<本実施形態の概要>
図1に、従来の建築物の音響設計の流れを示す。従来の建築物の音響設計では、以下の課題がある。
図1に示すように、従来の音響設計では、建築プランが確定した後に各部屋の遮音計画が行われる。しかし、建築プランにおいて各部屋の配置が確定した後に遮音計画の作成が行われると、各部屋の遮音構造の仕様が高く設定されてしまう場合が多い。例えば、確定した建築プランにおいて、音が発生する部屋の隣に静けさが求められる部屋が配置されている場合には、部屋の間の壁の遮音構造が大掛かりになり、施工コストが増大する。
また、建築プランの変更が行われる場合には、遮音計画を再度作成する必要がある。そのため、設計段階で繰り返される建築プランの変更に応じて遮音計画の見直しが繰り返され、建築設計者と音響技術者との間では、建築プランが変更される毎に、図面の差替え及び遮音計画の修正等が必要となる。これには多くの時間と工数とが費やされ、設計作業の生産性の低下に繋がる。
また、建築物の部屋用途が多岐に渡る場合、床、壁、及び天井の遮音性能の種類が多くなる。更に、防汚性又は気密性等に配慮した仕上げ材が室用途に応じて使用される場合、遮音構造の複雑化及び重厚化となる傾向にある。通常、遮音構造の設定では、遮音構造と仕上げ材とを切り離した設定が行われるため、遮音構造の複雑化及び重厚化は、要求水準を超えた仕様となる。そのため、複雑多岐に渡る遮音構造の複雑化及び重厚化は、生産段階において見えない施工ロスとなり、潜在的なコスト負担となる。
そこで、本実施形態では、建築物を表す3次元モデルの各部屋に対して音響属性情報を付与し、音響属性情報を可視化させる。音響属性情報としては、例えば音を発生する部屋における「部屋において発生する音に関する情報」及び静けさが求められる部屋における「部屋において求められる静けさに関する情報」の少なくとも一方が各部屋に付与される。そして、ユーザは、可視化された音響属性情報に基づいて、各部屋の遮音に関する音響的リスクを確認し、音響的リスクが低減されるように各部屋の配置を決定する。
このように、建築プランが作成される前に「音を発生する部屋」と「静けさが求められる部屋」とを各部屋に付与することで、建築設計の初期から遮音計画が導入される。そのため、従来のように各部屋の配置が確定した後に遮音計画の作成が行われ、各部屋の遮音構造の仕様が高く設定されてしまうという事態の発生を抑制することができる。
また、「音を発生する部屋」と「静けさが求められる部屋」とが可視化されることにより、ユーザが音響的リスクを視覚的に捉えることが可能となり、音響的リスクの定量的及び客観的な評価が可能となる。これにより、建築プランの変更に応じた遮音計画の見直しの繰り返しを合理化させることができ、設計作業の生産性の低下を抑制することができる。
また、本実施形態では、遮音構造の単純化が行われるように、遮音構造の集約化を行う。具体的には、遮音構造と仕上げ情報とを考慮して遮音構造の集約化を行い、施工ロスを抑えた最適な遮音計画を作成する。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<第1の実施形態の音響設計装置のシステム構成>
図2は、第1の実施形態に係る音響設計装置の構成の一例を示すブロック図である。音響設計装置10は、CPU(Central Processing Unit)、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、記憶手段としてのメモリ、ネットワークインタフェース等を含んで構成されている。音響設計装置10は、機能的には、図2に示すように、操作部12、コンピュータ14、及び表示部16を含んだ構成で表すことができる。
コンピュータ14には、建築物の3次元設計を行うためのBIM(Building Information Modeling)がインストールされている。ユーザは、コンピュータ14にインストールされたBIMを用いて音響設計を行う。また、表示部16には、コンピュータ14から出力された情報が表示される。表示部16は、例えばディスプレイ等によって実現される。
操作部12は、ユーザから入力された操作情報を受け付ける。操作部12は、例えばキーボードやマウス等によって実現される。ユーザは、表示部16に表示された情報を確認し、確認した情報に応じて操作情報を操作部12へ入力する。
コンピュータ14は、機能的には、図2に示すように、属性付与部18と、可視化部19と、配置決定部20と、必要音響性能計算部22と、構造決定部24とを備えている。属性付与部18は、音響属性付与手段の一例である。また、必要音響性能計算部22は、取得手段及び必要音響性能計算手段の一例である。
ユーザは、表示部16に表示された各部屋の3次元モデルに基づいて、各部屋の音響属性情報に関する操作情報を入力する。属性付与部18は、操作部12から入力された音響属性情報に関する操作情報に応じて、建築物を表す3次元モデルの各部屋に対して音響属性情報を付与する。音響属性情報は、部屋において発生する音に関する情報及び部屋において求められる静けさに関する情報の少なくとも一方を表す。
図3に、音響属性情報を説明するための説明図を示す。図3に示すように、BIMにおいては、オブジェクトに対して属性情報が付与される。例えば、図3に示すように、オブジェクトの一例である部屋の3次元モデル30に対し、部屋名称、壁構造、及び天井仕上げ等を含む属性情報31が付与される。
本実施形態では、各部屋の3次元モデル30に対して付与される属性情報31に、音響属性情報が含まれる。例えば、図3に示すように、音が発生する部屋の3次元モデル30に対しては、当該部屋において発生する音のレベル(dBA)を音響属性情報として付与する。また、静けさが求められる部屋の3次元モデル30に対しては、当該部屋において求められる静けさのレベル(dBA)を音響属性情報として付与する。このように、各部屋の3次元モデル30に対して、発生する音のレベル又は静けさのレベルである音響属性情報が付与される。なお、部屋において発生する音のレベルは、部屋において発生する音に関する情報の一例である。また、部屋において求められる静けさのレベルは、部屋において求められる静けさに関する情報の一例である。
図4に、病院の各部屋の3次元モデル30に付与された音響属性情報の一例を示す。図4に示す例では、発生する音のレベルが音源レベル1〜音源レベル3で表され、静けさのレベルが目標レベル1〜目標レベル4で表される。また、静けさのレベルが付与されない部屋としては、「静けさの要求がない部屋」として表される。図4に示すように、各階の各部屋の3次元モデル30に対して、用途に応じた音響属性情報が付与される。部屋によっては、音響属性情報が付与されなくともよいが、以下では、各部屋の3次元モデル30に対して音響属性情報が付与される場合を例に説明する。
可視化部19は、属性付与部18によって各部屋の3次元モデル30に付与された音響属性情報を可視化する。例えば、可視化部19は、部屋において発生する音のレベル又は部屋において求められる静けさのレベルに応じて、各部屋の3次元モデル30の表示を制御する。表示部16は、可視化部19によって可視化された各部屋の3次元モデル30の音響属性情報を表示する。
ユーザは、表示部16に表示された各部屋の3次元モデル30の音響属性情報に基づいて、音響的リスクを判断し、各部屋の配置を決定する。そして、ユーザは、各部屋の配置に関する操作情報を操作部12へ入力することで、各部屋の配置を決定する。
配置決定部20は、操作部12から入力された各部屋の配置に関する操作情報に応じて、各部屋の配置を決定する。
図5に、音響属性情報の可視化を説明するための説明図を示す。図5に示すように、例えば、可視化部19は、発生する音のレベル(dBA)が付与されている部屋については、部屋全体が斜線によって表示されるように制御する。また、可視化部19は、静けさのレベル(dBA)が付与されている部屋については、部屋全体が無地又はドットによって表示されるように制御する。
図5には、静けさのレベル(dBA)の値に応じてドットの粗さが変更されて表示される例が示されており、ドットが粗いほど静けさがより求められる(静けさのレベル(dBA)の値が小さい)。そのため、無地で表されている部屋が、最も静けさが求められる部屋に対応する。
また、図5に示すように、各部屋の3次元モデル30の音響属性情報は、発生する音のレベル又は静けさのレベルに応じて立体空間として可視化される。音響属性情報を含む各部屋が、BIM上の立体空間として表現されることで、ユーザは、まず俯瞰的な視点で、各部屋の遮音に関する音響的リスクを直観的に判断することができる。図5に示す例では「音が発生する部屋」と「静けさが求められる部屋」とが混在しているため、遮音に関する詳細な検討が必要であるか否かを容易に把握することができる。
例えば、上記図5に示す例では、領域A及び領域Bにおいて、音を発生する複数の部屋と静けさが求められる部屋とが隣接している。領域Aの部屋X1及び部屋X2は、最も静けさが求められる部屋であるにも関わらず、音が発生する複数の部屋と隣接している。また、領域Bの部屋Y1も音が発生する複数の部屋と隣接している。
そのため、静けさが求められる部屋において要求される静けさのレベルを確保するためには、音を発生する部屋と静けさが求められる部屋との間の壁の遮音性能を高く設定する必要があり、壁の遮音構造に関するコストが高まる。本実施形態では、可視化部19によって可視化され、かつ表示部16によって表示された各部屋の3次元モデル30の音響属性情報に基づいて、ユーザが遮音に関する音響的リスクを判断し、各部屋の配置を決定する。
例えば、図6に示すように、音響的リスクに応じて各部屋の配置が修正される。図6に示す例では、部屋Aが最も静けさが求められる部屋であり、部屋Dが部屋Aの次に静けさが求められる部屋であり、部屋Cが部屋Dの次に静けさが求められる部屋である。また、部屋Bが音を発生する部屋である。
上記図6に示す例では、修正前の段階において、最も静けさが求められる部屋Aと音を発生する部屋Bとが隣接しており、部屋Aと部屋Bとの間の壁の遮音性能を高く設定せざるを得ない。そこで、ユーザは、可視化された音響属性情報に応じて、音響的リスクが低減されるように各部屋の配置を修正する。図6に示すように、修正後においては、部屋Aと部屋Bとが隣接しないような配置へ修正され、部屋間の壁の遮音性能も低い設定で済むように変更される。これにより、部屋間の壁の遮音構造に関するコストが低減される。
このように、各部屋の音響属性情報を可視化することにより、遮音に関する音響的リスクの客観的な評価を行うことができる。このため、ユーザが音響技術者でなくとも、音響的リスクを直感的に把握することができる。また、建築プランが変更される場合においても、建築設計者によって音響的リスクの判断やチェックを行うことができ、建築プランの変更に対してタイムリーに対応することで時間の短縮化を図ることができる。
図7に、従来の音響設計の流れと本実施形態における音響設計の流れとを説明するための図を示す。音響設計においては「音を発生する部屋」と「静けさが求められる部屋」との相互関係により必要音響性能が設定される。
図7に示すように、従来においては、まず建築プランによって各部屋の配置が決定される。そして、各部屋の音響に関する要求水準、建築学会基準の用途別性能基準、及び社内設計基準等に応じて、「静けさのレベル」と「発生する音のレベル」とを各部屋に付与して、各部屋の必要音響性能の一例である必要遮音性能が手動によって決定される。
一方、本実施形態では、各部屋が持つ音響に関する要求性能を、BIM上の音響属性情報として各部屋の3次元モデル30に付与する。本実施形態では、建築プランに応じて音響設計をするのではなく、まず各部屋の3次元モデル30に対して「音響属性情報」を付与する。建築プランがどのようになろうが、各部屋が持つ音響に関する要求性能は不変であるので、各部屋の配置が修正されても、各部屋の3次元モデル30に自動的に音響属性情報が設定されることになる。
ユーザは、各部屋の配置が合理的となるように、かつ音響的リスクが低減されるように、配置決定部20による各部屋の配置の決定処理と、可視化部19による音響属性情報の可視化処理とを繰り返す。そして、各部屋の最終的な配置が決定される。
なお、上記図5の例では、斜線及びドットによって音響属性情報が可視化される場合を例に説明したが、各部屋の音響属性情報が色によって可視化させてもよい。例えば、発生する音のレベルが付与されている部屋については赤〜ピンクによって音のレベル値に応じて各部屋を色づけし、静けさのレベルが付与されている部屋については青〜水色によって静けさのレベル値に応じて各部屋を色づけしてもよい。
図8に、音響属性情報が可視化された各部屋の3次元モデル30の例を示す。図8に示されるように、ユーザは音響的リスクを視覚的に把握することができる。
必要音響性能計算部22は、配置決定部20によって決定された部屋の各々の配置と、属性付与部18によって各部屋に対して付与された音響属性情報とに基づいて、部屋の各々の必要音響性能を計算する。
例えば、必要音響性能計算部22は、隣り合う部屋のペアの各々について、図9に示す音響性能算定基準に従って、必要音響性能の一例である必要遮音性能を算出する。具体的には、必要音響性能計算部22は、隣り合う部屋のペアの各々について、一方の部屋で発生する音のレベルと他方の部屋の静けさのレベルとの組み合わせに応じて、音響性能算定基準に従って、部屋間の壁の必要遮音性能を算出する。図9に示す音響性能算定基準では、「音源」は音が発生する部屋における音のレベルを表す。また、「受音量」は静けさが求められる部屋における静けさのレベルを表す。従って、「音源」と「受音量」との組み合わせに応じて、部屋間の壁の必要遮音性能が算出される。なお、設計遮音性能は、必要遮音性能に応じて予め設定されており、ユーザは設計遮音性能を参考にして遮音構造を決定する。
表示部16は、必要音響性能計算部22によって算出された各部屋の必要遮音性能を表示する。ユーザは、表示部16に表示された各部屋の必要遮音性能に基づいて、各部屋の音響に関する構造の一例である遮音構造を決定する。そして、ユーザは、各部屋の遮音構造を指示する操作情報を操作部12へ入力する。
具体的には、ユーザは、例えば図10に示す壁の遮音構造に関するテーブルを参照して、壁の遮音構造を決定する。例えば、必要音響性能計算部22によって算出された必要遮音性能がD−40〜D50である場合、ユーザは必要遮音性能D−40〜D50に対応する設計遮音性能を参考にし、図10に示す壁の遮音構造に関するテーブルの遮音性能がD−40〜D50である遮音構造から、当該壁に用いる遮音構造を決定する。
また、ユーザは、図11に示す床又は天井の遮音構造に関するテーブルを参照して、音響に関する構造の一例である床又は天井の遮音構造を併せて決定してもよい。遮音構造に応じて単価が予め定められているため、ユーザは単価も考慮して遮音構造を決定する。また、ユーザは、遮音構造の壁厚又は他の壁との整合性等を考慮して、遮音構造を決定する。そして、ユーザは、決定した各部屋の遮音構造を指示する操作情報を操作部12へ入力する。
構造決定部24は、操作部12から入力された各部屋の遮音構造を指示する操作情報に基づいて、各部屋の遮音構造を決定する。具体的には、構造決定部24は、操作部12から入力された各部屋の遮音構造を反映するように、各部屋の遮音構造を決定する。
なお、複数種類の遮音構造がある場合、遮音構造の種類を集約化することができる。例えば、病院においてはケイカル板が仕上げ材として使用されることが多い。そのため、上記図10に示す遮音性能D−40の遮音構造に対してケイカル板が仕上げ材として用いられる場合、実際の壁の構造は、図12に示すように、D−40の遮音構造とケイカル板60とを含む構造となる。この場合、ケイカル板60も遮音機能を有するため、例えば、D−40の遮音構造とケイカル板60とを含む構造は、D−45の遮音構造と同等の遮音性能を有する。
そのため、例えば、図13に示すように、D−50の遮音構造とケイカル板とを含む構造は、D−55の遮音構造と同等の遮音性能を有する。また、D−40の遮音構造とケイカル板とを含む構造は、D−45の遮音構造と同等の遮音性能を有する。従って、図13に示すように、遮音構造を集約化することができる。また、D−55の遮音構造とケイカル板とを含む構造は、D−55の遮音構造よりも安価な単価となるため、施工コストを低減させることができる。また、遮音構造を集約化することにより効率的に施工を行うことができる。なお、遮音構造の種類の集約化については、予めユーザによって行われる。
このように、本実施形態では、「必要遮音性能」と「遮音構造」とを連携させることにより、各部屋の床、壁、天井の「遮音構造」を設定することができる。また、ユーザは、各部屋の仕上げ情報を各部屋の3次元モデル30から取得し、仕上げ情報を考慮して「必要遮音性能」の計算を予め行い、遮音構造を集約化することができる。また、BIMの集計機能を用いることで、遮音性能とコストとの比較を建築設計の早い段階で把握することができる。
表示部16は、構造決定部24によって各部屋の3次元モデルへ反映された遮音構造の結果を表示する。ユーザは、表示部16によって表示された結果を確認する。
<音響設計装置の作用>
次に、図14を参照して、音響設計装置10の作用を説明する。ユーザがBIMを起動して、以下の流れに従って音響設計が行われる。
まず、ユーザは、表示部16に表示された各部屋の用途等に基づいて、各部屋の音響属性情報に関する操作情報を入力する。
ステップS100において、属性付与部18は、操作部12から入力された音響属性情報に関する操作情報を取得する。
ステップS102において、属性付与部18は、上記ステップS100で取得した音響属性情報に関する操作情報に応じて、各部屋に対して音響属性情報を付与する。
ステップS103において、可視化部19は、上記ステップS102で各部屋に付与された音響属性情報を可視化する。そして、表示部16は、可視化部19によって可視化された各部屋の音響属性情報を表示する。
ユーザは、表示部16に表示された各部屋の音響属性情報に基づいて、音響的リスクを判断し、各部屋の配置を決定する。そして、ユーザは、各部屋の配置に関する操作情報を操作部12へ入力する。
ステップS104において、配置決定部20は、操作部12から入力された各部屋の配置に関する操作情報を取得する。
ステップS106において、配置決定部20は、上記ステップS104で取得された各部屋の配置に関する操作情報に応じて、各部屋の配置を変更する。
ステップS107において、各部屋の配置が確定されたか否かを判定する。具体的には、各部屋の配置の確定に関する操作情報がユーザから入力されたか否かを判定する。各部屋の配置の確定に関する操作情報が入力された場合は、ステップS108へ進む。一方、各部屋の配置の確定に関する操作情報が入力されていない場合には、ステップS103へ戻る。
ユーザは、各部屋の機能等を考慮して、各部屋の配置が合理的となるように、かつ音響的リスクが低減されるように、上記ステップS103での音響属性情報の可視化処理と上記ステップS106での各部屋の配置の決定処理とを繰り返す。そして、各部屋の最終的な配置が確定される。
ステップS108において、必要音響性能計算部22は、上記ステップS106で確定された部屋の各々の配置と、上記ステップS102で各部屋に対して付与された音響属性情報とに基づいて、部屋の各々の必要音響性能を計算する。ステップS108の処理は、図15に示す必要音響性能計算処理ルーチンによって実現される。
<必要音響性能計算処理ルーチン>
ステップS200において、必要音響性能計算部22は、上記ステップS106で確定された部屋の各々の配置と、上記ステップS102で各部屋に対して付与された音響属性情報とを取得する。
ステップS202において、必要音響性能計算部22は、上記ステップS200で取得された部屋の配置情報及び音響属性情報に基づいて、所定の音響性能算定基準に従って、各部屋の必要音響性能を計算する。
ステップS204において、表示部16は、上記ステップS202で計算された各部屋の必要音響性能を結果として出力する。
ユーザは、上記ステップS204で出力された各部屋の必要音響性能(例えば、D−40〜D−50等の表示)に基づいて、各部屋の遮音構造を決定する。そして、ユーザは、各部屋の遮音構造に関する操作情報を操作部12へ入力する。
次に、図14のステップS110において、構造決定部24は、ユーザにより操作部12から入力された各部屋の遮音構造に関する操作情報を取得する。
ステップS112において、構造決定部24は、上記ステップS110で取得された各部屋の遮音構造に関する操作情報を、各部屋の属性情報へ反映する。そして、表示部16は、構造決定部24によって各部屋の3次元モデルへ反映された遮音構造の結果を表示する。
以上詳細に説明したように、第1の実施形態では、各部屋に対して音響属性情報を付与し、音響属性情報に応じて決定された部屋の各々の配置と、各部屋に対して付与された音響属性情報とに基づいて、部屋の各々の必要音響性能を計算し、部屋の各々の必要音響性能に基づいて、各部屋の音響に関する構造を決定することにより、建築物の音響計画を効率的に作成することができる。
また、「音を発生する部屋」又は「静けさを求める部屋」を表す情報であり、かつ不変的な情報である音響属性情報を、建築設計の初期段階から各部屋の3次元モデル30へ付与することで、音響的リスクを考慮した建築プランが作成され、必要最小限の遮音構造を採用することができる。
具体的には、音響属性情報の可視化により音響的リスクを考慮した部屋の配置が決定されるため、遮音構造に関する施工コストが低減される。例えば、従来であればD−50以上の遮音性能を有する遮音構造を採用しなければならなかったところ、D−40以下の遮音性能の遮音構造のみで施工が可能となる。これにより、施工コストを低減させることができる。
また、自動的に決定された必要遮音性能に基づき、音響技術者だけでなく建築設計者が音響的リスクを的確に判断することができる。また、各部屋に付与された音響属性情報の可視化により音響的リスクの評価方法が客観的となり、プロジェクト関係者や建築主への説明にもスムーズに進めることができる。
また、図16に、本実施形態を病院建築プロジェクトにおいて用いた場合の遮音構造の種類数を示す。図16に示すように、本実施形態を用いた場合には、可視化された音響属性情報に基づき各部屋が適切に配置されるため、従来に比べ、床、壁、及び天井の遮音構造の種類数を低減させることができる。
また、BIMの集計機能を用いることにより、決定された遮音構造の単価に応じて費用を算出することができ、プロジェクトの早い段階で費用の検討を行うことができる。
また、BIMの3次元モデルを用いて音響属性情報を可視化することにより、2次元では見落としがちな音響的リスクを未然に低減させることができる。
<第2の実施形態の音響設計装置のシステム構成>
次に、第2の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第2の実施形態では、各部屋の3次元モデル30に付与された属性情報を用いて室内音響計算を行う点が、第1の実施形態と異なる。
図17は、第2の実施形態に係る音響設計装置の構成の一例を示すブロック図である。音響設計装置210は、機能的には、図17に示すように、操作部12、コンピュータ214、及び表示部16を含んだ構成で表すことができる。
コンピュータ214は、機能的には、図17に示すように、属性付与部218と、可視化部19と、配置決定部20と、必要音響性能計算部22と、構造決定部24と、音響計算部26とを備えている。音響計算部26は、取得手段及び音響計算手段の一例である。
ユーザは、表示部16に表示された各部屋の3次元モデル30に基づいて、各部屋の属性情報に関する操作情報を入力する。属性情報には、各部屋の仕上げ情報が含まれる。属性付与部218は、操作部12から入力された操作情報に応じて、建築物を表す3次元モデルの各部屋に対して属性情報を付与する。
また、属性付与部218は、各部屋の3次元モデル30の形状情報に基づいて、BIM機能を用いて、各部屋の3次元モデル30の壁の表面積に関する情報と、各部屋の3次元モデル30の容積に関する情報とを計算する。
音響計算部26は、属性付与部218によって得られた特定の部屋の仕上げ情報、壁の表面積に関する情報、及び部屋の容積に関する情報に基づいて、特定の部屋における音環境に関する情報を計算する。
具体的には、音響計算部26は、ユーザから入力された特定の部屋に対する室内音響計算の指示情報に基づいて、特定の部屋の仕上げ情報、特定の部屋の壁の表面積に関する情報、及び特定の部屋の容積に関する情報を取得する。そして、音響計算部26は、特定の部屋の仕上げ情報に応じた仕上げ材の吸音率を取得する。仕上げ材の吸音率は、仕上げ材に応じて予め設定されている。
そして、音響計算部26は、特定の部屋について、仕上げ情報から得られた吸音率、壁の表面積に関する情報、及び部屋の容積に関する情報に基づいて、音環境に関する情報の一例である残響時間及び平均吸音率を算出する。
なお、各部屋の3次元モデル30に付与された属性情報には、音源の位置を表す情報又は受音点の位置を表す情報が更に付与されていてもよい。この場合、音響計算部26は、属性情報に含まれる、音源の位置を表す情報及び受音点の位置を表す情報に基づいて、部屋の音環境に関する情報を算出することができる。例えば、音響計算部26は、図18に示すように、部屋における、具体的な音源の位置である音源の位置を表す情報と、具体的な受音点の位置である受音点の位置を表す情報とに基づいて、シミュレーションを行い、各部屋の音環境に関する情報の一例である明瞭度指数を算出することができる。
表示部16は、音響計算部26によって計算された特定の部屋の残響時間、平均吸音率、及び明瞭度指数の計算結果を表示する。ユーザは、表示部16によって表示された計算結果を確認する。
<音響計算処理ルーチン>
次に、図19を参照して、音響設計装置210における作用を説明する。ユーザによって、特定の部屋に対する室内音響計算の指示情報を入力されると、以下の流れに従って音響性能計算処理ルーチンが実行される。
ステップS300において、音響計算部26は、操作部12により受け付けられた特定の部屋に対する指示情報を取得する。そして、音響計算部26は、特定の部屋の仕上げ情報、特定の部屋の壁の表面積に関する情報、及び特定の部屋の容積に関する情報を取得する。
ステップS302において、音響計算部26は、上記ステップS300で取得された、仕上げ情報、壁の表面積に関する情報、及び容積に関する情報に基づいて、特定の部屋の残響時間及び平均吸音率を算出する。また、音響計算部26は、音源の位置を表す情報と受音点の位置を表す情報とに基づいてシミュレーションを行い、特定の部屋の明瞭度指数を算出する。
ステップS304において、表示部16は、上記ステップS302で計算された残響率、平均吸音率、及び明瞭度指数の計算結果を表示し、処理を終了する。
以上詳細に説明したように、第2の実施形態では、部屋の3次元モデル30に付与された、部屋の壁の表面積に関する情報、部屋の容積に関する情報、及び部屋の仕上げ情報に基づいて、部屋における音環境に関する情報を計算することにより、建築物の各部屋の音環境を効率的に計算することができる。
また、第2の実施形態では、部屋の3次元モデル30に付与された部屋の仕上げ情報から各仕上げ材の吸音率を取得して、吸音率と部屋の表面積に関する情報と部屋の容積に関する情報とに基づいて、音環境に関する情報を計算する。これにより、建築設計図の作成完了と対応させて、残響時間、平均吸音率、及び明瞭度指数を自動的に計算することができる。そのため、部屋の用途に適した音の響きが実現されるか否かを、音響知識を持たない建築設計者であっても早期に把握することができる。
また、上記図18に示すような、音の反射音軌跡をアニメーションで表示する機能を組み込むことにより、例えば会議室等でフラッターエコーの防止に有効な内装材の検討を簡易に行うことができる。
以上、本発明を実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、当該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
また、上記の実施形態は、本発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。前述した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜の組み合わせにより種々の発明を抽出できる。実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、効果が得られる限りにおいて、この幾つかの構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
例えば、上記実施形態では、各部屋の3次元モデル30に付与された音響属性情報が可視化される場合を例に説明したが、音響属性情報から決定された各部屋の壁等の遮音構造を更に可視化しても良い。例えば、遮音性能の度合いに応じて、遮音性能が高ければ赤色で可視化し、遮音性能が低ければ青色で可視化されるように制御してもよい。
また、上記実施形態では、必要音響性能の一例として遮音性能を例に説明したが、これに限定されるものではなく、吸音性能も併せて考慮しても良い。
また、上記実施形態では、1つの階に属する各部屋の音響属性情報を可視化し、可視化された音響属性情報に応じて各部屋の配置及び遮音構造が決定される場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、複数の階に属する各部屋の音響属性情報を可視化し、可視化された複数の階の音響属性情報に応じて各部屋の配置及び遮音構造を決定してもよい。複数の階の各部屋の音響属性情報が可視化されることにより、ユーザは、上下階の部屋の位置を考慮して音響的リスクを判断し、各部屋の配置及び遮音構造を決定することができる。この場合には、必要遮音性能に応じて、上記図11に示すように、天井又は床の遮音構造が決定される。
また、上記第1の実施形態では、必要音響性能計算部22によって算出された必要遮音性能に基づいて、ユーザが各部屋の遮音構造を決定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、構造決定部24は、必要音響性能計算部22によって算出された必要遮音性能に基づいて、各部屋の遮音構造を決定してもよい。この場合には、例えば、構造決定部24は、複数の遮音構造から、必要音響性能計算部22によって算出された必要遮音性能を満たす遮音性能の遮音構造の各々を特定する。そして、構造決定部24は、特定された遮音構造の各々から、ユーザによって予め設定された選択条件(例えば、単価の上限及び壁厚等)を満たすような遮音構造を選択するようにしてもよい。これにより、必要音響性能計算部22によって算出された必要遮音性能に基づき、各部屋の遮音構造が自動的に決定される。
また、上記第1の実施形態において、構造決定部24は、ユーザによって操作部12から入力された操作情報に基づいて、各部屋の3次元モデル30へ遮音構造を反映する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、必要遮音性能に基づき各部屋の遮音構造が自動的に決定される場合には、決定された遮音構造が各部屋の3次元モデル30へ自動的に反映され、遮音構造の詳細が自動的に作画されるようにしてもよい。
また、上記第1の実施形態では、遮音構造の集約化はユーザによって予め行われる場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、構造決定部24は、各部屋の3次元モデル30から仕上げ情報を取得し、仕上げ情報と遮音構造とを含む構造に応じた遮音性能を計算する。そして、構造決定部24は、仕上げ情報と遮音構造とを含む構造の遮音性能の計算結果に基づいて、例えば上記図12に示すように、遮音構造を集約化するようにしてもよい。これにより、遮音構造の集約化を自動的に行うことができる。
また、上記では本発明に係るプログラムが記憶部(図示省略)に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、本発明に係るプログラムは、CD−ROM、DVD−ROM及びマイクロSDカード等の記録媒体の何れかに記録されている形態で提供することも可能である。