本実施形態は、主として建物における光環境の設計を支援する光環境設計支援装置、光環境設計支援システム、コンピュータを光環境設計支援装置として機能させるためのプログラムに関する。
以下に説明する光環境設計支援装置は、建物を構成する部材に関するデータを含む建築モデルデータを用いて建物の光環境に関する設計を支援するように構成されている。建築モデルデータは、建物に関係した様々なデータの総体であり、この種のデータを、以下ではBIM(Building Information Modeling)データと呼ぶ。BIMデータは、工業製品の部品表と同様に、建物の部品表とも言える部材のリストを含んでいる。
本実施形態において、建物は、オフィスビルあるいは商業ビルなどを想定しているが、集合住宅、戸建て住宅などであってもよい。また、建物は、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、スポーツ施設、美術館、博物館、病院など、光環境の設計が必要であれば種類を問わない。
BIMデータは、建物を構成する部材の3次元形状と、当該部材の配置と、当該部材の仕様との少なくとも3種類のデータを含んでいる。建物を構成する部材は、構造躯体だけではなく、内装材、外壁材、設備、什器などを含むことが望ましい。BIMデータは、最終的には、照明設備を含んでいることが必要であり、その他に、通常は、空調設備、給水設備、排水設備、分電盤などが含まれる。照明設備は、照明器具および照明器具を操作するスイッチなどを含んでいる。什器は、建物の種類に応じて異なるが、オフィスビルであれば、机、椅子、書棚、ロッカー、パーティションなどであり、商業ビルであれば、様々な形状の陳列棚、机、ショーケース、カウンター、パーティションなどである。BIMデータは、上述した3種類以外にも、建物に関する様々なデータを含むが、本実施形態においては上述した3種類を用いる。
建物を構成する部材の3次元形状は、3次元CAD(Computer Aided Design)で生成されるデータと同様のデータであって、部材を構成する個々の部品の形状、寸法、向きなどを表すデータと、複数の部品間の相対位置を表すデータとを含む。部材の配置は、BIMデータにより表される建物が配置される仮想空間における絶対座標での座標位置のデータで表される。部材の配置は、複数の部材間の相対位置も表す。部材の仕様は、部材ごとの属性と言い換えてもよく、部材の形状、寸法、質量などのデータ、部材を構成する材料または素材のデータなどを含む。
また、光環境を設計する空間への露出部位の部材であれば、部材の属性として光環境に関連する特性のデータが必要である。光環境に関連する特性のデータは、言い換えると、光の反射に影響を与えるデータであって、少なくとも反射率を含み、さらに色、柄、表面の状態(反射特性、テクスチャ)を含むことが望ましい。反射特性は、部材の表面が鏡面反射性か拡散反射性かの区別である。また、部材の材料または素材も光環境に関連する特性のデータに含める場合がある。どのデータを光環境の設計に用いるかは、光環境のシミュレーションに要求される精度、光環境のシミュレーションに用いるコンピュータの性能などに応じて利用者が定めればよい。
BIMデータにおいて、各部材には名称が付与される。BIMデータに用いる部材の名称は、部材の種類および部材を用いる場所を特定することができるように付与され、部材の仕様を表すデータを含むこともある。部材の名称が部材の仕様を表すデータを含んでいない場合でも、部材の名称と部材の仕様とを対応付けたデータベースを利用することで仕様を取得することが可能である。データベースを利用可能である場合は、部材の名称をデータベースと照合することによって、部材の仕様を抽出することができる。部材の仕様は、後述する部材の特性を含む。
また、部材を用いる場所の情報は、建物において部材を配置する空間を特定する第1の場所情報と、第1の場所情報で特定される空間の中で配置される場所を表す第2の場所情報とを含むことが望ましい。第1の場所情報は、たとえば建物におけるフロアなどの空間を特定し、第2の場所情報は、第1の場所情報で特定された空間の天井、床、壁などの場所を特定する。
本実施形態では、建物の設計者が作成したBIMデータを用いて建物の光環境を設計する際に、光環境の設計が容易になるようにBIMデータを加工する光環境設計支援装置を提案する。この光環境設計支援装置は、建物の設計者が用いることも可能であるが、照明設備に精通した技術者が建物の光環境について設計者に提案するために用いることが望ましい。すなわち、光環境設計支援装置を用いると、建物の構造設計を行う設計者と、光環境の設計を行う設計者との分業が可能になる。
また、以下に説明する光環境設計支援装置を用いてBIMデータから生成される光環境設計用のデータ(以下、「環境設計データ」という)は、BIMデータに比べてデータ量が少なく、光環境のシミュレーションを行う際の処理負荷が軽減される。そのため、光環境設計支援装置が生成したデータを処理するために要求されるハードウェア資源の性能の水準を抑制することが可能である。すなわち、光環境設計支援装置が生成したデータを用いた光環境のシミュレーションを行うために、処理能力が高い特別なMPU(Micro Processing Unit)を用いる必要がなく、また、膨大な容量のメモリを用いる必要がない。
このことから、光環境のシミュレーションは、オフィスあるいは家庭で使用する程度のパーソナルコンピュータを用いて行うことが可能である。言い換えると、光環境設計支援装置が生成したデータを用いると、光環境のシミュレーションにおけるタイムラグおよびリードタイムが小さくなる。また、光環境のシミュレーションを行う際に空間の分割数を増やしてメッシュ密度を高めることが可能になり、高精細なシミュレーション結果を得ることが可能になる。
図1に示すように、本実施形態の光環境設計支援装置10は、BIMデータ(建築モデルデータ)を取得する取得部13を備える。BIMデータは、建物のデザイナ、建物の設計者などにより作成される。光環境設計支援装置10は、BIMデータが記録された記録媒体を読み取るか、BIMデータをデータ通信により受け取ることによって、BIMデータを取得する。記録媒体は、光学ディスク、半導体メモリ、ハードディスク装置などから選択される。
BIMデータは、上述したように、建物に関する様々なデータを含んでいるから、BIMデータの全体を読み込んで光環境のシミュレーションを行おうとすると、作業用メモリに膨大な容量が必要になる。そのため、作業用メモリを、半導体メモリとハードディスクによる仮想メモリとで構成したとすれば、データのスワップが頻発し光環境のシミュレーションにおけるタイムラグおよびリードタイムが大幅に増加する。以下に説明する本実施形態の光環境設計支援装置10は、光環境のシミュレーションにおけるタイムラグおよびリードタイムの短縮に寄与する構成を有する。
ところで、建物の光環境は、部屋を単位として設計されることが多いが、機能に対応付けた区画を単位として設計されることもある。このような区画には、ブース、スペース、コーナ、ゾーンなどの名称が与えられていることが多い。以下、光環境を設計する対象である空間を「対象空間」と呼び、光環境を設計する単位の空間を「単位空間」と呼ぶ。単位空間には、事務室、エントランス、展示室、商談用ブース、待合スペース、トイレなど様々な空間があり、空間の機能に応じて光環境の設計が行われる。対象空間は、1つの単位空間で構成される場合と複数の単位空間を含む場合とがある。
図2のように複数のフロアを有する建物40であれば、各フロアに1つまたは複数の単位空間があり、1つの単位空間には、建物を構成する部材のうち光環境に影響する部材として、内装材、設備、什器などの従属物が含まれる。従属物は、壁、床、天井などを形成する内装材と、設備、什器などとに分類される。従属物の属性のうち、寸法、形状、反射率、色などは光環境に影響を与える。光環境のシミュレーションを行う際に、従属物の反射率には経験に基づいて定めた標準値を用いることが可能であり、また従属物の色にも経験により定めた標準色を用いることが可能である。もちろん、従属物の正確な反射率がわかる場合はその値を用い、従属物の正確な色がわかる場合はその色を用いることが望ましい。
なお、本実施形態では、建物40を構成する部材のうち、構造躯体、外壁材は単位空間の光環境に影響を与える部材には含めていない。ただし、建物40の構造によっては、構造駆体の一部が単位空間に露出することがあるから、構造駆体の一部が単位空間に露出している場合は、光環境に影響を与える部材に含めることが可能である。また、本実施形態で説明する技術は、複数のフロアを有する建物40に限らず、フロアが1つの建物40であっても適用可能である。すなわち、建物40は1つまたは複数のフロアを有していればよい。
図3は複数の単位空間42が存在しているフロア41の一例を示している。図3において、複数の単位空間42のそれぞれには、中央付近にマーク43が記され、さらにマーク43の中心で交差する2本の線分44が示されている。2本の線分44の端点は、単位空間42の境界に位置する。つまり、複数の単位空間42のそれぞれにおいて、2本の線分44のそれぞれの端の位置は、単位空間42の光環境が影響する範囲を表している。言い換えると、該当する単位空間42に照明器具を配置した場合に、2本の線分44のそれぞれの端の位置まで照明器具の光が到達することを表している。
ところで、BIMデータは、多くの場合、建物40を設計または施工する際の作業が容易になるように階層化データ構造を有している。本実施形態では、複数のフロアを有する建物40を想定しており、BIMデータが、建物40の階層の下位に4階層を含む階層化データ構造を有している場合を想定する。すなわち、BIMデータは、建物40の階層である第0階層、各階のフロア41の階層である第1階層、フロア41に含まれる単位空間42の階層である第2階層、単位空間42の従属物の階層である第3階層、従属物の属性の階層である第4階層を有するように階層化されている。そして、BIMデータには、階層ごとに名称が付与されている。たとえば、第1階層には、1階、2階、3階などの名称が付与され、第2階層には、事務室、エントランス、トイレなどの名称が付与される。
本実施形態の光環境設計支援装置10は、取得部13からBIMデータを受け取り、このBIMデータから光環境の設計に必要な部材を抽出する第1処理部11を備える。すなわち、取得部13は第1処理部11にBIMデータを引き渡すように構成される。また、光環境設計支援装置10は第2処理部12を備える。第2処理部12は、第1処理部11が抽出した部材のデータを受け取り、対象空間の光環境を設計する。つまり、第1処理部11が抽出した部材のデータは、第2処理部12に引き渡される。第2処理部12が受け取るBIMデータのデータ量は、第1処理部11が取得部13から受け取るBIMデータのデータ量よりも少ないから、第2処理部12が取得部13からBIMデータデータを受け取るよりも第2処理部12の処理負荷が軽減される。また、第1処理部11を備えていない場合に比べて、第2処理部12に必要なハードウェア資源が軽減される。
このような光環境設計支援装置10は、コンピュータで実現される。図1では光環境設計支援装置10を構成する要素はバス17に接続している。取得部13および記憶部14を除く構成は、基本的には、プロセッサがプログラムを実行することにより実現される。
光環境設計支援装置10は、利用者による作業を可能にするために、操作器21への操作入力に対応した入力情報を受け取る入力部101と、表示器22に表示情報を出力する出力部102とを備える。操作器21と表示器22とは、別体として構成されていてもよいが、表示器22の画面に一体に重ねたタッチパネルを操作器21として用いる構成であってもよい。
すなわち、利用者が候補の部材を確定する作業を行うために、キーボードのような操作器21とディスプレイのような表示器22とを備えるパーソナルコンピュータなどの端末装置を用いることが可能である。また、利用者が候補の部材を確定するために、タッチパネルのような操作器21と液晶表示器のようなフラットパネルディスプレイを用いた表示器22とを備えた端末装置を用いることが可能である。この種の端末装置は、スマートフォン、タブレット端末などから選択することが可能である。
上述のように、操作器21と表示器22とを用いることにより、利用者は、光環境設計支援装置10に対して対話的入力を行うことが可能になる。すなわち、光環境設計支援装置10が候補の部材を表示器22に表示すると、利用者は、候補の部材のうち対象空間における光環境の設計に用いる部材を操作器21により指定する。このように、光環境設計支援装置10と利用者とは、操作器21と表示器22とを通して対話し、利用者は、光環境設計支援装置10が抽出した候補の部材の中から、光環境に影響する部材を選択することが可能になる。
第1処理部11は、取得部13が取得したBIMデータから光環境の設計に必要な部材を抽出する。したがって、取得部13が建物のすべてのBIMデータを第1処理部11に引き渡すとすれば、建物の規模が大きい場合に、第1処理部11が受け取るデータ量が多くなり、結果的に、第1処理部11における処理時間が長くなる可能性が生じる。本実施形態では、取得部13が取得するBIMデータを絞り込み、取得部13から第1処理部11に引き渡すBIMデータのデータ量を低減することを可能にしている。もちろん、取得部13でBIMデータを絞り込まない場合は、建物全体のBIMデータが第1処理部11に引き渡される。
取得部13においてBIMデータを絞り込むか否かは、利用者が操作器21および表示器22を用いて対話的入力により決定する。上述したように、BIMデータは階層化されているから、BIMデータの階層に付与された名称も階層化されている。したがって、取得部13は、実際のBIMデータの全体を取得しなくとも、名称のみでBIMデータの階層を認識することが可能である。
取得部13は、名称の階層を用いてBIMデータを絞り込むために選択部130を備える。選択部130は、建物の一部のBIMデータを取得するように構成される。本実施形態では、選択部130は、第1選択部131および第2選択部132を備える。第1選択部131は第1階層の名称を用いてBIMデータを絞り込むように構成され、第2選択部132は第2階層の名称を用いてBIMデータを絞り込むように構成されている。
第1選択部131は、表示器22に第1階層の名称を表示し、操作器21の操作による第1階層の名称の選択を可能にする。本実施形態では複数のフロアを有する建物を想定しているから、第1選択部131は表示器22に第1階層の名称を複数個表示する。第1階層はフロアに対応するから、第1階層の名称が選択されると、第1選択部131は、選択されたフロアのBIMデータだけを取得する。
第2選択部132は、第1選択部131で選択された第1階層の名称の下位階層である第2階層の名称を表示器22に表示し、操作器21の操作による第2階層の名称の選択を可能にする。第2階層はフロアに含まれる単位空間に対応しており、通常は1つのフロアに複数の単位空間が存在するから、第2選択部132は、表示器22に単位空間の名称を複数個表示する。第2階層の名称が選択されると、第2選択部132は、選択された単位空間のBIMデータだけを取得する。
図4にBIMデータの階層を確認するための画面の一例を示す。図4の画面には、第1階層から第3階層までの各階層に対応付けた4つの領域F11、F12、F13、F14が表示されている。図4において、領域F11は第1階層に対応し、領域F12は第2階層に対応し、領域F13、F14は第3階層に対応する。図4に示す例では、領域F11には建物のフロアの名称が上下に並び、領域F12には領域F11で指定されているフロアに含まれる単位空間の名称が上下に並ぶ。領域F13には領域F12で指定された単位空間の従属物のうち設備、什器などの名称が上下に並び、領域F14には領域F12で指定された単位空間の従属物のうち壁、床、天井を構成する部材(内装材)の名称が上下に並ぶ。領域F14に表示される従属物には、部材の名称として、壁、床、または天井などの区別を示す記号が付加される。記号は、括弧の中に、壁、床、または天井などの文字を入れて表している。
操作器21がキーボードであるときは、カーソルを上下に移動させるカーソルキーを用いることにより、領域F11、F12、F13、F14のそれぞれにおいて、各項目を順に反転表示させることができる。操作器21がマウスのようなポインティングデバイスであれば、マウスによってポインタを移動させ、ポインタが所望の項目に重なったときにクリックの操作を行うことによって、所望の項目を反転表示させることができる。なお、指定された項目は、反転表示の代わりに、太字体あるいは斜字体を用いて強調するか、文字の色を他の項目とは異ならせた色文字などを用いることが可能である。
BIMデータは、建物の階層である第0階層の下位に、フロアの階層である第1階層、単位空間の階層である第2階層、付属物の階層である第3階層の順に階層化されている。したがって、領域F11で第1階層の項目が指定されると、この項目の下位である第2階層の項目が領域F12に表示され、領域F12で第2階層の項目が指定されると、この項目の下位である第3階層の項目が領域F13、F14に表示される。
すなわち、図4に示す画面において、利用者が、領域F11でフロアを指定した後に領域F12で単位空間を指定すると、指定した単位空間の従属物が領域F13、F14に表示される。この状態において、画面に表示されているボタンB11を利用者が押下すると、取得部13は、指定されているフロアにおいて指定された単位空間に関するBIMデータのみを通過させるフィルタとして機能する。
ボタンB11を押下するとは、ボタンB11を押ボタンスイッチに見立てた表現であり、操作器21がマウスのようなポインティングデバイスである場合は、ボタンB11の位置にポインタを重ね、クリックの操作を行うことを意味する。また、操作器21が表示器22の画面に重ねたタッチパネルである場合、ボタンB11を押下するとは、タッチパネルにおけるボタンB11の位置に指相当物でタッチすることを意味する。指相当物は、指のほか、タッチペンなどを含む。
取得部13の第1選択部131は、領域F11を用いて特定のフロアの名称が選択されると、選択されたフロアのBIMデータを取得し、選択されたフロアに含まれる単位空間の名称を領域F12に表示する。さらに、取得部13の第2選択部132は、領域F12を用いて特定の単位空間が選択されると、選択された単位空間のBIMデータを取得し、第1処理部11に引き渡す。つまり、第1処理部11には、図4に示す画面の領域F11で選択されたフロアについて、画面の領域F12で選択された単位空間に関するBIMデータのみが引き渡される。その結果、第1処理部11に引き渡されるBIMデータのデータ量は、建物全体のBIMデータのデータ量と比べると大幅に低減される。
ここに、選択部130は、建物全体のBIMデータから光環境の設計を行う範囲を絞り込むように構成されていればよいから、たとえば、第1階層のみの選択が可能であってもよく、また第2階層のみの選択が可能であってもよい。すなわち、選択部130が第1階層のBIMデータのみを取得する場合、フロアが選択可能であればよい。また、選択部130が第2階層のBIMデータのみを取得する場合、フロアと単位空間とを組み合わせて一度に選択可能であればよい。一例を言えば、第2階層のBIMデータのみを取得する場合には、「3階の会議室」などの選択が可能であればよい。
以上のように、建物のBIMデータのうち光環境を設計しようとする単位空間のBIMデータだけが第1処理部11に引き渡されるから、光環境の設計に必要なBIMデータのデータ量が建物のBIMデータのデータ量に比べて大幅に低減される可能性がある。つまり、建物全体のBIMデータをコンピュータのメモリに置く必要がなくなり、光環境を設計するために必要な建物の一部のBIMデータだけをメモリに置いておくことが可能になる。その結果、コンピュータのメモリ使用量が低減可能であり、ハードウェア資源の低減あるいは光環境のシミュレーションにおけるリードタイムの低減につながる。
ところで、上述したようにBIMデータは階層化データ構造を有しており、光環境は、基本的には、単位空間ごとのBIMデータを用いて設計される。ただし、1つのフロアに壁のない単位空間が複数存在する場合には、互いに他の単位空間の光環境に影響を与える可能性があるから、1つの単位空間のBIMデータだけでは光環境を評価することができないことがある。要するに、単位空間ごとに光環境を設計した場合、隣接する他の単位空間から設計対象の単位空間に入射する光の影響が考慮されない可能性がある。また、1つのフロアに存在する複数の単位空間に跨がる光環境を形成するベース照明が配置される場合、1つの単位空間のBIMデータだけでは光環境を評価することができない可能性がある。言い換えると、単位空間ごとに光環境を設計した場合、フロア内の複数の単位空間に共通するベース照明を正しく見積もることができない可能性がある。
上述した例のように、1つの単位空間に外部から光が入射する場合、単独の単位空間だけで光環境を設計するのではなく、単位空間に外部から入射する光の影響を考慮して光環境を設計する必要がある。このように他の単位空間からの光の影響を受ける単位空間については、影響を与える単位空間と影響を受ける単位空間とを結合して光環境を設計することが望ましい場合がある。そのため、第2選択部132は、複数の単位空間のBIMデータを対象空間のBIMデータとして第1処理部11に引き渡す機能を有している。言い換えると、第2選択部132は、フロアに複数の単位空間が含まれているときに、2つ以上の単位空間をまとめて選択可能であり、選択された2つ以上の単位空間のBIMデータを取得するように構成されている。第2選択部132が取得したBIMデータは、対象空間のBIMデータとして第1処理部11に引き渡される。
一方、フロア内の複数の単位空間に共通する照明を行う場合、一部の単位空間では、ベース照明の影響を受けないようにベース照明を遮断する部材を配置する場合がある。あるいは、1つのフロアにおける複数の単位空間には、光環境の設計が必要ではない単位空間が含まれていることもある。そのため、取得部13は、光環境の設計が必要な単位空間のBIMデータのみを対象空間のBIMデータとして第1処理部11に引き渡すように構成されていることが望ましい。言い換えると、第2選択部132は、フロアに複数の単位空間が含まれているときに、対象空間になる特定の単位空間のBIMデータのみを第1処理部11に引き渡し、選択されていないBIMデータは第1処理部11に引き渡さずに除外する。
以上のように、取得部13は、利用者が操作器21を用いて1つの単位空間を選択した場合には、この単位空間のBIMデータを取得して対象空間のBIMデータとして第1処理部11に引き渡す。また、取得部13は、利用者が操作器21を用いて複数の単位空間を選択した場合は、これらの単位空間のBIMデータを取得して対象空間のBIMデータとして第1処理部11に引き渡す。このように、利用者が操作器21を用いて光環境を設計する空間を指定する。
一方、第1処理部11に引き渡すBIMデータのデータ量は、可能な限り少ないほうが第1処理部11の処理負荷が軽減されるから、処理速度の向上に寄与し、また第1処理部11に必要なハードウェア資源の低減につながる。したがって、利用者が選択しなかった単位空間のBIMデータは、取得部13が取得しないことによって除外され、取得部13が入力部101から受けた指示に基づいて選択された単位空間のBIMデータのみが第1処理部11に引き渡される。
ところで、表示可能な画素数が多い表示器22を用いる場合、表示器22の画面の一部に、図4に示す画面をウインドウとして表示することが可能である。なお、取得部13が図4に示す画面で指定された範囲のBIMデータを抽出するから、光環境設計支援装置10は、利用者が選択したBIMデータを用いて、図4に示す画面で指定されたフロアまたは単位空間の見取図を表示器22に表示することが可能である。光環境設計支援装置10が見取図を表示器22に表示すると、フロアにおける単位空間の配置または単位空間における従属物の配置などを、利用者が視覚的に確認することが可能になる。見取図は、平面図、天井伏図、床伏図などから選択される。
以上のように、取得部13がBIMデータを取得する対象として選択した単位空間を見取図によって視覚的に確認することが可能になり、単位空間を名称だけで指定する場合に比べて指定の誤りが生じる可能性が低減される。とくに、単位空間を結合する場合あるいは単位空間の一部を除外する場合には、見取図が表示器22に表示されていると、利用者はBIMデータを抽出する部位を確認でき、利用者にとっての利便性が向上する。BIMデータを抽出する範囲として指定された単位空間は、他の単位空間とは異なる表示色で表示器22に表示されるか、囲み線で囲まれることにより、他の領域から区別される。
取得部13からBIMデータを受け取る第1処理部11には、BIMデータから必要な部材を抽出するために複数の規則が定められている。第1処理部11が用いるもっとも重要な規則は、光環境を設計する空間(以下、「対象空間」という)に露出する部材であることが名称で表されていることを条件として定められている。この規則は、たとえば、名部材の名称に、壁、天井、または床という言葉が含まれていることを条件として、対象空間に露出する部材とみなすように定められる。上述のように、部材の名称の一部には、壁、床、または天井などの区別を示す記号が付加されているから、第1処理部11は、このような記号に基づいて対象空間に露出する部材を抽出する。なお、光環境設計支援装置10はメモリとしての記憶部14を備え、記憶部14は、第1処理部11が抽出すべき部材の名称が登録されたリスト記憶部141を備える。
リスト記憶部141には、少なくとも対象空間に露出する部材の名称が登録される。第1処理部11は、BIMデータに含まれる部材のうち、リスト記憶部141に登録されている名称に場所の情報が含まれている部材を抽出する。場所の情報は、上述した第2の場所情報が用いられる。すなわち、BIMデータに含まれる部材の名称が、当該部材を壁、床、または天井、床、壁などの場所に用いることを表している場合に、第1処理部11は、当該部材をBIMデータから抽出する。また、第1処理部11は、照明設備を無条件に抽出する。
第1処理部11は、床下地材、天井下地材、壁下地材のように対象空間に露出しない部材は原則として抽出の対象外として扱う。ただし、たとえば、天井パネルを用いずに、天井下地材あるいは天井スラブを露出させる場合などには、天井下地材あるいは天井スラブを抽出しなければならない。部材の名称を用いるだけでは、このような判断を行うことができないから、第1処理部11は、名称を条件として部材を抽出する規則だけではない他の規則を用いることが可能である。
第1処理部11は、たとえば、以下の処理を行うことにより、天井下地材あるいは天井スラブのような部材を光環境に影響を与える部材として抽出する。すなわち、第1処理部11は、BIMデータにより、対象空間において、天井パネルのように通常は空間に露出する部材が存在するか否かを判断する。ここで、空間に露出することが想定されている部材が存在しない場合、第1処理部11は、該当箇所の下地材あるいはスラブを、露出する部材の候補と判断する。
次に、第1処理部11は、候補の部材について検証を行い、対象空間に露出する部材か否かを確定する。候補の部材が対象空間に露出する部材か否かを検証するには、面の連結関係を利用することが可能である。ここでは、壁の下端は床に連結され、壁の上端は天井に連結されるという関係を利用する。すなわち、第1処理部11は、壁の上端に天井下地材あるいは天井スラブが連結されていれば、天井下地材あるいは天井スラブが対象空間に露出していると確定する。
第1処理部11は、対象空間に露出する部材を基本的には自動的に抽出する。ただし、光環境に影響する部材のすべてを自動的に抽出することは難しい。そこで、第1処理部11は、対象空間に露出する部材の候補を抽出する際に、余分な候補が抽出されるように,候補を抽出する条件をやや緩く設定し、抽出された候補に対する検証を行うことにより、抽出すべき部材を絞り込んでいる。
ここで、第1処理部11が候補の部材を検証することに代えて、利用者が確認することによって、抽出すべき部材を確定することも可能である。すなわち、第1処理部11は部材削除部111を備えており、部材削除部111は利用者に指定された部材を第2処理部12に引き渡す部材から除外する機能を有している。候補になる部材の集合は、元のBIMデータに比較するとデータ量が大幅に低減されているから、利用者が候補の部材を確認する場合でも、利用者の作業量は少なく、対象空間に露出する部材を実用的な時間で絞り込むことができる。
部材削除部111は、たとえば、第1処理部11が抽出した部材の名称を表示器22の画面に一覧表の形式で並べて表示した状態で操作器21からの入力を待つ。ここで、利用者が操作器21を操作し、所望の部材を選択すると、該当する部材が削除される。削除する部材を選択するには、たとえば、部材に付与した番号で部材を指定すればよい。あるいは、一覧表として表示された部材を、カーソルキーで指定するか、マウスのようなポインティングデバイスで指定すればよい。
部材削除部111は、部材の名称を表示器22の画面に一覧表の形式で表示するだけではなく、第1処理部11が抽出した部材による3次元画像を表示器22の画面に表示することが望ましい。部材削除部111が3次元画像を表示器22に表示すると、利用者は、光環境の設計に不要な部材を直観的に認識することが可能になる。また、部材削除部111は、表示器22に3次元画像が表示された状態において、利用者が3次元画像に含まれる適宜の部材を指定すると、一覧表において該当する部材の名称が反転あるいは強調して表示されるように構成されていることが望ましい。この構成であれば、利用者は光環境の設計に不要な部材を探し出す際の労力が軽減される。
第1処理部11は、上述した規則以外にも多様な規則を用いることが可能であるが、本実施形態では、主要な規則として、上述したように、名称を用いる場合と、部材の連結関係を利用する場合とを例示した。また、規則を用いて部材の候補を絞り込んだ後に、利用者が介入することによって、部材の確定を可能にする場合についても説明した。
なお、第1処理部11は、BIMデータから必要な部材を抽出する処理の前置処理として、BIMデータのデータ量を分析する処理を行ってもよい。この前置処理は、BIMデータのデータ量を所定の下限値と比較する処理であり、第1処理部11は、前置処理において、BIMデータのデータ量が下限値に満たないと判断された場合には、以後の処理を行わない構成を採用してもよい。この下限値は、第2処理部12の処理能力とBIMデータのデータ量との兼ね合いで決まる。たとえば、1つの単位空間のBIMデータに相当するデータ量の平均値あるいは中央値などは下限値として用いることができる。
光環境設計支援装置10は第2処理部12を備える。第1処理部11が抽出した部材のデータは、対象空間の光環境を設計するために第2処理部12に引き渡される。第2処理部12は、第1処理部11が抽出した部材について、光環境に関連する特性のデータを用いることにより、対象空間に要求される所定の条件を満足するように、照明設備の特性を定める。すなわち、第1処理部11が抽出した建物の光環境に影響する部材に関して、第2処理部12は、光環境に関連する特性のデータを用いて照明設備の特性を定める。
光環境に関連する特性のデータは、上述したように、第1処理部11が抽出した部材の反射率を含み、部材の色、柄、表面の状態を含んでいることが望ましい。また、光環境に関連する特性のデータは、部材の表面の材料または素材を含んでいてもよい。
照明設備の特性は、種類、光出力、配光特性、配置などを意味する。照明設備の種類は、通常は対象空間の使用目的に応じて絞り込まれる。また、照明設備の光出力および配光特性は、照明設備の種類が決定されると照明設備の仕様によって定まる。すなわち、第2処理部12は、対象空間に要求される条件を満足するように、照明設備の種類および配置を定める。ただし、照明設備の種類が絞り込まれるとはいえ、照明設備の種類に複数の選択肢があれば第2処理部12では照明設備の種類と配置とを1種類に定められない可能性がある。このような場合、第2処理部12は、対象空間に要求される光環境の条件を満足する複数のプランが得られたと判断して表示器22を通して複数のプランを利用者に示し、かつ操作器21を用いて利用者に1つのプランを選択させればよい。
ところで、オフィスビル、商業ビルなどでは、多くの場合、光環境を設計する空間に配置される照明設備の点灯と消灯とを一括して行うだけではなく、空間内に定めた領域ごとに照明設備の点灯と消灯とを行うことが可能である。また、この種の照明設備は、空間内に定めた領域ごとに、調光と調色との少なくとも一方が可能であることもある。したがって、照明設備に関しては、一括して点灯および消灯が行われる範囲(つまり、スイッチとの連動関係)、調光または調色が可能であるか否かといったデータも照明設備の特性に含まれる。これは、光環境を設計する際に、スイッチの操作による光環境の変化、調光あるいは調色による光環境の変化を考慮する必要があるからである。
ここで、対象空間に要求される条件は、対象空間の使用目的、対象空間の形状などによって異なる。この条件には、たとえば、対象空間の場所ごとの照度、対象空間で使用可能な照明設備の種類の範囲などが含まれる。第2処理部12は、標準的な設計手法に基づいて部材の特性と対象空間に要求される条件とから、照明設備の特性を定める。標準的な設計手法は、過去の実績データに基づいて定められている。
記憶部14には、光環境を設計する空間の床面積、照明設備と床面との距離、空間に露出する部材の特性などと、光環境を設計する空間に要求される条件とを、照明設備の特性に結び付けた情報を記憶している標準記憶部142が設けられている。したがって、第2処理部12は、第1処理部11が抽出した対象空間の部材について光環境に関連した特性のデータを標準記憶部142に照合することによって、該当する対象空間に応じた照明設備の特性のデータを定めることが可能になる。第2処理部12により定められた照明設備の特性は、第1処理部11がBIMデータから抽出した部材のデータと併せて上述した環境設計データ(光環境設計用のデータ)として記憶部14の出力記憶部143に格納される。
このように、部材のデータと照明設備の特性のデータとを合わせた環境設計データが出力記憶部143に格納されていると、出力記憶部143に格納された環境設計データを光環境のシミュレーションに用いることが可能である。つまり、第2処理部12が照明設備の特性を定めた段階において、第1処理部11が抽出した部材および第2処理部12が定めた照明設備を用いて光環境に関するシミュレーションを行うことが可能である。この段階でシミュレーションを行うと、第2処理部12が定めた照明設備の特性による光環境を確認できるから、後述する修正作業が容易になる。光環境のシミュレーションは、ラジオシティ法のような周知の技術を用いて行うことが可能である。シミュレーションを行うシミュレータは、通常は、光環境設計支援装置10とは別に設けられるが、光環境設計支援装置10に含まれていてもよい。
ここに、第1処理部11が光環境のシミュレーションに必要な部材のみを抽出しているから、第1処理部11が抽出したデータはBIMデータに比べてデータ量が大幅に削減されている。そのため、光環境のシミュレーションを行う際の処理負荷が軽減される。言い換えると、BIMデータを用いる場合に比べて第1処理部11が抽出したデータを用いる場合では、シミュレーションの際のラグタイムラグおよびリードタイムが短縮される可能性がある。また、処理負荷が軽減されることにより、第2処理部12を構成するハードウェア資源の低減につながる。そのため、可搬型のパーソナルコンピュータのように処理性能が中程度のコンピュータを用いても光環境のシミュレーションを迅速に行うことが可能である。
ところで、第2処理部12は、上述したように、対象空間に要求される条件に応じた照明設備の設計を自動的に行う。したがって、対象空間の光環境を定める際に照明設備に関する設計の手間を削減することが可能になる。ただし、第2処理部12が定めた照明設備の特性は、標準的な設計手法に基づいているから、必ずしも設計者あるいは顧客の意図を反映しているとは限らない。また、第2処理部12が定めた照明設備の特性は、設計者あるいは顧客の意図を反映していないから、高い顧客満足度が得られない可能性もある。
そこで、本実施形態の光環境設計支援装置10は、第2処理部12が定めた照明設備の特性を操作入力に応じて加工する加工部15を備えている。加工部15は、第2処理部12が定めた照明設備の特性を修正あるいは変更する作業、第2処理部12が定めた照明設備の特性に新たに照明設備を追加する作業などを可能にする。つまり、利用者が操作器21および表示器22を用いて加工部15に操作器21からの操作入力による指示を与えると、加工部15は指示に従って照明設備の特性に対する加工を行う。すなわち、加工部15により照明設備の特性を加工した場合には、出力記憶部143に加工部15による加工後の特性が格納される。
加工部15は、第1処理部11が抽出した部材の配置を変更することはできない。ただし、利用者は、操作器21および表示器22を用いて、部材の追加あるいは削除を行うことが可能である。つまり、加工部15は、第1処理部11が抽出した部材に過不足があれば、操作器21からの指示により部材の追加あるいは削除を行うことが可能である。さらに、加工部15は、操作器21および表示器22を用いて、部材の光環境に影響する特性を変更することが可能である。
以上説明したように、光環境設計支援装置10は、第2処理部12を備えるから、対象空間に要求される条件を満たす光環境の標準的な設計を自動的に行うことが可能である。また、加工部15を備えているから、光環境の設計を専門に行う熟練者が、経験、最新情報などを用いて、顧客満足度を高めるように光環境を設計することが可能である。
そして、取得部13が建物のBIMデータのうちの一部のBIMデータを取得する構成であり、第1処理部11は光環境の設計を行う対象空間のBIMデータだけを受け取るから、第1処理部11が扱うデータ量が低減される。また、光環境の設計を行う利用者(作業者)が光環境の設計を行う対象空間を選択すれば、光環境設計支援装置10が光環境の設計に必要な部分のBIMデータを自動的に抽出する。
したがって、光環境の設計を行う利用者(作業者)は、BIMデータを扱うツール(アプリケーションプログラム)の使い方を習得しなくとも、建物全体のBIMデータから光環境の設計に必要なデータを抽出することが可能になる。また、光環境の設計を行う利用者は、BIMデータのうち光環境の設計に関係しないデータを理解する必要がない。その結果、本実施形態の光環境設計支援装置10によって、BIMデータから光環境の設計に必要なデータを抽出するための作業時間の短縮が可能になる。たとえば、この種の作業の所要時間は、従来は2週間以上を要していたが、本実施形態の光環境設計支援装置10により10分程度に短縮することが可能になった。しかも、本実施形態の光環境設計支援装置10は、第2処理部12において光環境の標準的な設計を自動的に行うから、対象空間について光環境を設計する作業時間が、従来は1日程度であったのに対して、1時間程度にまで短縮することが可能になった。
そして、光環境設計支援装置10は、第1処理部11が抽出した部材のデータと第2処理部12が定めた照明設備の特性に関するデータとが環境設計データとして出力記憶部143に格納する。上述したように、出力記憶部143に環境設計データが記憶されていると、対象空間に関する光環境のシミュレーションが可能になる。シミュレーションに用いる環境設計データのデータ量は、建物全体のBIMデータに比べて大幅に低減されているから、シミュレーションの結果を迅速に確認することが可能である。
そのため、光環境の設計者は様々な条件を設定しシミュレーションの結果をその場で確認することが可能である。また、様々な条件でのシミュレーションの結果を顧客に見せることが可能であり、場合によっては、顧客自身に光環境に関する条件の設定を行わせることが可能になる。このように、対象空間に関する光環境のシミュレーションが簡単に行えることにより、顧客満足度の高い光環境の設計が可能になる。
出力記憶部143には、建物の光環境に影響する部材に関するデータと、対象空間における照明設備の特性に関するデータとが環境設計データとして格納されており、環境設計データは、建物全体のBIMデータと比較すれば、データ量は大幅に削減されている。ただし、建物の規模が大きい場合、出力記憶部143に格納される環境設計データのデータ量は、依然として比較的大きい可能性がある。
BIMデータから環境設計データが生成されるまでのデータの変化の概念を図5に示す。すなわち、取得部13が取得したBIMデータは、建物を構成する部材の3次元形状、配置、仕様(特性)を含むデータD1であって、第1処理部11では、リスト記憶部141に登録された名称の部材をデータD1から抽出する。抽出されたデータD2は、建物の光環境に影響する部材の名称および仕様(特性)を含む。第2処理部12は、データD2を用いて、標準記憶部142を参照して照明設備の特性に関するデータD3を生成する。データD3は、光環境を求めるための基本のデータになる。データD3は、必要に応じて操作器21からの指示により加工部15により加工され、環境設計データD4として出力記憶部143に格納される。
ところで、BIMデータに含まれる什器のデータは、什器を構成している個別の部品に関するデータを含んでいる場合があり、BIMデータにおいて什器に関連したデータの量は比較的多くなる。とくに、オフィスビルのような建物では、BIMデータに占める什器のデータの割合が高く、この割合が90%近くに達することもある。そのため、第1処理部11において、光環境に影響する部材を抽出する際に、什器を単位とするのではなく、什器のうち光環境に影響する一部分の情報のみを抽出することが望ましい。たとえば、机であれば天板を抽出し、ロッカーであれば扉および側板を抽出するというように、什器を構成する一部分のみのデータを抽出することが望ましい。第1処理部11において部材を抽出する際に、什器に関しては、光環境に影響する一部分の構成要素のみを抽出するように規則を設定しておけば、什器に関するデータ量を低減させることが可能になる。
また、光環境設計支援装置10において、BIMデータに含まれる什器のデータに対して、什器の形状を簡略化する処理を行う処理部16(図1参照)を付加してもよい。この処理部16は、机、椅子、ロッカー、パーティションなどの什器を直方体のような幾何学的な基本形状(幾何形状)で近似する処理を行う。要するに、処理部16は、光環境の設計において実際の什器と等価とみなせる程度の範囲で、什器の形状を簡略化する。
したがって、上述した処理部16を第1処理部11に前置して設けておけば、第1処理部11が扱うデータ量をBIMデータよりも低減させることが可能になる。その結果、出力記憶部143に格納される環境設計データのデータ量が低減される。
出力記憶部143に格納された環境設計データは、光環境のシミュレーションに用いられ、建物の光環境が決定されるとBIMデータに統合される。また、出力記憶部143に格納された統合前のデータも、BIMデータとは別に保存される。BIMデータに統合する前のデータは、照明設備の特性を変更する際のシミュレーションなどのために用いられる。
上述した光環境設計支援装置10は、プログラムに従って動作するプロセッサを備えるデバイスと、操作器21および表示器22との間のインターフェイス部を構成するデバイスとを主なハードウェア要素として備える。プロセッサを備えるデバイスは、メモリを一体に備えるマイコン(Microcontroller)、メモリが別に設けられるMPU(Micro Processing Unit)などから選択される。
また、プログラムは、ROM(Read Only Memory)に書き込まれた状態で提供されるか、コンピュータで読取可能な記録媒体に固定された状態で提供される。さらに、プログラムは、インターネットあるいは移動体通信網のような電気通信回線を通して提供されていてもよい。環境設計データを生成する際に用いられるBIMデータは、プログラムと同様に、記録媒体あるいは電気通信回線を通して提供される。
光環境設計支援装置10は、専用装置として構成するほか、利用者が管理するコンピュータでプログラムを実行することにより実現することが可能である。また、図3に示すように、利用者が管理する端末装置32との間でインターネットのような電気通信回線30を通して通信する管理装置31を、光環境設計支援装置10として機能させることが可能である。すなわち、BIMデータが管理装置31にアップロードされ、光環境設計支援装置10として機能する管理装置31において、BIMデータに基づいて環境設計データが生成される構成を採用してもよい。BIMデータは、管理装置31に設けられたメモリである格納部33に格納される。管理装置31と通信する端末装置32は、操作器21および表示器22として用いられる。したがって、端末装置32の操作器21および表示器22を用いて、光環境の設計を行う空間が指定される。
管理装置31は、端末装置32に対するサーバであって、1台のコンピュータを用いる構成に限らず、複数台のコンピュータを用いた構成であってもよい。また、管理装置31は、クラウドコンピューティングシステムで構築されていてもよい。
このように管理装置31と端末装置32とを用いた光環境設計支援システムを構築した場合、環境設計データは、電気通信回線30を通して複数の利用者で共有することが可能になる。管理装置31で生成された環境設計データは、光環境のシミュレーションを行うために、電気通信回線30を通してダウンロードされる。また、管理装置31で生成された環境設計データが最終的に定まれば、元のBIMデータに統合される。
本実施形態の光環境設計支援装置10は、建物に複数のフロアが存在する場合を想定して説明したが、1つのフロアしかないショウルームなどであっても上述した技術を採用することが可能である。フロアが1つである場合、上述したBIMデータの階層のうち第1階層には1つの項目のみが記述される。
上述した本実施形態の光環境設計支援装置10は、取得部13と第1処理部11と第2処理部12とを備える。取得部13は、建物を構成する部材についての3次元形状、配置、仕様に関するデータを含む建築モデルデータ(BIMデータ)を取得する。第1処理部11は、取得部13から受け取った建築モデルデータ(BIMデータ)を構成する部材のうち建物の光環境に影響する部材を抽出する。第2処理部12は、第1処理部11が抽出した部材の光環境に関連する特性のデータを用いて、建物の光環境に要求される所定の条件を満足するように、照明設備に関する特性のデータを定める。
この構成によれば、BIMデータから建物の光環境に影響する部材を抽出し、抽出した部材の光環境に影響する特性を用いて照明設備に関する特性のデータを定めている。そのため、光環境の設計に用いるデータ量をBIMデータのデータ量から大幅に低減させることが可能になる。すなわち、光環境のシミュレーションを行う場合の処理負荷が軽減され、シミュレーションの処理を迅速に行うことが可能になる。
取得部13は、建物の一部分を構成する建築モデルデータ(BIMデータ)を取得する選択部130を備えることが望ましい。この構成によれば、建物全体のBIMデータを第1処理部11に与える場合に比較すると、第1処理部11が扱うデータ量を削減することが可能になる。つまり、建物全体のBIMデータから選択部130が絞り込んだ建物の一部分のBIMデータを第1処理部11が受け取り、選択部130が絞り込んだ建物の一部分のBIMデータから第1処理部11が光環境に影響する部材を抽出する。そのため、第1処理部11が扱うデータ量が低減される。
ここに、ビルのような建物は1つまたは複数のフロアを備え、フロアは1つまたは複数の単位空間を備えている。この場合、建築モデルデータ(BIMデータ)は、建物の階層とフロアの階層と単位空間の階層とが階層化されている階層化データ構造を有することが望ましい。また、選択部130は、第1選択部131と第2選択部132とを備えることが望ましい。第1選択部131は、建物の建築モデルデータのうちフロアの階層における1つのフロアを構成している建築モデルデータを取得する。第2選択部132は、第1選択部131が取得した1つのフロアを構成する建築モデルデータのうち単位空間の階層における1つまたは複数の建築モデルデータを構成している建築モデルデータを取得する。
この構成によれば、光環境に関連するBIMデータを建物の構造に合わせて絞り込むことが可能になり、第1処理部11に引き渡すBIMデータのデータ量を削減することが可能になる。
第1処理部11は、取得部13から受け取った建築モデルデータ(BIMデータ)に含まれる部材のうち任意の部材を削除する部材削除部111を備えることが望ましい。
この構成によれば、第1処理部11が取得部13から受け取ったBIMデータのうち任意の部材を削除することが可能になる。そのため、利用者は、取得部13から受け取ったBIMデータのうち、光環境の設計に不要と考える部材を削除することが可能になり、光環境の設計に用いる部材数が削減される結果、光環境の設計に要する時間の短縮につながる。
第2選択部132は、第1選択部131が取得した1つのフロアに複数の単位空間が含まれ、かつ複数の単位空間のうちのいずれかの単位空間を取得する場合に、以下の処理を行うことが望ましい。すなわち、第2選択部132は、いずれかの単位空間の建築モデルデータ(BIMデータ)のみを第1処理部11に引き渡すことが望ましい。
この構成によれば、第1選択部131が取得した1つのフロアのBIMデータのうち1つの単位空間のBIMデータのみを第1処理部11に引き渡すから、取得部13から第1処理部11に引き渡すBIMデータのデータ量を大きく低減させることが可能になる。
また、第2選択部132は、第1選択部131が取得した1つのフロアに複数の単位空間が含まれ、かつ複数の単位空間のうちの2つ以上の単位空間を取得する場合、以下の処理を行うことが望ましい。すなわち、第2選択部132は、2つ以上の単位空間の建築モデルデータ(BIMデータ)を単一の単位空間の建築モデルデータ(BIMデータ)として第1処理部11に引き渡すことが望ましい。
この構成によれば、2つ以上の単位空間のBIMデータを単一の単位空間のBIMデータとして第1処理部11に引き渡すことができる。そのため、隣接する単位空間において一方の単位空間に他方の単位空間の光が回り込む場合でも、光環境の設計を精度よく行うことが可能になる。
光環境設計支援装置10は、第2処理部12が求めた照明設備に関する特性のデータの加工を、操作入力に応じて行う加工部15を備えることが望ましい。
この構成によれば、第2処理部12が定めた照明設備に関する特性を、光環境の設計者の経験および新規知識、あるいは顧客の要望などに基づいて適宜に修正および追加が可能になるから、光環境に関して顧客満足度を高めることが可能になる。
第1処理部11は、建物を構成する部材のうち、建物において光環境を設計する空間に露出する部材のデータを抽出することが望ましい。
すなわち、光環境を設計する空間に露出する部材が抽出されるから、建築モデルデータよりもデータ量を削減しながらも、光環境の設計に必要なデータは確保され、結果的に、第2処理部12は照明設備の特性を適正に定めることが可能になる。
第1処理部11が抽出した部材の光環境に関連する特性のデータは、部材の反射率を含むことが望ましい。また、第1処理部11が抽出する部材の光環境に関連する特性のデータは、部材の色、柄、表面の状態を含むことが望ましい。
すなわち、第1処理部11が抽出する部材について、反射率、色、柄、表面の状態などのデータを用いている。したがって、光環境を設計する空間において光源となる照明設備だけではなく、光環境の設計を精度よく行えるように、部材での反射を考慮したデータを抽出することが可能になる。
この光環境設計支援装置10において、照明設備に必要な特性は、配光特性、配置を含むことが望ましい。また、この光環境設計支援装置10において、照明設備に必要な特性は、調光と調色との少なくとも一方の特性を含むことが望ましい。
すなわち、照明設備について、配光特性および配置を求めることにより、照明設備に関する基本的な設計が可能になる。また、照明設備について、調光と調色との少なくとも一方の条件を求めることにより、照明設備に関してきめ細かい設計が可能になる。
本実施形態の光環境設計支援システムは、管理装置31と端末装置32とを備える。管理装置31は、建物を構成する部材についての3次元形状、配置、仕様に関するデータを含む建築モデルデータが格納される格納部33を備える。端末装置32は、電気通信回線30を通して管理装置31と通信する。
管理装置31は、第1処理部11と第2処理部12とを備える。第1処理部11は、建築モデルデータを構成する部材のうち建物の光環境に影響する部材を抽出する。第2処理部12は、第1処理部11が抽出した部材の光環境に関連する特性のデータを用いて、建物の光環境に要求される所定の条件を満足するように、照明設備に関する特性のデータを定める。端末装置32は、光環境を設計する空間を指定するための操作入力を受け付ける操作器21を備える。
この構成によれば、光環境設計支援装置10としての機能が管理装置31に集約されるから、光環境の設計に必要なデータを抽出する作業のために、複数台の端末装置32で管理装置31を共用することが可能になる。また、複数の利用者がデータを共有することにより、互いに離れた場所にいる複数の利用者がアイデアの交換を行って様々な提案内容を検討するという用い方も可能になる。また、光環境の設計を依頼した顧客自身が光環境の設計条件を変更することが可能になる。このような使用形態は、顧客満足度の向上に寄与する。
なお、上述した実施形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることはもちろんのことである。