JP6502131B2 - 潤滑油基剤及びそれを含む水性潤滑油 - Google Patents

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Description

本発明は、潤滑油基剤及びそれを含む水性潤滑油に関するものである。
従来、潤滑油基剤としては、アルコール成分と脂肪酸成分との合成エステルが使用されている。
この合成エステルによる潤滑油基剤としては、例えば、低粘度化と高引火点との両立を図るとともに、低流動点のものを得ることを目的とした、トリメチロールプロパン(TMP)を含むアルコール成分とエナント酸・カプリル酸・カプリン酸などの中鎖脂肪酸を組み合わせたトリエステル(特許文献1)、少なくとも1つのエーテル結合を持つ2価アルコールと1種以上の炭素数6〜10の飽和1価脂肪酸とから得られる総炭素数20〜28のジエステル(特許文献2)が知られている。
また、一分子中に2種類以上の異なるアシル基をもつ分子(ヘテロエステル)のモル分率を特定量以上とした多価アルコールの脂肪酸エステルからなる潤滑油基剤で、多価アルコールと、脂肪酸には炭素数6〜10の飽和直鎖アシル基と炭素数12の飽和直鎖アシル基および/または炭素数18の直鎖不飽和アシル基を組み合わせることで、低温流動性と粘度指数の向上を図る技術(特許文献3)が知られている。
特開2012−62361号公報 特開2006−193723号公報 特開2011−137089号公報
しかしながら、一般に低粘度と高引火点は相反する物性で、これらを両立することは難しい。また特許文献1、2に記載の中鎖脂肪酸のエステル化物では粘度指数や潤滑性が劣る傾向があり、高潤滑性を必要とした用途での使用には問題があった。特許文献3の実施例では多価アルコールとしてTMP、脂肪酸としてカプリル酸とオレイン酸あるいはラウリン酸との組合せのみであり、このTMP脂肪酸トリエステルは、低粘度、高引火点、高潤滑性の全てを同時に満たすには不十分であった。また、潤滑油基剤が各種添加剤と高い相溶性を示すと、各種添加剤との組み合わせや配合量を増やすことができ、そして水性潤滑油として使用する際、より少ない界面活性剤量で安定性の高い乳化物が得られると、粘度の調整、高い潤滑性を示すなど、優れた機能を維持し、幅広い用途に用いることができることから、こうした特性の改良も望まれていたが、特許文献3には各種添加剤との相溶性、水性潤滑油として使用する際の乳化安定性については何ら言及されていなかった。
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、低粘度でありながら高引火点、高潤滑性を有するとともに、粘度指数も高く、かつ各種添加剤との相溶性、水性潤滑油として使用する際の乳化安定性が良好な潤滑油基剤とそれを用いた水性潤滑油を提供することを課題としている。
上記の課題を解決するために、本発明の潤滑油基剤は、トリエチレングリコールと脂肪酸とを反応させて得られるジエステルを含む潤滑油基剤であって、
前記ジエステルの構成脂肪酸にはカプリル酸、カプリン酸、炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸を含み、その合計モル分率が90%以上、
前記カプリル酸と前記カプリン酸の合計と、前記炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸とのモル比((カプリル酸+カプリン酸)/炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸)が0.37〜4.0、
前記ジエステル中、構成脂肪酸が前記カプリル酸あるいは前記カプリン酸と、前記炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸とであるヘテロエステルの含有率が30質量%以上であることを特徴とする。
さらに、本発明の水性潤滑油は、前記潤滑油基剤を含むことを特徴とする。
本発明の潤滑油基剤は、低粘度且つ高引火点であり、さらに、高い潤滑性を有し、粘度指数も高い。また、各種添加剤と良好な相溶性を示すため、各種添加剤との組み合わせや配合量を増やすことができる。水性潤滑油として使用する際、より少ない界面活性剤量で安定性の高い乳化物が得られるため、粘度の調整、高い潤滑性を示すなど、優れた機能を維持し、幅広い用途に用いることができる。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明においてトリエチレングリコールと反応させる脂肪酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸の炭素数8〜18の飽和脂肪酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の炭素数14〜18の直鎖不飽和脂肪酸、及びこれらのメチルエステルを挙げることができる。
トリエチレングリコールと脂肪酸とを反応させて得られるジエステルにおいて、ジエステルの構成脂肪酸にはカプリル酸、カプリン酸、炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸を含み、その合計モル分率は90%以上、好ましくは95%以上である。合計モル分率が90%未満では粘度、引火点、潤滑性が不十分となる虞があるとともに、各種添加剤との相溶性、水性潤滑油として使用する際の乳化安定性が不十分となる虞がある。カプリル酸とカプリン酸の合計と、炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸とのモル比((カプリル酸+カプリン酸)/炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸)は0.37〜4.0、好ましくは1.0〜4.0である。このモル比が0.37未満であると粘度が高くなる虞があり、4.0超であると引火点が低くなる虞がある。また、このモル比が上記範囲外であると、各種添加剤との相溶性、水性潤滑油として使用する際の乳化安定性が不十分となる虞がある。
カプリル酸とカプリン酸とのモル比(カプリル酸/カプリン酸)は、1/9〜9/1であることが好ましく、3/7〜7/3がより好ましい。この範囲であると幅広い荷重域で高い潤滑性を示し、各種添加剤との相溶性に優れると同時に、水性潤滑油として使用する際、より少ない界面活性剤量であっても安定性の高い乳化物が得られるため高い潤滑性を示すことができる。
本発明では、ジエステルのエステル結合におけるアシル基炭素数が同じもの(ジエステルの構成脂肪酸が1種)を「ホモエステル」、2種類の異なる炭素数のアシル基をもつもの(ジエステルの構成脂肪酸が異なる2種)を「ヘテロエステル」とするとき、構成脂肪酸がカプリル酸あるいはカプリン酸と、炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸とであるヘテロエステルの少なくとも一方、好ましくは双方を含有し、その含有率が30質量%以上、好ましくは40質量%以上である。前記ヘテロエステルの含有率が30質量%未満であると、粘度、引火点、潤滑性が不十分となる虞があるとともに、特に各種添加剤との相溶性、水性潤滑油として使用する際の乳化安定性が不十分となる虞がある。
本発明の潤滑油基剤は、トリエチレングリコールと脂肪酸あるいは脂肪酸メチルエステルなどの脂肪酸エステルを原料として、エステル化若しくはエステル交換反応を行うことにより製造することができる。エステル化、エステル交換反応は目的に応じて公知の方法を適宜選択して行うことができる。
トリエチレングリコールと各種脂肪酸あるいは各種脂肪酸エステルとをすべて添加し反応させると、各種ホモエステル、各種ヘテロエステルの混合物が生成する。前記へテロエステルの含有割合を所定の比率とするには、エステル化、エステル交換反応に使用する原料脂肪酸あるいは脂肪酸エステルの成分組成や触媒、反応温度などの条件を調整したり、特定の脂肪酸あるいは脂肪酸エステルを用い、まず特定アシル基のトリエチレングリコール脂肪酸モノエステルとした後、他の脂肪酸あるいは脂肪酸エステルによりジエステルとすることで行うことができる。または各種ホモエステル、各種ヘテロエステルを個別に製造して前記ヘテロエステルの含有量が所定の割合になるように、これらのジエステルを混合し調整することで行うこともできる。
本発明の潤滑油基剤は、ジエステルを上記のような構成とすることによって、40℃における動粘度を5〜25mm/sとすることができ、さらには10〜25mm/sとすることができる。動粘度が5mm/s未満であると潤滑性能が低い虞があり、25mm/s超であると使用時の動力損失が大きくなる虞がある。因みに5〜25mm/sの動粘度は、工業用潤滑油−ISO粘度分類(JIS K2001)の工業用潤滑油ISO粘度グレード番号で概ねISO VG5〜ISO VG22の動粘度範囲に相当する。
本発明の潤滑油基剤は、粘度指数を180以上とすることができ、さらには185とすることができる。粘度指数が180未満であると、高温で使用したときの潤滑性能低下の虞がある。
本発明の潤滑油基剤は、引火点を250℃以上とすることができる。消防法で引火点が250℃以上の潤滑油は、危険物第四類の指定から外れ可燃性液体類になり、貯蔵、取り扱いにおける規制が緩和され、例えば、設置許可や危険物保安監督者任命の対象外となり、空地幅、消火設備、警報設備等の基準が緩くなる。
本発明の潤滑油基剤は、各種配合成分と高い相溶性を示すため、他の潤滑油、水、各種添加剤等との組み合わせや配合量を増やすことができる。換言すれば、本発明の潤滑油基剤は、配合物とした際の安定性維持に必要な界面活性剤量が少なくて済むため、粘度を調整でき、高い潤滑性を示すため好適である。
本発明の水性潤滑油は、上記潤滑油基剤を含有する。本発明の水性潤滑油は、例えば、金属の種類や加工の種類の如何を問わず全ての金属加工、具体的には鉄鋼材を始めとする鉄基金属材やアルミニウム、チタンなどの非鉄金属やその合金などを、伸線、引抜、プレス、圧延、切削、研削、研磨、塑性加工する際の潤滑油として、あるいは油汚染防止、冷却、不燃化を要求される潤滑油として幅広く有効に利用できる。
本発明の水性潤滑油は水溶性状であり、例えば、そのまま金属加工に使用できる。また、本発明の水性潤滑油を原液とし、さらに水等の希釈剤で希釈して得られるクーラント(冷却剤)を金属加工に使用することもできる。
本発明の水性潤滑油には、任意に水が配合される。水の配合量については特に限定されるものではなく、例えば、金属加工油剤として利用する際には、水性潤滑油全体を100質量%とした場合、0〜40質量%、より好ましくは0〜20質量%である。例えば、金属切削油には、大別していわゆるA1種:エマルション、A2種:ソリュブル、A3種:ソリューションの3種類があり、これらに含まれる水分量は、好ましくはエマルションが0〜15質量%、ソリュブルが5〜40質量%、ソリューションが20〜60質量%となる。
本発明の水性潤滑油を希釈剤でさらに希釈して利用する場合、希釈倍率は、水性潤滑油の濃度及び水性潤滑油に求められる性能に応じて適宜調整すればよい。希釈倍率は被加工材や加工条件等にも影響されるが、通常は1.5〜100倍程度の範囲で加工特性が最も優れるように適宜設定すればよい。
本発明の水性潤滑油を原液とし、さらに水等の希釈剤で希釈してクーラント(冷却剤)を調製することができる。希釈倍率は、原液とする水性潤滑油の濃度及び金属加工時に求められる性能等に応じて適宜調整すればよく、通常1.5〜100倍に希釈してクーラントとする。
本発明の水性潤滑油は、必要に応じて他の潤滑油、界面活性剤、酸化防止剤、防錆剤、腐蝕防止剤、極圧剤、摩耗防止剤、消泡剤、抗乳化剤、油性剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤等の各種添加剤を適宜配合して用いることができる。
他の潤滑油としては、潤滑油として使用されているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、炭化水素油、鉱物油、合成エステル、動植物油脂等が挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤が挙げられる。
アニオン界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、アルキルエーテルリン酸塩、アルキルエーテル酢酸塩等、両性界面活性剤としては、アミノ酢酸ベタイン、アミドプロピルベタイン、イミダゾリニウムベタイン等、非イオン界面活性剤としては、アルキルグルコシド、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルアミンオキサイド、ポリオキシアルキレン脂肪酸多価アルコールエステル、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油、脂肪酸多価アルコールエステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等が挙げられる。これらの界面活性剤は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
酸化防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系化合物等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
防錆剤や腐蝕防止剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、中性アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属フェネート、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属サリチレート、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。これらの防錆剤は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
極圧剤としては、例えば、硫化油、硫化エステル、硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィドなどの硫黄系化合物、リン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、アルキルハイドロゲンホスファイト、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩などのリン系化合物等が挙げられる。これらの極圧剤は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
摩耗防止剤としては、例えば、ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)、硫化オキシジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、硫化オキシジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)等が挙げられる。これらの摩耗防止剤は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリシレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール、アルミニウムステアレート、オレイン酸カリウム、N−ジアルキル−アリルアミンニトロアミノアルカノール、イソアミルオクチルホスフェートの芳香族アミン塩、アルキルアルキレンジホスフェート、チオエーテルの金属誘導体、ジスルフィドの金属誘導体、脂肪族炭化水素のフッ素化合物、トリエチルシラン、ジクロロシラン、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテルスルフィド、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。これらの消泡剤は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミド、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの抗乳化剤は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
油性剤としては、例えば、アルコール類、脂肪酸類及び脂肪酸エステル類等が挙げられる。
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)等が挙げられる。
流動点降下剤としては、例えば、ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリスチレン−(メタ)アクリレート、ポリビニルアセテート、ポリエチレン−酢酸ビニル等が挙げられる。
清浄分散剤としては、例えば、金属スルホネート、金属サリチレート、金属フィネート、アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸エステル等が挙げられる。
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(潤滑油基剤の調製)
実施例1〜7、9、比較例1〜6
2リットルの4つ口フラスコに、撹拌機、温度計、窒素ガス吹き込み管及び冷却管を取り付けた。トリエチレングリコール(TEG)を300g、脂肪酸を表1、2に示すモル分率で添加した。なお、TEGの水酸基1当量に対して脂肪酸のカルボキシル基は1.05当量になるように設定した。
次に、フラスコ内に、窒素ガスを吹き込みながら200℃で5時間、更に240℃に昇温し8時間反応させ、留出する水を除去した。反応終了はガスクロマトグラフィーによりトリエチレングリコール脂肪酸モノエステルが消失していることで確認した。反応終了後、過剰の脂肪酸を除去するために、水酸化カリウム水溶液を添加して水洗後、120℃、5kPaの条件下で2時間脱水した。その後吸着剤(協和化学工業社製、商品名:キョーワード500SH)で不純物を吸着、ろ過を行い、ジエステルを得た。
実施例8
2リットルの4つ口フラスコに、撹拌機、温度計、窒素ガス吹き込み管及び冷却管を取り付けた。トリエチレングリコール(TEG)を300g、脂肪酸として表1に示すモル分率のカプリル酸、カプリン酸を添加した。なお、TEGの水酸基1当量に対して脂肪酸のカルボキシル基は0.50当量になるように設定した。
次に、フラスコ内に、窒素ガスを吹き込みながら150℃で5時間反応させ、留出する水を除去した。反応終了はガスクロマトグラフィーによりトリエチレングリコール脂肪酸モノエステルが95%以上生成していることで確認した。
反応終了後、表1に示すモル分率の残りの脂肪酸を添加した。なお、TEGの水酸基1当量に対して脂肪酸のカルボキシル基は0.55当量になるように設定した。
次に、フラスコ内に、窒素ガスを吹き込みながら200℃で3時間、240℃で8時間反応させ、留出する水を除去した。他の条件は実施例1などと同様の方法でジエステルを得た。
比較例7
実施例1などの方法に準じて、各種トリエチレングリコール脂肪酸ホモエステルを得て、表2に示す脂肪酸成分のモル分率となるように混合した。
比較例8
実施例8のジエステル30質量%、比較例7のジエステル70質量%を混合して得た。
比較例9〜11
アルコール成分として、プロピレングリコール(PG)、ネオペンチルグリコール(NPG)、トリメチロールプロパン(TMP)を用い、実施例1などと同様の方法で相当する完全(ジあるいはトリ)エステルを得た。
得られたエステル(潤滑油基剤)について、構成脂肪酸がカプリル酸あるいはカプリン酸と、炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸とであるヘテロエステルの含有率をガスクロマトグラフィーによる分析を行い求めた。以下の分析装置、条件で行い結果を表1、2に示した。
分析装置:GC−17A(島津製作所製)
分析条件:
カラム:J&W DB−1HT
オーブン温度:100〜380℃、14℃/min
気化室温度:350℃
検出器温度:350℃(FID)
キャリアガス:ヘリウム
実施例及び比較例で得られたエステル(潤滑油基剤)について以下の評価を行った。結果を表1、2に示す。
<40℃における動粘度および粘度指数>
JIS K2283により、40℃及び100℃における動粘度(mm/s)を測定し、粘度指数を算出した。
<引火点>
JIS K2265−4(クリーブランド開放式)により引火点(℃)を測定した。
<動摩擦係数>
振動摩擦摩耗試験機(SRV試験機、オプチモール社製)を用いて、試験温度50℃で、以下のようにして、摩耗試験を行い、動摩擦係数を求めた。
静止した平面状の鋼ディスク(材質SUJ―2相当)上に、評価試料(潤滑油)をスポイトで数滴(0.1〜0.3ml)滴下して潤滑油の膜(油膜)を作成し、この油膜の上に直径10mmの鋼球(材質SUJ―2相当)を50、100、200Nの荷重で載せた(鋼球と鋼ディスクとが油膜を介して点接触するように載せた)。引き続き、荷重を維持したままで、鋼球を鋼ディスク上で10分間、往復運動(振幅:2mm、振動数:50Hz)させ(鋼球は回転させない)、10分間、鋼球及び鋼ディスク間の摩擦係数を連続測定し、10分後の各荷重での平均値を動摩擦係数とした。
<相溶性>
各種添加剤10種類との相溶性を確認し、相溶性を示した添加剤の数を表1、2にパーセント表示で示した。
各種添加剤としては、脂肪酸(オレイン酸)、アルコール(オクタノール)、オレイン酸メチルエステル、硫化油、硫化メチルエステル、酸性リン酸エステルアミン塩、硫化オレフィン、ジチオリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛、リン酸エステルを用い、エステル100質量%に対して各種添加剤5質量%を25℃で混合し、均一に溶解するかを確認した。
<界面活性剤必要量>
以下の成分配合の水性潤滑油調製時に必要な界面活性剤量(質量%)を確認した。
各種成分を25℃で混合し、攪拌しながらポリオキシエチレン硬化ひまし油を添加し均一透明になった量を求めた。
潤滑油基剤(エステル) 70質量部
脂肪酸 10質量部
硫化油 5質量部
石油スルホン酸塩 3質量部
フェノール錫 1質量部
シリコーン 1質量部
水 10質量部
これらの結果、実施例1〜9の潤滑油基剤は、40℃における動粘度が25mm2/s以下、粘度指数が180以上、引火点が250℃以上であった。また、実施例1〜9の潤滑油基剤は、動摩擦係数が低く潤滑性が高いとともに、各種添加剤との相溶性に優れ、各種成分を配合して安定な乳化物を得るための界面活性剤量も少なくて済むことが認められた。
一方、ジエステルの構成脂肪酸のモル比が範囲外である比較例1〜2は、40℃における動粘度、粘度指数、引火点の全てを同時に満たさず、必須脂肪酸であるカプリル酸、カプリン酸、オレイン酸3種の合計モル分率が範囲外である比較例3、ヘテロエステルの含有率が低い比較例7〜8及び本発明において必須脂肪酸であるカプリル酸、カプリン酸、オレイン酸3種のうち、3種全てを併用していない比較例4〜6は、潤滑性が劣り、各種添加剤との相溶性、水性潤滑油として使用する際の乳化安定性が不十分であった。
また、アルコール成分が異なる比較例9〜11は、40℃における動粘度、粘度指数、引火点の全てを同時に満たさず、各種添加剤との相溶性、水性潤滑油として使用する際の乳化安定性も不十分であった。
<水性潤滑油の切削加工試験>
以下の成分配合の水性潤滑油の調製し、切削加工(転造タップ加工)試験をした。
1.水性潤滑油成分配合
潤滑油基剤(エステル) 70質量部
脂肪酸 10質量部
硫化油 5質量部
石油スルホン酸塩 3質量部
フェノール錫 1質量部
シリコーン 1質量部
水 10質量部
2.切削加工条件
使用機器:Microtap社製megatapII
被削材: S50C
下穴:φ7.45(リーマ下穴加工済)
工具: オーエスジー(OSG社製)M8転造タップ(材質:HSSE)
回転数:200rpm
加工深さ: 10mm
希釈倍率: 水/水性潤滑油=10/1(=切削油)
3.評価基準
上記条件にてタップ加工を行い、加工時に受ける切削抵抗(トルク[N・m])を測定し、以下の基準で評価した。結果を表1、2に示す。
評価基準
◎:切削トルク7N・m未満
○:切削トルク7N・m以上8N・m未満
△:切削トルク8N・m以上9N・m未満
×:切削トルク9N・m以上
この結果、本発明の水性潤滑油は、切削加工中、特に問題となるような状況はなく、良好な加工性を有することが認められた。
Figure 0006502131
Figure 0006502131

Claims (2)

  1. トリエチレングリコールと脂肪酸とを反応させて得られるジエステルを含む潤滑油基剤であって、
    前記ジエステルの構成脂肪酸にはカプリル酸、カプリン酸、炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸を含み、その合計モル分率が90%以上、
    前記カプリル酸と前記カプリン酸の合計と、前記炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸とのモル比((カプリル酸+カプリン酸)/炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸)が0.37〜4.0、
    前記ジエステル中、構成脂肪酸が前記カプリル酸あるいは前記カプリン酸と、前記炭素数18の直鎖不飽和脂肪酸とであるヘテロエステルの含有率が30質量%以上である、潤滑油基剤。
  2. 請求項1に記載の潤滑油基剤を含む、水性潤滑油。
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