以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
(第1の実施形態)
図1(a)及び図1(b)は、第1の実施形態に係る歪検知素子を例示する模式図である。
図1(a)は、歪検知素子の模式的斜視図である。図1(b)は、歪検知素子が用いられる圧力センサを例示する模式的断面図である。
図1(a)に表したように、本実施形態に係る歪検知素子50は、機能層25と、第1磁性層10と、第2磁性層20と、中間層30と、を含む。
機能層25には、例えば、酸化物及び窒化物の少なくともいずれかが用いられる。機能層25は、例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、錫(Sn)、カドミウム(Cd)及びガリウム(Ga)よりなる第1群から選択された少なくともいずれかの酸化物、及び、上記の第1群から選択された少なくともいずれかの窒化物の少なくともいずれかを含む。
機能層25は、例えば、マグネシウム、チタン、バナジウム、亜鉛、錫、カドミウム及びガリウムよりなる第2群から選択された少なくともいずれかの酸化物を含んでも良い。例えば、機能層25には、例えば、酸化マグネシウムが用いられる。
第2磁性層20は、機能層25と、第1磁性層10との間に設けられる。第2磁性層20は、アモルファス部分を含む。第2磁性層20は、ホウ素(B)を含む。第2磁性層20の磁化(の方向)は、可変である。第2磁性層20の磁化は、第2磁性層20に加わる歪に応じて変化する。第2磁性層20は、例えば、アモルファス構造を有する。後述するように、第2磁性層20は、アモルファス部分と、結晶部分と、を含んでも良い。すなわち、第2磁性層20の少なくとも一部は、アモルファスである。
中間層30は、第1磁性層10と第2磁性層20との間に設けられる。
第2磁性層20は、例えば、磁化自由層である。第1磁性層10は、例えば参照層である。参照層として、磁化固定層、または、磁化自由層が用いられる。例えば、第2磁性層20の磁化の変化は、第1磁性層10の磁化の変化よりも容易である。歪検知素子50に応力が加わり、歪検知素子50に歪が設けられたときに、第1磁性層10の磁化と第2磁性層10の磁化との間の相対角度は、変化する。
例えば、第1磁性層10から第2磁性層20に向かう方向をZ軸方向(積層方向)とする。Z軸方向に対して垂直な1つの方向をX軸方向とする。Z軸方向とX軸方向とに対して垂直な方向をY軸方向とする。
この例では、第1電極E1と、第2電極E2と、がさらに設けられている。第1電極E1と、第2電極E2と、の間に、第1磁性層10が設けられる。第1磁性層10と第2電極E2との間に中間層30が設けられる。中間層30と第2電極E2との間に第2磁性層20が設けられる。第2磁性層20と第2電極E2との間に、機能層25が設けられる。この例では、第2磁性層20は、機能層25に接している。
第1電極E1と第2電極E2との間に電圧を印加することで、第1磁性層10、中間層30、第2磁性層20及び機能層25を含む積層体10sに電流を流すことができる。電流は、第1磁性層10と第2磁性層20との間において、例えば、Z軸方向に沿っている。
図2(b)に表したように、歪検知素子50は、圧力センサ110に用いられる。圧力センサ110は、膜部70と、歪検知素子50と、を含む。膜部70は、可撓性の領域を有する。膜部70は、変形可能である。歪検知素子50は、膜部70に固定される。本願明細書において、固定される状態は、直接的に固定される状態と、別の要素によって間接的に固定される状態と、を含む。例えば、検知素子50が膜部70に固定される状態は、検知素子50と膜部70との間の相対的な位置が固定される状態を含む。歪検知素子50は、例えば、膜部70の一部の上に設けられる。
本願明細書において、「上に設けられる」状態は、直接接して設けられる状態の他に、間に他の要素が挿入されて設けられる状態も含む。
膜部70に力79が加わると、膜部70は変形する。この変形に伴い、歪検知素子50に歪が生じる。例えば、第2磁性層20の磁化は、膜部の変形に応じて変化する。
本実施形態に係る歪検知素子50において、例えば、外部からの力に対して膜部70が変形したときに、歪検知素子50に歪が生じる。歪検知素子50は、この歪の変化を電気抵抗の変化に変換する。
歪検知素子50が歪センサとして機能する動作は、「逆磁歪効果」と「磁気抵抗効果」との応用に基づく。「逆磁歪効果」は、磁化自由層に用いられる強磁性層において得られる。「磁気抵抗効果」は、磁化自由層と中間層と参照層(例えば磁化固定層)との積層膜において発現する。
「逆磁歪効果」は、強磁性体の磁化が強磁性体に生じた歪によって変化する現象である。すなわち、歪検知素子50の積層体10sに外部歪が印加されると、磁化自由層の磁化方向が変化する。その結果、磁化自由層の磁化と参照層(例えば磁化固定層)の磁化との間の相対角度が変化する。この際に「磁気抵抗効果(MR効果)」により、電気抵抗の変化が引き起こされる。MR効果は、例えば、GMR(Giant magnetoresistance)効果、または、TMR(Tunneling magnetoresistance)効果などを含む。積層体10sに電流を流すことで、磁化の向きの相対角度の変化を電気抵抗変化として読み取ることで、MR効果が発現する。例えば、積層体10s(歪検知素子50)に歪が生じ、歪によって磁化自由層の磁化の向きが変化し、磁化自由層の磁化の向きと、参照層(例えば磁化固定層)の磁化の向きと、の相対角度が変化する。すなわち、逆磁歪効果によりMR効果が発現する。
磁化自由層に用いられる強磁性材料が正の磁歪定数を有する場合は、磁化の方向と引張歪の方向との角度が小さくなり、磁化の方向と圧縮歪の方向との角度が大きくなるように、磁化の方向が変化する。磁化自由層に用いられる強磁性材料が負の磁歪定数を有する場合は、磁化の方向と引張歪の方向との角度が大きくなり、磁化の方向と圧縮歪の方向との角度が小さくなるように、磁化の方向が変化する。
磁化自由層と中間層と参照層(例えば磁化固定層)との積層体の材料の組み合わせが正の磁気抵抗効果を有する場合は、磁化自由層と磁化固定層の相対角度が小さい場合に電気抵抗が減少する。磁化自由層と中間層と磁化固定層との積層体の材料の組み合わせが負の磁気抵抗効果を有する場合は、磁化自由層と磁化固定層の相対角度が小さい場合に電気抵抗が増大する。
以下、磁化自由層と、参照層(例えば磁化固定層)と、に用いられる強磁性材料が、それぞれ正の磁歪定数を有し、磁化自由層と中間層と参照層(例えば磁化固定層)とを含む積層体が正の磁気抵抗効果を有する場合の例に関して、磁化の変化の例について説明する。
図2(a)〜図2(c)は、第1の実施形態に係る歪検知素子の動作を例示する模式図である。
図2(a)は、歪検知素子50に引張応力tsが印加されたときの状態(引張状態STt)に対応する。図2(b)は、歪検知素子50が歪を有しないときの状態(無歪状態ST0)に対応する。図2(c)は、歪検知素子50に圧縮応力csが印加されたときの状態(圧縮状態STc)に対応する。
これらの図においては、図を見やすくするために、第1磁性層10と、第2磁性層20と、中間層30と、が描かれ、機能層25は省略されている。この例では、第2磁性層20は磁化自由層であり、第1磁性層10は磁化固定層である。
図2(b)に表したように、歪が無い無歪状態ST0(例えば初期状態)においては、第2磁性層20の磁化20mと、第1磁性層10(例えば磁化固定層)の磁化10mと、間の相対角度は、所定の値に設定されている。初期状態の磁性層の磁化の方向は、例えば、ハードバイアス、または、磁性層の形状異方性などにより、設定される。この例では、第2磁性層20(磁化自由層)の磁化20mと、第1磁性層10(例えば磁化固定層)の磁化10mと、は交差している。
図2(a)に表したように、引張状態STtにおいて、引張応力tsが印加されると、歪検知素子50に引張応力tsに応じた歪が生じる。このとき、第2磁性層20(磁化自由層)の磁化20mは、磁化20mと引張応力tsの方向との角度が小さくなるように、無歪状態ST0から変化する。図2(a)に示した例では、引張応力tsが加わった場合は、無歪状態ST0に比べて、第2磁性層20(磁化自由層)の磁化20mと、第1磁性層10(例えば磁化固定層)の磁化10mとの間の相対角度が小さくなる。これにより、歪検知素子50における電気抵抗は、無歪状態ST0の時の電気抵抗に比べて減少する。
図2(c)に表したように、圧縮状態STcにおいて、圧縮応力csが印加されると、第2磁性層20(磁化自由層)の磁化20mは、磁化20mと圧縮応力csの方向との角度が大きくなるように、無歪状態ST0から変化する。図2(c)に示した例では、圧縮応力csが加わった場合は、無歪状態ST0に比べて、第2磁性層20(磁化自由層)の磁化20mと、第1磁性層10(例えば磁化固定層)の磁化10mと、の間の相対角度が大きくなる。これにより、歪検知素子50における電気抵抗は、増大する。
このように、歪検知素子50においては、歪検知素子50に生じた歪の変化が、電気抵抗の変化に変換される。上記の動作において、単位歪(dε)あたりの、電気抵抗の変化量(dR/R)をゲージファクター(GF:gauge factor)という。ゲージファクターの高い歪検知素子を用いることで、高感度な歪センサが得られる。
歪検知素子50の例について説明する。
以下において、「材料A/材料B」の記載は、材料Aの層の上に、材料Bの層が設けられている状態を示す。
図3は、第1の実施形態に係る歪検知素子を例示する模式的斜視図である。
図3に表したように、本実施形態に用いられる歪検知素子51は、第1電極E1と、下地層10lと、ピニング層10pと、第1磁性層10と、中間層30と、第2磁性層20と、機能層25と、キャップ層26cと、を含む。第1電極E1と第1磁性層10との間に下地層10lが設けられる。下地層10lと第1磁性層10との間に、ピニング層10pが設けられる。第2磁性層20と第2電極E2との間に、キャップ層26cが設けられる。この例では、第1磁性層10は、第1磁化固定層10aと、第2磁化固定層10bと、磁気結合層10cと、を含む。第2磁化固定層10bと中間層30との間に第1磁化固定層10aが設けられる。第2磁化固定層10bと、第1磁化固定層10aと、の間に、磁気結合層10cが設けられる。
下地層10lには、例えば、Ta/Ruが用いられる。このTa層の厚さ(Z軸方向の長さ)は、例えば、3ナノメートル(nm)である。このRu層の厚さは、例えば、2nmである。
ピニング層10pには、例えば、7nmの厚さのIrMn層が用いられる。
第2磁化固定層10bには、例えば、2.5nmの厚さのCo75Fe25層が用いられる。
磁気結合層10cには、例えば、0.9nmの厚さのRu層が用いられる。
第1磁化固定層10aには、例えば、3nmの厚さのCo40Fe40B20層が用いられる。
中間層30には、例えば、1.6nmの厚さのMg−O層が用いられる。
第2磁性層20には、例えば、4nmの厚さのCo40Fe40B20が用いられる。
機能層25には、例えば、1.5nmの厚さのMg−O層が用いられる。
キャップ層26cには、例えばTa/Ruが用いられる。このTa層の厚さは、例えば、1nmである。このRu層の厚さは、例えば、5nmである。
第1電極E1及び第2電極E2には、例えば、金属が用いられる。
以下、実施形態に係る歪検出素子の特性の例について説明する。
第1試料S01に含まれる各層の材料と厚さは、以下である。
下地層10l :Ta(1nm)/Ru(2nm)
ピニング層10p :Ir22Mn78 (7nm)
第2磁化固定層10b :Co75Fe25 (2.5nm)
磁気結合層10c :Ru (0.9nm)
第1磁化固定層10a :Co40Fe40B20 (3nm)
中間層30 :Mg−O (1.6nm)
第2磁性層20 :Co40Fe40B20 (4nm)
機能層25 :Mg−O (1.5nm)
キャップ層26c :Cu(1nm)/Ta(20nm)/Ru(50nm)
一方、第2試料S02においては、機能層25が設けられない。これ以外の第2試料S02の構成は、第1試料S01と同じである。
上記のように、第1試料S01においては、第2磁性層20として、4nmの厚さのCo40Fe40B20層が用いられている。そして、機能層25として、1.5nmの厚さのMg−O層が用いられている。一方、第2試料S02においては、機能層25が設けられていない。
中間層30及び機能層25に用いられているMg−O層は、1.6nmの厚さのMg層を成膜した後に、IAO(Ion beam-assisted Oxidation)処理による表面酸化により形成されている。機能層25用のMg−O層の作製時の酸化条件は、例えば、中間層30用のMg−O層の作製時の酸化条件よりも弱い。機能層25用のMg−O層の面積抵抗は、中間層30用のMg−O層の面積抵抗よりも低い。機能層25用のMg−O層の面積抵抗が、中間層30用のMg−O層の面積抵抗よりも高い場合は、その機能層25により寄生抵抗が増え、MR変化率が低減し、ゲージファクターが低下する。機能層25用のMg−O層の面積抵抗は、中間層30用のMg−O層の面積抵抗よりも低くすることで、寄生抵抗は小さくでき、高いMR変化率が得られ、高いゲージファクターが得られる。
上記の積層膜は、第1電極E1の上に形成され、積層膜の上に、第2電極E2が形成される。上記の積層膜(第1試料S01及び第2試料S02)は、ドット形状の素子に加工されている。積層膜(試料)の素子サイズは、20μm×20μmである。第1電極E1と第2電極E2との間の、垂直通電特性が評価される。
上記の試料の歪センサ特性の評価が、基板ベンディング法により行われる。この方法においては、試料が形成された基板(ウェーハ)が長方形状にカットされ、このウェーハに、ナイフエッジによる4点ベンディング法により応力が印加され、歪が形成される。この長方形状のウェーハを曲げるナイフエッジに、ロードセルが組みこまれている。そのロードセルによって計測された荷重により、ウェーハ上の試料(歪検知素子)に加わる歪が求められる。
歪の算出には、2辺支持梁に関する以下の第1式が用いられる。
ε=−3(L1−L2)G/(2Wt2es) (第1式)
上記の第1式において、「es」は、ウェーハのヤング率である。「L1」は、外側ナイフエッジのエッジ間長である。「L2」は、内側ナイフエッジのエッジ間長である。「W」は、長方形のウェーハの幅である。「t」は、長方形のウェーハの厚さである。「G」は、ナイフエッジに加えられる荷重である。ナイフエッジに加わる荷重は、モーター制御により、連続的に変更できる。
図4(a)及び図4(b)は、歪検知素子の特性を例示するグラフ図である。
図5(a)及び図5(b)は、歪検知素子の特性を例示するグラフ図である。
図4(a)及び図4(b)は、第1試料S01の歪センサ特性の評価結果を表す。図4(a)は、歪εが、0.8×10−3、0.6×10−3、0.4×10−3、0.2×10−3、及び、0.0×10−3であるときの、電気抵抗の磁場依存性の測定結果を示している。図4(b)は、歪εが、−0.2×10−3、−0.4×10−3、−0.6×10−3、及び、−0.8×10−3であるときの、電気抵抗の磁場依存性の測定結果を示している。
図5(a)及び図5(b)は、第2試料S02の歪センサ特性の評価結果を表す。図5(a)は、歪εが、0.8×10−3、0.6×10−3、0.4×10−3、0.2×10−3、及び、0.0×10−3であるときの、電気抵抗の磁場依存性の測定結果を示している。図5(b)は、歪εが、−0.2×10−3、−0.4×10−3、−0.6×10−3、及び、−0.8×10−3であるときの、電気抵抗の磁場依存性の測定結果を示している。
これらの図の横軸は、外部磁場H(エルステッド:Oe)である。縦軸は、電気抵抗R(オーム:Ω)である。測定時の外部磁場Hの方向は、第1磁化固定層10aの層面内で、平行な方向である。負の外部磁場Hは、第1磁化固定層10aの磁化の方向と、同じ方向の磁場に対応する。
歪εの印加の方向は、X−Y平面内において、第1磁性層10(例えば磁化固定層)の磁化方向に対して垂直な方向である。本願明細書中では、歪εの値が正であることは、引張歪に対応する。歪εの値が負であることは、圧縮歪に対応する。
図4(a)及び図4(b)並びに図5(a)及び図5(i)からわかるように、第1試料S01及び第2試料S02において、歪εの値により、R−Hループ形状が変化している。これは、逆磁歪効果によって、第2磁性層20(磁化自由層)の面内磁気異方性が変化していることを示している。
図6(a)及び図6(b)は、歪検知素子の特性を例示するグラフ図である。
図6(a)は、第1試料S01に対応し、図6(b)は、第2試料S02に対応する。これらの図は、外部磁場Hを固定し、歪εを−0.8×10−3と0.8×10−3との間の範囲連続的に変化させたときの電気抵抗Rの変化を示す。これらの図の横軸は、歪εであり、縦軸は、電気抵抗Rである。歪εの変化は、−0.8×10−3から0.8×10−3に向けての変化と、0.8×10−3から−0.8×10−3に向けての変化の両方である。これらの結果は、歪センサ特性を示している。これらの図から、ゲージファクターが算出される。
ゲージファクターGFは、GF=(dR/R)/dεで表される。
図6(a)から、第1試料S01におけるゲージファクタは、4027と算出される。図6(b)から、第2試料S02におけるゲージファクタは、895と算出される。
このように、同じ第2磁性層20(4nmの厚さCo40Fe40B20層の磁化自由層)を用いている場合において、機能層25として、1.5nmの厚さのMg−O層を用いることで、ゲージファクターを大幅に向上できる。
一方、第1試料S01のMRの値は、149%である。第2試料S02のMRの値は、188%である。第1試料S01の保磁力Hcは3.2Oeである。第2試料S02の保磁力Hcは、27Oeである。第1試料S01の磁歪定数λは、20ppmである。第2試料S02の磁歪定数λは、30ppmである。
このような機能層25の有無によるゲージファクターの違いは、第2磁性層20(磁化自由層)であるCo40Fe40B20層の保磁力Hcが異なっていることに起因すると考えられる。
上記のように、第2試料S02の保磁力Hcは27Oeであるのに対して、第1試料S01の保磁力Hcは、3.2Oeである。第1試料S01の保磁力Hcは、非常に小さい。保磁力Hcの低減によるゲージファクターの向上は、以下のように説明することができる。
図2(a)〜図2(c)に関して説明したように、磁化自由層(第2磁性層20)に歪が生じた場合に、逆磁歪効果によって、磁化自由層の磁化方向が変化する。この際に、磁化自由層として磁歪定数λの大きい磁性材料を用いることで、歪に対して磁化を回転する力が大きく働くため、ゲージファクターを向上することができる。一方、ゲージファクターは、磁化自由層の保磁力にも依存する。保磁力は、磁化自由層の磁化回転のしやすさを反映した物理パラメータである。保磁力の大きい材料は、磁化方向をそのままの方向にとどめる力が強い。このため、保磁力の大きい材料は逆磁歪効果による磁化方向の変化が生じ難い。
このように、磁化自由層において、磁歪定数λが大きいときに、高いゲージファクターが得られる。そして、磁化自由層における保磁力が小さいときに、高いゲージファクターが得られる。
上記のように、第1試料S01における磁歪定数λの値は、第2試料S02に比較的近く、十分に大きい。一方、第1試料S01における保磁力Hcは、第2試料S02に比べて著しく小さく、約1/10である。第1試料S01においては、保磁力Hcの低減効果が、ゲージファクタの増大に大きく寄与していると考えられる。
第1試料S01において得られた、小さい保磁力Hcと、大きい磁歪定数λと、は、Co40Fe40B20層の第2磁性層20(磁化自由層)の上に、機能層25としてMg−O層を設けることにより得られている。
本願発明者の検討により、機能層25の有無により、第2磁性層20(磁化自由層)のCo40Fe40B20層の結晶構造が変化することが分かった。Co40Fe40B20の結晶構造の違いが、保磁力Hcの違いに関係していることが分かった。以下、結晶構造の違いについて説明する。
図7(a)〜図7(d)は、歪検知素子の特性を例示する顕微鏡像である。
図7(a)は、第1試料S01の歪検知素子の断面透過型電子顕微鏡(断面TEM)写真像である。図7(a)は、第1試料S01の積層構造の写真である。
図7(b)〜図7(d)は、それぞれ、図7(a)の点P1〜P3についての、電子線のナノディフラクションによる結晶格子回折像である。
図7(a)においては、第2磁化固定層10b(Co50Fe50層)の一部からキャップ層26c(Ru層)の一部までを含めた領域が示されている。
図7(a)からわかるように、第1磁化固定層10a(Co−Fe−B層)は、結晶部分を含んでいる。中間層30(Mg−O層)も結晶である。一方、中間層30と機能層25(Mg−O層)に挟まれた第2磁性層20(磁化自由層であるCo−Fe−B層)の大部分においては、原子の規則的な配列が観察されない。すなわち、第2磁性層20は、アモルファスである。
結晶格子回折像により、結晶状態が確認できる。図7(a)における点P1〜P3の結晶格子回折像が、図7(b)〜図7(d)にそれぞれ示されている。点P1は、第1磁化固定層10aに対応する。点P2は、中間層30に対応する。点P3は、第2磁性層20(磁化自由層)に対応する。
図7(b)に示すように、第1磁化固定層10a(Co−Fe−B層)に対応する点P1の回折像において、回折スポットが観察される。この回折スポットは、第1磁化固定層10aが結晶構造を有していることに起因する。
図7(c)に示すように、中間層30(Mg−O層)に対応する点P2の回折像において、回折スポットが観察されている。この回折スポットは、中間層30が結晶構造を有していることに起因する。
一方、図7(d)に示すように、第2磁性層20(磁化自由層のCo−Fe−B層)に対応する点P3の回折像においては、明確な回折スポットが観察されない。この回折像においては、アモルファス構造を反映したリング状の回折像が観察されている。この結果から、第1試料S01の第2磁性層20(磁化自由層のCo−Fe−B層)が、アモルファス部分を含んでいることがわかる。
図8(a)〜図8(d)は、歪検知素子の特性を例示する顕微鏡像である。
図8(a)は、第2試料S02の歪検知素子の断面透過型電子顕微鏡(断面TEM)写真像である。図8(b)〜図8(d)は、それぞれ、図8(a)の点P4〜P6についての、電子線のナノディフラクションによる結晶格子回折像である。
図8(a)からわかるように、第1磁化固定層10a(Co−Fe−B層)は結晶部分を含み、中間層30(Mg−O層)も結晶である。そして、中間層30の上の第2磁性層20(磁化自由層であるCo−Fe−B層)も、結晶部分を多く含んでいる。
図8(b)に示すように、第1磁化固定層10a(Co−Fe−B層)の回折像において、結晶構造に起因する回折スポットが確認される。
図8(c)に示すように、中間層30(Mg−O層)の回折像において、結晶構造に起因した回折スポットが確認される。
図8(d)に示すように、第2磁性層20(磁化自由層のCo−Fe−B層)の回折像においても、結晶構造に起因する回折スポットが確認される。この結果から、第2試料S02の第2磁性層20(磁化自由層のCo−Fe−B層)の大部分は、結晶構造を有していることがわかる。
図7(a)〜図7(d)からわかるように、高いゲージファクターを示す第1試料S01の磁化自由層は、アモルファス構造を含んでいる。一方、図8(a)〜図8(d)からわかるように、低いゲージファクターを示した第2試料S02の磁化自由層は、結晶構造を有している。
前述したとおり、第1試料S01及び第2試料S02のそれぞれにおいて、磁化自由層には、同じ組成のCo40Fe40B20層(4nm)が用いられている。それにもかかわらず、第1試料S01及び第2試料S02は、互いに異なるゲージファクターを有し、異なる結晶状態を有している。これは、磁化自由層(Co40Fe40B20層(4nm))上に設けられる機能層25の有無を反映していると考えられる。
第1試料S01及び第2試料S02の磁化自由層の結晶状態に違いについて、さらに説明する。
図9(a)、図9(b)、図10(a)及び図10(b)は、歪検知素子の特性を例示する模式図である。
図9(b)は、図7(a)の一部に対応し、図10(b)は、図8(a)の一部に対応する。
図9(a)及び図10(a)は、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy-Loss Spectroscopy:EELS)による、試料の元素のデプスプロファイルの評価結果である。図9(a)は、第1試料S01に対応し、図7(a)に示した線L1における元素のデプスプロファイルを示す。図10(b)は、第2試料S02に対応し、図8(a)に示した線L2における元素のデプスプロファイルを示す。これらの図において、横軸は、元素の検出の強度Int(任意単位)である。縦軸は、深さDp(nm)である。深さDpは、例えば、Z軸方向における距離に対応する。これらの図においては、鉄、ホウ素及び酸素に関するデプスプロファイルが示されている。
図10(a)に示したように、第2試料S02においては、キャップ層26cにおけるホウ素の強度Intが、第2磁性層20(磁化自由層であるCo−Fe−B層)におけるホウ素の強度Intよりも高い。第2磁性層20において、キャップ層26c側の側の部分におけるホウ素の強度Intは、第2磁性層20の中央部分におけるホウ素の強度Intよりも高い。ホウ素が、第2磁性層20からキャップ層26c側に拡散しており、第2磁性層20におけるホウ素の濃度が低下していると考えられる。
一方で、図9(a)に示したように、第1試料S01においては、第2磁性層20(磁化自由層のCo−Fe−B層)の中央部分において、ホウ素のピークが生じている。そして、キャップ層26cのホウ素含有量は少ない。第2磁性層20(磁化自由層のCo−Fe−B層)のホウ素濃度は、他の層にほとんど拡散せずに成膜時の初期状態を維持している。
上記から、第2磁性層20(磁化自由層)の上に設けられた機能層25(この例ではMg−O層)が、第2磁性層20からのホウ素の拡散を抑制する拡散バリアの効果を有していると考えられる。
上記の結果から、機能層25を設けない第2試料S02のCo40Fe40B20層における結晶化が、第1試料S01のCo40Fe40B20層よりも進行していると言える。すなわち、第1試料S01においては、Co40Fe40B20層は、アモルファス構造を維持している。一方、機能層25を設けない第2試料S02においては、結晶化が進行している。第2試料S02において、結晶化が進行している原因は、磁化自由層のホウ素が拡散して、磁化自由層のホウ素含有量が低下したためであると考えられる。
図11(a)及び図11(b)は、歪検知素子の特性を例示するグラフ図である。
これらの図は、Co40Fe40B20層のX線回折の評価結果を示している。図11(a)及び図11(b)は、それぞれ、第1試料S01及び第2試料S02に対応する。これらの図の横軸は、回転角2θ(度)である。縦軸は、強度Intである。
X線回折において、試料中のCo40Fe40B20層のみの回折ピークを得ることは困難である。このため、これらの試料においては、以下のモデル膜が用いられている。図11(a)に示した試料Sr1は、第1のMg−O層(中間層30)/Co40Fe40B20層/第2のMg−O(機能層25)/Ta(キャップ層26cに対応)の積層構造を有する。この試料Sr1は、機能層25を有しており、第1試料S01に対応する。一方、図11(b)に示した試料Sr2は、第1のMg−O層(中間層30)/Co40Fe40B20層/Ta(キャップ層26cに対応)の積層構造を有する。この試料Sr2は、機能層25を有しておらず、第2試料S02に対応する。
図11(a)及び図11(b)には、参考のため、320℃1Hアニールを行ったアニール後とアニール前のX線回折結果を示す。
図11(a)及び図11(b)からわかるように、アニール前では試料Sr1及び試料Sr2ともに、X線回折ピークは確認されず、磁化自由層がアモルファスとなっていることがわかる。一方、アニール後には、試料Sr2のほうが試料Sr1よりもCo50Fe50の回折ピークが強く出ている。
このことから、機能層25を設けない第2試料S02のCo40Fe40B20層における結晶化が、第1試料S01のCo40Fe40B20層よりも進行していると言える。すなわち、第1試料S01においては、Co40Fe40B20層は、アニール後もアモルファス構造を維持している。一方、機能層25を設けない第2試料S02においては、アニール後には、結晶化が進行している。
図12(a)及び図12(b)は、歪検知素子の特性を例示するグラフ図である。
これらの図は、上記の第1試料S01、第2試料S02及び第3試料S03の特性を示している。第3試料S03においては、磁化自由層としてホウ素を含まないFe50Co50(厚さ4nm)が用いられている。第3試料S03は、磁化自由層を除いて、第2試料S02と同じ構成を有する。
図12(a)は、保磁力Hc(Oe)を示している。図12(b)は、磁歪定数λ(ppm)を表している。第1試料S01及び第2試料S02については、アニール前BAの値と、アニール後AAの値と、を示している。
図8(a)に示すように、第1試料S01及び第2試料S02のアニール前BAにおいては、保磁力Hcは、3Oe〜4Oe程度である。アニール前BAにおいては、良好な軟磁気特性を示す。ただし、アニール前BAでは、MR変化率が低いため、高いゲージファクターを得ることができない。
第2試料S02においては、アニール後AAには、保磁力Hcは、27Oeに増大する。この値は、ホウ素を含まないCo50Fe50層を用いた第3試料S03の値とほぼ同じである。第2試料S02においてアニール後AAの保磁力Hcが増大するのは、第2試料S02においてはアニール後AAに結晶化が進行することによる。
一方、第1試料S01においては、アニール後AAの保磁力Hcは、アニール前BAの値を維持している。これは、第1試料S01においては、アニール後BAでも結晶化の進行が進まずアモルファス構造が維持されていることによる。
図8(b)に示したように、第1試料S01においては、アニール後AAの磁歪定数λは、アニール前BAの値を実質的に維持する。
図13は、歪検知素子の特性を例示する模式図である。
図13は、上記の第1〜第3試料S01〜S03の特性をモデル的に示している。
図13に表したように、アニール前において、ホウ素を多く含有するCo40Fe40B20層の保磁力Hcは小さい(第1試料S01及び第2試料S02)。一方、ホウ素を含有しないCo50Fe50層は、保磁力Hcは大きい。
第2試料S02においては、アニール時にCo40Fe40B20層のホウ素がキャップ層26c側に拡散してホウ素濃度が低下することで結晶化が進行して、第3試料S03と同等に、保磁力Hcが増大する。一方、第1試料S01においては、ホウ素の拡散が機能層25により抑制され、Co40Fe40B20層におけるホウ素濃度が維持されることで、結晶化の進行が抑制される。その結果、アニール後AAも、アニール前BAと同等に、保磁力Hcは小さく維持できる。その結果、第1試料S01においては、20ppmの大きい磁歪定数λと、3Oe程度の小さい保磁力Hcと、149%の高いMR変化率と、が得られる。その結果、4000以上の高いゲージファクターが得られる。
上記のように、ホウ素を含む第2磁性層20(磁化自由層)と、ホウ素の拡散を抑制する機能層25と、を組み合わせることにより、アニール後AAも磁化自由層中のホウ素の含有量を維持してアモルファス構造を維持することができる。
このように、本実施形態においては、アモルファス部分を含みホウ素を含む第2磁性層20と、ホウ素の拡散を抑制する酸化物及び窒化物の少なくともいずれかの機能層25と、を用いる。これにより、高感度の歪検知素子が提供できる。
以下、実施形態に係る歪検知素子の例について説明する。
第1電極E1及び第2電極E2には、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム銅合金(Al−Cu)、銅(Cu)、銀(Ag)、及び、金(Au)の少なくともいずれかが用いられる。第1電極E1及び第2電極E2として、このような電気抵抗が比較的小さい材料を用いることで、歪検知素子51に効率的に電流を流すことができる。第1電極E1には、非磁性材料を用いることができる。
第1電極E1は、例えば、第1電極E1用の下地層(図示せず)と、第1電極E1用のキャップ層(図示せず)と、それらの間に設けられた、Al、Al−Cu、Cu、Ag、及び、Auの少なくともいずれかの層と、を含んでも良い。例えば、第1電極E1には、タンタル(Ta)/銅(Cu)/タンタル(Ta)などが用いられる。第1電極E1用の下地層としてTaを用いることで、例えば、膜部70と第1電極E1との密着性が向上する。第1電極E1用の下地層として、チタン(Ti)、または、窒化チタン(TiN)などを用いても良い。
第1電極E1のキャップ層としてTaを用いることで、そのキャップ層の下の銅(Cu)などの酸化を防ぐことができる。第1電極E1用のキャップ層として、チタン(Ti)、または、窒化チタン(TiN)などを用いても良い。
下地層10lには、例えば、バッファ層(図示せず)と、シード層(図示せず)と、を含む積層構造を用いることができる。このバッファ層は、例えば、第1電極E1または膜部70の表面の荒れを緩和し、このバッファ層の上に積層される層の結晶性を改善する。バッファ層として、例えば、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)及びクロム(Cr)よりなる群から選択された少なくともいずれかが用いられる。バッファ層として、これらの材料から選択された少なくとも1つの材料を含む合金を用いても良い。
下地層10lのうちのバッファ層の厚さは、1nm以上10nm以下が好ましい。バッファ層の厚さは、1nm以上5nm以下がより好ましい。バッファ層の厚さが薄すぎると、バッファ効果が失われる。バッファ層の厚さが厚すぎると、歪検知素子51の厚さが過度に厚くなる。バッファ層の上にシード層が形成され、そのシード層がバッファ効果を有することができる。この場合、バッファ層は省略しても良い。バッファ層には、例えば、3nmの厚さのTa層が用いられる。
下地層10lのうちのシード層は、このシード層の上に積層される層の結晶配向を制御する。このシード層は、このシード層の上に積層される層の結晶粒径を制御する。このシード層として、fcc構造(face-centered cubic structure:面心立方格子構造)、hcp構造(hexagonal close-packed structure:六方最密格子構造)またはbcc構造(body-centered cubic structure:体心立方格子構造)の金属等が用いられる。
下地層10lのうちのシード層として、hcp構造のルテニウム(Ru)、または、fcc構造のNiFe、または、fcc構造のCuを用いることにより、例えば、シード層の上のスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。シード層には、例えば、2nmの厚さのCu層、または、2nmの厚さのRu層が用いられる。シード層の上に形成される層の結晶配向性を高める場合には、シード層の厚さは、1nm以上5nm以下が好ましい。シード層の厚さは、1nm以上3nm以下がより好ましい。これにより、結晶配向を向上させるシード層としての機能が十分に発揮される。
一方、例えば、シード層の上に形成される層を結晶配向させる必要がない場合(例えば、アモルファスの磁化自由層を形成する場合など)には、シード層は省略しても良い。シード層としては、例えば、2nmの厚さのRu層が用いられる。
ピニング層10pは、例えば、ピニング層10pの上に形成される第1磁性層10(強磁性層)に、一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して、第1磁性層10の磁化10mを固定する。ピニング層10pには、例えば、反強磁性層が用いられる。ピニング層10pには、例えば、Ir―Mn、Pt―Mn、Pd―Pt―Mn及びRu―Rh―Mnよりなる群から選択された少なくともいずれかが用いられる。十分な強さの一方向異方性を付与するために、ピニング層10pの厚さは適切に設定される。
ピニング層10pとして、PtMnまたはPdPtMnが用いられる場合には、ピニング層10pの厚さは、8nm以上20nm以下が好ましい。ピニング層10pの厚さは、10nm以上15nm以下がより好ましい。ピニング層10pとしてIrMnを用いる場合には、ピニング層10pとしてPtMnを用いる場合よりも薄い厚さで、一方向異方性を付与することができる。この場合には、ピニング層10pの厚さは、4nm以上18nm以下が好ましい。ピニング層10pの厚さは、5nm以上15nm以下がより好ましい。ピニング層10pには、例えば、7nmの厚さのIr22Mn78層が用いられる。
ピニング層10pとして、ハード磁性層を用いても良い。ハード磁性層として、例えば、CoPt(Coの比率は、50at.%以上85at.%以下)、(CoxPt100−x)100−yCry(xは、50at.%以上85at.%以下であり、yは、0at.%以上40at.%以下)、または、FePt(Ptの比率は、40at.%以上60at.%以下)などを用いても良い。
第2磁化固定層10bには、例えば、CoxFe100−x合金(xは、0at.%以上100at.%以下)、NixFe100−x合金(xは、0at.%以上100at.%以下)、または、これらに非磁性元素を添加した材料が用いられる。第2磁化固定層10bとして、例えば、Co、Fe及びNiよりなる群から選択された少なくともいずれかが用いられる。第2磁化固定層10bとして、これらの材料から選択された少なくとも1つの材料を含む合金を用いても良い。第2磁化固定層10bとして、(CoxFe100−x)100−yBy合金(xは、0at.%以上100at.%以下であり、yは、0at.%以上30at.%以下)を用いることもできる。第2磁化固定層10bとして、(CoxFe100−x)100−yByのアモルファス合金を用いることで、歪検知素子51のサイズが小さい場合にも、歪検知素子51の特性のばらつきを抑えることができる。
第2磁化固定層10bの厚さは、例えば、1.5nm以上5nm以下が好ましい。これにより、例えば、ピニング層10pによる一方向異方性磁界の強度をより強くすることができる。例えば、第2磁化固定層10bの上に形成される磁気結合層10cを介して、第2磁化固定層10bと第1磁化固定層10aとの間の反強磁性結合磁界の強度をより強くすることができる。例えば、第2磁化固定層10bの磁気膜厚(飽和磁化Bsと厚さtとの積(Bs・t))は、第1磁化固定層10aの磁気膜厚と、実質的に等しいことが好ましい。
薄膜でのCo40Fe40B20の飽和磁化は、約1.9T(テスラ)である。例えば、第1磁化固定層10aとして、3nmの厚さのCo40Fe40B20層を用いると、第1磁化固定層10aの磁気膜厚は、1.9T×3nmであり、5.7Tnmとなる。一方、Co75Fe25の飽和磁化は、約2.1Tである。上記と等しい磁気膜厚が得られる第2磁化固定層10bの厚さは、5.7Tnm/2.1Tであり、2.7nmとなる。この場合、第2磁化固定層10bには、約2.7nmの厚さのCo75Fe25層を用いることが好ましい。第2磁化固定層10bとして、例えば、2.5nmの厚さのCo75Fe25層が用いられる。
歪検知素子51においては、第1磁性層10には、第2磁化固定層10bと磁気結合層10cと第1磁化固定層10aとにより、シンセティックピン構造が用いられている。第1磁性層10に、1層の磁化固定層からなるシングルピン構造を用いても良い。シングルピン構造を用いる場合には、磁化固定層として、例えば、3nmの厚さのCo40Fe40B20層が用いられる。シングルピン構造の磁化固定層に用いる強磁性層として、上述した第2磁化固定層10bの材料と同じ材料を用いても良い。
磁気結合層10cは、第2磁化固定層10bと第1磁化固定層10aとの間において、反強磁性結合を生じさせる。磁気結合層10cは、シンセティックピン構造を形成する。磁気結合層10cとして、例えば、Ruが用いられる。磁気結合層10cの厚さは、例えば、0.8nm以上1nm以下であることが好ましい。第2磁化固定層10bと第1磁化固定層10aとの間に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、磁気結合層10cとしてRu以外の材料を用いても良い。磁気結合層10cの厚さは、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合のセカンドピーク(2ndピーク)に対応する0.8nm以上1nm以下の厚さに設定することができる。さらに、磁気結合層10cの厚さは、RKKY結合のファーストピーク(1stピーク)に対応する0.3nm以上0.6nm以下の厚さに設定しても良い。磁気結合層10cとして、例えば、0.9nmの厚さのRuが用いられる。これにより、高信頼性の結合がより安定して得られる。
第1磁化固定層10aに用いられる磁性層は、MR効果に直接的に寄与する。第1磁化固定層10aとして、例えば、Co−Fe−B合金が用いられる。具体的には、第1磁化固定層10aとして、(CoxFe100−x)100−yBy合金(xは、0at.%以上100at.%以下であり、yは、0at.%以上30at.%以下)を用いることもできる。第1磁化固定層10aとして、(CoxFe100−x)100−yByのアモルファス合金を用いた場合には、例えば、歪検知素子51のサイズが小さい場合においても、結晶粒に起因した素子間のばらつきを抑えることができる。
第1磁化固定層10aの上に形成される層(例えばトンネル絶縁層(図示せず))を平坦化することができる。トンネル絶縁層の平坦化により、トンネル絶縁層の欠陥密度を減らすことができる。これにより、より低い面積抵抗で、より大きいMR変化率が得られる。例えば、トンネル絶縁層の材料としてMg−Oを用いる場合には、第1磁化固定層10aとして、(CoxFe100−x)100−yByのアモルファス合金を用いることで、トンネル絶縁層の上に形成されるMg−O層の(100)配向性を強めることができる。Mg−O層の(100)配向性をより高くすることで、より大きいMR変化率が得られる。(CoxFe100−x)100−yBy合金は、アニール時にMg−O層の(100)面をテンプレートとして結晶化する。このため、Mg−Oと(CoxFe100−x)100−yBy合金との良好な結晶整合が得られる。良好な結晶整合を得ることで、より大きいMR変化率が得られる。
第1磁化固定層10aとして、Co−Fe−B合金以外に、例えば、Fe−Co合金を用いても良い。
第1磁化固定層10aがより厚いと、より大きなMR変化率が得られる。より大きな固定磁界を得るためには、第1磁化固定層10aは、薄いほうが好ましい。MR変化率と固定磁界との間には、第1磁化固定層10aの厚さにおいてトレードオフの関係が存在する。第1磁化固定層10aとしてCo−Fe−B合金を用いる場合には、第1磁化固定層10aの厚さは、1.5nm以上5nm以下が好ましい。第1磁化固定層10aの厚さは、2.0nm以上4nm以下がより好ましい。
第1磁化固定層10aには、上述した材料の他に、fcc構造のCo90Fe10合金、または、hcp構造のCo、または、hcp構造のCo合金が用いられる。第1磁化固定層10aとして、例えば、Co、Fe及びNiよりなる群から選択された少なくとも1つが用いられる。第1磁化固定層10aとして、これらの材料から選択された少なくとも1つの材料を含む合金が用いられる。第1磁化固定層10aとして、bcc構造のFeCo合金材料、50at.%以上のコバルト組成を含むCo合金、または、50at.%以上のNi組成の材料(Ni合金)を用いることで、例えば、より大きなMR変化率が得られる。
第1磁化固定層10aとして、例えば、Co2MnGe、Co2FeGe、Co2MnSi、Co2FeSi、Co2MnAl、Co2FeAl、Co2MnGa0.5Ge0.5、及び、Co2FeGa0.5Ge0.5などのホイスラー磁性合金層を用いることもできる。例えば、第1磁化固定層10aとして、例えば、3nmの厚さのCo40Fe40B20層が用いられる。
中間層30は、例えば、第1磁性層10と第2磁性層20との磁気的な結合を分断する。中間層30には、例えば、金属または絶縁体または半導体が用いられる。この金属としては、例えば、Cu、AuまたはAg等が用いられる。中間層30として金属を用いる場合、中間層30の厚さは、例えば、1nm以上7nm以下程度である。この絶縁体または半導体としては、例えば、マグネシウム酸化物(Mg−O等)、アルミニウム酸化物(Al2O3等)、チタン酸化物(Ti−O等)、亜鉛酸化物(Zn−O等)、または、ガリウム酸化物(Ga−O)などが用いられる。中間層30として絶縁体または半導体を用いる場合は、中間層30の厚さは、例えば0.6nm以上2.5nm以下程度である。中間層30として、例えば、CCP(Current-Confined-Path)スペーサ層を用いても良い。スペーサ層としてCCPスペーサ層を用いる場合には、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)の絶縁層中に銅(Cu)メタルパスが形成された構造が用いられる。例えば、中間層30として、1.6nmの厚さのMg−O層が用いられる。
第2磁性層20には、強磁性体材料が用いられる。本実施形態では、第2磁性層20として、ホウ素を含むアモルファス構造の強磁性材料を用いることで、高いゲージファクターを実現することができる。第2磁性層20には、Fe、Co及びNiよりなる群から選択される少なくとも一つの元素とホウ素(B)とを含む合金を用いることができる。例えば、第2磁性層20には、Co−Fe−B合金、Fe−B合金、または、Fe−Co−Si−B合金などを用いることができる。第2磁性層20には、Fe、Co及びNiよりなる群から選択される少なくとも一つの元素とホウ素(B)とを含む合金を用いることができる。例えば、第2磁性層20には、4nmの厚さのCo40Fe40B20層を用いることができる。
第2磁性層20は、多層構造を有しても良い。第2磁性層20は、例えば、2層構造を有しても良い。中間層30としてMg−Oのトンネル絶縁層を用いる場合には、第2磁性層20のうちの中間層30に接する部分には、Co−Fe−B合金やFe−B合金の層を設けることが好ましい。これにより、高い磁気抵抗効果が得られる。
例えば、第2磁性層20は、中間層30の側の第1部分と、機能層25の側の第2部分と、を含む。第1部分は、例えば、第2磁性層20のうちの中間層30に接する部分を含む。この第1部分には、Co−Fe−B合金の層が用いられる。そして、第2部分には、例えば、Fe−B合金が用いられる。すなわち、第2磁性層20として、例えば、Co−Fe−B/Fe−B合金が用いられる。このCo40Fe40B20層の厚さは、例えば、0.5nmである。第2磁性層20として用いられる上記のFe−B合金層の厚さは、例えば、6nmである。
本実施形態において、第2磁性層20として、ホウ素を含みアモルファス部分を含む強磁性材料を用いることにより、高いゲージファクターを得ることができる。第2磁性層20に用いることのできる材料の例については、後述する。
本実施形態においては、機能層25には、酸化物または窒化物を用いることができる。機能層25として、例えば、1.5nmの厚さのMg−O層を用いることができる。本実施形態では、機能層25として、酸化物層または窒化物層を用いることにより、例えば、第2磁性層20に含まれるホウ素の拡散が抑制される。これにより、第2磁性層20におけるアモルファス構造を保つことができる。その結果、高いゲージファクターを得ることができる。機能層25に用いることのできる材料の例については、後述する。
キャップ層26cは、キャップ層26cの下に設けられる層を保護する。キャップ層26cには、例えば、複数の金属層が用いられる。キャップ層26cには、例えば、Ta層とRu層との2層構造(Ta/Ru)が用いられる。このTa層の厚さは、例えば1nmであり、このRu層の厚さは、例えば5nmである。キャップ層26cとして、Ta層やRu層の代わりに他の金属層を設けても良い。キャップ層26cの構成は、任意である。例えば、キャップ層26cとして、非磁性材料を用いることができる。キャップ層26cの下に設けられる層を保護可能なものであれば、キャップ層26cとして、他の材料を用いても良い。
第2磁性層20(磁化自由層)の構成及び材料の例についてさらに説明する。
第2磁性層20には、Fe、Co及びNiから選択される少なくとも一つの元素と、ホウ素(B)と、を含む合金を用いることができる。第2磁性層20には、例えば、Co−Fe−B合金、または、Fe−B合金などを用いることができる。第2磁性層20には、例えば、(CoxFe100−x)100−yBy合金(xは、0at.%以上100at.%以下であり、yは、0at.%よりも大きく40at.%以下)を用いることができる。第2磁性層20には、例えば、4nmの厚さのCo40Fe40B20層を用いることができる。
第2磁性層20に、Fe、Co及びNiよりなる群から選択される少なくとも一つの元素と、ホウ素(B)と、を含む合金を用いる場合、大きい磁歪定数λを促進する元素として、Ga、Al、Si及びWの少なくともいずれかを添加しても良い。第2磁性層20として、例えば、Fe−Ga−B合金、Fe−Co−Ga−B合金、または、Fe−Co−Si−B合金を用いても良い。
第2磁性層20の少なくとも一部に、Fe1−yBy(0<y≦0.3)、または、(FeaX1−a)1−yBy(Xは、CoまたはNi、0.8≦a<1、0<y≦0.3)を用いる場合は、大きい磁歪定数λと低い保磁力を両立することが容易となるため、特に好ましい。例えば、4nmの厚さのFe80B20層を用いることができる。
第2磁性層20は、上記のように、アモルファス部分を含む。第2磁性層20のうちの一部が結晶化していてもよい。第2磁性層20は、結晶化した部分を含みつつ、アモルファス部分を含んでも良い。
磁化自由層における磁歪定数λ及び保磁力Hcは、磁化自由層に含まれる強磁性材料の体積比に応じた加算可能な特性である。磁化自由層中に結晶化している部分が存在している場合も、アモルファス部分の磁気特性が得られることで、小さい保磁力Hcを得ることができる。例えば、中間層30に絶縁体を用いたトンネル磁気抵抗効果を用いる場合、第2磁性層20の中間層30との界面を含む部分は、結晶化していることが好ましい。これにより、例えば、高いMR変化率が得られる。
第2磁性層20におけるホウ素濃度(例えば、ホウ素の組成比)は、5at.%(原子パーセント)以上が好ましい。これにより、アモルファス構造が得易くなる。第2磁性層20におけるホウ素濃度は、35at.%以下が好ましい。ホウ素濃度が高すぎると、例えば、磁歪定数が減少する。第2磁性層20におけるホウ素濃度は、例えば、5at.%以上35at.%以下が好ましく、10at.%以上30at.%以下がさらに好ましい。
例えば、第2磁性層20は、中間層30の側の第1部分と、機能層25の側の第2部分と、を含む。第1部分は、例えば、第2磁性層20のうちの中間層30に接する部分を含む。この第1部分には、Co−Fe−B合金の層が用いられる。そして、第2部分には、例えば、Fe−Ga−B合金を用いる。すなわち、第2磁性層20として、例えば、Co−Fe−B/Fe−Ga−B合金が用いられる。このCo40Fe40B20層の厚さは、例えば、2nmである。このFe−Ga−B層の厚さは、例えば、6nmである。また、Co−Fe−B/Fe−B合金を用いることができる。このCo40Fe40B20の厚さは、例えば、0.5nmである。このFe−B厚さは、例えば、4nmである。既に説明したように、第2磁性層20として、例えば、Co−Fe−B/Fe−B合金を用いても良い。この場合、Co40Fe40B20層の厚さは、例えば、0.5nmである。このFe−B層の厚さは、例えば、4nmである。このように、中間層30側の第1部分に、Co−Fe−B合金を用いることで高いMR変化率を得ることができる。
第2磁性層20のうちの中間層30との界面を含む第1部分には、結晶化した、Fe50Co50(厚さ0.5nm)を用いても良い。第2磁性層20のうちの中間層30との界面を含む第1部分には、結晶化した、Fe50Co50(厚さ0.5nm)/Co40Fe40B20(厚さ2nm)のような2層構造を用いても良い。
第2磁性層20として、Fe50Co50(厚さ0.5nm)/Co40Fe40B20(厚さ4nm)の積層膜を用いても良い。第2磁性層20として、Fe50Co50(厚さ0.5nm)/Co40Fe40B20(厚さ2nm)/Co35Fe35B30(厚さ4nm)の積層膜を用いても良い。この積層膜においては、中間層30から離れるに従って、ホウ素濃度が上昇する。
図14は、第1の実施形態に係る歪検知素子を例示する模式図である。
図14は、実施形態に係る歪検知素子50(歪検知素子51)におけるホウ素濃度の分布を例示している。
図14に表したように、第2磁性層20は、第1部分20pと、第2部分20qと、を含む。第1部分10pは、中間層30と第2部分20qとの間に設けられる。例えば、第1部分20pは、第2磁性層20のうちの中間層30に接する部分を含む。例えば、第2部分20qは、第2磁性層20のうちの機能層25に接する部分を含む。
図14に表したように、第2磁性層20のうちの第1部分20p(中間層30の側の部分)ホウ素濃度CBを低くすることによって、第1部分20pにおけるMR変化率を向上することができる。これにより、磁化方向の変化に対する電気抵抗Rの変化を大きくでき、高いゲージファクターを得ることができる。一方、第2部分20q(中間層30から離れた部分)におけるホウ素濃度CBを高くすることで、第2部分20qにおいて、保磁力Hcを小さくすることができ、第2磁性層20全体の保磁力Hcを小さくすることができる。
中間層にMg−Oなどを用いたトンネル型の磁気抵抗効果を用いる場合、MR変化率は、中間層に接する約0.5nmの厚さの磁性材料の組成や結晶構造に依存する。つまり、MR変化率は、中間層近傍の磁性層のみで決定される。一方、磁化自由層が積層膜の場合、磁歪及び保磁力などの磁気特性においては、積層膜に含まれる各層の厚さに応じて、例えば、最も厚い層の特徴が最も強く反映される。これは、磁化自由層に含まれる磁性材料の積層体が交換結合して平均化されるためである。実施形態において、例えば、中間層の近傍に結晶性を有する磁性材料の層を設ける。これにより、高いMR変化率が得られる。一方、中間層に接しない第2部分20qに、ホウ素を含有するアモルファスの磁性材料の層を設ける。これにより、低い保磁力が得られる。これにより、高いMR変化率とともに、低い保磁力を得ることができる。
このようなホウ素濃度CBの分布に関する情報は、例えば、SIMS分析(secondary ion mass spectrometry)により得られる。断面TEMとEELSとの組み合わせにより、この情報が得られる。EELS分析により、この情報が得られる。3次元アトムプローブ分析によっても、この情報が得られる。
第1部分20p(結晶化の程度が相対的に高い部分)の厚さは、例えば、第2部分20q(結晶化の程度が相対的に低い部分であり、アモルファス部分)の厚さよりも薄い。これにより、例えば、小さい保磁力Hcを得ることが容易になる。第1部分20pの厚さは、例えば、第2部分20qの厚さの1/3以下である。
以下、第4試料S04について説明する。第4試料S04においては、第2磁性層20の第1部分20pにおけるホウ素濃度は、第2部分20qにおけるホウ素濃度濃度よりも低くされている。
第4試料S04に含まれる各層の材料と厚さは、以下である。
下地層10l :Ta(1nm)/Ru(2nm)
ピニング層10p :Ir22Mn78 (7nm)
第2磁化固定層10b :Co75Fe25 (2.5nm)
磁気結合層10c :Ru (0.9nm)
第1磁化固定層10a :Co40Fe40B20 (3nm)
中間層30 :Mg−O (1.6nm)
第2磁性層20 :Co50Fe50(0.5nm)/Co40Fe40B20(8nm)
機能層25 :Mg−O (1.5nm)
キャップ層26c :Cu(1nm)/Ta(2nm)/Ru(5nm)
第4試料S04では、磁化自由層にCo50Fe50(0.5nm)/Co40Fe40B20(8nm)を用い、磁化自由層に、ホウ素濃度が低い第1部分20pと、ホウ素濃度の高い第2部分20qと、を設けている。
第4試料S04の評価結果の例について説明する。
図15は、歪検知素子の特性を例示する顕微鏡像である。
図15は、第4試料S04の歪検知素子の断面透過型電子顕微鏡写真像である。
図15からわかるように、第2磁性層20において、中間層30の側の第1部分20pは、結晶構造を有している。機能層25の側の第2部分20qは、アモルファス構造を有していることがわかる。
図16(a)及び図16(b)は、歪検知素子の特性を例示する模式図である。
図16(b)は、図15(a)の一部に対応する。
図16(a)は、EELSによる、第4試料S04の元素のデプスプロファイルの評価結果である。図16(a)は、図15(a)に示した線L3における元素のデプスプロファイルを示す。
図16(a)からわかるわかるように、第1試料S01と同様に、機能層25を設けることで、磁化自由層(第2磁性層)のホウ素が、他の層に拡散せずに磁化自由層にとどまっていることがわかる。磁化自由層中のうちの中間層30の側の第1部分20pにおけるホウ素のEELS強度は、機能層25の側の第2部分20qにおけるホウ素のEELS強度よりも低い。
第4試料S04のMRの値は、187%である。第4試料S04のMRの値は、第1試料S01のMRの値よりも高い。第4試料S04においては、MR変化率が向上する。これは、中間層30(Mg−O層)の側に、結晶性を有する第1部分20pが設けられていることに起因していると考えられる。第4試料S04においては、高いMR変化率により、ゲージファクターを向上することができる。
第4試料S04において、磁歪は、20ppmであり、保磁力は、3.8Oeである。この結果より、結晶性を有する第1部分20pを設けた場合でも、アモルファス構造の第2部分20qを設けることで、低い保磁力が実現できる。第2磁性層20における磁気特性は、例えば、第1部分20pの磁気特性と、第2部分20qの磁気特性と、の和となる。
機能層25には、酸化物材料、または、窒化物材料が用いられる。酸化物材料または窒化物材料は、それぞれの材料内で原子が化学結合している。このため、ホウ素の拡散を抑制する効果が高い。例えば、機能層25として、2.0nmの厚さのMg−O層を用いることができる。
機能層25に用いる酸化物材料または窒化物材料として、既に説明したように、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Sn、Cd及びGaよりなる第1群から選択された少なくともいずれかの元素を含む酸化物材料、または、第1群から選択された少なくともいずれかの元素を含む窒化物材料を用いることができる。
機能層25は、磁気抵抗効果には寄与しない。このため、機能層25の面積抵抗は低いことが好ましい。例えば、機能層25の面積抵抗は、磁気抵抗効果に寄与する中間層30の面積抵抗よりも低いことが好ましい。機能層25には、例えば、Mg、Ti、V、Zn、Sn、Cd及びGaよりなる群から選択された少なくともいずれかの元素を含む酸化物、または、その元素を含む窒化物が用いられる。これらの元素の酸化物または窒化物のバリアハイトは、低い。これらの元素の酸化物または窒化物を用いることで、機能層25の面積抵抗を低減できる。
機能層25には、酸化物を用いることがさらに好ましい。酸化物における化学結合は、窒化物における化学結合よりも強い。機能層25には、酸化物を用いることで、例えば、ホウ素の拡散の抑制がより有効に実施できる。
本願明細書において、酸窒化物は、酸化物及び窒化物のいずれかに含める。例えば、酸窒化物において、酸素の比率が窒素の比率よりも高い場合は、その酸窒化物は酸化物に含めることができる。例えば、酸窒化物において、窒素の比率が酸素の比率よりも高い場合は、その酸窒化物は窒化物に含めることができる。
機能層25に酸化物または窒化物を用いる場合、機能層25の厚さは、0.5nm以上が好ましい。これにより、例えば、ホウ素の拡散の抑制が効果的に行われる。機能層25の厚さは、5nm以下が好ましい。これにより、例えば、面積抵抗を低くできる。機能層25の厚さは、0.5nm以上5nm以下が好ましく、1nm以上3nm以下がさらに好ましい。機能層25の厚さは、2nm以上でも良い。
第2磁性層20と、機能層25と、の間に他の金属層などが挿入されていてもよい。第2磁性層20と機能層25との間の距離が過度に長いと、例えば、その間の領域でホウ素が拡散して第2磁性層20のホウ素濃度が下がる場合がある。第2磁性層20と機能層25との間の距離は、例えば、10nm以下が好ましく3nm以下がさらに好ましい。
図17(a)〜図17(e)は、第1の実施形態に係る別の歪検知素子を例示する模式図である。
図17(a)に表したように、本実施形態に係る歪検知素子52aにおいては、磁性層27がさらに設けられている。磁性層27と第2磁性層20との間に、機能層25が配置される。磁性層27の磁化(の方向)は、変化可能である。磁性層27には、第2磁性層20に関して説明した材料および構成が適用できる。磁性層27と第2磁性層20とが、一体となって、磁化自由層として機能しても良い。
磁性層27及び第2磁性層20が磁化自由層であると見なすと、機能層25が、磁化自由層中に設けられている、と見なすことができる。この場合も、機能層25により、第2磁性層20からのホウ素の拡散が抑制でき、小さい保磁力Hcが得られる。磁性層27においては、ホウ素が拡散して保磁力Hcの増大が生じると考えられるが、磁化自由層全体としての保磁力Hcを小さく保つことができる。このように、機能層25を、磁化自由層中に設けても良い。機能層25を磁化自由層中に設ける場合において、機能層25として、複数の層を含む積層膜を用いても良い。
図17(b)〜17(e)に表したように、本実施形態に係る歪検知素子52b〜52eにおいては、第2磁性層20の中に、機能層25が設けられている。この場合にも、高いゲージファクタが得られる。
図17(c)に例示した歪検知素子52cにおいては、第2磁性層20の中に、2つの機能層25が設けられている。機能層25の数は、3以上でも良い。
図17(d)に例示した歪検知素子52dにおいては、キャップ層側に1つの機能層25が設けられている。さらに、第2磁性層20の中に機能層25が設けられている。
図17(e)に例示した歪検知素子52eにおいては、キャップ層側に1つの機能層25が設けられている。さらに、第2磁性層20の中に複数の機能層25が設けられている。機能層25の数は、3つ以上でも良い。
図17(a)〜17(e)に示したとおり、第2磁性層20のうちの第1部分20p(中間層30の側の部分)におけるホウ素濃度CBを低くすることによって、第1部分20pにおけるMR変化率を向上することができる。これにより、磁化方向の変化に対する電気抵抗Rの変化を大きくでき、高いゲージファクターを得ることができる。一方、第2部分20q(中間層30から離れた部分)におけるホウ素濃度CBを高くすることで、第2部分20qにおいて、保磁力Hcを小さくすることができ、第2磁性層20全体の保磁力Hcを小さくすることができる。図17(c)〜17(e)に示したとおり、複数の機能層25がある場合には、第2磁性層20の中で、第1部分20pよりも相対的に中間層から離れ、複数の機能層25のうちいずれかの機能層25よりも中間層30側の層を、第2部分20qと見なすことができる。
上記のように、機能層25は、磁化自由層中に設けても良い。この場合、磁化自由層のうちの機能層25と中間層30との間に位置する部分におけるホウ素の拡散が抑制できる。これにより、小さい保磁力Hcが得られる。すなわち、磁化自由層全体の保磁力Hcを小さく保つことができる。機能層25を磁化自由層中に設ける場合において、複数の機能層25を設けても良い。
図18(a)〜図18(c)は、第1の実施形態に係る別の歪検知素子を例示する模式図である。
図18(a)は、実施形態に係る歪検知素子52fを示す模式的断面図である。図18(b)は、歪検知素子52fにおけるホウ素濃度の分布を例示している。
図18(a)に表したように、第2磁性層20は、磁性膜21aと、磁性膜21bと、非磁性膜21cと、含む。非磁性膜21cは、磁性膜21aと磁性膜21bとの間に配置される。第2磁性膜21bと中間層30との間に、磁性膜21aが配置される。非磁性膜21cには、非磁性材料が用いられる。
磁性膜21aには、例えば、Co40Fe40B20が用いられる。磁性膜21aの厚さは、例えば、1.5nm以上2.5nmである。磁性膜21bには、例えば、Co35Fe35B30が用いられる。磁性膜21bの厚さは、例えば、3nm以上5nm以下である。非磁性膜21cには、例えば、Ruが用いられる。非磁性膜21cの厚さは、0.4nm以上1.2nm以下である。
磁性膜21bの磁化と、磁性膜21aの磁化とは、互いに連動する。磁性膜21bと、磁性膜21aと、は、一体的に動作する。磁性膜21aと、磁性膜21bと、非磁性膜21cと、の積層体が、磁化自由層となる。非磁性膜21cの厚さが、例えば約1.2nm以下のときに、磁性膜21bの磁化と、磁性膜21aの磁化とは、互いに連動する。
図18(c)は、実施形態に係る歪検知素子52gを示す模式的断面図である。
図18(c)に表したように、第2磁性層20は、磁性膜21a、非磁性膜21c、磁性膜21b、非磁性膜21e及び磁性膜21dを含む。これらの膜が、この順に積層される。例えば、磁性膜21dには、磁性膜21aに関して説明した構成が適用できる。非磁性膜21eには、非磁性膜21cに関して説明した構成が適用できる。このように、第2磁性層20中に非磁性膜が複数設けられていても良い。第2磁性層20中の非磁性膜の数は3以上でもよい。
実施形態において、中間層30は、積層構造を有していても良い。例えば、中間層30は、第1非磁性膜と、第2非磁性膜と、を含んでも良い。第2非磁性膜は、第1非磁性膜と第2磁性層20との間に設けられる。第1非磁性膜には例えば、Mg−O膜が設けられる。第2非磁性膜には、第1非磁性膜よりもMg濃度が高い膜が用いられる。
図19は、第1の実施形態に係る別の歪検知素子を例示する模式的斜視図である。
図19に例示したように、本実施形態に係る歪検知素子53においては、絶縁層35が設けられる。例えば、第1電極E1と第2電極E2との間に、絶縁層35(絶縁部分)が設けられている。絶縁層35は、第1電極E1と第2電極E2との間において、積層体10sを囲む。積層体10sの側壁に対向して、絶縁層35が設けられる。
絶縁層35には、例えば、アルミニウム酸化物(例えば、Al2O3)、または、シリコン酸化物(例えば、SiO2)などを用いることができる。絶縁層35により、積層体10sの周囲におけるリーク電流を抑制することができる。
図20は、第1の実施形態に係る別の歪検知素子を例示する模式的斜視図である。
図20に例示したように、本実施形態に係る歪検知素子54においては、ハードバイアス層36がさらに設けられる。第1電極E1と第2電極E2との間に、ハードバイアス層36(ハードバイアス部分)が設けられる。例えば、ハードバイアス層36と積層体10sとの間に、絶縁層35が配置される。この例では、ハードバイアス層36と第1電極E1との間に、絶縁層35が延在している。
ハードバイアス層36の磁化により、第1磁性層10の磁化10m及び第2磁性層20の磁化20mの少なくともいずれかが、所望の方向に設定される。ハードバイアス層36により、力が歪検知素子に印加されていない状態において、磁化10m及び磁化20mの少なくともいずれかを所望の方向に設定できる。
ハードバイアス層36には、例えば、CoPt、CoCrPt、または、FePt等の磁気異方性が比較的高い硬質強磁性材料が用いられる。ハードバイアス層36には、FeCoまたはFeなどの軟磁性材料の層と、反強磁性層と、を積層した構造を用いることができる。この場合には、交換結合により、磁化が所定の方向に沿う。ハードバイアス層36の厚さ(例えば、第1電極E1から第2電極E2に向かう方向に沿った長さ)は、例えば5nm以上50nm以下である。
上記のハードバイアス層36及び絶縁層35は、上記及び以下で説明する歪検知素子のいずれにも適用できる。
図21は、第1の実施形態に係る別の歪検知素子を例示する模式的斜視図である。
図21に表したように、本実施形態に係る別の歪検知素子55aは、順に並んだ、第1電極E1(例えば、下部電極)と、下地層10lと、機能層25と、第2磁性層20(磁化自由層)と、中間層30と、第1磁化固定層10aと、磁気結合層10cと、第2磁化固定層10bと、ピニング層10pと、キャップ層26cと、第2電極E2(例えば上部電極)と、を含む。歪検知素子55aは、トップスピンバルブ型である。
下地層10lには、例えば、Ta/Cuが用いられる。このTa層の厚さは、例えば、3nmである。このRu層の厚さは、例えば、5nmである。
機能層25には、例えば、Mg−Oが用いられる。このMg−O層の厚さは、例えば、1.5nmである。
第2磁性層20には、例えば、Co40Fe40B20が用いられる。
このCo40Fe40B20層の厚さは、例えば4nmである。
中間層30には、例えば、1.6nmの厚さのMg−O層が用いられる。
第1磁化固定層10aには、例えば、Co40Fe40B20/Fe50Co50が用いられる。このCo40Fe40B20層の厚さは、例えば2nmである。このFe50Co50層の厚さは、例えば1nmである。
磁気結合層10cには、例えば、0.9nmの厚さのRu層が用いられる。
第2磁化固定層10bには、例えば、2.5nmの厚さのCo75Fe25層が用いられる。
ピニング層10pには、例えば、7nmの厚さのIrMn層が用いられる。
キャップ層26cには、Ta/Ruが用いられる。このTa層の厚さは、例えば、1nmである。このRu層の厚さは、例えば、5nmである。
歪検知素子55aに含まれる層のそれぞれには、例えば、歪検知素子51に関して説明した材料を用いることができる。
図22は、第1の実施形態に係る別の歪検知素子を例示する模式的斜視図である。
図22に表したように、本実施形態に係る別の歪検知素子55bは、順に並んだ、第1電極E1(例えば下部電極)と、下地層10lと、ピニング層10pと、第1磁性層10と、中間層30と、第2磁性層20と、機能層25と、キャップ層26cと、第2電極E2(例えば上部電極)と、を含む。歪検知素子55bには、単一の磁化固定層を用いたシングルピン構造が適用されている。
下地層10lには、例えば、Ta/Ruが用いられる。このTa層の厚さは、例えば、3nmである。このRu層の厚さは、例えば、2nmである。
ピニング層10pには、例えば、7nmの厚さのIrMn層が用いられる。
第1磁性層10には、例えば、3nmの厚さのCo40Fe40B20層が用いられる。
中間層30には、例えば、1.6nmの厚さのMg−O層が用いられる。
第2磁性層20には、例えば、Co40Fe40B20が用いられる。このCo40Fe40B20層の厚さは、例えば4nmである。
機能層25には、例えば、1.5nmの厚さのMg−O層が用いられる。
キャップ層26cには、例えば、Ta/Ruが用いられる。このTa層の厚さは、例えば、1nmである。このRu層の厚さは、例えば、5nmである。
歪検知素子55bに含まれる層のそれぞれには、例えば、歪検知素子51に関して説明した材料を用いることができる。
図23は、第1の実施形態に係る別の歪検知素子を例示する模式的斜視図である。
図23に表したように、本実施形態に係る別の歪検知素子55bは、順に並んだ、第1電極E1(例えば下部電極)と、下地層10lと、別の機能層25a(第2の機能層)と、第1磁性層10、中間層30と、第2磁性層20と、機能層25(第1の機能層)と、キャップ層26cと、第2電極E2(例えば上部電極)と、を含む。この例では、第1磁性層10は、磁化自由層であり、第2磁性層20も磁化自由層である。
下地層10lには、例えば、Ta/Ruが用いられる。このTa層の厚さは、例えば、3nmである。このRu層の厚さは、例えば、45nmである。
機能層25aには、例えば、1.5nmの厚さのMg−O層が用いられる。
第1磁性層10には、例えば、4nmの厚さのCo40Fe40B20層が用いられる。
中間層30には、例えば、1.6nmの厚さのMg−O層が用いられる。
第2磁性層20には、例えば、Co40Fe40B20が用いられる。このCo40Fe40B20層の厚さは、例えば、4nmである。
機能層25には、例えば、1.5nmの厚さのMg−O層が用いられる。
キャップ層26cには、例えば、Ta/Ruが用いられる。このTa層の厚さは、例えば、1nmである。このRu層の厚さは、例えば、5nmである。
歪検知素子55cに含まれる層のそれぞれには、例えば、歪検知素子51に関して説明した材料を用いることができる。歪検知素子55cにおける第1磁性層10には、歪検知素子51における第2磁性層20に関して説明した材料及び構成が適用できる。歪検知素子55cにおける機能層25aには、歪検知素子51における機能層25に関して説明した材料及び構成が適用できる。
この例において、第1磁性層10を第2磁性層20と見なし、機能層25を機能層25aと見なしても良い。
歪検知素子55cのように、2つの磁化自由層が設けられる場合において、2つの磁化自由層の磁化どうしの間の相対角度が、歪εに応じて変化する。これにより、歪センサとして機能させることができる。この場合、第2の磁化自由層の磁歪の値と、第1の磁化自由層の磁歪の値と、は互いに異なるように設計することができる。これにより、2つの磁化自由層のそれぞれの磁化における相対角度が、歪εに応じて変化する。
(第2の実施形態)
図24は、第2の実施形態に係る歪検知素子を例示する模式的断面図である。
図24に表すように、本実施形態に係る歪検知素子56も、機能層25xと、第1磁性層10と、第2磁性層20と、中間層30と、を含む。これらの層の配置は、第1の実施形態に関して説明した配置と同じなので説明を省略する。
本実施形態においては、機能層25xに用いられる材料が、第1の実施形態に関して説明した機能層25に用いられる材料とは異なる。これ以外については、第1の実施形態と同様である。以下、機能層25xの例について、説明する。
歪検知素子56においては、機能層25xには、例えば、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)及びアルミニウム(Al)よりなる群から選択された少なくともいずれかが用いられる。機能層25xには、これらの軽元素を含む材料が用いられる。これらの軽元素は、ホウ素と結合して化合物を生成する。機能層25xのうちの第2磁性層20との界面を含む部分に、例えば、Mg−B化合物、Al−B化合物、及び、Si−B化合物の少なくともいずれかが形成される。これらの化合物が、ホウ素の拡散を抑制する。
本実施形態では、機能層25xを設けることで、第2磁性層20に含まれるホウ素の拡散を抑制し、第2磁性層20のアモルファス構造を保つことができる。その結果、高いゲージファクターを得ることができる。
本実施形態に係る歪検知素子56においても、第1磁性層10は、図3に関して説明した第2磁化固定層10b、磁気結合層10c及び第1磁化固定層10aを含むことができる。
以下、本実施形態に係る歪検知素子の特性の例について説明する。
第5試料の構成は、以下である。
下地層10l :Ta(1nm)/Ru(2nm)
ピニング層10p :Ir22Mn78 (7nm)
第2磁化固定層10b :Co75Fe25 (2.5nm)
磁気結合層10c :Ru (0.9nm)
第1磁化固定層10a :Co40Fe40B20 (3nm)
中間層30 :Mg−O (1.6nm)
第2磁性層20 :Co40Fe40B20 (4nm)
機能層25x :Mg (1.6nm)
キャップ層26c :Cu(1nm)/Ta(20nm)/Ru(50nm)
すなわち、第5試料においては、機能層25xとして、1.6nmの厚さのMg層が用いられている。
一方、第6試料においては、機能層25xとして、0.8nmの厚さのSi層が用いられている。
第7試料においては、機能層25xが設けられない。第7試料においては、第2磁性層20は、キャップ層26cに接している。第7試料は、第2試料S02と同じである。
これらの試料について、第1に実施形態に関して説明したのと同様に特性が評価された。その結果は、以下である。
第5試料においては、MRは、126%であり、保磁力Hcは、2.3Oeであり、磁歪定数λは、21ppmであり、ゲージファクタは、2861である。
第6試料においては、MRは、104%であり、保磁力Hcは、3.8Oeであり、磁歪定数λは、19ppmであり、ゲージファクタは、2091である。
第7試料においては、MRは、190%であり、保磁力Hcは、27Oeであり、磁歪定数λは、30ppmであり、ゲージファクタは、895である。
このように、機能層25xを用いることで、高いゲージファクターが得られる。
ホウ素を含む第2磁性層20の上に、上記の機能層25xを設けることで、第2磁性層20からのホウ素の拡散を抑制することができる。その結果、小さい保磁力Hcと、大きい磁歪定数λと、が得られる。これにより、高いゲージファクターが得られる。
以下、本実施形態に係る別の歪検知素子の特性の例について説明する。
第8試料の構成は、以下である。
下地層10l :Ta(1nm)/Ru(2nm)
ピニング層10p :Ir22Mn78 (7nm)
第2磁化固定層10b :Co75Fe25 (2.5nm)
磁気結合層10c :Ru (0.9nm)
第1磁化固定層10a :Co40Fe40B20 (3nm)
中間層30 :Mg−O (2nm)
第2磁性層20 :後述
キャップ層26c :Ta(20nm)/Ru(50nm)
そして、第8試料においては、磁化自由層となる第2磁性層20と、機能層25xと、の積層膜は、以下の構成を有する。Co40Fe40B20(4nm)/{(Co40Fe40B20(1nm)/Si(0.25nm)}の組み合わせの3層/Co40Fe40B20(1nm)が、積層膜として用いられる。例えば、上記の積層膜のうちのCo40Fe40B20(4nm)の層が第2磁性層20と見なされる。上記の積層膜のうちの3つのSi(0.25nm)層の少なくともいずれかが、機能層25xと見なされる。
第9試料においては、磁化自由層となる第2磁性層20と、機能層25xと、の積層膜は、以下の構成を有する。Co40Fe40B20(4nm)/{(Co40Fe40B20(1nm)/Al(0.25nm)}の組み合わせの3層/Co40Fe40B20(1nm)が、積層膜として用いられる。例えば、上記の積層膜のうちのCo40Fe40B20(4nm)の層が第2磁性層20と見なされる。上記の積層膜のうちの3つのAl(0.25nm)層の少なくともいずれかが、機能層25xと見なされる。第9試料において、第2磁性層20及び機能層25xを除く構成は、第8試料と同様である。
第10試料においては、磁化自由層となる第2磁性層20には、Co40Fe40B20(4nm)が用いられる。そして、機能層25xは設けられない。第10試料において、第2磁性層20及び機能層25xを除く構成は、第8試料と同様である。すなわち、第10試料は、上記の第2試料S02と同じである。
これらの試料について、第1に実施形態に関して説明したのと同様に特性が評価された。その結果は、以下である。
第8試料においては、MRは、176%であり、保磁力Hcは、4.8Oeであり、磁歪定数λは、22ppmであり、ゲージファクタは、2849である。
第9試料においては、MRは、169%であり、保磁力Hcは、7.1Oeであり、磁歪定数λは、20ppmであり、ゲージファクタは、2195である。
第10試料(第7試料)においては、MRは、190%であり、保磁力Hcは、27Oeであり、磁歪定数λは、30ppmであり、ゲージファクタは、895である。
このように、機能層25xを用いることで、高いゲージファクターが得られる。
このように、ホウ素を含む磁化自由層中に、Mg、Al及びSiよりなる群から選択される少なくとも一つの軽元素を含む材料の層を挿入することにより、磁化自由層からのホウ素の拡散を抑制することができる。その結果、小さい保磁力Hcと、大きい磁歪定数λと、が得られる。これにより、高いゲージファクターが得られる。
本実施形態において、機能層25xとして、Mg、Al及びSiよりなる群から選択される少なくとも一つを含む材料を用いる場合、機能層25xの厚さは、例えば、0.5nm以上が好ましい。これにより、例えば、ホウ素の拡散の抑制が効果的に行われる。機能層25xの厚さは、5nm以下が好ましい。これにより、例えば、余剰なMg、AlまたはSiが第2磁性層20に拡散することが抑制できる。機能層25xの厚さは、0.5nm以上5nm以下が好ましく、1nm以上3nm以下が好ましい。機能層25xの厚さは、2nm以上でも良い。
機能層25xと、第2磁性層20と、の間に他の金属層などが挿入されていても良い。機能層25xと第2磁性層20との距離が過度に長いと、その間の領域でホウ素が拡散して第2磁性層20中のホウ素濃度が低下する場合がある。機能層25xと第2磁性層20との間の距離は、例えば、10nm以下が好ましく3nm以下がさらに好ましい。
上記のように、機能層25xは、磁化自由層中に設けても良い。この場合、磁化自由層のうちの機能層25xと中間層30との間に位置する部分におけるホウ素の拡散が抑制できる。これにより、小さい保磁力Hcが得られる。すなわち、磁化自由層全体の保磁力Hcを小さく保つことができる。機能層25xを磁化自由層中に設ける場合において、複数の機能層25xを設けても良い。
(第3の実施形態)
本実施形態は、圧力センサに係る。圧力センサにおいては、第1の実施形態及び第2の実施形態の少なくともいずれか、及び、その変形の歪検知素子が用いられる。以下では、歪検知素子として、歪検知素子50を用いる場合について説明する。
図25(a)及び図25(b)は、第3の実施形態に係る圧力センサを例示する模式的斜視図である。
図25(a)は、模式的斜視図である。図25(b)は、図25(a)のA1−A2線断面図である。
図25(a)及び図25(b)に表したように、本実施形態に係る圧力センサ110は、膜部70と、歪検知素子50と、を含む。
膜部70は、例えば、支持部70sに支持される。支持部70sは、例えば、基板である。膜部70は、例えば、可撓性領域を有する。膜部70は、例えば、ダイアフラムである。膜部70は、支持部70sと一体的でも良く、別体でも良い。膜部70には、支持部70sと同じ材料を用いても良く、支持部70sとは異なる材料を用いても良い。支持部70sとなる基板の一部を除去して、基板のうちの厚さが薄い部分が膜部70となっても良い。
膜部70の厚さは、支持部70sの厚さよりも薄い。膜部70と支持部70sとに同じ材料が用いられ、これらが一体的である場合は、厚さが薄い部分が膜部70となり、厚い部分が支持部70sとなる。
支持部70sが、支持部70sを厚さ方向に貫通する貫通孔70hを有しており、貫通孔70hを覆うように膜部70が設けられても良い。この時、例えば、膜部70となる材料の膜が、支持部70sの貫通孔70h以外の部分の上にも延在している場合がある。このとき、膜部70となる材料の膜のうちで、貫通孔70hと重なる部分が膜部70となる。
膜部70は、外縁70rを有する。膜部70と支持部70sとに同じ材料が用いられ、これらが一体的である場合は、厚さが薄い部分の外縁が、膜部70の外縁70rとなる。支持部70sが、支持部70sを厚さ方向に貫通する貫通孔70hを有しており、貫通孔70hを覆うように膜部70が設けられている場合は、膜部70となる材料の膜のうちで、貫通孔70hと重なる部分の外縁が膜部70の外縁70rとなる。
支持部70sは、膜部70の外縁70rを連続的に支持しても良く、膜部70の外縁70rの一部を支持しても良い。
歪検知素子50は、膜部70の上に設けられる。例えば、歪検知素子50は、膜部70の一部の上に設けられる。この例では、膜部70上に、複数の歪検知素子50が設けられる。膜部上に設けられる歪検知素子の数は、1でも良い。
図25(b)に表したように、歪検知素子50において、例えば、機能層25と膜部70との間に、第1磁性層10が配置される。第2磁性層20と膜部70との間に、第1磁性層10が配置される。
この例では、第1配線61及び第2配線62が設けられている。第1配線61は、歪検知素子50に接続される。第2配線62は、歪検知素子50に接続される。例えば、第1配線61と第2配線62との間には、層間絶縁膜が設けられ、第1配線61と第2配線62とが電気的に絶縁される。第1配線61と第2配線62との間に電圧が印加され、この電圧が、第1配線61及び第2配線62を介して、歪検知素子50に印加される。圧力センサ110に圧力が加わると、膜部70が変形する。歪検知素子50においては、膜部70の変形に伴って電気抵抗Rが変化する。電気抵抗Rの変化を第1配線61及び第2配線62を介して検知することで、圧力が検知できる。
支持部70sには、例えば、板状の基板を用いることができる。基板の内部には、例えば、空洞部71h(貫通孔70h)が設けられている。
支持部70sには、例えば、シリコンなどの半導体材料、金属などの導電材料、または、絶縁性材料を用いることができる。支持部70sは、例えば、酸化シリコンや窒化シリコンなどを含んでも良い。空洞部71hの内部は、例えば減圧状態(真空状態)である。空洞部71hの内部に、空気などの気体、または、液体が充填されていても良い。空洞部71hの内部は、膜部70が撓むことができるように設計される。空洞部71hの内部は外部の大気とつながっていてもよい。
空洞部71hの上には、膜部70が設けられている。膜部70には、例えば、支持部70sとなる基板の一部が薄く加工され部分が用いられる。膜部70の厚さ(Z軸方向の長さ)は、基板の厚さ(Z軸方向の長さ)よりも薄い。
膜部70に圧力が印加されると、膜部が変形する。この圧力は、圧力センサ110が検知すべき圧力に対応する。印加される圧力は、音波または超音波などによる圧力も含む。音波または超音波などによる圧力を検知する場合は、圧力センサ110は、マイクロフォンとして機能する。
膜部70には、例えば、絶縁性材料が用いられる。膜部70は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン及び酸窒化シリコンの少なくともいずれかを含む。膜部70には、例えば、シリコンなどの半導体材料を用いても良い。膜部70には、例えば、金属材料を用いても良い。
膜部70の厚さは、例えば、0.1マイクロメートル(μm)以上3μm以下である。この厚さは、0.2μm以上1.5μm以下であることが好ましい。膜部70には、例えば、厚さが0.2μmの酸化シリコン膜と、厚さが0.4μmのシリコン膜と、の積層体を用いても良い。
複数の歪検知素子50を、膜部70の上に配置しても良い。複数の歪検知素子50で圧力に対して同等の電気抵抗の変化を得ることができる。後述するように、複数の歪検知素子50を直並列に接続することでSN比を増大することができる。
歪検知素子50のサイズは、極めて小さくても良い。歪検知素子50の面積は、圧力によって変形する膜部70の面積よりも十分に小さくできる。例えば、歪検知素子50の面積は、膜部70の面積の1/5以下とすることができる。
例えば、膜部70の直径が60μm程度の場合に、歪検知素子50の寸法は、12μm以下とすることができる。例えば、膜部70の直径が600μm程度の場合には、歪検知素子50の寸法は、120μm以下とすることができる。歪検知素子50の加工精度などを考慮すると、歪検知素子50の寸法を過度に小さくする必要はない。そのため、歪検知素子50の寸法は、例えば、0.05μm以上、30μm以下とすることができる。
この例では、膜部70の平面形状は円である。膜部70の平面形状は、例えば、楕円(例えば、扁平円)、または、正方形、長方形、多角形、または、正多角形でも良い。
図26(a)〜図26(c)は、実施形態に係る圧力センサを例示する模式図である。 これらの図は、複数の検知素子の接続状態の例を示している。
図26(a)に表したように、実施形態に係る圧力センサ116aにおいては、複数の検知素子50は、電気的に直列に接続されている。直列に接続されている検知素子50の数をNとしたとき、得られる電気信号は、検知素子50の数が1である場合のN倍となる。その一方で、熱ノイズ及びショットキーノイズは、N1/2倍になる。すなわち、SN比(signal-noise ratio:SNR)は、N1/2倍になる。直列の接続する検知素子50の数Nを増やすことで、膜部70のサイズを大きくすることなく、SN比を改善することができる。
膜部70上に設けられた複数の歪検知素子50は、直列に接続することができる。複数の歪検知素子50が直列に接続されている歪検知素子の数をNとしたとき、得られる電気信号は、歪検知素子50の数が1である場合のN倍となる。一方、熱ノイズ及びショットキーノイズは、N1/2倍になる。すなわち、SN比(signal-noise ratio:SNR)は、N1/2倍になる。直列に接続する歪検知素子50の数Nを増やすことで、膜部70のサイズを大きくすることなく、SN比を改善できる。
1つの歪検知素子に加えられるバイアス電圧は、例えば、50ミリボルト(mV)以上150mV以下である。N個の歪検知素子50を直列に接続した場合は、バイアス電圧は、50mV×N以上150mV×N以下となる。例えば、直列に接続されている歪検知素子の数Nが25である場合には、バイアス電圧は、1V以上3.75V以下となる。
バイアス電圧の値が1V以上であると、歪検知素子から得られる電気信号を処理する電気回路の設計は容易になり、実用的に好ましい。
バイアス電圧(端子間電圧)が10Vを超えると、歪検知素子から得られる電気信号を処理する電気回路においては、望ましくない。実施形態においては、適切な電圧範囲になるように、直列に接続される歪検知素子の数N、及び、バイアス電圧が設定される。
例えば、複数の歪検知素子を電気的に直列に接続したときの電圧は、1V以上10V以下となるのが好ましい。例えば、電気的に直列に接続された複数の歪検知素子50の端子間(一方の端の端子と、他方の端の端子と、の間)に印加される電圧は、1V以上10V以下である。
この電圧を発生させるためには、1つの歪検知素子に印加されるバイアス電圧が50mVである場合、直列に接続される歪検知素子50の数Nは、20以上200以下が好ましい。1つの歪検知素子に印加されるバイアス電圧が150mVである場合、直列に接続される歪検知素子の数Nは、7以上66以下であることが好ましい。
図26(b)に表したように、実施形態に係る圧力センサ116bにおいては、複数の検知素子50が、電気的に並列に接続されている。実施形態において、複数の歪検知素子50の少なくとも一部は、電気的に並列に接続されても良い。
図26(c)に表したように、実施形態に係る圧力センサ116cにおいては、複数の歪検知素子50がホイートストンブリッジ回路を形成するように、複数の歪検知素子を接続しても良い。これにより、例えば、検出特性の温度補償を行うことができる。
以下、実施形態に係る圧力センサの製造方法の例について説明する。以下は、圧力センサの製造方法の例である。
図27(a)〜図27(e)は、実施形態に係る圧力センサの製造方向を例示する工程順模式的断面図である。
図27(a)に表したように、基板71(例えばSi基板)の上に薄膜70fを形成する。基板71は、支持部70sとなる。薄膜70fは、膜部70となる。
例えば、Si基板上に、SiOx/Siの薄膜70fをスパッタにより形成する。薄膜70fとして、SiOx単層、SiN単層、または、Alなどの金属層を用いても良い。また、薄膜70fとして、ポリイミドまたはパラキシリレン系ポリマーなどのフレキシブルプラスティック材料を用いても良い。SOI(Silicon On Insulator)基板を、基板71及び薄膜70fとして用いても良い。SOIにおいては、例えば、基板の貼り合わせによってSi基板上にSiO2/Siの積層膜が形成される。
図27(b)に表したように、第2配線62を形成する。この工程においては、第2配線62となる導電膜を形成し、その導電膜を、フォトリソグラフィー及びエッチングにより加工する。第2配線62の周辺を絶縁膜で埋め込む場合、リフトオフ処理を適用しても良い。リフトオフ処理においては、例えば、第2配線62のパターンのエッチング後、レジストを剥離する前に、絶縁膜を全面に成膜して、その後レジストを除去する。
図27(c)に表したように、歪検知素子50を形成する。この工程においては、歪検知素子50となる積層膜を形成し、その積層膜を、フォトリソグラフィー及びエッチングにより加工する。歪検知素子50の積層体10sの側壁を絶縁層35で埋め込む場合、リフトオフ処理を適用しても良い。リフトオフ処理において、例えば、積層体10sの加工後、レジストを剥離する前に、絶縁層35を全面に成膜して、その後レジストを除去する。
図27(d)に表したように、第1配線61を形成する。この工程においては、第1配線61となる導電膜を形成し、その導電膜を、フォトリソグラフィー及びエッチングにより加工する。第1配線61の周辺を絶縁膜で埋め込む場合、リフトオフ処理を適用しても良い。リフトオフ処理において、第1配線61の加工後、レジストを剥離する前に、絶縁膜を全面に成膜して、その後レジストを除去する。
図27(e)に表したように、基板71の裏面からエッチングを行い、空洞部71hを形成する。これにより、膜部70及び支持部70sが形成される。例えば、膜部70となる薄膜70fとして、SiOx/Siの積層膜を用いる場合は、薄膜70fの裏面(下面)から表面(上面)へ向かって、基板71の深堀加工を行う。これにより、空洞部71hが形成される。空洞部71hの形成においては、例えば両面アライナー露光装置を用いることができる。これにより、表面の歪検知素子50の位置に合わせて、レジストのホールパターンを裏面にパターニングできる。
Si基板のエッチングにおいて、例えばRIEを用いたボッシュプロセスが用いることができる。ボッシュプロセスでは、例えば、SF6ガスを用いたエッチング工程と、C4F8ガスを用いた堆積工程と、を繰り返す。これにより、基板71の側壁のエッチングを抑制しつつ、基板71の深さ方向(Z軸方向)に選択的にエッチングが行われる。エッチングのエンドポイントとして、例えば、SiOx層が用いられる。すなわち、エッチングの選択比がSiとは異なるSiOx層を用いてエッチングを終了させる。エッチングストッパ層として機能するSiOx層は、膜部70の一部として用いられても良い。SiOx層は、エッチングの後に、例えば、無水フッ化水素及びアルコールなどの処理などで除去されても良い。
このようにして、実施形態に係る圧力センサ110が形成される。実施形態に係る他の圧力センサも同様の方法により製造できる。
図28(a)〜図28(c)は、実施形態に係る圧力センサを例示する模式図である。 図28(a)は、模式的斜視図であり、図28(b)及び図28(c)は、圧力センサ440を例示するブロック図である。
図28(a)及び図28(b)に示すように、圧力センサ440には、基部471、検知部450、半導体回路部430、アンテナ415、電気配線416、送信回路417、及び、受信回路417rが設けられている。
アンテナ415は、電気配線416を介して、半導体回路部430と電気的に接続されている。
送信回路417は、検知部450に流れる電気信号に基づくデータを無線で送信する。送信回路417の少なくとも一部は、半導体回路部430に設けることができる。
受信回路417rは、電子機器418dからの制御信号を受信する。受信回路417rの少なくとも一部は、半導体回路部430に設けることができる。受信回路417rを設けるようにすれば、例えば、電子機器418dを操作することで、圧力センサ440の動作を制御することができる。
図28(b)に示すように、送信回路417には、例えば、検知部450に接続されたADコンバータ417aと、マンチェスター符号化部417bと、を設けることができる。切替部417cを設け、送信と受信を切り替えるようにすることができる。この場合、タイミングコントローラ417dを設け、タイミングコントローラ417dにより切替部417cにおける切り替えを制御することができる。またさらに、データ訂正部417e、同期部417f、判定部417g、電圧制御発振器417h(VCO;Voltage Controlled Oscillator)を設けることができる。
図28(c)に示すように、圧力センサ440と組み合わせて用いられる電子機器418dには、受信部418が設けられる。電子機器418dとしては、例えば、携帯端末などの電子装置を例示することができる。
この場合、送信回路417を有する圧力センサ440と、受信部418を有する電子機器418dと、を組み合わせて用いることができる。
電子機器418dには、マンチェスター符号化部417b、切替部417c、タイミングコントローラ417d、データ訂正部417e、同期部417f、判定部417g、電圧制御発振器417h、記憶部418a、中央演算部418b(CPU;Central Processing Unit)を設けることができる。
この例では、圧力センサ440は、固定部467をさらに含んでいる。固定部467は、膜部464(70d)を基部471に固定する。固定部467は、外部圧力が印加されたときであっても撓みにくいように、膜部464よりも厚み寸法を厚くすることができる。
固定部467は、例えば、膜部464の周縁に等間隔に設けることができる。
膜部464(70d)の周囲をすべて連続的に取り囲むように固定部467を設けることもできる。
固定部467は、例えば、基部471の材料と同じ材料から形成することができる。この場合、固定部467は、例えば、シリコンなどから形成することができる。
固定部467は、例えば、膜部464(70d)の材料と同じ材料から形成することもできる。
実施形態に係る圧力センサの製造方法の例について説明する。
図29(a)、図29(b)、図30(a)、図30(b)、図31(a)、図31(b)、図32(a)、図32(b)、図33(a)、図33(b)、図34(a)、図34(b)、図35(a)、図35(b)、図36(a)、図36(b)、図37(a)、図37(b)、図38(a)、図38(b)、図39(a)、図39(b)、図40(a)及び図40(b)は、実施形態に係る圧力センサの製造方法を例示する模式図である。
なお、図29(a)〜図40(a)は、模式的平面図であり、図29(b)〜図40(b)は、模式的断面図である。
図29(a)及び図29(b)に示すように、半導体基板531の表面部分に半導体層512Mを形成する。続いて、半導体層512Mの上面に素子分離絶縁層512Iを形成する。続いて、半導体層512Mの上に、図示しない絶縁層を介して、ゲート512Gを形成する。続いて、ゲート512Gの両側に、ソース512Sとドレイン512Dとを形成することで、トランジスタ532が形成される。続いて、この上に層間絶縁膜514aを形成し、さらに層間絶縁膜514bを形成する。
続いて、非空洞部となる領域において、層間絶縁膜514a、514bの一部に、トレンチ及び孔を形成する。続いて、孔に導電材料を埋め込んで、接続ピラー514c〜514eを形成する。この場合、例えば、接続ピラー514cは、1つのトランジスタ532のソース512Sに電気的に接続され、接続ピラー514dはドレイン512Dに電気的に接続される。例えば、接続ピラー514eは、別のトランジスタ532のソース512Sに電気的に接続される。続いて、トレンチに導電材料を埋め込んで、配線部514f、514gを形成する。配線部514fは、接続ピラー514c及び接続ピラー514dに電気的に接続される。配線部514gは、接続ピラー514eに電気的に接続される。続いて、層間絶縁膜514bの上に、層間絶縁膜514hを形成する。
図30(a)及び図30(b)に示すように、層間絶縁膜514hの上に、酸化シリコン(SiO2)からなる層間絶縁膜514iを、例えば、CVD(Chemical Vaper Deposition)法を用いて形成する。続いて、層間絶縁膜514iの所定の位置に孔を形成し、導電材料(例えば、金属材料)を埋め込み、上面をCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いて平坦化する。これにより、配線部514fに接続された接続ピラー514jと、配線部514gに接続された接続ピラー514kと、が形成される。
図31(a)及び図31(b)に示すように、層間絶縁膜514iの空洞部570となる領域に凹部を形成し、その凹部に犠牲層514lを埋め込む。犠牲層514lは、例えば、低温で成膜できる材料を用いて形成することができる。低温で成膜できる材料は、例えば、シリコンゲルマニウム(SiGe)などである。
図32(a)及び図32(b)に示すように、層間絶縁膜514i及び犠牲層514lの上に、膜部564(70d)となる絶縁膜561bfを形成する。絶縁膜561bfは、例えば、酸化シリコン(SiO2)などを用いて形成することができる。絶縁膜561bfに複数の孔を設け、複数の孔に導電材料(例えば、金属材料)を埋め込み、接続ピラー561fa、接続ピラー562faを形成する。接続ピラー561faは、接続ピラー514kと電気的に接続され、接続ピラー562faは、接続ピラー514jと電気的に接続される。
図33(a)及び図33(b)に示すように、絶縁膜561bf、接続ピラー561fa、接続ピラー562faの上に、配線557となる導電層561fを形成する。
図34(a)及び図34(b)に示すように、導電層561fの上に、積層膜550fを形成する。
図35(a)及び図35(b)に示すように、積層膜550fを所定の形状に加工し、その上に、絶縁層565となる絶縁膜565fを形成する。絶縁膜565fは、例えば、酸化シリコン(SiO2)などを用いて形成することができる。
図36(a)及び図36(b)に示すように、絶縁膜565fの一部を除去し、導電層561fを所定の形状に加工する。これにより、配線557が形成される。このとき、導電層561fの一部は、接続ピラー562faに電気的に接続される接続ピラー562fbとなる。さらに、この上に、絶縁層566となる絶縁膜566fを形成する。
図37(a)及び図37(b)に示すように、絶縁膜566fに開口部566pを形成する。これにより、接続ピラー562fbが露出する。
図38(a)及び図38(b)に示すように、上面に、配線558となる導電層562fを形成する。導電層562fの一部は、接続ピラー562fbと電気的に接続される。
図39(a)及び図39(b)に示すように、導電層562fを所定の形状に加工する。これにより、配線558が形成される。配線558は、接続ピラー562fbと電気的に接続される。
図40(a)及び図40(b)に示すように、絶縁膜566fに所定の形状の開口部566oを形成する。開口部566oを介して、絶縁膜561bfを加工し、さらに開口部566oを介して、犠牲層514lを除去する。これにより、空洞部570が形成される。犠牲層514lの除去は、例えば、ウェットエッチング法を用いて行うことができる。
なお、固定部567をリング状とする場合には、例えば、空洞部570の上方における非空洞部の縁と、膜部564と、の間を絶縁膜で埋める。
以上の様にして圧力センサが形成される。
(第4の実施形態)
本実施形態は、上記の実施形態の圧力センサを用いたマイクロフォンに係る。
図41は、第4の実施形態に係るマイクロフォンを例示する模式的断面図である。
本実施形態に係るマイクロフォン320は、プリント基板321と、カバー323と、圧力センサ310と、を含む。プリント基板321は、例えばアンプなどの回路を含む。カバー323には、アコースティックホール325が設けられる。音329は、アコースティックホール325を通って、カバー323の内部に進入する。
圧力センサ310として、実施形態に関して説明した圧力センサのいずれか、及び、その変形が用いられる。
マイクロフォン320は、音圧に対して感応する。高感度な圧力センサ310を用いることにより、高感度なマイクロフォン320が得られる。例えば、圧力センサ310をプリント基板321の上に搭載し、電気信号線を設ける。圧力センサ310を覆うように、プリント基板321の上にカバー323を設ける。
本実施形態によれば、高感度なマイクロフォンを提供することができる。
(第5の実施形態)
本実施形態は、上記の実施形態の圧力センサを用いた血圧センサに係る。
図42(a)及び図42(b)は、第5の実施形態に係る血圧センサを例示する模式図である。
図42(a)は、ヒトの動脈血管の上の皮膚を例示する模式的平面図である。図42(b)は、図42(a)のH1−H2線断面図である。
本実施形態においては、圧力センサ310は、血圧センサ330として応用される。この圧力センサ310には、実施形態に関して説明した圧力センサのいずれか、及び、その変形が用いられる。
これにより、小さいサイズの圧力センサで高感度な圧力検知が可能となる。圧力センサ310を動脈血管331の上の皮膚333に押し当てることで、血圧センサ330は、連続的に血圧測定を行うことができる。
本実施形態によれば、高感度な血圧センサを提供することができる。
(第6の実施形態)
本実施形態は、上記の実施形態の圧力センサを用いたタッチパネルに係る。
図43は、第6の実施形態に係るタッチパネルを例示する模式図である。
本実施形態においては、圧力センサ310が、タッチパネル340として用いられる。この圧力センサ310には、実施形態に関して説明した圧力センサのいずれか、及び、その変形が用いられる。タッチパネル340においては、圧力センサ310が、ディスプレイの内部及びディスプレイの外部の少なくともいずれかに搭載される。
例えば、タッチパネル340は、複数の第1配線346と、複数の第2配線347と、複数の圧力センサ310と、制御部341と、を含む。
この例では、複数の第1配線346は、Y軸方向に沿って並ぶ。複数の第1配線346のそれぞれは、X軸方向に沿って延びる。複数の第2配線347は、X軸方向に沿って並ぶ。複数の第2配線347のそれぞれは、Y軸方向に沿って延びる。
複数の圧力センサ310のそれぞれは、複数の第1配線346と複数の第2配線347とのそれぞれの交差部に設けられる。圧力センサ310の1つは、検出のための検出要素310eの1つとなる。ここで、交差部は、第1配線346と第2配線347とが交差する位置及びその周辺の領域を含む。
複数の圧力センサ310のそれぞれの一端310aは、複数の第1配線346のそれぞれと接続される。複数の圧力センサ310のそれぞれの他端310bは、複数の第2配線347のそれぞれと接続される。
制御部341は、複数の第1配線346と複数の第2配線347とに接続される。
例えば、制御部341は、複数の第1配線346に接続された第1配線用回路346dと、複数の第2配線347に接続された第2配線用回路347dと、第1配線用回路346dと第2配線用回路347dとに接続された制御回路345と、を含む。
圧力センサ310は、小型で高感度な圧力センシングが可能である。そのため、高精細なタッチパネルを実現することが可能である。
実施形態に係る圧力センサは、上記の応用の他に、気圧センサ、または、タイヤの空気圧センサなどのように、様々な圧力センサデバイスに応用することができる。
実施形態によれば、高感度の歪検知素子、圧力センサ、マイクロフォン、血圧センサ及びタッチパネルを提供することができる。
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、検知素子、圧力センサ、マイクロフォン、血圧センサ及びタッチパネルに含まれる膜部、歪検知素子、第1磁性層、第2磁性層及び中間層などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
その他、本発明の実施の形態として上述した検知素子、圧力センサ、マイクロフォン、血圧センサ及びタッチパネルを基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての検知素子、圧力センサ、マイクロフォン、血圧センサ及びタッチパネルも、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。