは第2開口12b)だけを塞いだ状態で、一方の開口が下になるように、処理容器10を水平面から10°超25°未満の角度に傾斜させ、他方の開口(ここでは第1開口12a)から、処理空間24の長さの80%以上を占めるように、投入容器110を処理空間24の下側半分に挿入する。このとき、下側(第2開口12b側)の断熱室26bは装着しておく。この後、投入容器110を少なくとも180°回転させることによって、投入容器110内の焼結磁石片1等を処理空間24内に落とす。このとき、投入容器110が焼結磁石片1等に当たらない限り、180°を若干超えてもよく、180°を中心に振動させてもよい。この後、投入容器110を処理空間24から引き抜く。投入容器110は、上下反対(180°回転させられた状態)で引き抜かれる。このとき、焼結磁石片1等は処理空間24の50%未満を占めるよう投入されるので、投入容器110が処理空間24内の焼結磁石片1等を掻き出すことはない。
投入容器110を処理空間24から引き抜いた後、処理容器10を傾斜させた状態で、上側(第1開口12a側)の断熱室26aを装着する。この後、処理容器10を水平に配置し、上記のステージAへ搬送する。
図9に示す様に、処理容器支持装置140は、固定支持部146と、可動支持部144とを有している。可動支持部144は、固定支持部146の軸受149によって支持された回転軸148を中心に、例えば、傾斜角が0°以上40°以下の範囲で回転することができる。
可動支持部144は、2つの車輪対142a、142bと、車輪対143a、143bとを有し、処理容器10を支持する。また、処理容器10が水平方向に移動しないように、補助板145を有している。また、可動支持部144が水平方向に移動しないように、固定支持部146は補助板147を有している。
可動支持部144は、例えばモータ(不図示)によって傾斜角が0°以上40°以下の範囲で可変に制御される。投入容器110を処理容器10の処理空間24内に挿入する際の処理容器10の傾斜角度を、5°、10°、15°、20°および25°と変化させところ、傾斜角は10°超25°未満が好ましいことがわかった。処理容器10の傾斜角度が25°以上になると、投入容器110内の焼結磁石片1等が投入容器110から飛び出すことがある。また、傾斜角度が10°未満であると、挿入後焼結磁石片1等が開口(ここでは第1開口12a)側にくずれ、断熱材26aを装着するときに邪魔になるという不具合が生じることがある。
投入容器110を操作するロボット160は、例えば、図10に模式的に示す様な6軸ロボットである。ロボット160として、例えば、Fanuc製M900iA/350を用いることができる。ロボット160は、ベース162からヘッド部166まで6軸の自由度を有している。ロボット160と投入容器110との連結は、例えば、図11に模式的に示す、連結部材180で行われ、ロボット160のヘッド部166と投入容器110とが連結部材180で連結される。投入容器110はロボット160のアーム164と平行に保持され、アーム164が動くことによって、処理容器10内に挿入または処理容器10から引き抜かれる。アーム164の速度(処理容器10内に挿入または処理容器10から引き抜かれる速度)は例えば1,5mm/分である。また、ヘッド部166は、回転可能で、投入容器110が処理容器10内の所定の位置に挿入された状態で、回転し、投入容器110を例えば180°回転させる。ヘッド部166の回転速度は、例えば0.3rpmである。
図11は、ロボット160と投入容器110とを連結する部材180を示す模式図であり、図11(a)は側面図であり、図11(b)は断面図である。連結部材180は、例えば、Fanuc製M900iA/350に対応するクイックチェンジャーである。
連結部材180は、ツールプレート182と、マスタープレート184とを有している。ツールプレート182は、投入容器110に取り付けられ、マスタープレート184はロボット160のヘッド部166に取り付けられる。マスタープレート184の部分184a、184bおよび184cがそれぞれツールプレートの部分182a、182bおよび182cと嵌合し、連結される。
上述の方法で、焼結磁石片1、撹拌補助部材3および拡散源2を投入し、拡散処理を行った後、欠けの発生頻度および重希土類元素RHの添加効果を評価した結果を説明する。焼結磁石片1等の投入方法として、投入容器110に、撹拌補助部材3/焼結磁石片1/撹拌補助部材3の3層構造を形成する方法と、撹拌補助部材3/焼結磁石片1/撹拌補助部材3/焼結磁石片1/撹拌補助部材3の5層構造を形成する方法とを比較した。拡散源2は、最上層の撹拌補助部材3の上に均等に配置した。参照用に、焼結磁石片1、撹拌補助部材3および拡散源2をそれぞれ10等分したものを、人手でスコップを用いて処理容器10内に均等に配置した。すなわち、長さ方向に焼結磁石片1、撹拌補助部材3および拡散源2の分布を均一に配置した。
図12に、拡散処理実験における欠けの発生頻度を示すグラフを示し、表1に各発生頻度の数値を示す。サンプル数は、それぞれ1920個である。欠けの体積Vは、欠けた部分の厚さ方向大きさ(mm)、幅方向の大きさ(mm)、長さ方向大きさ(mm)を測定し、こられの積として求めた。したがって、欠けが三角錐の形状であっても、欠けの体積Vは直方体の体積として求めた。
図12および表1から明らかなように、投入容器110に3層構造および5層構造を形成して、上記の投入装置を用いて処理容器10に投入した方法と、人手で投入した方法とで、欠けの発生頻度に有意な差は見られず、96%以上が欠けの体積が1mm3未満の良品であった。なお、3層構造を形成した場合と、5層構造を形成した場合との間に有意な差がないことから、3層構造を形成すれば十分な均一性が得られることがわかった。したがって、作業効率の観点から、3層構造を形成する方が好ましいと言える。
図13に、重希土類元素RHの添加効果を示すグラフである。横軸は重希土類元素RH(ここではTb)の添加による質量の増加分ΔW(質量%)を示し、縦軸は保磁力の増加分ΔHcJ(kA/m)を示している。グラフ中の×は、これまでの種々のサンプルから得られた値を示し、ΔWとΔHcJの間に凸の曲線で示す関係が成立することがわかる。表2に、質量の増加分ΔW(質量%)および保磁力の増加分ΔHcJの平均値、最大値、最小値および標準偏差を示す。サンプル数はそれぞれ20個である。
図13および表2の結果から明らかなように、投入容器110に3層構造および5層構造を形成して、上記の投入装置を用いて処理容器10に投入した方法と、人手で投入した方法とで、重希土類元素RHの添加効果に有意な差は見られず、磁気特性の観点からも、良好な結果が得られた。