JP6413562B2 - エンジン制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、車両の走行状態に応じて予混合燃焼運転と拡散燃焼運転とを切り替えて実施するエンジンの制御装置に関する。
従来、車両の走行状態に応じてエンジン筒内における燃焼状態を変更する技術が提案されている。すなわち、一つのエンジンで予混合燃焼と拡散燃焼とを併用する技術である。予混合燃焼とは、燃料と酸素(酸化剤)とが予め混合されている燃料混合気の燃焼形態であり、例えば燃料を吸気ポート内に噴射する火花点火式ガソリンエンジンでの燃焼形態である。また、拡散燃焼とは、燃料と酸素との混合状態がやや不均一な(燃料と酸素とが互いに拡散しながら燃焼する)燃焼混合気の燃焼形態であり、例えば燃料が筒内に直接的に噴射される圧縮点火式ディーゼルエンジンでの燃焼形態である。
これらの二種類の燃焼状態を実現するディーゼルエンジンは、PCCI(Premixed Charge Compression Ignition)エンジン,HCCI(Homogeneous Charge Compression Ignition)エンジン,CAI(Controlled Auto Ignition)エンジン等と呼ばれている。また、近年では、火花点火式のガソリンエンジンで予混合圧縮自着火燃焼を成立させる技術も開発されている。
予混合燃焼は、希薄な燃料混合気の燃焼であることから、拡散燃焼と比較して燃焼温度が低く、窒素酸化物やすすの生成量が少ない。そのため、窒素酸化物やすすの発生量が規制されている車両用のエンジンにおける燃焼形態を予混合燃焼とすることで、車両の排気性能を改善することが可能となる(特許文献1,2参照)。
特許第5447294号公報 特許第3931900号公報
しかしながら、予混合燃焼は拡散燃焼よりも短時間で燃焼反応が進行,完了することから、燃焼に伴って発生する騒音が大きくなりやすいという難点がある。そのため、排気性能を高めつつ車両の静粛性を維持することが難しく、ドライブフィーリングを向上させにくいという課題がある。
本件は、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、排気性能と車両の静粛性とをともに向上させるエンジン制御装置を提供することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
(1)ここで開示するエンジン制御装置は、車両の走行状態に応じて予混合燃焼運転と拡散燃焼運転とを切り替えて実施するエンジンの制御装置において、運転者の運転操作に基づき、前記車両を急加速させる急加速要求の有無を検出する検出部と、前記予混合燃焼運転中に前記検出部で前記急加速要求が検出された場合に、前記エンジンの騒音量に相関するパラメータを含む条件を用いて、前記予混合燃焼運転を継続するか前記拡散燃焼運転に切り替えるかを判定する判定部とを備える。前記判定部は、前記パラメータが下限値未満である場合に、前記予混合燃焼運転を継続し、前記パラメータが前記下限値よりも大きい上限値以上である場合に、前記予混合燃焼運転を前記拡散燃焼運転に切り替える。あるいは、前記判定部は、前記パラメータの目標値と実値との差が所定値未満であれば、前記予混合燃焼運転を継続し、前記差が前記所定値以上であれば、前記予混合燃焼運転を前記拡散燃焼運転に切り替える。
前記予混合燃焼運転とは、燃料と酸素とを前記エンジンの筒内でほぼ均一に分布させ、その混合気を自着火燃焼させる運転状態を意味する。また、前記拡散燃焼運転とは、前記燃料と前記酸素との混合状態がやや不均一な混合気を生成し、その混合気を自着火燃焼させる運転状態を意味する。前記予混合燃焼運転における吸気酸素濃度は、前記拡散燃焼運転における吸気酸素濃度よりも低くなるように制御される。
(2)前記判定部が、前記エンジンの過給圧又は吸気酸素濃度を前記パラメータとした条件を用いることが好ましい
)前記下限値及び前記上限値が、前記エンジンの負荷及びエンジン回転数に基づいて設定されることが好ましい。
)前記判定部は、前記パラメータの目標値と実値との差が所定値未満であれば、前記予混合燃焼運転を継続し、前記差が前記所定値以上であれば、前記予混合燃焼運転を前記拡散燃焼運転に切り替えることが好ましい。
)前記所定値が、前記エンジンの負荷及びエンジン回転数に基づいて設定されることが好ましい。
ここで開示するエンジン制御装置によれば、エンジンの騒音量に相関するパラメータを含む条件を用いることで、騒音が運転者に違和感を与えない範囲で予混合燃焼運転を継続することができ、排気性能を向上させることができる。また、騒音が増大しうる運転状態では予混合燃焼運転が拡散燃焼運転に切り替えられるため、過剰に騒音が増大することがなく、排気性能を向上させつつドライブフィーリングを向上させることができる。
実施形態のエンジン制御装置の全体構成を示す模式図である。 (A)は拡散燃焼運転での燃料噴射パターン、(B)は予混合燃焼運転での燃料噴射パターン、(C)は熱発生率、(D)は筒内圧を示すグラフである。 予混合燃焼と拡散燃焼とを切り替えるためのマップ例である。 減速比と所定時間T0との関係を示すグラフである。 急加速要求時の判定内容を説明するための図であり、(A)は過給圧に基づくもの、(B)は吸気酸素濃度に基づくものである。 車速と所定時間T2との関係を示すグラフである。 急減速操作時の判定内容を説明するための図であり、(A)は過給圧に基づくもの、(B)は吸気酸素濃度に基づくものである。 通常時の制御手順を示すフローチャートである。 急加速時の制御手順を示すフローチャートである。 急減速時の制御手順を示すフローチャートである。
図面を参照して、実施形態としてのエンジン制御装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
[1.エンジン]
本実施形態のエンジン制御装置1は、図1に示すエンジン10を搭載した車両に適用される。図1中には、エンジン10に設けられる複数のシリンダーのうちの一つを例示する。このエンジン10は、軽油を燃料とするディーゼルエンジンであり、車両の走行状態に応じて拡散燃焼運転と予混合燃焼運転とを切り替えて実施するものである。拡散燃焼運転とは、エンジン10の筒内で拡散燃焼(拡散圧縮自着火燃焼)を実現する運転モードである。一方、予混合燃焼運転とは、エンジン10の筒内で予混合燃焼(予混合圧縮自着火燃焼)を実現する運転モードである。本実施形態のエンジン10では、これらの二種類の燃焼状態が車両の走行状態に応じて使い分けられる。
シリンダーの頂面には、吸気ポート,排気ポートが設けられ、それぞれのポート開口には吸気弁,排気弁が設けられる。また、筒内の上部には、筒内噴射弁11がその先端を燃焼室側に突出させた状態で設けられる。筒内噴射弁11は、各々の筒内に燃料を噴射する直噴インジェクターであり、高圧の燃料が内部に蓄えられたコモンレール(蓄圧室)に接続される。
筒内噴射弁11から供給される燃料噴射量や噴射タイミングは、エンジン制御装置1で制御される。例えば、エンジン制御装置1から筒内噴射弁11に制御パルス信号が伝達されると、筒内噴射弁11の噴孔がその制御パルス信号の大きさに対応する期間だけ開放される。これにより、燃料噴射量は制御パルス信号の大きさ(駆動パルス幅)に応じた量となり、燃料噴射時期(噴射タイミング)は制御パルス信号が伝達された時刻に対応したものとなる。
拡散燃焼運転時における燃料噴射パターンを図2(A)に示す。ここでは、パイロット噴射,プレ噴射,メイン噴射,ポスト噴射の四段階からなる多段噴射が実施される場合について説明する。パイロット噴射,プレ噴射は圧縮行程中に実施され、エンジン出力に最も寄与するメイン噴射は圧縮上死点(TDC)の前後で実施され、ポスト噴射は燃焼行程以降に実施される。拡散燃焼運転での熱発生率は、図2(C)中に破線で示すように、メイン噴射の直後に最大となる。メイン噴射の終了時刻θ1から着火時刻θ2までの時間(着火遅れ時間)は比較的短時間であり、メイン噴射の実施中に着火することもありうる。また、拡散燃焼運転での筒内圧は、図2(D)中に破線で示すように、比較的なだらかに変動する。
一方、予混合燃焼運転時における燃料噴射パターンを図2(B)に示す。予混合燃焼運転ではパイロット噴射,プレ噴射,ポスト噴射が省略され、メイン噴射が圧縮行程中に実施される。また、圧縮上死点(TDC)の前後では、アフター噴射が補助的に実施される。予混合燃焼運転での熱発生率は、図2(C)中に実線で示すように、メイン噴射から所定の予混合期間を経て最大となる。メイン噴射の終了時刻θ3から着火時刻θ4までの着火遅れ時間は、拡散燃焼運転での着火遅れ時間よりも長くなる。また、予混合燃焼運転での筒内圧は、拡散燃焼運転における筒内圧よりも急激に増減するような特性を持ち、図2(D)中に実線で示すように、ピーキーな(尖頂状の)グラフ形状となる。
エンジン10の吸気通路12及び排気通路13には、排気圧を利用して吸気通路12上の空気を筒内へと強制的に送り込むことで過給するターボチャージャー14(過給機)が介装される。吸気通路12には、上流側から順にエアクリーナー16,低圧スロットル弁17,ターボチャージャー14,インタークーラー18,高圧スロットル弁19が設けられる。一方、排気通路13では、ターボチャージャー14よりも下流側に排気浄化装置15が介装される。この排気浄化装置15には、DOC(ディーゼル酸化触媒)15AやDPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)15B等が内蔵される。
また、このエンジン10には、排気の一部を吸気側に再循環させるための高圧EGR通路20と低圧EGR通路23とが設けられる。高圧EGR通路20は、ターボチャージャー14よりも上流側の排気通路13と高圧スロットル弁19よりも下流側の吸気通路12とを接続する通路である。この高圧EGR通路20には、高圧EGRクーラー21及び高圧EGR弁22が介装される。また、低圧EGR通路23は、ターボチャージャー14よりも下流側の排気通路13とインタークーラー18よりも上流側の吸気通路12とを接続する通路である。低圧EGR通路23には、低圧EGRフィルタ24,低圧EGRクーラー25,低圧EGR弁26が介装される。高圧EGR弁22及び低圧EGR弁26の弁開度は可変である。
エンジン10のクランクシャフトの近傍には、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ31が設けられる。また、吸気通路12の高圧スロットル弁19よりも下流側には、筒内に導入される吸気の圧力(過給時における過給圧P)を検出する圧力センサ32と、吸気中の酸素濃度(吸気酸素濃度D)を検出する酸素濃度センサ33とが設けられる。
車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ34と、シフトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサ35と、車速を検出する車速センサ36とが設けられる。シフトレバーの操作位置は、車両に搭載される変速機の変速段(例えば1速,2速,…,6速等)に対応し、段数が大きいほど(低速段から高速段へと向かうほど)減速比が小さいことを意味する。上記の各種センサ31〜36で検出された各種情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
[2.エンジン制御装置]
上記のエンジン10を搭載する車両には、エンジン制御装置1(Engine Electronic Control Unit,制御装置)が設けられる。エンジン制御装置1は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを総合的に制御する電子制御装置であり、エンジン10の各シリンダーに供給される吸入空気量や燃料噴射量,燃料噴射時期,EGR量等を制御するものである。エンジン制御装置1は、車載ネットワーク網を介して、他の電子制御装置(例えば、変速機ECU,エアコンECU,ブレーキECU,車体制御ECU,ボディECU等)や各種センサ31〜36に接続される。
このエンジン制御装置1は、例えばCPU(Central Processing Unit),MPU(Micro Processing Unit)等のマイクロプロセッサやROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory),不揮発メモリ等を集積した電子デバイスである。マイクロプロセッサは、制御ユニット(制御回路)や演算ユニット(演算回路),キャッシュメモリ(レジスタ群)等を内蔵する処理装置(プロセッサ)である。また、ROM,RAM及び不揮発メモリは、プログラムや作業中のデータが格納されるメモリ装置である。エンジン制御装置1での制御内容は、例えばアプリケーションプログラムとしてROM,RAM,不揮発メモリ,リムーバブルメディア内に記録される。また、プログラムの実行時には、プログラムの内容がRAM内のメモリ空間内に展開され、マイクロプロセッサによって実行される。
本実施形態のエンジン制御装置1は、車両の走行状態に応じて、予混合燃焼運転と拡散燃焼運転とを切り替える「燃焼状態切り替え制御」を実施する。車両の走行状態は、例えば各種センサ31〜36で検出された各種情報に基づいて判断される。また、筒内での燃焼状態(予混合燃焼,拡散燃焼)は、図2(A),(B)に示すように、燃料噴射量及び燃料噴射タイミングを制御しつつ、吸入空気量やEGR量を調節することで、切り替えられるものとする。エンジン制御装置1には、燃焼状態切り替え制御を実施するための要素として、検出部2,マップ記憶部3,判定部4,制御部8が設けられる。
[2−1.検出部]
検出部2は、燃焼状態切り替え制御で参照される運転者の運転操作を検出するものである。ここでは、変速機の変速段,その変速段になってからの経過時間,急加速要求,急減速要求,要求負荷の情報が取得される。変速機の変速段は、シフトポジションセンサ35で検出されたシフトレバーの操作位置の情報に基づき、現在の変速段が何速であるかが把握される。また、シフトレバーの操作位置が変更される度に、現在の変速段になってからの経過時間が計測される。急加速要求,急減速要求,要求負荷の有無は、運転者の運転操作に基づいて検出可能である。これらの変速段,経過時間,急加速要求,急減速要求,要求負荷の情報は、判定部4に伝達される。
本実施形態では、アクセル開度センサ34で検出されたアクセル開度に基づいて、急加速要求,急減速要求,要求負荷の有無が判断される。例えば、アクセル開度が正である場合(アクセルオンの場合)、検出部2は「要求負荷がある」と判定する。また、アクセル開度の時間変化率が正の所定値以上である場合、検出部2は「急加速要求がある」と判定する。急加速要求時におけるエンジン10の運転点の移動方向は、エンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neの増加方向となる。例えば、図3中の運転点R1,運転点R2は、急加速要求が検出された後に右上方向へと移動する。
アクセル開度の時間変化率が負の所定値以下である場合、検出部2は「急減速要求がある」と判定する。急減速要求時における運転点の移動方向は、エンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neの減少方向となる。例えば、図3中の運転点R3,運転点R4は、急減速要求が検出された後に左下方向へと移動する。なお、アクセル開度の代わりにブレーキペダルの踏み込み量やブレーキ液圧の時間変化率,クラッチペダルの踏み込み量,シフトレバーのニュートラルポジションへの操作等を参照して、急減速要求の有無を判断してもよい。
[2−2.マップ記憶部]
マップ記憶部3は、車両の走行状態と燃焼状態との対応関係が規定された制御マップを記憶するものである。車両の走行状態は、少なくともエンジン負荷Ec,エンジン回転数Neの何れか一方に基づいて把握され、好ましくはエンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neの双方に基づいて把握される。ここでいうエンジン負荷Ecとは、エンジン10に対する出力要求に相当するパラメータであり、例えばアクセル開度センサ34で検出されたアクセル開度や車速,吸入空気量,吸気圧等に基づいて算出される。なお、車両の走行状態を把握する際には、外気温,外気圧,エンジン冷却水温等も考慮することが好ましい。
図3に示すように、本実施形態では、エンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neによって定められる運転点と燃焼状態との対応関係が変速段毎に設定された制御マップが使用される。図3中の領域M1は変速段が1速のときに予混合燃焼運転が実施される領域を表し、領域M1を含む領域M2は、変速段が2速のときに予混合燃焼運転が実施される領域を表す。同様に、領域M1及び領域M2を含む領域M3は、変速段が3速のときに予混合燃焼運転が実施される領域であり、領域M1〜M3の全てを含む領域M4は、変速段が4速以上のときに予混合燃焼運転が実施される領域である。なお、領域M1〜M4よりも外側の領域Cは、それぞれの変速段において拡散燃焼運転が実施される領域(予混合燃焼運転が実施されない領域)である。
エンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neと各領域M1〜M4との関係を以下の表に例示する。なお、表1中に示すNe1〜Ne5,Ec1〜Ec4の大小関係は、Ne1<Ne2<Ne3<Ne4<Ne5,Ec1<Ec2<Ec3<Ec4である。これらの値は、例えば予め設定された固定値であってもよいし、車両の走行条件(例えば、外気温,外気圧,エンジン冷却水温等)に基づいて算出される可変値であってもよい。
Figure 0006413562
マップ上における予混合燃焼運転の実施領域は、変速段の段数が増大するに連れて拡張されている。例えば、変速段が2速の状態では、変速段が1速の状態と比較して、予混合燃焼運転の実施領域がエンジン回転数Neの増大方向(右方向)に拡大されている。つまり、変速段の減速比が小さいほど、予混合燃焼運転の実施条件のうち、エンジン回転数Neの上限値が大きくなっている。
また、変速段が3速の状態では、変速段が2速の状態と比較して、予混合燃焼運転の実施領域がエンジン回転数Neの増大方向(右方向)だけでなく、エンジン負荷Ecの増大方向(上方向)にも拡大されている。つまり、変速段の減速比が小さいほど、予混合燃焼運転の実施条件のうち、エンジン負荷Ecの上限値が大きくなっている。
ここで、変速段が1速であるときの減速比を第一減速比と呼び、変速段が2速であるときの減速比を第二減速比と呼ぶ。第二減速比は、第一減速比よりも小さい値を持つ。
減速比が第一減速比未満である場合(例えば変速段が2速の場合)には、減速比が第一減速比以上である場合(例えば変速比が1速の場合)よりもエンジン回転数Neの上限値が大きくなる(Ne4>Ne3)ように、予混合燃焼運転の実施領域が設定される。
また、減速比が第二減速比未満である場合(例えば変速段が3速の場合)には、減速比が第二減速比以上である場合(例えば変速比が2速の場合)よりもエンジン負荷Ecの上限値が大きくなる(Ec3>Ec2)ように、予混合燃焼運転の実施領域が設定される。
このように、予混合燃焼運転の実施領域が拡大する方向は、マップ上でエンジン回転数Neの増大方向(右方向)及びエンジン負荷Ecの増大方向(上方向)の二方向である。また、変速段の段数の増大に対して、これらの二方向に向かって均等に拡大するのではなく、エンジン回転数Neの増大方向への拡大がエンジン負荷Ecの増大方向への拡大よりも優先的に実施される。つまり、予混合燃焼運転の実施領域がエンジン負荷Ecの増大方向に拡大される最小の変速段が3速であるのに対して、エンジン回転数Neの増大方向に拡大される最小の変速段は3速よりも減速比の大きい2速とされる。このようなマップの設定により、エンジン10の騒音が生じにくい方向へと予混合燃焼運転の実施領域が広げられることになる。
[2−3.判定部]
判定部4は、車両の走行状態が予混合燃焼運転の実施条件を満たすか否かを判定するものである。判定部4には、第一判定部5,第二判定部6,第三判定部7が設けられる。第一判定部5は、運転点に基づく原則的な判定を実施するものである。一方、第二判定部6は、原則に対する例外的な判断を下すものであり、急加速操作がなされた場合の判定を担う。同様に、第三判定部7は、急減速操作がなされた場合の判定を担う。したがって、第一判定部5での判定内容は、急加速操作や急減速操作ではない通常操作の場合に採用される。このように、急加速操作や急減速操作がなされた場合に限って通常とは異なる判定を実施する理由は、これらの操作に由来する運転状態の変化によって、エンジン10で発生する騒音の大きさや騒音のマスキング効果(乗員に対する騒音の伝わりやすさ)も変化するからである。
[A.第一判定部]
第一判定部5は、マップ記憶部3が記憶している制御マップに基づき、予混合燃焼運転の実施条件を判定する。ここでは、車両のエンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neによって定められる運転点が、その時点の変速段に基づいて設定される実施領域内に存在する場合に、予混合燃焼運転の実施条件が成立するものと判断される。
例えば、変速段が1速であるときには、運転点が領域M1(Ne1≦Ne≦Ne3かつEc1≦Ec≦Ec2)に含まれる場合に、予混合燃焼運転の実施条件が成立するものと判定される。また、変速段が3速であるときには、運転点が領域M3(Ne1≦Ne≦Ne2かつEc1≦Ec≦Ec2、又は、Ne2≦Ne≦Ne5かつEc1≦Ec≦Ec3)に含まれるか否かが判定される。
ただし、変速機の変速段が変化した直後は、吸入空気量やEGR量,エンジン10の運転点等が過渡的に変化し、燃焼状態が不安定になる場合がある。そのため、変速段が変化してから所定時間T0が経過するまでの間は、予混合燃焼運転の実施条件の成否に関わらず、拡散燃焼運転の実施条件が成立するものと判断される。ここでの判定結果は制御部8に伝達される。
所定時間T0の設定手法としては、例えば以下のような手法が考えられる。
手法1:予め設定された固定値(例えば数秒)とする
手法2:変速段(減速比)に応じて設定される可変値とする
手法3:過給圧P,吸気酸素濃度Dが安定するまでの時間とする
上記の手法2は、変速機の変速段又は減速比に応じて所定時間T0を設定するものである。この場合、変速段(減速比)と所定時間T0との対応関係を制御マップとして設定しておくことが好ましい。また、上記の手法3は、吸気遅れや過給遅れによる燃焼安定性の低下を抑制するための手法であり、例えば過給圧P,吸気酸素濃度Dの各々について、目標値と実値との差ΔP,ΔDが所定値以下になるまでの時間を所定時間T0とするものである。
過給圧P,吸気酸素濃度Dの実値としては、圧力センサ32,酸素濃度センサ33で検出された値を用いることができる。また、過給圧P,吸気酸素濃度Dの目標値は、例えばアクセル開度や車速,吸入空気量,吸気圧等に基づいて算出可能である。なお、上記の手法2,手法3を併用して、変速段の段数が大きいほど、目標値と実値との差ΔP,ΔDについての閾値である所定値の値を小さく設定することとしてもよい。
本実施形態では、上記の手法2に基づき、減速比が小さいほど所定時間T0が短く設定されるものとする。減速比と所定時間T0との関係を図4に例示する。この図4に示すように、変速段の段数が小さいほど、予混合燃焼運転の開始条件を判定するまでの時間が延長される。また、変速段の段数が大きいほど、その時間が短縮される。これは、減速比が小さい状態と比較して、減速比が大きい状態では、燃焼状態が不安定になりやすいからである。
[B.第二判定部]
第二判定部6は、予混合燃焼運転中に検出部2で急加速要求が検出された場合の判定を実施する。この判定では、エンジン10の騒音量に相関するパラメータを含む条件が使用される。この判定の実施期間は、少なくとも急加速要求の検出中であり、好ましくはこれに加えて、急加速要求が検出されなくなってから所定時間T1が経過するまでの間とされる。ここでいう所定時間T1は、予め設定された固定値(例えば数秒)であってもよいし、エンジン10の運転状態に応じて設定される可変値(例えばエンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neに応じて設定される値)であってもよい。
エンジン10の騒音量に相関するパラメータの具体例としては、エンジン10の過給圧Pや吸気酸素濃度Dといった、筒内に導入される燃料混合気の成分比率が反映される物理量を挙げることができる。これらのパラメータは、燃料混合気の燃焼速度に影響を与える物理量である。なお、これらのパラメータに加えて吸気温度や湿度,吸気密度等を併用してもよい。
予混合燃焼運転が実施される条件(すなわち、予混合燃焼運転中に検出部2で急加速要求が検出された場合に、その予混合燃焼運転が継続される条件)は、『条件1又は条件2が成立すること、あるいは、条件3又は条件4が成立すること』である。ただし、予混合燃焼運転での騒音抑制効果を考慮して、予混合燃焼運転が実施される条件を『条件1又は条件2が成立し、かつ、条件3又は条件4が成立すること』としてもよい。
条件1:過給圧Pが第一下限値P1未満である
条件2:過給圧Pが第一下限値P1以上、第一上限値P2未満であり、かつ
過給圧Pの目標値と実値との差ΔPが第一所定値ΔPTH以上である
条件3:吸気酸素濃度Dが第二下限値D1未満である
条件4:吸気酸素濃度Dが第二下限値D1以上、第二上限値D2未満であり、かつ
吸気酸素濃度Dの目標値と実値との差ΔDが第二所定値ΔDTH2以上である
条件1〜条件4中の第一上限値P2は、第一下限値P1よりも大きな値であり、第二上限値D2は、第二下限値D1よりも大きな値である(P1<P2,D1<D2)。また、ここでいう『下限値』とは、適切な拡散燃焼が実施可能である下限の値を意味し、『上限値』とは、適切な予混合燃焼が実施可能である上限の値を意味する。
図5(A)は、条件1,条件2の内容を説明するための図である。過給圧Pに基づく判定が実施される場合、予混合燃焼運転中に急加速要求が検出されると、第二判定部6では過給圧Pと第一下限値P1,第一上限値P2との大小関係が判定される。例えば、過給圧Pが第一下限値P1未満であれば条件1が成立するため、予混合燃焼運転が実施される。また、過給圧Pが第一上限値P2以上であれば条件1,条件2がともに不成立となり、拡散燃焼運転が実施される。
過給圧Pがこれらの第一下限値P1,第一上限値P2の間に位置するならば、過給圧Pの目標値と実値との差ΔPに基づく判定がなされる。図5(A)に示すように、過給圧Pの目標値は、急加速要求に応じて徐々に増大する。また、過給圧Pの実値は、過給遅れを伴いつつ目標値に向かって漸近するように変化する。このように過給圧Pが過渡的に変化している状態であっても、差ΔPが第一所定値ΔPTH未満であれば、予混合燃焼運転が継続して実施される。また、過給圧Pの実値は、その目標値の経時変動(傾き)が小さくなった頃にオーバーシュートすることがある。一方、差ΔPが第一所定値ΔPTH以上になると、予混合燃焼運転から拡散燃焼運転へと切り替えられるため、騒音が過度に増大することはない。
第一下限値P1,第一上限値P2,第一所定値ΔPTHの各々は、予め設定された固定値であってもよいし、エンジン10の運転状態に応じて設定される可変値であってもよい。本実施形態では、上記の各々の値がエンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neに応じて設定されるものとする。例えば、第一下限値P1,第一上限値P2,第一所定値ΔPTHの各々について、エンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neによって定められる運転点と各値との対応関係が設定された制御マップをマップ記憶部3が記憶しているものとする。
図5(B)は、条件3,条件4の内容を説明するための図である。吸気酸素濃度Dに基づく判定が実施される場合、予混合燃焼運転中に急加速要求が検出されると、第二判定部6では吸気酸素濃度Dと第二下限値D1,第二上限値D2との大小関係が判定される。例えば、吸気酸素濃度Dが第二下限値D1未満であれば条件3が成立するため、予混合燃焼運転が実施される。また、吸気酸素濃度Dが第二上限値D2以上であれば条件3,条件4がともに不成立となり、拡散燃焼運転が実施される。そして吸気酸素濃度Dがこれらの第二下限値D1,第二上限値D2の間に位置するならば、吸気酸素濃度Dの目標値と実値との差ΔDに基づく判定がなされる。差ΔDに基づく具体的な判定手法については、差ΔPに基づく判定手法と同様であることから説明を省略する。なお、差ΔDの比較対象となる所定値のことを、第二所定値ΔDTH2と呼ぶ。
第二下限値D1,第二上限値D2,第二所定値ΔDTH2の各々は、予め設定された固定値であってもよいし、エンジン10の運転状態に応じて設定される可変値であってもよい。本実施形態では、上記の各々の値がエンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neに応じて設定されるものとする。例えば、第二下限値D1,第二上限値D2,第二所定値ΔDTH2の各々について、エンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neによって定められる運転点と各値との対応関係が設定された制御マップをマップ記憶部3が記憶しているものとする。
第二判定部6の判定結果は、第一判定部5の判定結果よりも優先される。したがって、たとえ第一判定部5で予混合燃焼運転の実施条件が成立するものと判断されていたとしても、急加速要求の検出中に条件1〜条件4が成立しなければ、予混合燃焼運転が実施されずに拡散燃焼運転が実施される。また、第二判定部6の判定が開始されてから所定時間T1が経過した場合には、第一判定部5の判定結果が採用される。なお、第二判定部6での判定は、予混合燃焼運転中の急加速要求に対応するものであることから、エンジン10の運転点が拡散燃焼運転領域に進入した場合には終了し、第一判定部5の判定結果が採用される。
上記の通り、急加速のアクセル操作によってエンジン負荷Ecが過渡的に上昇しつつあるときには、エンジン10の騒音量に相関するパラメータを含む条件に基づいて、予混合燃焼運転,拡散燃焼運転が切り替えられる。これにより、運転者にとって気にならない程度の騒音量が発生しうる運転状態では予混合燃焼運転が継続されるため、排気性能が向上する。また、過給圧Pが第一上限値P2以上となるような運転状態や、吸気酸素濃度Dが第二上限値D2以上となるような運転状態では、予混合燃焼運転が拡散燃焼運転に切り替えられるため、騒音が過剰に増大することが抑制される。
また、過給圧Pが二つの閾値P1,P2の間にあるときや、吸気酸素濃度Dが二つの閾値D1,D2の間にあるときには、過給圧P,吸気酸素濃度Dの目標値と実値との差ΔP,ΔDが参照される。これにより、図5(A),(B)に示すように、過給遅れや吸気遅れに由来するオーバーシュートが生じる前に、予混合燃焼運転が拡散燃焼運転に切り替えられることになり、騒音の過剰な増大がさらに抑制される。
[C.第三判定部]
第三判定部7は、検出部2で急減速要求が検出された場合の判定を実施する。ここでは、少なくとも急減速要求が検出されている間の予混合燃焼運転が禁止され、代わりに拡散燃焼運転が許可される。本実施形態では、急減速要求の検出中だけでなく、急減速要求が検出されなくなってから所定時間T2が経過するまでの間も、予混合燃焼運転が禁止される。
所定時間T2の設定手法としては、例えば以下のような手法が考えられる。
手法4:予め設定された固定値(例えば数秒)とする
手法5:車速に応じて設定される可変値とする
手法6:過給圧P,吸気酸素濃度Dが安定するまでの時間とする
上記の手法5では、車速が大きいほど所定時間T2が短く設定される。この場合、例えば図6に示すように、車速と所定時間T2との対応関係を制御マップとして設定しておくことが好ましい。これにより、高速走行時における予混合燃焼運転の禁止時間が短くなり、排気性能が向上する。また、車速が小さいほど予混合燃焼運転の禁止時間が長くなることから、エンジン10の燃焼安定性が向上する。なお、車速の値は車速センサ36で検出可能であるほか、エンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neに基づいて算出することも可能である。
上記の手法6は、手法3と同様に吸気遅れや過給遅れによる燃焼安定性の低下を抑制するための手法であり、例えば過給圧P,吸気酸素濃度Dの各々について、目標値と実値との差ΔP,ΔDが所定値以下になるまでの時間を所定時間T2とするものである。過給圧P,吸気酸素濃度Dの実値としては、圧力センサ32,酸素濃度センサ33で検出された値を用いることができ、過給圧P,吸気酸素濃度Dの目標値は、例えばアクセル開度や車速,吸入空気量,吸気圧等に基づいて算出可能である。
図7(A)に示すように、過給圧Pの目標値は急減速要求に応じて徐々に減少する。また、過給圧Pの実値は、過給遅れを伴いつつ目標値に向かって漸近するように変化する。過給圧Pに基づく判定が実施される場合、過給圧Pが過渡的に変化している状態では予混合燃焼運転が禁止され、代わりに拡散燃焼運転が許可される。その後、差ΔPが第三所定値ΔPTH3以下になると、この禁止が解除される。吸気酸素濃度Dに基づく判定が実施される場合も同様であり、図7(B)に示すように、吸気酸素濃度Dが過渡的に変化している状態では予混合燃焼運転が禁止され、代わりに拡散燃焼運転が許可される。その後、差ΔDが第四所定値ΔDTH4以下になると、この禁止が解除される。
ただし、予混合燃焼運転が禁止されている間に、運転者による要求負荷が生じた場合には、その禁止を解除して予混合燃焼運転を許可することにする。要求負荷の有無は、検出部2で判定される。禁止を解除するタイミングは、要求負荷が生じた時点としてもよく、あるいは、エンジン10の騒音量に相関するパラメータ(過給圧P,吸気酸素濃度D,吸気温度,湿度,吸気密度等)を含む条件を用いて、禁止を解除するか否かを判断してもよい。
例えば、過給圧Pに基づく判定が実施されている場合には、差ΔPが第三所定値ΔPTH3よりも小さい第五所定値ΔPTH5以下になった時点で禁止を解除することが考えられる。また、吸気酸素濃度Dに基づく判定が実施されている場合には、差ΔDが第四所定値ΔDTH4よりも小さい第六所定値ΔDTH6以下になった時点で禁止を解除する。これらの制御により、エンジン10の騒音量に相関するパラメータが収束していることを前提として、要求負荷が増大するタイミングで予混合燃焼運転が開始されることになり、ドライブフィーリングが向上する。
なお、上記の手法5,手法6を併用する場合には、変速段の段数が大きいほど、目標値と実値との差ΔP,ΔDについての閾値である所定値(第三所定値ΔPTH3,第四所定値ΔDTH4,第五所定値ΔPTH5,第六所定値ΔDTH6)の値を小さく設定すればよい。これにより、過給圧P,吸気酸素濃度Dの収束性を考慮しつつ、車速が大きいほど所定時間T2を短くすることができる。
また、検出部2で急減速要求が検出されたときに、直ちに予混合燃焼運転を禁止するのではなく、予混合燃焼運転が禁止される条件を判定する制御構成としてもよい。すなわち、図7(A),(B)に示すように、上記の差ΔP,ΔDだけでなく、過給圧P,吸気酸素濃度Dの値を参照して、予混合燃焼運転が禁止される条件を判定してもよい。ここで、予混合燃焼運転の禁止が解除される解除条件の具体例を以下に示す。
条件5:過給圧Pが第三下限値P3未満である
条件6:過給圧Pが第三下限値P3以上、第三上限値P4未満であり、かつ
過給圧Pの目標値と実値との差ΔPが第三所定値ΔPTH3以下である
条件7:吸気酸素濃度Dが第四下限値D3未満である
条件8:吸気酸素濃度Dが第四下限値D3以上、第四上限値D4未満であり、かつ
吸気酸素濃度Dの目標値と実値との差ΔDが第四所定値ΔDTH4以下である
条件5〜条件8中の第三上限値P4は、第三下限値P3よりも大きな値であり、第四上限値D4は、第四下限値D3よりも大きな値である(P3<P4,D3<D4)。
過給圧Pに基づく判定を実施する場合、急減速要求が検出されると、第三判定部7では過給圧Pと第三下限値P3,第三上限値P4との大小関係が判定される。例えば、過給圧Pが第三下限値P3未満であれば条件1が成立するため、予混合燃焼運転の禁止が解除される。また、過給圧Pが第三上限値P4以上であれば条件1,条件2がともに不成立となり、予混合燃焼運転が禁止(拡散燃焼運転が実施)される。さらに、過給圧Pがこれらの第三下限値P3,第三上限値P4の間に位置するならば、過給圧Pの目標値と実値との差ΔPに基づく判定がなされる。第三下限値P3,第三上限値P4,第三所定値ΔPTH3の各々は、予め設定された固定値であってもよいし、エンジン10の運転状態に応じて設定される可変値であってもよい。吸気酸素濃度Dに基づく判定を実施する場合も同様である。
[2−4.制御部]
制御部8は、検出部2での検出結果と判定部4での判定結果とに基づいて、燃焼状態切り替え制御を実施するものである。まず、検出部2で急加速要求が検出されている場合には、第二判定部6での判定結果に基づいて予混合燃焼運転,拡散燃焼運転が制御される。また、検出部2で急減速要求が検出されている場合には、第三判定部7での判定結果に基づいて予混合燃焼運転,拡散燃焼運転が制御される。上記の急加速要求,急減速要求が検出されていない場合には、第一判定部5での判定結果に基づいて予混合燃焼運転,拡散燃焼運転が制御される。
予混合燃焼運転では、例えば図2(B)に示すような燃料噴射パターンとなるように、制御部8から筒内噴射弁11へと制御信号が出力される。また、吸入空気量の全体に占めるEGR量の割合が拡散燃焼運転時と比較して増大するように、低圧スロットル弁17,高圧スロットル弁19,高圧EGR弁22,低圧EGR弁26の各々が制御される。一方、拡散燃焼運転では、例えば図2(A)に示すような燃料噴射パターンとなるように、制御部8から筒内噴射弁11へと制御信号が出力される。
[3.フローチャート]
図8〜図10は、上記の燃焼状態切り替え制御の手順を例示するフローチャートである。図8のフロー(通常時フロー)は、エンジン制御装置1において所定の演算周期で繰り返し実施される。また、図9のフロー(急加速時フロー)及び図10のフロー(急減速時フロー)はそれぞれ、図8中のステップA11,A12で急加速要求,急減速要求が検出された場合に実施される。
[3−1.通常時フロー]
ステップA1では、検出部2において、アクセル開度センサ34で検出されたアクセル開度の情報と、シフトポジションセンサ35で検出された変速段の情報とが取得される。続くステップA2では、一サイクル前の変速段と現サイクルの変速段との比較により、シフトレバーが操作されたか否かが判定される。この条件の成立時にはステップA3へ進み、現在の変速段になってからの経過時間を表すタイマーTによる経時が開始された後に、ステップA4に進む。一方、シフトレバーが操作されていなければ、ステップA3がスキップされてステップA4に進む。なお、ステップA4〜A8は、第一判定部5での判定内容に対応する。
ステップA4では、現在の変速段に応じて所定時間T0が設定される。所定時間T0は、変速段の段数が大きいほど短縮される。また、ステップA5では、タイマーTの値と所定時間T0とが比較され、シフトレバーが操作されてから所定時間T0が経過したか否かが判定される。ここで、T<T0である場合(所定時間T0が経過していない場合)にはステップA10へ進み、予混合燃焼運転の実施条件の成否に関わらず、第一判定部5において拡散燃焼運転の実施条件が成立するものと判断される。一方、T≧T0である場合にはステップA6に進む。
ステップA6では、所定時間T0がすでに経過しているため、タイマーTのカウントが停止する。また、続くステップA7では、現在の変速段に応じて予混合燃焼運転の実施領域が設定される。例えば、変速段が2速の場合には、図3中の領域M2が予混合燃焼運転の実施領域とされる。また、変速段が3速の場合には、図3中の領域M3が予混合燃焼運転の実施領域とされる。このように、予混合燃焼運転の実施領域は、変速機の変速段に基づいて変更される。
ステップA8では、第一判定部5において、エンジン10の運転点が予混合燃焼運転の実施領域内に存在するか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップA9に進み、予混合燃焼運転の実施条件が成立するものと判断される。一方、運転点が予混合燃焼領域外にある場合にはステップA10に進み、拡散燃焼運転の実施条件が成立するものと判断される。このように、第一判定部5では、エンジン10の運転点と図3に示すような制御マップとに基づく判定が実施される。
ステップA11以降は、第二判定部6,第三判定部7での判定が実施される状態であるか否かを判定するためのステップである。ステップA11は、ステップA9の後に実施されるステップであり、ステップA12は、ステップA10,A11の後に実施されるステップである。つまり、ステップA11が実施されるのは、ステップA9が実施された後(予混合燃焼運転の実施条件が成立しているとき)に限られる。
ステップA11では、車両を急加速させる急加速要求が検出されたか否かが判定される。例えば、アクセル開度の時間変化率が正の所定値以上である場合には、急加速要求があるものと判断されて、図9の急加速時フローに進む。また、アクセル開度の時間変化率が正の所定値未満である場合にはステップA12に進む。
ステップA12では、車両を急減速させる急減速要求が検出されたか否かが判定される。例えば、アクセル開度の時間変化率が負の所定値以下である場合には、急減速要求があるものと判断されて、図10の急減速時フローに進む。また、アクセル開度の時間変化率が負の所定値を超える場合にはステップA13に進み、第一判定部5での判定結果に従って、予混合燃焼運転,拡散燃焼運転の何れか一方が実施される。つまり、ステップA9,A10のうち、ステップA13に到達する直前に実施されたステップに対応する運転状態となるように、エンジン10が制御される。
[3−2.急加速時フロー]
図9の急加速時フローは、予混合燃焼運転中に急加速要求が検出された場合に実施されるものであり、第二判定部6での判定内容に対応する。
ステップB1では、過給圧P,吸気酸素濃度D,エンジン負荷Ec,エンジン回転数Ne,急加速要求といった各種情報が取得される。また、ステップB2では、エンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neに基づき、第一下限値P1,第一上限値P2,第一所定値ΔPTH,第二下限値D1,第二上限値D2,第二所定値ΔDTH2の各々の値が設定される。
ステップB3では、過給圧Pが第一下限値P1未満であるか否かが判定される。ここでP<P1である場合にはステップB6に進み、P≧P1である場合にはステップB4に進む。過給圧Pが第一下限値P1未満であるとき、その過給圧Pは予混合燃焼運転に適した状態であって、拡散燃焼運転に不適な状態であるといえる。
ステップB4では、過給圧Pが第一下限値P1よりも大きい第一上限値P2以上であるか否かが判定される。ここでP≧P2である場合にはステップB10に進み、P<P2である場合にはステップB5に進む。過給圧Pが第一上限値P2以上であるとき、その過給圧Pは拡散燃焼運転に適した状態であって、予混合燃焼運転に不適な状態であるといえる。
ステップB5では、過給圧Pの目標値と実値との差ΔPが第一所定値ΔPTH未満であるか否かが判定される。ここでΔP<ΔPTHである場合にはステップB6に進み、ΔP≧ΔPTHである場合にはステップB10に進む。過給圧Pが第一下限値P1以上、第一上限値P2未満であるとき、その過給圧Pは予混合燃焼運転にも拡散燃焼運転にも適した状態であり、どちらを実施することもできる。そこでこのステップB5では、過給圧Pの目標値に追従する実値の収束性を考慮して、どちらを実施すべきかを判断している。
以上、ステップB3〜B5では、過給圧Pに関する条件判定が実施される。これに対して、以下のステップB6〜B8では、吸気酸素濃度Dに関する条件判定が実施される。ステップB6では、吸気酸素濃度Dが第二下限値D1未満であるか否かが判定される。ここでD<D1である場合にはステップB9に進み、D≧D1である場合にはステップB7に進む。吸気酸素濃度Dが第二下限値D1未満であるとき、その吸気酸素濃度Dは予混合燃焼運転に適した状態であって、拡散燃焼運転に不適な状態であるといえる。
ステップB7では、吸気酸素濃度Dが第二下限値D1よりも大きい第二上限値D2以上であるか否かが判定される。ここでD≧D2である場合にはステップB10に進み、D<D2である場合にはステップB8に進む。吸気酸素濃度Dが第二上限値D2以上であるとき、その吸気酸素濃度Dは拡散燃焼運転に適した状態であって、予混合燃焼運転に不適な状態であるといえる。
ステップB8では、吸気酸素濃度Dの目標値と実値との差ΔDが第二所定値ΔDTH2未満であるか否かが判定される。ここでΔD<ΔDTH2である場合にはステップB9に進み、ΔD≧ΔDTH2である場合にはステップB10に進む。吸気酸素濃度Dが第二下限値D1以上、第二上限値D2未満であるとき、その吸気酸素濃度Dは予混合燃焼運転にも拡散燃焼運転にも適した状態であり、どちらを実施することもできる。そこでこのステップB8では、吸気酸素濃度Dの目標値に追従する実値の収束性を考慮して、どちらを実施すべきかを判断している。
ステップB3〜B8の条件判定により、ステップB9に進んだ場合には予混合燃焼運転が実施され、ステップB10に進んだ場合には拡散燃焼運転が実施される。なお、第二判定部6での判定結果は第一判定部5での判定結果よりも優先される。したがって、仮に通常時フローのステップA10で拡散燃焼運転の実施条件が成立するものと判定されていたとしても、急加速時フローのステップB9に進んだ場合には、予混合燃焼運転が実施される。逆もまた同様である。
ステップB11では、急加速要求が検出されなくなったか否かが判定される。この条件の成立時にはステップB12に進み、急加速要求が検出されなくなってからの経過時間を表すタイマーUによる経時が開始された後に、ステップB13に進む。一方、急加速要求が検出されているか、過去の演算周期ですでに急加速要求が検出されなくなっていた場合には、ステップB12がスキップされてステップB13に進む。
ステップB13では、タイマーUの値と所定時間T1とが比較され、急加速要求が検出されなくなってから所定時間T1が経過したか否かが判定される。ここで、U<T1である場合(所定時間T1が経過していない場合)にはこのフローが終了し、次回の演算周期には急加速時フローが繰り返される。一方、U≧T1である場合には、ステップB14に進む。ステップB14では、所定時間T1がすでに経過しているため、タイマーUのカウントが停止する。また、次回の演算周期には通常時フローが実施される。これ以降、第一判定部5での判定結果に基づく制御が実施されることになる。
[3−3.急減速時フロー]
図10の急減速時フローは、急減速要求が検出された場合に実施されるものであり、第三判定部7での判定内容に対応する。
ステップC1では、過給圧P,吸気酸素濃度D,エンジン負荷Ec,エンジン回転数Ne,急減速要求,要求負荷,車速といった各種情報が取得される。また、ステップC2では、エンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neに基づき、第三下限値P3,第三上限値P4,第三所定値ΔPTH3,第四下限値D3,第四上限値D4,第四所定値ΔDTH4の各々の値が設定される。
ステップC3では、要求負荷が検出されているか否か(アクセルオンであるか否か)が判定される。ここで、要求負荷が検出されない場合にはステップC11に進み、拡散燃焼運転が実施される。つまり、急減速要求が検出された場合、アクセルオンの操作がなされるまでの間は予混合燃焼運転が禁止され、その代わりに拡散燃焼運転が実施される。一方、要求負荷が検出されている場合にはステップC4に進む。
ステップC4〜C9は、急加速時フローのステップB3〜B8と同様に、エンジン10の騒音量に相関するパラメータである、過給圧P,吸気酸素濃度Dに関する条件判定が実施されるステップである。ここでは、過給圧Pと第三下限値P3,第三上限値P4との大小関係が比較されるとともに、過給圧Pの目標値と実値との差ΔPが第三所定値ΔPTH3未満であるか否かが判定される。また、吸気酸素濃度Dと第四下限値D3,第四上限値D4との大小関係が比較され、吸気酸素濃度Dの目標値と実値との差ΔDが第四所定値ΔDTH4未満であるか否かが判定される。
過給圧Pが第三下限値P3未満であるとき、その過給圧Pは予混合燃焼運転に適した状態であり、過給圧Pが第三上限値P4以上であるとき、その過給圧Pは拡散燃焼運転に適した状態である。一方、過給圧Pが第三下限値P3以上、第三上限値P4未満であるとき、その過給圧Pは予混合燃焼運転にも拡散燃焼運転にも適した状態であるため、ここでは過給圧Pの目標値に追従する実値の収束性を考慮して、どちらを実施すべきかを判断している。なお、吸気酸素濃度Dについても同様である。
ステップC10,C11の後に続くステップC12では、急減速要求が検出されなくなったか否かが判定される。この条件の成立時にはステップC13に進み、急減速要求が検出されなくなってからの経過時間を表すタイマーVによる経時が開始された後、ステップC14に進む。一方、急減速要求が検出されているか、過去の演算周期ですでに急減速要求が検出されなくなっていた場合には、ステップC13がスキップされてステップC14に進む。
ステップC14では、その時点での車速に基づいて所定時間T2が設定される。所定時間T2は、図6に示すように、車速が大きいほど短く設定される。また、ステップC15では、タイマーVの値と所定時間T2とが比較され、急減速要求が検出されなくなってから所定時間T2が経過したか否かが判定される。ここで、V<T2である場合(所定時間T2が経過していない場合)にはこのフローが終了し、次回の演算周期には急減速時フローが繰り返される。一方、V≧T2である場合には、ステップC16に進む。ステップC16では、所定時間T2がすでに経過しているため、タイマーVのカウントが停止する。また、次回の演算周期には通常時フローが実施される。これ以降、第一判定部5での判定結果に基づく制御が実施されることになる。
[4.作用,効果]
[4−1.通常時]
(1)上記のエンジン制御装置1では、第一判定部5において、予混合燃焼運転の実施条件が変速機の変速段に基づいて変更される。これにより、変速段による走行音,作動音の相違を考慮しながら予混合燃焼運転と拡散燃焼運転とを切り替えることができる。つまり、エンジン10から発せられる音がエンジン10以外の音によってマスキングされやすい走行状態を精度よく把握することができ、例えば予混合燃焼運転で生じうる騒音が遮蔽されやすい運転状態を精度よく把握することができる。したがって、排気性能を向上させつつ、ドライブフィーリングを向上させることができ、排気性能と車両の静粛性とをともに向上させることができる。
(2)上記のエンジン制御装置1では、図3に示すように、変速機の減速比が小さいほど、予混合燃焼運転の実施領域がエンジン回転数Neの増大方向(右方向)に拡大されている。このように、予混合燃焼運転を実施するためのエンジン回転数Neの上限値を上昇させることで、エンジン10がより高回転の状態で予混合燃焼運転を実施することができ、排気性能を向上させることができる。また、エンジン10が高回転の状態では、予混合燃焼運転で生じうる騒音が走行騒音で遮蔽されやすいため、ドライブフィーリングを向上させることができる。
(3)上記のエンジン制御装置1では、図3に示すように、変速機の減速比が小さいほど、予混合燃焼運転の実施領域がエンジン負荷Ecの増大方向(上方向)に拡大されている。このように、予混合燃焼運転を実施するためのエンジン負荷Ecの上限値を上昇させることで、エンジン10がより高負荷の状態で予混合燃焼運転を実施することができ、排気性能を向上させることができる。また、エンジン10が高負荷の状態では、予混合燃焼運転で生じうる騒音が走行騒音で遮蔽されるため、ドライブフィーリングを向上させることができる。
(4)図3に示すように、予混合燃焼運転の実施領域がエンジン回転数Neの増大方向(右方向)に拡大される最小の変速段は、2速である。これに対し、予混合燃焼運転の実施領域がエンジン負荷Ecの増大方向(上方向)に拡大される最小の変速段は、3速である。このように、エンジン負荷Ecよりもエンジン回転数Neを優先してその上限値を大きくすることで、騒音の遮蔽効果が高い運転状態で予混合燃焼運転を実施することができ、ドライブフィーリングをさらに向上させることができる。
(5)上記のエンジン制御装置1では、少なくとも変速段が変化してから所定時間T0が経過した状態で、予混合燃焼運転が実施される。これにより、例えばシフトチェンジ直後に吸入空気量やEGR量が過渡的に変化したとしても、通常の拡散燃焼運転を実施することで燃焼安定性を確保することができる。つまり、シフトチェンジ直後の不安定な燃焼状態を避けて予混合燃焼運転を開始することができ、エンジン10の燃焼安定性を向上させることができる。
(6)また、上記の所定時間T0は、変速段の減速比が小さいほど短く設定される。これにより、エンジン10の燃焼安定性を向上させつつ、速やかに予混合燃焼運転を開始することができる。
(7)なお、所定時間T0の設定手法として上記の手法3を採用した場合には、吸気遅れや過給遅れによる燃焼安定性の低下を抑制することができ、予混合燃焼運転でのエンジン10の燃焼安定性を向上させることができる。
[4−2.急加速時]
(1)上記のエンジン制御装置1では、予混合燃焼運転中に急加速要求が検出された場合に、エンジン10の騒音量に相関するパラメータを含む条件を用いて、予混合燃焼運転を継続するか、それとも予混合燃焼運転を拡散燃焼運転に切り替えるかが判定される。このように、騒音量に相関するパラメータを含む条件を用いることで、騒音が運転者に違和感を与えない範囲で予混合燃焼運転を継続することができ、排気性能を向上させることができる。また、騒音が増大しうる運転状態では予混合燃焼運転が拡散燃焼運転に切り替えられるため、過剰に騒音が増大することがなく、排気性能を向上させつつドライブフィーリングを向上させることができる。
(2)上記のエンジン制御装置1では、騒音量に相関するパラメータとして、エンジン10の過給圧Pや吸気酸素濃度Dといった、燃料混合気の成分比率が反映される物理量(燃焼速度に影響を与える物理量)が用いられている。これにより、燃料混合気が急激に燃焼しやすくなるタイミングを精度よく把握することができ、静粛性やドライブフィーリングを向上させることができる。
また、上記のパラメータとして過給圧Pを用いた場合には、筒内に導入される空気量を高精度に推定することが可能となり、騒音が大きくなりやすいエンジン10の運転状態を精度よく把握することができる。また、吸気酸素濃度Dを用いた場合には、筒内で燃焼する酸素量を高精度に推定することが可能となり、燃焼速度の挙動を精度よく把握することができる。したがって、ドライブフィーリングをさらに向上させることができる。
(3)予混合燃焼運転中に急加速要求が検出された場合、上記のエンジン制御装置1では、過給圧Pや吸気酸素濃度Dの値が二つの閾値(上限値,下限値)と比較される。例えば、図5(A),(B)に示すように、過給圧Pが第一下限値P1未満である場合や、吸気酸素濃度Dが第二下限値D1未満である場合には、予混合燃焼運転が継続される。一方、過給圧Pが第一上限値P2以上である場合や、吸気酸素濃度Dが第二上限値D2以上である場合には、予混合燃焼運転が拡散燃焼運転へと切り替えられる。
このように、大きさの異なる二種類の閾値を用いた判定により、中間領域での制御内容に柔軟性を与えることができ、エンジン10の運転状態に適した燃焼形態を選択することができる。
また、予混合燃焼運転中に急加速が要求されると、急加速要求に応じてエンジン負荷Ecが上昇し、エンジン10の騒音量に相関するパラメータも徐々に増大する。これらのパラメータがまだ小さい状態では予混合燃焼運転が継続されるため、騒音が過剰に大きくならない範囲で排気性能を向上させることができる。その後、パラメータが大きくなったとしても、予混合燃焼運転が拡散燃焼運転に切り替えられるため、騒音の発生を抑制することができる。
(4)なお、上記の閾値をエンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neに基づいて設定すれば、エンジン10のあらゆる運転状態に適した判定基準を与えることができ、エンジン10の騒音が増大しやすい運転状態を精度よく把握することができるとともに、騒音抑制効果を高めることができる。
(5)上記のエンジン制御装置1では、パラメータの値が二つの閾値(上限値,下限値)の間に位置する場合に、目標値と実値との差に基づく判定が実施される。例えば、図5(A)に示すように、差ΔPが第一所定値ΔPTH未満であれば、予混合燃焼運転が継続して実施され、差ΔPが第一所定値ΔPTH以上になると、予混合燃焼運転から拡散燃焼運転へと切り替えられる。このように、騒音量に相関するパラメータの収束性を考慮して燃焼形式を選択することで、そのパラメータの目標値からのオーバーシュートを精度よく把握することができ、騒音の発生をより精度よく抑制することができる。
(6)なお、目標値と実値との差についての比較対象となる所定値(例えば、第一所定値ΔPTH,第二所定値ΔDTH2)をエンジン負荷Ec及びエンジン回転数Neに基づいて設定すれば、エンジン10のあらゆる運転状態に適した判定基準を与えることができ、エンジン10の騒音が増大しやすい運転状態を精度よく把握することができるとともに、騒音抑制効果を高めることができる。
[4−3.急減速時]
(1)予混合燃焼運転では、図2(D)に示すように、拡散燃焼運転時と比較して筒内圧の変動が急峻となり、燃焼に伴う騒音が大きくなりやすい特性がある。そのため、エンジン10に大きな負荷が作用していない運転状態で予混合燃焼運転を実施すると、エンジン10が仕事をしていないにも関わらず騒音が増大し、運転者に違和感を与えてしまう。
一方、上記のエンジン制御装置1では、急減速要求が検出されている間の予混合燃焼運転が禁止され、その代わりに拡散燃焼運転が実施される。例えば、第一判定部5で予混合燃焼運転の実施条件が成立するものと判断されているときであっても、運転者のアクセルオフ操作が検出されると、予混合燃焼運転が禁止される。
このように、急減速要求に応じて予混合燃焼運転の代わりに拡散燃焼運転を実施することで、アクセルオフ操作の直後の無負荷状態(低負荷状態)における騒音の発生を防ぐことができ、ドライブフィーリングを向上させることができる。また、急減速操作ではない通常の減速操作時(例えば、アクセル開度の時間変化率が負の所定値以上であるようなアクセルの緩め操作時)には、予混合燃焼運転が禁止されないため、排気性能を向上させることができる。したがって、排気性能と車両の静粛性とをともに向上させることができる。
(2)上記のエンジン制御装置1では、急減速要求が検出されなくなってから所定時間T2が経過するまでの間は、予混合燃焼運転が禁止されて拡散燃焼運転が実施される。このように、車両の急減速に伴う燃焼状態の変動が安定するまでの間は予混合燃焼運転が禁止されるため、静粛性やドライブフィーリングを向上させることができる。
(3)上記のエンジン制御装置1では、図6に示すように、車速が大きいほど所定時間T2が短く設定され、車速が小さいほど所定時間T2が長く設定される。このような設定により、車両の走行音が比較的小さい走行状態での予混合燃焼運転の禁止期間を長くすることができ、静粛性を向上させることができる。一方、車両の走行音が比較的大きい走行状態では予混合燃焼運転の禁止期間を短縮することができ、排気性能を向上させることができる。
(4)また、図7(A),(B)に示すように、過給圧P及び吸気酸素濃度Dの各々について、目標値と実値との差が所定値以下になるまでの時間を上記の所定時間T2とすることもできる。この場合、過給圧P及び吸気酸素濃度Dが十分に収束するまでの間は予混合燃焼運転が禁止され、収束後に予混合燃焼運転が実施されるため、エンジン10の燃焼安定性,静粛性をさらに向上させることができる。
(5)上記のエンジン制御装置1では、予混合燃焼運転が禁止されている間に要求負荷が生じた場合に、その禁止が解除されて予混合燃焼運転が許可される。例えば、予混合燃焼運転の禁止中にアクセルペダルが踏み込まれた場合、運転点が予混合燃焼運転の実施領域内に位置していれば、予混合燃焼運転が実施される。このように、加速開始のタイミングに合わせて予混合燃焼運転の禁止を解除することで、排気性能を向上させることができる。なお、加速中にはエンジン10の仕事量が増大するため、予混合燃焼運転を開始することによって仮に騒音が発生したとしても運転者に違和感を与えにくく、ドライブフィーリングの低下を防ぐことができる。
(6)なお、予混合燃焼運転の禁止を解除するための条件として、「エンジン10の騒音量に相関するパラメータ(例えば、過給圧P,吸気酸素濃度D,吸気温度,湿度,吸気密度等)を含む条件」を併用することも可能である。この場合、エンジン10の騒音量に相関するパラメータが収束している状態で予混合燃焼運転を開始することができ、エンジン10の燃焼安定性,静粛性をさらに向上させることができる。
[5.変形例]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
上述の実施形態では、運転点と燃焼状態との対応関係が、図3に示すマップで定められるものを例示したが、マップ上に示される各領域M1〜M4の形状や領域数についてはこれに限定されない。特に、各領域M1〜M4の具体的な形状は、車両の走行特性やドライブフィーリングを考慮した上で設定することが望ましい。
また、図3に示すマップは、エンジン回転数Ne及びエンジン負荷Ecに対応する運転点と各領域M1〜M4との関係を示すものとなっているが、車両の走行状態は、少なくともエンジン負荷Ec,エンジン回転数Neの何れか一方に基づいて把握することが可能である。なお、運転点と燃焼状態との対応付けは、例えば表1に示すように、不等式や数式を用いて定めることも可能である。
上述の実施形態では、ディーゼルエンジンでの制御について説明したが、この制御はガソリンエンジンにも適用することができる。少なくとも、車両の走行状態に応じて予混合燃焼運転と拡散燃焼運転とを切り替えて実施するエンジンであれば、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
1 エンジン制御装置
2 検出部
3 マップ記憶部
4 判定部
5 第一判定部
6 第二判定部
7 第三判定部
8 制御部
10 エンジン

Claims (6)

  1. 車両の走行状態に応じて予混合燃焼運転と拡散燃焼運転とを切り替えて実施するエンジンの制御装置において、
    運転者の運転操作に基づき、前記車両を急加速させる急加速要求の有無を検出する検出部と、
    前記予混合燃焼運転中に前記検出部で前記急加速要求が検出された場合に、前記エンジンの騒音量に相関するパラメータを含む条件を用いて、前記予混合燃焼運転を継続するか前記拡散燃焼運転に切り替えるかを判定する判定部とを備え、
    前記判定部は、前記パラメータが下限値未満である場合に、前記予混合燃焼運転を継続し、前記パラメータが前記下限値よりも大きい上限値以上である場合に、前記予混合燃焼運転を前記拡散燃焼運転に切り替える
    ことを特徴とする、エンジン制御装置。
  2. 車両の走行状態に応じて予混合燃焼運転と拡散燃焼運転とを切り替えて実施するエンジンの制御装置において、
    運転者の運転操作に基づき、前記車両を急加速させる急加速要求の有無を検出する検出部と、
    前記予混合燃焼運転中に前記検出部で前記急加速要求が検出された場合に、前記エンジンの騒音量に相関するパラメータを含む条件を用いて、前記予混合燃焼運転を継続するか前記拡散燃焼運転に切り替えるかを判定する判定部とを備え、
    前記判定部は、前記パラメータの目標値と実値との差が所定値未満であれば、前記予混合燃焼運転を継続し、前記差が前記所定値以上であれば、前記予混合燃焼運転を前記拡散燃焼運転に切り替える
    ことを特徴とする、エンジン制御装置。
  3. 前記判定部が、前記エンジンの過給圧又は吸気酸素濃度を前記パラメータとした条件を用いる
    ことを特徴とする、請求項1または2記載のエンジン制御装置。
  4. 前記下限値及び前記上限値が、前記エンジンの負荷及びエンジン回転数に基づいて設定
    される
    ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
  5. 前記判定部は、前記パラメータの目標値と実値との差が所定値未満であれば、前記予混
    合燃焼運転を継続し、前記差が前記所定値以上であれば、前記予混合燃焼運転を前記拡散
    燃焼運転に切り替える
    ことを特徴とする、請求項1または3または4記載のエンジン制御装置。
  6. 前記所定値が、前記エンジンの負荷及びエンジン回転数に基づいて設定される
    ことを特徴とする、請求項2または5記載のエンジン制御装置。
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