JP6447859B2 - 溶射皮膜被覆部材および溶射皮膜の製造方法 - Google Patents
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Description
溶射皮膜は、溶射材料を加熱により溶融又は軟化させ、溶融又は軟化した溶射材料を基材に衝突させることにより形成される。このため、溶射皮膜は、皮膜形成速度が速く、様々な種類の基材上に形成できることなどの利点を有する。また、基材上に溶射皮膜を形成することにより、基材が高温物質や腐食性物質に直接接触することを防止することができ、基材の変質、変形、腐食、摩耗などを防止することができる。
また、溶射皮膜には、その目的に応じて、防錆性、防食性、耐熱性、耐食性、耐摩耗性などが求められる。
一方、高温強度特性や耐酸化性、軽量性に優れたNi基金属間化合物合金が知られている(例えば、特許文献3、4参照)。この合金は主に鋳造により作製されている。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、優れた高温強度と硬さ特性および優れた耐酸化性を有する溶射皮膜を提供する。
本発明によれば、溶射皮膜は、金属粉末を溶射することにより形成された合金皮膜であるため、基材の表面を溶射皮膜により被覆することができ、基材が直接高温物質に接触することを防止することができる。このため、基材が酸化などにより変質することを防止することができる。また、溶射皮膜は優れた高温強度と硬さ特性を有するため、基材が摩耗すること、変形することなどを抑制することができる。さらに、合金皮膜を厚膜として形成し基材と分離して利用することも可能である。また、溶射皮膜は合金皮膜であるため、セラミックス皮膜に比べ延性や靭性が高い。
本発明の溶射皮膜により表面コーティングすることにより、安価な鉄鋼材料やニッケル合金の高温強度や耐摩耗性を向上させることが可能になる。また、本発明の溶射皮膜により肉盛を行うことにより、摩耗、損耗したNi基金属間化合物合金を補修することが可能になる。
本発明において合金組成とは、最密充填結晶構造からなる金属間化合物合金を構成することができる元素の組成である。なお、B(ボロン)は金属間化合物の結晶構造の構成に寄与しないと考えられるため、合金組成に含まれない。
このような構成によれば、溶射皮膜が、ラメラ組織、又はL12結晶構造を有するNi3Al相と、D022結晶構造を有するNi3V相が微細かつ整合よく配置された2重複相組織を有することができる。このため、本発明の溶射皮膜は、優れた高温強度特性を有することができる。
本発明の溶射皮膜において、前記合金組成は、69〜78原子%のNiと、5〜13原子%のAlと、9.5〜17.5原子%のVと、1〜4.5原子%のNbおよび3〜6原子%のTaのいずれか一方と、不可避不純物とからなることが好ましい。
このような構成によれば、本発明の溶射皮膜は、優れた高温強度特性を有することができる。このことは、本発明者等が行った実験により実証された。
このような構成によれば、溶射皮膜を室温延性を有するNi基金属間化合物合金から構成することができる。
本発明の溶射皮膜において、前記Ni基金属間化合物合金は、前記Ni基金属間化合物合金中の前記合金組成の金属の総重量に対して5〜500重量ppmのBを含むことが好ましい。
このような構成によれば、本発明の溶射皮膜の延性と強度を高めることができる。
金属粉末を溶射することにより形成された合金皮膜であって、69〜82原子%のNiと、7.5〜12.5原子%のSiと、4.5〜11.5原子%のTiとを含む合計100原子%の合金組成を有するNi基金属間化合物合金を含む溶射皮膜。
前記合金組成は、69〜82原子%のNiと、7.5〜12.5原子%のSiと、4.5〜8.0原子%のTiと、2〜6原子%のTaとを含む。
前記Ni基金属間化合物合金は、不規則固溶体相を有する金属組織、L1 2 単相組織、
又はL1 2 相中に第二相が分散した金属組織を有する。
このような構成によれば、プラズマにより溶射材料である金属粉末を溶融させることができ、溶融した金属粉末が基材上で凝固する段階においてNi基金属間化合物合金を形成することができる。なお、合金皮膜は、フレーム(ガス)溶射法やアーク溶射法などにより形成されてもよい。
本発明の溶射皮膜の製造方法において、溶射により形成された前記合金皮膜を800℃以上1350℃以下の温度で熱処理する工程をさらに含むことが好ましい。
このような構成によれば、溶射皮膜内に形成された気孔や空隙を除去することができ、溶射皮膜を緻密な膜にすることができる。このことにより、溶射皮膜の機械的特性を向上させることができる。また、熱処理する工程を行うことにより、溶射皮膜を構成するNi基金属間化合物合金に、初析L12相と(L12相+D022相)共析組織とからなる2重複相組織、L12単相組織、又はL12相中に第二相が分散した微細金属組織を形成させることができる。このことにより、溶射皮膜の機械的特性を向上させることができる。
本発明の溶射皮膜の製造方法において、前記基材の表面上に形成した前記合金皮膜を前記基材から分離し溶射成形体を形成する工程をさらに含むことが好ましい。
このような構成によれば、基材に金型を用い溶射成形体を形成することができ、微細な形状を有するNi基金属間化合物合金を容易に得ることができる。
図1(a)(b)は、それぞれ本実施形態の溶射皮膜を含む溶射皮膜被覆部材の概略断面図であり、図1(c)は本実施形態の溶射皮膜からなる溶射成形体および基材の概略断面図である。図2は、本実施形態の溶射皮膜の製造に用いる溶射装置の概略断面図である。
本実施形態の溶射皮膜1は、金属粉末16を溶射することにより形成された合金皮膜であって、69〜82原子%のNiを含む合計100原子%の合金組成を有するNi基金属間化合物合金からなることを特徴とする。
本実施形態の溶射皮膜被覆部材5は、本実施形態の溶射皮膜1と、基材3とを備え、溶射皮膜1は、基材3上に金属粉末16を溶射することにより形成されたものである。
また、本実施形態の溶射皮膜1の製造方法は、69〜82原子%のNiと5〜13原子%のAlと9.5〜17.5原子%のVとを含む合計100原子%の組成、および69〜82原子%のNiと7.5〜12.5原子%のSiと4.5〜11.5原子%のTiとを含む合計100原子%の組成のうちいずれか一方の組成を有する金属粉末16を基材3に溶射し、基材3の表面上に合金皮膜を形成する工程を含む。
以下、本実施形態の溶射皮膜1、溶射皮膜被覆部材5および溶射皮膜1の製造方法について説明する。
溶射皮膜1は、溶射装置7を用いて溶射材料16を基材3上に溶射することにより形成された合金皮膜である。溶射皮膜1は、基材3を被覆し溶射皮膜被覆部材5を形成してもよく、溶射皮膜であってもよく、溶射皮膜1を基材3から分離することにより得た溶射成形体2であってもよい。また、溶射皮膜被覆部材5は、積層された複数の被覆層が基材3を覆った構造を有してもよい。この場合、被覆層の少なくとも1つが本実施形態の溶射皮膜1であればよい。
溶射皮膜1は、例えば図1(a)のように基材3の平らな表面上に設けられ溶射皮膜被覆部材5を形成してもよく、図1(b)のように基材3の複雑な表面上に設けられ溶射皮膜被覆部材5を形成してもよく、図1(c)のように複雑な表面形状を有する基材3上に溶射皮膜1を形成し溶射皮膜1と基材3を分離することにより得られる溶射成形体2であってもよい。溶射成形体2は、基材3を金型として形成することができるため、複雑な形状を有することができる。
このことにより、溶射皮膜1は、優れた高温強度特性および優れた耐酸化性を有することができる。また、溶射皮膜1により基材3を被覆するように設け溶射皮膜被覆部材5を形成すると、基材3の高温強度特性および耐酸化性を向上させることができる。また、複雑な形状を有し、かつ、優れた高温強度特性および優れた耐酸化性を有する溶射成形体2を形成することができる。
また、溶射皮膜1は、69〜78原子%のNiと、5〜13原子%のAlと、9.5〜17.5原子%のVと、1〜4.5原子%のNbおよび3〜6原子%のTaのいずれか一方と、不可避不純物とからなる合金組成を有するNi基金属間化合物合金からなってもよい。
また、溶射皮膜1は、1〜5原子%のW、1〜5原子%のNb、1〜5原子%のCr、1〜5原子%のCoを含んでもよい。
また、溶射皮膜1は、69〜82原子%のNiと7.5〜12.5原子%のSiと4.0〜8.0原子%のTiと2〜6原子%のTaの合金組成を有するNi基金属間化合物合金を含んでもよい。
また、溶射皮膜1は、1〜5原子%のW、1〜5原子%のNb、1〜5原子%のCr、1〜5原子%のAl又は1〜5原子%のCoを含んでもよい。
溶射皮膜被覆部材5は、基材3と、基材3上に金属粉末を溶射することにより形成された溶射皮膜1と、を備え、溶射皮膜1と基材3との界面近傍のNi基金属間化合物合金に含まれるL12相は、溶射皮膜1の他の部分のNi基金属間化合物合金に含まれるL12相に比べ微細化されていてもよい。この微細化は溶射皮膜1と基材3の構成原子の相互拡散により生じると考えられるため、溶射皮膜1と基材3との結合性を向上させることができ、溶射皮膜1が基材3から剥離することを抑制することができる。このL12相は、初析L12相であってもよく、初析L12相でなくてもよい。
溶射皮膜1の製造方法は、69〜82原子%のNiと5〜13原子%のAlと9.5〜17.5原子%のVとを含む合計100原子%の組成を有する金属粉末を基材3に溶射し、基材3の表面上に合金皮膜を形成する工程を含んでもよい。このことにより、Ni基金属間化合物合金からなる溶射皮膜1を基材3の表面上に形成することができる。また、溶射皮膜1を構成するNi基金属間化合物合金が、L12相とD022相からなるラメラ組織、又は初析L12相と(L12相+D022相)共析組織とからなる2重複相組織を有することが可能になる。
また、69〜82原子%のNiと7.5〜12.5原子%のSiと4.5〜8.0原子%のTiと2〜6原子%のTaとを含む合計100原子%の組成を有する金属粉末を基材3に溶射し、基材3の表面上に合金皮膜を形成する工程を含んでもよい。
基材3は、その表面上に溶射皮膜1を形成することができれば特に限定されない。また、溶射皮膜1を形成する前に、基材3の表面に凹凸を形成してもよい。このことにより、溶射皮膜1と基材3との密着性を高めることができる。基材3の表面の凹凸は、例えば、ショットブラストにより形成することができる。
また、溶射材料16である金属粉末は、上記の合金組成と同じ組成を有するように、各金属元素の金属粉末を混合した混合金属粉末であってもよい。この場合、混合金属粉末は溶射装置において溶融し、混合金属粉末の各成分は混ざり合い上記の合金組成の合金皮膜として基材上に堆積する。また、前記混合金属粉末は、上記の組成の金属の総重量に対して5〜500重量ppmのBを含んでもよい。
そして、陰極8の先端の先にプラズマジェット14が形成されるようにプラズマ発生領域13が設けられている。また、Arなどの作動ガスが陰極8側からプラズマ発生領域13側に流れるように溶射装置7に供給される。そして、溶射材料16である金属粉末が粉末供給ガスと共にプラズマ発生領域13に供給されるように溶射材料供給部15が設けられている。
作動ガスには、1次ガスとしてArガスを用いることができ、2次ガスとしてHeガス、H2ガスなどを用いることができる。また、粉末供給ガスには、Arガス、N2ガスなどを用いることができる。
溶射皮膜1のNi基金属間化合物合金が、69〜78原子%のNiと、5〜13原子%のAlと、9.5〜17.5原子%のVと、1〜4.5原子%のNbとを含む合計100原子%の合金組成を有する場合、熱処理温度は、900℃以上1350℃以下であることが好ましい。このことにより、溶射皮膜1の硬さを向上させることができる。
溶射皮膜1のNi基金属間化合物合金が、69〜78原子%のNiと、5〜13原子%のAlと、9.5〜17.5原子%のVと、3〜6原子%のTaとを含む合計100原子%の合金組成を有する場合、熱処理温度は、1100℃以上1350℃以下であることが好ましい。このことにより、溶射皮膜1の硬さを向上させることができる。
また、この熱処理工程により、溶射皮膜1を構成するNi基金属間化合物合金に、初析L12相と(L12相+D022相)共析組織とからなる2重複相組織、又はL12相とD022相とが積層したラメラ組織などの微細金属組織を形成させることができる。このことにより、溶射皮膜1の機械的特性を向上させることができる。
また、この熱処理工程により、不規則固溶体相を有する金属組織、L12単相組織、又はL12相中に第二相が分散した金属組織などの微細金属組織を形成させることができる。このことにより、溶射皮膜1の機械的特性を向上させることができる。
チャンバー内において、図2に示したようなプラズマ溶射装置7を用いて基材3上に溶射皮膜1を形成し試料1〜6の溶射皮膜被覆部材5を形成した。なお、試料1〜6は、それぞれ複数作製した。表1、2に本実験において用いた溶射材料16の組成を示し、表3に本実験における溶射条件を示す。
溶射材料16には、表1、2に示した組成を有する金属粒子からなる金属粉末1〜4を用いた。なお、Bの添加量は、金属粉末1、2、3又は4の製造に用いたNi、Al、V、Nb、Ta、Si又はTiの地金の総重量に対する重量%である。
金属粉末1、2、3又は4は、アトマイズ法により製造し63μm以下の粒径に分級にしたものを用いた。なお、金属粉末1、2、3又は4では、Ni基金属間化合物合金が形成されていることを確認した。
形成した試料1〜4の溶射皮膜被覆部材の増加重量(溶射皮膜の重量)および溶射皮膜の厚さを表4に示す。
試料1〜4の溶射皮膜被覆部材(熱処理前の溶射皮膜被覆部材)では、厚さが約300μmの溶射皮膜1を基材3上に形成することができた。
熱処理前の試料1〜4の溶射皮膜被覆部材、溶射皮膜について、SEM及びTEMを用いた金属組織観察、EPMAを用いた構成元素分析、及びX線回折(XRD)測定を行った。
図4(a)〜(d)は、熱処理前の試料1〜4の断面の低倍率SEM写真であり、基材と溶射皮膜との界面付近のSEM写真である。
熱処理前の試料1〜4では、基材と溶射皮膜との界面がはっきりと確認され、界面が凹凸であることがわかった。これは、投錨効果によって溶射皮膜の密着性を高めるために、ショットブラストにより基材表面に凹凸を付けたためである。また、溶射皮膜中に大きな空隙が形成されていることが確認された。これは、溶融不足あるいは速度不足の溶射粒子の巻き込みによって形成されたと考えられる。
熱処理前の試料1〜4では、いずれの試料でも2重複相組織は確認することができず、すべての試料で長さ数μm、幅が約0.2μmの非常に微細な柱状晶が観察された。また、すべての試料で溶射による積層組織が確認された。また、溶射皮膜中には比較的大きな空隙がみられた。
熱処理前の試料1〜4の回折パターンでは、すべての試料でNi固溶体(Nis.s.)のピークが確認された。また、熱処理後の試料1〜4の回折パターンでは、すべての試料でNi3Alのピーク及びNi3Vのピークが確認された。熱処理前の試料1〜4では、微細組織が規則化せず不規則Ni固溶体になっていると考えられる。
なお、図8(a)はA1相(Ni固溶体相、Nis.s.)の結晶構造図であり、図8(b)はA1相の[001]入射のTEM制限視野回折パターンである。図9(a)はL12相(Ni3Al)の結晶構造図であり、図9(b)はL12相の[001]入射のTEM制限視野回折パターンである。図10(a)はD022相(Ni3V)の結晶構造図であり、図10(b)〜(d)はD022相の[001]入射のTEM制限視野回折パターンである。なお、(b)〜(d)の回折斑点の指数はA1(FCC)構造の指数に準じている。
図7(b)(d)に示した試料1、3の制限視野回折パターンでは、図8(b)に示したNi固溶体相の回折スポットのみが観察されたため、試料1、3の溶射皮膜は不規則Ni固溶体相から構成されると考えられる。この不規則Ni固溶体相は、溶射した溶滴の急冷によりA1相が凍結されて形成されたと考えられる。
熱処理前の試料1、3では、基材と溶射皮膜との界面がはっきりと確認され、各構成元素は相互に拡散していないことが確認された。
950℃で3時間、950℃で24時間、1050℃で3時間、1050℃で24時間又は1280℃で3時間の熱処理を行った試料1、2の溶射皮膜被覆部材、溶射皮膜について、SEM及びTEMを用いた金属組織観察、EPMAを用いた構成元素分析、及びX線回折(XRD)測定を行った。
図13(a)〜(e)は、950℃、1050℃又は1280℃で熱処理を行った試料1又は試料2の断面の低倍率SEM写真であり、基材と溶射皮膜との界面付近のSEM写真である。熱処理後の試料1、2では、溶射皮膜中の大きな空隙がほとんどなく、溶射皮膜が熱処理前に比べより緻密な膜となっていることがわかった。これは、熱処理により、溶射粒子間の焼結現象が進行し、気孔が消失したものである。
また、1280℃で熱処理を行った試料1、2では、基材と溶射皮膜との界面が不明確になっていることがわかった。これは、熱処理により、基材を構成する原子と溶射皮膜を構成する原子とが相互に拡散したためと考えられる。このため、熱処理を行うことにより、基材から剥離しにくく密着性のよい溶射皮膜を形成できることがわかった。
950℃で熱処理を行った試料1では、ラメラ組織が確認された。950℃はL12相とD022相が共存する温度域内であるため、このラメラ組織は、L12相とD022相とが積層した組織と考えられる。1050℃で熱処理を行った試料1では、粒子間に形成されたラメラ組織が確認された。1050℃はA1相とL12相が共存する温度域内であるため、L12相の粒子間に、L12相とD022相とが積層したラメラ組織が形成されたと考えられる。1280℃で熱処理を行った試料1では、2重複相組織が形成されていることが確認された。なお、図14(f)(g)において、黒っぽく四角状の部分がL12相であると考えられ、L12相の間の灰色の部分が(L12+D022)相であると考えられる。
950℃、1050℃又は1280℃で熱処理を行った試料1では、すべての試料でNi3Al及びNi3Vのピークを確認することができた。
図16(a)は1280℃で熱処理を行った試料1の溶射皮膜のTEM明視野像であり、図16(b)は1280℃で熱処理を行った試料1の溶射皮膜の制限視野回折パターンである。明視野像では、数100nmの初析L12相粒子とその周囲のチャンネル部が観察された。図16(b)に示した制限視野回折パターンでは、図9(b)に示したL12相の回折スポットと、図10(b)(c)に示したD022相の回折スポットが整然と並んでおり、Ni3Al(L12相)とNi3V(D022相)が整合よく析出したことがわかった。
1280℃で熱処理を行った試料1では、基材に含まれるFe原子、Cr原子が溶射皮膜に拡散し、溶射皮膜に含まれるNi原子、Al原子及びNb原子が基材に拡散したことが確認され、界面が不明瞭化した。
図18(a)〜(c)から、L12相の粒子の粒径が界面に近づくほど微細化することがわかった。これは、界面近傍では、基材に含まれる原子と溶射皮膜に含まれる原子が相互拡散するためと考えられる。
950℃で3時間、950℃で24時間、1050℃で3時間、1050℃で24時間又は1280℃で3時間の熱処理を行った試料3、4の溶射皮膜被覆部材、溶射皮膜について、SEM及びTEMを用いた金属組織観察、EPMAを用いた構成元素分析、及びX線回折(XRD)測定を行った。
図19(a)〜(e)は、950℃、1050℃又は1280℃で熱処理を行った試料3又は試料4の断面の低倍率SEM写真であり、基材と溶射皮膜との界面付近のSEM写真である。熱処理後の試料3、4では、溶射皮膜中の大きな空隙がほとんどなく、溶射皮膜が熱処理前に比べより緻密な膜となっていることがわかった。また、熱処理後の試料3、4では、基材と溶射皮膜との界面に気孔又は反応生成物が残留していた。
950℃又は1050℃で熱処理を行った試料3では、棒状又は板状の析出物が確認された。また、1280℃で熱処理を行った試料3、4では、2重複相組織と針状粒子とが形成されていることが確認された。なお、図20(f)(g)において、灰色の盛り上がって見える部分がL12相であると考えられ、L12相の間の黒っぽい部分が(L12+D022)相であると考えられる。
950℃、1050℃又は1280℃で熱処理を行った試料3では、すべての試料でNi3Al、Ni3V及びNi3Taのピークを確認することができた。
1280℃で熱処理を行った試料3では、基材に含まれるFe原子、Cr原子が溶射皮膜に拡散し、溶射皮膜に含まれるNi原子、Al原子及びTa原子が基材に拡散したことが確認された。
図24(a)〜(c)から、L12相の粒子の粒径が界面に近づくほど微細化することがわかった。これは、界面近傍では、基材に含まれる原子と溶射皮膜に含まれる原子が相互拡散するためと考えられる。
熱処理前の試料1〜4に含まれる溶射皮膜および950℃、1050℃又は1280℃で熱処理を行った試料1〜4に含まれる溶射皮膜について、ビッカース硬さ試験を行った。ビッカース硬さ試験は、室温で、各試料の溶射皮膜に正4角錐のダイヤモンド製圧子を押し込むことによって行った。この試験では、荷重は300gを用い、保持時間は10秒とした。なお、この条件は図32に示す試料5、6のビッカース硬さ試験でも同様である。
図25は試料1〜4のビッカース硬さ試験の結果を示したグラフであり、図26は試料1のビッカース硬さ試験の結果を示したグラフであり、図27は試料3のビッカース硬さ試験の結果を示したグラフである。溶射まま、すなわち熱処理前の試料1〜4のビッカース硬さは約400HVであった。なお、基材であるSUS304の硬さは、熱処理前では約250HVであり、熱処理後では約140HVであった。熱処理前の基材は、ショットブラストによる加工硬化により硬さが上昇していると考えられる。また、熱処理後の基材は、熱処理により基材のひずみが緩和されるため熱処理前の基材よりも硬さが低下していると考えられる。また、試料1の溶射皮膜と同じ合金組成を有し1280℃で熱処理した溶製材の硬さは約560HVであり、試料3の溶射皮膜と同じ合金組成を有し1280℃で熱処理した溶製材の硬さは約650HVであった。
図25〜27から熱処理前の試料1〜4の溶射皮膜および熱処理後の試料1〜4の溶射皮膜のビッカース硬さは、基材であるSUS304の硬さよりも大きいことが確認された。このことにより、基材上に設けたNi基金属間化合物合金からなる溶射皮膜により、基材を保護できることがわかった。
図26から、950℃、1050℃及び1280℃で熱処理した試料1は、溶製材と同等の硬さである520〜620HVの硬さを有することが確認できた。また、1050℃で熱処理した試料1は、1280℃で熱処理した試料1よりも大きい硬さを有することがわかった。これは、1050℃で熱処理した試料1ではラメラ組織が形成されているためと考えられる。また、熱処理時間が3時間から24時間に増加すると若干硬さは低下するものの、依然、高い硬さを有することがわかった。このため、試料1の溶射皮膜は高温長時間の使用にも耐えると考えられる。
図27から、1280℃で熱処理した試料3は約600HVの硬さを有していたが、1050℃で熱処理した試料3及び950℃で24時間熱処理した試料3では硬さが約420〜500HVであった。これは、1280℃では二重複相組織が形成されていたのに対し、950℃及び1050℃ではNi3Taが比較的大きい棒状又は板状析出物として形成されたためと考えられる。また、950℃、1050℃では、熱処理時間が長くなると硬さが低下した。これは、熱処理によりNi3Taの析出物が成長し大きくなるためと考えられる。
従って、溶射皮膜に二重複相組織又はラメラ組織が形成されると溶射皮膜は大きい硬さを有することがわかった。
熱処理前の試料5、6の溶射皮膜被覆部材、溶射皮膜について、SEMを用いた金属組織観察、X線回折(XRD)測定及びビッカース硬さ試験を行った。また、1050℃で48時間の熱処理を行った試料5、6の溶射皮膜被覆部材、溶射皮膜について、X線回折(XRD)測定及びビッカース硬さ試験を行った。
図28(a)(b)は、試料5(NST−base)の溶射皮膜のSEM写真であり、図28(c)は試料5の基材と溶射皮膜との界面付近のSEM写真である。また、図29(a)(b)は、試料6(NST−5Ta)の溶射皮膜のSEM写真であり、図29(c)は試料6の基材と溶射皮膜との界面付近のSEM写真である。試料5、6では、良質な溶射皮膜を基材上に形成することができた。
熱処理前及び熱処理後の試料5では、同様の回折ピークが測定された。また、図30の矢印で示した3つのピーク(超格子反射)が測定されたことから、熱処理前及び熱処理後の試料5の両方では溶射皮膜の微細組織がL12規則相を有していることが確認された。
図31は熱処理前及び熱処理後の試料6のX線回折パターンである。
熱処理前及び熱処理後の試料6では、同様の回折ピークが測定された。また、熱処理前及び熱処理後の試料6の両方では溶射皮膜の微細組織は不規則Ni固溶体相を有していることが確認された。
熱処理前の試料5のビッカース硬さは約440HVであり、熱処理後の試料5のビッカース硬さは約540HVであった。なお、試料5の溶射皮膜と同じ合金組成を有し1050℃で熱処理した溶製材の硬さは約400HVである。従って、熱処理前及び熱処理後の試料5の溶射皮膜は、溶製材よりも硬いことがわかった。また、試料5では、熱処理を施すことにより硬さが大きく上昇した。
熱処理前及び熱処理後の試料6のビッカース硬さは、共に約540HVであった。なお、試料6の溶射皮膜と同じ合金組成を有し1050℃で熱処理した溶製材の硬さは約480HVである。従って、熱処理前及び熱処理後の試料6の溶射皮膜は、溶製材よりも硬いことがわかった。また、試料6では、熱処理後の試料と熱処理前の試料とが同等の硬さを有することがわかった。
Claims (6)
- 溶射皮膜と、基材とを備え、
前記溶射皮膜は、前記基材上に金属粉末を溶射することにより形成された合金皮膜であり、
前記溶射皮膜は、69〜82原子%のNiと、5〜13原子%のAlと、9.5〜17.5原子%のVとを含む合計100原子%の合金組成を有するNi基金属間化合物合金を含み、
前記Ni基金属間化合物合金は、L1 2 相を有する金属組織を有し、
前記溶射皮膜と前記基材との界面近傍における前記L1 2 相は、前記溶射皮膜の他の部分の前記L1 2 相に比べ微細化されていることを特徴とする溶射皮膜被覆部材。 - 前記Ni基金属間化合物合金は、L12相とD022相からなるラメラ組織、又は初析L12相と(L12相+D022相)共析組織とからなる2重複相組織を有する請求項1に記載の溶射皮膜被覆部材。
- 前記合金組成は、69〜78原子%のNiと、5〜13原子%のAlと、9.5〜17.5原子%のVと、1〜4.5原子%のNbおよび3〜6原子%のTaのいずれか一方と、不可避不純物とからなる請求項1又は2に記載の溶射皮膜被覆部材。
- 前記Ni基金属間化合物合金は、前記Ni基金属間化合物合金中の前記合金組成の金属の総重量に対して5〜500重量ppmのBを含む請求項1〜3のいずれか1つに記載の溶射皮膜被覆部材。
- 69〜82原子%のNiと5〜13原子%のAlと9.5〜17.5原子%のVとを含む合計100原子%の組成を有する金属粉末を基材に溶射し、前記基材の表面上に合金皮膜を形成する工程と、
溶射により形成された前記合金皮膜を前記基材と共に800℃以上1350℃以下の温度で熱処理する工程とを含む溶射皮膜の製造方法。 - 前記合金皮膜を形成する工程は、プラズマ溶射により前記合金皮膜を形成する工程である請求項5に記載の製造方法。
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