以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
履帯式走行装置のスプロケットおよびブシュを例に、本発明の一実施の形態である実施の形態1における機械部品について説明する。図1は、履帯式走行装置の構造を示す概略図である。図2は、スプロケットおよびブシュの動作を説明するための概略図である。図3は、ブシュの構造を示す概略斜視図である。図4および図5は、スプロケットとブシュとの接触状態を示す概略断面図である。
図1を参照して、本実施の形態における履帯式走行装置1は、たとえばブルドーザなどの作業機械の走行装置であって、履帯2と、トラックフレーム3と、アイドラ4と、スプロケット5と、複数の(ここでは7つの)下転輪10と、複数の(ここでは2つの)上転輪11とを備えている。
履帯2は、無端状に連結された複数の履帯リンク9と、各履帯リンク9に対して固定された履板6とを含んでいる。履帯リンク9は、外リンク7と内リンク8とを含んでいる。外リンク7と内リンク8とは、交互に連結されている。
トラックフレーム3には、アイドラ4と、複数の下転輪10と、複数の上転輪11とが、それぞれの軸周りに回転可能に取り付けられている。スプロケット5は、トラックフレーム3の一方の端部側に配置されている。スプロケット5は、エンジンなどの動力源に接続されており、当該動力源によって駆動されることにより、軸周りに回転する。スプロケット5の外周面には、径方向外側に突出する複数の突出部51が配置されている。突出部51は、履帯2と噛み合う。そのため、スプロケット5の回転は履帯2に伝達される。履帯2は、スプロケット5の回転により駆動されて周方向に回転する。
トラックフレーム3の他方の端部(スプロケット5が配置される側とは反対側の端部)には、アイドラ4が取り付けられている。また、スプロケット5とアイドラ4とに挟まれたトラックフレーム3の領域には、接地側に複数の下転輪10が取り付けられ、接地側とは反対側に複数の上転輪11が取り付けられている。アイドラ4、下転輪10および上転輪11は、外周面において履帯2の内周面に接触している。その結果、スプロケット5の回転により駆動される履帯2は、アイドラ4、スプロケット5、下転輪10および上転輪11に案内されつつ、周方向に回転する。
図2を参照して、隣り合う外リンク7と内リンク8とは、連結ピン12およびブシュ13により連結されている。各内リンク8には、履帯2の回転面に垂直な方向に貫通する貫通孔15が2つずつ形成されている。この2つの貫通孔15のうち一方の貫通孔15は長手方向の一方の端部に形成され、他方の貫通孔15は他方の端部に形成されている。各外リンク7には、履帯2の回転面に垂直な方向に貫通する貫通孔15が2つずつ形成されている。この2つの貫通孔15のうち一方の貫通孔15は長手方向の一方の端部に形成され、他方の貫通孔15は他方の端部に形成されている。
図3を参照して、ブシュ13は中空円筒状の形状を有している。ブシュ13の両端部には、外径の小さい小径部139が形成されている。ブシュ13の内周面133は長手方向において一定の直径を有している。小径部139において、ブシュ13の肉厚が小さくなっている。
図2および図3を参照して、一対の外リンク7は、それぞれ履帯2の回転面に垂直な方向から見て、それぞれの2つの貫通孔15が重なるように配置される。一対の内リンク8は、それぞれ履帯2の回転面に垂直な方向から見て、それぞれの2つの貫通孔15が重なるように配置される。隣り合う外リンク7と内リンク8とは、履帯2の回転面に垂直な方向から見て、それぞれの1つの貫通孔15が重なるように配置される。ブシュ13は、一対の内リンク8に挟まれ、両端の小径部139が内リンク8の貫通孔15に挿入されるように配置される。連結ピン12は、隣り合う外リンク7および内リンク8の、履帯2の回転面に垂直な方向から見て重なる貫通孔15、およびブシュ13の内周面133に取り囲まれる空間を貫通するように配置される。連結ピン12は、ブシュ13を長手方向に貫通するように配置される。
スプロケット5は、その外周面53が、履帯2を構成するブシュ13の外周面131と噛み合いつつ周方向に回転する。そのため、スプロケット5の外周面53およびブシュ13の外周面131には、高い耐摩耗性が要求される。スプロケット5は、他の部品であるブシュ13と接触領域である外周面53において接触しつつブシュ13に対して相対的に摺動する機械部品である。ブシュ13は、他の部品であるスプロケット5と接触領域である外周面131において接触しつつスプロケット5に対して相対的に摺動する機械部品である。
図4および図5を参照して、スプロケット5は、金属(鋼)からなるベース部50と、接触領域である外周面53を構成するようにベース部50を覆う肉盛層52と、を備える。肉盛層52の表面である外周面53は平滑化されている。ここで、肉盛層52の表面である外周面53が平滑化されている状態とは、肉盛層52の表面から、液体状態である肉盛層52形成時の表面張力等の影響を受けた表面形状が除去された状態をいう。本実施の形態において、肉盛層52の表面である外周面53は鍛造面である。液体状態である肉盛層52形成時の表面張力等の影響を受けた肉盛層52の表面である外周面53が鍛造によって平滑化されている。ベース部50を構成する金属としては、たとえばJIS規格に規定される機械構造用炭素鋼または機械構造用合金鋼(たとえばS45C、SCM435のほか、同等量の炭素を含むSMn鋼、SCr鋼、SCM鋼など)などを採用することができる。
ブシュ13は、ベース部134と、接触領域である外周面131を構成するようにベース部134を覆う肉盛層132と、を備える。肉盛層132の表面である外周面131は平滑化されている。本実施の形態において、肉盛層132の表面である外周面131は鍛造面である。液体状態である肉盛層52形成時の表面張力等の影響を受けた肉盛層132の表面である外周面131が鍛造によって平滑化されている。ベース部134を構成する金属としては、たとえばJIS規格に規定される機械構造用炭素鋼または機械構造用合金鋼(たとえばS45C、SCM435のほか、同等量の炭素を含むSMn鋼、SCr鋼、SCM鋼など)などを採用することができる。
本実施の形態における機械部品であるスプロケット5およびブシュ13では、接触領域を構成する肉盛層52,132の表面が平滑化されている。これにより、局所的に接触面圧が上昇する等の現象が抑制され、他の部品(ブシュ13およびスプロケット5)に対する攻撃性が抑制されている。
次に、スプロケット5およびブシュ13が有する肉盛層の構造について説明する。図6は、肉盛層の表面付近の構造を示す概略断面図である。図7は、肉盛層とベース部との界面付近の構造を示す概略断面図である。図6および図7を参照して、スプロケット5およびブシュ13が有する肉盛層90(肉盛層52および肉盛層132)は、第2金属からなる母相95と、母相95中に分散する硬質粒子91と、を含んでいる。母相95を構成する第2金属は、たとえば溶接ワイヤに由来する金属とベース部100(ベース部50およびベース部134)を構成する金属(第1金属)とが混合されたものとすることができる。硬質粒子91としては、母相95よりも硬度が高い粒子、たとえば超硬合金からなる粒子を採用することができる。肉盛層90は、ベース部100よりも耐摩耗性が高い。
図6を参照して、肉盛層90の表面90Aは鍛造面となっている。肉盛層90の表面90Aから硬質粒子91の平均粒径以内の領域である肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91は、肉盛層90に埋め込まれた状態で並んで配置される。これにより、肉盛層90の表面90Aから硬質粒子91が大きく突出して配置されることが抑制される。その結果、スプロケット5およびブシュ13の使用中における硬質粒子91の脱落が抑制され、スプロケット5およびブシュ13の耐摩耗性が向上する。なお、硬質粒子91の平均粒径は、肉盛層90の表面90Aに垂直な断面を光学顕微鏡にて観察し、観察される硬質粒子91について10個の直径の平均値を計算することにより得ることができる。
肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91は、図6に示すように肉盛層90の表面90Aに接するように配置されていてもよい。これにより、肉盛層90の表面90Aから露出する硬質粒子91の領域がわずかとなり、硬質粒子91の脱落が抑制される。
図6に示すように、肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91の、肉盛層90の表面90Aから露出する領域に対応する中心角θは鋭角(90°未満)であってもよい。これにより、肉盛層90の表面90Aから露出する硬質粒子91の領域がわずかとなり、硬質粒子91の脱落が抑制される。
図7を参照して、肉盛層90は、肉盛層90とベース部100との界面を含む領域において、ベース部100に向けて突出する突出部99を含む。突出部99によるアンカー効果により、ベース部100から肉盛層90が剥離することが抑制される。その結果、スプロケット5およびブシュ13の耐摩耗性が向上する。突出部99には、硬質粒子91の少なくとも一部が進入している。これにより、ベース部100から肉盛層90が剥離することがより確実に抑制される。突出部99に進入している硬質粒子91とベース部100との間には肉盛層90の母相95が介在している。突出部99に進入している硬質粒子91とベース部100とは、接触していない。硬質粒子91の中心は、突出部99の外部に位置している(硬質粒子91の体積の1/2未満の領域が突出部99内に進入している。)。各突出部99内には、1つの硬質粒子91が進入している。各突出部99の深さは、当該突出部99に進入する硬質粒子91の半径よりも小さい。
次に、図8〜図13を参照して、本実施の形態における機械部品であるスプロケット5の製造方法について説明する。図8は、機械部品であるスプロケットの製造方法の概略を示すフローチャートである。図9、図10、図12および図13は、スプロケットの製造方法を説明するための概略斜視図である。図11は、肉盛層の形成方法を説明するための概略断面図である。
図8を参照して、本実施の形態におけるスプロケット5の製造方法では、まず工程(S10)としてベース部材準備工程が実施される。この工程(S10)では、図9を参照して、スプロケット5のベース部50となるべきベース部材61が準備される。ベース部材61は、ベース部50を構成する金属からなる。ベース部材61は円筒形状を有している。ベース部材61は、一対の端面61Bと、一対の端面61B同士を接続する側面61Aとを含む。
次に、工程(S20)として肉盛層形成工程が実施される。この工程(S20)では、図9および図10を参照して、工程(S10)において準備されたベース部材61の側面61Aの一部を覆うように肉盛層63が形成される。肉盛層63は、ベース部材61の長手方向全域にわたって形成される。肉盛層63は、ベース部材61の周方向の一部(周方向のおよそ半分)に形成される。肉盛層63は、ベース部材61の長手方向に延在するビード62が、周方向に隙間なく並べて配置された構造を有している。
肉盛層63の形成は、たとえば以下のように炭酸ガスアーク溶接法を利用した肉盛溶接により実施することができる。まず、肉盛層形成装置について説明する。図11を参照して、肉盛層形成装置は、溶接トーチ70と、硬質粒子供給ノズル80とを備えている。溶接トーチ70は、中空円筒形状を有する溶接ノズル71と、溶接ノズル71の内部に配置され、電源(図示しない)に接続されたコンタクトチップ72とを含む。コンタクトチップ72に接触しつつ、溶接ワイヤ73が溶接ノズル71の先端側へと連続的に供給される。溶接ワイヤとしては、たとえばJIS規格YGW12を採用することができる。溶接ノズル71とコンタクトチップ72との隙間は、シールドガスの流路となっている。当該流路を流れるシールドガスは、溶接ノズル71の先端から吐出される。硬質粒子供給ノズル80は、中空円筒状の形状を有している。硬質粒子供給ノズル80内には硬質粒子91が供給され、硬質粒子供給ノズル80の先端から硬質粒子91が吐出される。
上記肉盛層形成装置を用いて肉盛層63を以下の手順で形成することができる。ベース部材61を一方の電極とし、溶接ワイヤ73を他方の電極としてベース部材61と溶接ワイヤ73との間に電圧を印加すると、溶接ワイヤ73とベース部材61との間にアーク74が形成される。アーク74は、溶接ノズル71の先端から矢印βに沿って吐出されるシールドガスによって、周囲の空気から遮断される。シールドガスとしては、たとえば二酸化炭素を採用することができる。アーク74の熱により、ベース部材61の一部および溶接ワイヤ73の先端が溶融する。溶接ワイヤ73の先端が溶融して形成された液滴は、ベース部材61の溶融した領域へと移行する。これにより、溶融したベース部材61と溶接ワイヤ73とが混ざり合った液体領域である溶融池92が形成される。溶融池92には、硬質粒子供給ノズル80から吐出された硬質粒子91が供給される。
肉盛溶接装置を構成する溶接トーチ70および硬質粒子供給ノズル80がベース部材61に対して矢印αの向きに相対的に移動すると、溶融池92が形成される位置が順次移動し、先に形成された溶融池92は凝固して、ビード62となる。ビード62は、溶融池92が凝固して形成された母相95と、母相95中に分散する硬質粒子91とを含む。複数のビード62が幅方向に隣り合うように隙間なく形成され、ベース部材61の側面61Aの所望の領域が複数のビード62により覆われることにより、肉盛層63の形成が完了する(図10参照)。なお、肉盛溶接は、たとえば溶接電流230A、溶接電圧17V、硬質粒子の供給量110g/min、ビード余盛高さ4mmの条件で実施することができる。溶接ワイヤとしては、JIS規格YGW11を採用してもよい。硬質粒子としては、WC、W2C系の粒子を採用してもよい。
次に、工程(S30)として熱間鍛造工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)において肉盛層63が形成されたベース部材61が熱間鍛造される。図10および図12を参照して、肉盛層63が形成されたベース部材61が熱間鍛造可能な温度に加熱された上で、所望のスプロケット5の形状に対応するキャビティを有する金型内に配置され、鍛造される。本実施の形態では、円環状のスプロケット5が複数の円弧状の部品に分割されたものが熱間鍛造によって作製され、後工程においてこれらが組み合わされて円環状のスプロケット5が得られる。熱間鍛造により、工程(S20)において形成された肉盛層63が加工される。肉盛層63がスプロケット5の外周面を覆うようにベース部材61が熱間鍛造される。これにより、液体時の表面張力等の影響を受けた表面形状が除去された表面が平滑な肉盛層52が得られる。熱間鍛造の結果、図12に示すようにバリ59が形成される。図12および図13を参照して、その後、打ち抜きが実施されることにより、バリ59が除去されてスプロケット5の一部を構成する部品が得られる(図13参照)。
図11および図6を参照して、肉盛層63が形成されたベース部材61が熱間鍛造されることにより、肉盛層63の形成時において肉盛層63(ビード62)の表面から突出していた硬質粒子91は、肉盛層63(ビード62)の内部へと押し込まれる。その結果、スプロケット5では、肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91は、肉盛層90に埋め込まれた状態で並んで配置される。肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91は、肉盛層90の表面90Aに接するように配置される。肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91の、肉盛層90の表面90Aから露出する領域に対応する中心角θは鋭角(90°未満)となる。これにより、スプロケット5の使用中における硬質粒子91の脱落が抑制され、スプロケット5の耐摩耗性が向上する。
図11および図7を参照して、肉盛層63が形成されたベース部材61が熱間鍛造されることにより、肉盛層63(ビード62)の形成時において肉盛層63(ビード62)とベース部材61との界面付近に位置していた硬質粒子91の影響によって肉盛層90に突出部99が形成される。突出部99には、硬質粒子91の少なくとも一部が進入した状態となる。上記プロセスにより、表面90Aに接するように硬質粒子91が配置された耐摩耗性に優れた肉盛層90の表層領域と、肉盛層90のベース部100からの剥離を抑制する突出部99とが同時に形成される。
図8を参照して、次に工程(S40)として熱処理工程が実施される。この工程(S40)では、工程(S30)において熱間鍛造されて得られたスプロケット5(スプロケット5を構成する部品)に対して、熱処理が実施される。工程(S40)において実施される熱処理は、たとえば焼入および焼戻である。これにより、スプロケット5のベース部50に対し、所望の硬度および靱性を付与することができる。その後、スプロケット5を支持体(図示しない)に取り付け可能とするために、肉盛層90が形成されなかった領域に対して寸法精度の向上、取り付け孔の形成等を目的とする機械加工が実施され、本実施の形態のスプロケット5(スプロケット5を構成する部品)が完成する。
上記スプロケット5の製造方法においては、肉盛層90に突出部99が形成される。突出部99によるアンカー効果により、ベース部100から肉盛層90が剥離することが抑制される。その結果、スプロケット5の耐摩耗性が向上する。突出部99には、硬質粒子91の少なくとも一部が進入する。これにより、ベース部100から肉盛層90が剥離することがより確実に抑制される。
次に、図8、図14および図15を参照して、本実施の形態における機械部品であるブシュ13の製造方法について説明する。図8は、ブシュの製造方法の概略を示すフローチャートである。図14および図15は、ブシュの製造方法を説明するための概略斜視図である。本実施の形態のブシュ13は、上記スプロケット5と同様の手順により製造することができる。
図8を参照して、本実施の形態におけるブシュ13の製造方法では、まず工程(S10)としてベース部材準備工程が実施される。この工程(S10)では、図14を参照して、ブシュ13のベース部134となるべきベース部材64が準備される。ベース部材64は、ベース部134を構成する金属からなる。ベース部材64は円筒形状を有している。ベース部材64は、一対の端面64Bと、一対の端面61B同士を接続する外周面64Aとを含む。
次に、工程(S20)として肉盛層形成工程が実施される。この工程(S20)では、図14および図15を参照して、工程(S10)において準備されたベース部材61の外周面64Aの一部を覆うように肉盛層63が形成される。肉盛層63は、ベース部材64の長手方向中央部に形成される。ベース部材64の長手方向両端部には、肉盛層63は形成されない。肉盛層63は、ベース部材64の周方向全域にわたって形成される。肉盛層63は、ベース部材64の長手方向に延在するビード62が、周方向に隙間なく並べて配置された構造を有している。肉盛層63の形成は、上記スプロケット5を製造する場合と同様に、たとえば炭酸ガスアーク溶接法を利用した肉盛溶接により実施することができる。なお、肉盛層63は、スプロケット5と接触すべき領域に対応して、ベース部材64の周方向の一部、たとえば半周領域に形成されてもよい。
次に、工程(S30)として熱間鍛造工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)において肉盛層63が形成されたベース部材64が熱間鍛造される。図15および図3〜図5を参照して、肉盛層63が形成されたベース部材64が熱間鍛造可能な温度に加熱された上で、所望のブシュ13の形状に対応するキャビティを有する金型内に配置され、鍛造される。熱間鍛造により、工程(S20)において形成された肉盛層63が加工される。肉盛層63がブシュ13の外周面131を覆うようにベース部材64が熱間鍛造される。これにより、液体時の表面張力等の影響を受けた表面形状が除去された表面が平滑な肉盛層132が得られる。肉盛層63が形成されなかったベース部材64の長手方向両端部は、ブシュ13の小径部139となる。その後、リンク7,8との連結のための連結ピン12が挿入されるべき孔であるピン孔が形成される(図2参照)。ピン孔は、図3を参照して、内周面133により規定され、軸方向に延在する。
肉盛層63が形成されたベース部材64が熱間鍛造されることにより、肉盛層63の形成時において肉盛層63(ビード62)の表面から突出していた硬質粒子91は、肉盛層63(ビード62)の内部へと押し込まれる。その結果、ブシュ13では、肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91は、肉盛層90に埋め込まれた状態で並んで配置される。肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91は、肉盛層90の表面90Aに接するように配置される。肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91の、肉盛層90の表面90Aから露出する領域に対応する中心角θは鋭角(90°未満)となる。これにより、ブシュ13の使用中における硬質粒子91の脱落が抑制され、ブシュ13の耐摩耗性が向上する。
肉盛層63が形成されたベース部材64が熱間鍛造されることにより、肉盛層63(ビード62)の形成時において肉盛層63(ビード62)とベース部材64との界面付近に位置していた硬質粒子91の影響により、ブシュ13では、肉盛層90に突出部99が形成される。突出部99には、硬質粒子91の少なくとも一部が進入した状態となる。
図8を参照して、次に工程(S40)として熱処理工程が実施される。この工程(S40)では、工程(S30)において熱間鍛造されて得られたブシュ13に対して、熱処理が実施される。工程(S40)において実施される熱処理は、たとえば焼入および焼戻である。これにより、ブシュ13のベース部134に対し、所望の硬度および靱性を付与することができる。その後、ブシュ13の小径部139に対して寸法精度の向上、面粗さの低減等を目的とした機械加工が実施され、本実施の形態のブシュ13が完成する。
上記ブシュ13の製造方法においては、肉盛層90に突出部99が形成される。突出部99によるアンカー効果により、ベース部100から肉盛層90が剥離することが抑制される。その結果、ブシュ13の耐摩耗性が向上する。突出部99には、硬質粒子91の少なくとも一部が進入する。これにより、ベース部100から肉盛層90が剥離することがより確実に抑制される。
(実施の形態2)
次に、油圧ショベルのバケットのツースを例に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2の機械部品について説明する。図16は、油圧ショベルのバケットの構造を示す概略斜視図である。図17は、ツースの構造を示す概略平面図である。図18は、図17の線分XVIII−XVIIIに沿う断面を示す概略断面図である。
図16を参照して、本実施の形態におけるバケット201は、油圧ショベルのアーム(図示しない)の先端に装着され、土砂を掘削する。バケット201は、板状部材から構成され、開口を有する本体210と、本体210の開口外周部212の掘削側からその一部が突出するように本体210に取り付けられた複数の(図16に示すバケット201においては3つの)ツース220と、本体210の、ツース220が取り付けられる側とは反対側に配置された装着部230とを備えている。バケット201は、装着部230において油圧ショベルのアームに支持される。掘削時には、バケット201は、ツース220から土砂へと進入する。そのため、ツース220には、高い耐土砂摩耗性(耐摩耗性)が要求される。
ツース220は、図17に示すように、先端221と、基端222とを含む。ツース220は、基端222側において本体210に取り付けられ、先端221側がバケット201の開口外周部212から突出する。ツース220は、他の部品である本体210と接触しつつ使用される。バケット201は、ツース220の先端221側から土砂へと進入する。そのため、ツース220の先端221側には、特に高い耐土砂摩耗性が要求される。
図18を参照して、ツース220は、第1金属からなるベース部225と、ベース部225の表面の一部である被覆領域225Aを覆うようにベース部225に接触して配置される肉盛層227と、を備える。ベース部225を構成する第1金属としては、たとえばJIS規格に規定される機械構造用炭素鋼または機械構造用合金鋼(たとえばS45C、SCM435のほか、同等量の炭素を含むSMn鋼、SCr鋼、SCM鋼など)などを採用することができる。ベース部225の表面の、被覆領域225Aと被覆領域225A以外の領域である露出領域225Bとの境界である肉盛端部229において、露出領域225Bと肉盛層227の表面227Aとは同一面を構成する鍛造面となっている。肉盛層227の表面227Aは、全域にわたって鍛造面となっている。
図19は、肉盛層を有する比較例のツースの構造を示す概略断面図である。一般に、ツースの先端付近の耐摩耗性向上を目的として肉盛層を形成する場合、所望の形状を有する鋼製のベース部に肉盛層が形成される。図19を参照して、肉盛層を有する一般的なツースである比較例のツース920は、先端921と、基端922とを含む。ツース920の先端921側には肉盛層927が形成されている。肉盛層927は、所望の形状に成形されたベース部925の被覆領域925Aを覆うように、たとえば肉盛溶接により形成される。そのため、被覆領域925Aと被覆領域925A以外の領域である露出領域925B,925Cとの境界である肉盛端部929A,929Bにおいて露出領域925B,925Cと肉盛層927の表面927Aとの間に段差が形成される。この段差に起因して、ツース920の土砂への貫入抵抗が大きくなる。また、ベース部925の成形後に肉盛層927を形成するため、先端921付近に肉盛層927を形成することは困難である。そのため、先端921を含む領域には肉盛層927が形成されていない領域である先端側露出領域925Cが形成される。先端側露出領域925Cの耐摩耗性が低いことに起因して、ツース920の摩耗の進行が速くなり、交換頻度が増加する。
図18を参照して、本実施の形態におけるツース220によれば、肉盛端部229において露出領域225Bと肉盛層227の表面227Aとが同一面を形成することにより、肉盛端部229における段差に起因した貫入抵抗の上昇を回避することができる。肉盛端部229が鍛造面に含まれることにより、切削等によって露出領域225Bと肉盛層227の表面227Aとが同一面となるように加工する工程を省略することが可能となる。そのため、硬度差の大きい肉盛端部229の加工、および硬度の高い肉盛層227の加工を回避することができる。このように、本実施の形態におけるツース220によれば、肉盛層227の形成に起因したデメリットを抑制することができる。また、ベース部材上に肉盛層を形成した後、鍛造を実施して先端221を含む領域を成形すれば、図18に示すように先端221を含む領域を肉盛層227に覆われたものとすることが容易となり、高い耐摩耗性を有するツース220を得ることができる。
図6および図7を参照して、ツース220が有する肉盛層90(肉盛層227)は、上記実施の形態1のスプロケット5およびブシュ13の場合と同様に、第2金属からなる母相95と、母相95中に分散する硬質粒子91と、を含んでいる。母相95を構成する第2金属は、たとえば溶接ワイヤに由来する金属とベース部100(ベース部225)を構成する金属(第1金属)とが混合されたものとすることができる。硬質粒子91としては、母相95よりも硬度が高い粒子、たとえば超硬合金からなる粒子を採用することができる。肉盛層90は、ベース部100よりも耐土砂摩耗性(耐摩耗性)が高い。
図6を参照して、肉盛層90の表面90Aは鍛造面となっている。肉盛層90の表面90Aから硬質粒子91の平均粒径以内の領域である肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91は、肉盛層90に埋め込まれた状態で並んで配置される。これにより、肉盛層90の表面90Aから硬質粒子91が大きく突出して配置されることが抑制される。その結果、ツース220の使用中における硬質粒子91の脱落が抑制され、ツース220の耐摩耗性が向上している。
肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91は、図6に示すように肉盛層90の表面90Aに接するように配置されていてもよい。これにより、肉盛層90の表面90Aから露出する硬質粒子91の領域がわずかとなり、硬質粒子91の脱落が抑制される。
図6に示すように、肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91の、肉盛層90の表面90Aから露出する領域に対応する中心角θは鋭角(90°未満)であってもよい。これにより、肉盛層90の表面90Aから露出する硬質粒子91の領域がわずかとなり、硬質粒子91の脱落が抑制される。
図7を参照して、肉盛層90は、肉盛層90とベース部100との界面を含む領域において、ベース部100に向けて突出する突出部99を含む。突出部99によるアンカー効果により、ベース部100から肉盛層90が剥離することが抑制される。その結果、ツース220の耐摩耗性が向上する。突出部99には、硬質粒子91の少なくとも一部が進入している。これにより、ベース部100から肉盛層90が剥離することがより確実に抑制される。突出部99に進入している硬質粒子91とベース部100との間には肉盛層90の母相95が介在している。突出部99に進入している硬質粒子91とベース部100とは、接触していない。硬質粒子91の中心は、突出部99の外部に位置している(硬質粒子91の体積の1/2未満の領域が突出部99内に進入している。)。各突出部99内には、1つの硬質粒子91が進入している。各突出部99の深さは、当該突出部99に進入する硬質粒子91の半径よりも小さい。
次に、ツース220の製造方法について説明する。図8は、機械部品であるツースの製造方法の概略を示すフローチャートである。図20および図21は、ツースの製造方法を説明するための概略断面図である。
図8を参照して、本実施の形態におけるツース220の製造方法では、まず工程(S10)としてベース部材準備工程が実施される。この工程(S10)では、図20を参照して、ツース220のベース部225となるべきベース部材250が準備される。ベース部材250は、第1金属からなる。ベース部材250は円筒形状である。ベース部材250は、一方の端面252と、他方の端面253と、一方の端面252と他方の端面253とを接続する側面251とを含む円筒状の形状を有している。一方の端面252と側面251とが接続される領域には、第1面取り部252Aが形成されている。他方の端面253と側面251とが接続される領域には、第2面取り部253Aが形成されている。図20および図18を参照して、ベース部材250の一方の端面252側がツース220の先端221側に対応し、ベース部材250の他方の端面253側がツース220の基端222側に対応する。
次に、工程(S20)として肉盛層形成工程が実施される。この工程(S20)では、図20および図21を参照して、工程(S10)において準備されたベース部材250の表面の一部である被覆領域251Aに接触して被覆領域251Aを覆うように肉盛層260が形成される。肉盛層260は、後述する熱間鍛造が実施されることによりベース部225の所望の領域を覆うように形成される。被覆領域251Aは、たとえば予め有限要素法を用いた熱間鍛造のシミュレーションを行うことにより決定することができる。本実施の形態では、図21を参照して、側面251の一方の端面252側、第1面取り部252Aおよび一方の端面252を覆うように、肉盛層260が形成される。肉盛層260の形成は、上記実施の形態1の場合と同様に炭酸ガスアーク溶接法を利用した肉盛溶接により実施することができる。
次に、工程(S30)として熱間鍛造工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)において肉盛層260が形成されたベース部材250が熱間鍛造される。図21および図18を参照して、肉盛層260が形成されたベース部材250が熱間鍛造可能な温度に加熱された上で、所望のツース220の形状に対応するキャビティを有する金型内に配置され、鍛造される。この熱間鍛造により、肉盛端部259を含むベース部材250の領域が加工される。熱間鍛造により、肉盛端部259はツース220の肉盛端部229となる。熱間鍛造において肉盛端部259が加工されることにより、肉盛端部229において、露出領域225Bと肉盛層227の表面227Aとが同一面を構成するツース220が得られる。肉盛端部229において、露出領域225Bと肉盛層227の表面227Aとは、熱間鍛造において用いられる金型の表面の肉盛端部259を加工する領域に対応する同一面を構成する鍛造面となる。肉盛端部229において、露出領域225Bと肉盛層227の表面227Aとは、鍛造用の金型の形状に対応する同一面を構成する。肉盛端部229は、鍛造面に含まれる。
肉盛層260が形成されたベース部材250が熱間鍛造されることにより、肉盛層260の形成時において肉盛層260の表面から突出していた硬質粒子91は、肉盛層260の内部へと押し込まれる。その結果、ツース220では、肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91は、肉盛層90に埋め込まれた状態で並んで配置される。肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91は、肉盛層90の表面90Aに接するように配置される。肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91の、肉盛層90の表面90Aから露出する領域に対応する中心角θは鋭角(90°未満)となる(図6参照)。これにより、ツース220の使用中における硬質粒子91の脱落が抑制され、ツース220の耐摩耗性が向上する。
肉盛層260が形成されたベース部材250が熱間鍛造されることにより、肉盛層260の形成時において肉盛層260とベース部材250との界面付近に位置していた硬質粒子91の影響により、ツース220では、肉盛層90に突出部99が形成される。突出部99には、硬質粒子91の少なくとも一部が進入した状態となる(図7参照)。
図8を参照して、次に工程(S40)として熱処理工程が実施される。この工程(S40)では、工程(S30)において熱間鍛造されて得られたツース220に対して、熱処理が実施される。工程(S40)において実施される熱処理は、たとえば焼入および焼戻である。これにより、ツース220のベース部225に対し、所望の硬度および靱性を付与することができる。以上の手順により、本実施の形態におけるツース220が完成する。
上記ツース220の製造方法においては、肉盛層90に突出部99が形成される。突出部99によるアンカー効果により、ベース部100から肉盛層90が剥離することが抑制される。その結果、ツース220の耐摩耗性が向上する。突出部99には、硬質粒子91の少なくとも一部が進入する。これにより、ベース部100から肉盛層90が剥離することがより確実に抑制される。
(実施の形態3)
次に、破砕装置の歯を例に、本発明の他の実施の形態である実施の形態3の機械部品について説明する。図22は、破砕装置の構造を示す概略斜視図である。図23は、破砕装置の固定部外歯の構造を示す概略斜視図である。図24は、図23の線分XXIV−XXIVに沿う概略断面図である。図25は、図24の線分XXV−XXVに沿う概略断面図である。
図22を参照して、本実施の形態における破砕装置301は、作業機械のアームの先端に取り付けられ、コンクリートなどの被破砕物を破砕する。破砕装置301は、メインフレーム310と、メインフレーム310に固定された固定部320と、固定部320に対して開閉可能なようにメインフレーム310に回動可能に取り付けられた可動部330と、を備えている。可動部330は、メインフレーム310内に設置された油圧シリンダ(図示しない)に接続される。可動部330は、この油圧シリンダにより駆動されて回動し、固定部320に対して開閉する。
固定部320の先端には複数の(本実施の形態では3つの)固定部外歯321が間隔をおいて取り付けられている。可動部330を固定部320に対して閉じた場合に固定部320の可動部330に対向する領域には、破砕プレート322が設置されている。破砕プレート322には複数の貫通孔が形成され、当該貫通孔から露出する固定部320の領域には凹部323が形成されている。可動部330の先端には複数の(本実施の形態では2つの)可動部外歯331が間隔をおいて取り付けられている。可動部330を固定部320に対して閉じた場合に可動部330の固定部320に対向する領域には、複数の可動部内歯333が配置されている。可動部330を固定部320に対して閉じると、3つの固定部外歯321により形成される2つの間隙に2つの可動部外歯331が進入する。可動部330を固定部320に対して閉じると、複数の可動部内歯333は、対応する固定部320の凹部323に進入する。破砕装置301がこのような構造を有することにより、可動部330を固定部320に対して開いた状態で可動部330と固定部320との間にコンクリートなどの被破砕物を入れ、可動部330を固定部320に対して閉じると、被破砕物が破砕される。被破砕物の破砕時には、固定部外歯321、可動部外歯331および可動部内歯333にコンクリートなどの被破砕物が直接接触する。そのため、破砕装置の歯である固定部外歯321、可動部外歯331および可動部内歯333には高い耐摩耗性が要求される。耐摩耗性の向上を目的として、破砕装置の歯である固定部外歯321、可動部外歯331および可動部内歯333には肉盛層を形成することができる。以下、破砕装置の歯の一例として、固定部外歯321の構造について説明する。
図23を参照して、固定部外歯321は、先端側の平面である先端面321Aと、基端側の平面である基端面321Dと、先端面321Aと基端面321Dとを接続し、可動部330側に面すべき平面である第1側面321Bと、先端面321Aと基端面321Dとを接続し、第1側面321Bとは反対側に位置する曲面である第2側面321Eと、先端面321Aと基端面321Dとを接続し、かつ第1側面321Bと第2側面321Eとを接続する平面である2つの第3側面321Cとを有している。基端面321Dにおいて固定部外歯321は固定部320に取り付けられる。
図24および図25を参照して、固定部外歯321は、第1金属からなるベース部325と、ベース部325の表面の一部を覆うようにベース部325に接触して配置される肉盛層327と、を備える。先端面321Aの全域と、第1側面321B、第2側面321Eおよび第3側面321Cの一部とが、肉盛層327により覆われる。肉盛層327により覆われる割合は、第3側面321Cに比べて第1側面321Bおよび第2側面321Eの方が大きい。基端面321Dには肉盛層327は形成されない。ベース部325を構成する第1金属としては、たとえばJIS規格に規定される機械構造用炭素鋼または機械構造用合金鋼(たとえばS45C、SCM435のほか、同等量の炭素を含むSMn鋼、SCr鋼、SCM鋼など)などを採用することができる。
図6および図7を参照して、固定部外歯321が有する肉盛層90(肉盛層327)は、上記実施の形態1のスプロケット5およびブシュ13の場合と同様に、第2金属からなる母相95と、母相95中に分散する硬質粒子91と、を含んでいる。母相95を構成する第2金属は、たとえば溶接ワイヤに由来する金属とベース部100(ベース部325)を構成する金属(第1金属)とが混合されたものとすることができる。硬質粒子91としては、母相95よりも硬度が高い粒子、たとえば超硬合金からなる粒子を採用することができる。肉盛層90は、ベース部100よりも耐摩耗性が高い。
図6を参照して、肉盛層90の表面90Aは鍛造面となっている。肉盛層90の表面90Aから硬質粒子91の平均粒径以内の領域である肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91は、肉盛層90に埋め込まれた状態で並んで配置される。これにより、肉盛層90の表面90Aから硬質粒子91が大きく突出して配置されることが抑制される。その結果、固定部外歯321の使用中における硬質粒子91の脱落が抑制され、固定部外歯321の耐摩耗性が向上している。
肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91は、図6に示すように肉盛層90の表面90Aに接するように配置されていてもよい。これにより、肉盛層90の表面90Aから露出する硬質粒子91の領域がわずかとなり、硬質粒子91の脱落が抑制される。
図6に示すように、肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91の、肉盛層90の表面90Aから露出する領域に対応する中心角θは鋭角(90°未満)であってもよい。これにより、肉盛層90の表面90Aから露出する硬質粒子91の領域がわずかとなり、硬質粒子91の脱落が抑制される。
図7を参照して、肉盛層90は、肉盛層90とベース部100との界面を含む領域において、ベース部100に向けて突出する突出部99を含む。突出部99によるアンカー効果により、ベース部100から肉盛層90が剥離することが抑制される。その結果、固定部外歯321の耐摩耗性が向上する。突出部99には、硬質粒子91の少なくとも一部が進入している。これにより、ベース部100から肉盛層90が剥離することがより確実に抑制される。突出部99に進入している硬質粒子91とベース部100との間には肉盛層90の母相95が介在している。突出部99に進入している硬質粒子91とベース部100とは、接触していない。硬質粒子91の中心は、突出部99の外部に位置している(硬質粒子91の体積の1/2未満の領域が突出部99内に進入している。)。各突出部99内には、1つの硬質粒子91が進入している。各突出部99の深さは、当該突出部99に進入する硬質粒子91の半径よりも小さい。
次に、固定部外歯321の製造方法について説明する。図8は、機械部品である固定部外歯の製造方法の概略を示すフローチャートである。図26および図27は、破砕装置の固定部外歯の製造方法を説明するための概略斜視図である。図28および図29は、破砕装置の固定部外歯の製造方法を説明するための概略断面図である。図28は、図27の線分XXVIII−XXVIIIに沿う概略断面図である。図29は、図28の線分XXIX−XXIXに沿う概略断面図である。また、図30および図31は、破砕装置の固定部外歯の他の製造方法を説明するための概略斜視図である。図32および図33は、破砕装置の固定部外歯の他の製造方法を説明するための概略断面図である。図32は、図31の線分XXXII−XXXIIに沿う概略断面図である。図33は、図32の線分XXXIII−XXXIIIに沿う概略断面図である。
図8を参照して、本実施の形態における固定部外歯321の製造方法では、まず工程(S10)としてベース部材準備工程が実施される。この工程(S10)では、図26を参照して、固定部外歯321のベース部325となるべきベース部材350が準備される。ベース部材350は、第1金属からなる。ベース部材350は、第1端面350Aと、第2端面350Dと、側面350Fとを含む円筒形状を有している。
次に、工程(S20)として肉盛層形成工程が実施される。この工程(S20)では、図27〜図29を参照して、工程(S10)において準備されたベース部材350の側面350Fの第1端面350A側の領域、および第1端面350Aを覆うように肉盛層360が形成される。肉盛層360は、実施の形態1の場合と同様に、複数のビード362からなるものとすることができる。第1端面350Aの全域が肉盛層360により覆われる。第2端面350Dには、肉盛層360は形成されない。側面350Fの、第1端面350Aに接続される領域から軸方向に所定の距離以内の領域が肉盛層360により覆われる。側面350F上の肉盛層360の軸方向における長さは基本的には一定であるが、当該長さの短い領域が中心軸に対して対称に一対形成される。この領域に対応して、側面350Fにおいて肉盛層が形成されていない領域が第1端面350Aに向けて突出する領域である露出部突出領域350Gが形成される。肉盛層360の形成は、上記実施の形態1の場合と同様に炭酸ガスアーク溶接法を利用した肉盛溶接により実施することができる。
次に、工程(S30)として熱間鍛造工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)において肉盛層360が形成されたベース部材350が熱間鍛造される。図27〜図29と、図24および図25とを参照して、肉盛層360が形成されたベース部材350が熱間鍛造可能な温度に加熱された上で、所望の固定部外歯321形状に対応するキャビティを有する金型内に配置され、鍛造される。熱間鍛造により、工程(S20)において形成された肉盛層360が加工される。熱間鍛造が実施されることにより、第1端面350Aおよび第2端面350Dは、それぞれ固定部外歯321の先端面321Aおよび基端面321Dに対応する領域となる。側面350Fのうち、周方向において露出部突出領域350Gが形成された領域が固定部外歯321の第3側面321Cとなり、露出部突出領域350Gが形成された領域以外の領域が固定部外歯321の第1側面321Bおよび第2側面321Eとなる。
肉盛層360が形成されたベース部材350が熱間鍛造されることにより、肉盛層360の形成時において肉盛層360の表面から突出していた硬質粒子91は、肉盛層360の内部へと押し込まれる。その結果、固定部外歯321では、肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91は、肉盛層90に埋め込まれた状態で並んで配置される。肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91は、肉盛層90の表面90Aに接するように配置される(図6参照)。肉盛層表層領域90B内に位置する硬質粒子91の、肉盛層90の表面90Aから露出する領域に対応する中心角θは鋭角(90°未満)となる。これにより、固定部外歯321の使用中における硬質粒子91の脱落が抑制され、固定部外歯321の耐摩耗性が向上する。
肉盛層360が形成されたベース部材350が熱間鍛造されることにより、肉盛層360の形成時において肉盛層360とベース部材350との界面付近に位置していた硬質粒子91の影響により、固定部外歯321では、肉盛層90に突出部99が形成される。突出部99には、硬質粒子91の少なくとも一部が進入した状態となる(図7参照)。
図8を参照して、次に工程(S40)として熱処理工程が実施される。この工程(S40)では、工程(S30)において熱間鍛造されて得られた固定部外歯321に対して、熱処理が実施される。工程(S40)において実施される熱処理は、たとえば焼入および焼戻である。これにより、固定部外歯321のベース部325に対し、所望の硬度および靱性を付与することができる。その後、肉盛層360が形成されなかった領域に対して寸法精度の向上等を目的とする機械加工が実施され、本実施の形態の固定部外歯321が完成する。
上記固定部外歯321の製造方法においては、肉盛層90に突出部99が形成される。突出部99によるアンカー効果により、ベース部100から肉盛層90が剥離することが抑制される。その結果、固定部外歯321の耐摩耗性が向上する。突出部99には、硬質粒子91の少なくとも一部が進入する。これにより、ベース部100から肉盛層90が剥離することがより確実に抑制される。
なお、上記工程において肉盛層360形成後の熱間鍛造を容易にする観点から、肉盛層360の形成前に予備成形が実施されてもよい。具体的には、図26および図30を参照して、工程(S10)において円筒形状を有するベース部材350を準備した後、第1端面350A側が予備成形される。この予備成形により、第1端面350Aが長方形状に成形されるとともに、第1端面350Aの長辺に接続される第1面取り部350Bと短辺に接続される第2面取り部350Cとが形成される。
次に、工程(S20)においては、図31〜図33を参照して、予備成形されたベース部材350の第1端面350A、第1面取り部350Bおよび第2面取り部350Cを覆うように肉盛層360が形成される。第1端面350Aの全域が肉盛層360により覆われる。第2端面350Dには、肉盛層360は形成されない。軸方向に延在する肉盛層360の長さは、第2面取り部350C上を通って延在する領域(図32参照)に比べて第1面取り部350B上を通って延在する領域(図33参照)おいて長くなっている。そして、工程(S30)において熱間鍛造が実施されることにより、第1端面350Aおよび第2端面350Dは、それぞれ固定部外歯321の先端面321Aおよび基端面321Dに対応する領域となる。軸方向に延在する肉盛層360の長さが短い領域が固定部外歯321の第3側面321Cとなり、肉盛層360の長さが長い領域が固定部外歯321の第1側面321Bおよび第2側面321Eとなる。
なお、上記実施の形態1〜3の機械部品の製造方法において、ベース部材に肉盛層を形成するに際して、肉盛層が形成されるべきベース部材の領域に対応するベース部材の表層部を予め除去してから、すなわちベース部材にアンダーカット部を形成してから肉盛層を形成してもよい。これにより、鍛造時における肉盛層の変形量が抑制され、鍛造後の肉盛層にしわが形成される等の不具合を抑制できる。
実施の形態2において説明した製造方法と同様の手順でツース220を作製し、肉盛層の構造等を確認する実験を行った(実施例)。比較のため、同様の製造方法において、肉盛層形成工程(工程(S20))を省略し、熱処理後に肉盛層を肉盛溶接により形成したツースを作製し、同様の実験を行った(比較例)。実施例および比較例において、熱間鍛造に用いた金型は同一形状を有するものである。
図34は、実施例のツース220の断面を示す写真である。図34を参照して、肉盛端部229において、露出領域225Bと肉盛層227の表面227Aとは同一面を構成する鍛造面となっている。このことから、実施の形態2における製造方法により、実施の形態2におけるツース220が製造可能であることが確認される。肉盛層227とベース部225との間に亀裂は見られず、肉盛層の形成後に熱間鍛造を実施したことによる不具合は確認されない。
図35は、実施例の肉盛層の表面付近を撮影した光学顕微鏡写真である。図36は、比較例の肉盛層の表面付近を撮影した光学顕微鏡写真である。図36に示すように、肉盛溶接により形成され、その後鍛造による加工を受けていない比較例の肉盛層では、硬質粒子91が肉盛層の表面90Aから大きく突出している。図35を参照して、肉盛層の形成後に鍛造による加工を受けた実施例の肉盛層では、表層領域に位置する硬質粒子91が、肉盛層(母相95)に埋め込まれた状態で並んで配置されている。硬質粒子91が肉盛層の表面90Aに接するように並んでいる。硬質粒子91の、肉盛層90の表面90Aから露出する領域に対応する中心角θは鋭角(90°未満)となっている。これは、肉盛層が鍛造により加工される際に、肉盛層の表面90Aから突出していた硬質粒子91が相対的に硬度の低い母相95内に押し込まれるためであると考えられる。
図37は、実施例の肉盛層とベース部との界面付近を撮影した光学顕微鏡写真である。図38は、比較例の肉盛層とベース部との界面付近を撮影した光学顕微鏡写真である。図38に示すように、肉盛溶接により肉盛層が形成され、その後肉盛層が鍛造による加工を受けていない比較例では、肉盛層(母相95)とベース部100との界面は平坦な状態となっている。図37を参照して、肉盛層の形成後に鍛造による加工を受けた実施例では、肉盛層(母相95)とベース部100との界面を含む領域に、肉盛層(母相95)がベース部100に向けて突出する突出部99が形成されている。この突出部99には、硬質粒子91の一部が進入している。突出部99は、肉盛層が鍛造により加工される際に、ベース部材との界面付近に存在していた硬質粒子91の影響により形成されたものと考えられる。突出部99の形成に寄与した硬質粒子91は、当該突出部99の内部に、少なくともその一部が進入した状態となる。
なお、上記実施の形態においては、本発明の機械部品の一例として履帯式足回り部品であるスプロケットおよびブシュ、油圧ショベルのバケットのツースおよび破砕装置の歯について説明したが、本発明の機械部品はこれに限られず、母相中に硬質粒子が分散した肉盛層が形成される機械部品に、広く適用することができる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。