以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
≪ニッケル酸化鉱の製錬方法≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱の製錬方法は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱のペレットを用い、そのペレットを特定の製錬炉(還元炉)に装入して還元加熱することによって、ニッケルの鉄−ニッケル合金への回収率が90%以上で、かつ、ニッケル品位が例えば4%以上である鉄−ニッケル合金(フェロニッケル)を得るものである。
以下では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱をペレット化し、そのペレット中のニッケルと鉄を還元処理することで鉄−ニッケル合金のメタルを生成させ、さらに、そのメタルを分離することによってフェロニッケルを製造する製錬方法を例に挙げて説明する。
具体的には、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱の製錬方法は、図1に示すように、ニッケル酸化鉱からペレットを製造するペレット製造工程S1と、得られたペレットを所定の還元温度で還元加熱する還元工程S2と、還元工程S2にて還元加熱したペレットを再加熱する再加熱工程S3と、生成したメタルを分離してメタルを回収する分離工程S4とを有する。なお、分離回収したメタルを熔融してフェロニッケルを熔融物とする熔融工程をさらに有していてもよい。
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱の製錬方法では、還元工程S2でのペレットに対する還元加熱処理において、雰囲気ガス中の酸素分圧を連続的に測定しながら処理することを特徴としている。そして、処理経過時間に伴う酸素分圧が急激に上昇した後に直ちに、再加熱工程S3での再加熱処理を行う。このニッケル酸化鉱の製錬処理では、このように酸素分圧を連続的に測定してその変化を監視することによって、酸素分圧が急激に上昇したときを還元反応の終了時点と判断して、その後に再加熱処理を行うようにしている。これにより、得られるフェロニッケル中のニッケル品位をより効果的に高めることができるとともに、そのニッケル品位のばらつきを抑えることができる。
<1.ペレット製造工程>
ペレット製造工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱からペレットを製造する。図2は、ペレット製造工程S1における処理の流れの一例を示す処理フロー図である。この図2に示すように、ペレット製造工程S1は、ニッケル酸化鉱を含む原料を混合する混合処理工程S11と、得られた混合物を塊状物に形成(造粒)する塊状化処理工程S12と、得られた塊状物を乾燥する乾燥処理工程S13とを有する。
(1)混合処理工程
混合処理工程S11は、ニッケル酸化鉱を含む原料粉末を混合して混合物を得る工程である。この混合処理工程S11では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱のほか、バインダー等の、例えば粒径が0.2mm〜0.8mm程度の原料粉末を混合して混合物を得る。
原料鉱石であるニッケル酸化鉱としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。
ここで、本実施の形態においては、ペレットを製造するにあたり、所定量の炭素質還元剤を混合して混合物とし、その混合物によりペレットを形成する。炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。なお、この炭素質還元剤は、原料のニッケル酸化鉱の粒度と同等のものであることが好ましい。
また、炭素質還元剤の混合量としては、例えば、形成されるペレット内に含まれる酸化ニッケルの全量をニッケルメタルに還元するのに必要な化学当量と、ペレット内に含まれる酸化第二鉄を金属鉄に還元するのに必要な化学当量との両者の合計値(便宜的に「化学当量の合計値」ともいう)を100%としたときに、5%以上60%以下の炭素量の割合となるように調整することができる。
このように、炭素質還元剤の混合量を所定の割合、すなわち上述とした化学当量の合計値100%に対して5%以上60%以下の割合の炭素量となるように調整してペレットを製造することで、詳しくは後述するが、次の還元工程S2における還元加熱処理において、より効果的に、3価の鉄酸化物を2価の鉄酸化物に還元するとともにニッケル酸化物をメタル化し、さらに2価の鉄酸化物をメタルに還元させてメタルシェルを形成させることができ、その一方で、シェルの中に含まれる鉄酸化物の一部を酸化物として残留させるといった部分還元処理を施すことができるようになる。これにより、より効果的に、1個のペレット中において、例えば4%以上の高いニッケル品位を有し、しかもニッケルのフェロニッケルへの回収率が90%以上でフェロニッケルメタル(以下、単に「メタル」ともいう)と、フェロニッケルスラグ(以下、単に「スラグ」ともいう)とに分けて生成させることができる。
(2)塊状化処理工程
塊状化処理工程S12は、混合処理工程S11にて得られた原料粉末の混合物を塊状物に形成(以下、「造粒」ともいう)する工程である。具体的には、混合処理工程S11にて得られた混合物に、塊状化に必要な水分を添加して、例えば転動造粒機、圧縮成形機、押出成形機などの塊状物製造装置等を使用し、あるいは人の手によってペレット状の塊に形成する。
ペレットの形状としては、特に限定されないが、例えば球状とすることができる。また、ペレット状にする塊状物の大きさとしては、特に限定されないが、例えば、後述する乾燥処理、予熱処理を経て、還元工程S2における処理に施されるペレットの大きさ(球状のペレットの場合には直径)で10mm〜30mm程度となるようにする。
(3)乾燥処理工程
乾燥処理工程S13は、塊状化処理工程S12にて得られた塊状物を乾燥処理する工程である。塊状化処理によりペレット状の塊となった塊状物は、その水分が例えば50重量%程度と過剰に含まれており、べたべたした状態となっている。このペレット状の塊状物の取り扱いを容易にするために、乾燥処理工程S13では、例えば塊状物の固形分が70重量%程度で、水分が30重量%程度となるように乾燥処理を施す。
より具体的に、乾燥処理工程S13における塊状物に対する乾燥処理としては、特に限定されないが、例えば300℃〜400℃の熱風を塊状物に対して吹き付けて乾燥させる。なお、この乾燥処理時における塊状物の温度は100℃未満である。
下記表1に、乾燥処理後のペレット状の塊状物における固形分中組成(重量%)の一例を示す。なお、乾燥処理後の塊状物の組成としては、これに限定されるものではない。
ペレット製造工程S1においては、上述したように原料鉱石であるニッケル酸化鉱を含む原料粉末を混合させ、得られた混合物をペレット状に造粒し、それを乾燥させることによってペレットを製造する。このとき、原料粉末の混合に際しては、上述したように組成に応じて炭素質還元剤を混合し、その混合物を用いてペレットを製造する。得られるペレットの大きさとしては、10mm〜30mm程度であり、形状を維持できる強度、例えば1mの高さから落下させた場合でも崩壊するペレットの割合が1%以下程度となる強度を有するペレットが製造される。このようなペレットは、次工程の還元工程S2に装入する際の落下等の衝撃に耐えることが可能であってそのペレットの形状を維持することができ、またペレットとペレットとの間に適切な隙間が形成されるので、還元工程S2における製錬反応が適切に進行するようになる。
なお、このペレット製造工程S1においては、上述した乾燥処理工程S13にて乾燥処理を施した塊状物であるペレットを所定の温度に予熱処理する予熱処理工程を設けるようにしてもよい。このように、乾燥処理後の塊状物に対して予熱処理を施してペレットを製造することで、還元工程S2にてペレットを例えば1000℃〜1500℃程度の高い温度で還元加熱する際にも、ヒートショックによるペレットの割れ(破壊、崩壊)をより効果的に抑制することができる。例えば、製錬炉に装入した全ペレットのうちの崩壊するペレットの割合を僅かな割合とすることができ、ペレットの形状をより効果的に維持することができる。
具体的に、予熱処理においては、乾燥処理後のペレットを350℃〜600℃の温度に予熱処理する。また、好ましくは400℃〜550℃の温度に予熱処理する。このように、350℃〜600℃、好ましくは400℃〜550℃の温度に予熱処理することによって、ペレットを構成するニッケル酸化鉱に含まれる結晶水を減少させることができ、例えば1300℃程度の還元加熱温度に急激に温度を上昇させた場合であっても、その結晶水の離脱によるペレットの崩壊を抑制することができる。また、このような予熱処理を施すことによって、ペレットを構成するニッケル酸化鉱、炭素質還元剤、バインダー等の粒子の熱膨張が2段階となってゆっくりと進むようになり、これにより、粒子の膨張差に起因するペレットの崩壊を抑制することができる。なお、予熱処理の処理時間としては、特に限定されずニッケル酸化鉱を含む塊状物の大きさに応じて適宜調整すればよいが、得られるペレットの大きさが10mm〜30mm程度となる通常の大きさの塊状物であれば、10分〜60分程度の処理時間とすることができる。
なお、この予熱処理工程における処理は、乾燥させたペレットを詳しくは後述する移動炉床炉に装入し、その移動炉床炉において行うようにすることができる。
<2.還元工程>
還元工程S2では、ペレット製造工程S1で得られたペレットを所定の還元温度で還元加熱する。この還元工程S2におけるペレットの還元加熱処理により、製錬反応(還元反応)が進行して、メタルとスラグとが生成する。
具体的に、還元工程S2における還元加熱処理は、製錬炉(還元炉)、より好ましくは移動炉床炉にて行われ、ニッケル酸化鉱を含むペレットを、製錬炉に装入して所定の温度まで昇温することによって還元加熱する。また、この還元加熱処理では、雰囲気ガス中の酸素分圧を連続的に測定し、その酸素分圧の処理経過時間に伴う変化に応じて還元反応の終了を判断する。なお、酸素分圧の測定については、後で詳しく述べる。
ペレットを製錬炉内に装入する際における温度としては、特に限定されないが、600℃以下であることが好ましい。また、炭素質還元剤が燃えてしまう可能性をより効率的に抑制する観点から、550℃以下とすることがより好ましい。
ペレットを製錬炉内に装入する際の温度が600℃を超えると、ペレットに含まれる炭素質還元剤の燃焼が始まってしまう可能性がある。一方で、連続的に還元加熱処理を施すプロセスの場合には、温度を下げすぎると昇温コストの点で不利になるため、下限値としては特に限定されないが500℃以上とすることが好ましい。なお、ペレットの装入時における温度を上述した温度に制御しない場合であっても、燃焼や焼結の影響が生じないほどの短時間でペレットを製錬炉内に装入すれば、特に問題はない。
また、本実施の形態においては、その得られたペレットを製錬炉内に装入するにあたって、その製錬炉の炉床を覆うように炭素質還元剤(以下、この炭素質還元剤を「炉床炭素質還元剤」という)を薄く敷き、その炉床炭素質還元剤の上にペレットを載置することが好ましい。そして、その状態でペレットに対して還元加熱処理を施す。このことにより、還元加熱処理後のペレットが炉床に融着することを効果的に防止することができる。
炉床へのペレットの融着防止を目的として炉床上に敷く炉床炭素質還元剤の量としては、特に限定されないが、炉内へのリークエアーによる炭素の消耗等を考慮して、上述した化学当量の合計値100%に対して20%以上100%以下の割合の炭素量となるように調整することが好ましい。炉床炭素質還元剤の量が、化学当量の合計値100%に対して20%未満の炭素量となる量であると、その炉床炭素質還元剤の量で炉床の全面を覆うように敷くことが難しくなることがある。一方で、炉床炭素質還元剤の量が、化学当量の合計値100%に対して100%を超える炭素量となる量であると、還元度が高くなるため、ペレット中の鉄の還元が進んで、得られる鉄−ニッケル合金のニッケル品位が低下する可能性がある。
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱の製錬方法では、上述したように、例えば製錬炉の炉床上に炉床炭素質還元剤を敷き、その炉床炭素質還元剤上にペレットを載置した状態で、所定の温度で還元加熱処理を施し、さらに、次工程の再加熱工程S3において還元加熱後のペレットに対して所定の温度で再加熱処理を施すことを特徴としている。
ここで、還元工程S2における還元加熱処理においては、還元加熱温度を高くし過ぎるとペレット中のスラグが熔融して液相になってしまう。ところが、液相が存在する状況下では、鉄がメタル化する速度(還元速度)が上昇するため、その鉄の還元の制御が困難となり、メタル中のニッケル品位が低下しやすくなる。また、炉内でのペレットの融着を防ぐために炉床炭素質還元剤を敷き詰めて還元加熱すると、敷き詰めた炉床炭素質還元剤により、より一層に、ニッケルだけでなく鉄の還元も進行することになり、鉄の還元度の制御が困難になる。
本発明者らは、このような問題を解決するために、ペレットに対する加熱処理を2段階で行うことが有効であることを見出した。すなわち、1段目として還元工程S2にて還元加熱処理を行い、2段目として還元加熱後のペレットを再加熱してメタル粒子径の増大を図る。このことにより、鉄の還元を抑制しながら、ニッケルのメタルへの回収率を高めるとともに、ニッケル品位の高い鉄−ニッケル合金を得ることができる。
還元工程S2における還元加熱処理の温度、すなわち、1段目の加熱処理の温度としては、上述した観点から、スラグを固相のまま、あるいは半熔融状態で保持することができる温度とすることが好ましい。具体的に、還元加熱温度としては、1000℃以上1300℃以下の範囲の温度とする。このような温度で還元加熱処理を施すことにより、鉄のメタルへの還元速度を制御しやすい状態に保持することができる。そしてその結果、得られるメタル中のニッケル品位を4%以上の高品位とすることができ、また、ニッケルのメタルへの回収率を90%以上の高い割合とすることができる。
還元加熱温度が1000℃未満であると、鉄のメタルへの還元は抑制されるものの、ニッケルのメタルへの還元速度も遅くなり、ニッケルを高い回収率で回収した鉄−ニッケル合金を得るには処理時間が長くなりすぎて操業上好ましくない。一方で、還元加熱温度が1300℃を超えると、ニッケル酸化鉱の組成に関わらずスラグが熔融することが殆どとなり、鉄のメタルへの還元を抑制することが困難となる。
還元工程S2では、このような還元加熱処理により、3価の鉄酸化物を2価の鉄酸化物に還元するとともにニッケル酸化物をメタル化し、さらに2価の鉄酸化物をメタルに還元させてメタルシェルを形成させる。また、その一方で、シェルの中に含まれる鉄酸化物の全量を還元させずにその一部を酸化物として残留させる、いわゆる部分還元処理を施すことができる。
特に、上述したように、ペレット内に含有させる炭素質還元剤の混合量を、上述した化学当量の合計値100%に対して、5%以上60%以下の炭素量の割合となるように調整することで、より効果的に、部分還元処理を施すことができ、1個のペレット中において、例えば4%以上の高いニッケル品位を有し、しかもニッケルの鉄−ニッケル合金への回収率を90%以上とすることができる。
なお、ペレット内に含有させる炭素質還元剤の混合量を、上述した化学当量の合計値100%に対して60%を超えるほどに過剰な炭素量の割合となる量とした場合、還元加熱処理の終了時においてもペレット中に炭素分が残留することがある。このようにペレット中に炭素分が残留した状態で、次工程の再加熱工程S3で再加熱処理を施してスラグを熔融させると、その熔融時に鉄のメタルへの還元が進みやすくなり、ニッケル品位の低下をもたらす可能性がある。したがって、この点においても、ペレット内の炭素質還元剤の量としては、上述した化学当量の合計値100%に対して60%以下の炭素量の割合となるようにすることが好ましく、これにより、還元加熱処理の終了時においてペレット中のほぼ全量の炭素分が消耗した状態とすることができる。なお、部分還元をより効率的に進行させる観点も加味すると、下限値を5%以上とすることが好ましい。
<3.再加熱工程>
再加熱工程S3では、還元工程S2において還元加熱処理が施されたペレットに対して、所定の温度で再加熱処理を施す。
還元工程S2において、上述した還元加熱温度、すなわち1000℃以上1300℃以下の温度で還元して得られたメタルは、細かい粒子状であって、固体あるいは半熔融状態のスラグ中に分散しており、後述する分離工程S4でメタル相を分離して回収するにあたって、メタル相を高い収率で得ることが困難となるという問題が生じる。
そこで、このような問題を解決するために、2段目の加熱処理として、この再加熱工程S3において、還元加熱処理が施されたペレットに対して所定の温度で再加熱処理を施す。この処理により、スラグを半熔融状態あるいは熔融状態に保つようにし、分散していた細かい粒子状のメタルを結合させるとともに沈降させ、粒子径の大きなメタル粒とする。このことにより、より回収しやすい状態にすることができ、また、ニッケルの品位を高めることができる。
再加熱工程S3における再加熱処理の温度、すなわち、2段目の加熱処理の温度としては、1段目の加熱処理である還元工程S2での還元加熱の温度以上の温度とする。より好ましくは、還元加熱の温度以上であって、1200℃以上1500℃以下の温度で再加熱する。このような温度で還元加熱後のペレットを再加熱することにより、効果的に、分散したメタル粒を結合させて粒子径の大きなメタル粒を生成させることができる。
再加熱温度が還元加熱温度以上であっても、再加熱温度が1200℃未満であると、スラグの熔融が効率的に進まずに十分な効果が得られない可能性がある。一方で、再加熱温度が1500℃を超えると、スラグの熔融に必要な熱エネルギーに対して過剰な温度範囲となり、コスト等の観点から効率的な処理を行うことができなくなる。したがって、再加熱温度としては、還元加熱温度以上であって、1200℃以上1500℃以下の温度範囲がより好ましい。
再加熱工程S3における再加熱処理の処理時間、すなわち再加熱時間としては、上述した還元工程S2における還元加熱温度や、再加熱処理温度に応じて、鉄のメタルへの還元を考慮しながら、適宜決定することができる。
ここで、図3に、還元工程S2において還元加熱処理を施したときのペレットにおける還元反応の様子と、再加熱工程S3において還元加熱後のペレットに対して再加熱処理を施したときの様子を模式的に示す図である。なお、図3の模式図において、符号「10」は製錬炉の炉床に敷いた炉床炭素質還元剤を示す。また、符号「15」はペレットに含まれる炭素質還元剤を示し、符号「20」はペレットを示す。また、符号「30」はメタルシェルを示し、符号「40」、「40a」はメタル粒を示し、符号「50」はスラグを示す。また、符号「60」は再加熱処理により半熔融状態あるいは熔融状態となったスラグを示す。
先ず、本実施の形態においては、上述したように、例えば炉床を覆うように炉床炭素質還元剤10を敷き詰めた製錬炉を使用して、その炉床炭素質還元剤10上にペレット20を載置して、その状態で還元加熱処理を開始する。この還元加熱処理では、ペレット20の表面(表層部)20aから熱が伝わり、ペレット20に含まれる炭素質還元剤15に基づいて、例えば下記反応式(i)に示すような還元反応が進む(図3(A))。
Fe2O3+C → Fe3O4+CO ・・・(i)
ペレット20の表層部20aにおける還元が進行してFeOまでの還元が進むと(Fe3O4+C→FeO+CO)、NiO−SiO2として結合していたニッケル酸化物(NiO)とFeOとの置換が進み、その表層部20aにおいて例えば下記反応式(ii)で示すようなNiの還元が始まる(図3(B))。そして、外部からの熱伝播と共に、このNiの還元反応と同様の反応が次第に内部においても進行していく。
NiO+CO → Ni+CO2 ・・・(ii)
このようにして、ペレット20の表層部20aにおいてニッケル酸化物の還元反応と共に、例えば下記反応式(iii)に示すような鉄酸化物の還元反応が進行していくことにより、例えば数分程度の僅かな時間で、その表層部20aにおいてメタル化が進んで鉄−ニッケル合金(フェロニッケル)となり、メタルの殻(メタルシェル)30が形成されていく(図3(C))。なお、この段階で形成されているメタルシェル30は薄く、CO/CO2ガスは容易に通過するため、外部からの熱伝播と共に次第に内部への反応が進行していく。
FeO+CO → Fe+CO2 ・・・(iii)
内部への反応の進行によりペレット20の表層部20aにおけるメタルシェル30が次第に厚くなると、ペレット20の内部20bが徐々にCOガスで充満していく。すると、ペレット20の内部20bにおける還元雰囲気が高まり、NiとFeのメタル化が進行してメタル粒40が生成する(図3(D))。一方で、そのメタルシェル30の内側、すなわちペレット20の内部20bでは、ペレット20に含まれるスラグ成分の一部の熔融が始まりスラグ50が生成する。
ペレット20に含まれる炭素質還元剤15が消費され尽くすと、Feのメタル化が止まり、メタル化しなかったFeはFeO(一部はFe3O4)の形態で残留する。
次に、このようにして還元加熱処理を施して得られたペレットに所定の温度、具体的には還元加熱温度以上の温度で再加熱処理を施すと、スラグ50の熔融が進行して半熔融状態あるいは熔融状態のスラグ60となり、その状態が保たれる。そして同時に、この再加熱処理により、スラグ50中に分散していた細かい粒径のメタル粒40同士が結合し、熔融状態のスラグ60中を沈降して、大きな粒径のメタル粒40aとなる(図3(E))。
このようにして、大きな粒径のメタル粒40aが、熔融したスラグ60内の下部に沈降した状態で回収され、粉砕等の処理の後に磁選処理等によりスラグ60を分離することで、鉄−ニッケル合金を得ることができる。なお、ペレット中のスラグ60は熔融して液相となっているが、分かれて生成したメタルとスラグとは混ざり合うことがなく、その後の冷却によってメタル固相とスラグ固相との別相として混在する混合物となる。この混合物の体積は、装入するペレットと比較すると、50%〜60%程度の体積に収縮している。
以上のように、ペレット中に混合させた炭素質還元剤により、3価の鉄酸化物を2価の鉄酸化物に還元させるとともにニッケル酸化物をメタル化し、さらに2価の鉄酸化物をメタルに還元させていき、メタルシェルとメタル粒とを形成させることができる。なお、その際、製錬炉の炉床に炉床炭素質還元剤を敷き詰めて、その炉床炭素質還元剤上にペレットを載置して還元させることにより、還元加熱処理後にペレットが炉床に融着することを防ぐことができる。
そして、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱の製錬方法では、還元工程S2として還元加熱処理を施すとともに、再加熱工程S3として還元加熱処理後のペレットを再加熱処理するという、いわゆる2段階の加熱処理を施していることにより、鉄のメタル化を効果的に防いでニッケル品位の高いフェロニッケルメタルを得ることができる。具体的には、ニッケル品位を4%以上の高品位とすることができるとともに、ニッケル回収率も90%以上の高い割合とすることができる。さらに、メタル粒の粒径も大きくすることができるため、スラグとの分離も容易となる。
<4.分離工程>
分離工程S4では、再加熱工程S3での再加熱処理を経て生成したペレットを製錬炉から取り出し、メタルとスラグとに分離してメタルを回収する。具体的には、ペレットに対する還元加熱処理(還元工程S2)と、その後の再加熱処理(再加熱工程S3)によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(炭素質還元剤を含むスラグ固相)とを含む混合物からメタル相を分離して回収する。なお、上述したように、再加熱処理を経て熔融して液相となったスラグ60は、冷却によって固相となり、メタル固相とは別相として存在する。
固体として得られたメタル相とスラグ相との混合物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、粗砕あるいは粉砕後に篩い分けによって大粒径のメタルを分離する方法のほか、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。得られたメタル相とスラグ相とは、濡れ性が悪いことから容易に分離することができる。
このようにしてメタル相とスラグ相とを分離することによって、メタル相を回収する。
≪還元工程における酸素分圧の測定≫
さて、上述したニッケル酸化鉱石の製錬方法において、使用する原料のニッケル酸化鉱石にはニッケル量や鉄量にばらつきがあるため、ペレット中の炭素質還元剤量を制御した場合でもそのばらつきを十分に調整できずに、例えばバーナー燃焼やリークエアーの僅かな変化によって、還元反応の終点が一定にならないという問題が生じる。このように還元反応の終点がばらついてしまうと、ニッケルのメタルへの還元率が不足するという問題や、メタル中のニッケル品位が効果的に上昇しないという問題が生じる。このことから、還元反応の終点を的確に把握しながら還元加熱処理を行い、その還元反応の終了後直ちにその後の再加熱処理を行うことが重要となる。
本発明者らは、このような問題を解決するために研究を重ねた結果、還元加熱処理における雰囲気中の酸素分圧(PO2)を連続的に測定することによって、還元反応の終点を的確に同定できることを見出した。
具体的に、図4に、ペレット中の炭素質還元剤量を変化させたときの、還元加熱処理の処理経過時間に対する雰囲気中の酸素分圧の変化を示す。なお、図4中の(A)〜(E)のグラフは、それぞれ、ペレット中の炭素質還元剤量を、上述した化学当量の合計値100%に対して20%、30%、40%、60%、100%としたときのグラフである。この図に示す酸素分圧は起電力式の酸素センサーを用いて測定したものである。また、各グラフには、経過時間に対する炉内温度の変化も併せて示す。
図4に示すグラフ図から分かるように、炉内温度の上昇とともに還元反応が始まることによって、雰囲気中の酸素分圧は減少していき、還元反応中においては酸素分圧が低い値で一定となる。そして、ある経過時間で酸素分圧が急激に上昇することが見て取れ、この上昇が著しく急激であることから、その酸素分圧の変化に基づいて還元反応の終了と同定することができる。なお、図4のそれぞれのグラフ図において、酸素分圧が急激に上昇した変化の箇所を白抜き矢印で示す。
また、図4の(A)〜(E)のいずれにおいても、同様のプロファイルとなることが分かり、ペレットに含まれる炭素質還元剤量に依存せずに、酸素分圧の急激な上昇変化に基づいて還元反応の終了を判断することができるが、炭素質還元剤の量が増加するに従って、酸素分圧が急激に上昇する時刻(タイミング)、すなわち還元反応の終了の時間がより遅くなることが分かる。
このような処理時間の経過に基づく酸素分圧の変化によって、還元工程S2における還元加熱処理の制御が可能となる。すなわち、還元工程S2では、雰囲気中の酸素分圧を連続的に測定しておき、その酸素分圧の測定値が急激に上昇したときを還元反応の終了と判断して、その酸素分圧の上昇後直ちに、続く再加熱工程S3での再加熱処理を行う。これにより、還元反応の終点を適切に把握しながら還元加熱処理を施すことができ、ニッケルのメタルへの還元がより効果的に進行し、メタル中のニッケル品位を高めることができる。
ここで、「酸素分圧が急激に上昇する」とは、短時間、例えば30秒程度の短時間で、雰囲気中の酸素分圧(P02[atm])がlogPO2=−3程度まで上昇することをいう。もしくは、30秒程度の短時間で、酸素分圧の測定値logPO2が絶対値で7以上変化することをいう。なお、還元加熱処理から再加熱処理に移行するタイミングとしては、雰囲気中の酸素分圧がlogPO2=−3程度となった時点とすることもでき、このタイミングで再加熱処理を開始するようにすることもできる。
また、雰囲気中の酸素分圧の測定は、測定が可能な方法であれば如何なる方法を用いてもよく、例えば、起電力式の酸素センサーを用いてガス中の酸素濃度を測定することによって行うことができる。また、酸素分圧の測定方法として、他に、オルザット法等のいかなる手段を用いてもよい。また、酸素分圧の測定に限らず、上述したような酸素分圧の変化に伴って変化する酸素以外のガス分圧を測定してもよく、例えば、一酸化炭素ガス分圧や二酸化炭素ガス分圧などを測定して、経時的にその変化を観察してもよい。
≪移動炉床炉を使用した処理≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱の製錬方法では、上述したように、ペレット製造工程S1と、形成したペレットを所定の還元温度で還元加熱する還元工程S2と、還元工程S2にて還元加熱したペレットを再加熱する再加熱工程S3と、生成したメタルを分離してメタルを回収する分離工程S4とを有する。そしてそのうち、少なくとも、上述した還元工程S2における還元加熱処理と、再加熱工程S3における再加熱処理とを、移動炉床炉を使用して連続的に行うことが好ましい。
このように、移動炉床炉を使用することにより、一つの設備で還元反応を完結させることができ、各工程における処理を別々の炉を用いて行うよりも処理温度の制御を的確に行うことができる。また、各処理間でのヒートロスを低減して、より効率的な操業が可能となる。つまり、別々の炉を使用した反応を行った場合、ペレットを、炉と炉との間を移動させる際に、温度が低下してヒートロスが生じ、また反応雰囲気に変化を生じさせてしまい、炉に再装入したときに即座に反応を生じさせることができない。これに対して、移動炉床炉を使用して一つの設備で各処理を行うことで、ヒートロスが低減されるとともに炉内雰囲気も的確に制御できるため、反応をより効果的に進行させることができる。これらのことにより、より効果的にニッケル品位が高い鉄−ニッケル合金を得ることができる。
特に、本実施の形態においては、還元工程S2において雰囲気中の酸素分圧(PO2)を連続的に測定し、その測定値をモニタリングしながら、酸素分圧の測定値が急激に上昇したときを還元反応の終了と判断し、その後直ちに再加熱工程S3での再加熱処理を行うようにしている。このため、酸素分圧の測定値に基づいて直ちに再加熱処理に移行させるにあたっては、移動炉床炉を使用して一貫して処理することが好ましい。また、移動炉床炉を用いることによって、還元加熱処理から再加熱処理に即座に移行させた場合でも、上述したように処理温度の制御をより的確に行うことができる。
具体的に、雰囲気中の酸素分圧を連続的に測定しながら還元加熱処理を行い、その後、酸素分圧の変化に基づいて再加熱処理を行うにあたり、それらの処理を移動式炉床炉を用いて行う場合においては、1段目の加熱処理(還元加熱処理)の反応が生じる炉の位置のガスの一部を連続的に抜き出し、例えば起電力式センサーを用いてガス中の酸素濃度を測定する。そして、酸素分圧を監視しながら炉床の送り速度をコントロールし、上述したようにガス中の酸素分圧が上昇した時点で2段目の加熱処理(再加熱処理)に移行する。
次に、具体的に移動炉床炉の構成について説明する。図5は、移動炉床炉としての回転炉床炉の一例を上方から視たときの概略構成図である。図5に例示する回転炉床炉1では、処理領域(2a〜2h)が8カ所に分かれており、炉1の移動(炉の回転移動)に伴って各領域を通過する際にそれぞれの処理が行われる。このように、移動炉床炉では、いくつかの段階に応じて炉の領域を分けて処理することができる。なお、図中の矢印は、回転炉床炉1の回転方向を示す。
より具体的に、図5に示すように、回転炉床炉1においては、ペレットを装入する領域(装入領域)2aと、ペレットに含まれる結晶水を除去するためにペレットを400℃〜600℃程度でか焼する領域(か焼領域、結晶水除去領域)2bと、還元加熱処理に先立ち還元加熱温度まで炉内を昇温する領域(昇温領域)2cと、還元加熱温度でペレットを還元加熱する領域(還元領域)2dと、還元加熱後に再加熱処理に先立ち再加熱温度まで炉内を昇温する領域(再昇温領域)2eと、再加熱温度でペレットを再加熱する領域(再加熱領域)2fと、再加熱後に冷却ガス等を炉内に吹き込んでペレットを1000℃以下程度まで冷却する領域(冷却領域)2gと、ペレットを排出する領域(排出領域)2hとを備える。なお、図中の領域2aに示した白抜き矢印は、回転炉床炉1へのペレットの装入を示し、図中の領域2hに示した白抜き矢印は、回転炉床炉1からのペレットの排出を示す。
回転炉床炉1では、図中の矢印の方向に回転しながら、各領域においてそれぞれの処理を行う。そのとき、各領域の温度を所定の温度に調整するとともに、各領域を通過する際の時間(移動時間、回転時間)を制御することによって、それぞれの領域での処理温度を調整する。そして、回転炉床炉が1回転するごとに、ペレットが製錬処理される。
還元加熱処理や再加熱処理については、上述した還元工程S2と再加熱工程S3における処理と同じであるため詳細な説明は省略するが、還元加熱処理の温度としては1000℃以上1300℃以下とすることが好ましく、また再加熱処理の温度としては還元加熱処理の温度以上であることが必要であり、好ましくは1200℃以上1500℃以下とする。このように、各領域における処理温度を的確に制御することが重要であるが、上述したような回転炉床炉1を使用することによって、的確に処理温度を制御でき、また回転速度を調整することで処理温度も細かく制御できる。これにより、高いニッケル品位を有する鉄−ニッケル合金を非常に効率的に製造することができる。
移動炉床炉としては、図5に例示したような回転炉床炉に限られるものではなく、ローラーハースキルン等であってもよい。なお、回転炉床炉は、一つの設備で省スペースを実現できるとともに、各処理領域の面積を十分に確保することができ、より好ましい。
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
原料鉱石としてのニッケル酸化鉱と、バインダーと、さらに炭素質還元剤とを混合して混合物を得た。混合物中に含ませた炭素質還元剤の混合量としては、形成されるペレット中に含まれる酸化ニッケルをニッケルメタルに還元するのに必要な化学当量と、ペレット内に含まれる酸化第二鉄を金属鉄に還元するのに必要な化学当量との合計値(化学当量の合計値)を100%としたときに、それに対して炭素量で10%に相当する分量とした。
次に、得られた原料粉末の混合物に適宜水分を添加して手で捏ねることによって球状の塊状物に形成した。そして、得られた塊状物の固形分が70重量%程度、水分が30重量%程度となるように、300℃〜400℃の熱風を塊状物に吹き付けて乾燥処理を施し、球状のペレット(サイズ(直径):17mm)を製造した。なお、下記表2に、乾燥処理後のペレットの固形分組成を示す。
次に、製錬炉において、セラミックス製の皿状の炉床の上に、炭素質還元剤である石炭粉(炭素含有量:85重量%、粒度:0.4mm)を薄く敷き詰め、その上に、製造したペレット25個を載置させて装入した。製錬炉へのペレットの装入に際しては、600℃の温度条件で行った。なお、このときの、皿状の炉床に敷き詰めた石炭粉の量は、上述した化学当量の合計値100%に対して炭素量で90%の割合となる分量とした。
そして、還元加熱温度を1200℃として、還元反応時の排ガスをエアーポンプで採取し、起電力式の酸素センサーを用いて雰囲気ガス中の酸素分圧の測定を連続的に行いながら、その製錬炉内で還元加熱処理を行った。
続いて、連続的に測定していた雰囲気ガス中の酸素分圧が急激に上昇した時点で、炉内温度を1300℃(再加熱温度)に昇温して、還元加熱処理後のペレットに対して再加熱処理を行った。
再加熱処理を30分間行ったのち、炉内からペレットを取り出した。炉内から取り出した後1分以内で、500℃以下にまで冷却されていることを確認した。
このような還元加熱処理及び再加熱処理により、鉄−ニッケル合金(フェロニッケルメタル)とスラグとが得られた。
このような操業を10回行い、それぞれで得られたフェロニッケルメタルのニッケル品位の最大値、最小値、及び平均値を算出した。下記表3に、その結果を示す。なお、質量バランスから計算して、10回の操業のそれぞれにおいて、ニッケルのメタル中への回収率(ニッケル回収率)は90%以上であった。
[比較例1]
比較例1では、還元加熱処理において雰囲気ガス中の酸素分圧を測定せず、その還元加熱処理の処理時間を15分に設定した。そのこと以外は、実施例1と同様にして、合計10回の操業を行った。
下記表4に、10回の操業のそれぞれで得られたフェロニッケルのニッケル品位の最大値、最小値、及び平均値の算出結果を示す。表4に示すように、ニッケル品位の平均値は、実施例1とほぼ同じであったものの、ニッケル品位の最大値と最小値はいずれも平均値との差異が大きくなり、つまり、製品中のニッケル品位に大きなばらつきが生じる結果となった。