JP6261909B2 - 縫合糸、およびその製造方法 - Google Patents
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一般的なポリエステル製縫合糸は、滑りにくく、結び目が緩みにくいが、比較的低い引張り強度を有する。
しかし、ポリエチレン製の縫合糸は、滑りやすく、結びにくく、振動などにより結び目が緩みやすい特性を有する。このため、外科手術時、ポリエチレン製の縫合糸で結び目を形成したとき、例えば、緩み防止のため結び目を接着剤で固着する場合があった。
しかし、何らかの方法でポリエステル製縫合糸の強度を大きくすることができれば、滑りにくく、結び目が緩みにくく、大きい引張り強度の特性のものが得られるが、このような特性を有する縫合糸を作製する方法は知られていなかった。
また、前記組物は、引張強度やゆるみ難さの観点から、塑性変形限界の72%から88%の範囲内で軸方向に延伸させてなることが好ましい。
<第1実施形態>
また、各糸10により構成される組物15は、引張強度やゆるみ難さなどの観点から、塑性変形限界の70%から90%の範囲内で軸方向に延伸させてなる。また、この組物15は、塑性変形限界の72%から88%の範囲内で軸方向に延伸させてなることが好ましい。上記範囲よりも延伸しすぎた場合、伸縮性が低くなりすぎて結節し難く、結節保持率が小さくなる。上記範囲よりも延伸しなさすぎた場合、引張強度が低くなりすぎる。
つまり、例えば、縫合糸の伸度を約10%未満とした場合では、結節し難く、縫合糸の伸度を約30%よりも大きくした場合では、強度が小さすぎる。
次に、本発明の第1実施形態に係る縫合糸100の製造方法の一例を説明する。
第1の工程において、組物15を構成する各糸10を、ポリエステルの合成高分子(ポリマー)などの合成繊維により形成し、詳細には、液体状にした原料を、紡糸口金(ノズル)から押出して繊維とすることで形成する(紡糸)。この紡糸としては、汎用繊維を作る製法、スーパー繊維を作る製法のいずれであってもよい。また、汎用繊維を作る製法として、溶融製法、乾式製法、湿式製法などが挙げられるが、いずれの製法であってもよい。本発明の実施形態では、ポリエステルなどの原料を熱で溶かした状態で、口金からそれを押し出して繊維状にした後、冷却して固める溶融紡糸製法を採用する。
次に、第2の工程において、上述したように形成された管状の組物15を延伸装置などにより、組物15の軸方向に延伸させる処理を行う。延伸処理により、繊維を構成する分子が適度に配列され、強さと伸度が増大する。
第2の工程では、詳細には、塑性変形限界の70%から90%の範囲内で軸方向に組物15を延伸させる処理を行う。こうすることで、実質的に大きい強度の縫合糸100を得ることができる。
この場合、図2に示したように、ポリエステル製の糸10を管状に組んだ状態で、縫合糸100の軸方向と組物15の各糸10の角度θが15°≦θ≦45°程度、好ましくは、20°≦θ≦40°程度となるように延伸処理を行う。
本発明の実施形態に係る縫合糸100の各糸10は、一般的な糸と比較して径が大きいことが好ましく、詳細には、図1に示した例では、縫合糸100の各糸10の断面長手方向の直径は、縫合糸100の直径(無負荷時)の約30%以上40%以下となるように比較的太いことが好ましい。
本発明の実施形態に係る縫合糸100の各糸10は、例えば、芯糸とその芯糸の周囲に組物を有する同じ太さの縫合糸(比較例)の芯糸の断面積分を、本発明の縫合糸100(芯糸なし)の各糸10に振り分けて加えてなる大きさ(断面積)であることが望ましい。こうすることで、縫合糸100の組物15が管状になっており、中空部が形成されている場合であっても、縫合糸100は比較的大きい引張り強度を有する。
尚、縫合糸100の直径は、一般的に後述するように計測される。直径を計測する計器は、自重式、機械式、又は、電気式構造で、示数直接表示ダイアル、デジタル表示、印刷による示数表示装置などを備え、例えば、0.002mmの目盛りを有する計器を使用する。
例えば、計器のアンビルは直径約50mmであり、圧子は直径12.7±0.02mmである。圧子とその圧子に接続された可動部品は、総重量210±3gであり、この重量に相当する力が検体である縫合糸に加圧される。圧子とアンビル表面は、0.005mm以内の誤差の平面で、両者は0.005mm以内の誤差で平行な位置にある。メトリックサイズ0.4以下の直径の計測では、圧子からウエイトを取り外し、総重量を60g未満として計測する。
そして、アンビルと圧子の中央にかかるように、検体である縫合糸を置き、ゆっくりと圧子の自重により縫合糸を加圧する。
縫合糸の全長の略1/4、1/2、3/4の3つの測定位置で、圧子により縫合糸を加圧した状態で、縫合糸の直径を測定し、それら測定値の平均値を、その縫合糸の実質的な直径とする。
このため、上記計測方法で計測した場合、縫合糸100は、非加圧状態では比較例と比較して太い径となり、引張り強度が大きい。
一般的に、外科用縫合糸の抗張力の測定は、後述するように規定されている。
検体である縫合糸を固定するクランプを有する定速荷重の原理を利用した発動機駆動式の抗張力測定装置を用いて、外科用の縫合糸の引張り強さを測定する。尚、本実施形態では、例えば、傾斜面テスターとして知られている装置を用いた測定を説明する。
キャリッジはウエイトとなっており、破断の際、チャート上の記録ペンの位置はチャート上に記録される範囲の20%〜80%程度となる。キャリッジにおける摩擦力は十分に低く、クランプに検体としての縫合糸を固定していない時、記録ペンはチャートの記録範囲の2.5%以内の地点にあるチャートのゼロアインからの移動が可能となっている。
中間から大きなサイズの外科用縫合糸では、検体を固定するクランプはロールタイプで、掴み面は平面のものを用いる。ロールは直径19mmで、掴み面の長さは25mm以上である。検体の長さは、クランプに挿入する際、ニップからニップまでが少なくとも127mmなければならない。テスター表面は試験開始より20±1秒で水平から最大傾斜30度に達する傾斜スピードとする。
小さいサイズの外科用縫合糸では、クランプには平面の掴み面を有し、面の長さ13mm以上のものを用いる。検体の長さは、クランプに挿入する際、クランプからクランプまでが少なくとも127mm以上かラベル表示された全長より35mm短くしたものののうち短い方を用いる。ラベル表示された全長が47mm以下である場合、クランプからクランプまでの長さは12mmで使用する。テスター表面は、試験開始より60±1秒で水平から最大傾斜30度に達する傾斜スピードとする。
縫合糸の一方の末端を測定機器の負荷側クランプに取り付けて閉じ、クランプ間の縫合糸に適当な張力をかけて、他方の末端を反対側のクランプに通し、クランプを閉じる。個々の縫合糸に定められた回数の破断試験を実施する。検体長の中心部の80%から外れた位置に破断が生じた場合、その記録を除外する。ラベル表示された全長が7mを超える場合、5個の縫合糸からそれぞれ2mずつを取り、この中から任意に選択し、最初の30cmの部分を除外して30〜100cm間隔で2回破断試験を行う。
上述した測定方法により、直線引張り強さを測定する。
縫合糸の承認基準として利用されているUSP(米国薬局方)に従って、本発明の実施形態に係るポリエステル製の縫合糸100の引張り試験強度を行った(上記)。また、比較例の縫合糸についても同様な試験を行った。
具体的には、引張試験機として、株式会社東洋精機製作所社製ストログラフE−3を用いて、上記測定を行った。
また、本発明の実施形態に係るポリエステル製の縫合糸100は、比較例と比較して、略同程度の伸度を有していた。
また、本発明の実施形態に係るポリエステル製の縫合糸100は、一般的なポリエチレン製の縫合糸と比較して、略同程度の滑りの程度を有する。
詳細には、本発明の実施形態に係る縫合糸100は、一般的なポリエチレン製の縫合糸の同程度の強度(結節強度)を有することが分かった。
また、本発明の実施形態に係る縫合糸100は、結節強度試験・破断時伸度が一般的なポリエステル製の縫合糸と同等であった。
図3は本発明の第2実施形態に係る縫合糸100の断面の一例を示す図である。図4は本発明の第2実施形態に係る縫合糸100の延伸処理前の状態の一例を示す斜視図である。
この芯糸12は、塑性変形限界の70%から90%の範囲内で軸方向に延伸させてなる。また、この芯糸12は、好ましくは、軸方向の伸度が組物15と略同じとなるように設定されている。
つまり、本発明の第2実施形態に係る縫合糸100は、組物15と芯糸12の軸方向の伸度が略同じとなるように構成されているので、この縫合糸100を軸方向に延伸した場合、組物15と芯糸12とが略同様に伸びた状態で破断することとなり、引張り強度が大きい。
例えば、比較例として、芯糸12の引張り強度が組物15の引張り強度よりも比較的小さい縫合糸(一般的な縫合糸)では、軸方向に延伸した場合、組物15よりも芯糸12が先に破断してしまい、芯糸の破断時の引張り強度がその縫合糸の実質的な引張り強度となるため、引張り強度が小さい。
図3に示した第2実施形態の組物15を構成する16本の各糸10aは(16打ちの場合)、縫合糸100の直径と比較して、13%〜20%程度となるように形成されている。尚、組物15を8つの糸10aにより構成する場合(8打ちの場合)、組物15を構成する各糸10aは、縫合糸100の直径と比較して、60〜70%程度となるように形成することが好ましい。このように、組物15を複数の糸10aにより構成する場合、組物15を構成する各糸10aは、縫合糸100の直径と比較して、所定の割合の大きさとなるように適宜形成することが好ましい。
例えば、芯糸12を軸方向に延伸処理して、その芯糸12の周囲に、各糸10aにより組物15を構成した後、その縫合糸100に対して延伸処理を行う。
最終的に、芯糸12と組物15がそれぞれ、塑性変形限界の約70%から90%の範囲内で軸方向に延伸させた状態となるようにする。
この場合、芯糸12と組物15の軸方向の伸度を略同じとするように延伸処理を行うことが好ましい。
このため、滑りにくく、結びやすく、ゆるみ難い、高強度のポリエステル製縫合糸100を提供することができる。
また、組物15と芯糸12とは、軸方向の伸度を略同じとするように構成することが好ましく、この場合、さらに大きな引張り強度の縫合糸100を提供することができる。
また、上述の各図で示した実施形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの記載内容を組み合わせることが可能である。
また、各図の記載内容はそれぞれ独立した実施形態になり得るものであり、本発明の実施形態は各図を組み合わせた一つの実施形態に限定されるものではない。
また、上記実施形態では、縫合糸100の組物15の各糸10は、マルチフィラメントであったが、モノフィラメントであってもよい。
また、芯糸12は、マルチフィラメントであってもよいし、モノフィラメントであってもよい。
[付記1]
複数本の糸を管状に組んだ組物からなり、
前記組物は、塑性変形限界の70%から90%の範囲内で軸方向に延伸させてなることを特徴とする
縫合糸。
[付記2]
前記糸は、ポリエステル、シルク、ナイロン、または、ポリグリコール酸などの医療用途原料からなることを特徴とする付記1に記載の縫合糸。
[付記3]
前記管状の組物の中空部に、塑性変形限界の70%から90%の範囲内で軸方向に延伸させてなる芯糸を備えることを特徴とする付記1または付記2に記載の縫合糸。
[付記4]
付記1から付記3のいずれかに記載の縫合糸の製造方法であって、
複数本の糸を管状に組んで組物を生成する第1の工程と、
前記組物を、塑性変形限界の70%から90%の範囲内で軸方向に延伸させる第2の工程と、を有することを特徴とする縫合糸の製造方法。
12 芯糸
15 組物
100 縫合糸
Claims (3)
- 複数本の糸を管状に組んだ組物からなり、
前記組物は、塑性変形限界の70%から90%の範囲内で軸方向に延伸させてなり、
前記管状の組物による中空部を有し、前記中空部に芯糸がなく、
前記管状に組まれた組物の各糸は、長手方向に直交する断面形状が、縫合糸の径方向に沿って長い略楕円形状であり、前記略楕円形状は、該縫合糸の中心に近いほど幅が小さく、
前記縫合糸の各糸の断面長手方向の直径は、前記縫合糸の直径の30%以上40%以下であり、
前記縫合糸の軸方向と各糸の角度は、20°以上40°以下である
ことを特徴とする縫合糸。 - 前記糸は、ポリエステル、シルク、ナイロン、または、ポリグリコール酸の医療用途原料からなることを特徴とする請求項1に記載の縫合糸。
- 請求項1または請求項2に記載の縫合糸の製造方法であって、
複数本の糸を管状に組んで組物を生成する第1の工程と、
前記組物を、塑性変形限界の70%から90%の範囲内で軸方向に延伸させることで、前記管状の組物の中空部に芯糸がない縫合糸を生成する第2の工程と、を有し、
前記管状に組まれた組物の各糸は、長手方向に直交する断面形状が、前記縫合糸の径方向に沿って長い略楕円形状であり、前記略楕円形状は、該縫合糸の中心に近いほど幅が小さく、前記縫合糸の各糸の断面長手方向の直径が、前記縫合糸の直径の30%以上40%以下であり、前記縫合糸の軸方向と各糸の角度が20°以上40°以下である
ことを特徴とする縫合糸の製造方法。
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