本発明に係る操舵系電子制御装置は、車両の複数の操舵系システム(電動パワーステアリング、舵角比可変機構等)のうち、少なくとも2つの操舵系システムのアクチュエータを管理(駆動、制御)する。ここで、アクチュエータとは、油圧や電動モータ等によりエネルギーを並進または回転運動に変換する駆動装置のことをいう。
本装置は、本装置が管理するアクチュエータを制御する制御部をアクチュエータ毎に有し、全ての制御部を制御統合部に統合している。また、本装置は、本装置が管理するアクチュエータ全てを駆動する駆動部も有し、制御統合部と駆動部とは分離されている。さらに、同じ構成の制御統合部又は同じ構成の駆動部を複数有し、制御統合部及び駆動部を共に複数有することもある。複数の制御統合部を有する場合、各制御統合部が正常時に制御するアクチュエータは決められており、複数の駆動部を有する場合、各駆動部が正常時に駆動するアクチュエータも決められている。異常が発生し、制御統合部又は駆動部が決められたアクチュエータを管理できない時に、他の制御統合部又は駆動部がそのアクチュエータの管理も実施する。
図1は本発明の機構例を示す一部機構図である。図1に示される操舵系電子制御装置は、電動パワーステアリング(EPS)及び舵角比可変機構の各アクチュエータを管理し、制御統合部を1つ、駆動部を2つ有している。正常時、駆動部21が電動パワーステアリングに搭載されているアクチュエータ(EPS用アクチュエータ)を駆動し、駆動部22が舵角比可変機構に搭載されているアクチュエータ(舵角比可変用アクチュエータ)を駆動する。駆動部とアクチュエータは駆動経路にて接続され、制御統合部と駆動部は伝送経路にて接続される。そして、図1に示されるように、駆動部は、正常時に駆動するアクチュエータには直接又はバスバー等で近接接続され、他のアクチュエータとはワイヤーハーネス(複数の駆動経路を束にして集合部品としたもの)等で接続される。また、図1には示されていないが、パワーモジュールはアクチュエータと一体化されている。制御統合部はアクチュエータを制御するための制御指令値を算出し、伝送経路を介して駆動部に出力する。駆動部は駆動経路を介して制御指令値をアクチュエータに出力し、アクチュエータを駆動する。なお、伝送経路は有線に限らず無線でも良く、有線として光ファイバ等を使用しても良く、伝送媒体は限定されない。
本発明に係る操舵系電子制御装置が有する制御統合部と駆動部はメッシュ型トポロジの伝送経路で接続され、駆動部とアクチュエータは網構成の駆動経路で接続される。メッシュ型トポロジとは、ネットワークの接続形態の一種で、それぞれのノード(機器、装置等)を網の目(メッシュ)状に接続する形態を指し、各ノードがそれぞれ他の全てのノードに接続されているフルメッシュ型と、一部のノードには接続されていない部分メッシュ型の2つの型がある。本装置ではどちらの型も取り得、フルメッシュ型の場合、制御統合部同士の接続は主に相互監視用として使用される。相互監視は、例えば、ネットワークの監視機能であるキープアライブ(keep arrive)、ヘルスチェック(health check)、ウォッチドッグ(watchdog)等のように、所定の周期で信号を相互に送信し、その信号を取りこぼすことなく、正常に受信したことを確認することで実施される。正常に受信したかの確認は、送信する信号の値を予め決めておき、その値と受信した信号の値を比較することで行われる。或いは、チャレンジ&レスポンス認証のように、受信した信号に所定の演算(アルゴリズム)を実施し、送信元でも同じ演算を実施し、双方の演算結果を比較することで行っても良い。駆動経路の接続で使用する網構成では、アクチュエータ同士の接続はないが、駆動部同士は接続しても良く、駆動部同士の接続も主に相互監視用として使用される。相互監視は、制御統合部同士の接続と同様の方法で実施されるが、チャレンジ&レスポンス認証のような処理量が多い方法は実施しない。また、本装置の動作のために使用される基準クロックが正常であるかを駆動部同士の接続で確認する。例えば、駆動部同士の接続においてクロック同期式シリアル通信を実施し、同期外れが起きないことを確認する。
図2は本発明の概要例を示すブロック図である。図2に示される操舵系電子制御装置は、EPS用アクチュエータ及び舵角比可変用アクチュエータを管理し、制御統合部を2つ、駆動部を2つ有している。正常時、EPS用アクチュエータ31は駆動部21により駆動され、制御統合部11により制御され、舵角比可変用アクチュエータ32は駆動部22により駆動され、制御統合部12により制御される。即ち、正常時は、制御統合部11→駆動部21→EPS用アクチュエータ31という経路でEPS用アクチュエータ31は管理され、制御統合部12→駆動部22→舵角比可変用アクチュエータ32という経路で舵角比可変用アクチュエータ32は管理される。そして、伝送経路等に異常が発生し、駆動部に入力される制御指令値が異常な値であると駆動部が判定した時、正常時の経路以外の経路を使用してEPS用アクチュエータ31又は舵角比可変用アクチュエータ32は管理される。例えば、制御統合部11が出力した制御指令値が異常な値であると駆動部21が判定した場合、EPS用アクチュエータ31を管理する他の経路としては、(a)制御統合部11→駆動部22→EPS用アクチュエータ31、(b)制御統合部12→駆動部21→EPS用アクチュエータ31、(c)制御統合部12→駆動部22→EPS用アクチュエータ31の3つがあり、この中から1つの経路を選択してEPS用アクチュエータ31を管理することになる。経路の選択は制御指令値の判定結果と予め設定される優先順位を基に行われる。即ち、3つの経路のうち、駆動部21及び駆動部22に入力された制御指令値が異常な値であると判定された経路は使用しない。例えば、駆動部22が制御統合部11から入力した制御指令値が異常な値であると判定したら、(a)の経路は使用しない。そして、正常な値と判定された制御指令値が複数ある場合は、使用する経路の優先順位を予め設定しておき、その優先順位に従って使用する経路を選択する。例えば、正常時に使用する制御統合部を優先的に使用し、その次は正常時に使用する駆動部を優先的に使用するということで優先順位を設定すると、EPS用アクチュエータ31の管理では、正常時の経路が最も優先順位が高く、その他の経路の優先順位は(a)、(b)、(c)の順となるので、この優先順位に従って使用する経路を選択する。
制御統合部と駆動部との間での制御指令値(制御指令値信号)の入出力では、OSI参照モデルの第3層(ネットワーク層)までの処理が行われる。つまり、制御統合部は、算出した制御指令値に対して、OSI参照モデルの第1層(物理層)、第2層(データリンク層)及び第3層(ネットワーク層)それぞれで定義された処理に従って情報を追加(多重化)し、伝送経路を介して駆動部に出力する。駆動部は、多重化された信号から制御指令値を抽出(分離化)する。制御指令値に追加される情報の中には、各層が判断した正常・異常の情報が含まれている。この正常・異常の情報を基に、制御指令値が正常な値か異常な値かの判定を駆動部が行う。なお、使用するOSI参照モデルの層は第3層までに限られず、第4層(トランスポート層)から第6層(プレゼンテーション層)までの処理を実施しても良い。第4層及び第5層(セッション層)までの処理を実施した場合、伝送経路の障害検出やエラー訂正・再送等の実施が可能となる。また、第3層以下をハードウェアで処理することにより処理の高速化を図ることができ、第6層までハードウェアで実現すれば、さらなる処理の高速化を図ることができる。
図2に示されるように、伝送経路はCAN(Controller Area Network)、LIN(Local Interconnect Network)、FlexRay等の車載通信バスとは別の独立した経路となっている。但し、伝送経路を介して伝送される制御指令値が全て異常な値であると判定された場合は、車載通信バスを使用して制御指令値を伝送する。そのために、制御統合部及び駆動部は車載通信バスに接続されている。
図2に示される操舵系電子制御装置では、制御統合部及び駆動部は共に2つずつであるが、制御統合部及び駆動部の数はこの組合せに限られず、制御統合部及び駆動部が共に1つという組合せ以外の組合せであれば、任意の組合せが可能である。例えば、図1に示される操舵系電子制御装置と同じ構成となる制御統合部が1つで駆動部が2つである操舵系電子制御装置の概要例を図3に示す。本装置においては、制御統合部13がEPS用アクチュエータ31及び舵角比可変用アクチュエータ32両方の制御を行う。そして、正常時、駆動部23がEPS用アクチュエータ31を駆動し、駆動部24が舵角比可変用アクチュエータ32を駆動する。伝送経路等に異常が発生し、制御指令値が異常な値であると駆動部が判定した時は、異常な値と判定した駆動部とは違うもう一方の駆動部がEPS用アクチュエータ31及び舵角比可変用アクチュエータ32を駆動することになる。
これにより、駆動部と制御統合部はそれぞれお互いの発熱等の影響を受けないようにすることができ、制御統合部から駆動部に信号を伝送する際に特定の経路で異常を検知しても別の経路に切り替え、正常にアクチュエータを駆動・制御し続けることができる。
なお、図2及び図3には示されていないが、駆動経路又は駆動部に半導体リレー等の継電器を設け、アクチュエータ又は駆動経路に異常が発生した場合、異常が発生したアクチュエータに接続している駆動経路又は異常が発生した駆動経路に継電器を用いて信号を流さないようにして、正常な別の駆動経路の信号を使用するようにすることもできる。また、制御統合部同士及び駆動部同士の相互監視を相互接続により実施するのではなく、制御統合部及び駆動部の監視を纏めて実施する中央監視部を設ける構成としても良い。これにより、制御統合部及び駆動部の処理負担を軽減することができる。
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図4は本発明の構成例(第1実施形態)を示すブロック図で、図2に示される概要構成例に対応する構成例となっており、EPS用アクチュエータ及び舵角比可変用アクチュエータを管理するために、制御統合部と駆動部をそれぞれ2つ有している。制御統合部同士及び駆動部同士の接続は除いてある。
制御統合部11,12はEPS制御部、舵角比制御部及び2つの信号処理部を有している。EPS制御部111,121は車両の操舵トルクThに基づいてEPS用アクチュエータを制御する制御指令値(EPS制御指令値)を算出する。舵角比制御部112,122はハンドルの舵角θに基づいて舵角比可変用アクチュエータを制御する制御指令値(舵角比制御指令値)を算出する。なお、制御指令値の算出のために、操舵トルクや舵角の他に、車速等を用いても良い。信号処理部113,114,123,124は、EPS制御部111,121又は/及び舵角比制御部112,122で算出される制御指令値に、OSI参照モデルの第1層から第3層までで定義される処理に従って、制御指令値の正常・異常の情報等を追加する。さらに、予め設定される使用経路の優先順位に従った優先順位情報を、正常時に制御するアクチュエータに対する制御指令値に追加する。
駆動部21,22は2つの信号処理部及び2つのGDM(Gate Drive Module)を有している。1組の信号処理部とGDMで1つの駆動回路を構成する。信号処理部211,212,221,222は、制御統合部が有する信号処理部から出力される制御指令値を入力し、制御指令値に付加される正常・異常の情報等に基づいて制御指令値が正常な値か異常な値かの判定を行い、判定結果を制御指令値に付加する。さらに、優先順位情報が追加された制御指令値に対してはその優先順位情報を付加し、優先順位情報が追加されていない制御指令値に対しては予め設定される使用経路の優先順位に従った優先順位情報を付加する。GDM213,214,223,224は、信号処理部から出力される制御指令値を入力し、最終順位を決定し、制御指令値に付加して出力する。この際、複数の制御指令値を入力するGDMは制御指令値に付加される判定結果及び優先順位情報を基に制御指令値を選択する。
セレクタ61,62は、GDM213,214,223,224から出力される制御指令値を入力し、判定結果及び優先順位情報を基に1つの制御指令値を選択する。
ここで、予め設定される使用経路の優先順位について説明する。
優先順位は、正常時に使用する制御統合部を優先的に使用し、その次は正常時に使用する駆動部を優先的に使用するということで設定する。なお、優先順位はこの設定条件に限らず、他の設定条件にて設定しても良い。この設定に従って使用経路の優先順位を決めると、EPS用アクチュエータ31に対する優先順位は、(1)制御統合部11→駆動部21→EPS用アクチュエータ31、(2)制御統合部11→駆動部22→EPS用アクチュエータ31、(3)制御統合部12→駆動部21→EPS用アクチュエータ31、(4)制御統合部12→駆動部22→EPS用アクチュエータ31となり、舵角比可変用アクチュエータ32に対する優先順位は、(1)制御統合部12→駆動部22→舵角比可変用アクチュエータ32、(2)制御統合部12→駆動部21→舵角比可変用アクチュエータ32、(3)制御統合部11→駆動部22→舵角比可変用アクチュエータ32、(4)制御統合部11→駆動部21→舵角比可変用アクチュエータ32となる。この順位で制御指令値が選択されるように、信号処理部は優先順位情報を追加、付加する。
第1実施形態の動作例を図5〜図8のフローチャートを参照して説明する。
まず、操舵トルクTh及び舵角θを読み取る(ステップS1)。EPS制御部111及び121は、操舵トルクThに基づいてEPS制御指令値EC1及びEC2を算出し(ステップS2,S3)、出力する。舵角比制御部112及び122は、舵角θに基づいて舵角比制御指令値AC2及びAC1を算出し(ステップS4,S5)、出力する。
EPS制御指令値EC1は信号処理部113及び114に、舵角比制御指令値AC2は信号処理部114に、EPS制御指令値EC2は信号処理部123に、舵角比制御指令値AC1は信号処理部123及び124にそれぞれ入力される。
信号処理部113は、EPS制御指令値EC1が正常か異常かを識別し、識別した結果を識別結果ed1としてEPS制御指令値EC1に追加する。さらに、信号処理部113は、値を1とした優先順位情報ep1をEPS制御指令値EC1に追加し、識別結果ed1及び優先順位情報ep1を追加したEPS制御指令値EC1をEPS制御指令値EX1として出力する(ステップS6)。信号処理部114も、EPS制御指令値EC1が正常か異常かを識別し、識別した結果を識別結果ed2としてEPS制御指令値EC1に追加し、値を2とした優先順位情報ep2をEPS制御指令値EC1に追加し、識別結果ed2及び優先順位情報ep2を追加したEPS制御指令値EC1をEPS制御指令値EX2として出力する(ステップS7)。さらに、信号処理部114は、舵角比制御指令値AC2が正常か異常かを識別し、識別した結果を識別結果ad3として舵角比制御指令値AC2に追加し、識別結果ad3を追加した舵角比制御指令値AC2を舵角比制御指令値AX3として出力する(ステップS8)。
信号処理部124は、舵角比制御指令値AC1が正常か異常かを識別し、識別した結果を識別結果ad1として舵角比制御指令値AC1に追加する。さらに、信号処理部124は、値を1とした優先順位情報ap1を舵角比制御指令値AC1に追加し、識別結果ad1及び優先順位情報ap1を追加した舵角比制御指令値AC1を舵角比制御指令値AX1として出力する(ステップS9)。信号処理部123も、舵角比制御指令値AC1が正常か異常かを識別し、識別した結果を識別結果ad2として舵角比制御指令値AC1に追加し、値を2とした優先順位情報ap2を舵角比制御指令値AC1に追加し、識別結果ad2及び優先順位情報ap2を追加した舵角制御指令値AC1を舵角比制御指令値AX2として出力する(ステップS10)。さらに、信号処理部123は、EPS制御指令値EC2が正常か異常かを識別し、識別した結果を識別結果ed3としてEPS制御指令値EC2に追加し、識別結果ed3を追加したEPS制御指令値EC2をEPS制御指令値EX3として出力する(ステップS11)。
EPS制御指令値EX1は信号処理部211に、舵角比制御指令値AX3は信号処理部212及び221に、EPS制御指令値EX2は信号処理部221に、舵角比制御値AX2は信号処理部212に、EPS制御指令値EX3は信号処理部212及び221に、舵角比制御指令値AX1は信号処理部222にそれぞれ入力される。
信号処理部211は、EPS制御指令値EX1からEPS制御指令値EC1、識別結果ed1及び優先順位情報ep1を抽出し、識別結果ed1に基づいてEPS制御指令値EC1が正常か異常かを判定し、判定した結果を判定結果ej1として優先順位情報ep1と共にEPS制御指令値EC1に付加し、EPS制御指令値ES1として出力する(ステップS12)。信号処理部212は、舵角比制御指令値AX3から舵角比制御指令値AC2及び識別結果ad3を抽出し、識別結果ad3に基づいて舵角比制御指令値AC2が正常か異常かを判定し、判定した結果を判定結果aj4として舵角比制御指令値AC2に付加し、さらに値を4とした優先順位情報ap4を舵角比制御指令値AC2に付加し、判定結果aj4及び優先順位情報ap4を付加した舵角比制御指令値AC2を舵角比制御指令値AS4として出力する(ステップS13)。また、信号処理部212は、舵角比制御指令値AX2から舵角比制御指令値AC1、識別結果ad2及び優先順位情報ap2を抽出し、識別結果ad2に基づいて舵角比制御指令値AC1が正常か異常かを判定し、判定した結果を判定結果aj2として優先順位情報ap2と共に舵角比制御指令値AC1に付加し、舵角比制御指令値AS2として出力する(ステップS14)。さらに、信号処理部212は、EPS制御指令値EX3からEPS制御指令値EC2及び識別結果ed3を抽出し、識別結果ed3に基づいてEPS制御指令値EC2が正常か異常かを判定し、判定した結果を判定結果ej3としてEPS制御指令値EC2に付加し、さらに値を3とした優先順位情報ep3をEPS制御指令値EC2に付加し、判定結果ej3及び優先順位情報ep3を付加したEPS制御指令値EC2をEPS制御指令値ES3として出力する(ステップS15)。
信号処理部222は、舵角比制御指令値AX1から舵角比制御指令値AC1、識別結果ad1及び優先順位情報ap1を抽出し、識別結果ad1に基づいて舵角比制御指令値AC1が正常か異常かを判定し、判定した結果を判定結果aj1として優先順位情報ap1と共に舵角比制御指令値AC1に付加し、舵角比制御指令値AS1として出力する(ステップS16)。信号処理部221は、EPS制御指令値EX3からEPS制御指令値EC2及び識別結果ed3を抽出し、識別結果ed3に基づいてEPS制御指令値EC2が正常か異常かを判定し、判定した結果を判定結果ej4としてEPS制御指令値EC2に付加し、さらに値を4とした優先順位情報ep4をEPS制御指令値EC2に付加し、判定結果ej4及び優先順位情報ep4を付加したEPS制御指令値EC2をEPS制御指令値ES4として出力する(ステップS17)。また、信号処理部221は、EPS制御指令値EX2からEPS制御指令値EC1、識別結果ed2及び優先順位情報ep2を抽出し、識別結果ed2に基づいてEPS制御指令値EC1が正常か異常かを判定し、判定した結果を判定結果ej2として優先順位情報ep2と共にEPS制御指令値EC1に付加し、EPS制御指令値ES2として出力する(ステップS18)。さらに、信号処理部221は、舵角比制御指令値AX3から舵角比制御指令値AC2及び識別結果ad3を抽出し、識別結果ad3に基づいて舵角比制御指令値AC2が正常か異常かを判定し、判定した結果を判定結果aj3として舵角比制御指令値AC2に付加し、さらに値を3とした優先順位情報ap3を舵角比制御指令値AC2に付加し、判定結果aj3及び優先順位情報ap3を付加した舵角比制御指令値AC2を舵角比制御指令値AS3として出力する(ステップS19)。
GDM213は、信号処理部211から出力されたEPS制御指令値ES1を入力し、判定結果ej1が正常の場合(ステップS20)、優先順位情報ep1を最終順位ef1とし(ステップS21)、判定結果ej1が異常の場合(ステップS20)、優先順位情報に設定される値の最大値より大きい値(例えば99)を最終順位ef1として(ステップS22)、EPS制御指令値EC1に付加し、EPS制御指令値ER1としてセレクタ61に出力する(ステップS23)。GDM214は、信号処理部212から出力された舵角比制御指令値AS2及びAS4を入力し、判定結果aj2及びaj4を基に優先順位情報ap2及びap4を用いて最終順位af2を決定する。即ち、まず優先順位が高い(優先順位情報の値が小さい)舵角比制御指令値の判定結果を調べ、その判定結果が正常ならば(ステップS24)、その舵角比制御指令値の優先順位情報を最終順位af2とする(ステップS25)。判定結果が異常ならば(ステップS24)、もう一方の舵角比制御指令値の判定結果を調べ、その判定結果が正常ならば(ステップS26)、その舵角比制御指令値の優先順位情報を最終順位af2とし(ステップS27)、異常ならば(ステップS26)、優先順位情報に設定される値の最大値より大きい値を最終順位af2とする(ステップS28)。第1実施形態ではap2=2、ap4=4であるから、優先順位が高い舵角比制御指令値はAS2の方となる。最終順位af2が決定したら、それを舵角比制御指令値に付加して舵角比制御指令値AR2としてセレクタ62に出力する(ステップS29)。さらに、GDM214は、信号処理部212から出力されたEPS制御指令値ES3を入力し、判定結果ej3が正常の場合(ステップS30)、優先順位情報ep3を最終順位ef3とし(ステップS31)、判定結果ej3が異常の場合(ステップS30)、優先順位情報に設定される値の最大値より大きい値を最終順位ef3として(ステップS32)、EPS制御指令値EC2に付加し、EPS制御指令値ER3としてセレクタ61に出力する(ステップS33)。なお、GDM214が行う上述の舵角比制御指令値の選択を、信号処理部212又はセレクタ62で行っても良い。
GDM224は、信号処理部222から出力された舵角比制御指令値AS1を入力し、判定結果aj1が正常の場合(ステップS34)、優先順位情報ap1を最終順位af1とし(ステップS35)、判定結果aj1が異常の場合(ステップS34)、優先順位情報に設定される値の最大値より大きい値を最終順位af1として(ステップS36)、舵角比制御指令値AC1に付加し、舵角比制御指令値AR1としてセレクタ62に出力する(ステップS37)。GDM223は、信号処理部221から出力されたEPS制御指令値ES2及びES4を入力し、判定結果ej2及びej4を基に優先順位情報ep2及びep4を用いて最終順位ef2を決定する。即ち、まず優先順位が高い(優先順位情報の値が小さい)EPS制御指令値の判定結果を調べ、その判定結果が正常ならば(ステップS38)、そのEPS制御指令値の優先順位情報を最終順位ef2とする(ステップS39)。判定結果が異常ならば(ステップS38)、もう一方のEPS制御指令値の判定結果を調べ、その判定結果が正常ならば(ステップS40)、そのEPS制御指令値の優先順位情報を最終順位ef2とし(ステップS41)、異常ならば(ステップS40)、優先順位情報に設定される値の最大値より大きい値を最終順位ef2とする(ステップS42)。第1実施形態ではep2=2、ep4=4であるから、優先順位が高いEPS制御指令値はES2の方となる。最終順位ef2が決定したら、それをEPS制御指令値に付加してEPS制御指令値ER2としてセレクタ61に出力する(ステップS43)。さらに、GDM223は、信号処理部221から出力された舵角比制御指令値AS3を入力し、判定結果aj3が正常の場合(ステップS44)、優先順位情報ap3を最終順位af3とし(ステップS45)、判定結果aj3が異常の場合(ステップS44)、優先順位情報に設定される値の最大値より大きい値を最終順位af3として(ステップS46)、舵角比制御指令値AC2に付加し、舵角比制御指令値AR3としてセレクタ62に出力する(ステップS47)。なお、GDM223が行う上述のEPS制御指令値の選択を、信号処理部221又はセレクタ61で行っても良い。
セレクタ61は、最終順位ef1、ef2及びef3の中から最小の最終順位を調べる(ステップS48)。最小の最終順位が優先順位情報に設定される値の最大値より大きい値ではない場合(ステップS49)、最小の最終順位のEPS制御指令値をEPS制御指令値ERとして(ステップS50)、EPS用アクチュエータ31に出力する(ステップS52)。最小の最終順位が優先順位情報に設定される値の最大値より大きい値の場合(ステップS49)、全てのEPS制御指令値が異常ということなので、図4には示されていないが、信号処理部と車載通信バスを接続する経路を介して伝送されるEPS制御指令値をEPS制御指令値ERとして(ステップS51)、EPS用アクチュエータ31に出力する(ステップS52)。
セレクタ62は、最終順位af1、af2及びaf3の中から最小の最終順位を調べる(ステップS53)。最小の最終順位が優先順位情報に設定される値の最大値より大きい値ではない場合(ステップS54)、最小の最終順位の舵角比制御指令値を舵角比制御指令値ARとして(ステップS55)、舵角比可変用アクチュエータ32に出力する(ステップS57)。最小の最終順位が優先順位情報に設定される値の最大値より大きい値の場合(ステップS54)、全ての舵角比制御指令値が異常ということなので、図4には示されていないが、信号処理部と車載通信バスを接続する経路を介して伝送される舵角比制御指令値を舵角比制御指令値ARとして(ステップS56)、舵角比可変用アクチュエータ32に出力する(ステップS57)。
なお、第1実施形態では、信号処理部114から信号処理部221に伝送される制御指令値EX2とAX3はそれぞれ別の伝送経路で伝送されているが、同じ伝送経路で伝送しても良い。この場合、伝送経路は2つの異なる帯域を備え、EX2とAX3は異なる帯域で伝送することになる。信号処理部123から信号処理部212に伝送される制御指令値AX2とEX3についても同様に2つの異なる帯域を備える伝送経路で伝送しても良い。
また、信号処理部113、信号処理部211及びGDM213並びに信号処理部124、信号処理部222及びGDM224は入出力する信号が1つであるが、信号処理部114、信号処理部212及びGDM214並びに信号処理部123、信号処理部221及びGDM223のように入出力する信号を複数にしても良い。これにより、異常が検知された場合に切り替えられる経路を増やすことができる。
さらに、制御統合部11,12は信号処理部を2つ有しているが、1つでも良い。同様に、駆動部21,22は信号処理部を2つ、GDMを2つ有しているが、それぞれ1つでも良い。制御統合部及び駆動部が有するこれらの構成要素の冗長化を必要に応じて変えることにより、装置のコストやサイズ等に応じた柔軟な構成を取ることができる。
第1実施形態ではセレクタはGDMとアクチュエータの間に設置されているが、駆動部の信号処理部とGDMの間にセレクタを設置しても良い。図9はそのような構成例(第2実施形態)を示すブロック図で、信号処理部211,212とGDM251の間にセレクタ65が設置され、信号処理部221,222とGMD261の間にセレクタ66が設置されている。駆動部25及び26が有するGDMは1つとなる。また、駆動部25と駆動部26の間で制御指令値の入出力が発生する。
セレクタ65は、信号処理部211から出力されたEPS制御指令値ES1、信号処理部212から出力されたEPS制御指令値ES3並びに信号処理部221から出力されたEPS制御指令値ES2及びES4を入力し、各EPS制御指令値に付加された優先順位情報及び判定結果を基に、制御指令値を1つ選定する。即ち、優先順位が高い(優先順位情報の値が小さい)順にEPS制御指令値に付加された判定結果を調べ、最初に判定結果が正常であるEPS制御指令値をEPS制御指令値ERとして選定し、出力する。全ての判定結果が異常の場合は、図9には示されていないが、信号処理部と車載通信バスを接続する経路を介して伝送されるEPS制御指令値をEPS制御指令値ERとして出力する。
セレクタ66は、信号処理部222から出力された舵角比制御指令値AS1、信号処理部221から出力された舵角比制御指令値AS3並びに信号処理部212から出力された舵角比制御指令値AS2及びAS4を入力し、セレクタ66と同様の処理により、舵角比制御指令値ARを出力する。
GDM251及びGDM261は、それぞれEPS制御指令値ER及び舵角比制御指令値ARを入力し、EPS用アクチュエータ31及び舵角比可変用アクチュエータ32をそれぞれ駆動する。
なお、第2実施形態においても、第1実施形態の場合と同様に、異なる帯域を備える伝送経路での伝送、制御統合部と駆動部が有する構成要素の冗長化の変更等を行っても良い。
図10は本発明の他の構成例(第3実施形態)を示すブロック図で、図3に示される本発明の概要構成例に対応する構成例となっており、制御統合部を1つと駆動部を2つ有している。駆動部同士の接続は除いてある。なお、第3実施形態において、図4に示される第1実施形態と同一構成には同一符号を付して説明は省略する。
第3実施形態では、制御統合部が1つしかないので、制御指令値を選択できる経路の数が、第1実施形態より少なく、2つとなる。なお、予め設定される使用経路の優先順位は、正常時に使用する駆動部を優先的に使用するということで設定する。
第3実施形態の動作例を図11及び図12のフローチャートを参照して説明する。
EPS制御部111で算出されたEPS制御指令値EC1及び舵角比制御部122で算出された舵角比制御指令値AC1は、信号処理部131及び信号処理部132に入力される。
信号処理部131は、EPS制御指令値EC1が正常か異常かを識別し、識別した結果を識別結果ed1としてEPS制御指令値EC1に追加し、さらに、値を1とした優先順位情報ep1をEPS制御指令値EC1に追加し、EPS制御指令値EX1として出力する(ステップS64)。また、信号処理部131は、舵角比制御指令値AC1が正常か異常かを識別し、識別した結果を識別結果ad2として舵角比制御指令値AC1に追加し、さらに、値を2とした優先順位情報ap2を舵角比制御指令値AC1に追加し、舵角比制御指令値AX2として出力する(ステップS65)。
信号処理部132も信号処理部131と同様の処理を行い、識別結果ed2及び優先順位情報ep2(=2)を追加したEPS制御指令値EC1をEPS制御指令値EX2として出力し(ステップS66)、識別結果ad1及び優先順位情報ap1(=1)を追加した舵角比制御指令値AC1を舵角比制御指令値AX1として出力する(ステップS67)。
EPS制御指令値EX1は信号処理部211に、舵角比制御指令値AX2は信号処理部231に、EPS制御指令値EX2は信号処理部241に、舵角比制御値AX1は信号処理部222にそれぞれ入力される。
信号処理部211及び信号処理部222並びにGDM213及びGDM224は、第1実施形態の場合と同様の処理を行う。信号処理部231及び信号処理部241も、入力された制御指令値に対して信号処理部211、222と同様の処理を行い、GDM232及びGDM242も、入力された制御指令値に対してGDM213、224と同様の処理を行う(ステップS68〜S87)。GDM232は、舵角比制御指令値AC1に最終順位af4を付加して舵角比制御指令値AR4としてセレクタ64に出力する。GDM242は、EPS制御指令値EC1に最終順位ef4を付加してEPS制御指令値ER4としてセレクタ63に出力する。
セレクタ63は、EPS制御指令値ER1及びER4を入力し、最終順位ef1及びef4の値を比較し、小さい方の最終順位が優先順位情報に設定される値の最大値より大きい値(例えば99)ではない場合(ステップS88)、その最終順位のEPS制御指令値をEPS制御指令値ERとして(ステップS89)、EPS用アクチュエータ31に出力する(ステップS91)。小さい方の最終順位が優先順位情報に設定される値の最大値より大きい値の場合(ステップS88)、両方のEPS制御指令値が異常ということなので、図9には示されていないが、信号処理部と車載通信バスを接続する経路を介して伝送されるEPS制御指令値をEPS制御指令値ERとして(ステップS90)、EPS用アクチュエータ31に出力する(ステップS91)。
セレクタ64も、入力する舵角比制御指令値AR1及びAR4に対して、セレクタ63と同様の処理を行い、舵角比制御指令値ERを舵角比可変用アクチュエータ32に出力する(ステップS92〜S95)
なお、第3実施形態においても、第1実施形態の場合と同様に、異なる帯域を備える伝送経路での伝送、制御統合部と駆動部が有する構成要素の冗長化の変更等を行っても良い。また、GDMとアクチュエータの間に設置してあるセレクタを、第2実施形態と同様に、駆動部の信号処理部とGDMの間に設置しても良い。
駆動経路に継電器を設け、アクチュエータ又は駆動経路の異常を検知した時に、継電器を用いて正常なアクチュエータ又は駆動経路のみを使用するようにすることができる。図13は、図4に示される第1実施形態に対して、駆動経路に継電器を設けた構成例(第4実施形態)を示すブロック図である。なお、第4実施形態において、第1実施形態と同一構成には同一符号を付して説明は省略する。
第4実施形態では、アクチュエータ及び駆動経路の異常を検知する異常検知部70と継電器71〜76が追加されている。異常検知部70は、駆動経路を流れる制御指令値ER1、ER2、ER3、AR1、AR2及びAR3を入力し、駆動経路の異常を検知する。例えば、所定の閾値以上の制御指令値が所定の数だけ連続した場合、駆動経路において地絡故障が発生した可能性があると判断し、異常と検知する。異常を検知した場合、異常と判断した駆動経路に設けられた継電器を用いて、その駆動経路を切断する。また、異常検知部70は、EPS用アクチュエータ31及び舵角比可変用アクチュエータ32から出力される情報を入力し、EPS用アクチュエータ31及び舵角比可変用アクチュエータ32の異常を検知する。例えば、指令電流値が制御指令値として使用されている場合、アクチュエータ内を流れる電流が指令電流値と大きく異なったときを異常と検知する。異常を検知した場合、異常と判断したアクチュエータに接続している駆動経路に設けられた継電器を用いて、接続している駆動経路全てを切断する。これにより、正常なアクチュエータ又は駆動経路のみが使用されることになる。
駆動部に継電器を設け、アクチュエータ又は駆動経路の異常を検知することもできる。図14は、図4に示される第1実施形態に対して、駆動部の信号処理部とGDMの間に継電器を設けた構成例(第5実施形態)を示すブロック図である。なお、第5実施形態において、第1実施形態と同一構成には同一符号を付して説明は省略する。
第5実施形態では、アクチュエータ及び駆動経路の異常を検知する異常検知部77と継電器78〜85が追加されている。異常検知部77は、第4実施形態での異常検知部70と同様に、駆動経路を流れる制御指令値ER1、ER2、ER3、AR1、AR2及びAR3を基に駆動経路の異常を検知し、また、EPS用アクチュエータ31及び舵角比可変用アクチュエータ32から出力される情報を基にアクチュエータの異常を検知する。駆動経路の異常を検知した場合、その駆動経路を流れる制御指令値の元となる制御指令値が流れている経路に設けられた継電器を用いてその経路を切断する。例えば、制御指令値ER1が流れる駆動経路で異常を検知した場合、継電器78を用いて制御指令値ES1が流れる経路を切断する。アクチュエータの異常を検知した場合、そのアクチュエータに対する制御指令値が流れている経路に設けられている継電器を用いてその経路全てを切断する。例えば、ESP用アクチュエータ31で異常を検知した場合、継電器78、81、83及び84を用いて制御指令値ES1、ES3、ES2及びES4が流れる経路を切断する。これにより、正常なアクチュエータ又は駆動経路のみが使用されることになる。
なお、上述の実施形態(実施形態1〜実施形態5)では、管理するアクチュエータは電動パワーステアリング及び舵角比可変機構のアクチュエータであるが、それらに限られず、後輪舵角転舵用アクチュエータ、電動チルト・テレスコ用アクチュエータ等の他の操舵系システムのアクチュエータを管理対象にしても良い。さらに、管理するアクチュエータは2つに限らず、それ以上のアクチュエータを管理対象にしても良い。