以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る超音波探傷検査方法及び超音波探傷検査装置を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本実施形態では、積層型の電池に用いられる電極のタブの溶接箇所を検査する超音波探傷検査装置に適用する。電池は、例えば、積層型のリチウムイオン二次電池である。溶接は、例えば、接合する部分に電流を流して、その抵抗熱で金属を溶かして溶接する抵抗溶接(スポット溶接)である。
本実施形態に係る超音波探傷検査方法は、検査工程の前に誤検知を抑制するための前工程を行う。実施形態には、2つの実施例があり、第1実施例が前工程としてローレンツ力発生工程を行う実施例であり、第2実施例が前工程として真空引き工程とローレンツ力発生工程を行う実施例である。
実施形態の各実施例を説明する前に、リチウムイオン二次電池について説明しておく。リチウムイオン二次電池は、電槽缶、電槽缶内に収容される電極組立体及び電解液等を備えている。電槽缶は、略直方体形状である。電槽缶は、金属製であり、例えば、アルミニウム製、アルミニウム合金製である。電槽缶は、有底の角筒状の本体と、本体の開口部を覆う蓋とからなる。蓋には、正極端子と負極端子が取り付けられている。
電極組立体は、電極である正極及び負極と、正極と負極とを絶縁するセパレータとを備えている。電極は、シート状の集電部材と、集電部材の少なくとも一面に形成された活物質層からなる。電極は、集電部材の端部に活物質層が形成されていないタブを有する。タブは、電極の一辺より突出して設けられており、導電部材を介して電極端子(正極端子、負極端子)に電気的に接続される。セパレータは、正極と負極とを隔離して両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させる。
この構成をより具体化すると、例えば、電極の集電部材は、薄い金属箔であり、その一辺よりタブが突出して延びている形状をなす。活物質層は、長方形状をなし、金属箔の両面においてタブを除く部分を覆っている。各電極のタブは、正極と負極にて、積層時に重複しないように、異なる位置に配置されている。セパレータは、樹脂よりなる多孔質の薄いシートであり、長方形状である。電極組立体は、多数(例えば、数10枚)の正極と負極とがセパレータを挟んだ状態で積層されている。電極組立体は、上端部に各電極のタブを有する略直方体形状の積層構造体である。積層時、各電極は、上端にて各電極のタブが突出し、表裏について、同極同士のタブが重なる向きに配置されている。この積層された複数の正極のタブは、一端側に導電部材を重ね、抵抗溶接によって接合されている。負極も同様に、負極のタブ同士、ならびに導電部材が抵抗溶接によって接合されている。この導電部材の他端部は、各々、正極端子および負極端子に接合されている。
多数の非常に薄いタブ同士が抵抗溶接されるので、タブとタブとの間に空気が残りやすく、タブとタブとの間にボイド等の空隙ができる場合がある。この空隙は、溶接箇所内の欠陥である。電極のタブの溶接箇所内に欠陥があると、リチウムイオン二次電池の性能が低下する。本実施形態に係る超音波探傷検査装置は、この溶接箇所内の欠陥を非破壊検査で検知する。なお、超音波探傷検査装置では、空隙以外の溶接箇所内の異物等も検知できる。
図1及び図2を参照して、第1実施例に係る超音波探傷検査装置1について説明する。図1は、第1実施例に係るローレンツ力発生機能を有する超音波探傷検査装置1を模式的に示す図である。図2は、直流磁場付与部と交流電流付与部の構成を模式的に示す図である。
なお、図1には、超音波探傷検査装置1の被検査体として積層状態のタブTの溶接箇所Wを示しており、電極のタブ以外の部分は示していない。導電部材も溶接されている場合、図示はしないが導電部材をタブの下側に配置する。この積層状態のタブTは、検査台Dに載置されている。図1には、溶接箇所W内に欠陥Aがある場合を示している。
超音波探傷検査装置1は、超音波を溶接箇所Wに発信し、その反射波を受信することにより溶接箇所W内の欠陥を検知する(検査工程)。特に、超音波探傷検査装置1は、誤検知を抑制するために、この検査工程の前に、ローレンツ力発生工程を行う。そのために、超音波探傷検査装置1は、検査機能、ローレンツ力発生機能を有している。
超音波探傷検査装置1の検査機能について説明する。超音波探傷検査装置1は、探触子(プローブ)10と、検知部11とを備えている。
探触子10は、超音波の発信と受信を行うセンサーである。探触子10は、発信部と受信部が一体で構成された一つの振動子からなる探触子である。探触子10で用いる超音波の周波数は、電極の金属箔に用いられる金属材料を考慮して適宜設定するとよい。探触子10の検知可能範囲は、溶接箇所Wの大きさよりも十分広い範囲とする。なお、探触子は、発信部と受信部とが別体で構成された二つの振動子からなるもの等の他の構成のものでもよい。
探触子10では、発信部から所定の周波数の超音波を発信し、受信部でその超音波の反射波を受信する。受信部では、検知可能範囲(二次元範囲)内における任意の箇所での反射波を受信する毎に、この任意の箇所の位置情報に対応付けて下記の各情報を検知部11に出力する。受信部では、反射波の振動の大きさを電気情報(例えば、電圧値)に変換し、その電気情報を検知部11に出力する。また、受信部では、発信部から超音波を発信してから反射波を受信するまでの経過時間を計測し、その時間情報を検知部11に出力する。
検知部11は、探触子10からの反射波の情報を用いて溶接箇所W内の欠陥を検知する検知部である。検知部11では、探触子10から反射波の情報を入力する毎に以下の処理を行う。検知部11では、反射波の電気情報から反射波の強度を取得し、その反射波の強度が閾値以上か否かを判定する。この閾値は、反射波の強度から溶接箇所W内の欠陥か否かを判定するための閾値であり、実験等により適宜設定するとよい。反射波の強度が閾値以上と判定した場合、検知部11は、超音波を発信してからの経過時間と超音波の伝搬速度から探触子10の先端面から欠陥までの距離を算出する。この距離情報と検知可能範囲(二次元範囲)内での位置情報とから、溶接箇所W内での欠陥の三次元位置が判る。検知部11では、溶接箇所Wの欠陥の情報(有無情報、欠陥がある場合には欠陥の個数、位置情報等)を出力する。この出力としては、例えば、モニタ出力である。
なお、上記の検知部11での処理は一例であり、他の処理を行ってもよい。例えば、検知可能範囲内における各箇所について、超音波を発信してからの経過時間と反射波の強度との関係をグラフ化したものをモニタ出力する(図5参照)。また、反射波の強度の閾値判定だけを行い、溶接箇所Wの欠陥の有無情報だけを出力する。
超音波探傷検査装置1は、超音波の伝搬性を向上させるために、検査を行う前に探触子10の先端面に接触媒質12が付着される。これにより、検査時には、探触子10の先端面と溶接箇所Wの表面(但し、一部がタブTの表面の部分もある)との間には接触媒質12が介在することになる。このように接触媒質12を介在させるのは、超音波を被検査体まで効率良く伝搬させるためである。ちなみに、探触子10と溶接箇所W等の被検査体との間に空気の層があると、空気の層での超音波の反射等により、超音波が伝搬し難い。
接触媒質12は、液体である。接触媒質12は、探触子10の先端面への付着性を考慮して、ある程度以上の粘度を有している液体である。接触媒質12は、例えば、グリセリンである。グリセリンは、音響インピーダンスが大きいので、超音波の伝搬性が良い。なお、図1等に示す接触媒質12は接触媒質の存在を判り易くするために所定の厚さを有する矩形形状で示しているが、実際には探触子10の先端面と被検査体の表面との間に薄い任意の形状で存在する。
探触子10の先端面と溶接箇所Wの表面との間に介在させた接触媒質12には、気泡が入ってしまう場合がある。図1には、接触媒質12内に複数の気泡Cが入った場合を示している。このような気泡Cが存在すると、探触子10から発信された超音波が気泡Cで反射する。そのため、気泡Cを、溶接箇所Wの欠陥と誤検知してしまう虞がある。特に、気泡Cが大きいほど、反射波の強度が大きくなり、誤検知する可能性が高くなる。そこで、超音波探傷検査装置1は、このような誤検知を抑制するために、検査工程の前に、周期的に反転するローレンツ力による電磁振動で気泡Cを細分化する(ローレンツ力発生工程)。
超音波探傷検査装置1のローレンツ力発生機能について説明する。このローレンツ力発生機能は、接触媒質12に直流磁場と交流電流とを同時に付加し、接触媒質12内に力の作用する方向が周期的に反転するローレンツ力を発生させる機能である。超音波探傷検査装置1は、直流磁場付与部20と、交流電流付与部21とを備えている。
直流磁場付与部20は、接触媒質12に直流磁場を付与する付与部である。直流磁場付与部20は、励磁用電源20aと、電磁石20bとを備えている。励磁用電源20aは、励磁用の直流電流を発生させる電源である。電磁石20bは、磁化コイル20cと鉄芯20dからなる。磁化コイル20cは、励磁用電源20aに接続されている。磁化コイル20cは、励磁用電源20aで発生した直流電流により磁束を発生させる。鉄芯20dは、磁化コイル20cで発生した磁束を誘導する。鉄芯20dは、略C字状であり、その先端部が磁極20e,20fである。磁極20eと磁極20fとは、所定間隔をあけて対向している。この対向する磁極20e,20fは、接触媒質12に非接触で、接触媒質12の側方において接触媒質12を挟み込む位置に配置される。直流磁場付与部20では、励磁用電源20aから磁化コイル20cに直流電流を供給すると、磁化コイル20cで磁束を発生し、電磁石20bで一方の磁極20eから他方の磁極20fに磁束が流れる。これにより、接触媒質12には、所定の方向に直流磁場が付与されることになる。
交流電流付与部21は、接触媒質12に交流電流を付与する付与部である。交流電流付与部21は、交流電源21aと、電極21b,21cとを備えている。交流電源21aは、交流電流を発生させる電源である。交流電源21aには、電線21dを介して電極21bが接続され、電線21eを介して電極21cが接続されている。電極21bと電極21cとは、所定間隔をあけて対向している。この対向する電極21b,21cは、接触媒質12に非接触で、接触媒質12の側方において接触媒質12を挟み込む位置に配置される。特に、図2に示すように、対向する電極21b,21cの配置方向と対向する磁極20e,20fの配置方向とが直交するように、電極21b,21c及び磁極20e,20fが配置される。交流電流付与部21では、交流電源21aで交流電流を発生すると、電極21bと電極21cとの間に交流電流が流れる。これにより、接触媒質12には、所定の方向に交流電流が付与されることになる。特に、交流電流であるので、電極21bと電極21cとの間で流れる向きが周期的に変化する。直流磁場が付与される方向と交流電流が付与される方向とは、直交する。
なお、直流磁場付与部20及び交流電流付与部21は、探触子10から発信される超音波及びその反射波の伝搬を妨げないように配置されている。接触媒質12に対して直流磁場と交流電流とを付与する各方向は、特に上記の各方向に限定されることなく、直流磁場と交流電流とが直交する方向であればよい。
図3及び図4を参照して、ローレンツ力による接触媒質12内の気泡Cの細分化について説明する。図3は、直流磁場、交流電流、ローレンツ力の関係を模式的に示す図である。図4は、接触媒質12内で気泡Cが細分化する過程を示す図である。
図3に示すように、直流磁場Bの方向と交流電流Jの流れる方向とが水平面内で直交する状態になると、直流磁場Bの方向及び交流電流Jの流れる方向に直交する方向にローレンツ力Fが作用する。このローレンツ力Fの方向は、フレミングの左手の法則で決まる。直流磁場Bの方向は、一方向である。一方、交流電流Jの電流の流れる方向は、一定の周期で反転する。そのため、ローレンツ力Fが作用する方向も、交流電流Jの反転の周期に合わせて、一定の周期で反転する。したがって、接触媒質12には、直流磁場Bの方向及び交流電流Jの流れる方向に直交する方向において、一定の周期で反転するローレンツ力Fが作用する。このローレンツ力Fにより、液体の接触媒質12は、交流電流Jと同じ周波数で振動(電磁振動)する。
液体の接触媒質12の中で気泡Cが存在する場合、気泡Cには一定の周期で反転するローレンツ力Fが作用する。図4(a)に示すように、気泡Cには方向F1のローレンツ力が作用して、その方向F1に応じて気泡Cが変形する。また、図4(b)に示すように、気泡Cには図4(a)に示す方向F1とは逆方向F2のローレンツ力が作用して、その逆方向F2に応じて気泡Cが逆方向に変形する。この反転するローレンツ力で気泡Cの変形が短い周期で繰り返される。これにより、キャビテーション効果が発生し、気泡Cが破裂する。気泡Cが破裂すると、図4(c)に示すように、気泡Cが細分化し、非常に小さい気泡C’となる。
ローレンツ力Fの大きさは、直流磁場Bの方向と交流電流Jの流れる方向とのなす角度が90°の場合が最も大きくなる。したがって、対向する磁極20e,20fの配置方向と対向する電極21b,21cの配置方向とを直交させている。磁極20e,20fの配置方向と電極21b,21cの配置方向とを直交する方向に配置できない場合、直流磁場Bの方向と交流電流Jの流れる方向とのなす角度が出来るだけ90°に近く角度になるように磁極20e,20fと電極21b,21cを配置させるとよい。また、ローレンツ力Fの大きさは、直流磁場Bの磁束密度、交流電流Jの荷電粒子の電荷と速度に比例する。
なお、接触媒質12内の気泡Cが大きいほど、気泡Cを細分化するためには大きなローレンツ力が必要となる。したがって、接触媒質12内に入る可能性のある気泡の大きさを考慮して、直流磁場付与部20で付与する直流磁場の磁束密度と交流電流付与部21で付与する交流電流の電流値(最大振幅)等を適宜設定するとよい。また、気泡Cを破裂させるのに適した振動の周波数が実験等で得られた場合には、その周波数を考慮して交流電流付与部21で付与する交流電流の周波数を適宜設定するとよい。また、直流磁場付与部20及び交流電流付与部21を作動させる時間は、誤検知されないまで気泡Cを細分化できる時間を、実験等によって適宜設定するとよい。
図5を参照して、検知部11での閾値の設定方法を説明する。図5は、横軸が超音波を発信してからの経過時間、縦軸が反射波の強度である。図5には、探触子10の検知可能範囲(二次元範囲)内の任意の箇所での反射波の受信情報から得られた反射波の強度の時間変化のグラフの一例を示している。この例では、接触媒質12内に細分化後の気泡C’が存在し、溶接箇所W内に欠陥Aが存在したとする。
細分化後の気泡C’は、非常に小さいので、探触子10から発信された超音波が当たる表面の面積が非常に小さい。そのため、探触子10で受信される反射波の強度も小さい。図5に示す例では、符号SB’の反射波の強度の変化が、気泡C’で反射した反射波によるものである。ちなみに、細分化前の気泡Cが存在していたと仮定した場合、符号SBの破線で示す反射波の強度の変化となる。
溶接箇所W内の欠陥Aは、例えばタブ間に残留した空気に起因するボイドの場合、ある程度の大きさを有しているので、探触子10から発信された超音波が当たる表面の面積が大きい。そのため、探触子10で受信される反射波の強度も大きい。図5に示す例では、符号SAの反射波の強度の変化が、欠陥Aで反射した反射波によるものである。
図5に示す例からも判るように、細分化後の気泡C’で反射した反射波の強度と欠陥Aで反射した反射波の強度との間には大きな差がある。そこで、この細分化後の気泡C’の反射波の強度を確実に閾値未満と判定できるような値を、閾値Sとして設定すればよい。この閾値設定によって検知部11での検知感度を調整することにより、細分化後の気泡C’を除いて、溶接箇所W内の欠陥Aだけを検知できる。
なお、反射波の強度によって判定する以外にも、他のパラメーターによって判定してもよいし、また、複数のパラメーターによって判定してもよい。例えば、図5の例からも判るように、細分化後の気泡C’と欠陥Aとでは反射波を受信している時間に大きな差があるので、この受信時間によって判定してもよい。
図1〜図5を参照して、超音波探傷検査装置1での動作の流れについて説明する。多数の電極が積層され、積層された状態でタブの部分が抵抗溶接(スポット溶接)される。この溶接された箇所W内には、ボイド等の欠陥Aが存在する場合がある。溶接後に、積層状態のタブTは、検査台Dに載置される。
超音波探傷検査装置1の探触子10には、接触媒質12が付着される。探触子10は、溶接箇所Wの上方に配置される。この探触子10と溶接箇所Wとの間には、接触媒質12が介在する。また、直流磁場付与部20の対向する磁極20e,20fと交流電流付与部21の対向する電極21b,21cとが、直交するように、接触媒質12の側方に配置される。
ローレンツ力発生工程を開始すると、直流磁場付与部20の励磁用電源20aでは、磁化コイル20cに直流電流を供給する。磁化コイル20cでは、その直流電流により磁束を発生する。鉄芯20dでは、磁束を誘導し、磁極20eから磁極20fに磁束を流す。これにより、接触媒質12には、直流磁場が付与される。これと同時に、交流電流付与部21の交流電源21aでは、交流電流を発生する。電極21bと電極21cとの間には、交流電流が流れる。これにより、接触媒質12には、直流磁場の流れる方向と直交する方向に交流電流が付与される。交流電流は、周期的に電流の流れる方向が反転する。
この直流磁場と交流電流により、接触媒質12には周期的に力の方向が反転するローレンツ力が作用する。そのため、接触媒質12が振動(電磁振動)し、接触媒質12内に入っている気泡Cが振動する。これにより、気泡Cが、破裂して細分化する。ローレンツ力発生工程開始から所定時間経過すると、励磁用電源20aでの直流電流の供給を停止するとともに、交流電源21aでの交流電流の発生を停止する。
検査工程を開始すると、探触子10では、超音波を発信する。接触媒質12内に細分化した小さい気泡C’が存在する場合、その各気泡C’で超音波がそれぞれ反射される。探触子10では、この反射された超音波の反射波を受信し、反射波の強度等の情報を検知部11に出力する。検知部11では、この反射波の強度が閾値未満と判定し、検知しない。一方、溶接箇所W内に欠陥Aが存在する場合、その欠陥Aで超音波が反射される。探触子10では、この反射された超音波の反射波を受信し、反射波の強度等の情報を検知部11に出力する。検知部11では、この反射波の強度が閾値以上と判定し、欠陥として検知する。なお、溶接箇所W内に欠陥が存在しない場合、検知部11では欠陥が検知されない。
超音波探傷検査装置1によれば、接触媒質12内に気泡Cが入った場合でも、周期的に反転するローレンツ力によって気泡Cが破裂し、細分化する。細分化した気泡C’は超音波を反射したとしても検知され難いので、誤検知を抑制できる。また、ローレンツ力を所定時間発生させるだけなので、誤検知を抑制するための処理時間を短縮できる。
ちなみに、接触媒質12はある程度以上の粘度を有する液体であるので、真空引きによって接触媒質12から気泡を抜き出すには時間を要する。具体的には、大きな気泡は真空引きによる減圧にて容易に潰れるが、ある程度以下の小さな気泡は接触媒質12内に残る。この場合、小さな気泡も、真空引きと外気圧相当への昇圧とを複数回繰り返すことにより、抜き出すことはできる。しかし、真空引きによって接触媒質12内に入っている全ての気泡を抜くためには、長い時間を要する。
図6を参照して、第2実施例に係る超音波探傷検査装置2について説明する。図6は、第2実施例に係る真空引き機能を有する超音波探傷検査装置2を模式的に示す図である。
超音波探傷検査装置2は、第1実施例に係る超音波探傷検査装置1と比較すると、ローレンツ力発生工程の前に真空引き工程を行う点が異なる。超音波探傷検査装置2は、検査機能、ローレンツ力発生機能に加えて真空引き機能を有している。ローレンツ力発生工程では接触媒質12内の気泡を細分化するが、例えば溶接条件等により大きな気泡が混入している可能性があるときには、大きな気泡であっても誤検知されない程度の大きさまで細分化するために、処理時間を長く設定する必要がある。そこで、大きな気泡があったとしても、真空引き工程で接触媒質12内から大きな気泡を抜いておき、ローレンツ力発生工程で残った小さい気泡を細分化する。
超音波探傷検査装置2の真空引き機能について説明する。この真空引き機能は、少なくとも接触媒質12を収容する容器内を真空引きする機能である。超音波探傷検査装置1は、真空引き部30を備えている。
真空引き部30は、容器31と、真空ポンプ32とを備えている。容器31は、接触媒質12及び探触子10を囲い、接触媒質12及び探触子10を収容する容器である。容器31は、取り付け及び取り外しが自在である。容器31は、取り付け時にはタブTの上に載置される。容器31は、タブTの一面との間で密閉状態の空間Kを形成する。容器31は、例えば、真空チャンバーである。容器31の一面には、内部に貫通する配管33が設けられている。真空ポンプ32は、容器31内(密閉空間K)から空気を排出するポンプである。真空ポンプ32には、配管33が接続されている。また、真空ポンプ32には、吸い込んだ空気を排出するための配管34が接続されている。真空引き部30では、容器31がタブTの一面に載置されて密閉空間Kを形成すると、真空ポンプ32が稼動し、容器31の内部の空気を排出する(真空引き)。なお、容器31は、少なくとも接触媒質12を囲う容器であればよい。
容器31内を真空引きすると、容器31内が減圧する。これにより、液体の接触媒質12に吸引力が作用し、接触媒質12内に入っている気泡が徐々に抜け出る。特に、図6に示すように、接触媒質12内に大きさの異なる気泡C1,C2が存在すると、接触媒質12に吸引力が作用すると大きな気泡C1から抜けていく。真空ポンプ32を稼動させる時間は、容器31で形成される空間Kの容積、真空ポンプ32の排気能力、接触媒質12に用いられる液体の粘度等を考慮して、接触媒質12内の大きな気泡C1が抜け出るために必要な時間が適宜設定される。この稼動時間は、接触媒質12内の小さい気泡C2を含む全て気泡が抜け出るために必要な時間に比べて、非常に短い時間である。
なお、真空引きによって大きな気泡C1が接触媒質12内から取り除かれるので、接触媒質12内には小さい気泡C2のみが残る。したがって、超音波探傷検査装置2のローレンツ発生工程では、接触媒質12内に残った小さい気泡C2を細分化する。小さい気泡C2を細分化する場合、大きい気泡C1を細分化する場合に比べて、接触媒質12にローレンツ力を作用させる時間は短くかつローレンツ力の大きさも小さくてよい。したがって、第1実施例に係る超音波探傷検査装置1に比べて、直流磁場付与部20及び交流電流付与部21を作動させる時間として短い時間が設定され、直流磁場付与部20で付与する直流磁場の磁束密度及び交流電流付与部21で付与する交流電流の電流値(最大振幅)等の各値として小さい値が設定される。
図1〜図6を参照して、超音波探傷検査装置2での動作の流れについて説明する。第1実施例での動作説明と同様に、溶接後に、積層状態のタブTは検査台Dに載置される。探触子10には接触媒質12が付着され、その探触子10が溶接箇所Wの上方に配置される。そして、容器31が、積層状態の最上部のタブTに載置され、接触媒質12及び探触子10を囲んだ状態で取り付けられる。
真空引き工程が開始すると、真空ポンプ32が稼動され、容器31内を真空引きする。この真空引きにより、接触媒質12には吸引力が作用する。そのため、接触媒質12から大きな気泡C1が抜け出る。真空引き工程開始から所定時間経過すると、真空ポンプ32が停止する。そして、容器31が、取り外される。
真空引き工程が終了すると、直流磁場付与部20の対向する磁極20e,20fと交流電流付与部21の対向する電極21b,21cとが、直交するように、接触媒質12の側方に配置される。そして、第1実施例での動作説明と同様に、ローレンツ力発生工程が実施される。このローレンツ力発生工程では、接触媒質12内に残っている小さい気泡C2が細分化される。このローレンツ力発生工程が実施される時間は、第1実施例でのローレンツ力発生工程が実施される時間に比べて短い時間である。
ローレンツ力発生工程が終了すると、第1実施例での動作説明と同様に、検査工程が実施される。この検査工程でも、第1実施例と同様に、細分化された気泡C’が欠陥として誤検知されない。
超音波探傷検査装置2によれば、真空引きによって大きな気泡C1を迅速に取り除くことができる。さらに、超音波探傷検査装置2によれば、真空引きによって大きな気泡C1を短時間で取り除いた後に周期的に反転するローレンツ力によって小さい気泡C2を効率良く細分化できる。その結果、誤検知を抑制するための処理時間をより短縮できる。また、超音波探傷検査装置2によれば、真空引き部30と直流磁場付与部20及び交流電流付与部21とを別々に構成できるので、装置構成が複雑化しない。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
上記実施形態では検査の対象を積層型の電池に用いられるタブの溶接箇所としたが、これに限定されるものではなく、例えば、捲回型の電池であっても、同極より延びる複数のタブを接合する構造に対して適用することもできる。また、タブを形成せず、長方形の電極本体に活物質の未塗工部を形成し、未塗工部にて金属箔同士を溶接する構造に対して適用することもできる。また、本発明は、抵抗溶接以外のレーザー溶接等による溶接箇所を検査する場合に適用してもよい。
また、第2実施例ではローレンツ力発生工程の前に減圧工程を行う構成としたが、ローレンツ力発生工程と減圧工程とを併行して行ってもよい。これにより、接触媒質内の大きな気泡の抜き出しと小さな気泡の細分化とを同時に行うので、接触媒質内の気泡による誤検知を抑制するための処理時間をより短縮できる。