<第1実施形態>
以下、本発明の一実施形態に係る試料収容セルについて、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、B等を付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率(各構成間の比率、縦横高さ方向の比率等)は説明の都合上実際の比率とは異なったり、構成の一部が図面から省略されたりする場合がある。
[試料収容セルの構成]
図1は、本発明の第1実施形態における試料収容セルの外観を示す図である。試料収容セル1は、第1基板10と第2基板20とを接合して製造されている。第1基板10は、例えば、シリコン基板である。第2基板は、可視光線に対して透過性を有する基板であって、例えば、ガラス基板である。なお、第1基板も第2基板と同様に、可視光線に対して透過性を有する基板であってもよい。第1基板10と第2基板20との間には、内部に空間が配置されている。試料収容セル1は、電子顕微鏡の観察対象となる試料を液体に含ませた状態で、この内部空間に収容するセルである。
以下、試料を含む液体を、試料含有液体と表現する場合がある。試料収容セル1の大きさは、1辺が2.5mm〜3mm程度の正方形であり、この例では2.6mmである。試料収容セル1の厚さは、第1基板10と第2基板20とをあわせて0.3〜1.2mm程度である。
第1基板10および第2基板20には、それぞれ開口部が形成されている。この例では、第1基板10には開口部110、120、130が配置されている。第2基板には、開口部210(図3、図4参照)が配置されている。続いて、試料収容セル1の内部構造を含めた詳細な構造について、図2、図3、図4を用いて説明する。
図2は、本発明の第1実施形態における試料収容セルを第1基板側から見た平面図である。図3は、本発明の第1実施形態における試料収容セルの断面構成(図1、2における断面線A−A’の断面構造)を示す模式図である。図4は、本発明の第1実施形態における試料収容セルの断面構成(図1、2における断面線B−B’の断面構造)を示す模式図である。
開口部110の第2基板20側は、第1薄膜150により塞がれている。開口部210の第1基板10側は、第2薄膜250により塞がれている。第1薄膜150と第2薄膜250とは対向して配置されている。第1薄膜150および第2薄膜250は、電子線に対して透過性を有する膜である。
第1薄膜150および第2薄膜250は、例えば、窒化シリコンで形成される。第1薄膜150および第2薄膜250の膜厚は、10nm以上200nm以下、望ましくは、15nm以上50nm以下であり、この例では、20nmである。第1薄膜150と第2薄膜250とは同じ膜厚であってもよいし、異なる膜厚であってもよい。第1薄膜150および第2薄膜250は、10nmより薄くなると強度がなくなり破損するおそれがある。一方、200nmよりも厚くなると、電子線が透過しなくなる。したがって、第1薄膜150および第2薄膜250は、破損しない程度の膜の強度を得ながらも、できるだけ薄くすることが望ましい。
また、第1薄膜150と第2薄膜250との距離は、10nm以上400nm以下、望ましくは、50nm以上300nm以下であり、この例では、200nmである。なお、第1薄膜150および第2薄膜250は、それぞれ20nmであるため、この部分における第1基板10と第2基板20との距離は、240nmとなる。第1薄膜150と第2薄膜250との距離は、試料すなわち観察対象物(例えば細胞)の大きさに依存するため、少なくとも観察対象物よりも大きくなる必要がある。一方、第1薄膜150と第2薄膜250との距離が観察対象物に対して大きすぎると、観察対象物が重なって個々の観察対象物の観察結果が得られにくくなる。
なお、観察対象物が大きすぎる場合、観察対象物自体を電子線が通過できないため、透過型電子顕微鏡による観察はできない。すなわち、第1薄膜150と第2薄膜250との距離が、電子線が通過できない程度の距離以上にする必要はない。一方、観察対象物が小さくても、第1薄膜150と第2薄膜250との距離を小さくしすぎると、後述するスティッキング現象が発生しやすくなってしまう。
開口部110と開口部210とは対向して配置され、第1基板10側から見た場合に、ほぼ同じ大きさで開口するように設計されている。開口部110および開口部210の開口の形状は、この例では、20μm×20μmの正方形である。なお、この開口の形状は、5μm×20μm等の長方形であってもよい。開口部120、130の開口の形状は、開口部110と比べて、大きく、この例では、1.0mm×1.5mmの長方形である。なお、この開口の形状は、1.0mm×1.0mm等の正方形であってもよい。このように、開口部120、130に比べて、開口部110は非常に小さいが、説明に用いた各図では、構造をわかりやすくする表現するために、これらの大きさを調整して示している。
なお、これらの開口部110、120、130の開口の形状は、四角形以外の多角形であってもよいし、円形、楕円形等、曲線で囲まれた形状であってもよいし、直線と曲線とで囲まれた形状であってもよい。また、開口部120の形状と開口部130の形状とが異なっていてもよい。
開口部110、210は、その内壁が、第1薄膜150および第2薄膜250が拡がる平面(基板表面)に対して傾き(テーパ形状)を持って形成されている。開口部120、130についても、その内壁がその基板表面に対して傾きを持って形成されている。開口部内において傾きの程度が一定でなく変化していてもよい。すなわち、開口部110、120、130は第1薄膜150側の開口面積が外部空間1000側の開口面積よりも小さい。また、開口部210は第2薄膜250側の開口面積が外部空間1000側の開口面積よりも小さい。開口部110、210の内壁がテーパ形状であると、電子線の入射角のマージンを確保することができる。
第1基板10と第2基板20とは、外周に沿った領域CAにおいて接合している。領域CAに囲まれた領域において第1基板10と第2基板との間には、空間が形成されている。この空間は、観察空間MSおよび流路空間FPを含む。観察空間MSは、開口部110およ開口部210との間の領域に形成される空間であり、電子顕微鏡に用いられる電子線が通過する空間である。流路空間FPは、観察空間MSと外部空間1000とを接続するための空間である。この例では、流路空間FPは、少なくとも2つの開口部を介して外部空間1000と接続し、この例では開口部120、130を介して外部空間1000に接続する。
一方の開口部が試料含有液体を注入するための開口であり、他方が流路空間FPの空気を外部空間1000に押し出すための排気口として機能する。なお、一方の開口部(例えば、開口部130)が、第1基板10の別の部分に形成されていてもよいし、第2基板20に形成されていてもよいし、後述する実施形態に例示するように第1基板10と第2基板20との間に形成されていてもよい。
以上が、試料収容セル1の構成についての説明である。続いて、試料収容セル1に試料含有液体を配置して、電子顕微鏡にて観察できる状態にするための処理(観察セル作製処理)について説明する。
[観察セル作製処理]
図5は、本発明の第1実施形態における試料収容セルへ試料含有液体を注入する方法を説明する図である。試料含有液体700は、第1基板10と第2基板20との間の空間に開口部120から注入されると、その空間内を移動して観察空間MSに至り、さらには、開口部130まで到達する。なお、開口部120ではなく開口部130に試料含有液体700が注入されてもよいが、以下の説明では、開口部120に試料含有液体700が注入される注入口であるものとして説明する。
観察空間MSに対応する開口部110、210は、試料収容セル1の全体の大きさに比べると非常に小さい。そのため、開口部110、210を視認するだけでは、観察空間MSに試料含有液体700が到達しているかわかりにくい。試料収容セル1では、第2基板20が可視光線を透過する材料で形成されているため、第2基板20側から試料含有液体700の位置を確認することができる。
したがって、試料含有液体700または液体中の試料自体の位置を第2基板20側から確認しつつ、開口部120からの注入量、注入圧力等を制御することにより、目的とする範囲(例えば、流路空間FP、観察空間MSおよび開口部130)に試料含有液体700を拡げることができる。このとき、試料含有液体700は、流路空間FPの全体を充填するように、注入されることが望ましい。後述のように封止材で封止された後に、流路空間FPを含む封止された空間において試料含有液体700によって充填されない部分が気泡として存在すると、電子顕微鏡による観察がされるまでにその気泡が観察空間MSに移動してしまう可能性があるためである。
図6は、本発明の第1実施形態における試料収容セルを封止するための樹脂を形成する方法を説明する図である。試料含有液体700が流路空間FPおよび観察空間MSに充填された後、開口部120、130を封止材320、330で塞ぐことで、流路空間FPおよび観察空間MSは、外部空間1000と分離される。封止材320、330は、例えば、エポキシ樹脂等の樹脂であり、UV硬化型の樹脂であってもよいし、2液混合型硬化樹脂(例えば、2液常温硬化タイプまたは1液低温硬化タイプ)であってもよい。UV硬化型の場合には、開口部120、130を塞ぐように硬化前の樹脂を形成し、UV照射によって硬化させて封止材320、330が形成される。なお、封止材320、330によって外部空間1000と分離された内部空間には気泡が含まれないようにしてもよいし、硬化前の樹脂と試料含有液体700とが混合しないように、少なくとも樹脂が硬化するまでは互いに離れた状態(試料含有液体と封止材との間に気泡が存在する状態)にしてもよい。
観察空間MSに配置された試料含有液体700は、外部空間1000と離隔されているため、電子顕微鏡による観察が行われる際に、試料収容セル1が真空環境に曝されても、試料含有液体700が揮発してしまうことを防ぎ、液体の状態を保持することができる。また、観察空間MSは、電子線に対して透過性を有する数十nm程度の第1薄膜150および第2薄膜250に囲まれている。観察空間MSの高さ(第1薄膜150および第2薄膜250との距離)、すなわち試料含有液体700の厚さは、電子線に対して透過性を有する程度の大きさである。
そのため、電子顕微鏡で用いられる電子線(図6における電子線EB)は、開口部110を通って、第1薄膜150、試料含有液体700および第2薄膜250を通過し、さらに開口部210を通って、試料収容セル1全体を通過することができる。電子線EBの方向は図6に示す方向とは逆であってもよい。
図5における試料注入処理、および図6におけるセル封止処理については、手動処理であっても、自動処理であってもよい。手動処理の場合には、マイクロマニピュレータに取り付けたガラスキャピラリの先端と開口部120、130との位置関係を、実体顕微鏡を用いて確認し、ガラスキャピラリに接続されたインジェクタを用いて試料含有液体700を注入したり、封止材320、330を注入したりすればよい。
また、自動処理の場合には、試料注入処理およびセル封止処理を自動的に実行して観察セルを作成する装置を用いればよい。
[観察セル作製装置]
図7は、本発明の第1実施形態における観察セル作製装置の試料注入処理を説明する図である。観察セル作製装置800は、試料注入器810、UV光照射器860およびステージ888を備える。ステージ888には、チップ台825、カップ台835、845、試料台850が取り付けられている。チップ台825は、チップ820を収容する。チップ820は、試料含有液体700を吸い取るためのノズルを有するピペットチップである。カップ台835は、試料含有液体700を保持する試料カップ830を収容する。カップ台845は、封止材となる硬化前樹脂300を保持する試料カップ840を収容する。試料台850は、試料収容セル1を設置する。また、ステージ888には、チップ820を廃棄するための廃棄口870が配置されている。
試料注入器810に対して、ステージ888は水平方向(図7における左右方向、以下、X方向という)に移動可能である。また、試料注入器810は、水平方向であってステージ888の移動方向とは垂直な方向(図7における奥行き方向、以下、Y方向という)と、鉛直方向(図7における上下方向、以下、Z方向という)とに移動可能である。したがって、試料注入器810とステージ888とでX、Y、Z方向で相対的に移動可能になっている。なお、ステージ888上の試料台850については、別途Y方向にも移動可能であってもよい。
試料注入器810は、チップ取付部811、支持部813、制御部815およびチップ取り外し部817を備える。チップ取付部811は、先端にチップ820が差し込まれて取り付けられる部分である。支持部813は、装置天井に対してY方向、Z方向に移動させるように試料注入器810を支持する。制御部815は、チップ取付部811に取り付けられたチップ820に試料カップ内の液体を吸い込んで保持したり、チップ820に保持された液体を排出したりするための制御を行う。チップ取り外し部817は、下方に移動することによって、チップ820を下方に押し出してチップ取付部811から取り外す。
UV光照射器860は、硬化前樹脂300を硬化させるためのUV光を照射する装置である。UV光の照射範囲は、試料台850に設置された試料収容セル1全体を含んでいてもよいし、開口部120、130に対応する部分にスポットで照射するようにしてもよい。開口部120、130に対応する部分にスポットで照射するようにすれば、試料へのUV光の影響を抑えることができる。
図7(a)は、試料収容セル1がセル保管庫等から運ばれて、観察セル作製装置800の試料台850に設置された状態を示している。続いて、ステージ888と試料注入器810とを移動させ、以下に示す順に処理を実行する。まず、チップ取付部811にチップ820を取り付ける(図7(b))。その後、試料注入器810は、試料カップ830内の試料含有液体700を吸い上げてチップ820内に保持する(図7(c))。試料含有液体700を保持するチップ820を試料収容セル1の開口部120上に移動させて、チップ820内の試料含有液体700を排出して開口部120から試料収容セル1内部に注入する(図7(d))。
なお、チップ820を試料収容セル1の開口部120上に移動させる際には、例えば、試料注入器810は、カメラ等の撮像部を用いて試料収容セル1の形状を画像認識し、さらには開口部120の位置を認識し、開口部120の位置にチップ820を移動させる。また、試料台850に試料収容セル1の内部の状態を第2基板20側から撮像する撮像部を用いることで、試料含有液体700の注入の程度を検出し、その程度に応じて注入量、注入圧力が調整されるようにしてもよい。続いて、観察セル作製装置800の封止処理について説明する。
図8は、本発明の第1実施形態における観察セル作製装置のセル封止処理を説明する図である。試料注入器810は、試料カップ840内の硬化前樹脂300を吸い上げてチップ820内に保持する(図8(a))。硬化前樹脂300を保持するチップ820を試料収容セル1の開口部120上に移動させて、チップ820内の硬化前樹脂300を排出して開口部120に滴下し(図8(d))、続いて、開口部130に滴下する(図8(e))。なお、開口部130への滴下前に、再度チップ820内に硬化前樹脂300を吸い上げておいてもよい。なお、硬化前樹脂300が、UV硬化型ではなく、上述した2液常温硬化タイプまたは1液低温硬化タイプであっても同様であり、この場合には、後述するUV光の照射は不要である。
続いて、試料台850をUV照射器860の下方に移動させ、試料収容セル1にUV照射器860からのUV光を照射する。この照射によって、試料収容セル1の開口部120、130に滴下された硬化前樹脂300を硬化させる。これによって、試料収容セル1の内部空間に試料含有液体700が外部空間1000と離隔された状態で収容される。また、試料注入器810は、チップ取り外し部817によって、チップ820をチップ取付部811から取り外して廃棄口870に廃棄する。UV光の照射中にチップ820の廃棄が実施されてもよい。
その後、試料含有液体700を収容した試料収容セル1が回収され、新たな試料収容セル1が試料台850に設置される(図7(a))。なお、チップ820は、試料収容セル1毎に交換するプロセスを説明したが、開口部120に滴下する硬化前樹脂300を吸い上げる前にチップ820を交換してもよい。
以上が、観察セル作製装置800による試料注入処理およびセル封止処理についての説明である。続いて、試料収容セル1の製造方法について図9〜図11を用いて説明する。
[試料収容セル1の製造方法]
試料収容セル1は、第1基板10と第2基板20とが接合されて形成される。第1基板10および第2基板20のそれぞれは、以下に説明する所定の製造工程を経てから接合される。
[第1基板10に対する製造工程]
図9は、本発明の第1実施形態における試料収容セルのうち第1基板の製造工程を説明する図である。図10は、図9に続く第1基板の製造工程を説明する図である。いずれの図も、図3に対応する断面構造を示している。まず、図9(a)に示す第1基板10を準備する。第1基板10は、上述したように、シリコン基板であり、この例では、750μmの厚さを有する。なお、300μm程度のシリコン基板を用いることで、後述する図10(c)の薄化処理が不要となるため、図10(b)に示す支持基板16を用いなくてもよい。
第1基板10に熱酸化膜12を形成し(図9(b))、フォトリソグラフィ技術を用いて、流路空間FP、観察空間MSに対応する領域の熱酸化膜12を除去する(図9(c))。熱酸化膜12が第1基板10の両面に形成されている場合には、一方の面(図9に下側の面)の熱酸化膜12は全て除去される。なお、膜の除去のためには、ドライエッチングおよびウエットエッチングのいずれも適用可能であり、特に明示しない限り以下の説明においても同様である。また、この熱酸化膜12は、この時点では残しておき、後の工程において除去してもよい。なお、熱酸化膜ではなくCVD(Chemical Vapor Deposition)、PVD(Physical Vapor Deposition)などの蒸着処理によって形成された膜であってもよい。以下に形成される様々な膜についても、蒸着処理、めっき処理等により形成されればよい。
続いて、熱酸化膜12をマスクとして第1基板10をエッチングし、キャビティ101を形成する(図9(d))。この例では、キャビティ101の深さは240nmである。キャビティ101を覆うように、第1薄膜150となる膜1501を形成し(図9(e))、フォトリソグラフィ技術を用いて、膜1501の一部をエッチングしてキャビティ101内に第1薄膜150を形成する(図9(f))。この例では、膜1501は窒化シリコン膜であり、20nmの膜厚を有する。
キャビティ101および第1薄膜150を覆うように図10(d)で実施されるエッチングストッパとなるストッパ膜14を形成する(図10(a))。この例では、ストッパ膜14は、アルミニウム膜であり、1μmの膜厚を有する。第1基板10のストッパ膜14側に粘着層を含む支持基板16を貼り付ける(図10(b))。支持基板16の粘着層は、貼り合わせ面に設けられており、熱、光等の刺激の印加により粘着力が低下するようになっている。この例では、UV光の照射によって粘着力が低下する粘着層を用いている。なお、キャビティ101の深さはストッパ膜14に比べて非常に小さいため、図においては、ストッパ膜において埋め込まれているものとして、ストッパ膜14の表面形状については、詳細の形状を省略して示している。また、支持基板16を貼り付けることによって、キャビティ101の深さ程度の段差は粘着層等によって埋め込まれるが、埋め込まれない部分があってもよい。
支持基板16によって支持された第1基板10を薄化する(図10(c))。第1基板10の薄化は、例えば、CMP(Chemical Mechanical Polishing)、ウエットエッチングを用いる。ウエットエッチングを用いる場合には、例えば、第1基板10をエッチングすることのできる液体として、フッ酸およびフッ化アンモニウムの混合液が用いられる。第1基板10は750μmの厚さを有しているが、この薄化処理によって、250μm程度まで薄くなる。第1基板10が支持基板16によって支持されているため、第1基板10が薄化しても第1基板10の反りが抑制され、また、製造工程中の強度を保つこともできる。
続いて、フォトリソグラフィ技術を用いて、第1基板10に開口部110、120、130を形成する(図10(d))。このエッチング工程では、D−RIE(Deep Reactive Ion Etching)を用いる。エッチングの際、開口部110、120、130の内壁が第1基板10の表面に対して傾きを有するように処理していてもよい。なお、このエッチング工程において、ストッパ膜14と第1薄膜150とが、エッチングストッパとなる。
ストッパ膜14を用いていることにより、開口部120、130が開口したときに、支持基板16の粘着層が露出することを防ぐことができる。粘着層が露出すると、有機物である粘着層からガスが発生する場合があるが、これを防ぐことができる。なお、上述のとおり、第1基板10として予め薄いシリコン基板を用いると、支持基板16を用いなくてもよい。このエッチング工程においては、基板を冷却するためにステージとの間に冷媒であるHeガスを循環させる空間が設けられている。支持基板16を用いていない場合に、ストッパ膜14が存在しないと、開口部120、130が開口したときにHeガスがエッチングチャンバ内に流れ出し、不具合が生じる。このような条件の下において、ストッパ膜14が存在することが必要となり、それ以外の条件の下であってもストッパ膜14が存在することが望ましい場合がある。
開口部110、120、130を形成後、UV光を照射して粘着層の粘着力を低下させて支持基板16を剥がし(図10(e))、ストッパ膜14をエッチングして除去する(図10(f))。これらの工程を経て、第1基板10側の製造工程が終了する。なお、キャビティ101の壁を構成する部分の下面、すなわち第1基板10の領域CA(図下方の面)が第2基板20と接合する領域である。
[第2基板20に対する製造工程]
図11は、本発明の第1実施形態における試料収容セルのうち第2基板の製造工程を説明する図である。この図は、図3に対応する断面構造を示している。まず、図11(a)に示す第2基板20を準備する。第2基板20は、上述したように、可視光線に対する透過性を有する基板であって、この例ではガラス基板である。この例では、第2基板20は、700μmの厚さを有する。なお、300μm程度のガラス基板を用いることで、後述する図11(e)の薄化処理が不要となるため、図11(d)に示す支持基板26を用いなくてもよい。なお、支持基板26を用いない場合には、上述のようにストッパ膜に相当する構成を支持基板26の代わりに用いることが望ましい。
第2基板20上に、第2薄膜250となる膜2501を形成し(図11(b))、フォトリソグラフィ技術を用いて、第2薄膜250を形成する(図11(c))。この例では、膜2501は、第1薄膜150と同様に窒化シリコン膜であり、20nmの膜厚を有する。
続いて、第1基板10の製造工程と同様に、第2基板20の第2薄膜250とは反対側の面に、粘着層を含む支持基板26を貼り付ける(図11(d))。支持基板26は、上記支持基板16と同様の構成である。支持基板26によって支持された第2基板20を薄化する(図11(e))。第2基板20の薄化は、例えば、CMP、ウエットエッチングを用いる。第2基板20は700μmの厚さを有しているが、この薄化処理によって、250μm程度まで薄くなる。第2基板20が支持基板26によって支持されているため、第2基板20が薄化しても第2基板20の反りが抑制され、また、製造工程中の強度を保つこともできる。
続いて、フォトリソグラフィ技術を用いて、第2基板20に開口部210を形成する(図11(f))。エッチングの際、開口部210の内壁が第2基板20の表面に対して傾きを有していてもよい。なお、開口部210を形成する前に、開口部210に対応する部分にレーザを照射しておき、第2基板20のエッチングレートを増加させてもよい。この場合には、レジストマスク等を用いずに、ウエットエッチング処理でレーザ照射部分を開口することによって開口部210を形成するようにしてもよい。
開口部210を形成後、UV光を照射して粘着層の粘着力を低下させて支持基板26を剥がす(図11(g))。これらの工程を経て、第2基板20側の製造工程が終了する。なお、第2薄膜250の周囲の面、すなわち第2基板20の領域CA(図下方の面)が第1基板10と接合する領域である。
[第1基板10と第2基板20との接合]
このように形成された第1基板10と第2基板20とは、第1薄膜150と第2薄膜250とが対向するようにして、領域CAで接合される。この例では、第1基板10がシリコンであり、第2基板20がガラスであるため、この接合には陽極接合が用いられる。この接合によって、第1基板10と第2基板20とが強固に接合され、これらの間に流路空間FPおよび観察空間MSを含む空間が形成される。
なお、上述した試料収容セル1は、各図において1つのセルとして説明したが、実際の製造工程においては、一基板上に複数の試料収容セル1が同時に形成されている。したがって、それぞれの試料収容セル1を個片化するためにダイシングを行う。なお、上述した製造方法における各構成の材料、エッチング方法等の各種条件については一例であって、様々な条件に設定可能である。以上が試料収容セル1の製造方法についての説明である。
上述した一実施形態に係る試料収容セル1は、予め第1基板10と第2基板20とが強固な接合をしているため、内部に注入された試料含有液体700が漏れることはほとんどなく、また、第2基板20が可視光線に対する透過性を有しているため、注入状態を確認しながら、第1基板10と第2基板20との間の内部空間への試料含有液体700を注入することができる。このように、利便性の高い試料収容セル1を提供することができる。
<第2実施形態>
第2実施形態においては、第1基板と第2基板との間に配置されるギャップ膜を第1基板に形成して内部に空間が形成される試料収容セル1Aについて説明する。
図12は、本発明の第2実施形態における試料収容セルの外観を示す図である。第1実施形態では、試料収容セル1は、第1基板10と第2基板20とを接合して形成されていたが、第2実施形態では、第1基板10Aと第2基板20との間にギャップ膜30が配置されて、互いに接合されている。そして、ギャップ膜30の高さが第1薄膜150と第2薄膜250との距離を決めている。
図13は、本発明の第2実施形態における試料収容セルを第1基板側から見た平面図である。図14は、本発明の第2実施形態における試料収容セルの断面構成(図12、13における断面線C−C’の断面構造)を示す模式図である。図15は、本発明の第2実施形態における試料収容セルの断面構成(図12、13における断面線D−D’の断面構造)を示す模式図である。
ギャップ膜30は、例えば、酸化シリコンで形成され、200nmの膜厚を有している。ギャップ膜30は、第1基板10Aと第2基板20との間において、外周に沿って配置されている。そのため、流路空間FPおよび観察空間MSは、第1基板10Aと第2基板20とギャップ膜30とに囲まれた空間として形成される。なお、ギャップ膜30は、第1実施形態と同様に、第1薄膜150と第2薄膜250との距離が、10nm以上400nm以下、望ましくは、50nm以上300nm以下となるように決められる。
なお、図12、13では記載を省略しているが、図14、15において示すように、ギャップ膜30と第1基板10Aとの間には、第1薄膜150と同じ周辺薄膜151が配置されている。この例では、第1薄膜150の周囲を囲うように周辺薄膜151が形成されている。なお、第1薄膜150と周辺薄膜151とが接続されて、一体の膜になっていてもよい。この場合には、第1薄膜150と周辺薄膜151の一体膜は、開口部120、130の第2基板20側において、開口を塞がないように一部に開口部が設けられていればよい。また、第2基板20とギャップ膜30との間に第2薄膜と同じ膜が存在してもよい。この膜は、観察空間MSに接する第2薄膜250から延在した一体膜であってもよいし、第2薄膜250とは分離された膜であってもよい。一体膜とする場合には、第2基板20の製造方法において、図11(c)に示す第2薄膜250を形成する工程は不要であり、膜2501をそのまま第2薄膜250として用いればよい。
続いて、試料収容セル1Aの第1基板10A側の製造工程について説明する。なお、第2基板20は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。また、以下の説明においては、第1実施形態と異なる部分について詳細に説明し、それ以外の部分は簡単な説明としたり、その説明を省略したりする場合がある。
[第1基板10Aに対する製造工程]
図16は、本発明の第2実施形態における試料収容セルのうち第1基板の製造工程を説明する図である。図17は、図16に続く第1基板の製造工程を説明する図である。いずれの図も、図14に対応する断面構造を示している。まず、図16(a)に示す第1基板10Aを準備する。第1基板10Aは、第1実施形態における第1基板10と同じものである。
第1薄膜150となる膜1501およびギャップ膜30となる膜3001を第1基板10Aに形成する(図16(b))。この例では、膜1501は窒化シリコン膜であり、20nmの膜厚を有する。また、膜3001は酸化シリコン膜であり、200nmの膜厚を有する。
続いて、フォトリソグラフィ技術を用いて、流路空間FP、観察空間MSに対応する領域の膜3001を除去してギャップ膜30を形成し(図16(c))、さらに、膜1501の一部をエッチングして第1薄膜150および周辺薄膜151を形成する(図16(d))。なお、周辺薄膜151の部分については、ギャップ膜30をマスクとしてエッチングされてもよい。
第1基板10Aの第1薄膜150側に粘着層を含む支持基板16を貼り付ける(図16(e))。支持基板16を貼り付ける前に、第1実施形態におけるストッパ膜14を形成してもよい。支持基板16によって支持された第1基板10Aを薄化し(図17(a))、フォトリソグラフィ技術を用いて、第1基板10Aに開口部110、120、130を形成する(図17(b))。開口部110、120、130を形成後、UV光を照射して粘着層の粘着力を低下させて支持基板16を剥がす(図17(c))。これらの工程を経て、第1基板10A側の製造工程が終了する。なお、ギャップ膜30の下面(図下方の面)、すなわち領域CAが第2基板20と接合する領域である。
<第3実施形態>
第3実施形態においては、第1基板と第2基板との間に形成される内部空間と外部空間とが側面において接続されている試料収容セル1Bについて説明する。
図18は、本発明の第3実施形態における試料収容セルの外観を示す図である。第1実施形態では、試料収容セル1は、第1基板10に開口部120、130が形成されていたが、第3実施形態では、第1基板10Bと第2基板20との間(試料収容セル1Bの側面部分)に、開口部120、130に対応する構成、すなわち内部空間と外部空間とが接続される構成が配置されている。
図19は、本発明の第3実施形態における試料収容セルを第1基板側から見た平面図である。図20は、本発明の第3実施形態における試料収容セルの断面構成(図18、19における断面線E−E’の断面構造)を示す模式図である。図21は、本発明の第3実施形態における試料収容セルの断面構成(図18、19における断面線F−F’の断面構造)を示す模式図である。
第1基板10Bには、開口部120、130が存在しない。一方、図19、20に示すように、流路空間FPは、試料収容セル1Bの側面に開口した開口部125、135を介して外部空間1000に接続される。なお、開口部125、135は、開口部110の幅(図19における上下方向の距離)と同じであってもよいし、狭くてもよいし、広くてもよい。
続いて、試料収容セル1Bの第1基板10B側の製造工程について説明する。なお、第2基板20は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。また、以下の説明においては、第1実施形態と異なる部分について詳細に説明し、それ以外の部分は簡単な説明としたり、その説明を省略したりする場合がある。
[第1基板10Bに対する製造工程]
図22は、本発明の第3実施形態における試料収容セルのうち第1基板の製造工程を説明する図である。この図は、図21に対応する断面構造を示している。第1実施形態において説明した図9(f)までの製造工程については、第3実施形態においても同様であるため、説明を省略する。図22(a)に示す図は、図示する断面の向きは異なっているものの第1実施形態における図9(f)に対応する図である。また、図9(f)におけるキャビティ101は、4辺を第1基板10で囲まれた形状であったが、図22(a)のキャビティ101Bは、2辺において第1基板10Bによる壁面(図22(a)における左右側の壁に対応)を有し、他の2辺については壁面を有しない。すなわちキャビティ101Bは、溝形状になっている。
第1基板10Bの第1薄膜150側に粘着層を含む支持基板16を貼り付ける(図22(b))。支持基板16によって支持された第1基板10Bを薄化し(図22(c))、フォトリソグラフィ技術を用いて、第1基板10Bに開口部110を形成する(図22(d))。開口部110を形成後、UV光を照射して粘着層の粘着力を低下させて支持基板16を剥がす(図22(e))。これらの工程を経て、第1基板10B側の製造工程が終了する。なお、キャビティ101Bの壁を構成する部分の下面、すなわち第1基板10の領域CA(図下方の面)が第2基板20と接合する領域である。
<第4実施形態>
第4実施形態においては、第2実施形態と同様に第1基板に形成されるギャップ膜を、第1基板と第2基板との間に配置されるようにして内部に空間を形成し、かつ第3実施形態のように、その内部空間と外部空間とが側面において接続されている試料収容セル1Cについて説明する。
図23は、本発明の第4実施形態における試料収容セルの外観を示す図である。第2実施形態では、第1基板10Aと第2基板20との間にギャップ膜30が配置されて、互いに接合されているが、第4実施形態では、試料収容セル1Cの側面部分に、開口部120、130に対応する構成が形成されたギャップ膜30Cを備えている。
図24は、本発明の第4実施形態における試料収容セルを第1基板側から見た平面図である。図25は、本発明の第4実施形態における試料収容セルの断面構成(図23、24における断面線G−G’の断面構造)を示す模式図である。図26は、本発明の第4実施形態における試料収容セルの断面構成(図23、24における断面線H−H’の断面構造)を示す模式図である。
ギャップ膜30Cは、例えば、酸化シリコンで形成され、200nmの膜厚を有している。ギャップ膜30Cは、第1基板10Cと第2基板20との間において、外周の2辺に沿って配置されている。そのため、流路空間FPおよび観察空間MSは、第1基板10Cと第2基板20とギャップ膜30Cとに囲まれた空間として形成され、その端部に開口部125、135が形成される。
なお、図23、24では記載を省略しているが、図25、26において示すように、ギャップ膜30Cと第1基板10Cとの間には、第1薄膜150と同じ周辺薄膜151が配置されている。この例では、第1薄膜150の周囲を囲うように周辺薄膜151が形成されている。なお、第1薄膜150と周辺薄膜151とが接続されて、一体の膜になっていてもよい。
試料収容セル1Cの第1基板10C側の製造工程については、第2実施形態とほとんど同じ製造工程である。異なる点は、図16(c)におけるギャップ膜30を形成するときの配置パターン、および図17(b)における開口部120、130の形成をしないことである。また、第2基板20については、第1実施形態と同様である。したがって、試料収容セル1Cの製造方法についての説明を省略する。
<第5実施形態>
第5実施形態においては、第1実施形態における第1薄膜150と第2薄膜250とのスティッキング現象を抑制するための突出部155、255を有する試料収容セル1Dについて説明する。
図27は、本発明の第5実施形態における試料収容セルの断面構成を示す模式図である。図27に示すように、第1薄膜150の第2薄膜250側の表面には突出部155が配置され、第2薄膜250の第1薄膜150側の表面には突出部255が配置されている。そして、突出部155と突出部255とは互いに向かい合って配置されている。
何らかの外力によって第1薄膜150と第2薄膜250とが近づいたときに、突出部155、255が存在しない場合には、互いに広い面積で接触してしまう場合があり、静電引力等により貼り付いてしまう現象(スティッキング現象)が発生する場合がある。試料観察時には、試料収容セルは真空環境に曝されるため、第1薄膜150と第2薄膜250とは離れる方向に力が働く。しかしながら、スティッキング現象が強力で1度接触すると、真空環境に曝されても、離れなくなる場合もある。
一方、この試料収容セル1Dのように突出部155、255が存在する場合には、第1薄膜150と第2薄膜250とが近づいても、突出部の存在によって広い面積での接触を妨げるため、スティッキング現象の発生を抑え、仮に発生してしまったとしてもその力を弱くして、第1薄膜150と第2薄膜250とが離れやすくすることができる。
突出部155、255の突出量は、この例では、40nmである。突出部155、255との間の距離は、第1薄膜150と第2薄膜250との間の距離の50%以上となるように突出量が決められていることが望ましい。また、突出部155または突出部255のいずれか一方のみが存在する場合もある。
<第6実施形態>
第6実施形態においては、第1実施形態における開口部120、130に相当する構成が、第2基板側に形成されている試料収容セル1Eについて説明する。
図28は、本発明の第6実施形態における試料収容セルの断面構成を示す模式図である。第1基板10Eは、第1実施形態の第1基板10において開口部120、130を形成していない構成である。したがって、第1基板10E側の製造工程は、第1実施形態とほぼ同様であり、開口部110が形成される工程において開口部120、130が形成されないようになっている。
第2基板20Eは、開口部210に加えて、開口部120、130に対応する構成として開口部220、230が形成されている。したがって、第2基板20E側の製造工程は、第1実施形態における第2基板20側の製造工程とほぼ同様であり、開口部210を形成する工程において開口部220、230が形成される。
このように、可視光線に対する透過性を有する基板側に、試料含有液体700を注入するための開口部が形成されるようになっていてもよい。
また、流路空間FP等の内部空間を形成するために第1基板側にキャビティが形成されるのではなく、第2基板側にキャビティが形成されてもよいし、双方の基板にキャビティが形成されてもよい。
<第7実施形態>
第7実施形態においては、試料収容セル1の表面にマーカが形成される場合について説明する。このマーカは、電子顕微鏡による観察時に観察空間MSの位置、または観察空間MSに配置された試料の位置を確認するために用いられる。
図29は、本発明の第7実施形態における試料収容セルに設けられたマーカを示す模式図である。この例では、第1基板10の表面(第1薄膜150が形成されている面とは反対側の面)にマーカM1、M2、M3、M4が形成されている。マーカの形状は様々に取り得るが、この例では、観察空間MS重心部分に矢印が向くような図形が描かれている。なお、マーカは第2基板20側に形成されていてもよい。
マーカM1、M2、M3、M4は、電子顕微鏡で観察可能な大きさであり、光学顕微鏡であっても観察できる大きさであることが望ましい。光学顕微鏡で事前にマーカを基準とした試料の位置を確認しておき、電子顕微鏡でマーカを基準に観察位置を合わせることができる。
<第8実施形態>
上述した第2基板20の製造工程において、開口部210を形成する前に開口部210に対応する部分にレーザを照射して、第2基板20のエッチングレートを増加させる処理を行う場合には、第2薄膜250をレーザが吸収されにくい膜で形成することが望ましい。なお、この処理において用いられるレーザの波長は300nm以上400nm以下であることが多いため、この波長範囲において第2薄膜250の透過率が高いことが望ましい。
図30は、本発明の第8実施形態における試料収容セルの第2薄膜の透過率特性を説明する図である。図30においては、第2薄膜250に適用される窒化シリコン膜において、シリコンの組成比が相対的に大きい膜(SiN−Si rich)と、窒素の組成比が相対的に大きい膜(SiN−N rich)とを比較した。SixNyと表したとき、この例では、SiN−Si richはx=5、y=1であり、SiN−N richはx=2、y=1である。また、膜厚は20nmである。
上記の条件において、SiN−N richにおいては、300nm以上400nm以下の波長において、90%以上の透過率を有する。第2薄膜250がこの程度の透過率を有することにより、レーザ照射による第2薄膜250への影響を抑えることができる。
第1薄膜150は、SiN−Si richの窒化シリコン膜を用いてもよい。この窒化シリコン膜(SiN−Si rich)によれば、300nm以上400nm以下の波長において、15%以下の透過率を有する。このようにすると、300nm以上400nm以下の波長に対して弱い試料、例えば、細胞等の有機物が観察空間MSに配置されている場合に、この試料の変質を抑えることができる。なお、350nm以下の波長に対して10%以下の透過率を有する窒化シリコン膜としてもよい。開口部120、130が設けられている側の第1薄膜150において、封止材の硬化時のUV光などの影響を受けやすいため、このような低透過率にすることが望ましいが、第2膜250についてもSiN−Si richの窒化シリコン膜を用いてもよい。
上述したように、開口部120、130を封止する封止材320、330として、UV硬化型の樹脂を用いた場合、硬化時に照射されるUV光が観察空間MSに到達するのを抑制することもできる。なお、第2薄膜20についても同様に、SiN−Si richの窒化シリコン膜を用いてもよい。
<第9実施形態〜第11実施形態>
上記実施形態においては、流路空間FPと外部空間1000とを接続する開口部(開口部120、125、130、135)は、流路空間FPの両端に配置されている。この流路空間FPの端部が開口部の外側に位置する構成である場合には、その端部に試料含有液体700が拡がりきらず、気泡が発生しやすくなる。この状況について図31を用いて説明する。
図31は、本発明の比較例における試料収容セルの流路空間に注入された試料含有液体の配置例を説明する図である。この例における試料収容セル1Zは、第1基板10Zに形成されたキャビティによって形成される流路空間FPを有する。この流路空間FPの端部は、開口部120、130よりも外側に存在する。このような端部は、開口部120から注入された試料含有液体700が拡がりきれない部分BSを生じる。その部分BSは気泡となる。
このような気泡は、その位置を変化させなければ電子顕微鏡における観察に影響を及ぼさない。しかしながら、観察までの動きによって気泡が移動してしまう場合がある。気泡が観察空間MSに移動してしまうと、電子顕微鏡による観察ができなくなってしまう。そのため、流路空間FP(および観察空間MS、開口部を含む)には気泡が入らないようにすることが望ましい。また、気泡が入ってしまっても、観察空間MSに気泡が移動してこないようにすることが望ましい。そこで、流路空間FPの形状は、上記実施形態で説明したとおりの形状としている。さらに別の方法により気泡対策を施した試料収容セルについて、第9実施形態から第11実施形態として説明する。
図32は、本発明の第9実施形態における試料収容セルの流路空間の形状を説明する図である。試料収容セル1Fは、開口部120から開口部130に至る間において、開口部120の範囲から一度拡がり、その後、開口部130の範囲まで狭くなる形状の流路空間FPを有する。開口部120から注入された試料含有液体700は、流路空間FPが拡がっている方が、その空間内に注入されやすい。そして、開口部130に向かっては、流路空間FPが狭くなっていくことで、開口部130から気泡が押し出されることになる。そのため、流路空間FPに気泡が残りにくい。
第10実施形態および第11実施形態では、流路空間FPに気泡が残った場合に、気泡の移動を妨げる構成を有する試料収容セル1G、1Hについて、図33、34を用いて説明する。試料収容セル1G、1Hは、残った気泡の位置を固定するための予備空間を有する。予備空間は、流路空間FPよりも狭い空間である。
図33は、本発明の第10実施形態における試料収容セルの流路空間に設けられた予備空間の形状を説明する図である。この例では、流路空間FPの端部に予備空間SS1が配置されている。この例では、開口部130に対してセル外周側に予備空間SS1が配置されている。なお、予備空間SS1は、流路空間FPの端部に接続されていれば、異なる位置に配置されていてもよい。
流路空間FPと予備空間SS1とは、接続空間CS1で接続されている。この接続空間CS1は、流路空間FPと予備空間SS1とを狭い空間で接続し、流路空間FPから予備空間SS1に向かう際の流路で最も狭くなる領域になっている。すなわち、流路空間FPから予備空間SS1へ向かう方向を法線ベクトルとして有する断面の面積(通過面積)が接続空間CS1において最も小さい。
流路空間FPで残った気泡が存在する場合には、試料収容セル1Gを傾けたり、揺すったりして、気泡を予備空間SS1に移動させる。接続空間CS1の形状によって、予備空間SS1に入った気泡は、大きな力を受けないと流路空間FPに移動しない。そのため、電子顕微鏡による観察を行うまでに、予期せず気泡が観察空間MSに移動してくる可能性を低減することができる。
図34は、本発明の第11実施形態における試料収容セルの流路空間に設けられた予備空間の形状を説明する図である。この例では、流路空間FPの端部に予備空間SS2が配置されている。この例では、流路空間FPの第1基板10H側に予備空間SS2が配置されている。なお、予備空間SS2が、流路空間FPの第2基板20側に配置されていてもよい。
流路空間FPと予備空間SS2とは、接続空間CS2で接続されている。この接続空間CS2は、流路空間FPと予備空間SS2とを狭い空間で接続し、流路空間FPから予備空間SS2に向かう際の流路で最も狭くなる領域になっている。すなわち、流路空間FPから予備空間SS2へ向かう方向を法線ベクトルとして有する断面の面積(通過面積)が接続空間CS2において極小値を有する。
流路空間FPで残った気泡が存在する場合には、試料収容セル1Hを傾けたり、揺すったりして、気泡を予備空間SS2に移動させる。接続空間CS2の形状によって、予備空間SS2に入った気泡は、大きな力を受けないと流路空間FPに移動しない。そのため、電子顕微鏡による観察を行うまでに、予期せず気泡が観察空間MSに移動してくる可能性を低減することができる。電子顕微鏡による観察が終了するまでは、予備空間SS2が流路空間FPに対して上方に位置するように、試料収容セル1Hを保持しておくことが望ましい。このようにすれば、気泡が予備空間SS2から出てこないようにすることができる。
なお、接続空間CS2が予備空間SS2に対して狭い空間になっていなくてもよい。このようにすると、気泡を予備空間SS2に留めておく力は弱くなるが、予備空間SS2が流路空間FPに対して上方に位置するように保つことで、予備空間SS2に気泡が入り込み水平方向への移動を抑制することができる。
<第12実施形態>
開口部および第1基板と第2基板との間の空間(流路空間FPおよび観察空間MS)の内壁部分については、親水性を付与する親水処理または親油性(疎水性)を付与する親油(疎水)処理が施されていてもよい。例えば、親水処理であれば、シリコン基板表面を酸化膜で覆う処理であればよく、フッ素および酸素によるプラズマ処理で形成してもよいし、酸素含有雰囲気下での熱処理で形成してもよい。また、シリコン基板表面に形成された自然酸化膜を親水表面としてもよい。一方、親油(疎水)処理であれば、フッ素および窒素によるプラズマ処理によりシリコン基板表面にフッ化物を形成してもよいし、HMDS(ヘキサメチルジシロキサン)処理によってシリコン基板表面にメチル基を形成してもよい。
シリコン基板を例として説明したが、ガラス基板であっても、親水処理は、基板表面に水酸基、カルボキシル基、アミノ基などの親水基を形成する処理とし、親油(疎水)処理は、基板表面にメチル基、ビニル基、アルキル基など炭化水素基を形成する処理とすればよい。
注入される試料含有液体700の特性に応じた処理が施された試料収容セルを用いれば、試料含有液体700の注入を容易に実施することができる。例えば、水分系の試料含有液体700を用いる場合には、内壁部分に親水処理を施してもよい。このとき、試料収容セルの外面についても同様に親水処理がされていてもよい。
一方、これとは逆に、試料収容セルの外面については、内壁部分に施した処理と逆の処理を施しておいてもよい。例えば、開口部の内壁部分に親水処理を施した場合には、試料収容セルの外面には親油(疎水)処理を施してもよい。このようにすると、注入の際に外側にこぼれた試料含有液体700をセル表面から取り除くことが容易になる。また、封止材がアルコール系(油系)であれば、開口部内に浸入しにくくなり、試料含有液体との接触を避けて混合しないようにすることもできる。なお、開口部の内壁の一部において親水処理等の表面処理がされずに、内壁の一部において表面処理がされていてもよい。
図35は、本発明の第12実施形態における試料収容セルの表面処理、試料注入処理およびセル封止処理を説明する図である。この例では、試料収容セル1Jは、開口部120の内壁全体に、封止材に用いる硬化前樹脂300に対してなじまない表面処理がされた領域SSを有している。例えば、試料含有液体700が水分系であり、封止材がアルコール系(油系)であれば、領域SSは、親水性を有するように親水処理がされている。このとき、流路空間FPの内壁にも親水処理がされていてもよい。なお、開口部130についても開口部120と同様の表面処理がされていてもよい。また、試料収容セル1Jの外面についても開口部120と同様の表面処理(この例では親水処理)がされていてもよい。
このようにすると、図35(c)、(d)に示すように、チップ820から滴下された硬化前樹脂300が、領域SSの影響により開口部120の内部に入り込みにくくなる。したがって、試料含有液体700と硬化前樹脂300とが接触しにくくなり、互いに混合しにくくすることができる。なお、図示の通り、試料含有液体700については、領域SSに至らない程度(開口部に入らない程度)、またはわずかに重なる程度(開口部に一部はいる程度)の量を注入することが望ましい。
この構成において、例えば、試料含有液体700が、仮に硬化前樹脂300と同様にアルコール系(油系)であると、領域SSの影響を受けて内部に入り込みにくくなることが考えられる。この場合であっても、図35(a)、(b)に示すように、チップ820を開口部120に接触させることで、開口部120をチップ820でほぼ塞ぎ、試料含有液体700を注入すれば、容易に流路空間FPに注入することが可能である。このときには、流路空間FPの内壁には開口部120の内壁になされた処理とは逆の特性を有する表面処理、この例では親油処理がされていてもよい。
なお、試料含有液体700が水分系であってもアルコール系(油系)であっても、チップ820で開口部120をほぼ塞ぐことで、流路空間FPにできるだけ近いところから試料含有液体700を加圧して注入することもできる。このとき、流路空間FPに接続されたもう一つの開口部130(排気口)の存在により、チップ820と開口部120とが完全に接触していなくても、ある程度の接触をしていれば、加圧注入が可能である。
具体的には、図35(a)、(b)に示すように、チップ820を開口部120に接触させることで、開口部120をチップ820でほぼ塞ぎ、試料含有液体700を注入することが望ましい。開口部120がテーパ形状を有していると、チップ820のノズル先端を開口部120に接触させることが容易になる。すなわち、開口部120の外部空間1000側(上部開口)の開口面積が大きく、流路空間FP側(下部開口)の開口面積が小さくなっている。このとき、チップ820のノズル先端の大きさが、上部開口より小さく、下部開口よりも大きいチップ820を、試料含有液体700の注入に用いる。
このようにすれば、チップ820のノズル先端を開口部120内に押し込んだときに、ノズル先端を開口部120内壁に接触させて止めることができる。ノズル先端を開口部120内に押し込み、開口部120をノズル先端で塞ぐようにすることができるため、試料含有液体700を加圧して注入することが容易になる。また、開口部120の下部開口側に近い部分から直接的に試料含有液体700を注入することができるため、領域SSの特に上部開口側に試料含有液体700が残りにくくすることもできる。上述したように、封止材は、領域SSの影響により開口部内に入り込みにくくなり、その結果、試料含有液体700との接触を妨げることができる。
<第13実施形態>
第13実施形態では、第2実施形態におけるギャップ膜が第1基板と直接接触している場合、例えば、シリコンの熱酸化膜で形成する場合の試料収容セル1Kについて説明する。
図36は、本発明の第13実施形態における試料収容セルの断面構成を示す模式図である。この例では、第1基板10Kはシリコン基板である。ギャップ膜30Kは第1基板10Kのシリコン基板表面に熱酸化膜として形成されている。ギャップ膜30Kの表面には、第1薄膜150と同時に形成された周辺薄膜151Kが配置されている。周辺薄膜151Kと第2薄膜250Kとが接触している。
このようにして、第1基板10Kと第2基板20Kとは、ギャップ膜30K、周辺薄膜151Kおよび第2薄膜250Kを介して接続される。第1基板10Kと第2基板20Kとの距離は、ギャップ膜30K、周辺薄膜151Kおよび第2薄膜250Kの合計膜厚で決まり、第1薄膜150と第2薄膜250Kとの距離は、第1薄膜150と第2薄膜250Kの膜厚とは関係なく、ギャップ膜30Kの膜厚で決まる。ギャップ膜30Kを第1基板10K(シリコン基板)の熱酸化膜で形成する場合は、熱酸化膜の膜厚制御性の良さから、第1薄膜150と第2薄膜250Kとの距離を精密に制御することができる。なお、ギャップ膜は、熱酸化膜ではなくCVD(Chemical Vapor Deposition)、PVD(Physical Vapor Deposition)などの蒸着処理によって形成された膜であってもよい。
図37は、本発明の第13実施形態における試料収容セルのうち第1基板の製造工程を説明する図である。まず、図37(a)に示すように、シリコン基板である第1基板10Kを熱酸化して、表面に熱酸化膜3001Kを形成する。続いて、フォトリソグラフィ技術を用いて、流路空間FP、観察空間MSに対応する領域の熱酸化膜3001Kを除去してギャップ膜30Kを形成する(図37(b))。
第1基板10Kおよびギャップ膜30Kを覆うように、膜1501Kを形成し(図37(c))、膜1501Kの一部をエッチングして第1薄膜150および周辺薄膜151Kを形成する(図37(d))。その後の工程については、図16(e)および図17に示す第2実施形態での製造工程と同様である。
第2基板20Kについても、第2実施形態での製造方法と同様であるが、周辺部においても第2薄膜が残存するように形成される。第1基板10Kと第2基板20Kとを接続する場合には、周辺薄膜151Kと第2薄膜250Kとを接触させる。
<第14実施形態>
第14実施形態における試料収容セルは、第1基板と第2基板との間に流路空間FPおよび観察空間MSを形成するために、第1基板と第2基板との間にスペーサを配置する場合について説明する。
図38は、本発明の第14実施形態における試料収容セルの断面構成を示す模式図である。この例では、径が200nmのガラスフィラー41を含む接着剤40を、第1基板10Lと第2基板20Lとの間において周囲を囲むように塗布する(図38(a))。そして、第1基板10Lと第2基板20Lとを近づけて接着剤40で固定することにより、試料収容セル1Lが作製される(図38(b))。接着剤40にはガラスフィラー41が含まれているため、ガラスフィラー41の径に応じて第1基板10Lと第2基板20Lとの距離が保たれる。
なお、第1基板と第2基板とのスペーサとしては、このようにフィラーを含む接着剤を用いる場合に限らず、変形しやすい金属(例えば、インジウム)等、金属のシール材として使われる材料を用いてもよいし、さらに接着剤を併用してもよい。
<その他の実施形態>
第1薄膜150および第2薄膜250は、窒化シリコン膜に限らず、酸化シリコン膜またはアモルファスシリコン膜であってもよい。また、これらを積層した膜であってもよい。第1薄膜150を酸化シリコン膜とする場合には、第1基板10の熱酸化膜を用いてもよい。第1薄膜150および第2薄膜250を窒化シリコン膜で形成すると、薄く加工しやすく、また、膜の強度が確保しやすくなる。さらに、膜質の制御による応力調整が容易であり、膜が弛まないように形成することもできる。
電子顕微鏡による観察時において、試料収容セルのチャージアップを防止するために、数nmのカーボン等の導電膜をセル外面(第1基板、第2基板、第1薄膜および第2薄膜の表面の少なくとも一部)に配置しておいてもよい。
上記の各実施形態では、第2基板は可視光線に対して透過性を有する基板として説明したが、第1基板と同様にシリコン基板等の可視光線に対して透過性を有しない基板であってもよい。この場合には、第1基板と第2基板とが共に可視光線に対して透過性を有しない基板ということになるが、第1基板と第2基板との接続、製造上の容易性等を考慮すると、利便性の高いセルを実現することができる。
上記の各実施形態は、それぞれ独立して適用される構成ではなく、重複して適用されてもよい。例えば、第1実施形態における開口部130に代えて第3実施形態における開口部135が形成される試料収容セルが実現されてもよい。