A.第1実施形態:
(A−1)電磁弁の構成:
図1〜3は、本発明の第1実施形態としての電磁弁10の開閉メカニズムを説明するための断面模式図である。電磁弁10は、主弁とパイロット弁とを備えるパイロット式の電磁弁である。本実施形態では、電磁弁10は、水素タンクおよび燃料電池を備える燃料電池システムを搭載する燃料電池自動車において、水素タンクから燃料電池に対して水素を供給するための水素流路に設けられている。
図1〜3に示すように、電磁弁10は、ハウジング42と、電磁弁コイル40と、パイロット弁20と、パイロット弁シート22と、パイロット弁スプリング24と、メイン弁30と、メイン弁シート32と、メイン弁スプリング34と、ストッパ36と、を備えている。また、水素流路に電磁弁10を備える本実施形態の燃料電池システムは、電磁弁10を含む燃料電池システムの各部を制御するための制御部50を備えている。
ハウジング42には、その外壁を貫通して、連通流路46と第1貫通孔44とが形成されており、ハウジング42の内部には連通空間41が形成されている。連通空間41は、第1貫通孔44を介して、図示しない水素タンクに連通しており、水素タンクから高圧の水素ガスが供給される。連通流路46は、図示しない燃料電池のアノード側流路に水素ガスを供給するための流路に接続されている。
ストッパ36は、ハウジング42内に配置される。そして、ストッパ36は、ハウジング42の内壁面に固定されて、ハウジング42内に形成される既述した連通空間41の壁面の一部を構成する。
メイン弁30は、磁性体により形成されており、ハウジング42内の連通空間41に収納されている。メイン弁30の内部には、パイロット空間43となる中空部が形成されている。また、メイン弁30には、メイン弁30の外壁を貫通するオリフィス孔38および第2貫通孔26が設けられている。オリフィス孔38によって、メイン弁30内部のパイロット空間43と、ハウジング42に設けられた連通流路46とが連通可能となっている。第2貫通孔26は、メイン弁30内部のパイロット空間43と、ハウジング42とメイン弁30との間に形成される連通空間41と、を連通させる。
ハウジング42の内壁面には、既述した連通流路46の開口部を取り囲むようにメイン弁シート32が設けられている。メイン弁シート32は、例えばゴム、または樹脂により形成することができる。メイン弁30は、メイン弁シート32に着座することにより閉弁し、メイン弁シート32から離間することにより開弁する。以下では、図1〜3において、x方向と示す方向を、開弁方向とも呼び、y方向と示す方向を、閉弁方向とも呼ぶ。メイン弁30は、「課題を解決するための手段」における「弁体」に相当し、メイン弁シート32は、「課題を解決するための手段」における「バルブシート」に相当する。
ハウジング42内の連通空間41には、メイン弁30に加えて、さらにメイン弁スプリング34が配置されている。メイン弁スプリング34は、一端がメイン弁30に固定されており、他端がストッパ36に固定されている。より具体的には、メイン弁スプリング34の一端は、メイン弁30においてパイロット空間43の壁面の一部を構成する隔壁部39に固定されている。メイン弁スプリング34は、メイン弁30に対して、y方向(閉弁方向)の力Fms(以下では、メインスプリング力Fmsとも呼ぶ)を加える。
パイロット弁20は、磁性体により形成されており、メイン弁30内に形成されるパイロット空間43に収納されている。また、メイン弁30の内壁面には、オリフィス孔38の開口部を囲むようにパイロット弁シート22が設けられている。パイロット弁シート22は、例えばゴム、または樹脂により形成することができる。パイロット弁20は、パイロット弁シート22に着座することにより閉弁され、パイロット弁シート22から離間することにより開弁する。パイロット空間43には、さらにパイロット弁スプリング24が配置されている。パイロット弁スプリング24は、一端がパイロット弁20に固定されており、他端が、メイン弁30においてパイロット空間43の壁面の一部を構成する隔壁部39に固定されている。パイロット弁スプリング24は、パイロット弁20に対して、y方向(閉弁方向)の力Fps(以下では、パイロットスプリング力Fpsとも呼ぶ)を加える。
電磁弁コイル40は、制御部50からの駆動信号により通電されて励磁されると、パイロット弁20およびメイン弁30をx方向(開弁方向)に吸引する吸引力Fabを生じさせる。吸引力Fabは、電磁弁コイル40に対する通電量を調節することによって制御可能である。本実施形態では、電圧値に基づいて、電磁弁10における通電制御を行なっている。電磁弁コイル40は、「課題を解決するための手段」における「コイル」に相当する。
制御部50は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、CPU、ROM、RAM、および、各種の信号を入出力する入出力ポート等を備える。制御部50は、電磁弁10を備える燃料電池システムの各部に設けたセンサ類からの検出信号を取得する。また、制御部50は、電磁弁10を含む燃料電池システムの各部に対して駆動信号を出力する。
図1は、電磁弁10の消磁時(閉弁時)における状態、すなわち、電磁弁コイル40に電流を流しておらず、吸引力Fabが生じていない様子を示す。このとき、パイロット弁20においては、パイロット弁20をy方向(閉弁方向)に押圧する力として、パイロットスプリング力Fpsが加えられる。また、パイロット弁20は、高圧の水素ガスが供給されるパイロット空間43と、水素ガスの供給が停止されているオリフィス孔38(連通流路46)と、の間の圧力差によって、y方向(閉弁方向)に押圧される。メイン弁30においては、メイン弁30をy方向(閉弁方向)に押圧する力として、メインスプリング力Fmsが加えられる。また、メイン弁30は、高圧の水素ガスが供給される連通空間41と、水素ガスの供給が停止されている連通流路46と、の間の圧力差によって、y方向(閉弁方向)に押圧される。その結果、パイロット弁20とメイン弁30の双方が閉弁された状態となる。
図2は、電磁弁10の励磁開始時(後述するパイロット弁開弁時)における状態、すなわち、電磁弁コイル40に電流を流し始めた直後の様子を示す。本実施形態では、予め定めた駆動電圧V1にて、電磁弁コイル40への通電を行なう。電磁弁コイル40への通電が行なわれると、パイロット弁20は、電磁弁コイル40によって吸引力Fabで吸引される。その結果、パイロット弁20は、既述したy方向の力に逆らってx方向に引き上げられて、パイロット弁20が開弁される。駆動電圧V1は、このように、閉弁時にパイロット弁20に加えられていたy方向の力に逆らってパイロット弁20をx方向に移動させられる吸引力を電磁弁コイル40が生じるように設定されている。なお、駆動電圧V1にて電磁弁コイル40への通電が行なわれると、メイン弁30においても同様の吸引力Fabが働くが、吸引力Fabは、閉弁時にメイン弁30に加えられる既述したy方向の力よりは小さい。そのため電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加した直後は、メイン弁30では閉弁状体が維持される。
このようにパイロット弁20が開弁すると、水素タンクから供給される水素ガスは、第1貫通孔44、連通空間41、パイロット空間43、およびオリフィス孔38を介して、連通流路46へ流れる。これにより、連通流路46における圧力が次第に上昇する。
図3は、図2の状態からさらに電磁弁コイル40への通電(電磁弁10の励磁)を継続して、電磁弁10のメイン弁30が開弁した様子を示す。電磁弁10において、通電によりパイロット弁20が開き、連通流路46の圧力(以下、2次圧とも呼ぶ)が上昇すると、第1貫通孔44を介して水素ガスが供給される連通空間41の圧力(以下、1次圧とも呼ぶ)と、上記2次圧との差が次第に小さくなり、メイン弁30に加えられるy方向の力が減少する。このようにy方向の力が減少することでx方向の力(吸引力Fab)がy方向の力以上となり、メイン弁30を持ち上げることができる程度にx方向の力が上回ると、図3のごとく、メイン弁30がx方向に押し上げられる。これにより、メイン弁30は開弁し、水素タンク内の水素ガスがパイロット空間43を経由することなく、連通空間41から連通流路46側へと流れるようになる。
なお、メイン弁30がx方向に移動して開弁する際には、メイン弁30がストッパ36に衝突して音を発生する。
図3のようにメイン弁30が開弁すると、上記したように、1次圧と2次圧との差に起因するy方向の力が消失する。このように1次圧と2次圧との差がない状態では、電磁弁コイル40における通電量を開弁時に比べて小さくしても、メイン弁30の開弁状態を維持することができる。そのため、本実施形態の制御部50は、メイン弁30の開弁後には、電磁弁コイル40に対する通電量がより小さくなるように、電圧を低下させる制御を行なう。
なお、メイン弁30が開弁した状態で電磁弁コイル40への通電を停止すると、x方向の吸引力Fabが消失する。これにより、パイロット弁スプリング24およびメイン弁スプリング34によるy方向の力のみが作用することになり、メイン弁30がメイン弁シート32に着座すると共に、パイロット弁20がパイロット弁シート22に着座し、電磁弁10は閉弁する。
(A−2)電磁弁の作動音について:
図4は、電磁弁10の開弁時に電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加した際に電磁弁コイル40に流れる電流と、メイン弁30の位置と、メイン弁30が移動するスピードと、の関係を表わす説明図である。図4では、所定の条件下にて電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加する際の様子を実線で示している。このとき、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加すると、電磁弁コイル40には電流IAが流れる。図4では、駆動電圧V1の印加を開始するタイミングを時間t0として示している。このように電磁弁コイル40への通電を開始すると、既述したように、まず、パイロット弁20が開弁し、連通流路46内が昇圧を開始した後に、メイン弁30が開弁する。図4では、メイン弁30が開弁し始めるタイミングを時間t1として示している。また、図4では、メイン弁30がストッパ36に衝突して移動を停止するタイミングを、時間t3として示している。時間t1において移動を開始したメイン弁30は、時間t3において全開位置に到達するまで次第に移動のスピードが上昇し、ストッパ36に衝突する際に最大スピードSpAに達する。図4では、開弁開始時(電磁弁コイル40に対する駆動電圧V1の印加の開始時)から開弁終了時までの時間を、応答時間TAとして示している。
ここで、電磁弁コイル40に印加する駆動電圧V1の大きさが同じであっても、電磁弁コイル40の条件が異なると、流れる電流値が異なる。具体的には、電磁弁コイル40の温度が変化して、その結果、電磁弁コイル40の抵抗値が変化するときには、同じ駆動電圧V1を印加しても流れる電流は変化する。図4では、開弁時に電磁弁コイル40に流れる電流がIAよりも小さなIBである場合を破線で示している。このように電磁弁コイル40に流れる電流が小さいと、電磁弁コイル40によって生じる吸引力Fabも小さくなるため、パイロット弁20の開弁スピードが遅くなる。その結果、連通流路46側の昇圧に時間がかかり、メイン弁30が開弁を開始するタイミングが、時間t1よりも遅い時間t2となる。また、電磁弁コイル40に流れる電流が小さいと、電磁弁コイル40によって生じる吸引力Fabも小さくなるため、メイン弁30の開弁スピードも遅くなる。その結果、開弁終了のタイミングが、時間t3よりも遅い時間t4となる。このとき、開弁終了時におけるメイン弁30の最大スピードSpBは、上記した最大スピードSpAよりも遅くなる。図4では、開弁時に電磁弁コイル40に流れる電流がIBである場合に、開弁開始時から開弁終了時までに要する時間を、応答時間TBとして示している。
なお、開弁開始時(電磁弁コイル40に対する駆動電圧V1の印加の開始時)から開弁終了時までの時間である上記した応答時間を求める際に、開弁終了時は、例えば、メイン弁30の位置を直接検出することにより特定してもよいが、本実施形態では、流路内の水素ガス圧に基づいて特定している。具体的には、第1貫通孔44内の圧力を測定する図示しない第1の圧力センサと、連通流路46内の圧力を測定する図示しない第2の圧力センサとを設け、第1および第2の圧力センサの検出値が等しくなった時点を、開弁終了時として特定している。
図5は、開弁時に電磁弁コイル40に流れる電流と、開弁時にメイン弁30がストッパ36に衝突して生じる音の音圧レベルと、の関係を示す説明図である。図5に示すように、駆動電圧V1を印加したときに流れる電流がIαである時の音圧レベルSdαは、Iαよりも大きな電流Iβが流れる時の音圧レベルSdβよりも小さくなる。これは、図4に基づいて説明したように、電磁弁コイル40に流れる電流値が小さいほど、開弁終了時におけるメイン弁30のスピードが遅いためと考えられる。そのため、開弁時の音圧レベルを抑えるためには、開弁時に電磁弁コイル40に流れる電流を小さくすればよいといえる。
ここで、電磁弁10においては、電磁弁10が開閉弁を繰り返して、メイン弁30がメイン弁シート32に衝突を繰り返すと、メイン弁シート32が次第に薄くなり、メイン弁30が開弁時に移動する距離が次第に長くなる。図1では、メイン弁30が開弁時に移動する距離である、メイン弁30とストッパ36との間の距離を、エアーギャップとして示している。
このようにエアーギャップが変化すると、図4に示したメイン弁30の閉位置と全開位置との間の距離が次第に延びることになり、電磁弁コイル40に流れる電流値が同じであっても、開弁時にメイン弁30がストッパ36に衝突する際のスピードが次第に速くなる。その結果、電磁弁10の開弁時に生じる音の音圧レベルが大きくなる。そのため、本実施形態では、エアーギャップの変化を考慮しつつ、開弁時に電磁弁コイル40に流れる電流を制御することにより、開弁時に生じる音圧を許容範囲に抑えている。以下に、電磁弁コイル40に流す電流値の制御に係る具体的な動作を説明する。
(A−3)電磁弁の開弁制御:
図6は、電磁弁10の開弁制御時に、制御部50において実行される開弁制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンは、電磁弁10の開弁が要求されたときに起動されて実行される。
本ルーチンが起動されると、制御部50は、駆動電圧V1を印加するときの、開弁時の電流と応答時間との間の関係を取得する(ステップS100)。電磁弁コイル40は、通電の開始と停止とを繰り返すことにより、温度が昇降して抵抗値が常に変動する。本実施形態では、電磁弁コイル40に図示しない電流計を設け、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加するごとに、電磁弁コイル40に流れた電流値を測定している。また、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加するごとに、開弁開始時から開弁終了時までの応答時間を測定している。このように、制御部50は、開閉弁制御に伴って、電流値と応答時間とを繰り返し取得しつつ、電流値と応答時間との関係を導出しており、導出した関係を継続的に更新している。
図7は、電磁弁10の開弁制御を繰り返す際に電流値と応答時間とを実測したデータに基づいて得られる、電流値と応答時間との関係の一例を示す説明図である。本実施形態では、電流値と応答時間との関係を、最小二乗法により直線近似(フィッティング)しているが、異なる近似法を採用してもよい。既述したように、電磁弁10においては、開弁動作を繰り返すことでメイン弁シート32が変形してエアーギャップが拡大するが、ステップS100で導出する電流値と応答時間との関係は、エアーギャップが実質的に変化しない限られた期間(例えば、限られた開弁回数の範囲)内では、図7に直線近似するように、一定の関係を示す。本実施形態では、電磁弁10の開閉弁制御の繰り返しと共に、電流値と応答時間とを繰り返し取得しつつ、エアーギャップが実質的に変化しない限られた範囲で、開弁時の電流と応答時間との間の関係を常に更新している。ステップS100では、このように更新された最新の関係を取得する。ステップS100は、「課題を解決するための手段」における「第1の工程」を含む。
次に、制御部50は、ステップS100で取得した関係に基づいて、電磁弁コイル40に、予め定めた所定の電流値IAが流れる時の応答時間TAを導出する(ステップS110)。図7において、直線近似した電流値と応答時間との関係に基づいて、電磁弁コイル40に電流値IAが流れる時の応答時間TAを導出する様子を示す。
その後、ステップS110で導出した応答時間TAに基づいて、現在のエアーギャップGAを導出する(ステップS120)。
図8は、開弁時に電磁弁コイル40に流れた電流値がIAであるときの、応答時間とエアーギャップとの関係を示す説明図である。開弁時の電流値が一定であれば、エアーギャップが大きくなるほど、応答時間は長くなる。本実施形態では、図8に示すように、開弁時に電磁弁コイル40に流れる電流値がIAであるときの応答時間とエアーギャップとの間の関係が予め求められて、マップとして制御部50内に記憶されている。ステップS120では、上記マップを参照して、ステップS110で導出した応答時間TAに対応するエアーギャップGAを導出する。
次に、ステップS120で導出したエアーギャップGAに基づいて、エアーギャップがGAの時に、開弁時の音圧レベルが許容値となる目標電流値ItarAを導出する(ステップS130)。
図9は、開弁時に電磁弁コイル40に流れる電流と、開弁時にメイン弁30がストッパ36に衝突して生じる音の音圧レベルと、の関係を、エアーギャップがGAである場合とGBである場合とについて示す説明図である。図5に基づいて説明したように、電磁弁コイル40に流れる電流が大きいほど、開弁時の音圧レベルは大きくなる。そして、このような電流と音圧レベルとの関係は、エアーギャップの大きさごとに定まっている。具体的には、エアーギャップが大きいほど、開弁時にメイン弁30が移動する距離が長くなり、最終的なメイン弁30のスピードが速くなるため、音圧レベルが高くなる。本実施形態では、想定されるエアーギャップの全範囲にわたって、電磁弁コイル40に流れる電流値と音圧レベルとの関係が予め求められて、マップとして制御部50内に記憶されると共に、許容できる音圧レベルの上限である目標音圧レベルSdtarが設定されている。ステップS130では、上記マップを参照して、ステップS120で導出したエアーギャップGAの条件下で、音圧レベルが目標音圧レベルSdtarとなるときの電流値である目標電流値ItarAを導出する。ステップS110からステップS130までの動作が、「課題を解決するための手段」における「第2の工程」に対応する。
次に、制御部50は、電磁弁コイル40に対して微小電圧V2を印加して、そのときに電磁弁コイル40に流れる電流値I2を測定し、その結果に基づいて、駆動電圧V1を印加した場合に電磁弁コイル40に流れる電流値I1−1を導出する(ステップS140)。ステップS140で電磁弁コイル40に印加する微小電圧V2は、駆動電圧V1に比べて極めて小さな値であり、パイロット弁20を開弁することのない値として設定されている。電磁弁コイル40の温度、すなわち、電磁弁コイル40の抵抗値が同じである条件下では、微小電圧V2に対する電流値I2を測定することにより、オームの法則に基づいて、駆動電圧V1を印加したときに電磁弁コイル40に流れる電流値I1−1を算出することができる。
ステップS140の後、制御部50は、ステップS140で導出した電流値I1−1と、ステップS130で導出した目標電流値ItarAとを比較する(ステップS150)。電流値I1−1が目標電流値ItarA以下である場合には、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加しても、生じる音の音圧は許容できる音圧レベルSdtar以下になると判断できる。そのため、この場合には、制御部50は、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加して開弁の動作を開始して(ステップS180)、本ルーチンを終了する。なお、図6のステップS150では、後述するように微小電圧V2を印加して電流値を測定する動作を繰り返す場合を考慮して、目標電流値ItarAと比較するために導出した電流値を、I1−xと記載している。
ステップS150において、電流値I1−1が目標電流値ItarAを超える場合には、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加すると、生じる音の音圧は許容できる音圧レベルSdtarを超えると判断できる。この場合には、制御部50は、微小電圧V2の印加を継続する(ステップS160)。
図10は、電磁弁コイル40の温度と抵抗との関係を示す説明図である。また、図11は、電磁弁コイル40の抵抗と、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加したときに電磁弁コイル40に流れる電流と、の関係を示す説明図である。また、図12は、エアーギャップがGAであるときの、電磁弁コイル40に流れる電流と開弁時に生じる音の音圧レベルとの関係を示す説明図である。図10に示すように、電磁弁コイル40の温度が上昇するほど、電磁弁コイル40の抵抗も大きくなる。そして、図11に示すように、電磁弁コイル40の抵抗が大きくなるほど、駆動電圧V1を印加したときに電磁弁コイル40に流れる電流値は小さくなる。また、図12に示すように、エアーギャップが一定であれば、電磁弁コイル40に流れる電流値が小さいほど、開弁時に生じる音の音圧レベルは低下する。ステップS160において制御部50が微小電圧V2の印加を継続することにより、電磁弁コイル40の温度およびコイル抵抗が上昇し、駆動電圧V1を印加したときに流れる電流値が低下する。その結果、駆動電圧V1を印加したときに生じる音の音圧レベルが低下する。なお、図10から図12では、電磁弁コイル40に対する微小電圧V2の印加の継続による変化の方向を、白抜き矢印により示している。
ステップS160において、電磁弁コイル40に対する微小電圧V2の印加を所定時間継続した後、制御部50は、電磁弁コイル40に流れる電流値I2を再び測定する。そして、ステップS140と同様にして、駆動電圧V1を印加した場合に電磁弁コイル40に流れる電流値I1−xを導出する(ステップS170)。
ステップS170において電流値I1−xを導出すると、制御部50はステップS150に戻り、ステップS170で導出した電流値I1−xと、ステップS130で導出した目標電流値ItarAとを比較する。そして、ステップS150で電流値I1−1が目標電流値ItarAを超えると判断するまで、ステップS160、S170、およびS150の動作を繰り返す。図12では、電磁弁コイル40に対して微小電圧V2の印加を継続して、駆動電圧V1を印加したときに流れる電流値がI1−xまで低下することにより、開弁時に生じる音の音圧レベルが、許容値Sdtar以下のSd1−xになる様子を示している。ステップS150において、電流値I1−1が目標電流値ItarA以下になると、制御部50は、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加して開弁の動作を開始して(ステップS180)、本ルーチンを終了する。なお、ステップS140からステップS180までの動作が、「課題を解決するための手段」における「第3の工程」に対応する。
以上のように構成された本実施形態の電磁弁10の制御方法によれば、電磁弁10の使用を継続することによりエアーギャップが変化する場合であっても、電磁弁10の開弁時に生じる音の音圧レベルを許容値以下に抑えることができる。
すなわち、本実施形態では、駆動電圧V1を電磁弁コイル40に印加したときに電磁弁コイル40に流れる電流値と、駆動電圧V1の印加の開始からメイン弁30が開弁するまでの応答時間と、の関係を更新し続け、更新した上記関係に基づいて、開弁時に電磁弁コイル40に流すべき目標電流値ItarAを導出している。このように、導出された最新の上記関係に基づいて目標電流値ItarAが導出されるため、エアーギャップが変化しても、開弁時に生じる音の音圧を許容値以下に抑える制御を適切に行なうことができる。
また、本実施形態によれば、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加する前に、パイロット弁20を開弁させない微小電圧V2を印加して、駆動電圧V1を印加したときに生じる音の音圧が許容値以下となるように電磁弁コイル40を予め昇温させている。そのため、電磁弁コイルに駆動電圧を印加した後にさらなる通電制御(特定のタイミングで通電を停止するなど)を行なって、開弁時に生じる音の音圧を低下させる場合とは異なり、エアーギャップが極めて狭い場合にも、音圧レベルを抑える制御を良好に行なうことができる。その結果、電磁弁全体がコンパクト化されて、開弁時における弁体の移動距離が比較的短いパイロット式電磁弁において、開弁時の音圧レベルを低下させる効果を特に顕著に得ることができる。
また、本実施形態によれば、開弁時における電磁弁コイル40の温度を上昇させて電流値を抑えることにより、電磁弁コイル40への電圧印加により生じる吸引力Fabが抑えられるため、パイロット弁20の開弁時のスピードが抑えられる。そのため、メイン弁30がストッパ36に衝突する際に生じる音の音圧レベルが低下するだけでなく、パイロット弁20の開弁時にオリフィス孔38を介して連通流路46側に高圧の水素ガスが流れ始める際のスピードを抑え、生じる音を低減することができる。その結果、メイン弁30がストッパ36に衝突する際の音だけでなく、電磁弁10の開弁時に生じる音全体を低減することができる。
なお、上記した第1の実施形態では、ステップS100において、駆動電圧V1を印加するときの開弁時の電流と応答時間との間の最新の関係を取得した後に、ステップS110からステップS130までの工程を順次実行しているが、異なる構成としてもよい。ステップS100で取得した開弁時の電流と応答時間との関係に基づけば、電磁弁コイル40に電流IAが流れる時の応答時間TA、エアーギャップGA、および目標電流値ItarAは一義的に定まる(図7〜図9参照)。そのため、例えば、応答時間TAと目標電流値ItarAとの関係を予めマップ化して制御部50に記憶しておき、ステップS110で導出した応答時間TAに基づいて、目標電流値ItarAを直接導出してもよい。
また、上記した第1の実施形態では、図6のステップS150において、微小電圧V2を印加したときの電流値から導出される電流値I1−xと、目標電流値ItarAとを比較しているが、異なる構成としてもよい。例えば、ステップS140あるいはステップS170において微小電圧V2を印加したときの電流値に基づいて、駆動電圧V1を印加した場合の電流値I1−xを導出した後に、ステップS120で導出したエアーギャップGAと図9に示す関係とに基づいて、駆動電圧V1を印加した場合に生じる音の音圧レベルを導出する。そして、ステップS150では、上記導出した音圧レベルと、目標音圧レベルSdtarとを比較してもよい。
B.第2実施形態:
図13は、本発明の第2実施形態としての電磁弁10において、電磁弁10の開弁が要求されたときに起動されて実行される開弁制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。第2の実施形態は、第1の実施形態と同様の構成を有する電磁弁10の開弁制御に関するものであるため、電磁弁10の構成に係る詳しい説明は省略する。また、図13において、図6と共通する工程には同じ工程番号を付して、詳しい説明を省略する。第2の実施形態では、第1の実施形態とは異なり、微小電圧V2の印加時に流れる電流値に代えて、電磁弁コイル40の温度に基づいて、駆動電圧V1を印加するタイミングを決定している。
本ルーチンが起動されると、制御部50は、第1の実施形態と同様に、駆動電圧V1を印加するときの、電流と応答時間との間の最新の関係を取得し(ステップS100)、この関係に基づいて電流値IAに対応する応答時間TAを導出し(ステップS110)、さらに現在のエアーギャップGAを導出する(ステップS120)。その後、エアーギャップがGAのときに音圧レベルが許容値となる目標コイル温度TemtarAを導出する(ステップS230)。
図14は、電磁弁コイル40の温度と、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加したときに電磁弁コイル40に流れる電流と、の関係を示す説明図である。電磁弁コイル40の温度が高くなるほど、電磁弁コイル40の抵抗値が上昇するため、電磁弁コイル40に流れる電流値は小さくなる(図10、図11参照)。このように、電磁弁コイル40の温度と、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加したときに電磁弁コイル40に流れる電流との関係は、一義的に定まる。また、図12に示すように、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加したときに電磁弁コイル40に流れる電流と、電磁弁10の開弁時に生じる音の音圧レベルとの関係も、エアーギャップの大きさごとに、一義的に定まる。本実施形態では、想定されるエアーギャップの全範囲にわたって、電磁弁コイル40の温度と開弁時の音圧レベルとの関係が予め求められて、マップとして制御部50内に記憶されると共に、許容できる音圧レベルの上限である目標音圧レベルSdtarが設定されている。ステップS230では、上記マップを参照して、ステップS120で導出したエアーギャップGAの条件下で、音圧レベルが目標音圧レベルSdtarとなるときの電磁弁コイル40の温度である目標コイル温度TemtarAを導出する。ステップS110からステップS230までの動作が、「課題を解決するための手段」における「第2の工程」に対応する。
次に、制御部50は、電磁弁コイル40のコイル温度Tem2−1を測定する(ステップS240)。具体的には、本実施形態の電磁弁10には、電磁弁コイル40の温度を測定する図示しない温度センサが設けられており、ステップS240では、この温度センサの検出信号を取得する。
ステップS240の後、制御部50は、ステップS240で取得したコイル温度Tem2−1と、ステップS230で導出した目標コイル温度TemtarAとを比較する(ステップS250)。コイル温度Tem2−1が目標コイル温度TemtarA 以上である場合には、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加しても、生じる音の音圧は許容できる音圧レベルSdtar以下になると判断できる。そのため、この場合には、制御部50は、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加して開弁の動作を開始して(ステップS180)、本ルーチンを終了する。なお、図13のステップS250では、後述するように微小電圧V2を印加しつつコイル温度を測定する動作を繰り返す場合を考慮して、目標コイル温度TemtarAと比較するために取得したコイル温度を、Tem2−xと記載している。
ステップS250において、コイル温度Tem2−1が目標コイル温度TemtarA 未満である場合には、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加すると、生じる音の音圧は許容できる音圧レベルSdtarを超えると判断できる。この場合には、制御部50は、電磁弁コイル40に対する微小電圧V2の印加を開始する(ステップS260)。ここで、微小電圧V2は、第1の実施形態と同様に、駆動電圧V1に比べて極めて小さな値であり、パイロット弁20を開弁することのない値として設定されている。電磁弁コイル40に対する微小電圧V2の印加を開始することにより、電磁弁コイル40は次第に昇温する。
既述した図14に示すように、電磁弁コイル40の温度が上昇するほど、電磁弁コイル40の抵抗が大きくなって、駆動電圧V1を印加したときに電磁弁コイル40に流れる電流値が小さくなる。また、図12に示すように、エアーギャップが一定であれば、電磁弁コイル40に流れる電流値が小さいほど、開弁時に生じる音の音圧レベルは低下する。ステップS260において制御部50が微小電圧V2の印加を行なうことにより、電磁弁コイル40の温度およびコイル抵抗が上昇し、駆動電圧V1を印加したときに流れる電流値が低下する。その結果、駆動電圧V1を印加したときに生じる音の音圧レベルが低下する。なお、図14では、電磁弁コイル40に対する微小電圧V2の印加の継続による変化の方向を、白抜き矢印により示している。
ステップS260において、電磁弁コイル40に対する微小電圧V2の印加を所定時間継続した後、制御部50は、電磁弁コイル40のコイル温度Tem2−xを再び測定する(ステップS270)。ステップS270においてコイル温度Tem2−xを測定すると、制御部50はステップS250に戻り、ステップS270で測定したコイル温度Tem2−xと、ステップS230で導出した目標コイル温度TemtarAとを比較する。そして、ステップS250でコイル温度Tem2−xが目標コイル温度TemtarA 以上になったと判断されるまで、ステップS260、S270、およびS250の動作を繰り返す。ステップS250において、コイル温度Tem2−xが目標コイル温度TemtarA 以上になると、制御部50は、電磁弁コイル40に駆動電圧V1を印加して開弁の動作を開始して(ステップS180)、本ルーチンを終了する。なお、ステップS240からステップS280までの動作が、「課題を解決するための手段」における「第3の工程」に対応する。
以上のように構成された第2の実施形態の電磁弁10の開弁制御方法によっても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
C.変形例:
・変形例1:
本願に係る電磁弁の制御方法を適用する電磁弁は、図1〜3に示した電磁弁10とは異なる構成を有するパイロット式電磁弁であってもよい。また、パイロット式とは異なる方式の、例えば直動式の電磁弁であってもよい。電磁弁10と同様に、開閉弁の動作の繰り返しに伴ってエアーギャップ(開弁時における弁体の移動距離)が変化し、電磁弁コイルに流れる電流によって開弁時の弁体移動速度を調節可能であれば、本願発明に係るの開弁制御方法を適用することにより、同様の効果が得られる。
・変形例2:
上記した各実施形態では、電磁弁10は、水素タンクおよび燃料電池を備える燃料電池システムを搭載する燃料電池自動車において、水素タンクから燃料電池に対して水素を供給するための水素流路に設けているが、異なる構成としてもよい。本願発明に係る電磁弁の制御方法を適用する電磁弁は、燃料電池システム以外の他の装置に取り付けてもよく、また、水素ガス以外の流体の流路に配置してもよい。
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。