JP6418791B2 - 冷却装置の異常検知システム - Google Patents
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Description
特に、鉄道車両やモノレールを含む軌条車両などの移動体の保守については、停車せざるを得ない異常が発生すると、多数の乗客に重大な影響を及ぼすため、車両の状態データ(センサ値,制御値)から移動体を構成する各種装置の経年劣化状態を診断し、この診断結果に基づいて必要な点検・保守作業を行う状態基準保守を実現するための技術開発が強く求められている。
また、特許文献2には、冷却器の汚損状態を監視することができる電気車用電源装置として、インバータ部の温度検出手段と外気温度の温度検出手段と負荷への入力電流を検出する電流検出手段とから冷却能力の低下を判断する技術も提案されている。
したがって、放散すべき熱負荷が過渡的に変化する電力変換装置向けの冷却装置を前提に、その経年劣化、例えば、鉄道車両の電力変換装置から発生する熱を散熱する冷却装置を構成するラジエータ部の汚れに起因する熱交換能力の性能低下を早期に抽出し、高精度に診断することはできない。このため、先行技術による異常検出では、最適な保守点検、整備のタイミングを見落とす可能性が残存している。
そこで本発明の目的は、冷却装置の温度と外気温、そして、電力変換装置の発熱量に直接影響する電力変換回路が制御する電流量に基づき、冷却装置の性能劣化を早期にしかも高精度に診断可能とすることにある。
すなわち、本発明は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、本発明による冷却装置の異常検知システムは、電力変換回路を冷却する冷却装置の異常を検知する異常検知システムであって、前記冷却装置の代表温度を測定する第1の温度センサと、外気温度を測定する第2の温度センサと、前記電力変換回路が制御する入出力電流を測定する電流センサとを備え、前記第1の温度センサ、前記第2の温度センサ及び前記電流センサからの各測定信号に基づいて、前記冷却装置の性能を推定することを特徴としている。
更にこの異常検知システムは、電力変換装置が移動体に搭載されている場合には、各センサからの入力信号を地上システムに伝送する通信システムを備えることで、冷却装置の性能の推定及びその経年劣化に関する情報の算出を、通信システムの伝送先である地上システムで行うことができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
鉄道車両1の床下に実装された電力変換装置4は、電力変換回路100により、図示しない鉄道車両駆動モータに電力を供給するものである。電力変換回路100とモータとの間でやりとりする入出力電流の増大に応じて、電力変換回路100の発熱量が増大する。
電力変換回路100が過熱すると熱暴走の危険が高まるばかりでなく、急激な温度変化に伴い、基板などに激しい熱膨張、収縮が繰り返されることによって、物理的に破損する可能性が高まる。そこで電力変換回路100を冷却する冷却装置101を配備し、回路素子群から発生する熱を車外に放散させる。
すなわち、電力変換回路100からの発熱は冷却装置101に伝熱し、外気を吸入する冷却ファン102により、冷却装置101に伝熱した熱を外気へ放散することで、電力変換回路100が所定の温度以上とならないように冷却される。
冷却装置101の性能が劣化すると、最終的には、電力変換回路100を所定の温度以下に維持することが困難となり、上述の問題が発生する。これを未然に防止するため、冷却装置101の代表温度(装置温度:Tb)を測定する第1の温度センサと、外気温度(空調装置吸気温度:Ta)を測定とする第2の温度センサと、電力変換回路100が制御する入出力電流(入出力電流:Im)を測定とする電流センサとを設け、これらのセンサから測定信号に基づいて、異常診断部112が冷却装置101の性能を推定する。
冷却装置101には、その代表温度Tb201をモニタリングするための温度センサ(第1の温度センサ)が、電力変換回路100の取付け面またはその近傍に設置される。本実施例では、電力変換回路100と冷却装置101を取り付けるベースと、電力変換回路100と接合面との間に介装することで、冷却装置101の代表温度としている。
一方、冷却ファン102が吸い込む外気温度Ta202をモニタリングするための温度センサ(第2の温度センサ)が鉄道車両に設置される。本実施例では、鉄道車両1に設置される空調装置103が備える吸気温度センサにより、冷却ファン102が吸い込む外気温度を代用している。さらに、電力変換回路100と、図示しないモータの間でやりとりする入出力電流の電流値Im200をモニタリングするための電流センサが電力変換装置4に設置されている。
状態監視装置106は、冷却装置温度Tb201、外気温度Ta202、入出力電流200の信号を入力し、それぞれの信号を車上側状態データ蓄積部104へ時系列データとして記録する。これと同時に、これらの信号を用いて冷却装置の性能指標である熱抵抗(単位時間あたりの発熱量に伴う温度上昇値)を推定する。
なお、熱抵抗は、外気温によっても異なるため、後述するように、装置温度Tbが外気温度Taとほぼ等しくなる、熱的に平衡な状態からデータの抽出を開始する。さらに、熱抵抗は冷却ファンの回転速度にも影響を受けるため、冷却ファンの回転速度に応じた補正係数により補正を行う。
冷却ファンの駆動方式には、鉄道車両の運行中、常時回転させるもの、あるいは、装置温度Tbに対応して冷却ファンをON・OFFさせるもの、さらに、装置温度Tbに対応して冷却ファンの回転数を段階的、あるいは連続的に制御するものがある。そこで冷却ファンの回転速度に応じた補正は、例えば、駆動方式毎に実験等により予め求めておいたマップから補正係数を参照することで行えばよい。
また、図2に示すように、地上側データ処理システム3が完備していない路線等でも対応可能なように、すべて機能を車上側データ処理システム2に集中させ、車上側の異常診断部112により熱抵抗の推定するようにしてもよい。
そのほか、温度センサ、電流センサ及び通信装置のみ、車上側に搭載し、他をすべて地上側データ処理システム3に集中するなど、全体のシステム構成に応じて、両者に搭載する機器や機能を種々選択することが可能である。
車上側データ処理システム2に搭載された状態監視装置106が算出した熱抵抗、あるいは、車上側状態データ蓄積部104に蓄積した状態データは、車上側通信装置105及び地上側通信装置111を介して、地上側データ処理システム3に伝送される。伝送のタイミングは、異常検知の対象が冷却性能の経年劣化であることから、通常は、例えば鉄道車両が保守基地に入庫するタイミングで定期的に伝送する。
なお、冷却装置101に用いるヒートパイプの破損などに起因して、装置温度Tbが電力変換装置4の許容温度に接近する等、経年劣化以外の要因での冷却装置の突発異常を検出して、事後保全に役立てる場合等には、車上側データ処理システム2が異常通報をリアルタイムで伝送する。
本実施例では、無線による伝送事例を示しているが、伝送形態としては、通信ケーブル等によるものも含め、これに限定されるものではない。
算出された熱抵抗が、あらかじめ設定される閾値あるいは判定条件を満足した場合、モニタ114による表示などを通じて、冷却装置101の経年劣化を保守管理者に知らせる構成としている。なお、モニタ114が必ずしも必要なものではなく、警告灯、警報、さらには保守を必要とする鉄道車両の番号を紙出力する等、保守管理の運用に適した出力を行うようにすればよい。
熱抵抗推定に適した時系列データセットとは、例えば、鉄道車両が当日の運行を開始する際、冷却装置に蓄えられた熱量が実質ゼロの状態から、冷却装置に熱負荷の入力が始まる瞬間をデータの先頭とし、その熱負荷の入力が停止後、冷却装置にそれまでに加えられた熱量の蓄積がなくなった瞬間をデータの最後尾とするデータセットである。
図3は、データセットの抽出開始時刻を求める処理のフローチャートを示す。ある時刻において、装置温度Tbと外気温度Taの差が、実質的にゼロとみなせる程度の値DT(min)より小さいかどうかを判定する。さらにこの条件で入出力電流Imが実質的にゼロとみなせる程度の値Im(min)よりも大きい値を示すときの時刻を、データセットの先頭部、即ちデータセットの抽出開始時刻に設定する。これにより、運行当日の外気温等を反映したデータ抽出を開始することが可能となる。
図3のフローチャートに沿って設定した抽出開始時刻を初期値に時刻を更新し、各時刻において、入出力電流Imが実質的にゼロとみなせる程度の値Im(min)よりも小さいかどうかを判定し、さらにこの条件で装置温度Tbと外気温度Taの差が、実質的にゼロとみなせる程度の値DT(min)より小さい値を示すときの時刻を、データセットの後尾部、即ちデータセットの抽出終了時刻に設定する。
なお、抽出終了時刻については、必ずしも、鉄道車両が当日の運行を終了し、装置温度Tbと外気温度Taの差が、実質的にゼロとみなせる程度の値DT(min)より小さい値を示すときに限定する必要はなく、例えば、運行停止が所定時間以上継続したとき、装置温度Tbが所定温度以下になったときなど、種々定めることができる。
図5に示す区間tsからt1までの温度上昇Tb−Taは、以下の関数で近似できる。
Tb-Ta=f(t)=k×Im×R×{1-exp[-(t-ts)/(C×R)]} (式1)
ここでkは入出力電流から電力変換回路の発熱量を換算する定数、Cは冷却装置の熱容量を示す定数であり、それぞれ装置の設計段階で事前取得する定数である。
(式1)はtsからt1までの区間を表す式であるが、重ね合わせの原理を用いることで、tsからteまでの区間も、(式1)をベースとする関数で温度上昇を記述することができる。
したがって、所定タイミング毎の式(1)による演算結果に対して最小二乗法等の手法を用いてカーブフィッティングすることで、熱抵抗Rを推定することができる。
本実施例では、冷却装置101として、冷却ファンを用いた強制空冷方式を採用していることから、冷却装置101の経年劣化の要因として、外気との熱交換部におけるゴミや粉塵の付着によって、冷却装置101への通風量や伝熱量が低下し、冷却装置101の熱抵抗が車両の稼働時間が増えるに従って漸増していくことが考えられる。
図6は、このような要因による熱抵抗の経年劣化の典型的な傾向を示すものであり、点線の領域に示すように、計画点検値に到るまでに、熱抵抗が減少することなく緩やかな上昇を継続することになる。これにより、熱抵抗が設計上限値に達する前に、確実に劣化の傾向を読み取ることができる。このような漸増の傾向は、本実施例で示した熱抵抗の高精度な推定により有意に抽出でき、冷却装置の性能の経年劣化に関する予兆を正確に抽出することが可能となる。
このように、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
3 地上側データ処理システム 4 電力変換装置
100 電力変換回路 101 冷却装置
102 冷却ファン 103 空調装置
104 車上側状態データ蓄積部 105 車上側通信装置
106 状態監視装置 110 異常分析データ蓄積部
111 地上側通信装置 112 異常診断部
113 地上側状態データ蓄積部 114 モニタ
200 入出力電流 201 冷却装置温度
202 空調装置吸気温度
Claims (5)
- 電力変換回路を冷却する冷却装置の異常を検知する異常検知システムであって、
前記冷却装置の代表温度を装置温度として測定する第1の温度センサと、
外気温度を測定する第2の温度センサと、
前記電力変換回路が制御する入出力電流を測定する電流センサと、
前記第1の温度センサ、前記第2の温度センサ及び前記電流センサからの各測定信号を時系列の状態データとして蓄積する状態データ蓄積部とを備え、
前記状態データ蓄積部から、前記冷却装置に熱負荷の入力が始まる瞬間を抽出開始時刻とし、前記冷却装置に熱量の蓄積がなくなった瞬間を抽出終了時刻とする前記状態データの時系列データセットを抽出し、前記抽出開始時刻から前記抽出終了時刻までの前記装置温度と前記外気温度との差及び前記入出力電流に基づいて前記冷却装置の性能指標である当該冷却装置の熱抵抗を推定する
ことを特徴とする異常検知システム。 - 請求項1に記載の異常検知システムであって、
推定した前記冷却装置の熱抵抗に基づいて前記冷却装置の冷却性能の経年劣化の兆候を検知する
ことを特徴とする異常検知システム。 - 請求項1または請求項2に記載の異常検知システムであって、
通信装置及び地上側処理システムを備え、
前記電力変換回路、前記冷却装置、前記第1の温度センサ、前記第2の温度センサ、前記電流センサ及び前記通信装置は、移動体に搭載され、
前記通信装置が、前記第1の温度センサ、前記第2の温度センサ及び前記電流センサの各測定信号を前記地上側処理システムに伝送し、
前記地上側処理システムは、前記状態データ蓄積部を備え、前記冷却装置の熱抵抗の推定あるいは前記冷却装置の経年劣化に関する予兆の抽出を行う
ことを特徴とする異常検知システム。 - 請求項1または請求項2に記載の異常検知システムであって、
異常診断部を備え、
前記電力変換回路、前記冷却装置、前記第1の温度センサ、前記第2の温度センサ、前記電流センサ、前記状態データ蓄積部及び前記異常診断部は、移動体に搭載され、
前記異常診断部が、前記冷却装置の熱抵抗を推定する、あるいは当該熱抵抗の推定に基づいて前記冷却装置の冷却性能の経年劣化の兆候を検知する
ことを特徴とする異常検知システム。 - 請求項3または請求項4に記載の異常検知システムであって、
前記移動体は軌条車両である
ことを特徴とする異常検知システム。
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