以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[種結晶の保持方法]
本実施形態の種結晶の保持方法の一構成例について以下に説明する。
ここでまず、本実施形態の単結晶の保持方法を好適に適用することができる、引上げ法による単結晶育成装置の構成例、及び引上げ法による単結晶の育成方法の概要について、図1を用いて説明する。図1は単結晶育成装置10の坩堝12の中心軸を通る断面での断面図を模式的に示したものである。
図1に示したように単結晶育成装置10は、チャンバー11内に坩堝12を配置することができ、坩堝12は、坩堝軸13上に載置することができる。なお、チャンバー11内には、坩堝12を囲むように、チャンバー11の内壁に沿って断熱材14を配置することができる。
そして、坩堝12を囲むように加熱体を配置できる。図1に示した単結晶育成装置10では、加熱体として坩堝12の側面と対向するように配置した側面ヒータ15と、坩堝12の底面と対向するように配置したボトムヒータ16を設けた例を示しているが、係る形態に限定されるものでない。例えば加熱体を側面ヒータ15のみにより構成することもできる。また、側面ヒータ15とボトムヒータ16とを1つのカップ形状のヒータにより構成することもできる。
チャンバー11の上部には引上げ軸を設けることができ、引上げ軸の先端部に、種結晶19を保持することができる。
引上げ軸は、種結晶19を直接保持する種結晶保持部171、及び種結晶保持部171に接続されたホルダーシャフト172を有する種結晶ホルダー17と、種結晶ホルダー17に接続された引上げシャフト18とを有することができる。
種結晶保持部171に接続されたホルダーシャフト172は、引上げシャフト18に接続する部分を有することができ、接続方法は特に限定されるものではなく、ネジ止め、フック式等を用いることができる。
なお、単結晶育成装置10には、さらにチャンバー11内の雰囲気を制御するための図示しないガス供給手段や、排気手段を設けることができる。また、チャンバー11内の温度を測定するための温度測定手段211、212、213や、原料融液20や、種結晶19の表面状態を観察するための観察窓22等を設けることもできる。
そして、引上げ法においてはまず、坩堝12内に充填した単結晶用原料を、加熱体により加熱して融解することで原料融液20とすることができる。
次いで、原料融液20に種結晶19を接触させるシーディングを実施した後、種結晶19を徐々に引き上げることで単結晶を育成することができる。種結晶19は既述のように引上げ軸の種結晶ホルダー17で固定、保持することができる。
上述の様に、引上げ法によれば種結晶19を原料融液20に接触させた後、種結晶19を徐々に引き上げることで単結晶を育成することができるが、育成する単結晶の結晶重量が増加するのに伴い種結晶19にかかる荷重の負荷も大きくなる。このため、従来の種結晶の保持方法では単結晶を育成している間に引上げ軸に固定している種結晶の角度が傾く等して所望の形状の単結晶を得られない場合があった。
そこで、本発明の発明者らは、育成した単結晶を引上げている際に、単結晶に傾きが生じることを抑制できる種結晶の保持方法について検討を行った。そして、以下の工程を有する種結晶の保持方法とすることで、上記従来技術の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
本実施形態の種結晶の保持方法は、以下の工程を有することができる。
種結晶の中心軸と直交するように種結晶に貫通孔を形成する貫通孔形成工程。
種結晶挿入孔を有し、種結晶挿入孔に種結晶を挿入した際に、貫通孔に対応する位置にピン挿入孔を有する種結晶保持部の種結晶挿入孔に、種結晶を挿入する種結晶挿入工程。
ピン挿入孔、及び貫通孔にピンを挿入して種結晶保持部に種結晶を固定する種結晶固定工程。
以下、本実施形態の種結晶の保持方法について具体的に説明する。
(貫通孔形成工程)
まず、貫通孔形成工程では図2に示したように、種結晶19の中心軸Aと直交するように、種結晶19に貫通孔191a、191bを形成することができる。なお、この際、貫通孔191a、191bは、貫通孔191a、191bの中心軸B1、B2と、種結晶19の中心軸Aとが直接、垂直に交わるように形成することができる。
この様に種結晶19の中心軸Aと貫通孔191a、191bとが直交するように貫通孔を形成することで、後述する種結晶固定工程で種結晶19の貫通孔にピンを挿入して種結晶ホルダーに固定する際に、種結晶19にかかる力が貫通孔191a、191bの左右で均等にできる。このため、育成した単結晶を引上げている際に、単結晶に傾きが生じることを抑制することが可能になる。
また、種結晶19に貫通孔191a、191bを形成するのみであり、複雑な形状に加工するものではないため、比較的容易に種結晶の加工を行うことができる。
種結晶に形成する貫通孔の形状は特に限定されるものではないが、図2に示した貫通孔191a、191bのように円筒形状であることが好ましい。これは、貫通孔の形状が円筒形状の場合、ドリル等により容易に形成できることからである。また、多角形形状の貫通孔であると、種結晶に力がかかった場合に角部に応力が集中し破断する恐れがあるからである。
貫通孔形成工程で、種結晶に形成する貫通孔の数や大きさは特に限定されるものではなく、例えば、種結晶のサイズや、引上げる単結晶の重量等に対応して選択することができる。
図2においては、貫通孔を2つ設けた例を示しているが、貫通孔の数は特に限定されるものではなく、貫通孔は1つまたは3つ以上であってもよい。ただし、複数の貫通孔を設けることで、育成した単結晶を引上げている際に種結晶に傾きが生じることを特に抑制することができる。このため、貫通孔形成工程においては種結晶に2つ以上の貫通孔を形成することが好ましい。
また、図2においては、同一の直径を有する円筒形状の貫通孔191a、191bを形成した例を示したが、係る形態に限定されるものではない。例えば円筒形状の貫通孔を複数形成する場合、直径の異なる貫通孔を含むことができる。
図2では2つの貫通孔191a、191bを互いに平行になるように形成した例を示したが係る形態に限定されるものではない。複数の貫通孔を形成する場合、種結晶の上面、又は底面から見た場合、すなわち図中Z軸に沿って種結晶を見た場合に、選択された一の貫通孔と、他の貫通孔とが互いに交差するように形成することもできる。
選択された一の貫通孔と、他の貫通孔とが互いに交差するように貫通孔を形成する場合について、図2に示した種結晶19において、貫通孔191a、191bにかえて、互いに交差する一の貫通孔と、他の貫通孔とを形成する場合を例に説明する。
この場合、例えばまず一の貫通孔を、貫通孔191a、191bの場合と同様に、選択された第1の側面192aと、第1の側面と対向する面192bとの間を結び、中心軸Aと直交するように形成することができる。
そして、他の貫通孔を第1の側面192a、及び第1の側面と対向する面192bとは異なる第2の側面192cと、第2の側面192cと対向する面192dとの間を結び、中心軸Aと直交するように形成することができる。
この場合、一の貫通孔は図中のX軸方向に沿って形成され、他の貫通孔は図中のY軸方向に沿って形成されるため、上面、又は底面からZ軸に沿って種結晶を見た場合、両貫通孔は互いに交差するように配置されることとなる。
ここまで貫通孔形成工程について図2に示した四角柱形状の種結晶19の場合を例に用いて説明したが、係る形態に限定されるものではない。ただし、種結晶は柱状形状を有することが好ましく、例えば四角柱以外の多角柱形状や、円柱形状であってもよい。種結晶が柱状形状の場合、中心軸は底面、及び上面の中心を通り、底面と垂直な線となる。
(種結晶挿入工程)
種結晶挿入工程では、種結晶ホルダーの種結晶保持部に貫通孔形成工程で貫通孔を形成した種結晶を挿入することができる。具体的には、種結晶挿入孔を有し、種結晶挿入孔に種結晶を挿入した際に、貫通孔に対応する位置にピン挿入孔を有する種結晶保持部の種結晶挿入孔に、種結晶を挿入することができる。
図3に種結晶ホルダー17に、図2に示した貫通孔を形成した種結晶19を挿入した状態を模式的に示す。
また、図4に図3で用いたものと同じ種結晶ホルダー17の側面図を示す。なお、図4では種結晶ホルダー17のピン挿入孔171a、171bを形成した面での側面図を示している。
図3に示したように種結晶ホルダー17は種結晶保持部171と、ホルダーシャフト172とを有することができる。そして、種結晶ホルダー17は下端部に種結晶19を挿入する種結晶挿入孔31を有することができる。
そして、既述のように引上げ法により単結晶を育成する際、種結晶19は種結晶ホルダー17により固定、保持することができる。そこで、種結晶19を種結晶ホルダー17により固定、保持するため、まず種結晶挿入工程では図3に示したように種結晶ホルダー17の下端部、すなわち種結晶保持部171の下端部に形成された種結晶挿入孔31から種結晶を挿入することができる。
種結晶保持部171内には、種結晶挿入孔31に連通して、種結晶19の一部を収容するための空間を形成しておくことができる。係る種結晶保持部171内の種結晶19の一部を収容するための空間は種結晶19に対応した形状を有することが好ましい。すなわち、図3に示したように種結晶19が四角柱形状を有する場合には、種結晶保持部171内の種結晶19を挿入するための空間も四角柱形状を有することが好ましい。
なお、種結晶19の形状は、既述のように四角柱形状に限定されるものではなく、例えば多角柱形状や、円柱形状とすることもできる。このため、種結晶保持部171の種結晶19の一部を収容するための空間についても収容する種結晶19の形状にあわせて、多角柱形状や、円柱形状等の空間とすることもできる。
また、種結晶保持部171の外形については特に限定されないが、例えば保持する種結晶19の形状に対応した形状とすることができる。このため、図3に示したように四角柱形状の種結晶19を保持する場合、種結晶保持部171の外形を四角柱形状とすることもできる。また、多角柱形状や、円柱形状等とすることもできる。
種結晶保持部171に種結晶19を挿入した後も、種結晶19は下端部を含む一部が種結晶保持部171から露出するように構成できる。これは、単結晶を育成する際に、既述のように原料融液と種結晶19とを接触させるシーディング等を実施するためである。
種結晶保持部171内の種結晶19の一部を収容するための空間内に種結晶19を挿入した際の、種結晶保持部171と、種結晶19との間に形成される隙間、すなわちクリアランスの距離は特に限定されなく、任意に選択することができる。ただし、クリアランスの距離を決定する際には、種結晶19と種結晶保持部171との材質による熱膨張係数差やシーディング等を実施する際の温度等を考慮して決定することが好ましい。これは、例えば種結晶19の熱膨張係数が種結晶保持部171の熱膨張係数よりも大きく、シーディング等を実施する際の温度において、クリアランスが熱膨張による変位量よりも小さいと種結晶が破壊される恐れがあるためである。また、クリアランスが大きすぎる場合には、種結晶保持部171に種結晶19を固定する際、両者の位置あわせを行う必要が生じ、作業性が低下するためである。
種結晶保持部171の側面部には、図3に示したように種結晶保持部171に挿入する種結晶19に貫通孔形成工程で形成した貫通孔に対応する位置にピン挿入孔171a〜171dを形成しておくことができる。
ピン挿入孔171a〜171dは、種結晶保持部171の幅方向の中央位置に形成されていることが好ましい。これは、ピン挿入孔171a〜171dを種結晶保持部171の幅方向の中央位置に設けた場合、例えば図4に示したように、ピン挿入孔171aの幅方向の端部と、種結晶保持部171の幅方向の端部との間の距離であるL1と、L2とを等しくできる。従って、ピン挿入孔171a、171bの左右の強度を均一にできるためである。ピン挿入孔の左右の強度を均一にすることで、サファイアのような2000℃を超える高融点の結晶を育成する場合や、単結晶の引上げを繰り返し行った場合でも、クリープ現象で種結晶保持部171に変形や破壊が生じることを抑制することができる。
また、種結晶保持部171の側面部はピン挿入孔の部分を除いて肉厚が一定であることが好ましい。
なお、例えば種結晶を挿入する際に、種結晶の位置合わせや出し入れを容易にできるように、後述する、種結晶保持部の側面部の一部を蓋部により構成した種結晶ホルダーを用いることもできる。
ただし、高融点の結晶を育成する場合や、単結晶の引上げを繰り返し行った場合でも、種結晶保持部に変形や破壊が生じることを抑制するため、種結晶保持部は、種結晶挿入孔を含む種結晶の一部を収容するための空間の中心軸を中心に形状が対称であることが好ましい。特に、例えば2回対称であることがより好ましい。また、種結晶保持部は、種結晶保持部に形成した全てのピン挿入孔の中心を通る面を対称面として形状が面対称であることが好ましい。
ピン挿入孔は貫通孔形成工程で種結晶に形成した貫通孔に対応して形成することができるため、その数や大きさは特に限定されるものではない。ただし、貫通孔形成工程で形成する貫通孔の数や大きさについては既述のように例えば、種結晶のサイズや、引き上げる結晶の重量等に対応して選択することができる。このため、種結晶保持部に形成されるピン挿入孔についても同様にして選択することができる。
(種結晶固定工程)
種結晶固定工程では、ピン挿入孔、及び貫通孔にピンを挿入して種結晶保持部に種結晶を固定することができる。
既述のように、種結晶挿入工程で、種結晶ホルダー17の種結晶保持部171に貫通孔形成工程で貫通孔を形成した種結晶19を挿入することができる。そして、種結晶保持部171には、種結晶19に形成した貫通孔に対応した位置にピン挿入孔171a〜171dが形成されていることから、係るピン挿入孔171a〜171d、及び種結晶の貫通孔にピンを挿入することで種結晶保持部171に種結晶19を固定できる。
図3に示した構成の場合、例えばピン挿入孔171aから、種結晶に形成した貫通孔191aを通ってピン挿入孔171cまでピン32を通すことができる。また、同様にピン挿入孔171bから、種結晶19に形成した貫通孔191bを通ってピン挿入孔171dまで同様にピン32を通すことができる。
このようにピン32が、種結晶保持部171のピン挿入孔171a〜171dと、種結晶19の貫通孔191a、191bとに渡って位置することで種結晶保持部171に種結晶19を固定できる。
なお、ピン32の形状は特に限定されるものではないが、種結晶19に形成した貫通孔191a、191bに対応した形状を有することが好ましい。
ピン挿入孔、及び貫通孔にピン32を挿入した後、ピン32が単結晶の引上げを行っている間等に抜けないように、図3に示したように耐熱性のワイヤー33を種結晶保持部171の側面に、ピン挿入孔を通るように巻いておくこともできる。
耐熱性のワイヤー33の材質は特に限定されるものではなく、育成する単結晶の融点等に応じて任意に選択することができるが、例えば2000℃以上の高温に耐えられる材質を好ましく用いることができる。特に耐熱性のワイヤーとして、高融点で比較的加工性に優れたモリブデン製のワイヤーを好ましく用いることができる。
以上に説明した本実施形態の種結晶の保持方法によれば、種結晶に、該種結晶の中心軸と直交するように貫通孔を形成することができる。そして、該貫通孔にピンを通すことで種結晶保持部に固定している。このため、種結晶にかかる力に偏りがなく、種結晶の中心軸を中心に対称となるため、育成した単結晶を引上げている際に、種結晶に傾きが生じることを抑制できる。
[種結晶ホルダー]
次に、本実施形態の種結晶ホルダーの一構成例について説明する。なお、本実施形態の種結晶ホルダーは、既述の種結晶の保持方法において好適に用いることができる。このため、種結晶の保持方法において既述の部分と重複する部分については説明を一部省略する。
本実施形態の種結晶ホルダーは、種結晶を保持する種結晶保持部を有する種結晶ホルダーに関する。
本実施形態の種結晶ホルダーは、種結晶保持部の下端部に設けられ、種結晶を挿入する種結晶挿入孔と、種結晶保持部の側面部に設けられ、種結晶を固定するピンを挿入するためのピン挿入孔と、を有することができる。そして、ピン挿入孔は種結晶保持部の幅方向の中央位置に設けることができる。
図3〜図5を用いて、本実施形態の種結晶ホルダーの構成例について説明する。
図3に示したように本実施形態の種結晶ホルダー17は、種結晶保持部171を有することができる。
なお、種結晶ホルダー17はさらに種結晶保持部171に接続してホルダーシャフト172も有することができる。ホルダーシャフト172は、既述の単結晶育成装置10に装着する際、引上げシャフト18に接続することができる。接続方法は特に限定されるものではなく、ネジ止め、フック式等を用いることができる。
種結晶保持部171の下端部には、種結晶19を挿入するための種結晶挿入孔31を有することができる。
種結晶保持部171内には、種結晶挿入孔31に連通して、種結晶19の一部を収容するための空間が形成しておくことができる。係る種結晶保持部171内の種結晶19の一部を収容するための空間は種結晶19に対応した形状を有することが好ましい。
また、種結晶保持部171の外形についても特に限定されないが、例えば保持する種結晶19の形状に対応した形状とすることができる。このため、図3に示したように四角柱形状の種結晶19を保持する場合、種結晶保持部171の外形を四角柱形状とすることもできる。また、多角柱形状や、円柱形状とすることもできる。
種結晶保持部171内の種結晶19の一部を収容するための空間内に種結晶19を挿入した際の、種結晶保持部171と、種結晶19との間に形成される隙間、すなわちクリアランスの距離は特に限定されないが、種結晶保持部171と種結晶19の熱膨張係数差等を考慮して設計することができる。
種結晶保持部171の側面部には、図3に示したように種結晶保持部171に挿入する種結晶19に形成した貫通孔に対応する位置にピン挿入孔171a〜171dを形成しておくことができる。
ピン挿入孔は、種結晶保持部の幅方向の中央位置に形成されていることが好ましい。これは、ピン挿入孔を種結晶保持部の幅方向の中央位置に設けた場合、例えば図4に示したように、ピン挿入孔171a、171bの幅方向の端部と、種結晶保持部171の端部との間の距離であるL1と、L2とを等しくできる。従って、ピン挿入孔171a、171bの左右の強度を均一にできるためである。ピン挿入孔171a、171bの左右の強度を均一にすることで、サファイアのような2000℃を超える高融点の結晶を育成する場合や、単結晶の引上げを繰り返し行った場合でも、クリープ現象で種結晶保持部171に変形や破壊が生じることを抑制することができる。
なお、ピン挿入孔の数や大きさは特に限定されるものではない。例えば、保持する種結晶のサイズや、引上げる結晶の重量等に対応して選択することができる。
また、種結晶保持部の側面部はピン挿入孔の部分を除いて肉厚が一定であることが好ましい。
ここで、種結晶ホルダーの他の形態として、種結晶保持部の側面部の一部を蓋部により構成した例について図5、図6を用いて説明する。なお、図5、図6は、図3で用いた種結晶ホルダー17の側面部の一部を蓋部により構成した場合の種結晶ホルダーの側面図を示しており、図3、図4に示した種結晶ホルダーと同じ部材には同じ番号を付している。
例えば、図5に示した種結晶ホルダー50のように、種結晶保持部に種結晶を挿入する際に、種結晶の位置合わせや出し入れを容易にできるように、種結晶保持部52の側面部の一部を蓋部521により構成することもできる。蓋部521を取り外すことで、種結晶19の一部を収容するための空間を、種結晶挿入孔31以外の部分からも露出させることができる。
ただし、種結晶ホルダー50において、種結晶の貫通孔に対応するためピン挿入孔171a、171bを蓋部51を含む種結晶保持部52の幅方向中央に形成すると、ピン挿入孔171a、171bの幅方向の端部と、蓋部521を除いた種結晶保持部52の端部との間の距離であるL3と、L4とが相違する。このため、ピン挿入孔171a、171bの左右で強度に差異が生じることとなる。このように、ピン挿入孔171a、171bの左右で強度差を有する種結晶ホルダーを用いて高融点の結晶を育成したり、単結晶の引上げを繰り返し行うと、種結晶保持部171に変形や破壊を生ずる恐れがある。
そこで、種結晶保持部の側面部の一部を蓋部により構成する場合、図6に示した種結晶ホルダー60のように、対向する2つの側面の一部を蓋部621a及び621bにより構成することがより好ましい。種結晶ホルダー60においては、ピン挿入孔171a、171bを蓋部621a、621bを含む種結晶保持部62の幅方向中央に形成しても、ピン挿入孔171a、171bは、蓋部621a及び621bを含まない種結晶保持部62の幅方向の中央位置に形成できる。
すなわち、図6に示した種結晶ホルダー60においては、ピン挿入孔171a、171bの幅方向の端部と、蓋部621a、621bを除いた種結晶保持部62の端部との間の距離であるL5と、L6とを等しくできる。従って、ピン挿入孔171a、171bの左右の強度を均一にでき、高融点の結晶を育成する場合や、単結晶の引上げを繰り返し行った場合でも、クリープ現象で種結晶保持部62に変形や破壊が生じることを抑制することができる。
なお、蓋部621a、及び621bは図6に示したように同じ形状を有していることが好ましい。
ただし、図6に示した種結晶ホルダー60において、種結晶保持部62と、蓋部621a、621bとを組み合わせた時のサイズが、図4に示した種結晶保持部171と同じ場合、L1(=L2)>L5(=L6)の関係になる。このため、種結晶保持部にかかる荷重を支えるための強度は図4の種結晶保持部171の方が図6の種結晶保持部62よりも強くなる。そのため、図6に示したような蓋部を設けた構造とする場合には、ピン挿入孔171a、171bの幅方向の端部と、種結晶保持部62の端部との間の距離であるL5と、L6とを十分な長さとなるように種結晶保持部62のサイズを選択することが好ましい。
以上に説明したように種結晶保持部の側面部の一部を蓋部により構成することもできるが、1つの側面部のみを蓋部により構成すると、単結晶の引上げを繰り返し実施した場合に、種結晶保持部に変形や破壊が生じる恐れがある。このため、高融点の結晶を育成する場合や、繰り返し使用する場合には、種結晶ホルダーについては、図4に示したように種結晶保持部の側面を1つの部材で構成するか、図6に示したように種結晶保持部62の側面部の対向する面の両方を蓋部により構成することが好ましい。
すなわち、種結晶保持部は、種結晶挿入孔を含む種結晶の一部を収容するための空間の中心軸を中心に形状が対称であることが好ましい。特に、例えば2回対称であることがより好ましい。また、種結晶保持部は、種結晶保持部に形成した全てのピン挿入孔の中心を通る面を対称面として形状が面対称であることが好ましい。これは種結晶挿入孔を含む種結晶の一部を収容するための空間の中心軸を中心に形状を対称とすることで、高融点の結晶を育成する場合や、単結晶の引上げを繰り返し行った場合でも、クリープ現象で種結晶保持部に変形や破壊が生じることを抑制することができるからである。
以上に説明した本実施形態の種結晶ホルダーは、例えば中心軸と直交するように貫通孔を形成した種結晶の、該貫通孔にピンを挿入して保持する場合に好適に用いることができる。中心軸と直交するように貫通孔を形成した種結晶の貫通孔にピンを挿入して保持することで、種結晶にかかる力に偏りがなく、中心軸を中心に対称となるため、育成した単結晶を引上げている際に、種結晶に傾きが生じることを抑制できる。
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
図1に示した単結晶育成装置10を用いて、サファイア単結晶の製造を実施した。
まず、以下の手順に従い、図3に示したように種結晶ホルダー17に種結晶19を固定、保持した。
最初に以下の構成を有する種結晶ホルダー17を用意した。
種結晶ホルダー17として、モリブデンの棒を加工し、外径が23mm角、高さが70mmの柱状形状を有する種結晶保持部171と、直径18mmの棒状体であるホルダーシャフト172とが一体となったものを作製した。
なお、種結晶保持部171には底面に15.2mm角の種結晶挿入孔31を形成した。また、種結晶保持部171の内部には種結晶19の一部を収容するための空間として、15mm角、高さが34mmの空間を形成し、該空間の下端部が種結晶挿入孔31となる。このため、種結晶保持部171の肉厚は3.9mmとなった。
そして、種結晶保持部171の側面のうち、選択した一の面について、下端部から中心の位置が12mm間隔となるように直径6.5mmのピン挿入孔を2つ形成した。なお、形成したピン挿入孔171a、171bはいずれも種結晶保持部171の幅方向中央部に形成しており、ピン挿入孔171a、171bの幅方向端部から、種結晶保持部171の幅方向の両端部までの距離L1とL2は各々8.25mmとなった。
また、上記選択した一の面と対向する面にも同様にしてピン挿入孔を2つ形成した。
以上の種結晶ホルダー17に以下の手順により種結晶を固定、保持させた。
(貫通孔形成工程)
単結晶の育成の際に用いる種結晶に貫通孔を形成した。
まず、15mm角、長さ100mmの四角柱形状を有する種結晶を用意した。
そして、種結晶の長さ方向の一方の端部から10mmと22mmの位置の、幅方向の中央に貫通孔の中心軸が位置するように、直径6mmの貫通孔を形成した。
なお、形成した貫通孔は、種結晶の中心軸と直交していることを確認した。
(種結晶挿入工程)
次に、貫通孔形成工程で貫通孔を形成した種結晶を、上述した種結晶ホルダー17の種結晶保持部171に種結晶挿入孔31から挿入した。この際、種結晶19に形成した貫通孔と、種結晶ホルダー17に形成したピン挿入孔との位置が一致するように調整した。
(種結晶固定工程)
直径6mm、長さ23mmのピン32を2本用意し、種結晶保持部171に形成したピン挿入孔171a〜171d、及び種結晶19に形成した貫通孔191a、191bに挿入した。そして、耐熱性のワイヤー33としてモリブデン製の高耐熱ワイヤーを、ピン32を挿入したピン挿入孔171a〜171d部分を通るように、種結晶保持部171の側面に沿って巻き、ピン32が外れないように固定した。
次に、図1に示した単結晶育成装置10の引上げシャフト18に、上述の種結晶19を保持、固定した種結晶ホルダー17を接続して、以下の手順によりサファイア単結晶の育成を行った。
坩堝12内にサファイアの原料である酸化アルミニウム原料を115kg充填し、坩堝軸13の上に載せた。
そして、チャンバー11内を10Paまで真空引きした後、側面ヒータ15とボトムヒータ16とに電力の供給を開始した。側面ヒータ15とボトムヒータ16とに供給する電力量の合計が39kWになるまで5時間かけて徐々に電力供給量を増加させながら加熱し、その後ヒータへの電力供給量を3時間保持した。なお、側面ヒータ15とボトムヒータ16とに電力の供給を開始した後も、チャンバー11内の真空引きは継続して実施し、真空雰囲気とした。
次に、真空引きを中止し、チャンバー11内にアルゴンガスを導入し、大気圧に到達後5時間かけて側面ヒータ15とボトムヒータ16とに供給する電力量が合計45kWになるまで供給する電力量を上げ、酸化アルミニウム原料が完全に融解するまで保持した。
そして、熱電対である温度測定手段211、212、213の温度が安定するのを確認した後、引上げシャフト18を下げ、種結晶19を原料融液20に近づけて、観察窓22から種結晶19の表面状態を確認しながらシーディングを行った。
シーディングを実施した後は、約200時間かけて種結晶19を引上げ、約85kgのサファイア単結晶を得た。
得られたサファイア単結晶は目的の形状となるように育成できており、育成途中に種結晶に傾きが生じていないことが確認できた。
また、種結晶ホルダーの状態を確認した結果、変形は生じていないことが確認できた。
ここまで説明した手順と同様にして、同じ種結晶ホルダーを用いて合計10回サファイア単結晶の製造を行ったが、いずれも育成途中に種結晶に傾きが生じていないことが確認できた。また、10回繰り返しサファイア単結晶の育成を繰り返した後でも種結晶ホルダーに変形が生じていないことを確認できた。
[実施例2]
図5に示した、種結晶保持部52の側面部であって、ピン挿入孔を形成していない2面のうちの片側に蓋部521を設け、種結晶19を挿入しやすくした種結晶ホルダー50を用いた点以外は、実施例1と同様にして種結晶を保持した。なお、種結晶ホルダー50は実施例1と同じ23mm角としたため、L3は4.35mm、L4は8.25mmとなった。そして、係る種結晶ホルダーを図1に示した単結晶育成装置10に接続してサファイア単結晶の製造を行った。
得られたサファイア単結晶は目的の形状となるように育成できており、育成途中に種結晶に傾きが生じていないことが確認できた。
そして、同じ種結晶ホルダーを用いて合計3回のサファイア単結晶の製造を行った場合、種結晶ホルダーに変形が生じることが確認できた。
[実施例3]
図6に示した種結晶保持部62の側面部のうち、ピン挿入孔を形成していない2面に蓋部621a及び621bを設け、種結晶19を挿入し易くした種結晶ホルダー60を用いた点以外は、実施例1と同様にして種結晶を保持した。そして、係る種結晶ホルダー60を図1に示した単結晶育成装置10に接続してサファイア単結晶の製造を行った。
なお、種結晶ホルダー60は、ピン挿入孔171a、171bの幅方向端部から、蓋部621a、621bを除いた種結晶保持部62の幅方向の両端部までの距離L5とL6は実施例1と同様に各々8.25mmとし、種結晶ホルダー60は30.8mm角とした。
得られたサファイア単結晶は目的の形状となるように育成できており、育成途中に種結晶に傾きが生じていないことが確認できた。
また、種結晶ホルダー60の状態を確認した結果、1回目のサファイア単結晶の育成後に変形は生じていないことが確認できた。
そして、同じ種結晶ホルダーを用いて合計10回サファイア単結晶の製造を行ったが、いずれも育成途中に種結晶に傾きが生じていないことが確認できた。また、10回繰り返しサファイア単結晶の育成を繰り返した後でも種結晶ホルダーに変形が生じていないことを確認できた。
[比較例1]
種結晶に貫通孔を形成する貫通孔形成工程において、貫通孔の中心軸が、種結晶の中心軸と直交しないようにずらして貫通孔を形成し、係る貫通孔にあわせた位置にピン挿入孔を形成した種結晶ホルダーを用いた点以外は実施例1と同様にして、サファイア単結晶の育成を行った。
種結晶に形成した貫通孔は図2において、貫通孔191a、191bの中心軸B1、B2が種結晶の中心軸と直交する位置から、水平方向、すなわち図2中紙面と垂直な方向であるY軸方向に3.5mmずれた位置に形成した。
得られたサファイア単結晶は、図2に示した種結晶19の中心軸Aに対して偏心した形状となっており、育成途中に種結晶に傾きが生じていることが確認できた。
そして、同じ種結晶ホルダーを用いて合計3回のサファイア単結晶の製造を行った場合、種結晶ホルダーに変形が生じていることが確認できた。