JP6450648B2 - 手術用縫合糸 - Google Patents

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本発明は、手術用縫合糸に関し、特に、生体吸収性を備え、摺動性、結節性、結節保持性に優れた手術用縫合糸に関する。
手術用縫合糸は古くから用いられている医療用具の一つである。近年では手術後の抜糸が不要である生体内分解吸収性(単に生体分解性や生体吸収性と記載する場合がある)の縫合糸が多用されるようになってきている。かかる吸収性縫合糸としては、ポリグリコール酸等を原料とした縫合糸が市販されている。
手術用縫合糸の態様としては、単一の繊維のみからなるモノフィラメント縫合糸や、複数の繊維からなるマルチフィラメント縫合糸が知られている。なかでも、胃や腸管等の運動の多い消化器の吻合、縫合の用途等では、柔軟性が高いマルチフィラメント縫合糸が好適である。更に、組紐機を用いて複数のマルチフィラメント糸を組紐状に編み込んだ組紐状縫合糸は、特に高い柔軟性と高い引張強力、結節強力とを両立できることが知られている。
しかしながら、組紐状縫合糸は、切断した場合に糸の端部において組紐が緩んでしまい、糸がバラバラにほぐれてしまうという問題があった。また、複雑な組織を吻合、縫合した場合には、縫合糸にねじり屈曲がかかることがある。従来の組紐状縫合糸は、ねじり屈曲を与えた場合にも、ねじり屈曲点において糸のほぐれが発生するという問題もあった。また、このような糸のほぐれに起因して、結び目が緩みやすいという結節保持性の問題もあった。更に、組紐状縫合糸の製造では、紡糸により得られたマルチフィラメント糸を、組紐機を用いて組紐状に加工するが、このような製法は製造工程が多く、生産効率やコストの面で不利であるという問題もあった。
このような問題点に鑑み、本出願人は、先に、高い柔軟性と高い引張強力、結節強力とを有し、切断端部やねじり屈曲点においても複数の糸がほどけることがなく形態が維持され、結節保持性に優れ、かつ、生産効率に優れた生体吸収性縫合糸を開発した。国際公開2012−124562号公報(特許文献1)は、この生体吸収性縫合糸を開示する。この特許文献1に開示された生体吸収性縫合糸は、生体吸収性の低融点成分からなる芯糸、及び、芯糸の周りに巻き付けられた生体吸収性の高融点成分からなる複数の捲糸からなり(いわゆるカバリング糸条)、加熱処理により溶融した芯糸によって芯糸と捲糸とが接着された構造を有する。この生体吸収性縫合糸によると、加熱処理により溶融した芯糸によって芯糸と捲糸とが接着されており、上記芯糸と上記複数の捲糸とを接着させることで、切断端部やねじり屈曲点においても複数の糸がほどけることがなく、結節保持性に優れるという効果が得られる。
国際公開2012−124562号公報
上述した特許文献1に開示された生体吸収性縫合糸は、手術用縫合糸として好ましい実績を上げているが、本発明者らは、さらなる鋭意検討の結果、特許文献1に開示された生体吸収性縫合糸の特徴であるカバリング糸条の構造を保持しつつ、手術用縫合糸としてさらに好ましい実績を上げ得る生体吸収性縫合糸を開発した。
本発明の目的は、生体吸収性を備え、摺動性、結節性、結節保持性に優れた手術用縫合糸を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明に係る手術用縫合糸は以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明の手術用縫合糸は、1本の芯糸の周りに1本の捲糸を巻着させた構造
を備える、この手術用縫合糸は、前記芯糸および前記捲糸は、生体吸収性を備えるモノフィラメントであって、加熱処理により前記芯糸の一部と前記捲糸の一部とが溶融して接着して一体化された前記構造を備え、前記捲糸の直径に対して前記芯糸の直径は1.2倍〜2倍であることを特徴とする。
好ましくは、前記捲糸のカバリングピッチは1000μm〜2000μmであるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記芯糸の生体吸収性および前記捲糸の生体吸収性が、略同一であるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記芯糸を構成する生体吸収性成分および前記捲糸を構成する生体吸収性成分が、同一であるように構成することができる。
本発明の手術用縫合糸によれば、生体吸収性を備え、摺動性、結節性、結節保持性に優れた手術用縫合糸を提供することができる。
本発明の実施の形態に係る手術用縫合糸の概略図である。
以下、本発明の実施の形態に係る手術用縫合糸100を、図面に基づき詳しく説明する。
図1に、本実施の形態に係る手術用縫合糸100の概略図(模式図)を示す。図1に示す手術用縫合糸100は、1本の芯糸110の周りにらせん状に1本の捲糸120を巻着させた構造(好ましくは予め定められたカバリングピッチで芯糸110に捲糸120を巻着させた構造)を備えた、いわゆるカバリング糸条として構成されている。これらの芯糸110および捲糸120は、生体吸収性を備えるモノフィラメントであって、加熱処理により芯糸110の一部と捲糸120の一部とが溶融して接着して一体化されることによりカバリング糸条の構造を備える。なお、詳しくは後述するが、芯糸110の表面と捲糸120の表面とが溶融して接着しており、芯糸110および捲糸120のそれぞれは糸形状を維持している。
さらに、この図1には、例示として、捲糸120の直径250μmに対して芯糸110の直径400μmであって捲糸のカバリングピッチが1000μm〜2000μmである手術用縫合糸100を図示している。
ここで、本実施の形態に係る手術用縫合糸100は、芯糸110に捲糸120をらせん状に捲着させた後に、IR(赤外線)ヒーター内で150℃〜160℃雰囲気下で加熱処理することにより表面を溶融させて、カバリング糸条の構造を維持して一体化している。この際に、加熱温度(雰囲気温度)が、150℃よりも低いと糸表面が十分に溶融しないで一体化させることが困難であって好ましくなく、160℃よりも高いと糸表面のみならず糸全体が溶融してしまい糸形状を維持できずカバリング糸条の構造が崩れてしまうので好ましくない。なお、図1に示す手術用縫合糸100は、このような加熱処理することにより表面を溶融させて、カバリング糸条の構造を維持して一体化したものを示している。
そして、本実施の形態に係る手術用縫合糸100の構造上の大きな特徴として、捲糸120の直径に対して芯糸110の直径は1.2倍〜2倍である。好ましくは、捲糸120のカバリングピッチは1000μm〜2000μmである。このような構造上の特徴により、本実施の形態に係る手術用縫合糸100は、極めて良好な摺動性、結節性、結節保持性が実現できる。
なお、このような構造に加えて、芯糸110の生体吸収性および捲糸120の生体吸収性が、略同一であることが好ましく、さらに、芯糸110を構成する生体吸収性成分および捲糸120を構成する生体吸収性成分が、同一であることが好ましい。このような生体吸収性能または生体吸収性成分の特徴により、手術用縫合糸としての性能(生体吸収性能)を統一することができる。
構造上の特徴を詳しく説明する前に、芯糸110および捲糸120の組成(これらを構成する生体吸収性成分)について説明する。芯糸110および捲糸120は、いずれも、
生体吸収性ポリマーであるポリ乳酸−ε−カプロラクトン共重合体(ポリ乳酸およびカプロラクトンの共重合比は75:25)で構成される。
なお、生体吸収性ポリマーとしては上記のポリマーに限定されず、たとえば、ポリグリコール酸、ポリラクチド(D、L、DL体)、ポリカプロラクトン、グリコール酸−ラクチド(D、L、DL体)共重合体、グリコール酸−ε−カプロラクトン共重合体、ラクチド(D、L、DL体)−ε−カプロラクトン共重合体、ポリ(p−ジオキサノン)、グリコール酸−ラクチド(D、L、DL体)−ε−カプロラクトン共重合体等の合成吸収性高分子が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、適度な分解挙動を示すことから、ポリグリコール酸、ラクチド(D、L、DL体)−ε−カプロラクトン共重合体、グリコール酸−ε−カプロラクトン共重合体およびグリコール酸−ラクチド(D、L、DL体)−ε−カプロラクトン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好適で、上述したように、本実施の形態においては、芯糸110および捲糸120は、いずれも、共重合比が75:25のポリ乳酸−ε−カプロラクトンの共重合体を用いている。
ただし、本実施の形態に係る手術用縫合糸100において芯糸110と捲糸120とで異なる生体吸収性ポリマーを採用しても構わないが、手術用縫合糸としての性能(生体吸収性能)を統一させるために(芯糸110の生体吸収性能と捲糸120の生体吸収性能とが異なると手術用縫合糸としての特性を統一できなくなることを回避するために)、芯糸110の生体吸収性および捲糸120の生体吸収性が略同一であることが必要である。さらに、上述したように(生体吸収性が同一にすることができる点で)、芯糸110と捲糸120とで同じ生体吸収性ポリマーを採用することが好ましい。
そして、本実施の形態に係る手術用縫合糸100においては、捲糸120の直径に対して芯糸110の直径は1.2倍〜2倍である。
本実施の形態に係る手術用縫合糸100は、このような構造を備えることにより、このような構造を備えない場合に生じうる以下の問題点を回避できて、特段の作用効果を発現することができると考えられる。
<捲糸が芯糸に対して太すぎる場合の問題点>
捲糸120の直径に対して芯糸110の直径は1.2倍よりも小さいと(すなわち芯糸110に対して捲糸120が太すぎると)、捲糸120を捲着させることにより芯糸110が歪んでしまいカバリング糸条の構造を維持できないので好ましくなく、手術用縫合糸100の切断端部やねじり屈曲点において芯糸110から捲糸120が解けてカバリング糸条の構造を維持することが困難となり、ひいては芯糸110から捲糸120が解けることに起因して、結び目が緩みやすいという結節保持性の問題が生じる可能性があるので好ましくない。
<捲糸が芯糸に対して細すぎる場合の問題点>
捲糸120の直径に対して芯糸110の直径は2倍よりも大きいと(すなわち芯糸110に対して捲糸120が細すぎると)、使用時(縫合時)において手術用縫合糸100の引っ掛かりが生じやすく摺動性が悪いので好ましくなく、さらに、細すぎる捲糸120の存在意義がなくなりそもそもカバリング糸条としての構造を実質的に欠いてしまう。
<好ましい点>
捲糸120の直径に対して芯糸110の直径は1.2倍〜2倍であると(すなわち芯糸110に対して捲糸120が適度な太さであると)、このような問題点を生じることなく、使用時(縫合時)において手術用縫合糸100の引っ掛かりが生じにくく摺動性が好ましく、適度な柔軟性を備えるので結びやすいために結節性が好ましく、結び目であるねじり屈曲点において芯糸110から捲糸120が解けてカバリング糸条の構造を容易に維持して芯糸110から捲糸120が解けることがなく結び目が緩みにくいため結節保持性が好ましい。
さらに、この手術用縫合糸100は、上記したように加熱処理により溶融した芯糸110と捲糸120とによって芯糸110と捲糸120とが接着されて一体化されている。ここで、芯糸110も捲糸120もモノフィラメントであるので、モノフィラメントの芯糸
110とモノフィラメントの捲糸120とを接着させることになり、モノフィラメントであるために芯糸110自体も捲糸120自体も(マルチフィラメントのように)解けることはあり得ないので、切断端部やねじり屈曲点においても芯糸110と捲糸120とが解けることがないために、結節保持性に優れる。
このような好ましい点は、手術用縫合糸100の捲糸120の直径に対して芯糸110の直径は1.2倍〜2倍であることに加えて、捲糸120のカバリングピッチは1000μm〜2000μmであることを満足する場合にさらに顕著である。
<実施例>
芯糸110(直径400μm)および捲糸120(直径250μm)としてポリ乳酸およびカプロラクトンの共重合比が75:25のポリ乳酸−ε−カプロラクトン共重合体である(同じ生体吸収性ポリマーの)モノフィラメント糸を用いた。捲糸120の直径250μmに対して芯糸110の直径400μmであるので、捲糸120の直径に対して芯糸110の直径は1.6倍となる。
なお、カバリングピッチとして、1000±50μm、1400±50μm、2000±50μmの3種類を採用し、加熱温度(雰囲気温度)は、150℃〜160℃とした。
このようにして製造した手術用縫合糸は、いずれも、摺動性、結節性、結節保持性に優れていることを確認できた。なお、結節性、結節保持性の評価は、本出願人の出願に係る特許文献1に記載の方法に従った。
以上のようにして、本実施の形態に係る手術用縫合糸100は、芯糸110および捲糸120が同じ生体吸収性ポリマーのモノフィラメントで構成されたカバリング糸条の構造を備え、かつ、捲糸120の直径に対して芯糸110の直径は1.2倍〜2倍であって、好ましくは捲糸120のカバリングピッチは1000μm〜2000μmであることを満足する。このため、本実施の形態に係る手術用縫合糸100は、捲糸120の直径に対して芯糸110の直径が1.2倍より小さい場合の問題点および2倍より大きい場合の問題点を発生させることなく、摺動性、結節性、結節保持性に優れる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明は、生体吸収性を備えた手術用縫合糸に好適であり、摺動性、結節性、結節保持性に優れている点で特に好適である。
100 手術用縫合糸
110 芯糸
120 捲糸(カバリング糸)

Claims (2)

  1. 1本の芯糸の周りに1本の捲糸を巻着させた構造を備えた手術用縫合糸であって、
    前記芯糸および前記捲糸は、生体吸収性を備えるモノフィラメントであって、加熱処理により前記芯糸の一部と前記捲糸の一部とが溶融して接着して一体化された前記構造を備え、
    前記捲糸の直径に対して前記芯糸の直径は1.2倍〜2倍であることを特徴とする手術用縫合糸。
  2. 前記捲糸のカバリングピッチは1000μm〜2000μmであることを特徴とする、請求項1に記載の手術用縫合糸。
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