以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、駆動力源としてのエンジン12、左右の前輪14L,14R(特に区別しない場合には前輪14という)、左右の後輪16L,16R(特に区別しない場合には後輪16という)、エンジン12の動力を前輪14と後輪16とへそれぞれ伝達する動力伝達装置18等を備えている。後輪16は、2輪駆動(2WD)走行中及び4輪駆動(4WD)走行中のときに共に駆動輪となる主駆動輪である。前輪14は、2WD走行中のときに従動輪となり且つ4WD走行中のときに駆動輪となる副駆動輪である。車両10は、前置エンジン後輪駆動(FR)をベースとする4輪駆動車両である。
動力伝達装置18は、エンジン12に連結された変速機(トランスミッション)20、変速機20に連結された前後輪動力分配装置である4輪駆動車両用のトランスファ22、トランスファ22にそれぞれ連結されたフロントプロペラシャフト24及びリヤプロペラシャフト26、フロントプロペラシャフト24に連結された前輪用差動歯車装置28、リヤプロペラシャフト26に連結された後輪用差動歯車装置30、前輪用差動歯車装置28に連結された左右の前輪車軸32L,32R(特に区別しない場合には前輪車軸32という)、後輪用差動歯車装置30に連結された左右の後輪車軸34L,34R(特に区別しない場合には後輪車軸34という)等を備えている。このように構成された動力伝達装置18において、変速機20を介してトランスファ22へ伝達されたエンジン12の動力は、トランスファ22から、リヤプロペラシャフト26、後輪用差動歯車装置30、後輪車軸34等の後輪側の動力伝達経路を順次介して後輪16へ伝達される。また、後輪16側へ伝達されるエンジン12の動力の一部は、トランスファ22にて前輪14側へ分配されて、フロントプロペラシャフト24、前輪用差動歯車装置28、前輪車軸32等の前輪側の動力伝達経路を順次介して前輪14へ伝達される。
前輪用差動歯車装置28は、フロント側クラッチ36を前輪車軸32R側に(すなわち前輪用差動歯車装置28と前輪14Rとの間に)備えている。フロント側クラッチ36は、前輪用差動歯車装置28と前輪14Rとの間の動力伝達経路を選択的に接続または遮断する、電気的(電磁的)に制御される噛合式クラッチである。尚、フロント側クラッチ36において、更に、同期機構(シンクロ機構)が備えられていても構わない。
図2から図4は、トランスファ22の概略構成を説明する図であって、図2および図4はトランスファ22の断面図であり、図3はトランスファ22の骨子図である。図2から図4において、トランスファ22は、非回転部材としてのトランスファケース40を備えている。トランスファ22は、トランスファケース40により回転可能に支持された入力軸42および、第1の左右の駆動輪としての後輪16へ動力を出力する後輪側出力軸(出力軸)44と、第2の左右の駆動輪としての前輪14へ動力を出力する、すなわち後輪側出力軸44とは動力の出力先を別にするスプロケット状のドライブギヤ(出力部材)46と、入力軸42の回転を変速して後輪側出力軸44へ伝達する副変速機としてのハイロー切替機構48と、後輪側出力軸44からドライブギヤ46へ伝達する伝達トルクを調節するすなわち後輪側出力軸44の動力の一部をドライブギヤ46に伝達する多板の摩擦クラッチ(多板クラッチ)としての前輪駆動用クラッチ(クラッチ)50とを、共通の第1軸線(軸心)C1回りに備えている。入力軸42および後輪側出力軸44は、相互に同心でそれぞれ回転可能に一対の第1支持ベアリング71および第2支持ベアリング(出力軸支持ベアリング)73を介してトランスファケース40に支持されており、ドライブギヤ46は、後輪側出力軸44に相対回転可能に同心に第3支持ベアリング75を介して支持されている。すなわち、入力軸42、後輪側出力軸44、ドライブギヤ46は、それぞれ第1軸線C1回りに回転可能にトランスファケース40に支持されている。なお、後輪側出力軸44では、入力軸42のリヤ側の端部と後輪側出力軸44のフロント側の端部との間に配設されたベアリング77によって後輪側出力軸44のフロント側の端部が回転可能に支持され、第2支持ベアリング73によって後輪側出力軸44のリヤ側の端部すなわち後輪側出力軸44の両端部のうち後述するドラムカム100側の端部が回転可能に支持されている。
図2から図4に示すように、トランスファ22は、トランスファケース40内において、前輪側出力軸52と、前輪側出力軸52に一体的に設けられたスプロケット状のドリブンギヤ54とを第1軸線C1に平行な共通の第2軸線C2回りに備えている。更に、トランスファ22は、ドライブギヤ46とドリブンギヤ54との間に巻き掛けられた前輪駆動用チェーン56と、後輪側出力軸44およびドライブギヤ46を一体的に連結するドグクラッチとして4WDロック機構58と、を備えている。
入力軸42は、変速機20の出力軸(不図示)に継手を介して連結されており、エンジン12から変速機20を介して入力された駆動力(トルク)によって回転駆動させられる。後輪側出力軸44は、リヤプロペラシャフト26に連結された主駆動軸である。ドライブギヤ46は、後輪側出力軸44回りに相対回転可能に設けられている。前輪側出力軸52は、フロントプロペラシャフト24に図示しない継手を介して連結された副駆動軸である。
このように構成されたトランスファ22は、ドライブギヤ46へ伝達する伝達トルクを前輪駆動用クラッチ50により調整して、変速機20から伝達された動力を後輪16のみへ伝達したり、或いは前輪14にも分配する。また、トランスファ22は、4WDロック機構58によりリヤプロペラシャフト26とフロントプロペラシャフト24との間の回転差を発生させない4WDロック状態とそれらの間の回転差を許容する4WD非ロック状態とのいずれかに切り替える。また、トランスファ22は、高速側ギヤ段(高速側変速段)H及び低速側ギヤ段(低速側変速段)Lの何れかを成立させて、変速機20からの回転を変速して後段へ伝達する。つまり、トランスファ22は、入力軸42の回転をハイロー切替機構48を介して後輪側出力軸44へ伝達すると共に、前輪駆動用クラッチ50を介した伝達トルクが零とされ且つ4WDロック機構58が解放された状態では、後輪側出力軸44から前輪側出力軸52への動力伝達は行われない一方で、前輪駆動用クラッチ50を介してトルクが伝達されるか或いは4WDロック機構58が係合された状態では、後輪側出力軸44からドライブギヤ46、前輪駆動用チェーン56、及びドリブンギヤ54を介して前輪側出力軸52への動力伝達が行われる。
具体的には、ハイロー切替機構48は、シングルピニオン型の遊星歯車装置60と、ハイロースリーブ62とを備えている。遊星歯車装置60は、入力軸42に対して第1軸線C1回りの回転不能に連結されたサンギヤSと、サンギヤSに対して略同心に配置され、トランスファケース40に第1軸線C1回りの回転不能に連結されたリングギヤRと、これらサンギヤS及びリングギヤRに噛み合う複数のピニオンギヤPを自転可能且つサンギヤS回りの公転可能に支持するキャリヤCAとを有している。このため、サンギヤSの回転速度は入力軸42に対して等速であり、キャリヤCAの回転速度は入力軸42に対して減速される。また、サンギヤSの内周面にはハイ側ギヤ歯64が固設されており、キャリヤCAにはハイ側ギヤ歯64と同径のロー側ギヤ歯66が固設されている。ハイ側ギヤ歯64は、入力軸42と等速の回転を出力する、高速側ギヤ段Hの成立に関与するスプライン歯である。ロー側ギヤ歯66は、ハイ側ギヤ歯64よりも低速側の回転を出力する、低速側ギヤ段Lの成立に関与するスプライン歯である。ハイロースリーブ62は、後輪側出力軸44に第1軸線C1と平行な方向の相対移動可能にスプライン嵌合されており、フォーク連結部62aと、フォーク連結部62aと隣接して一体的に設けられた、後輪側出力軸44の第1軸線C1と平行な方向への移動によってハイ側ギヤ歯64とロー側ギヤ歯66とにそれぞれ噛み合う外周歯62bとを有している。ハイ側ギヤ歯64と外周歯62bとが噛み合うことで、入力軸42の回転と等速の回転が後輪側出力軸44へ伝達され、ロー側ギヤ歯66と外周歯62bとが噛み合うことで、入力軸42の回転に対して減速された回転が後輪側出力軸44へ伝達される。ハイ側ギヤ歯64とハイロースリーブ62とは、高速側ギヤ段Hを形成する高速側ギヤ段用クラッチとして機能し、ロー側ギヤ歯66とハイロースリーブ62とは、低速側ギヤ段Lを形成する低速側ギヤ段用クラッチとして機能する。
4WDロック機構58は、ドライブギヤ46の内周面に固設されたロック歯68と、後輪側出力軸44に対して第1軸線C1方向の移動可能且つ相対回転不能にスプライン嵌合されて、第1軸線C1方向の移動でドライブギヤ46に形成されたロック歯68に噛み合う外周歯70aが外周面に固設されたロックスリーブ70とを有している。トランスファ22は、ロックスリーブ70の外周歯70aとロック歯68とが噛み合った4WDロック機構58の係合状態では、後輪側出力軸44とドライブギヤ46とが一体的に回転させられて、4WDロック状態が形成される。
ハイロースリーブ62は、入力軸42に設けられた第1支持ベアリング71に対して(より具体的には遊星歯車装置60に対して)ドライブギヤ46側の空間に設けられている。ロックスリーブ70は、ハイロー切替機構48とドライブギヤ46との間の空間に、ハイロースリーブ62と隣接して別体で設けられている。トランスファ22は、ハイロースリーブ62とロックスリーブ70との間に、それぞれに当接してハイロースリーブ62とロックスリーブ70とを相互に離間させる側へ付勢する予圧状態の第1スプリング72を備えている。トランスファ22は、ドライブギヤ46とロックスリーブ70との間に、後輪側出力軸44の凸部44aとロックスリーブ70とに当接してロックスリーブ70をロック歯68から離す側へ付勢する予圧状態の第2スプリング74を備えている。第1スプリング72の付勢力は第2スプリング74よりも大きく設定されている。凸部44aは、ドライブギヤ46の径方向内側の空間においてロック歯68側に突出して設けられた後輪側出力軸44の鍔部である。ハイ側ギヤ歯64は、第1軸線C1に平行な方向に見てロー側ギヤ歯66よりもロックスリーブ70から離れた位置に設けられている。ハイロースリーブ62の外周歯62bは、ハイロースリーブ62がロックスリーブ70から離間する側(図2、3において左側)にてハイ側ギヤ歯64に噛み合い、ハイロースリーブ62がロックスリーブ70に接近する側(図2、3において右側)にてロー側ギヤ歯66に噛み合う。ロックスリーブ70の外周歯70aは、ロックスリーブ70がドライブギヤ46に接近する側(図2、3において右側)にてロック歯68に噛み合う。従って、ロックスリーブ70の外周歯70aは、ハイロースリーブ62がロー側ギヤ歯66と噛み合う位置にてロック歯68に噛み合う。
前輪駆動用クラッチ50は、後輪側出力軸44に相対回転不能に連結されたクラッチハブ76と、ドライブギヤ46に相対回転不能に連結されたクラッチドラム78と、クラッチハブ76とクラッチドラム78との間に介挿されこれらを選択的に断接する摩擦係合要素80と、摩擦係合要素80を押圧するピストン82と、を備える多板の摩擦クラッチである。前輪駆動用クラッチ50は、後輪側出力軸44の第1軸線C1方向で、ドライブギヤ46に対してハイロー切替機構48とは反対側に後輪側出力軸44の第1軸線C1回りに配置されて、ドライブギヤ46側に移動するピストン82によって摩擦係合要素80が押し付けられる。前輪駆動用クラッチ50は、ピストン82がドライブギヤ46から第1軸線C1に平行な方向に離れる側である非押圧側(図2、3において右側)に移動させられて摩擦係合要素80に当接しない状態では、解放状態となる。一方で、前輪駆動用クラッチ50は、ピストン82がドライブギヤ46に第1軸線C1に平行な方向に近づく側である押圧側(図2、3において左側)に移動させられて摩擦係合要素80に当接する状態では、ピストン82の移動量によって伝達トルク(トルク容量)が調整され、解放状態、スリップ状態、又は完全係合状態となる。
トランスファ22は、前輪駆動用クラッチ50の解放状態且つロックスリーブ70の外周歯70aとロック歯68とが噛み合っていない4WDロック機構58の解放状態では、後輪側出力軸44とドライブギヤ46との間の動力伝達経路が遮断されて、変速機20から伝達された動力を後輪16のみへ伝達する。トランスファ22は、前輪駆動用クラッチ50のスリップ状態または完全係合状態では、変速機20から伝達された動力を前輪14及び後輪16のそれぞれに分配する。トランスファ22は、前輪駆動用クラッチ50のスリップ状態では、後輪側出力軸44とドライブギヤ46との間の回転差動が許容されて、差動状態(4WD非ロック状態)が形成される。トランスファ22は、前輪駆動用クラッチ50の完全係合状態では、後輪側出力軸44とドライブギヤ46とが一体的に回転させられて、4WDロック状態が形成される。前輪駆動用クラッチ50は、伝達トルクが制御されることで、前輪14と後輪16とのトルク配分を例えば0:100〜50:50の間で連続的に変更することができる。
トランスファ22は、ハイロー切替機構48、前輪駆動用クラッチ50、及び4WDロック機構58を作動させる装置として、電動モータ(アクチュエータ)84(図3参照)と、電動モータ84の回転運動を直線運動に変換するネジ機構86と、ネジ機構86の直線運動力をハイロー切替機構48、前輪駆動用クラッチ50、及び4WDロック機構58へそれぞれ伝達する伝達機構88とを、更に備えている。
ネジ機構86は、前輪駆動用クラッチ50に対してドライブギヤ46とは反対側において後輪側出力軸44と同じ第1軸線C1回りに配置されており、トランスファ22に備えられたウォームギヤ90を介して電動モータ84に間接的に連結された回転部材としてのナット部材(一方のネジ部材)92と、ナット部材92に螺合するネジ軸部材(他方のネジ部材)94と、ネジ軸部材94を後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動不能且つ第1軸線C1回りの回動不能に後輪側出力軸44に配設するためにネジ軸部材94のリヤ側の端部と非回転部材であるトランスファケース40との間を連結する連結部材95とを備えている。なお、ナット部材92は、複数のボール96を介してネジ軸部材94と螺合しており、ネジ機構86は、ナット部材92とネジ軸部材94とが複数のボール96を介して作動するボールネジである。また、ネジ軸部材94は、ニードルベアリング97によって相対回転可能に後輪側出力軸44に支持されている。このように構成されたネジ機構86では、後輪側出力軸44に支持され、互いに螺合するネジ軸部材94およびナット部材92のいずれか一方のネジ部材であるナット部材92が電動モータ84により後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回転駆動させられることによって、ナット部材92が、後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動する。なお、後輪側出力軸44に支持されたナット部材92およびネジ軸部材94において、ナット部材92がネジ軸部材94に螺合することによって、ナット部材92は後輪側出力軸44に後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回転可能に支持され、連結部材95によって、ネジ軸部材94は後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動不能かつ後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回転不能に後輪側出力軸44に支持されている。また、本実施例において、図2および図5に示すようにナット部材92が電動モータ84によって第1軸線C1まわり矢印F1方向に回動させられると、ナット部材92がネジ軸部材94とのネジの作用によって第1軸線方向C1において前輪駆動用クラッチ50から離間する方向すなわち矢印F2方向に移動するようになっている。
ウォームギヤ90は、電動モータ84のモータシャフトと一体的に形成されたウォーム98と、ナット部材92のリヤ側の端部に形成された鍔部92aに固設されたドラムカム100に形成されたウォームホイール100aとを備えた歯車対である。例えばブラシレスモータである電動モータ84の回転は、ウォームギヤ90を介してナット部材92へ減速されて伝達される。ネジ機構86は、ナット部材92に伝達された電動モータ84の回転を、そのナット部材92の直線運動に変換する。また、電動モータ84が回転駆動することによって、ナット部材92に連結すなわち固設されたドラムカム100に形成されたウォームホイール100aが後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動するが、そのウォームホイール100aが移動しても、ウォームホイール100aとトランスファケース40に固定された電動モータ84のモータシャフトに形成されたウォーム98とが常時噛み合うように、ウォームホイール100aの第1軸線C1方向の幅寸法が上記モータシャフトに形成されたウォーム98の第1軸線C1方向の幅寸法より大きくなっており、ウォームホイール100aの外周歯が平歯に形成されている。
伝達機構88には、ネジ機構86におけるナット部材92の直線運動を前輪駆動用クラッチ50に伝達する第1伝達機構(第1の伝達機構)88aと、ドラムカム100に形成されたカム溝100cに係合された後述するカム係合部材103が連結されたフォークシャフト(第2軸)102の第3軸線(軸心)C3方向の移動をハイロー切替機構48に伝達する第2伝達機構(第2の伝達機構)88bとが備えられている。なお、図2から図4に示すように、カム係合部材103は、フォークシャフト102に連結され、ドラムカム100は、ナット部材92に連結されている。
図2および図5に示すように、ドラムカム100は、電動モータ84のモータシャフトに形成されたウォーム98と噛み合う円環状のウォームホイール100aと、ウォームホイール100aのフォークシャフト102側の端部においてウォームホイール100aからリヤプロペラシャフト26に接近する方向に突き出された突部100bと、その突部100bの外周に形成されたカム溝100cとが備えられている。なお、上記突部100bは、ウォームホイール100aの円周方向の一部がリヤプロペラシャフト26に接近する方向に突き出された例えば円筒形状の一部分を示す形状である。後輪側出力軸44の両端部のうちドラムカム100側の端部を回転可能に支持する第2支持ベアリング73は、ドラムカム100の後輪側出力軸44の第1軸線C1方向の長さ範囲内においてドラムカム100の内側に配置されている。また、ドラムカム100の後輪側出力軸44の径方向の寸法R1は、ハイロー切替機構48の後輪側出力軸44の径方向の寸法R2および前輪駆動用クラッチ50の後輪側出力軸44の径方向の寸法R3以下になるように、ドラムカム100が形成されている。上記寸法R2は、ハイロー切替機構48のリングギヤRまたはキャリヤCAの外径寸法である。上記寸法R3は、前輪駆動用クラッチ50のクラッチドラム78の外径寸法である。
図6に示すように、ドラムカム100の外周に形成されたカム溝100cは、後輪側出力軸44の第1軸線C1に対して傾斜する方向に伸びた傾斜カム溝部100dと、傾斜カム溝部100dのネジ機構86側に端部に形成され、第1軸線C1に対して直交する方向(垂直方向)に伸びた切替カム溝部としての第1カム溝部100eと、傾斜カム溝部100cのネジ機構86側とは反対側の端部に形成され、第1軸線C1に対して垂直方向に伸びた第2カム溝部100fとを有している。このように構成されたドラムカム100によれば、例えば図6の(a)に示すように、ドラムカム100のカム溝100cの第1カム溝部100e内にカム係合部材103の先端部103aが配置された状態から、電動モータ84によってナット部材92が第1軸線C1回り矢印F1方向に回動されると共にドラムカム100が第1軸線C1回り矢印F1方向に回動させられると、ドラムカム100の傾斜カム溝部100cに沿ってカム係合部材103の先端部103aが、ナット部材92の矢印F2方向の移動量、すなわちナット部材92がネジ軸部材94とのネジの作用よって矢印F2方向に移動する移動量より大きい移動量Dで矢印F2方向すなわちフォークシャフト102の第3軸線C3方向に移動させられる。すなわち、図6の(a)に示す状態から、電動モータ84によりナット部材92が第1軸線C1回り矢印F1方向に回動されると、傾斜カム溝部100dによって、ナット部材92がネジ軸部材94とのネジの作用よって矢印F2方向に移動する移動量より大きい移動量Dでドラムカム100がカム係合部材103に対してフォークシャフト102の第3軸線C3方向に相対移動させられる。また、例えば図6の(c)に示すように、ドラムカム100のカム溝100cの第2カム溝部100f内にカム係合部材103の先端部103aが配置された状態から、電動モータ84によってナット部材92が第1軸線C1回り矢印F1方向とは反対方向に回動されると共にドラムカム100が第1軸線C1回り矢印F1方向とは反対方向に回動させられると、ドラムカム100の傾斜カム溝部100dに沿ってカム係合部材103の先端部103aが、ナット部材92の矢印F2方向とは反対方向の移動量、すなわちナット部材92がネジ軸部材94とのネジの作用よって矢印F2方向とは反対方向に移動する移動量より大きい移動量Dで矢印F2方向とは反対方向に移動させられる。すなわち、電動モータ84が回転駆動しナット部材92を介してドラムカム100が後輪側出力軸44の第1軸線C1回りに回動させられると、ドラムカム100に形成されたカム溝100cによってそのカム溝100cに係合されたカム係合部材103が、後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動、すなわちフォークシャフト102の第3軸線C3方向に移動させられる。つまり、電動モータ84が回転駆動しナット部材92を介してドラムカム100が後輪側出力軸44の第1軸線C1回りに回動させられると、カム係合部材103に対してドラムカム100がフォークシャフト102の第3軸線C3方向に相対移動させられる。なお、図6の(b)および(c)に示されている1点鎖線の円は、図6の(a)のカム係合部材103の先端部103aの位置を示すものである。後輪側出力軸44の第1軸線C1と、前輪側出力軸52の第2軸線C2と、フォークシャフト102の第3軸線C3とはそれぞれ平行である。また、例えば図6の(a)に示す状態から、電動モータ84によってナット部材92が第1軸線C1回り矢印F1方向とは反対方向に回動されると共にドラムカム100が第1軸線C1回り矢印F1方向とは反対方向に回動させられると、カム係合部材103は後輪側出力軸44の第1軸線C1方向すなわちフォークシャフト102の第3軸線C3方向へ移動させられることなく、カム係合部材103は第1カム溝部100eに沿って移動させられる。つまり、第1カム溝部100e内にカム係合部材103が係合した状態では、第1カム溝部100eによって、ナット部材92の第1軸線C1回り矢印F1方向とは反対方向の回動に拘わらず、カム係合部材103のフォークシャフト102の第3軸線C3方向の移動が阻止、すなわちカム係合部材103とドラムカム100とのフォークシャフト102の第3軸線C3方向の相対移動が阻止される。
図2から図5に示すように、第1伝達機構88aには、ピストン82とナット部材92の鍔部92aとの間に介在されたスラストベアリング105と、ピストン82のナット部材92に対する摩擦係合要素80側への相対移動を阻止するストッパ部材107とが備えられている。ピストン82は、スラストベアリング105およびストッパ部材107によって、ナット部材92に対して第1軸線C1方向の相対移動不能且つ第1軸線C1回りの相対回転可能にナット部材92に連結されている。これによって、ネジ機構86におけるナット部材92の直線運動は、第1伝達機構88aを介して前輪駆動用クラッチ50のピストン82に伝達される。
また、図2から図5に示すように、第2伝達機構88bには、トランスファケース40内において後輪側出力軸44の第1軸線C1と平行に配置され且つ第3軸線C3方向に移動可能に支持されたフォークシャフト102と、フォークシャフト102に固設されて、ハイロースリーブ62に連結されたフォーク104と、フォークシャフト102にカム係合部材103の第1軸線C1方向すなわち第3軸線C3方向の移動をバネ部材112を介して伝達する待ち機構106とが備えられている。なお、上記待ち機構106は、カム係合部材103に備えられている。このため、第2伝達機構88bでは、カム係合部材103の第1軸線C1方向すなわち第3軸線C3方向の移動を、待ち機構106、フォークシャフト102、及びフォーク104を介してハイロー切替機構48のハイロースリーブ62へ伝達する。これによって、例えば図2および図6の(a)に示す状態から、カム係合部材103が矢印F2方向に移動されられると、ハイロースリーブ62がドライブギヤ46側へ移動すなわちハイロースリーブ62の外周歯62bがロー側ギヤ歯66に噛み合う位置へ移動させられる。また、例えば図4および図6の(c)に示す状態から、カム係合部材103が矢印F2方向とは反対方向に移動されられると、ハイロースリーブ62がドライブギヤ46から離れる側へ移動すなわちハイロースリーブ62の外周歯62bがハイ側ギヤ歯64に噛み合う位置へ移動させられる。
また、伝達機構88には、ネジ機構86におけるナット部材92の直線運動を4WDロック機構58に伝達する第3伝達機構88cが備えられている。第3伝達機構88cには、第2伝達機構88bと同様に、フォークシャフト102と、フォーク104と、待ち機構106とが備えられ、更に、フォーク104に連結されたハイロースリーブ62と、ハイロースリーブ62とロックスリーブ70との間において圧縮された状態で配設された第1スプリング72と、ロックスリーブ70と後輪側出力軸44の凸部44aとの間において圧縮された状態で配設された第2スプリング74とが備えられている。
このため、第3伝達機構88cでは、上述したようにカム係合部材103が矢印F2方向に移動させられてハイロースリーブ62の外周歯62bがロー側ギヤ歯66に噛み合う位置へ移動させられると、ロックスリーブ70は、第1スプリング72を介してドライブギヤ46側へ向かうロック方向推力が作用される。これによって、ロックスリーブ70は、その外周歯70aが第1スプリング72よりも弱く設定された第2スプリング74の付勢力に抗してドライブギヤ46側へ移動させられ、ドライブギヤ46のロック歯68に噛み合わせられる。また、ハイロースリーブ62の外周歯62bがロー側ギヤ歯66に噛み合っている状態から、カム係合部材103が矢印F2方向とは反対方向に移動させられてハイロースリーブ62の外周歯62bがハイ側ギヤ歯64に噛み合う位置へ移動させられると、ロックスリーブ70は、第2スプリング74でドライブギヤ46から離れる側へ向かう4WDロック解除方向推力が作用される。これによって、ロックスリーブ70は、その外周歯70aがドライブギヤ46のロック歯68から離れるように第2スプリング74の付勢力によってドライブギヤ46から離れる側に移動させられる。
待ち機構106には、図5に示すように、第3軸線C3と平行な方向にフォークシャフト102と摺動可能に第3軸線C3回りに配置された、一端部に設けられた鍔どうしが相対する2つの鍔付円筒部材108a,108bと、2つの鍔付円筒部材108a,108bの間に介在させられた円筒状のスペーサ110と、スペーサ110の外周側に予圧状態で配置されたバネ部材112と、2つの鍔付円筒部材108a,108bを第3軸線C3と平行な方向に摺動可能に把持する把持部材114とが備えられている。把持部材114は、鍔付円筒部材108a,108bの鍔に当接することで鍔付円筒部材108a,108bをフォークシャフト102上で摺動させる。鍔付円筒部材108a,108bの鍔が共に把持部材114と当接した状態における鍔間の長さは、スペーサ110の長さよりも長くなっている。従って、鍔が共に把持部材114と当接した状態は、バネ部材112の付勢力によって形成される。また、待ち機構106には、フォークシャフト102の外周面に鍔付円筒部材108a,108bの各々を第3軸線C3と平行な方向の離間不能とするストッパ118a,118bが備えられている。ストッパ118a,118bにより鍔付円筒部材108a,108bが離間不能とされることで、第2伝達機構88bでは、ナット部材92の直線運動力を、フォークシャフト102、及びフォーク104を介してハイロー切替機構48へ伝達することができる。
ロックスリーブ70の外周歯70aは、フォークシャフト102がハイロースリーブ62の外周歯62bをロー側ギヤ歯66に噛み合わせる位置(以下、ローギヤ位置と称す)にてロック歯68に噛み合う。前輪駆動用クラッチ50の摩擦係合要素80は、フォークシャフト102がハイロースリーブ62の外周歯62bをハイ側ギヤ歯64に噛み合わせる位置(以下、ハイギヤ位置と称す)にてピストン82によって押し付けられず、フォークシャフト102のローギヤ位置にてピストン82によって押し付けられない。なお、図6において、図6の(a)はフォークシャフト102がハイギヤ位置である時におけるカム係合部材103の位置を示す図であり、図6の(c)はフォークシャフト102がローギヤ位置である時におけるカム係合部材103の位置を示す図であり、図6の(b)はフォークシャフト102がハイギヤ位置からローギヤ位置への切替中におけるカム係合部材103の位置を示す図である。また、例えば図6の(a)に示す状態から、ナット部材92すなわちドラムカム100が電動モータ84によって矢印F1方向とは反対方向へ回動させられると、第1カム溝部100eによって、カム係合部材103はフォークシャフト102の第3軸線C3方向へ移動せずフォークシャフト102がハイギヤ位置のままで、前輪駆動用クラッチ50のピストン82が摩擦係合要素80に押し付けられない位置から押し付けられる位置へ移動させられる。
フォークシャフト102のハイギヤ位置では、鍔付円筒部材108a,108bの鍔間の長さを、鍔が共に把持部材114と当接した状態での長さと、スペーサ110の長さとの間で変化させることができる。従って、待ち機構106は、フォークシャフト102のハイギヤ位置のままで、前輪駆動用クラッチ50の摩擦係合要素80がピストン82によって押し付けられる位置と押し付けられない位置との間で、ナット部材92の第1軸線C1と平行な方向の移動を許容する。
トランスファ22は、フォークシャフト102のハイギヤ位置を保持し、また、フォークシャフト102のローギヤ位置を保持するギヤ位置保持機構120(図2参照)を備えている。ギヤ位置保持機構120は、フォークシャフト102が摺動するトランスファケース40の内周面に形成された収容孔122と、収容孔122に収容されたロックボール124と、収容孔122に収容されてロックボール124をフォークシャフト102側へ付勢するロック用スプリング126と、フォークシャフト102の外周面に形成された、フォークシャフト102のハイギヤ位置においてロックボール124の一部を受け入れる凹部128h及びフォークシャフト102のローギヤ位置においてロックボール124の一部を受け入れる凹部128lとを備えている。ギヤ位置保持機構120により、その各ギヤ位置において電動モータ84からの出力を停止してもフォークシャフト102の各ギヤ位置が保持される。
トランスファ22は、フォークシャフト102のローギヤ位置を検出するローギヤ位置検出スイッチ130を備えている。ローギヤ位置検出スイッチ130は、例えばボール型の接触スイッチである。ローギヤ位置検出スイッチ130は、ローギヤ位置に移動したフォークシャフト102と接触する位置において、トランスファケース40に形成された貫通孔132に固設される。ローギヤ位置検出スイッチ130によってローギヤ位置が検出されると、例えば低速側ギヤ段Lにて4WDロック状態であることを運転者に知らせる為のインジケータが点灯される。
図1に戻り、車両10には、例えば2WD状態と4WD状態とを切り替える車両10の制御装置を含む電子制御装置(ECU)200が備えられている。電子制御装置200は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置200は、エンジン12の出力制御、車両10の駆動状態の切替制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や駆動状態制御用等に分けて構成される。電子制御装置200には、図1に示すように、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ202、モータ回転角度センサ204、各車輪速センサ206、アクセル開度センサ208、運転者の操作によって高速側ギヤ段Hを選択する為のHレンジ選択スイッチ210、運転者の操作によって4WD状態を選択する為の4WD選択スイッチ212、運転者の操作によって4WDロック状態を選択する為の4WDロック選択スイッチ214など)による検出信号に基づく各種実際値(例えばエンジン回転速度Ne、モータ回転角度θm、前輪14L,14R、及び後輪16L,16Rの各車輪速Nwfl,Nwfr,Nwrl,Nwrr、アクセル開度θacc、Hレンジ選択スイッチ210が操作されたことを示す信号であるHレンジ要求Hon、4WD選択スイッチ212が操作されたことを示す信号である4WD要求4WDon、4WDロック選択スイッチ214が操作されたことを示す信号であるLOCKonなど)が、それぞれ供給される。電子制御装置200からは、図1に示すように、例えばエンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Se、フロント側クラッチ36の状態を切り替える為の作動指令信号Sd、電動モータ84の回転量を制御する為のモータ駆動指令信号Smなどが、エンジン12の出力制御装置、フロント側クラッチ36のアクチュエータ、電動モータ84、トランスファ22などへそれぞれ出力される。
以上のように構成された車両10では、電動モータ84の回転量が制御されることでナット部材92の移動量(ストローク)が制御される。フォークシャフト102のハイギヤ位置において、ピストン82が摩擦係合要素80に当接していない位置すなわち前輪駆動用クラッチ50を解放状態とした位置が、車両10を高速側ギヤ段Hにて後輪16のみを駆動する2WD走行状態とする為の位置(以下H2位置と称す)とされる。このピストン82のH2位置においてフロント側クラッチ36が解放状態とされると、2WD走行中において、ドライブギヤ46から前輪用差動歯車装置28までの動力伝達経路を構成する各回転要素(ドライブギヤ46、前輪駆動用チェーン56、ドリブンギヤ54、前輪側出力軸52、フロントプロペラシャフト24、前輪用差動歯車装置28等)には、エンジン12側からも前輪14側からも回転が伝達されない。従って、2WD走行中において、これらの各回転要素が回転停止し、前記各回転要素の連れ回りが防止され、走行抵抗が低減される。
また、図2に示すように、フォークシャフト102のハイギヤ位置において、ピストン82が摩擦係合要素80に当接していない位置から電動モータ84を所定の回転量だけ駆動して押圧側に所定のストローク分だけナット部材92を移動させることでピストン82が摩擦係合要素80に当接した位置、すなわち前輪駆動用クラッチ50をスリップ状態とした位置が、車両10を高速側ギヤ段Hにて前輪14及び後輪16共に動力が伝達される4WD走行状態とする為の位置(以下、H4位置と称す)とされる。このピストン82のH4位置では、ピストン82の押圧力に応じて前輪駆動用クラッチ50の伝達トルクが制御されることで、前輪14と後輪16とのトルク配分が必要に応じて調整される。
また、フォークシャフト102のローギヤ位置では、図4に示すように、前輪駆動用クラッチ50が解放状態とされ且つ4WDロック機構58が係合状態とされるので、車両10を低速側ギヤ段Lにて4WDロック状態での4WD走行状態とする為の位置(L4位置と称す)とされる。
上述のように、本実施例のトランスファ22によれば、電動モータ84によってナット部材92が後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回転駆動させられると、ナット部材92が後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動してナット部材92の直線運動が第1伝達機構88aを介して前輪駆動用クラッチ50に伝達される。また、電動モータ84によってナット部材92が後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回転駆動させられると、ナット部材92に連結されたドラムカム100が回動しカム溝100cに係合されたカム係合部材103がフォークシャフト102の第3軸線C3方向に移動して、すなわちナット部材92に連結されたドラムカム100が回動しカム係合部材103に対してドラムカム100がフォークシャフト102の第3軸線C3方向に相対移動して、カム係合部材103におけるフォークシャフト102の移動が第2伝達機構88bを介してハイロー切替機構48に伝達される。これによって、後輪側出力軸44に設けられたネジ機構86のナット部材92の直線運動が第1伝達機構88aを介して前輪駆動用クラッチ50に伝達されるので、従来のように例えば前輪駆動用クラッチ50の伝達トルクの調節用としてボールカムとレバーとを設ける必要がなくなり後輪側出力軸44とフォークシャフト102との間の距離を好適に短くすることができ、トランスファ22を小型化させることができる。
また、本実施例のトランスファ22によれば、カム係合部材103は、フォークシャフト102に連結され、ドラムカム100は、ナット部材92に連結されている。このため、ハイロー切替機構48の切替作動を行うためにドラムカム100が後輪側出力軸44に設けられたネジ機構86のナット部材92に連結させられる。これによって、従来のようにドラムカムを第2軸に設ける必要がなくなるので、ドラムカムを第2軸に設けていた従来のトランスファのように、前記第2軸に設けられた前記ドラムカムと前記出力軸に設けられた前記ハイロー切替機構および前記クラッチとが干渉しないようにさせる必要がなくなり、後輪側出力軸44とフォークシャフト102との間の距離を好適に短くすることができる。
また、本実施例のトランスファ22によれば、ナット部材92は、後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回転可能に後輪側出力軸44に支持され、ネジ軸部材94は、後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動不能かつ後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回転不能に後輪側出力軸44に支持されている。このように、電動モータ84によってナット部材92が回転駆動させられると、ナット部材92が後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動してナット部材92の直線運動が第1伝達機構88aを介して前輪駆動用クラッチ50に伝達される。さらに、電動モータ84によってナット部材92が回転駆動させられると、ナット部材92に連結されたドラムカム100が回動しカム溝100cに係合されたカム係合部材103がフォークシャフト102の第3軸線C3方向に移動してカム係合部材103の直線運動が第2伝達機構88bを介してハイロー切替機構48に伝達される。
また、本実施例のトランスファ22によれば、後輪側出力軸44の両端部のうちドラムカム100側の端部を回転可能に支持する第2支持ベアリング73は、ドラムカム100の後輪側出力軸44の第1軸線C1方向の長さ範囲内においてドラムカム100の内側に配置されているので、トランスファ22における後輪側出力軸44の第1軸線C1方向の寸法の長さが好適に短くなる。
また、本実施例のトランスファ22によれば、ドラムカム100に形成されたカム溝100cには、後輪側出力軸44の第1軸線C1に対して傾斜する方向に伸びた傾斜カム溝部100dが備えられており、電動モータ84によってナット部材92が後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回動されると共にドラムカム100が後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回動させられると、ドラムカム100の傾斜カム溝部100dに沿ってカム係合部材103が、ナット部材92の後輪側出力軸44の第1軸線C1方向の移動量より大きい移動量Dでフォークシャフト102の第3軸線C3方向に移動させられる。このため、ハイロー切替機構48における高速側ギヤ段Hと低速側ギヤ段Lとの切替の応答性が、例えばネジ機構86におけるナット部材92の後輪側出力軸44の第1軸線C1方向の移動によって高速側ギヤ段Hと低速側ギヤ段Lとを切り替えるものに比べて大幅に向上する。
また、本実施例のトランスファ22によれば、ドラムカム100に形成されたカム溝100cには、後輪側出力軸44の第1軸線C1に対して直交する方向に伸びた第1カム溝部100eが備えられており、電動モータ84によってナット部材92が第1軸線C1回り矢印F1方向とは反対方向に回動されると共にドラムカム100が第1軸線C1回り矢印F1方向とは反対方向に回動させられると、カム係合部材103はフォークシャフト102の第3軸線C3方向へ移動させられることなく、カム係合部材103は第1カム溝部100eに沿って移動させられる。すなわち第1カム溝部100eによってカム係合部材103を第1カム溝部100eに沿って移動可能とすることにより、ナット部材92が後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動して、ナット部材92の直線運動が第1伝達機構88aを介して前輪駆動用クラッチ50に伝達される。このため、ハイロー切替機構48を高速側ギヤ段Hに切り替えた状態で、前輪駆動用クラッチ50によってドライブギヤ46へ伝達する伝達トルクを調節することができる。
また、本実施例のトランスファ22によれば、ナット部材92は、複数のボール96を介してネジ軸部材94と螺合する。このため、ナット部材92とネジ軸部材94との間の相対回転が滑らかになるので、作動時の電動モータ84の必要電力が安定的に低下する。
また、本実施例のトランスファ22によれば、前輪駆動用クラッチ50は、ドライブギヤ46への伝達トルクを調節するクラッチであり、前輪駆動用クラッチ50は、多板クラッチである。このため、前輪駆動用クラッチ50の伝達トルクの連続可変制御が可能になり、運転状況に一層応じた前輪14、後輪16への駆動力分配制御が可能になる。
また、本実施例のトランスファ22によれば、第2伝達機構88bは、カム係合部材103のフォークシャフト102の第3軸線C3方向の移動をバネ部材112を介してフォークシャフト102に伝達する待ち機構106を備える。このため、ハイロー切替機構48における高速側ギヤ段Hと低速側ギヤ段Lとの切替時において、ハイロー切替機構48の切替に伴う衝撃が待ち機構106のバネ部材112によって吸収される。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、前述の実施例1と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図7から図10は、本発明の他の実施例のトランスファ134を説明する図である。本実施例のトランスファ134は、実施例1のトランスファ22に比較して、カム係合部材136がネジ機構138のナット部材140に連結されている点と、ドラムカム142が待ち機構144を介してフォークシャフト102に連結されている点と、第1伝達機構(第1の伝達機構)88dに設けられたスラストベアリング154およびストッパ部材156の形状が異なる点と、第2伝達機構(第2の伝達機構)88eに設けられた待ち機構144の形状が異なる点とで相違しており、その他は実施例1のトランスファ22と略同じである。
図7および図9に示すように、ネジ機構138は、前輪駆動用クラッチ50に対してドライブギヤ46とは反対側において後輪側出力軸44と同じ第1軸線C1回りに配置されており、トランスファ134に備えられたウォームギヤ146を介して電動モータ84に間接的に連結された回転部材としてのナット部材140と、ナット部材140に螺合するネジ軸部材148と、ネジ軸部材148を後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動不能且つ第1軸線C1回りの回動不能に後輪側出力軸44に配設するためにネジ軸部材148のリヤ側の端部と非回転部材であるトランスファケース40との間を連結する連結部材150とを備えている。なお、ナット部材140は、複数のボール152を介してネジ軸部材148と螺合しており、ネジ機構138は、ナット部材140とネジ軸部材148とが複数のボール152を介して作動するボールネジである。また、ネジ軸部材148は、ニードルベアリング153によって相対回転可能に後輪側出力軸44に支持されている。このように構成されたネジ機構138では、後輪側出力軸44に支持され、互いに螺合するネジ軸部材148およびナット部材140のナット部材140が電動モータ84により回転駆動させられることによって、ナット部材140が、後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動する。つまり、ネジ機構138は、ナット部材140に伝達された電動モータ84の回転を、そのナット部材140の直線運動に変換するものである。なお、後輪側出力軸44に支持されたナット部材140およびネジ軸部材148において、ナット部材140がネジ軸部材148に螺合することによって、ナット部材140は後輪側出力軸44に後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回転可能に支持され、連結部材150によって、ネジ軸部材148は後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動不能かつ後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回転不能に後輪側出力軸44に支持されている。また、本実施例において、図7および図9に示すようにナット部材140が電動モータ84によって第1軸線C1まわり矢印F1方向に回動させられると、ナット部材140がネジ軸部材148とのネジの作用によって第1軸線方向C1において前輪駆動用クラッチ50から離間する方向すなわち矢印F2方向に移動するようになっている。
ネジ機構138におけるナット部材140の直線運動を前輪駆動用クラッチ50に伝達する第1伝達機構88dには、図9に示すように、ピストン82とナット部材140の鍔部140aとの間に介在されたスラストベアリング154と、ピストン82のナット部材140に対する摩擦係合要素80側への相対移動を阻止する環状のストッパ部材156とが備えられている。ピストン82は、スラストベアリング154およびストッパ部材156によって、ナット部材140に対して第1軸線C1方向の相対移動不能且つ第1軸線C1回りの相対回転可能にナット部材140に連結されている。これによって、ネジ機構138におけるナット部材140の直線運動は、第1伝達機構88dを介して前輪駆動用クラッチ50のピストン82に伝達される。
カム係合部材136は、図7から図9に示すように、ウォームギヤ146における環状のウォームホイール146aに連結(締結)されており、ウォーム146bを介して電動モータ84によってウォームホイール146bが後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回動すると、カム係合部材136がナット部材140と共に後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回動するようになっている。なお、電動モータ84が回転駆動することによって、ウォームホイール146aが後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動するが、ウォームホイール146aが第1軸線C1方向に移動しても、電動モータ84のモータシャフトに形成されたウォーム146bと常時噛み合うように、ウォームホイール146aの外周歯146cが平歯に形成されている。また、ウォームギヤ146は、ウォームホイール146aとウォーム146bとを備えた歯車対である。
待ち機構144は、図9に示すように、フォークシャフト102に摺動可能に配置され、一端部に鍔部158a、160aが形成された一対の鍔付円筒部材158、160と、一対の鍔付円筒部材158、160においてそれら鍔部158a、160aとの間に予圧状態で配置されたバネ部材162と、環状のストッパ部材164を有し、一対の鍔付円筒部材158、160を第3軸線C3と平行な方向に摺動可能に把持する把持部材166と、フォークシャフト102において一対の鍔付円筒部材158、160が第3軸線C3と平行な方向において所定距離以上の離間することを防止する環状の第1ストッパ168および第2ストッパ170と、一対の鍔付円筒部材158、160がフォークシャフト102に対して第3軸線C3まわりに回動することを防止する球状の回動防止ボール172とが備えられている。上記のように構成された待ち機構144では、例えばドラムカム142が矢印F2方向に移動すると、把持部材166が鍔付円筒部材158の鍔部158aに当接し、さらにバネ部材162を介して鍔付円筒部材160の鍔部160aが第2ストッパ170に当接することによって、フォークシャフト102が矢印F2方向に移動するようになっている。また、例えばドラムカム142が矢印F2方向とは反対方向すなわち矢印F4方向に移動すると、把持部材166に設けられたストッパ部材164が鍔付円筒部材160の鍔部160aに当接し、さらにバネ部材162を介して鍔付円筒部材158の鍔部158aが第1ストッパ168に当接することによって、フォークシャフト102が矢印F4方向に移動するようになっている。なお、フォークシャフト102がハイギヤ位置において、例えばドラムカム142が矢印F4方向に移動しようとすると、バネ部材162が圧縮されて鍔付円筒部材160が鍔付円筒部材158に接近する方向に移動することにより、そのドラムカム142の矢印F4方向の移動が許容される。また、フォークシャフト102がローギヤ位置において、例えばドラムカム142が矢印F2方向に移動しようとすると、バネ部材162が圧縮されて鍔付円筒部材158が鍔付円筒部材160に接近する方向に移動することにより、そのドラムカム142の矢印F2方向の移動が許容される。なお、トランスファケース40には、フォークシャフト102の後輪16側の端部を支持する支持部40aが形成されており、フォークシャフト102には、フォークシャフト102がローギヤ位置においてトランスファケース40の支持部40aに当接し、フォークシャフト102がローギヤ位置からの矢印F2方向の移動を防止する環状のストッパ部材174が一体的に備えられている。また、図示されていないが、トランスファ134には、フォークシャフト102がハイギヤ位置からの矢印F4方向の移動を防止するストッパ部材が備えられている。また、ドラムカム142は、待ち機構144の把持部材166に一体に連結されており、ドラムカム142と把持部材166との間には、図8に示すように、ドラムカム142と把持部材166との連結に対する強度を向上させる一対の補強部材176が連結されている。
ドラムカム142は、図8に示すように、ウォームホイール146aの外周に沿って部分円筒形状に形成されており、ドラムカム142の内周に形成されたカム溝142aにカム係合部材136が係合するように、すなわちカム溝142a内にカム係合部材136が配置されるように、ドラムカム142がウォームホイール146aに隣接して配置されている。
図10に示すように、ドラムカム142の内周に形成されたカム溝142aは、フォークシャフト102の第3軸線C3に対して傾斜する方向に伸びた傾斜カム溝部142bと、傾斜カム溝部142bの待ち機構144側とは反対側の端部に形成され、第3軸線C3に対して直交する方向に伸びた切替カム溝部としての第1カム溝部142cと、傾斜カム溝部142bの待ち機構144側の端部に形成され、第3軸線C3に対して直交する方向に伸びた第2カム溝部142dとを有している。このように構成されたドラムカム142によれば、例えば図10の(a)に示すように、カム溝142aの第1カム溝部142cおいて傾斜カム溝部142b側の端部内にカム係合部材136が配置された状態から、電動モータ84によってナット部材140が第1軸線C1回り矢印F1方向に回動されると共にカム係合部材136が第1軸線C1回り矢印F1方向に回動させられると、傾斜カム溝部142bに沿ってドラムカム142が、ナット部材140の矢印F2方向の移動量、すなわちナット部材140がネジ軸部材148とのネジの作用によって矢印F2方向に移動する移動量より大きい移動量で矢印F2方向すなわちフォークシャフト102の第3軸線C3方向に移動させられる。また、例えば図10の(c)に示すように、カム溝142aの第2カム溝部142d内にカム係合部材136が配置された状態から、電動モータ84によってナット部材140が第1軸線C1回り矢印F1方向とは反対方向に回動されると共にカム係合部材136が第1軸線C1回り矢印F1方向とは反対方向に回動させられると、傾斜カム溝部142bに沿ってドラムカム142が、ナット部材140の矢印F2方向とは反対方向の移動量、すなわちナット部材140がネジ軸部材148とのネジの作用によって矢印F2方向とは反対方向に移動する移動量より大きい移動量で矢印F2方向とは反対方向(矢印F4方向)すなわちフォークシャフト102の第3軸線C3方向に移動させられる。すなわち、電動モータ84が回転駆動しナット部材140を介してカム係合部材136が後輪側出力軸44の第1軸線C1回りに回動させられると、ドラムカム142に形成されたカム溝142aにカム係合部材136が係合することによってドラムカム142がフォークシャフト102の第3軸線C3方向に移動させられる。つまり、電動モータ84が回転駆動しナット部材140を介してカム係合部材136が後輪側出力軸44の第1軸線C1回りに回動させられると、カム係合部材136に対してドラムカム142がフォークシャフト102の第3軸線C3方向に相対移動させられる。なお、図10の(b)および(c)に示されている1点鎖線の円は、図10の(a)のカム係合部材136の位置を示すものである。
ドラムカム142が連結されたフォークシャフト102の第3軸線C3方向の移動をハイロー切替機構48に伝達する第2伝達機構88eには、図7に示すように、フォークシャフト102と、フォーク104と、フォークシャフト102にドラムカム142の第3軸線C3方向の移動をバネ部材162を介して伝達する待ち機構144とが備えられている。このため、第2伝達機構88eでは、例えば図10の(a)に示す状態から、ドラムカム142が矢印F2方向に移動されられると、ハイロースリーブ62がドライブギヤ46側へ移動すなわちハイロースリーブ62の外周歯62bがロー側ギヤ歯66に噛み合う位置へ移動させられる。また、例えば図10の(c)に示す状態から、ドラムカム142が矢印F2方向とは反対方向(矢印F4方向)に移動されられると、ハイロースリーブ62がドライブギヤ46から離れる側へ移動すなわちハイロースリーブ62の外周歯62bがハイ側ギヤ歯64に噛み合う位置へ移動させられる。なお、図10において、図10の(a)はフォークシャフト102がハイギヤ位置である時におけるドラムカム142の位置を示す図であり、図10の(c)はフォークシャフト102がローギヤ位置である時におけるドラムカム142の位置を示す図であり、図10の(b)はフォークシャフト102がハイギヤ位置からローギヤ位置への切替中におけるドラムカム142の位置を示す図である。また、例えば図10の(a)に示す状態から、第1カム溝部142cに係合したカム係合部材136が電動モータ84によって矢印F1方向とは反対方向すなわち矢印F3方向へ回動させられると、ドラムカム142はフォークシャフト102の第3軸線C3方向へ移動せずフォークシャフト102がハイギヤ位置のままで、前輪駆動用クラッチ50のピストン82が摩擦係合要素80に押し付けられない位置から押し付けられる位置へ移動させられる。すなわち、第1カム溝部142c内にカム係合部材136が係合した状態では、第1カム溝部142cによって、ナット部材140に連結されたカム係合部材136の第1軸線C1回り矢印F1方向とは反対方向の回動に拘わらず、ドラムカム142のフォークシャフト102の第3軸線C3方向の移動が阻止、すなわちカム係合部材136とドラムカム142とのフォークシャフト102の第3軸線C3方向の相対移動が阻止される。なお、ハイロー切替機構48では、フォークシャフト102がハイギヤ位置である時に高速側ギヤ段Hが成立し、フォークシャフト102がローギヤ位置である時に低速側ギヤ段Lが成立する。
上述のように、本実施例のトランスファ134によれば、電動モータ84によってナット部材140が回転駆動させられると、ナット部材140が後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動してナット部材140の直線運動が第1伝達機構88dを介して前輪駆動用クラッチ50に伝達される。また、電動モータ84によってナット部材140が回転駆動させられると、ナット部材140に連結されたカム係合部材136が回動しドラムカム142がフォークシャフト102の第3軸線C3方向に移動、すなわちナット部材140に連結されたカム係合部材136が回動しカム係合部材136に対してドラムカム142がフォークシャフト102の第3軸線C3方向に相対移動して、ドラムカム142におけるフォークシャフト102の移動が第2伝達機構88eを介してハイロー切替機構48に伝達される。これによって、後輪側出力軸44に設けられたネジ機構138のナット部材140の直線運動が第1伝達機構88dを介して前輪駆動用クラッチ50に伝達されるので、従来のように例えば前輪駆動用クラッチ50の伝達トルクの調節用としてボールカムとレバーとを設ける必要がなくなり後輪側出力軸44とフォークシャフト102との間の距離を好適に短くすることができ、トランスファ22を小型化させることができる。
また、本実施例のトランスファ134によれば、電動モータ84は、ウォームギヤ146を介してネジ機構136のナット部材140に連結され、カム係合部材136は、ウォームギヤ146のウォームホイール146aに連結され、ドラムカム142は、フォークシャフト102に連結されており、ドラムカム142は、ウォームホイール146aの外周に沿って部分円筒形状に形成されている。このため、ドラムカム142とウォームホイール146aとを隣接して配置することができるので、後輪側出力軸44とフォークシャフト102との間の距離を好適に短くすることができる。
また、本実施例のトランスファ134によれば、ドラムカム142に形成されたカム溝142aには、フォークシャフト102の第3軸線C3に対して傾斜する方向に伸びた傾斜カム溝部142bが備えられ、電動モータ84によりナット部材140が後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回動されると、傾斜カム溝部142bによって、ナット部材140の後輪側出力軸44の第1軸線C1方向の移動量より大きい移動量でドラムカム142がフォークシャフト102の第3軸線C3方向に移動させられる。このため、ハイロー切替機構48における高速側ギヤ段Hと低速側ギヤ段Lとの切替の応答性が、例えばネジ機構138におけるナット部材140の後輪側出力軸44の第1軸線C1方向の移動によって高速側ギヤ段Hと低速側ギヤ段Lとを切り替えるものに比べて大幅に向上する。
また、本実施例のトランスファ134によれば、第2伝達機構88eは、ドラムカム142におけるフォークシャフト102の第3軸線C3方向の移動をバネ部材162を介してフォークシャフト102に伝達する待ち機構144を備える。このため、ハイロー切替機構48における高速側ギヤ段Hと低速側ギヤ段Lとの切替時において、ハイロー切替機構48の切替に伴う衝撃が待ち機構144のバネ部材162によって吸収される。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、前述の実施例2と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図11から図17は、本発明の他の実施例のトランスファ178を説明する図である。本実施例のトランスファ178は、実施例2のトランスファ134に比較して、カム係合部材180およびドラムカム182の形状が異なる点と、フォークシャフト102がローギヤ位置の時にロックスリーブ70の外周歯70aがロック歯68に噛み合わない点とで相違しており、その他は実施例2のトランスファ134と略同じである。
カム係合部材180は、図11に示すように、ウォームギヤ146における環状のウォームホイール146aに連結(締結)されており、ウォーム146bを介して電動モータ84によってウォームホイール146bが後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回動すると、カム係合部材180がナット部材140と共に後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回動するようになっている。
ドラムカム182は、待ち機構144の把持部材166に一体に連結されており、ドラムカム182と把持部材166との間には、図示しないが例えば図8で示した一対の補強部材176と同様な一対の補強部材が連結されている。また、ドラムカム182は、ウォームホイール146aの外周に沿って部分円筒形状に形成されており、ドラムカム182の内周に形成されたカム溝182aにカム係合部材180が係合するように、すなわちカム溝182a内にカム係合部材180が配置されるように、ドラムカム182がウォームホイール146aに隣接して配置されている。
図12および図14に示すように、ドラムカム182の内周に形成されたカム溝182aは、フォークシャフト102の第3軸線C3に対して傾斜する方向に伸びた第1傾斜カム溝部(傾斜カム溝部)182bと、第1傾斜カム溝部182bの後輪16側の端部に形成され、フォークシャフト102の第3軸線C3に対して直交する方向に伸びる切替カム溝部としての第1切替カム溝部182cと、第1傾斜カム溝部182bの後輪16側とは反対側の端部に形成され、フォークシャフト102の第3軸線C3に対して直交する方向に伸びる切替カム溝部としての第2切替カム溝部182dと、フォークシャフト102の第3軸線C3に対して傾斜する方向に伸びた第2傾斜カム溝部(傾斜カム溝部)182eと、第1傾斜カム溝部182bの後輪16側とは反対側の端部と第2傾斜カム溝部182eの後輪16側とは反対側の端部とを接続する第1接続溝部182fと、第1傾斜カム溝部182bの後輪16側の端部と第2傾斜カム溝部182eの後輪16側の端部とを接続する第2接続溝部182gとを有している。なお、第1傾斜カム溝部182bと第2傾斜カム溝部182eとは、互いに対向するように配置されている。また、図12は、フォークシャフト102がハイギヤ位置である時におけるドラムカム182の位置を示す図であり、図14は、フォークシャフト102がローギヤ位置である時におけるドラムカム182の位置を示す図である。
図12に示すように、第1切替カム溝部182cは、第1切替カム溝部182cにカム係合部材180が係合した状態において、電動モータ84によってナット部材140すなわちカム係合部材180が後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回動しても、第1切替カム溝部182cが第3軸線C3に対して直交する方向に伸びているので、ドラムカム182がフォークシャフト102の第3軸線C3方向へ移動しない。すなわち、第1切替カム溝部182cにカム係合部材180が係合した状態では、ナット部材140の後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりの回動に拘わらずカム係合部材180とドラムカム182とのフォークシャフト102の第3軸線C3方向の相対移動が阻止される。このため、第1切替カム溝部182cにカム係合部材180が係合した状態から、カム係合部材180が電動モータ84によって第1軸線C1まわり矢印F3方向へ回動させられると、フォークシャフト102がハイギヤ位置のままで、前輪駆動用クラッチ50のピストン82が摩擦係合要素80に押し付けられない位置から押し付けられる位置へ移動させられる。なお、図12では、第1切替カム溝部182cに係合したカム係合部材180が電動モータ84によって矢印F3方向へ回動させられる範囲において、フォークシャフト102がハイギヤ位置で前輪駆動用クラッチ50のピストン82が摩擦係合要素80に押し付けられない、すなわちフォークシャフト102がハイギヤ位置で前輪駆動用クラッチ50が解放するカム係合部材180の回動範囲を第1範囲H2と示している。また、図12では、第1切替カム溝部182cに係合したカム係合部材180が電動モータ84によって矢印F3方向へ回動させられる範囲において、フォークシャフト102がハイギヤ位置で前輪駆動用クラッチ50のピストン82が摩擦係合要素80に押し付けられる、すなわちフォークシャフト102がハイギヤ位置で前輪駆動用クラッチ50が係合するカム係合部材180の回動範囲を第2範囲H4と示している。
図13は、フォークシャフト102がハイギヤ位置からローギヤ位置へ切り替える際のカム係合部材180に対するドラムカム182の位置を説明する図である。図13の(a)に示すように、第1傾斜カム溝部182bの後輪16側の端部内にカム係合部材180が係合した状態から、電動モータ84によってナット部材140が第1軸線C1回り矢印F1方向に回動されると共にカム係合部材180が第1軸線C1回り矢印F1方向に回動させられると、第1傾斜カム溝部182bに沿ってドラムカム182が、ナット部材140の矢印F2方向の移動量、すなわちナット部材140がネジ軸部材148とのネジの作用によって矢印F2方向に移動する移動量より大きい移動量で矢印F2方向すなわちフォークシャフト102の第3軸線C3方向に移動させられる。なお、図13の(a)はフォークシャフト102がハイギヤ位置である時におけるドラムカム182の位置を示す図であり、図13の(c)はフォークシャフト102がローギヤ位置である時におけるドラムカム182の位置を示す図であり、図13の(b)はフォークシャフト102がハイギヤ位置からローギヤ位置への切替中におけるドラムカム182の位置を示す図である。また、図13の(b)および(c)に示されている1点鎖線の円は、図13の(a)のカム係合部材180の位置を示すものである。
カム係合部材180に対するドラムカム182の位置が図13の(c)と同じ図14に示すように、第2切替カム溝部182dは、第2切替カム溝部182dの第1傾斜カム溝部182b側の端部にカム係合部材180が係合した状態において、電動モータ84によってナット部材140すなわちカム係合部材180が後輪側出力軸44の第1軸線C1まわり矢印F3方向に回動しても、第2切替カム溝部182dが第3軸線C3に対して直交する方向に伸びているので、ドラムカム182がフォークシャフト102の第3軸線C3方向へ移動しない。すなわち、第2切替カム溝部182dにカム係合部材180が係合した状態では、ナット部材140の後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりの回動に拘わらずカム係合部材180とドラムカム182とのフォークシャフト102の第3軸線C3方向の相対移動が阻止される。このため、第2切替カム溝部182dの第1傾斜カム溝部182b側の端部にカム係合部材180が係合した状態から、カム係合部材180が電動モータ84によって第1軸線C1まわり矢印F3方向へ回動させられると、フォークシャフト102がローギヤ位置のままで、前輪駆動用クラッチ50のピストン82が摩擦係合要素80に押し付けられない位置から押し付けられる位置へ移動させられる。なお、図14では、第2切替カム溝部182dに係合したカム係合部材180が電動モータ84によって矢印F3方向へ回動させられる範囲において、フォークシャフト102がローギヤ位置で前輪駆動用クラッチ50のピストン82が摩擦係合要素80に押し付けられない、すなわちフォークシャフト102がローギヤ位置で前輪駆動用クラッチ50が解放するカム係合部材180の回動範囲を第1範囲L2と示している。また、図14では、第2切替カム溝部182dに係合したカム係合部材180が電動モータ84によって矢印F3方向へ回動させられる範囲において、フォークシャフト102がローギヤ位置で前輪駆動用クラッチ50のピストン82が摩擦係合要素80に押し付けられる、すなわちフォークシャフト102がローギヤ位置で前輪駆動用クラッチ50が係合するカム係合部材180の回動範囲を第2範囲L4と示している。
カム係合部材180に対するドラムカム182の位置が図13の(c)および図14と同じ図15の(a)に示すように、第2切替カム溝部182dの第1傾斜カム溝部182b側の端部、すなわち第1傾斜カム溝部182bの後輪16側とは反対側の端部にカム係合部材180が係合した状態から、電動モータ84によってナット部材140が第1軸線C1回り矢印F1方向に回動されると共にカム係合部材180が第1軸線C1回り矢印F1方向に回動させられると、第1接続溝部182fに沿ってドラムカム142が、図15の(b)に示すように矢印F2方向に移動させられる。なお、図15の(a)は、フォークシャフト102がローギヤ位置である時におけるドラムカム182の位置を示す図であり、図15の(b)は、フォークシャフト102がローギヤ位置からさらに矢印F2方向へドラムカム182が移動した位置を示す図である。図15の(b)に示すように、フォークシャフト102がローギヤ位置からさらに矢印F2方向へドラムカム182が移動すると、すなわちフォークシャフト102に設けられたストッパ174(図11参照)がトランスファケース40の支持部40aに当接した状態からさらにドラムカム182が矢印F2方向へ移動すると、待ち機構144のバネ部材162が圧縮されるので、ドラムカム182にはバネ部材162の弾性復帰力によって矢印F2方向とは反対方向の付勢力Faが付与される。このため、図15の(b)に示すようにカム係合部材180が第1接続溝部182fに係合した状態から、電動モータ84によってカム係合部材180が第1軸線C1まわり矢印F1方向へ回動させられると、上記付勢力Faによってドラムカム182が矢印F2方向とは反対方向に移動して、図15の(c)に示すようにカム係合部材180が第2傾斜カム溝部182eの後輪16側とは反対側の端部に係合する。なお、図15の(b)および(c)に示されている1点鎖線の円は、図15の(a)のカム係合部材180の位置を示すものである。
図16は、フォークシャフト102がローギヤ位置からハイギヤ位置へ切り替える際のカム係合部材180に対するドラムカム182の位置を説明する図である。カム係合部材180に対するドラムカム182の位置が図15の(c)と同じ図16の(a)に示すように、第2傾斜カム溝部182eの後輪16側とは反対側の端部内にカム係合部材180が係合した状態から、電動モータ84によってナット部材140が第1軸線C1回り矢印F3方向に回動されると共にカム係合部材180が第1軸線C1回り矢印F3方向に回動させられると、第2傾斜カム溝部182eに沿ってドラムカム182が、ナット部材140の矢印F2方向とは反対方向(矢印F4方向)の移動量、すなわちナット部材140がネジ軸部材148とのネジの作用によって矢印F4方向に移動する移動量より大きい移動量で矢印F4方向に移動させられる。なお、図16の(a)はフォークシャフト102がローギヤ位置である時におけるドラムカム182の位置を示す図であり、図16の(c)はフォークシャフト102がハイギヤ位置である時におけるドラムカム182の位置を示す図であり、図16の(b)はフォークシャフト102がローギヤ位置からハイギヤ位置への切替中におけるドラムカム182の位置を示す図である。また、図16の(b)および(c)に示されている1点鎖線の円は、図16の(a)のカム係合部材180の位置を示すものである。
カム係合部材180に対するドラムカム182の位置が図16の(c)と同じ図17の(a)に示すように、第2傾斜カム溝部182eの後輪16側の端部にカム係合部材180が係合した状態から、電動モータ84によってナット部材140が第1軸線C1回り矢印F3方向に回動されると共にカム係合部材180が第1軸線C1回り矢印F3方向に回動させられると、第2接続溝部182gに沿ってドラムカム182が、図17の(b)に示すように矢印F4方向に移動させられる。なお、図17の(a)は、フォークシャフト102がハイギヤ位置である時におけるドラムカム182の位置を示す図であり、図17の(b)は、フォークシャフト102がハイギヤ位置からさらに矢印F4方向へドラムカム182が移動した位置を示す図である。図17の(b)に示すようにフォークシャフト102がハイギヤ位置からさらに矢印F4方向へドラムカム182が移動すると、すなわちフォークシャフト102の矢印F4方向への移動が許容されない状態からさらにドラムカム182が矢印F4方向へ移動すると、待ち機構144のバネ部材162が圧縮されるので、図17の(b)に示すようにドラムカム182にはバネ部材162の弾性復帰力によって矢印F4方向とは反対方向の付勢力Fbが付与される。このため、図17の(b)に示すようにカム係合部材180が第2接続溝部182gに係合した状態から、電動モータ84によってカム係合部材180が矢印F3方向へ回動させられると、上記付勢力Fbによってドラムカム182が矢印F4方向とは反対方向に移動して、図17の(c)に示すようにカム係合部材180が第1切替カム溝部182cに係合する。また、図17の(b)および(c)に示されている1点鎖線の円は、図17の(a)のカム係合部材180の位置を示すものである。
以上のように構成されたトランスファ178では、電動モータ84によってカム係合部材180が第1軸線C1回りに回動させられると、ドラムカム182に形成されたカム溝182aによって、フォークシャフト102がハイギヤ位置からローギヤ位置へまたはローギヤ位置からハイギヤ位置へ移動させられ、さらにフォークシャフト102がハイギヤ位置またはローギヤ位置のままで前輪駆動用クラッチ50の伝達トルクを調節することができる。
上述のように、本実施例のトランスファ178によれば、ドラムカム182に形成されたカム溝182aには、フォークシャフト102の第3軸線C3に対して傾斜する方向に伸び、カム係合部材180と係合する第1傾斜カム溝部182bと、フォークシャフト102の第3軸線C3に対して直交する方向に伸びた第2切替カム溝部182dとが備えられ、第2切替カム溝部182dによって、ナット部材140の後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりの矢印F3方向の回動に拘わらずカム係合部材180とドラムカム182とのフォークシャフト102の第3軸線C3方向の相対移動が阻止される。このため、ドラムカム182に形成されたカム溝182aの第1傾斜カム溝部182bにカム係合部材180が係合した状態で、ナット部材140が後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに矢印F1方向に回動させられると、ドラムカム182がカム係合部材180に対してフォークシャフト102の第3軸線C3方向に相対移動して、例えばハイロー切替機構48が低速側ギヤ段Lに切り替えられる。さらに、ハイロー切替機構48が低速側ギヤ段Lに切り替えられた状態で、カム係合部材180がカム溝182aの第2切替カム溝部182dに係合すると、ナット部材140の後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりの矢印F3方向の回動に拘わらずカム係合部材180とドラムカム182とのフォークシャフト102の第3軸線C3方向の相対移動が阻止されるので、ハイロー切替機構48が低速側ギヤ段Lに切り替えられたままの状態で、ナット部材140が後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動してナット部材140の直線運動が第1伝達機構88dを介して前輪駆動用クラッチ50に伝達される。これによって、ハイロー切替機構48を低速側ギヤ段Lに切り替えた状態で、前輪駆動用クラッチ50によってドライブギヤ46へ伝達する伝達トルクを調整することができる。
また、本実施例のトランスファ178によれば、第1傾斜カム溝部182bの後輪16側の端部に第1切替カム溝部182cが備えられ、第1傾斜カム溝部182bの後輪16側とは反対側の端部に第2切替カム溝部182dが備えられている。このため、ナット部材140が後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回動させられることによってカム係合部材180が第1切替カム溝部182cまたは第2切替カム溝部182dに係合すると、ハイロー切替機構48を高速側ギヤ段Hまたは低速側ギヤ段Lに切り替えることができる。さらに、カム係合部材180が第1切替カム溝部182cまたは第2切替カム溝部182dに係合した状態で、ナット部材140が後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回動しても、ナット部材140が後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりの回動に拘わらずドラムカム182のフォークシャフト102の第3軸線C3方向の移動が阻止されるので、ハイロー切替機構48を高速側ギヤ段Hまたは低速側ギヤ段Lに切り替えたままの状態としながら、前輪駆動用クラッチ50によってドライブギヤ46へ伝達する伝達トルクを調節することができる。
図18は、本発明の他の実施例のトランスファ184を説明する図である。本実施例のトランスファ184は、実施例1のトランスファ22に比較して、ネジ軸部材(一方のネジ部材)186が電動モータ84により回転駆動されることによって、ナット部材188が後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動させられるようにネジ機構190の構造を変更されている点で相違しており、その他は実施例1のトランスファ22と略同じである。
図18に示すように、クラッチハブ76には、ネジ軸部材186の前輪14側の端部に接近する方向に突出した突部76aが形成されており、その突部76aとネジ軸部材186の前輪側の端部との間には、第1スラストベアリング192が配置されている。また、トランスファケース40には、ネジ軸部材186の後輪16側の端部に接近する方向に突出した突部40bが形成されており、その突部40bとネジ軸部材186の後輪16側の端部との間には、第2スラストベアリング194が配置されている。なお、ネジ軸部材186は、ニードルベアリング97によって相対回転可能に後輪側出力軸44に支持されている。すなわち、クラッチハブ76の突部76aおよびトランスファケース40の突部40bによってネジ軸部材186は後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動不能に、且つニードルベアリング97によって後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回転可能に後輪側出力軸44に支持されている。なお、ネジ軸部材186には、電動モータ84のモータシャフトに形成されたウォーム98と噛み合うウォームホイール186aが形成されており、ネジ軸部材186には、ドラムカム100が連結されている。
また、図18に示すように、トランスファケース40には、内周スプライン歯40cが形成され、ナット部材188には、その内周スプライン歯40cとスプライン嵌合する外周スプライン歯188aが形成されている。なお、ナット部材188は、複数のボール196を介してネジ軸部材186と螺合しており、ネジ機構190は、ナット部材188とネジ軸部材186とが複数のボール196を介して作動するボールネジである。すなわち、トランスファケース40の内周スプライン歯40cによって、ナット部材188は、後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動可能且つ第1軸線C1まわりに回転不能に後輪側出力軸44に支持されている。
これによって、電動モータ84によってネジ軸部材186が回転駆動させられると、ナット部材188が後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動してナット部材188の直線運動が第1伝達機構88aを介して前輪駆動用クラッチ50に伝達される。さらに、電動モータ84によってネジ軸部材186が回転駆動させられると、ネジ軸部材186に連結されたドラムカム100が回動しカム溝100cに係合されたカム係合部材103がフォークシャフト102の第3軸線C3方向に移動してカム係合部材103の直線運動が第2伝達機構88bを介してハイロー切替機構48に伝達される。
上述のように、本実施例のトランスファ184によれば、ナット部材188は、後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回転不能に後輪側出力軸44に支持され、ネジ軸部材186は後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動不能に、かつ後輪側出力軸44の第1軸線C1まわりに回転可能に後輪側出力軸44に支持される。このように、電動モータ84によってネジ軸部材186が回転駆動させられると、ナット部材188が後輪側出力軸44の第1軸線C1方向に移動してナット部材188の直線運動が第1伝達機構88aを介して前輪駆動用クラッチ50に伝達される。さらに、電動モータ84によってネジ軸部材186が回転駆動させられると、そのネジ軸部材186に連結されたドラムカム100が回動しカム溝100cに係合されたカム係合部材103がフォークシャフト102の第3軸線C3方向に移動してカム係合部材103の直線運動が第2伝達機構88eを介してハイロー切替機構48に伝達される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、トランスファ22、134、178、184には、ドライブギヤ46への伝達トルクを調節する前輪駆動用クラッチ50が備えられていたが、前輪駆動用クラッチ50に替えて、後輪側出力軸44の動力の一部をドライブギヤ46に伝達或いは遮断するクラッチすなわちドグクラッチ(噛合クラッチ)が設けられても良い。
また、前述の実施例において、ネジ機構86としてボールネジを例示したが、この態様に限らない。例えば、ネジ機構86は、電動モータ84の回転運動を直線運動に変換する変換機構であれば良く、直接的に相互に螺合する単純なネジ軸部材94とナット部材92とを組み合わせたような機構であっても良い。具体的には、ネジ機構86は、すべりねじなどであっても良い。すべりねじの場合には、ボールネジと比較して回転運動を直線運動に変換する機械効率が低くされるが、前輪駆動用クラッチ50へ高い推力を付与することができたり、ハイロー切替機構48の作動に必要なストロークを得ることができるという、一定の効果は得られる。
また、前述の実施例では、ネジ機構86はウォームギヤ90を介して電動モータ84に間接的に連結されたが、この態様に限らない。例えば、ネジ機構86のナット部材92と電動モータ84とは、ウォームギヤ90を介すことなく直接的に連結されても良い。具体的には、ナット部材92と電動モータ84とは、電動モータ84のモータシャフトに設けられたピニオンとナット部材92に形成されたギヤ歯とが噛み合うように、直接的に連結されても良い。
また、前述の実施例では、トランスファ22、134、178、184が適用される車両10としてFRをベースとする4輪駆動車両を例示したが、これに限らない。例えば、トランスファ22、134、178、184が適用される車両10は、前置エンジン前輪駆動(FF)をベースとする4輪駆動車両であっても良い。また、前輪駆動用クラッチ50は、多板のクラッチであったが、単板のクラッチであっても本発明は適用され得る。また、トランスファ22は、ギヤ位置保持機構120やローギヤ位置検出スイッチ130を備えなくても良い。
また、前述の実施例において、駆動力源として例示したエンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関が用いられる。また、駆動力源としては、例えば電動機等の他の原動機を単独で或いはエンジン12と組み合わせて採用することもできる。また、変速機20は、遊星歯車式多段変速機、無段変速機、同期噛合型平行2軸式変速機(公知のDCT含む)などの種々の自動変速機、又は公知の手動変速機である。また、フロント側クラッチ36は、電磁ドグクラッチであったが、これに限らない。例えば、フロント側クラッチ36は、スリーブを軸方向に移動させるシフトフォークを備え、電気制御可能な或いは油圧制御可能なアクチュエータによって、そのシフトフォークが駆動される形式のドグクラッチ、又は、摩擦クラッチなどであっても良い。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。例えば、上述の実施例1において、実施例3で示したように、フォークシャフト102がローギヤ位置の時にロックスリーブ70の外周歯70aがロック歯68に噛み合わないようにすると共にドラムカム100のカム溝100cをドラムカム182のごとき形状のカム溝182aとすることもできる。