JP6489362B2 - 摺動軸の製造方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、樹脂コーティング材料の膜厚や弾性率が増加するに従って、ブローチ加工荷重が増加するという問題がある。ブローチ加工荷重が増加すると、コーティング層をブローチ刃具でスムーズに切削することが難しく、コーティング層の表面が荒れてスプラインの寸法精度が悪くなったり、最悪の場合、コーティング層が剥がれたりするおそれがあるためである。この点、ブローチ加工速度を低下させることによってブローチ加工荷重を低減させてもよいが、そうすると、サイクルタイムが伸びて生産性が低下してしまう。
また、樹脂材料の温度が融点T m −100℃程度で弾性率の低下が概ね収束するので、樹脂材料の温度を融点T m −100℃以下に抑えることによって、耐久性等の樹脂層の物性に与える影響を少なくすることができる。
本発明の摺動軸(5)の製造方法では、前記樹脂層(27)を形成する工程は、流動浸漬によって前記樹脂層(27)を形成する工程を含んでいてもよい(請求項2)。
本発明の摺動軸(5)の製造方法では、前記加熱の対象が、前記樹脂層(27)であってもよい(請求項4)。
この方法によれば、樹脂層が直接加熱されるので、樹脂層の弾性率を全体に亘って均等に低下させることができ、ブローチ加工精度を向上させることができる。
ポリアミド610およびポリアミド612は、通常時の弾性率が比較的高いため、ブローチ加工中の樹脂材料の弾性率を低下させるという本発明による利益を効果的に享受することができる。
図1は、本発明の一実施形態に係るインターミディエイトシャフト5が組み込まれた電動パワーステアリング装置1の概略図である。
電動パワーステアリング装置1は、ハンドル2と一体回転可能に連結されたステアリングシャフト3、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結されたインターミディエイトシャフト5、インターミディエイトシャフト5に自在継手6を介して連結されたピニオンシャフト7、およびピニオンシャフト7のピニオン歯7aに噛み合うラック歯8aを有して、自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラックバー8を備えている。
ラックバー8は、車体に固定されるラックハウジング10内に、図示しない複数の軸受を介して直線往復動自在に支持されている。ラックバー8の両端部はラックハウジング10の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド11が結合されている。
ハンドル2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、その回転が、ピニオン歯7aおよびラック歯8aによって自動車の左右方向に沿うラックバー8の直線運動に変換されて操向輪12の転舵が達成される。
トーションバー13には、両軸3a、3b間の相対回転変位量から操舵トルクを検出するためのトルクセンサ14が設けられており、トルクセンサ14のトルク検出結果がECU(Electric Control Unit:電子制御ユニット)15に与えられる。
減速機18は、電動モータ17により回転駆動される入力軸としてのウォームシャフト19(小歯車)と、ウォームシャフト19に噛み合うとともにステアリングシャフト3の出力軸3bに一体回転可能に連結されるウォームホイール20(大歯車)とを備えている。
インターミディエイトシャフト5は、たとえばロアーシャフトである内軸21と、たとえばアッパーシャフトである筒状の外軸22とを備えている。
外軸22の上端は、自在継手4のヨーク4aに連結されており、内軸21の下端は、自在継手6のヨーク6aに連結されている。
内軸21は、第一端部23側から外軸22内に挿入されて、軸方向X1に摺動可能に連結されている。具体的には、内軸21、および外軸22がスプライン嵌合されている。
図3は、図2のIII−III切断線における断面図である。図4は、図2のIV−IV切断線における断面図である。
内スプライン25と外スプライン26の噛み合い、すなわちスプライン嵌合により、内軸21と外軸22は、軸方向X1に相対摺動可能でかつ同伴回転可能とされている。
図5は、本発明の第1実施形態に係るインターミディエイトシャフト5の製造工程の一部を示す図である。
流動浸漬工程では、まず、内スプライン25を前加熱する。前加熱の温度は、後述する浸漬コーティングで使用される粉体塗料中のベース樹脂の融点Tm以上である。たとえば、ベース樹脂としてポリアミド610が使用される場合には、240℃〜250℃まで加熱する。加熱方法としては、特に制限されず、たとえば、高周波加熱、ヒータ加熱、熱風加熱等の公知の加熱方法を適用できる。次に、樹脂層27のもとになる粉体塗料を、流動槽内で、空気等を吹き込んで浮遊、流動させた状態とする。そして、浮遊、流動している粉体塗料中に、前加熱された内軸21を浸漬する。
コーティング工程で形成したブローチ加工前の樹脂層27の厚さtがこの範囲未満では、特にポリアミド610等の、溶融時の粘度が高く、被着後のつきまわり性が低いためスムーズに溶融流展されないベース樹脂を含む粉体塗料を使用した際に、歯溝25a内から内スプライン25の歯先25bまで連続した樹脂層27を形成し難くなる。
一方、厚さtが上記の範囲を超える場合には、ブローチ加工前の肉厚の樹脂層27内(特に、歯溝25aの樹脂層27内)で、厚さ方向の温度差が大きくなって真空ボイドが発生し易くなる場合がある。
次に、内スプライン25を後加熱する。これにより、外周面21aの半融解状態になった樹脂が完全に溶かされ、樹脂表面が滑らかに仕上げられる。
この第1実施形態では、ブローチ加工工程に先立って、少なくとも樹脂層27およびブローチ刃具29の一方を加熱する工程を行う。加熱方法としては、特に制限されず、たとえば、高周波加熱、ヒータ加熱、熱風加熱等の公知の加熱方法を適用できる。加熱温度は、樹脂層27を構成する樹脂材料のガラス転移点Tg以上であり、好ましくは、ガラス転移点Tg以上、当該樹脂材料の融点Tm−100℃以下である。たとえば、樹脂材料としてポリアミド610(Tg=約50℃、Tm=約220℃)が使用される場合には、その加熱温度は、50℃〜120℃であることが好ましい。これにより、冷却して固化した樹脂層27の弾性率を低下させることができる。
一方、ブローチ刃具29を加熱する場合には、樹脂層27の弾性率を低下させた後にブローチ加工に移行と言うよりはむしろ、加熱されたブローチ刃具29によって樹脂層27の弾性率を低下させながら、ブローチ加工を行う。
具体的には、たとえば図7を参照して、あらかじめ用意したブローチ刃具29内に、内軸21を通過させることによって、樹脂層27をブローチ加工して薄肉化する。
そして、内軸21とブローチ刃具29の中心軸を一致させ、かつ内軸21の歯溝25aとブローチ刃具29の歯30の位相を一致させた状態で、当該ブローチ刃具29内に内軸21を通過させる。これにより、樹脂層27がブローチ加工されて薄肉化されて内スプライン25が形成される。
この第1実施形態に係る方法によれば、ブローチ加工中の樹脂材料(樹脂層27)がガラス転移点Tg以上の状態であるため、当該加工中の樹脂材料の弾性率を十分に低下させることができる。これにより、ブローチ加工荷重を低減し、当該樹脂材料をブローチ刃具29でスムーズに切削することができる。その結果、樹脂層27に形成される内スプライン25の寸法精度を向上できると共に、当該樹脂層27の剥がれを防止することができる。
また、樹脂材料の温度が融点Tm−100℃程度で弾性率の低下が概ね収束するので、樹脂材料の温度を融点Tm−100℃以下に抑えることによって、耐久性等の樹脂層27の物性に与える影響を少なくすることができる。
図8は、本発明の第2実施形態に係るインターミディエイトシャフト5の製造工程の一部を示す図である。
静電塗装工程では、スプレーガン28と、塗装対象である内軸21との間に高電圧を印加し、樹脂層27のもとになる粉体塗料をスプレーガン28から吹き付ける。これにより、前述の流動浸漬工程と同様に、内軸21の外周面21aに樹脂層27が形成される。なお、粉体塗料のベース樹脂としては、前述の各種ベース樹脂を使用できる。
その後、冷却した後、ブローチ加工工程を行う。冷却は、たとえば、室温で半日程度放置して行う自然冷却であってもよい。
この第2実施形態においても、前述の第1実施形態と同様に、ブローチ加工工程に先立って、少なくとも樹脂層27およびブローチ刃具29の一方を加熱する工程を行う。加熱方法としては、前述の各種加熱方法を適用できる。加熱温度についても、前述の第1実施形態と同様である。
一方、ブローチ刃具29を加熱する場合には、樹脂層27の弾性率を低下させた後にブローチ加工に移行と言うよりはむしろ、加熱されたブローチ刃具29によって樹脂層27の弾性率を低下させながら、ブローチ加工を行う。
その後、薄肉化した樹脂層27を、内軸21ごと常温まで冷却したあと、外軸22と組み合わせることによって、図1および図2に示すインターミディエイトシャフト5が得られる。
図9は、本発明の第3実施形態に係るインターミディエイトシャフト5の製造工程の一部を示す図である。
次に、内スプライン25を後加熱する。これにより、外周面21aの半融解状態になった樹脂が完全に溶かされ、樹脂表面が滑らかに仕上げられる。後加熱の温度は、樹脂層27を構成する樹脂材料のガラス転移点Tg以上であり、好ましくは、ガラス転移点Tg以上、当該樹脂材料の融点Tm−100℃以下である。たとえば、樹脂材料としてポリアミド610(Tg=約50℃、Tm=約220℃)が使用される場合には、その加熱温度は、50℃〜120℃であることが好ましい。これにより、樹脂層27の弾性率を低下させることができる。
次にブローチ加工工程では、後加熱工程によって軟化した樹脂層27がガラス転移点Tg以上の状態を保持し、冷却されないうちに、当該樹脂層27をブローチ加工によって薄肉化する。これにより、図7に示したように、樹脂層27がブローチ加工されて薄肉化されて内スプライン25が形成される。
この第3実施形態に係る方法においても、ブローチ加工中の樹脂材料(樹脂層27)がガラス転移点Tg以上の状態であるため、前述の第1および第2実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
図10を参照して、ポリアミド610の弾性率は、ガラス転移点Tg(=50℃)よりも低温側(20℃〜25℃付近)から高温側にかけて急激に低下し、融点Tm(=120℃付近)で概ね収束し、それよりも高温側でほぼ安定することが分かる。
すなわち、図10および図11から、樹脂材料(樹脂層27)がガラス転移点Tg以上の状態でブローチ加工することによって、当該加工中の樹脂材料の弾性率を十分に低下させることができ、その結果、ブローチ加工荷重を低減し、当該樹脂材料をブローチ刃具29でスムーズに切削できることが分かる。
たとえば、樹脂層27は、内軸21の外周面21aではなく、外軸22の内周面22aに形成してもよい。ただし、両方に樹脂層を形成する必要はない。
また、インターミディエイトシャフト5が組み込まれたステアリング装置は、図1に示すコラム式の電動パワーステアリング装置(EPS)には制限されず、たとえば、油圧パワーステアリング装置(HPS)等の他の方式のパワーステアリング装置や、操舵補助機能を有しない通常のステアリング装置であってもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
Claims (5)
- スプラインが形成された外軸と、
スプラインが形成され、前記外軸と摺動可能に前記外軸に挿入された内軸と、
前記外軸の内周面または前記内軸の外周面を被覆する樹脂層とを含む摺動軸の製造方法であって、
前記外軸の内周面または前記内軸の外周面を樹脂材料でコーティングして前記樹脂層を形成する工程と、
前記樹脂材料がガラス転移点Tg以上の状態で、ブローチ加工によって前記樹脂層にスプラインを形成する工程とを含み、
前記ブローチ加工をするときの前記樹脂材料の温度が、当該樹脂材料の融点T m −100℃以下である、摺動軸の製造方法。 - 前記樹脂層を形成する工程は、流動浸漬によって前記樹脂層を形成する工程を含む、請求項1に記載の摺動軸の製造方法。
- 前記ブローチ加工前に、前記樹脂層またはブローチ刃具を加熱する工程を含む、請求項1または2に記載の摺動軸の製造方法。
- 前記加熱の対象が、前記樹脂層である、請求項3に記載の摺動軸の製造方法。
- 前記樹脂材料が、ポリアミド610またはポリアミド612である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の摺動軸の製造方法。
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