以下、本発明に係る張力付与装置について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
図1において、ステータ10は周方向に並べられた複数の分割コア部12を備える。このようなステータ10の各分割コア部12の製造工程ではワイヤ挿入装置14(図4参照)が用いられる。本実施形態に係る張力付与装置86(図5〜図7参照)は、ワイヤ挿入装置14に設けられる。図1において、ステータ10は、その内部に設けられる図示しないロータと組み合わされて回転電機を構成し、例えば、電動機又は発電機として用いられる。
ステータ10は、いわゆる3相Y型結線の突極巻のステータであり、図1に示すように、中空状のホルダ16と、3相の入力端子U、V、Wと、中性点を形成する中性端子Nと、ホルダ16の内周面に沿って複数個(図1では18個)の分割コア部12を環状に配置して形成されるステータコア18とを備える。
図1に示すステータコア18は、コイル20を有する分割コア部12を18個含む。これらのコイル20は、U相(U1相〜U6相)、V相(V1相〜V6相)及びW相(W1相〜W6相)をそれぞれ構成しており、図1の時計回りに、U1、V1、W1、U2、…、U6、V6、W6の順番に並ぶように配置される。
図2に示すように、分割コア部12は、プレスにより打ち抜いた略T字状の金属板(鋼板)22を複数枚積層して構成される分割鉄心24と、分割鉄心24を電気的に絶縁するインシュレータ(ワーク)26と、インシュレータ26を介して分割鉄心24に巻回される導線であるワイヤ28(コイル素線)により構成されるコイル20とを有する。ワイヤ28は、断面長方形状の平角線である。
分割鉄心24は、矢印B1方向(ステータコア18の外側に向かう方向)側において矢印C方向(ステータコア18の周方向)に沿って延在するヨーク部24aと、ヨーク部24aから矢印B2方向(ステータコア18の内側に向かう方向)側に向かって延在する磁極部24bとから構成される。
インシュレータ26は、可撓性を有する樹脂等の電気絶縁材料で構成されている。インシュレータ26は、ワイヤ28の中間部(始端部28aと終端部28bの間を構成する部分)が巻回される中空状の巻回部30と、巻回部30から矢印B1方向に突出する引き回し部32とを有する。
引き回し部32は、ワイヤ28の端部(始端部28a又は終端部28b)をステータコア18の周方向に沿って入力端子U、V、W及び中性端子Nの箇所にまで引き回すための部分である。引き回し部32は、複数の導線保持溝34a〜34dが形成された導線収納部34と、導線収納部34の背後(矢印B2方向の背面における矢印C1方向側の箇所)に形成された終端固定部36とを有する。
複数の導線保持溝34a〜34dは、巻回部30に巻回されたワイヤ28の始端部28a又は終端部28bを矢印C方向に収納できるように構成されている。導線保持溝34a〜34dの各々は、平角線のワイヤ28の始端部28a又は終端部28bを収納可能な幅(矢印A方向に沿った長さ)及び深さ(矢印B方向に沿った奥行き)を有する溝であり、矢印C方向に沿って延在し、矢印A方向に所定間隔で設けられている。導線収納部34では、ワイヤ28の始端部28a又は終端部28bについて、平角線の長辺側を矢印A方向に沿わせた状態で矢印C方向に引き回し、各導線保持溝34a〜34dに収納する。
最も深い導線保持溝34aには、全ての相から合計で18本のワイヤ28の終端部28bが引き回されて収納される。他の導線保持溝34b〜34dは、導線保持溝34aよりも浅い深さを有する。導線保持溝34bには、U1相〜U6相の合計で6本のワイヤ28の始端部28aが引き回されて収納される。導線保持溝34cには、V1相〜V6相の合計で6本のワイヤ28の始端部28aが引き回されて収納される。導線保持溝34dには、W1相〜W6相の合計で6本のワイヤ28の始端部28aが引き回されて収納される。
U1相〜U6相のコイル20を構成する各ワイヤ28の始端部28aは入力端子Uに接続され、V1相〜V6相のコイル20を構成する各ワイヤ28の始端部28aは入力端子Vに接続され、W1相〜W6相のコイル20を構成する各ワイヤ28の始端部28aは入力端子Wに接続され、全ての相(U1〜U6相、V1〜V6相、W1〜W6相)のコイル20を構成する各ワイヤ28の終端部28bは中性端子Nに接続される。
終端固定部36は、巻回部30に巻回されたワイヤ28の終端部28bを固定するための部分である。終端固定部36は、矢印C方向に延在する第1溝部40と矢印B方向に延在する第2溝部42とによって構成される、平面視で略L字状の溝部38(図3参照)を有する。第1溝部40の幅(矢印B方向に沿った長さ)は、ワイヤ28の平角状断面における短辺の長さと略同一の長さに設定されている。第2溝部42は、導線保持溝34aと連通している。
このように構成される分割コア部12については、図3に示す第1プーリ46a及び第2プーリ46bと、図4に示すワイヤ挿入装置14とを用いることにより、インシュレータ26の溝部(導線保持溝34a〜34d及び溝部38)にワイヤ28の始端部28a及び終端部28bを挿入する工程(ワイヤ挿入工程)を実施することができる。ワイヤ挿入工程では、ワイヤ28の終端部28bを終端固定部36に仮固定した後に該終端部28bを導線保持溝34aに引き回して収納し、一方で、ワイヤ28の始端部28aを導線保持溝34b〜34dのいずれかに引き回して収納する。
ワイヤ挿入工程の前工程として、図3に示すように、分割コア部12の巻回部30に巻回されたコイル20から延出したワイヤ28の一方の端部である始端部28aを、仮巻プーリとしての第1プーリ46aに巻き取るとともに、コイル20から延出したワイヤ28の他方の端部である終端部28bを、もう一つの仮巻プーリとしての第2プーリ46bに巻き取る。
第1プーリ46aは、ワイヤ28の始端部28aを巻き取る溝部48を有する。第2プーリ46bは、ワイヤ28の終端部28bを巻き取る溝部50を有する。なお、第1プーリ46a及び第2プーリ46bでは、それぞれ、ワイヤ28の平角状断面の長辺が溝部の底面に沿うように該ワイヤ28の始端部28a及び終端部28bを巻き取っている。
図4に示すワイヤ挿入装置14は、第1プーリ46aに巻回されたワイヤ28の始端部28aを導線保持溝34b〜34dのいずれかに引き回して収納させるとともに、第2プーリ46bに巻回されたワイヤ28の終端部28bを終端固定部36の溝部38に挿入して終端固定部36に仮固定し、導線保持溝34aに引き回して収納させることが可能な装置である。
ワイヤ挿入装置14は、第1プーリ46aの回転及び移動を行わせるための第1プーリ駆動機構50aと、第2プーリ46bの回転及び移動を行わせるための第2プーリ駆動機構50bとを有する。ワイヤ挿入装置14は、分割コア部12の位置を基準として水平方向に略対称に構成されている。なお、分割コア部12は、図示しないステージ等に固定されている。
図4に示すように、第1プーリ駆動機構50aは、昇降機構52aと、昇降機構52aに支持された旋回機構54aと、旋回機構54aに支持されたスライド機構56aと、スライド機構56aに支持されたロール機構58aと、ロール機構58aに支持されたプーリ保持部60aとを備える。
昇降機構52aは、駆動源62(例えば、シリンダ装置等)により昇降軸64を上下方向に進退させることにより、昇降軸64の上端に固定された支持部66を昇降させる。旋回機構54aは、昇降機構52aの支持部66に固定されている。旋回機構54aは、支持部66に固定された第1アーム68と、第1アーム68の一端に設けられた第1回転駆動源70と、第1アーム68の他端に設けられベルト等の動力伝達部72を介して鉛直軸線を中心に回転駆動される軸部材74とを有する。
スライド機構56aは、軸部材74から水平方向に延出した第2アーム76と、第2アーム76に内蔵されたリニアアクチュエータ78とを有する。旋回機構54aの駆動作用下に、第2アーム76は、軸部材74を中心軸として水平方向に回動する。
ロール機構58aは、水平方向の軸線を中心に回転可能な軸部80を有し、支持部81を介してスライド機構56aに支持されている。支持部81の下端部は、リニアアクチュエータ78の可動部であるスライダに固定されている。従って、ロール機構58aは、リニアアクチュエータ78の駆動作用下に、第2アーム76に沿って水平方向に移動可能である。
プーリ保持部60aは、ロール機構58aの軸部80に固定されており、第1プーリ46aが着脱可能であるとともに、装着された第1プーリ46aを回転自在に支持する。
上記のように構成された第1プーリ駆動機構50aは、昇降機構52a、旋回機構54a及びスライド機構56aの駆動作用下に、プーリ保持部60aに保持された第1プーリ46aを三次元的に移動させ、これにより、分割コア部12に対する第1プーリ46aの相対位置を変化させることができる。
また、ロール機構58aの駆動作用下に、プーリ保持部60a及びこれに保持された第1プーリ46aは、軸部80を中心として回転する。従って、第1プーリ駆動機構50aは、ロール機構58aの軸部80を中心に第1プーリ46aを回転(ロール動作)させることにより、ワイヤ28の始端部28aのうち、インシュレータ26と第1プーリ46aとの間の部分を捩じることができる。
図5に示すように、プーリ保持部60aは、ロール機構58aの軸部80(図4参照)に固定されたハウジングを構成する保持部本体82と、保持部本体82に回転可能に支持されるとともに第1プーリ46aが着脱可能な回転軸部84と、ワイヤ28における第1プーリ46aとインシュレータ26との間の部分に張力を付与する張力付与装置86とを有する。以下の説明において、第1プーリ46aと第2プーリ46bとを特に区別しない場合には、単に「プーリ46」と呼ぶこととする。
回転軸部84は、軸受88を介して、ロール機構58aの軸部80の回転軸線と直交する軸線aを中心に、保持部本体82に回転可能に支持されている。回転軸部84は、中空筒状の軸胴体部90と、軸胴体部90に揺動可能に支持された複数のアーム92と、軸線aに沿って軸胴体部90に対して変位可能であり変位に伴ってアーム92を開閉動作させる作動軸94と、作動軸94に連結された駆動軸96とを有する。
複数のアーム92は、軸線aを中心とする周方向に所定間隔をおいて配置されている。なお、アーム92の個数は、例えば、2〜5個である。各アーム92は、アーム92の長手方向の中間部に設けられた支持軸93を中心に揺動可能である。
各アーム92の一端部(図5で上端部)には、プーリ46の軸部47に係合可能な係合部材98が設けられている。係合部材98の内側部(軸線a側の部位)には凹凸部99(歯部)が刻設されている。一方、プーリ46の軸部47の外周部には、係合部材98の凹凸部99に噛合い可能な凹凸部49(歯部。図3も参照)が設けられている。
プーリ46の軸部47が複数のアーム92の内側に配置され、複数のアーム92が閉じると、係合部材98とプーリ46の外周部とが噛み合う。そして、係合部材98とプーリ46の軸部47の外周部との噛み合いにより、回転軸部84とプーリ46との相対回転が阻止される。また、複数のアーム92が閉じた状態では、アーム92の上端部に設けられた内方に突出する係止突起95により、プーリ46が回転軸部84から離脱することが阻止される。
各アーム92の他端部(図5で下端部)には、ローラ100が回転可能に設けられている。また、軸胴体部90の一部を構成する筒状部材102と各アーム92との間には、アーム92を開く方向にアーム92を弾性的に付勢するバネ104が配置されている。
複数のアーム92の開閉動作は、作動軸94によって駆動される。本実施形態において、作動軸94は、軸胴体部90の内側に軸方向に沿って摺動可能に配置されている。作動軸94は、一端が開口した中空状に形成されるとともに、軸方向の移動に伴ってアーム92のローラ100を外側方向(軸線aから離れる方向)に押すカム部106を有する。カム部106の外面は、作動軸94の開口部側に向かうに従って外径が拡大するテーパ状に形成されている。
また、作動軸94は、カム部106の先端側に設けられたストレート部108と、ストレート部108の先端側に設けられた嵌合部110とを有する。ストレート部108は、カム部106よりも小径であり、軸方向に外径が一定である。嵌合部110は、ストレート部108よりも小径であり、プーリ46の孔部51に嵌合可能に構成されている。
駆動軸96は、上記のように構成された作動軸94に挿入されるとともに、その先端部にて作動軸94の先端部に連結固定されている。従って、駆動軸96及び作動軸94は、軸線aに沿って一体的に動作可能である。駆動軸96の基端側は、軸胴体部90の端壁91を貫通しており、保持部本体82の外部に露出している。また、駆動軸96と軸胴体部90との間であって作動軸94の内側には、軸胴体部90を先端方向に弾性的に付勢するバネ112が配置されている。
作動軸94が図6に示す後退位置に位置しているときは、作動軸94のカム部106はローラ100から退避しており、且つバネ104の弾性付勢力によりアーム92が開く方向に付勢されているため、複数のアーム92は開いた状態となっている。従って、回転軸部84に対してプーリ46を着脱することができる。なお、作動軸94は、駆動軸96を介してバネ112で先端方向に常時付勢されている。このため、プーリ保持部60aの外部には、図示しない適宜の駆動装置(例えば、シリンダ装置等)が設けられており、当該駆動装置を用いて、バネ112の弾性付勢力に抗して作動軸94を後退位置へと移動させる。
一方、作動軸94が、上記の後退位置から先端方向に移動していくと、作動軸94のカム部106によってローラ100が外側に変位させられる一方、バネ104の弾性付勢力に抗してアーム92の係合部材98は軸線a側へと変位させられる。従って、図5のように作動軸94が進出位置に移動することに伴って、複数のアーム92は閉じた状態となる。なお、作動軸94は、駆動軸96を介してバネ112で先端方向に常時付勢されているため、上記の駆動装置の駆動力を用いることなく、進出位置へと移動することができる。
次に、張力付与装置86の構成について具体的に説明する。
張力付与装置86は、プーリ46の回転と同期して動作する伝達機構114と、伝達機構114を弾性的に付勢する弾性部材116とを備え、弾性部材116の弾性付勢力に基づいてプーリ46に回転方向の力を作用させることにより、ワイヤ28(インシュレータ26とプーリ46との間の部分)に張力を付与するように構成されている。
図5及び図6に示すように、本実施形態において、伝達機構114は、プーリ46の回転に同期して回転可能なギヤ部材118と、ギヤ部材118と噛み合う可動部材120とを有する。なお、図6では、説明に必要な部材以外の部材については図示を省略している。ギヤ部材118は、複数のボルト121により、回転軸部84の軸胴体部90に同心状に固定されている。すなわち、ギヤ部材118は、軸線aを中心に、回転軸部84と一体的に回転可能である。図7に示すように、ギヤ部材118の外周部には、周方向に沿って全周に歯部119が形成されている。なお、ギヤ部材118には、周方向の全周ではなく必要な範囲にのみ、歯部119が形成されていてもよい。
可動部材120は、ギヤ部材118(歯部119)と噛み合うラック部122を有し、ギヤ部材118の回転に伴って直線的に動く部材である。具体的には、可動部材120は、軸線aに直交する方向に沿って移動可能に配置された長尺状の部材である。ラック部122は、可動部材120の一方の側部に、可動部材120の長手方向に沿って形成されている。また本実施形態の場合、可動部材120は、一端が閉じ他端が開口した中空筒状に形成されている。
また、可動部材120は、保持部本体82の一部を構成するケース部124内に収容されている。ケース部124の長手方向の一端部は第1蓋部材126によって閉じられ、ケース部124の長手方向の他端部は第2蓋部材128によって閉じられている。なお、ケース部124の内周部には、可動部材120の軸方向移動をスムーズに案内するためのガイドスリーブ129、130が設けられている。
弾性部材116は、可動部材120をその可動方向に弾性的に付勢するものであり、本実施形態では、バネの形態を有し、第1蓋部材126側に向かって可動部材120を弾性的に付勢している。弾性部材116は、可動部材120と第2蓋部材128との間に配置されており、弾性部材116の一端側は可動部材120の中空部120aに挿入され、弾性部材116の他端側は第2蓋部材128に設けられた凹部128aに挿入されている。弾性部材116の一端部及び他端部は、それぞれ第1蓋部材126及び第2蓋部材128に固定されていてもよく、固定されていなくてもよい。第1蓋部材126には、可動部材120の一端部に当接することにより可動部材120を停止させるストッパ132が設けられている。
上記のように張力付与装置86が構成されているので、回転軸部84に装着されたプーリ46が軸線aを中心に回転すると、プーリ46の回転が、回転軸部84を介してギヤ部材118に伝達されることで、ギヤ部材118はプーリ46と同期して回転する。ギヤ部材118の回転は、ギヤ部材118の歯部119と可動部材120のラック部122との噛み合いにより、可動部材120の直線運動に変換される。すなわち、ギヤ部材118の回転に伴って、可動部材120はその長手方向に沿って移動する。
一方、可動部材120は、弾性部材116によって弾性的に常時支持(付勢)されているため、可動部材120がストッパ132によって係止されているときを除き、可動部材120は図7で軸線aを中心とする時計回りの方向にギヤ部材118に力を掛ける。この力が回転軸部84を介してプーリ46へと伝わることで、ワイヤ28を巻き取る方向の回転力がプーリ46に作用する。この結果、ワイヤ28のうち、インシュレータ26とプーリ46との間の部分に張力が付与される。
なお、回転軸部84と可動部材120との間に、複数のギヤ部材が介在していてもよい。
図4において、第2プーリ駆動機構50bは、第1プーリ駆動機構50aと同様の構成を有する。すなわち、第2プーリ駆動機構50bは、第1プーリ駆動機構50aにおける昇降機構52a、旋回機構54a、スライド機構56a、ロール機構58a及びプーリ保持部60aとそれぞれ同様に構成された昇降機構52b、旋回機構54b、スライド機構56b、ロール機構58b及びプーリ保持部60bを備える。プーリ保持部60bは張力付与装置86を有する。従って、第2プーリ駆動機構50bは、第2プーリ46bを三次元的に移動させることができるとともに、ロール機構58bの軸部80を中心に第2プーリ46bを回転(ロール動作)させることにより、ワイヤ28の終端部28bのうち、インシュレータ26と第2プーリ46bとの間の部分を捩じることができる。
次に、上述のように構成されたワイヤ挿入装置14の動作について説明する。ここでは、コイル20が形成された1個の分割コア部12の終端固定部36にワイヤ28の終端部28bを仮固定し、その後、ワイヤ28の始端部28aを導線保持溝34b〜34dのいずれかに引き回して収納し、終端部28bを導線保持溝34aに引き回して収納する場合について説明する。なお、図8A〜図9Bでは、ワイヤ挿入装置14による分割コア部12、第1プーリ46a及び第2プーリ46bの位置関係についてのみ図示し、ワイヤ挿入装置14の構成については図示を省略する。
ワイヤ挿入装置14は、下記の第1〜第4の工程を実行する。
第1の工程では、分割コア部12、第1プーリ46a及び第2プーリ46bをワイヤ挿入装置14に搬送し、分割コア部12の天地を逆転させて図示しないステージに配置する。また、第1プーリ駆動機構50aのプーリ保持部60aに第1プーリ46aを保持させるとともに、第2プーリ駆動機構50bのプーリ保持部60bに第2プーリ46bを保持させる。
このとき、プーリ保持部60a、60bにそれぞれ備えられた張力付与装置86の作用下に、ワイヤ28の始端部28aのうちインシュレータ26と第1プーリ46aとの間の部分に張力を付与するとともに、ワイヤ28の終端部28bのうちインシュレータ26と第2プーリ46bとの間の部分に張力を付与する。
具体的には、弾性部材116の弾性付勢力に抗して可動部材120が第1蓋部材126(ストッパ132)から離間する状態(可動部材120が第1蓋部材126と第2蓋部材128のいずれにも接触しない状態)になるように、分割コア部12、ワイヤ28の始端部28aが巻回された第1プーリ46a及びワイヤ28の終端部28bが巻回された第2プーリ46bを、それぞれ上記ステージ、一方のプーリ保持部60a及び他方のプーリ保持部60bにセットする。これにより、ワイヤ28の始端部28aのうちインシュレータ26と第1プーリ46aとの間の部分と、ワイヤ28の終端部28bのうちインシュレータ26と第2プーリ46bとの間の部分には、弾性部材116の弾性付勢力に基づく張力が付与された状態になる。
そして、この第1の工程では、ワイヤ28の終端部28bのうちインシュレータ26と第2プーリ46bとの間の部分を次工程(第2の工程)でインシュレータ26の溝部38に適切に挿入するために、ロール機構58bにより軸部80を中心に第2プーリ46bを回動させることにより、図8Aのように、上記部分を捩じる。この場合、ワイヤ28の終端部28bのうちインシュレータ26と第2プーリ46bとの間の部分は、弾性部材116(図7参照)の弾性付勢力に基づく張力が付与されていることから、当該部分に弛みが発生しないため、ワイヤ28の当該部分を適切に捩じることができる。
なお、ワイヤ28の終端部28bについて、第2プーリ46bでの捻り角度と、溝部38への挿入予定部分での捻り角度との相関関係を予備実験等で予め求めておき、第1の工程では当該相関関係を用いて第2プーリ46bを回動させることができる。
第2の工程では、図8Bのように、第1の工程によって捻られたワイヤ部分を終端固定部36の溝部38(図3も参照)に挿入することにより、ワイヤ28の終端部28bを終端固定部36に仮固定する。具体的には、昇降機構52bの駆動作用下に第2プーリ46bを所定位置まで下降させ、次に、旋回機構54bの駆動作用下に第2プーリ46bを水平移動させ、次に、昇降機構52bの駆動作用下に第2プーリ46bを上昇させることにより、ワイヤ28の終端部28bを溝部38に挿入する。この場合も、ワイヤ28の終端部28bのうちインシュレータ26と第2プーリ46bとの間の部分には、張力付与装置86の作用下に張力が付与されているため、当該部分の溝部38への挿入を適切に実施することができる。
第3の工程では、第2の工程による溝部38へのワイヤ28の挿入後、第1の工程での回動方向とは逆方向に、軸部80を中心に第2プーリ46bを回動させることにより、ワイヤ28の終端部28bのうち終端固定部36と第2プーリ46bとの間の部分の捩じりを解消する。この場合も、ワイヤ28には張力付与装置86の作用下に張力が付与されているため、ワイヤ28における上記部分の捩じりの解消を適切に実施することができる。
第4の工程では、図9Aのように、第1プーリ46aを移動させてワイヤ28の始端部28aを導線保持溝34b〜34dのいずれかまで引き回して収納するとともに、図9Bのように、第2プーリ46bを移動させてワイヤ28の終端部28bを導線保持溝34aまで引き回して収納する。
具体的には、旋回機構54a(図4参照)の駆動作用下に第1プーリ46aを水平移動させることにより、図9Aのように、ワイヤ28の始端部28aを導線保持溝34b〜34dのいずれかにまで引き回して収納(挿入)する。この場合、第1プーリ46aからワイヤ28の始端部28aの一部が繰り出されるが、始端部28aのうちインシュレータ26と第1プーリ46aとの間の部分には、張力付与装置86の作用下に張力が付与されているため、導線保持溝34b〜34dのいずれかへの始端部28aの挿入を適切に実施することができる。第1プーリ46aの高さが、目的の導線保持溝34b〜34dのいずれかの位置に応じた高さに調整されていない場合には、昇降機構52a(図4参照)により第1プーリ46aの高さを調整すればよい。
なお、ワイヤ28の始端部28aを導線保持溝34b〜34dのいずれかに適切な向きで挿入するために、第1プーリ46aを水平移動させる前に、軸部80を中心とした第1プーリ46aの回動によりワイヤ28の始端部28aを捩じっておく必要がある。この始端部28aの捩じりは、上述した第1の工程の前、あるいは第1〜第3の工程と並行して行ってよい。
また、旋回機構54b(図4参照)の駆動作用下に第2プーリ46bを水平移動させることにより、図9Bのように、ワイヤ28の終端部28bを導線保持溝34aにまで引き回して収納(挿入)することができる。この場合、第2プーリ46bからワイヤ28の終端部28bの一部が繰り出されるが、終端部28bのうちインシュレータ26と第2プーリ46bとの間の部分には、張力付与装置86の作用下に張力が付与されているため、導線保持溝34aの終端部28bの挿入を適切に実施することができる。なお、第2プーリ46bの高さが、導線保持溝34aの位置に応じた高さに調整されていない場合には、昇降機構52b(図4参照)により第2プーリ46bの高さを調整すればよい。
以上説明したように、ワイヤ挿入装置14には張力付与装置86が設けられている。そして、この張力付与装置86によれば、弾性部材116の弾性付勢力を用いてワイヤ28に張力を付与するので、モータの駆動により張力を付与する従来の装置と比較し、張力付与装置86の軽量化が可能である。このため、プーリ46を高速に動かすことが可能となる。また、軽量化に伴って、張力付与装置86を備えた設備(ワイヤ挿入装置14)の他の部分の剛性を下げることが可能であることから、設備を小型化できる。そのため、ワイヤ挿入装置14のように複数のプーリ46を有する場合にはプーリ46同士を近づけて省スペース化を図ることができる。
さらに、この張力付与装置86にはモータの配線が無いためプーリ46の移動範囲の自由度が高くなる。しかも、従来のようなモータの駆動による張力の付与ではワイヤ28の長さに対して常に制御を行う必要があるのに対し、この張力付与装置86によれば、プーリ46におけるワイヤ28の巻取り・繰出しに伴うワイヤ28の長さ変化に対応して、弾性部材116により適切な張力を常に付与することができる。
また、本実施形態では、伝達機構114は、プーリ46の回転に同期して回転可能なギヤ部材118と、ギヤ部材118と噛み合うラック部122が設けられギヤ部材118の回転に伴って直線的に動く可動部材120とを有し、弾性部材116は可動部材120の可動方向に可動部材120を付勢する。この構成により、ギヤ部材118の回転方向の動きが可動部材120の直線方向の動きに変換されるとともに、弾性部材116の付勢力が可動部材120を介してプーリ46に伝達される。従って、ワイヤ28に張力を確実且つ好適に付与する機構を簡易な構成で構築することができる。
さらに、本実施形態では、可動部材120は中空筒状に形成されており、弾性部材116は可動部材120に挿入されている。この構成により、可動部材120の内側に弾性部材116が挿入されることでスペースを有効利用し、伝達機構114の長さを短くすることができる。よって、張力付与装置86の一層の小型化を図ることができる。
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。