本発明は抗HER2抗体を含んでなる医薬製剤に関する。好ましくは、該医薬製剤は凍結乾燥された抗HER2抗体製剤を含んでなる。より好ましくは、該製剤は、安定な再構成製剤を生成させるために希釈剤で再構成された、安定な凍結乾燥された抗HER2抗体製剤を含んでなる。
ErbB受容体ファミリーは4つの細胞膜結合受容体チロシンキナーゼ:EGFR/ErbB−1、HER2/ErbB−2、HER3/ErbB−3およびHER4/ErbB−4から構成される。ホモおよびヘテロ二量体のいずれもEGFRファミリーの4つのメンバーにより形成され、HER2は他のErbB受容体に対し好適かつ最も強力な二量化パートナーである(Graus−Porta Dら、(1997)Embo J、16:1647−1655;Tao RHら、(2008)J Cell Sci、121:3207−3217)。4つの受容体はいずれも細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメインおよび多数のシグナル分子と相互作用できる細胞内ドメインを含有し、リガンド依存的活性およびリガンド非依存的活性の双方を示す。Neu、ErbB−2、CD340(分化クラスター340)またはp185としても知られるHER2(ヒト表皮成長因子受容体2)は、ヒトにおいてERBB2遺伝子によりコードされるタンパク質である。HER2の活性化は受容体のリン酸化をもたらし、これが、成長、生存および分化等の多数の細胞機能の調節を最終的にもたらす、MAPK、ホスホイノシトール3キナーゼ/AKT、JAK/STATおよびPKC等の多数のシグナル伝達経路を介する下流シグナルのカスケードを引き起こす(Huang Zら、(2009)Expert Opin Biol Ther、9:97−110)。この遺伝子の過剰発現は特定の侵攻性乳癌の発症および進行において重要な役割を果たすことが示されている。
ERBB2遺伝子の増幅または過剰発現はおよそ30%の乳癌で生じる。これは疾患の再発の増加や予後の悪化と強く関連している(Roy VおよびPerez EA(2009)Oncologist、14(11):1061−9)。過剰発現はまた、前立腺癌、非小細胞肺癌、膀胱癌、卵巣癌、胃癌、結腸癌、食道癌、頭頸部扁平上皮癌および侵攻型の子宮がん(例えば子宮漿液性子宮内膜癌等)を含む他のヒト癌型とも関連している(Garcia de Palazzo Iら、(1993)Int J Biol Markers、8:233−239;Ross JSら、(2003)Oncologist、8:307−325;Osman Iら、(2005)J Urol、174:2174−2177;Kapitanovic Sら、(1997)Gastroenterology、112:1103−1113;Turken Oら、(2003)Neoplasma、50:257−261;Oshima CTら、(2001)Int J Biol Markers、16:250−254;Santin ADら、(2008)Int J Gynaecol Obstet、102(2):128−31)。
HER2を標的にする既知の薬剤としては、HER2を過剰発現する癌において効果を有するモノクローナル抗体トラスツズマブ(ハーセプチン(商標))が挙げられる。別のモノクローナル抗体ペルツズマブ(パージェタ(商標)/オムニターグ(商標))はHER2およびHER3受容体の二量化を阻害する。
本発明によれば、抗HER2抗体またはその断片の製剤および1または複数の薬学的に許容可能な賦形剤および酢酸緩衝液を含んでなる医薬製剤が提供される。
本出願人は、液体製剤の調製において酢酸緩衝液を使用すると抗HER2抗体製剤に顕著な安定性を付与できることを見出し、この緩衝液を凍結乾燥製剤と続く再構成製剤の開発に使用した。
よって、本発明はまた、抗HER2抗体またはその断片、凍結乾燥保護剤、充填剤、界面活性剤および酢酸緩衝液を含んでなり、pHがpH5.0〜6.0である凍結乾燥製剤とその再構成製剤に関する。
図1は、抗HER2抗体の37℃での安定性加速試験の結果を示す。抗HER2抗体は、液体形態において抗体を安定化させる能力が確認された種々の賦形剤とともに製剤化した。HP−CEXによる主要ピーク割合の結果は図1aに、HP−SECによる単量体の割合は図1bに、凝集の割合は図1cに、抗HER2抗体濃度の消失割合は図1dに示す。
図2は、液体製剤における抗HER2抗体の37℃での安定性加速試験の結果を示す。種々の濃度の抗HER2抗体をpH4.0〜pH6.0の範囲のpH値で、種々の緩衝液、クエン酸塩または酢酸塩のいずれかとともに製剤化した。HP−CEXによる主要ピークの結果は図2aに、HP−SECによる単量体の割合は図2bに、凝集の割合は図2cに、断片化の割合は図2dに、抗HER2抗体濃度の消失割合は図2eに示す。
図3は、1か月間、37℃で維持される抗HER2抗体の液体製剤のための最適な塩濃度の範囲、緩衝液の種類および抗酸化剤を評価するためのスクリーニングの結果を示す。図3aは、pH5.5、種々のNaCl濃度での凝集および断片化を示す。y軸は凝集または断片化の割合を示す。NaClの各濃度について、凝集は左側の薄い灰色のバーで示し、断片化は右側の濃い灰色のバーで示す。図3bは、pH5.5、種々のNaCl濃度での抗HER2抗体の脱アミド化を示す。図3cは、pH5.5で種々の濃度のクエン酸塩または酢酸塩とともに製剤化したときの抗HER2抗体の凝集および断片化の割合を示す。クエン酸塩または酢酸塩の各濃度について、凝集は左側の薄い灰色のバーで示し、断片化は右側の濃い灰色のバーで示す。
図4は、0時間(淡色のバー、左側)および5サイクルの凍結融解後(暗色のバー、右側)に試験した22の製剤に存在する単量体の割合を示す(詳細は表8を参照)。試験した各製剤はx軸に、単量体の割合はy軸に示す。製剤6、8、10および19はさらに行う実験のために選択された。
図5は、ケークの再構成後に試験した4つの製剤に存在する単量体の割合を示す。すべての量は、前回のスクリーニングで選択された製剤6、8、10および19についての%単量体として示す。1番右のカラムは0時間での対照である。
図6は、0時間(淡色のバー、左側)および5サイクルの凍結融解後(暗色のバー、右側)に試験した12の製剤に存在する単量体の割合を示す(詳細は表11を参照)。試験した各製剤はx軸に、単量体の割合はy軸に示す。製剤1、4、7、10および11は凍結乾燥のために選択された。
図7は、0時間(淡色のバー、左側)ならびに凍結乾燥および高圧液体クロマトグラフィー−サイズ排斥の後(暗色のバー、右側)に試験した18の製剤に存在する単量体の割合を示す(詳細は表12を参照)。試験した各製剤はx軸に、単量体の割合はy軸に示す。
図8は、40℃での1か月安定性試験において試験した7つの凍結乾燥製剤についての安定性の結果を示す(詳細は表13を参照)。図8aは、0時間(白色のバー、左側)、凍結乾燥後(淡色のバー、中央)および40℃で1か月後(暗色のバー、右側)に試験した製剤に存在する単量体の割合を示す。試験した各製剤はx軸に、単量体の割合はy軸に示す。図8bは、0時間(白色のバー、左側)、凍結乾燥後(淡色のバー、中央)および40℃で1か月後(暗色のバー、右側)に試験した製剤についての陽イオン交換クロマトグラフィー後の%主要ピークを示す。カラムと連結した線は、40℃で1か月保存した後の各製剤についての主要ピークの消失割合を示す。図8cは、凍結乾燥後(淡色のバー、左側)および40℃で1か月間保存後(暗色のバー、右側)に試験した各製剤に存在する水分の割合を示す。
図9は、0時間(液体および凍結乾燥製剤がそれぞれ透明および薄い灰色のバー)、40℃で1か月(濃い灰色のバー)および40℃で2か月(黒色のバー)の期間についての安定性加速試験における製剤1および2の安定性結果を示す(詳細は表16を参照)。図9aは、HPLC−SECで測定された製剤1および2に存在する単量体の割合(y軸)を示し、図9bは、製剤1および2についてのHPLC−CEX主要ピーク割合(y軸)を示す。
図10は、x軸に示す期間についての長期安定性試験における凍結乾燥された抗HER2抗体製剤についての安定性結果を示す。図10aは、1、2、3、6、9および12か月の期間でのHPLC−SECで測定された製剤に存在する単量体の割合(y軸)を示す。図10bは、1、2、3、6、9および12か月の期間での製剤についてのHPLC−CEX主要ピーク割合(y軸)を示す。
発明の具体的説明
本開示は、ヒトHER2を認識し、これに結合する抗体またはその断片を含んでなる医薬製剤に関する。
本明細書で用いられる用語「ヒトHER2」は、ヒトHER2のバリアント、アイソフォームおよび種ホモログを含む。したがって、本発明の抗体は、ある場合において、ヒト以外の種由来のHER2と交差反応することがある。ある態様では、抗体は、1または複数のヒトHER2タンパク質に完全に特異的であってよく、非ヒトの種またはその他の型の交差反応性を示さないことがある。例示的なヒトHER2の完全アミノ酸配列は、Swiss−Prot受託番号P04626(ERBB2_HUMAN;配列番号1)を有する。HER2は、CD340、MLN19、Neu、c−ErbB−2およびp185erbB2としても知られる。ヒトHER2には、Entrez GeneによりGeneID:2064およびHGNCによりHGNC:3430が割り当てられている。HER2は、ERBB2と表される遺伝子によりコードされ得る。
本明細書における「ヒトHER2」の使用は、ヒトHER2のすべての既知またはまだ見出されていない対立遺伝子および多型を包含する。用語「ヒトHER2」または「HER2」は、本明細書において等価に用いられ、特に示されない限り「ヒトHER2」を意味する。
用語「HER2と結合する抗体」および「抗HER2抗体」は、本明細書では互換的に用いられ、ヒトHER2、例えば単離形態のヒトHER2と結合する抗体またはその断片を含む。
用語「拮抗性抗体」または「アンタゴニスト抗体」は、本明細書において等価に用いられ、例えばHER2とリガンドとの結合を阻止または実質的に結合を低減し、よってHER2により引き起こされるシグナル伝達経路を阻害もしくは低減し、および/または細胞増殖のようなHER2媒介性細胞応答を阻害もしくは低減することにより、HER2の生物学的シグナル伝達活性を阻害および/または中和できる抗体を含む。
本明細書で言及される用語「抗体」は、全抗体およびその任意の抗原結合断片または単鎖を含む。「抗体」は、ジスルフィド結合で相互接続された少なくとも2つの重(H)鎖と2つの軽(L)鎖とを含んでなる糖タンパク質またはその抗原結合断片のことをいう。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてVHと略記する)と重鎖定常領域とで構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてVLと略記する)と軽鎖定常領域とで構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、CLで構成される。VHおよびVL領域は、相補性決定領域(CDR)とよばれる超可変性の領域にさらに細分化でき、CDRは、配列が超可変性であり、かつ/または抗原認識に関与し、かつ/またはより保存されたフレームワーク領域(FRまたはFW)とよばれる領域に散在している、構造が規定されたループを通常形成する。それぞれのVHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端まで以下の順序で配置される3つのCDRおよび4つのFWで構成される:FW1、CDR1、FW2、CDR2、FW3、CDR3およびFW4。FW1、FW2、FW3およびFW4のアミノ酸配列はすべて一緒に、本明細書で言及するように、VHまたはVLの「非CDR領域」または「非拡張CDR領域」を構成する。
抗体は、定常領域により遺伝子的に決定される、アイソタイプともよばれるクラスに群分けされる。ヒト定常軽鎖は、カッパ(CΚ)およびラムダ(Cλ)軽鎖として分類される。重鎖は、ミュー(μ)、デルタ(δ)、ガンマ(γ)、アルファ(α)またはイプシロン(ε)として分類され、それぞれIgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEとして抗体のアイソタイプを定義する。よって、本明細書で用いられる「アイソタイプ」は、それらの定常領域の化学的および抗原的特徴により定義される免疫グロブリンのクラスおよび/またはサブクラスのいずれかを意味する。既知のヒト免疫グロブリンアイソタイプは、IgG1(IGHG1)、IgG2(IGHG2)、IgG3(IGHG3)、IgG4(IGHG4)、IgA1(IGHA1)、IgA2(IGHA2)、IgM(IGHM)、IgD(IGHD)およびIgE(IGHE)である。IgGクラスは、治療目的のために最も一般的に用いられている。ヒトにおいて、このクラスは、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含む。
抗体断片は、それらに限定されないが、(i)Fab’およびFab’−SHを含む、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなるFab断片、(ii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片、(iii)単一抗体のVLおよびVHドメインからなるFv断片;(iv)単一可変領域からなるdAb断片(Ward ESら、(1989)Nature、341:544−546頁)、(v)2つの連結されたFab断片を含んでなる2価断片であるF(ab’)2断片、(vi)VHドメインとVLドメインとが、2つのドメインが会合して抗原結合部位を形成できるようにするペプチドリンカーで連結された単鎖Fv分子(scFv)(Bird REら、(1988)Science 242:423−426;Huston JSら、(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85:5879−83)、(vii)二重特異性単鎖Fv2量体(PCT/US92/09965)、(viii)遺伝子融合により構築された多価または多重特異性断片である「ジアボディ」または「トリアボディ」(Tomlinson IおよびHollinger P(2000)Methods Enzymol.326:461−79;WO94/13804;Holliger Pら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:6444−48)および(ix)同じまたは異なる抗体と遺伝子的に融合されたscFv(Coloma MJおよびMorrison SL(1997)Nature Biotechnology、15(2):159−163)が挙げられる。
二重特異性抗体が使用される場合、これらは、種々の方法(Holliger PおよびWinter G(1993)Current Opinion Biotechnol、4:446−449)で製造、例えば化学的にまたはハイブリッドハイブリドーマから調製することができる従来の二重特異性抗体であってもよく、あるいは上述の二重特異性抗体断片のいずれかであってよい。ジアボディおよびscFvは、抗イディオタイプ反応の影響を潜在的に減少させる可変ドメインのみを使用してFc領域を用いることなく構築することができる。
用語「キメラ抗体」は、可変領域配列がある種に由来し、定常領域配列が別の種に由来する抗体、例えば可変領域配列がマウス抗体に由来し、定常領域配列がヒト抗体に由来する抗体、を含む。
本明細書で用いられる用語「ヒト化抗体」または「ヒト化抗HER2抗体」は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系列に由来するCDR配列が、ヒトフレームワーク配列にグラフトされた抗体を含む。さらなるフレームワーク領域改変を、ヒトフレームワーク配列内および別の哺乳動物種の生殖細胞系列に由来するCDR配列内で行ってよい。
好ましくは、抗HER2抗体またはその断片はモノクローナル抗HER2抗体であり、より好ましくはヒト化抗HER2モノクローナル抗体である。例えば、ある特定の好ましい態様において、抗HER2抗体またはその断片はHCDR1〜3(配列番号2〜配列番号4)およびLCDR1〜3(配列番号5〜配列番号7)を含んでなる重鎖および軽鎖CDRのセットを有する。
関連性のあるCDRのセットは抗体フレームワーク領域内に提供される。好ましくは、抗体フレームワーク領域が採用され、好ましくは生殖細胞系列であり、より好ましくは、重鎖のための抗体フレームワーク領域がIGHV3−66であってよい。軽鎖のための好ましいフレームワーク領域はIGKV1−39であってよい。好ましい態様において、VHドメインは配列番号8のアミノ酸配列で提供される。より好ましい態様において、VLドメインは配列番号9のアミノ酸配列で提供される。さらに好ましい態様において、抗HER2抗体は配列番号10および配列番号11の重鎖および軽鎖を含んでなる。
本明細書で用いられる用語「バリアント抗体」または「抗体バリアント」は、親と比較して少なくとも1つのアミノ酸改変により親抗体配列のものと異なる抗体配列を含む。本明細書においてバリアント抗体配列は、親抗体配列と好ましくは少なくとも約80%、最も好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性を有する。抗体バリアントは、抗体自体、抗体バリアントを含んでなる製剤またはこれをコードするアミノ酸配列のことをいうことがある。
本明細書において用語「アミノ酸改変」は、ポリペプチド配列におけるアミノ酸置換、挿入および/または欠失を含む。本明細書において「アミノ酸置換」または「置換」は、親ポリペプチド配列中の特定の位置での別のアミノ酸へのアミノ酸の置き換えを意味する。例えば、置換R94Kは、バリアントポリペプチド、この場合、94位のアルギニンがリシンで置き換えられた重鎖可変フレームワーク領域バリアントのことをいう。前出の例について、94Kは、94位でのリシンへの置換を示す。本明細書における目的のために、複数の置換は、典型的には斜線により分けられる。例えば、R94K/L78Vは、置換R94KおよびL78Vを含んでなる二重バリアントのことをいう。本明細書で用いられる「アミノ酸挿入」または「挿入」は、親ポリペプチド配列中の特定の位置でのアミノ酸の付加を意味する。例えば、挿入−94は、94位での挿入を示す。本明細書で用いられる「アミノ酸欠失」または「欠失」は、親ポリペプチド配列中の特定の位置でのアミノ酸の除去を意味する。例えば、R94−は、94位でのアルギニンの欠失を示す。
本明細書で用いられる用語「保存的改変」または「保存的配列改変」は、そのアミノ酸配列を含有する抗体の結合特性に著しく影響を与えないかまたは前記特性を著しく変更しないアミノ酸改変のことをいうことを意図する。このような保存的改変は、アミノ酸置換、挿入および欠失を含む。改変は、部位特異的突然変異誘発およびPCR媒介突然変異誘発などの当技術分野において知られる標準的な技術により本発明の抗体に導入することができる。保存的アミノ酸置換は、類似の側鎖を有するアミノ酸残基でアミノ酸残基を置き換えるものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β−分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。よって、本発明の抗体のCDR領域内またはフレームワーク領域内の1または複数のアミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーからの他のアミノ酸残基で置き換えることができ、変更された抗体(バリアント抗体)は保持された機能について試験することができる。
本明細書で用いられる用語「エフェクター機能」は、抗体Fc領域とFc受容体またはリガンドとの相互作用に起因する生化学的事象を含む。エフェクター機能は、ADCC(抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用)およびADCP(抗体依存性細胞媒介性食作用)などのFcγR媒介性エフェクター機能ならびにCDC(補体依存性細胞傷害作用)などの補体媒介性エフェクター機能を含む。抗体のエフェクター機能は、Fc受容体または補体成分などのエフェクター分子に対する抗体の親和性を変更、すなわち増進または低減、好ましくは増進させることにより変更できる。結合親和性は、エフェクター分子結合部位を改変することにより一般的に変動され、この場合、対象の部位を置き、前記部位の少なくとも一部を適切な方法で改変することが適当である。エフェクター分子についての抗体の結合部位における変更は、全体的な結合親和性を著しく変更する必要はないが、相互作用の幾何学的配置を変更して、非生産的結合におけるようにエフェクター機序を無効にすることも構想される。エフェクター分子結合に直接関与しないがエフェクター機能の性能に関与する部位を改変することにより、エフェクター機能を変更することもさらに構想される。抗体のエフェクター機能を変更することにより、免疫応答の様々な側面を制御すること、例えば免疫系の様々な反応を増進または抑制することが可能になり、診断および療法において有益な効果を有する可能性がある。
本明細書で用いられる用語「HER2関連障害」は、癌、特には転移性乳癌、早期乳癌および転移性胃癌、さらに特にはHER2陽性転移性乳癌、のような状態を含む。
本明細書で用いられる用語「対象」は、任意のヒトまたは非ヒト動物を含む。用語「非ヒト動物」は、すべての脊椎動物、例えば哺乳動物および非哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などを含む。好ましくは、対象はヒトである。
「安定な」製剤とは、その中のタンパク質が保存時にその物理的安定性および/または化学的安定性および/または生物学的安定性を本質的に保持するものである。タンパク質の安定性を測定するための種々の分析技術が当技術分野において利用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery、247−301、Vincent Lee編、Marcel Dekker,Inc.、New York、New York,Pubs.(1991)およびJones A(1993)Adv Drug Delivery Rev、10:29−90において概説される。安定性は、選択された温度で選択された期間にわたり測定することができる。好ましくは、製剤は、室温(25℃)または40℃で少なくとも1か月間、好ましくは2か月間、より好ましくは6か月間安定であり、かつ/または約5℃で少なくとも1年間、好ましくは2年間安定である。さらに、製剤は、好ましくは、凍結(例えば−40℃にする)および融解の後、安定である。
医薬製剤におけるタンパク質の「物理的安定性」は、色および/または透明度の目視試験で、あるいは紫外線散乱またはサイズ排斥クロマトグラフィーで測定して、凝集、沈殿および/または変性の兆候が示されない場合は保持されている。
タンパク質の「化学的安定性」は、タンパク質の化学的に変性された形態を検出および定量化することで評価することができる。化学的変性は、例えば、サイズ排斥クロマトグラフィー、SDS−PAGEおよび/またはマトリックス支援レーザー脱離イオン化法/飛行時間型質量分析法(MARDI/TOF MS)を用いて評価することができるサイズの変更(例えば、切り出し)を含んでよい。他の種類の化学的変性としては、例えば、イオン交換クロマトグラフィーにより評価することができる電荷の変更(例えば、脱アミド化の結果として起こる)が挙げられる。
用語「緩衝液」は、その酸−塩基共役成分の作用によりpHの変化に抵抗する緩衝溶液を意味する。本発明の緩衝液は約5.0〜約6.0の範囲、好ましくは5.7のpHを有する。pHをこの範囲に制御できる緩衝液の例としては、酢酸塩(例えば、酢酸ナトリウム)、コハク酸塩(コハク酸ナトリウム等)、グルコン酸塩、ヒスチジン、クエン酸塩および他の有機酸緩衝液が挙げられる。
「凍結乾燥保護剤(lyoprotectant)」は、目的のタンパク質と組み合わされた時に、凍結乾燥およびこれに続く保存の際のタンパク質の化学的および/または物理的不安定性を著しく防止または低減する分子である。凍結乾燥保護剤の例としては、ポリオール、アミノ酸、ベタイン等のメチルアミン、硫酸マグネシウム等のリオトロピック塩、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プルロニックおよびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましい凍結乾燥保護剤は、スクロース等の非還元糖および/またはマンニトール等の糖アルコールであり、より好ましくはスクロース等の非還元糖である。凍結乾燥保護剤は、「凍結乾燥から保護する量」で凍結乾燥前の製剤に加えられ、これは、凍結乾燥から保護する量の凍結乾燥保護剤の存在下でのタンパク質の凍結乾燥の後に、タンパク質がその物理的および化学的安定性ならびに凍結乾燥および保存の際の完全性を保持することを意味する。
「ポリオール」は、複数のヒドロキシル基を有する物質であり、糖(還元および非還元糖)、糖アルコールおよび糖酸を含む。本明細書における好ましいポリオールは、約600kD未満(例えば、約120〜約400kDの範囲)の分子量を有する。「還元糖」は金属イオンを還元またはリシンおよびタンパク質中の他のアミノ基と共有結合的に反応できるヘミアセタール基を含有するものであり、「非還元糖」は還元糖のこれらの特性を有しないものである。還元糖の例としては、フルクトース、マンノース、マルトース、ラクトース、アラビノース、キシロース、リボース、ラムノース、ガラクトースおよびグルコースである。非還元糖としては、スクロース、トレハロース、ソルボースおよびラフィノースが挙げられる。糖アルコールとしては、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、トレイトール、ソルビトールおよびグリセロールが挙げられる。凍結融解に安定な製剤に用いられるポリオールは、製剤中の抗体を不安定化させるような凍結温度(例えば、−20℃)で結晶化しないものである。
「充填剤」は、凍結乾燥された混合物に質量を付加し、凍結乾燥ケークに物理的構造を付与する(例えば、開気孔構造を維持する本質的に均質な凍結乾燥ケークの生産を促進する)化合物である。充填剤の例としては、マンニトール、グリシン、ポリエチレングリコールおよびソルビトール(xorbitol)が挙げられる。
「液体」製剤は、液体形式に調製されたものである。そのような製剤は、対象への直接投与に適切である得、あるいは、後に液体形態または対象への投与に適切な他の形態に再構成するために、液体形態、凍結状態または乾燥形態(例えば、凍結乾燥)のいずれかで保存するためにパッケージすることもできる。
「凍結乾燥」製剤は、液体または凍結乾燥前の製剤を凍結乾燥することにより調製されたものである。凍結乾燥は、製剤を凍結し、その後一次乾燥に適切な温度で凍結内容から氷を昇華させることにより行う。このような条件の下では生産物温度は製剤の崩壊温度より下である。その後二次乾燥段階を行ってよく、これにより好適な凍結乾燥ケークが生産される。
「再構成」製剤は、タンパク質が再構成製剤に分散されるように凍結乾燥されたタンパク質製剤を希釈剤において溶解させることにより調製されたものである。再構成製剤は、目的のタンパク質で処置される対象に投与(例えば、非経口投与)するのに適切であるといえる。再構成製剤の調製に有用である適切な「希釈剤」としては、薬学的に許容可能な(ヒトへの投与に安全かつ非毒性である)ものが挙げられる。適切な希釈剤の例としては、滅菌水、注射用静菌水(BWFI)、注射用水(WFI)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等のpH緩衝溶液、滅菌生理食塩水、リンガー液またはブドウ糖液が挙げられる。
本発明の製剤に含まれる抗体は、例えば組換え技術により生産することができる。本発明のHER2抗体(CDRまたはCDRセットまたはVHドメインまたはVLドメインまたは抗体抗原結合部位または抗体分子、例えば、提供されるscFvまたはIgG1)をコードする核酸は、該核酸を含有する組換え宿主細胞を適当な条件の下で培養することにより発現させてもよい。発現による生産の後、例えばVHおよび/またはVLドメインは、適切な任意の技術を用いて単離および/または精製し、その後必要に応じて使用されてよい。
抗体、VHおよび/またはVLドメイン、ならびに核酸コード分子およびベクターは、天然環境等から、実質的に純粋または均質の形で(核酸の場合は、必要とされる機能を有するポリペプチドをコードする配列以外の核酸または遺伝子起源がないまたは実質的にない)、提供、単離および/または精製されてよい。核酸はDNAまたはRNAを含んでもよく、全体的または部分的に合成されてもよい。
種々の異なる宿主細胞においてポリペプチドをクローニングおよび発現する系はよく知られている。適切な宿主細胞としては、細菌、哺乳動物細胞、植物細胞、酵母およびバキュロウイルス系ならびにトランスジェニック植物および動物が挙げられる。
当技術分野で入手可能な異種ポリペプチド発現のための哺乳動物細胞株としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、NSOマウス黒色腫細胞、YB2/0ラット骨髄腫細胞、ヒト胎児腎臓細胞、ヒト胎児網膜細胞および他の多くのものが挙げられる。
好ましくは、哺乳動物細胞株はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。これらはジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)欠損であってよく、それにより増殖のためにチミジンおよびヒポキサンチン依存性であってよい。(Urlaub GおよびChasin LA(1980)PNAS、77:4216−4220)。親dhfrCHO細胞株は、抗体遺伝子とdhfr陽性表現型のCHO細胞形質転換体の選択を可能にするdhfr遺伝子とでトランスフェクトされる。選択は、チミジンおよびヒポキサンチン(その不在が非形質転換細胞の増殖と形質転換細胞の葉酸経路の再利用およびそれによる選択系の回避とを妨げる)を欠く培地でコロニーを培養することにより行われる。これらの形質転換体は通常、両方のトランスフェクト遺伝子の共組込みのために産物遺伝子の発現レベルが低い。抗体遺伝子の発現レベルはメトトレキサート(MTX)を用いた増幅により増加させてもよい。この薬剤はdhfr酵素の直接的な阻害剤であり、このような条件下で生存するのに十分なdhfr遺伝子コピー数を増幅する耐性コロニーの単離を可能にする。dhfrおよび抗体遺伝子は本来の形質転換体ではより密接に関係しているため、通常同時に増幅され、それゆえ所望の抗体遺伝子の発現が増加する。CHOまたは骨髄腫細胞とともに用いるための他の選択系は、WO87/04462に記載されるグルタミンシンテターゼ(GS)増幅系である。この系は、GS酵素をコードする遺伝子と所望の抗体遺伝子での細胞のトランスフェクションを含む。細胞は次にグルタミンフリー培地で増殖するものが選択される。選択されたこれらのクローンは次にメチオニンスルホキシミン(MSX)を用いるGS酵素阻害に供される。細胞は生存のためにGS遺伝子を増幅し、同時に目的の抗体をコードする遺伝子を増幅するであろう。
プロモーター配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子および必要に応じて他の配列等の適当な調節配列を含有する適切なベクターは選択または構築することができる。ベクターは、必要に応じて、プラスミド、ウイルス、例えば、ファージ、またはファージミドであってよい。さらなる詳細は、例えば、Molecular Cloning:a Laboratory Manual:3rd edition、SambrookおよびRussell、2001、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照できる。例えば、核酸構築物の調製、突然変異誘発、配列決定、DNAの細胞への導入および遺伝子発現等における核酸の操作ならびにタンパク質の分析についての多くの公知の技術およびプロトコールの詳細はCurrent Protocols in Molecular Biology、Second Edition、Ausubelら編集、John WileyおよびSons、1988、Short Protocols in Molecular Biology;A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編集、John WileyおよびSons、4th edition 1999に記載される。SambrookらおよびAusubelら(双方)の開示は参照することにより本明細書に組み込まれる。
核酸の宿主細胞への導入には任意の入手可能な技術を用いてよい。真核細胞については、適切な技術として、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン、電気穿孔、リポソーム媒介トランスフェクションおよびレトロウイルスまたは他のウイルス(例えば、ワクシニアまたは昆虫細胞についてはバキュロウイルス)を用いる導入を挙げることができる。宿主細胞、特には真核細胞への核酸の導入はウイルスまたはプラスミドに基づく系を用いてよい。プラスミド系はエピソームに維持されてもよく、または宿主細胞もしくは人工染色体に取り込まれてもよい(Csonka Eら(2000)Journal of Cell Science、113:3207−3216;Vanderbyl Sら(2002)Molecular Therapy、5(5):10。取り込みは、単一または複数の座位での1または複数のコピーのランダムまたは標的組み込みのいずれかによるものであってよい。細菌細胞については、適切な技術として、塩化カルシウム形質転換、電気穿孔およびバクテリオファージを用いる感染を挙げることができる。
導入に続き、例えば遺伝子の発現のための条件下で宿主細胞を培養することにより、核酸からの発現が引き起こされるまたは許可される。1つの態様において、本発明の核酸は、宿主細胞のゲノム(例えば、染色体)に組み込まれる。組み込みは、標準的技術に従って、ゲノムとの組換えを促進する配列を包含することにより促進されてもよい。
さらなる態様は、1または複数のクロマトグラフ分離工程を含んでなり、各分離工程が、1または複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含んでなる溶出緩衝液での溶出を含んでなる、HER2抗体の精製方法を提供する。
好ましくは、1または複数のクロマトグラフ分離工程は、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオンおよび陰イオン交換クロマトグラフィー)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(例えば、フェニルクロマトグラフィー)、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、サイズ排斥クロマトグラフィー、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、親硫黄性吸着クロマトグラフィー、真性グロブリン吸着クロマトグラフィー、色素リガンドクロマトグラフィーまたは固定化ボロン酸クロマトグラフィーから選択される。より好ましくは、クロマトグラフ分離は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー、続く陽イオン交換クロマトグラフィーおよび/または続く疎水性相互作用クロマトグラフィーもしくは陰イオン交換クロマトグラフィーにより行われる。
医薬製剤
本発明の医薬製剤は、液体製剤、凍結乾燥製剤または再構成製剤であってよい。
製剤に含まれる抗HER2抗体またはその断片の量を決定する際には製剤の所望の1回投与量、容量および最終的な投与方法が考慮される。好ましくは、抗HER2抗体またはその断片は、医薬製剤内に1mg/ml〜100mg/ml、より好ましくは5mg/ml〜50mg/ml、さらに好ましくは10mg/ml〜40mg/ml、特には20mg/ml〜30mg/mlの量で存在する。
製剤はpH5.0〜6.0、好ましくはpH5.5〜5.9、より好ましくはpH5.6〜5.8、さらに好ましくはpH5.7±0.2、最も好ましくはpHpH5.7±0.1に緩衝することができる。この範囲にpHを制御するのに用いることができる緩衝液の例としては、酢酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、グルコン酸塩、ヒスチジン、リン酸塩、グルタル酸塩、カコジル酸塩、マレイン酸水素ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、イミダゾールおよび他の有機酸緩衝液が挙げられる。好ましくは、緩衝液は酢酸緩衝液であり、より好ましくは酢酸ナトリウムである。好ましくは、酢酸緩衝液は、製剤内に1〜50mM、より好ましくは1〜20mM、さらに好ましくは1〜10mMの量で存在する。
好ましくは、「薬学的に許容可能な賦形剤」が液体製剤に加えられる。「薬学的に許容可能な賦形剤」についての言及は、医薬製剤に従来から用いられる任意の賦形剤についての言及を含むと理解されるであろう。そのような賦形剤としては典型的には、1または複数の界面活性剤、凍結乾燥保護剤、充填剤、無機もしくは有機塩、安定化剤、希釈剤、可溶化剤、還元剤、抗酸化剤、キレート剤、保存剤等を含んでよい。
非経口製剤の場合は体液(すなわち、およそ284mOsm/L)と等張にすることが望ましいため、等張化剤を医薬製剤に加えてもよい。一般に用いられる等張化剤の例は塩化ナトリウム塩である。好ましくは、等張化剤は50〜400mM、より好ましくは100〜300mM、さらに好ましくは200〜250mMの濃度で液体製剤に存在する。しかしながら、等張化剤は通常は凍結乾燥製剤には加えられず、よって、凍結乾燥前に等張化剤を製剤から除去してもよい。等張化剤は再構成製剤のための希釈剤に存在してもよい。
典型的な界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、モノカプリル酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン)、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、モノカプリル酸グリセリン、モノミリスチン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、モノステアリン酸デカグリセリル、ジステアリン酸デカグリセリル、モノリノール酸デカグリセリル)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン)、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル(例えば、テトラステアリン酸ポリオキシエチレンソルビトール、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル(例えば、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル(例えば、ジステアリン酸ポリエチレングリコール)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(例えば、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)、ポリオキシエチレンミツロウ誘導体(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールミツロウ)、ポリオキシエチレンラノリン誘導体(例えば、ポリオキシエチレンラノリン)およびポリオキシエチレン脂肪酸アミド(例えば、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド)等の非イオン界面活性剤(HLB6〜18);C10−C18アルキル硫酸塩(例えば、セチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム)、平均2〜4モルのエチレンオキシドとのポリオキシエチレンC10−C18アルキルエーテル硫酸塩(例えば、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム)およびC8−C18アルキルスルホコハク酸エステル塩(例えば、ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム)等の陰イオン界面活性剤;ならびにレシチン、グリセリリン脂質、スフィンゴリン脂質(例えば、スフィンゴミエリン)およびC12−C18脂肪酸のスクロースエステル等の天然界面活性剤が挙げられる。
好ましくは、界面活性剤はポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選択される。特に好ましくは、界面活性剤はポリソルベート20、21、40、60、65、80、81および85であり、最も好ましくは、ポリソルベート80である。ポリソルベート80はTween80(商標)(ICI Americans,Inc.)という商標名でも知られている。
好ましくは、界面活性剤は、製剤内に0.001〜0.1%(w/w)、より好ましくは0.001〜0.05%(w/w)、さらに好ましくは0.005〜0.02%(w/w)の量で存在する。
また、溶液における抗体の可溶化作用を増加させるために可溶化剤を加えてもよい。可溶化剤の例としては、プロリンまたはグリシン等のアミノ酸、プロピレングリコール、プラスドンCおよびKポビドン、シクロデキストリンならびにプラスドンKポリマーが挙げられる。好ましくは、可溶化剤は1〜50mg/ml、好ましくは5〜40mg/ml、より好ましくは10〜30mg/mlの濃度で製剤に加えられる。
本発明の医薬製剤はまた、還元剤、抗酸化剤および/またはキレート剤等のさらなる賦形剤を含んでもよい。
還元剤の例としては、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸およびその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオンならびにC1−C7チオアルカン酸が挙げられる。
抗酸化剤の例としては、メチオニン等のアミノ酸、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸およびその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミルならびに没食子酸プロピルが挙げられる。
キレート剤の例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)ジナトリウム、ピロリン酸ナトリウムおよびメタリン酸ナトリウムが挙げられる。
液体製剤中のすべての賦形剤が凍結乾燥形態の製剤に含まれるのに適しているとは限らず、よって、凍結乾燥に適するように液体製剤にいくつかの変更を加えてもよい。
凍結乾燥形態においてタンパク質を安定させるために安定化剤を製剤に加えてもよい。安定化剤の例としては、クレアチニン;ヒスチジン、アラニン、グルタミン酸、グリシン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、イソロイシン、プロリン、アスパラギン酸、アルギニン、リジンおよびスレオニンから選択されるアミノ酸;スクロース、トレハロース、ソルビトール、キシリトールおよびマンノースから選択される炭水化物;ポリエチレングリコール(PEG; 例えば、PEG3350またはPEG4000)もしくはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリソルベート20またはポリソルベート80)から選択される界面活性剤;またはこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
好ましい態様において、安定化剤は、非還元糖(例えば、スクロースまたはトレハロース)および/または糖アルコール(例えば、マンニトール)から選択され得る凍結乾燥保護剤を含んでなる。凍結乾燥保護剤の添加は、凍結乾燥にあたりタンパク質の分解または凝集の量の低減を助ける。好ましくは、凍結乾燥製剤は再構成の際に等張性であり、よって、凍結乾燥製剤における凍結乾燥保護剤の量は、等張性の再構成製剤を達成するのに十分な量であるといえる。あるいは、再構成製剤は高張性であってよく、それゆえ凍結乾燥製剤においてさらなる量の凍結乾燥保護剤が必要とされる。逆に、凍結乾燥製剤に加えられる凍結乾燥保護剤が少なすぎる場合は、凍結乾燥にあたり受け入れがたい量の抗体の分解または凝集が起こり得る。
好ましくは、凍結乾燥製剤における凍結乾燥保護剤は非還元糖および/または糖アルコールであり、より好ましくはスクロースおよび/またはマンニトールである。好ましい態様において、凍結乾燥製剤における凍結乾燥保護剤はスクロースである。好ましくは、凍結乾燥保護剤は約10mM〜約700mM、好ましくは約50mM〜約600mM、より好ましくは約100mM〜約500mM、さらに好ましくは約200mM〜約400mMの濃度で凍結乾燥製剤に存在する。
好ましくは、凍結乾燥保護剤は、1〜100%(w/w)、好ましくは2〜50%(w/w)、より好ましくは3〜25%、さらに好ましくは5〜20%(w/w)の量で凍結乾燥製剤に存在する。
凍結乾燥保護剤を含んでなる凍結乾燥製剤において、好ましくは、凍結乾燥保護剤に対する抗体のモル比が、抗体1モルに対し凍結乾燥保護剤100〜約3000モル、好ましくは抗体1モルに対し凍結乾燥保護剤約500〜約2500モル、より好ましくは抗体1モルに対し凍結乾燥保護剤約1000〜約2250モル、さらに好ましくは約1500〜2000モルの範囲であってよい。
好ましくは、凍結乾燥製剤は充填剤を含んでなる。充填剤の例としては、マンニトール、グリシン、ポリエチレングリコール、ソルビトール(xorbitol)、無水ラクトース、スクロース、D(+)−トレハロース、デキストラン40およびポビドン(PVP K24)が挙げられる。好ましくは、充填剤は約50〜200mM、好ましくは約100〜150mMの濃度で凍結乾燥製剤に存在する。好ましくは、充填剤は0.1〜10%(w/w)、好ましくは0.2〜8%(w/w)、より好ましくは0.5〜5%(w/w)の量で凍結乾燥製剤に存在する。
一度、凍結乾燥製剤が準備されると、材料は凍結乾燥に供される。これはいくつかの市販の凍結乾燥器を用いて達成することができる。これらは、材料を冷凍し、その後周囲の圧力を減少させて材料中の凍結水を固相から気層に直接昇華させることにより機能する。第二の乾燥相もまた実行される。好ましくは、凍結乾燥製剤は5%未満、好ましくは4%未満、より好ましくは3%未満、さらに好ましくは2%未満の水分含量を含んでなる。
凍結乾燥製剤は、再構成製剤における抗体濃度が1〜100mg/ml、より好ましくは1〜50mg/mlの量で存在するように、希釈剤で再構成されてもよい。
凍結乾燥製剤の再構成に用いられる希釈剤としては、滅菌水、注射用静菌水(BWFI)、注射用水(WFI)、リン酸緩衝生理食塩水等のpH緩衝溶液、滅菌生理食塩水、リンガー液、ブドウ糖液が挙げられる。
再構成製剤における細菌作用を低減させるために保存剤を希釈剤に加えてもよい。保存剤の例としては、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム(アルキル基が長鎖化合物である塩化アルキルベンジルジメチルアンモニウムの混合物);塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルおよびベンジルアルコール等の芳香族アルコール;メチルまたはプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾールが挙げられる。
本発明の一面において、医薬製剤は液体製剤として生産される。好ましくは、抗HER2またはその断片は、液体製剤内に1mg/ml〜100mg/ml、好ましくは5mg/ml〜50mg/ml、好ましくは10mg/ml〜40mg/ml、より好ましくは15mg/ml〜30mg/ml、さらに好ましくは、20〜25mg/ml、特には21mg/mlの量で存在する。
液体製剤は、pH5.0〜6.0、好ましくはpH5.5〜5.9、より好ましくはpH5.6〜5.8、さらに好ましくはpH5.7±0.2、最も好ましくはpH5.7±0.1、特にはpH5.7に緩衝することができる。実施例1に記載されるように、出願人は、例えばクエン酸緩衝液と比較して、酢酸緩衝液が液体製剤に顕著な安定性を付与することを見出した。よって、好ましい酢酸緩衝液は酢酸緩衝液、より好ましくは酢酸ナトリウムである。好ましくは、酢酸緩衝液は、液体製剤内に1〜50mM、好ましくは1〜20mM、より好ましくは1〜10mM、さらに好ましくは2〜7mM、特に4mMの量で存在する。
好ましくは、等張化剤は50〜400mM、好ましくは100〜300mM、より好ましくは200〜250mM、さらに好ましくは210〜220mM、特には214mMの濃度で液体製剤に存在する。
好ましくは、界面活性剤が液体製剤に加えられ、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選択されてよい。特に好ましくは、界面活性剤はポリソルベート80(商標名Tween80(商標)でも知られる(ICI Americans,Inc.))である。
好ましくは、界面活性剤は、液体製剤内に0.001〜0.1%(w/w)、より好ましくは0.002〜0.05%(w/w)、さらに好ましくは0.005〜0.02%(w/w)、特には0.01%(w/w)の量で存在する。
好ましくは、可溶化剤が液体製剤に加えられる。可溶化剤はプロリンまたはグリシンであってよく、好ましくは プロリンである。好ましくは、可溶化剤は1〜50mg/ml、好ましくは5〜40mg/ml、より好ましくは10〜30mg/ml、さらに好ましくは15〜25mg/ml、最も好ましくは20mg/mlの濃度で製剤に加えられる。
本発明の好ましい態様において、液体製剤は、抗HER2抗体またはその断片および薬学的に許容可能な賦形剤を含んでなり、酢酸緩衝液によりpH5.7±0.2に緩衝される。本発明のさらに好ましい態様において、液体製剤は、pH5.7で、NaCl、プロリン、ポリソルベート80および酢酸ナトリウムと製剤化された抗HER2抗体またはその断片を含んでなる。好ましくは、抗HER2抗体またはその断片は、配列番号10および配列番号11の重鎖および軽鎖を含んでなる。
本発明のさらに一層好ましい態様において、液体製剤は10〜40mg/mlの抗HER2抗体またはその断片、200〜250mM NaCl、10〜30mg/mlプロリン、0.005〜0.02%(w/w)ポリソルベート80および1〜10mM酢酸ナトリウム緩衝液を含んでなり、製剤のpHがpH5.7±0.2である。好ましくは, 抗HER2抗体またはその断片は、配列番号10および配列番号11の重鎖および軽鎖を含んでなる。
本発明のより好ましい態様において、液体製剤は、21mg/mlの抗HER2抗体またはその断片、214mM NaCl、20mg/mlプロリン、0.01%(w/w)ポリソルベート80および4mM酢酸ナトリウム緩衝液を含んでなり、製剤のpHがpH5.7である。好ましくは、抗HER2抗体またはその断片は、配列番号10および配列番号11の重鎖および軽鎖を含んでなる。
本発明のさらなる面において、医薬製剤は、抗体の凍結乾燥製剤を含んでなる。
好ましくは 抗HER2抗体またはその断片は、凍結乾燥製剤内に1mg/ml〜100mg/ml、好ましくは5mg/ml〜80mg/ml、好ましくは10mg/ml〜60mg/ml、好ましくは15mg/ml〜40mg/ml、より好ましくは 20〜40mg/ml、さらに好ましくは25〜35mg/ml、特には30mg/mlの量で存在する。
凍結乾燥製剤は、pH5.0〜6.0、好ましくはpH5.5〜5.9、より好ましくはpH5.6〜5.8、さらに好ましくはpH5.7±0.2、最も好ましくはpH5.7±0.1、特にはpH5.7に緩衝することができる。好ましい緩衝液は酢酸緩衝液、より好ましくは酢酸ナトリウムである。好ましくは、酢酸緩衝液は、凍結乾燥製剤内に1〜50mM、好ましくは1〜20mM、より好ましくは1〜10mM、さらに好ましくは3〜7mM、特には5〜6mMの量で存在する。
好ましい態様において、凍結乾燥製剤は安定化剤を含んでなる。好ましくは、安定化剤は、非還元糖および/または糖アルコールである凍結乾燥保護剤である。好ましくは、凍結乾燥保護剤は、スクロースおよび/またはマンニトールであり、最も好ましくはスクロースである。好ましくは、凍結乾燥保護剤は、約50mM〜約700mM、好ましくは約100mM〜約600mM、より好ましくは約200mM〜約500mM、さらに好ましくは約300mM〜約400mM、および最も好ましくは約350mMの濃度で凍結乾燥製剤に存在する。
凍結乾燥保護剤としてスクロースを含んでなる凍結乾燥製剤において、好ましくは、スクロースは、1〜90%(w/w)、好ましくは2〜50%(w/w)、好ましくは4〜25%(w/w)、より好ましくは7〜20%(w/w)、さらに好ましくは10〜15%(w/w)、および最も好ましくは12%(w/w)の量で凍結乾燥製剤に存在する。
凍結乾燥保護剤としてマンニトールを含んでなる凍結乾燥製剤において、好ましくは、マンニトールは、0.1〜20%(w/w)、好ましくは0.5〜10%、より好ましくは1〜6%、さらに好ましくは2〜4%、最も好ましくは2%の量で凍結乾燥製剤に存在する。
凍結乾燥保護剤としてスクロースを含んでなる凍結乾燥製剤において、好ましくは、凍結乾燥保護剤に対する抗HER2抗体のモル比は、抗体1モルに対し凍結乾燥保護剤100〜約3000モル、好ましくは抗体1モルに対し凍結乾燥保護剤約500〜約2500モル、より好ましくは抗体1モルに対し凍結乾燥保護剤約1000〜約2250モル、さらに好ましくは約1500〜2000モルの範囲であってよい。最も好ましくは、凍結乾燥保護剤に対する抗HER2抗体のモル比は、抗体1モルに対し凍結乾燥保護剤約1750モルであってよい。
好ましくは、凍結乾燥製剤は充填剤を含んでなる。好ましくは、充填剤は約50〜200mM、好ましくは約100〜150mM、より好ましくは約120〜140mM、さらに好ましくは約130mM〜135mMの濃度で凍結乾燥製剤に存在するグリシンである。好ましくは、充填剤は、0.1〜10%(w/w)、好ましくは0.2〜8%(w/w)、より好ましくは0.5〜5%(w/w)、さらに好ましくは0.7〜3%(w/w)、および最も好ましくは1%(w/w)の量で凍結乾燥製剤に存在する。
好ましくは、凍結乾燥製剤は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選択される界面活性剤を含んでなる。好ましくは、界面活性剤はポリソルベート80(商標名Tween80(商標)でも知られる(ICI Americans, Inc.))である。好ましくは、界面活性剤は、凍結乾燥製剤内に0.001〜0.1%(w/w)、より好ましくは0.002〜0.05%(w/w)、さらに好ましくは0.005〜0.02%(w/w)、および特には0.014%(w/w)の量で存在する。
本発明の好ましい態様において、凍結乾燥製剤は、抗HER2抗体またはその断片、安定化剤および界面活性剤を含んでなり、酢酸緩衝液でpH5.7±0.2に緩衝されている。本発明のさらに好ましい態様において、凍結乾燥製剤は、pH5.7±0.2で、抗HER2抗体またはその断片、グリシン、スクロース、ポリソルベート80および酢酸ナトリウムを含んでなる。好ましくは 抗HER2抗体またはその断片は、配列番号10および配列番号11の重鎖および軽鎖を含んでなる。
本発明のさらに好ましい態様において、凍結乾燥製剤は、20〜40mg/mlの抗HER2抗体またはその断片、10〜15%(w/w)スクロース、0.5〜5%(w/w)グリシン、0.005〜0.02%(w/w)ポリソルベート80および1−10mM酢酸ナトリウムを含んでなり、製剤のpHがpH5.7±0.2である。好ましくは、抗HER2抗体またはその断片は、配列番号10および配列番号11の重鎖および軽鎖を含んでなる。
本発明のさらにより好ましい態様において、凍結乾燥製剤は、30mg/mlの抗HER2抗体またはその断片、12%(w/w)スクロース、1%(w/w)グリシン、0.014%(w/w)ポリソルベート80および5.75mM酢酸ナトリウムを含んでなり、製剤のpHがpH5.7である。好ましくは、抗HER2抗体またはその断片は、配列番号10および配列番号11の重鎖および軽鎖を含んでなる。
本発明のさらに一層好ましい態様において、凍結乾燥製剤は、20〜40mg/mlの抗HER2抗体またはその断片、300〜400mMスクロース、120〜140mMグリシン、0.005〜0.02%(w/w)ポリソルベート80および1〜10mM酢酸ナトリウムを含んでなり、製剤のpHがpH5.7±0.2である。好ましくは、抗HER2抗体またはその断片は、配列番号10および配列番号11の重鎖および軽鎖を含んでなる。
本発明のさらに一層より好ましい態様において、凍結乾燥製剤は、30mg/mlの抗HER2抗体またはその断片、350mMスクロース、133mMグリシン、0.014%(w/w)ポリソルベート80および5.75mM酢酸ナトリウムを含んでなり、製剤のpHがpH5.7である。好ましくは、抗HER2抗体またはその断片は、配列番号10および配列番号11の重鎖および軽鎖を含んでなる。
一度、凍結乾燥製剤が準備されると、材料は凍結乾燥に供される。好ましくは、凍結乾燥後の製剤は、5%未満、好ましくは4%未満、より好ましくは3%未満、さらに好ましくは2%未満、および特には1%〜2%の水分含量を含んでなる。
本発明のさらなる面において、医薬製剤は、抗体の再構成製剤を含んでなる。
凍結乾燥製剤は、再構成製剤における抗HER2抗体またはその断片の濃度が1mg/ml〜100mg/ml、好ましくは5mg/ml〜50mg/ml、好ましくは10mg/ml〜40mg/ml、より好ましくは15mg/ml〜30mg/ml、さらに好ましくは20〜25mg/ml、特には21mg/mlの量で存在するように希釈剤で再構成されてよい。
凍結乾燥製剤の再構成に用いられる希釈剤としては、滅菌水、注射用静菌水(BWFI)、注射用水(WFI)、リン酸緩衝生理食塩水等のpH緩衝溶液、滅菌生理食塩水、リンガー液またはブドウ糖液が挙げられる。好ましくは、本発明の凍結乾燥製剤の再構成に用いられる希釈剤はWFIである。
希釈剤は、所望の濃度の抗体溶液を得るために、0.1〜100ml、好ましくは1〜50ml、より好ましくは2〜30ml、さらに好ましくは3〜15ml、特には5〜10mlの量で加えられてよい。好ましくは、凍結乾燥製剤は、21mg/mlのタンパク質濃度を得るために7.2mlのWFIで再構成される。
好ましくは、再構成製剤は、pH5.0〜6.0、より好ましくはpH5.7±0.2、さらに好ましくは5.7±0.1、最も好ましくはpH5.7に緩衝される。好ましくは、緩衝液は酢酸緩衝液であり、より好ましくは酢酸ナトリウムである。好ましくは、酢酸ナトリウムは、再構成製剤内に1〜50mM、好ましくは1〜20mM、より好ましくは1〜10mM、さらに好ましくは2〜6mM、特には4mMの量で存在する。
好ましくは、再構成製剤は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選択される界面活性剤を含んでなる。好ましくは、界面活性剤はポリソルベート80(商標名Tween80(商標)でも知られる(ICI Americans, Inc.))である。好ましくは、界面活性剤は、再構成製剤内に0.001〜0.1%(w/w)、より好ましくは0.002〜0.05%(w/w)、さらに好ましくは0.005〜0.02%(w/w)、および特には0.01%(w/w)の量で存在する。
好ましい態様において、再構成製剤は安定化剤を含んでなる。好ましくは、安定化剤は、非還元糖および/または糖アルコールである凍結乾燥保護剤である。好ましくは、凍結乾燥保護剤は、スクロースおよび/またはマンニトール、最も好ましくはスクロースである。好ましくは、凍結乾燥保護剤は、約10mM〜約700mM、好ましくは約50mM〜約600mM、より好ましくは約100mM〜約500mM、さらに好ましくは約200mM〜約300mM、および最も好ましくは約225mM〜約275mM、特には約250mMの濃度で再構成製剤に存在する。
好ましくは、凍結乾燥保護剤は、1〜50%(w/w)、好ましくは2〜25%(w/w)、好ましくは4〜20%(w/w)、より好ましくは5〜15%(w/w)、さらに好ましくは6〜10%(w/w)および最も好ましくは8.4%(w/w)の量で再構成製剤に存在するスクロースである。
凍結乾燥保護剤としてマンニトールを含んでなる再構成製剤において、好ましくは、マンニトールが、0.1〜20%(w/w)、好ましくは0.5〜10%、より好ましくは1〜6%、さらに好ましくは2〜4%、最も好ましくは2%の量で凍結乾燥製剤に存在する。
凍結乾燥保護剤としてスクロースを含んでなる再構成製剤において、好ましくは、凍結乾燥保護剤に対する抗HER2抗体のモル比は、抗体1モルに対し凍結乾燥保護剤100〜約3000モル、好ましくは抗体1モルに対し凍結乾燥保護剤約500〜約2500モル、より好ましくは抗体1モルに対し凍結乾燥保護剤約1000〜約2000モルの範囲であってよい。最も好ましくは、凍結乾燥保護剤に対する抗HER2抗体のモル比は、抗体1モルに対し凍結乾燥保護剤約1750モルであってよい。
好ましくは、再構成製剤は充填剤を含んでなる。好ましくは、充填剤は約50〜200mM、好ましくは約60〜150mM、より好ましくは約70〜120mM、さらに好ましくは約80mM〜100mM、最も好ましくは約90mMの濃度で再構成製剤に存在するグリシンである。好ましくは、充填剤は0.1〜10%(w/w)、好ましくは0.2〜5%(w/w)、より好ましくは0.5〜2%(w/w)、さらに好ましくは0.7%(w/w)の量で凍結乾燥製剤に存在する。
本発明の好ましい態様において、再構成された凍結乾燥製剤は、抗HER2抗体またはその断片、安定化剤、界面活性剤および希釈剤を含んでなり、酢酸緩衝液でpH5.7±0.2に緩衝されている。本発明のさらに好ましい態様において、再構成された凍結乾燥製剤は、pH5.7±0.2で、抗HER2抗体またはその断片、グリシン、スクロース、ポリソルベート80、WFIおよび酢酸ナトリウムを含んでなる。好ましくは、抗HER2抗体またはその断片は、配列番号10および配列番号11の重鎖および軽鎖を含んでなる。
本発明の好ましい態様において、再構成された凍結乾燥製剤は、15〜30mg/mlの抗HER2抗体またはその断片、5〜15%(w/w)スクロース、0.5〜2%(w/w)グリシン、0.005〜0.02%(w/w)ポリソルベート80、WFIおよび1〜10mM酢酸ナトリウムを含んでなり、製剤のpHがpH5.7±0.2である。好ましくは、抗HER2抗体またはその断片は、配列番号10および配列番号11の重鎖および軽鎖を含んでなる。
本発明のより好ましい態様において、再構成された凍結乾燥製剤は、21mg/mlの抗HER2抗体またはその断片、8.4%(w/w)スクロース、0.7%(w/w)グリシン、0.01%(w/w)ポリソルベート80、WFIおよび4mM酢酸ナトリウムを含んでなり、製剤のpHがpH5.7である。好ましくは、抗HER2抗体またはその断片は、配列番号10および配列番号11の重鎖および軽鎖を含んでなる。
本発明のさらに好ましい態様において、再構成された凍結乾燥製剤は、15〜30mg/mlの抗HER2抗体またはその断片、225〜275mMスクロース、80〜100mMグリシン、0.005〜0.02%(w/w)ポリソルベート80、5〜10ml WFIおよび1〜10mM酢酸ナトリウム緩衝液を含んでなり、製剤のpHがpH5.7±0.2である。好ましくは、抗HER2抗体またはその断片は、配列番号10および配列番号11の重鎖および軽鎖を含んでなる。
本発明のさらにより好ましい態様において、再構成された凍結乾燥製剤は、21mg/mlの抗HER2抗体またはその断片、246mMスクロース、90mMグリシン、0.01%(w/w)ポリソルベート80、7.2ml WFIおよび4mM酢酸ナトリウム緩衝液を含んでなり、製剤のpHがpH5.7である。好ましくは、抗HER2抗体またはその断片は、配列番号10および配列番号11の重鎖および軽鎖を含んでなる。
本発明のさらなる面によれば、本明細書において定義される医薬抗体製剤のHER2関連障害の処置のための使用が提供される。
好ましくは、HER2関連障害は癌から選択される。本発明において処置される癌の例としては、それらに限定されないが、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫および白血病またはリンパ性腫瘍が挙げられる。このような癌の特定の例としては扁平上皮(squamous cell)癌(例えば、扁平上皮(epithelial squamous cell)癌)、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌および肺扁平上皮癌を含む肺癌、腹膜癌、肝細胞癌、胃腸癌を含む胃癌(gastric or stomach cancer)、膵臓がん、膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝腫瘍(hepatoma)、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜または子宮癌、唾液腺癌、腎臓または腎癌(kidney or renal cancer)、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝癌(hepatic carcinoma)、肛門癌、陰茎癌ならびに頭頸部癌が挙げられる。より好ましい例としては、転移性乳癌、早期乳癌および転移性胃癌等のHER2陽性癌が挙げられる。より好ましくは、HER2関連障害はHER2陽性転移性乳癌である。
本発明は、本明細書において定義される医薬抗体製剤の治療上有効量を対象に投与することを含んでなるHER2関連障害を処置または予防する方法が提供される。
本発明はまた、HER2関連障害の処置に用いるための、本明細書において定義される医薬抗体製剤を提供する。
本発明の医薬製剤は、液体製剤、凍結乾燥製剤または再構成製剤(すなわち、使用前に再構成される凍結乾燥製剤)であってよい。液体製剤は、通常、密封および滅菌されたプラスチックまたはガラス製のバイアル、アンプルおよびシリンジ等の所定の容量の容器の形態、ならびに瓶のような大容量の容器の形態で提供される。凍結乾燥製剤は、通常、密封および滅菌されたプラスチックまたはガラス製のバイアル中の所定の重量の粉末の形態で提供される。粉末は使用前に再構成される。好ましくは、本発明の医薬製剤は、凍結乾燥製剤である。より好ましくは、本発明の医薬製剤は、再構成製剤である。本発明の医薬製剤は、経口的に、または注射により(例えば、皮下に、静脈内に、腹腔内にまたは筋肉内に)、または吸入により、または局所的に(例えば、眼内に、鼻腔内に、直腸に、創傷に、皮膚に)投与されてもよい。投与経路は、処置の物理化学的特性、疾患に対する特別な配慮または有効性を最適化もしくは副作用を最小限にするための要件により決定することができる。好ましくは、本発明の製剤は、静脈注入、例えば、ボーラスとして、および/または一定期間にわたる持続注入により投与される。
本発明の態様は、
(i)抗HER2抗体またはその断片、凍結乾燥保護剤および酢酸緩衝液の凍結乾燥製剤を有する容器;および
(ii)凍結乾燥製剤を希釈剤で再構成し、再構成製剤における抗体濃度を約10〜40mg/mlとするための説明書
を含んでなる製品を含んでもよい。
好ましくは、凍結乾燥製剤は、約12〜30mg/mlの抗体濃度を得るために希釈剤で再構成される。より好ましくは、抗体濃度は約15〜25mg/ml、さらにより好ましくは約21mg/mlである。
本発明に従って、提供される製剤は個人に投与されてもよい。投与は好ましくは「治療上有効量」、すなわち対象に対し利益を示すのに十分な量でなされる。このような利益は少なくとも1つの症状の少なくとも改善であってよい。投与される実際の量ならびに投与の速度および時間経過は処置されるものの性質や重症度による。処置の処方、例えば投与量の決定等、は医師の責任の範囲内である。抗体の適当な1回投与量は当技術分野において公知である(Ledermann JAら(1999)Int J Cancer 47:659−664;Bagshawe KDら(1991)Antibody,Immunoconjugates and Radiopharmaceuticals、4:915−922)。正確な1回投与量は、処置される領域のサイズおよび位置、対象の体重、抗体の正確な性質(例えば、全抗体または断片)ならびに抗体投与の前、その時点、または後に投与された(投与される)任意の追加の治療薬を含む多数の因子に依存するであろう。典型的な抗体の1回投与量は、静脈投与のための2mg/kg〜8mg/kgの範囲であろう。
抗体またはその断片は、一回または一連の処置で対象に適切に投与される。疾患の種類および重症度によるが、約0.1mg/kg〜15mg/kgの抗体が、例えば1または複数の別々の投与または連続注入による、対象への投与のための初回候補投与量である。典型的な1日投与量は、上記の因子に応じて、約0.1mg/kg〜50mg/kgの範囲またはそれ以上である。数日またはそれ以上にわたる繰り返し投与については、状態に応じて、疾患の症状の所望の抑制が起こるまで処置が継続される。抗体の好ましい投与量は約0.05mg/kg〜約10mg/kgの範囲であろう。よって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kgまたは10mg/kg(あるいはこれらの任意の組み合わせ)の1または複数の1回投与量が対象に投与されてもよい。このような1回投与量は断続的に、例えば、毎週または3週間ごとに(例えば、対象が、抗HER2抗体の1回投与量を約2〜約20回、例えば、約6回受けるように)投与されてもよい。初回高負荷量とこれに続く1または複数の低負荷量が投与されてもよい。例示的な投与レジメンは約4mg/kg〜8mg/kgの初回負荷量とこれに続く1週ごとの抗HER2抗体の約2mg/kg〜6mg/kgの維持量の投与を含んでなる。好ましくは、8mg/kgの初回負荷量とこれに続く週に1回または3週に1回、それぞれ2mg/kgまたは6mg/kgの量である。
他の療法レジメンを抗HER2抗体またはその断片の投与と組み合わせてもよい。併用投与は、別個の複数の製剤または単一の医薬製剤を用いる共投与およびいずれかの順序(好ましくは、双方(あるいはすべて)の活性物質がそれらの生物学的活性を同時に発揮できる期間を有する)での連続投与が挙げられる。
抗HER2抗体またはその断片の投与と別の腫瘍関連抗原に対する抗体またはその断片の投与とを組み合わせることが望ましいこともある。この場合の他の抗体は、例えば、EGFR、ErbB3、ErbB4または血管内皮増殖因子(VEGF)と結合してもよい。
1つの態様において、本発明の処置は、抗HER2抗体またはその断片と、種々の化学療法剤のカクテルの共投与を含む1または複数の化学療法剤または増殖阻害剤との併用投与を含む。好ましい化学療法剤としては、タキサン(パクリタキセルおよびドセタキセル)および/またはアントラサイクリン系抗生物質が挙げられる。このような化学療法剤の調製および投薬スケジュールは、製造業者の説明書に従って、または熟練した専門家により経験的に決定されて使用されてよい。このような化学療法の調製および投薬スケジュールはChemotherapy Service編、M.C.Perry、WilliamsおよびWilkins、Baltimore、Md.(1992)にも記載されている。抗体は、抗ホルモン化合物、例えば、タモキシフェン等の抗エストロゲン化合物、オナプリストン(欧州特許616812号参照)等の抗プロゲステロンまたはフルタミド等の抗アンドロゲンと、これらの分子に既知の投与量で組み合わせることができる。処置される癌がホルモン非依存性癌である場合、対象は、あらかじめ抗ホルモン療法を受けていてもよく、癌がホルモン非依存性になった後に、抗HER2抗体またはその断片(および場合によっては本明細書に記載される他の物質)を対象に投与してもよい。
いくつかの状況においては、心保護薬(療法に関連する心筋障害を予防または低減するため)または1もしくは複数のサイトカインを対象に共投与することが有益であることがある。EGFR標的薬剤または血管新生阻害剤を共投与してもよい。上記の療法レジメンに加えて、対象は癌細胞の外科的除去および/または放射線療法を受けてもよい。
本発明は、単に例示とする以下の方法および実施例を参照して、以下に説明する。
実施例1:液体製剤の開発
この実施例の目的は、抗体の凍結乾燥製剤の基礎として使用できる液体製剤における抗HER2抗体の安定性に影響を及ぼす主要な製剤化条件を決定することであった。
一般的な材料および方法
抗HER2抗体をウェーブバイオリアクターにおいて生産し、MabSelect Sure(GEヘルスケア;www.gelifesciences.com)を用いてタンパク質Aで捕捉した。カラムHiLoad 16/60 Sephadex 200pg、120ml(GEヘルスケア)をランニングバッファー(10mMクエン酸塩、pH5.5)とともに用いる調製用サイズ排斥クロマトグラフィーによって生産物を洗練した。賦形剤の添加前にUFDFにより生産物を50mg/mlに濃縮した。カラムBakerbond Wide−Pore CBX 5μm 4.6x250mm、300A(JTベイカー 7114−00;www.jtbaker.nl)でCEX−HPLCを行い、続けてカラムBioSep S3000 300mmx4.6mm、300A、分離範囲:5〜500kDa(フェノメネックス 00H−2146−E0;www.phenomenex.com)を用いてSEC−HPLCを行った。
以下の化学物質を製剤スクリーニングに使用した:酢酸ナトリウム三水和物(メルク;www.merckmillipore.com)、酢酸(シグマ;www.sigmaaldrich.com)、クエン酸ナトリウム(シグマ)、硫酸アンモニウム(フルカ;www.sigmaaldrich.com)、塩化ナトリウム(メルク)、塩酸37%(シグマ)および水酸化ナトリウム50%(シグマ)。以下の賦形剤を製剤スクリーニングに使用した:Tween80(商標)(VWR;https://uk.vwr.com)、ソルビトール(シグマ)、PEG8000(シグマ)、グリセロール(VWRプロラボ)、スクロース(シグマ)、マンニトール(メルク)およびグリシン(メルク)、ならびにアミノ酸:グルタミン(フルカ)、プロリン(メルク)、ロイシン(メルク)、アスパラギン酸(メルク)、メチオニン(シグマ)およびヒスチジン(シグマ)。これらのスクリーニング中に使用される化学物質および賦形剤は、水酸化ナトリウム50%溶液を除いてすべて薬局方等級(USまたはEP)であり、非経口に適切である。緩衝液および賦形剤は使用前に0.22μmフィルターを通して濾過された。
1.1:スクリーニング1
目的:試験された条件は:pH、緩衝液濃度、等張化剤濃度、界面活性剤濃度、アミノ酸およびポリオールである。
材料および方法:上記の一般的な材料および方法のセクションに詳述されるように抗HER2抗体を調製した。抗HER2抗体の製剤化サンプルを、低温室にて5±3℃、22±5℃(実験室温度、制御されていない温度)および細胞培養インキュベーター(Hera Cell 150、Thermo(R−022)または同等物)にて37±1℃でインキュベートした。50mg/ml濃縮抗HER2抗体サンプルのための緩衝液交換はPD−10カラム(GEヘルスケア)で行った。製剤化条件は次の通りであった:pH5.00〜8.00、緩衝液濃度10〜50mM、アミノ酸濃度0〜20g/L、アミノ酸の種類(グルタミン、プロリン、ロイシン、アスパラギン酸)、スクロース0〜10g/L、(NH4)2SO4濃度0〜15g/LおよびTween80(商標)濃度0〜0.01%。試験する緩衝液は次の通りであった:酢酸塩、pH範囲3.7〜5.7;ヒスチジン、pH範囲5.0〜7.0;クエン酸塩、pH範囲5.4〜7.4およびリン酸塩、pH範囲6.2〜8.2。抗HER2抗体の最終容量は21mg/mlの目的濃度に到達するように調整した。
手順:統計ソフトウェアJMP(商標)(SAS)で設計した32の製剤において、抗HER2抗体を目的濃度21g/Lで製剤化した。サンプルを37±1℃で1か月間インキュベートし、SEC−HPLCおよびCEX−HPLCにより分析した。実験アプローチの設計には統計ソフトウェアJMP(商標)を用いた。次頁の表1は、試験した緩衝液、pH範囲および緩衝液濃度を示す。
結果:大部分のサンプルで断片化および凝集が視認できた;しかしながら、生産物の安定性に重要な影響を及ぼしたパラメーターはpHのみであった。pH5.00〜6.00、より好ましくは約pH5.50のpH範囲において、最大割合の非脱アミド化抗HER2抗体が得られた。このpH範囲(pH5.00〜6.00)を本明細書で詳述されるさらなる実験で使用した。
1.2:スクリーニング2
目的:スクリーニング1で決定された最適なpHにおける生産物の安定化能について種々の賦形剤を試験した。
材料および方法:上記の一般的な材料および方法のセクションに詳述されるように抗HER2抗体を調製した。抗HER2抗体の製剤化サンプルを、細胞培養インキュベーター、Hera Cell 150、Thermo(R−022)または同等物にて37±1℃でインキュベートした。50mg/ml濃縮抗HER2抗体サンプルのための緩衝液交換はPD−10カラム(GEヘルスケア)で行った。最終容量を21mg/mlの目的濃度に到達するように調整した。評価したパラメーターは:種々の濃度のアスパラギン、スクロース、PEG8000、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、グルタミン、エタノールおよびTween80(商標)であった。
手順:抗HER2抗体を21g/Lまたは50g/Lの目的濃度で製剤化した。試験した製剤を次頁の表2に示す。種々の賦形剤の生産物の安定化能について試験した。サンプルに37℃で1か月間、加速試験によるストレスをかけ、SEC−HPLCおよびCEX−HPLCにより分析した。
結果:図1aは、製剤の脱アミノ化率の変化が小さかったことを示す。0時間では、生産物の75%が非脱アミド化形態であったが、37℃で1か月後には、すべてのサンプルの36%〜43%が非脱アミド化形態であった。高濃度のTween80(商標)存在下または高塩濃度における高濃度抗HER2抗体の製剤が最も良好な脱アミド化の結果をもたらした。図1b、cおよびdは、最も低い脱アミド化をもたらす条件が、最も高い凝集レベルおよびまた抗体の可溶性の最も大きい消失をもたらした。結論として、極端な製剤組成物を使用することにより脱アミド化率を低い範囲に低減することが可能であった。これらは高濃度のタンパク質、塩および界面活性剤を含む。最も良い条件が非脱アミド化形態の6%の増加をもたらした;しかしながら、同一の条件が凝集および可溶性の重大な消失について最大の割合をもたらした。
1.3:スクリーニング3
目的:このスクリーニングの目的は、スクリーニング2に由来する最良のパラメーターを微調整することにより抗HER2抗体の脱アミド化を低減することであった。
材料および方法:上記の一般的な材料および方法のセクションに詳述されるように抗HER2抗体を調製した。加速試験のために、製剤化された抗HER2抗体サンプルを細胞培養インキュベーター、Hera Cell 150、Thermo(R−022)または同等物にて37±1℃でインキュベートした。試験したパラメーターは:pH4.00〜pH6.00、緩衝液の種類は酢酸塩またはクエン酸塩であり、塩濃度は100mMまたは250mMのいずれかであった。条件は次頁の表3に詳述する。84mg/mlの出発サンプル濃度からNaClおよび緩衝液の濃縮溶液を添加し所望の濃度に到達させた。最終容量は抗HER2抗体の目的濃度が21mg/ml、42mg/mlまたは63mg/mlに到達するように調整した。
手順:抗HER2抗体を21mg/ml、42mg/mlまたは63mg/mlの目的濃度で製剤化した。酸性pKaを有する2種の緩衝液についてpH4.00〜pH6.00の最適なpH範囲における生産物の安定化能を評価した。サンプルに37℃で、加速試験において、1か月間ストレスをかけ、SEC−HPLCおよびCEX−HPLCにより分析した。
結果:前回のスクリーニングによれば、抗HER2抗体の安定性について最も良い結果は弱酸性pH値で得られることが観察された。脱アミド化は、より高い抗体濃度または塩濃度の存在下で大部分が阻害されるといえる。このスクリーニングでは、高い抗体濃度または塩濃度および弱酸性pHで抗HER2抗体の製剤を評価した。0時間では、生産物の75%が非脱アミド化形態であった。図2aにおいて、CEX−HPLCの結果は非脱アミド化形態の最大割合が45%に低減されたことを示す。脱アミド化は非常に低いpHではより重要であり、最適pHはpH5.0〜pH6.0の範囲であることが見出された。低pHでの脱アミド化の程度は、緩衝液がクエン酸塩ではなく酢酸塩である場合に低減された。高濃度(250mM)のNaClは低pH値での脱アミド化を低減させた。製剤中の抗HER2抗体の濃度を変更しても結果に影響を及ぼさなかった 。
SEC−HPLCの結果(図2b、c、dおよびe)は、低pH値および高塩濃度で最大分解を示した。pH4.0およびpH4.5では、単量体型の抗体が最少量であり、凝集が多く、断片化が多かった。これらの低pH分解は緩衝液が酢酸塩である場合により多く表れた。最も良い結果はpH5.5およびpH6.0で得られ、ここでは抗HER2抗体の安定化について酢酸塩とクエン酸塩とは同等であることが認められた。250mMのNaClは100mMのNaClよりも低pH値でよりより分解をもたらした。抗HER2抗体の濃度は違いをもたらさなかった。
結論として、製剤に最も重要な影響を及ぼすパラメーターはサンプルのpHであった。最も安定なpH範囲はpH5.5およびpH6.0の範囲で認められた。抗体濃度は脱アミド化に対し顕著な違いをもたらさなかった。
1.4:スクリーニング4
目的:この工程の目的は、凍結乾燥製剤の基礎として使用できる最終液体製剤を定義することであった。第一工程は、最良のパラメーターをこれらの最適な範囲に絞ることから構成されていた。第二工程は、抗HER2抗体液体製剤として単一最終組成物を選択するための統計ソフトウェアを用いた実験を設計することであった。
材料および方法:上記の一般的な材料および方法のセクションに詳述されるように抗HER2抗体を調製した。加速試験のために、抗HER2抗体の製剤化サンプルを、低温室にて5±3℃、22±5℃(実験室温度、制御されていない温度)および細胞培養インキュベーター、Hera Cell 150、Thermo(R−022)または同等物にて37±1℃でインキュベートした。使用した統計ソフトウェアはJMP(商標)(SAS)であった。
手順:実験設計のためにパラメーターを絞るための予備スクリーニングを行った。緩衝液のスクリーニングは、NaCl 50mM中の抗HER2抗体を、pH5.5で以下の濃度:1.0、2.5、5.0、7.5、10.0、15.0および20.0mMで酢酸塩またはクエン酸塩を加えて透析することにより行った。最適な塩濃度は、10mMクエン酸塩(pH5.5)中の抗HER2抗体を、以下の濃度のNaCl:0、10、50、100、200、400、600、800および1000mMを加えて透析することにより決定した。抗酸化剤であるメチオニンを、5mMクエン酸塩(pH5.5)、50mM NaClに透析された抗HER2抗体において、1、4または8mMの濃度で試験した。実験は統計的設計に従って行われた。統計ソフトウェアJMP(商標)において使用したパラメーター範囲は:pH5.50〜pH6.25、緩衝液濃度0〜20mM、NaCl濃度50mM〜250mM、ポリオール(ソルビトール、グリセロール、またはなしのいずれか)、アミノ酸(プロリン、グリシン、またはなし)、Tween80(商標)0%または0.01%、メチオニン0mMまたは4mMであった。実験アプローチの設計は以下の表4に示す。
結果:結果は図3および表5に示す。図3aは、NaCl濃度が200mMよりも高い場合に凝集および断片化が増加することを示す。図3bは、非脱アミド化形態の割合がNaClの0mM〜50mMで最も低く、また塩濃度に比例して増加したことを示す。図3cは、pH5.5で、酢酸緩衝液が断片と凝集をより少なくすることを示す。抗酸化剤であるメチオニンは抗HER2抗体の安定性に影響を及ぼさなかった。
よって、最終実験設計について、50mM〜250mMの範囲のNaClおよび1.0mM〜20.0mMの範囲の酢酸緩衝液を含めることを決めた。メチオニンの単一濃度はまた、4.0mMの濃度で含まれる。
抗HER2抗体の最終液体製剤組成物は、表4に示されるように統計ソフトウェアJMP(商標)を用いて実験において決定した。サンプルを37℃で1か月間インキュベートし、SEC−HPLCおよびCEX−HPLCにより分析した。結果は、単量体の割合、凝集の割合、生産物濃度(結果の掲載省略)について統計ソフトウェアに入力し、統計的有意差(P<0.05)を検出した。応答は、Rスクエアが1.00と質が優れており、帰無仮説の誤った棄却の可能性が小さく(P<0.05)、かつRMSE値が小さかった。断片の応答はRスクエアが0.94であったが、RMSEおよびP値は大きかった。断片の割合はいずれの緩衝液組成物に関しても統計的に有意な差はなかった。
プロフィールの予測(結果の掲載省略)は、ポリオール、アミノ酸、メチオニンおよびTween80(商標)ではエラーバーが非常に大きく、結論が出せないことを示した。pH、緩衝液濃度および塩濃度は生産物の安定性に最大の影響を及ぼした。pHは、最小限の凝集にはpH5.9〜pH6.1の範囲が最適であるが、最小限の脱アミド化にはpH5.5〜pH5.8が最適であった。低凝集のための最適なNaCl濃度は75mM〜175mMの範囲であり、最小限の脱アミド化には200mM〜225mMが最適であった。最小限の凝集について予測される最適な緩衝液濃度は、7.5mM〜17.5mMの範囲であり、最小限の脱アミド化には緩衝液濃度5mM未満が最適であった。要すると、脱アミド化を回避するのに最適な条件は、凝集を回避するのに最適な条件とは異なった。
スクリーニング実験を通して、凝集レベルは脱アミド化レベルよりもはるかに低かった。37℃、pH5.5での1か月の加速試験の後、上述のスクリーニングにおいて凝集は概して0.5%の範囲であったのに対し、脱アミド化形態は30%増加した。最大の分解/脱アミド化を低減する条件で製剤化することを決めた。よって、最終組成物が4mM酢酸塩(pH5.7)と214mM NaClとを含有することを決めた。これらの条件は、抗HER2抗体の可溶性に好ましくないため、可溶化特性を有する賦形剤も含めることとし、最終組成物に20g/Lのプロリンを加えた。最後に、示されてはいないが、運搬の際に起こる機械的ストレスによる生産物の損失を回避するために、製剤中に界面活性剤が存在することが望ましいことが知られている(Mahler H−Cら、(2009)J Pharm Sci,98(12):4525−33)。スクリーニング実験を通して、低濃度のTween80(商標)は可溶性を改善し、生産物の完全性に悪影響を及ぼさなかった。よって、0.01%のTween80(商標)を最終組成物に加えた。
抗HER2抗体の安定性に最も重要なパラメーターはpHであり、よって、酢酸緩衝液がクエン酸緩衝液よりも製剤に大きな安定性を付与することが示されたため(図3c参照)、最終濃度として酢酸緩衝液を選択した。等張化剤および緩衝液の最適な濃度は最適なpH範囲で検出された。アミノ酸についてはまた、抗HER2抗体に有用な可溶化特性を有するものを試験した。試験した界面活性剤については、低濃度では抗HER2抗体の安定性に悪影響を及ぼさず、よって、機械的ストレスに対する保護剤として最終組成物に含めることとした。最終組成物は表6に示す。
実施例2:凍結乾燥製剤の開発
実施例1で決定された 抗HER2抗体の液体製剤を、同一抗体の最適な凍結乾燥製剤を開発するための出発点として使用した。製剤におけるこの抗HER2抗体の安定性のための最も重要なパラメーターはpHであることが実施例1のスクリーニングで明確に示された。酢酸ナトリウムの形態の酢酸緩衝液の使用がクエン酸緩衝液と比較して最適な結果をもたらすことが認められ、よって、酢酸緩衝液を最終液体製剤に含めた。凍結乾燥のための抗HER2抗体の製剤をさらに安定化させるためには凍結乾燥保護剤が必要とされた。本明細書で詳述するように、多種の凍結乾燥保護剤が利用可能であり、この実験の目的のためには、以下の凍結乾燥保護剤を初めに選択した:スクロース、マンニトール、グルコース、ソルビトールおよびラクトース。しかしながら、グルコース、ラクトースおよびソルビトールは還元糖であることが広く知られており、よって、これらの凍結乾燥保護剤をさらなる実験研究に選択しなかった。第一の実行に関し、抗HER2抗体凍結乾燥製剤のための凍結乾燥保護剤としてマンニトールを選択した。
一般的な材料および方法
以下の化学物質を製剤スクリーニングに使用した:酢酸ナトリウム三水和物(メルク)、酢酸(シグマ)、塩酸37%(シグマ)および水酸化ナトリウム50%(シグマ)。以下の賦形剤を製剤スクリーニングに使用した:Tween80(商標)(VWR)、スクロース(シグマ)、マンニトール(メルク)およびグリシン(メルク)。スクロース(600g/l)、グリシン(130g/l)、マンニトール(150g/l)およびTween80(商標)(10%)のストック溶液を5.75mM酢酸ナトリウム(pH5.7)に調製した。HCl 37%およびNaOHはpH調整に使用した。その後、所望の濃度を達成するために、製剤におけるストック溶液の希釈により賦形剤を抗HER2抗体製剤に加えた。緩衝液の明細は、pHが5.7±0.1であり、電導度が0.42〜0.66mS/cmであった。ISO3696タイプII水を最初から最後まで使用した。この高度に精製された水は浸透膜およびオゾン殺菌システムを用いて社内で調製した(クリストアクア、スイス)。すべての化学物質および賦形剤は非経口投与に適切なものであった。緩衝液は使用前に0.22μmフィルターを通して濾過した。
この試験に使用する抗HER2抗体試験材料をMabSelect Sure(GEヘルスケア)を用いるタンパク質Aアフィニティ―クロマトグラフィーを用いてまず精製した。タンパク質Aの後の生産物の純度が高かったため(単量体含量>99%)、生産物のダイアフィルトレーションおよび濃縮の前にこれ以上精製工程を行わなかった。
精製抗HER2抗体を5.75mM酢酸ナトリウム(pH5.7)中でタンジェンシャルフロー濾過(TFF)により7〜10回ダイアフィルトレーションし、その後50〜60g/lに濃縮した。TFF後、スクロース、グリシンおよびTween80(商標)を添加することにより抗HER2抗体を製剤化し、30g/lの最終緩衝組成物とした。分析試験に使用する参照標準材料はDRS−抗HER2抗体であり、−60℃以下の温度で品質管理が維持された。
凍結乾燥された薬剤生産物を調製するために、Telstar凍結乾燥系を用いた(Lyobeta 15 lyophilizer;Telstar、Terrassa、スペイン)。VP600 Voetsch stability chamber(Voetsch Industrietechnik GmbH、ドイツ)を、40±2℃、50±5%相対湿度試験での3か月試験、および25±2℃、±5%相対湿度試験での12か月試験に用いた。標準研究室冷蔵庫を5±3℃での36か月安定性(stability)に用いた。
使用するバイアルと栓の材料は臨床試験製品を意図するものであった。バイアルはSchottから購入した20ml Fiolax clear、USP type I glass vials(Art.No:1156521)であり、栓はウェストファーマにより流通されるFlurotec(ref FD20TT3WRS)であった。
薬剤生産物の安定性は数種の試験を用いて決定し、薬剤生産物の経時的変化を評価した。CEX−HPLC(Dionax、ProPac WCX−104x250mm)、SEC−HPLC(Phenomenex、YARRA 3u SEC−3000 7.8x300mm)およびSDS−PAGEが生産物の破壊の高感度インジケーターである。サンプルが分解されやすい場合は、これらのアッセイを用いる薬剤生産物のプロフィールは経時的に変化するであろう。A280アッセイは、生産物の破壊または容器壁への接着の指標となり得るタンパク質レベルの変化の検出に使用することができる。ELISA細胞ベースのアッセイおよびELISA結合アッセイは、生産物の変質の指標となるサンプルの能力の変化を用いて生産物の能力を決定するのに使用することができる。生産物の残留水分をカール・フィッシャーアッセイにより評価した。
2.1:スクリーニング1
目的:抗体の安定性に対する凍結乾燥保護剤マンニトールの効果の 判定
材料および方法:上記の一般的な材料および方法のセクションに従って製剤を調製した。このスクリーニングでは、異なる濃度のTween80(商標)とともにマンニトールを含有する2種の製剤を試験した。賦形剤、緩衝液および抗体は液体製剤中におけるよりも濃縮し(×1.43)、150mg凍結乾燥産物/バイアル、かつ、わずか1cmのケーク高を達成した。試験した製剤は:30mg/ml抗HER2抗体、5.76mM酢酸ナトリウム(pH5.7)、72mg/mlマンニトール、0.014%Tween80(商標);および30mg/ml抗HER2抗体、5.76mM酢酸ナトリウム(pH5.7)、72mg/mlマンニトール、0.043%Tween80(商標)であった。
実行する凍結乾燥サイクルは以下の表7に詳述し、さらに、結晶化度を増加するアニーリング工程を含有した。
結果:精製後、出発生産物は99.8%の単量体を含有した。第一の試験実行後、生産物は98.0%の単量体(および2.0%の二量体)を含有し、単量体、二量体の割合については各製剤で違いは観察されなかった。よって、Tween80(商標)の濃度の違いは凍結乾燥製剤における単量体の割合に影響を与えなかった。結論として、第一の実行は、マンニトールは凍結保護効果が低い(単量体含量の減少)ことを示す。よって、凍結保護能力に基づいて賦形剤を選択するために次の凍結乾燥実行の前に凍結融解試験を行う。Tween濃度のわずかな効果を考慮し(ケークの再構成の間、凝集の形成を防止するはずである)、本試験では最も低いTween80(商標)濃度(0.014%)の使用継続を決めた。
2.2:スクリーニング2
目的:ケーク外観と安定性との間の最適条件を決定するために、マンニトールおよびスクロースの種々の混合物を5回の凍結融解サイクルにわたり試験した。
材料および方法:上記の一般的な材料および方法のセクションに従って製剤を調製した。試験した製剤は以下の表9に示し、これらを−40℃および25℃で5回の凍結融解サイクルに供した。その後、単量体の割合が最も高い製剤を、表7に詳述されるような凍結乾燥サイクルを用いる凍結乾燥のために選択した。凍結乾燥の後、ケークは再構成し、各製剤について単量体の割合を決定した。
結果:5回の凍結融解サイクルの結果を図4に示す。製剤6、8、10および19は、凍結融解後に存在する単量体の割合が最も高かったことから、これらを凍結乾燥のために選択した。凍結乾燥後、製剤10は最も良いケークの外観を示した(結果の掲載省略)。ケークの再構成後、単量体の割合を決定し、その結果を図5に示す。結論として、凍結乾燥保護剤であるマンニトールおよびスクロースの組み合わせは、抗HER2抗体の凍結乾燥製剤に良好な安定性を与えた;しかしながら、凍結乾燥製剤はケークの外観が劣っていた。これらの結果よりも改善された製剤安定性について試験するために、より高い濃度のスクロースについて試験することにした。さらに、ケーク外観を改善するために、充填剤であるグリシンを製剤に添加することについて試験することに決めた。
2.3:スクリーニング3
目的:スクリーニング2に由来する4%マンニトールおよび6%スクロースを含んでなる好ましい製剤の水分およびケーク外観を決定すること、また、より高濃度の両方の凍結乾燥保護剤について試験し、ケーク外観を改善できるか否かを立証すること。加えて、製剤の安定性に対するマンニトールおよびグリシンの混合物の効果を試験した。
材料および方法:上記の一般的な材料および方法のセクションに従って製剤を調製した。試験した製剤は以下の表9に示し、これらを表7中のパラメーターに従う凍結乾燥に供した。
結果:試験した各製剤についての水分割合およびケーク外観は以下の表10に記載する。製剤1、2および7は良好なケーク外観を示した;しかしながら、製剤2は水分含量が最も高かった。スクロースのみ含有する製剤3〜6は、10および12%のより高いスクロース濃度では低減されるが(データの掲載省略)、縮んだりひび割れたりするケーク外観であった。
2.4:スクリーニング4
目的:このスクリーニングの目的は賦形剤としてマンニトール、グリシンおよびTween80(商標)を含有する抗HER2抗体の製剤の安定性を決定することであった。製剤をまず凍結融解の5サイクルに供し、最も安定な製剤をさらなる凍結乾燥のために選択した。
材料および方法:上記の一般的な材料および方法のセクションに従って製剤を調製した。試験した製剤は以下の表11に示し、これらを−40℃および25℃で5回の凍結融解サイクルに供した。
結果:試験した抗HER2抗体の12の製剤の5回の凍結融解サイクルにおける安定性を、存在する単量体の割合として図6に示す。試験の期間中、マンニトール:グリシンの比率が抗HER2抗体の安定化に重要であることが観察された。使用したマンニトール:グリシンの比率が凍結融解の5サイクルの前後で製剤の安定性にほとんど影響を与えなかったので、製剤1、4、7、10および11をさらなる凍結乾燥のために選択した。
2.5:スクリーニング5
目的:スクリーニング4において凍結融解サイクルに供したマンニトール/グリシン製剤で初期の良好な安定性結果が観察されたことから、凍結乾燥サイクルにおいて選択したマンニトール/グリシン製剤と並行して、スクロース/グリシンの混合物製剤と高濃度スクロース製剤を試験することに決めた。
材料および方法:上記の一般的な材料および方法のセクションに従って製剤を調製した。試験した製剤は以下の表12に示し、これらを表7中のパラメーターに従う凍結乾燥に供した。
結果:凍結融解の5サイクルで試験した抗HER2抗体の12の製剤の安定性を、存在する単量体の割合として図7に示す。ケーク外観も評価し(結果は掲載省略)、最も良い安定性およびケーク外観を示した7つの製剤4、8、10、12、15〜17を40℃での1か月間安定性試験に選択した。
2.5:スクリーニング6
目的:7つの凍結乾燥された抗HER2抗体製剤の40℃で1か月間の安定性の判定。
材料および方法:上記の一般的な材料および方法のセクションに従って製剤を調製した。表13に列挙される賦形剤を含有する7つの製剤を、表14に示されるパラメーターに従う凍結乾燥サイクルに供した。
結果:40℃で1か月間の安定性試験の結果は、図8a、8bおよび8cに示される通りである。製剤1〜4は1か月後、単量体の高い割合(図8a)と、類似したCEXプロフィール(図8b)とを示した。凍結乾燥されたケークで測定された水分の割合は製剤1〜4で最も低いことが示された。これらの結果に基づいて、製剤2および4をさらなるスクリーニングに用いるために選択した。
2.7:スクリーニング7
目的:凍結乾燥サイクルを最適化し、二次乾燥において観察されるひび割れや縮みを低減することによりケーク外観を改善すること。
材料および方法:製剤2および4はスクリーニング6から選択し、崩壊温度(Tg’)を決定するためにこれらをTelstar(Terrassa、スペイン)に送った。
凍結乾燥サイクルの二次乾燥工程は、ケーク外観を改善し、ケーク中の水分割合を低減するために検討された。二次乾燥工程の速度を落とす2つの新しい凍結乾燥プロトコールを試験した。表14を参照し、2つの二次乾燥工程についての時間を、1サイクルにおいて5および24時間から15および9時間にそれぞれ変更し、第二のサイクルにおいて5および24時間から20および4時間にそれぞれ変更したが、二次乾燥工程を通じて0.1mbarsの減圧を維持した。
結果:試験した2つの製剤の崩壊温度を製剤の組成とともに以下の表15に示す。両製剤は非常に類似した崩壊温度を有すると考えられた。
15および9時間の二次乾燥工程での凍結乾燥の後、水分含量は、製剤1については0.94%、製剤2については1.19%と決定された。20および4時間の二次乾燥工程での凍結乾燥の後、水分含量は、製剤1については1.20%、製剤2については1.70%と決定された。
2.8:スクリーニング8
目的:選択した2つの抗HER2抗体凍結乾燥製剤の40℃で1か月間の安定性を判定すること。この試験は、上記セクション2.7に記載される凍結乾燥サイクルにおける変化が繰り返される以外は、スクリーニング6についてセクション2.6に記載される1か月安定性試験と同一である。
材料および方法: 製剤1および2の組成を以下の表16に示す。両製剤を以下の表17に示される凍結乾燥サイクル(二次乾燥時間が20および4時間に選択される)に供した。40℃で1および2か月保存した後、サンプルをSECおよびCEXにより分析した。
結果:HPLC−SECにより測定した、1および2か月後の両候補製剤における単量体の割合は図9aに示される通りである。HPLC−CEXの結果を図9bに示す。0時間では、液体および凍結乾燥製剤に関し、製剤1および2についての安定性にはほとんど差異がなかった。40℃で1か月の保存後、HPLC−CEXでは製剤間に違いはなかった;しかしながら、図9aによれば、HPLC−SECにより示されるように小さな違いがある。2か月の保存後、製剤2は製剤1よりも安定であることが図9aおよび9bの双方から明らかに分かる。その後、長期安定性試験に進めるために製剤2を選択した。
実施例3:長期安定性試験
目的:この安定性試験の目的は、5±3℃での意図される保存、25±2℃での加速試験および40±2℃でのストレス試験について、30g/Lの目的濃度の凍結乾燥された抗HER2抗体製剤の安定性を決定することであった。凍結乾燥された抗HER2抗体製剤の安定性は、5±3℃で36か月間、25±2℃で12か月間および40±2℃で3か月間フォローする。
材料および方法:製剤緩衝液は5.75mM酢酸ナトリウム(pH5.7)(メルク)、12%スクロース(シグマ)、1%グリシン(メルク)および0.014%Tween80(商標)(VWR)であった。塩酸37%(シグマ)をpH調整に用いた。緩衝液の明細は、pHが5.7±0.1であり、電導度が0.42〜0.66mS/cmであった。すべての化学物質は非経口投与に適切なものであった。緩衝液はその後0.22μmフィルターを通してバッグに濾過した。
賦形剤の3つのファミリー、凍結乾燥保護剤(スクロース)、充填剤(グリシン)および界面活性剤(Tween80(商標))のストック溶液は、5.75mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.7)に調製した。スクロース、グリシンおよびTween80(商標)のストック溶液は、600g/L、130g/Lおよび100g/Lの濃度でそれぞれ調製した。その後、所望の濃度を達成するために、製剤におけるストック溶液の希釈により賦形剤を抗HER2抗体製剤に加えた。
精製抗HER2抗体を5.75mM酢酸ナトリウム(pH5.7)においてタンジェンシャルフロー濾過(TFF)により7〜10回ダイアフィルトレーションし、その後50〜55g/Lに濃縮した。TFF後、スクロース、グリシンおよびTween80(商標)を添加することにより抗HER2抗体を製剤化し、最終緩衝組成物とした。使用した参照標準は分析試験に使用するためのDRS−抗HER2抗体−01であり、−60℃以下の温度で品質管理が維持された。
凍結乾燥された薬剤生産物を調製するために、Telstar凍結乾燥系を用いた(Lyobeta 15 lyophilizer;Telstar、Terrassa、スペイン)。VP600 Voetsch stability chamber(Voetsch Industrietechnik GmbH、ドイツ)を、40±2℃、±5%相対湿度試験での3か月試験、およびまた25±2℃,±5%相対湿度試験での12か月試験に用いた。標準研究室冷蔵庫を5±3℃での36か月安定に用いた。
使用するバイアルと栓の材料は臨床試験製品を意図するものであった。バイアルはSchottから購入した20ml Fiolax clear、USP type I glass vials(Art.No:1156521)であり、栓はウェストファーマにより流通されるFlurotec(ref FD20TT3WRS)であった。すべてのバイアルは圧着された。
製剤化した抗HER2抗体を、20mlのSchottバイアルに5ml/バイアルの容量で分取した。全体で62のバイアルを調製した。棚の残りはプラセボバイアルで満たした。バイアルを以下の表18に示されるパラメーターに従って凍結乾燥した。
薬剤生産物の安定性は数種の試験を用いて決定し、薬剤生産物の経時的変化を評価した。CEX−HPLC(Dionax、ProPac WCX−104x250mm)、SEC−HPLC(Phenomenex、YARRA 3u SEC−3000 7.8x300mm)およびSDS−PAGEが生産物の破壊の高感度インジケーターである。サンプルが分解されやすい場合は、これらのアッセイを用いる薬剤生産物のプロフィールは経時的に変化するであろう。A280アッセイは、生産物の破壊または容器壁への接着の指標となり得るタンパク質レベルの変化の検出に使用することができる。ELISA細胞ベースのアッセイおよびELISA結合アッセイは、生産物の能力の決定に使用することができる。サンプルの能力の時間による変化は生産物の変質の指標となる。pH安定性を決定するために製剤のpHを経時的に確認し、溶液の物理的外観も監視する。ケーク溶解後のサブビジブル粒子の存在または不存在もまた確認する。生産物の水分の任意の変動を監視する。これは凍結乾燥された生産物の分解への感受性を増加させることができ、カール・フィッシャー滴定により確認する。最後に、再構成時間を測定し、凍結乾燥された生産物ケークの完全溶解時間を決定するのに使用する。温度5℃、25℃および40℃について、各時点で、これらのパラメーターを以下の表19に示される基準に従って評価する。
結果:HPLC−SECにより測定した、12か月後の凍結乾燥された抗HER2抗体製剤における単量体の割合を図10aに示す。この図は、試験したすべての時点およびすべての温度で製剤サンプルにおける単量体の割合に差異がなかったことを示す。12か月間のHPLC−CEXの結果を図10bに示す。グラフのy軸で使用した大縮尺は、製剤サンプル間の安定性に大きな違いがあるという印象を与える(特に40℃および後の時点);しかしながら、実際には多くてもおよそ1.5%というわずかな違いであり、製剤は12か月試験の期間安定であると考えられた。試験した他のパラメーターについての結果は以下の表20に要約し、各評価パラメーターの明細を満たしているか否かを示す。
試験したパラメーターの大部分について、試験した抗HER2抗体製剤は、12か月を含むそれまでに試験したすべての温度および時点で、表19で示される明細の範囲内であることが認められた。生産物の破壊または容器壁への接着の指標となり得るタンパク質レベルの変化の検出に使用することができるA280アッセイについて、最初の評価明細の≧20および≦24mg/mlは誤って計算された。安定性試験の開始時、A280アッセイについての結果は実際には18mg/mlであり(すでに評価明細外)、この数字は試験を通じて依然として変わらず、実際には生産物の破壊も容器壁への接着もなかったことを示す。pHの評価について、pHの明細は≧5.6および≦5.8に設定された。6か月の時点、5℃および25℃での読み取りについて、pH値の記録は5.865であり、わずか部分的に設定されたpH範囲外であった。試験した他のすべての時点および温度ではpH明細は設定された範囲内であった。
結論として、12か月にわたるこの安定性試験は、本発明の抗HER2抗体製剤が安定性の評価パラメーターの大部分を満たし、よって、長期安定性試験の残りの期間も安定であることが期待できることを示した。