JP6503439B1 - 織編物及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の目的は、ポリエステル系繊維を含む織編物であって、工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性を有し、加工ムラが抑制されており、更に良好な風合いを有する織編物を提供することである。【解決手段】ポリエステル系繊維を含み、当該ポリエステル系繊維の表面に、ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーが重合したビニル系ポリマーが付着されてなる織編物であって、当該二官能ビニル系モノマーの重合後に高速液流処理することにより得られた織編物は、工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性を有し、しかも加工ムラが抑制され、品位が高く性能バラツキが少ない。【選択図】なし

Description

本発明は、ポリエステル系繊維を含む織編物であって、工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性を有し、加工ムラが抑制されており、更に良好な風合いを有する織編物に関する。また、本発明は、当該織編物の製造方法に関する。
ポリエステル繊維は、強度、染色堅牢度等に優れ、加工の汎用性が高いため、衣料や産業資材等の幅広い分野で利用されている。近年、電子産業、医薬、医療機器、精密機器、食品加工や医療技術の進展により、製造現場や医療現場における微細な粉塵やガス、また静電気が障害となるため、それら現場環境のクリーン化が進められている。その一環として、クリーンな環境に対応できる作業衣としてポリエステル繊維布帛の開発が進められている。
特に高齢化が進む社会情勢において、介護医療分野では、安全、衛生面から作業衣のクリーン化について多くの努力が払われ、作業衣の素材には、工業洗濯耐久性に優れた制電性、吸水性の機能が要望されている。
このような要望に追従するために、制電性や吸水性等の機能性を有するポリエステル繊維布帛が検討されている。例えば、特許文献1には、単繊維表面全体がポリエチレングリコール系樹脂で覆われている繊維構造物が、制電性及び防汚性を備え得ることを開示している。また、特許文献2には、単繊維の繊維表面に、ポリアルキレンオキサイドセグメントとアクリル基又はメタクリル基を有する化合物を重合成分とする樹脂被膜と、特定のトリメチロールメラミンを重合成分とする樹脂被膜と積層されている繊維構造物は、耐久性に優れた吸水性、制電性、防汚性、防融性等の機能を備え得ることが開示されている。特許文献3には、単繊維表面にポリアルキレンオキサイドセグメントとアクリル基又はメタクリル基を有する重合性単量体及び/又はトリアジン環含有重合性単量体を重合成分としてなる樹脂皮膜を有し、且つ当該皮膜中にアルミノ珪酸塩の粒子が含有されている繊維構造物は、消臭性と抗菌性に加えて、制電性及び吸水性を備え得ることが開示されている。特許文献4には、単繊維表面に、トリアジン環含有重合性単量体を重合成分として含有してなる樹脂皮膜を有し、かつ、該皮膜中に、親水性ポリエステル系樹脂が含有されてなる繊維構造物が、耐久性に優れた防汚性を備え得ることが開示されている。特許文献5には、繊維表面にトリアジン環含有化合物を含有する樹脂被膜が形成された繊維で構成されており、当該樹脂被膜が親水性ビニルモノマーによりグラフト重合され酸性基を有する繊維構造物が、優れた防汚性を有し得ることが開示されている。
特開昭62−162079号公報 特開2007−146313号公報 特開2009−133035号公報 特開2008−163474号公報公報 特開2008−240206号公報公報
しかしながら、特許文献1〜6の技術では、繊維表面に付着させるポリマーの原料モノマー(未反応物)が残存し、布帛上にムラが発生し、品位低下及び性能バラツキが生じるという欠点がある。また、特許文献1の技術では、家庭洗濯30回後に制電性及び防汚性を維持できても、工業洗濯での耐久性を有しておらず、耐久性の点で満足できるものではない。更に、特許文献2〜5の技術では、熱硬化樹脂であるトリアジン環含有化合物を高濃度で使用しているので、風合いが硬くなり、作業衣に不適切なものであった。
本発明の目的は、ポリエステル系繊維を含む織編物であって、工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性を有し、加工ムラが抑制されており、更に良好な風合いを有する織編物を提供することである。
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ポリエステル系繊維を含み、当該ポリエステル系繊維の表面に、ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーが重合したビニル系ポリマーが付着されてなる織編物であって、当該二官能ビニル系モノマーの重合後に高速液流処理することにより得られた織編物は、工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性を有し、しかも加工ムラが抑制され、品位が高く性能バラツキが少ないことを見出した。更に、当該織編物は、ハリ、コシ、ふくらみが良好で、作業衣に適した風合いを有していることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ポリエステル系繊維を含む織編物であって、
前記ポリエステル系繊維の表面に、ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーが重合したビニル系ポリマーが付着されてなり、
前記二官能ビニル系モノマーの重合後に高速液流処理することにより得られたものである、織編物。
項2. 織編物の構成繊維の総量100質量部当たり、前記ビニル系ポリマーが0.5〜5質量部含まれる、項1に記載の織編物。
項3. ビニル系ポリマーにメラミン樹脂が含まれる、項1又は2に記載の織編物。
項4. ビニル系ポリマーにポリエステル樹脂が含まれる、項1〜3のいずれかに記載の織編物。
項5. ポリエステル系繊維の表面に付着しているビニル系ポリマーの膜厚が50〜200nmである、項1〜4のいずれかに記載の織編物。
項6. 以下の試験方法で測定される工業洗濯後の摩擦帯電圧が1000V以下である、項1〜5のいずれかに記載の織編物。
<試験方法>
(工業洗濯の条件)
JIS L 1096:2010に規定のF−2法(中温ワッシャ法)において、洗濯・乾燥操作を「温度60℃、時間300分の条件で1回洗濯した後、湯洗を温度40℃、時間50分と温度40℃、時間100分の条件で2回行った後に、タンブル乾燥機にて温度60℃、30分の条件で乾燥する」条件に変更し、当該洗濯・乾燥操作を合計5サイクル行う。
(摩擦帯電圧の測定条件)
JIS L 1094:2014の「織物及び編物の帯電性試験方法」に規定されているB法(摩擦帯電圧測定法)に準拠し、20℃、40%RH環境下での前記工業洗濯後の織物の摩擦帯電圧を測定する。
項7. 以下の試験方法で測定される工業洗濯後の吸水拡散面積が400mm2以上である、項1〜6のいずれかに記載の織編物。
<試験方法>
(工業洗濯の条件)
JIS L 1096:2010に規定のF−2法(中温ワッシャ法)において、洗濯・乾燥操作を「温度60℃、時間300分の条件で1回洗濯した後、湯洗を温度40℃、時間50分と温度40℃、時間100分の条件で2回行った後に、タンブル乾燥機にて温度60℃、30分の条件で乾燥する」条件に変更し、当該洗濯・乾燥操作を合計5サイクル行う。
(吸水拡散面積の測定条件)
前記工業洗濯後の織物から、縦20cm×横20cmの試験片を作成する。試験片に、JIS L−1907:2010の「7.1 吸水速度法」の「7.1.1 滴下法」に規定されている操作を行って、水を40μL滴下する。水を滴下してから60秒後に試験片で水が拡散している領域の面積を測定し、これを吸水拡散面積として求める。
項8. ポリエステル系繊維を含み、当該ポリエステル系繊維の表面に、ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーが重合したビニル系ポリマーが付着されている織編物の製造方法であって、
ポリエステル系繊維を含む織編物のポリエステル系繊維の表面に二官能ビニル系モノマーを接触させてラジカル重合する工程、及び
前記工程後の織編物に高速液流処理を行う工程
を含む、製造方法。
項9. 前記高速液流処理が、高速で噴射されている洗浄液に織編物を通過させる処理であって、通過している織編物の進行方向に対して10°以上の角度で洗浄液を噴射させる、項8に記載の製造方法。
本発明の織編物は、当該ポリエステル系繊維の表面に、ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーが重合させた後に高速液流処理することによって、加工ムラが抑制されており、しかも工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性を具備することができている。更に、本発明の織編物は、ハリ、コシ、ふくらみが良好で、作業衣に適した風合いを有している。それ故、本発明の織編物は、衛生管理が厳しい分野(例えば、食品製造現場、医薬品製造現場、医療機関等)において着用される衣料の素材として好適である。
本発明の織編物は、ポリエステル系繊維を含む織編物であって、当該ポリエステル系繊維の表面に、ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーが重合したビニル系ポリマーが付着されてなり、且つ当該二官能ビニル系モノマーの重合後に高速液流処理することにより得られたものであることを特徴とする。以下、本発明の織編物について詳述する。
[構成糸]
本発明の織編物は、構成糸として、ポリエステル系繊維(ポリエステル系単繊維を含むマルチフィラメント糸)を含む。
ポリエステル系繊維を構成するポリエステル樹脂の種類については、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;カチオン染色可染性ポリエステル、ポリ乳酸等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは芳香族ポリエステル、更に好ましくはポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
ポリエステル系繊維の単繊維繊度については、特に限特に制限されないが、例えば、0.1〜10.0dtex、好ましくは0.3〜8.0dtex、更に好ましくは0.5〜6.0dtexが挙げられる。単糸繊度が、0.1dtex以上であれば、ハリコシ感が付与され、衣料にした際に着用し易くなる。また、単糸繊度が、10.0dtex以下であれば、硬くなり過ぎず、風合が良好になる。
また、ポリエステル系繊維の総繊度については、特に限特に制限されないが、例えば、30〜300dtex、好ましくは50〜250dtex、更に好ましくは70〜180dtexが挙げられる。総繊度が50dtex以上であれば、織編物に十分な強度を付与することができ、また、総繊度が300dtex以下であれば、硬くなり過ぎず、風合が良好になる。
ポリエステル系繊維の構成フィラメント数については、使用する単繊維の単繊維繊度と総繊度に応じて定まるが、例えば、1〜400本、好ましくは10〜200本、更に20〜100本が挙げられる。
ポリエステル系繊維の単繊維の断面形状については、特に制限されず、円形断面又は異形断面のいずれであってもよい。
また、ポリエステル系繊維には、付与すべき特性等に応じて、二酸化チタン、二酸化ケイ素、顔料等が含まれていてもよい。
ポリエステル系繊維は、仮撚加工が施されていない原糸であってもよく、また仮撚加工糸であってもよい。
本発明の織編物は、本発明の効果を損なわない範囲では、ポリエステル系繊維以外に他の繊維が構成繊維として含まれていてもよい。このような他の繊維としては、例えば、ナイロン、アクリル等の合成繊維;レーヨン等の再生繊維;アセテート等の半合成繊維;綿、羊毛等の天然繊維等が挙げられる。
本発明の織編物において、ポリエステル系繊維の混用率としては、所望の制電性、吸水性、及び加工ムラの抑制が発現できることを限度として特に制限されないが、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは100質量%が挙げられる。
[織編物の組織及び密度]
本発明の織編物が織物である場合、少なくとも経糸及び緯糸の一方、好ましくは双方にポリエステル系繊維を使用し、経糸と緯糸で交差させて組織を形成すればよい。本発明の織編物を織物にする場合、その組織については、特に制限されないが、例えば、平、綾、朱子、及びこれらの変化組織等が挙げられる。
また、本発明の織編物が編物である場合、ポリエステル系繊維を用いて、糸のループの連続的によって組織を形成すればよい。本発明の織編物を編物にする場合、その組織については、特に制限されず、経編物又は緯編物のいずれであってもよい。経編物としては、例えば、デンビー編、コード編、アトラス編等が挙げられ、具体的にはトリコットハーフ、トリコットサテン等が例示される。また、緯編物としては、例えば、平編、ゴム編、パール編、スムース編等が挙げられ、具体的には、天竺、鹿の子、スムース等が例示される。
本発明の織編物が織物である場合、織密度については、当該織物の用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、経糸密度が、30〜250本/インチ、好ましくは50〜200本/インチ、更に好ましくは60〜150本/インチ;且つ緯糸が、30〜250本/インチ、好ましくは50〜200本/インチ、更に好ましくは55〜150本/インチが挙げられる。
また、本発明の織編物が編物である場合、編密度については、当該編物の用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、40〜100コース/インチ、好ましくは50〜80コース/インチ;且つ30〜80ウェール/インチ、好ましくは40〜60ウェール/インチが挙げられる。
ポリエステル系繊維を含む織編物は、ポリエステル系繊維を使用して製織編することにより得ることができる。
[ビニル系ポリマーによる表面処理]
本発明の織編物は、構成繊維であるポリエステル系繊維の表面には、ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーがラジカル重合したビニル系ポリマーが付着している。このように、特定構造のビニル系ポリマーでポリエステル系繊維が被覆され、且つ後述する高速液流処理を経て製造されることによって、工業洗濯耐久性に優れた制電性・吸水性、加工ムラの抑制、及び良好な風合いを実現することが可能になる。
二官能ビニル系モノマーに含まれるアルキレンオキサイドを構成するアルキレン基の炭素数については、特に制限されないが、例えば、2〜5個、好ましくは2又は3個、更に好ましくは2個が挙げられる。また、当該アルキレン基の炭素数が3以上の場合、当該アルキレン基は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。
二官能ビニル系モノマーに含まれるアルキレンオキサイドの付加モル数については、特に制限されないが、例えば3〜30個、好ましくは10〜26個、更に好ましくは20〜25個が挙げられる。このようなアルキレンオキサイドの付加モル数を充足することにより、工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性をより一層好適に付与することが可能になる。
ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーとしては、具体的には、ポリオキシアルキレンの両端にアクリル基及び/又はメタクリル基が連結している化合物が挙げられ、より具体的には、ポリオキシアルキレンを含む、ジアクリレート、ジメタクリレート、エポキシジアクリレート、エポキシジメタクリレート等が例示される。
ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーの好適な例として、以下の一般式(1)又は(2)に示す化合物が挙げられる。
Figure 0006503439
一般式(1)において、R1及びR2は同一又は異なって水素原子又はメチル基である。R1及びR2として、好ましくはメチル基が挙げられる。
一般式(1)において、R3は炭素数2〜5のアルキレン基である。R3として、好ましくは炭素数2又は3のアルキレン基(即ち、メチレン基又はプロピレン基)、更に好ましくは炭素数2アルキレン基(即ち、メチレン基)が挙げられる。R3のアルキレン基は、炭素数が3〜5の場合には、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。
一般式(1)において、nは3〜30の整数である。工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性をより一層好適に付与しつつ、加工ムラをより一層効果的に抑制するという観点から、一般式(1)において、nは好ましくは10〜26、特に好ましくは20〜25が挙げられる。
一般式(2)において、R4及びR5は同一又は異なって水素原子又はメチル基である。R1及びR2として、好ましくはメチル基が挙げられる。
一般式(2)において、R6は炭素数2〜5のアルキレン基である。R6として、好ましくは炭素数2又は3のアルキレン基(即ち、メチレン基又はプロピレン基)が挙げられる。R6のアルキレン基は、炭素数が3〜5の場合には、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。
一般式(2)において、nは3〜30の整数である。工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性をより一層好適に付与しつつ、加工ムラをより一層効果的に抑制するという観点から、一般式(2)において、mは好ましくは10〜26、特に好ましくは20〜25が挙げられる。
ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーがラジカル重合したビニル系ポリマーには、当該二官能ビニル系モノマー以外の樹脂が含まれていてもよい。このような樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。メラミン樹脂は、前記ビニル系ポリマーに架橋することによって、工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性をより一層向上させることが可能になる。また、ポリエステル樹脂は、前記ビニル系ポリマーと結合又は混合された状態で存在することにより、工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性をより一層向上させることが可能になる。
メラミン樹脂は、トリアジン環を含有し重合性官能基を少なくとも2個有する化合物が縮合して得られる熱硬化樹脂であればよく、具体的にはトリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等が挙げられる。当該メラミン樹脂としては、例えば、「リケンレジンMM−3C」、「リケンレジンMM−35」(以上、三木理研工業株式会社製)、「ベッカミンM−3」(DIC北日本ポリマ株式会社製)等のトリメチロールメラミン;「リケンレジンMM−601」、「リケンレジンMM−630」(以上、三木理研工業株式会社製)(以上、三木理研工業株式会社製)等のヘキサメチロールメラミン等の市販品を使用することができる。
前記ビニル系ポリマーにメラミン樹脂を含有させる場合、使用する二官能ビニル系モノマー100質量部当たり、メラミン樹脂が1〜100質量部、好ましくは5〜50質量部、更に好ましくは10〜30質量部となる比率で用いればよい。
ポリエステル樹脂は、酸性分、グリコール成分からなるポリエステルセグメントにポリエチレングリコールを共重合せしめた親水性ポリエステルエーテル共重合体であればよい。酸成分としては、例えば、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸等が挙げられる。これらの酸成分は、ポリエステル樹脂中で、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等が挙げられる。これらのグリコール成分は、ポリエステル樹脂中で、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。当該ポリエステル樹脂としては、例えば、「SR−1000」、「SR−1800」、「SR−6200」(以上、高松油脂株式会社製)、「パラソルブPET−2」(大原パラヂウム化学株式会社製)、「ナイスポールPR−99」(日華化学株式会社製)等の市販品を使用することができる。
前記ビニル系ポリマーにポリエステル樹脂を含有させる場合、使用する二官能ビニル系モノマー100質量部当たり、ポリエステル樹脂が1〜100質量部、好ましくは5〜50質量部、更に好ましくは10〜30質量部となる比率で用いればよい。
本発明の織編物において、構成繊維であるポリエステル系繊維の表面に付着させるビニル系ポリマーの付着量については、付与すべき制電性、吸水性、加工ムラの抑制の程度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、構成繊維の総量100質量部当たり、ビニル系ポリマーが0.5〜5質量部、好ましくは0.5〜4質量部、更に好ましくは1〜3質量部が挙げられる。
本発明の織編物において、構成繊維であるポリエステル系繊維の表面に付着させるビニル系ポリマーの膜厚については、付与すべき制電性、吸水性、加工ムラの抑制の程度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、50〜200nm、好ましくは50〜100nmが挙げられる。このような膜厚を充足することにより、工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性をより一層好適に具備させつつ、加工ムラをより効果的に抑制することが可能になる。
ポリエステル系繊維の表面へのビニル系ポリマーの付着は、後述するように、ポリエステル系繊維を含む編物に対して、二官能ビニル系モノマーを付着させてラジカル重合させることにより行われる。そのため、本発明の織編物において、ポリエステル系繊維の表面に対するビニル系ポリマーの付着態様としては、(i)ポリエステル系繊維の表面にビニル系ポリマーが化学的に結合している態様、(ii)ポリエステル系繊維の表面で化学的結合を介することなく前記ビニル系ポリマーが付着している態様の内、いずれか一方の態様又は双方の態様の組みあわせが想定される。
本発明の織編物で、ポリエステル系繊維の表面に二官能ビニル系モノマーを接触させてラジカル重合した後に、高速液流処理によって残存するモノマー及び繊維間に付着した余剰のポリマーを除去することによって得られる。このように、二官能ビニル系モノマーのラジカル重合後に高速液流処理を施すことによって、工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性を付与しつつ、加工ムラを抑制することが可能になる。以下、本発明の織編物において、ポリエステル系繊維の表面にビニル系ポリマーを付着させる方法について詳述する。
ポリエステル系繊維を用いて製織編された織編物を準備する。織編物は、ビニル系ポリマーを付着させる前に、必要に応じて、糊抜き精錬、プレセット、染色等の加工に供されていてもよい。
次いで、準備した織編物に二官能ビニル系モノマーを接触させる。織編物に二官能ビニル系モノマーを接触させるには、織編物に対して二官能ビニル系モノマーを含む処理液を含浸させればよい。
前記処理液としては、二官能ビニル系モノマー、必要に応じてメラミン樹脂及び/又はポリエステル樹脂を分散又は溶解させた水溶液が挙げられる。前記処理液における二官能ビニル系モノマーの濃度については、付着させるビニル系ポリマーの量、ラジカル重合の条件等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.5〜10質量%、好ましくは1〜7質量%が挙げられる。
また、前記処理液には、二官能ビニル系モノマーのラジカル重合を促進させるために、重合開始剤が含まれていてもよい。重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、硝酸セリウムアンモニウム、過酸化水素等の無機系重合開始剤;2,2′−アゾビス(2−アミディノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2′−アゾビス(N,N′−ジメチレンイソブチラミディン)ジハイドロクロライド、2−(カルバモイラゾ)イソブチロニトリル等の有機系ラジカル開始剤等のラジカル開始剤等が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。前記処理液における重合開始剤の濃度については、特に制限されず、使用する重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、二官能ビニル系モノマー100質量部当たり、重合開始剤が0.1〜20質量部、好ましくは0.3〜15質量部、更に好ましくは0.5〜10質量部が挙げられる。
また、前記処理液には、必要に応じて、重合抑制剤が含まれていてもよい。重合抑制剤が含まれている場合には、低温域での重合を抑制することができ、所望の重合度を有するビニル系ポリマーを得ることが容易になる。重合抑制剤としては、例えば、ベンゾキノン、ハイドロキノン、メトキシフェノール等のキノン類;第三ブチルカテコール等のポリオキ化合物;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルヒドロキシルアミン等の有機硫黄化合物;ニトロ化合物;ジエチルヒドロキシルアミン、イソプロピルヒドロキシルアミン等のアミノ化合物等が挙げられる。これらの重合抑制剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。前記処理液における重合抑制剤の濃度については、特に制限されず、使用する重合抑制剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、二官能ビニル系モノマー100質量部当たり、重合抑制剤が0.01〜2質量部、好ましくは0.015〜1.5質量部、更に好ましくは0.02〜1質量部が挙げられる。
また、前記処理液には、重合効率を高めるために、必要に応じて、過酸化物と還元性物質とからなるレドックス系開始剤が含まれていてもよい。レドックス系開始剤に使用される過酸化物としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられ、レドックス系開始剤に使用される還元性物質として、スルホキシル酸ナトリウムとホルマリンとの反応物、ハイドロサルファイト等が挙げられる。
織編物に対して前記処理液を含浸させる量については前記、処理液中の二官能ビニル系モノマーの濃度、付着させるビニル系ポリマーの量、ラジカル重合の条件等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、織編物100質量部当たり、前記処理液が20〜150質量部、好ましくは30〜120質量部、更に好ましくは50〜100質量部が挙げられる。
織編物に対して前記処理液を含浸させる手法については、特に制限されず、パディング法、スプレー法、キスロールコータ法、スリットコータ法等の公知の方法を適宜用いればよい。
織編物に前記処理液を含浸させた後に、二官能ビニル系モノマーをラジカル重合させる。
二官能ビニル系モノマーをラジカル重合させるには、例えば、湿熱処理、吸尽処理、電子線処理、紫外線処理、マイクロ波処理等を行えばよい。ラジカル重合の条件については、採用する処理の種類、処理液中の二官能ビニル系モノマーの濃度、付着させるビニル系ポリマーの量等に応じて適宜選定すればよいが、例えば、湿熱処理の場合であれば、80〜180℃、好ましくは98〜150℃のスチームの存在下で1〜30分間、好ましくは3〜10分間処理すればよい。
二官能ビニル系モノマーのラジカル重合の後に、得られた織編物(ポリエステル系繊維の表面にビニル系ポリマーが付着している織編物)を高速液流処理による洗浄に供する。このように高速液流処理に供することによって、残存するモノマー及び繊維間に付着した余剰のポリマーが高度に除去され、ポリエステル系繊維の表面にビニル系ポリマーの膜が均一に形成された状態になる。これによって、本発明の織編物では、工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性を備えつつ、加工ムラを抑制することが可能になる。また、このような高速液流処理によって、織編物が硬い風合いになるのを抑制し、更に残存するモノマーの溶出によって変色が発現したり、染色堅牢度が低下したりするのを抑制することも可能になる。
本発明において、高速液流処理とは、高速で噴射されている洗浄液に織編物を晒す洗浄処理である。
好適な高速液流処理として、高速で噴射されている洗浄液に織編物を通過させることによって液流洗浄する処理が挙げられる。以下、かかる態様の高速液流処理について詳述する。
高速液流処理は、通過している織編物に対して一方向から洗浄液を噴射してもよいが、液流染色等に使用されているフィラメントノズルやスパンノズル等を使用して、通過している織編物に対して全方向から洗浄液を噴射することが好ましい。このように通過している織編物に対して全方向から洗浄液を噴射することによって、残存するモノマーをより効率的に除去することが可能になる。フィラメントノズルは、ノズルパイプと外輪(ノズルボス)とを組み合わせることによって構成されており、フィラメントノズルの内部空間を通過する織編物に対して、当該ノズルパイプとノズルボスとの間の隙間から洗浄液を噴射できるように構成されている。また、スパンノズルは、中空状の円錐台形の部材を1〜3段に組み合わせることによって構成されており、スパンノズルの内部空間を通過する織編物に対して、当該部材の隙間から洗浄液を噴射できるように構成されている。
また、高速液流処理において、織編物に対して洗浄液を噴射する角度については、高速液流処理の時間、洗浄液の温度等に応じて適宜設定すればよいが、通常、通過している織編物の進行方向に対して10°以上の角度で洗浄液を噴射することが重要になる。このような角度で洗浄液を噴射することによって、織編物に十分な押圧を付与し、残存するモノマー及び繊維間に付着した余剰のポリマーを所望の程度にまで除去して、工業洗濯耐久性に優れた制電性・吸水性、加工ムラの抑制、及び良好な風合いを実現することが可能になる。洗浄液を噴射する角度としては、通過している織編物の進行方向に対して、好ましくは10〜40°、更に好ましくは15〜40°が挙げられる。
高速液流処理において、高速で噴射されている洗浄液に対して、織編物を通過させる速度については、特に制限されないが、例えば、50〜600m/分、好ましくは100〜500m/分、更に好ましくは200〜400m/分が挙げられる。なお、高速液流処理において、織編物は噴射される洗浄液の押圧によって一方向に移動するので、高速で噴射されている洗浄液に織編物を通過させる手段は特段設けなくてもよい。
高速液流処理において、洗浄液の噴射条件については、特に制限されないが、例えば、フィラメントノズルを使用する場合であれば、ノズル径(フィラメントノズルの内部空間の直径;織編物の通過方向に対する垂直方向の断面の直径)が70〜130mm且つ洗浄液を噴射する隙間が2〜6mmであるフィラメントノズルを使用し、洗浄液を噴霧する際のノズル圧が0.15〜0.5Mpa、好ましくは0.15〜0.4Mpa、更に好ましくは0.15〜0.3Mpaに設定し、更に洗浄液の噴射時の流量を800〜1500l/分、好ましくは900〜1400l/分、更に好ましくは1000〜1300l/分となるように設定すればよい。
また、高速液流処理において、噴射されている洗浄液に織編物を通過させる回数については、残存するモノマーを所望の程度にまで除去できる範囲で適宜設定すればよいが、例えば3〜60回、好ましくは5〜50回、更に好ましくは10〜40回が挙げられる。ここで、噴射されている洗浄液に織編物を通過させる回数とは、高速液流処理によって織編物1カ所当たり、噴射されている洗浄液を通過する回数である。
織編物に対する高速液流処理は、織編物の端部同士を繋いだロープ状にして、噴射されている洗浄液に織編物が繰り返し通過するように、ロープ状の織編物を循環させることによって行うことが望ましい。
高速液流処理に使用される洗浄液は、水であればよいが、残存するモノマーの除去効率を高めるために、必要に応じて界面活性剤が添加された水溶液であってもよい。
高速液流処理において、洗浄液の温度については、特に制限されないが、例えば、40〜100℃、好ましくは50〜90℃、更に好ましくは60〜80℃が挙げられる。このような温度の洗浄液を使用することによって、残存するモノマー及び繊維間に付着した余剰のポリマーを効率的に除去することができる。
高速液流処理を行う装置については、特に制限されないが、布帛の染色に使用されている液流染色機を好適に使用することができる。液流染色機は、布帛を滞留させる染色槽と、当該染色槽の両端部を連結している移送管と、移送管の先端に設けられ、処理液(本発明の場合は洗浄液)を噴射する噴射ノズルとを有し、無端ループ状に連結された布帛が、当該染色槽の出口部から移送管に移動し、当該移送管内を処理液と共に移送され、再び染色槽に戻るように循環するように構成されている装置である。噴射ノズルの角度等の条件を前記範囲に調整した液流染色機を使用することによって、本発明における高速液流処理を効率的に行うことができる。液流染色機に設けられる噴射ノズルは、前述の通り、フィラメントノズルやスパンノズル等を使用すればよいが、好ましくはフィラメントノズルである。
斯くして高速液流処理を行った後に、乾燥処理を行うことにより本発明の織編物が得られる。また、乾燥処理後の本発明の織編物には、必要に応じて、皺伸ばし等の加工を施してもよい。
[特性]
本発明の織編物は、工業洗濯耐久性に優れた制電性を有している。本発明の織編物が有する制電性の好適な例として、以下の試験方法で測定される工業洗濯後の摩擦帯電圧が、織編物の全ての方向において、1000V以下、好ましくは50〜800V、更に好ましくは100〜600V、特に好ましくは100〜300Vが挙げられる。
<試験方法>
(工業洗濯の条件)
JIS L 1096:2010に規定のF−2法(中温ワッシャ法)において、洗濯・乾燥操作を「温度60℃、時間300分の条件で1回洗濯した後、湯洗を温度40℃、時間50分と温度40℃、時間100分の条件で2回行った後に、タンブル乾燥機にて温度60℃、30分の条件で乾燥する」条件に変更し、当該洗濯・乾燥操作を合計5サイクル行う。
(摩擦帯電圧の測定条件)
JIS L 1094:2014の「織物及び編物の帯電性試験方法」に規定されているB法(摩擦帯電圧測定法)に準拠し、20℃、40%RH環境下での前記工業洗濯後の織物の摩擦帯電圧を測定する。
[特性]
本発明の織編物は、工業洗濯耐久性に優れた吸水性を有している。本発明の織編物が有する吸水性の好適な例として、以下の試験方法で測定される工業洗濯後の吸水拡散面積が400mm2以上、好ましくは400〜1500mm2、更に好ましくは600〜1000mm2が挙げられる。
<試験方法>
(工業洗濯の条件)
工業洗濯後の摩擦帯電圧の試験方法と同様である。
(吸水拡散面積の測定条件)
前記工業洗濯後の織物から、縦20cm×横20cmの試験片を作成する。試験片に、JIS L−1907:2010の「7.1 吸水速度法」の「7.1.1 滴下法」に規定されている操作を行って、水を40μL滴下する。水を滴下してから60秒後に試験片で水が拡散している領域の面積を測定し、これを吸水拡散面積として求める。
[用途]
本発明の織編物は、工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性を有し、ハリ、コシ、及びふくらみがある風合いも有しているので、制電性や帯電性が要求される衣料の素材として好適に使用される。制電性や帯電性が要求される衣料としては、例えば、医療機器、医薬、電子産業、精密機器、食品加工等の分野で使用される作業着;研究所、医療機関、介護機関等の分野で使用される白衣等が挙げられる。
以下、実施例によって本発明を詳しく説明する。但し、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
1.測定・試験方法
以下の実施例及び比較例における測定及び評価は下記の方法に従って行った。
(1)表面処理剤の付着量の測定
各織物について、以下の式に従って、表面処理剤の付着量(%)を求めた。
表面処理剤の付着量(%)={(W1−W0)/W0}×100
W0:染色後の織物の単位面積当たりの重量
W1:表面処理剤で処理した後に得られた織物の単位面積当たりの重量
(2)繊維表面に付着している表面処理剤の膜厚の測定
制電性織物の繊維表面を電解放射型走査電子顕微鏡(「SU8020」、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)にて20000倍で撮影し、5本の繊維断面の膜厚を測定し、平均値を算出した。
(3)工業洗濯の手法
JIS L 1096:2010に規定のF−2法(中温ワッシャ法)に準じ、温度60℃、時間300分の条件で1回洗濯した後、湯洗を温度40℃、時間50分と温度40℃、時間100分の条件で2回行った後に、タンブル乾燥機にて温度60℃、30分の条件で乾燥した。これらの操作を1サイクルとして、合計5サイクル行った。
(4)制電性の測定
JIS L 1094:2014の「織物及び編物の帯電性試験方法」に規定されているB法(摩擦帯電圧測定法)に準拠し、20℃、40%RH環境下での各織物の摩擦帯電圧を測定した。
(5)吸水拡散性の測定
各織物から、縦20cm×横20cmの試験片を作成した。試験片に、JIS L−1907:2010の「7.1 吸水速度法」の「7.1.1 滴下法」に規定されている操作を行って、水を40μL滴下した。水を滴下してから60秒後に試験片で水が拡散している領域の面積を測定し、これを吸水拡散面積として求めた。
(6)加工ムラの測定
長さ50m、幅1.5mの各織物について、長さ方向の両端部付近且つ巾方向の中心部と両端部の合計6カ所(長さ方向の一方の端部付近で、巾方向の中心部、巾方向の一方の端部と他方の端部、及び長さ方向の他方の端部付近で、巾方向の中心部、巾方向の一方の端部と他方の端部の合計6カ所)を測定点として、分光光度計(「Color−Eye 3100」、X−Rite社製)にて、6カ所の測定点間で最大となる色差ΔEを求めた。
(7)風合い
各織物について、熟練者による官能検査を実施し、下記判定基準に従って、5段階判定した。
1級:非常に硬く作業衣に不適な風合い
2級:やや硬く作業衣にはやや不適な風合い
3級:ハリ、コシはあるがややふくらみ弱いものの作業衣に適した風合い
4級:ハリ、コシ、ふくらみがあり作業衣に適した風合い
5級:非常にハリ、コシ、ふくらみがあり作業衣に非常に適した風合い
2.織物の製造
(実施例1)
経糸及び経糸として総繊度167デシテックス/72フィラメントのポリエステル仮撚糸を用い、経糸密度108本/2.54cm、緯糸密度59本/2.54cmの2/2綾織物を製織した。得られた綾織物を通常の方法で精練し、テンター(株式会社市金工業社製)にて190℃で30秒間プレセットを行った。次いで、液流染色機(「サーキュラーMF」、株式会社日阪製作所製)を用いて、下記染色処方で、温度130℃、時間30分の条件で染色し、目付180g/m2のネービー色の綾織物を得た。
<染色処方>
・分散染料 2%o.m.f
・分散剤 0.5g/l
・酢酸(48%) 0.2cc/l
・水 残部
なお、分散染料は、「Kayalon Navy Blue ECX(300)」(日本化薬株式会社製)を使用した。分散剤は、「ニッカサンソルトSN130」(日華化学株式会社製)を使用した。
次に、この綾織物を下記処方1に示す処理液に浸漬した後、マングルで70質量%の絞り率で絞り、乾燥することなく、Jボックススチーマー(京都機械(株)製)にて1
03℃の飽和蒸気処理を5分間行い、二官能ビニル系モノマーのラジカル重合を行った。
<処方1>
・二官能ビニル系モノマーA 3質量%
・過硫酸アンモニウム 0.15質量%
・水 残部
なお、二官能ビニル系モノマーAは、ポリエチレングリコールジメタクリレート(一般式(1)において、R1及びR2がメチル基、R3がエチレン基、nが23である化合物)(新中村化学工業株式会社製)を使用した。
その後、高速液流処理を行った。高速液流処理は、具体的には、液流染色機(「サーキュラーMF」、株式会社日阪製作所製)を用いて、洗浄液の噴射角度(織物の進行方向に対する洗浄水の噴射角度)が40°であるフィラメントノズル(ノズル径90mm、洗浄液を噴射する隙間4mm)を装着し、洗浄水として水を使用して、ノズル圧0.2Mpa、洗浄液の噴射時の流量1200l/分、布速300m/分、浴比1:10、温度60℃で5分間の条件で、織物(長さ(50m/反×6反=300m)をエンドレスのロープ状にして循環させることにより行った。
次いで、ドラム乾燥機にて120℃、2分間の条件で乾燥を行い、テンターにて160℃、1分間のセットを行い、織物を得た。
(実施例2)
処方1の処理液に代えて、下記処方2の処理液を使用したこと以外は、実施例1と同条件で織物を得た。
<処方2>
・二官能ビニル系モノマーA 3質量%
・過硫酸アンモニウム 0.4質量%
・トリメチロールメラミン80質量%含有水溶液 0.5質量%
・水 残部
なお、前記表面処理剤Aは、前記処方1で使用したものと同様である。また、トリメチロールメラミン80重量%含有水溶液は、「ベッカミンM−3」(三木理研工業株式会社製)を使用した。
(実施例3)
処方1の処理液に代えて、下記処方3の処理液を使用したこと以外は、実施例1と同条件で織物を得た。
<処方3>
・二官能ビニル系モノマーA 3質量%
・過硫酸アンモニウム 0.4質量%
・トリメチロールメラミン80質量%含有水溶液 0.5質量%
・ポリエステル樹脂20%含有分散液 2質量%
・水 残部
なお、前記表面処理剤Aは、前記処方1で使用したものと同様である。また、トリメチロールメラミン80重量%含有水溶液は、前記処方2で使用したものと同様である。ポリエステル樹脂20%含有分散液は、「パラソルブPET−2」(大原パラジウム化学株式会社製)を使用した。
(比較例1)
処方1に示す処理液を用いた処理以降を実施しなかったこと以外は、実施例1と同条件で織物(即ち、染色処理まで行った織物)を得た。
(比較例2)
高速液流処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同条件で織物を得た。
(比較例3)
高速液流処理の代わりに、洗浄液として水を使用してロープ洗浄機(株式会社木村鉄工所社製)にて洗浄処理を行ったこと以外は、実施例1と同条件で織物を得た。
(比較例4)
高速液流処理の代わりに、洗浄液として水を使用して拡布状で洗浄する連続オープンソーパー(山東鐵工所(株)製)にて洗浄処理を行ったこと以外は、実施例1と同条件
で織物を得た。なお、オープンソーパーは、湯洗槽、水洗槽を通しマングルで脱水を行う連続洗浄機で、湯洗槽が5槽、水洗槽が1槽あり、湯洗槽温度が80℃で、処理時間は、生地を投入してから脱水までを5分で行った。
3.結果
結果を表1に示す。この結果、実施例1〜3の織物では、ΔE値の最大値が小さく加工ムラが抑制されており、更に工業洗濯後であっても優れた制電性及び吸水性を有し、更に風合いも良好であった。これに対して、比較例1〜4の織物では、加工ムラ、制電性、及び吸水性の全てを満足できるものはなかった。
以上の結果から、ポリエステル系繊維上でポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーを重合した後に高速液流処理に供することによって、加工ムラを抑制しつつ、工業洗濯耐久性に優れた制電性及び吸水性を備えさせ、更には作業衣に適した風合いを具備させ得ることが明らかとなった。
Figure 0006503439

Claims (9)

  1. ポリエステル系繊維を含み、当該ポリエステル系繊維の表面に、ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーが重合したビニル系ポリマーが付着されている織編物の製造方法であって、
    ポリエステル系繊維を含む織編物のポリエステル系繊維の表面に二官能ビニル系モノマーを接触させてラジカル重合する工程、及び
    前記工程後の織編物に高速液流処理を行う工程を含み、
    前記高速液流処理が、
    織編物を滞留させる染色槽と、
    前記染色槽の両端部を連結している移送管と、
    前記移送管の先端に設けられ、通過している織編物に対して全方向から洗浄液を噴射するフィラメントノズルと、を有する液流染色機を用いて行われ、且つ
    無端ループ状に連結された織編物が、前記染色槽の出口部から移送管に移動し、前記移送管内を洗浄液と共に移送され、再び前記染色槽染色槽に戻るように循環させて行われる、製造方法。
  2. 前記高速液流処理において、通過している織編物の進行方向に対して10°以上の角度で洗浄液をフィラメントノズルから噴射させる、請求項に記載の製造方法。
  3. 前記フィラメントノズルが、ノズル径が70〜130mm、且つ洗浄液を噴射する隙間が2〜6mmであり、且つ
    洗浄液を噴射する際のノズル圧が0.15〜0.3Mpa、洗浄液の噴射時の流量が800〜1500l/分に設定されている、請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 前記ラジカル重合する工程において、織編物の構成繊維の総量100質量部当たり、前記ビニル系ポリマーが0.5〜5質量部含まれるように行われる、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 前記ビニル系ポリマーにメラミン樹脂が含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
  6. 前記ビニル系ポリマーにポリエステル樹脂が含まれる、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
  7. 前記ラジカル重合する工程において、ポリエステル系繊維の表面に付着しているビニル系ポリマーの膜厚が50〜200nmとなるように行われる、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
  8. 製造される織編物が、以下の試験方法で測定される工業洗濯後の摩擦帯電圧が1000V以下である、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
    <試験方法>
    (工業洗濯の条件)
    JIS L 1096:2010に規定のF−2法(中温ワッシャ法)において、洗濯・乾燥操作を「温度60℃、時間300分の条件で1回洗濯した後、湯洗を温度40℃、時間50分と温度40℃、時間100分の条件で2回行った後に、タンブル乾燥機にて温度60℃、30分の条件で乾燥する」条件に変更し、当該洗濯・乾燥操作を合計5サイクル行う。
    (摩擦帯電圧の測定条件)
    JIS L 1094:2014の「織物及び編物の帯電性試験方法」に規定されているB法(摩擦帯電圧測定法)に準拠し、20℃、40%RH環境下での前記工業洗濯後の織物の摩擦帯電圧を測定する。
  9. 製造される織編物が、以下の試験方法で測定される工業洗濯後の吸水拡散面積が400mm 2 以上である、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法
    <試験方法>
    (工業洗濯の条件)
    JIS L 1096:2010に規定のF−2法(中温ワッシャ法)において、洗濯・乾燥操作を「温度60℃、時間300分の条件で1回洗濯した後、湯洗を温度40℃、時間50分と温度40℃、時間100分の条件で2回行った後に、タンブル乾燥機にて温度60℃、30分の条件で乾燥する」条件に変更し、当該洗濯・乾燥操作を合計5サイクル行う。
    (吸水拡散面積の測定条件)
    前記工業洗濯後の織物から、縦20cm×横20cmの試験片を作成する。試験片に、JIS L−1907:2010の「7.1 吸水速度法」の「7.1.1 滴下法」に規定されている操作を行って、水を40μL滴下する。水を滴下してから60秒後に試験片で水が拡散している領域の面積を測定し、これを吸水拡散面積として求める。
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