JP6460156B2 - エンジンの燃焼室 - Google Patents

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Description

ここで開示する技術は、エンジンの冷却損失を低減する技術に関する。
エンジンの冷却損失を低減するため、燃焼室の中に形成されるガスの主流(スワール流、タンブル流、スキッシュ流等)に沿って延びるように、放射状や同心円状等の複数の微細な溝を、燃焼室を区画している壁面(ピストンの上面、ピストンの上面と対向するシリンダヘッドの下面等)に形成することは、特許文献1に開示されている。
ガスの主流は、通常、その流れの周りに旋回する微細な渦(直径がμmレベル)を伴う。この渦は、微視的なレベルの乱流を引き起こす。そのため、ガスの主流が燃焼室の壁面の近くを通過する際には、その界面領域で発生する微視的な乱流により、壁面を通じて燃焼室外への放熱が促進される。その結果、高温のガスが冷却されてエネルギーロスとなる(冷却損失)。それに対し、燃焼室の壁面に、特許文献1のような微細な溝を形成することで、渦が、溝の縁に妨げられて溝の底に近づき難くなるため、放熱が抑制され、冷却損失を低減できる。
開示する技術に関し、特許文献2には、プラズマアクチュエータを利用したエンジンが開示されている。そのエンジンでは、吸気ポートの内周面に、4つの円弧状のプラズマアクチュエータを全周にわたって設置している。燃焼室にガスを導入する際、これらプラズマアクチュエータの作動を制御して、ガスの流れを強弱させる。
特開2017−40216号公報 特開2016−200019号公報
特許文献1のような微細な溝を燃焼室の壁面に形成しても、これら溝の有る壁面に沿って流れるガスの流動方向が、溝が延びる方向と一致せず、これらの間でずれが生じると、放熱抑制効果が低下することが判明した。
そこで、ここで開示する技術の目的は、燃焼室の壁面に形成された特定の微細な溝が、放熱を効率よく抑制できるようにし、エンジンの冷却損失の低減効果を向上させることにある。
開示する技術は、ピストンの上面と、当該ピストンを往復摺動可能に収容するシリンダの周面と、前記ピストンの上面と対向するシリンダヘッドの下面と、によって区画され、前記ピストンの上面及び前記シリンダヘッドの下面の少なくとも一方が、複数の微細な溝が形成されている溝形成面となっているエンジンの燃焼室に関する。
前記溝の幅が、2〜250μmの範囲に設定されると共に、前記溝形成面に沿って流れる界面流動を発生させる界面流動発生デバイスが、前記溝形成面に拡がるように設置されている。そして、少なくとも混合気の燃焼が始まる前に、前記界面流動発生デバイスが作動して、前記溝形成面に沿って流れるガスの主流を、前記溝が延びる方向に偏向させる。
すなわち、このエンジンの燃焼室では、燃焼室を区画している壁面のうち、ピストンの上面及びシリンダヘッドの下面の少なくとも一方に、放熱抑制効果が得られる、複数の微細な溝(マイクロ溝)が形成されている。従って、冷却損失の低減効果が得られる。
更に、これらマイクロ溝が形成されている溝形成面には、それに沿って流れる界面流動を発生させる界面流動発生デバイスが拡がるように設置されていて、少なくとも混合気の燃焼が始まる前に、界面流動発生デバイスが作動し、溝形成面に沿って流れるガスの主流を、マイクロ溝が延びる方向に偏向させる。
従って、溝形成面に沿って流れるガスの主流の流動方向が、マイクロ溝が延びる方向と一致せず、これらの間で大きなずれが生じる場合であっても、界面流動発生デバイスが作動することで、そのずれを修正し、小さくすることができる。その結果、放熱抑制効果の低下が抑制でき、エンジンの冷却損失の低減効果が向上する。
前記溝の幅は、当該溝の深さ以上の大きさに設定するのが好ましい。このように溝幅を設定することによって、上記の効果をより高めることができる。
混合気の燃焼が始まると、燃焼室の中は最高温に達し、燃焼室のガスと溝形成面との温度差が大きくなる。従って、少なくとも混合気の燃焼が始まる前に、界面流動発生デバイスが作動すれば、最も放熱し易いタイミングで、マイクロ溝の放熱抑制効果を適切に発揮させることができるので、効果的である。
具体的には、前記界面流動発生デバイスを、圧縮行程の後半に作動させるとよい。そうすれば、混合気の燃焼が始まる前には、溝形成面に沿って流れるガスの主流の流動方向を安定して修正でき、適正化できる。界面流動発生デバイスの作動時間を必要最小限にできるので、電力の浪費が防げて、燃費の向上が図れる。
より具体的には、前記燃焼室の周辺部分に、スキッシュ流を発生させるスキッシュエリアが形成され、前記スキッシュエリアに臨む前記溝形成面に、前記スキッシュ流の流動方向に延びるように形成された前記溝と、前記界面流動発生デバイスと、が配置され、前記界面流動発生デバイスが、前記シリンダの径方向内側に向かう前記スキッシュ流と同じ向きの前記界面流動を発生させる、としてもよい。
この場合、燃焼室の周辺部分に、スキッシュ流を発生させるスキッシュエリアが形成されているので、燃焼室の中が最も高温になる時のガスの流動は、通常、スキッシュ流が支配的になる。そのスキッシュエリアに臨む溝形成面に、スキッシュ流の流動方向に延びるようにマイクロ溝が形成されているので、高い放熱抑制効果が得られる。
更に、界面流動発生デバイスが、シリンダの径方向内側に向かうスキッシュ流(順スキッシュ流)と同じ向きの界面流動を発生させる。混合気の燃焼が始まる前の圧縮行程では、スキッシュエリアに順スキッシュ流が形成される。界面流動発生デバイスが、それと同じ向きの界面流動を発生させることで、例えば、燃焼室にスワール流やタンブル流の影響が強く残っていても、順スキッシュ流と相俟って、円滑かつ効率的に、界面領域を流れるガスの流動方向を、マイクロ溝が延びる方向に偏向できる。従って、よりいっそう高い放熱抑制効果が得られる。
前記エンジンは、前記燃焼室の中にスワール流を発生させるスワール流発生機構を備え、前記スワール流のうち、前記溝形成面に沿って流れる流動が、前記界面流動発生デバイスによって偏向される、としてもよい。
この場合、スワール流発生機構が作動することで、燃焼室の中が最も高温になる時のスキッシュエリアでは、ガスの流動方向が周方向に偏り、スキッシュ流ではなく、スワール流が支配的にもなり得る。そのような場合、マイクロ溝がその機能を十分に発揮できずに、放熱抑制効果の低下を招く。それに対し、スワール流における界面流動を、界面流動発生デバイスによって偏向すれば、マイクロ溝本来の機能を発揮させることができ、放熱抑制効果の低下を抑制できる。
前記界面流動発生デバイスにプラズマアクチュエータを用い、前記プラズマアクチュエータが、前記溝と交差する方向に延びるように配置するのが好ましい。
界面流動発生デバイスにプラズマアクチュエータを用いれば、比較的容易に、高精度な界面流動を発生させることができる。そして、そのプラズマアクチュエータを、マイクロ溝と交差する方向に延びるように配置すれば、マイクロ溝が延びる方向に流れる界面流動が発生して、マイクロ溝本来の機能を発揮させることができる。従って、放熱抑制効果の低下が抑制できる。
前記ピストンの上面が前記溝形成面となっている場合には、前記ピストンに、前記界面流動発生デバイスに電力を供給する蓄電可能なデバイス電源部と、前記界面流動発生デバイスを制御するデバイス制御部と、を設置し、前記デバイス電源部及び前記デバイス制御部に対し、無線による給電及び通信を行うようにするとよい。
そうすれば、往復動するピストンに対して、複雑な配線を施す必要が無くなる。ピストンに、蓄電可能なデバイス電源部が設けられているので、無線による給電であっても、界面流動発生デバイスやデバイス制御部に安定して電力を供給することができる。そして、デバイス制御部により、ピストンの外部から独立して界面流動発生デバイスの制御が行えるので、無線による通信であっても界面流動発生デバイスを安定して作動させることができる。
開示した技術によれば、放熱が抑制できる特定構造の微細な溝が、燃焼室の壁面の広い範囲に形成されているので、エンジンの冷却損失の低減効果が得られる。壁面近くを流れるガスの主流の流動方向が、溝の延長方向に対して大きくずれると、エンジンの冷却損失の低減効果が低下するが、界面流動発生デバイスにより、その流動方向を偏向して適正化できるので、エンジンの冷却損失低減効果の低下を抑制できる。
図1は、本発明の燃焼室を適用したエンジンの一例を示す概略断面図である。 図2は、燃焼室の断面構造を拡大して示す概略図である。 図3は、図2の矢印Iの方向から見たときのピストン上面を示す図である。 図4は、図2の矢印IIの方向から見たときの燃焼室天井面を示す図である。 図5は、マイクロ溝の構造を説明する図であり、図3の拡大図において矢印X−Xで示す概略断面図である。 図6は、マイクロ溝の溝延長方向に対する、界面領域を流れるガスの流動方向のずれ角と、溝形成面の熱伝達率の低減率との関係を示すグラフである。 図7は、界面流動発生デバイスの構造を説明する図であり、図3の拡大図において矢印Y−Yで示す概略断面図である。 図8は、界面流動発生デバイスによる界面流動の偏向作用を説明する図である。 図9は、マイクロ溝と界面流動発生デバイスとの交わり部分の一例を示す概略斜視図である。 図10は、界面流動発生デバイスを作動するタイミングを説明する図である。 図11Aは、マイクロ溝の形成パターンの変形例を示す概略平面図である。 図11Bは、マイクロ溝の形成パターンの変形例を示す概略平面図である。 図11Cは、マイクロ溝の形成パターンの変形例を示す概略平面図である。
以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
<エンジンの構成>
図1に、本発明の燃焼室を適用したエンジンの一例を示す。このエンジン1は、往復ピストンエンジンであり、主に自動車の動力源として用いられる。エンジン1は、エンジン本体2や、エンジン本体2に対して吸気及び排気を行う吸排気系システム3、エンジン1の運転を制御するPCM4(パワートレイン・コントロール・モジュール)などで構成されている。
エンジン1の燃料は、ガソリンである。ただし、バイオエタノール等を含むガソリンでよい。すなわち、ガソリンを主成分とする液体燃料であれば、どのような燃料であってもよい。
エンジン本体2は、シリンダブロック10と、その上に載置されるシリンダヘッド11とを備える。シリンダブロック10の内部には、上下方向に延びるように、複数の円筒状のシリンダ12が形成されている。すなわち、このエンジン1は、多気筒エンジンである(図1では、1つのシリンダ12のみを示す)。シリンダ12の上側の開口は、シリンダヘッド11によって塞がれている。
各シリンダ12には、ピストン13が、往復摺動可能に収容されている。シリンダ12の下側の開口は、ピストン13によって塞がれている。ピストン13は、コネクティングロッド14を介して、クランクシャフト15と連結されている。ピストン13がシリンダ12の内部を往復運動することによってクランクシャフト15が回転し、その回転動力が、自動車の駆動力として出力される。
シリンダ12の上部には、燃焼室50(混合気が燃焼する空間)が形成されている。具体的には、シリンダ12の周面、ピストン13の上面、及びこのピストン13の上面と対向するシリンダヘッド11の下面により、シリンダ12の上部の空間の、側面、下面、及び上面の各々が区画され、それによって燃焼室50が形成されている(燃焼室50の下面を構成しているピストン13の上面は、ピストン上面51ともいい、燃焼室50の上面を構成しているシリンダヘッド11の下面は、燃焼室天井面52ともいう)。なお、燃焼室50の詳細については、別途後述する。
シリンダヘッド11には、燃焼室50と連通する吸気ポート17及び排気ポート18が形成されている。燃焼室天井面52には、吸気ポート17の下流端である吸気開口19と、排気ポート18の上流端である排気開口20とが形成されている。吸気ポート17の上流端は、シリンダヘッド11の一方の側面に開口し、燃焼室50に導入する新気やEGRガスが流れる吸気通路21(吸排気系システム3の吸気系システムを構成)に接続されている。排気ポート18の上流端は、シリンダヘッド11の他方の側面に開口し、燃焼室50から導出される既燃ガスが流れる排気通路22(吸排気系システム3の排気系システムを構成)に接続されている。
シリンダヘッド11には、吸気開口19を開閉する吸気バルブ23と、排気開口20を開閉する排気バルブ24とが組み付けられている。吸気バルブ23は、軸状のバルブステム23aと、バルブステム23aの下端に設けられた傘状のバルブヘッド23bとを有している。同様に、排気バルブ24も、バルブステム24aとバルブヘッド24bとを有している。吸気開口19及び排気開口20は、これらバルブヘッド23b,24bによって開閉され、各バルブヘッド23b,24bは、燃焼室50に臨むバルブ面23c,24cを有している。吸気開口19及び吸気バルブ23、並びに、排気開口20及び排気バルブ24は、各シリンダ12に2つずつ設けられている。
このエンジン1の吸気通路21(詳細には一方の吸気ポート17に接続された給気通路)には、燃焼室50に導入される吸気の流動を制御する吸気流動制御弁25(スワール流発生機構の一例)が設置されている。吸気流動制御弁25は、その開度によって、燃焼室50の中でのスワール流の強さを調整する。すなわち、吸気流動制御弁25の開度が大きいと、スワール流の強さが弱くなり、吸気流動制御弁25の開度が小さいと、吸気の流れが制限されることによって、スワール流の強さが強くなる。
シリンダヘッド11にはまた、吸気バルブ23を駆動する吸気動弁機構26と、排気バルブ24を駆動する排気動弁機構27とが設置されている。吸気動弁機構26は、クランクシャフト15の回転に連動して吸気バルブ23を駆動し、吸気開口19を開閉する。排気動弁機構27は、クランクシャフト15の回転に連動して排気バルブ24を駆動し、排気開口20を開閉する。
吸気動弁機構26には、可変バルブタイミング機構が組み込まれている(吸気VVT)。吸気側VVTは、電動式や液圧式のVVTであり、クランクシャフト15に対する吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更することにより、吸気バルブ23の開閉タイミングを変更する。同様に、排気動弁機構27には、排気側VVTが組み込まれている。排気側VVTも、電動式や液圧式のVVTであり、クランクシャフト15に対する排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更することにより、排気バルブ24の開閉タイミングを変更する。
シリンダヘッド11にはまた、燃焼室50の中で混合気に点火する点火プラグ28が設置されている。点火プラグ28は、各シリンダに1つずつ配置されている。点火プラグ28は、その先端に、火花を発生させる電極28aを有し、その電極28aが燃焼室50に臨んで位置するように、シリンダヘッド11に組み付けられている。
シリンダヘッド11には、燃料を噴射するインジェクタ29が設置されている。インジェクタ29も、各シリンダに1つずつ配置されている。インジェクタ29は、その先端に、燃料を噴射する多噴口型等のノズル29aを有し、そのノズル29aが燃焼室50に臨んで位置するように、シリンダヘッド11に組み付けられている。各シリンダのインジェクタ29は、燃料供給管30を通じて、高圧の燃料を蓄える共通のコモンレール(図示せず)に接続されている。このコモンレールで蓄圧された燃料が、各インジェクタ29に供給される。それにより、各インジェクタ29から同じ圧力で高圧の燃料が噴射可能となっている。
エンジン1の運転状態を検知するために、エンジン1には、図示しないが、温度センサや角度センサ、流量センサ等の、各種センサが取り付けられている。PCM4は、これらセンサから入力される信号と、マップなどの予め実装されている各種制御データとに基づいて、エンジン1を構成している各装置を制御する。例えば、吸気流動制御弁25の開度や、吸気動弁機構26及び排気動弁機構27の作動、点火プラグ28の点火タイミング、インジェクタ29による燃料の噴射タイミングや噴射時間などは、エンジン1の運転状態に応じてPCM4により制御される。
<燃焼室50の構成>
図2に、燃焼室50の断面構造を拡大して示す。また、図3に、図2の矢印Iの方向から見たときのピストン上面51を示し、図4に、図2の矢印IIの方向から見たときの燃焼室天井面52を示す。符号Jは、シリンダの中心を通る軸線である。尚、ピストン上面51や燃焼室天井面52には、複数のマイクロ溝55や、複数の界面流動発生デバイス60が設けられているが、これらについては別途詳述する。
このエンジン1の燃焼室天井面52は、軸線Jを間に挟んだ両側に、対称状に位置する二つの傾斜面を有している(いわゆるペントルーフ形状)。図2、図4に示すように、燃焼室天井面52は、2つの吸気開口19が配置された吸気側傾斜面52aと、2つの排気開口20が配置された排気側傾斜面52bと、を有している。これら吸気側傾斜面52a及び排気側傾斜面52bの間には、これら吸気側傾斜面52a及び排気側傾斜面52bの上端縁に沿って延びる棟面52cが形成されている。
吸気側傾斜面52a及び排気側傾斜面52bの各々は、軸線Jを中心として上向きに凹んだカップ状の微曲面で構成されており、互いの逆方向に向かって、緩やかに下り傾斜している。2つの吸気開口19及び2つの排気開口20は、各々、棟面52cに沿って並ぶように配置されている。各バルブ面23c,24cも、吸気側傾斜面52a及び排気側傾斜面52bと同様に、微曲面で構成されている。
それにより、吸気バルブ23が閉じられたときには、そのバルブ面23cは燃焼室天井面52と段差無く連なり、排気バルブ24が閉じられたときには、そのバルブ面24cも燃焼室天井面52と段差無く連なるようになっている。
棟面52cの中央に軸線Jが位置しており、インジェクタ29は、その中心線が軸線Jの近傍に平行して位置するように、シリンダヘッド11に配置されている。ノズル29aは、棟面52cの略中央から燃焼室50に臨んでいる。点火プラグ28は、傾斜した状態で、シリンダヘッド11のインジェクタ29に隣接した位置に配置されている。電極28aは、棟面52cの長手方向にノズル29aと近接して配置されており、棟面52cの略中央から燃焼室50に臨んでいる。
図2、図3に示すように、ピストン上面51は、燃焼室天井面52に対応した形状に形成されている。すなわち、ピストン上面51には、吸気側傾斜面52a及び排気側傾斜面52bの各々と対向する吸気側対向傾斜面51a及び排気側対向傾斜面51bが形成されている。これら吸気側対向傾斜面51a及び排気側対向傾斜面51bの各々は、吸気側傾斜面52a及び排気側傾斜面52bの各々と同等の曲率を有する、軸線Jを中心として上向きに僅かに膨らんだカップ状の微曲面で構成されている。従って、吸気側対向傾斜面51aと吸気側傾斜面52aとの間の間隔、及び、排気側対向傾斜面51bと排気側傾斜面52bとの間の間隔(軸線J方向の間隔)は、ピストン13の位置によって大小に変化するが、径方向においては略一定である。
ピストン上面51にはまた、キャビティ53(窪み)が形成されている。キャビティ53は、ピストン上面51の中央部分に位置し、長軸が棟面52cと平行なオーバル形状の開口縁を有している。キャビティ53の壁面は、その開口縁に連なる曲面で構成されており、その底部中心を軸線Jが通っている。
エンジン1の運転時には、ピストン13が往復動し、排気バルブ24や吸気バルブ23が所定のタイミングで開閉される。そうして、インジェクタ29から所定のタイミングで燃焼が噴射され、所定のタイミングで点火プラグ28により点火が行われる。それにより、燃焼室50では、吸気、圧縮、膨張、及び排気の各行程からなる燃焼サイクルが行われる。このエンジン1は、圧縮比(幾何学的圧縮比)が比較的高いエンジンであり、ピストン13が上死点に位置したときには、図2に示すように、ピストン上面51は燃焼室天井面52に近接する。
(ガスの流動)
燃焼サイクルが行われている燃焼室50の中では、様々なガスの流れが形成される。これらガスの主な流れ(主流)は、その向きや形態に基づいてモデル化すると、スワール流、タンブル流、及びスキッシュ流に大別できる。スワール流は、軸線Jの周りに旋回するガスの流れ(横渦)であり、タンブル流は、軸線Jと直交する軸の周りに旋回するガスの流れ(縦渦)である。いずれも燃焼室50の中を大きく旋回する流れである。
このエンジン1では、吸気流動制御弁25により、スワール流を発生させ、その強さの調整ができる。また、吸気流動制御弁25が無くても、吸気VVTを備えた吸気動弁機構26により、吸気バルブ23の開閉タイミングを変更することで、スワール流を発生させ、その強さの調整ができる。従って、吸気動弁機構26も、スワール流発生機構を構成し得る。
一方、スキッシュ流は、燃焼室50の周辺部分に設けられるスキッシュエリア54で形成されるガスの流れである。この燃焼室50では、吸気側対向傾斜面51aと吸気側傾斜面52aとの間の空間、及び排気側対向傾斜面51bと排気側傾斜面52bとの間の空間により、スキッシュエリア54が構成される。スキッシュエリア54は、ピストン13が圧縮上死点の近くに位置する、圧縮行程から膨張行程に移行する過程で形成される。
図2に矢印で示すように、スキッシュ流は、シリンダ12の径方向に向かうガスの流れである。スキッシュ流には、ピストン13が上昇する圧縮行程でガスが押し出されて、径方向内側に向かう流れ(順スキッシュ流)と、ピストン13が下降する膨張行程でガスが引き込まれて、径方向外側に向かう流れ(逆スキッシュ流)とがある。
これらガスの主流は、二次的な流れ(副流)として、その流れの周りに旋回する、直径がμmレベルの微細な渦(マイクロ渦ms)を伴うことが知られている。このマイクロ渦msは、微視的なレベルの乱流を引き起こす。そのため、ガスの主流が燃焼室50の壁面の近くを通過する際には、その界面領域で発生する微視的な乱流により、壁面を通じて燃焼室50外への放熱が促進される。その結果、高温のガスが冷却されてエネルギーロスとなる(冷却損失)。
このようなマイクロ渦msに起因した放熱の促進に対し、燃焼室50の壁面に、所定の大きさに設定された微細な溝を形成することで、放熱が抑制できることが知られている(特許文献1参照)。このエンジン1の燃焼室50の壁面、すなわち、図3、図4に示すように、ピストン上面51及び燃焼室天井面52の双方には、冷却損失を抑制するために、そのような微細な溝(マイクロ溝55)が形成されている。
(マイクロ溝55)
マイクロ溝55は、そのマイクロ溝55が形成される壁面に沿って流れるガスの主流の流動方向に延びるように形成される。ガスと壁面との間の温度差が大きいほど、それだけ高い放熱抑制効果が得られる。従って、マイクロ溝55は、燃焼室50の中が最も高温になるときの主流の流動方向に合わせて形成するのが好ましいが、その形成パターンは、エンジン1の仕様に応じて適宜選択できる。
図3、図4に示すように、この構成例では、スキッシュ流に合わせてマイクロ溝55が形成されており、スキッシュエリア54を構成している、ピストン上面51及び燃焼室天井面52の双方に、マイクロ溝55が形成されている(マイクロ溝55が形成されている面を「溝形成面56」ともいう)。具体的には、ピストン上面51の吸気側対向傾斜面51a及び排気側対向傾斜面51bの各々のほぼ全域、キャビティ53の周縁部からこれら傾斜面の外縁部に至る範囲に、複数のマイクロ溝55が形成されている。また、燃焼室天井面52では、吸気バルブ23及び排気バルブ24の各バルブ面23c,24cを含む、吸気側傾斜面52a及び排気側傾斜面52bの各々のほぼ全域、棟面52cの周縁部からこれら傾斜面の外縁部に至る範囲に、複数のマイクロ溝55が形成されている。
これらマイクロ溝55は、スキッシュエリア54を径方向に流れるスキッシュ流の流動方向に合わせ、シリンダ12の径方向の中心から放射状に延びるように配列されている。なお、マイクロ溝55は、隣接するマイクロ溝55が互いに接する程度に密に配列されているが、便宜上、図示のマイクロ溝55は簡略化して表示している。
図5に示すように、マイクロ溝55の幅s(両側縁間の最大幅s)は、マイクロ渦msの直径dよりも小さく設定されている。それにより、マイクロ渦msがマイクロ溝55に入り込むことができなくなり、溝形成面56が平坦である場合と比べて、微視的な乱流が壁面から離れた位置で発生する。その結果、ガスと溝形成面56との間で熱伝達が行われ難くなり、放熱が抑制される。なお、マイクロ溝55の幅sは小さ過ぎると、平滑面に近づいてマイクロ溝55としての機能が損なわれるため、小さ過ぎないようにも設定される。
このような適切なマイクロ溝55の幅sは、ガスの主流の流速等に基づいて設定される。例えば、マイクロ渦msの直径dは、ガスの主流の流速が高くなるほど小さくなる。従って、マイクロ溝55の幅sもそれに合わせて設定される。エンジン1の主たる運転領域での、異なる回転数及び負荷に対する、マイクロ溝55の幅sの適切な設定値の一例を次に示す。
[回転数] [負荷] [マイクロ溝55の幅s]
・1000rpm/250kPa: 10〜200μm
・1000rpm/550kPa: 7〜250μm
・2500rpm/900kPa: 2.5〜80μm
・3250rpm/530kPa: 2〜70μm
すなわち、マイクロ溝55の幅sは、2μm〜250μmの範囲で設定するのが好ましい。幅sが2μmよりも小さいと燃焼室50の壁面が平滑面に近くなり、幅sが250μmを超過するとマイクロ渦msがマイクロ溝55に入り込み易くなる。いずれも冷却損失の低減効果が期待できない。
マイクロ溝55の深さhも幅sに応じて適切に設定するのが好ましい。マイクロ溝55を深くするほど、微視的な乱流を溝形成面56から遠ざけることができるが、マイクロ溝55を深くすると、溝形成面56の表面積が大きくなる。表面積が大きくなると放熱し易くなるため、溝形成面56の表面積が大きくなり過ぎると、反って放熱を促進させてしまう。
従って、マイクロ溝55の幅sは、その深さh以上の大きさに設定するのが好ましい。具体的には、マイクロ溝55の幅sに対する深さhの割合(h/s)が0.5〜1.0の範囲となるように設定すればよい。これらのことから、2μm〜250μmの範囲で、深さh以上の大きさの幅sに設定することで、冷却損失の低減効果に優れたマイクロ溝55を形成することができる。これらの範囲内であれば、マイクロ溝55の幅sや深さhは、その全長にわたって一様でなくてもよい。すなわち、一端から他端にわたって次第に幅sや深さhが大きくなったり、部分的に幅sや深さhが異なったりしてもよい。尤も、幅sや深さhが一様なマイクロ溝55は、加工が容易な点で有利である。
マイクロ溝55の断面形状は、V字状、U字状、円弧状、矩形状等、仕様に応じて適宜設定できる(この構成例では、V字状の断面形状を例示)。単位面積当たりのマイクロ溝55の数は多い方が冷却損失の低減効果が高まる。そのため、隣接するマイクロ溝55の間は狭い方が好ましい。従って、マイクロ溝55の側縁部が隣接するマイクロ溝55の側縁部と一致するのが特に好ましいが、図5に示すように、隣接するマイクロ溝55の間に、平らな領域が存在していてもよい。
(界面流動発生デバイス60)
スキッシュエリア54が設けられているこのエンジン1では、燃焼室50の中が最も高温になる時のガスの流動は、スキッシュ流が支配的である。そのため、スキッシュエリア54に臨む溝形成面56でのマイクロ溝55の形成パターンは、スキッシュ流に合わせてある。
ところが、前述したように、燃焼室50の内部では、効率的な燃焼を実現するために、様々なタイミングで様々なガスの流動が形成される場合がある。例えば、吸気流動制御弁25によってスワール流が強化されたり、吸気バルブ23の開閉タイミングの変更やエンジン回転数の高低によって支配的なガスの主流の割合が変化したりする。そのため、エンジン1の運転状態によっては、燃焼室50の中が最も高温になる時のスキッシュエリア54で、スワール流やタンブル流が支配的になる場合もあり得る。また、燃焼室50の中が最も高温になる周辺の温度帯で、スキッシュエリア54におけるガスの流動が変化する場合もあり得る。
それに対し、溝形成面56に沿って流れるガスの流動方向が、マイクロ溝55が延びる方向(溝延長方向ともいう)と一致せず、これらの間でずれが生じると、放熱抑制効果が低下することが判明した。
図6に、溝延長方向に対して、溝形成面56に沿って流れるガスの流動方向が偏っている角度(ずれ角:deg)と、所定の条件下での溝形成面56における熱伝達率低減率(%)との関係を示す。熱伝達率低減率が高いほど、放熱の抑制効果が高い。なお、黒丸印を含む実線は、前述したマイクロ溝55の幅sに対する深さhの割合(h/s)が0.5の場合、白四角印を含む実線は、h/sが1.0の場合、をそれぞれ表している。
いずれの場合においても、ずれ角が、約15degを超えると、ずれ角が大きくなるほど、放熱の抑制効果が低下する傾向が認められた。従って、ずれ角は、小さくするのが好ましく、15deg以内にするのがより好ましい。
従って、燃焼室50の壁面にマイクロ溝55を形成しても、放熱抑制効果を効率的に得るためには、溝形成面56に沿って流れるガスの流動方向を、溝延長方向とできるだけ一致させる必要がある。しかし、マイクロ溝55を形成するだけでは、多様なガスの流動方向に対応できない。そこで、このエンジン1の燃焼室50では、溝形成面56に沿って流れるガスの流動(界面流動)を発生させる界面流動発生デバイス60が、マイクロ溝55と共に設置されている。
図3,図4に示すように、界面流動発生デバイス60は、外観が線状に見える微細な構造体であり、溝形成面56に拡がるように設置されている。この構成例では、ピストン上面51の吸気側対向傾斜面51a及び排気側対向傾斜面51bの各々、すなわちスキッシュエリア54を構成している領域の外縁部に沿って延びるように、界面流動発生デバイス60が設置されている。また、燃焼室50天井面52でも、吸気側傾斜面52a及び排気側傾斜面52bの各々の、スキッシュエリア54を構成している領域の外縁部に沿って延びるように、界面流動発生デバイス60が設置されている。これら界面流動発生デバイス60は、放射状に延びる複数のマイクロ溝55と交差する方向(好ましくは直交する方向)に延びるように配置されている。
図7に、界面流動発生デバイス60の断面構造を示す。界面流動発生デバイス60には、いわゆるプラズマアクチュエータが用いられており、誘電体61、露出電極62、被覆電極63などで構成されている。
このエンジン1では、溝形成面56の表面(燃焼室50に面する面)が特定構造を有する被覆層で被覆されており、誘電体61は、その被覆層によって構成されている(被覆層61ともいう)。
被覆層61は、熱し易くかつ冷め易いように、熱容量の小さい素材で形成されている。例えば、中空粒子を含むシリコーン樹脂で、被覆層61を形成することができる。具体的には、フライアッシュバルーン、シラスバルーン、シリカバルーン、エアロゲルバルーン等の微細なセラミック系の中空粒子を含む、ポリアルキルフェニルシロキサン等のシリコーン樹脂を用いて被覆層61を形成することができる。
このような被覆層61によって誘電体を構成することで、溝形成面56に遮熱機能を付与することができる。それにより、放熱が抑制されるので、冷却損失の低減効果がより向上する。溝形成面56がより高温になるので、マイクロ溝55でのカーボンデポジットの形成を抑制する効果も期待できる。
露出電極62及び被覆電極63は、いずれも薄膜の金属からなる導電体で形成されており、この界面流動発生デバイス60では、線状ないし帯状に形成されている。露出電極62及び被覆電極63の各々の厚みや幅、形状等は、仕様に応じて適宜設定できる。通常、露出電極62及び被覆電極63の厚みは薄く、これらを含む界面流動発生デバイス60としての厚みは数μm〜数100μmに過ぎない。
露出電極62は、被覆層61の外面側に配置されている。露出電極62の一部は燃焼室50に露出しているのが好ましい。対して、被覆電極63は、誘電体である被覆層61を露出電極62との間に介在させた状態で、被覆層61の内面側に配置されている。被覆電極63は、溝形成面56に沿って露出電極62から離れた部位が生じるように、露出電極62の設置位置から外れた位置にオフセットして配置されている。
露出電極62及び被覆電極63の各々は、例えば数KHz以上かつ数10kV以上の、高出力が可能な電源と電気的に接続されていて、電力の供給が可能となっている。
具体的には、図1に示すように、シリンダヘッド11には、燃焼室50天井面52に設置されている界面流動発生デバイス60に対応したヘッド側デバイスユニット64が取り付けられている。ピストン13の内部には、その上面51に設置されている界面流動発生デバイス60に対応したピストン側デバイスユニット65が取り付けられている。
図2に示すように、ヘッド側デバイスユニット64は、電気配線66aを通じ、吸気側傾斜面52a及び排気側傾斜面52bの各々に設置された各界面流動発生デバイス60と接続されている。そして、ピストン側デバイスユニット65は、電気配線66bを通じ、吸気側対向傾斜面51a及び排気側対向傾斜面51bに設置された各界面流動発生デバイス60と接続されている。
ヘッド側デバイスユニット64は、ケーブル67を通じ、PCM4や主電源であるバッテリー5と接続されている。従って、燃焼室50天井面52に設置されている界面流動発生デバイス60には、ヘッド側デバイスユニット64を通じて、有線による給電及び通信が行われる。
一方、ピストン側デバイスユニット65には、界面流動発生デバイス60に電力を供給する蓄電可能なデバイス電源部65aと、界面流動発生デバイス60を制御するデバイス制御部65bと、これらデバイス電源部65a及びデバイス制御部65bの各々に電力及び制御信号を供給するデバイス受信部65cと、が内蔵されている。このデバイス受信部65cとの間で無線による給電及び通信を可能にする送信器68が、エンジン本体2の近傍に配置されている。送信器68は、ケーブル67を通じ、PCM4や主電源であるバッテリー5と接続されている。
従って、ピストン上面51に設置されている界面流動発生デバイス60には、送信器68及びピストン側デバイスユニット65を通じて、無線による給電及び通信が行われる。ピストン側デバイスユニット65に、蓄電可能なデバイス電源部65aが設けられているので、無線による給電であっても、界面流動発生デバイス60やデバイス制御部65bに安定して電力を供給することができる。そして、デバイス制御部65bにより、PCM4から独立した界面流動発生デバイス60の制御が行えるので、無線による通信であっても界面流動発生デバイス60を安定して作動させることができる。
界面流動発生デバイス60は、高電圧を供給することで作動する。すなわち、露出電極62と被覆電極63(GND)との間に高電圧が印加されると、露出電極62と被覆電極63との間に縁面放電が生じる。その結果、露出電極62と被覆電極63との間の、燃焼室50に面する界面領域では、露出電極62の側から被覆電極63の側に向かうガスの流れが誘起される。またこのとき、その界面領域にはプラズマが発生するため、オゾンが生成される。すなわち、界面流動発生デバイス60は、オゾン生成デバイスとしても機能する。
界面流動発生デバイス60を作動させることにより、図7に矢印で示すように、溝形成面56の界面領域に沿って流れるガスの流動(界面流動)を形成することができる。従って、界面流動発生デバイス60により、溝形成面56に沿って流れるガスの主流の流動方向を偏向したり強化したりできる。具体的には、溝形成面56に沿って流れるガスの主流の流動方向が溝延長方向と異なる場合には、その流動方向を、溝延長方向に偏向させることができる。また、溝形成面56に沿って流れるガスの主流の流動方向が溝延長方向と同じ場合には、その流動を強化することができる。
図3や図4に示すように、この構成例では、界面流動発生デバイス60が、スキッシュエリア54を構成する領域の外縁部に沿って延びるように配置されている。そして、露出電極62は、被覆電極63よりも、シリンダ12の径方向外側に位置するように配置されている。
従って、図8に白抜き矢印で示すように、スワール流の影響により、スキッシュエリア54の界面領域で、流動を周方向に向かわせる外力がガスの主流に作用しても、界面流動発生デバイス60が作動することにより、スキッシュエリア54の外縁部では、細矢印が示すように、マイクロ溝55に沿って、順スキッシュ流と同じ、シリンダの径方向内側に向かう界面流動が形成される。それにより、周方向に偏るガスの流動方向が径方向に偏向され、溝延長方向とのずれ角を小さくできる。その結果、放熱抑制効果の低下が抑制できる。
界面流動発生デバイス60によって形成される界面流動の向きが、順スキッシュ流と同じであるため、順スキッシュ流の形成に合わせて界面流動発生デバイス60を作動させれば、円滑かつ効率的に、界面領域を流れるガスの主流の流動方向を偏向できる。
順スキッシュ流の上流端である、スキッシュエリア54の外縁部に界面流動発生デバイス60が配置されているので、順スキッシュ流が流れる溝形成面56の広い範囲に、界面流動発生デバイス60が形成した界面流動の影響を及ぼすことができ、効果的である。
界面流動発生デバイス60を、マイクロ溝55と交差する方向に延びるように配置すれば、溝形成面56に、溝延長方向に流れる界面流動を形成できるので、露出電極62とマイクロ溝55とは、必ずしも交わっていなくてもよい(離れていてもよい)。しかし、露出電極62とマイクロ溝55とが交わっていれば、マイクロ溝55の凹凸との組み合わせにより、溝延長方向に流れる界面流動をより効果的に形成できる。従って、露出電極62の少なくとも一部は、マイクロ溝55と交わった状態で、溝形成面56に拡がるように形成するのが好ましい。
マイクロ溝55は、μm単位の微細な構造であるため、界面流動発生デバイス60をマイクロ溝55と交わるように設置すると、マイクロ溝55に段差が生じて界面流動発生デバイス60によってマイクロ溝55の機能が阻害されるおそれがある。そのため、図9に示すように、露出電極62は、界面流動を発生させつつガス流動を阻害させない程度に、被覆層61のマイクロ溝55から極僅かに突出させただけの、実質、段差無く連続するように形成するのが好ましい。
具体的には、ピストン13の上面やシリンダヘッド11の下面の母材表面の所定部位に被覆電極63を設置する。その後、被覆電極63を設置したその母材表面の上に被覆層61を塗布等によって形成する。被覆層61の形成と同時又はその後に、被覆層61の表面の所定部位に露出電極62を設置する。その際、露出電極62の下部は被覆層61に埋設する。そうした後、露出電極62及び被覆層61が形成されたピストン13の上面やシリンダヘッド11の下面の所定部位を、切削加工することによってマイクロ溝55を形成する。
切削加工であれば、μm単位の多数のマイクロ溝55であっても、高い精度で安価に形成できる。露出電極62及び被覆層61の区別なく、一様なマイクロ溝55が形成できる。マイクロ溝55には実質、段差が生じないので、界面流動発生デバイス60をマイクロ溝55と交わるように設置しても、マイクロ溝55の機能を損なわない。マイクロ溝55が露出電極62の上側部分を通過し、露出電極62の下側部分は連なっているので、露出電極62は、いずれかの部位に通電するだけで、露出電極62全体に電圧が印加できる。すなわち、配線が容易である。
図9に示すように、界面流動発生デバイス60を作動させることで、マイクロ溝55に沿って流れる円滑なガスの流動を形成できる。またこの時、そのガスにはオゾンが含まれるので、マイクロ溝55にカーボン粒子が堆積して、カーボンデポジットが形成されることを効果的に抑制できる。
界面流動発生デバイス60は、エンジン1の運転期間中、絶えず作動させてもよいが、電力の消費量が多くなり、燃費に影響する。従って、界面流動発生デバイス60は、適切なタイミング及び期間で作動させるのが好ましい。
具体的には、図10に示すように、界面流動発生デバイス60は、少なくとも混合気の燃焼が始まる前、すなわち、点火プラグ28の点火により、膨張行程の前半で、燃焼室50の中に形成された混合気の燃焼が開始する前に作動させるのが好ましい。更には、圧縮行程の後半(圧縮行程を二等分したうちの後半)の期間に作動させるのが好ましい。特に、ピストン13が圧縮上死点の近傍に位置するタイミングで作動させるのが好ましい。
この時、燃焼室50は、図2に示すような状態であり、ピストン13は圧縮上死点に向かって上昇している。従って、スキッシュエリア54では、順スキッシュ流が形成されている。マイクロ溝55は、スキッシュ流の流動方向に適したパターンに形成されているため、ずれ角は小さく、放熱を効率よく抑制できる。溝延長方向に対して、界面領域を流れるガスの主流の流動方向が多少ずれていても、界面流動発生デバイス60の作動により、溝延長方向に偏向される。また、界面流動発生デバイス60の作動により、順スキッシュ流が強化される。
燃焼室50は、圧縮上死点で最大に圧縮されて混合気が高温になる。そして、その後直ぐに、混合気の燃焼が開始する。従って、燃焼室50の中が最も高温になるタイミングで、前述したずれ角を小さくできる。その結果、放熱抑制効果の低下が効率的に抑制できるので、優れた冷却損失の低減効果が得られる。混合気の燃焼が始まる前に、適切な界面流動になっていればよいので、界面流動発生デバイス60は、混合気の燃焼が始まれば、その作動は停止してもよい。
尤も、混合気の燃焼が行われる膨張行程の前半にも、圧縮行程の後半に引き続いて界面流動発生デバイス60を作動させてもよい。すなわち、混合気の燃焼中には、カーボン粒子が発生する。カーボン粒子がマイクロ溝55に入り込んで付着し、カーボンデポジットが形成されると、マイクロ溝55が本来の機能を発揮できなくなってしまう。一方、膨張行程の前半は、燃焼室50の中の温度が最も高くなるため、カーボン粒子やオゾンの反応性が高く、カーボン粒子がオゾンによって酸化され易い。従って、膨張行程の前半にも、界面流動発生デバイス60を作動させることで、マイクロ溝55にカーボン粒子が付着するのを効果的に抑制できる。
このように、開示したエンジン1の燃焼室50によれば、放熱が抑制できるマイクロ溝55が、燃焼室50の壁面の広い範囲に形成されているので、エンジン1の冷却損失の低減効果が得られる。界面領域を流れるガスの主流の流動方向が、溝延長方向に対して大きくずれると、エンジン1の冷却損失の低減効果が低下するが、界面流動発生デバイス60により、その流動方向が偏向できる。従って、界面領域を流れるガスの主流の流動方向が、溝延長方向とは多少異なる場合があっても、適正化できる。
<変形例>
前述したマイクロ溝55の形成パターンは一例に過ぎない。マイクロ溝55の形成パターンは、燃焼室50の仕様に応じて適宜設定できる。
図11Aに、溝形成面56(ピストン上面51を例示)の変形例を示す。例えば、吸気側対向傾斜面51a、吸気側傾斜面52a、排気側対向傾斜面51b、及び排気側傾斜面52bの各々が、微曲面でなく平坦面となっている場合には、スキッシュ流は、傾斜方向に流れる。従って、その場合には、図11Aに示すように、マイクロ溝55は、傾斜方向に延びるように形成するのが好ましい。
前述した実施形態では、スキッシュエリア54の外縁部にのみ、界面流動発生デバイス60を設置した場合を示したが、図11Bに示すように、溝形成面56の広範囲に多数の界面流動発生デバイス60を設置してもよい。例えば、図11Bでは、ピストン上面51の吸気側対向傾斜面51a及び排気側対向傾斜面51bの各々のほぼ全域、キャビティ53の周縁部からこれら傾斜面の外縁部に至る範囲に、複数の界面流動発生デバイス60が設置されている。これら界面流動発生デバイス60は、放射状に延びる複数のマイクロ溝55と交差するように、シリンダ12の中心に対して同心円状に配置されている。
このように、溝形成面56の広範囲に、多数の界面流動発生デバイス60を、マイクロ溝55と交差するように設置すれば、ガスの流動をより強力に偏向できる、その結果、ガスの主流の流動方向が、溝延長方向と大きく異なっていても、マイクロ溝55の機能を発揮させることができるので、様々なエンジン1の運転状態で放熱を効率よく抑制できるようになり、エンジン1の冷却損失の低減効果を向上させることができる。
また、前述した実施形態では、燃焼室50の内部が高温となる期間にスキッシュ流が支配的となる場合を示したが、スワール流が支配的となる場合もある。例えば、吸気流動制御弁25を制御するなどして、スワール流が強化され、前述した期間に、スキッシュ流ではなく、スワール流が主体となるように制御される場合などである。また、燃焼室50の内部が高温となる期間でなく、その周辺の温度帯などでスワール流が主体となる場合もある。
そのような場合、溝形成面56の境界領域で作用するマイクロ渦msの向きも、そのスワール流に伴って変化するので、図11Cに示すように、スワール流に対応して、マイクロ溝55を同心円状に配置するとよい。そして、この場合、界面流動発生デバイス60は、マイクロ溝55と直交するように、放射状に配置するのが好ましい。
そうすれば、例えば、スキッシュ流に起因して、シリンダ12の径方向に偏ったガスの流動が形成されても、界面流動発生デバイス60の作動により、マイクロ溝55が延びる周方向に偏向させることができる。
なお、本発明にかかるエンジンの燃焼室50は、前述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、前述した燃焼室50では、燃焼室天井面52とピストン上面51の双方が溝形成面56とされているが、いずれか一方だけであってもよい。
界面流動発生デバイス60として、前述した実施形態ではプラズマアクチュエータを例示したが、界面流動発生デバイス60は、それに限るものではない。例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の技術を利用すれば、指向性のある界面流動を発生させることができる。
1 エンジン
2 エンジン本体
12 シリンダ
13 ピストン
28 点火プラグ
29 インジェクタ
50 燃焼室
51 ピストン上面
52 燃焼室天井面
53 キャビティ
54 スキッシュエリア
55 マイクロ溝
56 溝形成面
60 界面流動発生デバイス
J 軸線

Claims (7)

  1. ピストンの上面と、当該ピストンを往復摺動可能に収容するシリンダの周面と、前記ピストンの上面と対向するシリンダヘッドの下面と、によって区画され、前記ピストンの上面及び前記シリンダヘッドの下面の少なくとも一方が、複数の微細な溝が形成されている溝形成面となっているエンジンの燃焼室であって、
    前記溝の幅が、2〜250μmの範囲に設定されると共に、前記溝形成面に沿って流れる界面流動を発生させる界面流動発生デバイスが、前記溝形成面に拡がるように設置されていて、
    少なくとも混合気の燃焼が始まる前に、前記界面流動発生デバイスが作動して、前記溝形成面に沿って流れるガスの主流を、前記溝が延びる方向に偏向させるエンジンの燃焼室。
  2. 請求項1に記載のエンジンの燃焼室において、
    前記溝の幅は、当該溝の深さ以上の大きさに設定されているエンジンの燃焼室。
  3. 請求項1又は請求項2に記載のエンジンの燃焼室において、
    前記界面流動発生デバイスが、圧縮行程の後半に作動するエンジンの燃焼室。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載のエンジンの燃焼室において、
    前記燃焼室の周辺部分に、スキッシュ流を発生させるスキッシュエリアが形成され、
    前記スキッシュエリアに臨む前記溝形成面に、前記スキッシュ流の流動方向に延びるように形成された前記溝と、前記界面流動発生デバイスと、が配置され、
    前記界面流動発生デバイスが、前記シリンダの径方向内側に向かう前記スキッシュ流と同じ向きの前記界面流動を発生させるエンジンの燃焼室。
  5. 請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載のエンジンの燃焼室において、
    前記エンジンは、前記燃焼室の中にスワール流を発生させるスワール流発生機構を備え、
    前記スワール流のうち、前記溝形成面に沿って流れる流動が、前記界面流動発生デバイスによって偏向されるエンジンの燃焼室。
  6. 請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載のエンジンの燃焼室において、
    前記界面流動発生デバイスにプラズマアクチュエータが用いられ、
    前記プラズマアクチュエータが、前記溝と交差する方向に延びるように配置されているエンジンの燃焼室。
  7. 請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載のエンジンの燃焼室において、
    前記ピストンの上面が前記溝形成面となっており、
    前記ピストンには、前記界面流動発生デバイスに電力を供給する蓄電可能なデバイス電源部と、前記界面流動発生デバイスを制御するデバイス制御部と、が設置され、
    前記デバイス電源部及び前記デバイス制御部に対し、無線による給電及び通信が行われるエンジンの燃焼室。
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