以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図1および図2は、実施形態に係る塗膜を形成したシート材の製造装置200を示す斜視図および概略構成図である。
図1および図2を参照して、塗膜を形成したシート材の製造装置200は、概説すると、塗膜を形成する前のシート材11が巻回された原料ローラー20と、塗膜を形成した後のシート材11を巻き取る製品ローラー30とを有する。製造装置200はさらに、吸着ローラー40と、供給機構80と、離脱機構90と、塗布部100と、乾燥部110と、吸引部120とを有する。吸着ローラー40は、シート材11を吸着保持した状態において回転することによってシート材11を搬送する。図示する実施形態においては、供給機構80および離脱機構90は、ローラー部材を適用している。供給機構としての巻出しローラー80は、シート材11を介して吸着ローラー40に接触し、吸着ローラー40にシート材11を供給する。離脱機構としての巻取りローラー90は、シート材11を介して吸着ローラー40に接触し、吸着ローラー40からシート材11を離脱させる。塗布部100は、吸着ローラー40に吸着保持されたシート材11に塗布材料を塗布する。乾燥部110は、吸着ローラー40の周囲のうち塗布部100よりもシート材11の搬送方向に沿って下流側の位置に配置され、塗布された塗布材料を乾燥させる。吸引部120は、シート材11を吸着ローラー40に吸着保持させる負圧を生じさせる。そして、吸着ローラー40は、吸引部120に接続されるチャンバ51を有する回転自在なフレーム50と、多孔質体から形成されチャンバ51に連通した状態においてフレーム50に取り付けられる複数個の保持部材60と、を有する。フレーム50に取り付けられた複数個の保持部材60によって、吸着ローラー40の周面を形成している。製造装置200はさらに、シート材11が離脱している保持部材60を冷却する冷却部130をさらに有する。以下、製造装置200の構成について詳述する。
本実施形態では、シート材11として、たとえば、燃料電池用電極膜(CCM)の電解質膜を例に挙げて説明する。この場合の塗布材料は、塗膜としての電極触媒層15を形成するための触媒インクである。
電解質膜11は親水性(浸透性)が高く、水分を吸収し電解質膜11が膨潤する特性がある。膨潤により、塗膜面の膜厚不均一化、収縮、シワ、クラック(割れ)が発生する。
電解質膜11への触媒インクの塗布には、電解質膜11を膨潤させずに、装置側支持体(たとえば、ローラー)に保持(支持)したまま、サポートシート13を貼り付けて巻き取ってしまい、電解質膜11が膨潤してしまう時間を作らないような製造工程が必要となる。つまり、吸着ローラー40に電解質膜11を貼り付けて巻出し→触媒インクの塗布→触媒インクの乾燥→電解質膜11の巻取りの一連の工程のすべてを、吸着ローラー40によって完結させることが必要である。
図3は、製造装置200の制御系を示すブロック図である。
図3を参照して、コントローラー140は、製造装置200における構成機器の作動を制御する。コントローラー140は、CPU、メモリー、入出力部などから構成されている。コントローラー140は、原料ローラー20、巻出しローラー80、吸着ローラー40、巻取りローラー90、および製品ローラー30などのローラー駆動を制御し、塗布部100、乾燥部110、吸引部120、および冷却部130などの各部の作動を制御する。コントローラー140には、各種センサーが接続され、制御に必要なデータを表す信号、たとえば吸着ローラー40の回転位置を表す信号、負圧圧力を表す信号などが入力される。
図1および図2を再び参照して、製造装置200は、原料シート10から、巻出しローラー80によってサポートシート12を剥離する。巻出しローラー80から巻き出された電解質膜11は、吸着ローラー40によって吸引支持され、塗布部100によって触媒インクが塗布されて成膜される。乾燥部110によって、触媒インクが乾燥され、電極触媒層15が塗膜として形成される。電極触媒層15を形成した後の電解質膜11は、巻取りローラー90によってサポートシート13が貼り合わされて製品シート14となる。製品シート14は、製品ローラー30に巻き取られる。
原料ローラー20は、電解質膜11にサポートシート12を貼り合わせた原料シート10をロール状に巻回している。原料シート10は、サポートシート12の側を内側にして原料ローラー20に巻回される。
巻出しローラー80は、原料ローラー20から原料シート10を巻出す。巻出しローラー80は、サポートシート12を剥離しながら、電解質膜11を吸着ローラー40に押し付け、吸着、支持させるのを補助する。サポートシート巻取りローラー81は、巻出しローラー80にて剥離されたサポートシート12を巻き取る。巻出しローラー80は、吸着ローラー40の回転速度の影響を受けないように、アキュームローラーとする。原料ローラー20およびサポートシート巻取りローラー81の回転数を可変させることによって、電解質膜11に付与する張力を制御することができる。巻出しローラー80の形成材料は特に限定されないが、たとえば、樹脂やゴムなどから形成される弾性部材から形成することができる。
巻取りローラー90は、電極触媒層15が形成された電解質膜11にサポートシート13を貼り付け、送り出す。サポートシート巻出しローラー91は、サポートシート13を供給する。供給されたサポートシート13は、巻取りローラー90によって電極触媒層15の上に貼り付けられる。電極触媒層15が形成された電解質膜11にサポートシート13を貼り合わせて、製品シート14が形成される。製品シート14は、製品ローラー30に巻き取られる。巻取りローラー90は、吸着ローラー40の回転速度の影響を受けないように、アキュームローラーとする。サポートシート巻出しローラー91および製品ローラー30の回転数を可変させることによって、電極触媒層15が形成された電解質膜11に付与する張力を制御することができる。巻取りローラー90は、吸着ローラー40に対する押し付け圧力を制御可能に構成している。巻取りローラー90は、ヒーターが内蔵され、加熱温度を制御可能に構成している。巻取りローラー90は、押し付け圧力および温度が制御され、電極触媒層15が形成された電解質膜11にサポートシート13を、押し付け圧力および熱を作用させることによって貼り合わせることができる。
製品ローラー30は、電極触媒層15が形成された電解質膜11にサポートシート13を貼り合わせた製品シート14をロール状に巻回している。製品シート14は、サポートシート13の側を内側にして製品ローラー30に巻回される。
塗布部100の形式などは特に限定されないが、たとえば、スリットダイコータ、インクジェット、スプレー、グラビアコータ、ナイフコータなどを選択することができる。塗布方法としては、べた塗り、間欠塗布の何れをも採用できる。間欠塗工を採用する場合において、塗布部100をスリットダイコータから構成するときには、間欠塗布バルブの切り替え制御や塗布冶具の駆動制御、サブポンプの吐出制御などによって、塗布エリア、未塗布エリアを塗り分けることができる。塗布部100をインクジェットやスプレーから構成するときには、塗布冶具からの吐出のオン/オフ制御によって、塗布エリア、未塗布エリアを塗り分けることができる。塗布部100をグラビアコータから構成するときには、グラビア版にメッシュの有無を設けておき、吸着ローラー40の後述する連結部の位置と、グラビア版のメッシュ無し位置とを合わせるように、グラビアローラーの回転速度と吸着ローラー40の搬送速度とを制御する。
乾燥部110の形式などは特に限定されないが、たとえば、熱風乾燥、スリットノズル乾燥、IR乾燥、IH乾燥などを選択することができる。
吸引部120の形式などは特に限定されないが、たとえば、真空ポンプと、真空ポンプをフレーム50内のチャンバ51に接続する配管やバルブなどを有する。真空ポンプによってチャンバ51内の空気を吸引することによって、電解質膜11を吸着ローラー40に吸着保持させる負圧を生じさせる。
冷却部130は、乾燥部110によって熱せられた吸着ローラー40を冷却する。塗布部100によって塗布成膜するときの精度に影響を与えないようにするためである。冷却部130の形式などは特に限定されないが、たとえば、冷却用のエアーを供給するポンプやブロワーなどから構成されるエアー供給装置131と、エアーの温度を調整する温度調整装置132とを有する(後述する図7を参照)。エアー供給装置131によって、電解質膜11が離脱している保持部材60にエアーを通過させることによって保持部材60を冷却する。
エアーは、吸引部120と吸着ローラー40とを接続する配管を使用して吸着ローラー40に導く。この場合、エアーは、チャンバ51から保持部材60を通って外部雰囲気へと流れる。
エアー供給装置131は、エアーの温度を所望の温度に冷却または加熱することができる。エアーの温度は、塗布材料を塗布する作業に対して保持部材60が温度影響を与えない温度にまで冷却可能な温度に設定される。
冷却部130にさらに加湿装置を設けることができる。この場合には、電解質膜11が離脱している保持部材60を冷却し、かつ、保持部材60の含水率を調整することができる。
図4(A)(B)は、吸着ローラー40を示す斜視図および一部分解して示す斜視図、図5(A)(B)は、吸着ローラー40のフレーム50および保持部材60を示す斜視図である。
吸着ローラー40は、吸引部120に接続されるチャンバ51を有する回転自在なフレーム50と、多孔質体から形成されチャンバ51に連通した状態においてフレーム50に取り付けられる複数個の保持部材60と、を有している。フレーム50に取り付けられた複数個の保持部材60によって吸着ローラー40の周面を形成している。吸着ローラー40はさらに、隣り合う保持部材60の周方向端面同士を接合するとともにフレーム50に接合する連結部70を有する。
保持部材60を多孔質体から形成する場合において、円筒形状を有する1個の多孔質体から保持部材60を形成する場合には、吸着ローラー40の径方向の寸法は、円筒形状を有する多孔質体を製造可能な寸法に制限される。一方、本実施形態にあっては、複数個の保持部材60によって吸着ローラー40の周面を形成するため、吸着ローラー40の直径は、多孔質体を製造可能な寸法に制限されることがない。
フレーム50は、ステンレスなどの金属材料から形成することができる。異物の発生を抑制する観点から、鉄材を使用するときに無電解Niめっき等の表面処理を施すことができる。フレーム50は、回転軸41となるシャフト41が貫通させる軸穴52を中心に設けている。回転軸41をフレーム50に一体的に形成することもできる。シャフト41の形状や材質等は特に限定されず、吸着ローラー40を組み込んだ装置における具体的構成との関連において適宜選択することができる。フレーム50の外周表面部に、保持部材60を取り付ける部位を設けている。フレーム50の軸方向に沿う両側端面は、ガイドプレート42によって覆われている。これによって、フレーム50内部のチャンバ51が密閉される。ガイドプレート42によって、保持部材60の軸方向に沿う両端面も密閉される。ガイドプレート42は、ステンレスなどの金属材料から形成することができる。異物の発生を抑制する観点から、鉄材を使用するときに無電解Niめっき等の表面処理を施すことができる。
本実施形態におけるフレーム50のチャンバ51は、区画された複数個の吸引室53を有し、それぞれの吸引室53に少なくとも1つの保持部材60が臨んでいる。吸引部120は、それぞれの吸引室53に接続されている。
さらに詳しくは、図5(A)に示すように、フレーム50は、保持部材60が取り付けられる外周表面部に、保持部材60と連通自在な窓形状を有する吸引溝54が形成されている。フレーム50は、隣り合う吸引溝54同士の間に、径方向外方に若干突出するガイド55が形成されている。ガイド55が保持部材60の周方向端面61に当接することによって、保持部材60を支持固定する。それぞれの吸引溝54が臨むように、フレーム50内部のチャンバ51が複数個の吸引室53に区画分けされている。吸引室53の数に制約はない。図示例にあっては、チャンバ51は、8個の吸引室53に区画分けされている。
保持部材60は、図5(B)に示すように、吸着ローラー40の回転軸41に直交する断面において見て、周方向端面61が台形形状を有している。円筒体であるフレーム50に保持部材60を組み込む場合において、保持部材60の周方向端面61が台形形状を有しているので、フレーム50の外周表面部への組み込みが容易になる。また、保持部材60の端面を台形形状に仕上げる加工も容易である。
保持部材60の表面62は、吸着ローラー40の回転軸41に直交する断面において見て、平坦面に形成されている。表面62が平坦面であるので、保持部材60の形成が容易となる。
保持部材60は、精度を出す必要があるため、弾性変形せず、ある程度の剛性を有する材料から形成される。保持部材60は、たとえば、発泡金属、セラミック、樹脂などから形成される多孔質体から形成される。成形性、加工精度、装置ハンドリング性などの観点から、多孔質セラミックを好適に用いることができる。多孔質セラミックは、たとえば、アルミナ(Al2O3)、炭化ケイ素(SiC)、ジルコニア(ZrO2)、炭化チタン(TiC)、あるいはこれらの混合材料など、種々の材料を用いることができる。
多孔質体の特性としての気孔サイズや気孔率は、吸引保持の対象となるシート材11に合わせて、適宜の寸法および気孔率を選択することができる。
連結部70は、たとえば、接着剤や熱硬化樹脂、UV硬化樹脂などを用いることができる。連結部70の形成材料は、乾燥工程において熱にさらされることから、熱耐性を有する材料から形成する。連結部70の形成材料は、塗工工程において塗布材料が付着する虞があることから、水耐性を有する材料から形成する。
保持部材60をフレーム50に組み付けるにあたっては、多孔質体である保持部材60に応力がかかって割れを生じさせないような止め方が必要である。そこで、連結部70としては、ネジ止めや、クリップを用いた係止ではなく、上述した接着剤などを用いて止めることが好ましい。
保持部材60のそれぞれは、フレーム50に対して交換自在に取り付けられている。保持部材60の目詰まりなどによって電解質膜11の吸着不良が生じた場合、目詰まりなどが生じた特定の保持部材60のみを、新たな保持部材60に付け替えることができる。
図6は、吸着ローラー40における負圧経路56を示す断面図である。
図6を参照して、フレーム50のチャンバ51を複数個の吸引室53に区画した本実施形態においては、吸引室53内を負圧にする負圧経路56は、回転軸41内に形成した軸方向経路57と、回転軸41の外周面に開口され軸方向経路57に連通する径方向経路58とを有する。回転軸41の外周面は、吸引室53を構成する底壁となる。軸方向経路57は、ロータリージョイント59内の通路を介して、吸引部120の負圧経路121に接続される。ロータリージョイント59は、たとえば、CKD株式会社製RJFシリーズ、あるいはSMC株式会社製MQRシリーズを用いることができる。
吸着ローラー40の回転軸41には、吸着ローラー40の回転角度を検出するエンコーダー141が取り付けられている。エンコーダー141はコントローラー140に接続され、検出した吸着ローラー40の回転角度に関する信号がコントローラー140に入力される。
図7は、吸引部120の負圧経路121を示す概略構成図である。
図7を参照して、吸引部120の負圧経路121は、それぞれの吸引室53毎に設けられた電空レギュレーター122と、それぞれの電空レギュレーター122が接続される1台の真空ポンプ123とを有する。電空レギュレーター122を設ける場合は、真空ポンプ123は1台でよく、かつ一定量を吸引し続ければよい。このため、複数の真空ポンプ123を用いる場合に比較して、稼働エネルギーを低減できる。それぞれの電空レギュレーター122は、プログラム制御にて、吸引圧力値を任意に設定することができる。それぞれ電空レギュレーター122は、コントローラー140に接続され、コントローラー140から吸引圧力値を示す制御信号などが入力される。このような構成によって、それぞれの吸引室53の吸引量を独立に制御し、それぞれの吸引室53を吸引する状況を切り替えることができる。
吸引部120の負圧経路121は、切替バルブ124を介して、真空ポンプ123と、冷却部130のエアー供給装置131とに選択的に接続することができる。コントローラー140は、切替バルブ124の作動を制御し、接続先を、真空ポンプ123またはエアー供給装置131に自動的に切り替える。これによって、多孔質体からなる保持部材60を通しての電解質膜11の吸引と、多孔質体からなる保持部材60を通してのエアー供給とを切り替えることができる。冷却部130は温度調整装置132を有しているので、熱風から冷風まで所望の温度のエアーを保持部材60に供給することができる。
図8は、多孔質体の複数個の保持部材60を備える吸着ローラー40の製造工程を示すフローチャート、図9(A)〜(E)は、多孔質体の複数個の保持部材60をフレーム50に組み付けて吸着ローラー40を製造している様子を示す斜視図である。
図8を参照して、多孔質体の保持部材60は、種々の材料を準備し(ステップS1)、混合および造粒し(ステップS2)、プレス機によって多孔質体の狙いの形状に成形する(ステップS3)。プレス機は、たとえば、株式会社神戸製鋼所製の冷間静水圧加圧(CIP)や熱間静水圧加圧(HIP)などを用いる。その後、焼結炉にて焼き固め(ステップS4)、多孔質体の保持部材60を得る。焼結炉は、たとえば、中外炉工業株式会社製や大同特殊鋼株式会社製の装置を用いる。
図9をも参照して、保持部材60を形成した後、多孔質体の保持部材60を、フレーム50にローラー形状に組付ける(ステップS5、図9(A)(B))。
フレーム50に組み付けた保持部材60の表面62を、ローラー研削加工機によって研削加工し、円筒形状化し、精度出しする(ステップS6、図9(C)(D))。保持部材60の加工精度として、たとえば、偏心度が設定値以下となるように精度出しする。偏心度寸法は塗膜厚さのばらつきなどに影響を及ぼす。また、保持部材60の表面形状は吸引保持によってシート材11に転写される。したがって、偏心度寸法や保持部材60の表面形状の面粗さは、対象となるシート材11に要求される偏心度寸法や面粗さに応じて定める。ローラー研削機は、たとえば、東芝機械株式会社製のKWA−Dシリーズを用いる。
精度出しされたフレーム50および保持部材60を用いて、吸着ローラー40を製造する(ステップS7、図9(E))。
次に、本実施形態の作用を説明する。
図2を参照して、製造装置200全体の動作を概説する。製造装置200は、原料シート10から、巻出しローラー80によってサポートシート12を剥離する。巻出しローラー80から巻き出された電解質膜11は、吸着ローラー40によって吸引支持され、塗布部100によって触媒インクが塗布されて成膜される。乾燥部110によって、触媒インクが乾燥され、電極触媒層15が塗膜として形成される。電極触媒層15を形成した後の電解質膜11は、巻取りローラー90によってサポートシート13が貼り合わされて製品シート14となる。製品シート14は、製品ローラー30に巻き取られる。
本実施形態では、製造装置200における吸着ローラー40は、吸引部120に接続されるチャンバ51を有する回転自在なフレーム50と、多孔質体から形成されチャンバ51に連通した状態においてフレーム50に取り付けられる複数個の保持部材60と、を有している。そして、フレーム50に取り付けられた複数個の保持部材60によって吸着ローラー40の周面を形成している。
多孔質体の保持部材60をフレーム50に組み付けるという構成によって、大径の吸着ローラー40を得ることができ、大型のプレス機や大型の焼結炉が不要となる。したがって、大型な吸着ローラー40を、容易に、かつ、いかようにも製作できる。
電解質膜11を吸着ローラー40によって吸着保持しながら、触媒インクの塗布およびその乾燥を行う場合、乾燥工程が終了するまで電解質膜11を吸着ローラー40に支持しておく必要がある。多孔質体の径寸法が製作上制限される場合には、生産性を高めるために搬送速度を速くすると、乾燥時間が短くなってしまう。このため、吸着ローラー40の回転速度を無条件に早くすることはできず、生産性を高めることが阻害されてしまう。一方、本実施形態にあっては、大径の吸着ローラー40を製作できることから、生産性を高めるために搬送速度を速くする場合には、吸着ローラー40を大径にして円周長を長くすることによって、十分に長い乾燥時間(乾燥距離)を簡単に確保することができる。このため、燃料電池用電極膜の生産速度を上げることができる。
図10は、吸引部120によって吸着ローラー40におけるそれぞれの吸引室53を吸引する状況を切り替える手順を示すフローチャートである。図11は、吸引室53を吸引する吸引力の制御例の一例を説明するための説明図である。以下の説明において、8個の吸引室53を区別する必要があるときには、図11に付すように、第1の吸引室53(1)、第2の吸引室53(2)、第3の吸引室53(3)、第4の吸引室53(4)、第5の吸引室53(5)、第6の吸引室53(6)、第7の吸引室53(7)、および第8の吸引室53(8)という。
コントローラー140は、吸引部120によってそれぞれの吸引室53を吸引する状況を切り替えるように、吸引部120の作動を制御する。
コントローラー140は、シート材11が接触している保持部材60が臨んでいる吸引室53を吸引し、シート材11が離脱している保持部材60が臨んでいる吸引室53の吸引を停止するように、吸引部120の作動を制御する。
コントローラー140は、吸引する吸引室53を表したテーブルを参照しつつ、吸引力の制御を行う。まず、この参照テーブルT1を概説する。コントローラー140は、基準となる回転位置に第何番目の吸引室53が位置しているかを検出し、参照テーブルT1を参照して、そのときに吸引しなければならない吸引室53を特定する。制御例の一例において参照される参照テーブルT1を以下の表1に示す。なお、基準となる吸引室53の回転位置は、図11において、巻出しローラー80を通って供給されるシート材11が接触し始める保持部材60が臨んでいる第1の吸引室53(1)が位置している回転位置とする。
図10を参照して、吸引部120によって吸着ローラー40におけるそれぞれの吸引室53を吸引する状況を切り替える手順を説明する。
コントローラー140は、エンコーダー141によって吸着ローラー40の回転角度を検出し、基準となる回転位置に第何番目の吸引室53が位置しているかを検出する(ステップS11)。図11に示される状態では、基準となる回転位置に、第1の吸引室53(1)が位置している。
コントローラー140は、参照テーブルT1を参照し、基準となる回転位置に位置する吸引室53の番号に基づいて、吸引しなければならない吸引室53を読み込む(ステップS12)。参照テーブルT1から、基準となる回転位置に第1の吸引室53(1)が位置する場合、吸引する吸引室53の番号として、「1、2、3、4、5、6」を読み込み、吸引力の設定として、「100%」を読み込み、吸引しない吸引室53の番号として「7、8」を読み込む。
コントローラー140は、吸引する吸引室53の番号、吸引しない吸引室53の番号、および吸引力の設定に基づいて、真空ポンプ123および電空レギュレーター122の動作を制御する(ステップS13)。コントローラー140は、第1、2、3、4、5、6の吸引室53(1)(2)(3)(4)(5)(6)用の電空レギュレーター122の吸引圧力値に、100%の吸引力に相当する吸引圧力値を設定する。コントローラー140は、第7、8の吸引室53(7)(8)用の電空レギュレーター122の吸引圧力値に、吸引圧力値として0(ゼロ)を設定する。
それぞれの電空レギュレーター122は、設定された吸引圧力値に基づいて動作し、それぞれの吸引室53の吸引量を独立に制御し、それぞれの吸引室53を吸引する状況を切り替える。図11に示すように、第1、2、3、4、5、6の吸引室53(1)(2)(3)(4)(5)(6)用の電空レギュレーター122は、第1、2、3、4、5、6の吸引室53(1)(2)(3)(4)(5)(6)を100%の吸引力によって吸引する。これによって、巻出しローラー80から供給された電解質膜11を、第1、2、3、4、5、6の吸引室53(1)(2)(3)(4)(5)(6)に臨む保持部材60の表面62に吸着保持する。電解質膜11は、巻取りローラー90によって、第7、8の吸引室53(7)(8)に臨む保持部材60の表面62から離脱している。第7、8の吸引室53(7)(8)用の電空レギュレーター122は、第7、8の吸引室53(7)(8)を吸引しない。
電極触媒層15を備える電解質膜11の製造を終了するまで(ステップS14:YES)、ステップS11〜S13の処理を繰り返し、それぞれの吸引室53(1)〜53(8)を吸引する状況を切り替える。
図11に示すように、吸着ローラー40は、チャンバ51を複数個の吸引室53に区画することによって、吸引室53毎に吸引量を独立制御することができる。電解質膜11を吸着する吸引室53から、吸引がリークする吸引室53が区画分けされている。このため、電解質膜11を吸着ローラー40全周に吸着しない製造装置200であっても、電解質膜11を吸着しなければならない吸引室53は、吸引力が低下することなく電解質膜11を吸着保持することができる。
電解質膜11を吸着保持する必要のない吸引室53については、吸引を停止していることから吸引エネルギーの無駄を無くすことができる。
冷却部130は、乾燥部110によって熱せられた吸着ローラー40を冷却する。電解質膜11を吸着保持する必要のない吸引室53については、コントローラー140は、切替バルブ124の作動を制御し、接続先を、真空ポンプ123からエアー供給装置131に切り替える。エアーは、吸引室53から保持部材60を通って外部雰囲気へと流れる。温度調整装置132によって、エアーの温度は、触媒インクを塗布する作業に対して保持部材60が温度影響を与えない温度にまで冷却可能な温度に設定される。このように、各吸引室53の吸引配管から、温度制御されたエアーを供給することによって、巻取り工程後に電解質膜11を吸引しない範囲で、乾燥部110によって温度上昇した多孔質体の保持部材60に冷却エアーを流す。保持部材60を冷却することによって、塗布工程への温度影響をなくすことができる。
吸着ローラー40は、複数個の保持部材60をフレーム50に取り付ける構成であり、保持部材60のそれぞれは、フレーム50に対して交換自在に取り付けられている。電極触媒層15の付着や塵埃の詰りなどによって多孔質体の吸着不良が発生した場合、吸着ローラー40の全体を交換する必要はない。吸着不良が発生した保持部材60のみを交換し、その新たな保持部材60に対して表面ローラー研削加工を施すことによって、吸着ローラー40を復旧させることができる。
図12は、吸引室53を吸引する吸引力の制御例の他の例を説明するための説明図である。以下の説明において、8個の吸引室53を区別する必要があるときには、図12に付すように、第1の吸引室53(1)、第2の吸引室53(2)、第3の吸引室53(3)、第4の吸引室53(4)、第5の吸引室53(5)、第6の吸引室53(6)、第7の吸引室53(7)、および第8の吸引室53(8)という。
コントローラー140は、巻出しローラー80を通って供給されるシート材11が接触し始める保持部材60が臨んでいる吸引室53を吸引する吸引力を、シート材11が接触し続けている保持部材60が臨んでいる吸引室53を吸引する吸引力よりも強い吸引力とするように、吸引部120の作動を制御する。
コントローラー140は、巻取りローラー90を通って離脱されるシート材11が離れ始める保持部材60が臨んでいる吸引室53を吸引する吸引力を、シート材11が接触し続けている保持部材60が臨んでいる吸引室53を吸引する吸引力よりも弱い吸引力とするように、吸引部120の作動を制御する。
コントローラー140は、吸引する吸引室53を表したテーブルを参照しつつ、吸引力の制御を行う。制御例の他の例において参照される参照テーブルT2を以下の表2に示す。なお、基準となる吸引室53の回転位置は、図12おいて、巻出しローラー80を通って供給されるシート材11が接触し始める保持部材60が臨んでいる第1の吸引室53(1)が位置している回転位置とする。
制御例の他の例において、吸引部120によって吸着ローラー40におけるそれぞれの吸引室53を吸引する状況を切り替える手順は、図10に示した制御例の一例と同様である。
コントローラー140は、エンコーダー141によって吸着ローラー40の回転角度を検出し、基準となる回転位置に第何番目の吸引室53が位置しているかを検出する(ステップS11)。図12に示される状態では、基準となる回転位置に、第1の吸引室53(1)が位置している。
コントローラー140は、参照テーブルT2を参照し、基準となる回転位置に位置する吸引室53の番号に基づいて、吸引しなければならない吸引室53を読み込む(ステップS12)。参照テーブルT2から、基準となる回転位置に第1の吸引室53(1)が位置する場合、吸引する吸引室53の番号として、「2、3、4、5」を読み込み、吸引力の設定として、「通常」を読み込む。吸引する吸引室53の番号として、「1」を読み込み、吸引力の設定として、「通常」よりも強い値が設定される「強」を読み込む。吸引する吸引室53の番号として、「6」を読み込み、吸引力の設定として、「通常」よりも弱い値が設定される「弱」を読み込む。吸引しない吸引室53の番号として「7、8」を読み込む。
コントローラー140は、吸引する吸引室53の番号、吸引しない吸引室53の番号、および吸引力の設定に基づいて、真空ポンプ123および電空レギュレーター122の動作を制御する(ステップS13)。コントローラー140は、第2、3、4、5の吸引室53(2)(3)(4)(5)用の電空レギュレーター122の吸引圧力値に、「通常」の吸引力に相当する吸引圧力値を設定する。コントローラー140は、第1の吸引室53(1)用の電空レギュレーター122の吸引圧力値に、「強」の吸引力に相当する吸引圧力値を設定する。コントローラー140は、第6の吸引室53(6)用の電空レギュレーター122の吸引圧力値に、「弱」の吸引力に相当する吸引圧力値を設定する。コントローラー140は、第7、8の吸引室53(7)(8)用の電空レギュレーター122の吸引圧力値に、吸引圧力値として0(ゼロ)を設定する。
それぞれの電空レギュレーター122は、設定された吸引圧力値に基づいて動作し、それぞれの吸引室53の吸引量を独立に制御し、それぞれの吸引室53を吸引する状況を切り替える。図12に示すように、第2、3、4、5の吸引室53(2)(3)(4)(5)用の電空レギュレーター122は、第2、3、4、5の吸引室53(2)(3)(4)(5)を「通常」の吸引力によって吸引する。第1の吸引室53(1)用の電空レギュレーター122は、第1の吸引室53(1)を「強」の吸引力によって吸引する。第6の吸引室53(6)用の電空レギュレーター122は、第6の吸引室53(6)を「弱」の吸引力によって吸引する。これによって、巻出しローラー80から供給された電解質膜11を、第1、2、3、4、5、6の吸引室53(1)(2)(3)(4)(5)(6)に臨む保持部材60の表面62に吸着保持する。ただし、第1の吸引室53(1)は、第2、3、4、5の吸引室53(2)(3)(4)(5)よりも強い吸引力によって電解質膜11を吸引し、第6の吸引室53(6)は、第2、3、4、5の吸引室53(2)(3)(4)(5)よりも弱い吸引力によって電解質膜11を吸引している。電解質膜11は、巻取りローラー90によって、第7、8の吸引室53(7)(8)に臨む保持部材60の表面62から離脱している。第7、8の吸引室53(7)(8)用の電空レギュレーター122は、第7、8の吸引室53(7)(8)を吸引しない。
電極触媒層15を備える電解質膜11の製造を終了するまで(ステップS14:YES)、ステップS11〜S13の処理を繰り返し、それぞれの吸引室53(1)〜53(8)を吸引する状況を切り替える。
図12に示すように、吸着ローラー40は、チャンバ51を複数個の吸引室53に区画することによって、図11に示した例と同様に、吸引室53毎に吸引量を独立制御することができる。巻出しローラー80の箇所においては、吸着ローラー40への初期吸着のために吸引力を強くし、巻取りローラー90箇所においては、吸着ローラー40から離脱させるために吸引力を落としている。このように制御することによって、電解質膜11のハンドリングが容易になり、電解質膜11にシワや破れなどの不具合を生じさせることなく、製品シート14を得ることができる。
また、図11に示した例と同様に、電解質膜11を吸着保持する必要のない吸引室53については、吸引を停止していることから吸引エネルギーの無駄を無くすことができる。
図13(A)(B)は、隣り合う保持部材60同士の間にシート材11を吸着できない隙間Sが存在する場合に、塗布部100がシート材11に塗布材料を間欠的に塗布する形態を説明する説明図、および隙間Sを検知する様子を示す斜視図である。
図13(A)を参照して、吸着ローラー40は隣り合う保持部材60同士の間に連結部70を有し、シート材11を吸着できない隙間Sが存在する。連結部70が存在する箇所は電解質膜11を吸引することができず、電解質膜11に膨潤や収縮などが発生する可能性がある。
そこで、隣り合う保持部材60同士の間に電解質膜11を吸着できない隙間Sが存在する場合においては、塗布部100は、電解質膜11に触媒インクを間欠的に塗布し、隙間Sの部分に対応する部位を未塗布範囲とする。塗布部100は、触媒インクを間欠的に塗布する間欠塗工機構を有する。図13(B)に示すように、電解質膜11を吸着できない隙間Sは、反射光の強弱などの違いによって材質の相違を検知する光学センサー142を用いて検知することができる。隙間Sを検知した信号に基づいて、塗布部100は、電解質膜11に触媒インクを間欠的に塗布する。隙間Sの部分に対応する部位を未塗布範囲とすることによって、電解質膜11に膨潤や収縮などを発生させることがない。
以上説明したように、本実施形態に係る塗膜を形成したシート材11の製造装置200にあっては、吸着ローラー40は、吸引部120に接続されるチャンバ51を有する回転自在なフレーム50と、多孔質体から形成されチャンバ51に連通した状態においてフレーム50に取り付けられる複数個の保持部材60と、を有している。そして、フレーム50に取り付けられた複数個の保持部材60によって吸着ローラー40の周面を形成している。
また、本実施形態に係る塗膜を形成したシート材11の製造方法にあっては、上記のように構成した吸着ローラー40にシート材11を供給し、シート材11を吸着保持した状態において吸着ローラー40を回転することによってシート材11を搬送する。吸着ローラー40に吸着保持されたシート材11に塗布部100によって塗布材料を塗布し、吸着ローラー40の周囲のうち塗布部100よりもシート材11の搬送方向に沿って下流側の位置において、塗布された塗布材料を乾燥部110によって乾燥する。そして、塗布材料が乾燥したシート材11を吸着ローラー40から離脱させている。
このように構成することによって、半径以下の大きさの複数の多孔質体の保持部材60から吸着ローラー40の周面を形成することができるので、大型のプレス機や焼結炉が不要になり、容易に大直径の多孔質体からなる吸着ローラー40を形成することができる。大径の吸着ローラー40を備えることによって、円周長の距離が長くなり、触媒インクの乾燥時間を十分に取ることができる。電解質膜11の搬送速度を速くすることができるため、生産速度を向上することができる。したがって、多孔質体から形成された吸着ローラー40であっても、直径寸法の上限に制約を受けることがなく、吸着ローラー40の大径化を通して生産性を高めることが可能な、塗膜を形成したシート材11の製造装置200、および塗膜を形成したシート材11の製造方法を提供することができる。
フレーム50のチャンバ51は、区画された複数個の吸引室53を有し、それぞれの吸引室53に少なくとも1つの保持部材60が臨んでおり、吸引部120は、それぞれの吸引室53に接続されている。
このように構成することによって、個々の吸引室53は密閉空間となるため、電解質膜11を吸引していない吸引室53から吸引がリークしたとしても、電解質膜11を吸引している吸引室53の吸引力は低下しない。この結果、電解質膜11を確実に搬送することができる。
製造装置200は、吸引部120によってそれぞれの吸引室53を吸引する状況を切り替えるように、吸引部120の作動を制御するコントローラー140を有している。
このように構成することによって、それぞれの吸引室53毎に吸引量を独立して制御することができ、吸引室53を吸引する状況を種々変更できる。電解質膜11に付与する張力を可変制御できることから、電解質膜11をより確実に搬送することができる。
コントローラー140は、電解質膜11が接触している保持部材60が臨んでいる吸引室53を吸引し、電解質膜11が離脱している保持部材60が臨んでいる吸引室53の吸引を停止するように、吸引部120の作動を制御する。
このように構成することによって、電解質膜11を巻取ることによって電解質膜11を吸引しなくなった範囲では吸引を停止することから、電解質膜11を確実に搬送しつつ、吸引エネルギーの無駄をなくすことができる。
コントローラー140は、巻出しローラー80を通って供給される電解質膜11が接触し始める保持部材60が臨んでいる吸引室53を吸引する吸引力を、電解質膜11が接触し続けている保持部材60が臨んでいる吸引室53を吸引する吸引力よりも強い吸引力とするように、吸引部120の作動を制御する。
このように構成することによって、巻出しローラー80の箇所では吸引力が強くなるので、吸着ローラー40への電解質膜11の初期吸着が確実なものとなる。
コントローラー140は、巻取りローラー90を通って離脱される電解質膜11が離れ始める保持部材60が臨んでいる吸引室53を吸引する吸引力を、電解質膜11が接触し続けている保持部材60が臨んでいる吸引室53を吸引する吸引力よりも弱い吸引力とするように、吸引部120の作動を制御する。
このように構成することによって、巻取りローラー90の箇所では吸引力が弱くなるので、吸着ローラー40から電解質膜11を離脱させ易くなり、電解質膜11のハンドリングが容易になる。電解質膜11にシワや破れなどの不具合を生じさせることなく、製品シート14を得ることができる。
製造装置200は、電解質膜11が離脱している保持部材60を冷却する冷却部130をさらに有している。
このように構成することによって、電解質膜11を吸引しない範囲で、乾燥工程によって温度上昇した保持部材60を冷却して、塗布工程への温度影響をなくすことができる。
冷却部130は、電解質膜11が離脱している保持部材60にエアーを通過させることによって保持部材60を冷却する。
このように構成することによって、電解質膜11を吸引しない範囲で、保持部材60にエアーを通過させて、保持部材60を冷却することができる。
冷却部130は、エアーを、吸引部120と吸着ローラー40とを接続する配管を使用して吸着ローラー40に導く。
このように構成することによって、吸引部120と吸着ローラー40とを接続する配管を、吸引用および冷却用に共用できることから、配管系の簡素化を図ることができる。
エアーの温度は、塗布材料を塗布する作業に対して保持部材60が温度影響を与えない温度にまで冷却可能な温度である。
このように構成することによって、温度制御されたエアーによって保持部材60を冷却でき、塗布工程への温度影響を確実になくすことができる。
隣り合う保持部材60同士の間に電解質膜11を吸着できない隙間Sが存在する場合において、塗布部100は、電解質膜11に塗布材料を間欠的に塗布し、隙間Sの部分に対応する部位を未塗布範囲とする。
電解質膜11に吸着ローラー40の吸引力が作用することによって、電解質膜11へ触媒インクを塗布したときに生じる電解質膜11の膨潤、収縮、シワ、クラック(割れ)を抑制しているが、隙間Sの部分では電解質膜11を吸着できない。そこで、上記のように構成することによって、電解質膜11を吸着できない隙間Sの部分において、電解質膜11の膨潤などの不具合の発生を回避することができる。
保持部材60のそれぞれは、フレーム50に対して交換自在に取り付けられている。
このように構成することによって、詰りや汚れが発生した保持部材60のみを交換することが可能なため、吸着ローラー40全体を交換する場合に比較して、ランニングコストを大幅に削減できる。
保持部材60の表面62は、吸着ローラー40の回転軸41に直交する断面において見て、平坦面に形成されている。
このように構成することによって、表面62が平坦面であるので、保持部材60の形成が容易となる。
電解質膜11は、燃料電池の電極触媒層15用の電解質膜11であり、塗布材料は、触媒インクである。
このように構成することによって、燃料電池用電極膜(CCM)の生産性を高めることが可能となる。
(フレームの改変例)
図14は、フレーム50aの改変例を示す斜視図、図15(A)は、フレーム50bの他の改変例を示す斜視図、図15(B)は、図15(A)に示されるフレーム50bとともに使用するガイドフレーム50cを示す斜視図、図16(A)(B)は、フレーム50dのさらに他の改変例を示す斜視図、および保持部材60を組み付けた状態を示す要部断面図である。
フレームは、吸引部120に接続されるチャンバ51を有する回転自在な構造を有し、かつ、多孔質体から形成されチャンバ51に連通した状態において複数個の保持部材60が取り付けられる構造を有している限りにおいて、適宜の構造に改変することができる。
図14に示すフレーム50aは、フレーム50a内部の吸引室53の数を吸引溝54の数に対して減少させている。すなわち、チャンバ51は2個の吸引室53に区画され、1個の吸引室53に対して、4個の吸引溝54が形成され、4個の保持部材60が組み付けられる。
図15(A)に示すフレーム50bは、多孔質体(発泡金属、セラミック、樹脂など)とし、フレーム50b内部のチャンバ51を1つの吸引室53としている。1つの吸引室53を多孔質体で埋めることによって、保持部材60および中心軸を保持しながら、保持部材60と連通する。1つの吸引室53を埋める多孔質体は、1個に限られず、複数個に分割されていてもよく、吸着ローラー40の大径化を阻害するものではない。フレーム50bが多孔質体の場合には、図15(B)に示すようなガイドフレーム50cをともに使用することができる。ガイドフレーム50cの内部に、多孔質体のフレーム50bが嵌め込まれる。ガイドフレーム50cを使用することによって、保持部材60の取り付け位置精度が向上する。また、ガイドフレーム50cを使用することによって、保持部材60を支持固定する補助的な機能、連結部70を補助する機能が発揮される。また、保持部材60を組み付ける作業が簡便になる。
図16(A)に示すフレーム50dは、回転軸41と、回転軸41から半径方向に放射状に伸びている板材50eとを有している。このフレーム50dには、吸引溝54は形成されていない。図16(B)に示すように、保持部材60は、板材50eの径方向外方の端部同士の間に嵌まり込んで組み付けられている。
(保持部材の改変例)
図17は、保持部材60aの改変例を示す斜視図、図18(A)(B)は、保持部材60bの他の改変例を示す断面図である。図19は、1個の吸引室53当たりの保持部材60cの数を改変した例を示す斜視図である。
保持部材は、多孔質体から形成されチャンバ51に連通した状態においてフレーム50に取り付けられる構造を有している限りにおいて、適宜の構造に改変することができる。
図17に示す保持部材60aは、吸着ローラー40の回転軸41に直交する断面において見て、瓦形状を有している。保持部材60aの表面62は、吸着ローラー40の回転軸41に直交する断面において見て、円弧面に形成されている。表面62が円弧面であるので、フレーム50に保持部材60を組み付けた後に円筒形状化する研削加工を省略することができる。保持部材60aが瓦形状を有しているので、円筒体であるフレーム50に組み込んでいく場合、フレーム50への組み込みが容易である。
図18(A)(B)は、保持部材60bの側端面の形状を改変したものである。保持部材60bの側端面のうち隣り合う他の保持部材60bに向かい合う側端面63は、他の保持部材60bの側端面63と径方向において重なり合う形状を有する。
図18(A)に示す側端面63は、互いに向かい合う傾斜面に形成されている。台形形状の底辺を上下に組み合わせることによって、保持部材60の側端面63同士が径方向において重なり合い、隙間Sを極小にすることができる。
図18(B)に示す側端面63は、段違い形状の突起部64を有している。段違い形状の突起部64を上下に組み合わせることによって、保持部材60の側端面同士が径方向において重なり合い、隙間Sを極小にすることができる。
多孔質体の保持部材を台形形状(図5(B)、図18(A))、瓦形状(図17)、段違い形状(図18(B))に焼結し、これらを任意に組み合わせて使用することによって、隙間Sの幅を極小とすることができる。
このように、保持部材60bの側端面63のうち隣り合う他の保持部材60bに向かい合う側端面63を、他の保持部材60bの側端面63と径方向において重なり合う形状にすることによって、保持部材60b間の隙間Sや、当該隙間Sに充填される連結部70を極小にすることができる。
保持部材60は、回転軸41方向には1部品であることが望ましい。しかしながら、図19に示すように、1個の吸引室53当たり、保持部材60cは、円周方向に複数(図19においては2個)の部品に分かれてもよい。
(吸着ローラー40における負圧経路の改変例)
図20は、吸着ローラー40における負圧経路56aの改変例を示す断面図、図21は、吸着ローラー40における負圧経路56bの他の改変例を示す断面図である。
吸引室53内を負圧にする負圧経路は、吸着ローラー40の構成に応じて適宜改変することができる。
図20を参照して、フレーム50のチャンバ51を複数個の吸引室53に区画した場合において、吸引室53内を負圧にする負圧経路56aは、吸引室53を区画するガイドプレート42を貫通して設けられた負圧形成配線57aと、負圧形成配線57aが回転軸41内に集約された軸内配線58aとを有する。軸内配線58aは、ロータリージョイント59内の通路を介して、吸引部120の負圧経路121に接続される。
図21を参照して、吸引室53が1つの場合や多孔質体である場合において、吸引室53内を負圧にする負圧経路56bは、回転軸41内に形成した軸方向通路57bと、回転軸41の外周面に開口され軸方向通路に連通する複数個の通気口58bとを有する。軸方向通路57bは、吸引部120の負圧経路121に接続される。
(吸引部120における負圧経路の改変例)
図22は、吸引部120の負圧経路121aの改変例を示す概略構成図である。
吸引部120の負圧経路は、それぞれの吸引室53の吸引量を独立に制御し、それぞれの吸引室53を吸引する状況を切り替えることができる限りにおいて、適宜の構成に改変することができる。
図22を参照して、吸引部120の負圧経路121aは、それぞれの吸引室53毎に設けられた複数台の真空ポンプ123を有する。それぞれの真空ポンプ123は、コントローラー140に接続され、コントローラー140から真空度を示す制御信号などが入力される。このような構成によって、それぞれの吸引室53の吸引量を独立に制御し、それぞれの吸引室53を吸引する状況を切り替えることができる。
(その他の改変例)
上述した実施形態では、シート材として電解質膜11を例に挙げたが、本発明はこの場合に限定されるものではない。たとえば、シート材11として、樹脂シート(PTFE、PETなど)、金属フィルム(アルミ、銅など)を適用することができる。
フレーム50に保持部材60を組み付けた後に、保持部材60の平坦面を円弧形状に切削加工する例を示したが、本発明はこの場合に限定されるものではない。保持部材60の平坦面をそのまま用いるようにし、吸着ローラー40を多角形状とすることができる。
(フレームの他の改変例)
図23(A)は、フレーム250の改変例を示す斜視図、図23(B)は、図23(A)において符号23Bによって囲まれた部分を示す拡大図、図23(C)は、同フレーム250を示す断面図、図23(D)は、図23(C)において符号23Dによって囲まれた部分を示す拡大図である。図24は、図23に示されるフレーム250を適用した吸着ローラー40aにおける負圧経路260を示す断面図である。
隣り合う保持部材60の周方向端面61同士を連結部70によって接合する例を示したが、本発明はこの場合に限定されるものではない。図23(A)〜(D)に示すように、隣り合う保持部材60の間に連結部70を設けず、隙間Sが残る状態とする。そして、前記隙間Sに臨むフレーム250の外周面(たとえば、ガイド255の径方向外方の端面)に、シート材11を吸引する負圧を供給する吸引口256を設ける。端部にガイド255が形成された板材257の中に、吸引口256に連通する径方向経路262が形成されている。図24に示すように、隙間Sに負圧を供給する負圧経路260は、回転軸41内に形成した軸方向経路261と、板材257内に形成した径方向経路262とを有する。軸方向経路261は、吸引部120の負圧経路121に接続される。そして、前記隙間Sの空気を、吸引口256および保持部材60の周方向端面61から吸引することによって、保持部材60上における吸着に加えて、保持部材60が存在しない隙間Sの部位においてシート材11を吸着することができる。巻出しローラー80から巻取りローラー90に至るまで全面にわたって、吸着ローラー40aの表面にシート材11を吸着保持することができる。この結果、シート材11を安定的に保持しつつ搬送することができる。
吸引口256は、円形形状のほか、楕円や矩形形状でもよい。図示する吸引口256は比較的小さく多数配列されている。一方、大きな開口を形成し、その中に、多孔質体を挿入、組み込み、圧入するなどして、貫通通路を形成することができる。また、大きな開口を形成し、メッシュやパンチングプレートによって蓋をするような構造にすることもできる。なお、吸引口256の孔の大きさは、シート材11としての例えば電解質膜が吸引口256内に引き込まれないような孔径に設定することが好ましい。
このように、フレーム250は、隣り合う保持部材60の間に存在する隙間Sに開口する吸引口256を有し、吸引口256が吸引部120に接続され、隙間Sを覆うシート材11を吸着する負圧を生じさせる構造を有する。
このように構成することによって、隣り合う保持部材60の間の隙間Sからなる継ぎ目(ガイド255の幅を有する)が存在していても、吸引口256から供給される負圧によって、シート材11を吸引できない箇所がなくなり、搬送されているシート材11を全面にわたって吸着保持することができる。この結果、シート材11を安定的に保持しつつ搬送することができる。
図25は、図23に示されるフレーム250を適用した吸着ローラー40aにおける負圧経路260aの改変例を示す断面図である。
この改変例では、吸引口256に連通する径方向経路262は、板材257内においてヘッダー管のように一箇所に集約され、集約経路263となっている。隙間Sに負圧を供給する負圧経路260aは、軸方向経路261と、軸方向経路261に連通する集約経路263とを有する。軸方向経路261は、ロータリージョイント59内の通路を介して、吸引部120の負圧経路121に接続される。
図26は、図23に示されるフレーム250を適用した吸着ローラー40aにおける負圧経路260bの他の改変例を示す断面図である。
この他の改変例では、負圧経路260bは、集約経路263が吸引室53を区画するガイドプレート42を貫通して設けられた負圧形成配線263aと、負圧形成配線263aが回転軸41内に集約された軸内配線263bとを有する。軸内配線263bは、ロータリージョイント59内の通路を介して、吸引部120の負圧経路121に接続される。
図27は、吸引部120の負圧経路121bの改変例を示す概略構成図である。
吸引部120の負圧経路121は、前述したように、それぞれの吸引室53の吸引量を独立に制御し、それぞれの吸引室53を吸引する状況を切り替えることができる(図7を参照)。これと同様に、吸引部120の負圧経路121bは、それぞれの吸引室53およびそれぞれの隙間Sの吸引量を独立に制御し、それぞれの隙間Sを吸引する状況をも切り替えることができる。
図27を参照して、吸引部120の負圧経路121bは、それぞれの吸引室53毎に設けられた複数台の真空ポンプ123、それぞれの隙間S毎に設けられた複数台の真空ポンプ264を有する。それぞれの真空ポンプ123、264は、コントローラー140に接続され、コントローラー140から真空度を示す制御信号などが入力される。このような構成によって、それぞれの吸引室53およびそれぞれの隙間Sの吸引量を独立に制御し、それぞれの吸引室53およびそれぞれの隙間Sを吸引する状況を切り替えることができる。
なお、隙間Sは比較的容積が小さいことから、吸引量を一定にしても、シート材11の吸着に与える影響が少ない場合がある。このような場合には、吸引口256に連通する負圧経路を集合させ、1台の真空ポンプによって負圧を形成することもできる。
(フレームのさらに他の改変例)
図28(A)は、フレーム250aの改変例および当該フレーム250aを適用した吸着ローラー40bの要部を示す斜視図、図28(B)は、吸着ローラー40bを構成するローラー構成体265を示す斜視図、図28(C)は、フレーム250aを構成する分割フレーム266を示す斜視図、図28(D)は、ローラー構成体265同士を接合する位置を示す図である。図29は、分割フレーム266に保持部材60を取り付けた複数のローラー構成体265を組み立てて、吸着ローラー40bを形成する概略手順を示すフローチャートである。
吸着ローラー40のフレーム50が単体として形成されている場合を示したが、本発明はこの場合に限定されるものではない。図28(A)〜(D)に示すように、最小単位となる分割フレーム266を形成しておき、複数個の分割フレーム266を組み合わせることによって、1つのフレーム250aを形成することができる。分割フレーム266を用いることによって、最小単位となるローラー構成体265を形成しておき、複数個のローラー構成体265を組み合わせることによって、1つの吸着ローラー40bを形成することができる。分割フレーム266およびローラー構成体265は、吸着ローラー40bの回転軸41に直交する断面において見て、扇形状を有している。ローラー構成体265は、吸引室53および吸引溝54が形成された分割フレーム266と、吸引室53に臨むように分割フレーム266に取り付けられた保持部材60とを有する。保持部材60は、接着剤などを用いて吸引溝54に取り付けられている。そして、複数個のローラー構成体265は、隣り合う保持部材60の周方向端面61同士を接触させた状態で結合されている。なお、図示例では、分割フレーム266およびローラー構成体265の個数を8個としたが、この場合に限定されず、適宜の個数の分割フレーム266およびローラー構成体265からフレーム250a、吸着ローラー40bを形成することができる。
図29を参照して、吸着ローラー40bを形成するには、まず、分割フレーム266の形状加工を行う(ステップS21)。分割フレーム266の吸引室53、吸引溝54は仕上げ加工まで実施する。保持部材60の大きさは、分割フレーム266のサイズより若干大き目とするのが望ましい。次に、接着剤などの連結手段を用いて、保持部材60を吸引溝54に取り付け、分割フレーム266と保持部材60との一体部品であるローラー構成体265を形成する(ステップS22)。次に、分割フレーム266の連結面266aに対して、分割フレーム266および保持部材60ごと同時に平面研削加工を実施する(ステップS23)。図28(B)に符号267a付した線分は、分割フレーム266および保持部材60を同時に平面研削加工する範囲を示している。分割フレーム266の連結面266a同士を接着剤によって接合することによって、隣り合う分割フレーム266を一体化する。図28(D)に符号267bを付した線分は、隣り合う分割フレーム266を接合する範囲を示している。そして、分割フレーム266同士の接合を周方向に繰り返すことによって、ローラー構成体265を組み立てて、吸着ローラー40bを形成する(ステップS24)。
フレーム250aは、複数個の分割フレーム266の結合体となっている。ローラー構成体265は、個々の分割フレーム266に対して保持部材60を先に連結し、1部品としておくことによって、保持部材60を取付けるためのガイド55(図5を参照)が不要になる。さらに、ローラー構成体265は分割フレーム266と保持部材60との一体部品であり、分割フレーム266と保持部材60とを共加工することによって、隣り合うローラー構成体265の接合面を、高精度に平面加工することが可能である。このため、保持部材60同士の間を隙間が生じることなく精度良く面合わせすることができる。保持部材60同士を接着剤によって接合する作業も不要である。これにより、巻出しローラー80から巻取りローラー90に至るまで全面にわたって、吸着ローラー40bの表面にシート材11を吸着保持することができる。この結果、シート材11を安定的に保持しつつ搬送することができる。
このように、フレーム250aは、吸引室53が形成された複数個の分割フレーム266を有し、吸着ローラー40bは、吸引室53に臨むように保持部材60を分割フレーム266に取り付けた複数個のローラー構成体265を有している。そして、吸着ローラー40bは、複数個のローラー構成体265が隣り合う保持部材60の周方向端面61同士を接触させた状態に結合された構造を有する。
分割フレーム266に保持部材60を取り付けて一部品であるローラー構成体265としておくことによって、保持部材60の周方向端面61を高精度に仕上げることができる。このように構成することによって、隣り合う保持部材60の間には隙間からなる継ぎ目が存在せず、シート材11を吸引できない箇所がなくなり、搬送されているシート材11を全面にわたって吸着保持することができる。
(シート材吸着開始時の不具合対策例)
図30(A)は、シート材11を吸着ローラー40に吸着させる工程における不具合例を示す図、図30(B)は、シート材の巻き癖を説明するための斜視図、図30(C)は、図30(B)の30C−30C線に沿う断面図である。図31は、吸着ローラー40cの改変例を、保持部材60の一部を取り外した状態において示す斜視図である。図32は、吸引部120の負圧経路121cを示す概略構成図である。
図30(A)に示すように、巻出しローラー80によって、原料シート10からサポートシート12が剥離され、巻き出されたシート材11が吸着ローラー40によって吸引支持される。シート材11を吸着ローラー40に吸着させる巻出し(吸着)工程において、エアーの巻き込みや混入、シワの発生などの不具合が生じる。このような不具合が生じる原因は、サポートシート12とシート材11との接合力(剥離力)に対して、吸着ローラー40の吸引力が弱く、その結果、シート材11が撓んでしまい、吸着ローラー40表面との間に比較的大きな空間が発生するためである(図30(A)の符号268aを付した部位を参照)。特に、図30(B)(C)に示すように、原料シート10に巻き癖が付いていたり、巻きロール材状態において応力が不均一に作用したりした場合には、巻き出されたシート材11も、ローラー軸方向に沿う両端縁の反り(カール268b)が発生し易い。この結果、シート材11の両端縁を含む部分においては吸着ローラー40の吸引力が負けてしまい、シワの発生などの上記の不具合が顕著に現れる。
図31を参照して、吸着ローラー40cは、シート材11吸着開始時のシワの発生などの不具合に対する対策を施した構造を有している。吸着ローラー40cは、ローラー構成体265を、吸着ローラー40cの回転軸41の周方向に結合するとともに、円筒高さ方向つまり吸着ローラー40cの回転軸41の軸方向に結合した構造を有する。ローラー構成体265は、図28(B)に示したローラー構成体265と同様に、分割フレーム266に保持部材60が連結されている。複数個のローラー構成体265は、周方向に隣り合う保持部材60の周方向端面61同士を接触させた状態で結合され、円筒高さ方向に隣り合う保持部材60の軸方向端面同士を接触させた状態で結合されている。したがって、吸着ローラー40cの吸引室53は、吸着ローラー40cの回転軸の周方向および軸方向の両方向に沿って区画されている。なお、図示例では、ローラー構成体265の個数を周方向に8個、円筒高さ方向に2個としたが、この場合に限定されず、適宜の個数のローラー構成体265から吸着ローラー40cを形成することができる。
図32を参照して、吸引部120の負圧経路121cは、吸着ローラー40cの回転軸41の周方向および軸方向の両方向に沿って区画されたそれぞれの吸引室53毎に設けられた複数台の真空ポンプ269を有する。それぞれの真空ポンプ269は、コントローラー140に接続され、コントローラー140から真空度を示す制御信号などが入力される。このような構成によって、それぞれの吸引室53の吸引量を独立に制御し、それぞれの吸引室53を吸引する状況を切り替えることができる。吸引する態様を実現できるようにいくつかの吸引室53をグループ化し、それぞれのグループ毎に真空ポンプ269を設けて、それぞれの吸引室53を吸引する状況をグループ毎に切り替えることもできる。なお、図32においては、ローラー構成体265を周方向に8個結合し、円筒高さ方向に2個を結合した状態において、負圧経路121cを図示してある。
図33(A)は、吸着ローラー40cの回転軸41の周方向に沿う吸引室53を吸引する吸引力の制御例を説明するための説明図、図33(B)は、吸着ローラー40cの回転軸41の軸方向に沿う吸引室53を吸引する吸引力の制御例を説明するための説明図である。以下の説明において、回転軸の周方向に沿う8個の吸引室53を区別するときには、図33(A)に付すように、第1の周方向吸引室53(v1)、第2の周方向吸引室53(v2)、第3の周方向吸引室53(v3)、第4の周方向吸引室53(v4)、第5の周方向吸引室53(v5)、第6の周方向吸引室53(v6)、第7の周方向吸引室53(v7)、および第8の周方向吸引室53(v8)という。また、回転軸の軸方向に沿う5個の吸引室53を区別するときには、図33(B)に付すように、第1の軸方向吸引室53(h1)、第2の軸方向吸引室53(h2)、第3の軸方向吸引室53(h3)、第4の軸方向吸引室53(h4)、および第5の軸方向吸引室53(h5)という。
巻出し(吸着)工程において、シワの発生などの不具合を生じることなく、原料シート10からサポートシート12を剥離し、シート材11を吸着ローラーに吸着させるためには、吸着開始のシート材11を通常の吸引力よりも強い吸引力によって吸着させることが必要である。また、ローラー軸方向に沿う両端縁の反り(カール268b)が発生し易いことから、吸着ローラー40の吸引力が負けないようにすることも必要である。
そこで、コントローラー140は、吸着ローラー40cの回転軸41の周方向および軸方向の両方向に沿って区画された吸引室53を吸引する吸引力を次のように制御する。
図33(A)を参照して、コントローラー140は、回転軸41の周方向に沿って区画された吸引室53のうちシート材11が接触する保持部材60が臨んでいる吸引室53に関して、これらの吸引室53を吸引する吸引力を、巻出しローラー80を通って供給されるシート材11が接触し始めるときには、シート材11が接触し続けているときに比べて強い吸引力とするように、吸引部120の作動を制御する。
図示するように、コントローラー140は、シート材11が接触し始める第1の周方向吸引室53(v1)を吸引する吸引力を、シート材11が接触し続けている第2〜第6の周方向吸引室53(v2)〜53(v6)を吸引する吸引力よりも強い吸引力とするように、吸引部120の作動を制御する。図示例にあっては、シート材11の吸着に遅れが生じないようにするため、第8の周方向吸引室53(v8)を吸引する吸引力も強い吸引力としている。
吸着ローラー40cの回転軸41の周方向に沿って区画された吸引室53を吸引する吸引力を上記のように制御することによって、吸着開始のシート材11を通常の吸引力よりも強い吸引力によって吸着させることができる。この結果、巻出し(吸着)工程において、エアーの巻き込みや混入、シワの発生などの不具合を生じることなく、原料シート10からサポートシート12を剥離し、シート材11を吸着ローラー40cに吸着させることができる。
図33(B)を参照して、コントローラー140は、回転軸41の軸方向に沿って区画された吸引室53のうちシート材11における軸方向に沿う両端縁が接触する保持部材60が臨んでいる吸引室53に関して、これらの吸引室53を吸引する吸引力を、巻出しローラー80を通って供給されるシート材11が接触し始めるときには、シート材11が接触し続けているときに比べて強い吸引力とするように、吸引部120の作動を制御する。
図33(B)には、複数の吸引室53が8行5列に表される。行方向は、最下段から最上段に向けて順に、第8の周方向吸引室53(v8)、第1〜第7の周方向吸引室53(v1)〜53(v7)を示している。列方向は、左から右に向けて順に、第1〜第5の軸方向吸引室53(h1)〜53(h5)を示している。セル内に吸引力の「強」「中」を示す。空白のセルは吸引力が通常の状態を示している。「中」が付されたセルは吸引力が通常の状態より強く、「強」が付されたセルは吸引力が「中」の状態よりもさらに強い。
第1の軸方向吸引室53(h1)および第5の軸方向吸引室53(h5)は、シート材11の両端縁が接触する保持部材60が臨んでいる吸引室53に相当する。図示するように、コントローラー140は、シート材11が接触し始める第1の周方向吸引室53(v1)の行(下から2段目)において、第1、第5の軸方向吸引室53(h1)、53(h5)を吸引する吸引力を、シート材11が接触し続けている第4〜第6の周方向吸引室53(v4)〜53(v6)の行(下から5〜7段目)において、第1、第5の軸方向吸引室53(h1)、53(h5)を吸引する吸引力よりも強い吸引力とするように、吸引部120の作動を制御する。図示例にあっては、シート材11の吸着に遅れが生じないようにするため、第8の周方向吸引室53(v8)の行(最下行)において、第1〜第5の軸方向吸引室53(h1)〜53(h5)を吸引する吸引力も強い吸引力としている。第1の周方向吸引室53(v1)の行(下から2段目)においては、第2〜第4の軸方向吸引室53(h1)〜53(h5)を吸引する吸引力も強い吸引力としている。第2の周方向吸引室53(v2)の行(下から3段目)においては、第1、第5の軸方向吸引室53(h1)、53(h5)を吸引する吸引力は強い吸引力のままとし、第2〜第4の軸方向吸引室53(h2)〜53(h4)を吸引する吸引力は、通常の吸引力よりも強く、第1、第5の軸方向吸引室53(h1)、53(h5)の吸引力よりも弱い中程度の吸引力としている。第3の周方向吸引室53(v3)の行(下から4段目)においては、第1、第5の軸方向吸引室53(h1)、53(h5)を吸引する吸引力は強い吸引力のままとし、第2、第4の軸方向吸引室53(h2)、53(h4)を吸引する吸引力は中程度の吸引力とし、第3の軸方向吸引室53(h3)を吸引する吸引力は通常の吸引力としている。第4の周方向吸引室53(v4)の行(下から5段目)においては、第1、第5の軸方向吸引室53(h1)、53(h5)を吸引する吸引力を中程度の吸引力に下げ、第2〜第4の軸方向吸引室53(h2)〜53(h4)を吸引する吸引力は通常の吸引力としている。第5〜第7の周方向吸引室53(v5)〜53(v7)の行(下から6〜8段目)においては、第1〜第5の軸方向吸引室53(h1)〜53(h5)を吸引する吸引力をすべて通常の吸引力としている。第1〜第5の軸方向吸引室53(h1)〜53(h5)を吸引する吸引力についての上述した制御は一例にすぎず、シート材11の反り等の状態に応じて、第1〜第5の軸方向吸引室53(h1)〜53(h5)の吸引力を適宜可変させることができる。
吸着ローラー40cの回転軸41の軸方向に沿って区画された吸引室53を吸引する吸引力を上記のように制御することによって、シート材11の両端縁を含む部分において反り(カール268b)が発生していたとしても、吸着ローラー40cの吸引力が負けることがない。この結果、巻出し(吸着)工程において、エアーの巻き込みや混入、シワの発生などの不具合を生じることなく、原料シート10からサポートシート12を剥離し、シート材11を吸着ローラー40cに吸着させることができる。
このように、吸引室53は、吸着ローラー40cの回転軸41の周方向および軸方向の両方向に沿って区画されている。そして、コントローラー140は、回転軸41の周方向に沿って区画された吸引室53のうちシート材11が接触する保持部材60が臨んでいる吸引室53、および回転軸の軸方向に沿って区画された吸引室53のうちシート材11における軸方向に沿う両端縁が接触する保持部材60が臨んでいる吸引室53に関して、これらの吸引室53を吸引する吸引力を、シート材11が接触し始めるときには、シート材11が接触し続けているときに比べて強い吸引力とするように、吸引部120の作動を制御する。
このように構成することによって、吸着開始のシート材11を通常の吸引力よりも強い吸引力によって吸着させることができ、さらに、シート材11の両端縁を含む部分において反り(カール268b)が発生していたとしても、吸着ローラー40cの吸引力が負けることがなくなる。この結果、巻出し(吸着)工程において、エアーの巻き込みや混入、シワの発生などの不具合を生じることなく、原料シート10からサポートシート12を剥離し、シート材11を吸着ローラー40cに吸着させることができる。
(シート材離脱時の不具合対策例(1))
図34は、シート材11を吸着ローラー40から離脱させる工程における不具合例を示す図、図35は、吸引部120の負圧経路121dおよび正圧供給経路270を示す概略構成図である。
図34に示すように、巻取りローラー90によって、シート材11にサポートシート13が貼り付けられ、製品シート14として吸着ローラー40から離脱される。シート材11を吸着ローラー40から離脱させる巻取り(離脱)工程において、エアーの巻き込みや混入、シワの発生などの不具合が生じる。このような不具合が生じる原因は、サポートシート13とシート材11との接合力(貼り付け力)よりも、吸着ローラー40の吸引力が強く、その結果、シート材11が撓んでしまい、吸着ローラー40表面との間に比較的大きな空間が発生するためである(図34の符号268cを付した部位を参照)。巻取り(離脱)工程においては、シート材11に作用させる張力の制御、シート材11の送り速度の制御、シート材11のロール幅方向に均一な張力を付与する制御などが難しい。このため、巻取りローラー90の位置を、シート材11の最適な離脱位置に合わせるのが困難であることも、不具合が生じる原因となる。
吸着ローラー40cは、図31に示したものと同様であり、ローラー構成体265を、吸着ローラー40cの回転軸41の周方向に結合するとともに、円筒高さ方向つまり吸着ローラー40cの回転軸41の軸方向に結合した構造を有する。
図35を参照して、吸引部120の負圧経路121dは、吸着ローラー40cの回転軸41の周方向および軸方向の両方向に沿って区画されたそれぞれの吸引室53毎に設けられた電空レギュレーター122と、それぞれの電空レギュレーター122が接続される1台の真空ポンプ123とを有する。電空レギュレーター122を設ける場合は、真空ポンプ123は1台でよく、かつ一定量を吸引し続ければよい。このため、複数の真空ポンプ123を用いる場合に比較して、稼働エネルギーを低減できる。それぞれの電空レギュレーター122は、プログラム制御にて、吸引圧力値を任意に設定することができる。それぞれ電空レギュレーター122は、コントローラー140に接続され、コントローラー140から吸引圧力値を示す制御信号などが入力される。このような構成によって、それぞれの吸引室53の吸引量を独立に制御し、それぞれの吸引室53を吸引する状況を切り替えることができる。
吸引部120の負圧経路121dは、切替バルブ124を介して、真空ポンプ123と、正圧を供給する供給部としてのコンプレッサ271とに選択的に接続することができる。コンプレッサ271によって供給されるガスの種類は特に限定されないが、エアーを用いることができる。コントローラー140は、コンプレッサ271によってそれぞれの吸引室53に正圧を供給する状況を切り替えるように、コンプレッサ271の作動を制御する。つまり、コントローラー140は、切替バルブ124の作動を制御し、接続先を、真空ポンプ123またはコンプレッサ271に自動的に切り替える。これによって、吸引室53の吸引と、吸引室53への正圧の供給とを切り替えることができる。なお、図35においては、周方向に沿って区画された吸引室53についてのみ、吸引部120の負圧経路121dおよび正圧供給経路270を示している。吸着ローラー40cは円筒高さ方向にもローラー構成体265が結合されている。図示省略するが、円筒高さ方向に関しても、同様の負圧経路121dおよび正圧供給経路270が設けられている。これによって、任意の箇所において、任意の風量によって、シート材11へ正圧を掛けることができる。
図36(A)は、吸着ローラー40cの回転軸41の周方向に沿う吸引室53に正圧を供給する制御例を説明するための説明図、図36(B)は、吸着ローラー40cの回転軸41の軸方向に沿う吸引室53に正圧を供給する制御例を説明するための説明図である。
巻取り(離脱)工程において、シワの発生などの不具合を生じることなく、シート材11にサポートシート13を貼り付け、吸着ローラー40cから離脱させるためには、離脱時のサポートシート13とシート材11との接合力(貼り付け力)よりも吸着ローラー40cの吸引力を弱くさせることが必要である。
そこで、コントローラー140は、吸着ローラー40cの回転軸41の周方向および軸方向の両方向に沿って区画された吸引室53への正圧の供給、および吸引室53を吸引する吸引力を次のように制御する。
図36(A)を参照して、コントローラー140は、回転軸41の周方向に沿って区画された吸引室53のうちシート材11が離脱する保持部材60が臨んでいる吸引室53に関して、これらの吸引室53に正圧271aを供給するようにコンプレッサ271の作動を制御する。
図示するように、コントローラー140は、シート材11が離脱し始める第6の周方向吸引室53(v6)に正圧271aを供給するようにコンプレッサ271の作動を制御する。図示例にあっては、シート材11の離脱に遅れが生じないようにするため、第7の周方向吸引室53(v7)にも正圧271aを供給している。
吸着ローラー40cの回転軸41の周方向に沿って区画された吸引室53への正圧の供給を上記のように制御することによって、離脱時のサポートシート13とシート材11との接合力(貼り付け力)よりも吸着ローラー40の吸引力を弱くさせることができる。この結果、巻取り(離脱)工程において、エアーの巻き込みや混入、シワの発生などの不具合を生じることなく、シート材11にサポートシート13を貼り付け、吸着ローラー40cから離脱させることができる。吸着ローラー40cの吸引挙動から、正圧によるエアーの噴射挙動へと変化することによって、吸着ローラー40cからのシート材11の離脱を促進させ、サポートシート13へのシート材11の接合を促進させることができる。
図36(B)を参照して、コントローラー140は、回転軸41の軸方向に沿って区画された吸引室53のうちシート材11における軸方向に沿う両端縁が接触する保持部材60が臨んでいる吸引室53よりも内側の吸引室53に関して、これらの吸引室53に正圧を供給するようにコンプレッサ271の作動を制御する。
図36(B)には、複数の吸引室53が8行5列に表される。行方向は、最下段から最上段に向けて順に、第7、第6、第5、第4、第3、第2、第1、第8の周方向吸引室53(v7)、53(v6)、53(v5)、53(v4)、53(v3)、53(v2)、53(v1)、53(v8)を示している。列方向は、左から右に向けて順に、第1〜第5の軸方向吸引室53(h1)〜53(h5)を示している。セル内に正圧271aの「強」「中」「弱」を示す。空白のセルは負圧が供給されている状態を示している。「中」が付されたセルは正圧が「弱」の状態より強く、「強」が付されたセルは正圧が「中」の状態よりもさらに強い。
第1の軸方向吸引室53(h1)および第5の軸方向吸引室53(h5)は、シート材11の両端縁が接触する保持部材60が臨んでいる吸引室53に相当し、第2〜第4の軸方向吸引室53(h2)〜53(h4)は、シート材11の両端縁が接触する保持部材60が臨んでいる吸引室53よりも内側の吸引室53に相当する。第1、第5の軸方向吸引室53(h1)、53(h5)よりも内側の第2〜第4の軸方向吸引室53(h2)〜53(h4)に正圧271aを供給する理由は、次のとおりである。吸引室53に供給した正圧271aのエアーが保持部材60を通過し、保持部材60とシート材11との間を通って、シート材11の両端縁から雰囲気中に排出されるエアー流れを形成するためである。このようなエアー流れを形成できる限りにおいて、正圧271aの供給形態を適宜採用できる。たとえば、外側の第1、第5の軸方向吸引室53(h1)、53(h5)に供給する正圧に比べて、内側の第2〜第4の軸方向吸引室53(h2)〜53(h4)に供給する正圧を強くすることによって、上記のエアー流れを形成できる。図示するように、コントローラー140は、シート材11が離脱する第6の周方向吸引室53(v6)の行(下から2段目)において、外側の第1、第5の軸方向吸引室53(h1)、53(h5)に供給する正圧よりも、内側の第2〜第4の軸方向吸引室53(h2)〜53(h4)に供給する正圧を強くするように、コンプレッサ271の作動を制御する。第5の周方向吸引室53(v5)の行(下から3段目)、第4の周方向吸引室53(v4)の行(下から4段目)、第3の周方向吸引室53(v3)の行(下から54段目)においても、上記のエアー流れを形成するように、それぞれの吸引室53に供給する正圧の強さを制御する。図示例にあっては、シート材11の離脱に遅れが生じないようにするため、第7の周方向吸引室53(v7)の行(最下行)において、第1〜第5の軸方向吸引室53(h1)〜53(h5)に供給する正圧を強い正圧としている。第1〜第5の軸方向吸引室53(h1)〜53(h5)に供給する正圧についての上述した制御は一例にすぎず、シート材11の離脱の状態に応じて、第1〜第5の軸方向吸引室53(h1)〜53(h5)への正圧の供給を適宜可変させることができる。
吸着ローラー40cの回転軸41の軸方向に沿って区画された吸引室53への正圧271aの供給を上記のように制御することによって、離脱時のサポートシート13とシート材11との接合力(貼り付け力)よりも吸着ローラー40cの吸引力を弱くさせることができる。この結果、巻取り(離脱)工程において、エアーの巻き込みや混入、シワの発生などの不具合を生じることなく、シート材11にサポートシート13を貼り付け、吸着ローラー40cから離脱させることができる。シート材11の中央部分から両端縁外方へのエアーの流れを形成することによって、サポートシート13へのシート材11の接合が良好になる。
コントローラー140は、切替バルブ124の作動を制御し、接続先を、真空ポンプ123またはコンプレッサ271に切り替えている。したがって、正圧271aを供給する吸引室53に関しては、コントローラー140は、これらの吸引室53の吸引を停止するように吸引部120の作動を制御している。吸引を停止して正圧271aを供給することから、真空ポンプ123やコンプレッサ271の稼働エネルギーのロスを低減できる。
このように、吸引室53は、吸着ローラー40cの回転軸41の周方向および軸方向の両方向に沿って区画されている。シート材の製造装置は、それぞれの吸引室53に正圧271aを供給するコンプレッサ271(供給部)をさらに有し、コントローラー140は、コンプレッサ271によってそれぞれの吸引室53に正圧271aを供給する状況を切り替えるように、コンプレッサ271の作動を制御する。そして、コントローラー140は、回転軸41の周方向に沿って区画された吸引室53のうちシート材11が離脱する保持部材60が臨んでいる吸引室53、および回転軸41の軸方向に沿って区画された吸引室53のうちシート材11における軸方向に沿う両端縁が接触する保持部材60が臨んでいる吸引室53よりも内側の吸引室53に関して、これらの吸引室53に正圧271aを供給するようにコンプレッサ271の作動を制御する。
このように構成することによって、離脱時のサポートシート13とシート材11との接合力(貼り付け力)よりも吸着ローラー40cの吸引力を弱くさせることができる。この結果、巻取り(離脱)工程において、エアーの巻き込みや混入、シワの発生などの不具合を生じることなく、シート材11にサポートシート13を貼り付け、吸着ローラー40cから離脱させることができる。シート材11を離脱させる噴射を吸引室53毎に微細に制御できるので、シート材11の離脱性ないし剥離性を良好にすることができる。
また、正圧を供給する吸引室53に関して、これらの吸引室53の吸引を停止するように吸引部120の作動を制御する。
このように構成することによって、吸引量が減少するので、シート材11を容易に離脱させることが可能となる。また、吸引を停止して正圧を供給することから、真空ポンプ123やコンプレッサ271の稼働エネルギーのロスを低減できる。
(シート材離脱時の不具合対策例(2))
図37は、フレーム250bの改変例を示す斜視図、図38は、図37に示されるフレーム250bを適用した吸着ローラー40dを示す断面図である。
シート材離脱時の不具合対策例(2)は、振り子のような動作によってシート材11が離脱するときの吸引を停止するようにした点において、正圧271aの供給をコントローラー140によって制御するようにした不具合対策例(1)と相違する。
図37および図38を参照して、不具合対策例(2)の構成を概説すると、フレーム250bは、それぞれの吸引室53内に回動自在に取り付けられてフレーム250bの回転に伴って回動するシャッタ280を有している。シャッタ280は、離脱されるシート材11が離れ始める保持部材60が臨んでいる吸引室53内において、保持部材60と吸引部120との連通を遮断する位置に回動する構造を有している。
さらに詳しくは、フレーム250bは、周方向に8個の吸引室53(53(1)〜53(8)の総称)を区画形成している。それぞれの吸引室53に保持部材60が臨むように取り付けられている。シャッタ280は、プレート形状を有し、吸引室53を区画する壁部281に、基端部280aが蝶番のような回動機構を介して回動自在に接続されている。基端部280aは、壁部281の両面のうち、フレーム250bの回転方向に沿う下流側の壁面に接続されている。基端部280aは、壁部281の径方向長さのほぼ中央位置において、フレーム250bの回転軸41と平行に延びて接続されている。フレーム250bの回転軸の軸方向に沿って、シャッタ280の幅は、吸引室53の内幅とほぼ同等である。基端部280aに対向する先端部には、ウエイト280bが取り付けられている。シャッタ280は、吸引室53のそれぞれに、1枚ずつ設けられている。基端部280aが接続される回動機構はフリー回転軸であり、フレーム250bの回転位置に応じて、シャッタ280は回動する。
シャッタ280の初期状態を、基端部280aが接続された壁部281に、ウエイト280bが寄り掛かった状態とする(吸引室53(8)、53(1)〜53(3)における状態)。フレーム250bの図38中時計回り方向への回転に伴って、シャッタ280は、初期状態から、ウエイト280bが重力の作用を受けて壁部281から離れる時計回り方向に回動する(吸引室53(4)における状態)。ウエイト280bは、基端部280aが接続された壁部281に向かい合う隣の壁部281に倒れ込む。この状態において、シャッタ280は、吸引室53を、保持部材60に面する空間と、フレーム250bの回転軸41に面する空間とに仕切る(吸引室53(5)、53(6)における状態)。フレーム250bがさらに回転すると、ウエイト280bは、隣の壁部281から離れ、吸引室53内において自由に垂れ下がる(吸引室53(7)における状態)。この状態において、シャッタ280は、吸引室53の仕切りを開放する。フレーム250bがさらに回転すると、ウエイト280bは基端部280aが接続された壁部281に寄り掛かり、初期状態に戻る(吸引室53(8)における状態)。
吸着ローラー40dにおける負圧経路56は、図6に示したように、回転軸41内に形成した軸方向経路57と、回転軸41の外周面に開口され軸方向経路57に連通する径方向経路58とを有する。
したがって、シャッタ280が吸引室53を仕切ったときには、シャッタ280は、保持部材60と吸引部120との連通を遮断する位置に回動することになる。
シャッタ280は、巻取りローラー90を通って離脱されるシート材11が離れ始める保持部材60が臨んでいる吸引室53(6)内において、保持部材60と吸引部120との連通を遮断する位置に回動している。これによって、離脱時のサポートシート13とシート材11との接合力(貼り付け力)よりも吸着ローラー40の吸引力を弱くさせることができる。この結果、巻取り(離脱)工程において、エアーの巻き込みや混入、シワの発生などの不具合を生じることなく、シート材11にサポートシート13を貼り付け、吸着ローラー40から離脱させることができる。図示例にあっては、シート材11の離脱に遅れが生じないようにするため、吸引室53(5)内においても、シャッタ280は、保持部材60と吸引部120との連通を遮断する位置に回動している。
シャッタ280が任意の角度、位置にて、ウエイト280bが重量によって垂れ下がることによって、吸引室53内に蓋をする。蓋をすることによって、保持部材60と吸引部120との連通を遮断する。また、シャッタ280は、ウエイト280bに作用する重力によって回動駆動するため、任意の角度、位置にて、再度、吸引室53内の蓋を開放することになり、吸引室53の吸引を再開できる。このように、吸引室53に設けたシャッタ280の振り子のような簡単な動作によって、巻取り(離脱)工程において、任意の角度、位置にて、シート材11の吸引を停止することができる。
(シート材離脱時の不具合対策例(3))
図39は、吸着ローラー40eの改変例を一部分解して示す斜視図、図40(A)(B)は、吸着ローラー40eに組み込まれる吸引制御プレート290を示す正面図、図41(A)(B)は、吸着ローラー40eに組み込まれるガイドプレート292を示す正面図、図42(A)(B)は、吸引動作の説明に供する説明図である。
シート材離脱時の不具合対策例(3)は、非回転の吸引制御プレート290と吸着ローラー40eの回転に同期して回転するガイドプレート292との組み合わせによってシート材11が離脱するときの吸引を停止するようにした点において、正圧271aの供給をコントローラー140によって制御するようにした不具合対策例(1)、振り子のような動作によってシート材11が離脱するときの吸引を停止するようにした不具合対策例(2)と相違する。
図39〜図42を参照して、不具合対策例(3)の構成を概説すると、吸着ローラー40eは、吸引室53に連通する開口領域290aと、吸引室53との連通を遮断する非開口領域290bとを有する非回転の吸引制御プレート290と、吸引制御プレート290の開口領域290aを介して吸引室53のそれぞれに連通する複数の開口穴293が形成されたガイドプレート292と、をさらに有する。ガイドプレート292は、吸着ローラー40eの回転に同期して回転し、開口穴293に吸引部120が接続されている。吸引制御プレート290およびガイドプレート292は、吸着ローラー40eにシート材11を吸着させる位置においては、ガイドプレート292の開口穴293が吸引制御プレート290の開口領域290aに面し、吸着ローラー40eからシート材11を離脱させる位置においては、ガイドプレート292の開口穴293が吸引制御プレート290の非開口領域290bに面する構造を有している。
さらに詳しくは、図40(A)(B)を参照して、吸引制御プレート290は、円盤形状を有し、円弧形状を有する複数の溝291が貫通して形成されている。複数の溝291は、任意のピッチで径方向に離れつつ、同心円状に開口している。吸引制御プレート290は、任意の角度範囲には溝が形成されていない。溝291が形成されている部分が開口領域290aに相当し、溝が形成されていない部分が非開口領域290bに相当し、吸引を停止する範囲となる。
図41(A)(B)を参照して、ガイドプレート292は、円盤形状を有し、複数の開口穴293が貫通して形成されている。開口穴293は、一定の角度ピッチ(x)にて開口している。この角度(x)は、隣り合う吸引室53がなす角度と同角度である。開口穴293は、1ピッチずれる毎に、径方向外方にずれている。この開口穴ずれ量(y)は、吸引制御プレート290の溝291のピッチずれ量(z)と同等である。開口穴293の径は、溝291の溝幅と同等以下の寸法である。
フレーム250および保持部材60は、図23に示されるものと同様に構成される。フレーム250およびガイドプレート292は、回転軸41によって回転する。吸引制御プレート290は、架台等により固定され、非回転体である。
吸引制御プレート290およびガイドプレート292の形成材料は特に限定されないが、たとえば、ステンレスから形成することができる。吸引制御プレート290とガイドプレート292との間、および吸引制御プレート290とフレーム50との間は、面精度を高精密にする必要がある。そのため、硬度が高く、面精度の仕上げが容易な材料を選定することが好ましい。また、クリーンルーム等において使用するような場合においては、グリス、油等の潤滑油を使用しないことから、耐摩耗性に優れた材料を選定することが好ましい。
図42(A)(B)を参照して、吸引制御プレート290の溝291の位置と、ガイドプレート292の開口穴293の位置との関係から、吸引制御プレート290の溝291を形成した範囲では、順繰りに、ガイドプレート292の開口穴293が角度ピッチ毎に切り替わっていく。このように、ガイドプレート292の開口穴293が吸引制御プレート290の開口領域290aに面すると、吸引室53の吸引が継続され、吸着ローラー40eにシート材11が吸着される。
吸引制御プレート290の溝291が無い範囲に、ガイドプレート292の開口穴293が差し掛かると、吸引室53と吸引部120との連通が遮断される。このように、ガイドプレート292の開口穴293が吸引制御プレート290の非開口領域290bに面すると、吸引室53の吸引が停止され、吸着ローラー40eからシート材11を離脱させやすくなる。なお、吸引室53の吸引が停止されるが、シート材11によって保持部材60の表面が覆われている。このため、吸引室53は、真空状態がある程度維持されている。しかしながら、吸引室53の吸引が停止されているので、吸着ローラー40eからシート材11を離脱させる工程における剥離力によって、真空状態が容易に開放ないしブレイクされ、シート材11を容易に剥離することができる。この結果、巻取り(離脱)工程において、エアーの巻き込みや混入、シワの発生などの不具合を生じることなく、シート材11にサポートシート13を貼り付け、吸着ローラー40eから離脱させることができる。
また、フレーム250とガイドプレート292との間に、吸引制御プレート290を設けることによって、任意の角度、位置にて、吸引室53の吸引を停止することができる。このように、非回転の吸引制御プレート290と回転するガイドプレート292との組み合わせによって、巻取り(離脱)工程において、任意の角度、位置にて、シート材11の吸引を停止することができる。
(塗布材料乾燥時の不具合対策例(1))
図43は、吸引部120の負圧経路121eおよび乾燥ガス供給経路300を示す概略構成図である。
乾燥部110は、塗布された触媒インクを、その表面側から、熱風乾燥などによって乾燥させている。塗布された塗布材料を表面側のみから乾燥させた場合、乾燥した表面のみが収縮し、引張が発生し、クラックやピンホールなどの不具合が発生する虞がある。クラック等の不具合の発生を抑制するためには、塗布された塗布材料を表面側から乾燥させるだけでなく、裏面側からも乾燥させることが有効である。
塗布材料乾燥時の不具合対策例(1)として、図23に示されるフレーム250を適用した吸着ローラー40aの場合を例に挙げて説明する。図23に示したように、吸着ローラー40aのフレーム250は、隣り合う保持部材60の間に存在する隙間Sに開口する吸引口256を有している。吸引口256が吸引部120に接続され、隙間Sを覆うシート材11を吸着する負圧を生じさせる構造を有する。
図43を参照して、シート材の製造装置は、それぞれの吸引室53に乾燥ガスを供給する乾燥ガス供給部としてのコンプレッサ301をさらに有する。コントローラー140は、コンプレッサ301によってそれぞれの吸引室53に乾燥ガスを供給する状況を切り替えるように、コンプレッサ301の作動を制御する。また、このシート材の製造装置は、吸引口256から隙間Sに乾燥ガスを供給自在な構造を有する。シート材の製造装置は、乾燥ガスの温度を調整する温度調整部302をさらに有する。コントローラー140は、乾燥ガスの温度を調整するように、温度調整部302の作動を制御する。温度調整部302は、ヒーターおよび冷却器を含み、吸引室53および隙間Sに供給される乾燥ガスの温度を熱風から冷風まで所望の温度に設定できる。シート材11を吸着ローラー40aに吸着させたまま乾燥工程を実施するため、乾燥ガスの正圧は、シート材11の吸着を阻害しない適切な強さに設定する。
吸引部120の負圧経路121eは、それぞれの吸引室53毎に設けられた電空レギュレーター122と、それぞれの電空レギュレーター122が接続される1台の真空ポンプ123とを有する。この負圧経路121eにあっては、1台の電空レギュレーター122は、1つの吸引室53に接続されるとともに、1つの吸引口256に接続されている。それぞれの電空レギュレーター122は、プログラム制御にて、吸引圧力値を任意に設定することができる。それぞれ電空レギュレーター122は、コントローラー140に接続され、コントローラー140から吸引圧力値を示す制御信号などが入力される。このような構成によって、それぞれの吸引室53およびそれぞれの隙間Sの吸引量を独立に制御し、それぞれの吸引室53およびそれぞれの隙間Sを吸引する状況を切り替えることができる。
吸引部120の負圧経路121eは、切替バルブ124を介して、真空ポンプ123と、乾燥ガス供給部としてのコンプレッサ301とに選択的に接続することができる。コンプレッサ301によって供給される乾燥ガスの種類は特に限定されないが、エアーを用いることができる。コントローラー140は、コンプレッサ301によってそれぞれの吸引室53に乾燥ガスを供給する状況を切り替えるように、コンプレッサ301の作動を制御する。つまり、コントローラー140は、切替バルブ124の作動を制御し、接続先を、真空ポンプ123またはコンプレッサ301に自動的に切り替える。これによって、吸引室53の吸引と、吸引室53および隙間Sへの乾燥ガスの供給とを切り替えることができる。
コントローラー140は、シート材11が接触している保持部材60が臨んでいる吸引室53に乾燥ガスを供給するように乾燥ガス供給部300の作動を制御する。吸引室53に供給された乾燥ガスは、保持部材60を通過し、シート材11の裏面に接触する。さらに、乾燥ガスは、吸引口256から隙間Sに供給され、隙間Sを覆うシート材11の裏面に接触する。これによって、シート材11を吸着ローラー40aに吸着させたまま、シート材11に塗布された塗布材料は、表面側においては乾燥部110によって乾燥され、裏面側においては乾燥ガスによって乾燥される。塗布材料を表面側から乾燥させるだけでなく、裏面側からも乾燥させることができるため、クラックやピンホールなどの不具合の発生を抑えることができる。
温度調整部302によって乾燥ガスの温度を任意に可変でき、裏面側からの加熱量を簡単に調整することができる。このため、裏面側の乾燥の程度を簡単に調整することができる。
なお、吸引室53および隙間Sの両方に乾燥ガスを供給する例を示したが、シート材11を吸着している面積を考慮して、吸引室53のみに乾燥ガスを供給する構造とすることができる。
(塗布材料乾燥時の不具合対策例(2))
図44(A)(B)は、吸引室53が吸着ローラー40cの回転軸41の周方向および軸方向の両方向に沿って区画されている場合における、シート材11の吸着および乾燥ガスの供給を説明する説明図である。
塗布材料乾燥時の不具合対策例(2)は、シート材11が接触している保持部材60が臨んでいる吸引室53のうち一部の吸引室53に乾燥ガスを供給するようにした点において、シート材11が接触している保持部材60が臨んでいる吸引室53のすべてに乾燥ガスを供給するようにした不具合対策例(1)と相違する。
図44(A)(B)を参照して、不具合対策例(2)を概説すると、吸引室53は、吸着ローラー40cの回転軸41の周方向および軸方向の両方向に沿って区画され、コントローラー140は、シート材11が接触している保持部材60が臨んでいる吸引室53のうち一部の吸引室53に乾燥ガスを供給するように、乾燥ガス供給部301の作動を制御している。
図31に示したように、吸着ローラー40cは、吸引室53が吸着ローラー40cの回転軸41の周方向および軸方向の両方向に沿って区画されている。図33(A)及び図36(A)に示したように、シート材11が接触している保持部材60が臨んでいる周方向の吸引室53は、第1〜第6の周方向吸引室53(v1)〜53(v6)である。塗布材料は、第1の周方向吸引室53(v1)と第2の周方向吸引室53(v2)との間の位置においてシート材11に塗布される。このような場合には、第2の周方向吸引室53(v2)から第6の周方向吸引室53(v6)までの位置において、乾燥ガスを供給することができる。
吸引部120の負圧経路121eおよび乾燥ガス供給経路300は、図43に示したものと同様に構成される。ただし、吸着ローラー40cは円筒高さ方向にもローラー構成体265が結合されている。したがって、円筒高さ方向に関しても、同様の負圧経路121eおよび乾燥ガス供給経路300が設けられている。これによって、任意の箇所において、任意の風量によって、乾燥ガスを供給することができる。
図44(A)(B)には、シート材11が接触している保持部材60が臨んでいる吸引室53が5行5列に表される。行方向は、最下段から最上段に向けて順に、第2〜第6の周方向吸引室53(v2)〜53(v6)を示し、列方向は、左から右に向けて順に、第1〜第5の軸方向吸引室53(h1)〜53(h5)を示している。
図44(A)に示す例にあっては、コントローラー140は、シート材11が接触している保持部材60が臨んでいる吸引室53のうち、符号「d」を付した一部の吸引室53に乾燥ガスを供給するように乾燥ガス供給部300の作動を制御する。コントローラー140は、符号「s」を付した残りの吸引室53については吸引し、シート材11を吸着している。符号「d」を付した一部の吸引室53に供給された乾燥ガスは、保持部材60を通過し、シート材11の裏面に接触する。これによって、シート材11を吸着ローラー40cに吸着させたまま、シート材11に塗布された塗布材料は、表面側においては乾燥部110によって乾燥され、裏面側においては乾燥ガスによって乾燥される。塗布材料を表面側から乾燥させるだけでなく、裏面側からも乾燥させることができるため、クラックやピンホールなどの不具合の発生を抑えることができる。
図44(B)に示す例にあっては、コントローラー140は、シート材11が接触している保持部材60が臨んでいる吸引室5のうち、符号「d(強)」「d(弱)」を付した一部の吸引室53に乾燥ガスを供給するように乾燥ガス供給部300の作動を制御する。「d(強)」を付した吸引室53は、「d(弱)」を付した吸引室53に比べて、乾燥ガスの正圧が強い。乾燥ガスの正圧が強い吸引室53(「d(強)」)が中央部分に寄るように設定されている。乾燥ガスがシート材11の中央部分から周囲に向けて流れるようにするためである。コントローラー140は、符号「s(強)」「s(弱)」を付した残りの吸引室53については吸引し、シート材11を吸着している。「s(強)」を付した吸引室53は、「s(弱)」を付した吸引室53に比べて、吸引力が強い。符号「d(強)」「d(弱)」を付した一部の吸引室53に供給された乾燥ガスは、保持部材60を通過し、シート材11の裏面に接触する。これによって、シート材11を吸着ローラー40cに吸着させたまま、シート材11に塗布された塗布材料は、表面側においては乾燥部110によって乾燥され、裏面側においては乾燥ガスによって乾燥される。塗布材料を表面側から乾燥させるだけでなく、裏面側からも乾燥させることができるため、クラックやピンホールなどの不具合の発生を抑えることができる。
図44(A)(B)に示したように、吸引および乾燥ガスの噴射を吸引室53の場所によって可変することができ、図44(B)に示したように、吸引力の強弱および乾燥ガスの正圧の強弱を吸引室53の場所によって可変することができる。乾燥ガスの正圧の強弱を可変とすることによって、裏面側からの加熱量を簡単に調整することができ、裏面側の乾燥の程度を簡単に調整することができる。
(供給機構の改変例(1)(2))
図45(A)(B)は、供給機構の改変例(1)を説明する図、図46(A)(B)は、供給機構の改変例(2)を説明する図である。
吸着ローラー40にシート材11を供給する供給機構として、シート材11を介して吸着ローラー40に接触する巻出しローラー80を例に挙げたが、供給機構はこの場合に限定されるものではない。供給機構の改変例(1)(2)は、ブレード部材を適用した点において、ローラー部材を適用した上述した実施形態と相違する。
供給機構としてローラー部材(巻出しローラー80)を適用した場合、ローラー部材の回転軸が吸着ローラー40の回転軸に対して平行な状態から偏心した状態になることがある。このようなときには、ローラー部材の吸着ローラー40に対する押付け力が、回転軸方向の位置によって異なってくる。この結果、シート材11が偏って押されてしまって形状が変化し、シート材11の厚みが回転軸方向の位置によってばらつくという不具合が生じる。
図45(A)(B)を参照して、供給機構の改変例(1)にあっては、供給機構に、シート材11を介して吸着ローラー40に押付けられるブレード部材としての押付けブレード310を適用している。ブレード部材を押付ける方式とすることによって、シート材11を押付ける面は、駆動精度や、駆動機構部品の公差の影響を受けることなく、ブレード部材の製作精度のみによって定まる高精度の真直度を備えた面となる。また、高精度に押付けることができるので、ブレード材質を金属系材料から選択することができ、より一層高精度にブレード部材を製作することができる。このように押付けブレード310を適用することによって、シート材11の形状が安定し、シート材11の厚みを回転軸方向の位置に拘わらず均一にできる。
図46(A)(B)を参照して、供給機構の改変例(2)にあっては、供給機構に、シート材11を吸着ローラー40に押付けるガス311a(たとえば、エアー)を噴出するブレード部材としてのエアーブレード311を適用している。エアーブレード311のエアー吹出口はナイフ形状を有する。ブレード部材からガス311aを吹き付ける方式とすることによって、シート材11を吸着ローラー40に押付けて、シート材11の吸着ローラー40への吸着を補助することができる。サポートシート12の剥離力が強い場合には、吸着ローラー40の吸引力を強くし、シート材11の吸着ローラー40への吸着をさらに補助する。エアーブレード311から噴出するエアー311aによって、シート材11に対して非接触な状態において、吸着ローラー40にシート材11を均一に押付けることができる。このようにエアーブレード311を適用することによって、シート材11の形状が安定し、シート材11の厚みを回転軸方向の位置に拘わらず均一にできる。
(離脱機構の改変例)
図47(A)(B)(C)(D)は、離脱機構の改変例を説明する図である。
吸着ローラー40からシート材11を離脱させる離脱機構として、シート材11を介して吸着ローラー40に接触する巻取りローラー90を例に挙げたが、離脱機構はこの場合に限定されるものではない。離脱機構の改変例は、ブレード部材を適用した点において、ローラー部材を適用した上述した実施形態と相違する。
離脱機構としてローラー部材(巻取りローラー90)を適用した場合、ローラー部材の回転軸が吸着ローラー40の回転軸に対して平行な状態から偏心した状態になることがある。このようなときには、ローラー部材の吸着ローラー40に対する押付け力が、回転軸方向の位置によって異なってくる。この結果、サポートシート13が偏って押されてしまってサポートシート13が剥がれたり、シート材11上の塗膜が偏って押されてしまって形状が変化し、塗膜の厚みが回転軸方向の位置によってばらついたりするという不具合が生じる。
図47(A)(B)を参照して、離脱機構の改変例にあっては、離脱機構に、シート材11を介して吸着ローラー40に押付けられるブレード部材としての押付けブレード320を適用している。ブレード部材を押付ける方式とすることによって、シート材11を押付ける面は、回転精度や、回転体部品の公差の影響を受けることなく、ブレード部材の製作精度のみによって定まる高精度の真直度を備えた面となる。また、高精度に押付けることができるので、ブレード材質を金属系材料から選択することができ、熱伝達率も向上する。このように押付けブレード320を適用することによって、サポートシート13が剥がれず、また、塗膜の形状が変化し、塗膜の厚みを回転軸方向の位置に拘わらず均一にできる。
図47(C)に示すように、押付けブレード320を微量の首振り動作が可能な構造としたり、図47(D)に示すように、押付けブレード320を微量の上下動作が可能な構造としたりすることができる。これらの動作に伴う摩擦効果によって、シート材11のサポートシート13への貼り付け(接着)を補助することができる。
(乾燥工程の変形例(1))
図48は、吸着ローラー40に吸着させたシート材11に対する第1の乾燥工程に加えて、吸着ローラー40から離脱させたシート材11に対する第2の乾燥工程を実施可能な構造を有するシート材の製造装置200aの概略構成図、図49(A)〜(D)は、図48に示されるシート材の製造装置200aによって実施される乾燥工程を説明するための図である。
吸着ローラー40から離脱させたシート材11に対して乾燥処理を実施しない実施形態について説明したが、本発明はこの場合に限定されるものではない。吸着ローラー40から離脱させたシート材11を製品ローラー30に巻き取るまでの間に、乾燥処理を実施してもよい。
図48を参照して、シート材の製造装置200aは、吸着ローラー40に吸着させたシート材11に対する第1の乾燥工程に加えて、吸着ローラー40から離脱させ製品ローラー30に巻き取るまでのシート材11に対する第2の乾燥工程を実施可能な構造を有する。シート材の製造装置200aは、第1の乾燥工程を実施する乾燥部110と、第2の乾燥工程を実施する他の乾燥部330と、サポートシート13を貼り合せたシート材11を搬送させる搬送部331と、を有する。他の乾燥部330は、乾燥部110と同様に形式などは特に限定されないが、たとえば、熱風乾燥、スリットノズル乾燥、IR乾燥、IH乾燥などを選択することができる。搬送部331は、搬送ローラーやベルトコンベヤーなどから構成される。塗布材料の乾燥は、第1の乾燥工程と、第2の乾燥工程との2段式に行う。このように2段式の乾燥の場合、第1の乾燥工程における温度条件と、第2の乾燥工程における温度条件とをそれぞれ所望の温度条件に適宜設定することができる。なお、図示例では、乾燥の形態として2段式としたが、吸着ローラー40から離脱させ製品ローラー30に巻き取るまでのシート材11に対する乾燥工程を2以上設けることによって、乾燥の形態を3段式以上にすることができる。
吸着ローラー40上のシート材11に対する加熱によって、フレーム50や多孔質体から形成された保持部材60も温められて熱変形が生じ、吸着ローラー40の偏芯量が増大する虞がある。吸着ローラー40の偏芯量が増大すると、上述したようにシート材11の厚みのばらつきなどを招いてしまう。そこで、第1の乾燥工程は、吸着ローラー40の偏芯量を増大させない程度の加温状態、または常温において行う。第2の乾燥工程は、シート材11にサポートシート13を貼り合せた後に、必要な加温状態において行う。
図49(A)(B)に示すように、シート材11上に塗布された塗布材料(塗膜15)は、第1の乾燥工程において、ごく表面部分15aだけが、収縮やクラックが発生しない程度に乾燥される。次いで、図49(C)(D)に示すように、吸着ローラー40から離脱させたシート材11はサポートシート13が貼り合わされ、その後、第2の乾燥工程においてサポートシート13ごと十分に乾燥される。
このように、シート材の製造装置200aは、離脱機構としての巻取りローラー90よりもシート材11の搬送方向に沿って下流側の位置に配置され、塗布された塗布材料を乾燥させる他の乾燥部330をさらに有している。
このように構成すれば、吸着ローラー40上のシート材11に対する乾燥処理を実施する乾燥部110の温度条件と、離脱後のシート材11に対する乾燥処理を実施する他の乾燥部330の温度条件とをそれぞれ所望の温度条件に適宜設定することができる。たとえば、乾燥部110における乾燥温度を、他の乾燥部330における乾燥温度よりも低く設定し、吸着ローラー40の偏芯量を抑えてシート材11の厚みの均一化を図ることができる。
(乾燥工程の変形例(2))
図50は、乾燥工程長が比較的長い構造を有するシート材の製造装置200bの概略構成図、図51は、図50に示されるシート材の製造装置200bに乾燥工程後に実施する後工程を付加した状態を説明するための図である。
上述したように、吸着ローラーは大径化を図ることができる。大径の複数個の吸着ローラーに多孔質ベルトを掛け渡すことによって、設置するスペースの省スペース化を図りながら、乾燥工程長が比較的長い構造を有するシート材の製造装置200bを提供することができる。
図50を参照して、シート材の製造装置200bは、複数個の吸着ローラー340と、多孔質ベルト341と、供給機構342と、離脱機構343と、塗布部344と、乾燥部345と、吸引部346とを有する。複数個の吸着ローラー340は、多孔質ベルト341が掛け渡され、シート材11を多孔質ベルト341上に吸着保持した状態において回転することによってシート材11を搬送する。供給機構としての巻出しローラー342は、シート材11を介して多孔質ベルト341に接触し、多孔質ベルト341にシート材11を供給する。離脱機構としての巻取りローラー343は、シート材11を介して多孔質ベルト341に接触し、多孔質ベルト341からシート材11を離脱させる。塗布部344は、多孔質ベルト341に吸着保持されたシート材11に塗布材料を塗布する。乾燥部345は、多孔質ベルト341のうち塗布部344よりもシート材11の搬送方向に沿って下流側の位置に配置され、塗布された塗布材料を乾燥させる。吸引部346は、シート材11を多孔質ベルト341に吸着保持させる負圧を生じさせる。そして、吸着ローラー340のそれぞれは、吸引部346に接続されるチャンバ51を有する回転自在なフレーム50と、多孔質体から形成されチャンバ51に連通した状態においてフレーム50に取り付けられる複数個の保持部材60と、を有する。フレーム50に取り付けられた複数個の保持部材60によって、吸着ローラー340の周面を形成している。
多孔質ベルト341は、たとえば多孔質樹脂から形成されている。吸着ローラー340、巻出しローラー342、巻取りローラー343、塗布部344、乾燥部345、および吸引部346は、それぞれ、吸着ローラー40、巻出しローラー80、巻取りローラー90、塗布部100、乾燥部110、および吸引部120と同様に構成されているため、詳細な説明は省略する。多孔質ベルト341の裏面側に面する空間は、吸引部346によって吸引され、シート材11を多孔質ベルト341に吸着保持させる負圧が生じている。多孔質ベルト341の裏面側に面する空間は、多孔質ベルト341を吸着していない保持部材60を通しても吸引される。
多孔質ベルト341の長さによって、シート材11を吸着搬送できる長さを変えることができる。また、吸着ローラー340は吸着ローラー40と同様に大径化を図ることができる。大径の複数個の吸着ローラー340に多孔質ベルト341を掛け渡すことによって、小径の複数個の吸着ローラーに掛け渡す場合に比べて、吸着ローラー340間の距離を短くでき、設置ペースの省スペース化を図ることができる。したがって、大径の複数個の吸着ローラー340に多孔質ベルト341を掛け渡すことによって、設置ペースの省スペース化を図りながら、十分な長さの乾燥工程長を確保できる。
また、シート材11を吸着搬送できる長さを長くすることが容易なため、スリットダイコータなどからなる塗布部344は、横塗りに限らず、下塗り、上塗りなど、位置の制約を受けることなく所望の位置に設定することができる。
シート材11を吸着搬送できる長さを長くすることが容易なことから、図51に示すように、シート材の製造装置200bは、乾燥工程後に実施する後工程347、348を、サポートシート13を貼り合せる前に、付加することができる。後工程347、348は、たとえば、ガスケットの貼り付け工程や、ガス拡散層(GDL)の貼り付け工程などである。このように、サポートシート13を貼り合せることなく、シート材11を次工程へ受け渡すことができる。
このようにシート材11の製造装置200bにあっては、吸着ローラー340は、吸着ローラー40と同様に、吸引部346に接続されるチャンバ51を有する回転自在なフレーム50と、多孔質体から形成されチャンバ51に連通した状態においてフレーム50に取り付けられる複数個の保持部材60と、を有している。そして、フレーム50に取り付けられた複数個の保持部材60によって吸着ローラー340の周面を形成している。そして、複数個の吸着ローラー340に多孔質ベルト341を掛け渡している。
また、本実施形態に係る塗膜を形成したシート材11の製造方法にあっては、上記のように構成した複数の吸着ローラー340に掛け渡した多孔質ベルト341にシート材11を供給し、シート材11を多孔質ベルト341に吸着保持した状態において吸着ローラー340を回転することによってシート材11を搬送する。多孔質ベルト341に吸着保持されたシート材11に塗布部344によって塗布材料を塗布し、多孔質ベルト341のうち塗布部344よりもシート材11の搬送方向に沿って下流側の位置において、塗布された塗布材料を乾燥部345によって乾燥する。そして、塗布材料が乾燥したシート材11を多孔質ベルト341から離脱させている。
このように構成することによって、吸着ローラー340は吸着ローラー40と同様に大径化を図ることができ、大径の複数個の吸着ローラー340に多孔質ベルト341を掛け渡すことによって、設置ペースの省スペース化を図りながら、十分な長さの乾燥工程長を確保可能な、塗膜を形成したシート材11の製造装置200b、および塗膜を形成したシート材11の製造方法を提供することができる。