JP6486259B2 - 血中尿酸値低下作用を有する物質のスクリーニング法 - Google Patents
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高尿酸血症または痛風等の治療剤となりうる血中尿酸値低下作用を有する物質の探索は、これまで、上記代謝に関わる酵素の阻害活性を指標とする方法、または高尿酸血症動物モデルに直接投与して確認する方法などにより行われてきた。例えば、キサンチンオキシダーゼは尿酸の前駆体であるキサンチンから尿酸を生成させる酵素であるが、非特許文献1および2においては、キサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する物質を、高尿酸血症モデルマウスに投与してその血中尿酸値低下作用を確認した例が開示されている。
一方、非特許文献3においては、種々のフラボノイドのキサンチンオキシダーゼ阻害作用が比較されている。
本発明の課題は、血中尿酸値低下作用を有しうる物質を候補物質として漏れなく同定することが可能であるとともに、動物を用いないスクリーニング法を提供することである。また、本発明は血中尿酸値を低下させるための医薬組成物を提供することを課題とする。
すなわち、本発明は下記の[1]〜[9]を提供するものである。
被検物質の存在下、緩衝溶液中で肝臓細胞を維持すること、および
上記維持後の上記緩衝溶液中の尿酸量を測定することを含み、
上記被検物質の存在により上記尿酸量が減少する場合に、上記被検物質が上記候補物質として同定される、方法。
[2]上記緩衝溶液が上記被検物質を含む[1]に記載の方法。
[3]上記緩衝溶液が尿酸前駆体を含む[1]または[2]に記載の方法。
[4]上記尿酸前駆体がアデノシン、グアノシン、イノシン、ヒポキサンチン、グアニン、およびキサンチンからなる群より選択される1種以上である[3]に記載の方法。
[5]上記尿酸前駆体がグアノシン、イノシンからなる群より選択される1種以上である[3]に記載の方法。
[6]上記肝臓細胞がマウス培養細胞である[1]〜[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7]上記緩衝溶液が緩衝塩類液である[1]〜[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8]式(I)で表される化合物もしくはその薬学的に許容される塩、またはそれらの水和物もしくはそれらの溶媒和物を有効成分として含む、血中尿酸値を低下させるための医薬組成物:
[9]XがC=Oであり、R1〜R4がそれぞれOHであり、R5がHである[8]に記載の医薬組成物。
本発明のスクリーニング法は、血中尿酸値低下作用を有しうる候補物質を同定する方法である。本明細書において、血中尿酸値低下作用というとき、血中尿酸値を低下させる作用であってもよく、血中尿酸値の上昇を抑制する作用であってもよい。血中尿酸値低下作用を有しうる候補物質とは、血中尿酸値低下作用を有する蓋然性の高い物質であり、さらなる評価やスクリーニング法に供して、血中尿酸値低下作用を有する物質として選択することができる物質である。
例えば、被検物質を2つ以上の異なる濃度で添加した緩衝溶液中でそれぞれ肝臓細胞を維持し、より高い濃度で被検物質を添加した緩衝溶液での尿酸量がより低い濃度で被検物質を添加した緩衝溶液での尿酸量よりも少ない場合に、被検物質が血中尿酸値低下作用を有しうる候補物質であると判定することができる。ここで2つ以上の異なる濃度のうちの一つは実質的にゼロであってもよい。すなわち、被検物質を添加しなかった緩衝溶液と添加した緩衝溶液とを比較して、添加した緩衝溶液で尿酸量が少ない場合に、その被検物質を候補物質であると判定してもよい。この際、被検物質の添加量に応じた上記尿酸量の低下の程度に基準を設けて、基準量以上減少した場合に候補物質であると判定してもよい。
また、複数の被検物質について、それぞれ、同じ条件で培養と尿酸量の測定とを行い、より少ない尿酸量を示した被検物質を候補物質として選別してもよい。
被検物質の少なくとも一部が肝臓細胞中に存在しうる状態とされるかぎり、そのほかの方法で肝臓細胞に被検物質を添加することもできる。
緩衝溶液のpHは6.0〜8.0であればよく、7.0〜7.5であることが好ましく、7.2〜7.4であることがより好ましい。緩衝溶液の例としては、リン酸緩衝食塩液(PBS)、HEPES緩衝液(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタン−1−スルホン酸塩溶液)、トリス(Tris:トリスヒドロキシメチルアミノメタン)塩酸緩衝液などが挙げられる。また、緩衝塩類液(BSS)として知られる、緩衝溶液も好ましい。緩衝塩類液(BSS)は細胞に不可欠な無機塩を含み,血清や組織液と等張になるように調合されている緩衝機能を有する生理的塩類溶液である。BSSとしては、Earle’s balanced salt solutionが特に好ましい。
また、本発明のスクリーニング法では既に肝臓細胞内に存在している尿酸や尿酸前駆体に基づき被検物質の添加による尿酸量の変化を測定してもよい。
塩としては、塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩や、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸及び安息香酸等の有機酸との塩が挙げられる。塩や遊離形態の化合物の他、これらの任意の水和物あるいは溶媒和物を有効成分として用いてもよい。上記の溶媒和物を形成し得る溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸エチル、塩化メチレン等が挙げられる。
タキシフォリンなどの式(I)で表される化合物は、すでに食品サプリメントの成分として公知の成分であり、安全性は高い。
式(I)で表される化合物またはその塩等は、例えば、体重1kg当たり50mg〜1g程度、好ましくは100mg〜500mg程度で、1日1〜5回程度、ヒトまたはそのほかの哺乳動物等に投与することができる。
実施例において、統計処理は以下のように行った。
データは平均値±標準誤差で示した。尿酸前駆体添加によるAML12細胞の尿酸産生量の経時的変化の検討では、同一の経過時間における尿酸前駆体間の尿酸産生量の比較は繰り返しのある二元配置分散分析(Two-way repeated measures ANOVA)を行った後にTukey法にて多重比較検定を行った。p<0.05を統計的に有意とし、アルファベットの異なる群間(図に示すグラフにおいて記載のa〜cの文字)において有意差があるとした。濃度の異なる尿酸前駆体を添加した際のAML12細胞の尿酸産生量の検討では、同一の尿酸前駆体における濃度間の比較は一元配置分散分析(One-way ANOVA)を行った後に前駆体無添加群 (0μM)をコントロールとしてDunnett法を用いて多重比較検定を行った。p<0.05を統計的に有意とした。アロプリノールおよびタキシフォリンを添加した際のAML12細胞の尿酸産生量の検討では、各群間の比較は一元配置分散分析(One-way ANOVA)を行った後にTukey法にて多重比較検定を行った。p<0.05を統計的に有意とし、アルファベットの異なる群間(図に示すグラフにおいて記載のa〜cの文字)において有意差があるとした。高尿酸血症モデルマウスを用いた検討では、各群間の比較は一元配置分散分析(One-way ANOVA)を行った後に高尿酸血症モデルマウス群をコントロールとしてDunnett法を用いて多重比較検定を行った。p<0.05を統計的に有意とした。全ての統計解析は、GraphPad Prism 6(GraphPad Software Inc., San Diego, CA, USA)を用いて行った。
AML12細胞をATCCより購入し、実験に用いた。10%FBS(ウシ胎児血清、Hyclone,Logan,UT,USA)、5μg/mlインスリン(ヒト組換え体、和光純薬工業株式会社)、5μg/mlトランスフェリン(和光純薬工業株式会社)、3ng/ml セレン(シグマアルドリッチ社(Sigma−Aldrich Chemical Co.,St.Louis,MO,USA))、40ng/ml デキサメタゾン(和光純薬工業株式会社)および1%ペニシリン−ストレプトマイシン(ナカライテスク株式会社)を含むDMEM/F−12培地(Life technologies,Grand Island,NY,USA)にて37℃、5%CO2の条件下で培養した。
尿酸前駆体として、キサンチン(シグマアルドリッチ社)、グアノシン(シグマアルドリッチ社)、イノシン(シグマアルドリッチ社)、もしくはアデノシン(シグマアルドリッチ社)を選び、ジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬工業株式会社)に溶解し、下記の緩衝塩類液(BSS)中でDMSOの最終濃度が0.05%(v/v)かつ各尿酸前駆体の最終濃度が100μMとなるように添加した。用いた緩衝塩類液(BSS)の組成は、188mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl2、0.8mM CaCl2、25mM NaHCO3、1mM NaH2PO4、10mM HEPES、5mM グルコース(全て和光純薬工業株式会社))であり、上記のように洗浄後の肝臓細胞にこの緩衝塩類液を300μL添加した。また、上記尿酸前駆体のいずれも添加せずDMSOのみ添加した上記緩衝塩類液(300μL)を加える群も設けた。
細胞を37℃で維持し、上記添加の0、30、60、90および120分後に、緩衝塩類液を30μLずつ回収した。
なお、図には示さないが尿酸量は2時間を過ぎた時間で増加が見られなくなった。
尿酸前駆体として、キサンチン(シグマアルドリッチ社)、グアノシン(シグマアルドリッチ社)、イノシン(シグマアルドリッチ社)、もしくはアデノシン(シグマアルドリッチ社)を選び、ジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬工業株式会社)に溶解し、下記の緩衝塩類液(BSS)中でDMSOの最終濃度が0.1%(v/v)かつ各尿酸前駆体の最終濃度が0μM、50μM、100μM、もしくは200μMとなるように添加した。用いた緩衝塩類液(BSS)の組成は、188mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl2、0.8mM CaCl2、25mM NaHCO3、1mM NaH2PO4、10mM HEPES、5mM グルコース(全て和光純薬工業株式会社))であり、上記のように洗浄後の肝臓細胞にこの緩衝塩類液を300μL添加し、37℃で1時間維持した。その後、緩衝塩類液を200μL回収した。PBS(−)で洗浄後、300μLの1mMリン酸ナトリウム (和光純薬工業株式会社)を含むトリス緩衝液(pH7.5、シグマアルドリッチ社)に交換し、セルスクレイパーで細胞を回収した。緩衝塩類液および細胞中の尿酸濃度は、TPTZ法 (QuantiChrom(登録商標)Uric Acid Assay Kit,BioAssay Systems,Hayward,CA,USA、測定波長590nm)を用いて測定した。また回収した細胞のタンパク量は、ビシンコニン酸法(Pierce BCA protein assay kit,Thermo Fisher Scientific Inc.,Waltham,MA,USA)を用いて測定した。肝臓細胞タンパク量1mg当たりの緩衝塩類液中の尿酸量(nmol)を尿酸産生量(nmol/h/mgタンパク質)として算出した。
アロプリノールは血中尿酸値低下作用を有する物質として公知の化合物である。
上記のように洗浄後の細胞に、アロプリノール0nM、1nM、10nM、または100nM、ならびにグアノシンおよびイノシンをそれぞれ100μM含む緩衝塩類液を添加し、37℃で2時間維持後に緩衝塩類液を回収した。その中の尿酸濃度をウリカーゼ比色法にて確認した。
結果を図4に示す。
図4から分かるように、アロプリノールを添加しない例(0nM)と比較して、添加した例において尿酸量が低下しており、本発明のスクリーニング法により、血中尿酸値低下物質が候補物質として判定できることが示された。
下記の緩衝塩類液(BSS)中での各尿酸前駆体最終濃度が100μMのキサンチン(シグマアルドリッチ社)、100μMのグアノシン(シグマアルドリッチ社A)、100μMのイノシン(シグマアルドリッチ社)または100μMのグアノシン+100μMのイノシンとなるように緩衝塩類液(188mM NaCl,5mM KCl,1mM MgCl2,0.8mM CaCl2,25mM NaHCO3,1mM NaH2PO4、10mM HEPES,5mMグルコース(全て和光純薬工業株式会社))に添加した。タキシフォリン((+)−タキシフォリン、シグマアルドリッチ社)をDMSOに溶解し、これら各前駆体を含む緩衝塩類液中での最終濃度が0、50、100または200μMとなるように調製した緩衝塩類液200μL(DMSOとしての塩類液中での最終濃度は0.15%)を、上記のように洗浄後の肝臓細胞に加え37℃で2時間維持した。
その後、緩衝塩類液を150μL回収した。PBS(−)で洗浄後、300μLの1mMリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社)を含むトリス緩衝液(pH7.5、シグマアルドリッチ社)に交換した。緩衝塩類液中の尿酸濃度は、ウリカーゼ比色法(尿酸C−テストワコー,和光純薬工業株式会社)を用いて測定した。測定波長は555nmで行った。肝臓細胞タンパク質の量1mg当たりの緩衝塩類液中の尿酸量(nmol)を尿酸産生量(nmol/2h/mg タンパク質)として算出した。結果を図5に示す。なお、図5に示すグラフで示される個々の値は平均±標準誤差(n=6)である。
雄性ICRマウス4週齢を日本チャールズ・リバー株式会社より購入し、通常食(CRF−1、オリエンタル酵母工業株式会社)で一週間予備飼育した。その後、マウスを体重が均等になるようにして以下のように群分けを行った。すなわち、正常マウス群、高尿酸血症モデルマウス群、アロプリノール群、タキシフォリン低用量群および高用量群の5群とし(10匹/群)、試験に供した。予備飼育終了後、マウスに4時間の絶食を課し、0.5%(w/v)カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na、和光純薬工業株式会社)溶液で懸濁したタキシフォリン(Adooq Bioscience,LLC.,Irvine,CA,USA)を体重1kg当たりタキシフォリン低用量群には100mg、高用量群には300mg経口投与した。アロプリノール群には0.5%CMC−Na溶液で懸濁したアロプリノールを体重1kg当たり10mg経口投与し、正常マウス群および高尿酸血症モデルマウス群には0.5%CMC−Na溶液のみを経口投与した。サンプルの経口投与を3日間連続で行い、3日目の投与後1時間後に正常マウス群以外のマウスにPBS(−)に溶解したグアノシン 5’−モノリン酸(GMP、東京化成工業株式会社)とイノシン 5’−モノリン酸(IMP、東京化成工業株式会社)の両方をそれぞれ300mg/kg腹腔内投与した。正常マウス群にはPBS(−)のみを投与した。腹腔内投与の1時間後に、イソフルラン(Pfizer Inc.,New York,NY,USA)麻酔下でマウスを開腹し、腹部下大静脈より採血を行った。回収した血液はヘパリン(和光純薬工業株式会社)処理を行い、4℃で8000rpm、10分間遠心分離し、血漿試料を得た。血漿中尿酸濃度は、ウリカーゼ比色法(尿酸C−テストワコー,和光純薬工業株式会社))を用いて測定した。
図6から、タキシフォリンの投与(300mg/kg)により、高尿酸血症モデルマウスの血漿中尿酸濃度が用量依存的かつ有意(P<0.05)に低下していることが分かり、肝臓細胞を用いたスクリーニング法において尿酸量の低下を示した物質の血中尿酸値低下活性が示された。
タキシフォリンはJournal of Natural Products, 61(1), 71-76 (1998)において、キサンチンオキシダーゼ阻害活性が極めて低いことが示されていた化合物であるが、本発明のスクリーニング法においてタキシフォリンは血中尿酸値低下物質であることを示す結果が得られ、本スクリーニング系の優れた網羅性を示した。
Claims (7)
- 血中尿酸値低下作用を有しうる候補物質を同定する方法であって、
被検物質の存在下、緩衝溶液中で肝細胞を維持すること、および
前記維持後の前記緩衝溶液中の尿酸量を測定することを含み、
前記被検物質の存在により前記尿酸量が減少する場合に、前記被検物質が前記候補物質として同定される、方法。 - 前記緩衝溶液が前記被検物質を含む請求項1に記載の方法。
- 前記緩衝溶液が尿酸前駆体を含む請求項1または2に記載の方法。
- 前記尿酸前駆体がアデノシン、グアノシン、イノシン、ヒポキサンチン、グアニン、およびキサンチンからなる群より選択される1種以上である請求項3に記載の方法。
- 前記尿酸前駆体がグアノシン、イノシンからなる群より選択される1種以上である請求項3に記載の方法。
- 前記肝細胞がマウス培養細胞である請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
- 前記緩衝溶液が緩衝塩類液である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
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