JP6478418B2 - 細胞分化ポテンシャル判別法 - Google Patents

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Description

本発明は体性幹細胞の別種の細胞に変化する能力である分化ポテンシャルを判別する方法、及び分化ポテンシャルの高い体性幹細胞を濃縮する方法に関する。当該方法により、分化ポテンシャルの高い体性幹細胞を効率よく簡便に判別し、濃縮することができるため、体性幹細胞を用いた再生医療の加速化につながる。
再生医療とは機能が損なわれた場所に必要な細胞を補う医療のことであり、従来の薬物治療等の対症療法しかない疾病に対しても根本的な修復と再生が可能な医療として大きな期待が寄せられている。間葉系幹細胞などの体性幹細胞は、骨髄や脂肪などの自己組織からでも採取可能な幹細胞であり、免疫拒絶がない自家移植は既に臨床応用が行われている。しかし、間葉系幹細胞等の体性幹細胞はヘテロな細胞集団であり、その性質(分化ポテンシャル、増殖能、遊走能)は由来する個人の年齢、組織、継代数などにより大きく異なることから、治療の有効性を評価することが難しく、その品質管理に関しても困難を極めている。現在、造血幹細胞を除いて間葉系幹細胞等の体性幹細胞を同定するための唯一無二のマーカーは存在しない。そのため、間葉系幹細胞等では複数の細胞表面マーカーの発現を確認することにより細胞同定を行っているが、そもそもこれらマーカーの発現と、その治療有効性を関連づけることは未だできていない。
このような事情を受け、間葉系幹細胞等の体性幹細胞の品質特性、特に治療有効性に直結する分化ポテンシャルを定量的に評価可能な細胞表面マーカーの開発が近年活発化してきている。
特に間葉系幹細胞の遺伝子発現量の解析が進み、PARG1、CDKN2B、PTN及びMCM3遺伝子の発現量が、いずれも幹細胞の分裂能及び分化能にあたる「複製老化(replicative senescence)」の評価の指標となることが示され、これら各遺伝子の発現量の測定により幹細胞を含有する細胞培養物の品質評価が提案された(特許文献1、非特許文献1)。また、間葉系幹細胞表面で特異的に発現する抗原の解析から、抗原CD146が間葉系幹細胞における骨、軟骨、脂肪への多分化能を示すマーカーとなることが示された(特許文献2、非特許文献2、3)。同様に細胞表面でのNG2の発現量も間葉系幹細胞の多分化能との相関が高いことが見いだされ、間葉系幹細胞など体性幹細胞の分化能を抗原CD146およびNG2の発現量測定により判定又は評価する方法が提案されている(特許文献2)。他に、細胞培養物の「複製老化」の指標としてCpG-アイランドでのメチル化に着目し、GRM7,CASR,PRAMEF2,SELP,CASP14,KRTAP13-3遺伝子のCpG-アイランドでのメチル化が「複製老化」と正又は負の相関があることを見いだした例がある(特許文献3)。
このように、細胞表面の抗原タンパク質マーカーとして、細胞の分化ポテンシャル、分化状態の評価に有効なマーカーが多数同定されているが、特に間葉系幹細胞において、その分化ポテンシャルを簡便かつ正確に評価するための実用性の高いマーカーとするには限界があり、依然として治療に用いる間葉系幹細胞の規格化が困難な状況にあった。
一方、細胞表面を覆う物質群のうちで糖鎖は最も外側に位置しており、細胞分化や悪性化など細胞の状態変化に応じて劇的に変化することが知られており、事実、既知の幹細胞マーカーや癌マーカーの多くが糖鎖マーカーである。したがって、間葉系幹細胞など体性幹細胞の細胞表面の糖鎖がその分化状態に応じて変化することは従来から注目されており、特に実用化の進んだ間葉系幹細胞の分化状態の指標となる糖鎖マーカーの研究が盛んに行われている。例えば、幹細胞の分化状態を評価する方法として、分化誘導した幹細胞表面のN-結合型糖鎖について取得した定量的プロファイル中での糖鎖群の糖鎖タイプの変化から細胞状態、細胞分化を評価する方法(特許文献4)、幹細胞表面のN-結合型糖鎖、O-結合型糖鎖、GSL、GAG、FOSの個々の糖鎖の絶対量を解析することで多能性幹細胞を厳密に評価、選別する方法(特許文献5)などの総合的な評価方法が提案されている。また、未分化糖鎖マーカー「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/Fucα1-2Galβ1-3GalNAc」を用いて多能性幹細胞の分化状態を評価する方法(特許文献6)も提案されており、間葉系幹細胞の骨分化状態を正確に判定するための骨分化判定用の糖鎖マーカー(特許文献7)も提供されている。しかしながら、これら総合的評価方法や、提案された各糖鎖マーカーは、いずれも対象の幹細胞がどのような分化状態にあるかを判定するためのものであって、分化ポテンシャル(又は複製老化)を評価、判定するためのものではない。そのため、特にヘテロな細胞集団からなる間葉系幹細胞など体性幹細胞において、厳密な品質評価や分化ポテンシャルの高い集団の単離、濃縮に用いることはできない。
以上のことから、間葉系幹細胞などの体性幹細胞の分化ポテンシャルを評価、判定でき、かつ分化ポテンシャルの高い集団の単離、濃縮に有用な、細胞表面の糖鎖マーカーの提供が切望されていた。
WO2011/000833 特表2014−501110号公報 WO2013/017701 WO2010/058605 WO2013/186946 WO2013/065302 特開2012−37416号公報 特開2012−37416号公報 特許第5698588号公報
AGING,April 2010,Vol.2,No4,p.224-230 Stem Cells 2010;28:788-798 BMC Proceedings 2011,5(Suppl 8):O14 J. Biol. Chem.,2010 Feb 26;285(9):6515-21 Cancer Res.,2013 Apr 1;73(7)2368-78 Mol.Cell.Biol.,Vol.27,No.8,p.3008-3022,2007
本発明の課題は、体性幹細胞、特に間葉系幹細胞の治療有効性を担保する分化ポテンシャルの優れた指標となる細胞表面糖鎖マーカーを同定し、当該細胞表面糖鎖マーカーを簡便且つ効率的に検出し定量化することによる体性幹細胞の分化ポテンシャルの判定方法を提供することである。また、さらに当該細胞表面糖鎖マーカーを利用して体性幹細胞を含む不均一な細胞集団から分化ポテンシャルの高い体性幹細胞を単離または濃縮する方法及び体性幹細胞の品質管理方法を提供することである。
なお、本発明で「分化ポテンシャル」というとき、ある細胞が適切な分化誘導状態に置かれた場合に、前駆細胞、組織細胞などの別種の細胞に変化することができる潜在的な能力を有していることをいう。ここで、ある細胞の「分化ポテンシャルが高い」というとき、変化する細胞の種類が複数種類であるか否かにはかかわらない。一種類であっても別種類の細胞へと変化する能力が高ければ「分化ポテンシャルが高い」と表現する。従来、間葉系幹細胞ではその分裂能及び分化能を評価する際の概念として「複製老化(特許文献1、非特許文献1)」という用語があるが、本発明における「分化ポテンシャル」の用語は、専ら分化能に着目した「別種の細胞に変化できる潜在能力」を評価する概念を表し、かつ間葉系幹細胞に留まらず、広く幹細胞全体に適用可能な用語である。
体性幹細胞のうちでもとりわけ間葉系幹細胞(MSC)は、骨、軟骨、脂肪などの多くの組織に分化可能な上に、脂肪組織のように比較的大量に入手可能なソースがあり、調製が容易であるため、再生治療への応用が最も進んでいる。しかし、間葉系幹細胞は、骨髄、胎児付属物又は脂肪組織から主に採取されるが、非常に雑多な細胞集団の一部として採取されるため、すでに特定方向への分化を開始した前駆細胞も含まれており、ロットごとに大きなばらつきがある。そのため、再生治療に供する前の段階で、その分化ポテンシャルを評価することが安全で効果的な再生医療のために重要であるが、未だ間葉系幹細胞の分化ポテンシャルを簡便にかつ正確に評価する手法は確立されていない。実際の医療の現場では、幹細胞の分化ポテンシャルを評価せずに患者に移植しているのが現状であり、移植効果にばらつきがでる一因となっている。
間葉系幹細胞を長期培養すると徐々にその増殖能と共に分化ポテンシャルが低下する傾向があることはこの分野の研究者が以前から実感しているが、それを定量的に評価できる指標(マーカー)は存在しなかった。本発明者らは、その点に着目して脂肪由来間葉系幹細胞を長期培養し、継代初期と継代後期の細胞の骨芽細胞と脂肪細胞への分化ポテンシャルを解析した結果、継代初期で観察された骨芽細胞及び脂肪細胞への分化ポテンシャルは、細胞分裂がほぼ停止した継代後期ではほとんど失われることが分かった。そこで、高密度レクチンアレイを用いて各継代数のヒト脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)の糖鎖解析を行った結果、分化ポテンシャルの低下した継代後期の細胞では、継代初期の細胞と比較して、細胞表面のα2-6シアル酸の発現量が顕著に減少することを見いだした。脂肪組織由来以外に骨髄由来間葉系幹細胞、及び多指症軟骨組織由来軟骨細胞(軟骨幹細胞)においても同様の結果が得られたことから、体性幹細胞における細胞表面のα2-6シアル酸発現量の定量的な解析が、体性幹細胞の分化ポテンシャルの優れた指標となることがわかった。
具体的には、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞から膜画分を調製し、蛍光ラベル化後、高密度レクチンアレイに供して、高い増殖能と共に骨芽細胞及び脂肪細胞への分化ポテンシャルも高い継代初期の細胞と、増殖能も低下し、分化ポテンシャルの失われた継代後期の細胞とで顕著に異なる結合性を示すレクチンを統計的に抽出した。その結果、α2-6シアル酸に結合特異性を示す4種のレクチン、Trichosanthes japonica lectin-I (TJAI), Sambucus sieboldiana lectin (SSA), Sambucus nigra lectin (SNA), recombinant Polyporus squamosus lectin (rPSL1a)を選択した。この結果をフローサイトメトリーを用いて検証したところ、いずれのレクチンも、継代初期の細胞に顕著に高い反応性を示すのに対して、継代後期の細胞にはバックグラウンドレベルの反応性しか示さなかった。これら4種のレクチンは、いずれもα2-6シアル酸に結合特異性を示すことから、α2-6シアル酸が間葉系幹細胞の分化ポテンシャルを示すマーカーである可能性が示唆された。
次いで、上記4種のレクチンの、継代初期のヒト脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC P3)、継代後期のヒト脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC P26)、及びヒト皮膚繊維芽細胞(Fibroblast)に対する反応性を比較したところ、これら4種のレクチンはいずれも分化ポテンシャルを有するADSC P3に対して高い反応性が確認されたのに対して、分化ポテンシャルが失われたADSC P26とヒト皮膚繊維芽細胞にはほとんど反応性が見られなかった。分化ポテンシャルが最も高いと考えられるヒトiPS細胞(201B7株)でも確認すると、それぞれADSC P3の2〜4倍の反応性が観察された。この結果からも、幹細胞表面のα2-6シアル酸が細胞の分化ポテンシャルと高い相関性を示す可能性が示唆された。
そこで、これらヒトiPS細胞(201B7株)、ADSC P3、ADSC P26、ヒト皮膚繊維芽細胞(Fibroblast)のタンパク質画分から、糖鎖をヒドラジン分解で切り出し、2−ピリジルアミノ(PA)化後、Mono-Qカラムを用いたイオン交換クロマトグラフィーに供して、糖鎖の酸性度に応じて糖鎖を分画した。シアル酸が1個付加されたA1画分、シアル酸が2個付加されたA4画分に対して、α2-3シアル酸特異的シアリダーゼと、α2-3及びα2-6シアル酸の両方を切断するシアリダーゼを反応させ、A1及びA4分画それぞれでのα2-3シアル酸とα2-6シアル酸の割合を計算した。その結果、いずれの画分においても、α2-6シアル酸の割合は、ヒトiPS細胞で最も高く、次にADSC P3であり、ADSC P26とFibroblastではほとんど確認されないという傾向が見られた。以上の結果から、細胞表面のα2-6シアル酸とα2-3シアル酸との割合も、細胞分化ポテンシャルの高さを判定するための優れた指標となることがわかった。
次いで、脂肪組織由来間葉系幹細胞以外の他の組織由来の体性幹細胞を用いて検証を行うため、軟骨幹細胞の一種である多指症軟骨組織由来軟骨細胞(Yub621c株)を継代培養し、継代初期と継代後期での骨芽細胞と脂肪細胞への分化ポテンシャルを解析し、フローサイトメトリーにおける上記4種のレクチンの反応性を解析した。その結果、軟骨幹細胞においても脂肪組織由来間葉系幹細胞の場合と同様の傾向を示した。なお、以下、多指症軟骨組織由来軟骨細胞を分化した軟骨細胞と明確に区別するため、多指症由来軟骨幹細胞ということもある。
これに対し、多指症骨髄由来間葉系幹細胞(Yub622株)の場合、当初の実験系では、フローサイトメトリーにおける上記4種のレクチンの反応性は、継代初期と比較して、継代後期の細胞での反応性に大きな低下は認められなかったにもかかわらず、脂肪細胞への分化ポテンシャルについては、継代初期細胞で活発であった分化が、継代後期ではほぼ起こらなくなり、α2-6シアル酸量との相関はみられず、むしろ継代数に依存して低下すると解された。一方、骨芽細胞への分化については、継代後期になってもその分化ポテンシャルは維持されていた。別の骨髄由来間葉系幹細胞(Lonza社から購入)においても同様の現象がみられた。
以上の結果から、少なくとも骨髄由来間葉系幹細胞の場合では、4種のレクチンの反応性に示される細胞表面でのα2-6シアル酸の発現量の高さは、骨芽細胞分化ポテンシャルの高さを表す優れた指標となることが示唆された。
すなわち、α2-6シアル酸を認識する4種のレクチンの反応性は、体性幹細胞の増殖能ではなく分化ポテンシャルとの相関を示唆するものであるが、その幹細胞の由来によって、多分化能全ての分化ポテンシャルと関連する場合、又は特定の分化能の分化ポテンシャルにのみ関連する場合があることが示唆された。そして、いずれの場合であっても、α2-6シアル酸は、体性幹細胞の分化ポテンシャルの指標となる優れた細胞表面の糖鎖マーカーであると結論付けた。
以上の知見を得たことで本発明を完成するに至った。
その後、各種多指症軟骨組織由来の軟骨細胞及び間葉系幹細胞を用いて繰り返し実験を行った結果、α2-6シアル酸の発現量の高さと、骨芽細胞若しくは軟骨細胞への分化ポテンシャルの高さとの相関性の高さを実証した。また、特に、骨芽細胞もしくは軟骨細胞への分化ポテンシャルの変化に応じたα2-6シアル酸量の変化の観察に適したコアタンパク質として、幹細胞表面のCD29及びCD49e糖タンパク質を同定し、体性幹細胞の分化ポテンシャル判定用の優れたサンドイッチアッセイ系を構築することができた。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
〔1〕 体性幹細胞表面に発現するα2-6シアル酸を検出する工程、又はα2-6シアル酸量を測定する工程を包含することを特徴とする、体性幹細胞の分化ポテンシャルを判別、評価する方法。
ここで、本発明で検出もしくは測定の対象となるα2-6シアル酸は、体性幹細胞表面に発現している糖タンパク質のN-結合型糖鎖中の非還元末端に存在する糖鎖であるため、以下の様にも表現できる。
〔1'〕 体性幹細胞表面に発現している糖タンパク質のN-結合型糖鎖中の非還元末端に存在するα2-6シアル酸を検出又はα2-6シアル酸量を測定する工程を包含することを特徴とする、体性幹細胞の分化ポテンシャルを判別、評価する方法。
〔2〕 体性幹細胞が間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞であって、体性幹細胞の分化ポテンシャルが、骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルである、前記〔1〕に記載の方法。
ここで、間葉系幹細胞としては、骨髄由来間葉系幹細胞又は脂肪由来間葉系幹細胞が好ましく、軟骨幹細胞は、多指症軟骨細胞由来軟骨幹細胞が好ましい。
〔3〕 α2-6シアル酸を検出又はα2-6シアル酸量を測定する工程が、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを用いて行うことを特徴とする、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
ここで、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブとは、具体的にはα2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチン及び抗体から選択された少なくとも1種のタンパク質を指し、当該抗体としては、当該抗体の抗原認識部位が保存されたフラグメントもしくは当該抗体の誘導体も含まれるため、以下の様にも表現できる。
〔3’〕 α2-6シアル酸を検出又はα2-6シアル酸量を測定する工程が、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチン及び抗体から選択された少なくとも1種のタンパク質を用いて行うことを特徴とする、前記〔1〕又は前記〔2〕に記載の方法。
〔3’’〕 α2-6シアル酸を検出又は測定する工程が、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチン、並びにα2-6シアル酸をエピトープとして認識する抗体、当該抗体の抗原認識部位が保存された抗体フラグメント及び当該抗体の誘導体から選択された少なくとも1種のタンパク質を用いて行うことを特徴とする、前記〔1〕又は前記〔2〕に記載の方法。
〔4〕 α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブが、TJAIレクチン、SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンを含むことを特徴とする、前記〔3〕に記載の方法。
または、前記〔3’〕を引用して以下の様にも表現できる。
〔4’〕 α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチンが、TJAIレクチン、SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンを含むことを特徴とする、前記〔3’〕に記載の方法。
〔5〕 さらに、体性幹細胞表面で発現し、かつα2-6シアル酸を非還元末端糖鎖として有する糖タンパク質を、当該糖タンパク質を特異的に認識するプローブを用いて検出又は測定する工程を包含する、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
ここで、前記糖タンパク質は、対象とする体性幹細胞で特異的に及び/又は大量に発現している糖タンパク質であることが好ましい。
〔6〕 前記糖タンパク質が、CD29又はCD49eである、〔5〕に記載の方法。
〔7〕 前記糖タンパク質を特異的に認識するプローブが、抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体である前記〔6〕に記載の方法。
ここで、抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びその抗原認識部位が保存されたFabフラグメントなどの抗体フラグメント、ヒト化抗体、単鎖抗体などであってもよい。
〔8〕 体性幹細胞の骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルを判別又は評価する方法であって、下記の(1)及び(2)を含む方法;
(1)被検体性幹細胞含有試料を、下記の(a)又は(b)のいずれか一方のプローブが固定化された基板上にオーバーレイし、次いで、標識化された他方のプローブを作用させる工程、
(a)SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチン、
(b)抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体、
(2)標識量を測定する工程。
例えば、以下の方法を含む。
〔8’〕 体性幹細胞の骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルを判別又は評価する方法であって、下記の(1)及び(2)を含む方法;
(1)被検体性幹細胞含有試料を、下記の(a)を固定化された基板上にオーバーレイし、次いでCy3等の蛍光色素で標識化された(b)を作用させる工程、
(a)SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチン、
(b)抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体、
(2)蛍光標識量を測定する工程。
〔9〕 あらかじめ、前記試料中の被検体性幹細胞を、前記(a)又は(b)のプローブとの相互作用を利用して濃縮する工程を設けることを特徴とする、前記〔8〕に記載の方法。
例えば、以下の方法を含む。
〔9’〕 あらかじめ、前記試料中の被検体性幹細胞を、標識化した(a)のレクチンと反応させフローサイトメトリーにより細胞分画する工程、又は標識化した(a)のレクチンを固定化した担体による分離工程を設けることを特徴とする、前記〔8〕に記載の方法。
〔10〕 前記〔8〕又は〔9〕の方法に、さらに
(3)測定した標識量と、被検体性幹細胞の分化ポテンシャルとを相関させる工程、
を設けることを特徴とする、体性幹細胞の骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルを定量的に判別又は評価する方法。
〔11〕 α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを含むことを特徴とする、体性幹細胞の分化ポテンシャルの判定又は評価用試薬。
または、以下の様にも表現できる。
〔11’〕 α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチン及び抗体から選択された少なくとも1種のタンパク質を含むことを特徴とする、体性幹細胞の分化ポテンシャルの判定又は評価用試薬。
〔12〕 α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを含む、体性幹細胞の分化ポテンシャル判定用キット。
または、以下の様にも表現できる。
〔12’〕 α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチン及び抗体から選択された少なくとも1種のタンパク質を含むことを特徴とする、体性幹細胞の分化ポテンシャルの判定用キット。
〔12’’〕 TJAIレクチン、SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチン、並びにα2-6シアル酸をエピトープとして認識する抗α2-6シアル酸抗体の少なくとも1種のタンパク質を含むことを特徴とする、体性幹細胞の分化ポテンシャルの判定用キット。
〔13〕 前記α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブが、
(a)α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチンの少なくとも1つ、及び
(b)α2-6シアル酸をエピトープとして認識する抗α2-6シアル酸抗体の少なくとも1つ、
との組み合わせを含み(a)又は(b)のいずれか一方のプローブが基板に固定化され、他方のプローブが標識化されている、前記〔12〕に記載のキット。
例えば、以下の場合を含む。
〔13’〕 前記α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブが、
(a)TJAIレクチン、SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチン、及び
(b)α2-6シアル酸をエピトープとして認識する抗α2-6シアル酸抗体の少なくとも1つ、
との組み合わせを含み(a)又は(b)のいずれか一方のプローブが基板に固定化され、他方のプローブが標識化されている、前記〔12〕に記載のキット。
〔14〕 前記体性幹細胞の分化ポテンシャル判定用キットが、
(a)α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブ、と共に
(b)体性幹細胞表面で発現し、かつα2-6シアル酸を非還元末端糖鎖として有する糖タンパク質を特異的に認識するプローブ、
を含み、(a)又は(b)のいずれか一方のプローブが基板に固定化され、他方のプローブが標識化されている、前記〔12〕に記載のキット。
例えば、以下の場合を含む。
〔14’〕 前記体性幹細胞の分化ポテンシャル判定用キットが、
(a)TJAIレクチン、SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチン、と共に
(b)体性幹細胞表面で発現し、かつα2-6シアル酸を非還元末端糖鎖として有する糖タンパク質を特異的に認識するプローブ、
を含み、(a)又は(b)のいずれか一方のプローブが基板に固定化され、他方のプローブが標識化されている、前記〔12〕に記載のキット。
〔15〕 体性幹細胞の骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルを判別又は評価するためのキットであって、
(a)SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチン、
(b)抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体、
の組み合わせを含み(a)又は(b)のいずれか一方のプローブが基板に固定化され、他方のプローブが標識化されているキット。
例えば、以下の場合を含む。
〔15’〕 体性幹細胞の骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルを判別又は評価するためのキットであって、(a)及び(b)を含むキット;
(a)SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンが固定化された基板(例えば、レクチンアレイ)、
(b)標識化された抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体。
〔15’’〕 体性幹細胞の骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルを判別又は評価するためのキットであって、(a)〜(c)を含むキット;
(a)SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンが固定化された基板、
(b)標識化された抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体、
(c)標識量を測定するための装置。
〔15’’’〕 体性幹細胞の骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルを判別又は評価するためのキットであって、(a)〜(d)を含むキット;
(a)ビオチン標識した抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体を固定化したストレプトアビジン被覆担体(例えば、ストレプトアビジン被覆磁気ビーズ)、
(b)SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンが固定化された基板、
(c)蛍光標識化された抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体、
(d)蛍光標識量を測定するための装置。
〔16〕 体性幹細胞を含む細胞試料から分化ポテンシャルが高い体性幹細胞を分離又は濃縮する方法であって、
体性幹細胞を含む細胞試料に対し、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを接触させる工程を含む、方法。
または、以下の様にも表現できる。
〔16’〕 体性幹細胞を含む細胞試料から分化ポテンシャルが高い体性幹細胞を分離又は濃縮する方法であって、
体性幹細胞を含む細胞試料に対し、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチン及び抗体から選択された少なくとも1種のタンパク質を接触させる工程を含む、方法。
〔16’’〕 体性幹細胞を含む細胞試料から分化ポテンシャルが高い体性幹細胞を分離又は濃縮する方法であって、
(1)生体から脂肪組織、臍帯血、臍帯、羊膜、胎盤、軟骨組織、顎骨もしくは大腿骨由来骨髄、又は多指症由来骨髄組織から選択される組織又は体液から、間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞を含有する細胞試料を採取する工程、
(2)α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを接触させる工程
を含む、方法。
〔16’’’〕 α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブの
体性幹細胞を含む細胞試料から分化ポテンシャルが高い体性幹細胞を分離又は濃縮する方法における使用であって、
当該方法は、
体性幹細胞を含む細胞試料に対し、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチン及び抗体から選択された少なくとも1種のタンパク質を接触させる工程を含む、使用。
〔16’’’’〕 α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブの
体性幹細胞を含む細胞試料から分化ポテンシャルが高い体性幹細胞を分離又は濃縮する方法における使用であって、
当該方法は、
生体から単離された脂肪組織、臍帯血、臍帯、羊膜、胎盤、軟骨組織、顎骨もしくは大腿骨由来骨髄、又は多指症由来骨髄組織からから選択される間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞含有細胞試料に対し、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを接触させる工程を含む、使用。
〔17〕 前記α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを接触させる工程が、フローサイトメトリーによる細胞分画工程、又は前記プローブを固定化した担体による分離工程のいずれかの方法を含む、前記〔16〕に記載の方法。
または、前記〔16’〕を引用して以下の様にも表現できる。
〔17’〕 前記α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチン及び抗体から選択された少なくとも1種のタンパク質を接触させる工程が、フローサイトメトリーによる細胞分画工程、又は前記タンパク質を固定化した担体による分離工程のいずれかの方法を含む、前記〔16’〕に記載の方法。
〔18〕 前記プローブを固定化した担体が、磁気ビーズ又はアフィニティカラムである、前記〔17〕に記載の方法。
または、前記〔17’〕を引用して以下の様にも表現できる。
〔18’〕 前記タンパク質を固定化した担体が、磁気ビーズ又はアフィニティカラムである、前記〔17’〕に記載の方法。
〔19〕 α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブが、TJAIレクチン、SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンを含むことを特徴とする、前記〔16〕〜〔18〕のいずれかに記載の方法。
または、前記〔16’〕〜〔18’〕を引用して以下の様にも表現できる。
〔19’〕 α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチンが、TJAIレクチン、SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンを含むことを特徴とする、前記〔16’〕〜〔18’〕のいずれかに記載の方法。
〔20〕 あらかじめ、前記試料中の体性幹細胞を、体性幹細胞表面で発現し、かつα2-6シアル酸を非還元末端糖鎖として有する糖タンパク質を特異的に認識するプローブとの相互作用を利用して濃縮する工程を設けることを特徴とする、前記〔16〕〜〔19〕のいずれかに記載の方法。
例えば、体性幹細胞を含む細胞試料から骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルが高い体性幹細胞を分離又は濃縮する方法の場合、以下の方法を含む。
〔20’〕 体性幹細胞を含む細胞試料から骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルが高い体性幹細胞を分離又は濃縮する方法であって、
体性幹細胞を含む細胞試料に対し、
(1)ビオチン標識した抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体を固定化したストレプトアビジン被覆担体(例えば、ストレプトアビジン被覆磁気ビーズ)と接触させる工程、
(2)SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンを接触させる工程、
を含む方法。
〔21〕 間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞含有細胞試料から、骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルが高い間葉系幹細胞を分離又は濃縮する方法であって、
前記幹細胞含有試料に対し、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを接触させる工程を含む、方法。
または、以下の様にも表現できる。
〔21’〕 間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞含有細胞試料から、骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルが高い間葉系幹細胞を分離又は濃縮する方法であって、
前記幹細胞含有試料に対し、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチン及び抗体から選択された少なくとも1種のタンパク質を接触させる工程を含む、方法。
〔22〕 あらかじめ、前記試料中の体性幹細胞を、CD29又はCD49e糖タンパク質を特異的に認識するプローブとの相互作用を利用して濃縮する工程を設けることを特徴とする、前記〔21〕に記載の方法。
〔23〕 CD29又はCD49e糖タンパク質を認識するプローブとの相互作用が、抗CD29抗体又は抗CD49e抗体との免疫反応である、前記〔22〕に記載の方法。
または、以下の方法を含む。
〔23’’〕 間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞含有細胞試料から骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルが高い体性幹細胞を分離又は濃縮する方法であって、
体性幹細胞を含む細胞試料に対し、
(1)ビオチン標識した抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体を固定化したストレプトアビジン被覆担体(例えば、ストレプトアビジン被覆磁気ビーズ)と接触させる工程、
(2)SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンを接触させる工程、
を含む方法。
ここで、間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞含有細胞試料は、生体から、脂肪組織、臍帯血、臍帯、羊膜、胎盤、軟骨組織、顎骨もしくは大腿骨由来骨髄、又は多指症由来骨髄組織から選択される組織又は体液から採取された細胞試料、もしくはその初代培養物、継代培養物、又は株化された培養間葉系幹細胞株又は培養軟骨幹細胞株を含む。以下も同様である。
〔24〕 α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを固定化した担体を含むことを特徴とする、分化ポテンシャルの高い体性幹細胞の単離又は濃縮用キット。
または、以下の様にも表現できる。
〔24’〕 α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチン及び抗体から選択された少なくとも1種のタンパク質を固定化した担体を含むことを特徴とする、分化ポテンシャルの高い体性幹細胞の単離又は濃縮用キット。
〔25〕 α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを固定化した担体を含むことを特徴とする、骨芽細胞への分化ポテンシャルの高い骨髄由来間葉系幹細胞の単離又は濃縮用キット。
または、以下の様にも表現できる。
〔25’〕 α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチン及び抗体から選択された少なくとも1種のタンパク質を固定化した担体を含むことを特徴とする、骨芽細胞への分化ポテンシャルの高い骨髄由来間葉系幹細胞の単離又は濃縮用キット。
〔26〕 前記プローブを固定化した担体が、磁気ビーズ又はアフィニティカラムである、前記〔24〕又は〔25〕に記載のキット。
または、前記〔24’〕及び〔25’〕を引用して以下の様にも表現できる。
〔26'〕 前記タンパク質を固定化した担体が、磁気ビーズ又はアフィニティカラムである、前記〔24’〕又は〔25’〕に記載のキット。
〔27〕 さらに、CD29又はCD49e糖タンパク質を認識するプローブを含む前記〔25〕又は〔26〕に記載のキット。
〔28〕 間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞含有細胞試料を用いた骨芽細胞又は軟骨細胞増殖のための移植材料の調製方法であって、下記の(1)〜(5)の工程を含む方法;
(1)採取した間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞含有細胞試料をex vivoで拡大培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞試料を、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを固定化した担体と接触させる工程、
(3)工程(2)で得られた固定化担体をリン酸含有緩衝液により洗浄し、非特異的な結合物を除去する工程、
(4)工程(3)で得られた前記固定化担体を糖類含有緩衝液により洗浄し、前記プローブと結合している細胞を固定化担体から遊離させる工程、
(5)工程(4)で得られた細胞を集めて移植用材料を調製する工程。
または、以下の様にも表現できる。
〔28’〕 間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞含有細胞試料を用いた骨芽細胞又は軟骨細胞増殖のための移植材料の調製方法であって、下記の(1)〜(5)の工程を含む方法;
(1)採取した間葉系幹細胞含有細胞又は軟骨幹細胞試料をex vivoで拡大培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞試料を、SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンまたはα2-6シアル酸をエピトープとして認識する抗体から選択された少なくとも1種のタンパク質を固定化した担体と接触させる工程、
(3)工程(2)で得られた固定化担体をリン酸含有緩衝液により洗浄し、非特異的な結合物を除去する工程、
(4)工程(3)で得られた固定化担体を糖類含有緩衝液により洗浄し、前記タンパク質と結合している細胞を固定化担体から遊離させる工程、
(5)工程(4)で得られた細胞を集めて移植用材料を調製する工程。
〔28’’〕 間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞含有細胞試料を用いた骨芽細胞又は軟骨細胞増殖のための移植材料の調製方法であって、下記の(1)〜(6)の工程を含む方法;
(1)採取した間葉系幹細胞含有細胞又は軟骨幹細胞試料をex vivoで拡大培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞試料を、抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体との免疫反応を利用して幹細胞を濃縮する工程、
(3)工程(2)で濃縮された細胞試料を、SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンまたはα2-6シアル酸をエピトープとして認識する抗体から選択された少なくとも1種のタンパク質を固定化した担体と接触させる工程、
(4)工程(3)で得られた固定化担体をリン酸含有緩衝液により洗浄し、非特異的な結合物を除去する工程、
(5)工程(4)で得られた固定化担体を糖類含有緩衝液により洗浄し、前記タンパク質と結合している細胞を固定化担体から遊離させる工程、
(6)工程(5)で得られた細胞を集めて移植用材料を調製する工程。
本発明により、α2-6シアル酸は間葉系幹細胞などの体性幹細胞の分化ポテンシャルを示す糖鎖マーカーとなることが見いだされた。α2-6シアル酸に特異的に結合性を示すレクチン又は抗体などは、細胞の分化ポテンシャルを判別する試薬として用いることができる。本発明のα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性から、移植治療に用いる体性幹細胞の分化ポテンシャルを事前に評価することができるため、体性幹細胞を用いた再生医療への応用が期待される。また、骨髄由来間葉系幹細胞含有培養細胞などの各段階の分化ポテンシャルを含む雑多な細胞集団から、フローサイトメトリー、磁気ビーズなどを用いて一定の品質を有する間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞を単離、濃縮することができる。
また、間葉系幹細胞など体性幹細胞の表面抗原であるCD29及びCD49e糖タンパク質の末端糖鎖としてのα2-6シアル酸量の変化が骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャル変化との相関性が高いことを見いだした。抗CD29抗体及び/又は抗CD49e抗体とα2-6シアル酸反応性レクチン(SSA,SNA,rPSL1a)とを組み合わせたアッセイ系を用いることで、体性幹細胞の骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルを正確に判定、評価することができる。
脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)の継代培養による増殖能の変化 脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)の骨芽細胞および脂肪細胞分化ポテンシャルの解析 脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)の継代初期及び継代後期におけるα2-6シアル酸結合性レクチンとの反応性の変化 脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)の培養過程におけるα2-6シアル酸結合性レクチン(TJAI、SSA、SNA、及びrPSL1a)との反応性の変化 TJAI、SSA、SNA、及びrPSL1aレクチンの各種糖鎖への結合性 レクチンへの結合性を観察した各種糖鎖の糖鎖構造 フローサイトメトリーによる脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)へのα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性 継代初期及び継代後期のADSCにおけるフローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチン(TJAI、SSA、SNA、及びrPSL1a)への反応性の変化、及びiPS細胞、Fibroblast細胞との反応性比較 各種細胞に発現する糖タンパク質シアル酸結合様式:(A)シアル酸が1個付加された画分でのα2-6シアル酸とα2-3シアル酸の発現割合 (B)シアル酸が2個付加された画分でのα2-6シアル酸とα2-3シアル酸の発現割合 多指症軟骨組織由来軟骨細胞(軟骨幹細胞:Yub621c株)の継代培養:(A)継代培養細胞の増殖性 (B)フローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性 (C)分化ポテンシャル 多指症骨髄由来間葉系幹細胞(Yub622株)の継代培養:(A)継代培養細胞の増殖性 (B)フローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性 (C)分化ポテンシャル 骨髄由来間葉系幹細胞(Lonza株)の継代培養:(A)継代培養細胞の増殖性 (B)フローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性 多指症骨髄由来間葉系幹細胞(Yub622株)の継代初期及び継代後期細胞:(A)フローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性 (B)骨芽細胞分化(Lonza、2週間) 多指症骨髄由来間葉系幹細胞(Yub10F株)の継代初期及び継代後期細胞:(A)フローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性 (B)骨芽細胞分化(Lonza、2週間) 継代初期と後期の多指症由来軟骨幹細胞であるYub621c株、Yub625株から分化誘導した軟骨細胞の軟骨マーカーの発現、図中(+)は、軟骨分化誘導後の細胞、(−)は分化誘導をしていないことを表す。継代初期(Yub621c P7、Yub625 P5)で軟骨分化率が高かったのに対し、継代後期(Yub625 P22)では軟骨分化率が極めて低いことが示された。 継代初期と後期のYub621c株、Yub625株を軟骨分化誘導後のHE染色像とアルシアンブルー染色像 多指症由来軟骨幹細胞(Yub621株)の継代初期及び継代後期細胞のフローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性 多指症由来軟骨幹細胞(Yub625株)の継代初期及び継代後期細胞のフローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性 異なる継代数の脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC、A)と多指症由来軟骨幹細胞(Yub621c、B)の細胞抽出液からCD29抗体で免疫沈降したCD29へのα2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)の反応性変化 異なる継代数の脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC、A)と多指症骨髄由来間葉系幹細胞(Yub621c、B)の細胞抽出液からCD49e抗体で免疫沈降したCD49eへのα2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)の反応性変化 異なる継代数の脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC、A)と多指症由来軟骨幹細胞(Yub621c、B)の細胞抽出液からCD13抗体で免疫沈降したCD13へのα2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)の反応性変化 iPS細胞(201B7株)の細胞抽出液から免疫沈降したCD29(A)とCD49e(B)へのα2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)の反応性変化 4種のα2-6シアル酸結合性レクチン(SNA、SSA、TJAI、rPSL1a)とCD29抗体のサンドイッチアッセイ系の構築 4種のα2-6シアル酸結合性レクチン(SNA、SSA、TJAI、rPSL1a)とCD49e抗体のサンドイッチアッセイ系の構築 シアリダーゼ処理した多指症由来軟骨幹細胞(Yub621c)の骨芽細胞分化。図中、(a)は分化誘導なし、(b)(c)(d)は骨芽細胞への分化誘導をした細胞を示す。(b)はシアリダーゼ処理のないコントロールであり、(c)はシアリダーゼ処理後に分化誘導処理を行った場合、(d)はシアリダーゼ存在下で分化誘導を行った場合である。
1.α2-6シアル酸について
本発明において、「α2-6シアル酸」というときは、一般に、N-アセチルノイラミン酸が、ガラクトースの6位の位置の水酸基とα2-6結合した糖鎖である「Neu5Acα2-6Gal」及びN-グリコリル型ノイラミン酸が同様にα2-6結合した糖鎖「Neu5Gcα2-6Gal」の両方を指す。しかし、ヒト由来のα2-6シアル酸を非還元末端に有する糖タンパク質では、α2-6シアル酸がノイラミン酸の5位のアミノ基がアセチル化された「Neu5Acα2-6Gal」の場合しか体内で生合成されないため、本発明では主として「Neu5Acα2-6Gal」のみを対象とする。以下の説明でもα2-6シアル酸が「Neu5Acα2-6Gal」であるとして説明する。
したがって、本発明においては、典型的にはヒト間葉系幹細胞などのヒト体性幹細胞の細胞表面の糖タンパク質の非還元末端に存在するα2-6シアル酸(Neu5Acα2-6Gal)を、幹細胞の分化ポテンシャルの評価、判定用の糖鎖マーカー、すなわち検出対象エピトープとする。
なお、ブタ、マウスなどヒト以外の哺乳動物では、α2-6シアル酸として「Neu5Gcα2-6Gal」である場合も含むので、対象幹細胞がヒト以外の哺乳動物に由来する場合は、「Neu5Acα2-6Gal」及び「Neu5Gcα2-6Gal」が本発明の分化ポテンシャルを判定、評価するための検出対象エピトープとなる。
シアル酸(N-アセチルノイラミン酸)は、細胞表面の複合糖鎖末端に存在するカルボキシル基を持つ酸性糖であって、シアル酸残基ともよばれ、還元末端側の単糖の6位の水酸基に結合したタイプのα2-6シアル酸及び3位の水酸基に結合したタイプのα2-3シアル酸が知られている。またある特殊な糖タンパク質や糖脂質では、シアル酸の8位の水酸基に結合したタイプのα2-8シアル酸も知られている。シアル酸はムチンや血清タンパク質などの分泌糖タンパク質、膜タンパク質の糖鎖の非還元末端に存在し、タンパク質や細胞の表面に負電荷を付与することにより、細胞同士の凝集を抑えたり、タンパク質の溶解性を高めたり、プロテアーゼからの攻撃から防御したりする機能をもつ。またウイルスや内在性リセプターのリガンドとして機能することが知られている。主に免疫細胞上に発現する内在性レクチンの一種であるシグレックに認識されて、免疫細胞の機能を調節していることも知られている。
とりわけ、α2-6シアル酸は、血管内皮細胞表面に存在する接着分子PECAMの細胞内局在と機能を調節して、細胞死を制御しているという報告(非特許文献4)もあり、α2-6シアル酸を標的とした抗血管新生阻害剤の可能性も検討されている。癌細胞表面のN-結合型糖タンパク質中でのα2-6シアル酸の発現増加が、癌の進行、転移、予後不良と関係があることも報告されている(非特許文献5)。
また、気道の上皮細胞表面のシアル酸残基がヒトではα2-6シアル酸であるのに対してトリではα2-3シアル酸、ブタではα2-6シアル酸とα2-3シアル酸の両方の発現であることが、トリインフルエンザが直接ヒトに感染することがまれであり、通常ブタを介して感染する理由とされている。
近年、再生治療への実用化が進んでいる間葉系幹細胞(MSC)から骨芽細胞への分化技術においても、分化誘導後の細胞表面の複合糖鎖の糖鎖構造が質量分析によって解析され、骨芽細胞への分化が十分に進んだ場合に増加する糖鎖構造が複数種類同定されている。その中には、α2-6結合かα2-3結合かは不明であるがシアル酸が非還元末端に結合した糖鎖構造も見いだされ、骨芽細胞を同定するためのマーカーとして用いることが提案されている(特許文献8)。
しかし、分化誘導前の間葉系幹細胞などの体性幹細胞の品質評価に直接関わる分化ポテンシャルと細胞表面複合糖鎖における糖鎖構造変化との相関について報告された例はない。本発明において初めて、間葉系幹細胞など体性幹細胞表面の複合糖鎖における非還元末端のα2-6シアル酸含有糖鎖の発現量が、当該細胞の分化ポテンシャルと相関性を有することが見いだされ、α2-6シアル酸が体性幹細胞の分化ポテンシャルの程度の優れた指標となることがわかった。すなわち、例えば、間葉系幹細胞などの体性幹細胞表面におけるα2-6シアル酸の発現量を、α2-6シアル酸結合性プローブを用いて定量測定することにより、体性幹細胞の分化ポテンシャルを判別することが可能となった。
また、間葉系幹細胞のうちでも骨髄由来間葉系幹細胞表面のα2-6シアル酸発現量については、各種細胞への分化ポテンシャルのうちでも特に骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルとの相関性が高い傾向が見いだされており、α2-6シアル酸を骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルの評価、判定用マーカーとして用いることができる。
2.α2-6シアル酸結合性プローブについて
(2−1)α2-6シアル酸結合性プローブ
本発明において、体性幹細胞表面のα2-6シアル酸を検出するためには、α2-6シアル酸を特異的にエピトープとして認識するプローブを用いる。特定の糖鎖構造を認識して結合するタンパク質は「レクチン」と総称されており、典型的なα2-6シアル酸結合性プローブとしては、各種のα2-6シアル酸結合性レクチンが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、α2-6シアル酸を糖鎖抗原(エピトープ)として認識する抗α2-6シアル酸抗体又はその誘導体も好ましく用いられる。抗α2-6シアル酸抗体を調製するためには、例えば、α2-6シアル酸をそのままもしくはアルブミンやKLHなどのキャリアータンパク質に結合させて動物に免疫することで得られ、また既知の抗α2-6シアル酸抗体(非特許文献5)を用いることもできる。当該抗体は、α2-6シアル酸をエピトープとして認識して特異的に結合する能力を有するものであれば、特に限定はなく、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びその抗原認識部位が保存されたFabフラグメントなどの抗体フラグメントの他、ヒト化抗体、単鎖抗体などを使用することもできる。本発明において、「抗α2-6シアル酸抗体」、又は「α2-6シアル酸をエピトープとして認識する抗体」などというとき、抗体のみならず、その抗原認識部位が保存されたフラグメント又は誘導体などを含めた用語として用いる。
また、本発明のα2-6シアル酸結合性プローブは単独で用いても良いが、複数のプローブを組み合わせて用いても良い。例えば、複数種のα2-6シアル酸結合性レクチン、またはさらに抗α2-6シアル酸抗体も併用することができる。
(2−2)α2-6シアル酸結合性レクチン
本発明のα2-6シアル酸結合性プローブとして用いられるα2-6シアル酸結合性レクチンとしては、細胞表面の糖タンパク質の糖鎖の非還元末端のα2-6シアル酸を認識できるレクチンであればいずれのレクチンを用いてもよい。例えば、TJAIレクチン(Trichosanthes japonica lectin-I)、SSAレクチン(Sambucus sieboldiana lectin)、SNAレクチン(Sambucus nigra lectin (SNA)、PSL1aレクチン(Polyporus squamosus lectin)を用いることができる。
TJAIレクチンはキカラスウリから、SSAレクチンはニホンニワトコから、またSNAレクチンはニワトコからそれぞれ抽出することもできるが、TJAI及びSSAレクチンは生化学工業株式会社、SNAはVECTOR Laboratories社により市販されている。PSL1aレクチンはアミヒラタケから抽出することもできるが、α2-6シアル酸特異性を保持したリコンビナント体のrPSL1aレクチンが和光純薬工業により市販されている。いずれのレクチンも細胞表面の複合糖質の非還元末端を構成するα2-6シアル酸(Neu5Acα2-6Gal及びNeu5Gcα2-6Gal)を特異的に認識することが知られている。
これら4種のレクチン(TJAI、SSA、SNA、rPSL1a)それぞれの各種複合糖鎖に対する反応性をフロンタルアフィニティークロマトグラフィー(FAC)で解析した結果を図5に示す。いずれのレクチンもα2-6シアル酸残基を有する糖鎖501〜506のみに特異的に結合することが見て取れる。同じシアル酸残基のうちでもα2-3シアル酸残基のみを含む糖鎖601及び602に対しては全く結合性を示さず、α2-3シアル酸と共にα2-6シアル酸残基を有している糖鎖506に対しては結合性を有していることがわかる。このことから、上記4種のレクチンが、α2-6シアル酸残基に結合特異性を有するレクチンであることが確認できる。
これら4種類のレクチン以外のα2-6シアル酸特異的レクチンとしては、羅漢果科植物から抽出されたラカンカレクチン(特許文献8)等が例示できる。その他、レクチンフロンティアデータベース(LfDB)等からの情報に従って入手可能である。また、α2-6シアル酸を含む糖鎖アレイを用いて、天然もしくは人工のタンパク質試料からスクリーニングすることもできる。
(2−3)α2-6シアル酸含有糖タンパク質
本発明の検出対象となる体性幹細胞表面のα2-6シアル酸は、体性幹細胞表面に存在する糖タンパク質の細胞外ドメイン中のアスパラギンに結合した複合糖鎖(N-結合型糖鎖)の非還元末端に存在している。
つまり、継代初期など分化ポテンシャルの高い時期の体性幹細胞表面においては、非還元末端にα2-6シアル酸を有するN-結合型糖タンパク質(α2-6シアル酸含有N-結合型糖タンパク質)が顕著に高発現している可能性が高い。またはN-型糖鎖中の非還元末端にα2-6シアル酸が大量に付加され、α2-6シアル酸含有量が増大している可能性もあるが、前者の場合であれば、体性幹細胞の分化ポテンシャルを判定、評価するための指標として、非還元末端にα2-6シアル酸を有するN-結合型糖タンパク質(α2-6シアル酸含有N-結合型糖タンパク質)のコアタンパク質に関する体性幹細胞表面での発現量を利用することができる。
α2-6シアル酸含有N-結合型糖タンパク質のコアタンパク質は、α2-6シアル酸を指標に採取した糖タンパク質を同定すればいいので、当業者は容易に決定することができる。例えば継代初期の体性幹細胞の膜画分もしくはタンパク質画分をTJAI、SSA、SNA、rPSL1aレクチンの少なくともいずれか1種を固定化したビーズでα2-6シアル酸を含有する糖タンパク質を濃縮後、そのコアタンパク質に対する抗体などで検出するか、質量分析計等でアミノ酸配列を調べれば容易に決定できる。
このようなN-結合型糖鎖の非還元末端にα2-6シアル酸を有する糖タンパク質のコアタンパク質もまた、体性幹細胞の分化ポテンシャルを判定、評価用のマーカーとなる可能性がある。すなわち、その場合は当該コアタンパク質の発現量を既知の手法によりmRNAレベルで又はタンパク質レベルで測定することで、体性幹細胞の分化ポテンシャルの判定、評価できることになる。具体的には、例えばコアタンパク質mRNAレベルを定量的RT-PCRで測定する、次世代シーケンサーで測定する、DNAマイクロアレイで測定する、などの方法、コアタンパク質特異的な抗体を作製、もしくは購入して、ELISA法、フローサイトメトリー、ウエスタンブロット、免疫染色、又は抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイによるサンドイッチアッセイ法が用いられる。
(2−4)骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャル判定用糖タンパク質
本発明者らは、分化ポテンシャル判定用コアタンパク質を特定するために、間葉系幹細胞表面に多く発現しているα2-6シアル酸含有N-結合型糖タンパク質抗原を検索し、その候補としてCD29、CD49e及びCD13糖タンパク質を選定した。
次いで、骨髄由来間葉系幹細胞及び軟骨幹細胞の継代数の異なる細胞を用意し、それぞれの疎水性画分(膜画分)を、抗CD29抗体、抗CD49e抗体及び抗CD13抗体のそれぞれを固定化したビーズで免疫沈降させた。得られたCD29、CD49e及びCD13糖タンパク質をゲル泳動させて異なる継代数に応じたrPSL1aレクチンとの反応量の変化を観察した。
その結果、CD29及びCD49e糖タンパク質のα2-6シアル酸含量が、継代数の増加に従って明確に減少する傾向を示したことから、CD29及びCD49e糖タンパク質がα2-6シアル酸含有量測定のためのコアタンパク質として有効性が高いと判定した。すなわち、骨髄由来間葉系幹細胞及び軟骨幹細胞表面のCD29及びCD49eが有しているα2-6シアル酸量が、継代を重ねるに従って低下する骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルの程度を反映し、高い相関性をもって低下することを意味する。骨髄由来間葉系幹細胞及び軟骨幹細胞表面のCD29及びCD49e発現量と、CD29及びCD49eが含有するα2-6シアル酸とを同時に測定することで、より定量的に骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルの判定が可能となる。
なお、CD29及びCD49eは、いずれも細胞接着の他、細胞膜を介したシグナリングに関与するインテグリンファミリーに属する。CD29は、インテグリンβ1鎖であり、CD49eは、インテグリンα5鎖である。
さらに、α2-6シアル酸反応性レクチンのうちでもSSA、SNA及びrPSL1aは、CD29及びCD49e上のα2-6シアル酸発現量の減少割合を、より的確に反映するレクチンであることが判明した。つまり、抗CD29抗体又は抗CD49e抗体を用いるアッセイ系で用いるレクチンとしては、SSA、SNA及びrPSL1aが適していることがわかった。
具体的には、抗CD29抗体又は抗CD49e抗体と共に、α2-6シアル酸反応性レクチン(SSA、SNA、rPSL1aなど)もしくは抗α2-6シアル酸抗体とを用いたサンドイッチアッセイ系により、被検骨髄由来間葉系幹細胞又は被検軟骨幹細胞の、骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルを正確に評価、判定することが可能となった。
ここで、抗CD29抗体及び抗CD49e抗体は、それぞれCD29及びCD49e、またはそれらの抗原性フラグメントをエピトープとして認識して特異的に結合する能力を有するものであれば、特に限定はなく、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びその抗原認識部位が保存されたFabフラグメントなどの抗体フラグメントの他、ヒト化抗体、単鎖抗体などを使用することもできる。抗CD29抗体及び抗CD49e抗体はAbcam社、R&D社、ベックマン・コールター社などから市販されているので簡単に入手できる。
3.対象となる被検幹細胞及びその採取源
本明細書において分化ポテンシャルの判定、評価の対象となる被検幹細胞は、主として体性幹細胞もしくは当該体性幹細胞を継代培養した細胞であるが、胚性幹細胞(ES細胞)、体細胞に遺伝子などを導入して脱分化させた幹細胞(iPS細胞等)にも適用できる。ここで、体性幹細胞としては、神経幹細胞、上皮幹細胞、肝幹細胞、生殖幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、軟骨幹細胞、骨格筋幹細胞等の様々な体性幹細胞が含まれるが、間葉系幹細胞及び軟骨幹細胞が好ましい。また、分化ポテンシャルの判定、評価は、クローン化された体性幹細胞のみならず、体性幹細胞を採取したヘテロな細胞集団からなる生体組織の培養物の状態でも行うことができるので、本発明において体性幹細胞というとき、体性幹細胞を含有する培養物をも包含する。
すなわち、本発明において被検体性幹細胞含有試料というとき、試料に含まれる体性幹細胞は、生体から単離された細胞、その初代培養物、もしくは継代培養物、又は株化された培養細胞株である。
間葉系幹細胞は、脂肪吸引された脂肪組織や臍帯血、臍帯、羊膜、胎盤から、又は顎骨や大腿骨由来骨髄からの骨髄穿刺から採取できる。また、間葉系幹細胞は市販もされており、例えば脂肪組織由来間葉系幹細胞は、Life Technologies社、骨髄由来間葉系幹細胞は、Lonza社、PromoCell社などから購入することもできる。培養条件は、特に限定されないが、培養温度は、体温と同様の36〜37℃が好ましい。培地は、間葉系幹細胞維持培地として一般に用いられているMesenPRO RSTM培地(Life Technologies社)などを適宜用いることができる。さらに、多指症患者の手術で切除された指の骨髄組織からは、骨髄由来間葉系幹細胞が取得でき、また軟骨組織からは、軟骨組織由来軟骨細胞(多指症由来軟骨幹細胞)が取得できる。また、理研バイオリソースセンター、JSRB細胞バンクなどから入手できる。軟骨幹細胞維持培地は、間葉系幹細胞維持培地として一般に用いられているMesenPRO RSTM地(Life Technologies社)などを用いても良いが、軟骨細胞基本培地、軟骨細胞増殖培地(タカラバイオ社)などの軟骨幹細胞用の維持培地を用いることもできる。
本発明は、体のある組織から採取した幹細胞の分化ポテンシャルを判定することができるばかりでなく、拡大培養した後の分化ポテンシャルの判定にも用いることができる。また、分化ポテンシャルの高い細胞を単離、濃縮する際にも用いることができる。
また、幹細胞はヒトに限らず哺乳動物ではかなりの部分で共通したしくみで制御されていると考えられるので、本発明の幹細胞としてはヒト以外の哺乳動物、例えばサル、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、マウス、ラット由来の幹細胞を用いる場合にも適用できる。
4.体性幹細胞試料の判定及び評価方法並びに品質管理
(4−1)体性幹細胞試料の分化ポテンシャルの判定及び評価に基づく品質管理
本発明は、生体から取得した体性幹細胞含有組織などの体性幹細胞試料または体性幹細胞培養物において、体性幹細胞の細胞表面で発現するα2-6シアル酸を特異的に検出する(in vitro)ことにより、体性幹細胞試料の分化ポテンシャルを判定または評価する方法に関する。そして、その判定結果に従って体性幹細胞試料の品質管理を行う方法も包含する。
幹細胞表面のα2-6シアル酸の検出及び発現量の測定には質量分析、液体クロマトグラフィー及びMALDI-TOF MSを用いることができるが、α2-6シアル酸結合性プローブを用いる方法が、細胞表面の複合糖質の非還元末端のα2-6シアル酸検出には最も適している。培養物のロット全体の分化ポテンシャルを評価、判定する場合、及びその評価に基づく品質管理を行う場合には、通常は培養物の一部を取り出して行うため、一般にプローブの残存に基づく幹細胞への悪影響は考慮する必要は無い。仮に、分化ポテンシャルを評価、判定後の体性幹細胞をそのまま利用する必要がある場合は、ガラクトースやラクトースなどの糖類含有緩衝液などを用いて幹細胞を洗浄することでα2-6シアル酸結合レクチンを遊離させることができる。
また、α2-6シアル酸結合性プローブを標識化することで、他の細胞が混在する体性幹細胞培養液に対しても、幹細胞表面のα2-6シアル酸と結合した標識量を正確に測定することができるため、簡便に幹細胞の分化ポテンシャルの評価、判定を行うことができる。レクチンなどプローブの標識には、R-Phycoerythrin(PE)、FITCなどの蛍光標識、パーオキシダーゼなどの酵素標識、ビオチンによる標識(+HRP標識アビジン)などを用いることができる。プローブとして用いたレクチンに対する抗体を二次抗体として用いて、幹細胞表面のα2-6シアル酸と結合した標識量を測定し、細胞の分化ポテンシャルの評価、判定を行うことができる。
さらに、本発明ではα2-6シアル酸のα2-3シアル酸に対する割合も分化ポテンシャルの指標となることが示されていることから、被検体性幹細胞試料に対して、既知のα2-3シアル酸特異的シアリダーゼ及びα2-6シアル酸特異的シアリダーゼなどを用いてα2-6シアル酸及びα2-3シアル酸を脱離させ、その比率を測定することによっても被検体性幹細胞試料の分化ポテンシャルの高さを判定することができる。
本発明において、脂肪由来間葉系幹細胞及び軟骨幹細胞を用いた実験で、体性幹細胞表面のCD29及びCD49eが有しているα2-6シアル酸量が継代を重ねるに従って低下すること、すなわちCD29及びCD49eが、分化ポテンシャルの低下と相関する体性幹細胞におけるα2-6シアル酸のコアタンパク質であることがわかった。そして、SSA、SNA及びrPSL1aレクチンが、CD29及びCD49e上のα2-6シアル酸発現量の減少割合をより的確に反映するプローブとなることも判明した。
したがって、間葉系幹細胞、軟骨幹細胞など体性幹細胞を含む細胞集団から、骨芽細胞又は軟骨細胞などへの分化ポテンシャルが高い細胞集団を濃縮もしくは単離しようというときには、抗CD29抗体又は抗CD49e抗体による免疫沈降により濃縮した細胞集団に対して、さらにα2-6シアル酸反応性レクチン(SSA、SNA、rPSL1aなど)もしくは抗α2-6シアル酸抗体を固定化した担体を用いた濃縮、単離方法を適用することができる。
また、抗CD29抗体又は抗CD49e抗体と共に、α2-6シアル酸反応性レクチン(SSA、SNA、rPSL1aなど)もしくは抗α2-6シアル酸抗体とを用いたサンドイッチアッセイ系、例えば、被検体性幹細胞幹細胞を、培養液のまま、もしくは抗CD29抗体又は抗CD49e抗体で濃縮後、SSA、SNA、rPSL1aなどを含む基板上に供し、標識化した抗CD29抗体又は抗CD49e抗体で標識強度を測定することで、骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルを正確に評価、判定することができる。
被検体性幹細胞を含有している試料中の体性幹細胞標識量を正確に評価、測定するためには、試料中の体性幹細胞の数をほぼ一定数になるように調整する工程を設けることが好ましい。
このような評価、判定に供する細胞集団は、体性幹細胞が1×104個以上含まれる集団であることが好ましく、1×105個含まれているとさらに好ましい。例えば蛍光標識を用いたフローサイトメトリー解析の場合は、平均蛍光強度が高い場合には、被検体性幹細胞の分化ポテンシャルが高いと判断する。また、平均蛍光強度が低い場合には、分化ポテンシャルが低いと判断する。基準となる蛍光強度は被検体性幹細胞の種類や、使用する蛍光色素によって適宜設定する。
(4−2)α2-6シアル酸結合性プローブを用いたα2-6シアル酸の検出、測定方法
α2-6シアル酸結合性プローブを用いて幹細胞表面の糖タンパク質が有するα2-6シアル酸を測定する具体的な方法としては、これに限られるわけではないが、例えば以下の様な方法がある(コールドスプリングハーバー第2版「糖鎖生物学」45章 グリカン分析における抗体とレクチン p537-550など)。
(a)幹細胞含有試料に、蛍光色素で標識したα2-6シアル酸結合性プローブを反応させ、洗浄後に、フローサイトメトリーや蛍光顕微鏡で蛍光強度を解析する。
(b)幹細胞含有試料に、α2-6シアル酸結合性プローブを反応させ、次いで当該プローブを検出可能な第2次標識抗体を用いて第二次抗体の標識量を測定する。
(c)幹細胞含有試料からタンパク質(含糖タンパク質)を調製し、蛍光色素による標識を行った後、α2-6シアル酸結合性レクチンの少なくとも1つを含むレクチンアレイに供し、エバネッセント波励起蛍光型検出系で蛍光強度を測定する。
(d)幹細胞含有試料からタンパク質を調製し、α2-6シアル酸結合性レクチンの少なくとも1つを含むレクチンアレイに供し、タンパク質や糖鎖を認識する標識抗体又は標識レクチンをオーバーレイして、エバネッセント波励起蛍光型検出系で蛍光強度を測定する。
(e)幹細胞含有試料からタンパク質を調製し、α2-6シアル酸結合性レクチンの少なくとも1つを固定化したプレートに供し、タンパク質や糖鎖を認識する標識抗体又は標識レクチンをオーバーレイして、プレートリーダーで吸光度、蛍光強度、発光を測定する。
(f)幹細胞含有試料からタンパク質を調製後、レクチンブロッティング法を適用する。SDS-PAGE後にニトロセルロース膜、PVDF膜などのメンブレンに転写するか、又は直接メンブレンにブロットした後、標識したα2-6シアル酸結合性レクチンと反応させる。例えば、ビオチン標識レクチンを用いた場合には、ブロッキングバッファーによる洗浄後、HRP標識アビジン溶液によるアビジン反応による発色を観察する。
5.体性幹細胞ソースからの分化ポテンシャルの高い幹細胞の単離、濃縮方法
(5−1)単離、濃縮方法
本発明は、生体から取得した体性幹細胞含有組織などの体性幹細胞試料または体性幹細胞培養物に対して、体性幹細胞の細胞表面で発現するα2-6シアル酸を特異的に認識するレクチンまたは抗体、すなわちα2-6シアル酸結合性プローブを接触させることにより、分化ポテンシャルの高い体性幹細胞を単離または濃縮する方法に関する。
α2-6シアル酸結合性プローブによる分化ポテンシャルの高い幹細胞の単離、濃縮方法は、特に限定されるものではなく、一般的な細胞分離方法が適用できる。例えば、フローサイトメトリーによる細胞分画法、又はレクチンもしくは抗体を固定化した磁気ビーズなどの固定化用担体を用いる細胞分画法、及びレクチンもしくは抗体を固定化したレクチンカラムクロマトグラフィーなどのアフィニティクロマトグラフィーによる分離法などを用いることができる。これらの方法の詳細については例えば、1996年、秀潤社発行、グライコバイオロジー実験プロトコール、細胞工学別冊、実験プロトコールシリーズや1999年、医歯薬出版株式会社発行、日本電気泳動学会編集、最新電気泳動実験法などに記載されている。
本発明のα2-6シアル酸結合性プローブにより、分化ポテンシャルの高い幹細胞の単離、濃縮する場合には、幹細胞培養物中に残存していても幹細胞の生育及び分化誘導を阻害しないレクチンであり、かつ生体移植用細胞中に残存していても人体への毒性がきわめて低いレクチン、すなわち細胞毒性が無いか無視できる程度のレクチンを用いることが好ましい。また蛍光色素などによる直接的な標識を行わない単離、濃縮法を採用することがより好ましい。
α2-6シアル酸結合性プローブに対して反応性の高い細胞をフローサイトメトリーで単離、濃縮することで、分化ポテンシャルの高い幹細胞を単離、濃縮することができる。具体的には、例えば、蛍光標識したα2-6シアル酸結合性プローブを被検体性幹細胞含有試料に4℃、1時間程度反応させた後に、非結合細胞をリン酸緩衝液などで洗い流す。次に蛍光強度の高い細胞を分取後、ガラクトースやラクトースを含む緩衝液で蛍光標識したα2-6シアル酸結合性プローブを除去する。
また、α2-6シアル酸結合性プローブを固定化した磁気ビーズ、アフィニティカラムなどを用いることによっても、α2-6シアル酸を発現する分化ポテンシャルの高い幹細胞を単離、濃縮することができる。具体的には、例えば、α2-6シアル酸結合性プローブを磁気ビーズに固定化し、被検体性幹細胞含有試料に4℃、1時間程度反応させた後に、リン酸緩衝液で洗浄する。マグネットを用いて磁気ビーズを回収後、ガラクトースやラクトースを含む緩衝液を用いて、細胞を磁気ビーズから剥がす。
このようにして単離、濃縮された体性幹細胞は速やかに公知の分化誘導培地に供することで所望の細胞への分化誘導を行うことができる。当該分化誘導後の細胞、もしくは上記単離、濃縮後の細胞は、再生医療用の細胞として移植することができる。
なお、移植材料の調製方法は、既知の手法を適用すればよい。
(5−2)骨芽細胞移植用骨髄由来間葉系幹細胞の調製
本発明の糖鎖マーカーである「α2-6シアル酸」を、間葉系幹細胞のうちでも骨髄由来間葉系幹細胞に適用する場合は、特に間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化ポテンシャルとの相関が高いと考えられることから、骨芽細胞への分化ポテンシャル評価用マーカーとして用いることができる。
すなわち、骨髄から採取した間葉系幹細胞含有細胞群をそのまま、もしくはex vivoで拡大培養後の移植前に、当該培養物の骨芽細胞への分化ポテンシャルの評価、判定をすることができる。その際、培養物から、間葉系幹細胞が好ましくは1×104個以上含まれるような一部を採取して上記(4−2)で述べた方法により間葉系幹細胞表面のα2-6シアル酸量を測定し、骨芽細胞への分化ポテンシャルの評価、判定を行う。例えば、フローサイトメトリーによって得られた平均蛍光強度が高い場合には、骨芽細胞への分化ポテンシャルが高い細胞群であると判断し、その判定結果に従って、移植を行うか否かを決定する。
また、骨髄から採取した間葉系幹細胞含有細胞群に対して、上記(5−1)の単離、濃縮法を適用して、骨芽細胞への分化ポテンシャルの高い幹細胞のみを単離、濃縮することができる。
6.分化ポテンシャル判定用キット
上記(2−4)で述べたたように、本発明において、間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞表面のCD29及びCD49eが有しているα2-6シアル酸量が、骨芽細胞又は軟骨細胞などへの分化ポテンシャルの程度と高い相関性を有していることを見出した。
また、本発明者らは、α2-6シアル酸反応性レクチンのうちでも、CD29及びCD49e上のα2-6シアル酸量の変化をより高い相関性をもって判定できるレクチンがSSA,SNA及びrPSL1aであることを見いだした。
その結果、被検間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞など被検体性幹細胞における分化ポテンシャルを、より正確に判定、評価するためのアッセイ系として、抗CD29抗体及び/又は抗CD49e抗体とα2-6シアル酸反応性レクチン(SSA,SNA,rPSL1a)とを組み合わせた分化ポテンシャル判定用サンドイッチアッセイ系を構築することができた。
具体的には、α2-6シアル酸反応性レクチン(SSA,SNA,rPSL1a)を固定化した基板に対して、抗CD29抗体もしくは抗CD49e抗体で濃縮した分画を反応させた後、抗CD29抗体もしくは抗CD49e抗体をオーバーレイして検出又は定量化する方法が例示できる。反対に、抗CD29抗体もしくは抗CD49e抗体を固定化した基板及び標識化したα2-6シアル酸反応性のレクチン(SSA,SNA,rPSL1a)もしくは抗体との組み合わせによっても検出、定量化が可能である。
すなわち、本発明において、体性幹細胞の分化ポテンシャル判定用キットというとき、少なくともα2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを含むキットであり、具体的には、
(a)α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチン(TJAI,SSA,SNA,rPSL1aなど)、及び
(b)α2-6シアル酸をエピトープとして認識する抗α2-6シアル酸抗体、
との組み合わせを含むキットであっても良い。
典型的には、
(a)α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブ、及び
(b)α2-6シアル酸を非還元末端糖鎖として有し、かつ標的幹細胞で発現している糖タンパク質を認識するプローブ、
の組み合わせからなるキットであり、(a)(b)の一方が基板上に固定化され、他方が標識化されていることが好ましい。
特に、体性幹細胞、好ましくは間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞を対象細胞とした場合の骨芽細胞又は軟骨細胞などへの分化ポテンシャルを定量的に評価、判定する場合には、一方が基板に固定され、かつ他方が標識化されている、
(a)SSA,SNA又はrPSL1aレクチン、
(b)抗CD29抗体又は抗CD49e抗体、
の組み合わせを含むキットが好ましい。
なお、本発明において、キットというとき、主に各プローブからなる試薬を組み合わせる場合を指すが、試薬用の容器、パッケージ、取扱説明書などの他、測定装置などを含める場合もある。
コアタンパク質上のα2-6シアル酸発現量の変化と分化ポテンシャルとの相関を定量的に行うためには、例えば、あらかじめ、対象となる体性幹細胞含有試料と同じ体性幹細胞の標準的な株を用いて、α2-6シアル酸発現量に応じた分化ポテンシャル度についての検量線を用いることで被検幹細胞含有試料の定量的な評価をすることができる。具体的には、標準株を継代培養し、継代培養中の複数の継代数の細胞を1部採取し、上記(a)及び(b)からなるサンドイッチアッセイ用キットを用いて、標識強度を測定する。同時に、当該継代細胞を目的とする分化細胞に分化誘導して分化細胞マーカー強度などの分化ポテンシャルを示す数値を測定し、両者の数値から検量線を求める。得られた検量線を用いることで、被検体性幹細胞含有試料に対し当該アッセイ系により測定された標識強度を、目的とする分化細胞への定量的な分化ポテンシャル量に変換できるから、被検体性幹細胞含有試料についての正確な分化ポテンシャルの評価、判定が可能となる。
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
(実施例1)脂肪由来間葉系幹細胞の継代培養
脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC、Life Technologies、Lot#: 2118)を、一般的な間葉系幹細胞培地であるMesenPRO RSTM 培地(Life Technologies)で継代培養した(図1)。図中、PDは分裂指数を示す。次に継代初期(P5)および継代後期(P28)の細胞の、骨芽細胞、及び脂肪細胞への分化ポテンシャルを調べた(図2)。
ここで、本発明において「継代初期」又は「継代後期」というとき、それぞれの継代数は、細胞の種類や培養条件によって異なる。幹細胞の培養初期で、細胞増殖カーブが直線的に上昇する時期を「継代初期」、継代を続け、細胞の増殖カーブが緩く、又は平坦となる時期を「継代後期」と呼ぶ。
脂肪由来間葉系幹細胞の継代初期(P5)の一部の細胞および継代後期(P28)の一部の細胞をそれぞれ取り出し、骨芽細胞及び脂肪細胞への分化誘導を行った。骨芽細胞への分化誘導はhMSC differentiation BulletKit-osteogenic (Cat#: PT-3002, Lonza)、脂肪細胞分化はhMSC differentiation BulletKit-adipogenic(Cat#: PT-3004, Lonza)を用いて行った。骨芽細胞分化はアリザリンレッドS、脂肪細胞分化はオイルレッドOで染色して分化状態を確認した。骨芽細胞と脂肪細胞は赤く染色される。継代初期(P5)の脂肪由来間葉系幹細胞の場合は骨芽細胞及び脂肪細胞への分化が観察されたが、継代後期(P28)の脂肪由来間葉系幹細胞では骨芽細胞及び脂肪細胞はほとんど観察されなかった。すなわち脂肪由来間葉系幹細胞における継代後期の細胞では、骨芽細胞及び脂肪細胞への分化ポテンシャルが失われていることがわかる。
(実施例2)脂肪由来間葉系幹細胞の継代初期と継代後期で顕著に結合性が異なるレクチンの抽出
実施例1で用いた各継代数のヒト脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)に対して、高密度レクチンアレイによる糖鎖解析を実施した。ヒト脂肪由来間葉系幹細胞から膜画分を調製し、蛍光ラベル化後、高密度レクチンアレイに供し、エバネッセント波励起蛍光型検出系で蛍光強度を測定した。高い分化ポテンシャル/増殖能を有する継代初期(P2-P6)の細胞では高い蛍光強度を示すのに対して、分化ポテンシャル/増殖能の低下した継代後期(P25-P29)の細胞では、顕著に蛍光強度が低下するレクチンを統計的に抽出した。その結果、4種のレクチン、Trichosanthes japonica lectin-I (TJAI), Sambucus sieboldiana lectin (SSA), Sambucus nigra lectin (SNA), recombinant Polyporus squamosus lectin (rPSL1a)が、p<0.0001で継代前期の細胞に顕著に高い値を示すレクチンとして選択された。図3には、各レクチンの継代前期細胞(P2-5;黒棒)及び継代後期細胞(P25-29;白棒)に対する蛍光シグナル強度の平均値と標準偏差を示す。またヒト脂肪由来間葉系幹細胞の各継代における各レクチンの平均値を示したグラフを図4に示す。これら4種のレクチンの蛍光シグナルは、継代数を重ねる毎に、徐々に低下することが分かった(図4)。これら4種のレクチンそれぞれの各種複合糖鎖に対する反応性を図5に示す。いずれのレクチンもα2-6シアル酸残基を有する糖鎖501〜506のみに特異的に結合する。同じシアル酸残基のうちでもα2-3シアル酸残基のみを含む糖鎖601及び602に対しては全く結合性を示さず、α2-3シアル酸と共にα2-6シアル酸残基を有している糖鎖506に対しては結合性を有していることがわかる。このことから、上記4種のレクチンは、α2-6シアル酸残基に結合特異性を有するレクチンである、ということができる。一方、これらα2-6シアル酸残基に結合特異性を有するレクチンが顕著な特異的結合を発揮する継代前期のヒト脂肪由来間葉系幹細胞表面には、α2-6シアル酸残基が多数存在し、継代後期になるに従って、α2-6シアル酸残基の量が激減することが見て取れる。
そして、上述のように、継代前期から継代後期になるに従って、増殖能の低下と共に分化ポテンシャルの低下も観察されたことから、間葉系幹細胞表面におけるα2-6シアル酸残基は、間葉系幹細胞の分化ポテンシャルを示す糖鎖マーカーである可能性が示唆された。
(実施例3)フローサイトメトリーによる脂肪由来間葉系幹細胞へのα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性検証
実施例1で用いたと同じヒト脂肪由来間葉系幹細胞を同様に継代培養し、その継代初期(P3)及び継代後期(P26)のそれぞれの一部(1×105個)細胞に対して、実施例2で選択された4種類のレクチン(TJAI、SSA、SNA、rPSL1a)をR-Phycoerythrin(PE)で標識した標識レクチンを10 μg/mLで反応させ、1%BSAを含むリン酸緩衝液で洗浄後に、フローサイトメトリー(BD FACSCantoII)で解析した。継代後期(P26、細線)の細胞と比べて、継代初期(P3、太線)の細胞に顕著に高い反応性を示すことが分かった(図6)。継代後期の細胞に対する反応性はほとんどコントロール(グレー)と同程度であった。フローサイトメトリーで得られた平均蛍光強度を、ヒトiPS細胞(201B7株)、ヒト皮膚繊維芽細胞(Fibroblast、ATCC)と比較したグラフを図7に示す。4種のレクチンは、分化ポテンシャルを有するADSC P3に対しては高い反応性が確認されたのに対し、分化ポテンシャルがないADSC P26とヒト皮膚繊維芽細胞(Fibroblast)にはほとんど反応性が見られなかった。また、同時に、分化ポテンシャルが最も高いと考えられる多能性のヒトiPS細胞(201B7株、理化学研究所バイオリソースセンター)に対する4種のレクチンの反応性を測定したところ、ADSC P3の2〜4倍もの高い反応性を示した。以上の結果からも、TJAI、SSA、SNA、rPSL1aの4種のレクチンの反応性は、細胞の分化ポテンシャルと高い相関性を示すことが示唆された。
(実施例4)各種細胞に発現する糖タンパク質糖鎖のシアル酸結合様式
実施例3で用いた継代初期(P3)及び継代後期(P26)のヒト脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC P3、ADSC P26)と共に、ヒトiPS細胞(201B7株)及びヒト皮膚繊維芽細胞(Fibroblast)に対して気相ヒドラジン分解法を適用して糖タンパク質糖鎖を切り出し、糖鎖の酸性度に応じて分画した。具体的には、上記各細胞を凍結乾燥後、ヒドラクラブY2100(J-オイルミルズ)で、無水ヒドラジンを用いて100℃4時間処理することにより糖鎖を切り出し、反応後、無水ヒドラジンを減圧乾燥して、遊離糖鎖をN-アセチル化し、Dowex 50WX2で脱塩後、凍結乾燥した。次に、遊離糖鎖をGlycoTAG(タカラバイオ)で2−ピリジルアミノ(PA)化し、PA化糖鎖をMono-Qカラム(GE)を用いたイオン交換クロマトグラフィーに供し、糖鎖の酸性度に応じて糖鎖を分画した。シアル酸が1個付加された画分をA1、シアル酸が2個付加された画分をA4とする。これら画分のシアル酸の結合位置を調べるために、Salmonella typhimurimum LT2由来α2-3シアル酸特異的シアリダーゼ(タカラバイオ)と、α2-3シアル酸、及びα2-6シアル酸の両方を切断するClostridium perfringensシアリダーゼ(メルク)を反応させて、α2-3シアル酸とα2-6シアル酸の割合を計算した。その結果、A1画分におけるα2-6シアル酸の割合(黒棒)は、ヒトiPS細胞では83%だったのに対し、ADSC P3では25%、ADSC P28とFibroblastでは0%であった。A4分画における、α2-6シアル酸2個(黒棒)、及びα2-6シアル酸1個(黒点)含む糖鎖は、ヒトiPS細胞ではそれぞれ58%と15%、ADSC P3では27%と11%、ADSC P28では0%と16%、Fibroblastでは5%と5%であった。以上の結果から、α2-6シアル酸の割合は、ヒトiPS細胞で最も高く、次にADSC P3、ADSC P28とFibroblastではほとんど確認されなかった。以上の結果から、α2-6シアル酸の割合は、細胞分化ポテンシャルの高さを判定するためのよい指標となることが分かった。
(実施例5)多指症軟骨組織由来軟骨細胞(Yub621c株)の継代培養初期細胞及び後期細胞における、増殖能、分化ポテンシャル、及びフローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性
脂肪組織由来間葉系幹細胞以外の他の組織由来の体性幹細胞を用いて検証を行った。軟骨幹細胞の一種である多指症軟骨組織由来軟骨細胞(Yub621c株、理研バイオリソースセンター)を実施例1などと同様の手法で継代培養し、継代初期(P7)から継代後期(P28)に至る増殖能(分裂回数)をプロットした。継代初期(P7)及び継代後期(P28)細胞に対して骨芽細胞と脂肪細胞への分化誘導を行った結果(図9)、継代初期にはいずれに対しても高い分化ポテンシャルが観察されたが、継代後期になると、脂肪細胞分化は全く観察されず、骨芽細胞分化は、わずかに観察されるもののきわめて低い分化ポテンシャルであった。一方でフローサイトメトリーにおける4種のレクチン(TJAI、SSA、SNA、rPSL1a)の継代初期(P6)から継代後期(P28)での反応性の低下は際だっており、多指症軟骨組織由来軟骨細胞(多指症由来軟骨幹細胞)表面のα2-6シアル酸量の低下は、増殖能とは関連性を示さず、軟骨幹細胞においてもその分化ポテンシャルと高い関連性を示すため、分化ポテンシャルの高さを示す優れた指標となることがわかった。
(実施例6) 多指症骨髄由来間葉系幹細胞(Yub622株)の継代培養初期細胞及び後期細胞における、増殖能、分化ポテンシャル、及びフローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性
多指症骨髄由来間葉系幹細胞(Yub622株、理研バイオリソースセンター)を実施例1などと同様の手法で継代培養し、継代初期(P5) から継代後期(P17)に至る増殖能(分裂回数)をプロットしたところ、継代後期(P17)になると増殖能が低下する点は実施例2などで解析した脂肪細胞由来間葉系幹細胞の場合と同様であった。一方、フローサイトメトリーにおける4種のレクチン(TJAI、SSA、SNA、rPSL1a)の反応性は、継代初期(P4)では高い反応性を示し、継代後期(P15)の細胞に対しては若干の反応性の低下現象が認められたものの、大きな低下は認められなかった。それぞれの細胞での骨芽細胞と脂肪細胞への分化ポテンシャルを解析したところ、いずれの分化ポテンシャルも継代初期には高く、継代後期(P17)の細胞では脂肪細胞分化ポテンシャルは失われていたが、骨芽細胞への分化ポテンシャルは維持されていた(図10)。
以上の結果から、骨髄由来間葉系幹細胞では、4種のレクチンの反応性、すなわち骨髄由来間葉系幹細胞表面のα2-6シアル酸量は、増殖能とは関連性を示さず、骨芽細胞への分化ポテンシャルと高い関連性を示すことが示唆された。
(実施例7)骨髄由来間葉系幹細胞の継代培養、分化ポテンシャル、及びフローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性
骨髄由来間葉系幹細胞における細胞表面のα2-6シアル酸量と骨芽細胞への分化ポテンシャルとの関連性を検証するために、Lonza社から購入した実施例6とは異なる種類の骨髄由来間葉系幹細胞についても実施例6と同様の骨芽細胞と脂肪細胞への分化ポテンシャル解析及び4種のレクチンとの反応性の解析を行った。フローサイトメトリーによる継代初期及び後期の骨髄由来間葉系幹細胞に対する4種のレクチン(TJAI、SSA、SNA、rPSL1a)の反応性の解析結果では、継代初期(P4)の細胞では反応性が高く、継代後期(P12)の細胞では反応性が若干低下しているが十分に維持されていることが観察された(図11)。一方、分化ポテンシャルについては、(実施例5)と同様の傾向を示し、継代初期(P5)の細胞では骨芽細胞及び脂肪細胞への分化ポテンシャルが高く、継代後期(P12)の細胞では脂肪細胞分化ポテンシャルがほとんど失われたのに対し、骨芽細胞分化ポテンシャルは若干低下したものの維持されている傾向が観察された(図示せず)。上記4種のレクチンの反応性の低下程度は、脂肪細胞分化ポテンシャルと比較して、より骨芽細胞分化ポテンシャルの低下の程度を反映するものであった。
以上の結果から、骨髄由来間葉系幹細胞における細胞表面のα2,6シアル酸量は、骨芽細胞への分化ポテンシャルと高い関連性を示すことが検証できた。
(実施例8)多指症骨髄由来間葉系幹細胞の継代培養初期細胞及び後期細胞における、骨芽細胞への分化ポテンシャル、及びフローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性
(実施例6)で用いた多指症骨髄由来間葉系幹細胞(Yub622株、理研バイオリソースセンター)を用いて、再度骨芽細胞への分化誘導実験を行った。実施例6と同様の手法で継代培養を行った。実施例6では、継代初期と後期でのα2-6シアル酸結合性レクチンとの反応性の差異が明確でなかったにもかかわらず、脂肪分化誘導性の分化ポテンシャルは、継代数の増加に従って明らかに低下してしまい、α2-6シアル酸結合性レクチンとの反応性との相関は見いだせなかった。むしろ骨髄由来間葉系幹細胞とα2-6シアル酸結合性レクチンとの反応性は、骨芽細胞誘導の分化ポテンシャルとのみ相関する可能性が示唆されたため、今回の追試実験では、新たなYub622株の継代初期(P5)と後期(P15)細胞を用いて骨芽細胞への分化程度と、レクチンとの反応性との間の関連性を観察した。
そして、本実験では、分化ポテンシャルとレクチンの反応性の相関性を直接解析できるように、骨芽細胞分化程度の観察と、フローサイトメトリー用とで同じ細胞を使用した。
まず、継代初期(P5)の細胞及び継代後期(P15)の細胞について、フローサイトメトリーを用いて4種のレクチン(TJAI、SSA、SNA、rPSL1a)の蛍光強度を測定し、その平均値を求めたところ、SSAレクチンでは(P5)で3225であったものが、(P15)では1227まで減少している。この結果は、SSAレクチンと反応する細胞表面のα2-6シアル酸量が約1/3まで減少したことを意味する。同様に、TJA1レクチン、SNAレクチン、rPSL1aレクチンとの反応性も1/3〜1/4まで減少した結果を示している。つまり、多指症骨髄由来間葉系幹細胞(Yub622株)細胞表面のα2-6シアル酸量は、継代初期(P5)には多数存在していたが、継代数を重ね、継代後期(P15)になると、おおよそ初期の1/3〜1/4量にまで減少することがわかる。
次いで、それぞれの細胞をLonza社製の分化誘導キットであるhMSC differentiation BulletKit-osteogenic (Cat#: PT-3002, Lonza)を用いて2週間、骨分化細胞への分化誘導を行った。アリザリンレッドSにより染色したところ、継代後期(P15)では骨芽細胞への分化がほとんど観察できなかったのに対し、継代初期(P5)の細胞は多数の骨芽細胞が観察された。すなわち多指症骨髄由来間葉系幹細胞における継代後期の細胞では、継代初期に高かった骨芽細胞への分化ポテンシャルが失われていることがわかる(図12)。
以上の結果から、多指症骨髄由来間葉系幹細胞表面におけるα2-6シアル酸量は、骨芽細胞への分化ポテンシャルと高い相関性を示すことが実証された。
(実施例9)多指症骨髄由来間葉系幹細胞の継代培養初期細胞及び後期細胞における、骨芽細胞への分化ポテンシャル、及びフローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性
(実施例8)と同様の実験を、多指症骨髄由来間葉系幹細胞の別の細胞株(Yub10F、理研バイオリソースセンター)を用いて行った。本実施例でも骨芽細胞分化に用いた細胞とフローサイトメトリーに用いた細胞とは同じ細胞を使用しており、分化ポテンシャルとレクチン反応性(α2-6シアル酸量)との相関性が直接解析できる。
(実施例8)の場合と同様に、継代初期(P5)の細胞及び継代後期(P15)の細胞について測定したフローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンの蛍光強度の積算値は、継代初期(P5)細胞と継代後期(P15)細胞において約1/4〜1/5の大幅な減少を示した。
次いで、Lonza社製の分化誘導キットにより、2週間骨分化細胞への分化誘導を行い、アリザリンレッドにより染色したところ、同様に、継代後期(P15)では骨芽細胞への分化がほとんど観察できなかったのに対し、継代初期(P5)の細胞は多数の骨芽細胞が観察され、骨芽細胞への分化ポテンシャルが継代後期(P15)では失われていることが確認された(図13)。
この結果もまた、多指症骨髄由来間葉系幹細胞表面におけるα2-6シアル酸量と骨芽細胞への分化ポテンシャルとの高い相関性を示している。
(実施例10)多指症由来軟骨幹細胞(Yub621c株、Yub625株)の継代培養初期細胞及び後期細胞における、軟骨細胞への分化ポテンシャル、及びα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性
(10−1)Yub621c株及びYub625株の継代培養及び軟骨細胞への分化誘導処理
(実施例5)で用いたと同じ多指症由来軟骨幹細胞のYub621c株(理研バイオリソースセンター)及び別の多指症由来軟骨幹細胞のYub625株(理研バイオリソースセンター)を(実施例5)と同様に継代培養し、Yub621c株からは継代初期(P7)株及び後期(P22,P27,P28)株を取得し、またYub625株からは継代初期(P5)株及び後期(P18,P22)株を取得し、それぞれの株の1部をLonza社製の軟骨細胞分化誘導キットを用いた軟骨細胞への誘導処理を行った。
それぞれの株に対して、以下の実験を行った。
(10−2)Yub621c株(P7)、Yub625株(p5,p22)それぞれから分化誘導した軟骨細胞の軟骨マーカーの発現
Yub625株由来の継代初期(P5)株及び後期(P22)株、並びにYub621c株の継代初期(P7)株において、軟骨細胞への誘導前と、誘導後の細胞表面の軟骨マーカー(COL2A1)の発現量を、DNAマイクロアレイを用いて測定した。
その結果、いずれの細胞株でも継代初期細胞は軟骨マーカーの発現量が極めて高く、軟骨分化率が高いことが示されたが、Yub625株由来の継代後期(P22)株では、ほとんど発現せず、軟骨分化率が低いことが確認された(図14)。すなわち、継代初期細胞で高かった軟骨分化ポテンシャルが継代後期になると失われる、という結果が得られた。
(10−3)Yub621c株(P7,P28)、Yub625株(P5,P22)の軟骨分化誘導後のHE染色像とアルシアンブルー染色像
(10−1)で得られた軟骨分化誘導処理後の、Yub625株由来の継代初期(P5)細胞及び後期(P22)細胞、並びにYub621c株の継代初期(P7)細胞及び継代後期(P28)細胞それぞれに対して、HE(ヘマトキシリン・エオジン、武藤化学社製)染色及びpH2.5でのアルシアンブルー(武藤化学社製)染色を行った。その結果、Yub625株、Yub621c株いずれにおいても継代初期株由来の軟骨誘導株のみが、アシアンブルーで強く染色され、軟骨分化が活発に起きていることを示している。この結果も、継代初期細胞で高かった軟骨分化ポテンシャルが継代後期になると失われる、という結果を追認する結果を示している。
(10−4)Yub621c株(P7,P27)細胞、及びYub625株(P5,P18)細胞のフローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンの反応性
Yub621c株の継代初期(P7)細胞及び継代後期(P27)細胞、並びにYub625株の継代初期(P5)細胞及び継代後期(P18)細胞に対し、(実施例8)の場合と同様に、フローサイトメトリーによるα2-6シアル酸結合性レクチンとの反応性を観察した。その結果、Yub621c株の場合は、継代後期(P27)になると、継代初期(P7)における反応性(すなわち細胞表面のα2-6シアル酸量)が約1/5〜1/9にまでに低下することが、またYub625株では、継代後期(P18)では、継代初期(P5)の約1/4〜1/6にまで低下することが観察された(図16、17)。
前記(10−2)及び(10−3)の結果をあわせると、多指症由来軟骨幹細胞表面におけるα2-6シアル酸量が軟骨細胞への分化ポテンシャルと高い相関性を示していることが実証できた。
(実施例11)異なる継代数の脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)と多指症由来軟骨幹細胞(Yub621c)の細胞抽出液におけるα2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)の反応性変化
(11−1)抗CD29抗体による免疫沈降物でのα2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)の反応性変化
本実験では、幹細胞表面のα2-6シアル酸のコアタンパク質を特定するために、継代数が初期、中期、後期の3段階に亘る脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)と多指症由来軟骨幹細胞とを用い、間葉系幹細胞など幹細胞表面で高発現しており、間葉系幹細胞マーカーとしても知られるCD29、CD49e及びCD13糖タンパク質抗原発現量と、その複合糖鎖を構成する非還元末端糖鎖であるα2-6シアル酸量の変化を観察する(図18〜20)。
実施例1で用いた脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)と同じADSCを同様の手法で継代培養し、異なる継代数の細胞(P5,P19,P28)培養液から、CelLyticTM MEM Protein Extraction Kitを用い疎水性分画として細胞抽出液を取得した。
各細胞抽出液に対し、ビオチン標識抗CD29抗体(Abcam社製)を固定化したストレプトアビジン被覆磁気ビーズ(Dynabeads M-280 Streptavidin、Dynabeads社製)を作用させ、4℃で一晩放置して、免疫沈降させた。得られた免疫沈降物を、SDSサンプルバッファーで可溶化後、SDS-PAGEで流し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP、同人化学社製)で標識した抗CD29抗体との反応性及びHRP標識したα2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)との反応性を各継代数ごとに観察した(図18、A)。
同様に、実施例10で用いた多指症由来軟骨幹細胞(Yub621c株)と同じYub621c株についても異なる継代数の細胞(P7,P16,P28)の細胞抽出液を取得し、抗CD29抗体(Abcam社製)による免疫沈降物と、α2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)との反応性変化を観察した(図18、B)。
その結果、何れの細胞においても、継代数の違いで抗CD29抗体の反応性に変化は見られないものの、α2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)の反応性は継代数の増加とともに低下することがわかった。
このことから、細胞表面のCD29糖タンパク質の発現量は、継代数ごとにさほど大きな差はみられないのに対し、CD29糖タンパク質の複合糖鎖中の末端α2-6シアル酸量は、継代数の増加とともに減少していくことがわかる。すなわち、細胞分化ポテンシャルが高い継代初期細胞ではCD29上のα2-6シアル酸量は多いものの、細胞分化ポテンシャルが低い継代後期細胞ではCD29上のα2-6シアル酸量は低いことが分かった。
(11−2)CD49e抗体による免疫沈降物でのα2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)の反応性変化
脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)の継代数(P6,P20,P28)細胞、及び多指症由来軟骨幹細胞(Yub621c株)の継代数(P7,P16,P28)細胞からの疎水性分画として得た細胞抽出物に対し、抗CD49e抗体(R&D社製)による免疫沈降を行い、その免疫沈降物と、α2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)との反応性変化を観察した(図19)。
その結果、CD29の場合と同様に、継代数の違いで抗CD49e抗体の反応性に変化は見られないものの、α2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)の反応性は継代数の増加とともに低下することがわかった。すなわち分化ポテンシャルが高い継代初期細胞ではCD49e上のα2-6シアル酸量は多いものの、細胞分化ポテンシャルが低い継代後期細胞ではCD29上のα2-6シアル酸量は低いことが分かった。
(11−3)CD13抗体による免疫沈降物でのα2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)の反応性変化
脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)の継代数(P6,P20,P28)細胞、及び多指症由来軟骨幹細胞(Yub621c株)の継代数(P7,P16,P28)細胞からの細胞抽出液に対し、抗CD13抗体(R&D社製)による免疫沈降を施し、その免疫沈降物と、α2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)との反応性変化を観察した(図20)。
その結果、CD13はα2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)と反応したことから、α2-6シアル酸を非還元末端に有しているコアタンパク質の1つであることは分かったものの、Yub621c株の継代後期(P28)で若干α2-6シアル酸量の低下がみられた程度で、継代数によってCD13上のα2-6シアル酸量に大きな違いは見られなかった。すなわちCD13上のα2-6シアル酸量は分化ポテンシャルとは相関しないことが分かった。
以上の結果から、体性幹細胞におけるα2-6シアル酸量の変化と分化ポテンシャルとの相関を観察するためのα2-6シアル酸コアタンパク質としては、CD29糖タンパク質及びCD49e糖タンパク質が適していることがわかった。
(実施例12)iPS細胞(201B7株)の細胞抽出液からの抗CD29抗体及び抗CD49e抗体との免疫沈降へのα2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)の反応性変化
iPS細胞(201B7株)の疎水性分画として得た細胞抽出液に対しても、実施例11と同様に、抗CD29抗体(R&D社製)及び抗CD49e抗体(R&D社製)により免疫沈降を行い、それぞれの免疫沈降物に対して、α2-6シアル酸結合性レクチン(rPSL1a)との反応性変化を観察した(図21)。
その結果、iPS細胞の抗CD29抗体及び抗CD49e抗体による免疫沈降物はα2-6シアル酸量がきわめて多く、幹細胞表面におけるα2-6シアル酸のコアタンパク質であることを裏付ける結果であった。すなわち、細胞分化ポテンシャルの高さは、CD29及びCD49e上のα2-6シアル酸量をマーカーとして測定することで推定できることが強く示唆された。
(実施例13)4種のα2-6シアル酸結合性レクチン(SNA、SSA、TJAI、rPSL1a)と抗CD29抗体のサンドイッチアッセイ系の構築
(13−1)CD29抗体とのサンドイッチアッセイ系
多指症由来軟骨幹細胞(Yub621c)の各種継代数(P7,P16,P28)の細胞の疎水性分画から抗CD29抗体で免疫沈降を行い、それぞれの免疫沈降物を、4種のα2-6シアル酸結合性レクチン(SNA、SSA、TJAI、rPSL1a)を固定化したアレイに対して反応させて、Cy3で蛍光標識化した抗CD29抗体を反応させるサンドイッチアッセイを行った。
その結果、α2-6シアル酸結合性レクチンのうち、TJAIレクチン以外のSNA,SSA,rPSL1aレクチンはいずれも継代数の増加に伴い減少傾向を示した。とりわけ、SNAレクチンの場合の継代数の増加に伴う減少傾向がきわめて明瞭であることから、抗CD29抗体とSNAレクチンとを組み合わせたサンドイッチアッセイ系は、分化ポテンシャルを推定するためのα2-6シアル酸発現量測定用アッセイ系として最も有効であるといえる。
α2-6シアル酸発現量の変化と分化ポテンシャルとの関連性は、用量依存的な相関関係を有する可能性が高いことが期待されるので、あらかじめ間葉系幹細胞、軟骨幹細胞などの体性幹細胞における当該アッセイ系で測定される標識強度と目的分化細胞特異的な分化細胞マーカー強度などの数値とから検量線を求めておくことで、被検体性幹細胞に対する脂肪細胞、骨芽細胞、又は軟骨細胞など移植材料としての分化ポテンシャルに関し、確実性の高い定量的な評価、判定が可能となる。すなわち、抗CD29抗体とSNAレクチン、SSAレクチン、及びrPSL1aレクチンとを組み合わせたサンドイッチアッセイ系は、体性幹細胞の各種細胞への分化ポテンシャルの定量的な評価、判定に用いることができる。
(13−2)抗CD49e抗体とのサンドイッチアッセイ系
多指症骨髄由来間葉系幹細胞(Yub621c)の各種継代数(P7,P16,P28)の細胞の疎水性分画から抗CD49e抗体で免疫沈降を行い、それぞれの免疫沈降物を4種のα2-6シアル酸結合性レクチン(SNA、SSA、TJAI、rPSL1a)を固定化したアレイに対して反応させて、Cy3で蛍光標識化した抗CD49e抗体を反応させるサンドイッチアッセイを行った。
その結果、抗CD49e抗体の場合も、α2-6シアル酸結合性レクチンのうち、TJAIレクチン以外の、SNAレクチン、SSAレクチン、及びrPSL1aレクチンとを組み合わせることで、被検体性幹細胞表面のα2-6シアル酸発現量の変化を定量可能なサンドイッチアッセイ系を構築できることを見いだした。
すなわち、抗CD49e抗体とSNAレクチン、SSAレクチン、及びrPSL1aレクチンとを組み合わせたサンドイッチアッセイ系もまた、体性幹細胞の各種細胞への分化ポテンシャルの定量的な評価、判定に用いることができる。
(実施例14)シアリダーゼ処理した多指症骨髄由来間葉系幹細胞(Yub621c)の骨芽細胞分化
多指症骨髄由来間葉系幹細胞(Yub621c)の骨芽細胞分化において、α2-6シアル酸の発現が重要な役割を担っていることを確認するために、分化誘導前、及び分化誘導中においてシアリダーゼ処理の有無による骨芽細胞分化への影響を観察した。シアリダーゼとしては、α2-3シアル酸、及びα2-6シアル酸の両方を切断するArthrobacter ureafaciensシアリダーゼ(ロシュ・ライフサイエンス社製)を用いた。
その結果、シアリダーゼ処理を行わない通常の骨芽細胞への分化誘導の場合(コントロール)と比較して、分化誘導前でも分化誘導中でもシアリダーゼ処理を行うと、骨芽細胞分化の効率が下がることが分かった。すなわち、α2-6シアル酸は細胞分化において直接的な機能を担っていることが分かった。

Claims (23)

  1. 体性幹細胞の骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルを判定又は評価する方法であって、被検体性幹細胞含有試料に対して下記(1)及び(2)を同時に、又はいずれかから順次施すことを包含する、方法;
    (1)α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを用いてα2-6シアル酸を検出又は測定する工程、
    (2)CD29又はCD49e糖タンパク質を特異的に認識するプローブを用いてCD29又はCD49eを検出又は測定する工程。
  2. 体性幹細胞が間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞である、請求項1に記載の方法。
  3. α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブが、TJAIレクチン、SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記CD29又はCD49e糖タンパク質を特異的に認識するプローブが、抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 体性幹細胞の骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルを判定又は評価する方法であって、下記の(1)及び(2)を含む方法;
    (1)被検体性幹細胞含有試料を、下記の(a)又は(b)のいずれか一方のプローブが固定化された基板上にオーバーレイし、次いで、標識化された他方のプローブを作用させる工程、
    (a)SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチン、
    (b)抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体、
    (2)標識量を測定する工程。
  6. あらかじめ、前記試料中の被検体性幹細胞を、前記(a)又は(b)のプローブとの相互作用を利用して濃縮する工程を設けることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
  7. 請求項5又は6の方法に、さらに
    (3)測定した標識量と、被検体性幹細胞の分化ポテンシャルとを相関させる工程、
    を設けることを特徴とする、体性幹細胞の骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルを定量的に判定又は評価する方法。
  8. 体性幹細胞の骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルの判定又は評価用試薬であって、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブ、及びCD29又はCD49e糖タンパク質を特異的に認識するプローブを含むことを特徴とする、試薬。
  9. 体性幹細胞の骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャル判定用キットであって、
    (a)α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブ、及び
    (b)CD29又はCD49e糖タンパク質を特異的に認識するプローブ、
    を含むことを特徴とする、キット。
  10. (a)又は(b)のいずれか一方のプローブが基板に固定化され、他方のプローブが標識化されている、請求項9に記載のキット。
  11. (a)のα2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブが、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するレクチン及び抗α2-6シアル酸抗体の群から選択された少なくとも1種のプローブである、請求項9又は10に記載のキット。
  12. (a)のα2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブが、SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンであって、
    (b)のCD29又はCD49e糖タンパク質を特異的に認識するプローブが、抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体である、
    請求項9〜11のいずれかに記載のキット。
  13. 体性幹細胞を含む細胞試料から骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルが高い体性幹細胞を分離又は濃縮する方法であって、体性幹細胞含有細胞試料に対して、下記(1)及び(2)を施すことを含む、方法;
    (1)CD29又はCD49e糖タンパク質を特異的に認識するプローブとの相互作用を利用して幹細胞を濃縮する工程、
    (2)α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを接触させる工程。
  14. 前記体性幹細胞を含む細胞試料が、間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞含有試料である、請求項13に記載の方法。
  15. 前記CD29又はCD49e糖タンパク質を認識するプローブが抗CD29抗体、及び抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体であり、当該プローブとの相互作用が、抗CD29抗体又は抗CD49e抗体との免疫反応である、請求項13又は14に記載の方法。
  16. 前記α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを接触させる工程が、フローサイトメトリーによる細胞分画工程、又は前記プローブを固定化した担体による分離工程のいずれかの方法を含む、請求項13〜15のいずれかに記載の方法。
  17. 前記α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを固定化した担体が、磁気ビーズ又はアフィニティカラムである、請求項16に記載の方法。
  18. α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブが、TJAIレクチン、SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンを含むことを特徴とする、請求項13〜17のいずれかに記載の方法。
  19. 骨芽細胞又は軟骨細胞への分化ポテンシャルの高い体性幹細胞の単離又は濃縮用キットであって、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを固定化した担体、及びCD29又はCD49e糖タンパク質を認識するプローブを含むことを特徴とする、キット。
  20. 体性幹細胞が間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞である、請求項19に記載のキット。
  21. 前記α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを固定化した担体が、磁気ビーズ又はアフィニティカラムである、請求項19又は20に記載のキット。
  22. 間葉系幹細胞又は軟骨幹細胞含有細胞試料を用いた骨芽細胞又は軟骨細胞増殖のための移植材料の調製方法であって、下記の(1)〜(6)の工程を含む方法;
    (1)採取した骨髄由来間葉系幹細胞含有細胞試料をex vivoで拡大培養する工程、
    (2)工程(1)で得られた細胞試料を、CD29又はCD49e糖タンパク質を認識するプローブとの相互作用により幹細胞を濃縮する工程、
    (3)工程(2)で幹細胞が濃縮された細胞試料を、α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブを固定化した担体と接触させる工程、
    (4)工程(3)で得られた固定化担体をリン酸含有緩衝液により洗浄し、非特異的な結合物を除去する工程、
    (5)工程(4)で得られた固定化担体を糖類含有緩衝液により洗浄し、前記α2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブと結合している細胞を固定化担体から遊離させる工程、
    (6)工程(5)で得られた細胞を集めて移植用材料を調製する工程。
  23. 工程(2)の幹細胞を濃縮する工程が、抗CD29抗体又は抗CD49e抗体から選択された少なくとも1種の抗体との免疫反応を利用して濃縮する工程であり、かつ
    工程(3)で用いるα2-6シアル酸をエピトープとして認識するプローブが、SSAレクチン、SNAレクチン、及びPSL1aレクチンから選択された少なくとも1種のレクチンである、請求項22に記載の方法。
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