JP6491472B2 - ペリクル枠およびペリクル枠の製造方法 - Google Patents

ペリクル枠およびペリクル枠の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ペリクル枠およびその製造方法に関する。
半導体製造において、半導体ウェハにパターンを形成する露光工程で用いられるフォトマスクを防塵するために、透明な薄い膜(ペリクル膜)が張設されたペリクルが用いられる。このペリクル膜をフォトマスクから所定距離離して配するためにペリクル枠という長方形の枠体が用いられる。このペリクル枠には、いくつかの特性が求められる。
その一つは、強い露光光、例えばUV光あるいはエキシマレーザー光などに耐え得る耐久性である。また、露光光がペリクル枠に反射して、半導体などの被露光体上に回り込まないような表面色であることも求められる。更に、ペリクル枠にペリクル膜を張設した際に発生する膜張力により、ペリクル枠が変形しないために、適度な機械的強度や剛性も求められる。こうした様々な特性を満たすように、ペリクル枠には、材料や表面加工など、種々の工夫が施されてきた(特許文献1ないし3参照)。
特開平7−72617号公報 特開平9−166867号公報 特開平11−167198号公報
しかしながら、従来のペリクル枠は、機械的強度と耐久性、機械的強度と露光時の反射光の抑制、といった複数の要求を同時に満たすことは困難で、何れも一長一短であった。ペリクル枠とその製造方法に関しては、なお改善の余地が残されていた。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本発明の第1の形態として、枠形状に形成されたペリクル枠が提供される。このペリクル枠は、ヤング率が150GPa以上で、かつビッカース硬度が800以上の焼結体からなり、表面のL*a*b*表色系での明度L*が、60以下である。かかるペリクル枠は、焼結体を用いているので露光に対して高い耐久性を確保でき、かつ表面の明度L*を60以下としているので露光時の反射光の回り込みを抑制することができる。更に、このペリクル枠は、高いヤング率および高いビッカース硬度を有するので、ペリクル膜を枠体に張設する際にペリクル枠の変形を抑制することができ、延いてはペリクルが貼付されるフォトマスクの歪みを抑制することができる。
(2)こうしたペリクル枠において、表面の明度L*が、30以上として良い。こうすれば、表面の明度L*が30以上あるので、ペリクル枠やペリクル膜に付着した異物の色が濃くても目視による検査が容易である。
(3)前記焼結体は、セラミック、超硬合金、サーメット、およびそれらの複合材のうちのいずれか一つ、もしくはこれらの材料の組み合わせとして良い。これらの材料を用いれば、露光に対して高い耐久性を確保できる。
(4)前記セラミックは、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、サイアロンおよびそれらの複合材のうちのいずれか一つとして良い。これらの材料は、加工性に優れ、更に好ましい。
(5)前記セラミックは、窒化ケイ素、窒化ケイ素を主成分とし発色剤を添加した窒化ケイ素セラミック、黒化ジルコニア、および黒色アルミナのうちのいずれか一つとして良い。これらの材料を用いれば、ペリクル枠表面の明度L*を適切な範囲としやすい。
(6)こうしたペリクル枠の焼結体は、好ましくは、少なくとも、ヤング率が250GPa以上またはビッカース硬度が1000以上のいずれか一方を満たすものとして良い。焼結体のヤング率およびビッカース硬度の少なくとも一方が高いので、変形の発生を更に抑制できる。
(7)ペリクル枠の上面、下面、外周面、内周面のうちの少なくとも一つの表面の、算術平均粗さRaが、0.1μm以上0.4μm以下であること、10点平均粗さRzJISが、0.4μm以上2.0μm以下であること、最大高さ粗さRzが、0.8μm以上4.0μm以下であることのうち少なくとも一つを満たすものとして良い。こうすれば、適切な粗さを確保しているので、治具や周辺部との接触による粉塵の発生を抑制することができる。更に、適切な粗さを確保しているので、半導体ウェハにパターン形成する露光工程の際に、ペリクル枠による光の反射を抑制することができる。
(8)また、前記表面のうち、ペリクル膜が張設される上面および下面の少なくとも一方の表面の平坦度が、10μm以下とすることも好ましい。こうすれば、半導体ウェハにパターンを形成する露光工程で使用されるフォトマスク(ガラスマスク等)の歪みの発生を抑制してペリクル枠を貼付することができ、露光時のフォトマスクの歪みなどによる光学的特性の低下を抑制できる。
(9)前記平坦度は、5μm以下として良い。この程度の平坦度とすれば、ペリクルを貼付する際の歪みを更に抑制できる。
(10)ペリクル枠の厚みは、3mm以下として良い。高硬度の焼結体を用いているので、ペリクル枠の枠形状の厚みを薄くでき、更に、ペリクル枠を低背化でき、軽量化でき、断面積を小さくすることが容易となる。即ち、本発明のペリクル枠は、その厚みが、3mm以下の場合に好適に使用することができる。
(11)本発明の第2の形態として、枠形状のペリクル枠を製造する方法が提供される。この製造方法は、焼結体材料を、前記枠形状より大きな形状に調製し、前記焼結体材料を、所定の温度で焼結して高剛性焼結体とし、前記高剛性焼結体の全外周面を研削加工し、該研削加工した高剛性焼結体の表面を研磨して、表面のL*a*b*表色系での明度L*を60以下とする。かかるペリクル枠の製造方法によれば、露光に対して高い耐久性を持ち、露光時の反射光の回り込みの少ないペリクル枠を容易に製造することができる。
(12)こうした製造方法に用いる高剛性焼結体は、セラミック、超硬合金、サーメットおよびそれらの複合材のうちのいずれか一つとして良い。これらの材料を用いれば、露光に対して高い耐久性を持ち、露光時の反射光の回り込みを抑制するペリクル枠を容易に製造することができる。
第1実施形態としてのペリクル枠を示す斜視図。 図1における2−2矢視断面図。 ペリクル枠の製造方法を示す工程図。 製造工程の詳細を示す説明図。 各サンプルの特性を示す説明図。 いくつかのサンプルの表面粗さを示す説明図。 いくつかのサンプルの色相を示す説明図。
[ペリクル枠の構造]
図1は、本発明の各実施形態に共通のペリクル枠10の形状を示す斜視図である。また、図2は、図1の2−2矢視断面図である。図2では、理解の便を図って、ペリクル枠10の片面に張設されたペリクル膜30を併せて記載した。ペリクル枠10にペリクル膜30を張設したものをペリクル40と呼ぶ。本明細書では、ペリクル枠の全ての面のうち、ペリクル膜が張設される二つの面を区別する場合には、図2においてペリクル膜が張設された側を「上面」といい、反対の面を「下面」という。また、この両面と外側の面の3つの面を含めて「外周面」と呼び、ペリクル枠の内側の面を「内周面」と呼ぶことがある。また、これらの面をそれぞれ区別する必要がない場合は、単に「表面」と呼ぶことがある。
両図に示すように、このペリクル枠10は、略長方形状の枠体であり、長方形状をなす上下左右の枠体の太さ(断面縦横寸法)は、同一である。こうしたペリクル枠10は、後述する製造方法により製造されるが、焼結体により形成されたペリクル枠の共通する構造について、まず説明し、その後、製造方法の実施形態、種々の製造方法により製造されたペリクル枠の実施形態の順に説明する。
このペリクル枠10には、左右の枠体に4箇所、窪み12,14が設けられている。窪み12,14は、図2に示したように、有底の丸穴であり、底部は円錐形状に整えられている。この窪み12,14は、ペリクルの製造およびその後のフォトマスクに取り付ける際の位置決めに用いられる。位置決めに際しては、図示しないペリクル製造装置あるいはペリクル取り付け装置に設けられた位置決めピンが、4箇所の窪み12,14に嵌合する。
ペリクル枠10の下辺および上辺の枠体には、貫通孔20がそれぞれ設けられている。この貫通孔20は、フォトマスクにペリクル40が取り付けられた後、ペリクルとフォトマスクに囲まれた空間と外部環境との気圧調整に用いられる。外部環境から粉塵が侵入しないよう、貫通孔20には、図示しないフィルタが設けられる。
[ペリクル枠の製造方法の概略]
図1、図2に示したペリクル枠10は、以下の製造工程を経て製造される。この製造工程の概略を図3に示した。ペリクル枠10を製造する場合には、まず粉体を製作する(工程P10)。ここで粉体とは、焼結体の元になる物質であり、後述する様に窒化ケイ素やジルコニア、あるいはアルミナなどの原料粉末に焼結助剤などを適宜加え湿式混合した後、噴霧乾燥法によって50ないし100μmの顆粒に作製したものである。原料粉末の粒径の測定は、レーザー回折・散乱法により行なったが、動的光散乱法や沈降法により行なってもよい。
次に、この粉体を成型し、ペリクル枠の原形を形成する(工程P20)。本実施形態では、焼成後に、約縦(図1、上下方向)153ミリ×横(同図、左右方向)124ミリ×枠体(断面縦横)7ミリ程度になるように成型した。後述する焼成工程により、ペリクル枠の外形は、20ないし30%程度縮むため、予め、焼成後のペリクル枠より大きく成型する。なお、ペリクル枠は、半導体露光装置における露光用マスクの大きさに合わせて種々の大きさが可能である。
粉体を成型した後、これを所定温度で焼成する(工程P30)。焼成温度は、粉体の組成によるが、一般に1500℃以上である。焼成することにより、高いヤング率と硬度とを持つ焼結体が得られる。サンプルにおけるヤング率と硬度については、後述する。
焼成後、外形を、マシニングセンターなどを用いて、研削加工する(工程P40)。ペリクル枠の外形は、焼成により20ないし30%程度縮むため、0.5ないし1.0パーセントの寸法バラツキが不可避であり、寸法精度を出すために、研削加工により、所望の大きさに研削する。研削加工により、50μm程度の寸法精度および平坦度が得られる。
続いて、平研加工を行なう(工程P50)。平研加工とは、幅20ミリ程度の円盤形状のダイヤモンド砥石を高速回転し、外形研削したペリクル枠10の上面および下面を平らに加工する。平坦度が、10μm以下、好ましくは5μm程度となるよう加工する。
その後、露光光の反射を抑えるためブラストにより粗さ調整を行なう(工程P60)。ブラストは種々の手法が知られているが、本実施形態では、粒度♯600(平均粒径約30ミクロン)の炭化ケイ素砥粒によるサンドブラストにより、ペリクル枠10の表面を粗化した。もとより、化学エッチングによって粗さを調整しても良い。
以上の工程により、実施形態のペリクル枠10のサンプルを製造した。なお、ペリクル枠10のサンプルの製造時に、併せてテストピースを製造した。テストピースは、上述したペリクル枠10の製造工程と同じ工程により、外形寸法40mm×30mm、厚さ4mmに仕上げた。表面粗さも、炭化ケイ素砥粒によるサンドブラストにより、同様に仕上げた。後述するヤング率、ビッカース硬度などの硬度、表面粗さ、表面色相などは、全てこのテストピースにより計測したが、同じ物性と考えられるので、以下の説明では、全てペリクル枠のヤング率等であるとして説明する。
[ペリクル枠の製造方法の実施形態]
上記製造工程により、各種サンプルを製造した。以下、製造方法の実施形態1ないし3について説明する。
(1)製造方法の実施形態1:
図3に示した製造工程に従い、以下の工程で、原材料の主成分として窒化ケイ素を用いたペリクル枠を製造した。
まず、α型窒化ケイ素が90%以上で平均粒径が0.7μmの窒化ケイ素粉末と、焼結助剤として平均粒径が1.5μmの酸化イットリウム及び平均粒径1.0μmの酸化アルミニウムを重量比で94:3:3の割合で湿式混合し、成型用有機バインダを加えた後、通常の噴霧乾燥法により窒化ケイ素素地粉末を作製した。これが粉体製作工程P10に相当する。
次に、素地粉末を金型プレス法により外形寸法=184×149×幅8.5mm程度に成型した。これが成型工程P20に相当する。更に、成型体を脱バインダー後、窒素ガス20気圧の雰囲気中で1850℃×2時間保持したのち、窒素ガス圧を75気圧に増圧してさらに2時間保持することにより、緻密な窒化ケイ素焼結体(寸法153×124×幅7mm)を焼成した。これが、焼成工程P30に相当する。
その後、外形をマシンニングセンターで、149×120×幅3mmに加工した。これが外形研削工程P40に相当する。更に、外形研削した上面および下面をダイヤモンド砥石にて平研加工した。これが平研加工工程P50に相当する。最後に、#600の炭化ケイ素砥粒によりサンドブラスト研磨を行ない、表面を粗化した。これが表面粗さ調整工程に相当する。
以上の処理により、窒化ケイ素を主成分とするペリクル枠10を得た。このペリクル枠は、図5以下では、サンプル番号2として示した。このペリクル枠10のヤング率とビッカース硬度とを計測したところ、ヤング率320GPa、ビッカース硬度1500であった。このペリクル枠10の外観は、灰色であった。
(2)製造方法の実施形態2:
同様に、原材料の主成分としてジルコニアを用いたペリクル枠を、以下の工程により製造した。
まず、イットリア3モル%の部分安定化ジルコニアの粉末(比表面積7m)に成型用有機バインダを加えて湿式混合し、通常の噴霧乾燥法によりジルコニア素地粉末を作製した(工程P10)。次に、この粉末を金型プレス法により、外形寸法=199×161×幅9mmに成型した(工程P20)。その後、この成型体を、脱バインダーし、大気中1500℃で4時間焼成したのち、更にカーボンケース内で不活性ガス雰囲気中、1450℃、150MPaで2時間HIP焼成した(工程P30)。
こうして得られた焼結体の外形を、マシンニングセンターで、149×120×幅3mmに研削加工した(工程P40)。更に、外形研削した焼結体の上面および下面をダイヤモンド砥石にて平研加工した(工程P50)。最後に、#600の炭化ケイ素砥粒によりサンドブラスト研磨を行ない、表面を粗化した(工程P60)。
以上の処理により、ジルコニアを主成分とするペリクル枠10を得た。このペリクル枠は、図5以下では、サンプル番号3として示した。このペリクル枠10のヤング率とビッカース硬度とを計測したところ、ヤング率210GPa、ビッカース硬度1200であった。また、外観は、灰色を呈した。
(3)製造方法の実施形態3:
同様に、原材料の主成分としてアルミナと炭化チタンの複合セラミックからなるペリクル枠を、以下の工程により製造した。
まず、平均粒径0.5μmのαーアルミナ粉末70%、平均粒径1.0μmの炭化チタン28%、残部をMgCO3:Y23=1:1の焼結助剤からなる複合材料を湿式混合し、成型用有機バインダを加えたのち通常の噴霧乾燥法によりアルミナ・炭化チタン複合セラミック素地粉末を作製した(工程P10)。次に、この素地粉末を金型プレス法により外形寸法=184×149×幅8.5mmに成型した(工程P20)。その後、この成型体を脱バインダーし、不活性ガス中で1700℃で3時間保持し、焼成した(工程P30)。こうして緻密な黒色複合セラミック焼結体が得られた。
こうして得られた焼結体の外形を、マシンニングセンターで149×120×幅3mmに研削加工した(工程P40)。更に、外形研削した焼結体の上面および下面をダイヤモンド砥石にて平研加工した(工程P50)。最後に、#600の炭化ケイ素砥粒によりサンドブラスト研磨を行ない、表面を粗化した。(工程P60)。
以上の処理により、アルミナ・炭化チタンを主成分とする複合セラミックのペリクル枠10を得た。このペリクル枠は、図5以下では、サンプル番号4として示した。このペリクル枠10のヤング率とビッカース硬度とを計測したところ、ヤング率420GPa、ビッカース硬度2100であった。また、外観は黒褐色を呈した。
(4)比較例の実施形態1:
原材料の主成分としてアルミナを用いたペリクル枠を、以下の工程により製造した。
まず、平均粒径2.0μmのαーアルミナ粉末99%、残部をSiO2 :MgO:CaO比が2:1:1の焼結助剤からなるアルミナセラミック材料100部を添加して湿式混合し、成型用有機バインダを加えたのち通常の噴霧乾燥法により高純度アルミナ素地粉末を作製した(工程P10)。次に、この素地粉末を金型プレス法により外形寸法=184×149×幅8.5mmに成型した(工程P20)。その後、この成型体を脱バインダーし、大気中で1600℃で2時間保持し、焼成した(工程P30)。こうして緻密な高純度アルミナ焼結体が得られた。
こうして得られた焼結体の外形を、マシンニングセンターで、149×120×幅3mmに研削加工した(工程P40)。更に、外形研削した焼結体の上面および下面をダイヤモンド砥石にて平研加工した(工程P50)。最後に、#600の炭化ケイ素砥粒によりサンドブラスト研磨を行ない、表面を粗化した。(工程P60)。
以上の処理により、アルミナを主成分とする複合材からなるペリクル枠10を得た。このペリクル枠は、図5以下では、サンプル番号5として示した。このペリクル枠10のヤング率とビッカース硬度とを計測したところ、ヤング率380GPa、ビッカース硬度1400であった。また、外観は、白色を呈した。
(5)比較例の実施形態2:
上述した実施形態2で得られた平研加工品(工程P50)をサンドブラスト研磨に代えて鏡面研磨加工し、表面粗さが0.002μmの表面を得た(工程P60)。
この処理により、ジルコニアを主成分とするペリクル枠10を得た。このペリクル枠は、図5以下では、サンプル番号6として示した。
以上の実施形態1ないし3により、略長方形の枠形状に形成されたペリクル枠で、ヤング率150GPaかつビッカース硬度800以上の焼結体からなり、表面のうちの少なくとも一方の面の算術平均粗さRaが0.1μm以上0.4μm以下のものを製造することができた。係る製造方法によれば、高いヤング率およびビッカース硬度を備え、かつ表面の少なくとも一方の面の粗さを適切な範囲としたペリクル枠を容易に製造することができる。
[ペリクル枠の実施形態]
上述した製造方法およびその他の方法により、焼結体材料を所定形状に調製し、これを焼結して、ペリクル枠を製造した。こうして得られたサンプル番号1ないし6のペリクル枠の特性を、図5に示した。図示するように、サンプル番号1は、ジュラルミン(JIS A7075)を黒色アルマイト処理したものであり、従来品(比較例)である。そのヤング率は72GPa、ビッカース硬度は、170程度であった。
図5にサンプルとして示したペリクル枠は、表面の光沢をなくすためサンドブラストを行なっており、得られた表面粗さの値と当該サンプルで摩擦摩耗試験を行なった結果を、図6に示した。摩擦摩耗試験は、圧子として、SUS304のφ10mmの鏡面研磨球を用い、この圧子に500グラムの加重をかけつつ1mm/秒の速度でストローク10mmとして、サンプル表面に5回こすりつけた。摩擦摩耗試験後、SUS圧子表面に残った擦過傷を観察し、略円形の擦過傷の直径を測定、これを摩擦痕サイズとして定義した。摩擦痕の単位は、μmである。
摩擦痕の長さを測定したのは、ペリクル枠からの粉塵は露光装置側の治具・部材との摩擦によって発生するものであり、本摩擦摩耗試験で得られたSUS圧子の摩耗痕サイズは、摩擦による粉塵の発生を管理する指標にできると考えられるからである。本結果より表面粗さと摩耗痕サイズに相関が認められ、表面粗さを請求範囲に記載した範囲内にすればペリクル枠からの粉塵の発生が抑えられることが判明した。また、図6において、圧子がサンプルに接触した状態での単位面積当たりの圧力も表示した。圧子の荷重は500グラムの一定荷重であるが、圧子とサンプル表面との接触面積すなわち摩耗痕の面積により、単位面積当たりの圧力は異なる。表面粗さが低く摩耗痕サイズが小さかったサンプル程、高圧力で摩擦摩耗試験を行ったことになる。
図5に示したサンプル番号2〜6のペリクル枠のうち、図6に示したサンプル番号2、3、4の表面の粗さは、JIS B0601 2013に準拠して測定したところ、
(A)算術平均粗さRaが、0.1〜0.4μm、
(B)10点平均粗さRzJIS が、0.4〜2.0μm
(C)最大高さ粗さRZが、0.8μm〜4.0μm
であった。一方、サンプル番号6の鏡面研磨品の粗さは、算術平均粗さRaで0.002、10点平均粗さRzJIS で0.007、最大高さ粗さRZで0.013、と極めて低く、観察された摩耗痕も、圧子の接触部が荷重によってつぶされた変形痕であり、SUSの摩耗は認められなかった。一方、サンプル番号1は、SUS圧子よりも硬度が低いため、サンプル側に擦過痕が生じたものの圧子側には何の擦過痕も見られなかったため、摩耗痕サイズは『−』と表記した。
次に、ペリクル枠10の色相について説明する。図7に、サンプル番号1〜5のペリクル枠の色相のデータを掲載する。各ペリクル枠の表面(平研面)の色相を、コニカミノルタ製分光測色計CM−700dにより、L*a*b*の表色系で、2回ずつ測定し、平均値を記載した。サンプル番号1のペリクル枠は、従来から用いられてきた黒化ジュラルミンを用いたものである。その測定結果のうち、明度L*は、24.9であった。視覚的にはほぼ黒色であった。これに対して、サンプル番号5のアルミナを用いたものは、明度L*が91.2でほぼ白色であった。サンプル番号3のペリクル枠はジルコニアの焼結体を更にカーボン雰囲気中でHIP焼成を行なったものである。その明度L*は約43であり、灰色であった。同様に、サンプル番号2のペリクル枠は、窒化ケイ素を用いており、焼成後の明度L*は約40,呈色は灰色であった。
これらのサンプル番号のペリクル枠を、半導体製造の露光装置に装着し、評価を行なった。評価の内容は、
[1]所定の累積光量の露光による劣化が認められないこと、
[2]ペリクル枠の製作、および露光装置への取り付け時に、治具の摩耗が認められないこと、
[3]露光光の反射が十分に少なく、ペリクル枠に粉塵が付着したとき、光学的な外観検査(目視を含む)により、容易に粉塵の付着を検出できること、
の3つとした。
上記[1]ないし[3]の評価において、全ての項目を満たしているものを評価Aとし、3つの項目のうち2つを満たしている場合を評価Bとした。3つの検査項目のうち、満たしている項目が一つ以下のものを、評価Cとした。サンプル番号1は、耐光性に乏しく低剛性であることから評価C、とした。サンプル番号5は、治具側の摩耗が認められることがあり、更にサンプル番号5は白色であるため、評価Cとなった。またサンプル番号6は、鏡面から光の反射があり評価Bとなった。
図5に示した検査結果の評価から、ペリクル枠10を、ヤング率150GPaかつビッカース硬度800以上の焼結体から構成し、その明度L*を60以下とすれば、露光に対して高い耐久性を確保でき、かつ露光時の反射光の回り込みの発生を抑制することができることが分かった。また、仮に粉塵が発生しても容易に視認できた。枠体に付いた粉塵は、露光時にマスクに付着することがあり、装着前にこうした粉塵を検査で発見しやすいことは、ペリクル枠として望ましい。
また、上記の実施形態のペリクル枠10のうち、窒化ケイ素セラミックのサンプル番号2、ジルコニアを用いたサンプル番号3、複合セラミックのサンプル番号4では、ペリクル枠10の明度L*は60以下であり、その色は、それぞれ灰色、灰色、黒褐色となっている。このため、このペリクル枠10を露光装置における露光に用いると、枠体からの反射光が抑制され、反射光が被露光物(半導体等)に回り込むことがない。このため、露光時の不良を低減することができる。また、枠体に、塵埃や微粉体などの粉塵が付着した場合、これを目視検査で容易に発見することができた。枠体に付いた粉塵は、露光時にマスクに付着することがあり、装着前にこうした粉塵を検査で発見しやすいことは、ペリクル枠として望ましい。また、鏡面仕上げしたジルコニアであるサンプル番号6も、光沢はあるものの、灰色であり、粉塵の目視検査は一定可能であった。
これらの評価をまとめると、ペリクル枠の表面が、L*a*b*表色系において、L*≦60であれば、粉塵の視認は容易であると言えることが分かった。また、更にL*≧30とすれば、黒っぽい粉塵の視認も容易であると言える。
更に、図5に示したサンプル番号2ないし6のペリクル枠は、何れも上面および下面の平坦度を10μm以下、実際には5μm以下としている。ペリクル枠10は、高いヤング率および硬度(ビッカース硬度)を備えるから、ペリクル膜の張設による歪みはほとんど生じない。従って、ペリクルをフォトマスクに貼りつけてもフォトマスクに歪がほとんど生じることはなく、半導体パターンの露光時の光学的特性が、ペリクルの貼付によって低下することがほとんどない。
[変形例]
変形例1:
上記各実施形態では、ペリクル枠の厚みは、3mm程度としたが、露光装置側の要求に応じた寸法とすればよい。本発明のペリクル枠は、高いヤング率と硬度(ビッカース)を備えるので、その厚みや枠体の幅を、更に小さくすることも可能である。もとより、枠体の厚みや幅は、実施形態の寸法より大きくしても良い。
変形例2:
材料に窒化ケイ素を用いたサンプル番号2は、呈色が灰色となっており、そのL*は40.8であった。この窒化ケイ素を用いたペリクル枠を製造する際、発色剤を添加して焼成することにより、窒化ケイ素の剛性を残したまま、その呈色を更に濃いものに、即ちL*を更に低い値にすることができる。添加する発色剤としては、Fe、Co、Cr、W、Moなど、周知のものを用いることができる。Fe−Wを窒化ケイ素に添加すれば黒窒化ケイ素が得られる。また、Fe−Coを添加することで黒ジルコニアが、Cr−Moを添加することで黒アルミナが得られる。この他、Crの添加により赤アルミナを得ることができる。L*a*b*表色系で、L*が60以下にできればよく、一般に赤色を呈するFe、Cr、一般に青色を呈するCo、一般に黒色を呈するW、Moを適宜組み合わせて、所望の明度L*および色相を実現すれば良い。なお、添加量は、通常1重量%程度である。
変形例3:
上記実施形態では、ペリクル枠の表面の明度をL*a*b*表色系で測定したが、YCbCr表色系、L*u*v*表色系、XYZ表色系などに換算して規定しても良い。
変形例4:
焼結体としては、通常のセラミックの他に、ファインセラミック(機能性セラミック)やその複合材も用いることができる。
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
10…ペリクル枠
12,14…窪み
20…貫通孔
30…ペリクル膜
40…ペリクル

Claims (11)

  1. 枠形状に形成されたペリクル枠であり、
    ヤング率が150GPa以上で、かつビッカース硬度が800以上の焼結体からなり、
    表面のL*a*b*表色系での明度L*が、60以下であり、
    前記ペリクル枠の上面、下面、外周面、内周面のうちの少なくとも一つの表面の、
    算術平均粗さRaが、0.1μm以上0.4μm以下であること、
    10点平均粗さRzJISが、0.4μm以上2.0μm以下であること、
    最大高さ粗さRzが、0.8μm以上4.0μm以下であること
    のうち少なくとも一つを満たすことを特徴とする
    ペリクル枠。
  2. 表面の明度L*が、30以上である請求項1記載のペリクル枠。
  3. 前記焼結体は、セラミック、超硬合金、サーメット、およびそれらの複合材のうちのいずれか一つ、もしくはこれらの材料の組み合わせである請求項1または請求項2記載のペリクル枠。
  4. 前記セラミックは、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、サイアロンおよびそれらの複合材のうちのいずれか一つである請求項3記載のペリクル枠。
  5. 前記セラミックは、窒化ケイ素、窒化ケイ素を主成分とし発色剤を添加した窒化ケイ素セラミック、黒化ジルコニア、および黒色アルミナのうちのいずれか一つである請求項4記載のペリクル枠。
  6. ヤング率が250GPa以上あるいはビッカース硬度が1000以上である請求項1から請求項5のいずれか一項記載のペリクル枠。
  7. 前記表面のうち、ペリクル膜が張設される上面および下面の少なくとも一方の表面の平坦度が、10μm以下である請求項1から請求項6のいずれか一項記載のペリクル枠。
  8. 前記平坦度が5μm以下である請求項7記載のペリクル枠。
  9. ペリクル枠の厚みは、3mm以下である請求項1から請求項8のいずれか一項記載のペリクル枠。
  10. 枠形状のペリクル枠を製造する方法であって、
    焼結体材料を、前記枠形状より大きな形状に調製し、
    前記焼結体材料を、所定の温度で焼結して高剛性焼結体とし、
    前記高剛性焼結体の全外周面を研削加工し、
    該研削加工した高剛性焼結体の表面を研磨して、
    表面のL*a*b*表色系での明度L*を60以下とし、
    前記ペリクル枠の上面、下面、外周面、内周面のうちの少なくとも一つの表面の、
    算術平均粗さRaが、0.1μm以上0.4μm以下であること、
    10点平均粗さRzJISが、0.4μm以上2.0μm以下であること、
    最大高さ粗さRzが、0.8μm以上4.0μm以下であること
    のうち少なくとも一つを満たすものとした
    ペリクル枠の製造方法。
  11. 前記高剛性焼結体は、セラミック、超硬合金、サーメットおよびそれらの複合材のうちのいずれか一つである請求項10記載のペリクル枠の製造方法。
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