以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、駆動力源としてのエンジン12、左右の前輪14L,14R(特に区別しない場合には前輪14という)、左右の後輪16L,16R(特に区別しない場合には後輪16という)、エンジン12の動力を前輪14と後輪16とへそれぞれ伝達する動力伝達装置18などを備えている。後輪16は、2輪駆動(2WD)走行中及び4輪駆動(4WD)走行中のときに共に駆動輪となる主駆動輪である。前輪14は、2WD走行中のときに従動輪となり且つ4WD走行中のときに駆動輪となる副駆動輪である。従って、車両10は、前置エンジン後輪駆動(FR)をベースとする4輪駆動車両(4WD車)である。
動力伝達装置18は、エンジン12に連結された変速機(トランスミッション)20、変速機20に連結された前後輪動力分配装置である4輪駆動車両(4WD車)用トランスファ22(以下、トランスファ22という)、トランスファ22にそれぞれ連結されたフロントプロペラシャフト24及びリヤプロペラシャフト26、フロントプロペラシャフト24に連結された前輪用差動歯車装置28、リヤプロペラシャフト26に連結された後輪用差動歯車装置30、前輪用差動歯車装置28に連結された左右の前輪車軸32L,32R(特に区別しない場合には前輪車軸32という)、後輪用差動歯車装置30に連結された左右の後輪車軸34L,34R(特に区別しない場合には後輪車軸34という)などを備えている。このように構成された動力伝達装置18において、変速機20を介してトランスファ22へ伝達されたエンジン12の動力は、トランスファ22から、リヤプロペラシャフト26、後輪用差動歯車装置30、後輪車軸34等の後輪側の動力伝達経路を順次介して後輪16へ伝達される。又、後輪16側へ伝達されるエンジン12の動力の一部は、トランスファ22にて前輪14側へ分配されて、フロントプロペラシャフト24、前輪用差動歯車装置28、前輪車軸32等の前輪側の動力伝達経路を順次介して前輪14へ伝達される。
前輪用差動歯車装置28は、フロント側クラッチ36を前輪車軸32R側に(すなわち前輪用差動歯車装置28と前輪14Rとの間に)備えている。フロント側クラッチ36は、前輪用差動歯車装置28と前輪14Rとの間の動力伝達経路を選択的に接続又は遮断する、電気的(電磁的)に制御される噛合式クラッチである。尚、フロント側クラッチ36において、更に、同期機構(シンクロ機構)が備えられていても構わない。
図2及び図3は、トランスファ22の概略構成を説明する図であって、図2はトランスファ22の断面図であり、図3はトランスファ22の骨子図である。図2、図3において、トランスファ22は、非回転部材としてのトランスファケース40を備えている。トランスファ22は、トランスファケース40により回転可能に支持された入力軸42および、第1の左右の駆動輪としての後輪16へ動力を出力する後輪側出力軸44と、第2の左右の駆動輪としての前輪14へ動力を出力するスプロケット状のドライブギヤ46と、入力軸42の回転を変速して後輪側出力軸44へ伝達する副変速機としてのハイロー切替機構48と、後輪側出力軸44からドライブギヤ46すなわち前輪14L、14Rへ伝達する伝達トルクを調整する前輪駆動用クラッチ(摩擦クラッチ)50とを、共通の軸線C1回りに備えている。入力軸42および後輪側出力軸44は、相互に同心でそれぞれ回転可能に一対の第1支持ベアリング71、73を介してトランスファケース40に支持されており、ドライブギヤ46は、後輪側出力軸44に相対回転可能に同心に第2支持ベアリング75を介して支持されている。又、トランスファ22は、トランスファケース40内において、前輪側出力軸52と、前輪側出力軸52に一体的に設けられたスプロケット状のドリブンギヤ54とを軸線C1に平行な共通の軸線C2回りに備え、更に、ドライブギヤ46とドリブンギヤ54との間に巻き掛けられた前輪駆動用チェーン56と、後輪側出力軸44とドライブギヤ46とを一体的に連結するドグクラッチとして4WDロック機構58とを備えている。
入力軸42は、変速機20の出力軸(不図示)に継手を介して連結されており、エンジン12から変速機20を介して入力された駆動力(トルク)によって回転駆動させられる。後輪側出力軸44は、リヤプロペラシャフト26に連結された主駆動軸である。ドライブギヤ46は、後輪側出力軸44回りに相対回転可能に設けられている。前輪側出力軸52は、フロントプロペラシャフト24に図示しない継手を介して連結された副駆動軸である。
このように構成されたトランスファ22は、ドライブギヤ46へ伝達するトルクを前輪駆動用クラッチ50により調整して、変速機20から伝達された動力を後輪16のみへ伝達したり、或いは前輪14にも分配する。又、トランスファ22は、4WDロック機構58によりリヤプロペラシャフト26とフロントプロペラシャフト24との間の回転差を発生させない4WDロック状態とそれらの間の回転差を許容する4WD非ロック状態とのいずれかに切り替える。又、トランスファ22は、高速側ギヤ段(高速側変速段)H及び低速側ギヤ段(低速側変速段)Lの何れかを成立させて、変速機20からの回転を変速して後段へ伝達する。つまり、トランスファ22は、入力軸42の回転をハイロー切替機構48を介して後輪側出力軸44へ伝達すると共に、前輪駆動用クラッチ50を介した伝達トルクが零とされ且つ4WDロック機構58が解放された状態では、後輪側出力軸44から前輪側出力軸52への動力伝達は行われない一方で、前輪駆動用クラッチ50を介してトルクが伝達されるか或いは4WDロック機構58が係合された状態では、後輪側出力軸44からドライブギヤ46、前輪駆動用チェーン56、及びドリブンギヤ54を介して前輪側出力軸52への動力伝達が行われる。
具体的には、ハイロー切替機構48は、シングルピニオン型の遊星歯車装置60と、ハイロースリーブ62とを備えている。遊星歯車装置60は、入力軸42に対して軸線C1回りの回転不能に連結されたサンギヤSと、そのサンギヤSに対して略同心に配置され、トランスファケース40に軸線C1回りの回転不能に連結されたリングギヤRと、これらサンギヤS及びリングギヤRに噛み合う複数のピニオンギヤPを自転可能且つサンギヤS回りの公転可能に支持するキャリヤCAとを有している。よって、サンギヤSの回転速度は入力軸42に対して等速であり、キャリヤCAの回転速度は入力軸42に対して減速される。このサンギヤSの内周面にはハイ側ギヤ歯64が固設されており、又、キャリヤCAにはハイ側ギヤ歯64と同径のロー側ギヤ歯66が固設されている。ハイ側ギヤ歯64は、入力軸42と等速の回転を出力する、高速側ギヤ段Hの成立に関与するスプライン歯である。ロー側ギヤ歯66は、ハイ側ギヤ歯64よりも低速側の回転を出力する、低速側ギヤ段Lの成立に関与するスプライン歯である。ハイロースリーブ62は、後輪側出力軸44に軸線C1と平行な方向の相対移動可能にスプライン嵌合されており、フォーク連結部62aと、フォーク連結部62aと隣接して一体的に設けられた、後輪側出力軸44の軸線C1と平行な方向への移動によってハイ側ギヤ歯64とロー側ギヤ歯66とにそれぞれ噛み合う外周歯62bとを有している。ハイ側ギヤ歯64と外周歯62bとが噛み合うことで、入力軸42の回転と等速の回転が後輪側出力軸44へ伝達され、ロー側ギヤ歯66と外周歯62bとが噛み合うことで、入力軸42の回転に対して減速された回転が後輪側出力軸44へ伝達される。ハイ側ギヤ歯64とハイロースリーブ62とは、高速側ギヤ段Hを形成する高速側ギヤ段用クラッチとして機能し、ロー側ギヤ歯66とハイロースリーブ62とは、低速側ギヤ段Lを形成する低速側ギヤ段用クラッチとして機能する。
4WDロック機構58は、ドライブギヤ46の内周面に固設されたロック歯68と、後輪側出力軸44に対してその軸線C1方向の移動可能且つ相対回転不能にスプライン嵌合されて、その軸線C1方向の移動でドライブギヤ46に形成されたロック歯68に噛み合う外周歯70aが外周面に固設されたロックスリーブ(4WDロック部材)70とを備えている。トランスファ22は、ロックスリーブ70の外周歯70aとロック歯68とが噛み合った4WDロック機構58の係合状態では、後輪側出力軸44とドライブギヤ46とが一体的に回転させられて、4WDロック状態が形成される。
ハイロースリーブ62は、入力軸42に設けられた第1支持ベアリング71に対して(より具体的には遊星歯車装置60に対して)ドライブギヤ46側の空間に設けられている。ロックスリーブ70は、ハイロー切替機構48とドライブギヤ46との間の空間に、ハイロースリーブ62と隣接して別体で設けられている。トランスファ22は、ハイロースリーブ62とロックスリーブ70との間に、それぞれに当接してハイロースリーブ62とロックスリーブ70とを相互に離間させる側へ付勢する予圧状態の第1スプリング72を備えている。トランスファ22は、ドライブギヤ46とロックスリーブ70との間に、後輪側出力軸44の凸部44aとロックスリーブ70とに当接してロックスリーブ70をロック歯68から離す側へ付勢する予圧状態の第2スプリング74を備えている。第1スプリング72の付勢力は第2スプリング74よりも大きく設定されている。凸部44aは、ドライブギヤ46の径方向内側の空間においてロック歯68側に突出して設けられた後輪側出力軸44の鍔部である。ハイ側ギヤ歯64は、軸線C1に平行な方向に見てロー側ギヤ歯66よりもロックスリーブ70から離れた位置に設けられている。ハイロースリーブ62の外周歯62bは、ハイロースリーブ62がロックスリーブ70から離間する側(図2、3において左側)にてハイ側ギヤ歯64に噛み合い、ハイロースリーブ62がロックスリーブ70に接近する側(図2、3において右側)にてロー側ギヤ歯66に噛み合う。ロックスリーブ70の外周歯70aは、ロックスリーブ70がドライブギヤ46に接近する側(図2、3において右側)にてロック歯68に噛み合う。従って、ロックスリーブ70の外周歯70aは、ハイロースリーブ62がロー側ギヤ歯66と噛み合う位置にてロック歯68に噛み合う。
前輪駆動用クラッチ50は、後輪側出力軸44に相対回転不能に連結されたクラッチハブ76と、ドライブギヤ46に相対回転不能に連結されたクラッチドラム78と、クラッチハブ76とクラッチドラム78との間に介挿されこれらを選択的に断接する摩擦係合要素80と、摩擦係合要素80を押圧するピストン82とを備える、湿式多板の摩擦クラッチである。前輪駆動用クラッチ50は、後輪側出力軸44の軸線C1方向で、ドライブギヤ46に対してハイロー切替機構48とは反対側に後輪側出力軸44の軸線C1回りに配置されて、ドライブギヤ46側に移動するピストン82によって摩擦係合要素80が押し付けられる。前輪駆動用クラッチ50は、ピストン82がドライブギヤ46から軸線C1に平行な方向に離れる側である非押圧側(図2、3において右側)に移動させられて摩擦係合要素80に当接しない状態では、解放状態となる。一方で、前輪駆動用クラッチ50は、ピストン82がドライブギヤ46に軸線C1に平行な方向に近づく側である押圧側(図2、3において左側)に移動させられて摩擦係合要素80に当接する状態では、ピストン82の移動量によって伝達トルク(トルク容量)が調整され、解放状態、スリップ状態、又は係合状態となる。
トランスファ22は、前輪駆動用クラッチ50の解放状態且つロックスリーブ70の外周歯70aとロック歯68とが噛み合っていない4WDロック機構58の解放状態では、後輪側出力軸44とドライブギヤ46との間の動力伝達経路が遮断されて、変速機20から伝達された動力を後輪16のみへ伝達する。トランスファ22は、前輪駆動用クラッチ50のスリップ状態または係合状態では、変速機20から伝達された動力を前輪14及び後輪16のそれぞれに分配する。トランスファ22は、前輪駆動用クラッチ50のスリップ状態では、後輪側出力軸44とドライブギヤ46との間の回転差動が許容されて、差動状態(4WD非ロック状態)が形成される。トランスファ22は、前輪駆動用クラッチ50の係合状態では、後輪側出力軸44とドライブギヤ46とが一体的に回転させられて、4WDロック状態が形成される。前輪駆動用クラッチ50は、伝達トルクが制御されることで、前輪14と後輪16とのトルク配分を例えば0:100〜50:50の間で連続的に変更することができる。
トランスファ22は、ハイロー切替機構48、前輪駆動用クラッチ50、及び4WDロック機構58を作動させる装置として、電動モータ84と、電動モータ84の回転運動を直線運動に変換するねじ機構86と、ねじ機構86の直線運動力をハイロー切替機構48、前輪駆動用クラッチ50、及び4WDロック機構58へそれぞれ伝達する伝達機構88とを、更に備えている。すなわち、上記ハイロー切替機構78、前輪駆動側クラッチ50、4WDロック機構58、電動モータ84、ねじ機構86、伝達機構88等は、4WDロック機構58におけるロックスリーブ70による4WDロック状態への切り替えと、前輪駆動側クラッチ50による前輪14すなわちドライブギヤ46への伝達トルクの調整と、ハイロー切替機構78による高速側ギヤ段Hと低速側ギヤ段Lとの切り替えと、を一つの電動モータ84で行う主切替装置89を構成している。
ねじ機構86は、後輪側出力軸44と同じ軸線C1回りに配置されており、トランスファ22に備えられたウォームギヤ90を介して電動モータ84に間接的に連結された回転部材としてのねじ軸部材92と、ねじ軸部材92の回転に伴って軸線C1と平行な方向に移動可能にねじ軸部材92に連結された直線運動部材としてのナット部材94とを備えている。ねじ機構86は、ねじ軸部材92とナット部材94が多数のボール96を介して作動するボールねじである。ウォームギヤ90は、電動モータ84のモータシャフトと一体的に形成されたウォーム98と、軸線C1回りに配置されてねじ軸部材92と一体的に形成されたウォームホイール100とを備えた歯車対である。例えばブラシレスモータである電動モータ84の回転は、ウォームギヤ90を介してねじ軸部材92へ減速されて伝達される。ねじ機構86は、ねじ軸部材92に伝達された電動モータ84の回転を、ナット部材94の直線運動に変換する。
伝達機構88は、ねじ軸部材92の軸線C1と平行な軸線C3回りに設けられて、ナット部材94に連結されたフォークシャフト102と、フォークシャフト102に固設されて、ハイロースリーブ62に連結されたフォーク104とを備えている。伝達機構88は、ねじ機構86におけるナット部材94の直線運動力を、フォークシャフト102、及びフォーク104を介してハイロー切替機構48のハイロースリーブ62へ伝達する。ハイロースリーブ62とロックスリーブ70とは第1スプリング72を介して相互に力が付与され、又、ロックスリーブ70は第2スプリング74を介して後輪側出力軸44の凸部44aから力を付与されている。従って、伝達機構88は、ねじ機構86におけるナット部材94の直線運動力を、ハイロースリーブ62を介して4WDロック機構58のロックスリーブ70へ伝達する。その為、第1スプリング72及び第2スプリング74は、伝達機構88の一部を構成する。
トランスファ22には、4WDロック機構58のロックスリーブ70を電動モータ84の出力により軸線C1方向に駆動させる第1ロックスリーブ駆動装置103が備えられている。第1ロックスリーブ駆動装置103には、電動モータ84の回転運動を直線運動に変換するねじ機構86であるボールネジと、そのボールネジの直線運動力をハイロースリーブ62に伝達するフォークシャフト102およびフォーク104等の伝達機構88と、そのフォーク104に連結されたハイロースリーブ62と、ハイロースリーブ62とロックスリーブ70との間において圧縮された状態で配設された第1スプリング72と、ロックスリーブ70と後輪側出力軸44の凸部44aとの間において圧縮された状態で配設された第2スプリング74とが備えられている。このように構成された第1ロックスリーブ駆動装置103では、電動モータ84に出力によってねじ機構86と伝達機構88のフォークシャフト102およびフォーク104等とを介してハイロースリーブ62がドライブギヤ46側へ移動すなわちハイロースリーブ62の外周歯62bがロー側ギヤ歯66に噛み合あう位置へ移動させられると、ロックスリーブ70は、第1ロックスリーブ駆動装置103から第1スプリング72を介してドライブギヤ46側へ向かう4WDロック方向推力が作用される。これによって、ロックスリーブ70は、その外周歯70aが第1スプリング72よりも弱く設定された第2スプリング74の付勢力に抗してドライブギヤ46側へ移動させられ、ドライブギヤ46のロック歯68に噛み合わせられる。また、ハイロースリーブ62の外周歯62bがロー側ギヤ歯66に噛み合あっている状態から、電動モータ84に出力によってねじ機構86と伝達機構88のフォークシャフト102およびフォーク104等とを介してハイロースリーブ62がドライブギヤ46から離れる側へ移動すなわちハイロースリーブ62の外周歯62bがハイ側ギヤ歯64に噛み合あう位置へ移動させられると、ロックスリーブ70は、第2スプリング74でドライブギヤ46から離れる側へ向かう4WDロック解除方向推力が作用される。これによって、ロックスリーブ70は、その外周歯70aがドライブギヤ46のロック歯68から離れるように第2スプリング74の付勢力によってドライブギヤ46から離れる側に移動させられる。なお、第1ロックスリーブ駆動装置103は、前述した主切替装置89の一部であり、第1ロックスリーブ駆動装置103によってロックスリーブ70よる4WDロック状態への切り替えが行われる。
ねじ機構86は、前輪駆動用クラッチ50に対してドライブギヤ46とは反対側に配置されている。前輪駆動用クラッチ50のピストン82は、ねじ機構86のナット部材94とは軸線C1と平行な方向の相対移動不能且つ軸線C1回りの相対回転可能に連結されている。従って、ねじ機構86におけるナット部材94の直線運動力は、ピストン82を介して前輪駆動用クラッチ50の摩擦係合要素80に伝達される。その為、ピストン82は、ナット部材94に連結された、前輪駆動用クラッチ50の摩擦係合要素80を押し付ける押付部材であり、伝達機構88の一部を構成する部材として機能する。このように、伝達機構88は、ねじ機構86におけるナット部材94の直線運動力を、前輪駆動用クラッチ50の摩擦係合要素80へ伝達する。
伝達機構88は、ナット部材94とフォークシャフト102とを連結する連結機構106を備えている。連結機構106は、軸線C3と平行な方向にフォークシャフト102と摺動可能に軸線C3回りに配置された、一端部に設けられた鍔どうしが相対する2つの鍔付円筒部材108a,108b、2つの鍔付円筒部材108a,108bの間に介在させられた円筒状のスペーサ110、及びスペーサ110の外周側に予圧状態で配置された第3スプリング112と、2つの鍔付円筒部材108a,108bを軸線C3と平行な方向に摺動可能に把持する把持部材114と、把持部材114とナット部材94とを連結する連結部材116とを備えている。把持部材114は、鍔付円筒部材108a,108bの鍔に当接することで鍔付円筒部材108a,108bをフォークシャフト102上で摺動させる。鍔付円筒部材108a,108bの鍔が共に把持部材114と当接した状態における鍔間の長さは、スペーサ110の長さよりも長くされている。従って、鍔が共に把持部材114と当接した状態は、第3スプリング112の付勢力によって形成される。
フォークシャフト102は、鍔付円筒部材108a,108bの各々を軸線C3と平行な方向の離間不能とするストッパ118a,118bを、外周面に備えている。ストッパ118a,118bにより鍔付円筒部材108a,108bが離間不能とされることで、伝達機構88は、ナット部材94の直線運動力を、フォークシャフト102、及びフォーク104を介してハイロー切替機構48へ伝達することができる。
ロックスリーブ70の外周歯70aは、フォークシャフト102がハイロースリーブ62の外周歯62bをロー側ギヤ歯66に噛み合わせる位置(以下、ローギヤ位置と称す)にてロック歯68に噛み合う。前輪駆動用クラッチ50の摩擦係合要素80は、フォークシャフト102がハイロースリーブ62の外周歯62bをハイ側ギヤ歯64に噛み合わせる位置(以下、ハイギヤ位置と称す)にてピストン82によって押し付けられ、フォークシャフト102のローギヤ位置にてピストン82によって押し付けられない。
フォークシャフト102のハイギヤ位置では、鍔付円筒部材108a,108bの鍔間の長さを、鍔が共に把持部材114と当接した状態での長さと、スペーサ110の長さとの間で変化させることができる。従って、連結機構106は、フォークシャフト102のハイギヤ位置のままで、前輪駆動用クラッチ50の摩擦係合要素80がピストン82によって押し付けられる位置と押し付けられない位置との間で、ナット部材94の軸線C1と平行な方向の移動を許容する。
トランスファ22は、フォークシャフト102のハイギヤ位置を保持し、又、フォークシャフト102のローギヤ位置を保持するギヤ位置保持機構120を備えている。ギヤ位置保持機構120は、フォークシャフト102が摺動するトランスファケース40の内周面に形成された収容孔122と、収容孔122に収容されたロックボール124と、収容孔122に収容されてロックボール124をフォークシャフト102側へ付勢するロック用スプリング126と、フォークシャフト102の外周面に形成された、フォークシャフト102のハイギヤ位置においてロックボール124の一部を受け入れる凹部128h及びフォークシャフト102のローギヤ位置においてロックボール124の一部を受け入れる凹部128lとを備えている。ギヤ位置保持機構120により、その各ギヤ位置において電動モータ84からの出力を停止してもフォークシャフト102の各ギヤ位置が保持される。
トランスファ22は、フォークシャフト102のローギヤ位置を検出するローギヤ位置検出スイッチ130を備えている。ローギヤ位置検出スイッチ130は、例えばボール型の接触スイッチである。ローギヤ位置検出スイッチ130は、ローギヤ位置に移動したフォークシャフト102と接触する位置において、トランスファケース40に形成された貫通孔132に固設される。ローギヤ位置検出スイッチ130によってローギヤ位置が検出されると、例えば低速側ギヤ段Lにて4WDロック状態であることを運転者に知らせる為のインジケータが点灯される。
トランスファ22には、図5および図6に示すように、主切替装置89とは独立にロックスリーブ70による4WDロック状態へ切り替えが可能な副切替装置である第2ロックスリーブ駆動装置134が備えられている。第2ロックスリーブ駆動装置134には、ロックスリーブ70の外周面70bに形成されたカム溝70cに係合することによりロックスリーブ70の回転に伴ってロックスリーブ70をドライブギヤ46側へ移動させる長手状の押しピン136と、押しピン136を軸線C1に直角な軸線C4方向に移動可能に収容する収容穴138aを有し、トランスファケース40に固定されたハウジング138と、ハウジング138の収容穴138a内において押しピン136のロックスリーブ70側とは反対側の端部に固定された円板部材140と収容穴138aの開口縁部138bとの間に圧縮された状態で配設され押しピン136をロックスリーブ70に接近させる方向とは反対方向に付勢するコイル状のスプリング142と、押しピン136の軸線C4方向の移動を選択的に制御するソレノイド(アクチュエータ)144とが備えられている。また、第2ロックスリーブ駆動装置134は、ロックスリーブ70の外周側に配設されており、上記第2ロックスリーブ駆動装置134がトランスファ22内におけるロックスリーブ70の外周側に形成された空きスペースに配設されるので、第2ロックスリーブ駆動装置134が備えられることによるトランスファ22の大型化が好適に抑制される。
ソレノイド144には、図6に示すように、後述する電子制御装置(制御装置)200(図1参照)から供給される駆動信号SsによりON状態とOFF状態とが切り替えられることによって軸線C4方向へ移動させられる軸状の軸部材144aが備えられている。ソレノイド144がON状態の時には、軸部材144aが押しピン136の円板部材140をハウジング138の収容穴138aの開口縁部138bに接近する方向へ移動して、押しピン136の先端部136aがスプリング142の付勢力に抗してロックスリーブ70のカム溝70cに係合する。ソレノイド144がOFF状態の時には、図5に示すように、軸部材144aが押しピン136の円板部材140をハウジング138の収容穴138aの開口縁部138bから離間する方向へ移動して、押しピン136の先端部136aがスプリング142の付勢力によってロックスリーブ70のカム溝70cから離間する方向へ戻される。
図7〜図9は、ロックスリーブ70のカム溝70cに押しピン136の先端部136aが係合された状態を示す図である。図7および図8に示すように、ロックスリーブ70の外周面70bのうちのドライブギヤ46側には外周歯70aが形成されており、そのドライブギヤ46とは反対側にはカム溝70cが形成されている。ロックスリーブ70の外周面70bに形成されたカム溝70cには、ドライブギヤ46側に向かうに従って、ロックスリーブ70の回転方向の溝幅Wが減少するように角度α1だけ傾斜した第1傾斜カム面70dすなわち車両10が前進走行時においてロックスリーブ70の前進回転方向R1へ向かうにしたがってドライブギヤ46側すなわちロックスリーブ70の外周歯70a側へ向かうように角度α1だけ傾斜した第1傾斜カム面70dと、第1傾斜カム面70dに隣接しロックスリーブ70の前進回転方向R1へ向かうにしたがってドライブギヤ46側とは反対側へ向かうように角度α2だけ傾斜した第2傾斜カム面70eとが形成されている。また、図9に示すように、第1傾斜カム面70dおよび第2傾斜カム面70eは、ロックスリーブ70の半径方向で外周ほどカム溝70cの溝幅すなわち周方向の開口幅Wが大きくなるように角度βだけ傾斜している。
図7に示すようにロックスリーブ70のカム溝70cに押しピン136の先端部136aを係合させてカム溝70cの第1傾斜カム面70dに押しピン136の先端部136aが当接させられると、図8に示すように、第1傾斜カム面70dによって後輪側出力軸44の回転トルクTがロックスリーブ70をドライブギヤ46側へ移動させる推力F1に変換させられて、その推力F1によってロックスリーブ70がドライブギヤ46側に移動してロックスリーブ70の外周歯70aがドライブギヤ46のロック歯68に噛み合う。また、車両10が後進走行時には、ロックスリーブ70のカム溝70cに押しピン136の先端部136aが係合させられると、そのカム溝70cの第2傾斜カム面70eに押しピン136の先端部136aが当接し、上記と同様に、後輪側出力軸44の回転トルクTがロックスリーブ70をドライブギヤ46側へ移動させる推力F1に変換させられる。なお、第1傾斜カム面70dまたは第2傾斜カム面70eによって回転トルクTが推力F1に変換させられる変換式(1)は、以下のように示される。但し、角度α1および角度α2は、軸線C1と平行な直線L1と第1傾斜カム面70dとの間の角度、および直線L1と第2傾斜カム面70eとの間の角度であり、本実施例では角度α1および角度α2は同じ角度αである。
F1=T/R2×(1/tanα)・・・(1)
ここでR2は、軸線C1から第1傾斜カム面70dまたは第2傾斜カム面70eと押しピン136の先端部136aとが当接する点までの距離である。
また、ロックスリーブ70のカム溝70cに押しピン136の先端部136aを係合させて、そのカム溝70cの第1傾斜カム面70dに押しピン136の先端部136aが当接させられると、図9に示すように、後輪側出力軸44の回転トルクTがロックスリーブ70を介して押しピン136に作用し、押しピン136に第1傾斜カム面70dの軸線C1に直交する面内の角度βによってカム溝70cから離間する方向の力F2が発生する。また、車両10が後進走行時には、ロックスリーブ70のカム溝70cに押しピン136の先端部136aが係合させられると、そのカム溝70cの第2傾斜カム面70eに押しピン136の先端部136aが当接し、上記と同様に、後輪側出力軸44の回転トルクTによって押しピン136にカム溝70cから離間する方向の力F2が発生する。
このように構成された第2ロックスリーブ駆動装置134では、車両10が2輪駆動状態で前進走行中において、電子制御装置200から供給される駆動信号Ssによってソレノイド144がON状態に切り替えられると、軸部材144aによって押しピン136がスプリング142の付勢力に抗してロックスリーブ70のカム溝70cに係合する。これによって、ロックスリーブ70のカム溝70cの第1傾斜カム面70dに押しピン136の先端部136aが当接させられて、第1傾斜カム面70dによって後輪側出力軸44の回転トルクTがロックスリーブ70をドライブギヤ46側へ移動させる推力F1に変換させられ、その推力F1によってロックスリーブ70がドライブギヤ46側に移動してロックスリーブ70の外周歯70aがドライブギヤ46のロック歯68に噛み合う。なお、図6は、押しピン136によってロックスリーブ70がドライブギヤ46側へ移動させられた状態を示す図である。
また、電子制御装置200から供給される駆動信号Ssによってソレノイド144がOFF状態に切り替えられると、図5に示すように、スプリング142の付勢力によって、押しピン136の先端部136aがロックスリーブ70のカム溝70cから離間する方向へ戻される。そして、第2スプリング74の付勢力によってロックスリーブ70がドライブギヤ46から離間する方向に移動させられる。
図1に戻り、車両10には、例えば2WD状態と4WD状態とを切り替える車両10の制御装置を含む電子制御装置200が備えられている。電子制御装置200は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置200は、エンジン12の出力制御、車両10の駆動状態の切替制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や駆動状態制御用等に分けて構成される。電子制御装置200には、図1に示すように、車両10に備えられた各種センサ(例えばエンジン回転速度センサ202、モータ回転角度センサ204、各車輪速センサ206、アクセル開度センサ208、運転者の操作によって高速側ギヤ段Hを選択する為のHレンジ選択スイッチ210、運転者の操作によって4WD状態を選択する為の4WD選択スイッチ212、運転者の操作によって4WDロック状態を選択する為の4WDロック選択スイッチ214、前輪駆動用クラッチ50に充填されたオイルの油温Toil(℃)を検出する油温センサ216、車速センサ218など)による検出信号に基づく各種実際値(例えばエンジン回転速度Ne、モータ回転角度θm、前輪14L,14R、及び後輪16L,16Rの各車輪速Nwfl,Nwfr,Nwrl,Nwrr、アクセル開度θacc、Hレンジ選択スイッチ210が操作されたことを示す信号であるHレンジ要求Hon、4WD選択スイッチ212が操作されたことを示す信号である4WD要求4WDon、4WDロック選択スイッチ214が操作されたことを示す信号であるLOCKon、前輪駆動用クラッチ50のオイルの油温Toil(℃)、車速V1(km/h)など)がそれぞれ供給される。電子制御装置200からは、図1に示すように、例えばエンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Se、フロント側クラッチ36の状態を切り替える為の作動指令信号Sd、電動モータ84の回転量を制御する為のモータ駆動指令信号Sm、第2ロックスリーブ駆動装置134に設けられたアクチュエータであるソレノイド144のON状態・OFF状態を切り替える駆動信号Ssなどが、エンジン12の出力制御装置、フロント側クラッチ36のアクチュエータ、電動モータ84、トランスファ22などへそれぞれ出力される。
図10は、本実施例の車両10のトランスファ22を制御するための電子制御装置200による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。その図10において、モード選択制御部220は、車両10の走行状態や運転者の操作や前輪駆動用クラッチ50の負荷状態によって複数のモード例えば後述するH4モード、H2モード、L4モード、H4Lモード等からモードを選択する。
なお、モード選択制御部220においてH4モードが選択されると、電子制御装置200によって電動モータ84の回転量が制御されることによりナット部材94の移動量(ストローク)が制御されて、ハイロー切替機構48において高速側ギヤ段Hが成立させられ、前輪駆動用クラッチ50においてピストン82が押圧側へ移動して摩擦係合要素80に当接させられる。なお、上記H4モードは、車両10において高速側ギヤ段Hで4輪駆動走行状態を達成させるモードであり、上記H4モードでは、車両10の走行状態によって前輪駆動用クラッチ50の伝達トルクが調整されて前輪14と後輪16とのトルク配分が0:100〜50:50の間で変更される。
また、モード選択制御部220においてH2モードが選択されると、電子制御装置200によって電動モータ84の回転量が制御されることによりナット部材94の移動量が制御されて、ハイロー切替機構48において高速側ギヤ段Hが成立させられ、前輪駆動用クラッチ50においてピストン82が摩擦係合要素80と当接しない非押圧側へ移動させられる。なお、上記H2モードは、車両10において高速側ギヤ段Hで2輪駆動走行状態を達成させるモードであり、上記H2モードでは、電子制御装置200によってフロント側クラッチ36が解放状態に切り替えることができる。この場合、2WD走行中において、ドライブギヤ46から前輪用差動歯車装置28までの動力伝達経路を構成する各回転要素(ドライブギヤ46、前輪駆動用チェーン56、ドリブンギヤ54、前輪側出力軸52、フロントプロペラシャフト24、前輪用差動歯車装置28等)には、エンジン12側からも前輪14側からも回転が伝達されない。従って、2WD走行中において、これらの各回転要素を回転停止させ、前記各回転要素の連れ回りを防止し、走行抵抗を低減させることができる。
また、モード選択制御部220においてL4モードが選択されると、電子制御装置200によって電動モータ84の回転量が制御されることによりナット部材94の移動量が制御されて、ハイロー切替機構48において低速側ギヤ段Lが成立させられる共にロックスリーブ70がロック歯68に噛み合い4WDロック状態に切り替えられる。なお、上記L4モードは、車両10において低速側ギヤ段Lで4WDロック状態での4輪駆動走行状態を達成させるモードである。
また、モード選択制御部220においてH4Lモードが選択されると、電子制御装置200によって電動モータ84の回転量が制御させられることによりナット部材94の移動量が制御されて、ハイロー切替機構48において高速側ギヤ段Hが成立させられ、電子制御装置200によってソレノイド144がON状態に切り替えられて、副切替装置である第2ロックスリーブ駆動装置134によってロックスリーブ70がドライブギヤ46側に移動しロックスリーブ70がロック歯68に噛み合い4WDロック状態に切り替えられる。なお、上記H4Lモードは、車両10において高速側ギヤ段Lで4WDロック状態での4輪駆動走行状態を達成させるモードである。
図10のモード判定部222は、電子制御装置200において選択されているモードが複数のモードすなわちH4モード、H2モード、L4モード、H4Lモードのどれであるかを判定する。なお、上記H4モードまたは上記H2モードが選択されているかどうかは、電子制御装置200において所定のサンプリングタイム(所定時間)毎にモータ回転角度センサ204から検出されるモータ回転角度θmに基いて算出される電動モータ84の回転量すなわちナット部材94の移動量(ストローク)から判定される。また、上記L4モードが選択されているかどうかは、ローギヤ位置検出スイッチ130から検出される信号によって判定される。また、上記H4Lモードが選択されているかどうかは、電子制御装置200から第2ロックスリーブ駆動装置134に備えられたソレノイド144に供給される駆動信号Ssによって判定される。なお、モード判定部222は、H2モードについては、モード選択制御部220から受信する情報によって、後述する前輪駆動用クラッチ50の保護用に選択されたものか、それ以外で選択されたものかを判定できる。
図10のクラッチ負荷判定部224は、前輪駆動用クラッチ50の負荷が予め定められた負荷判定値K1以上であるか否か、すなわちクラッチが損傷する可能性があるか否かを判定する。例えば、クラッチ負荷判定部224では、前輪駆動用クラッチ50の推定温度Tc(℃)が予め定められた所定温度T1(℃)以上であると、前輪駆動用クラッチ50の負荷が負荷判定値K1以上であると判定し、前輪駆動用クラッチ50の推定温度Tc(℃)が所定温度T1(℃)より低いと、前輪駆動用クラッチ50の負荷が負荷判定値K1以上ではないと判定する。なお、所定温度T1(℃)は、前輪駆動用クラッチ50が摩擦熱によって損傷する可能性が高まる予め実験等により求められた温度である。
なお、前輪駆動用クラッチ50の推定温度Tc(℃)は、以下の式(1)〜式(3)を用いて算出される。但し、式(1)において、Tc−1(℃)は電子制御装置200でサンプリングタイム(所定時間)毎に繰り返し算出される算出サイクルにおいて前回の算出サイクルで算出された前輪駆動用クラッチ50の推定温度(初期値は気温)であり、ΔTu(℃)は前回の算出サイクルからの前輪駆動用クラッチ50の推定温度上昇分であり、ΔTd(℃)は前回の算出サイクルからの前輪駆動用クラッチ50の推定温度低下分である。また、式(2)において、P1(N)は前輪駆動用クラッチ50の押付力すなわち前輪駆動用クラッチ50においてピストン82が摩擦係合要素80を押し付ける押付力であり、Vs(rpm)は後輪16と前輪14との回転速度差(主駆動輪と副駆動輪との回転速度差)であり、Cc(cal/℃)は前輪駆動用クラッチ50の熱容量であり、右辺f1(P1,V1)は前輪駆動用クラッチ50のスリップ回転数(回転速度差V)とそのスリップの時の押付力Pとの関数としてΔTu(℃)を算出するために予め求められた実験式である。また、式(3)において、λは前輪駆動用クラッチ50の熱伝達率であり、S1は前輪駆動用クラッチ50の表面積であり、Toil(℃)は前輪駆動用クラッチ50に充填されたオイルの油温であり、右辺f2は、これをパラメータとしてΔTd(℃)を求める実験式である。なお、上記式(1)〜式(3)において、変数である前輪駆動用クラッチ50の押付力P1(N)は電子制御装置200から電動モータ84に供給される駆動電流の大きさによって求められる。また、変数である前輪14と後輪16との回転速度差Vs(rpm)は、各車輪に設けられた車輪速センサ206から検出される車輪速Nwfl、Nwfr、Nwrl、Nwrrによって算出された前輪14の平均車輪速((Nwfl+Nwfr)/2)と後輪16の平均車輪速((Nwrl+Nwrr)/2)との回転速度差である。また、変数である前輪駆動用クラッチ50のオイルの油温Toil(℃)は油温センサ216によって検出される。
Tc=Tc−1+ΔTu−ΔTd ・・・(1)
ΔTu=f1(P1,V1)/Cc ・・・(2)
ΔTd=f2(λ、(S1×(Tc−1−Toil)) ・・・(3)
また、クラッチ負荷判定部224は、前輪駆動用クラッチ50が損傷する可能性が十分低下したか否かを判定する。例えば、上記式(1)から同様に求められた前輪駆動用クラッチ50の推定温度Tc(℃)が予め定められた前記所定温度T1より低い所定温度T2(℃)以下であると、前輪駆動用クラッチ50が損傷する可能性が十分低下したと判定する。あるいは、後述する前輪駆動用クラッチ50のクラッチ保護制御が開始されてからの経過時間が所定時間t1(sec)を超えることによって、前輪駆動用クラッチ50が損傷する可能性が十分低下したと判定することができる。なお、上記クラッチ保護制御とは、前輪駆動用クラッチ50からの摩擦熱の発生を抑制して前輪駆動用クラッチ50の損傷を防止させる制御であり、走行中にH4LモードまたはH2モードを選択する制御である。
図10の4WDロック切替許可部226は、モード判定部222で電子制御装置200において選択されているモードがH4モードであると判定され、且つ、クラッチ負荷判定部224で前輪駆動用クラッチ50の負荷が予め定められたクラッチ負荷判定値K1以上であると判定されると、電子制御装置200で選択されているH4モードからH4Lモードへの切り替えを許可するか否かを判定する。4WDロック切替許可部226では、車速V1(km/h)が予め定められた車速判定値V1c(km/h)以下且つ前輪14と後輪16との回転速度差Vs(rpm)が予め定められた回転速度差判定値Vs1(rpm)以下である時に、すなわち車速V1および回転速度差Vsが図11に示すマップのロック切替可能領域SAの範囲内である時に、H4Lモードへの切り替えすなわち副切替装置である第2ロックスリーブ駆動装置134による4WDロック状態への切り替えを許可する。なお、上記車速判定値V1c(km/h)は、4WDロック状態へ切り替えられた時において走行中で車両挙動の変化等の不具合が起こらない、予め実験等によって求められた最大車速である。また、上記回転速度差判定値Vs1(rpm)は、4WDロック状態へ切り替えられた時において発進で車両挙動の変化等の不具合が起こらない、予め実験等によって求められた最大回転速度差である。
図10のモード選択制御部220は、4WDロック切替許可部226でH4Lモードへの切り替えを許可すると判定されると、H4Lモードを選択する。また、モード選択制御部220は、4WDロック切替許可部226でH4Lモードへの切り替えを許可しないと判定されると、H2モードを選択する。これによって、H2モードが選択されることにより、前輪駆動用クラッチ50においてピストン82による摩擦係合要素80の押付けが禁止される。また、モード選択制御部220は、モード判定部222で電子制御装置200において選択されているモードがH4Lモードか、または前輪駆動用クラッチ50の保護用に選択されたH2モードであると判定され、且つ、クラッチ負荷判定部224で前輪駆動用クラッチ50が損傷する可能性が十分低下したと判定されると、H4Lモードまたは上記H2モードを解除して、通常モードを選択する。なお、上記通常モードとは、車両の走行状態や運転者の操作によって複数のモード例えばH4モード、H2モード、L4モード等から選択されたモードであり、前記クラッチ保護制御を行っていないモードである。
図10の表示制御部228は、4WDロック切替許可部226でH4Lモードへの切り替えを許可すると判定されると、車両10内に設けられた図示しない表示装置にH4Lモードへ切り替えることおよびH4Lモードであることを運転者に示す警告表示1を表示する。また、表示制御部228は、4WDロック切替許可部226でH4Lモードへの切り替えを許可しないと判定されると、車両10内に設けられた図示しない表示装置にH2モードすなわち2輪駆動状態へ切り替えることおよびH2モードであることを運転者に示す警告表示2を表示する。また、表示制御部228は、クラッチ負荷判定部224で前輪駆動用クラッチ50が損傷する可能性が十分低下したと判定されると、前記表示装置の警告表示1または警告表示2の表示を中止し、通常モードへ移行することを運転者に示す表示を行う。
図12は、電子制御装置200において、車両走行中に前輪駆動用クラッチ50へ負荷が大きくなりクラッチが損傷する可能性がある時において副切替装置すなわち第2ロックスリーブ駆動装置134による4WDロック状態への切替制御の制御作動の一例を説明するフローチャートである。
先ず、モード判定部222の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、クラッチ保護制御中であるか否か、すなわち、H4Lモードが選択されているか、または前輪駆動用クラッチ50の保護用にH2モードが選択されているか否かが判定される。このS1の判定が否定される場合には、モード判定部222の機能に対応するS2において、H4モードであるか否かが判定される。このS2の判定が否定される場合にはリターンされるが、このS2の判定が肯定される場合には、クラッチ負荷判定部224の機能に対応するS3が実行される。上記S3では、前輪駆動用クラッチ50の負荷が予め定められたクラッチ負荷判定値K1以上であるか否か例えばクラッチが損傷する可能性があるか否かが判定される。このS3の判定が肯定される場合には、4WDロック切替許可部226の機能に対応するS4が実行される。上記S3の判定が否定される場合にはリターンされる。
上記S4の判定が肯定される場合すなわち走行状態がH4Lモードへの切り替えを許容できる場合には、表示制御部228の機能に対応するS5と、モード選択制御部220の機能に対応するS6とが順次実行される。上記S5では、図示しない表示装置にH4Lモードへの切り替えとH4Lモードであることを運転者に示す警告表示1が表示される。上記S6では、H4Lモードへ切り替えられ、副切替装置である第2ロックスリーブ駆動装置134を用いて4WDロック状態へ切り替えられる。
上記S4の判定が否定される場合すなわち走行状態がH4Lモードへの切り替えを許容できない場合には、表示制御部228の機能に対応するS7と、モード選択制御部220の機能に対応するS8とが順次実行される。上記S7では、図示しない表示装置にH2モードへの切り替えとH2モードであることを運転者に示す警告表示2が表示される。上記S8では、H2モードが選択され、前輪駆動用クラッチ50においてピストン82が摩擦係合要素80と当接しない非押圧側へ移動させられてピストン82による摩擦係合要素80の押付けが禁止される。
上記S1の判定が肯定される場合すなわちクラッチ保護制御中である場合には、クラッチ負荷判定部224の機能に対応するS9が実行され、前輪駆動用クラッチ50が損傷する可能性が十分低下したか否かを判定する。前輪駆動用クラッチ50が損傷する可能性が十分低下したか否かの判定は、前述のように、前輪駆動用クラッチ50の推定温度Tc(℃)やクラッチ保護制御開始後の経過時間に基いて行われる。上記S9の判定が否定される場合は、リターンされる。上記S9の判定が肯定される場合には、表示制御部228の機能に対応するS10が実行され、図示しない表示装置の警告表示1または警告表示2の表示を中止させる。また、通常モードへ移行することを運転者に示す表示を行う。その後、モード選択制御部220の機能に対応するS11で、H4LモードまたはH2モード(クラッチの押し付け禁止)が解除される。
このように構成された電子制御装置200によれば、H4モードが選択されている時において、例えば前輪駆動用クラッチ50のスリップによる摩擦熱によって上記S3でクラッチの負荷が予め定められたクラッチ負荷判定値K1以上でクラッチが損傷する可能性があると判定され、且つ、上記S4で走行状態が車速V1(km/h)が車速判定値V1以下且つ回転速度差Vs(rpm)が回転速度差判定値Vs1以下であると判定されると、上記S6でH4Lモードに切り替えられる。これにより、副切替装置である第2ロックスリーブ駆動装置134によって4WDロック状態に切り替えられるので、前輪駆動用クラッチ50からの摩擦熱の発生が防止され前輪駆動用クラッチ50の損傷が防止させられる。さらに、第2ロックスリーブ駆動装置134によって4WDロック状態へ切り替えられた時において、発進や走行中での車両挙動の変化等の不具合が回避される。
また、H4モードが選択されている時において、例えば前輪駆動用クラッチ50のスリップによる摩擦熱によって上記S2でクラッチの負荷がクラッチ負荷判定値K1以上でクラッチが損傷する可能性があると判定され、且つ、上記S4で走行状態が車速V1(km/h)が車速判定値V1より大きいまたは回転速度差Vs(rpm)が回転速度差判定値Vs1より大きいと判定されると、上記S8でH2モードが選択される。このため、H4Lモードを選択して発進や走行中で車両挙動の変化等の不具合が発生する可能性がある場合には、ピストン82による摩擦係合要素80の押し付けが禁止されるH2モードが選択されるので、前輪駆動用クラッチ50からの摩擦熱の発生が防止され前輪駆動用クラッチ50の損傷が防止させられる。
上述のように、本実施例によれば、前輪駆動用クラッチ50の推定温度Tc(℃)が所定温度T1(℃)以上となって前輪駆動用クラッチ50の負荷が予め定められたクラッチ負荷判定値K1以上となり、且つ、車速V1(km/h)が車速判定値V1c(km/h)以下且つ回転速度差Vs(rpm)が回転速度差判定値Vs1(rpm)以下であるときに、副切替装置である第2ロックスリーブ駆動装置134による4WDロック状態への切り替えを許可する4WDロック切替許可部226を含む。このため、4WDロック切替許可部226によって、車速V1(km/h)が車速判定値V1c(km/h)より高い高速走行時や回転速度差Vs(rpm)が回転速度差判定値Vs1(rpm)より高い急発進時には、第2ロックスリーブ駆動装置134による4WDロック状態への切り替えが許可されないので、第2ロックスリーブ駆動装置134によって4WDロック状態に切り替えられたことによる発進や走行中での車両挙動の変化等の不具合が回避できる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、ねじ機構86としてボールねじを例示したが、この態様に限らない。例えば、ねじ機構86は、電動モータ84の回転運動を直線運動に変換する変換機構であれば良く、単純なボルトの軸とナットとを組み合わせたような機構であっても良い。具体的には、ねじ機構86は、すべりねじなどであっても良い。すべりねじの場合には、ボールねじと比較して回転運動を直線運動に変換する機械効率が低くされるが、前輪駆動用クラッチ50へ高い推力を付与することができたり、ハイロー切替機構48の作動に必要なストロークを得ることができるという、一定の効果は得られる。
また、前述の実施例では、ねじ機構86はウォームギヤ90を介して電動モータ84に間接的に連結されたが、この態様に限らない。例えば、ねじ機構86のねじ軸部材92と電動モータ84とは、ウォームギヤ90を介すことなく直接的に連結されても良い。具体的には、ねじ軸部材92と電動モータ84とは、電動モータ84のモータシャフトに設けられたピニオンとねじ軸部材92に形成されたギヤ歯とが噛み合うように、直接的に連結されてもよい。
また、前述の実施例では、トランスファ22が適用される車両10としてFRをベースとする4輪駆動車両を例示したが、これに限らない。例えば、トランスファ22が適用される車両10は、前置エンジン前輪駆動(FF)をベースとする4輪駆動車両であっても良い。又、前輪駆動用クラッチ50は、多板のクラッチであったが、単板のクラッチであっても本発明は適用され得る。又、トランスファ22は、ギヤ位置保持機構120やローギヤ位置検出スイッチ130を備えなくても良い。
また、前述の実施例において、駆動力源として例示したエンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関が用いられる。又、駆動力源としては、例えば電動機等の他の原動機を単独で或いはエンジン12と組み合わせて採用することもできる。又、変速機20は、遊星歯車式多段変速機、無段変速機、同期噛合型平行2軸式変速機(公知のDCT含む)などの種々の自動変速機、又は公知の手動変速機である。又、フロント側クラッチ36は、電磁ドグクラッチであったが、これに限らない。例えば、フロント側クラッチ36は、スリーブを軸方向に移動させるシフトフォークを備え、電気制御可能な或いは油圧制御可能なアクチュエータによって、そのシフトフォークが駆動される形式のドグクラッチ、又は、摩擦クラッチなどであってもよい。
図10のクラッチ負荷判定部224では、前輪駆動用クラッチ50の推定温度Tc(℃)が予め定められた所定温度T1(℃)以上、すなわち前輪駆動用クラッチ50の負荷が予め定められた負荷判定値K1以上であると、前輪駆動用クラッチ50が損傷する可能性があると判定していた。例えば、前輪駆動用クラッチ50の推定温度Tc(℃)の上昇率(前回の算出サイクルで算出された推定温度Tc(℃)からの上昇率)を考慮して前輪駆動用クラッチ50の推定温度Tc(℃)が所定温度T1(℃)以上となると予測されると、すなわち前輪駆動用クラッチ50の負荷が予め定められた負荷判定値K1以上となると予測される時に、前輪駆動用クラッチ50が損傷する可能性があると判定してもよい。
また、図10のクラッチ負荷判定部224では、前輪駆動用クラッチ50の押付力P(N)と回転速度差Vs(rpm)との積が所定値以上であると、前輪駆動用クラッチ50の負荷が予め定められた負荷判定値K1以上であると判定しても良い。また、前輪駆動用クラッチ50の押付力P(N)と回転速度差Vs(rpm)との積の上昇率(前回の算出サイクルで算出された前輪駆動用クラッチ50の押付力P(N)と回転速度差Vs(rpm)との積からの上昇率)を考慮して、前輪駆動用クラッチ50の押付力P(N)と回転速度差Vs(rpm)との積が所定値以上となると予測されると、前輪駆動用クラッチ50が損傷する可能性があると判定しても良い。これによって、前輪駆動用クラッチ50における摩擦エネルギーが比較的に高くなる高負荷となるか、その高負荷が予測されるときには、副切替装置である第2ロックスリーブ駆動装置134によって4WDロック状態に切り替えられる。
また、クラッチ負荷判定値224では、例えば、前輪駆動用クラッチ50の推定温度Tc(℃)が予め定められた所定温度T1(℃)以上であるか、または、前輪駆動用クラッチ50の推定温度Tc(℃)が予め定められた所定温度T1(℃)以上となると予測されるか、または、前輪駆動用クラッチ50の押付力Pと回転速度差Vs(rpm)との積が所定値以上であるか、または、前輪駆動用クラッチ50の押付力Pと回転速度差Vs(rpm)との積が所定値以上となると予測されるか、の4つの判定で少なくとも1つでも肯定される時に、前輪駆動用クラッチ50が損傷する可能性があると判定してもよい。
また、前述の実施例では、前輪用差動歯車装置28は、フロント側クラッチ36を前輪車軸32R側に備えており、2輪駆動走行中において、ドライブギヤ46から前輪用差動歯車装置28までの動力伝達経路を構成する各回転要素には、エンジン12側からも前輪14側からも回転動力が伝達されず、それらの各回転要素が回転停止し、前記各回転要素の連れ回りが防止されるものであったが、フロント側クラッチ36を備えず、2輪駆動走行中において、各回転要素を回転停止させることがない4輪駆動車両に適用されても構わない。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。