近年、通信システムにおける周波数帯域の利用効率を向上するために、送信側において、シングルキャリア変調信号を周波数領域で複数のサブスペクトラムに分割し、サブスペクトラムを分散配置する帯域分散伝送方式が考えられている。帯域分散伝送方式は、スペクトラムを分割して分散配置するため、送信信号のピーク対平均電力比(PAPR:Peak to Average Power Ratio)が増大するという問題があり、PAPRを低減する技術が検討されている(例えば、非特許文献1参照)。ここで、帯域分散伝送方式を用いる通信においてPAPRを低減する技術について説明する。
図15は、帯域分散伝送方式を用いる送信装置150の一例を示す。図15において、送信装置150は、変調回路101、波形整形フィルタ102、DFT(Discrete Fourier Transform)回路103、分割フィルタ104−1〜104−ND、位相器105−1−1〜105−C−ND、周波数シフタ106−1−1〜106−C−ND、加算器107−1〜107−C、IDFT(Inverse DFT)回路108−1〜108−C、PAPR算出回路109−1〜109−C,最小PAPR信号選択器110および位相系列制御装置151を備える。ここで、NDおよびCは正の整数である。
変調回路101は、送信データを例えばQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)などの変調方式で変調する。
波形整形フィルタ102は、変調回路101が出力する変調信号の帯域を制限するためのフィルタである。
DFT回路103は、波形整形フィルタ102から出力される変調信号を所定のDFT区間ごとに逐次周波数領域(スペクトラム)の信号に変換する。ここで、DFT区間を処理時刻が早いものから順に“1番目のDFT区間”,“2番目のDFT区間”,…,“t番目のDFT区間”,…,“t+u番目のDFT区間”,…と称する。なお、t,uは正の整数である。
分割フィルタ104−k(1≦k≦ND)は、DFT回路103が周波数領域に変換した変調信号の帯域をND個に分割するためのフィルタである。例えば、周波数領域に変換された各DFT区間の変調信号は、分割フィルタ104−1〜104−NDにより、ND個のサブ変調信号(サブスペクトラム)に分割される。ここで、処理時刻が早いものから順に“1番目のDFT区間のサブスペクトラム”,“2番目のDFT区間のサブスペクトラム”,…,“t番目のDFT区間のサブスペクトラム”,…,“t+u番目のDFT区間のサブスペクトラム”,…と称する。各分割フィルタ104−kの出力信号は、C個に分岐され、1番目からC番目までの分岐信号が位相器105−q−k(1≦q≦C、1≦k≦ND)にそれぞれ出力される。ここで、q,k,Cは正の整数である。
図16(a)は、分割フィルタ104に入力する前のスペクトラムの一例を示し、図16(b)は、ND=4の場合に各分割フィルタから出力されるサブスペクトラムの一例を示す。
位相器105−q−k(1≦q≦C、1≦k≦ND)は、C個に分岐された分割フィルタ104−kの出力信号に予め決められた位相を加算する。位相器105−q−kでは、式(1)で示す位相系列Θ2,Θ3,…,Θq,…,ΘCを用いて、位相器105−q−kに入力された各サブスペクトラムの位相をシフトする(図16(c))。ここで、位相系列制御装置151は、位相系列Θ2,Θ3,…,Θq,…,ΘCを出力する。なお、位相系列Θ2,Θ3,…,Θq,…,ΘCの情報は、受信装置260と共有される。
ここで、位相器105−q−kに入力されるt番目のDFT区間のサブスペクトラムをSStkとする。そして、位相器105−q−kは、式(2)で示す位相系列Θqの位相により、式(3)で示すt番目のDFT区間(t)のサブスペクトラムSStkの位相シフトを行う。
位相乗算後の位相器105−q−kの出力信号S
θ tqは式(4)となる。
次に、周波数シフタ106−1−k(1≦q≦C、1≦k≦ND)は、各サブスペクトラムを周波数軸上の所望の帯域に分散配置する。
加算器107−q(1≦q≦C)は、周波数シフタ106−q−kの出力信号を各組毎(同じq毎)にそれぞれND個のサブスペクトラムを加算する。ここで、ND=4の場合の加算器107−qの出力信号の一例を図16(d)に示す。
IDFT108−q(1≦q≦C)は、加算器107−qの出力信号を周波数領域の信号から時間領域の信号に変換する。
PAPR算出回路109−q(1≦q≦C)は、IDFT108−qで変換された時間領域の信号についてPAPRを算出する。例えば、PAPR算出回路109−qは、IDFT108−qが出力する1番目のDFT区間に対応する信号を入力してPAPRを算出し、最小PAPR信号選択器110に出力する。以降、2番目のDFT区間,…,t番目のDFT区間,…,t+u番目のDFT区間,…についても、1番目のDFT区間と同様に対応する信号のPAPRを算出し、最小PAPR信号選択器110に出力する。
最小PAPR信号選択器110は、PAPR算出回路109−qが算出したPAPRのうち最も小さいPAPRの信号をDFT区間ごとに選択して送信する。例えば、最小PAPR信号選択器110は、C=2のPAPR算出回路109−2が算出したPAPRが最も小さい場合、同じ系列(C=2)のIDFT108−2の出力信号を選択して送信する。
図17は、帯域分散伝送方式を用いる受信装置260の一例を示す。図17において、受信装置260は、DFT回路211、抽出フィルタ212−1〜212−ND、周波数シフタ213−1〜213−ND、位相推定器214−2〜214−ND、位相器215−2〜215−ND、加算器216、IDFT回路217および復調回路218を備える。
DFT回路211は、受信信号を周波数領域の信号に変換する。
抽出フィルタ212−k(1≦k≦ND)は、ND個に分岐されたDFT回路211の出力信号をそれぞれ入力し、ND個のサブスペクトラムを抽出する。
周波数シフタ213−k(1≦k≦ND)は、抽出フィルタ212−1〜212−NDが出力する各サブスペクトラムを送信装置150の周波数シフタ106−q−1〜106−q−NDで周波数シフトする前の帯域へ戻すように周波数をシフトする。
位相推定器214−k(2≦k≦ND)は、周波数シフタ213−1〜213−NDのうち隣接するサブスペクトラムの信号の位相差を推定する。図17において、例えば、位相推定器214−2は、周波数シフタ213−1と周波数シフタ213−2とのそれぞれの出力信号を入力し、送信装置150の位相器105−q−2で位相シフトした位相差を推定する。
位相器215−k(2≦k≦ND)は、位相推定器214−2〜214−NDがそれぞれ出力する信号により、サブスペクトラムSStqkの位相を補償する。例えば、位相器215−2は、位相推定器214−2の出力信号により、サブスペクトラムSStq2の位相を補償する。
加算器216は、周波数シフタ213−1および位相器215−2〜位相器215−NDのそれぞれの出力信号を加算し、送信装置150で複数のサブスペクトラムに分割する前の信号波形に戻す。
IDFT回路217は、加算器216の出力信号を入力して時間領域の信号に変換する。
復調回路218は、IDFT回路217が出力する変調信号を復調する。例えば、送信装置150の変調回路101がQPSKで変調した場合は、同じQPSKで受信データを復調する。
ここで、受信装置260の位相推定器214−kでは、周波数領域で隣接するサブスペクトラム(SStqk−1とSStqk)が入力され、SStqk−1とSStqkとの遷移域における位相差Rtqkを計算する。なお、図16(a)に示すように、送信装置150における各サブスペクトラムの遷移域同士は重畳しているため、隣接するサブスペクトラムの遷移域は同一の信号成分を有している。ここで、重畳している遷移域を重畳領域と称する。受信装置260では、この重畳領域の信号成分から位相差(位相シフト量)Rtqkを推定する。例えば、送信装置150側で位相シフトを行わないサブスペクトラムが最も低い周波数のサブスペクトラム(SStq1)とする場合、位相推定器214−2は、周波数シフタ213−1と213−2にて入力されたSStq1とSStq2から、SStq2でオフセットされた位相差Rtq2を推定する。そして、位相推定値(^θtq2)=atan(Rtq2)が位相器215−2に入力され、位相器215−2は、周波数シフタ213−2の出力信号にexp(−j(^θtq2))を乗算し、位相を補償する。次に、位相器215−2で位相補償された信号SSt2および周波数シフタ213−3の出力信号SSt3から位相推定器214−3が位相シフト量Rtq2を算出し、位相器215−3に位相推定量(^θtq3)=atan(Rtq3)を入力する。位相器215−3は、位相推定器214−3の出力(^θtq3)を用いて周波数シフタ213−3から出力されたSSt3にexp(−j(^θtq3))を乗算し、位相を補償する。
図18(a)は、k=4の場合の位相器215−kの入力信号を示し、図18(b)は、位相器215−kの出力信号を示す。また、図18(c)は、位相推定器214−kでの相関演算の様子を示す。
以降、位相推定器214−kは、位相器215−(k−1)から出力されたSStqk−1と周波数シフタ213−kから出力されたSStqkから位相差Rtqkを推定し、位相器215−kに位相推定量(^θtqk)=atan(Rtqk)を出力する。位相器215−kは、周波数シフタ213−kから出力されたSStqkにexp(−j(^θtqk))を乗算して、位相補償を行う。
なお、各サブスペクトラムの信号成分は、DFT処理により周波数軸上で離散化されている。ここで、図18(c)に示すように、サブスペクトラムSStqkの低周波数側の遷移域において離散化された信号成分を低周波数側からLtqk1,Ltqk2,…,Ltqkp高周波数側の遷移域において離散化された信号成分を低周波数側からHtqk1,Htqk2,…,Htqkpとする。pは、DFT処理により周波数領域に生成される離散化された信号点の内、遷移域の帯域に含まれる信号成分の数である。例えば、DFT処理の周波数分解能がr、遷移域の帯域幅がBtのとき、p=[Bt/r]となる。ただし、記号[x]はxを超えない最大の整数を示す。
位相差Rtqkは、式(5)に示すように、隣接するサブスペクトラムSStk−1の高周波数側の信号成分とSStkの低周波数側の信号成分との複素共役を乗算し、周波数軸方向に平滑化して得られる。
図18(c)は、p=3のときの一例を示す。このときRtqkは式(6)で表される。
このようにして、受信装置260は、隣接するサブスペクトラム間の位相差をDFT区間ごとに逐次推定し、送信装置150側の位相シフトで生じた位相オフセットを補償する。
以下、図面を参照して本発明に係る通信システムおよび通信方法の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
[送信装置50]
図1は、本実施形態に係る通信システム70における送信装置50の一例を示す。なお、本実施形態では、通信システム70は、送信装置50と受信装置60とを有する。
図1において、送信装置50は、変調回路1、波形整形フィルタ2、DFT回路3、分割フィルタ4−1〜4−ND、位相器5−1−1〜5−C−ND、周波数シフタ6−1−1〜6−C−ND、加算器7−1〜7−C、IDFT回路8−1〜8−C、PAPR算出回路9−1〜9−C、バッファ10−1−1〜バッファ10−C−1、バッファ10−1−2〜バッファ10−C−2および最小PAPR信号選択器11を有する。ここで、NDおよびCは正の整数である。
変調回路1は、送信データをQPSKなどの変調方式で変調する。
波形整形フィルタ2は、変調回路1が出力する変調信号の帯域を制限するためのフィルタである。
DFT回路3は、波形整形フィルタ2から出力される変調信号を所定のDFT区間ごとに逐次周波数領域(スペクトラム)の信号に変換する。ここで、処理時刻が早いものから順に“1番目のDFT区間”,“2番目のDFT区間”,…,“t番目のDFT区間”,…,“t+u番目のDFT区間”,…と称する。なお、t,uは正の整数である。
分割フィルタ4−k(1≦k≦ND)は、DFT回路3がDFT区間毎に周波数領域に変換した変調信号の帯域をND個に分割する。分割フィルタ4−1〜4−NDは、予め設定されたフィルタ係数を変調信号に乗算することで、ND個のサブ変調信号(サブスペクトラム)を生成する。そして、分割フィルタ4−kのそれぞれの出力信号はC個に分岐される。ここで、kは正の整数である。サブスペクトラムを処理時刻が早いものから順に“1番目のDFT区間のサブスペクトラム”,“2番目のDFT区間のサブスペクトラム”,…,“t番目のDFT区間のサブスペクトラム”,…,“t+u番目のDFT区間のサブスペクトラム”,…と称する。なお、分割フィルタ4−kは、従来技術で説明した図16(a)および図16(b)と同様に動作する。
位相器5−q−k(1≦q≦C,1≦k≦ND)は、C個に分岐された分割フィルタ4−k(1≦k≦ND)の出力をそれぞれ入力する。ここで、qは正の整数である。例えば、C個の内の1番目のND個のサブスペクトラムは位相器5−1−k、2番目のND個のサブスペクトラムは位相器5−2−k、…、C番目のND個のサブスペクトラムは位相器5−C−kにそれぞれ入力される。ここで、位相系列制御装置51は、位相器5−C−kに位相情報を出力する。位相系列制御装置51から出力される位相情報は、例えば、ランダムに生成した位相値や、円を等分割(2πを等分割)することで生成される位相の組み合わせなどが使用される。なお、位相情報は、受信装置60と共有される。そして、位相器5−C−kは、位相系列制御装置51から入力する位相情報に基づいて各サブスペクトラムに位相シフトを付加する。
例えば、本実施形態では、位相器5−q−kは、式(7)で示す位相系列Θ2,Θ3,…,Θq,…,ΘCを用いて、位相器5−q−kに入力された各サブスペクトラムの位相をシフトする。
ここで、位相器5−q−kに入力されるt番目のDFT区間のサブスペクトラムをSStkとする。そして、位相器5−q−kは、式(8)で示す位相系列Θqの位相により、式(9)で示すt番目のDFT区間のサブスペクトラムSStkの位相シフトを行う。
位相乗算後の位相器5−q−kの出力信号Sθ tqは式(10)となる。
周波数シフタ6−q−k(1≦q≦C,1≦k≦ND)は、各サブスペクトラムを周波数軸上の所望の帯域に分散配置する。ここで、周波数シフタ6−2−kの各サブスペクトラム、周波数シフタ6−3−kの各サブスペクトラム、…、周波数シフタ6−C−kの各サブスペクトラムは、周波数シフタ6−1−kの各サブスペクトラムと同様のシフト量だけ周波数シフトさせて分散配置する。
加算器7−q(1≦q≦C)は、周波数シフタ6−q−kの出力信号を各組毎(同じq毎)にND個のサブスペクトラムを加算する。
IDFT回路8−q(1≦q≦C)は、加算器7−qの出力信号を周波数領域の信号から時間領域の信号に変換する。例えば、IDFT8−1は、加算器7−1の出力信号を周波数領域の信号から時間領域の信号に変換する。
PAPR算出回路9−q(1≦q≦C)は、IDFT8−qで時間領域の信号に変換された信号についてPAPRを算出する。
以下、PAPR算出回路9−qと、PAPR算出回路9−qが算出したPAPRを格納するバッファ10−q−1と、最小PAPR信号選択器11との動作について説明する。例えば、PAPR算出回路9−qは、IDFT8−qが出力する1番目のDFT区間の信号に着目し、電力の時間的な変動量を算出する。ここで、電力の時間的な変動を表す数値として、本実施形態では、信号の一定時間区間における最大の電力と平均の電力の比(PAPR)を使用する。算出されたPAPRは、バッファ10−q−1に格納される。以降、PAPR算出回路9−qは、u番目のDFT区間までPAPRの算出を行う。ここで、PAPR算出回路9−qは、算出したu通りのPAPRから特定の規範に従って代表値を算出する。本実施形態では、特定の規範として、u通りのPAPRの和を取った値を代表値とする。このPAPR算出処理および代表値の算出は、分岐したC通りの全ての信号について行われる。そして、最小PAPR信号選択器11は、C通りの代表値の中でPAPRが最も小さい信号を選択して送信する。ここで、PAPRは、入力される信号に対して2乗した値の最大値と平均値とを求め、最大値/平均値(最大値を平均値で割った値)を計算することにより算出できる。
このようにして、送信装置50は、送信データを変調して複数のサブスペクトラムに分割し、位相シフトおよび周波数シフトを行って加算した信号のPAPRを算出し、PAPRが最小となる位相系列θqの信号を受信装置60に送信する。
[受信装置60]
図2は、本実施形態に係る通信システム70の受信装置60の一例を示す。図2において、受信装置60は、DFT回路21、抽出フィルタ22−1〜22−ND、周波数シフタ23−1〜23−ND、位相差推定器24−2〜24−ND、荷重付平滑化回路25−2〜25−ND、荷重算出器26−2〜26−ND、バッファ27−2〜27−ND、荷重算出器28−2〜28−ND、荷重付平滑化回路29−2〜29−ND、バッファ30−2〜30−ND、位相器31−2〜31−ND、加算器32、IDFT回路33、復調回路34および位相平滑化数制御装置61を有する。
ここで、受信装置60は、送信装置50で位相シフトする前のスペクトラムを復元後に復調する必要がある。そこで、送信装置50は、特定のサブスペクトラムの位相シフト量を位相の基準として位相シフトせずに固定し、この固定するサブスペクトラムの情報を送信装置50と受信装置60との間で共有する。本実施形態では、最も周波数が低いサブスペクトラム(SSt1)の位相シフト量を0とする。
以下、図2の受信装置60について説明する。
DFT回路21は、送信装置50からの受信信号を周波数領域の信号に変換する。
抽出フィルタ22−k(1≦k≦ND)は、ND個に分岐されたDFT回路21の出力信号をそれぞれ入力し、ND個のサブスペクトラムを抽出する。
周波数シフタ23−k(1≦k≦ND)は、抽出フィルタ22−1〜22−NDが出力する各サブスペクトラムを送信装置50の周波数シフタ6−q−1〜6−q−NDが周波数シフトする前の帯域に戻すようにシフトする。
位相差推定器24−k(2≦k≦ND)は、周波数シフタ23−1〜23−NDのうち隣接するサブスペクトラムの信号の位相差を推定する。図2において、例えば、位相差推定器24−2は、周波数シフタ23−1と周波数シフタ23−2とのそれぞれの出力信号を入力し、送信装置50の位相器5−q−2で位相シフトした位相差を推定する。なお、位相差の推定方法は後述する。
荷重付平滑化回路25−k(2≦k≦ND)は、位相差推定器24−kの出力信号を入力し、荷重付きの平滑化を行う。
荷重算出器26−k(2≦k≦ND)は、位相差推定器24−kの出力信号に基づいて、荷重値を算出する。
バッファ27−k(2≦k≦ND)は、荷重付平滑化回路25−kが出力する信号を格納する。
荷重算出器28−k(2≦k≦ND)は、バッファ27−kに格納されたu通りのDFT区間の信号を基に荷重値を算出する。
荷重付平滑化回路29−k(2≦k≦ND)は、荷重算出器28−kが算出した荷重値を用いて、バッファ27−kに格納されているu通りのDFT区間の信号を荷重付きで平滑化する。
バッファ30−k(2≦k≦ND)は、周波数シフタ23−k(2≦k≦ND)が出力する信号を格納する。
位相器31−k(2≦k≦ND)は、荷重付平滑化回路29−kが出力する位相シフト量に基づいて、バッファ30−kに格納されたSStqkからSS(t+u)qkまでのサブスペクトラムの位相を補償する。
加算器32は、位相器31−kが出力する位相補償されたND個のサブスペクトラムを加算して分割前のスペクトラムを復元する。
IDFT回路33は、加算器32が出力するスペクトラムを入力して時間領域の信号に変換する。
復調回路34は、IDFT回路33が出力する変調信号を復調して受信データを出力する。例えば、送信装置50の変調回路1がQPSKで変調した場合は、同じQPSKで受信データを復調する。
位相平滑化数制御装置61は、荷重付平滑化回路29−kが位相を平滑化するときの平滑化数を制御する。なお、平滑化数については後述する。
このようにして、受信装置60は、送信装置50から受信する信号を復調することができる。特に、本実施形態に係る受信装置60は、分散配置前の帯域に戻したサブスペクトラムに対して、隣接するサブスペクトラム間の重畳領域の位相差から位相シフト量を推定して荷重付きで平滑化する(周波数領域での平滑化)。さらに、u+1個のDFT区間において、周波数領域で平滑化した位相シフト量を荷重付きで平滑化する(時間領域での平滑化)。これにより、本実施形態では、受信側における位相の推定精度を向上し、低S/N環境下や、サブスペクトラムの遷移域に存在する離散化された信号成分の数pの不足などにより劣化する受信信号のBER特性を向上することができる。
次に、受信装置60の位相差推定器24−kの動作について詳しく説明する。位相差推定器24−kは、周波数領域で隣接するサブスペクトラム(SStqk−1とSStqk)の遷移域における位相差Rtqkを計算する。ここで、送信装置50において、各サブスペクトラムの遷移域同士は重畳しているため、隣接するサブスペクトラムの遷移域は同一の信号成分を含んでいる。受信装置60では、送信装置50で重畳している遷移域(重畳領域)の信号成分から位相差Rtqkを推定する。
なお、周波数が一番低いサブスペクトラムSSt1kは、送信装置50で位相シフトが行われていないため、まず、位相差推定器24−2は、周波数シフタ23−1および周波数シフタ23−2から出力されるSSt1kおよびSSt2kを用いて、SSt2kの位相シフト量Rt2kを推定する。そして、推定値^θtq2=atan(Rt2k)は、荷重付平滑化回路25−2で平滑化され、その出力はu個分のDFT区間でバッファ27−2に蓄積される。その後、荷重付平滑化回路29−2は、u個のDFT区間で受信電力レベルに応じた荷重付きの平滑化処理を行う。そして、位相器31−2は、荷重付きの平滑化処理が行われた位相シフト量を入力し、周波数シフタ23−2の出力信号にexp(−j(^θtq2))を乗算して位相を補償する。
なお、荷重付平滑化回路29−2は、t番目からt+u番目のDFT区間における位相推定値Rt2kからR(t+u)2kまでのu個の位相推定値の平滑化、もしくはt番目からt+u番目以下のDFT区間での平滑化を行い、平滑化した結果を出力する。このとき、t番目からt+u番目のDFT区間において、DFT区間ごとに受信電力強度が異なる場合、受信電力強度が高い信号ほど信号対雑音電力比(S(signal)/N(Noise))が良い確率が高いとみなし、荷重算出器28−2で受信電力強度に応じた荷重を求め、荷重付平滑化回路29−2で荷重付の平滑化を行う。
ここで、受信電力強度が一定の場合、荷重付平滑化回路29−2は、式(11)に示す計算を行う。
また、受信電力強度が一定でない場合、荷重付平滑化回路29−2は、受信電力に応じた荷重をwtq2、wtq2、wtq2,w(t+1)q2,…,w(t+u)q2として、式(12)に示す計算を行う。
ここで、wは例えば電力強度に比例した値でもよいし、電力強度の2乗に比例した値でもよい。
同様に、位相差推定器24−3は、位相器31−2で位相補償された信号SStq2と、周波数シフタ23−3の出力信号SStq3とを入力し、位相シフト量Rtq3を推定する。そして、荷重付平滑化回路25−3で平滑化された位相シフト量がt番目からt+u番目までのDFT区間でバッファ27−3に格納される。荷重付平滑化回路29−3は、t番目からt+u番目までのDFT区間の位相シフト量を平滑化し、位相器21−3に平滑化後の位相シフト量(^θtq3)を出力する。位相器31−3は、荷重付平滑化回路29−3の出力を用いて周波数シフタ23−3から出力されるSStq3にexp(−j(^θtq3))を乗算し、位相を補償する。
以降、位相差推定器24−k(4≦k≦ND)は、位相器31−(k−1)から出力されたSStq(k−1)と周波数シフタ23−kから出力されたSStqkとから位相シフト量Rtqkを推定する。そして、荷重付平滑化回路25−kで平滑化された位相シフト量は、t番目からt+u番目までのDFT区間でバッファ27−kに格納される。荷重付平滑化回路29−kは、t番目からt+u番目までのDFT区間の位相シフト量を平滑化し、位相器21−kに平滑化後の位相シフト量(^θtqk)を出力する。そして、位相器31−kは、荷重付平滑化回路29−kの出力を用いて周波数シフタ23−kから出力され、バッファ30−kに蓄積されたSStqkにexp(−j(^θtqk))を乗算し、位相を補償する。
ここで、各サブスペクトラムの信号成分は、DFT処理により周波数軸上で離散化されている。また、従来技術の図18(c)で説明したように、サブスペクトラムSStqkの低周波数側の遷移域において離散化された信号成分を低周波数側からLtqk1,Ltqk2,…,Ltqkpとし、高周波数側の遷移域において離散化された信号成分を低周波数側からHtqk1,Htqk2,…,Htqkpとする。ただし、pは、DFT処理により生成される離散化された信号点の内、遷移域の帯域に含まれる信号成分の数である。例えば、DFTの周波数分解能がr、遷移域の帯域幅がBtのとき、p=[Bt/r]となる。ここで、記号[x]はxを超えない最大の整数を示す。
位相差Rtqkは、隣接するサブスペクトラムSStqk−1およびSStqkの高周波数側の信号成分と低周波数側の信号成分の複素共役を乗算し、周波数軸方向に平滑化して得られる。ここで、同じ遷移域内に存在する離散化された信号成分(Ltqk1,Ltqk2,…,Ltqkpなど)の電力強度に違いがある場合、強度が高い信号ほど信号対雑音電力比(S/N)が良い確率が高いとみなし、受信電力強度に応じた荷重を設定して、荷重付の平滑化を行う。
式(13)は、荷重付き平均を用いない場合の平滑化処理を示す。
p=3の場合、Rtqkは式(14)で表される。
また、荷重の値をvtqkiとすると、荷重付き平均を用いる場合の平滑化処理は、式(15)で表される。
ここで、vtqkiは、例えば電力強度に比例した値でもよいし、電力強度の2乗に比例した値でもよい。
このようにして、受信装置60は、隣接するサブスペクトラム間の位相差をDFT区間ごとに逐次推定し、送信装置50側での位相シフト処理により生じた位相オフセットを補償することができる。
次に、本実施形態に係る送信装置50において、隣接する複数のサブスペクトラム間の位相差が等しくなるように位相シフトを行う例について説明する。
図3は、隣接する2つのサブスペクトラム間の位相差が等しくなるように位相シフトを行う一例を示す。ここで、スペクトラムの分割数ND=8、隣接するサブスペクトラム数M=2とする。隣接するサブスペクトラム間の位相差が等しくなるように位相シフトを行う処理は、複数のDFT区間(例えば8個のDFT区間)の各DFT区間において行われ、図3の例では、ある1つのDFT区間における8個のサブスペクトラムについて処理が行われる。ここで、Mは「同じ位相シフト(位相回転)が加わっているサブスペクトラム」の数を表し、Mは2≦M≦ND−1の整数である。例えば、図3において、サブスペクトラム3とサブスペクトラム4の2個のサブスペクトラム間の位相差が同じΔθ1になるように位相シフトが行われる。同様に、サブスペクトラム1とサブスペクトラム2の2個のサブスペクトラム間の位相差は0、サブスペクトラム5とサブスペクトラム6の2個のサブスペクトラム間の位相差はΔθ2、サブスペクトラム7とサブスペクトラム8の2個のサブスペクトラム間の位相差はΔθ3、となるように位相シフトが行われる。
このように、本実施形態に係る送信装置50は、周波数帯域が隣接するM個のサブスペクトラム間の位相差が等しくなるように位相シフトを行っている。
また、送信装置50は、同一のDFT区間において、位相器5−q−kに与える位相シフト量が隣接するM個(2≦M≦ND−1)のサブスペクトラム間の位相差が等しくなるように位相シフトを行い、受信装置60は、位相平滑化数制御装置61から出力される平滑化するサブスペクトラム数Mの値に基づいて、M個のサブスペクトラムの重畳領域での位相差を単純平均もしくは荷重付きで平滑化を行う。これにより、受信側での位相推定精度を向上することができる。ここで、荷重付き平滑化処理を行うときの荷重は、例えば、受信電力強度に応じて設定することができる。この場合、受信電力強度が強くなるほど荷重を大きくし、逆に受信電力強度が弱くなるほど荷重を小さくする。
また、送信側で使用する全ての位相シフト量の値θqkを送信装置50と受信装置60との間で予め共有しておき、位相の硬判定により受信側の位相推定値に最も近い位相シフト量の値θqkを用いて位相補償を行うことにより、受信装置60での位相推定精度を向上することもできる。
また、図1に示した送信装置50の構成において、周波数シフタ6−q−kを位相器5−q−kと加算器7−qとの間ではなく、分割フィルタ4−kと位相器5−q−kとの間に配置し、周波数シフタ6−q−kでサブスペクトラムを分散配置後に、各サブスペクトラムに対して位相器5−q−kが位相シフトするようにしてもよい。
また、送信装置50がPAPRを算出するDFT区間の長さを示す情報は、受信装置60側で既知である必要があるが、例えば送信装置50と受信装置60とが通信を開始する時に、送信装置50から受信装置60に当該情報を通知するようにしてもよいし、受信装置60が受信信号から推定するようにしてもよい。
また、図2に示した受信装置60の構成において、周波数シフタ23−kを抽出フィルタ22−kと位相差推定器24−kとの間ではなく、位相器31−kと加算器32−kとの間に配置してもよい。
[送信処理]
図4は、本実施形態における送信処理の一例を示す。なお、図4の送信処理は、送信装置50で行われる。
ステップS101において、時間領域の信号の時間区間を示す変数t(tは正の整数)をt=1に初期化する。なお、時間区間tは、DFT回路3が処理するDFT区間の順番を示す変数tと同様に扱うことができる。例えば、時間区間tにおいてDFT処理するDFT区間の順番がtとなる。
ステップS102において、時間区間tにおける送信データが変調回路1に入力される。
ステップS103において、変調回路1は、入力する時間区間tの送信データをQPSKなどの変調方式で変調する。
ステップS104において、波形整形フィルタ2は、窓関数などにより、変調回路1が出力する変調信号の波形を整え、DFT回路3により周波数領域の信号に変換される。
ステップS105において、ND個の分割フィルタ4−kは、DFT回路3が周波数領域に変換した変調信号のスペクトラムをND個のサブスペクトラムに分割する。
ステップS106において、1からCまでのC個の位相系列を示す変数qをq=1に初期化する。
ステップS107において、位相器5−q−kは、位相系列制御装置51から与えられる位相系列制御値(位相系列θq)を基づいて、隣接するM個のサブスペクトラム間の位相差が等しくなるように位相シフトを行う。なお、位相系列制御装置51は、受信装置60との間で位相系列θqの情報を共有している。
ステップS108において、周波数シフタ6−q−kは、位相器5−q−kが出力する位相シフト後の各サブスペクトラムの周波数をシフトする。なお、シフトする周波数は予め決められている。
ステップS109において、加算器7−qは、ND個の周波数シフタ6−q−kがそれぞれ出力するND個のサブスペクトラムを加算し、加算後のスペクトラムは、IDFT回路8−qにより時間領域の信号に変換される。なお、IDFT回路8−qにより変換された時間領域の信号は、PAPR算出回路9−qに入力されるとともに、位相系列θq毎、且つ、時間区間t毎の時間領域の信号がバッファ10−q−2に格納される。
ステップS110において、PAPR算出回路9−qは、IDFT回路8−qが出力するDFT区間tの時間領域の信号からPAPRを算出する。
ステップS111において、位相系列θqの時間区間tにおけるPAPRをバッファ10−q−1に格納する。例えば、位相系列θ1の時間区間t=1におけるPAPRがバッファ10−1−1に格納される。位相系列θ2から位相系列θCについても同様に、時間区間t=1におけるPAPRがバッファ10−2−1からバッファ10−C−1にそれぞれ格納される。また、時間区間t=2から時間区間t=u+1についても同様に、位相系列θ1から位相系列θCに対するそれぞれのPAPRがバッファ10−1−1からバッファ10−C−1にそれぞれ格納される。このようにして、位相系列θq毎、且つ、時間区間t毎に算出された各PAPRがバッファ10−q−1に格納される。
ステップS112において、1からC番目までの全ての位相系列qについてステップS107からステップS111までの一連の処理が終了したか否かを判別する。一連の処理が位相系列qのC番目まで終了した場合はステップS113の処理に進み、C番目まで終了していない場合はステップS114の処理に進む。
ステップS113において、1から(u+1)番目までの各時間区間(DFT区間)tについてステップS102からステップS112までの処理が終了したか否かを判別し、一連の処理が(u+1)番目まで終了した場合はステップS115の処理に進み、(u+1)番目まで終了していない場合はステップS116の処理に進む。
ステップS114において、次に処理する位相系列(q+1)が設定される。
ステップS115において、位相系列θC、且つ、時間区間t=u+1まで終了したら、最小PAPR信号選択器11は、q=Cかつt=u+1までのPAPRをバッファ10−q−1に格納し終えたら、位相系列θq(q=1〜C)によって位相シフトされたu+1個のPAPRの中で最も大きいPAPRを位相系列θq(q=1〜C)におけるPAPRの代表値として抽出する。例えば、時間区間t=3の位相系列θ2のPAPRが最大の場合、時間区間t=3の位相系列θ2のPAPRを代表値として抽出する。同様に、位相系列θ1からθCまでの位相系列毎のu+1個のPAPRの中で最も大きいPAPRを当該位相系列θqにおけるPAPRの代表値として抽出する。そして、バッファ10−q−1に保持された位相系列θ1からθCまでの位相系列毎のPAPRの代表値の中で最小となるPAPRに対応する位相系列θqに対応する時間区間tの信号をバッファ10−1−2から読み出して出力する。
ステップS116において、次に処理する時間区間(t+1)が設定される。
このようにして、送信装置50は、送信データを変調して複数のサブスペクトラムに分割し、位相シフトおよび周波数シフトを行って加算した信号のPAPRを算出し、PAPRが最小となる位相系列θqの信号を受信装置60に送信する。
図5は、本実施形態における受信処理の一例を示す。なお、図5の受信処理は、受信装置60で行われる。
ステップS201において、DFT回路21は、送信装置50から受信する受信信号を周波数領域の信号に変換し、ND個の抽出フィルタ22−kにより、送信側で分割されたND個のサブスペクトラムを抽出する。
ステップS202において、周波数シフタ23−kは、抽出フィルタ22−kが出力する各サブスペクトラムを送信装置50の周波数シフタ6−q−kが周波数シフトして分散配置する前の帯域に戻す。
ステップS203において、位相差推定器24−kは、分散配置前の帯域に戻したサブスペクトラムに対して、隣接するM個のサブスペクトラム間のM−1個の遷移域(重畳領域)の位相差から位相シフト量を推定する。このMの値は、位相系列制御値として、送信装置50と受信装置60とで共有され、予め設定されている。
ステップS204において、荷重算出器26−kは、位相シフト量を平滑化するときの荷重を算出する。
ステップS205において、荷重付平滑化回路25−kは、重畳領域における位相シフト量を荷重付きで平滑化する。
ステップS206において、荷重付平滑化回路25−kが平滑化した位相シフト量をバッファ27−kに格納する。
ステップS207において、荷重算出器28−kは、バッファ27−kに格納されたu+1個のDFT区間における位相シフト量の荷重を算出する。
ステップS208において、荷重付平滑化回路29−kは、荷重算出器28−kが出力する荷重に基づいて、u+1個のDFT区間における位相シフト量を荷重付きで平滑化する。
ステップS209において、位相器31−kは、荷重付平滑化回路29−kが出力する平滑化後の位相シフト量により、バッファ30−kに保持された各サブスペクトラムの位相を補償する。
ステップS210において、加算器32は、ND個の位相器31−kが出力するND個のサブスペクトラムを加算して合成する。その後、IDFT回路33は、加算器32が出力する周波数領域のスペクトラムを時間領域の信号に変換する。
ステップS211において、復調回路34は、IDFT回路33により変換された時間領域の信号を受信データに復調する。
このようにして、受信装置60は、受信データを復調することができる。特に、本実施形態に係る受信装置60は、分散配置前の帯域に戻したサブスペクトラムのうち隣接するサブスペクトラム間の重畳領域の位相差から位相シフト量を推定して荷重付きで平滑化する(周波数領域での平滑化)。さらに、u+1個のDFT区間において、周波数領域で平滑化した位相シフト量を荷重付きで平滑化する(時間領域での平滑化)。これにより、本実施形態では、受信装置60は、送信装置50で行われた位相シフト量の推定精度を向上し、低S/N環境下や、サブスペクトラムの遷移域に存在する離散化された信号成分の数pの不足などにより劣化する受信信号のBER特性を向上することができる。
次に、図6から図10を用いて、本実施形態における効果について説明する。
図6は、受信側で位相の硬判定を行わない場合の位相推定誤差(図6(a))と、BER特性(図6(b))の一例を示す。ここで、図6において、Eb/Noは、1ビットあたりのエネルギーと雑音電力密度の比を表す。また、BER(Bit Error Rate)は送信されたビット数に対する誤って受信したビット数の比率を表す。図6に示した計算機シミュレーションは、QPSK変調でサブスペクトラムの数ND=8の場合に、送信側において、u+1個のDFT区間で同じ位相シフトが付加され、受信側において、u+1個のDFT区間で位相推定値の平滑化が行われた場合の結果を示す。
図6(a)において、Eb/No=0dBにおける位相推定誤差は、平滑化するDFT区間の数(平滑化数)の増大に伴って減少していることが分かる。また、図6(b)において、BER特性は、平滑化するDFT区間の数が増大するほど低くなっていくことが分かる。つまり、位相推定誤差の減少により、BER特性が改善している。ここで、位相推定誤差とは、全DFT区間において、各サブスペクトラム(図3の例ではサブスペクトラム1からサブスペクトラム8)で算出された位相推定値と送信側で与えられた位相シフト量との差分の平均値を表す。
次に、M=2のサブスペクトラム間の位相差が等しくなるように位相シフトが行われた場合のシミュレーション結果について、図7および図8を用いて説明する。
図7は、受信側で位相の硬判定を行う場合のシミュレーション結果を示す。なお、送信側で使用する全ての位相シフト量θqkを受信側と予め共有しておき、位相の硬判定により受信側の位相推定値に最も近い位相シフト量θqkを用いて位相補償を行う。図7(a)は、位相シフト量の誤判定確率を示し、図7(b)は、位相推定誤差を示し、図7(c)は、BER特性を示す。ここで、図7において、1DFT区間のND個のサブスペクトラムでND−1回の位相推定を行う場合、位相シフト量の誤判定確率は、ND−1個の位相推定値の中に1個以上の誤りがあるDFT区間について誤判定があったとみなしたときの、複数のDFT区間における誤判定の発生確率を表している。図6(a)と図7(b)とを比較した場合、(DFT区間の平滑化数)=1では、硬判定を行うことにより、位相推定誤差が約1/1.07に小さくなることがわかる。また、(DFT区間の平滑化数)=16では、硬判定を行った方が約1/240に小さくなることが分かる。つまり、DFT区間の平滑化数が増加すればするほど、位相の硬判定の効果が高くなる。図7(a)に示した位相シフト量の誤判定確率についても、位相推定誤差と同様に、位相シフト量の誤判定確率は、DFT区間の平滑化数が増大するほど小さくなる。また、図7(c)に示すように、DFT区間の平滑化数を増大して位相推定精度を向上することによって、BER特性が改善していることが分かる。
図8は、図6および図7と同様に平滑化数に応じた送信信号のPAPR特性の一例を示す。ここで、CCDF(Complementary Cumulative Distribution Function)はPAPRが所定の値以上になる確率を表している。図8では、DFT区間の平滑化数が増大するほどPAPRも増大し、位相シフトを行わない場合の特性に漸近していくことが分かる。
図9は、平均化サンプル数毎のPAPR特性と位相シフト量の誤判定確率の変化を示す。図9において、従来技術で説明したように1つのDFT区間で平滑化した場合に比べて、8つのDFT区間で平滑化した場合は、位相推定精度とBER特性とが大幅に改善されることがわかる。さらに、8つのDFT区間で平滑化しただけの場合に比べて、8つのDFT区間で平滑化し、且つ、隣接するM個(図9の例ではM=2)のサブスペクトラム間の位相差が等しくなるように位相シフトを行った場合は、僅かにPAPRが増大(0.3dB程度)するが、位相の誤判定確率を大幅(1/5倍)に低減し、BER特性を大幅に改善することができる。
図10は、QPSK変調でサブスペクトラム数ND=16の条件における計算機シミュレーション結果の一例を示す。なお、図10は、2つのDFT区間で位相の平滑化を行い、且つ、サブスペクトラム間の平滑化を行わない場合と、2個のサブスペクトラムで位相の平滑化(M=2)を行い、且つ、複数のDFT区間での平滑化を行わない場合とにおけるPAPR特性(図10(a))およびBER特性(図10(b))を比較した結果を示す。なお、図10では、比較のために、従来技術や理論値などの各特性も示してある。
図10(a)の結果より、複数のDFT区間での平滑化は行わず、且つ、サブスペクトラム間の平滑化も行わない従来技術の特性Dと、複数のDFT区間での平滑化は行わず、且つ、2個のサブスペクトラムで位相を平滑化(M=2)する特性Bとを比べると、サブスペクトラム方向の平滑化によるPAPR劣化量は0.1dB程度であることが分かる。また、サブスペクトラム間の平滑化は行わず、且つ、2個のDFT区間で平滑化する特性Aと特性Bとを比べると、特性BのPAPRの方が特性Aよりも0.2dB程度多く低減されている。
図10(b)の結果より、複数のDFT区間での平滑化は行わず、且つ、サブスペクトラム間の平滑化も行わない従来技術の特性Dは、理論値のBER特性に比べて3dB以上劣化するが、特性Aや特性Bの位相平滑化の方法を適用することにより、BER特性が改善されることがわかる。特に、図10(b)の結果において、特性Bは、理論値の特性Cに漸近する良好な特性が得られている。
上述の図10(a)および図10(b)のシミュレーション結果より、DFT方向の平滑化を行った場合(特性A)と、複数のサブスペクトラム間の平滑化を行った場合(特性B)とを比較すると、PAPRおよびPAPR特性において、特性Bの位相平滑化の方法の方が特性Aの位相平滑化の方法よりも優れた性能が得られることが分かる。
(応用例)
第1実施形態の応用例として、図1に示す送信装置50でプリアンブルを付加し、受信装置60でプリアンブルを元にしたチャネル推定を行う構成について説明する。
図11は、本応用例の送信装置50aの一例を示す。なお、図11において、図1に示した送信装置50と同符号のブロックは、送信装置50と同一または同様の機能を有する。また、図1と異なる点は、加算器7−qとIDFT回路8−qとの間に、プリアンブル付加回路12−qが追加されていることと、最小PAPR信号選択器11の後にプリアンブル付加回路13が追加されていることである。
プリアンブル付加回路12−qは、加算器7−qが出力するスペクトラムの信号に周波数領域でプリアンブルを付加する。例えば、プリアンブル付加回路12−qは、加算器7−qが出力するスペクトラムに、振幅および位相情報が受信装置60a側で既知である(送信装置50aと受信装置60aとで事前共有している)周波数領域の波形をプリアンブルとして付加する。そして、受信装置60aは、既知の情報である振幅および位相情報と、受信したプリアンブル信号の振幅および位相の情報を比較し、比較結果から得られたひずみ特性の逆特性を受信信号に乗算することにより、伝送路における周波数領域の振幅と位相のひずみを補償することができる。
プリアンブル付加回路13は、最小PAPR信号選択器11の出力信号に時間領域でプリアンブルを付加する。例えば、プリアンブル付加回路13は、時間領域における振幅および位相の情報が受信装置60a側で既知である(送信装置50aと受信装置60aとで事前共有している)時間領域の波形をプリアンブルとして付加する。そして、受信装置60aでは、既知の情報である振幅および位相の情報と、受信したプリアンブル信号の振幅および位相情報とを比較し、比較結果から得られた振幅および位相の時間的な変化量を求め、その逆特性を受信信号に乗算することにより、伝送路における時間領域の振幅と位相のひずみを補償することができる。
このようにして、本応用例に係る送信装置50aは、周波数領域と時間領域との両方にプリアンブルを付加して受信装置60aに送信することにあり、受信装置60aは、伝送路における時間領域の振幅と位相のひずみを補償することができる。
図12は、本応用例の受信装置60aの一例を示す。なお、図12において、図2に示した受信装置60と同符号のブロックは、受信装置60と同一または同様の機能を有する。また、図2と異なる点は、DFT回路21の前段にチャネル推定回路35とチャネル補償回路36とが追加されていることと、DFT回路21と抽出フィルタ22との間にチャネル推定回路37とチャネル補償回路38とが追加されていることである。
チャネル推定回路35は、送信装置50aのプリアンブル付加回路13が時間領域で付加したプリアンブルに基づいて、伝搬路で生じる時間選択性の振幅・位相の変動量を推定し、チャネル推定値として出力する。また、チャネル推定回路35は、チャネル推定値を荷重算出器28−kにも出力し、荷重算出器28−kは、時間選択性の振幅・位相の変動量に応じた荷重を算出する。例えば、荷重算出器28−kは、時間選択性の振幅・位相の変動量が大きい場合は荷重を小さくし、逆に変動量が小さい場合は荷重を大きくする。
チャネル補償回路36は、チャネル推定回路35が推定した時間選択性の振幅・位相の変動量を補償する。そして、チャネル補償回路36が振幅・位相の変動量を補償した時間領域の信号は、DFT回路21により周波数領域のスペクトラムに変換される。
チャネル推定回路37では、送信装置50aのプリアンブル付加回路12−qが周波数領域で付加したプリアンブルに基づいて、伝搬路で生じる周波数選択性の振幅・位相の変動量を推定し、チャネル推定値として出力する。また、チャネル推定回路35は、チャネル推定値を荷重算出器26−kにも出力し、荷重算出器26−kは、周波数選択性の振幅・位相の変動量に応じた荷重を算出する。例えば、荷重算出器26−kは、周波数選択性の振幅・位相の変動量が大きい場合は荷重を小さくし、逆に変動量が小さい場合は荷重を大きくする。
チャネル補償回路38は、チャネル推定回路37が推定した周波数選択性の振幅・位相の変動量を補償する。そして、チャネル補償回路38が振幅・位相の変動量を補償した周波数領域のスペクトラムは、抽出フィルタ22−kによりND個のサブスペクトラムが抽出される。
このようにして、本応用例に係る受信装置60aは、送信装置50aで付加された周波数領域と時間領域との両方のプリアンブルに基づいて、伝搬路で生じる時間選択性および周波数選択性の振幅・位相の変動量を推定し、補償することができる。さらに、受信装置60aは、送信装置50aで付加された周波数領域と時間領域との両方のプリアンブルに基づいて、位相差を平滑化するときの荷重を調節するので、伝搬路で生じる時間選択性および周波数選択性の振幅・位相の変動量が大きい場合の荷重を小さくして、算出する位相差の誤差を低減することができる。
図13は、本応用例の送信処理の一例を示す。なお、図13において、図4に示した送信処理と同符号の処理は、図4と同一または同様の処理を示す。また、図4と異なる点は、ステップ115の後に、ステップ117が追加されていることである。
ステップS117において、送信装置50aは、位相系列θq(q=1〜C)でPAPRが最小となる信号に、時間領域および周波数領域でプリアンブルを付加して送信する。具体的には、図11で説明したように、プリアンブル付加回路12−qが周波数領域でプリアンブルを付加し、プリアンブル付加回路13が時間領域でプリアンブルを付加する。
このようにして、本応用例に係る送信装置50aは、送信装置50の送信信号の周波数領域と時間領域との両方にプリアンブルを付加して受信装置60aに送信する。
図14は、本応用例の受信処理の一例を示す。なお、図14において、図5に示した受信処理と同符号の処理は、図5と同一または同様の処理を示す。また、図5と異なる点は、ステップ201の前に、ステップ200が追加されていることである。
ステップS200において、受信装置60aは、ステップS201で分割されたスペクトラムの抽出を行う前に、伝搬路で生じた時間選択性もしくは周波数選択性の振幅・位相のチャネル変動量を推定して補償する。また、受信装置60aは、ステップS200において推定したチャネル変動量をステップS204およびステップS207で行う荷重の算出処理の参照値として出力し、ステップS204およびステップS207において、チャネル変動量に基づく荷重を算出する。
このようにして、本応用例に係る受信装置60aは、送信装置50aで付加された周波数領域と時間領域との両方のプリアンブルに基づいて、伝搬路で生じる時間選択性および周波数選択性の振幅・位相の変動量を推定し、補償することができる。さらに、送信装置50aで付加された周波数領域と時間領域との両方のプリアンブルに基づいて、位相差を平滑化するときの荷重を調節する。例えば、受信装置60aは、伝搬路で生じる時間選択性および周波数選択性の振幅・位相の変動量が大きい場合の荷重を小さくして、算出する位相差の誤差を低減することができる。
以上、説明してきたように、本発明に係る通信システムおよび通信方法は、受信側における位相の推定精度を向上し、低S/N環境下や、サブスペクトラムの遷移域に存在する離散化された信号成分の数pの不足などにより劣化する受信信号のBER特性を向上することができる。