<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係る分散アレーアンテナシステム1について、図面を参照して説明する。図1は、第1実施形態に係る分散アレーアンテナシステム1の構成の一例を示す図である。
まず、図1を参照し、分散アレーアンテナシステム1の概略について説明する。
分散アレーアンテナシステム1は、分散アレーアンテナ装置2と、複数のアンテナにより構成される分散アレーアンテナ3を備える。この一例において、分散アレーアンテナ3は、複数のアンテナとして、基準となる第1アンテナ4−1と、第1アンテナ4−1から所定の距離だけ離れた位置に配置された第2アンテナ4−2を備える。なお、分散アレーアンテナ3は、第1アンテナ4−1と第2アンテナ4−2とともに3台以上のアンテナにより構成されても良い。
以下では、説明の便宜上、第1アンテナ4−1と第2アンテナ4−2を区別する必要が無い限り、まとめてアンテナ4と称して説明する。また、以下では、分散アレーアンテナ3から送信される送信信号のうち、第1アンテナ4−1から送信される送信信号を第1送信信号と称し、第2アンテナ4−2から送信される送信信号を第2送信信号と称して説明する。また、以下では、分散アレーアンテナ3により受信される受信信号のうち、第1アンテナ4−1により受信される受信信号を第1受信信号と称し、第2アンテナ4−2から受信される受信信号を第2受信信号と称して説明する。
また、分散アレーアンテナシステム1は、図示しない移動体に搭載される。移動体は、例えば、船舶である。なお、移動体は、これに代えて、鉄道、自転車等の有人の乗り物や、ドローン等の無人の移動する物体等であってもよい。
また、分散アレーアンテナシステム1では、分散アレーアンテナ装置2が分散アレーアンテナ3から通信衛星6へ送信信号を送信する。より具体的には、分散アレーアンテナ装置2は、通信衛星6に送信する送信信号を、分散アレーアンテナ3が備える複数のアンテナのそれぞれに分配する。この一例において、分散アレーアンテナ装置2は、当該送信信号を第1アンテナ4−1と第2アンテナ4−2に分配する。第1アンテナ4−1に分配された送信信号は、第1送信信号として通信衛星6に送信される。また、第2アンテナ4−2に分配された送信信号は、第2送信信号として通信衛星6に送信される。
通信衛星6は、分散アレーアンテナ3から第1送信信号と第2送信信号を受信する。例えば、通信衛星6は、受信した第1送信信号と第2送信信号を1つの送信信号に合成する。通信衛星6は、合成した送信信号を他の通信装置7に送信(中継)する。また、通信衛星6は、当該送信信号と同じ信号を折り返し信号として分散アレーアンテナ3に送信する。また、通信衛星6は、所定の周期でパイロット信号を分散アレーアンテナ3に送信する。
分散アレーアンテナ装置2は、分散アレーアンテナ3を介して通信衛星6から送信された折り返し信号を受信信号として受信する。より具体的には、分散アレーアンテナ装置2は、第1アンテナ4−1により受信された受信信号を第1受信信号として受信し、第2アンテナ4−2により受信された受信信号を第2受信信号として受信する。また、分散アレーアンテナ装置2は、所定の周期で通信衛星6からパイロット信号を受信信号として受信する。より具体的には、分散アレーアンテナ装置2は、第1アンテナ4−1により受信されたパイロット信号を第1受信信号として受信し、第2アンテナ4−2により受信されたパイロット信号を第2受信信号として受信する。なお、パイロット信号は、ビーコンであってもよい。以下では、一例として、第1受信信号と第2受信信号が、通信衛星6から分散アレーアンテナ3に送信された折り返し信号である場合について説明するが、これに代えて、パイロット信号やビーコン等の他の信号であってもよい。
以下、分散アレーアンテナシステム1の各構成について説明する。
分散アレーアンテナ3が備える各アンテナ4は、例えば、姿勢を変化させる図示しない機構と、当該機構を制御する図示しない制御装置を有する追尾アンテナである。各アンテナ4は、当該制御装置の制御の下、姿勢を変化させられ、通信衛星6の方向に向けられる。
分散アレーアンテナ装置2は、通信衛星6に送信する送信信号を変調する。分散アレーアンテナ装置2は、変調した当該送信信号を、分散アレーアンテナ3を介して通信衛星6に送信する。当該送信信号の周波数帯は、例えば、Ku帯である。この一例では、当該送信信号の周波数が、Ku帯の14ギガヘルツである場合について説明する。なお当該周波数は、他の周波数であってもよい。
また、分散アレーアンテナ装置2は、通信衛星6から折り返し信号を受信信号として受信する。分散アレーアンテナ装置2は、受信した折り返し信号を復調する。これらの受信信号の周波数帯は、例えば、Ku帯である。この一例では、当該受信信号の周波数は、Ku帯の12ギガヘルツである場合について説明する。なお、当該周波数は、他の周波数であってもよい。
また、分散アレーアンテナ装置2は、分散アレーアンテナ3が備える複数のアンテナから送信される送信信号のうち、基準となるアンテナから送信された基準送信信号の位相と、他のアンテナから送信された送信信号の位相との差を減少させる位相補償を行う。この一例において、分散アレーアンテナ3が第1アンテナ4−1と第2アンテナ4−2の2つのアンテナを備えるため、基準となるアンテナは、第1アンテナ4−1又は第2アンテナ4−2のいずれかである。以下では、一例として第1アンテナ4−1が基準となるアンテナである場合について説明する。
すなわち、分散アレーアンテナ装置2は、基準となるアンテナである第1アンテナ4−1を介して通信衛星6に送信する第1送信信号の位相と、第2アンテナ4−2を介して通信衛星6に送信する第2送信信号の位相との差を減少させる位相補償を行う。より具体的には、分散アレーアンテナ装置2は、通信衛星6の受信端における第1送信信号の位相と第2送信信号の位相とが同相(位相差が略ゼロ)になるように位相補償を行う。以下では、説明の便宜上、第1アンテナ4−1を介して通信衛星6に送信する第1送信信号の位相と、第2アンテナ4−2を介して通信衛星6に送信する第2送信信号との位相の差を、第1位相差と称して説明する。
ここで、第1位相差が生じる要因について説明する。第1位相差が生じる要因は、少なくとも2つある。まず、当該要因の1つ目である第1要因は、第1アンテナ4−1の送信端から通信衛星6の受信端までの第1経路長と、第2アンテナ4−2の送信端から通信衛星6の受信端までの第2経路長の経路長差である。また、この経路長差は、時間とともに変化する。何故なら、前述したように、この一例における分散アレーアンテナシステム1は、移動体に搭載されており、移動体の移動又は動揺により第1経路長と第2経路長のそれぞれが変化してしまうからである。第1位相差が生じるもう1つの要因である第2要因は、分散アレーアンテナ装置2において第1送信信号と第2送信信号のそれぞれを変調するRF回路やケーブル等のハードウェアの温度特性である。
分散アレーアンテナ装置2は、このような要因によって生じる第1位相差の位相補償を行う。以下では、分散アレーアンテナ装置2が当該第1位相差の位相補償を行う方法(方式)、及びそれを実現する構成について説明する。
ここで、第1実施形態に係る分散アレーアンテナシステム1が備える分散アレーアンテナ装置2が第1位相差の位相補償を行う方法の概略について説明する。
分散アレーアンテナシステム1では、分散アレーアンテナ装置2が、分散アレーアンテナ3に含まれる第1アンテナ4−1から送信される前の第1送信信号の位相と、分散アレーアンテナ3に含まれる第2アンテナ4−2から送信される前の第2送信信号の位相とのうちいずれか一方又は両方を、第1アンテナ4−1によって受信された第1受信信号と、第2アンテナ4−2によって受信された第2受信信号との位相差に基づいて移相し、第1受信信号又は前記第2受信信号の受信電力に基づいて、第1送信信号又は第2送信信号の位相を移相する。
これにより、分散アレーアンテナシステム1、又は分散アレーアンテナ装置2は、分散アレーアンテナ3から送信する複数の送信信号間の通信衛星6の受信端における位相差を取り除く位相補償を精度よく行うことができる。その結果、分散アレーアンテナシステム1、又は分散アレーアンテナ装置2は、分散アレーアンテナ3から送信する複数の送信信号を同相状態にすることができ、当該送信信号間の干渉による伝搬損失を抑制することができる。
次に、図2を参照し、第1実施形態に係る分散アレーアンテナ装置2の機能構成について説明する。図2は、第1実施形態に係る分散アレーアンテナ装置2の機能構成の一例を示す図である。
分散アレーアンテナ装置2は、第1OMT部21と、第2OMT部22と、第1D/C部23と、第2D/C部24と、位相差算出部25と、第1移相部26と、第2移相部27と、第1U/C部30と、第2U/C部31を備える。
第1OMT部21は、偏分波器である。第1OMT部21は、第1アンテナ4−1がから第1受信信号を取得する。第1OMT部21は、取得した第1受信信号を垂直偏波成分と水平偏波成分に分離する。第1OMT部21は、分離した垂直偏波成分を第1受信信号として第1D/C部23に出力する。また、第1OMT部21は、第1U/C部30から第1送信信号を取得する。第1OMT部21は、取得した第1送信信号を垂直偏波成分と水平偏波成分に分離する。第1OMT部21は、分離した水平偏波成分を第1送信信号として第1アンテナ4−1に出力して通信衛星6に送信させる。なお、第1OMT部21は、増幅器を備える構成であってもよい。この場合、第1OMT部21は、第1送信信号及び第1受信信号を増幅する。
第2OMT部22は、偏分波器である。第2OMT部22は、第2アンテナ4−2から第2受信信号を取得する。第2OMT部22は、取得した第2受信信号をを垂直偏波成分と水平偏波成分に分離する。第2OMT部22は、分離した垂直偏波成分を第2受信信号として第2D/C部24に出力する。また、第2OMT部22は、第2U/C部31から第2送信信号を取得する。第2OMT部22は、取得した第2送信信号を垂直偏波成分と水平偏波成分に分離する。第2OMT部22は、分離した水平偏波成分を第2送信信号として第2アンテナ4−2に出力して通信衛星6に送信させる。なお、第2OMT部22は、増幅器を備える構成であってもよい。この場合、第2OMT部22は、第2送信信号及び第2受信信号を増幅する。
第1D/C部23は、ダウンコンバーターである。第1D/C部23は、第1OMT部21から取得した第1受信信号をデジタル信号に変換する。第1D/C部23は、デジタル信号に変換した第1受信信号をダウンコンバートする。この一例において、第1D/C部23は、第1受信信号の周波数である12ギガヘルツを指定の中間周波数まで周波数変調する。第1D/C部23は、ダウンコンバートした第1受信信号を位相差算出部25に出力する。また、第1D/C部23は、ダウンコンバートした第1受信信号を第2移相部27に出力する。
第2D/C部24は、ダウンコンバーターである。第2D/C部24は、第2OMT部22から取得した第2受信信号をデジタル信号に変換する。第2D/C部24は、デジタル信号に変換した第2受信信号をダウンコンバートする。この一例において、第2D/C部24は、第2受信信号の周波数である12ギガヘルツを指定の中間周波数まで周波数変調する。第2D/C部24は、ダウンコンバートした第2受信信号を位相差算出部25に出力する。
位相差算出部25は、第1D/C部23から取得した第1受信信号の位相と、第2D/C部24から取得した第2受信信号の位相との差を、第2位相差として算出する。位相差算出部25は、算出した第2位相差に対して、分散アレーアンテナ3から送信される送信信号の波長と、分散アレーアンテナ3により受信される受信信号の波長との波長比を乗算することにより、第2位相差を調整する。この第2位相差の調整については、後述する。位相差算出部25は、調整した第2位相差を示す第2位相差情報を第1移相部26に出力する。
第1移相部26は、第1移相器設定部261と、移相器262と、移相器263を備える。
第1移相器設定部261は、位相差算出部25から取得した第2位相差情報が示す第2位相差の所定の割合分の値である第1移相値を移相器262に設定する(記憶させる)。また、第1移相器設定部261は、第2位相差から当該第1移相値を差し引いた残りの第2移相値を移相器263に設定する(記憶させる)。なお、所定の割合は、0%〜100%のうちの任意の値であってよい。この一例では、所定の割合が50%である場合について説明する。
移相器262は、分散アレーアンテナ装置2が備える図示しない送信信号源となる素子から第1送信信号を取得する。移相器262は、取得した第1送信信号の位相を、第1移相器設定部261により設定された第1移相値の分だけ変化させる。移相器262は、位相を変化させた第1送信信号を第1U/C部30に出力する。
移相器263は、分散アレーアンテナ装置2が備える図示しない送信信号源となる素子から第2送信信号を取得する。移相器263は、取得した第2送信信号の位相を、第1移相器設定部261により設定された第2移相値の分だけ変化させる。移相器263は、位相を変化させた第2送信信号を、後述する移相器273に出力する。
第2移相部27は、受信電力処理部271と、第2移相器設定部272と、移相器273を備える。
受信電力処理部271は、第1D/C部23から第1受信信号を取得する。受信電力処理部271は、取得した第1受信信号の受信電力を検出(モニタ)する。受信電力処理部271は、検出した受信電力を示す情報を図示しない記憶部に記憶させる。また、受信電力処理部271は、算出した受信電力を示す情報を、第2移相器設定部272に出力する。
第2移相器設定部272は、受信電力処理部271から受信電力を示す情報を取得すると、図示しない記憶部に記憶された最新の受信電力の1つ前(すなわち、前回)に記憶された受信電力を示す情報を読み出す。第2移相器設定部272は、受信電力処理部271から取得した最新の受信電力を示す情報と、図示しない記憶部から読み出した前回の受信電力を示す情報とに基づいて、+1又は−1を乗じた所定の位相値を移相器273に設定する。所定の位相値については、後述する。
移相器273は、移相器263から第2送信信号を取得する。移相器273は、取得した第2送信信号の位相を、第2移相器設定部272により設定された所定の位相値の分だけ変化させる。移相器273は、位相を変化させた第2送信信号を第2U/C部31に出力する。
第1U/C部30は、アップコンバーターである。第1U/C部30は、移相器262から取得した第1送信信号をアップコンバートして14ギガヘルツまで周波数変調する。第1U/C部30は、周波数変調した第1送信信号をアナログ信号に変換する。第1U/C部30は、アナログ信号に変換した第1送信信号を第1OMT部21に出力する。
第2U/C部31は、アップコンバーターである。第2U/C部31は、移相器273から取得した第2送信信号をアップコンバートして14ギガヘルツまで周波数変調する。第2U/C部31は、周波数変調した第2送信信号をアナログ信号に変換する。第2U/C部31は、アナログ信号に変換した第2送信信号を第2OMT部22に出力する。
次に、分散アレーアンテナ装置2による第1位相差の位相補償を行う原理について説明する。まず、移動体の移動及び動揺がない場合について説明する。この場合、第1送信信号は、第1アンテナ4−1の送信端から通信衛星6の受信端までの経路長を伝搬する。以下では、当該経路長を第1経路長と称して説明する。また、第2送信信号は、第2アンテナ4−2の送信端から通信衛星6の受信端までの経路長を伝搬する。以下では、当該経路長を第2経路長と称して説明する。
通信衛星6の受信端における第1送信信号と第2送信信号の位相差である第1位相差には、第1経路長と第2経路長の差によって生じる位相差θ_tが含まれる。また、第1位相差には、分散アレーアンテナ装置2内のハードウェアを伝搬した第1送信信号の第1アンテナ4−1の送信端での位相と、分散アレーアンテナ装置2内のハードウェアを伝搬した第2送信信号の第2アンテナ4−2の送信端での位相との差θ_uが含まれる。すなわち、第1位相差θ_1は、以下の式(1)のように表される。
θ_1=θ_t+θ_u ・・・(1)
一方、第1アンテナ4−1の受信端における受信信号(第1受信信号)は、第2アンテナ4−2の受信端における受信信号(第2受信信号)と位相が位相差θ_rだけ異なる。分散アレーアンテナシステム1が搭載された移動体の移動及び動揺がない場合であり、且つ送信信号の周波数f_tと受信信号の周波数f_rとが同じ場合、以下の式(2)が成り立つ。
θ_t=θ_r ・・・(2)
以下では、位相差θ_tは、分散アレーアンテナシステム1が搭載された移動体の移動及び動揺がない場合における位相差であって、通信衛星6の受信端における第1送信信号と第2送信信号との位相差を表す。また、位相差θ_rは、分散アレーアンテナシステム1が搭載された移動体の移動及び動揺がない場合における位相差であって、第1アンテナ4−1の受信端における第1受信信号と第2アンテナ4−2の受信端における第2受信信号との位相差を表す。また、分散アレーアンテナシステム1が搭載された移動体の移動及び動揺がない場合であり、且つ送信信号の周波数f_tと受信信号の周波数f_rとが異なる場合、以下の式(3)及び式(4)に基づいて式(5)が成り立つ。
c=λ_tf_t=λ_rf_r ・・・(3)
K≡−f_t/f_r=−λ_r/λ_t ・・・(4)
θ_t=Kθ_r ・・・(5)
である。ここで、係数Kは、周波数比(又は波長比)であり、波長λ_tは、送信信号の波長であり、波長λ_rは、受信信号の波長であり、光速度cは、送信信号及び受信信号の伝搬速度である。
前述したようにこの一例では、f_t≠f_rであるため、位相差θ_tと位相差θ_rの関係は、上記の式(4)によって表される。ここで、実際には移動体は、移動及び動揺を起こすため、上記の式(5)は、以下に示した式(6)のように修正される。
θ’_t=K(θ’_r) ・・・(6)
なお、θ’_t=θ_t+Δθ_tであり、θ’_r=θ_r+Δθ_rである。すなわち、Δθ_tは、分散アレーアンテナ3から第1送信信号及び第2送信信号が送信されてから通信衛星6において受信されるまでの時間に移動体の移動又は動揺によって第1経路長と第2経路長が変化したことによる前述の位相差θ_tからの増減を表す。また、Δθ_rは、通信衛星6から受信信号が送信されてから分散アレーアンテナ3において受信されるまでの時間に、移動体の移動又は動揺によって第1経路長と第2経路長が変化したことによる前述の位相差θ_rからの増減を表す。これらの増減は、周波数の違いによる値の変化を除いて近似的に等しい、すなわちΔθ_t=KΔθ_rである。以下では、説明の便宜上、分散アレーアンテナ3から第1送信信号及び第2送信信号が送信されてから、分散アレーアンテナ3において折り返し信号である受信信号が受信されるまでの時間を受信遅延時間と称して説明する。
また、第1受信信号と第2受信信号は、それぞれが分散アレーアンテナ装置2内のハードウェアを伝搬することにより、それぞれが分散アレーアンテナ装置2に入力されてから図2に示した位相差算出部25に入力されるまでの間に位相が位相差θ_dだけ変化する。すなわち、位相差算出部25の入力端における第1受信信号と第2受信信号の位相差θ_2は、以下の式(7)のように表される。
θ_2=θ’_r+θ_d=θ_r+Δθ_r+θ_d ・・・(7)
以下では、上記の式(7)によって表される位相差θ_2を、第2位相差θ_2と称して説明する。第2位相差θ_2は、第1受信信号の受信時刻と、第2受信信号の受信時刻との差に基づいて算出することができる。これらの受信時刻の差に基づいた第2位相差θ_2の算出方法については、従来から知られた方法で算出することが可能であるため説明を省略する。
上記の式(7)に示した第2位相差θ_2と、上記の式(4)に示した係数Kとが算出された場合、以下の式(8)に示したように調整された調整後第2位相差θ_c2を用いて、第1位相差θ_1の一部を補償することができる。
θ_c2=K(θ_r+Δθ_r+θ_d) ・・・(8)
例えば、通信衛星6の受信端における第1位相差θ_1の一部は、分散アレーアンテナ3から送信される前の第1送信信号と第2送信信号との両方の位相を、当該第1送信信号と当該第2送信信号の位相差が上記の式(8)に示した調整後第2位相差θ_c2となるように移相することにより補償することができる。これを式で表したものが、以下に示した式(9)である。なお、分散アレーアンテナ3から送信される前の第1送信信号と第2送信信号とのいずれか一方の位相を、当該第1送信信号と当該第2送信信号の位相差が上記の式(8)に示した調整後第2位相差θ_c2となるように移相してもよい。
θ’_t+θ_u+K(θ’_r+θ_d)
=θ_t+Δθ_t+θ_u+Kθ_r+KΔθ_r+Kθ_d
=θ_u+Kθ_d ・・・(9)
上記の式(9)の残留位相差θ_u+Kθ_dは、分散アレーアンテナ3から送信される前の第2送信信号の位相を、第1受信信号の受信電力が最大となるように所定の位相値分だけ移相することを繰り返すことにより補償することができる。この位相補償の方法では、最新の第1受信信号の受信電力P_1と、最新の1つ前(すなわち、前回)の第1受信信号の受信電力P_2とを比較し、P_1>P_2ならば当該第2送信信号の位相を所定の位相値分だけ増加させ、P_1<P_2ならば当該第2送信信号の位相を所定の位相値分だけ減少させる。これを分散アレーアンテナ装置2が送信信号を通信衛星6へ送信する度に繰り返すことにより、上記の式(9)に示した第1位相差θ_1をゼロに近づけることができる。
以上のように、この一例では、位相補償を2つの方法を組み合わせることによって行う。ここで、このような2つの方法の組み合わせが必要な理由について説明する。例えば、上記の式(7)に示した位相差θ_2に含まれる位相差θ_r+Δθ_rは、移動体の動揺のうちのロールが8秒間に±30°、第1アンテナ4−1と第2アンテナ4−2の間の距離が1メートル、送信信号の周波数がKu帯の14ギガヘルツ、送信信号の波長が0.021メートル、第1アンテナ4−1及び第2アンテナ4−2の送信端から通信衛星6の受信端までの往復に掛かる時間が250ミリ秒であるとすると、約1748°となってしまう。位相差が360°を超えた場合、通信衛星6を経由した信号を用いて位相補償を行うことは困難であることが知られている。
そのため、上記の式(9)に示したように位相差θ_2を用いて位相差θ_1から位相差の一部を差し引くことにより、通信衛星6の受信端における第1送信信号と第2送信信号との位相差を残留位相差θ_u+Kθ_dにまで減少させる。この残留位相差θ_u+Kθ_dは、360°未満の値となるため、位相補償を行うことが可能である。
そこで、分散アレーアンテナ装置2は、前述したように分散アレーアンテナ3から送信される前の第2送信信号の位相を、第1受信信号の受信電力が最大となるように所定の位相値分だけ移相することを繰り返すことにより、残留位相差θ_u+Kθ_dを減少させる。
これらを換言すると、分散アレーアンテナ装置2は、上記の式(1)に示した第1位相差θ_1を、開ループ制御によって上記の式(9)に示した残留位相差θ_u+Kθ_dになるように補償し、残った残留位相差θ_u+Kθ_dを、第1受信信号の受信電力に基づく閉ループ制御によって補償する。分散アレーアンテナ装置2は、このような位相補償を、例えば、図3〜図6に示したフローチャートの処理によって実行する。
次に、図3を参照し、分散アレーアンテナ装置2が第1位相差θ_1の一部を補償するために第1送信信号の位相を移相し、移相した第1送信信号を第1アンテナ4−1から通信衛星6へ送信するまでの第1送信信号処理について説明する。図3は、分散アレーアンテナ装置2が行う第1送信信号処理の流れの一例を示す図である。なお、分散アレーアンテナ装置2は、ステップS100からステップS130までの処理を、第1送信信号が送信される度に繰り返す。
移相器262は、分散アレーアンテナ装置2が備える図示しない送信信号源となる素子から第1送信信号を取得する(ステップS100)。次に、移相器262は、取得した第1送信信号の位相を、第1移相器設定部261により設定された第1移相値の分だけ移相する(ステップS110)。そして、移相器262は、移相した第1送信信号を第1U/C部30に出力する。
次に、第1U/C部30は、移相器262から取得した第1送信信号をアップコンバートして、指定の送信周波数である14ギガヘルツまで周波数変調する(ステップS120)。そして、第1U/C部30は、周波数変調した第1送信信号をアナログ信号に変換する。第1U/C部30は、アナログ信号に変換した第1送信信号を第1OMT部21に出力する。次に、第1OMT部21は、第1U/C部30から第1送信信号を取得する。第1OMT部21は、取得した第1送信信号を垂直偏波成分と水平偏波成分に分離する。第1OMT部21は、分離した水平偏波成分を第1送信信号として第1アンテナ4−1に出力して通信衛星6に送信させる(ステップS130)。
次に、図4を参照し、分散アレーアンテナ装置2が第1位相差θ_1の一部を補償するために第2送信信号の位相を移相し、移相した第2送信信号を第2アンテナ4−2から通信衛星6へ送信するまでの第2送信信号処理について説明する。図4は、分散アレーアンテナ装置2が行う第2送信信号処理の流れの一例を示す図である。なお、分散アレーアンテナ装置2は、ステップS200からステップS240までの処理を、第2送信信号が送信される度に繰り返す。
移相器263は、分散アレーアンテナ装置2が備える図示しない送信信号源となる素子から第2送信信号を取得する(ステップS200)。次に、移相器263は、取得した第2送信信号の位相を、第1移相器設定部261により設定された第2移相値の分だけ移相する(ステップS210)。そして、移相器263は、位相を変化させた第2送信信号を移相器273に出力する。
次に、移相器273は、移相器263から取得した第2送信信号の位相を、第2移相器設定部272により設定された所定の位相値の分だけ移相する(ステップS220)。そして、移相器273は、移相した第2送信信号を第2U/C部31に出力する。次に、第2U/C部31は、移相器273から取得した第2送信信号をアップコンバートして、指定の送信周波数である14ギガヘルツまで周波数変調する(ステップS230)。そして、第2U/C部31は、周波数変調した第2送信信号をアナログ信号に変換する。第2U/C部31は、アナログ信号に変換した第2送信信号を第2OMT部22に出力する。次に、第2OMT部22は、第2U/C部31から取得した第2送信信号を垂直偏波成分と水平偏波成分に分離する。第2OMT部22は、分離した水平偏波成分を第2送信信号として第2アンテナ4−2に出力して通信衛星6に送信させる(ステップS240)。
以上のような第1送信信号処理と第2送信信号処理を繰り返すことによって、分散アレーアンテナ装置2は、通信衛星6の受信端における第1位相差θ_1を補償する。
次に、図5を参照し、分散アレーアンテナ装置2が第2位相差θ_2を算出し、移相器262に第1移相値を設定し、移相器263に第2移相値を設定するまでの移相値設定処理について説明する。図5は、分散アレーアンテナ装置2が行う移相値設定処理の流れの一例を示す図である。
なお、図5では、第1アンテナ4−1により受信された第1受信信号が第1OMT部21、第1D/C部23を順に介して位相差算出部25に入力され、更に第2アンテナ4−2により受信された第2受信信号が第2OMT部22、第2D/C部24を順に介して位相差算出部25に入力された後の処理について説明する。また、ステップS300からステップS330までの処理は、分散アレーアンテナ装置2による通信において1回だけ行う構成であってもよく、分散アレーアンテナ装置2による通信において所定の時間が経過する毎に行う構成であってもよく、分散アレーアンテナ3により受信信号が受信される度に行う構成であってもよい。図5に示したフローチャートの処理は、前述の開ループ制御に相当する。
位相差算出部25は、第1D/C部23から取得した第1受信信号の受信時刻と、第2D/C部24から取得した第2受信信号の受信時刻とに基づいて、第2位相差θ_2を算出する(ステップS300)。位相差算出部25は、例えば、第1アンテナ4−1及び第2アンテナ4−2が図示しない受信時刻検出部を備えており、当該受信時刻検出部から第1受信信号の受信時刻及び第2受信信号の受信時刻を示す情報を取得する。位相差算出部25は、取得したこれらの受信時刻に基づいて、第2位相差θ_2を算出する。そして、位相差算出部25は、算出した第2位相差θ_2を示す情報を第1移相器設定部261に出力する。
次に、第1移相器設定部261は、位相差算出部25から取得した第2位相差θ_2を示す情報が示す第2位相差θ_2の50%の値を第1移相値として移相器262に設定する。また、第1移相器設定部261は、第2位相差から当該第1移相値を差し引いた残りの第2移相値を移相器263に設定する(ステップS320)。
次に、図6を参照し、分散アレーアンテナ装置2が第1受信信号の受信電力を算出し、移相器273に所定の位相値を設定するまでの位相値設定処理について説明する。図6は、分散アレーアンテナ装置2が行う位相値設定処理の流れの一例を示す図である。なお、図6では、第1アンテナ4−1により受信された第1受信信号が第1OMT部21、第1D/C部23を順に介して受信電力処理部271に入力された後の処理について説明する。また、分散アレーアンテナ装置2は、ステップS400からステップS430までの処理を、第1受信信号が受信される度に繰り返し行う。図6に示したフローチャートの処理は、前述の閉ループ制御に相当する。
受信電力処理部271は、第1D/C部23から受信した第1受信信号の受信電力を検出する(ステップSl400)。受信電力処理部271は、検出した受信電力を示す情報を、例えば、現在の時刻を示す情報のように第1受信信号の受信した順序を表すことが可能な情報とともに図示しない記憶部に記憶させる(ステップS410)。そして、受信電力処理部271は、検出した受信電力を示す情報を第2移相器設定部272に出力する。
次に、第2移相器設定部272は、受信電力処理部271から受信電力を示す情報を取得すると、図示しない記憶部に記憶された最新の受信電力の1つ前(すなわち、前回)に記憶された受信電力を示す情報を読み出す。第2移相器設定部272は、受信電力処理部271から取得した最新の受信電力が、図示しない記憶部から読み出した前回の受信電力より大きいか否かの判定を行う。そして、第2移相器設定部272は、当該判定の結果に応じて、移相器273に設定する所定の位相値の符号をプラスまたはマイナスのいずれかに決定する(ステップS420)。
ここで、ステップS420の処理について説明する。第1受信信号の受信電力は、第2位相差による干渉が大きければ大きいほど小さくなる。また、第1受信信号の受信電力は、第2位相差による干渉が小さければ小さいほど大きくなる。そして、第1受信信号の受信電力は、第2位相差がゼロの場合、最大になる。すなわち、最新の受信電力が前回の受信電力よりも大きい場合、移相器273による第2送信信号の位相を進めることによって第2位相差による干渉が小さくなったと考えられるため、第2送信信号の位相を更に進めるために所定の位相値の符号をプラスに決定する。一方、最新の受信電力が前回の受信電力よりも小さい場合、移相器273による第2送信信号の位相を進めることによって第2位相差による干渉が大きくなったと考えられるため、第2送信信号の位相を遅らせるために所定の位相値の符号をマイナスに決定する。
次に、第2移相器設定部272は、予め記憶された所定の位相値の絶対値を読み出す。そして、第2移相器設定部272は、ステップS420において決定した符号の所定の位相値を移相器273に設定する(ステップS430)。ここで、ステップS430の処理について説明する。第2移相器設定部272は、ステップS420において符号がプラスと決定された場合、+1を読み出した所定の位相値の絶対値に乗じる。そして、第2移相器設定部272は、+1が乗じられることにより正の値となった所定の位相値を移相器273に設定する。一方、第2移相器設定部272は、ステップS420において符号がマイナスと決定された場合、−1を読み出した所定の位相値の絶対値に乗じる。そして、第2移相器設定部272は、−1が乗じられることにより正の値となった所定の位相値を移相器273に設定する。
以上説明したように、第1実施形態における分散アレーアンテナシステム1は、分散アレーアンテナ3に含まれる第1アンテナ4−1から送信される前の第1送信信号の位相と、分散アレーアンテナ3に含まれる第2アンテナ4−2から送信される前の第2送信信号の位相とのうちいずれか一方又は両方を、第1アンテナ4−1によって受信された第1受信信号と、第2アンテナ4−2によって受信された第2受信信号との位相差に基づいて移相し、第1受信信号又は前記第2受信信号の受信電力に基づいて、第1送信信号又は第2送信信号の位相を移相する。
これにより、分散アレーアンテナシステム1は、分散アレーアンテナ3から送信する複数の送信信号間の通信衛星6の受信端における位相差を取り除く位相補償を精度よく行うことができる。その結果、分散アレーアンテナシステム1、又は分散アレーアンテナ装置2は、分散アレーアンテナ3から送信する複数の送信信号を同相状態にすることができ、当該送信信号間の干渉による伝搬損失を抑制することができる。
なお、分散アレーアンテナシステム1では、分散アレーアンテナ装置2が分散アレーアンテナ3から通信衛星6を介して他の通信装置7の送信信号を送信する構成に代えて、分散アレーアンテナ装置2が通信衛星6を介さずに他の通信装置7へ送信信号を送信する構成であってもよい。この場合、他の通信装置7は、分散アレーアンテナ装置2から送信信号を受信したことを示す信号を分散アレーアンテナ装置2に送信する構成であってもよく、所定の周期でパイロット信号やビーコン等の信号を分散アレーアンテナ装置2に送信する構成であってもよい。これらの構成により、分散アレーアンテナ装置2は、上記で説明したように送信信号間の干渉による伝搬損失を抑制することができる。
<第1実施形態の変形例>
以下、本発明の第1実施形態の変形例に係る分散アレーアンテナ装置2aについて、図面を参照して説明する。図7は、第1実施形態の変形例に係る分散アレーアンテナ装置2aの構成の一例を示す図である。なお、第1実施形態の変形例では、第1実施形態と同様な校正部には同じ符号を付して説明を省略する。
分散アレーアンテナ装置2aは、第1実施形態とは異なる方法によって、分散アレーアンテナ3から送信される前の第1送信信号と第2送信信号との両方の位相を移相する。この一例において、分散アレーアンテナ装置2aは、上記の式(8)に示した第2位相差θ_c2から、第1送信信号の受信時刻と、第2送信信号の受信時刻との時間差である受信遅延時間に応じた位相である遅延時間移相を減ずる。そして、分散アレーアンテナ装置2aは、分散アレーアンテナ3から送信される前の第1送信信号と第2送信信号との両方の位相を、当該第1送信信号と当該第2送信信号の位相差が以下の式(10)に示した第2位相差θ_s2となるように移相することにより第1位相差θ_1の一部を補償することができる。
θ_s2=K(θ_r+Δθ_r+θ_d)−2πf_rNT_s ・・・(10)
ここで、πは、円周率である。また、NT_sは、受信遅延時間であり、T_sは、第1受信信号及び第2受信信号の受信時刻のサンプリング周期である。Nは、サンプリング周期に乗じると受信遅延時間となる整数である。上記の式(10)の右辺第3項は、受信遅延時間に応じた位相差を表している。
分散アレーアンテナ装置2aは、上記の式(10)が示す第2位相差θ_s2の所定の割合分の値を第1移相値として移相器262に設定する。また、分散アレーアンテナ装置2aは、当該第2位相差から当該第1移相値を差し引いた残りを第2移相値として移相器263に設定する。
しかし、このままでは、第1送信信号が移相された量と、第2送信信号の移相された量との合計が、上記の式(8)に示した第2位相差θ_c2と一致しないため、第1実施形態と同様の結果を得ることができない。そこで、分散アレーアンテナ装置2aは、第1送信信号と第2送信信号を遅延させる。この際、分散アレーアンテナ装置2aは、第1送信信号を遅延させる時間と、第2送信信号を遅延させる時間との合計が前述の受信遅延時間となるように、第1送信信号及び第2送信信号を遅延させる。これにより、通信衛星6の受信端における第1送信信号と第2送信信号の位相差は、第1実施形態に係る分散アレーアンテナシステム1の場合と同様になる。その結果、分散アレーアンテナ装置2aは、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
以下、分散アレーアンテナ装置2aの各構成について説明する。
分散アレーアンテナ装置2aは、第1OMT部21と、第2OMT部22と、第1D/C部23と、第2D/C部24と、第1移相部26aと、第2移相部27と、第1U/C部30と、第2U/C部31と、算出部32を備える。
第1移相部26aは、第1移相器設定部261と、移相器262と、移相器263と、遅延処理部264を備える。
遅延処理部264は、後述する算出部32から第1遅延時間を示す情報と、第2遅延時間を示す情報とを取得する。また、遅延処理部264は、分散アレーアンテナ装置2が備える図示しない送信信号源となる素子から第1送信信号を取得する。遅延処理部264は、取得した第1遅延時間を示す情報に基づいて、取得した第1送信信号を第1遅延時間の分だけ遅延させる。また、遅延処理部264は、分散アレーアンテナ装置2が備える図示しない送信信号源となる素子から第2送信信号を取得する。遅延処理部264は、取得した第2遅延時間を示す情報に基づいて、取得した第2送信信号を第2遅延時間の分だけ遅延させる。
算出部32は、位相差算出部25aと、時間差算出部321を備える。算出部32は、第1D/C部23から第1受信信号を取得し、第2D/C部24から第2受信信号を取得する。
位相差算出部25aは、第1D/C部23から取得した第1受信信号の位相と、第2D/C部24から取得した第2受信信号の位相との差を、第2位相差として算出する。位相差算出部25aは、算出した第2位相差に対して、分散アレーアンテナ3から送信される送信信号の波長と、分散アレーアンテナ3により受信される受信信号の波長との波長比を乗算することにより、第2位相差を調整する。位相差算出部25は、調整した第2位相差から、後述する時間差算出部321が算出した受信遅延時間に応じた位相差を減ずる。位相差算出部25aは、当該位相差を減じた第2位相差を示す第2位相差情報を第1移相器設定部261に出力する。
時間差算出部321は、第1D/C部23から取得した第1受信信号の受信時刻と、第2D/C部24から取得した第2受信信号の受信時刻とに基づいて、これらの受信時刻の差である受信遅延時間を算出する。時間差算出部321は、算出した受信遅延時間のうちの所定の割合分を第1遅延時間とし、受信遅延時間から当該第1遅延時間を差し引いた時間を第2遅延時間として算出する。時間差算出部321は、算出した第1遅延時間を示す情報と、第2遅延時間を示す情報とを遅延処理部264に出力する。
次に、図8を参照し、分散アレーアンテナ装置2aが第1位相差θ_1の一部を補償するために第1送信信号を遅延させ、移相した第1送信信号を第1アンテナ4−1から通信衛星6へ送信するまでの第1送信信号処理について説明する。図8は、分散アレーアンテナ装置2aが行う第1送信信号処理の流れの一例を示す図である。なお、図8に示したステップS110からステップS130までの処理については、図3に示したステップS110からステップS130までの処理と同様な処理であるため説明を省略する。また、図8では、遅延処理部264が時間差算出部321から第1遅延時間を示す情報をすでに取得した後の処理について説明する。また、分散アレーアンテナ装置2aは、ステップS103からステップS130までの処理を、第1送信信号が送信される度に繰り返す。
遅延処理部264は、分散アレーアンテナ装置2が備える図示しない送信信号源となる素子から第1送信信号を取得する(ステップS103)。次に、遅延処理部264は、第1送信信号を遅延させる(ステップS105)。ここで、ステップS105の処理について説明する。遅延処理部264は、時間差算出部321から取得した第1遅延時間を示す情報に基づいて、取得した第1送信信号を第1遅延時間の分だけ遅延させる。そして、遅延処理部264は、遅延させた第1送信信号を移相器262に出力する。
次に、図9を参照し、分散アレーアンテナ装置2aが第1位相差θ_1の一部を補償するために第2送信信号を遅延させ、移相した第2送信信号を第2アンテナ4−2から通信衛星6へ送信するまでの第2送信信号処理について説明する。図9は、分散アレーアンテナ装置2aが行う第2送信信号処理の流れの一例を示す図である。なお、図9に示したステップS210からステップS240までの処理については、図4に示したステップS110からステップS140までの処理と同様な処理であるため説明を省略する。また、図9では、遅延処理部264が時間差算出部321から第2遅延時間を示す情報をすでに取得した後の処理について説明する。また、分散アレーアンテナ装置2aは、ステップS203からステップS140までの処理を、第2送信信号が送信される度に繰り返す。
遅延処理部264は、分散アレーアンテナ装置2が備える図示しない送信信号源となる素子から第2送信信号を取得する(ステップS203)。次に、遅延処理部264は、第2送信信号を遅延させる(ステップS205)。ここで、ステップS205の処理について説明する。遅延処理部264は、時間差算出部321から取得した第2遅延時間を示す情報に基づいて、取得した第2送信信号を第2遅延時間の分だけ遅延させる。そして、遅延処理部264は、遅延させた第2送信信号を移相器262に出力する。
以上のような第1送信信号処理と第2送信信号処理を繰り返すことによって、分散アレーアンテナ装置2aは、通信衛星6の受信端における第1位相差θ_1を補償する。
次に、図10を参照し、分散アレーアンテナ装置2aが第2位相差θ_2を算出し、移相器262に第1移相値を設定し、移相器263に第2移相値を設定するまでの移相値設定処理について説明する。図10は、分散アレーアンテナ装置2aが行う移相値設定処理の流れの一例を示す図である。
なお、図10では、第1アンテナ4−1により受信された第1受信信号が第1OMT部21、第1D/C部23を順に介して算出部32に入力され、更に第2アンテナ4−2により受信された第2受信信号が第2OMT部22、第2D/C部24を順に介して算出部32に入力された後の処理について説明する。また、図10に示したステップS320の処理については、図5に示したステップS320の処理と同様な処理であるため説明を省略する。また、ステップS300からステップS560までの処理は、分散アレーアンテナ装置2aによる通信において1回だけ行う構成であってもよく、分散アレーアンテナ装置2aによる通信において所定の時間が経過する毎に行う構成であってもよく、分散アレーアンテナ3により受信信号が受信される度に行う構成であってもよい。図10に示したフローチャートの処理は、前述の開ループ制御に相当する。
位相差算出部25aは、第1D/C部23から取得した第1受信信号の位相と、第2D/C部24から取得した第2受信信号の位相との差を、第2位相差として算出する(ステップS500)。そして、位相差算出部25aは、算出した第2位相差に対して、分散アレーアンテナ3から送信される送信信号の波長と、分散アレーアンテナ3により受信される受信信号の波長との波長比を乗算することにより、第2位相差を調整する。
次に、時間差算出部321は、第1D/C部23から取得した第1受信信号の受信時刻と、第2D/C部24から取得した第2受信信号の受信時刻とに基づいて、これらの受信時刻の差である受信遅延時間を算出する(ステップS510)。そして、時間差算出部321は、算出した受信遅延時間のうちの所定の割合分を第1遅延時間とし、受信遅延時間から当該第1遅延時間を差し引いた時間を第2遅延時間として算出する。時間差算出部321は、算出した第1遅延時間を示す情報と、第2遅延時間を示す情報とを遅延処理部264に出力する。なお、時間差算出部321は、例えば、第1アンテナ4−1及び第2アンテナ4−2が図示しない受信時刻検出部を備えており、当該受信時刻検出部から第1受信信号の受信時刻及び第2受信信号の受信時刻を示す情報を取得する。
次に、位相差算出部25aは、上記の式(10)の右辺第3項に基づいて、時間差算出部321が算出した受信遅延時間に応じた位相を遅延時間位相として算出する(ステップS530)。次に、位相差算出部25aは、ステップS530において算出した遅延時間移相を、ステップS500において算出した第2位相差θ_c2から減じた第2位相差θ_s2を算出する(ステップS540)。そして、位相差算出部25aは、算出した第2位相差θ_s2を示す情報を第1移相器設定部261に出力する。
次に、第1移相器設定部261は、位相差算出部25から取得した第2位相差θ_s2の所定の割合分の値である第1移相値を移相器262に設定する。また、第1移相器設定部261は、第2位相差θ_s2から当該第1移相値を差し引いた残りの第2移相値を移相器263に設定する(ステップS550)。次に、遅延処理部264は、ステップS510において時間差算出部321から取得した第1遅延時間を示す情報に基づいて、第1送信信号を遅延させる時間を第1遅延時間に設定する。また、遅延処理部264は、ステップS510において時間差算出部321から取得した第2遅延時間を示す情報に基づいて、第2送信信号を遅延させる時間を第2遅延時間に設定する(ステップS560)。
以上説明したように、第1実施形態の変形例における分散アレーアンテナ装置2aは、時間差算出部321が算出した受信遅延時間と、位相差算出部25aが算出した第2位相差θ_s2とに基づいて、第1送信信号の位相と、第2送信信号の位相とのうちいずれか一方又は両方を移相する。これにより、分散アレーアンテナ装置2aは、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態に係る分散アレーアンテナ装置2bについて、図面を参照して説明する。図11は、第2実施形態に係る分散アレーアンテナ装置2bの構成の一例を示す図である。なお、第2実施形態では、第1実施形態と同様な校正部には同じ符号を付して説明を省略する。
分散アレーアンテナ装置2bは、第1実施形態及び第1実施形態の変形例と異なり、第2位相差θ_c2を、第1アンテナ4−1の姿勢と、第2アンテナ4−2の姿勢とに基づいて算出する。
以下、分散アレーアンテナ装置2bの各構成について説明する。
分散アレーアンテナ装置2bは、第1OMT部21と、第2OMT部22と、第1D/C部23と、第2D/C部24と、位相差算出部25bと、第1移相部26と、第2移相部27と、第1U/C部30と、第2U/C部31と、姿勢検出部33を備える。
位相差算出部25bは、後述する姿勢検出部33から取得した第1アンテナ4−1の姿勢を示す情報と、第2アンテナ4−2の姿勢を示す情報とに基づいて、上記の式(8)が示す第2位相差θ_c2を算出する。位相差算出部25bは、算出した第2位相差θ_c2を示す情報を第1移相器設定部261に出力する。
姿勢検出部33は、第1アンテナ4−1の姿勢と、第2アンテナ4−2の姿勢とのうちの少なくとも一方の姿勢が変化した場合、第1アンテナ4−1の姿勢及び第2アンテナ4−2の姿勢をそれぞれ検出するセンサーである。姿勢検出部33は、追尾アンテナである第1アンテナ4−1及び第2アンテナ4−2のそれぞれが算出する指向方向情報を用いて、第1アンテナ4−1の姿勢と、第2アンテナ4−2の姿勢とを検出する。姿勢検出部33は、検出した第1アンテナ4−1の姿勢を示す情報を位相差算出部25bに出力する。また、姿勢検出部33は、検出した第2アンテナ4−2の姿勢を示す情報を位相差算出部25bに出力する。
次に、図12を参照し、分散アレーアンテナ装置2bが第1アンテナ4−1の姿勢及び第2アンテナ4−2の姿勢を検出してから、移相器262に第1移相値を設定し、移相器263に第2移相値を設定するまでの移相値設定処理について説明する。図12は、分散アレーアンテナ装置2bが行う移相値設定処理の流れの一例を示す図である。
なお、図12では、また、図12に示したステップS320の処理については、図5に示したステップS320の処理と同様な処理であるため説明を省略する。また、ステップS600からステップS320までの処理は、第1アンテナ4−1と第2アンテナ4−2の少なくとも一方の姿勢が変化する度に行う。図12に示したフローチャートの処理は、前述の開ループ制御に相当する。
姿勢検出部33は、第1アンテナ4−1の姿勢と第2アンテナ4−2の姿勢のうちいずれか一方又は両方の姿勢が変化するまで待機する(ステップS600)。第1アンテナ4−1の姿勢と第2アンテナ4−2の姿勢のうちいずれか一方又は両方の姿勢が変化した場合(ステップS600−Yes)、姿勢検出部33は、第1アンテナ4−1の姿勢及び第2アンテナ4−2の姿勢を検出する(ステップS610)。そして、姿勢検出部33は、検出した第1アンテナ4−1の姿勢を示す情報と、第2アンテナ4−2の姿勢を示す情報とを位相差算出部25bに出力する。
位相差算出部25bは、姿勢検出部33から取得した第1アンテナ4−1の姿勢を示す情報と、第2アンテナ4−2の姿勢を示す情報とに基づいて、第1実施形態において説明した第1経路長と第2経路長との差である経路長差を算出する(ステップS620)。ここで、ステップS620の処理について説明する。
例えば、移動体の動揺の発生により、第1アンテナ4−1と第2アンテナ4−2の両方の姿勢が同様の角度だけ変化した場合について説明する。第1アンテナ4−1と第2アンテナ4−2の間の距離をdメートルとし、姿勢が変化する前の第1アンテナ4−1の姿勢をφ、当該姿勢から姿勢が変化した後の第1アンテナ4−1の姿勢の変化分をΔφとすると、第1アンテナ4−1の姿勢が変化する前の第1経路長D_1と、第1アンテナ4−1の姿勢が変化した後の第1経路長D’_1は、以下に示す式(11)及び式(12)により算出することができる。
D_1=dsin(φ) ・・・(11)
D’_1=dsin(φ+Δφ) ・・・(12)
ここで、sinφは、位相がφの正弦関数であり、sin(φ+Δφ)は、位相がφ+Δφの正弦関数である。従って、第1経路長の変化分は、以下に示す式(13)に示したように、第1経路長Dと第1経路長D’との差である第1経路長差ΔD_1として算出することができる。
ΔD_1=D_1−D’_1
=d{sin(φ)cos(Δφ)+sin(Δφ)cos(φ)}−dsin(φ) ・・・(13)
ここで、Δφ<<1の場合、経路長差ΔD_1は、以下に示す式(14)のように近似することができる。
ΔD_1≒Δφ ・・・(14)
なお、上記の式(12)〜式(14)に基づいて、第2アンテナ4−2の姿勢が変化する前の第2経路長D_2と、第2アンテナ4−2の姿勢が変化した後の第2経路長D’_2との差である第2経路長差ΔD_2も、同様の方法で算出することができるため、第2アンテナ4−2については、説明を省略する。
従って、位相差算出部25bは、移動体の移動及び動揺がない場合の第1経路長と第2経路長と、上記の第1経路長差ΔD_1と、第2経路長差ΔD_2とに基づいて、第1アンテナ4−1の姿勢及び第2アンテナ4−2の姿勢が変化した後の第1経路長と第2経路長との間の経路長差を算出することができる。
ステップS620において第1経路長と第2経路長との間の経路長差を算出した後、位相差算出部25bは、当該経路長差に基づいて、第2位相差を算出する(ステップS630)。ここで、ステップS630の処理について説明する。分散アレーアンテナ装置2bでは、分散アレーアンテナ装置2b内のハードウェアを伝搬する第1受信信号及び第2受信信号に基づいて第1経路長と第2経路長との間の経路長差を算出するわけではない。このため、位相差算出部25bが算出する第2位相差には、位相差θ_dが含まれない。すなわち、ステップS630において算出される第2位相差θ_2は、第1経路長と第2経路長との間の経路長差に基づく位相差θ_rのみとなるため、以下に示した式(15)のようになる。
θ_2=θ_r ・・・(15)
位相差算出部25bは、前述の周波数比Kによって上記の式(15)が示す第2位相差θ_2を以下に示した式(16)のように調整し、第2位相差θ_c2を算出する。
θ_c2=−Kθ_r ・・・(16)
この場合、分散アレーアンテナ装置2bは、分散アレーアンテナ3から送信される前の第1送信信号と第2送信信号との両方の位相を、当該第1送信信号と当該第2送信信号の位相差が上記の式(16)に示した調整後第2位相差θ_c2となるように移相することにより、通信衛星6の受信端における第1位相差θ_1の一部を補償することができる。これを式で表したものが、以下に示した式(17)である。なお、分散アレーアンテナ3から送信される前の第1送信信号と第2送信信号とのいずれか一方の位相を、当該第1送信信号と当該第2送信信号の位相差が上記の式(17)に示した調整後第2位相差θ_c2となるように移相してもよい。
θ_1=θ_t+θ_u+Kθ_r=θ_u ・・・(17)
位相差算出部25bは、以上のように算出した第2位相差θ_c2を示す情報を、第1移相器設定部261に出力する。これにより、第1移相器設定部261は、ステップS320において移相器262に第1移相値を設定することができ、移相器263に第2移相値を設定することができる。
以上説明したように、第2実施形態における分散アレーアンテナ装置2bは、第1アンテナ4−1の姿勢と、第2アンテナ4−2の姿勢とを検出し、検出した第1アンテナ4−1の姿勢及び第2アンテナ4−2の姿勢に基づいて第2位相差θ_c2を算出する。これにより、分散アレーアンテナ装置2bは、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
上述した実施形態における分散アレーアンテナ装置2をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。